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個人住民税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

給与計算の質問箱 【第60回】「退職金にかかる個人住民税」

給与計算の質問箱 【第60回】 「退職金にかかる個人住民税」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 退職金を支給する際、所得税とともに個人住民税も源泉徴収しますが、個人住民税の計算方法などについてご教示ください。 A 所得税は、退職者が「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出するかしないかで源泉所得税の計算方法が異なる。一方、住民税は、「退職所得の受給に関する申告書」の提出の有無にかかわらず、計算方法は同じである。 * * 解 説 * * 1 退職所得控除額 (1) 勤続年数(1年未満切上)が20年以下の場合 (2) 勤続年数が20年超の場合 (※) 障害者になったことにより退職する場合は、(1)、(2)の金額に100万円加算する。   2 退職所得 (1) 勤続年数5年以下の役員等に支払われる退職手当等 (※) 退職所得金額に1,000円未満の端数がある場合は、切り捨てる(以下同様)。 (2) 勤続年数5年以下の役員等以外に支払われる退職手当等 〈退職手当等の金額から退職所得控除額を控除した金額が300万円以下の場合〉 〈退職手当等の金額から退職所得控除額を控除した金額が300万円超の場合〉 (3) 上記以外   3 個人住民税   4 納期限 退職金の支給日の翌月10日までに納付する。   5 納付先 退職金の支給日の属する年の1月1日に退職者の住民登録があった市区町村に納付する。 (了)
#599(掲載号)
#上前 剛
2024/12/19
国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第61回】「日産自動車事件-外国子会社合算税制の非関連者基準-(地判令4.1.20、高判令4.9.14、最判令6.7.18)(その1)」~旧租税特別措置法68条の90、旧租税特別措置法施行令39条の117第8項5号~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第61回】 「日産自動車事件-外国子会社合算税制の非関連者基準-(地判令4.1.20、高判令4.9.14、最判令6.7.18)(その1)」 ~旧租税特別措置法68条の90、旧租税特別措置法施行令39条の117第8項5号~   税理士 中野 亘     1 事実 自動車、産業用車両及びその他の輸送用機器等の開発、製造、売買、賃貸借及び修理等を目的とする内国法人である日産自動車株式会社(原告)の関連者であるメキシコ法人NRFM(※1)は、原告の企業グループが製造する自動車を割賦で購入しようとする者(以下「本件各顧客」という)との間で、購入資金を貸し付けることを内容とする契約(以下「本件クレジット契約」といい、本件クレジット契約に基づく貸金債権を「本件クレジット債権」という)を締結していた。 (※1) NR Finance Mexico, S.A de C.V. SOFOM ER(以下「NRFM」という)。原告は、NRFMの2015(平成27)年1月1日から同年12月31日までの事業年度及び2016(平成28)年1月1日から同年12月31日までの事業年度の各終了の時において、NRFMの発行済株式の総数を間接保有していた。 本件クレジット契約では、クレジット債権の未償還残高に利息等を加えたものを保障する生命保険であり、NRFMを最優先の受益者として指定しなければならないものであった。また、自己の責任において本件各顧客が保険として他の保険に加入しない場合、保険業を営むメキシコ法人AVM(※2)との本件元受保険契約(※3)に加入させることとしていた。 (※2) Assurant Vida Mexico, S.A.(以下「AVM」という)。AVMは、原告との資本関係はなく、本件NGRE事業年度において原告の関連者には該当しない。 (※3) NRFMは、AVMとの間で、保険期間を2014(平成26)年8月6日から2015(平成27)年8月5日までとする「債務者の死亡と失業に関する保険契約」及び同一の内容で保険期間を同月6日から2016(平成28)年8月5日までに更新する保険契約(以下、併せて「本件元受保険契約」という)を締結した。 