法人税に係る帰属主義及び
AOAの導入と実務への影響
【第1回】
「改正の趣旨と背景」
税理士法人トーマツ
パートナー
税理士 小林 正彦
《本連載の構成》
1 はじめに
2 改正の趣旨と背景
2-1 総合主義から帰属主義へ
2-2 AOAの導入
3 改正の内容
3-1 外国法人の法人税
3-2 内国法人の法人税
3-3 外国法人の所得税
4 企業活動への影響
5 適用開始日(平成28年4月1日以降開始事業年度)までに準備すべき事項
1 はじめに
平成26年度税制改正において、外国法人及び非居住者(以下「外国法人等」という)に対する課税原則が、総合主義から帰属主義に大きく変わるとともに、帰属主義の適用方法として、OECDモデル条約が採用しているAOAが導入された。
AOAとは、帰属所得の計算に関するOECD公認アプローチ(Authorized OECD Approach) の略称である。その内容は、まず、本店と支店を別々の分離した法人と擬制して、機能分析を行って内部取引を認識する。次に、機能分析の結果に基づいて、本店及び各支店への資産と資本の帰属を確定する。その上で、本支店間の取引価格を移転価格税制と同様の方法で算定し、それに基づいて本店及び各支店の帰属所得を計算する、というものである。
今回の改正の影響を最も大きく受ける者は、わが国に恒久的施設(以下「PE」という)を有する外国法人であるが、国外にPEを有する内国法人や個人の居住者も、外国税額控除の計算に関して影響を受ける。また、所得計算の方法の改正だけでなく、本支店間取引について移転価格税制と同様の文書化義務が課された点が実務的に大きな影響を伴う。
今回の改正の結果、国内法の課税原則をOECDで認められた国際課税原則に合わせたことにより二重課税や二重非課税の発生をある程度防止できることが期待されるというメリットがある。しかし、企業にとって次のような点から、コンプライアンス・コストがかかるという問題がある。
◆外国法人の日本PEにとっては、課税所得計算方式が、資本配賦の計算をはじめとして多くの点で変更されていること
◆内国法人で外国にPEを有する法人は、外国税額控除を適用する場合、本支店間内部取引を認識したうえで、PEの帰属所得の算定と文書化について移転価格税制と同様の対応が必要になること。また、海外支店の所在地国がAOAを導入している国か否かで計算方法が異なること
こうしたことから、わが国に支店を有する外国法人だけでなく、外国に支店を有する内国法人にとっても税務コンプライアンス・コストが相当の規模で増加することが予想される。
今回の改正は、平成28年4月1日以降開始事業年度に適用される。
大幅な改正であるため、準備期間を考慮して適用開始まで2年の猶予を見込んでいる。
内容が大幅に変わっただけでなく、改正条文の数からみても膨大な量の改正であるため、影響を受ける納税者にとって相当な準備期間を要する。対象となる企業は、早期に影響を評価し適時に対応策の検討を開始する必要がある。
本連載では、改正の趣旨・概要をできるだけ分かりやすく解説するとともに、実務への影響について考察する。
なお、今回の改正は個人の居住者・非居住者にも影響があるが、本稿では法人についての説明となっていることに留意されたい。
また、本稿の意見にわたる部分は筆者の私見であり、筆者の所属する団体の見解ではないことをお断りしておく。
2 改正の趣旨と背景
2-1 総合主義から帰属主義へ
外国法人や非居住者の課税の範囲については原則として国内源泉所得のみに課税するのが国際的に確立した課税ルールであり、わが国の税法もそれに従っている。国内源泉所得のうち、PEに帰属する所得のみに課税するのが「帰属主義」であり、PEがあればPEに帰属しない所得も含めてすべての国内源泉所得に課税するのが「総合主義」である。
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