公開日: 2023/05/25 (掲載号:No.520)
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有価証券報告書におけるサステナビリティ開示の直前確認

筆者: 西田 友洋

有価証券報告書における

サステナビリティ開示直前確認

 

史彩監査法人 パートナー
公認会計士 西田 友洋

 

金融庁は、2023年1月31日に「「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について」を公表し、以下の改正等を行っている。当該改正により、原則、2023年3月31日以後終了する事業年度の有価証券報告書からサステナビリティ開示が必要となり、各社、有価証券報告書の作成に今までよりも多くの時間を要することが考えられる。そこで今回は、サステナビリティ開示におけるポイントを解説する。

適用時期は、以下のとおりである。

〔原則〕

2023年3月31日以後終了する事業年度の有価証券報告書から適用

〔早期適用〕

施行日(2023年1月31日)以後提出する事業年度の有価証券報告書から適用も可

なお、株式会社花王及び株式会社リンクアンドモチベーションが2022年12月31日の有価証券報告書において、早期適用している。

【改正のイメージ図】

 

1 サステナビリティ全般に関する事項(人的資本を含む)の開示

(1) 開示内容

「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示内容は、以下のとおりである(開示府令 第二号様式(記載上の注意)(30-2)、第三号様式)。

(※) 有価証券報告書で記載する内容を全て、参照先に記載することはできない。参照先は、あくまでも補完情報であるため、重要な情報は、有価証券報告書に記載する必要がある(下記(6)参照)。

(2) 開示対象

「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示対象は、開示府令で具体的に定められていないが、記述原則別添(注1)に、以下の例示が示されている(記述原則別添(注1)、コメント対応109)。開示府令では具体的に定められていないため、各社で以下や他社事例等を参考にし、また、経営環境や企業価値等への影響を踏まえて、何を開示することが投資家にとって有用であるかを検討する必要がある

  • 環境(気候変動)
  • 社会
  • 従業員
  • 人権の尊重
  • 腐敗防止
  • 贈収賄防止
  • ガバナンス
  • サイバーセキュリティ
  • データセキュリティなど

なお、温室効果ガス(GHG)排出量については、投資家と企業の建設的な対話に資する有効な指標となっている状況を鑑み、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、特に、Scope1(事業者自らによる直接排出)・Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)の GHG 排出量について、積極的に開示することが期待されている(記述原則別添(注2))。

(3) 開示にあたっての構成要素

「サステナビリティに関する考え方及び取組」では、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のフレームワークに合わせて、以下の4つの構成要素に基づき記載する。

「ガバナンス」と「リスク管理」の記載は必須で、「戦略」と「指標及び目標」については、重要なものについて開示する(重要性については、下記(4)参照)。

「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示を行うことが期待される(記述原則別添)。

ただし、「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しない場合における判断やその根拠は、必ず開示しなければならない事項ではない。その上で、投資家に有用な情報を提供する観点から、例えば、各企業がその事業環境や事業内容を踏まえて、どのような検討を行い、重要性がないと判断するに至ったのか、その検討過程や結論を具体的に記載することが考えられる(コメント対応No.99-100)。

一方、人的資本については、「戦略」並びに「指標及び目標」(以下、(a)(b)について、重要性に関係なく、全ての会社が開示する必要がある。

(a) 戦略

人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針(例えば、人材の採用及び維持に関する方針、従業員の安全及び健康に関する方針等)

(b) 指標及び目標

(a)で記載した方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績

(4) 重要性の判断基準

サステナビリティ関連開示において、開示に当たっての重要性の判断基準は、開示府令で定められていない。

記述情報の開示に関する原則(以下、「記述原則」という)において、以下の考え方(記述原則2-2)が示されているため、参考にすることができる。

記述情報の開示の重要性は、投資家の投資判断にとって重要か否かにより判断すべきと考えられる。また、取締役会や経営会議における議論の適切な反映が重要である記述情報の役割を踏まえると、投資家の投資判断に重要か否かの判断に当たっては、経営者の視点による経営上の重要性も考慮した多角的な検討を行うことが重要と考えられる。

