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《速報解説》 社会保障国民会議が「給付付き税額控除」等に関する「中間とりまとめ」を公表~令和11年度の「所得に連動したきめ細かな給付」導入方針は維持、飲食料品に係る消費税率引下げ等の経過措置(つなぎ)は意見の一致に至らず~
《速報解説》 社会保障国民会議が「給付付き税額控除」等に関する 「中間とりまとめ」を公表 ~令和11年度の「所得に連動したきめ細かな給付」導入方針は維持、 飲食料品に係る消費税率引下げ等の経過措置(つなぎ)は意見の一致に至らず~ Profession Journal編集部 令和8年7月29日(水)、「社会保障国民会議(第2回)」が開催され、「給付付き税額控除」等に関する「中間とりまとめ」が取りまとめられ、内閣官房ホームページにおいて公表された。 本とりまとめは、「社会保障国民会議 給付付き税額控除等に関する実務者会議(第16回)」(令和8年6月24日開催)において示された「中間とりまとめ(案)」(以下「6月案」という)について、その後の実務者会議(第17回~第22回)等における検討を経て取りまとめられたものである。 「所得に連動したきめ細かな給付」を令和11年度に本格導入し、そのために必要な法制上の措置を可及的速やかに講ずるとの方針や、制度の基本的設計(個人単位・単身者も対象、勤労性の所得と一定の税・社会保険料負担がある者を対象、給付額の逓増→定額→逓減・消失、18歳以下のこどもの人数に応じた加算等)は6月案から維持されている一方、経過措置(つなぎ)及び財源の記載には大きな変更が加えられている。 以下では、6月案からの主な変更点を中心に概観する(6月案の内容は下記【関連記事】参照)。 1 6月案からの主な変更点 項目 6月案 中間取りまとめ 経過措置(つなぎ) 飲食料品に係る消費税率の引下げと「所得に連動したきめ細かな給付」の先行導入を組み合わせることが適当とのとりまとめに向けた意見があった 同組合せは「適当との議長案の提示があった」とした上で、議長案に対する各意見を併記し、「具体案について意見の一致には至らなかった」と明記 財源 「P」(記載未定) 項目を新設(下記3参照) 「年収の壁」への加算 「いわゆる年収の壁を超えた方向けに一定の給付額を上乗せする」 第3号被保険者制度の見直しや被用者保険の適用拡大の更なる加速により「年収の壁」が解消するまでの「時限的な措置」として、「年収の壁」に配慮した一定の加算を行う位置づけに変更 勤労性の所得の基準に係る意見 有識者会議の意見として、所得約 32 万円超(給与収入約 106 万円超)、給与所得 0 円超(給与収入 74 万円超)を注記 実務者会議の意見として、雇用保険の適用ラインを超えることとなる水準(給与収入約 53 万円超)を追加。あわせて各水準の換算根拠(令和 7 年度の最低賃金最低額×適用労働時間)を注記 検討期限の明記 明示なし 就労していない高齢者などへの対応、第3号被保険者制度の見直し・被用者保険の適用拡大の更なる加速について「次期年金法改正が予定されている令和 12 年までに結論を得る」と明記 2 経過措置(つなぎ):具体案は意見の一致に至らず 6月案では、令和11年度の本格導入までの2年間に限った経過措置(つなぎ)として、下記の組み合わせが「適当とのとりまとめに向けた意見があった」とされていた。 これに対し中間とりまとめでは、この組合せを「議長案の提示があった」ものと位置づけた上で、議長案に対する実務者会議における意見が併記された。 具体的には、以下の意見等がそれぞれ示されている。 その上で、経過措置(つなぎ)については、「現下の物価高や税・社会保険料負担に苦しむ中低所得者への対応の必要性が共有され、意見の集約に向けた議論が積み重ねられたが、具体案について意見の一致には至らなかった」と総括されている。 3 財源(項目の新設) 6月案で「P」とされていた財源については、本格導入分・経過措置(つなぎ)分のいずれも、市場の信認を損なうことのないよう、特例公債に頼らず、補助金・租税特別措置の見直しなど歳出・歳入のあらゆる見直しを通じて確保することとされた。 その上で、本格導入分(恒久財源)は早期に、つなぎ分は令和9年度予算編成プロセスにおいて予算編成改革を具体化する中で、それぞれ結論を得るとしている。 4 制度の基本的設計・執行等に係るその他の修正点 このほか、給付に係る閾値となる所得水準及び給付額について「恒久財源の確保とあわせて検討する」とされた点、給付の対象外で支援が必要な方(低収入の現役世代、病気や障害等で働けない方など)への対応について、給付と相談・就労支援の一体的な実施を含め検討し、可能なものは令和11年度からあわせて実施できるよう本格導入までに結論を得るとされた点が挙げられる。 また、将来的な方向性においては、今回導入を目指す「所得に連動したきめ細かな給付」は本格的な「給付付き税額控除」を導入する「第一歩」であることが冒頭に明記され、税額控除と給付の組合せについても「将来的に給付のみと決め打ちすることなく」検討を継続するとされた。このほか、来年度を目途に「社会保険料還付付き税額控除(所得税・住民税)」を目指すべきとの意見や、総所得に金融所得等を当初から勘案すべきとの意見、こども加算への慎重意見など、各所で実務者会議等における意見の併記が拡充されている。 本とりまとめにおいて、令和9年4月からの飲食料品に係る消費税率の引下げを含む経過措置(つなぎ)の具体案は決着しておらず、今後の政府・与党における方針決定に委ねられた形となる。今後公表される政府・与党の方針及び立法プロセスの動向に留意されたい。 (了)
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谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第59回】「「譲渡所得課税の趣旨」法理の限定的な「復権・本領発揮」」-タキゲン事件・最判令和2年3月24日訟月66巻12号1925頁-
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第59回】 「「譲渡所得課税の趣旨」法理の限定的な「復権・本領発揮」」 -タキゲン事件・最判令和2年3月24日訟月66巻12号1925頁- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 第55回から前回まで4回にわたって判例法理としての「譲渡所得課税の趣旨」法理(学説では増加益清算課税説)に着目し、同法理の枠内における(譲渡所得の本質的意義(理論[包括的所得概念論]的意義)に基づく)譲渡所得課税❶と(譲渡所得の実定法的意義に基づく)譲渡所得課税❷との「競い合い」(「趣旨内競い合い」)の観点から、譲渡所得課税に関する判例を検討してきたが、その検討を通じて、譲渡所得をめぐる課税問題の司法的解決において同法理が基軸に据えられてきたことを確認した(前々回Ⅳ、前回Ⅳ参照)。 同時に、その検討を通じて、「譲渡所得課税の趣旨」法理は、適用場面によって、「趣旨内競い合い」における位置づけないし意味を異にし、同法理の適用の仕方に紆余曲折がみられることも明らかになった。筆者はそのことを、同法理の枠内における「趣旨内競い合い」の観点から、「遅れ挽回」(第55回)、「独走」(第56回)、「『牽引力』の減退と復活・遮断(『どんでん返し』)」(第57回)、「離脱」(第58回)等の言葉で、表現してきた。 ただ、今回取り上げるタキゲン事件・最判令和2年3月24日訟月66巻12号1925頁(以下「令和2年最判」という)は、「譲渡所得課税の趣旨」法理を、これを創設した最判昭和43年10月31日訟月14巻12号1442頁(以下「昭和43年最判」という。第55回参照)と同じく、みなし譲渡課税の場面で適用し、その場面に限って同法理の「復権・本領発揮」を実現したように思われる。 今回は、令和2年最判における「譲渡所得課税の趣旨」法理の「復権・本領発揮」の意味を検討することにする。まず、令和2年最判の判断内容からみておくことにしよう。 なお、令和2年最判については、既に第6回において、租税通達の「解釈」の問題を検討した。今回も、その問題に関する裁判所の判断にも言及はするが、その問題は検討の主たる対象としないことを予めお断りしておく。 Ⅱ 令和2年最判の判断内容 令和2年最判では、個人が法人に対して行った取引相場のない株式の譲渡に係る所得税法59条1項所定の「その時における価額」の意義が争われたが、同最判は、まず、譲渡所得に対する課税について、「譲渡所得課税の趣旨」法理に従って下記のとおり判示した(下線筆者)。 令和2年最判は、このように、「譲渡所得課税の趣旨」法理に従って譲渡所得課税の対象としての「所得」を「資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益」とし、これを「その時点において所有者である譲渡人の下に生じている増加益」として展開した上で、次に、下記のとおり、「譲渡所得課税の趣旨」に照らして所得税法59条1項所定の「その時における価額」の算定(評価)に係る所得税基本通達59-6を「少数株主に該当するか否かについても当該株式を譲渡した株主について判断すべきことをいう趣旨のもの」と解する判断を示した(下線筆者)。 令和2年最判は、結論の点だけでなく以上の判断枠組みの点でも基本的には、原々審・東京地判平成29年8月30日訟月66巻12号1945頁(以下「本件第一審判決」という)と同じであるが、ただ、本件第一審判決は、同最判のように「譲渡所得課税の趣旨」から「その[譲渡所得に対する課税の場面と相続税や贈与税の課税の場面との]差異に応じた取扱い」を導出するにとどまらず、下記のとおり、「譲渡所得課税の趣旨」から通達の文言の「読み替え」まで導出する判断を示している(下線筆者)。 