本件元受保険契約の保険契約者・保険金の優先受益者はNRFMであり、被保険者は本件各顧客であった。NRFMはAVMとの本件役務提供契約(※4)に基づき、本件各顧客から、本件元受保険契約に係る保険料に相当する金額を徴収し、同保険料をAVMに支払っていた。またAVMは保険業を行うバミューダ法人NGRE(※5)との間においてAVMが本件元受保険契約において引き受ける全保険リスクの70%をNGREに対して再保険に付し、NGREが同リスクを引き受けることを内容とする再保険契約(以下「本件再保険契約」という)を締結し、再保険料を支払っていた。 (※4) NRFMは、2014(平成26)年7月1日、AVMとの間で、本件元受保険契約に付随する両当事者の義務等を定める役務提供契約を締結しており、契約には「(ア)「被保険者」とは、AVMが発行した保険により保障を受けるNRFMの顧客をいう。(イ)NRFMが被保険者から本件元受保険契約の名目で代金を徴収する場合、この金額はAVMが定める保険料の額と一致しなければならない。いかなる場合も、NRFMは、本件各顧客から、保険料を上回る金額又はこれと異なる金額を徴収してはならない。(ウ)NRFMは、本件元受保険契約に関連して被保険者から金銭を徴収する場合、当該金銭がAVMに送金されるまで、当該金銭の受託者として行為する。」とあった。 (※5) Nissan Global Reinsurance,Ltd.(以下「NGRE」という)。NGREは原告の2016(平成28)年4月1日から2017(平成29)年3月31日までの連結事業年度(以下「本件連結事業年度」という)における特定外国子会社等に該当する。本件NGRE事業年度について、バミューダの法令によりNGREに対して課される法人税に相当する税はなく、NGREのバミューダにおける所得に対する租税の負担割合は0%であった。 処分行政庁は、NGREについて、本件再保険契約に係る収入保険料は、租税特別措置法施行令(平成28年政令第159号による改正前のもの。以下同じ)39条の117第8項5号(※6)に規定する「関連者以外の者から収入するもの」に該当せず、同号に規定する割合が100分の50を超えないこととなる結果(※7)、非関連者基準を満たさないとして、外国子会社合算税制を適用し、課税処分を行った。原告は課税処分の取消し(非関連者基準を満たす)を求めて提訴した。 (※6) 租税特別措置法施行令39条の117第8項5号「保険業:当該各事業年度の収入保険料の合計額のうちに当該収入保険料で関連者以外の者から収入するもの(当該収入保険料が再保険に係るものである場合には、関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料に限る。)の合計額の占める割合が100分の50を超える場合」(下線は著者加筆) (※7) 本件NGRE事業年度におけるNGREの収入保険料の総額は5億2,521万4,976米ドル(〔1〕)であったところ、そのうちAVMを除く非関連者から受領した収入保険料は2億5,318万3,120米ドル(〔2〕)であり、AVMから受領した本件再保険契約に基づく収入保険料は1,149万3,075米ドル(〔3〕)であった。上記〔2〕の金額は上記〔1〕の金額の100分の50を超えないが、上記〔2〕の金額に上記〔3〕の金額を加算すると、上記〔1〕の金額の100分の50を超えることとなる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   2 争点 NGREの収入保険料のうちAVMから受領した本件再保険料が租税特別措置法施行令39条の117第8項5号括弧書きにいう「(当該収入保険料が再保険に係るものである場合には、)関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料(に限る。)」(括弧は著者追加、以下「本件括弧書き」という)に該当する(外国子会社合算税制の適用除外要件のうち、いわゆる「非関連者基準」を満たす)かどうか。 実質的には、本件再保険に係る本件元受保険契約が「本件各顧客の生命や身体」を保険の目的とする保険であるか又は「NRFMが有する本件クレジット債権」を保険の目的とする保険であるかどうかが争点となった。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ((その2)へ続く)
#599(掲載号)
#中野 亘
2024/12/19
会計 税務・会計 解説 解説一覧

