公開日: 2023/11/20
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《速報解説》 ASBJ、「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」を公表~電子決済手段の保有や発行に係る会計処理などについて示す~

筆者: 阿部 光成

《速報解説》

ASBJ、「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」を公表

~電子決済手段の保有や発行に係る会計処理などについて示す~

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

2023年11月17日、企業会計基準委員会は、「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」(実務対応報告第45号)等を公表した。

これにより、2023年5月31日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応も公表されている。

これは、改正された「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」という)上の電子決済手段の発行及び保有等に係る会計上の取扱いを示すものである。

「『連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準』の一部改正」(企業会計基準第32号)では、資金決済法2条5項第1号から第3号に規定される電子決済手段(外国電子決済手段については、利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る)を「現金」に含めることとしている。

日本公認会計士協会から「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」(会計制度委員会報告第8号)の改正も公表されている。

会計制度委員会報告第8号の改正の公開草案に対しては、意見は寄せられなかったとのことである。

文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 概要

2022年6月に成立した「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第61号)により、資金決済法が改正されている。

改正された資金決済法においては、いわゆるステーブルコインのうち、法定通貨の価値と連動した価格で発行され券面額と同額で払戻しを約するもの及びこれに準ずる性質を有するものが新たに「電子決済手段」と定義されている。

本実務対応報告では、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段を同一の資産項目として取り扱い、現金又は預金そのものではないが現金に類似する性格と要求払預金に類似する性格を有する資産であることを踏まえ、会計処理及び開示を定めている(BC18項)。

 

Ⅲ 範囲

資金決済法2条5項に規定される電子決済手段のうち、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段を対象とする(2項)。

ただし、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段又は第3号電子決済手段のうち外国電子決済手段については、電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る(2項)。

上記にかかわらず、第3号電子決済手段の発行者側に係る会計処理及び開示に関しては、「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第23号)を適用する(3項)。

資金決済法の規定を用いて、第1号電子決済手段などの定義を規定している(4項)。

 

Ⅳ 電子決済手段の保有に係る会計処理

1 電子決済手段の取得時の会計処理

本実務対応報告の対象となる電子決済手段を取得したときは、その受渡日に当該電子決済手段の券面額に基づく価額をもって電子決済手段を資産として計上する(5項)。

当該電子決済手段の取得価額と当該券面額に基づく価額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する(5項)。

2 電子決済手段の移転時又は払戻時の会計処理

本実務対応報告の対象となる電子決済手段を第三者に移転するとき又は電子決済手段の発行者から本実務対応報告の対象となる電子決済手段について金銭による払戻しを受けるときは、その受渡日に当該電子決済手段を取り崩す(6項)。

電子決済手段を第三者に移転するときに金銭を受け取り、当該電子決済手段の帳簿価額と金銭の受取額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する(6項)。

3 期末時の会計処理

本実務対応報告の対象となる電子決済手段は、期末時において、その券面額に基づく価額をもって貸借対照表価額とする(7項)。

 

Ⅴ 電子決済手段の発行に係る会計処理

1 電子決済手段の発行時の会計処理

本実務対応報告の対象となる電子決済手段を発行するときは、その受渡日に当該電子決済手段に係る払戻義務について債務額をもって負債として計上する(8項)。

当該電子決済手段の発行価額の総額と当該債務額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する(8項)。

2 電子決済手段の払戻時の会計処理

本実務対応報告の対象となる電子決済手段を払い戻すときは、その受渡日に払戻しに対応する債務額を取り崩す(9項)。

3 期末時の会計処理

本実務対応報告の対象となる電子決済手段に係る払戻義務は、期末時において、債務額をもって貸借対照表価額とする(10項)。

 

Ⅵ 外貨建電子決済手段に係る会計処理

期末時の会計処理について、次のように規定されている(11項、12項)。

 本実務対応報告の対象となる外貨建電子決済手段の期末時における円換算については、「外貨建取引等会計処理基準」一2(1)①の定めに準じて処理する。

 本実務対応報告の対象となる外貨建電子決済手段に係る払戻義務の期末時における円換算については、「外貨建取引等会計処理基準」一2(1)②の定めに従って処理する。

 

Ⅶ 預託電子決済手段に係る取扱い

電子決済手段等取引業者又はその発行する電子決済手段について電子決済手段等取引業を行う電子決済手段の発行者は、電子決済手段の利用者との合意に基づいて当該利用者から預かった本実務対応報告の対象となる電子決済手段(「預託電子決済手段」という)を資産として計上しない(13項)。

また、当該電子決済手段の利用者に対する返還義務を負債として計上しない(13項)。

 