これに対して、令和2年最判の原審・東京高判平成30年7月19日訟月66巻12号1976頁(以下「本件控訴審判決」という)は、租税通達についても「文理解釈」を重視する見地から「通達の文言を殊更に読み替えて異なる内容のものとして適用することは許されない」と判示し、さらに、下記のとおり、「譲渡所得課税の趣旨」から通達の文言の「読み替え」を導出するのは無理がある旨を判示した(下線筆者)。 Ⅲ 「譲渡所得課税の趣旨」法理とみなし譲渡課税 以上でみてきたように、本件第一審判決と本件控訴審判決では通達の文言の「読み替え」の可否が判断の直接的な「分かれ目」であったのに対して、本件控訴審判決と令和2年最判では「譲渡所得課税の趣旨」の捉え方が判断を分けたように思われる(品川芳宣「判批」TKC税研情報29巻3号(2020年)28頁、38頁は本件各判決を「三者三様の判断」と評している)。 本件控訴審判決は、前記の引用判示のとおり、「譲渡所得課税の趣旨」を「上記のように成立した価額[=不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額(時価)]を基準に、所有者の有していた増加益を判断して課税することになる」と捉えていることからすると、この判決の考え方を「譲渡益説に親和的な考え方」(佐藤英明「判批」TKC税研情報29巻4号(2020年)1頁、9頁)と理解する見解は妥当であると考えられる(なお、この見解にいう「譲渡益説」(佐藤英明『スタンダード所得税法〔第4版〕』(弘文堂・2024年)95-96頁参照)は筆者のいう「譲渡益課税説」と同じく一種の純所得課税の考え方(前々回Ⅲ1、拙著『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)【289】参照)であると解される)。 上記の見解は、前記の引用判示中の「譲渡所得課税の趣旨」について、「不特定多数の間で自由な交渉により成立する『時価』を、59条1項の規定する『時価』とした上で、実際にどのような価格による譲渡が成立しうるか、が検討の焦点となっている。」(佐藤・前掲「判批」9頁)と指摘した上で、「砕いて言ってしまえば、少数株主となる者(評価通達によればその場合の1株の価額は75円)が、1株に対して支配的株式(同じく2505円)の値段を払って株式を購入することはあり得ないから、現実に成立しうる価格が時価だ(それは75円と2505円の間のどこか、たとえば、300円かも知れない)という発想だと思われる。」(同頁)と述べている。 このように、本件控訴審判決は、「譲渡所得課税の趣旨」法理の枠内における「趣旨内競い合い」の観点からみると、(譲渡所得の本質的意義(理論[包括的所得概念論]的意義)に基づく)譲渡所得課税❶だけでなく(譲渡所得の実定法的意義に基づく)譲渡所得課税❷をも重視し、とりわけ後者においては「所有者に帰属していた増加益」を「不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額(時価)」によって算定することにしたものと解される。 このような理解によれば、本件控訴審判決が前記の引用判示において「当該株式が分割して譲渡され、譲受人が支配権を有しない少数の株式を保有するにとどまる場合には、当該株式は配当への期待に基づく経済的価値を有するにすぎないものとして評価されることとなるから、その間の自由な取引において成立すると認められる価額は、譲渡人が譲渡前に有していた支配関係によって決定されるのか、譲渡後に譲受人が取得することになった支配関係のどちらかで決定されるのかは一概に決定することはできず、双方の会社支配の程度によって結論を異にする事柄であるというべきである。」という判断を示したことにも理由があるといえるかもしれない。 しかしながら、本件で問題となったみなし譲渡課税の対象となる「居住者」(所税59条1項柱書)は、「譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合」(同)における当該資産の所有者すなわち当該資産の譲渡人を意味するのであるから、「譲渡所得課税の趣旨」法理にいう「所有者に帰属する増加益」は、当該資産の譲渡人に着目して算定すべきことになる。しかも、同法理にいう「所有者に帰属する増加益」は「所有者の意思によらない外部的条件の変化に起因する資産価値の増加」(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)271頁)を意味するところ、当該資産の所有者の人的事情(本件では、非上場株式の所有者が少数株主に該当するか否か)も当該資産にとっては「所有者の意思によらない外部的条件」に属するので、「所有者に帰属する増加益」は、論理的にも、当該資産の譲渡人に着目して算定すべきことになろう。 これらのことを「譲渡所得課税の趣旨」法理の枠内における「趣旨内競い合い」の観点からみると、令和2年最判は、まず、「譲渡所得に対する課税においては、資産の譲渡は課税の機会にすぎ[ない]」として、同法理における譲渡所得課税❷の比重を小さくした上で、「その時点において所有者である譲渡人の下に生じている増加益に対して課税されることとなる」として、譲渡所得課税❶における「所有者である譲渡人」の意義を強調し、もって「その時点において所有者である譲渡人の下に生じている増加益」を、「所有者である譲渡人」の人的事情のうち当該資産の価額に影響を及ぼすべき事情(本件では、非上場株式の譲渡における譲渡人の会社への支配力の程度)を考慮して、算定すべきであると判断したものといえよう。 この点について、令和2年最判に対する次の評価(佐藤・前掲「判批」7頁。下線・傍点筆者)は正鵠を射たものであると考えるところである。 以上のように考えてくると、「譲渡所得課税の趣旨」法理は、その創設以来の紆余曲折を経て(前記Ⅰ参照)、令和2年最判によって「趣旨内競い合い」において「[増加益]清算課税説の中核的な発想」(佐藤・前掲「判批」7頁)に基づく譲渡所得課税❷の軽視及びこれと同時に譲渡所得課税❶の重視という形で、いわば「復権・本領発揮」に至ったといってもよかろう。ただし、同法理の「復権・本領発揮」は、令和2年最判が同法理を、これを創設した昭和43年最判と同じく、みなし譲渡課税の場面で適用したことによるものであって、その場面に限定されたものであるとみておくべきであろう。 みなし譲渡課税は、「譲渡所得課税の趣旨」法理のまさしく「本領発揮」の場面である。すなわち、みなし譲渡課税は、「無償や低額の対価による譲渡にかこつけて資産の譲渡所得課税を回避しようとする傾向を防止する」(昭和43年最判)あるいは「同項[=所税59条1項]各号に掲げる事由により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合に当該資産についてその時点において生じている増加益の全部又は一部に対して課税できなくなる事態を防止する」(令和2年最判)という目的で、収入金額という実体的経済価値を伴わない「資産の譲渡」について収入金額を擬制すること(みなし譲渡課税に係る収入金額擬制説。前掲拙著【285】参照)によって、譲渡所得課税❷における「資産の譲渡」を所得の実現と切り離して単なる「課税の機会」にとどめる措置(令和2年最判参照)であると解されるが、そうであるからこそ、みなし譲渡課税の場面では、「譲渡所得課税の趣旨」法理の「本領」ともいうべき譲渡所得課税❶が前面に出てきて、譲渡所得の課税関係を基礎づけることになると考えられるのである。 令和2年最判については、「本判決は同項[=所税59条1項]による課税が[増加益]清算課税説の、いわば『直接的な適用』によって行なわれることに立脚し、譲渡直前の譲渡人の手中にある株式の時価を基礎として、同項を適用したものである。」(佐藤・前掲「判批」9頁。下線筆者)との理解が示されているが、この理解は、みなし譲渡課税に関する上記の筆者の考え方と基本的に同じ考え方に基づくものであると解される。 なお、最後に、租税通達の「解釈」の問題について若干触れておくと、令和2年最判が、本件第一審判決と本件控訴審判決とで見解の対立のみられた通達の文言の「読み替え」の議論にコミットしなかったのは、妥当である。というのも、そもそも通達は法源ではないため、その文言の「読み替え」に法規範論的意味はなく、しかも財産評価に関する通達は法令解釈通達ではなく事実認定に関する「『適用通達』ないし『認定通達』の性質をもっている」(金子宏『租税法理論の形成と解明 下巻』(有斐閣・2010年)368頁[初出・2000年])一種の取扱通達であることからすると、裁判所としては、財産評価という事実認定に当たり、通達の定める評価方法の取扱いを問題にするだけにとどめるのが相当であると考えられるからである。令和2年最判が「譲渡所得に対する課税の場面においては、相続税や贈与税の課税の場面を前提とする評価通達の前記の定めをそのまま用いることはできず、所得税法の趣旨に則し、その差異に応じた取扱いがされるべきである。」と判示したのは、そのような意味で妥当な判断であると考えられる。 Ⅳ おわりに 今回は、令和2年最判を「譲渡所得課税の趣旨」法理の観点から検討し同最判を、同法理の創設(昭和43年最判)後における同法理をめぐる紆余曲折を経て同法理を「復権・本領発揮」させた判決として、位置づけた。 