記述情報の重要性については、その事柄が企業価値や業績等に与える影響度を考慮して判断することが望ましい。また、企業の将来に関する情報の重要性は、発生の蓋然性も考慮して判断することが望ましい。

記述情報の記載に当たっては、重要性の高いものから順に記載するなど、読み手が当該情報の重要性を理解できるような工夫をすることが望ましい。

有価証券報告書には、提出日時点における記述情報の重要性の評価が反映されることが望ましい。特に、企業の経営環境等に変化が生じた場合には、従前の開示内容にかかわらず、提出日時点における重要性の評価を適切に反映することが期待される。

(5) 開示にあたっての留意事項

開示にあたっての留意事項として、以下が挙げられる。

サステナビリティに関する考え方及び取組は、企業の中長期的な持続可能性に関する事項について、経営方針・経営戦略等との整合性を意識して説明するものである(記述原則別添)。

「サステナビリティに関する考え方及び取組」において開示が求められている、人的資本(多様性を含む)に係る方針に関する指標については、各企業それぞれの方針と整合的な指標を記載することが求められていて、必ずしも有価証券報告書と同様の従業員の定義を用いて算定する必要はない。この際、指標をどのように算出したかがわかるよう、計算方法等も記載することが重要である(コメント対応No.40)。

今回の改正では、細かな記載事項は規定せず、各企業の現在の取組状況に応じて柔軟に記載できるような枠組みとしている(コメント対応No.66-72)。

「ガバナンス」、「リスク管理」、「戦略」、「指標及び目標」の4つの構成要素に基づく開示が必要であるが、具体的な記載方法については詳細に規定しておらず、構成要素それぞれの項目立てをせずに、一体として記載することも考えられる。ただし、記載に当たっては、投資家が理解しやすいよう、4つの構成要素のどれについての記載なのかがわかるようにすることも有用である(コメント対応No.83)。

国内における具体的開示内容の設定が行われていないサステナビリティ情報の記載に当たって、例えば、国際的に確立された開示の枠組みである気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)又はそれと同等の枠組みに基づく開示を行った場合には、適用した開示の枠組みの名称を記載することが考えられる(記述原則別添)。

人的資本に関する「戦略」並びに「指標及び目標」について、基本的に連結ベースでの開示が必要であるが、連結グループの主要な事業を営む会社において関連する指標のデータ管理とともに、具体的な取組みが行われているが、必ずしも連結グループに属する全ての会社では行われてはいない等、連結グループにおける記載が困難である場合には、その旨を記載した上で、例えば、連結グループにおける主要な事業を営む会社単体(主要な事業を営む会社が複数ある場合にはそれぞれ)又はこれらを含む一定のグループ単位の指標及び目標の開示を行うことも考えられる(コメント対応No.166)。

当年度の有価証券報告書について、開示した内容について、翌年度以降、その開示内容を拡充したとしても、当年度の有価証券報告書について虚偽記載等の責任を負うものではない(コメント対応No.80)。

「サステナビリティに関する考え方及び取組」では、直近の連結会計年度に係る情報を記載するが、その記載に当たって、情報の集約・開示が間に合わない箇所がある場合等には、概算値や前年度の情報を記載することも考えられる。この場合には、概算値であることや前年度のデータであることを記載して、投資者に誤解を生じさせないようにする必要がある。また、概算値を記載した場合であって、後日、実際の集計結果が概算値から大きく異なる等、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす場合には、有価証券報告書の訂正を行うことが考えられる(コメント対応No.238-252)。