〈経理部が知っておきたい〉炭素と会計の基礎知識 【第9回】「炭素の足あとをたどる旅・・・カーボンフットプリントって何?」

〈経理部が知っておきたい〉 炭素と会計の基礎知識 【第9回】 「炭素の足あとをたどる旅・・・カーボンフットプリントって何?」   公認会計士 石王丸 香菜子   〔PNパッケージ社の登場人物〕 *  *  * 近年、カーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprint of Product)という用語を見聞きする機会が増えました(※1)。 (※1) たとえば、イオントップバリュ株式会社は、2024年度中にプライベートブランドの10アイテムについてカーボンフットプリントを算出する目標を掲げている。 イオントップバリュ株式会社「CFP(カーボンフットプリント)とは?」 カーボンフットプリントは、製品やサービスに関し、原材料の調達から生産、流通・販売、使用・維持管理、廃棄・リサイクルといったライフサイクルの各段階において排出された温室効果ガスの総量を指します。 *  *  * *  *  * (※2) 最終製品であれば①~⑤(Cradle to Grave)を対象としてCFPを算定するが、中間製品では、下流での利用を想定し①~②(Cradle to Gate)を対象としてCFPを算定することもある。 *  *  * *  *  * サプライチェーン排出量(【第3回】参照)は、「サプライチェーン全体」という大きな単位の温室効果ガス排出量の合計を求めるものであるのに対し、カーボンフットプリントは、「製品やサービス」という単位について、そのライフサイクル全体の排出量の合計を求めるものです。 *  *  * *  *  * カーボンフットプリントという用語は、製品単位の排出量をわかりやすく表示・開示するという意味合いを含んでいることもあります。カーボンフットプリントの開示により、その製品が低炭素であることを顧客にアピールすることにつながります。 *  *  * *  *  * 政府は、カーボンニュートラルを実現するための方策の1つとして、低炭素製品が選択されるような市場の創出を支援しています。そのための基盤として、製品単位の排出量が可視化されるカーボンフットプリントに関する取組みを推進しています(※3)。 (※3) 経済産業省は、カーボンフットプリントの現状や課題などを整理した「カーボンフットプリント レポート」を公表するとともに、カーボンフットプリントの算定指針となる「カーボンフットプリント ガイドライン」を環境省との連名で公表している。 経済産業省「「カーボンフットプリントレポート」及び「カーボンフットプリントガイドライン」を取りまとめました」 また、環境省は、カーボンフットプリントの算定・表示に取り組む企業などを支援するモデル事業を展開している。 環境省「「製品・サービスのカーボンフットプリントに係るモデル事業」への参加企業・業界団体等の公募について」 また、国や自治体は、「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」(いわゆる「グリーン購入法」)によって、物品やサービスを調達するにあたり、可能な限り環境に負荷をかけないものを指定することとされています。このグリーン購入法の基本方針でも、カーボンフットプリントの指標が活用されています(※4)。 (※4) グリーン購入法に基づく「環境物品等の調達の推進に関する基本方針」は2023年に見直され、一部の物品についてはカーボンフットプリントの算定が要件とされている。 多くの大企業もグリーン調達(※5)に取り組んでおり、自社の調達方針の中で、カーボンフットプリントを考慮事項の1つとして挙げる事例も見られます。 (※5) 原材料や部品などを調達するにあたって、環境負荷の少ない製品・サービスを優先的に選択したり、環境配慮に積極的に取り組む企業を優先的に採用したりすること。 *  *  * *  *  * たとえば、電気自動車とガソリン車の環境への負荷を評価しようとする場合、「走行」というステージのみに注目すれば、ガソリン車の二酸化炭素排出量が突出して多くなります。しかし、「製造」というステージのみに注目すると、電池製造の影響により、電気自動車の二酸化炭素排出量のほうが多いことが明らかにされています(※6)。 (※6) 環境省「令和3年度自動車リサイクルにおける2050年カーボンニュートラル実現に向けた調査検討業務報告書」 つまり、両者の環境への負荷を正確に評価するには、ライフサイクルの中の特定のステージだけを対象とするのではなく、ライフサイクルの全てのステージを通じた環境負荷を対象とする必要があるのです。 こうした考え方に基づき、製品のライフサイクルを通じた環境への影響を定量的に評価する手法が、ライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)です。カーボンフットプリントは、このライフサイクルアセスメントの観点から、製品の温室効果ガス排出量を算定する手法にあたります。 *  *  * *  *  * 企業がカーボンフットプリントを算定するメリットの1つとして、製品の排出実態を捕捉することで、排出量の多い原材料や排出量の多いステージが特定され、排出量を削減するための方策を具体的に講じることができる点が挙げられます。 *  *  * *  *  * また、カーボンフットプリントの算定は、サプライチェーン排出量をより正確に算定することにも役立ちます。特にScope3排出量(【第6回】参照)は、実態に即した精緻な算定が難しい場合が多く、いくつもの仮定を設けて概算されることも少なくありません。カーボンフットプリントの算定を通じ、原材料の調達や製品の使用・廃棄などにおける間接排出の実態がつかめれば、Scope3排出量の算定精度を上げることにつながります。 *  *  * *  *  * カーボンフットプリントを算定するには、多くの手間やコストがかかります。特に、サプライチェーン内の多数の企業から製品単位の排出データを入手することは難しい場合も多く、データを得るための新たなしくみを作るとすれば、大きなコストが生じることも想定されます。 それにもかかわらず、カーボンフットプリント算定の取組みが広がる背景には、欧州を中心にカーボンフットプリントの指標を利用した気候関連の政策や規制が進められつつあるという事情もあるようです。 たとえば、EUは、2023年にEUバッテリー規則を公布し、バッテリー製品についてライフサイクル全体におけるさまざまな規制を定めています。その規制の1つとして、バッテリーのカーボンフットプリントの開示が段階的に義務付けられることになっています(※7)。また、EUの炭素国境調整措置(【第7回】参照)でも、対象品についての排出量、すなわちカーボンフットプリントの報告が求められています。 (※7) 「REGULATION (EU) 2023/1542 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 12 July 2023 concerning batteries and waste batteries, amending Directive 2008/98/EC and Regulation (EU) 2019/1020 and repealing Directive 2006/66/EC」 *  *  * *  *  * Q カーボンフットプリントって何? A カーボンフットプリントは、製品やサービスに関し、原材料の調達から生産、流通・販売、使用・維持管理、廃棄・リサイクルといったライフサイクルの各段階において排出された温室効果ガスの総量を指します。カーボンフットプリントはさまざまな局面で利用が進み、算定の取組みが広がりつつあります。 (了)
#599(掲載号)
#石王丸 香菜子
2024/12/19
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