この点に関して、「本判決[=令和2年最判]を踏まえて支払利子付随費用判決[=最判平成4年7月14日民集46巻5号492頁]以来の3件の最高裁判決[=そのほか最判平成17年2月1日訟月52巻3号1034頁、最判平成18年4月20日訟月53巻9号2692頁]を振り返ると、それらがいずれも、譲渡所得の金額の計算に関する判断であったことが、改めて注目される。」(佐藤・前掲「判批」7頁)などと述べた上で下記のとおり説く見解(同頁。佐藤・前掲書146頁も参照)は、令和2年最判に関する前記の位置づけの基礎にある筆者の認識と基本的に同様の認識に基づくものであると解される。 この見解にいう「[増加益]清算課税説」は筆者のいう「譲渡所得課税の趣旨」法理を意味するものと解され、しかも同見解にいう「譲渡所得の金額の計算に関する領域」は、筆者のいう「譲渡所得課税の趣旨」法理の枠内における譲渡所得課税❷に相当し、「譲渡所得の意義に関わる問題」は同法理の枠内における譲渡所得課税❶に相当すると解されるところ、「譲渡所得の意義に関わる問題」が譲渡所得課税の可否及び範囲に具体的な影響を与える問題として判断されたのは、以下で述べるように、みなし譲渡課税に関する昭和43年最判と令和2年最判だけであると考えられる。 前記の見解で令和2年最判と「対比」されている「3件の最高裁判決」のうち、親子間ゴルフ会員権贈与事件・最判平成17年2月1日訟月52巻3号1034頁(以下「平成17年最判」という)以外の2件の最高裁判決は譲渡所得課税❷における「譲渡所得の金額の計算」に関する判断であったこと(前々回、前回参照)から、その検討は措くことにして、ここでは平成17年最判について検討しておくと、同最判は、みなし譲渡課税規定(所税59条1項)と「いわば『表裏補完』の関係」(谷口勢津夫ほか『基礎から学べる租税法〔第4版〕』(弘文堂・2025年)113頁[谷口執筆])にある取得費等の引継規定(同60条1項)の適用を問題にしていることから、昭和43年最判及び令和2年最判と同列に位置づけることができそうにも思われるが、しかし、下記の判示(下線筆者)からすると、後で述べるように、そのように位置づけることはできないと考えられる。 平成17年最判は、確かに、上記の引用判示のうち特に第2段落では、「譲渡所得課税の趣旨」法理に従い「譲渡所得の意義に関わる問題」(譲渡所得課税❶)について判断を示してはいるが、しかし、第3段落では、「譲渡所得の金額の計算に関する領域」(譲渡所得課税❷)すなわち本件では「法60条1項に基づいてされる譲渡所得の金額の計算」に関して、借入金利子取得費控除[三輪田]事件・最判平成4年7月14日民集46巻5号492頁(第57回)に従い取得費に付随費用を含めた上で、譲渡収入に対する純所得課税の考え方である譲渡益課税説ではなく、「増加益に対する純所得課税」ともいうべき独特の考え方を判示して「譲渡所得課税の趣旨」法理から「離脱」したものと解される。 平成17年最判については、正当にも、「ゴルフ会員権贈与事件の最高裁判決においては、所有者が取得の時に付随費用を支出すると資産の増加益がそれだけ減る、と考えられていることになるが、人が名義書換料のような支出をすることが資産の価値(増加益)そのものに影響を与えるとは考えられない。」(佐藤・前掲書145頁)と指摘して「清算課税説からの一定の乖離」(同頁)を説く見解があるが、その見解も同最判を昭和43年最判及び令和2年最判と同列に位置づけてはいないと考えられるのである。 そうすると、譲渡所得課税に関する従来の判例では、「譲渡所得課税の趣旨」法理の「本領発揮」は、やはり、みなし譲渡課税の場面においてのみ認められることになろう。令和2年最判は、その意味で、「譲渡所得課税の趣旨」法理の「本領発揮」の範囲ないし同法理の本来の射程を明らかにした判決として、意義を有すると考えるところである。 (了)
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〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方 【第48回】「別表6(24) 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(24)付表一 給与等支給額、比較教育訓練費の額及び翌期繰越税額控除限度超過額の計算に関する明細書」~令和8年度税制改正に伴う様式の改定~
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第48回】 「別表6(24) 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(24)付表一 給与等支給額、比較教育訓練費の額及び翌期繰越税額控除限度超過額の計算に関する明細書」 ~令和8年度税制改正に伴う様式の改定~ 税理士 柴田 知央 Ⅰ はじめに 実務でも適用する企業が多いと思われる、いわゆる「賃上げ促進税制」のうち中小企業向けの記載の仕方を取り上げる。 別表番号は、昨年と同様に「6(24)、6(24)付表一」を用いるが、令和8年度税制改正により6(24)の様式が改訂されている。 Ⅱ 制度の概要 本制度は、青色申告書を提出する法人が、令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度において、国内雇用者に対して支給する給与等を増額した場合、一定の要件を満たすときは、その増加額の一部を法人税額から控除することができる制度である(措置法42の12の5)。 令和8年度税制改正では、全法人向け(大企業向け)の規定が、1年前倒しされ、令和8年3月31日をもって廃止された。 一方、中堅企業向けの規定は令和9年3月31日をもって廃止される。 また、中小企業向けの規定は、現状、適用期限である令和9年3月31日までであるが、期限到来時に適用状況を踏まえ必要な見直しが検討される見込みである。 その他、中堅企業向けの規定では適用要件や控除率の見直しが行われ、また、本制度について教育訓練費の増加割合による上乗せ措置が廃止されている。 中小企業者は、第1項も選択することも可能であるが、適用要件や上乗せ措置要件の基準などから選択することは少ないと考えられる。 したがって、第2項について、制度の内容をみていくこととする。 ◆新制度の適用期限 (※1) その企業及びその企業との間にその企業による支配関係がある企業の従業員数の合計が1万人を超えるものを除く。 ◆中堅企業(※2)向けの適用要件と控除率の見直し (※2) 資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上の企業は、マルチステークホルダー方針の公表及びその旨の届出が必要。 ◆中小企業向けの控除率の見直し (1) 適用対象者 中小企業向けの措置の適用対象者は、青色申告書を提出する中小企業者又は農業協同組合等である(措置法42の4④、⑲七、八、九、措置法令27の4⑰)。 中小企業者とは、下記に掲げる法人をいう。 ただし、中小企業者に該当することとなっても、前3事業年度の所得金額の平均額が15億円超である適用除外事業者に該当する場合には、中小企業向けの措置は適用できない。 (2) 適用要件 適用要件は、下記の①及び②の要件である。 雇用者給与等支給額は、適用年度の損金の額に算入される国内雇用者に対する所得税法第28条第1項に規定する給与等の支給額から給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額を除く)を控除した金額をいい、比較雇用者給与等支給額は、前事業年度における雇用者給与等支給額をいう。 (3) 税額控除限度額 税額控除限度額は、下記により計算した金額が法人税額から控除される。ただし、控除額の上限は法人税額の20%相当額となる。 控除対象雇用者給与等支給増加額は、雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を差し引いた金額である。ただし、調整雇用者給与等支給増加額が上限となる。 控除率は通常の控除率15%に加えて、雇用者給与等支給額の増加割合が2.5%以上の場合には15%、くるみん以上又はえるぼし2段階目以上の認定を受けた場合には5%の控除率が上乗せされる。 ◆中小企業向け措置の控除率(令和8年4月1日以後に開始する事業年度) くるみん及びえるぼしは、それぞれ、次世代育成支援対策推進法及び女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づき厚生労働大臣の認定を受けた証である。 詳細は、厚生労働省のウェブサイトを参照いただきたい。 くるみん以上又はえるぼし2段階目以上の認定を受けた場合とは、下記の場合をいう。 プラチナくるみん認定及びプラチナえるぼし認定は、適用年度の期末時点で、特例認定一般事業主に該当すれば上乗せ措置がある。しかしながら、これら以外では、認定を受けた適用年度のみ上乗せ措置がある。 (4) 繰越税額控除制度 中小企業向けの措置として、第2項(改正前:第3項)を適用した中小企業者等がその事業年度において法人税から控除することができなかった未控除額を翌事業年度以降、5年間繰り越すことができる制度が設けられている(措置法42条の12の5③)。 繰越控除を受けようとする事業年度では、雇用者給与等支給額が前事業年度より増加している場合に限り税額控除が適用される。 ◆イメージ図 なお、本制度の詳細は、中小企業庁のウェブサイトの「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック(令和8年5月1日更新版)」を参照いただきたい。 