(6) 他の書類を参照する場合の留意事項

他の書類を参照する場合の参照先の例として、以下が挙げられる(コメント対応No.234-237、238-252、257-261)。

  • 任意に公表した書類のほか、他の法令や上場規則等に基づき公表された書類
  • ウェブサイト
  • 前年度の情報が記載された書類や将来公表予定の任意開示書類

また、記載事項を補完する情報について、公表した他の書類を参照する場合の留意事項として、以下が挙げられる。

開示内閣府令に定める内容を有価証券報告書に記載した上で、記載事項を補完する詳細な情報について、提出会社が公表した他の書類を参照する旨の記載を行うことができる(開示ガ5-16-4)。

例えば、管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異を「指標を用いた目標及び実績」とする場合、「従業員の状況」における記載内容を参照することができる(開示ガ5-16-5)。

参照できるものは、あくまでも補完(詳細)情報であるため、投資家が真に必要とする情報は有価証券報告書に記載する必要がある(コメント対応No.81)。

ウェブサイトを参照する場合、以下のように投資者に誤解を生じさせないような措置を講じることが考えられる(コメント対応No.257-262)。

更新される可能性がある場合はその旨及び予定時期を有価証券報告書に記載した上で、更新した場合には、更新箇所及び更新日をウェブサイトにおいて明記する。

有価証券報告書の公衆縦覧期間中は、継続して閲覧可能とするなど。

将来公表予定の書類を参照する際は、投資者に理解しやすいよう公表予定時期や公表方法、記載予定の内容等も併せて記載することが望まれる(コメント対応No.238-252)。

参照先の書類に虚偽の表示又は誤解を生ずるような表示があっても、当該書類に明らかに重要な虚偽の表示又は誤解を生ずるような表示があることを知りながら参照していた場合等当該書類を参照する旨を記載したこと自体が有価証券報告書の虚偽記載等になり得る場合を除き、直ちに有価証券報告書に係る虚偽記載等の責任を負うものではない(開示ガ5-16-4)。

参照先の書類内の情報は、参照方式の有価証券報告書における参照書類とは異なり、基本的には有価証券報告書の一部を構成しない(コメント対応No.281)。

(7) 事例

株式会社花王の有価証券報告書(2022年12月31日)の「第2【事業の状況】」の「2【サステナビリティに関する考え方及び取組】」では、以下のように開示されている。

(1)ESG戦略(Kirei Lifestyle Plan)

花王は、「2030年までに達成したい姿」である「グローバルで存在価値ある企業『Kao』」を達成するため、経営の中核にESGの視点を導入しています。ESG視点のよきモノづくりを通じて、事業成長と社会のサステナビリティへの貢献を実現していきます。

① ガバナンス

花王は、グローバルの大きな変化に対する迅速な対応を強化するとともに、事業機会の拡大と社会課題の解決を目指し、柔軟で強靭なESGガバナンスを構築しています。社外委員が参加する組織が経営層に監督・助言する機能や、経営判断がイノベーションや取り組みに変換され、的確かつ迅速に実行に移される機能が備わっていることが特徴です。取締役会がリスクや機会を含むESGに関する監督の責任を持ち、そのもとで社長執行役員及び配下の各組織体が業務執行を担っています。

ESG全体の業務執行については、ESGコミッティを最高機関とした体制が担っています。ESGコミッティは、ESG戦略に関する活動の方向性を議論、決定し、取締役会に活動状況を報告します。社外の視点を反映させるため外部有識者で構成されるESG外部アドバイザリーボード、ESG戦略を遂行するためのESG推進会議、4つの重点課題について確実かつ迅速に遂行するESGステアリングコミッティがあり、各部門の活動を推進しています。

中でもESG外部アドバイザリーボードは、ガバナンスにおいて重要な役割を果たしています。世界の動向、花王の取り組み状況に関する助言は、各分野、世界の各地域で活躍されている委員ならではの活きた知見・観点から生み出されるものであり、経営の意思決定に効果的に反映されています。環境分野の2名、社会分野の2名、ガバナンス分野の1名で構成されています。

ESGに関するリスク管理は内部統制委員会(年2回開催、委員長は代表取締役 社長執行役員)で、機会管理はESGコミッティ(年6回開催、議長は代表取締役 社長執行役員)で実施しています。

