公開日: 2013/07/18 (掲載号:No.28)
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〔しっかり身に付けたい!〕はじめての相続税申告業務 【第1回】「申告業務に必要なこと」

筆者: 根岸 二良

〔しっかり身に付けたい!〕

はじめての相続税申告業務

【第1回】

「申告業務に必要なこと」

 

税理士法人ネクスト
公認会計士・税理士 根岸 二良

 

連載開始にあたって

平成25年度税制改正において、平成27年1月1日以降に発生する相続については、基礎控除が現行より4割引き下げられることが決定された(以下「相続税増税」という)。

国税庁統計年報によると、平成23年中の相続について、相続税が発生した相続税申告数は全国合計で51,559件となっている(この数値には、相続税がゼロの場合の相続税申告数は含まれていないため、税額が発生しない相続税申告数も含めた相続税申告数は、この数よりも多いことになる)。

相続税増税が行われると、相続税申告数が1.5倍程度に増加すると一般的には言われており、今後、相続税申告案件は増えることが予想されている。

そこでこの連載では、増えることが予想される相続税申告業務に備えて、理解しておくべき知識や実務上の注意点を、相続税増税時期までに、段階を踏んで説明していきたい。

 

〔はじめに〕

相続税申告業務には、「相続」という法律(民法)の基礎知識、「相続税」という税法の基礎知識のいずれもが必要となる。

加えて、相続税の財産評価を行う際に、土地(借地権を含む)の法令(建築基準法や借地借家法など)の基礎知識も必要となる場合がある。

細かなケースを含めてすべてを理解しようとすると、理解するまでにかなりの時間が必要となるため、相続税申告業務を専門にする方は別として、一般的なケースに限定し、まず必要な基礎知識を理解し、実際の実務で直面した問題についてはその都度、書籍や他の専門家に確認しつつ、業務を進めていく、ということが現実的な対応策となるだろう。

このため、「はじめての相続税申告業務」では、この一般的なケースに限定して、最低限、必要な知識を、相続の法律(民法)、相続の税金(相続税)の2つについて、理解していくことを目的としたい。

 

〔相続税申告業務の流れ〕

どのように相続税申告業務を獲得するか、また、報酬はいくらにすべきかという点は営業戦略の話となるため、この連載では省略するが、相続税申告業務を請け負った場合、どのように業務を進めていくのか、全体の流れをまず理解しておく必要がある。

その全体の流れに従って、最低限、必要な知識(民法、相続税)を理解していくことが、相続税申告業務を正確に行う最短の距離である。

したがって、まず、相続税申告業務の全体の流れについて学ぶこととする。

〈相続税申告業務の全体の流れ〉

 相続人の確定
   
 相続財産の範囲・評価の確定
   
 相続財産の分割協議
   
 相続税申告書作成
   
 相続税納税準備

上記からの手続は、通常、他界した日から10ヶ月以内に完了させることになる。

これは相続税申告期限が、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内と定められており(相続税法27条1項)、通常は、相続の開始があったことを知った日は、他界した日となるからである。

また、相続税は、原則、現金で一括して申告期限までに納付することになっている(相続税法33条)。

したがって、相続税申告業務を進めるにあたって、相続税申告期限は重要な日となるため、どのように算定すべきか、しっかりと理解しておく必要がある。

ここは重要なポイントとなるので、具体例を用いて説明したい。

【ケース1】
他界した日:平成24年4月1日(日)
相続税申告期限:平成25年2月1日(金)

平成24年4月1日に他界した場合、他界した日の翌日(平成24年4月2日)を起算日として10ヶ月を計算すると、平成25年2月1日となる。
つまり、相続税申告期限は、他界した日の10ヶ月後の応当日になる。

【ケース2】
他界した日:平成24年4月2日(月)
相続税申告期限:平成25年2月4日(月)

平成24年4月2日に他界した場合、他界した日の10ヶ月後の応答日は平成25年2月2日となる。

ただし、応当日が土日祝日の場合には、土日祝日に該当しない翌日(応当日が土曜日の場合、翌々日の月曜日になる)が相続税申告期限になる(国税通則法10条2項)ので、このケースでは他界した日の10ヶ月後の応当日である平成25年2月2日は土曜日であるため、土日祝日ではない翌々日である平成25年2月4日が相続税申告期限となる。