Ⅲ 「別表6(24)」及び「別表6(24)付表一」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 令和8年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 〇適用可否の判定 まず、別表6(24)〔1欄〕から〔3欄〕までに本制度が適用できる法人か否かの判定を行う。 〇適用事業年度の雇用者給与等支給額等の計算 続いて、別表6(24)付表一の〔1欄〕から〔5欄〕で適用事業年度の雇用者給与等支給額等を計算する。 〇比較雇用者給与等支給額等の計算 別表6(24)付表一の〔6欄〕から〔12欄〕で比較雇用者給与等支給額等を計算する。 〇雇用者給与等支給増加割合の計算 別表6(24)に戻り、〔4欄〕から〔7欄〕で雇用者給与等支給増加割合を計算する。 〇調整雇用者給与等支給増加額の計算 別表6(24)〔8欄〕から〔10欄〕で調整雇用者給与等支給増加額を計算する。 〇税額控除限度額の基礎となる差引控除対象雇用者給与等支給増加額を計算 別表6(24)〔20欄〕から〔22欄〕で、税額控除限度額の計算の基礎となる差引控除対象雇用者給与等支給増加額を計算する。 〇中小企業者等税額控除限度額の計算 租税特別措置法第42条の12の5第2項の適用を受ける場合には、別表6(24)〔38欄〕から〔40欄〕で税額控除限度額を計算する。 〇当期税額控除額の計算 別表6(24)〔41欄〕から〔45欄〕で、当期による分の税額控除額を計算する。 〇前期繰越分による繰越税額控除額を計算 〔46欄〕から〔50欄〕までは、前期から繰り越された繰越税額控除限度超過額を当期に控除するときに使用する。 〇法人税額の特別控除額を計算 〇翌期繰越税額控除限度超過額の計算 別表6(24)付表一の〔25欄〕から〔27欄〕で、翌期に繰り越す税額控除限度超過額を計算する。 〇適用額明細書の記載 本措置を適用した場合の適用額明細書への記載は次のとおりである。 当期分と前期繰越分では条項が異なるため分けて記載する。 《当期分の控除額》 《前期繰越分を当期に控除した額》 (了)
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[令和8年度税制改正解説]関連者間取引に係る書類の整理保存の特例創設の影響と実務対応 【後編】「改正による影響と実務上の留意点」
←(前編) 【後編】では、【前編】に引き続き関連者間取引に係る書類の整理保存の特例措置の具体的内容を確認した上で、改正による影響及び実務上の留意点について確認する。 3 関連者間取引に係る書類の整理保存の特例措置(承前) (7) 関連者間取引及び記載事項 関連者間取引とは、次の取引(販売費、一般管理費その他の費用の額の基因となるものに限る)をいい、次の記載事項が必要となる(法規59の2①)。 関連者間取引 記載事項 その関連者が対象法人に対して行う工業所有権等(工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの、著作権、プログラム)の譲渡又は貸付け(工業所有権等に係る権利の設定等その関連者がその内国法人に工業所有権等を使用させる行為を含む) その譲渡又は貸付けに係る工業所有権等の明細、対象法人において果たす機能、対価の額の明細及びその対価の額の設定方法 関連者が対象法人に対して行う役務の提供 ① 次のいずれかの事業活動で、その事業活動に要する費用の全部又は一部を対象法人が負担することを定めている契約又は協定に基づき行うもの イ 関連者が有する産業、商業又は学術に関する知識経験等その関連者が有する経営資源を活用して行われる研究開発、広告宣伝等の事業活動 ロ 専用資産(専ら対象法人及び関連者の事業の用に供することを目的とする資産をいう)をその内国法人に使用させる行為並びにその専用資産の維持及び管理 その契約又は協定に基づいて行ったその事業活動の内容及びその契約又は協定に基づき対象法人が負担することとなる費用の額の計算方法 ② 関連者が対象法人に対して行う経営の管理又は指導、情報の提供等の役務の提供でその関連者が有する産業、商業又は学術に関する知識経験に基づき行うもの その役務の提供の明細及び内容並びにその役務の提供に係る対価の額の明細及び計算の方法 ③ 上記①及び②の役務の提供に類するもの その役務の提供の明細及び内容並びにその役務の提供に係る対価の額の明細及び計算の方法 (8) みなし関連者間取引 関連者が非関連者に対して行う譲渡等取引(工業所有権等の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供)につき、その工業所有権等又は役務があらかじめ契約等によって対象法人に移転・提供することが決まっており、かつ、その対価が対象法人と関連者との間で実質的に決定されていると認められるときは、対象法人と非関連者との取引であっても関連者間取引とみなされる(法規59の2⑦)。 (9) 記載事項の取得及び書類作成が必要となる場合 関連者間取引に関して受領し、若しくは交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類(自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写しを、これらの書類の作成に代えて電磁的記録が作成されている場合にはその電磁的記録を含む)で、法令の規定により保存義務がある書類に上記事項の記載がないときは、その関連者間取引を行った事業年度の確定申告書提出期限までに、未記載事項(特定事項)を明らかにする書類(特定事項記載書類)の取得又は作成しなければならない。なお、特定事項記載書類は、起算日(書類の作成又は受領日の属する事業年度終了の日の翌日から2ヶ月を経過した日)から7年間保存が必要とされる(法規59の2①)。 4 改正による影響 改正により、関連者間取引の棚卸しを行い、対象となる役務提供や無形資産取引を洗い出した上で、契約書や請求書などの既存資料に、譲渡等の内容、役務内容や対価算定方法などの記載事項が十分でない場合には、それを補完する特定事項記載書類を別途作成・保存しなければならない。本改正の影響は大企業にとどまらず、中小企業にも及ぶ点に留意が必要である。 仮に書類が保存されていない場合は、青色申告の承認の取消事由となり得るため、実際に承認が取り消された場合、欠損金の繰越控除・繰戻還付、各種税額控除や特別償却といった優遇措置が適用できなくなる。 さらに、白色申告法人となった場合には、推計課税の対象となり得るため、税務調査時に課税標準等を推計されて更正等の処分を受けるリスクがある点にも留意が必要である。 5 実務上の留意点 実務上まず気を付ける点は、関連者の範囲の広さである。形式的な資本関係だけでなく実質支配関係も確認する必要があり、かつ、移転価格税制と異なり外国法人に限定されないため、関連者には内国法人も含まれることとなる。 次に注意すべき点は、契約書が存在することだけでなく、税務上、必要な記載事項があるかという点である。特に中小企業では、簡易な契約書で運用しているケースが非常に多く見られ、実際にどのような役務が提供され、その対価がどのような根拠・計算方法で決定されたのかまで明記しているケースは稀であるため、契約書の文言整備だけではなく、周辺資料も含めて保存体制を整える必要がある。 実務対応としては、単年度の対応ではなく、関連者間取引ポリシーをグループ全体で整備することが重要である。どのような取引について契約書を作成するのか、どの資料を保存するのか、対価をどのように決定するのか、誰がそれを確認するのかを明文化し、継続的に運用する必要がある。 (連載了)
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グループ企業の税務Q&A 【第7回】「通算グループ外の法人との分割が行われた場合」
グループ企業の税務Q&A 第 7 回 通算グループ外の法人との分割が行われた場合 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター/税理士 川瀬 裕太 ◆ ◆ ◆〈解説〉◆ ◆ ◆ 1 共同事業を行うための適格分割の要件 資本関係がない法人と分割する場合、下記の共同事業を行うための適格分割の要件を満たす必要があります(法法2十二の十一、法令4の3⑧)。 (1) 金銭等不交付要件 金銭等不交付要件とは、分割法人の株主に分割承継法人株式以外の資産が交付されないことをいいます。 (2) 従業者引継要件 従業者引継要件とは、分割直前の分割事業の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が分割の後に分割承継法人の業務に従事することが見込まれていることをいいます。 (3) 事業継続要件 事業継続要件とは、分割事業が分割の後に分割承継法人において引き続き行われることが見込まれていることをいいます。 (4) 主要資産負債引継要件 主要資産負債引継要件とは、分割により分割事業に係る主要な資産及び負債が分割承継法人に移転していることをいいます。 (5) 事業関連性要件 事業関連性要件とは、分割事業と分割承継法人の分割前に行ういずれかの事業とが相互に関連するものであることをいいます。 (6) 事業規模要件又は経営参画要件 事業規模要件とは、事業関連性要件を満たす対象事業それぞれの売上金額、従業者の数、若しくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないことをいいます。 