(省略)

② 戦略

花王は、中期経営計画「K25」において「未来のいのちを守る」「Sustainability as the only path」をビジョンに掲げ、ESG経営への強い意志を表明しています。事業活動をとりまく国際情勢は一層大きく変動することが予測されますが、そこで想定されるリスクの低減や、事業機会の創出を図り、レジリエンスを強化するため、ESG戦略の重要性が一層高まっています。

花王のESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」は、生活者を主役としたESGの具体的な活動の方向性と将来への意欲的な意気込みを表したものです。「花王のESGビジョン」と、それを実現するための戦略、3つのコミットメントと19のアクションから構成されています。この戦略に基づき、生活者のこころ豊かな暮らしや社会のサステナビリティの実現を目指して展開した花王のESG活動が、リスクの低減や事業機会の創出につながり、ひいては事業成長を実現し、生まれた利益がステークホルダー、生活者や社会に還元されていくサイクルを形成していくと考えています。

現代の深刻な社会問題に対応し、サステナブルな社会を実現するためには技術革新が必須だと言われていますが、花王はイノベーション提案に基づく、“よきモノづくり”に注力しており、本質研究に立脚した革新的技術を組み込んだESG視点でのよきモノづくりは、花王の持続的な成長を支え、人、社会、地球に大きなインパクトを与えることができると考えています。

(省略)

③ リスク管理

花王は、強靭なESGガバナンスのもと、リスク低減と事業機会創出を確実にするため、リスク管理及び機会管理を強化しています。

リスク管理においては、リスクの重要性をリスク・危機管理委員会で定期的にモニタリングしています。その中でも経営への影響が特に大きく、対応の強化が必要なリスクは「コーポレートリスク」として、経営会議でリスクテーマとリスクオーナーを選定し、リスク・危機管理委員会で進捗管理をしています。各部門やグループ会社で管理可能なリスクは、各組織が中心となって対応しています。機会管理においては、花王グループ全体で重点テーマを管理し、優先順位の設定とESG投資を促進する仕組みを構築し、戦略的な事業展開につなげています。

④ 指標と目標

花王は、野心的な指標と目標を設定することで、ESG戦略の方向性を明確にし、的確な進捗管理を可能とすることで、ESG戦略を着実に実行しています。花王のESG戦略、「Kirei Lifestyle Plan」の19のアクションごとに指標と目標を設定しています。上記ESGガバナンスにおいて各指標の進捗状況がモニタリングされ、結果に基づき取り組みに反映しています。

(省略)

(2)気候変動への対応(TCFD提言への取組)

気候変動は、現在並びに将来世代が豊かな生活文化Kirei Lifestyleを実現することに対する大きなリスクとなっています。「花王ウェイ」において「豊かな共生世界の実現」を使命として掲げる花王グループでは、地球温暖化の緩和と適応の両面から積極的に活動を推進しています。花王グループはTCFDに賛同し、気候変動に関する情報開示を積極的に実施し、投資家との対話を行っています。パリ協定が示す「平均気温上昇を1.5℃に抑えた世界」を実現することが将来の生活者のKirei Lifestyle実現に必要だと認識し、「Kirei Lifestyle Plan」の重点取り組みテーマの一つとして「脱炭素」を掲げ活動を進めています。

(省略)

① ガバナンス

気候変動に関するガバナンスは、ESG戦略のガバナンスに組み込まれています。詳細については「(1)ESG戦略(Kirei Lifestyle Plan) ①ガバナンス」を参照ください。

② 戦略

気候変動により平均気温が4℃上昇することは、社会に非常に大きな影響を及ぼすことから、世界全体が気温上昇を1.5℃に抑えることを目指していることに意味ある貢献をすることが、重要であると認識しています。

花王は1.5℃、2℃、4℃シナリオでシナリオ分析を実施しています。なお、1.5℃と2℃シナリオにおいては、リスク・機会の傾向は同じですが、1.5℃の方が2℃よりそのスピードが早くなり、活動レベルが高くなると認識しています。