〈ベテラン社員活躍のための〉高齢者雇用Q&A 【第5回】「定年後再雇用制度から定年延長への切替え」

〈ベテラン社員活躍のための〉 高齢者雇用Q&A 【第5回】 「定年後再雇用制度から定年延長への切替え」   Be Ambitious社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 飯野 正明   ― 解 説 ― 1 再雇用制度と定年延長の違い 再雇用制度とは、定年退職後に「改めて雇用契約を締結する」ということです。つまり、これまで通り「正社員」としての雇用を継続するのではなく、定年退職後は、「嘱託社員」などの名称で、労働条件を見直したうえで「有期雇用契約」として再雇用(契約)をします。 一方、定年を延長した場合には、「正社員」として「雇用を継続する年齢を引き上げる」ということになります。 それぞれの制度の違いとしては、以下のものが挙げられます。   2 定年延長の現状 厚生労働省の「高年齢者雇用状況等報告」によると、2023年の時点で、65歳までの雇用確保措置として「定年の引上げ」を実施しているのは全企業の26.9%となっており、前年から1.4ポイント増加となっています。 また、定年制度における定年年齢は、60歳が66.4%(1.7ポイント減少)、65歳が23.5%(1.3ポイント増加)、70歳以上が2.3%(0.2ポイント増加)となっており、少しずつですが、65歳以上としている企業が増えてきているようです。 企業規模で見ると、規模が小さい企業の方が、定年年齢を65歳以上としている割合が高くなっています(下図参照)。 【図表】企業における定年制の状況 (出所) 厚生労働省「令和5年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します」   3 定年を延長するにあたって まずは、自社の状況を把握する必要があります。 「今後、定年退職となる社員がどれくらいいるのか」「その方たちが抜けることで業務にはどのくらいの影響が出るのか」「採用による補充は可能なのか」など、人材確保の面からの影響を確認しましょう。 次に、人件費への影響は、企業が最も気になるところでしょう。通常、定年年齢を引き上げた場合には報酬水準が上昇しますので、その原資の捻出方法も考える必要があります。捻出方法としては、社員全体の賃金カーブの見直し、現状支払っている諸手当の見直し、退職金制度の見直しなどが考えられます。 また、シニア世代の社員のモチベーションを上げることで、若い社員にマイナスの影響が出ることも予想されます。例えば、「自分たちの昇進、昇格の機会が失われるのではないか」といった不安です。場合によっては、役職定年制度の導入などを検討してもよいでしょう。 制度を変えるということは、社員にとっては「自分はどうなるのか」といった不安がつきものです。このようなマイナス面もあることに目を向けたうえで、自社の状況を把握し、定年延長の必要性について丁寧に検討する必要があります。   4 過去の事例から 定年延長に関して、以前筆者が受けた相談をご紹介します。 社員の中には、現状の定年年齢で退職したいと考えている方がいる可能性もあります。制度変更時には、移行期間を設けることで、社員が現行の制度と新制度のどちらかを選択できるようにするとよいでしょう。 シンプルな運用を望むのであれば、これまで通りの制度を定年延長の対象となった社員にも適用するというのがよいでしょう。これまでと同様に評価を行い、賃金、賞与を決めていくということです。 ただし、シニア世代の社員が多く人件費の抑制を考える必要がある場合には、60歳の前後で社員に対する処遇を変える(1つの会社に2つの制度を設ける)ことも可能です。なお、その場合でも、社員の処遇は、定年後の職務に応じて変更するようにしてください。 社員にとって、「給与」というのは重要な労働条件であり、働くモチベーションにも影響を及ぼすものです。再雇用社員の方からの不満としてよく聞くのは、「これまでと仕事内容はあまり変わらないのに、給与が下がってしまった。これではモチベーションが保てない」ということです。先日は、再雇用社員に仕事を頼んだら「こんな難しい仕事は、給与の高い方がやるもんだ」と言って仕事を断られたという話を聞きました。 せっかく定年延長をするのであれば、対象者には高いモチベーションを持って働いてもらいたいものです。   5 まとめ ご質問にもある通り、多くの企業にとって、「人手不足」は喫緊の課題となっています。社員を募集しても、なかなか希望通りの人材が集まらないというのは、どちらのお客様からも聞くお話です。すでに日本の人口は、ピークを過ぎて減少傾向に入っています。今後はさらに加速度的に減少していくと考えられており、2040年までに、およそ1,100万人の労働供給不足になるという説もあります。 つまり、将来と比較すれば、今が1番人手は多いはずなのです。それでも現状「人手不足」であることからも、これまでの人事戦略を見直す必要があるのは明白です。 人口が減少していく中で増えているのは「シニア層」となっています。となれば、解決策の1つとして、「定年延長」は有効であると考えます。 それを踏まえると、60歳で定年退職をして、給与を下げて再雇用で働いてもらうというのではなく、少なくとも65歳までは(場合によってはそれ以降においても)、これまで通りの働き方でバリバリ仕事をしてもらうという発想を持ってもよいのではないでしょうか。定年年齢の引き上げに伴って、色々な課題が出ることも予想されますが、前向きに検討してほしいと考えます。 (了)
#599(掲載号)
#飯野 正明
2024/12/19
労務・法務・経営 法務

