公開日: 2023/06/20
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《速報解説》 JICPA、「倫理規則に関するQ&A」の改正及び「倫理規則に基づく報酬関連情報の開示に関するQ&A」の公開草案を公表~報酬関連情報の集計、算定及び開示を行う際の実務上の参考となる考え方を示す~

筆者: 阿部 光成

《速報解説》

JICPA、「倫理規則に関するQ&A」の改正及び「倫理規則に基づく報酬関連情報の開示に関するQ&A」の公開草案を公表

~報酬関連情報の集計、算定及び開示を行う際の実務上の参考となる考え方を示す~

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

2023年6月15日、日本公認会計士協会は、「倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正及び倫理規則研究文書「倫理規則に基づく報酬関連情報の開示に関するQ&A(研究文書)」」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。

2022年7月25日改正の倫理規則では、監査業務の依頼人が社会的影響度の高い事業体である場合、報酬関連情報に関する透明性の確保の観点から、監査役等とのコミュニケーションとともに、依頼人又は会計事務所等による報酬関連情報の開示が求められている。

公開草案は、会計事務所等が改正倫理規則に基づいて報酬関連情報の集計、算定及び開示を行う際の実務上の参考となる考え方を示すものである。

意見募集期間は2023年7月6日までである。

文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)関係

Q410-13-1の補足において、依頼人と会計事務所等のそれぞれが法令等又は倫理規則に基づく開示のために報酬に関する情報を集計し、算定する際、報酬の集計範囲や算定プロセスの相違等により、両者の間に差分が生じることがあると記載している。

これらの情報は、いずれも同一の会計事務所等及びネットワーク・ファームに係る報酬に関する情報であるため、依頼人の監査役等を含む利害関係者に対して会計事務所等の独立性の評価に関連すると合理的に考えられる情報を整合的に提供する観点から、次の(1)及び(2)を満たす場合には、依頼人が算定した報酬に関する情報を、倫理規則R410.31項に基づく報酬関連情報として取り扱うことができるものと考えられるとしている。

(1) 会計事務所等が、依頼人による会計事務所等及びネットワーク・ファームに対する報酬の集計範囲や算定プロセスの合理性を理解する。

(2) 依頼人が算定した報酬に関する情報と倫理規則に基づく報酬関連情報との差分について分析し、依頼人と調整することにより双方の情報が一致する。

 

Ⅲ 倫理規則に基づく報酬関連情報の開示に関するQ&A(研究文書)関係

次の事項について、取扱いを示している。

 報酬関連情報に関する開示制度

 集計する報酬の対象範囲

 報酬の集計・算定方法

 監査業務の依頼人による開示

 監査業務の依頼人の報酬に関する情報に対する検討及び文書化

 会計事務所等が報酬関連情報の開示を行うための体制

 その他(会計事務所等が開示した報酬関連情報の訂正など)

1 金融商品取引法及び会社法に基づく監査の監査報告書における報酬関連情報の開示(Q1)

社会的影響度の高い事業体である監査業務の依頼人が、金融商品取引法に基づく監査及び会社法に基づく監査の両方を受け、報酬関連情報の開示を行っている場合には、金融商品取引法又は会社法に基づくいずれかの監査報告書において報酬関連情報を開示することで足りるとされている(倫理規則に関するQ&A Q410-13-4)。

したがって、金融商品取引法に基づく監査の監査報告書において報酬関連情報を開示する場合には、会社法に基づく監査の監査報告書では、その開示を省略することが考えられる。

ただし、依頼人は、会社法施行規則に基づいて、事業報告において会計監査人の報酬を開示することが求められているため(会社法施行規則126条2号及び3号)、会計事務所等は、会社法に基づく監査の監査報告書において開示を省略する場合であっても、会社法に基づく監査の際に、依頼人が開示する報酬に関する情報について検討することが考えられる。

2 比較年度に関する報酬関連情報の開示(Q2)

「過年度の比較情報―対応数値と比較財務諸表」(監査基準報告書710)に基づいて、監査報告書における監査意見が対応数値方式で表明される場合、通常、過年度の比較情報に関連する報酬関連情報の開示は求められないものと考えられる。

3 四半期レビュー及び中間監査における報酬関連情報の開示(Q3)

社会的影響度の高い事業体の年度の財務諸表の監査業務において報酬関連情報を開示する場合には、四半期レビュー及び中間監査において報酬関連情報を別途開示することまでは求められない。

四半期レビュー及び中間監査に対する報酬は、当該年度の監査業務における報酬関連情報に含めて開示すれば足りるものと考えられる。

4 臨時計算書類及び訂正報告書に関する監査における報酬関連情報の開示(Q4)