経営参画要件とは、分割前の分割法人の役員等のいずれかと分割承継法人の特定役員のいずれかとが、分割後に分割承継法人の特定役員となることが見込まれていることをいいます。 (7) 株式継続保有要件 株式継続保有要件は、分割により交付される分割承継法人株式の全部が分割法人により継続して保有されることが見込まれていることをいいます。 2 分割承継法人の繰越欠損金の使用制限 (1) 法人税の繰越欠損金 完全支配関係又は支配関係がある適格分割のうち、次のいずれにも該当しない適格分割については、分割承継法人の未処理欠損金額の使用が制限されます(法法57④、法令112⑨⑩)。 (※) 欠損金利用を目的に法人を設立する等一定の場合が除かれています(法令112④⑨)。 したがって、共同事業を行うための適格分割については、分割承継法人の未処理欠損金額の使用が制限されません。 (2) 住民税の繰越欠損金(控除対象通算適用前欠損調整額、控除対象通算対象所得調整額、控除対象配賦欠損調整額) 分割承継法人の未処理欠損金額の使用を制限する規定はありません。 (3) 事業税の繰越欠損金 完全支配関係又は支配関係がある適格分割のうち、次のいずれにも該当しない適格分割については、分割承継法人の未処理欠損金額の使用が制限されます(法法57④、法令112⑨⑩、地令20の3)。 (※) 欠損金利用を目的に法人を設立する等一定の場合が除かれています(法令112④⑨)。 したがって、共同事業を行うための適格分割については、分割承継法人の未処理欠損金額の使用が制限されません。 3 適格分社型分割を行った場合の分割法人の取扱い (1) 資産負債の譲渡 適格分社型分割があった場合の分割法人から分割承継法人への資産・負債の移転は、分割直前の帳簿価額による譲渡とされ、分割法人において譲渡損益は生じないこととされています(法法62の3①)。 (2) 分割承継法人株式の取得価額 適格分社型分割により、分割法人が取得する分割承継法人株式の取得価額は、分割直前の移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算した金額に付随費用を加算した金額とされています(法令119①七)。 4 本件へのあてはめ 資本関係がない通算グループ外の法人A社を分割法人、P社を分割承継法人とする適格分社型分割を行う予定とあり、本件分割は、共同事業を行うための適格分割の要件を満たす必要があります。 完全支配関係又は支配関係がある適格分割のうち、一定のものについては、分割承継法人の法人税及び事業税の未処理欠損金額の使用が制限されていますが、本件分割は、共同事業を行うための適格分割に該当し、分割承継法人P社の法人税及び事業税の未処理欠損金額の使用が制限されません。 なお、分割承継法人P社の住民税の未処理欠損金額の使用を制限する規定はありません。 適格分社型分割があった場合の分割法人A社から分割承継法人P社への資産・負債の移転は、分割直前の帳簿価額による譲渡をしたものとされるため、A社において譲渡損益は生じません。また、適格分社型分割により、A社が取得するP社株式(分割承継法人株式)の取得価額は、分割直前の移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算した金額に付随費用を加算した金額となります。 (了)
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令和8年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第5回】
令和8年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第5回】 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 3 別表添付要件 (1) 一般試験研究費に係る税額控除制度(一般型) 他の通算法人に試験研究費の額又は調整前法人税額がある場合に、その通算法人が一般試験研究費に係る税額控除の適用を受けるためには、自社のみならず(注1)、これらの他の通算法人の全てについて、その通算事業年度の確定申告書等(注2)に税額控除可能額及び税額控除可能分配額並びにこれらの金額の計算に関する明細を記載した書類(別表)を添付する必要がある(措法42の4⑨㉑)。 (注1) 自社は、税額控除可能額及び税額控除可能分配額並びにこれらの金額の計算に関する明細を記載した書類以外にも、通常の添付書類(控除の対象となる控除対象試験研究費の額、試験研究費の額、控除を受ける金額及びその金額の計算に関する明細を記載した書類)の添付も必要になります(措法42の4⑨㉑)。 (注2) ここでいう確定申告書等とは確定申告書及び仮決算をした場合の中間申告書をいう(措法2②二十八)。 つまり、通算法人の税額控除限度額の計算に用いる試験研究費の額及び調整前法人税額を有する他の通算法人のいずれかが当初申告において別表の添付がない場合には、自己の当初申告において別表の添付があった場合でも、その通算法人で試験研究費の税額控除の適用はできない(通算グループ全体の当初申告要件)。 また、この場合において、控除される金額の計算の基礎となる控除対象試験研究費の額は、その適用対象事業年度の確定申告書等に添付された別表に記載された控除対象試験研究費の額が限度となる(措法42の4⑨)。 (2) 中小企業者の試験研究費に係る税額控除制度(中小企業技術基盤強化税制) 上記(1)と同様となる(措法42の4⑨㉑。繰越控除制度については、下記(4)を参照)。 (3) 特別試験研究費に係る税額控除制度(オープンイノベーション型) 上記(1)と同様となる(措法42の4の2②④、42の4⑨)。 (4) 中小企業者の試験研究費に係る繰越税額控除制度(中小企業技術基盤強化税制の繰越控除制度) 他の通算法人に通算繰越控除限度超過帰属額がある場合に、その通算法人が中小企業者の試験研究費に係る繰越税額控除の適用を受けるためには、自社のみならず、これらの他の通算法人の全てについて、それぞれ通算繰越控除限度超過帰属額が生じた事業年度以後の各事業年度の確定申告書(注1)に通算繰越控除限度超過帰属額の明細書(別表)を添付する必要がある(措法42の4⑩㉒)。 (注1) ここでいう確定申告書とは確定申告書(期限後申告書を含む)をいう(法法2三十一)。 また、繰越控除の適用を受けようとする事業年度(繰越適用対象事業年度)の確定申告書等(注2)に控除の対象となる繰越税額控除限度超過額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細を記載した書類(別表)並びに通算繰越控除限度超過額及び通算繰越控除限度超過帰属額並びにこれらの金額の計算に関する明細を記載した書類(別表)を添付する必要がある(措法42の4⑩㉒)。 (注2) ここでいう確定申告書等とは確定申告書及び仮決算をした場合の中間申告書をいう(措法2②二十八)。 4 計算例 各通算法人の試験研究費に係る税額控除額の計算例は次のとおりとなる。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (続く)
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〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第101回】「税務行政執行共助条約に基づく徴収・保全共助事件―外国法による第二次納税義務者の法的地位―(地判令4.11.30、高判令5.7.19)(その2)」~税務行政執行共助条約12条、17条、23条2項、28条6項、28条7項、租税条約等実施特例法11条2項、11条3項、11条13項~
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第101回】 「税務行政執行共助条約に基づく徴収・保全共助事件―外国法による第二次納税義務者の法的地位―(地判令4.11.30、高判令5.7.19)(その2)」 ~税務行政執行共助条約12条、17条、23条2項、28条6項、28条7項、租税条約等実施特例法11条2項、11条3項、11条13項~ 滋賀大学准教授・税理士 金山 知明 5 検討 判示事項のうち、《争点5》に関する部分は、文書送達に関する国内法上の手続規定の解釈として重要性を有すると思われるが、紙幅の都合上本稿では扱わず、ここでは《争点1》から《争点4》の判示に対して、若干の検討を加えた上で、本件から認識し得る徴収共助上の問題点を指摘する。 (1) 訴えの利益 税務執行共助の枠組みのうち、国家間の税務情報交換については、調査対象納税者に対して直接の不利益を及ぼすわけではないため、処分性がないものとして取消訴訟の要件を欠くとする裁判例(※13)がある。 (※13) 東京高裁平成29年10月26日判決(税務訴訟資料第267号-134順号13083)。 しかし、同じ税務執行共助の分野でも、本件のような徴収・保全共助については、共助対象となる市民に対する告知処分や滞納処分が生じることから、明確な処分性を有するといえる。このため本件では処分性の有無自体が争点となることはなかったが、Yは既に保全措置が完了したことをもって、これを争う法律上の利益が消滅したと主張している。 しかし、たとえ保全差押えや取立てが完了していたとしても、仮にそのような行為が共助条約上認められる範囲を超えて行われたと納税者が考える場合には、その行為に対して司法的救済を求め得ることは当然である(※14)。 (※14) ただし、Cの租税ほ脱に係る刑事裁判は韓国ですでに確定していることなどから、訴えの利益を与える実益は少ないとの見解もある(青山慶二「判批」『TKC 税研情報』2024年4月号47頁)。 