(省略)

③ リスク管理

気候変動に関する主なリスクは、ESG戦略のリスクに含めて管理しています。詳細については「(1)ESG戦略(Kirei Lifestyle Plan) ③リスク管理」を参照ください。

④ 指標と目標

2021年、当社グループは「2040年カーボンゼロ、2050年カーボンネガティブを目指す」という方針のもと、2030年目標を設定・更新しました。

(省略)

(3)人的資本

「人」は会社にとっての最大の資産です。多様な人財が集い、社員一人ひとりが持つ無限の可能性を引き出し、大きな活力を生み出すとともに、その活力を組織として最大限に活かす人的資本経営を進めています。仕事の達成や社会への貢献を通じて、個人と企業がともに成長する環境と風土づくりを推進しています。

① ガバナンス

人財戦略に関しては、取締役会における経営視点での方針の議論を経て、経営トップを委員とする「人財企画委員会」にて具体的な課題や施策(重要な組織の新設・改編、主要ポジションの任免、人員・人件費に関する計画や重要な人事施策の新設・改廃等)に関する検討と決裁、進捗状況の共有を行っています。

また活動をグループ全体で推進するために、グローバル共通の仕組みを導入し、活用しています。たとえば、グローバル人財情報システムによる人財情報の活用、グローバル共通のOKR・等級制度・評価制度・教育体系・報酬ポリシーによる人財マネジメント・育成の強化等です。

これらの活動は、人財戦略部門統括を責任者とし、国内外グループ各社の人財開発部門と連携をとりながら進めています。

また、日本においては主要部門に人事機能を設置するとともに、現場の社員一人ひとりの育成とキャリア開発を担当するキャリア・コーディネーターを配置しています。

主要部門及びグループ各社の人財開発責任者による会議を定期的に開催し、花王全体の人財開発の方針、グループ各社の活動状況等について共有・議論しています。

(省略)

② 戦略

「平等から公平へ」、「相対から絶対へ」、「画一・形式から多様・自律へ」という3つの基本方針を掲げ、人財開発活動を進めています。

人財戦略は中期経営計画「K25」の基本構想に基づき、「社員活力の最大化」と「多様な人財の最大活用による組織力の最大化」を二つの柱と定めました。これらを実現する為に、特に以下の3点を重点施策として取り組んでいます。

・挑戦を推奨する組織風土の醸成

・専門性の高い多様な人財の能力発揮

・効率的で柔軟な働き方の実現

(省略)

③ リスク管理

会社の事業活動において、多様な人財が集い、一人ひとりが持てる能力と個性を最大限発揮できることが重要です。人財の流動性が高まる中、採用競争力が低下して計画通りの人財獲得が進まなくなること、社員の離職により組織の総合力が低下することが最大のリスクと考えています。社員に成長の機会を提供し、活躍しやすい環境を整えることで、リスク低減に努めています。

④ 指標と目標

(省略)

 

2 多様性に関する開示

(1) 開示内容

女性活躍推進法及び育児・介護休業法(女性活躍推進法等)により「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得比率」、「男女間の賃金格差」の公表を行わなければならない会社に該当する場合は、【従業員の状況】に当該指標を開示する(開示府令 第二号様式(記載上の注意)(29))。ポイントは、女性活躍推進法及び育児・介護休業法により開示が求められるかどうかを、連結グループ内の各社ごとに判定し、開示が求められる会社は、連結グループ内の財務的重要性に限らず開示が必須ということである。

(注) 女性活躍推進法は、2022年7月8日の施行後に最初に終了する事業年度から一定の指標の公表が義務付けられている。一方。育児・介護休業法は、2023年4月1日から指標の公表が義務付けられる。詳細は、以下のとおりである。