訂正報告書に関する監査報酬について、過年度の訂正報告書の財務諸表の対象期間にそれぞれ按分計算し、訂正報告書の対象期間に係る報酬に加えて開示することが考えられる。

ただし、訂正報告書に関する監査報酬を、例えば、当該訂正報告書に関する監査業務を実際に実施した会計年度の監査報酬に含めて開示することも考えられる。

このほか、臨時計算書類の監査に関する報酬関連情報の開示についても記載している。

5 報酬関連情報の集計範囲及び算定基準(Q5)

報酬関連情報の集計範囲及び算定基準については、財務諸表の対象期間における契約金額、支払額、発生額又は請求額のいずれか、また、当年度末をまたいで次年度にかけて提供する単独の非監査業務の場合、業務完了時の年度の報酬としてよいのかなどの論点がある。

報酬関連情報の集計範囲及び算定基準は、次のとおりとすることが考えられるが、継続して採用することを前提として、他の合理的と考えられる集計方法によることも認められるものと考えられる。

なお、依頼人のグループ内において一貫した集計範囲及び算定基準を用いることが考えられる。

 監査報酬は、財務諸表の監査に対して支払われた、又は支払われるべき報酬が集計範囲となるが(倫理規則R410.31項(1))、財務諸表の対象期間の契約金額とすることが考えられる(四半期レビュー及び中間監査がある場合には当該四半期レビュー及び中間監査に対する報酬を含む)。
 当該契約金額を超えて生じる追加報酬については、監査報告書の発行日までに合意できたものは当年度の監査報酬に含めるが、監査業務の依頼人との合意の時期等により監査報告書の発行日までに合意できない場合には、次年度の報酬に含めることが考えられる。

 監査以外の業務に対する報酬(非監査報酬)は、財務諸表の対象期間において、会計事務所等又はネットワーク・ファームが業務の提供の対価として依頼人に請求する監査報酬以外の報酬が集計範囲となるが(倫理規則R410.31項(2))、財務諸表の対象期間に提供した業務に対応する契約金額とすることが考えられる。
 また、当期末をまたいで次年度にかけて提供する単発の非監査業務において、財務諸表の対象期間に提供した業務に関連して依頼人に請求した報酬金額がある場合は、報酬関連情報の集計範囲に含めることになるものと考えられる。

監査業務及び監査以外の業務のいずれについても、業務報酬単価と業務提供時間に基づいて報酬額が決定される契約の場合には請求額とする等、倫理規則R410.31項の要求事項を踏まえ、業務契約の形態に応じた合理的な報酬金額を集計範囲に含めることが考えられる。

6 非連結子会社の報酬関連情報(Q10)

非連結子会社に関する報酬の開示は、当該報酬が会計事務所等の独立性の評価に関連することを知っている場合又はそのように信じるに足る理由がある場合に開示が求められる(倫理規則R410.31項(3))。

このため、例えば、利害関係者が会計事務所等の独立性を評価する上で影響しないと想定され、報酬関連情報の開示が求められないと判断した場合等には、当該非連結子会社に係る報酬を集計範囲に含めないことが考えられる。

一方、監査の過程等で入手可能な情報から、非連結子会社に関連して会計事務所等の独立性の評価に影響を与える可能性がある情報(例えば、非保証業務の事前了解の過程において、会計事務所等やネットワーク・ファームが、依頼人の企業グループの規模に対して重要な契約金額の業務を受嘱する等の情報)を捕捉した場合には、会計事務所等の独立性の評価への影響を慎重に判断し、当該非連結子会社に係る報酬を集計範囲に含めることが考えられる。

7 親事業体及び関連会社の報酬関連情報(Q11)

報酬開示の集計範囲については監査業務の依頼人及びその子事業体(連結又は非連結を問わない)のみであり、親事業体や関連会社は含まれないという理解でよいかについては、報酬開示の集計範囲には、親事業体や関連会社は含まれない(倫理規則R410.31項)とのことである。

8 連結計算書類を作成していない場合の報酬の集計範囲(Q13)

監査業務の依頼人が連結計算書類を作成していない場合(会計事務所等の監査対象が計算書類等のみである場合)であっても、倫理規則に準拠して開示する報酬関連情報の範囲は、子事業体を含む連結ベースの開示となるのか、また、ネットワーク・ファームに係る報酬も含めるのかについては、次のように記載している。

社会的影響度の高い事業体である監査業務の依頼人が連結計算書類を作成していない場合、連結子会社は存在しない。

一方、非連結子会社に関する報酬の開示は、当該報酬が会計事務所等の独立性の評価に関連することを知っている場合又はそのように信じるに足る理由がある場合に開示が求められる(倫理規則R410.31項ほか)。