上記で述べた相続税申告業務の全体の流れのうち、からは相続税申告が必要か否かにかかわらず、相続を完了させるためには行わなければならない手続である。

一方、相続税申告業務の全体の流れのうち、及びは相続税に特有の手続となる。

別の観点からいえば、相続税申告業務の全体の流れのうち、からは相続の法律(民法)上、必要とされている手続であり、及びは、相続の税金(相続税)上、必要とされている手続といえる。

 相続財産の分割協議」で、財産分けの合意ができないまま(「未分割」という)、相続税申告を行うこともあるが、その場合には、当初申告時においては、小規模宅地特例や配偶者税額軽減など特例が適用できず、結果として相続税の納税額が大きくなる(*)ので、通常は、このを完了させ、財産分けの合意をした上で、相続税申告を行うことが大半である。

次回は、相続税申告業務の全体の流れについて、その内容の概略について見ていきたい。

(*)未分割の状態で相続税申告を行った場合でも、当初申告で「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、申告期限から3年以内に分割できた場合、更生の請求を行うことで、特例の適用を行い、相続税を還付することができる。ただし、その場合でも、当初申告時には、特例の適用ができないため、特例の適用がない状態で相続税申告を行い、その計算に基づいて算定された相続税を、原則として、申告期限までに現金で一括して納付する必要がある。

(了)

「〔しっかり身に付けたい!〕はじめての相続税申告業務」は、隔週の掲載となります。

〔しっかり身に付けたい!〕

はじめての相続税申告業務

【第1回】

「申告業務に必要なこと」

 

税理士法人ネクスト
公認会計士・税理士 根岸 二良

 

連載開始にあたって

平成25年度税制改正において、平成27年1月1日以降に発生する相続については、基礎控除が現行より4割引き下げられることが決定された(以下「相続税増税」という)。

国税庁統計年報によると、平成23年中の相続について、相続税が発生した相続税申告数は全国合計で51,559件となっている(この数値には、相続税がゼロの場合の相続税申告数は含まれていないため、税額が発生しない相続税申告数も含めた相続税申告数は、この数よりも多いことになる)。

相続税増税が行われると、相続税申告数が1.5倍程度に増加すると一般的には言われており、今後、相続税申告案件は増えることが予想されている。

そこでこの連載では、増えることが予想される相続税申告業務に備えて、理解しておくべき知識や実務上の注意点を、相続税増税時期までに、段階を踏んで説明していきたい。

 

〔はじめに〕

相続税申告業務には、「相続」という法律(民法)の基礎知識、「相続税」という税法の基礎知識のいずれもが必要となる。

加えて、相続税の財産評価を行う際に、土地(借地権を含む)の法令(建築基準法や借地借家法など)の基礎知識も必要となる場合がある。

細かなケースを含めてすべてを理解しようとすると、理解するまでにかなりの時間が必要となるため、相続税申告業務を専門にする方は別として、一般的なケースに限定し、まず必要な基礎知識を理解し、実際の実務で直面した問題についてはその都度、書籍や他の専門家に確認しつつ、業務を進めていく、ということが現実的な対応策となるだろう。

このため、「はじめての相続税申告業務」では、この一般的なケースに限定して、最低限、必要な知識を、相続の法律(民法)、相続の税金(相続税)の2つについて、理解していくことを目的としたい。

 

〔相続税申告業務の流れ〕

どのように相続税申告業務を獲得するか、また、報酬はいくらにすべきかという点は営業戦略の話となるため、この連載では省略するが、相続税申告業務を請け負った場合、どのように業務を進めていくのか、全体の流れをまず理解しておく必要がある。

その全体の流れに従って、最低限、必要な知識(民法、相続税)を理解していくことが、相続税申告業務を正確に行う最短の距離である。

したがって、まず、相続税申告業務の全体の流れについて学ぶこととする。

〈相続税申告業務の全体の流れ〉

 相続人の確定
   
 相続財産の範囲・評価の確定
   
 相続財産の分割協議
   
 相続税申告書作成
   
 相続税納税準備

上記からの手続は、通常、他界した日から10ヶ月以内に完了させることになる。

これは相続税申告期限が、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内と定められており(相続税法27条1項)、通常は、相続の開始があったことを知った日は、他界した日となるからである。

