女性会計士の奮闘記
【第1話】
「お客様が本当に知りたいのは……」
公認会計士・税理士 小長谷 敦子
オフィス街と繁華街が隣接する通りに立つビル。その2階に、P子の事務所があります。
P子は、2人の子供をもつママさん会計士。
M子は、P子の事務所に就職した新人会計士。
これから2人のドタバタな日々が始まります。
〈P子〉
道頓堀さんのところへ行く時間よ。
〈M子〉
はい!準備OKです。
あっ、待ってください。
カバンにミスト入れ忘れちゃった。
冬は乾燥するから必須アイテムなんですー
〈P子〉
ミスト?ミストかミスドが知らないけれど、そんなもの効果あるの?
私なんか、顔も手も干物状態よ。
今さら何をつけても、生モノには戻らないわ。とにかく行くわよ!
商店街を2人で歩きながら……
〈P子〉
道頓堀さんのところへ行くようになって、もう10年になるわねぇ。
独立して2、3年経ったころだったかなぁ。商工会議所でセミナーをさせていただいたとき、道頓堀さんが受講されていたのよ。
なんと、その後すぐお客様になって下さったの。
〈M子〉
そんなこともあるんですね。
〈P子〉
本当にありがたいことよ。
キャッシュフロー経営についてのセミナーだったんだけど、ゆっくり分かりやすく説明したのがよかったんだって。
……でもね、最初の決算のとき、大失敗したのよ。
〈M子〉
どうされたんですか?
〈P子〉
会社の決算役員会で、決算書の分析数値を説明していたとき、道頓堀さんに
“あなたの説明はもういい!聞きたくないわ”
って言われたの。
〈M子〉
どうしてですか?
〈P子〉
“あなたの話は2ヶ月半も前の話。そんな過去の話を早口でまくしたてられても、何もありがたくないわ。私が知りたいのは『今どうしてお金がないのか』『明日どうすればいいのか』ということなの”
って言われたのよ。
会計士試験で勉強した経営分析手法を駆使してりっぱな資料を作っていったのに、めちゃくちゃショックだったわ。
〈M子〉
で、どうしたんですか?
〈P子〉
うちの地域で業績伸ばしておられる先生に、どうしたらいいのか聞きに行ったのよ。
〈M子〉
勇気ありますねぇ……
〈P子〉
そのときは必死のパッチだったから。
〈M子〉
必死のパッチ???
〈P子〉
そしたらその先生から、すごくいいヒントもらったのよ。
〈M子〉
どんなヒントですか?聞きたい!聞きたい!
〈P子〉
“まずはピカピカの決算書をつくることだ”って教えてもらったの。
〈M子〉
ピカピカの決算書???
〈P子〉
それは月次決算書を磨くこと、言い換えたら、その月次決算書を12ヶ月足したものが年間の決算書になるようにすることなの。
それだけ真剣勝負で月次の決算書を作らないといけないということなんじゃない。
その決算書で毎月お客様に会社の現状を説明して、年次決算の予想をしてもらう。
お客様に明日を語ってもらうの。
会社経営にとって大切なことは、現状を分析して、明日どうすればいいかを考えることです。
それに役立つ資料をいかに作るかが、お客様の信頼を勝ち取るポイントになります。
その資料の一つ、ピカピカの月次決算書とは?
次回をお楽しみに。
〈ワンポントアドバイス〉
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自分の作った細かい資料で一方的に説明しないこと。
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まず、経営を語ってもらい、聴くことから始めましょう。
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お客様のニーズがわかり、適切なアドバイスにつながります。
(了)
「女性会計士の奮闘記」は、毎月第4週に掲載します。