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第60回】「港湾法の適用を受ける土地の評価」

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第60回】 「港湾法の適用を受ける土地の評価」   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 今回は、「港湾法の適用を受ける土地」のように、あまり耳慣れない特殊な部類に属する土地の評価について取り上げます。 このような土地は、土地そのものが特殊な形状をしている、物理的にみて特別の条件が求められるという性格のものではありませんが、土地の利用規制が著しく強いものとなっている点に特徴があります。 以下、その特徴を述べるとともに、不動産鑑定士が価格の試算に当たり注意を払っている事項について解説していきます。   2 港湾法における「臨港地区」とその制限 港湾に面した土地が連たんしている地域では、都市計画法上の用途地域の規制の他に、港湾法に基づく「臨港地区」という地区の指定が行われ、厳しい土地利用制限が課されていることがあります。また、臨港地区に指定された区域内では、港湾の有する多様な機能を土地利用計画に反映させるため、その中で地区をさらに細分化して分区というものを指定し、分区ごとの用途制限を課しているケースが多く見受けられます。 このように港湾法には特有の地区分類があるため、不動産鑑定士はその特徴を十分踏まえた上で地域分析及び個別分析を行い、価格形成要因の的確な把握に努めています。 ところで、港湾は物流の拠点であるとともに、生産施設の立地基盤でもあり、また景観上からも重要な機能を果たしています。港湾がこのように多様な機能を有することから、港湾管理者が水域と一体的に管理する必要のある陸域について、範囲を定めて指定したものが臨港地区です(そのため、水際線の背後の陸域について指定されます)。 なお、港湾法では、都市計画法の規定による臨港地区だけでなく、同法第38条の規定により港湾管理者が定めた地区も臨港地区に該当する旨定めています(同法第2条第4項)。   3 臨港地区における具体的な規制 あるまとまりが臨港地区に指定された場合、港湾法第38条の2により臨港地区内で一定規模以上(床面積の合計が2,500㎡以上又は敷地面積が5,000㎡以上) の工場又は事業場の新設や増設をする場合、水域施設、運河、廃棄物処理施設の建設や改良等をはじめとする一定の行為をする場合には、工事の開始の60日前までに届出が必要となります。 工場又は事業場の新設や増設をする場合の記載事項は次のとおりです。 上記アないしウの内容が、港湾計画に照らして適切でない場合や港湾の利用・保全に著しく支障がある場合には計画の変更を求められることがあります。 また、港湾法の規制は厳しく、あるまとまりの地域が臨港地区に指定された場合、その区域内では目的の異なる建物が無秩序に建築されることを防止するため、さらに細かな分区の指定が行われることがあることは既に述べたとおりです。   4 分区の指定について 港湾法では、分区の指定について以下の規定を置いています。   5 臨港地区に指定された土地の鑑定評価に当たって 不動産鑑定士がこのような土地の鑑定評価を依頼された場合、次の事項に注意を払っています。 (1) 臨港地区(分区)の価格水準の検討 臨港地区(分区)指定の有無は港湾管理者(港務局又は県・市等の担当部署)にて確認しますが、臨港地区(分区)の指定を受けていることによる利用制限(用途制限)の影響は地域の価格水準に反映されているのが一般的と考えられます。 その意味で、いわゆる地域相場の把握は重要です。 (2) 分区内における建築物や構築物等の規制の把握 分区内においては、各分区の目的を著しく阻害する建築物その他の構築物であって、港湾管理者としての地方公共団体の条例で定めるものを建築してはならないこととなっています(港湾法第40条第1項)。 そのため、港湾管理者である地方公共団体(県や市など)が独自に条例を制定し、そのなかで建築可能な建築物等の規制を行っています。したがって、臨港地区内における建築可能な用途等については、分区ごとの規制内容を各地方自治体の条例に照らして確認する必要があり、価格水準も条例による制限の強弱等を反映しているといえます。   6 おわりに 上記のとおり、一概に臨港地区といっても、そのなかに指定され得る分区の対象は広いものとなっています。例えば、商港区や工業港区もあれば、マリーナ港区というものもあります。 港湾法や臨港地区が土地の評価に関連して登場してくるのは工業専用地域の場合が通常であり、その意味では税理士の方々にとってそれほど馴染みのあるものとはいえないと思われます。しかし、法人相手の(しかも、港湾に面した土地を保有する企業を相手とする)業務に携わっている方にとっては、港湾法の制限を受ける土地の時価がどれほどであるか等について相談を受ける機会もないわけではありません。 (了)
#599(掲載号)
#黒沢 泰
2024/12/19
労務・法務・経営 法務

