公開日: 2015/12/17 (掲載号:No.149)
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理由付記の不備をめぐる事例研究 【第2回】「最近の注目裁判例・裁決例①(国税不服審判所平成26年11月18日裁決)」~相続財産の価額からの債務控除が認められないと判断した理由は?~

筆者: 泉 絢也

理由付記の不備をめぐる事例研究

【第2回】

「最近の注目裁判例・裁決例①
(国税不服審判所平成26年11月18日裁決)」

~相続財産の価額からの債務控除が認められないと判断した理由は?~

 

中央大学大学院商学研究科 博士後期課程
(酒井克彦研究室所属)
泉 絢也

 

今回は、理由付記をめぐる最近注目の裁決例を取り上げてみたい。

1 事案の概要

本件は、相続人である審査請求人Xらが、被相続人には合資会社A商会(以下「A商会」という)の無限責任社員として負っている会社法580条1項に規定する「債務を弁済する責任」があるとして、相続税の課税価格の計算上、この「債務を弁済する責任」を債務として控除して相続税の申告をしたところ、課税庁(原処分庁)が、被相続人は「債務を弁済する責任」を負っていたとは認められないから、債務として控除することはできないなどとして、相続税の更正処分等をしたのに対し、Xらが、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

国税不服審判所平成26年11月18日裁決(TAINS F0-3-398。以下「本裁決」という)は、更正等通知書に記載された無限責任社員としての債務弁済責任に係る債務控除(相続税法13条及び14条)に関する処分の理由は、行政手続法14条1項の規定の趣旨を満たす程度に提示されたものとはいえないとして、課税処分のすべてを取り消した。

行政手続法14条(不利益処分の理由の提示)

1項 行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。

2項 行政庁は、前項ただし書の場合においては、当該名あて人の所在が判明しなくなったときその他処分後において理由を示すことが困難な事情があるときを除き、処分後相当の期間内に、同項の理由を示さなければならない。

3項 不利益処分を書面でするときは、前2項の理由は、書面により示さなければならない。

 

2 更正等通知書に記載された更正の理由(本件理由付記)

あなたは、本件申告において、合資会社A商会(以下「A商会」といいます。)の本件相続開始日における債務超過額1,401,816,220円を、同社の無限責任社員である本件被相続人の債務弁済責任に基づく債務であるとして本件相続税の相続財産の価額から控除していますが、本件相続開始日において、本件被相続人が上記1,401,816,220円に相当する債務を負っていたとは認められません。したがって、上記1,401,816,220円に相当する債務については、相続税法第13条に規定する『被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの』には該当しませんので、債務控除は認められません。

 

3 関係法令

本件理由付記を一読してみると、課税処分の内容及び理由は、相続人であるXらは相続税の申告に当たり、A商会の本件相続開始日における債務超過額1,401,816,220円を、A商会の無限責任社員である本件被相続人の債務弁済責任に基づく債務であるとして相続税の相続財産の価額から控除しているが、この債務控除が認められないというものであることがわかる。

そこで、債務控除に関する相続税法の規定を見てみると、相続により財産を取得した個人で、当該財産を取得した時において日本国内に住所を有するなどの一定の者については、相続税の課税価格は当該財産の価額の合計額となるが、その課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額によるものとされている(相続税法11の2第1項、13条1項など)。

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理由付記の不備をめぐる事例研究

【第2回】

「最近の注目裁判例・裁決例①
(国税不服審判所平成26年11月18日裁決)」

~相続財産の価額からの債務控除が認められないと判断した理由は?~

 

中央大学大学院商学研究科 博士後期課程
(酒井克彦研究室所属)
泉 絢也

 

今回は、理由付記をめぐる最近注目の裁決例を取り上げてみたい。

1 事案の概要

本件は、相続人である審査請求人Xらが、被相続人には合資会社A商会(以下「A商会」という)の無限責任社員として負っている会社法580条1項に規定する「債務を弁済する責任」があるとして、相続税の課税価格の計算上、この「債務を弁済する責任」を債務として控除して相続税の申告をしたところ、課税庁(原処分庁)が、被相続人は「債務を弁済する責任」を負っていたとは認められないから、債務として控除することはできないなどとして、相続税の更正処分等をしたのに対し、Xらが、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

国税不服審判所平成26年11月18日裁決(TAINS F0-3-398。以下「本裁決」という)は、更正等通知書に記載された無限責任社員としての債務弁済責任に係る債務控除(相続税法13条及び14条)に関する処分の理由は、行政手続法14条1項の規定の趣旨を満たす程度に提示されたものとはいえないとして、課税処分のすべてを取り消した。

行政手続法14条(不利益処分の理由の提示)

1項 行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。

2項 行政庁は、前項ただし書の場合においては、当該名あて人の所在が判明しなくなったときその他処分後において理由を示すことが困難な事情があるときを除き、処分後相当の期間内に、同項の理由を示さなければならない。

3項 不利益処分を書面でするときは、前2項の理由は、書面により示さなければならない。

 