Ⅷ 注記事項

本実務対応報告の対象となる電子決済手段及び本実務対応報告の対象となる電子決済手段に係る払戻義務に関する注記については、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)40-2項に定める事項を注記する(14項)。

 

Ⅸ 連結キャッシュ・フロー計算書等における資金の範囲

前述のとおり、「『連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準』の一部改正」(企業会計基準第32号)では、資金決済法2条5項第1号から第3号に規定される電子決済手段(外国電子決済手段については、利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る)を「現金」に含めることとしている(2項)。

現金とは、手許現金、要求払預金及び特定の電子決済手段をいうとされている。

「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」(会計制度委員会報告第8号)の改正により、現金の定義に「特定の電子決済手段」が追加されている。

また、「特定の電子決済手段」は、実務対応報告第45号の適用対象となる第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段が該当し、「外国電子決済手段」は、これらの電子決済手段のうち電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限られる旨の記載が追加されている。

 

Ⅹ 公開草案に対するコメント

公開草案に対して、電子決済手段が貸借対照表上の表示において「現金及び預金」に含まれるか否かを明確化すべきとのコメントが寄せられたが、貸借対照表上の取扱いは定めないこととし、開示規則等により現金及び預金に含まれない場合には、重要性も踏まえてその性質を示す適切な科目で表示することになると考えられるとの考え方が示されている(論点の項目の12)。

また、取得価額と券面額との差額や帳簿価額と金銭の授受額との差額を損益計上する際はその性質が推察できないことから、営業外損益で良いのか判断しにくい面があるため明確化を求めるコメントも寄せられたが、現時点では電子決済手段の発行事例がないため、実際に取引が生じた場合に、当該差額の性質に基づき判断することが考えられるとの考え方が示されている(論点の項目の17)。

 

Ⅺ 適用時期等

公表日(2023年11月17日)以後適用する(15項)。

なお、本実務対応報告を適用するにあたっては、特段の経過的な取扱いを定めていないので、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)6項(1)に定める会計方針の変更に関する原則的な取扱いに従って、新たな会計方針を遡及適用することになる(BC46項)。

(了)

《速報解説》

ASBJ、「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」を公表

~電子決済手段の保有や発行に係る会計処理などについて示す~

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

2023年11月17日、企業会計基準委員会は、「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」(実務対応報告第45号)等を公表した。

これにより、2023年5月31日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応も公表されている。

これは、改正された「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」という)上の電子決済手段の発行及び保有等に係る会計上の取扱いを示すものである。

「『連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準』の一部改正」(企業会計基準第32号)では、資金決済法2条5項第1号から第3号に規定される電子決済手段(外国電子決済手段については、利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る)を「現金」に含めることとしている。

日本公認会計士協会から「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」(会計制度委員会報告第8号)の改正も公表されている。

会計制度委員会報告第8号の改正の公開草案に対しては、意見は寄せられなかったとのことである。

文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 概要

2022年6月に成立した「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第61号)により、資金決済法が改正されている。

改正された資金決済法においては、いわゆるステーブルコインのうち、法定通貨の価値と連動した価格で発行され券面額と同額で払戻しを約するもの及びこれに準ずる性質を有するものが新たに「電子決済手段」と定義されている。

本実務対応報告では、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段を同一の資産項目として取り扱い、現金又は預金そのものではないが現金に類似する性格と要求払預金に類似する性格を有する資産であることを踏まえ、会計処理及び開示を定めている(BC18項)。

 

Ⅲ 範囲

資金決済法2条5項に規定される電子決済手段のうち、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段を対象とする(2項)。

ただし、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段又は第3号電子決済手段のうち外国電子決済手段については、電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る(2項)。

上記にかかわらず、第3号電子決済手段の発行者側に係る会計処理及び開示に関しては、「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第23号)を適用する(3項)。

資金決済法の規定を用いて、第1号電子決済手段などの定義を規定している(4項)。

 

Ⅳ 電子決済手段の保有に係る会計処理

1 電子決済手段の取得時の会計処理

本実務対応報告の対象となる電子決済手段を取得したときは、その受渡日に当該電子決済手段の券面額に基づく価額をもって電子決済手段を資産として計上する(5項)。

当該電子決済手段の取得価額と当該券面額に基づく価額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する(5項)。

2 電子決済手段の移転時又は払戻時の会計処理

本実務対応報告の対象となる電子決済手段を第三者に移転するとき又は電子決済手段の発行者から本実務対応報告の対象となる電子決済手段について金銭による払戻しを受けるときは、その受渡日に当該電子決済手段を取り崩す(6項)。

電子決済手段を第三者に移転するときに金銭を受け取り、当該電子決済手段の帳簿価額と金銭の受取額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する(6項)。