したがって、これに該当する非連結子会社に対する業務が存在する場合には、ネットワーク・ファームが受領している報酬も含めて報酬関連情報の集計範囲に含めることになるものと考えられる。

9 決算期の異なる子事業体の取扱い(Q15)

決算期の異なる子事業体に係る報酬については、Q6のAを踏まえ、次のとおりとすることが考えられるが、継続して採用することを前提として、他の合理的な集計方法によることも認められるものと考えられる。

 子事業体に係る監査報酬は、連結会計年度に取り込まれる会計年度の契約金額とする。

 子事業体に係る非監査報酬は、連結会計年度に提供した業務又は連結会計年度に取り込まれる会計年度に提供した業務のいずれかに対応する契約金額とする。

10 立替経費の取扱い(Q16)

インボイス制度導入に伴い立替経費を報酬に含めるようになった場合であっても、開示する報酬金額には、立替経費や消費税等を含めないことが適当と考えられるので、立替経費を報酬金額に含める形式の契約であっても、監査業務の依頼人との間で経費相当額として合意している金額については、開示する報酬金額から控除することが考えられる。

また、立替経費を報酬に含めて請求することが継続して行われている場合には、継続して採用することを前提として、開示する報酬金額から控除しないことも認められるものと考えられる。

11 倫理規則が求める報酬関連情報の監査業務の依頼人による開示(Q17)

依頼人が有価証券報告書において倫理規則で求められている報酬関連情報を開示している場合であっても、法令等に基づいて、監査報告書において報酬関連情報を記載することが金融商品取引法に基づく監査における監査報告書において求められる。

12 報酬関連情報の開示に係る工数(Q25)

会計事務所等による報酬関連情報の集計及び算定又は依頼人による開示情報の検討には一定の工数を要することが想定される。

これらの手続によって発生が予想される関連工数については、倫理規則の要求事項に基づく開示に関連する業務であることから、依頼人の財務諸表に対する監査業務の一環として、倫理規則に基づく報酬関連情報に含めて開示することが考えられる。

(了)

《速報解説》

JICPA、「倫理規則に関するQ&A」の改正及び「倫理規則に基づく報酬関連情報の開示に関するQ&A」の公開草案を公表

~報酬関連情報の集計、算定及び開示を行う際の実務上の参考となる考え方を示す~

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

2023年6月15日、日本公認会計士協会は、「倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正及び倫理規則研究文書「倫理規則に基づく報酬関連情報の開示に関するQ&A(研究文書)」」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。

2022年7月25日改正の倫理規則では、監査業務の依頼人が社会的影響度の高い事業体である場合、報酬関連情報に関する透明性の確保の観点から、監査役等とのコミュニケーションとともに、依頼人又は会計事務所等による報酬関連情報の開示が求められている。

公開草案は、会計事務所等が改正倫理規則に基づいて報酬関連情報の集計、算定及び開示を行う際の実務上の参考となる考え方を示すものである。

意見募集期間は2023年7月6日までである。

文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)関係

Q410-13-1の補足において、依頼人と会計事務所等のそれぞれが法令等又は倫理規則に基づく開示のために報酬に関する情報を集計し、算定する際、報酬の集計範囲や算定プロセスの相違等により、両者の間に差分が生じることがあると記載している。

これらの情報は、いずれも同一の会計事務所等及びネットワーク・ファームに係る報酬に関する情報であるため、依頼人の監査役等を含む利害関係者に対して会計事務所等の独立性の評価に関連すると合理的に考えられる情報を整合的に提供する観点から、次の(1)及び(2)を満たす場合には、依頼人が算定した報酬に関する情報を、倫理規則R410.31項に基づく報酬関連情報として取り扱うことができるものと考えられるとしている。

(1) 会計事務所等が、依頼人による会計事務所等及びネットワーク・ファームに対する報酬の集計範囲や算定プロセスの合理性を理解する。

(2) 依頼人が算定した報酬に関する情報と倫理規則に基づく報酬関連情報との差分について分析し、依頼人と調整することにより双方の情報が一致する。

 

Ⅲ 倫理規則に基づく報酬関連情報の開示に関するQ&A(研究文書)関係

次の事項について、取扱いを示している。

 報酬関連情報に関する開示制度

 集計する報酬の対象範囲

 報酬の集計・算定方法

 監査業務の依頼人による開示

 監査業務の依頼人の報酬に関する情報に対する検討及び文書化

 会計事務所等が報酬関連情報の開示を行うための体制

 その他(会計事務所等が開示した報酬関連情報の訂正など)