《税理士のための》登記情報分析術 【第19回】「担保権の抹消登記」

《税理士のための》 登記情報分析術 【第19回】 「担保権の抹消登記」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   事業に関する融資や住宅ローンの借入を受ける場合、所有する不動産に担保権(主に抵当権、根抵当権)の設定登記をすることになる。無事に完済をした場合には、担保権の抹消登記をすることになるが、どうやって担保権の抹消登記を行えばよいか分からず放置してしまう人も少なくないようである。 資産として不動産を活用していくためには、担保権の抹消が可能となったら速やかに登記を行う必要がある。本稿では、担保権の抹消登記を行う重要性と手続に必要な書面等について解説を行う。   1 担保権の抹消登記の重要性 借入を完済して金融機関等の担保権者から抹消登記に必要な書類の交付を受ければ、実体として担保権は抹消されているといえる。ただし、不動産の取引は登記されている情報が前提となるため、登記記録上も担保権が抹消されている状態としなければ、所有する不動産を売却する場合や新たに担保権を設定して借入を起こす場合に支障が生じる。 コロナ禍のように資金が急に必要になる事象がまたいつ発生するとも限らないため、所有する不動産については必要な登記手続を速やかに行い、最新の状態に保っておく必要がある。 【担保権が抹消された登記記録例】 ※抹消されると下線が引かれることになる。   2 担保権の抹消登記が放置される理由 (1) 所有者が重要性を認識していない 住宅ローンを完済した場合に多いが、不動産の所有者が担保権の抹消登記の重要性を理解していないため放置されてしまうことがある。住宅ローンを完済すると、金融機関から担保権の抹消登記に必要な書類と、抹消登記の手順に関する説明文が送られてくるが、実際に登記申請を行うかどうかは不動産の所有者に委ねられることになる。担保権の抹消登記の重要性を不動産の所有者が理解していないと、手を付けられないままになってしまうことがある。 事業に関する融資の場合には、所有者と金融機関との継続的な関係性があるため、司法書士の紹介を含めてサポートを受けられることが多く、登記せずに放置されることは比較的少ないといえる。 (2) 登記申請のやり方が分からない 担保権の抹消登記を行うためには、担保権者である金融機関から送られてきた書類を提出するだけではなく、登記申請書の作成や登録免許税の納付などの作業が必要になる。登記実務に不慣れな所有者では対応が難しく、気軽に相談ができる司法書士がいない場合には、登記申請がなされないままとなることがある。 (3) 担保権者の協力が得られない 担保権の抹消登記をするためには、担保権者から解除証書等の書面を作成、交付してもらう必要がある。担保権者が金融機関である場合には、必要となる書面等を交付しないということはほとんどないが、担保権者が個人であるような場合には知識不足などの理由により書面等の作成ができず交付されないことがある。担保権者の協力が得られない場合には、裁判を起こして抹消登記を行う必要性が生じることがある。   3 担保権の抹消登記に必要となる書面等 抵当権、根抵当権などの担保権の抹消登記には以下の書面等が必要になる。所有者(登記権利者)と担保権者(登記義務者)が共に関与して申請するため(共同申請)、所有者、担保権者がそれぞれ書面等を準備する。 なお、②③については、登記申請を放置している間に所有者が紛失しているケースがある。②については再発行してもらうことができるが、③については再発行ができないため、登記申請に追加で費用や時間がかかることになる。   4 おわりに 税理士の実務を行っていると、顧客の不動産に担保権が抹消されていないまま残されているケースを目にすることもあるだろう。放置されているということは、顧客自身では対応が困難だと窺われるため、税理士から司法書士を速やかに紹介すると、顧客の利益を守ることにもつながるだろう。 (了)
#599(掲載号)
#北詰 健太郎
2024/12/19
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《顧問先にも教えたくなる!》資産づくりの基礎知識 【第19回】「50歳からNISAで枯渇しない資産をつくる方法」