2 更正等通知書に記載された更正の理由(本件理由付記)

あなたは、本件申告において、合資会社A商会(以下「A商会」といいます。)の本件相続開始日における債務超過額1,401,816,220円を、同社の無限責任社員である本件被相続人の債務弁済責任に基づく債務であるとして本件相続税の相続財産の価額から控除していますが、本件相続開始日において、本件被相続人が上記1,401,816,220円に相当する債務を負っていたとは認められません。したがって、上記1,401,816,220円に相当する債務については、相続税法第13条に規定する『被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの』には該当しませんので、債務控除は認められません。

 

3 関係法令

本件理由付記を一読してみると、課税処分の内容及び理由は、相続人であるXらは相続税の申告に当たり、A商会の本件相続開始日における債務超過額1,401,816,220円を、A商会の無限責任社員である本件被相続人の債務弁済責任に基づく債務であるとして相続税の相続財産の価額から控除しているが、この債務控除が認められないというものであることがわかる。

そこで、債務控除に関する相続税法の規定を見てみると、相続により財産を取得した個人で、当該財産を取得した時において日本国内に住所を有するなどの一定の者については、相続税の課税価格は当該財産の価額の合計額となるが、その課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額によるものとされている(相続税法11の2第1項、13条1項など)。

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連載目次

理由付記の不備をめぐる事例研究

第1回~第19回 ※クリックすると開きます。

  • 【第1回】
    「理由付記制度及び判例法理等の概観」
  • 【第2回】
    「最近の注目裁判例・裁決例①(国税不服審判所平成26年11月18日裁決)」
    ~相続財産の価額からの債務控除が認められないと判断した理由は?~
  • 【第3回】
    「最近の注目裁判例・裁決例②(大阪高裁平成25年1月18日判決)」
    ~収益事業に該当すると判断した理由は?~
  • 【第4回】
    「売上計上漏れ」
    ~100万円の入金が「X社の」「当事業年度の」「売上の」入金であると判断した理由は?~
  • 【第5回】
    「雑収入(従業員の横領による損害賠償請求権の収益計上)」
    ~従業員の横領による損害賠償請求権を収益に計上しなければならないと判断した理由は?~
  • 【第6回】
    「仕入」
    ~架空仕入れと判断した理由は?~
  • 【第7回】
    「棚卸資産計上漏れ」
    ~棚卸資産の計上が漏れていると判断した理由は?~
  • 【第8回】
    「減価償却費」
    ~架空の減価償却資産と判断した理由は?~
  • 【第9回】
    「固定資産評価損」
    ~固定資産評価損の計上が認められないと判断した理由は?~
  • 【第10回】
    「有価証券評価損」
    ~有価証券評価損の計上が認められないと判断した理由は?~
  • 【第11回】
    「寄附金と貸倒損失」
    ~立替金債権の放棄が貸倒損失ではなく、寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第12回】
    「寄附金と営業権」
    ~営業権の譲受代金の支払ではなく、寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第13回】
    「交際費と外注費」
    ~外注費ではなく交際費等に該当すると判断した理由は?~
  • 【第14回】
    「交際費と福利厚生費」
    ~福利厚生費ではなく交際費等に該当すると判断した理由は?~
  • 【第15回】
    「過大役員退職給与」
    ~役員退職給与が過大であると判断した理由は?~
  • 【第16回】
    「収用換地特例・宥恕規定」
    ~やむを得ない事情がないと判断した理由は?~
  • 【第17回】
    「青色申告承認取消処分の理由付記制度の概要等」
  • 【第18回】
    「青色申告承認取消処分の事例①」
    ~青色申告承認取消事由(帳簿書類の不保存等)に該当すると判断した理由は?~
  • 【第19回】
    「青色申告承認取消処分の事例②」
    ~青色申告承認取消事由(取引を隠ぺい仮装して記載等)に該当すると判断した理由は?~

第20回以降(掲載予定)