女性活躍推進法、育児・介護休業法により、以下の多様性の指標について、ホームページ等での開示が求められている。

① 女性活躍推進法

女性活躍促進法は、既に適用されている。労働者301人以上の事業者は、(ⅰ)「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」8項目(下記(ⅰ)①から⑧)から1項目を選択し、また、(ⅱ)「職業生活と家庭生活との両立」7項目(下記(ⅱ)①から⑦)から1項目を選択し、選択したそれぞれを公表する義務がある。また、これに加えて、労働者301人以上の事業者は、男女間の賃金格差(下記(ⅰ)⑨)について、2022年7月8日の施行後に最初に終了する事業年度から実績を公表する義務がある。

なお、労働者101人以上300人以下の事業主は、上記(ⅰ)の9項目、(ⅱ)の7項目の合計16項目から任意の1項目以上の公表が義務付けられている。

〈育児・介護休業法〉

育児・介護休業法では、2023年4月1日から、労働者1,001人以上の事業主は公表日の属する事業年度の直前の事業年度の男性労働者の育児休業等の取得状況の公表が義務付けられている。

(2) 開示にあたっての留意事項

開示にあたっての留意事項として、以下が挙げられる。

投資者の理解が容易となるように、任意の追加的な情報(賃金格差の背景、指標の算定基準日や算定対象期間等)を追記できる(開示ガ5-16-3、コメント対応No.11)。

提出会社やその連結子会社が、女性活躍推進法等により当事業年度における女性管理職比率等の公表を行わなければならない会社に該当する場合は、当該公表が行われる前であっても、有価証券報告書において開示が必要である(コメント対応No.7-10)。

女性活躍推進法等により女性管理職比率等の公表を行わなければならない連結子会社は、重要性に関係なく、有価証券報告書において記載する(コメント対応No.21)。

「従業員の状況」には、企業の判断により、主要な連結子会社のみに係る指標を認識しそれ以外の連結子会社に係る指標については、「第二部 企業情報」の「第7 提出会社の参考情報」の「2 その他の参考情報」に記載することができる。この場合、その箇所を参照する旨を記載する(開示府令 第二号様式(記載上の注意)(29)(g)コメント対応No.51-55)。

女性管理職比率、男性育児休業取得率及び男女賃金差異を記載する場合、女性活躍推進法等に基づき公表済みの最新の情報をそのまま記載すれば足りる。当該情報の基準日に関しては、有価証券報告書提出日時点の最近日や直近事業年度の末日である必要はない。ただし、投資者に理解しやすいよう、企業の判断により、女性管理職比率等の数値の基準日や対象期間を記載することも考えられる(コメント対応No.11)。

女性活躍推進法等による公表義務の対象となる連結子会社のうち、有価証券報告書の提出日までに女性活躍推進法等による公表が行われず、後日公表予定である会社がある場合や、提出会社において連結子会社の公表した情報の集約が困難である場合には、その旨と提出日までに記載可能な情報を記載した上で、後日、未記載分を補うために有価証券報告書の訂正を行うことが考えられる。なお、開示府令の適用初年度の翌年度以降は、投資家へわかりやすく情報提供する観点から、有価証券報告書の提出時に連結子会社分もまとめて開示することが望ましい(コメント対応No.12)。

提出会社が純粋持株会社等のように従業員が少ないため女性活躍推進法等の対象とならず開示をしていない場合であっても、連結子会社の一部が開示対象となる場合、提出会社の有価証券報告には、開示対象となった連結子会社の指標を開示する(コメント対応No.20)。

海外子会社は、女性活躍推進法等の公表義務の対象ではないため、開示は不要である(コメント対応No.26)。

「従業員の状況」には、企業の判断により、主要な連結子会社のみに係る女性管理職比率等を記載し、それ以外の連結子会社に係る女性管理職比率等は有価証券報告書等の「その他の参考情報」に記載することが可能である(コメント対応No.51-55)。

女性管理職比率、男性の育児休業取得比率、男女間の賃金格差について、算定の根拠となる法令を記載することが考えられる。

(3) 事例

株式会社花王の有価証券報告書(2022年12月31日)の「第1【企業の概況】」の「5【従業員の状況】」では、以下のように開示されている。なお、下記の「②連結会社の状況」の記載は、任意で記載している項目である。