《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第19回】 「50歳からNISAで枯渇しない資産をつくる方法」   株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝   〇老後資産の枯渇 老後のお金に関する最大の不安は、ずばり身体の寿命が尽きる前に貯蓄が尽きてしまうことです。でも、貯蓄残高と人生の残りの時間を天秤にかけ、ため息をつくなんて寂しいことはしたくありませんよね。 例えば、65歳時点で貯蓄が2,000万円あったとしても、月々5万円ずつ取り崩していたら、33年で資産が枯渇してしまいます。65歳の33年後は98歳ですから、まだまだ元気な可能性も十分にあります。しかしその時、貯蓄が底をついてしまったら、どんな気持ちで毎日を過ごしたらよいのでしょうか。 よく「私は長生きしないから」と笑っておっしゃる方もいますが、なかなか自分の希望通りに終われないのが人生でもあります。できれば、人生が終わるまで尽きない資産があると安心です。 そこで今回は、NISAを用いて、老後資産が生涯枯渇しないように「運用しながら引き出す」方法と、その元手となる資産のつくり方をご紹介します。   〇NISAで資産を「運用しながら引き出す」 資産の取崩し方法といえば、単純に銀行の預金から必要な額だけ毎月引き出して使うというのが一般的ですが、最近は「運用しながら引き出す」方法に注目が集まっています。特に、生涯税制優遇の対象となるNISAは、老後に資産を枯渇させないためにぜひ活用したい制度です。 先ほど申し上げたとおり、老後資産2,000万円を毎月5万円ずつ引き出すと、33年4ヶ月で残高が0円になってしまいます。しかし、年利3%で運用しながら引き出すと、残高が減ることはなく、生涯2,000万円を維持することができます。 言ってみれば、2,000万円を元手に毎年60万円の利益が出るので、その利益でもって生活ができるということです。利益分を引き出しても、元本はまた翌年以降継続して投資に回るので、さらに利益が生まれます。 もちろん、毎年決まった利率で運用ができるわけではありませんが、やはり「運用しながら引き出す」という方法を研究する価値はあるのではないでしょうか。最近は、運用しながら引き出すことによる効果を「資産寿命を延ばす」と言ったりします。   〇運用益3%の実現性 次に、年利3%の運用が実現できるかどうかを考えていきます。 直近の市場の動きではなく、長期での運用実績を確認したいので、私たちの年金積立金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用実績を参考にします。ウェブサイトを参照すると、日本の株式・日本の債券・外国の株式・外国の債券を約25%ずつ均等に運用した結果、2001年度から2024年度第2四半期の年平均利回りが4%強となっています。この数値は将来を約束するものではありませんが、1つの目安として考えることができそうです。 日本の年金運用をお手本にして運用する場合、それぞれの対象に投資をするインデックスファンドを組み合わせて自らポートフォリオを組むことができますが、4資産均等バランスファンドなどの投資信託を利用することもできます。もちろん、この種のバランスファンドはNISAでも購入可能です。 例えば、つみたて投資枠でも購入可能なニッセイ・インデックスバランスファンド(4資産均等型)では、直近は株式市場が活況なので、1年間で12.45%も利益が出ていますし、過去5年の平均リターンは9%となっています。ただ、日本経済新聞社が発表する分類平均指数の過去10年における平均リターンは4.65%ですから、やはり日本の年金と同じような運用実績と理解してもよさそうです。   〇50歳から2,000万円の準備 続いて、年間3%を予定利回りとした場合、50歳の方がどうやって65歳までに2,000万円を準備できるのかを考えていきます。 まず50歳から60歳まで、月5万円を積み立てます。年利3%で運用しながら積み立てると、60歳時点で700万円くらいになります。もちろんNISAを利用すれば運用益に対し税金はかかりませんから、効率良くお金を増やすことができます。 さらに、60歳からは、積立ては終了して運用のみを継続します。すると、700万円が5年で800万円ほどになります。60歳以降の就労収入は減額されるケースが多いので、今回は、積立ては60歳で終了という想定にしてみました。 もちろん、これだけでは2,000万円の資産にはならないので、退職金のうち1,000万円をNISAで60歳から5年間運用します。ここでは、一括投資ということで試算しますが、実際にNISAを利用する場合、年間の投資可能額は360万円ですので、上限を目処に複数回に分けて投資をすることで、時間を分散させリスクを低減させます。 1,000万円を年利3%で5年間運用すると、1,200万円ほどになります。先ほどの800万円と合わせると、2,000万円を準備できます。そして、65歳以降は運用しながら月5万円ずつ引き出します。   〇積立時期終了後のポイント ある程度の年齢になると、長期での運用ができないのではないかとおっしゃる方も少なくないのですが、「積立時期」が終了した後「運用のみ継続する期間」を設けることが重要です。取崩しを開始する前に、できるだけ運用を継続する期間を設けることで、より多くのリターンが期待できるからです。 そして取崩しの時期になったら、NISAを開設している金融機関に定期売却サービスを申し込みます。これは、その都度自分で投資信託の解約手続きをしなくとも、毎月決まった金額分を自動的に解約し、指定の口座に振り込んでくれるサービスです。現時点では、定期売却サービスを行う金融機関はそれほど多くはありませんが、今後普及が期待されているので、ご自身がNISA口座を開設している金融機関に問い合わせをされるのもよいでしょう。 *  *  * 今回は、50歳からの15年間で2,000万円の資産をつくる流れと、そこから月々5万円ずつ引き出しても枯渇しないための運用・引出方法についてご説明しましたが、そもそも毎月引き出す額が5万円でよいのかという点は人によって異なりますし、それによって目標とする積立額等も異なってきます。 老後のお金の問題はなかなかやっかいなものではありますが、やはり資産運用の知識はこれからの人生には重要なものであると考えます。必要であれば専門家のアドバイスを受けながら、老後に枯渇しない資産づくりにぜひ取り組んでみてください。 (了)
#599(掲載号)
#山中 伸枝
2024/12/19
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令和6年度税制改正に関する《資料リンク集》(更新)

令和6年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和6年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。   - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2024/12/17
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《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(令和6年4月~6月)」~注目事例の紹介~

