公開日: 2019/08/22 (掲載号:No.332)
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相続税・贈与税の基本構造~日本と台湾の比較~ 【第1回】

筆者: 八ッ尾 順一

相続税・贈与税の基本構造

~日本と台湾の比較~

【第1回】

 

大阪学院大学法学部教授
公認会計士・税理士
八ッ尾 順一

 

◆  はじめに ◆ 

日本では、2015年1月から、相続税・贈与税について、基礎控除の縮減(5,000万円→3,000万円等)や最高税率を50%から55%にするなど、課税の強化が行われた。これに対して、台湾では、2009年の税制改正で、相続(遺産)税と贈与税の減税措置が実施された。すなわち、従来の累進税率(最高50%の税率で10段階)を廃止し、一律10%の比例税率に変更し、さらに免除額についても、相続税・贈与税共に、増額された。

このような改正の背景には、台湾から海外に移された資金を台湾に呼び戻し、台湾の経済を活発化することにあるといわれている。ただ、2017年4月の税法の改正で、ケアサービスの財源や単一税率10%の低さによる不公平を理由として、相続(遺産)税と贈与税の税率は10%~20%の3段階累進税率に変更された。

ちなみに、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、スウェーデンなどをはじめとして、相続税が廃止された国は多く、また、近隣の香港では、既に2006年2月から相続税は廃止され、シンガポールでも2008年2月に相続税の廃止が行われている。

本稿では、原則として「遺産取得課税方式」を採用している日本(法定相続分遺産取得課税方式)と「遺産課税方式」を採用している台湾との相続税・贈与税の内容を比較検討し、その課題等を探りながら、今後のあるべき相続税・贈与税の基本構造を考えてみたい。

 

1 遺産課税体系と遺産取得課税体系

日本の相続税は、明治38年の日露戦争の戦費調達のために誕生したものである。創設以来「遺産課税方式」を採用していたが、第二次世界大戦後、シャウプ税制(昭和25年)で遺産取得課税方式が採られ、その後、昭和33年に、遺産取得課税方式を基本として遺産税の要素を加味した、いわゆる「法定相続分遺産取得課税方式」が採用された。

もっとも、シャウプ税制では、「一生累積遺産取得課税方式」(相続財産の取得者に対して、過去の贈与を含めて、その一生を通ずる取得財産に課税)を採用したが、理論的過ぎるが故に、実務上困難で、徴税技術上の問題もあり、この制度は廃止された。

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相続税・贈与税の基本構造

~日本と台湾の比較~

【第1回】

 

大阪学院大学法学部教授
公認会計士・税理士
八ッ尾 順一

 

◆  はじめに ◆ 

日本では、2015年1月から、相続税・贈与税について、基礎控除の縮減(5,000万円→3,000万円等)や最高税率を50%から55%にするなど、課税の強化が行われた。これに対して、台湾では、2009年の税制改正で、相続(遺産)税と贈与税の減税措置が実施された。すなわち、従来の累進税率(最高50%の税率で10段階)を廃止し、一律10%の比例税率に変更し、さらに免除額についても、相続税・贈与税共に、増額された。

このような改正の背景には、台湾から海外に移された資金を台湾に呼び戻し、台湾の経済を活発化することにあるといわれている。ただ、2017年4月の税法の改正で、ケアサービスの財源や単一税率10%の低さによる不公平を理由として、相続(遺産)税と贈与税の税率は10%~20%の3段階累進税率に変更された。

ちなみに、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、スウェーデンなどをはじめとして、相続税が廃止された国は多く、また、近隣の香港では、既に2006年2月から相続税は廃止され、シンガポールでも2008年2月に相続税の廃止が行われている。

本稿では、原則として「遺産取得課税方式」を採用している日本(法定相続分遺産取得課税方式)と「遺産課税方式」を採用している台湾との相続税・贈与税の内容を比較検討し、その課題等を探りながら、今後のあるべき相続税・贈与税の基本構造を考えてみたい。

 

1 遺産課税体系と遺産取得課税体系

日本の相続税は、明治38年の日露戦争の戦費調達のために誕生したものである。創設以来「遺産課税方式」を採用していたが、第二次世界大戦後、シャウプ税制(昭和25年)で遺産取得課税方式が採られ、その後、昭和33年に、遺産取得課税方式を基本として遺産税の要素を加味した、いわゆる「法定相続分遺産取得課税方式」が採用された。

もっとも、シャウプ税制では、「一生累積遺産取得課税方式」(相続財産の取得者に対して、過去の贈与を含めて、その一生を通ずる取得財産に課税)を採用したが、理論的過ぎるが故に、実務上困難で、徴税技術上の問題もあり、この制度は廃止された。

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連載目次

相続税・贈与税の基本構造~日本と台湾の比較~

【第1回】

はじめに

1 遺産税体系と遺産取得税体系

2 日本の相続税・贈与税

【第2回】

3 台湾の相続税・贈与税

【第3回】

4 日本と台湾の相違点の検討

5 小括

筆者紹介

八ッ尾 順一

(やつお じゅんいち)

大阪学院大学法学部教授
公認会計士・税理士

昭和26年生まれ
京都大学大学院法学研究科(修士課程)修了

【著書】
・『第7版/事例からみる重加算税の研究』(令和4年)
・『十二訂版/図解 租税法ノート』(令和元年)
・『七訂版/租税回避の事例研究』(平成29年)
・『マンガでわかる税務調査―法人課税第三部門にて』(平成28年) ※Profession Journal掲載記事をマンガ化
・『事例による 資産税の実務研究』(平成28年)
・『法律を学ぶ人の 会計学の基礎知識』共著(平成27年)
・『新装版/入門税務訴訟』(平成22年)
・『マンガでわかる遺産相続』(平成23年)
・『判例・裁決からみる法人税損金経理の判断と実務』(平成23年)以上、清文社
・『入門 税務調査──小説でつかむ改正国税通則法の要点と検証』(平成26年)法律文化社

【論文】
「制度会計における税務会計の位置とその影響」で第9回日税研究奨励賞(昭和61年)受賞
【その他】
平成9~11年度税理士試験委員
平成19~21年度公認会計士試験委員(「租税法」担当)
 
      

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