(4)多様性に関する指標

当連結会計年度の多様性に関する指標は、以下のとおりであります。

①女性活躍推進法、育児・介護休業法に基づく開示

(注)1.従業員は、正規雇用の従業員及びフルタイムの無期化した非正規雇用の従業員を含んでおります。

2.臨時雇用者は、パートタイマー及び有期の嘱託契約の従業員を含み、派遣社員を除いております。

3.全従業員は、従業員と臨時雇用者を含んでおります。

4.管理職に占める女性従業員の割合については、出向者を出向元の従業員として集計しております。

5.男性の育児休職取得率については、育児・介護休業法に基づき算出しており、出向者は出向元の従業員として集計しております。

6.「*」は男性の育児休職取得の対象となる従業員が無いことを示しております。

7.男女の賃金格差については、男性の賃金に対する女性の賃金の割合を示しております。なお、同一労働の賃金に差はなく、等級別人数構成の差によるものであります。出向者は、出向先の従業員として集計しております。

②連結会社の状況

(注)1.正規雇用の従業員及びフルタイムの無期化した非正規雇用の従業員を含めて算出しております。

2.管理職に占める女性従業員の割合については、出向者を出向先の従業員として集計しております。

3.男性の育児休職取得率については、育児・介護休業法に基づき算出しており、出向者は出向先の従業員として集計しております。

4.「*」は海外関係会社の男性の育児休職取得率の集計を実施していないため、記載を省略していることを示しております。

5.男女の賃金格差については、男性の賃金に対する女性の賃金の割合を示しております。なお、同一労働の賃金に差はなく、等級別人数構成の差によるものであります。賃金は、基本給及び賞与等のインセンティブを含んでおります。出向者は、出向先の従業員として集計しております。

(了)

有価証券報告書における

サステナビリティ開示直前確認

 

史彩監査法人 パートナー
公認会計士 西田 友洋

 

金融庁は、2023年1月31日に「「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について」を公表し、以下の改正等を行っている。当該改正により、原則、2023年3月31日以後終了する事業年度の有価証券報告書からサステナビリティ開示が必要となり、各社、有価証券報告書の作成に今までよりも多くの時間を要することが考えられる。そこで今回は、サステナビリティ開示におけるポイントを解説する。

適用時期は、以下のとおりである。

〔原則〕

2023年3月31日以後終了する事業年度の有価証券報告書から適用

〔早期適用〕

施行日(2023年1月31日)以後提出する事業年度の有価証券報告書から適用も可

なお、株式会社花王及び株式会社リンクアンドモチベーションが2022年12月31日の有価証券報告書において、早期適用している。

【改正のイメージ図】

 

1 サステナビリティ全般に関する事項(人的資本を含む)の開示

(1) 開示内容

「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示内容は、以下のとおりである(開示府令 第二号様式(記載上の注意)(30-2)、第三号様式)。

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

史彩監査法人 パートナー
公認会計士

2007年10月に準大手監査法人に入所。2019年8月にRSM清和監査法人に入所。2022年2月に史彩監査法人に入所。
主に法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。また、会社買収に当たっての財務デューデリジェンス、IPOを目指す会社への内部統制コンサル及び短期調査、収益認識コンサル実績もある。
他に、決算留意事項セミナーや収益認識セミナー等の講師実績もある。

【日本公認会計士協会委員】
監査・保証基準委員会 委員(現任)
監査・保証基準委員会 起草委員会 起草委員(現任)
中小事務所等施策調査会 「監査専門委員会」専門委員(現任)
品質管理基準委員会 起草委員会 起草委員
中小事務所等施策調査会 「SME・SMP対応専門委員会」専門委員
監査基準委員会「監査基準委員会作業部会」部会員

【書籍】
「図解と設例で学ぶ これならわかる連結会計」(共著/日本実業出版社)等

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