《速報解説》
R5改正に対応し、経済産業省が『「スピンオフ」の活用に関する手引』を改訂
~パーシャルスピンオフ税制の創設に伴い、設問や事例の追加等行う~
太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター
税理士 川瀬 裕太
1 はじめに
経済産業省は令和5年6月26日付けで『「スピンオフ」の活用に関する手引』を改訂し、Q&Aの追加等を行った。
経済産業省は、日本企業が収益力や中長期的な企業価値の向上に向け、大胆な事業再編を行うことを可能とするための環境整備の取組みの一環として、『「スピンオフ」の活用に関する手引』を公表している。今回は、令和5年度税制改正でパーシャルスピンオフに関する税制措置が創設されたこと等に伴い、この手引の改訂が行われた。
そこで本稿では、手引の改訂内容について解説していくこととする。
2 改訂の主な内容
改訂の主な内容は、以下の通りである。
(1) パーシャルスピンオフ税制創設に伴うQ&Aの追加等(15ページ、16ページ、参考3、Q24、Q26、Q27、Q39、Q40、Q42~Q46)
(2) 海外で行われたパーシャルスピンオフ事例の追加(8ページ、9ページ)
(3) 「新規上場ガイドブック」(東京証券取引所)の改訂を踏まえたQ&Aの更新(Q15~Q18、Q23)
3 パーシャルスピンオフ税制創設のために追加・更新されたQ&Aのポイント
(1) 税務に関するQ&A
【Q26】
パーシャルスピンオフ税制(適格株式分配に該当する認定株式分配)の要件
〔ポイント〕
パーシャルスピンオフ税制(適格株式分配に該当する認定株式分配)の主な要件は以下の通りである。
➤株式のみ按分交付要件
産業競争力強化法に基づく認定を受けた事業再編計画に従って行われる特定剰余金の配当であって、完全子法人株式の80%超が移転し、かつ、現物分配法人の各株主の持株数に応じて完全子法人株式のみが交付されること
➤非支配要件
株式分配の直前に現物分配法人に他の者による支配関係がなく、かつ、株式分配後に完全子法人に他の者による支配関係があることとなることが見込まれていないこと
➤従業者継続要件
完全子法人の従業者のおおむね90%以上が、その業務に引き続き従事することが見込まれていること
➤事業継続要件
完全子法人の主要な事業が引き続き行われることが見込まれること
➤役員継続要件
完全子法人の特定役員の全てが株式分配に伴って退任するものではないこと
➤事業再編計画認定要件
通常の事業再編計画の認定要件に加えて、事業の成長発展が見込まれるものとして経済産業大臣が定める次のいずれかの要件を満たしていることが確認できること
① 完全子法人の特定役員に対し、新株予約権が付与されている又は付与される見込みがあること
② 完全子法人の主要な事業が、事業開始から10年以内であること
③ 完全子法人の主要な事業が、成長発展が見込まれることについて金融商品取引業者が確認したこと
【Q27】
事前に単独新設分社型分割により完全子会社を設立し、一定期間経過後にスピンオフを行った場合の単独新設分社型分割の税務上の取扱い
〔ポイント〕
単独新設分社型分割後に認定株式分配に係る適格株式分配が行われることが見込まれる場合も従前の適格株式分配と同様の取扱いとなることが確認されている。
【Q39】
現物分配法人の株主における帳簿価額の付け替え計算
〔ポイント〕
現物分配法人の株主が、現物分配法人株式の部分譲渡を行い、完全子法人株式を取得したものとして帳簿価額の付け替え計算をする際の取得する完全子法人株式の帳簿価額は、以下の算式となる。
(完全子法人株式の帳簿価額)
パーシャルスピンオフの場合には、上記完全子法人株式の帳簿価額に相当する金額に交付する株式割合を乗じて計算することとなる。
【Q40】
適格株式分配で分配原資が違う場合の税務上の取扱い
〔ポイント〕
分配原資に関係なく現物分配法人の適格株式分配直前の完全子法人株式の帳簿価額に相当する金額が資本金等の額から減算されることとなるが、パーシャルスピンオフの場合には、完全子法人株式の帳簿価額に相当する金額に交付する株式割合を乗じて計算することとなる。
【Q43】
パーシャルスピンオフ税制の適用を受けるための事業再編計画の認定の期限
〔ポイント〕
令和5年4月1日から令和6年3月31日までに事業再編計画の認定を受ける必要があるが、期間内に認定を受ければ、スピンオフ実施が令和6年4月1日以降であってもパーシャルスピンオフ税制の適用対象となることとされている。
【Q44】
分割型によるスピンオフへのパーシャルスピンオフ税制の適用可否
〔ポイント〕
分割型によるスピンオフはパーシャルスピンオフ税制の適用対象外とされている。
(2) 税務以外に関するQ&A
【Q24】
パーシャルスピンオフを行う際に新株予約権を発行する場合の金融商品取引法に基づく届出前勧誘規制の取扱い
〔ポイント〕
パーシャルスピンオフを行う際に、新株予約権を発行して特定役員に付与するため、適時開示等を行う場合は、勧誘行為に該当しない範囲で実施することが求められている。
【Q42】
パーシャルスピンオフ税制を適用する場合の事業再編計画の認定申請
〔ポイント〕
パーシャルスピンオフ税制の適用を受けるためには事業再編計画の認定を受ける必要があるが、事業再編計画の認定は、事前相談から認定までに3ヶ月程度要することもあり、余裕をもって所管省庁に相談することが推奨されている。
【Q45】
パーシャルスピンオフ税制を適用する際の会社法特例の適用可否
〔ポイント〕
事業再編計画認定要件を満たせば、パーシャルスピンオフ税制の適用だけでなく会社法特例も活用できるということを確認している。
【Q46】
パーシャルスピンオフ税制を適用する場合の会計処理
〔ポイント〕
パーシャルスピンオフ税制を適用する場合の会計処理は、現在、企業会計基準委員会において、資本関係を解消するスピンオフと同様の取扱いとすべきか否か等を検討されているため、今後の動向についても注視する必要がある。
(了)