現に、共助条約21条1項は、共助条約の規定は、共助対象者が自国内で有する権利及び保護に影響を与えない旨規定したうえで、同条2項には、被要請国又は要請国の法令又は行政上の慣行に抵触する措置をとることや、要請国が自国内で全ての手段を尽くしていない場合に共助を行うことなどを、被要請国側は義務づけられないことなど(支援義務の制限)が定められる。 上記21条2項にいう被要請国の支援義務の制限は、規定の文言上は被要請国の当局に支援拒否の権利を与えるものに過ぎないようにもみえる。しかし、OECDによる共助条約21条の注釈では、2項の規定は共助対象となる納税者を保護する目的を有することが明言されている(※15)。 (※15) OECD・前掲(※6)para. 182. また、共助条約23条1項は、条約に基づき被要請国がとった措置についての争訟の手続は、被要請国の関係機関にのみ提起すると定め、OECDの注釈では、少なくとも被要請国における執行措置に対する争訟を、被要請国の司法機関に提起する権利を共助対象者に認める趣旨が説明されている(※16)。 (※16) OECD・前掲(※6)para. 229. さらに、実特法11条1項では、徴収対象者が要請国において納税義務の存否等を争う機会を与えられていない場合、及び共助の実行が日本の利益を害することとなるおそれがある場合などに徴収共助を決定しない旨が定められている。 これは、日本における徴収権限自体が私人の権利に影響を及ぼすものであることから、そのような権限行使は、相互主義のもとで、日本からの共助要請に外国が応じる義務がある限りにおいて国内でも許容されるとの考えに基づくものと説明されている(※17)。 (※17) 大蔵財務協会『平成24年度改正税法のすべて』(2012)513頁。 このように共助対象者の権利保護の観点からは、共助条約21条2項による共助の制限事由や、実特法11条1項の徴収共助拒否事由充足の有無について、共助対象者は訴訟において争うことができると考えるべきであり、本件でXに訴えの利益が残されていることを認めた《争点1》に関する判示は正当であるといえる。 (2) 共助対象租税債権の適格性と存否 まず、《争点2》で検討された要訴追故意事案への該当性については、OECDによる注釈の文言からも、すでに有罪の確定判決を受けた事案につき、要訴追故意事案から除外するという解釈は導くことができない(※18)。したがって、有罪確定後の案件であっても、共助条約28条7項の要訴追故意事案から除外されないという点において判決は妥当であろう。 (※18) OECD・前掲(※6)para. 279. 《争点3》について、地裁が判示するように、外国租税の成立要件は、当該外国における問題であり、他国がその成立の可否に関与することはできないとの前提がある(※19)。たとえば韓国で課された租税が適法なものかどうかを、日本の裁判所が審理することはできないと解される。このことは、共助条約23条2項において明確化されており、国内法である実特法11条13項にも規定されている。 (※19) 金丸和弘・酒井真「国際課税執行上の諸問題―徴収共助と送達共助―」金子宏監修『現代租税法講座第4巻 国際課税』(日本評論社・2017)373頁。 これについて、租税法律主義の観点からは、日本が共助条約に署名する前の時点で、すでに徴収共助の枠組みに内在する問題が指摘されている。徴収共助の場面において、日本の裁判所が外国法によりなされた課税処分の成否を審理することができないとすれば、外国において正当な法規定により課税されたか否かが不明確であっても、被要請国としての日本は徴収共助に応じるべきこととなるからである(※20)。 (※20) 石黒一憲「国際倒産と組成―国際的な税の徴収共助制度との関係において―」ジュリスト981号(1991)81頁は、条約に基づく徴収共助において、私人を国家の恣意的課税から守るための租税法律主義がどこまで譲歩を強いられるべきかにつき、十分な検討がなされていないと説く。 この指摘は正当であると思われるが、国家間で租税実体法が異なる状況下で、相手国の国内法により課された租税を、相手国に代わって徴収するという共助条約の目的上、根本的には解消することはできない問題であろう。ただ、被要請国には、共助条約21条2項eに基づき、一般的に認められている課税の原則等に反すると認める租税の徴収共助を拒む権限が与えられており、これにより最小限の対処はなされているともいえる。 また、納税者は通常、外国の租税成立につき自国の裁判所で争うことができないとしても、課税を受けた当事者であれば、少なくとも課税をした国の裁判所でその成否を争う権利を与えられているはずである。実特法においても、徴収共助の対象とするための条件として、納税者がその課税の当事国において争う機会を与えられていることを必要とする(11条1項)。 課税処分の実体的適法性については、その実体法を有する当事国で審理を行うことが自然であり、本件においても日本の裁判所においてCの韓国における納税義務の成否を争うことができないと判示されたことに無理はない。ただし、本件における保全共助の対象者は、韓国で課税処分を受けた主たる納税義務者Cではなく、その韓国法における第二次納税義務者Xである、という事実を考慮すれば追加的な検討が必要である。この観点から、第二次納税義務と徴収・保全共助との関係に関し、次節において若干の考察を試みる。 ところで、本件では《争点3》に関連して保全措置が決定された時点で、有罪とされたほ脱に係る韓国の租税をCがすでに納付していた旨、Xは主張している。仮にこれが事実であれば、訴追の原因となったほ脱租税は保全措置決定の時点で存在しておらず、共助対象とすることができないという解釈の方が妥当であると考えられる。 この点につき地裁は《争点4》に関する判示において、当局の追加的な情報交換義務を否定し、また高裁はCが滞納租税を納付済みか否かは要訴追故意事案該当性の判断に影響しないと述べる。現行の共助条約上、たしかに共助要請に係る事実関係に疑義がある場合の当局間の明確な情報交換規定は存在せず、被要請国である日本側から情報要請をしなければならなかったという解釈は導かれない(※21)。 (※21) 高浜智輝「税務行政執行共助条約における徴収及び保全共助について」税大ジャーナル(2025.1)23頁。 ただし、本来、要請国において滞納租税が消滅しているか否かは共助要請の上で極めて重要な情報であるため、少なくとも要請国である韓国は、Cからの納付状況についての情報を提供すべきであり、日本当局においても、仮に保全要請を受けた時点で共助対象租税債権の存否につき疑義がある場合は、それを要請国に照会すべきであるといえるだろう。 (3) 第二次納税義務と徴収・保全共助 日本法において、第二次納税義務には、「附従性」と「補充性」が認められるとされる(※22)。すなわち、主たる課税処分が無効となる場合や、本来の納税義務者が滞納税額を納付した場合には、これに伴って第二次納税義務も消滅し、主たる納税義務者から徴収できないと見込まれる金額を限度に第二次納税義務が認められる。これは適法な課税処分により生じた滞納税額を本来の納税義務者から徴収できない場合の代替的な納税義務という性質から当然のことといえる。このとき、主たる課税処分が日本国内で行われたものであれば、その滞納や納付の状況は容易に確認できるため、第二次納税義務の存否は常に明確であり、附従性と補充性は確保されると考えられる。 (※22) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021)169-170頁。 しかし、国家間の徴収共助の分野において、本件のように主たる課税処分を行った国と、第二次納税義務者の居住国(又は財産の所在国)が異なる場合、主たる課税処分による租税債権の回収状況を確認できないままに、第二次納税義務者に係る徴収共助要請受諾と滞納処分がなされる可能性がある。また、この場合の第二次納税義務自体が、外国法により指定されるものだとすれば、日本法による規律が及ばないため、第二次納税義務者は不安定な立場におかれる結果となる。 現に、第二次納税義務者に対する徴収手続規定は実特法11条4項による国税徴収法の準用範囲に含まれないため、本件のように他国における第二次納税義務に基づき徴収や保全共助の要請を受ける場合、第二次納税義務者側は我が国の国税徴収法の規定を根拠にして争うことができない(※23)。 (※23) 赤松・前掲(※1)65頁は、納税者保護の観点からの手続規定として、第二次納税義務者に対する徴収手続規定に準じた規定を実特法11条に係る施行令として定める必要性を指摘している。 また、日本法(国税徴収法)における第二次納税義務者は、主たる納税義務者に対する課税処分の無効を理由として、我が国において納税告知処分の無効をも裁判上主張することができるし(※24)、主たる課税処分そのものの取消しを求めて、直接抗告訴訟で争うことも可能とされる(※25)。これに対して、外国からの要請に基づく徴収・保全共助の対象とされる外国法の第二次納税義務者には国内においてはその権利が与えられない。 (※24) 金子・前掲(※22)171頁。ただし、第二次納税義務者はその納税告知処分の取消しを求める訴訟においては、主たる課税処分の適法性を争うことはできないとの最高裁判決(最判昭和50年8月27日民集29巻7号1226頁)がある。 (※25) 広島高判昭和48年10月15日民集29巻7号1242頁及び大阪高判平成元年2月22日税務訴訟資料169号333頁。