《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和6年4月~6月)」 ~注目事例の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、2024(令和6)年12月12日、「令和6年4月から6月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、国税通則法関係が2件、所得税法関係、相続税法関係、登録免許税法及び消費税法関係が各1件で、合計6件となっている。公表された裁決には「全部取消し」となった事例はなく、ほとんどが棄却となっている。 【表:公表裁決事例令和6年4月から6月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された6件の裁決事例のうち、他人が成りすまして所得税の確定申告書を提出した場合の申告の有効性が争われた事例(前掲表①)及び消費税の免税事業者になる課税期間の前日において購入した金地金が仕入税額控除の対象となるかが争われた事例(前掲表⑥)について、国税不服審判所の判断内容を概説したい。 なお、複数の争点がある裁決については、下記の概要の中で、その一部を割愛して、中心的な争点のみについて絞らせていただいたことを、あらかじめお断りしておく。   1 他人が成りすまして提出した申告書の効力・・・① (1) 事案の概要 本件は、原処分庁が審査請求人に対して行った所得税等の更正処分等に対し、請求人が、同処分等の前提となった請求人名義の納税申告書は、他人が成りすまして提出したものであり、当該納税申告は無効であるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 請求人が、知人であるJが成りすまして提出したと主張する所得税の確定申告書は、平成28年分から令和2年分に係るものであり、請求人に事業所得があるとして複数の会社から得た報酬と必要経費が記入され、源泉徴収された所得税の還付を求める内容であった。 (2) 争点 Jによる本件各申告書の提出は、国税通則法第24条に規定する「納税申告書の提出があった場合」に該当するか否か。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、まず、法令解釈として納税義務者以外の者が、本人の承諾なく納税義務者の申告書を作成し、提出した場合には、その納税申告は無効であるが、申告書を提出した者が、納税義務者から明示又は黙示に当該申告行為をする権限を与えられている場合は、その納税申告は有効であり、さらに、権限なくして行われた申告行為であっても、納税義務者が当該納税申告を追認すれば、当該納税申告は有効となると解するのが相当であるという判断を示した。 そのうえで、本件について、国税不服審判所は、請求人が、Jに対して、明示又は黙示に申告行為を行う権限を与えていたとはいえないと判示したものの、次に掲げる請求人の行為は、Jによる申告行為を追認したものと解すべきとして、審査請求は理由がないから棄却する裁決を行った。   2 仕入税額控除の調整(消費税法第36条第5項)・・・⑥ (1) 事案の概要 本件は、不動産管理・賃貸業などを営む合同会社である審査請求人が、消費税の課税事業者から免税事業者となる課税期間の初日の前日に取得した金地金の取得価額に係る消費税額を当該前日の属する課税期間の控除対象仕入税額に含めて消費税等の確定申告をしたところ、原処分庁が当該金地金は消費税法上の棚卸資産に該当するから当該消費税額は控除対象仕入税額に含めることができないとして消費税等の更正処分等をしたため、請求人が、当該金地金は棚卸資産には該当しないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 本件金地金は、消費税法第36条第5項に規定する「棚卸資産」に該当するか否か。 (※) 一部かっこ書き等を省略している。 (3) 請求人の主張 請求人は、定款上の事業目的に金地金の売買を掲げておらず、金地金の売買をする専属の担当者も置いていないことから、請求人が金地金の売買を反復継続して行うものでないことは明らかであり、反復継続性がない以上、金地金の売買が請求人の営業に当たることはないから、本件金地金は、営業目的を達成するために所有する資産とはいえず、消費税法上の「棚卸資産」に該当しないと主張した。 (4) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、まず、消費税法第36条第5項の趣旨について、消費税法第30条第1項の規定する仕入税額控除制度が、消費税の納付税額の計算に当たって、税負担の累積を排除する観点から、取引の前段階で課された消費税額を控除するものであるところ、課税事業者が免税事業者となる場合、免税事業者となる課税期間の初日の前日の属する課税期間中に取得し、当該課税期間の末日において保有する棚卸資産は、売却を目的として取得・保有される資産であるがゆえに免税事業者となった課税期間に売却される蓋然性が高く、その際には消費税が課されないことから、この場合の棚卸資産に係る消費税額には税負担の累積排除の趣旨が妥当せず、仕入税額控除をすることは不合理であるから、当該消費税額については仕入税額控除を認めないこととする点にあるという見解を示した。 そのうえで、国税不服審判所は、本件金地金が請求人の事業目的に係る取引の客体として取得されたものであり、かつ、請求人は、本件金地金を取得した時点において、将来、これを売却する方針を有していたという事実によれば、請求人は、その事業目的に係る業務の過程において売却することを目的として本件金地金を保有していたものと認められるから、本件金地金は消費税法第36条第5項に規定する「棚卸資産」に該当するものと認められるという判断を示したうえで、審査請求は理由がないから、棄却する裁決を行った。 (了)
#米澤 勝
2024/12/16
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プロフェッションジャーナル No.598が公開されました!~今週のお薦め記事~

2024年12月12日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.598を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2024/12/12

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