また、相続税は、原則、現金で一括して申告期限までに納付することになっている(相続税法33条)。

したがって、相続税申告業務を進めるにあたって、相続税申告期限は重要な日となるため、どのように算定すべきか、しっかりと理解しておく必要がある。

ここは重要なポイントとなるので、具体例を用いて説明したい。

【ケース1】
他界した日:平成24年4月1日(日)
相続税申告期限:平成25年2月1日(金)

平成24年4月1日に他界した場合、他界した日の翌日(平成24年4月2日)を起算日として10ヶ月を計算すると、平成25年2月1日となる。
つまり、相続税申告期限は、他界した日の10ヶ月後の応当日になる。

【ケース2】
他界した日:平成24年4月2日(月)
相続税申告期限:平成25年2月4日(月)

平成24年4月2日に他界した場合、他界した日の10ヶ月後の応答日は平成25年2月2日となる。

ただし、応当日が土日祝日の場合には、土日祝日に該当しない翌日(応当日が土曜日の場合、翌々日の月曜日になる)が相続税申告期限になる(国税通則法10条2項)ので、このケースでは他界した日の10ヶ月後の応当日である平成25年2月2日は土曜日であるため、土日祝日ではない翌々日である平成25年2月4日が相続税申告期限となる。

上記で述べた相続税申告業務の全体の流れのうち、からは相続税申告が必要か否かにかかわらず、相続を完了させるためには行わなければならない手続である。

一方、相続税申告業務の全体の流れのうち、及びは相続税に特有の手続となる。

別の観点からいえば、相続税申告業務の全体の流れのうち、からは相続の法律(民法)上、必要とされている手続であり、及びは、相続の税金(相続税)上、必要とされている手続といえる。

 相続財産の分割協議」で、財産分けの合意ができないまま(「未分割」という)、相続税申告を行うこともあるが、その場合には、当初申告時においては、小規模宅地特例や配偶者税額軽減など特例が適用できず、結果として相続税の納税額が大きくなる(*)ので、通常は、このを完了させ、財産分けの合意をした上で、相続税申告を行うことが大半である。

次回は、相続税申告業務の全体の流れについて、その内容の概略について見ていきたい。

(*)未分割の状態で相続税申告を行った場合でも、当初申告で「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、申告期限から3年以内に分割できた場合、更生の請求を行うことで、特例の適用を行い、相続税を還付することができる。ただし、その場合でも、当初申告時には、特例の適用ができないため、特例の適用がない状態で相続税申告を行い、その計算に基づいて算定された相続税を、原則として、申告期限までに現金で一括して納付する必要がある。

(了)

「〔しっかり身に付けたい!〕はじめての相続税申告業務」は、隔週の掲載となります。

連載目次

「〔しっかり身に付けたい!〕はじめての相続税申告業務」(全29回)

筆者紹介

根岸 二良

(ねぎし・じろう)

税理士事務所ネクスト
公認会計士・税理士

監査法人トーマツ、税理士法人トーマツ、税理士法人タクトコンサルティング勤務を経て、平成24年税理士法人ネクスト設立、代表社員就任。 平成27年に税理士事務所ネクストへ組織変更。相続税申告及びその事前対策、組織再編を活用した事業承継対策、財団法人を活用した相続対策に従事。

【主たる著書】
・『公益法人等へ財産を寄附したときの税務~措置法40条の非課税制度の解説と記載例』(共著・大蔵財務協会)
・『中小企業のための合併法律・会計・税務・評価と申告書作成』(共著・清文社)
・『相続のキホンと対策』(共著・清文社)

【連絡先】
税理士事務所ネクスト
・東京都新宿区四谷2-11-6
・E-mail : negishi@next-tax.com
・TEL:03-5368-1024 (代表)
・FAX:03-5368-1064
・URL:
http://www.esozoku.com  (えらべる相続)
http://www.next-tax.com  (税理士事務所ネクスト)

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