公開日: 2015/05/07 (掲載号:No.118)
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コーポレートガバナンス・コードのポイントと企業実務における対応のヒント 【第5回】「取締役会等の責務②」~独立社外役員について(4-7,4-8)~

筆者: 井坂 久仁子

コーポレートガバナンス・コードのポイントと

企業実務における対応のヒント

【第5回】

「取締役会等の責務②」

~独立社外役員について(4-7,4-8)~

 

あらた監査法人 ディレクター
井坂 久仁子

 

〔取締役会等の責務〕

前回に引き続き、本稿では、2015年3月5日に確定した「コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上のために~」(以下「CGコード」)第4章「取締役会等の責務」から、「原則4-7. 独立社外取締役の役割・責務」、および「原則4-8. 独立社外取締役の有効な活用」について、英国での実務を紹介しつつ解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。

 

〔独立社外取締役の役割〕原則4-7

原則4-7では、特に以下の役割・責務を独立社外取締役が果たすことが期待される、としている。

( i ) 経営の方針や経営改善について、自らの知見に基づき、会社の持続的な成長を促し中長期的な企業価値の向上を図る、との観点からの助言を行うこと。

(ⅱ) 経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行うこと

(ⅲ) 会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督すること

(ⅳ) 経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること

独立社外取締役は、業務執行の監督をすることがもっぱらの責務であるといわれてきた。それが、上記(ⅱ)(ⅲ)にも反映されていると考えられる。

一方、「攻めのガバナンス」であるCGコード策定の背景を考慮すると、( i )は、どちらかというと会社の積極的な戦略を支援するためのアドバイスを経営者としての経験豊富な独立社外取締役に求めているとも解釈できる。助言(アドバイス)のベクトルは、守りというよりは、会社の持続的成長・中長期的な企業価値向上に向かっていることがここでは明確になっている。

 

〔独立取締役の有効な活用〕原則4-8

CGコードでは、原則4-7において、独立社外取締役の役割・責務を明確化した上で、原則4-8において、そのような役割と責務を担う独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきであるとしている。

すでに、東京証券取引所(以下「東証」)の上場規程(※1)では、企業行動規範の「遵守すべき事項」として、上場会社は独立役員(東証の独立性基準を満たす社外取締役または社外監査役)を1名以上確保することが規定されており、全上場会社において少なくとも1名以上の独立役員がすでに確保されている(※2)

(※1) 有価証券上場規程第436条の2。

(※2) 「東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2015

とはいえ、次表の通り、東証に上場する3,461社のうち、約86%(2,964社)は、届け出られた独立社外取締役が2名未満である(本稿執筆現在(2015/4/20))

表1
独立役員として 届出をしている 社外取締役数 会 社 数 5名以上 26 4名 38 3名 101 2名 332 1名 1,301 0名 1,663 合 計 3,461

(出所:2015年4月20日現在の東証「コーポレート・ガバナンス情報サービス」より筆者が作成)

平成26年改正会社法(施行は2015年5月1日)により、社外性要件がより厳格化されるため、現在独立社外取締役として届け出られている取締役が社外性の要件を満たさない可能性もある。また、独立性の要件を満たすすべての社外取締役を独立役員として会社が届出をしているとは限らないため、実際の独立社外取締役数は上記より相当多いことも考えられる。

そのため、CGコードが適用される2015年6月1日以降の独立社外取締役数は必ずしも上記とは一致しないが、1つの目安にはなるだろう。

多くの上場会社で2名以上の独立社外取締役を選任していない現状があるとして、独立社外取締役を2名以上選任することの意味を上場会社がそれぞれの状況に応じて考える必要がある。

  • なぜ、1名ではなく、2名以上なのか?
  • 独立社外監査役では代替できないのか?
  • どのような状況下であれば、自主的な判断により「少なくとも3分の1以上」の独立社外取締役の選任が必要と考えられるのか?

