公開日: 2023/05/25 (掲載号:No.520)
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〈判例評釈〉ムゲン・ADW事件が残したもの~最高裁の判示は、納税者の納得が得られるものか~ 【第3回】

筆者: 霞 晴久

〈判例評釈〉

ムゲン・ADW事件が残したもの

~最高裁の判示は、納税者の納得が得られるものか~

【第3回】

 

公認会計士・税理士 霞 晴久

 

連載の目次はこちら

 

Ⅲ 争点②通則法65条4項にいう正当な理由は認められるか

1 ムゲン事件第一審判決

(1) 原告の主張

ムゲン事件第一審において、原告は、「国税庁は、平成7年に、分譲マンション購入費用事例(※24)において、取得目的が将来的に分譲することにあれば、『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』に該当するとして差支えない旨回答し、また、国税庁作成による『消費税一問一答(平成6年版)』には、『販売用の目的で取得し、一時的に自社の資材置き場として使用しているときは、最終的な使用目的が販売用であるので非課税用となる』と記載されていたことからすれば、国税庁は、従前、個別対応方式における用途区分については、事業者の課税仕入れの最終的な目的により判定することを明らかにしていた」と主張し、さらに、「賃貸中マンション購入費用事例(※25)や、国税庁が、従前、『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』の意義について、『直接、間接を問わず、また、現実に譲渡を行った時期を問わず、その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等をいう』との解釈を明らかにしていたところ、当該解釈に従うと、販売目的で建物を購入するに当たり、販売するまでの間、これを住宅用として賃貸する予定があったとしても、当該建物の購入はその対価の額が最終的に課税資産の譲渡等である販売のコストに入るような課税仕入れに当たることなどからすると、個別対応方式における用途区分の判定を事業者の課税仕入れの最終的な目的により行う取扱いは、従前、税務当局の課税実務において広く認められていた」とし、本件更正処分は適法であるとしても、原告の過少申告は、税務当局による取扱いの変更から生じたという点で、真に原告の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らして、原告に過少申告加算税を賦課することは不当ないし酷であると主張した。

(※24) 国税庁のウェブサイトに掲載された照会事例で、譲渡用住宅を一時期賃貸用に供する場合の仕入税額控除について、「購入物件は分譲することを目的として取得したマンションであり、課税仕入れの時点では『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』に該当することは明らかであることから、仮に一時的に賃貸用に供されるとしても、継続して棚卸資産として処理し(中略)、将来的には全て分譲することとしているものについては、消費税法第30条第2項第1号イの課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するものとして取り扱って差し支えない。」と回答している。

(※25) 平成9年頃、東京国税局に照会された事例をいい、「転売目的のマンションを居抜きで買い取った場合の仕入税額控除の適用について」という照会に対し、「マンションを転売目的で取得したことが明らかであることから、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当し、仕入税額控除が認められる〔なお、国税庁消費税課の意見の要約として、「『課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ』かどうかの判定は、課税仕入れを行った日等の状況で行うが、これは、課税仕入れが結果として何の売上げに貢献したかではなく、何の売上げに貢献される目的で行ったかを課税仕入れの時点で判断すべきであることを意味している。マンションを購入した際に賃貸収入(非課税売上げ)が生じているが、これはあくまで居抜きで購入したために副次的に得た対価である」と記載されている。〕。」と回答している。

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〈判例評釈〉

ムゲン・ADW事件が残したもの

~最高裁の判示は、納税者の納得が得られるものか~

【第3回】

 

公認会計士・税理士 霞 晴久

 

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Ⅲ 争点②通則法65条4項にいう正当な理由は認められるか

1 ムゲン事件第一審判決

(1) 原告の主張

ムゲン事件第一審において、原告は、「国税庁は、平成7年に、分譲マンション購入費用事例(※24)において、取得目的が将来的に分譲することにあれば、『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』に該当するとして差支えない旨回答し、また、国税庁作成による『消費税一問一答(平成6年版)』には、『販売用の目的で取得し、一時的に自社の資材置き場として使用しているときは、最終的な使用目的が販売用であるので非課税用となる』と記載されていたことからすれば、国税庁は、従前、個別対応方式における用途区分については、事業者の課税仕入れの最終的な目的により判定することを明らかにしていた」と主張し、さらに、「賃貸中マンション購入費用事例(※25)や、国税庁が、従前、『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』の意義について、『直接、間接を問わず、また、現実に譲渡を行った時期を問わず、その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等をいう』との解釈を明らかにしていたところ、当該解釈に従うと、販売目的で建物を購入するに当たり、販売するまでの間、これを住宅用として賃貸する予定があったとしても、当該建物の購入はその対価の額が最終的に課税資産の譲渡等である販売のコストに入るような課税仕入れに当たることなどからすると、個別対応方式における用途区分の判定を事業者の課税仕入れの最終的な目的により行う取扱いは、従前、税務当局の課税実務において広く認められていた」とし、本件更正処分は適法であるとしても、原告の過少申告は、税務当局による取扱いの変更から生じたという点で、真に原告の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らして、原告に過少申告加算税を賦課することは不当ないし酷であると主張した。

