〔令和4年度税制改正における〕
賃上げ促進税制の抜本的見直しについて
【第3回】
(最終回)
公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎
4 上乗せ控除のための要件
改正後の賃上げ促進税制においても、一定の要件を満たした場合に税額控除率の引上げ措置が設けられている。具体的には下表のとおりである(措法42の12の5①②)。
大企業向け制度については、改正前(人材確保等促進税制)は教育訓練費の要件のみが定められていたところ、改正後は賃上げの要件も追加されている。なお、教育訓練費の要件自体についての変更はない。
中小企業者等向けの制度については、改正前(所得拡大促進税制)では賃上げの要件を満たした上で教育訓練費の要件又は経営力向上の要件を満たすことが必要とされ、双方の要件を満たした場合に限り控除率の上乗せの適用を受けることができたが、改正後の制度では経営力向上の要件が廃止された。
また、改正後の制度(大企業向け、中小企業者等向け制度共通)では、双方の要件を満たさなければ上乗せ控除の適用を受けられないということではなく、それぞれの要件に対応して上乗せ控除率が定められている。このため、いずれかの要件を満たせばそれに対応する控除率の上乗せの適用を受けることができる。
5 その他の改正点
(1) 用語の定義
改正後の賃上げ促進税制で用いられている用語の定義について、改正前の制度から変更されているものはないものと理解してよい。「継続雇用者」の定義については、改正前は「特定税額控除規定の不適用措置」において規定されていたが、その内容がそのまま本税制にスライドする形で規定されている。
ただし、条文の組立て方の違いによるものと考えられるものとして「基準日」という単語の使い方が変更されている。「基準日」は、組織再編成が行われた場合において比較雇用者給与等支給額及び比較教育訓練費の額について一定の調整が必要な局面で用いられる概念であり、その内容は2種類ある。1つは比較雇用者給与等支給額の調整計算に用いられるもの(給与等基準日)、もう1つは比較教育訓練費等の額の調整計算に用いられるもの(教育訓練費基準日)である。
現行の条文上は、教育訓練費基準日のことを単に「基準日」と称し(措令27の12の5⑰)、これとは別に「給与等基準日」の定めが置かれている(同⑲)。これに対して令和3年度までは、給与等基準日のことを単に「基準日」と称し(R3措令27の12の5⑫)、別途「教育訓練費基準日」の定めが置かれていた(R3同⑮)。実質的な内容に変更はないものの、用法が変更されているので留意されたい。
(2) グループ通算制度における取扱い
連結納税制度を適用する法人が改正前の制度(人材確保等促進税制・所得拡大促進税制)を適用する場合、グループ全体で適用要件を判断するとともに、税額控除可能額もグループ全体で計算することとされていた。
これに対して、グループ通算制度を適用する法人(通算法人)において改正後の制度(賃上げ促進税制)を適用する場合には、通算法人ごとに適用可否を判断し、本税制を適用することとされている。
また中小企業判定についても、通算法人にあっては、通算グループ内の法人のうちいずれかの法人が中小企業者に該当しない場合には、その通算グループ内の法人のすべてが中小企業者に該当しないものとされている(措令27の4㉕三)。
かつての連結納税制度では、連結親法人が中小企業者に該当する場合に限り、その連結親法人及び連結子法人(資本金の額等が1億円以下のものに限る)について中小連結法人として取り扱われていたが(R3措令39の39⑳)、グループ通算制度では通算親法人が中小企業者に該当するだけでは足りず、グループ内のすべての通算法人が中小企業者の要件を満たす必要がある。
さらに、通算グループ内の法人のうちいずれかの法人が適用除外事業者に該当する場合には、その通算グループ内の法人のすべてが適用除外事業者として取り扱われることとなる(通算適用除外事業者。措法42の4⑲八の二)。
(3) 地方税の取扱い
中小企業者等の法人住民税(法人税割)の計算上、課税標準となる法人税額は本税制適用後の金額を用いることとされており、税額控除の影響は法人住民税にも及ぶ点には変更がない。
また、法人事業税(外形標準課税・付加価値割)の計算上、改正後の本税制の適用要件を満たす場合には、一定の調整を加えた雇用者給与等支給増加額を付加価値額から控除するという取扱いにも変更はない。
〔凡例〕
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
R3措令・・・令和3年度の租税特別措置法施行令
(例)措法42の12の5①二・・・租税特別措置法42条の12の5第1項2号
(連載了)