1 金融商品取引法及び会社法に基づく監査の監査報告書における報酬関連情報の開示(Q1)

社会的影響度の高い事業体である監査業務の依頼人が、金融商品取引法に基づく監査及び会社法に基づく監査の両方を受け、報酬関連情報の開示を行っている場合には、金融商品取引法又は会社法に基づくいずれかの監査報告書において報酬関連情報を開示することで足りるとされている(倫理規則に関するQ&A Q410-13-4)。

したがって、金融商品取引法に基づく監査の監査報告書において報酬関連情報を開示する場合には、会社法に基づく監査の監査報告書では、その開示を省略することが考えられる。

ただし、依頼人は、会社法施行規則に基づいて、事業報告において会計監査人の報酬を開示することが求められているため(会社法施行規則126条2号及び3号)、会計事務所等は、会社法に基づく監査の監査報告書において開示を省略する場合であっても、会社法に基づく監査の際に、依頼人が開示する報酬に関する情報について検討することが考えられる。

2 比較年度に関する報酬関連情報の開示(Q2)

「過年度の比較情報―対応数値と比較財務諸表」(監査基準報告書710)に基づいて、監査報告書における監査意見が対応数値方式で表明される場合、通常、過年度の比較情報に関連する報酬関連情報の開示は求められないものと考えられる。

3 四半期レビュー及び中間監査における報酬関連情報の開示(Q3)

社会的影響度の高い事業体の年度の財務諸表の監査業務において報酬関連情報を開示する場合には、四半期レビュー及び中間監査において報酬関連情報を別途開示することまでは求められない。

四半期レビュー及び中間監査に対する報酬は、当該年度の監査業務における報酬関連情報に含めて開示すれば足りるものと考えられる。

4 臨時計算書類及び訂正報告書に関する監査における報酬関連情報の開示(Q4)

訂正報告書に関する監査報酬について、過年度の訂正報告書の財務諸表の対象期間にそれぞれ按分計算し、訂正報告書の対象期間に係る報酬に加えて開示することが考えられる。

ただし、訂正報告書に関する監査報酬を、例えば、当該訂正報告書に関する監査業務を実際に実施した会計年度の監査報酬に含めて開示することも考えられる。

このほか、臨時計算書類の監査に関する報酬関連情報の開示についても記載している。

5 報酬関連情報の集計範囲及び算定基準(Q5)

報酬関連情報の集計範囲及び算定基準については、財務諸表の対象期間における契約金額、支払額、発生額又は請求額のいずれか、また、当年度末をまたいで次年度にかけて提供する単独の非監査業務の場合、業務完了時の年度の報酬としてよいのかなどの論点がある。

報酬関連情報の集計範囲及び算定基準は、次のとおりとすることが考えられるが、継続して採用することを前提として、他の合理的と考えられる集計方法によることも認められるものと考えられる。

なお、依頼人のグループ内において一貫した集計範囲及び算定基準を用いることが考えられる。

 監査報酬は、財務諸表の監査に対して支払われた、又は支払われるべき報酬が集計範囲となるが(倫理規則R410.31項(1))、財務諸表の対象期間の契約金額とすることが考えられる(四半期レビュー及び中間監査がある場合には当該四半期レビュー及び中間監査に対する報酬を含む)。
 当該契約金額を超えて生じる追加報酬については、監査報告書の発行日までに合意できたものは当年度の監査報酬に含めるが、監査業務の依頼人との合意の時期等により監査報告書の発行日までに合意できない場合には、次年度の報酬に含めることが考えられる。

 監査以外の業務に対する報酬(非監査報酬)は、財務諸表の対象期間において、会計事務所等又はネットワーク・ファームが業務の提供の対価として依頼人に請求する監査報酬以外の報酬が集計範囲となるが(倫理規則R410.31項(2))、財務諸表の対象期間に提供した業務に対応する契約金額とすることが考えられる。
 また、当期末をまたいで次年度にかけて提供する単発の非監査業務において、財務諸表の対象期間に提供した業務に関連して依頼人に請求した報酬金額がある場合は、報酬関連情報の集計範囲に含めることになるものと考えられる。

監査業務及び監査以外の業務のいずれについても、業務報酬単価と業務提供時間に基づいて報酬額が決定される契約の場合には請求額とする等、倫理規則R410.31項の要求事項を踏まえ、業務契約の形態に応じた合理的な報酬金額を集計範囲に含めることが考えられる。

6 非連結子会社の報酬関連情報(Q10)

非連結子会社に関する報酬の開示は、当該報酬が会計事務所等の独立性の評価に関連することを知っている場合又はそのように信じるに足る理由がある場合に開示が求められる(倫理規則R410.31項(3))。