3 期末時の会計処理

本実務対応報告の対象となる電子決済手段は、期末時において、その券面額に基づく価額をもって貸借対照表価額とする(7項)。

 

Ⅴ 電子決済手段の発行に係る会計処理

1 電子決済手段の発行時の会計処理

本実務対応報告の対象となる電子決済手段を発行するときは、その受渡日に当該電子決済手段に係る払戻義務について債務額をもって負債として計上する(8項)。

当該電子決済手段の発行価額の総額と当該債務額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する(8項)。

2 電子決済手段の払戻時の会計処理

本実務対応報告の対象となる電子決済手段を払い戻すときは、その受渡日に払戻しに対応する債務額を取り崩す(9項)。

3 期末時の会計処理

本実務対応報告の対象となる電子決済手段に係る払戻義務は、期末時において、債務額をもって貸借対照表価額とする(10項)。

 

Ⅵ 外貨建電子決済手段に係る会計処理

期末時の会計処理について、次のように規定されている(11項、12項)。

 本実務対応報告の対象となる外貨建電子決済手段の期末時における円換算については、「外貨建取引等会計処理基準」一2(1)①の定めに準じて処理する。

 本実務対応報告の対象となる外貨建電子決済手段に係る払戻義務の期末時における円換算については、「外貨建取引等会計処理基準」一2(1)②の定めに従って処理する。

 

Ⅶ 預託電子決済手段に係る取扱い

電子決済手段等取引業者又はその発行する電子決済手段について電子決済手段等取引業を行う電子決済手段の発行者は、電子決済手段の利用者との合意に基づいて当該利用者から預かった本実務対応報告の対象となる電子決済手段(「預託電子決済手段」という)を資産として計上しない(13項)。

また、当該電子決済手段の利用者に対する返還義務を負債として計上しない(13項)。

 

Ⅷ 注記事項

本実務対応報告の対象となる電子決済手段及び本実務対応報告の対象となる電子決済手段に係る払戻義務に関する注記については、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)40-2項に定める事項を注記する(14項)。

 

Ⅸ 連結キャッシュ・フロー計算書等における資金の範囲

前述のとおり、「『連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準』の一部改正」(企業会計基準第32号)では、資金決済法2条5項第1号から第3号に規定される電子決済手段(外国電子決済手段については、利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る)を「現金」に含めることとしている(2項)。

現金とは、手許現金、要求払預金及び特定の電子決済手段をいうとされている。

「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」(会計制度委員会報告第8号)の改正により、現金の定義に「特定の電子決済手段」が追加されている。

また、「特定の電子決済手段」は、実務対応報告第45号の適用対象となる第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段が該当し、「外国電子決済手段」は、これらの電子決済手段のうち電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限られる旨の記載が追加されている。

 

Ⅹ 公開草案に対するコメント

公開草案に対して、電子決済手段が貸借対照表上の表示において「現金及び預金」に含まれるか否かを明確化すべきとのコメントが寄せられたが、貸借対照表上の取扱いは定めないこととし、開示規則等により現金及び預金に含まれない場合には、重要性も踏まえてその性質を示す適切な科目で表示することになると考えられるとの考え方が示されている(論点の項目の12)。

また、取得価額と券面額との差額や帳簿価額と金銭の授受額との差額を損益計上する際はその性質が推察できないことから、営業外損益で良いのか判断しにくい面があるため明確化を求めるコメントも寄せられたが、現時点では電子決済手段の発行事例がないため、実際に取引が生じた場合に、当該差額の性質に基づき判断することが考えられるとの考え方が示されている(論点の項目の17)。

 

Ⅺ 適用時期等

公表日(2023年11月17日)以後適用する(15項)。

なお、本実務対応報告を適用するにあたっては、特段の経過的な取扱いを定めていないので、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)6項(1)に定める会計方針の変更に関する原則的な取扱いに従って、新たな会計方針を遡及適用することになる(BC46項)。

(了)

筆者紹介

阿部 光成

(あべ・みつまさ)

公認会計士
中央大学商学部卒業。阿部公認会計士事務所。

現在、豊富な知識・情報力を活かし、コンサルティング業のほか各種実務セミナー講師を務める。
企業会計基準委員会会社法対応専門委員会専門委員、日本公認会計士協会連結範囲専門委員会専門委員長、比較情報検討専門委員会専門委員長を歴任。

主な著書に、『新会計基準の実務』(編著、中央経済社)、『企業会計における時価決定の実務』(共著、清文社)、『新しい事業報告・計算書類―経団連ひな型を参考に―〔全訂第2版〕』(編著、商事法務)がある。

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