会計事務所の事業承継
~事務所を売るという選択肢~
【第5回】
「会計事務所の価値評価」
公認会計士・税理士 岸田 康雄
1 会計事務所の価値とは何か
今回は個人事務所を営む税理士を売り手、税理士法人を買い手とするM&Aを前提として、会計事務所の価値評価について説明する。
会計事務所のM&Aでは、その譲渡対象のほとんどは、顧客との顧問契約や職員の雇用契約といった無形資産である。無形資産を譲渡するといっても、そもそも営業権がないと法的に定められている税理士業務の価値評価に際して、相続税法上の財産評価基本通達を使う必要はないため、当事者間の交渉を通じて、公正価値すなわち時価による価値評価を行うことになる。
現在、会計事務所のM&A実務において、経常売上高マルチプル(倍率)1倍という評価で取引される事例が多いといわれている。
「基本的には顧問先を全部承継するという条件で、決算を除く臨時手数料(相続関連など)以外の手数料、毎月の顧問料および決算手数料の合計、すなわち、経常売上高の100%から80%ほどになるのではないだろうか。」(増山雅久『会計事務所のM&A成功術』幻冬舎メディアコンサルティング、2010年)とされるケースである。
しかし、前回の記事において述べたように、会計事務所のM&Aにおける買い手の取引は「投資」である。これは事業会社のビジネスの基本原理と同じである。
投資をした者は、それを回収して利益を得なければならない。したがって、買い手は回収可能性を予測したうえで、投資額を見積もる。これが価値評価のプロセスである。
理論的な公正価値(時価)は、一般的なファイナンス理論においては、将来キャッシュ・フローの割引現在価値であるといわれる。すなわち、DCF法によって評価した価値のことである。
DCF法の価値評価は、決算書の数値に基づく純資産法などと異なり、不確実な将来予測に基づいて行う。それゆえ、将来キャッシュ・フローをどれくらい確実に予測できるかが、その評価の信頼性のポイントとなる。
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