このため、例えば、利害関係者が会計事務所等の独立性を評価する上で影響しないと想定され、報酬関連情報の開示が求められないと判断した場合等には、当該非連結子会社に係る報酬を集計範囲に含めないことが考えられる。

一方、監査の過程等で入手可能な情報から、非連結子会社に関連して会計事務所等の独立性の評価に影響を与える可能性がある情報(例えば、非保証業務の事前了解の過程において、会計事務所等やネットワーク・ファームが、依頼人の企業グループの規模に対して重要な契約金額の業務を受嘱する等の情報)を捕捉した場合には、会計事務所等の独立性の評価への影響を慎重に判断し、当該非連結子会社に係る報酬を集計範囲に含めることが考えられる。

7 親事業体及び関連会社の報酬関連情報(Q11)

報酬開示の集計範囲については監査業務の依頼人及びその子事業体(連結又は非連結を問わない)のみであり、親事業体や関連会社は含まれないという理解でよいかについては、報酬開示の集計範囲には、親事業体や関連会社は含まれない(倫理規則R410.31項)とのことである。

8 連結計算書類を作成していない場合の報酬の集計範囲(Q13)

監査業務の依頼人が連結計算書類を作成していない場合(会計事務所等の監査対象が計算書類等のみである場合)であっても、倫理規則に準拠して開示する報酬関連情報の範囲は、子事業体を含む連結ベースの開示となるのか、また、ネットワーク・ファームに係る報酬も含めるのかについては、次のように記載している。

社会的影響度の高い事業体である監査業務の依頼人が連結計算書類を作成していない場合、連結子会社は存在しない。

一方、非連結子会社に関する報酬の開示は、当該報酬が会計事務所等の独立性の評価に関連することを知っている場合又はそのように信じるに足る理由がある場合に開示が求められる(倫理規則R410.31項ほか)。

したがって、これに該当する非連結子会社に対する業務が存在する場合には、ネットワーク・ファームが受領している報酬も含めて報酬関連情報の集計範囲に含めることになるものと考えられる。

9 決算期の異なる子事業体の取扱い(Q15)

決算期の異なる子事業体に係る報酬については、Q6のAを踏まえ、次のとおりとすることが考えられるが、継続して採用することを前提として、他の合理的な集計方法によることも認められるものと考えられる。

 子事業体に係る監査報酬は、連結会計年度に取り込まれる会計年度の契約金額とする。

 子事業体に係る非監査報酬は、連結会計年度に提供した業務又は連結会計年度に取り込まれる会計年度に提供した業務のいずれかに対応する契約金額とする。

10 立替経費の取扱い(Q16)

インボイス制度導入に伴い立替経費を報酬に含めるようになった場合であっても、開示する報酬金額には、立替経費や消費税等を含めないことが適当と考えられるので、立替経費を報酬金額に含める形式の契約であっても、監査業務の依頼人との間で経費相当額として合意している金額については、開示する報酬金額から控除することが考えられる。

また、立替経費を報酬に含めて請求することが継続して行われている場合には、継続して採用することを前提として、開示する報酬金額から控除しないことも認められるものと考えられる。

11 倫理規則が求める報酬関連情報の監査業務の依頼人による開示(Q17)

依頼人が有価証券報告書において倫理規則で求められている報酬関連情報を開示している場合であっても、法令等に基づいて、監査報告書において報酬関連情報を記載することが金融商品取引法に基づく監査における監査報告書において求められる。

12 報酬関連情報の開示に係る工数(Q25)

会計事務所等による報酬関連情報の集計及び算定又は依頼人による開示情報の検討には一定の工数を要することが想定される。

これらの手続によって発生が予想される関連工数については、倫理規則の要求事項に基づく開示に関連する業務であることから、依頼人の財務諸表に対する監査業務の一環として、倫理規則に基づく報酬関連情報に含めて開示することが考えられる。

(了)

筆者紹介

阿部 光成

(あべ・みつまさ)

公認会計士
中央大学商学部卒業。阿部公認会計士事務所。

現在、豊富な知識・情報力を活かし、コンサルティング業のほか各種実務セミナー講師を務める。
企業会計基準委員会会社法対応専門委員会専門委員、日本公認会計士協会連結範囲専門委員会専門委員長、比較情報検討専門委員会専門委員長を歴任。

主な著書に、『新会計基準の実務』(編著、中央経済社)、『企業会計における時価決定の実務』(共著、清文社)、『新しい事業報告・計算書類―経団連ひな型を参考に―〔全訂第2版〕』(編著、商事法務)がある。

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