理由付記の不備をめぐる事例研究
【第2回】
「最近の注目裁判例・裁決例①
(国税不服審判所平成26年11月18日裁決)」
~相続財産の価額からの債務控除が認められないと判断した理由は?~
中央大学大学院商学研究科 博士後期課程
(酒井克彦研究室所属)
泉 絢也
今回は、理由付記をめぐる最近注目の裁決例を取り上げてみたい。
1 事案の概要
本件は、相続人である審査請求人Xらが、被相続人には合資会社A商会(以下「A商会」という)の無限責任社員として負っている会社法580条1項に規定する「債務を弁済する責任」があるとして、相続税の課税価格の計算上、この「債務を弁済する責任」を債務として控除して相続税の申告をしたところ、課税庁(原処分庁)が、被相続人は「債務を弁済する責任」を負っていたとは認められないから、債務として控除することはできないなどとして、相続税の更正処分等をしたのに対し、Xらが、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
国税不服審判所平成26年11月18日裁決(TAINS F0-3-398。以下「本裁決」という)は、更正等通知書に記載された無限責任社員としての債務弁済責任に係る債務控除(相続税法13条及び14条)に関する処分の理由は、行政手続法14条1項の規定の趣旨を満たす程度に提示されたものとはいえないとして、課税処分のすべてを取り消した。
行政手続法14条(不利益処分の理由の提示)
1項 行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。
2項 行政庁は、前項ただし書の場合においては、当該名あて人の所在が判明しなくなったときその他処分後において理由を示すことが困難な事情があるときを除き、処分後相当の期間内に、同項の理由を示さなければならない。
3項 不利益処分を書面でするときは、前2項の理由は、書面により示さなければならない。
2 更正等通知書に記載された更正の理由(本件理由付記)
あなたは、本件申告において、合資会社A商会(以下「A商会」といいます。)の本件相続開始日における債務超過額1,401,816,220円を、同社の無限責任社員である本件被相続人の債務弁済責任に基づく債務であるとして本件相続税の相続財産の価額から控除していますが、本件相続開始日において、本件被相続人が上記1,401,816,220円に相当する債務を負っていたとは認められません。したがって、上記1,401,816,220円に相当する債務については、相続税法第13条に規定する『被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの』には該当しませんので、債務控除は認められません。
3 関係法令
本件理由付記を一読してみると、課税処分の内容及び理由は、相続人であるXらは相続税の申告に当たり、A商会の本件相続開始日における債務超過額1,401,816,220円を、A商会の無限責任社員である本件被相続人の債務弁済責任に基づく債務であるとして相続税の相続財産の価額から控除しているが、この債務控除が認められないというものであることがわかる。
そこで、債務控除に関する相続税法の規定を見てみると、相続により財産を取得した個人で、当該財産を取得した時において日本国内に住所を有するなどの一定の者については、相続税の課税価格は当該財産の価額の合計額となるが、その課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額によるものとされている(相続税法11の2第1項、13条1項など)。
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