(※24) 国税庁のウェブサイトに掲載された照会事例で、譲渡用住宅を一時期賃貸用に供する場合の仕入税額控除について、「購入物件は分譲することを目的として取得したマンションであり、課税仕入れの時点では『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』に該当することは明らかであることから、仮に一時的に賃貸用に供されるとしても、継続して棚卸資産として処理し(中略)、将来的には全て分譲することとしているものについては、消費税法第30条第2項第1号イの課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するものとして取り扱って差し支えない。」と回答している。

(※25) 平成9年頃、東京国税局に照会された事例をいい、「転売目的のマンションを居抜きで買い取った場合の仕入税額控除の適用について」という照会に対し、「マンションを転売目的で取得したことが明らかであることから、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当し、仕入税額控除が認められる〔なお、国税庁消費税課の意見の要約として、「『課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ』かどうかの判定は、課税仕入れを行った日等の状況で行うが、これは、課税仕入れが結果として何の売上げに貢献したかではなく、何の売上げに貢献される目的で行ったかを課税仕入れの時点で判断すべきであることを意味している。マンションを購入した際に賃貸収入(非課税売上げ)が生じているが、これはあくまで居抜きで購入したために副次的に得た対価である」と記載されている。〕。」と回答している。

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連載目次

〈判例評釈〉ムゲン・ADW事件が残したもの
~最高裁の判示は、納税者の納得が得られるものか~

【第1回】

Ⅰ はじめに

Ⅱ 争点①課税対応課税仕入れ該当性(本件更正処分の適法性)

1 ADW事件控訴審の判示

(1) 用途区分の判断基準について

(2) 検討

2 ADW事件最高裁の判示とその影響

【第2回】

3 ADW事件第一審の判示

(1) 用途区分の判断基準について

(2) 事実認定及び当てはめ

(3) ADW事件第一審判決の意義

【第3回】

Ⅲ 争点②通則法65条4項にいう正当な理由は認められるか

1 ムゲン事件第一審判決

(1) 原告の主張

(2) 裁判所の判断

2 ムゲン事件控訴審判決

(1) 認定事実と結論

(2) 検討

3 ADW事件控訴審

(1) 裁判所の判断

(2) 検討

4 ムゲン事件最高裁判決

(1) 裁判所の判示

(2) 検討

5 税務調査における更正処分の実態-「手のひら返し」はあったか

(1) 問題の所在

(2) 検討結果

【第4回】

Ⅳ 「準ずる割合」についての裁判所の判断及びその検討

1 ムゲン事件第一審判決

(1) 準ずる割合の税務当局による却下と東京地裁の判断

(2) 検討

2 ムゲン事件控訴審判決

3 ADW事件控訴審判決

(1) 東京高裁の判示

(2) 検討

【第5回】

Ⅴ 居住用賃貸建物の仕入税額控除に係る令和2年度税制改正

1 改正の概要(原則的取扱い)

2 居住用賃貸建物に係る仕入税額控除の調整

(1) 課税賃貸用に供した場合

(2) 課税譲渡用に供した場合

3 居住用賃貸建物に係る令和2年度税制改正とムゲン・ADW事件

Ⅵ 結語

筆者紹介

霞 晴久

(かすみ・はるひさ)

公認会計士・税理士
霞晴久公認会計士事務所 所長

監査法人トーマツ、新日本監査法人、国税不服審判所等を経て現在霞晴久公認会計士事務所所長。千葉商科大学大学院会計ファイナンス研究科客員教授。監査法人勤務時代は会計監査、国際税務、海外赴任(フランス及びベルギーに通算14年滞在)及び不正調査に従事。国税不服審判所入所前は、日系企業が買収したベルギー法人のCFOを勤める。
主な著書・論文として「ユーロの会計税務と法律」(共著、清文社1999年)、「EU加盟国の税法」(共著、中央経済社2002年)、「新版架空循環取引」(共著、清文社2019年)、及び「破産手続きにおける債務の確定と前期損益修正をめぐる問題」(月刊『税理』2020年10月号)等がある。
 

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