なお、上記大阪高判においては、主たる課税処分が行われた時を不服申立期限の起算日とするが、最判平成18年1月19日民集60巻1号65頁は、主たる納税義務者との一体性が低い国税徴収法39条所定の第二次納税義務者につき、その権利救済の観点から、第二次納税義務者への納税告知時を不服申立期間の起算点と判断している。 本件についていえば、まずXは共助条約上も、実特法上も、Cに対する課税処分の成否につき、日本の裁判所で争う権利を与えられない。もっとも、理論上Xは韓国の裁判所でその違法性を問うことは可能かもしれない。しかし、課税処分を受けた本人Cとは別の、第二次納税義務者にすぎないXが、韓国の裁判所においてCへの課税が違法であるとして訴訟を起こすことには障壁があるだろうし、韓国法がそれを許すかどうかという問題もある。 また本件では、韓国における滞納税額を主たる納税義務者が納付しているのであれば、第二次納税義務の附従性により、第二次納税義務者の納税義務も消滅し、それ以後の滞納処分等は不可となるはずである。本来、要請国側で主たる課税処分を受けた納税義務者から滞納税額の納付があった場合などは、共助条約18条2項(※26)により、要請国は被要請国にその情報を速やかに提供すべきであるが、本件ではそれが行われていないようである。 (※26) 共助条約18条2項では、要請国は支援の要請に関連する新たな情報を知るに至ったときは直ちに当該情報を被要請国に提供することとされている。 このような場合において、要請国における滞納税額の徴収状況につき、被要請国が積極的に情報提供を求める義務は、共助条約には明確に定められていない。これは条約規定上の問題点であり、第二次納税義務者を対象とした徴収共助のケースでは特に重要な論点である。本件はこのように、本来の納税義務者以外の者が徴収・保全共助対象となる場合の共助条約上の問題を顕在化させるものであったといえる。 (了)
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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第189回】バリュークリエーション株式会社「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2026年5月7日付)」
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第189回】 バリュークリエーション株式会社 「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2026年5月7日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【バリュークリエーション株式会社特別調査委員会による調査の概要】 【バリュークリエーション株式会社の概要】 バリュークリエーション株式会社(以下、「バリュークリエーション」と略称する)は、2008年4月設立。マーケティングDX事業、不動産DX事業を主たる事業とする。 売上高3,127百万円、経常損失△74百万円、当期純損失△260百万円、資本金52百万円、従業員数66人。代表取締役社長の新谷晃人氏及びその資産管理会社である合同会社ひまわりが発行済み株式の61.48%を所有している(いずれも2026年2月期有価証券報告書による)。 本店所在地は東京都渋谷区。2023年11月、東京証券取引所グロース市場上場。主幹事証券会社はSBI証券。会計監査人は、2022年2月期からESネクスト有限責任監査法人。 【特別調査委員会による調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 バリュークリエーションは、2018年以降、KDDI株式会社(以下「KDDI」という)の子会社であるジー・プラン株式会社(以下「ジー・プラン」という)との間で、ジー・プランを上流広告代理店とし、下流の広告代理店(広告出稿等は行わず、更に下流の広告掲載を行う法人や個人アフィリエイターに広告出稿等を依頼する広告代理店)又は掲載代理店(広告の掲載等を担う広告代理店)との仲介取引を行っていた(以下、「本件ジー・プラン取引」と、本件ジー・プラン取引のうち、バリュークリエーションが行った仲介取引を「本件取引」と総称する)。ただし、バリュークリエーションとして、本件ジー・プラン取引に関与した上流、下流の取引先を全て把握している訳ではなく、また、実在する取引であるという前提ではなかった。 ところが、KDDIによる2026年1月14日及び同年2月6日付けの適時開示や記者会見等においてジー・プランの広告代理事業における不適切な架空取引の疑いが判明したことが公表され、また、同年2月18日にオンラインメディア配信された配信記事において、ジー・プランの広告代理事業において架空取引が行われ、その取引にバリュークリエーションも関与していることが掲載されたことにより、本件取引の実在性について疑義が生じた。 バリュークリエーションは、2026年2月17日、本件疑義における会計処理に関する事実関係の調査、業績への影響の把握及び原因の究明が必要であると判断し、中立・公正かつ独立した調査を行うため、当社と利害関係を有しない外部専門家によって構成される特別調査委員会を設置し、調査を実施することとした。 2 特別調査委員会による調査結果の概要――取引の実在性について 特別調査委員会は、調査報告書の冒頭で、KDDIが設置した特別調査委員会との情報共有や共同ヒアリングを行ったことを明示しており、関与者の表記についても統一しているので、確認しておきたい。どちらの調査報告書でもジー・プラン社員で本件取引を主導した者は「a氏」と、バリュークリエーション社員で本件取引を担当していた者は「i氏」と表記されている。 特別調査委員会は、調査の結果、本件取引の実在性について、可能な限り調査を尽くしたものの、本件取引全体として、取引の実在性を確信するには至らなかったと判断している。 バリュークリエーションにとって、下流取引先が、A社、C社及びG社の取引については、実在しない架空循環取引であることは確信する。外部取引照会に対する回答内容、デジタル・フォレンジック調査の結果及びa氏ヒアリングの内容を総合すると、これらの取引は架空循環取引の一環として行われたものであることは明白である。ただし、G社は当委員会に対して本件取引に含まれる取引の成果物としてプラットフォーム管理画面のキャプチャを提出しており、実在性がある取引も含まれている可能性があるが、実体ある取引と実体の無い取引であるかの明確な区別をするには至らなかった。 次に、本件取引のうち、当社と、A社、C社及びG社以外の下流取引先との取引について、a氏は、当該取引はいずれも実在する取引である旨供述するが、当社の照会に対して回答しない取引先もあること、回答した下流取引先が提出した証憑(管理画面のキャプチャ等)も、事後的な作成が可能である資料であり、本件取引について取引が実在すると確信に至るには足りない。また、T社紹介手数料取引も、本件取引と同様に取引の実体のない架空循環取引であると判断する。 3 特別調査委員会による調査結果の概要――バリュークリエーションの対応 (1) 上場準備等における本件取引に対する指摘事項 バリュークリエーションは、上場準備の取組みを行う上で、売上利益の大きな部分を占める本件取引は注視され、主幹事証券会社(SBI証券)からは、主に、当社の売上利益に対する本件取引の依存度や当該取引に対する取組み方針について事業等のリスクとして開示すること、債権回収リスクに対する手当及び下流取引先が出稿する広告の適法性に対する手当てを行うことを指導された。 これに対し、バリュークリエーションは、以下の(2)から(5)に掲げる対応を行った。 (2) 債権回収リスクを抑えるための覚書の締結 バリュークリエーションは、新規上場申請のための有価証券報告書において、「特定の取引先への依存についてのリスク」として、ジー・プランが売上高の10.6%、売上総利益の33.8%を占めること、売上債権全体に占める割合が大きく、資金繰りに影響を及ぼす可能性があることを開示し、本件取引が事業等のリスクであることを示し、2024年2月期及び2025年2月期の有価証券報告書においても同様の開示を行っている。 また、バリュークリエーションは、債権回収リスクの手当てとして、ジー・プランとの間で、入金が滞った場合には役務提供を中止する旨の覚書を締結し、本件取引の主要な外注先であるC社との間で、ジー・プランからの入金の範囲で外注先に対する金銭債務を負担する旨の覚書を締結し、その旨を適時開示している。 (3) LPの適法性チェック バリュークリエーションは、下流取引先が出稿するLP(注)の適法性のチェックのため、抜き打ちのサンプルチェックを実施することとし、その旨を証券会社に説明していたが、実際には、チェック対象のLPの選出をジー・プランのa氏に依頼し、抜き打ちのサンプルチェックとはいえないものであった。 その後、取引管理の観点から、四半期ごとに、a氏から送付される取引明細に添付されたLPURLのサンプルチェックが実施されるようになったが、あくまでLPの適法性のチェックの観点から行われるものであり、広告主や広告出稿の実体の有無の調査という視点はなかった。 (注) LPとは、ランディングページ(Landing Page)のことで、サイトの訪問者が初めに着地するページのことを言い、リンクやWeb広告、検索エンジンなどから流入してきたユーザーが最初に閲覧するWebページ全般を意味する。 (4) 監査役監査及び内部監査 バリュークリエーションの監査役会は、2024年1月15日に開催した監査役会において、主幹事証券会社及び東京証券取引所から、ジー・プランへの依存度の高さをリスクとして指摘されたことにより、ジー・プランとの取引に係るリスク管理体制をヒアリングすると共に、必要があれば監査役監査の対象として今後モニタリングしていくことが望ましいと協議していた。また、2025年3月17日に開催した監査役会においても、ジー・プラン社との取引はリスクが高いことから、監査役会としてこれにフォーカスしておくことが重要であると判断していた。 一方、内部監査室は、内部監査計画を立案の上、監査役会の承認を得ており、その際にはジー・プランとの取引は規模が大きいため注視するよう指示されており、契約書や請求書等の証憑類をチェックしていたほか、入金遅延がないことの確認をするなどしていた。 しかしながら、監査役会監査及び内部監査による監査は、いずれも、本件取引の適切性確保や回収リスクに対する対応を主眼とするものであり、a氏が行った種々の工作によって隠蔽された架空循環取引を見破るには至らなかった。 (5) 監査法人による監査対応 バリュークリエーションの会計監査人であるESネクスト有限責任監査法人は、売上利益において大きな割合を占める本件取引を注視しており、バリュークリエーションを経由して、C社に対して成果物の開示を求めたものの、a氏は「各代理店の取引先はノウハウに属する部分であり、上流代理店より上、又は下流代理店より下は確認しないのが業界の慣行である」と述べて当社の確認を阻止したこともあり、結果として、本件取引の成果物を確認することができなかった。 (6) 小括 特別調査委員会は、バリュークリエーションは、上場準備の段階から、外部から本件取引に関するリスクの指摘を受け、適切性を維持するための取組みを行っていたものの、本件取引の最大の問題点を発見するには至らなかったと結論づけている。 4 発生原因の分析(調査報告書39頁以下) 特別調査委員会は、発生原因の分析として、次の4項目を挙げている。 特別調査委員会は、「取引の実在性」について、架空循環取引が長期間・大規模に継続した原因は、内外において複数かつ多層に亘って存在し、バリュークリエーションのみに帰責されるべきものではないが、視点をバリュークリエーションに絞って検証した場合、最大の原因は、仲介取引として関与した本件取引において、取引の実在性を独立して検証する手段を実質的に有していなかった点にあると一つの結論を述べる。 そのうえで、特別調査委員会は、取引の実在性を確認する方法として、下流取引先が管理するプラットフォームの広告管理画面へのアクセス、掲載LPの実際の稼働確認、配信ログの閲覧といった手段が考えられるが、広告代理業界においては、下流取引先の成果管理画面はその取引先固有のノウハウそのものであり、上流代理店に対してもこれを開示しないことが実務上の慣行の一つであるとされているとして、a氏による、バリュークリエーションの会計監査人に対する対応(上記3(5))に見られるように、こうした説明が実際に社内外に受け入れられてしまう程度には、当該慣行が共有された認識として存在していたことが窺われると評価し、「取引の実在性確認の困難性」を説明している。 5 再発防止策の提言(調査報告書41頁以下) 特別調査委員会は、架空循環取引という本件疑義に関する視点からすれば、専ら問題となるのは仲介取引であり、仲介取引においては取引の実在性の確認が原理的に困難となることを考慮すれば、再発防止策の中核をなすべき原則は、「成果物の開示を受けることができない下流取引先との仲介取引は行わない」ということであり、仲介取引を行う場合においても、取引の異常を早期に発見し対処するための多層的なチェック構造を形成することが必要であると強調したうえで、次の3項目を提言している。 後述するように、上記の3項目については、バリュークリエーションが公表した再発防止策に全面的に採択されているところである。 【調査報告書の特徴】 同一の会計不正事件で複数の上場会社が調査報告書を公表するのは、2019年に発覚したネットワンシステムズによる架空循環取引事件以来であろう。ネットワンシステムズ社事件が、関係各社による和解という形で終結したのは、2025年5月19日のことであり、会計不正の発覚から5年の歳月が事実解明と訴訟に費やされた。 報道では、KDDIの松田浩路代表取締役社長は、2026年6月17日の定時株主総会において、子会社による大規模な架空取引問題を巡り、一部の取引先広告会社に対して損害賠償を求める訴訟を起こしたことが報じられており、329億円という巨額の外部流出資金の回収に向けて、責任追及を行っていく方針のようである。バリュークリエーションが損害賠償請求の対象となっているのかどうかは、本稿執筆中に確認がとれていない。 1 過年度有価証券報告書の修正 バリュークリエーションが、2026年5月29日に提出した過年度有価証券報告書の訂正報告書をもとに、売上高、経常利益及び当期純利益の訂正内容を一覧表にまとめておきたい。 2 バリュークリエーションによる再発防止策 バリュークリエーションは、2026年6月17日、「再発防止策に関するお知らせ」をリリースして、特別調査委員会による原因分析と提言を踏まえた再発防止策を公表した。 その概要は次のとおりである(一部、文言を省略し、文末表現を改めている)。 3 東京証券取引所による公表措置 2026年6月26日、東京証券取引所は、バリュークリエーションに対して、「開示された情報の内容に虚偽があり、上場規則に違反した旨の公表が必要と認められるため(有価証券上場規程第508条第1項第1号)」として、公表措置を行った。 その「理由の詳細」は次のとおりである。 (了)
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期中会計基準を学ぶ 【第2回】「期中連結財務諸表の範囲と期中連結決算日など」
期中会計基準を学ぶ 【第2回】 「期中連結財務諸表の範囲と期中連結決算日など」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、期中連結財務諸表の範囲と期中連結決算日などについて解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 定義 例えば、次の定義が規定されている(期中会計基準4項)。 用語 定義 期中会計期間 1連結会計年度又は1事業年度(以下「年度」という)より短い期間に区分した期間をいう。 中間会計期間 年度が6か月を超える場合に、当該年度が開始した日以後6か月の期間をいう。 期中財務諸表 期中連結財務諸表及び期中個別財務諸表をいう。 Ⅲ 期中連結財務諸表の範囲 期中会計基準は、期中連結財務諸表の範囲を次のものとしている(期中会計基準5項)。 期中個別財務諸表の範囲は期中会計基準6項に規定されており、期中連結財務諸表を開示する場合には、期中個別財務諸表の開示は要しないとされている。 Ⅳ 期中財務諸表等の開示対象期間 期中会計基準が対象とする財務諸表の開示対象期間は次のとおりである(期中会計基準7項)。 Ⅴ 期中連結財務諸表を作成する場合の取扱い 1 期中連結決算日 期中連結財務諸表を作成するにあたり、子会社の期中会計期間の末日が期中連結決算日と異なる場合には、子会社は、期中連結決算日に期中会計基準に準ずる合理的な手続により、期中決算を行わなければならない(期中会計基準19項)。 子会社の期中会計期間の末日と期中連結決算日との差異が3か月を超えない場合には、子会社の期中決算を基礎として、期中連結決算を行うことができる。ただし、この場合には、決算日が異なることから生じる連結会社間の取引に係る会計記録の重要な不一致について、必要な整理を行うことになる(期中会計基準19項)。 2 みなし売却日等 期中連結財務諸表を作成するにあたり、支配獲得日、株式の取得日又は売却日等が子会社の期中会計期間の末日以外の日である場合には、当該日の前後いずれかの期中会計期間の末日等に支配獲得、株式取得又は売却等が行われたものとみなして処理することができる(期中会計基準20項)。 この期中会計期間の末日等には、期首、期中会計期間の末日又はその他の適切に決算が行われた日が含まれる(期中会計基準20項)。 期中会計基準は、「中間財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第33号)を統合する形で開発されており、企業会計基準第33号の開発に際しての公開草案に寄せられたコメントでは、四半期会計基準における四半期決算日を本会計基準においてその他の適切に決算が行われた日と変更したことが従来の実務からの変更を意図したものかどうかを明確にすべきとの意見があったとのことである(期中会計基準BC33項で記載されている企業会計基準第33号の結論の背景であるBC18項)。 企業会計基準第33号のBC18項では、当該用語の変更は、四半期会計基準において認められていた四半期決算日を引き続きみなし取得日として適用可能とすることを意図したものであり、従来の四半期の実務を見直すことを意図したものではないとし、その他の適切に決算が行われたとは、子会社において本会計基準に準じた決算が行われたことを想定していると記載されている。 企業会計基準公開草案第83号「期中財務諸表に関する会計基準(案)」等に対するコメントとして、「みなし取得日等の定めにおける「その他の適切に決算が行われた日」の取扱いを明らかにすべきである」の論点の項目において、例えば、月次決算を含むことなどを意図しているならばその点を明確にするなど、その意図を明確化する必要があると考えられるとのコメントが寄せられた(コメントNo.33)。 当該コメントに対して次の対応が記載されている。 (了)
