「石原産業役員責任追及訴訟
第一審判決」から読む
会社経営者としての責任の分水嶺
【1】
弁護士 中西 和幸
1 はじめに
近年、株主代表訴訟において役員責任が認められる判決が目立つようになってきた。
本判決では、大和銀行判決(7億7,500万ドル(当時のレートで約830億円))や蛇の目ミシン判決(約580億円)に次ぐ約489億円という多額の損害賠償額が取締役に言い渡された。
しかし、その金額もさることながら、監査役が責任追及訴訟を自主的に提起したこと、株主が訴訟参加したこと等の訴訟の構造、責任が認められた取締役と認められなかった取締役の差異等、注目すべき点が複数ある。
2 フェロシルト事件の概要
本件は、会社が各地に販売した土壌埋戻材(商品名:フェロシルト)が環境を汚染する物質であったこと、すなわち実質的には産業廃棄物であったことが問題となり、これを販売・搬出等したことに対する取締役の責任が問題となった事件である。
会社は、主力製品である酸化チタンの生成過程において発生する産業廃棄物である汚泥(アイアンクレー)を有効活用しようと加工し、土壌埋戻材として各地に販売した。
しかし、平成13年8月頃、搬出先の依頼により検査がなされ、フェロシルトから、発ガン性有害物質である六価クロム等有害物質が土壌環境基準値を超えて検出された。そして、会社が自社で保管しているフェロシルトを検査したところ、同様に六価クロムが検出された。それにもかかわらず、担当者が検出結果を隠匿したこともあり、会社は子会社を通じてフェロシルトを顧客に販売・搬出した。
その約3年後、埋設されたフェロシルトが溶け出した赤い液体が河川を汚染するようになるなどのトラブルが発生し、平成17年7月頃、地方公共団体からフェロシルトを撤去するよう要請され、会社は何百億円もの費用をかけてフェロシルトを撤去した。
これらの行為が産業廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反に問われ、会社については罰金5,000万円、管掌取締役Y1について懲役2年の実刑、取締役ではない環境保安部長について懲役1年4月(執行猶予5年)の刑事罰が下された。
3 訴訟の構造
最初は、会社の監査役が、本件の直接の責任者としてフェロシルトを生産していた四日市工場副工場長(平成9年6月27日~平成17年6月29日)である取締役Y1(在任期間は平成9年6月27日から平成11年6月29日及び平成15年6月29日から平成17年6月29日である。平成11年6月29日から平成15年6月29日までは常務執行役員であって取締役ではなかった。)に対して10億円の損害賠償請求(一部請求)をした。
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