2 連結納税制度の見直しの方向性と実務上のポイント
上記1のとおり、今回の連結納税制度の見直しの目的は、①企業や課税庁の事務負担の軽減と、②連結納税制度と組織再編税制との整合性の確保であるが、専門家会合では、具体的に次のような改正の方向性を示している。
(1) 個別申告方式への移行~事務負担の軽減を図る観点からの簡素化~
[改正の方向性]
第2回専門家会合では、連結納税制度の事務負担の軽減を図るため、特に、後発的に修更正事由が生じた場合の納税者及び課税庁の事務負担の軽減を図るため、連結グループ全体を1つの納税単位とする制度(以下、「合算申告方式」という)に代え、各法人それぞれを納税単位とする「個別申告方式」とし、基本的に、計算誤りがあった企業のみ修更正を行うことにする、という方向性が示された。
また、個別申告方式に移行した場合であっても、企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは維持することが示されている。
なお、個別申告方式での「損益通算のイメージ」と「事後の修更正のイメージ」については、[実務上のポイント]において、そのスライドを示している。
[出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕平成31年2月14日
[出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕平成31年2月14日
[出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕平成31年2月14日
この個別申告方式への移行によって、単体法人と同じく、税務調査を各社ごとに単独で行うことが可能になり、修更正も調査対象会社のみ行えばよいことになる。その点で、今回の目的を実現させる最も重要な見直し項目である。
[実務上のポイント]
上記で示された個別申告方式について、筆者が現時点で考える実務上のポイントは次のとおりである。
〈1〉
個別申告方式によって、法人税の申告書の提出は各社が行うことになる。
個別申告方式によって、連結親法人が代表して連結確定申告書を提出することはなくなり、単体法人と同様に、連結法人は各社で申告を行うことになる。
〈2〉
損益通算は維持される。
損益通算は維持される。連結納税制度とは損益通算制度であり、損益通算の仕組みがないと連結納税制度とはいえない(誰も採用しない)。そのため、個別申告方式であっても損益通算が可能な制度にするということだろう。
〈3〉
損益通算はプロラタ方式(全体計算方式)で行われる。
また、繰越欠損金の控除額の計算もプロラタ方式(全体計算方式)で行われる。
当期発生の欠損金の損益通算及び繰越欠損金の控除額の計算について、第2回及び第3回専門家会合において、各欠損法人の欠損金及び連結グループ内の繰越欠損金の額を各所得法人にプロラタで配賦する方式(プロラタ方式)を採用するという方向性が示されている。
[出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕平成31年4月18日
また、計算例のイメージは次のとおりとなる。
[出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕平成31年2月14日
[出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕平成31年2月14日
〈4〉
新制度においても、連結法人が有する繰越欠損金を、他の連結法人(所得法人)の所得金額と相殺できる。また、「連結欠損金」という用語が消滅する可能性がある。
上記〈3〉からわかるように、損益通算だけでなく、繰越欠損金の控除額の計算についても、プロラタ方式(全体計算方式)を採用することを想定しているため、その場合、現行制度と同様に、連結法人が有する繰越欠損金を、他の連結法人(所得法人)の所得金額と相殺できることになる。
ただし、連結納税開始前・加入前の繰越欠損金は自社の個別所得を限度に相殺されるため、ここで言う繰越欠損金は、現行制度における非特定連結欠損金(非特定連結欠損金個別帰属額)を想定しているものと考えられる。
また、新制度では、「連結欠損金」、「連結欠損金個別帰属額」、「非特定連結欠損金」、「特定連結欠損金」という用語は消滅して、単体法人の繰越欠損金と同様の表現になるのか、という点についても今後、確認する必要がある。
〈5〉
全体計算によって損益通算されるため、他の法人の所得金額の計算が終了しないと全社の申告作業が終了しない点は、現行制度と変わらない。
新制度も、全体計算によって損益通算が行われる仕組みとなっており、個別申告方式であっても全体計算の仕組みが全くなくなるわけではない。
これは、他の法人の所得金額が、自社の所得金額に影響することを意味しており、他の法人の申告作業(所得金額の計算)が終了しないと、自社を含めた全社の申告作業(所得金額の計算)が終了しない、ということになる。
この点については、現行制度と事務負担は変わらない。そのため個別申告方式に移行しても、連結申告の事務負担は、単体申告と全く同じレベルにはならない。
この点、さらに、事務負担の軽減を図るのであれば、損益通算を損益振替方式(イギリス)や損益譲渡方式(ドイツ)のような計算方式にすることも一案であろう。
〈6〉
「別表●の2」で番号付けされている連結特有の別表は、消滅する可能性が高い。
個別申告方式に移行すると、別表4の2、別表4の2付表など、「別表●の2」で番号付けされている連結特有の別表は、損益通算用の別表など全体計算を行うための別表以外は消滅することになるだろう。
そのため、連結法人も、単体法人の申告書の別表様式を使用することになり、損益通算用の別表など一部の連結特有の別表を数枚、作成して添付するというイメージになるだろう。
〈7〉
自主的に間違えに気づいたり、税務調査があった場合でも、計算誤りがあった法人のみ修更正を行う仕組みとする。
損益通算等について、基本的に、当初申告額に固定し、修更正による変動は他の法人に影響を与えない仕組みとする方向性が示されている。
つまり、ある法人が、修正申告を行うとき、あるいは、更正されるときでも、他の法人の所得及び申告に影響させない仕組みとする。
ここで、「基本的に」と記載しているのは、下記〈8〉の租税回避行為を防止する措置を講ずる必要があることを示しているものと思われる。
[出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕平成31年2月14日
〈8〉
法人に生じた修更正について、他の法人への影響を遮断する制度を導入する場合、意図的に所得金額を間違えて申告する可能性がある。
当初申告額に固定する制度にした場合、事後的に、自社の所得が変動しても、他の法人の所得に影響しないことから、自社の所得を意図的に間違えて申告することによって、連結グループの税負担を減少させるという租税回避行為が可能となる。
例えば、第3回専門家会合では次の2つの例が示されている。
[出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕平成31年4月18日
[出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕平成31年4月18日
このような、租税回避行為を防止するために、損益通算等を当初申告額に固定するという仕組みについて、何かしらの措置を講じる必要がある。
〈9〉
税務調査は各社ごとに単独で行われる。そのため、他の法人の税務調査があまり気にならない環境になる。
個別申告方式となり、かつ、法人の修更正による変動が他の法人に影響を与えない仕組みとなるため、税務調査は各社ごとに単独で行われることになる。その点で、単体法人と変わらなくなり、他の法人の税務調査があまり気にならない環境になるだろう。
〈10〉
連帯納付責任はそのまま維持される。
新制度についても、当然に、連結親法人及び連結子法人の連帯納付責任はそのまま維持される方向性が示されている。
[出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕平成31年4月18日