これらを検討する際に、独立社外取締役を複数名選任することが必須となっている諸外国の事例が参考になるかもしれないと考え、以下に英国等の例を紹介する。

〈英国上場会社の取締役会〉

図1は、英国のFTSE350指標を構成する会社の平均的な取締役会の構成を示している。

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コーポレートガバナンス・コードのポイントと

企業実務における対応のヒント

【第5回】

「取締役会等の責務②」

~独立社外役員について(4-7,4-8)~

 

あらた監査法人 ディレクター
井坂 久仁子

 

〔取締役会等の責務〕

前回に引き続き、本稿では、2015年3月5日に確定した「コーポレートガバナンス・コード原案~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上のために~」(以下「CGコード」)第4章「取締役会等の責務」から、「原則4-7. 独立社外取締役の役割・責務」、および「原則4-8. 独立社外取締役の有効な活用」について、英国での実務を紹介しつつ解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。

 

〔独立社外取締役の役割〕原則4-7

原則4-7では、特に以下の役割・責務を独立社外取締役が果たすことが期待される、としている。

( i ) 経営の方針や経営改善について、自らの知見に基づき、会社の持続的な成長を促し中長期的な企業価値の向上を図る、との観点からの助言を行うこと。

(ⅱ) 経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行うこと

(ⅲ) 会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督すること

(ⅳ) 経営陣・支配株主から独立した立場で、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させること

独立社外取締役は、業務執行の監督をすることがもっぱらの責務であるといわれてきた。それが、上記(ⅱ)(ⅲ)にも反映されていると考えられる。

一方、「攻めのガバナンス」であるCGコード策定の背景を考慮すると、( i )は、どちらかというと会社の積極的な戦略を支援するためのアドバイスを経営者としての経験豊富な独立社外取締役に求めているとも解釈できる。助言(アドバイス)のベクトルは、守りというよりは、会社の持続的成長・中長期的な企業価値向上に向かっていることがここでは明確になっている。

 

〔独立取締役の有効な活用〕原則4-8

CGコードでは、原則4-7において、独立社外取締役の役割・責務を明確化した上で、原則4-8において、そのような役割と責務を担う独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきであるとしている。

すでに、東京証券取引所(以下「東証」)の上場規程(※1)では、企業行動規範の「遵守すべき事項」として、上場会社は独立役員(東証の独立性基準を満たす社外取締役または社外監査役)を1名以上確保することが規定されており、全上場会社において少なくとも1名以上の独立役員がすでに確保されている(※2)

(※1) 有価証券上場規程第436条の2。

(※2) 「東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2015

とはいえ、次表の通り、東証に上場する3,461社のうち、約86%(2,964社)は、届け出られた独立社外取締役が2名未満である(本稿執筆現在(2015/4/20))

表1
独立役員として 届出をしている 社外取締役数 会 社 数 5名以上 26 4名 38 3名 101 2名 332 1名 1,301 0名 1,663 合 計 3,461

(出所:2015年4月20日現在の東証「コーポレート・ガバナンス情報サービス」より筆者が作成)

平成26年改正会社法(施行は2015年5月1日)により、社外性要件がより厳格化されるため、現在独立社外取締役として届け出られている取締役が社外性の要件を満たさない可能性もある。また、独立性の要件を満たすすべての社外取締役を独立役員として会社が届出をしているとは限らないため、実際の独立社外取締役数は上記より相当多いことも考えられる。

そのため、CGコードが適用される2015年6月1日以降の独立社外取締役数は必ずしも上記とは一致しないが、1つの目安にはなるだろう。

多くの上場会社で2名以上の独立社外取締役を選任していない現状があるとして、独立社外取締役を2名以上選任することの意味を上場会社がそれぞれの状況に応じて考える必要がある。

  • なぜ、1名ではなく、2名以上なのか?
  • 独立社外監査役では代替できないのか?
  • どのような状況下であれば、自主的な判断により「少なくとも3分の1以上」の独立社外取締役の選任が必要と考えられるのか?

これらを検討する際に、独立社外取締役を複数名選任することが必須となっている諸外国の事例が参考になるかもしれないと考え、以下に英国等の例を紹介する。

〈英国上場会社の取締役会〉

図1は、英国のFTSE350指標を構成する会社の平均的な取締役会の構成を示している。

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連載目次

【参考】 PwCあらた監査法人

コーポレート・ガバナンス対応支援サービス

取締役会等の実効性評価、制度の整備

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筆者紹介

井坂 久仁子

(いさか・くにこ)

PwCあらた有限責任監査法人 ディレクター

PwC米国ニューヨーク事務所にて監査業務を担当後、2002年帰国。PCAOB基準・金融商品取引法・会社法監査業務の他、財務報告アドバイザリーとしてIFRS導入支援などを担当し、現在は主に上場会社の開示全般およびコーポレート・ガバナンス関連業務を担当。

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