  • 【第20回】 ★連載再開★
    「売上」
    ~有料老人ホームの入居一時金を売上に計上しなければならないと判断した理由は?~
  • 【第21回】
    「雑収入(開店祝い金)」
    ~開店祝い金の雑収入計上が漏れていると判断した理由は?~
  • 【第22回】
    「雑収入(預り金)」
    ~従業員からの預り金に係る雑収入計上が漏れていると判断した理由は?~
  • 【第23回】
    「雑収入(立退料)」
    ~立退料の雑収入計上が漏れていると判断した理由は?~
  • 【第24回】
    「雑収入(受取利息)」
    ~受取利息の雑収入計上が漏れていると判断した理由は?~
  • 【第25回】
    「受贈益」
    ~新株引受権に係る受贈益を計上しなければならないと判断した理由は?~
  • 【第26回】
    「有価証券譲渡益計上漏れ」
    ~有価証券譲渡益の計上が漏れていると判断した理由は?~
  • 【第27回】
    「収益事業」
    ~不動産貸付業に係る収益事業から生じた所得に該当すると判断した理由は?~
  • 【第28回】
    「棚卸資産」
    ~棚卸資産の計上が漏れていると判断した理由は?~
  • 【第29回】
    「宅地造成工事費用」
    ~宅地造成工事費用の支出の損金算入が認められないと判断した理由は?~
  • 【第30回】
    「有価証券評価損」
    ~有価証券評価損の損金算入が認められないと判断した理由は?~
  • 【第31回】
    「ゴルフクラブ入会金(諸会費)」
    ~ゴルフクラブ入会金の損金算入が認められないと判断した理由は?~
  • 【第32回】
    「役員賞与引当金」
    ~事前確定届出給与に係る役員賞与引当金の繰入額の損金算入が認められないと判断した理由は?~
  • 【第33回】
    「役員給与」
    ~代表者の配偶者に対する交際費の支出が代表者に対する役員給与に該当すると判断した理由は?~
  • 【第34回】
    「役員退職給与」
    ~役員退職給与の額が過大であると判断した理由は?~
  • 【第35回】
    「分掌変更退職給与」
    ~分掌変更による役員退職給与の損金算入が認められないと判断した理由は?~
  • 【第36回】
    「寄附金(社員旅行負担金)」
    ~グループ3社の共同社員旅行の負担金が寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第37回】
    「寄附金(貸倒損失)」
    ~貸倒損失が寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第38回】
    「寄附金(貸倒損失・債権放棄)」
    ~子会社に対する貸倒損失が寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第39回】
    「寄附金(貸倒損失・債権放棄)」
    ~書面による債権放棄の通告が寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第40回】
    「寄附金(貸倒損失・債権放棄)」
    ~債権放棄に基づく関係会社援損が寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第41回】
    「寄附金(債権放棄)」
    ~子会社再建支援のための債権放棄が寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第42回】
    「寄附金(売上値引・特別拡売費)」
    ~売上値引が寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第43回】
    「寄附金(終身年金)」
    ~創業者の配偶者に対する金員の支給が寄附金に該当すると判断した理由は?~
  • 【第44回】
    「青色繰越欠損金控除額の損金算入否認」
    ~青色繰越欠損金の当期控除額の損金算入が認められないと判断した理由は?~
  • 【第45回】
    「リース取引(減価償却費)」
    ~法人税法上のリース取引に該当しないと判断した理由は?~
  • 【第46回】
    「交際費等(損金性否認)」
    ~交際費勘定に計上している支出の損金性が認められないと判断した理由は?~
  • 【第47回】
    「交際費等(外注費)」
    ~英文添削料の差額負担額が交際費等に該当すると判断した理由は?~
  • 【第48回】
    「交際費等(会議費)」
    ~会議費として計上している支出が交際費等に該当すると判断した理由は?~
  • 【第49回】
    「過収電気料金等の返戻額に係る収益」
    ~電力会社から過大に徴収された電気料金等の返戻額の収益計上が漏れていると判断した理由は?~
  • 【第50回】
    「前期損益修正」
    ~国保収入を減額する決算修正仕訳は認められないと判断した理由は?~
  • 【第51回】
    「前期損益修正」
    ~過去の事業年度に係る外注費の損金算入が認められないと判断した理由は?~

筆者紹介

泉 絢也

(いずみ・じゅんや)

東洋大学法学部准教授
博士(会計学)

2023年3月末まで千葉商科大学商経学部准教授、2023年4月より東洋大学法学部准教授。中央大学ビジネススクール非常勤講師。
(一社)アコード租税総合研究所研究顧問。
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。博士(会計学・中央大学)。
Twitter:@taxlaw17
ブログ:https://note.com/cryptotax/

【著書】
・泉絢也『逐条解説 法人税法第22条の2 収益認識会計基準に対応する法令・通達の論点整理』(清文社2023)(単著)
・泉絢也=藤本剛平『事例でわかる! NFT・暗号資産の税務』(中央経済社2022)(共著)
・泉絢也『パブリックコメントと租税法』(日本評論社2020)(単著)
・酒井克彦編『30年分申告・31年度改正対応 キャッチアップ仮想通貨の最新税務』(ぎょうせい2019)(共著)
・松嶋 隆弘=渡邊涼介編著『仮想通貨はこう変わる!!暗号資産の法律・税務・会計』(ぎょうせい2019)(共著)

【論文】
・「仮想通貨(暗号通貨、暗号資産)の譲渡による所得の譲渡所得該当性-アメリカ連邦所得税におけるキャピタルゲイン及び為替差損益の取扱いを手掛かりとして-」税法学581号3頁以下
・「NFT(ノンファンジブルトークン)の譲渡による所得は 譲渡所得か?もしそうであれば非課税所得か?」千葉商大論叢59巻3号143頁など
・「法人税法における暗号資産税制の問題点(1)・(2完)-期末時価評価課税の改正提言-」千葉商大論叢60巻1号73頁、千葉商大紀要60巻1号61頁
など多数

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