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〔業種別Q&A〕労使間トラブル事例と会社対応 【第18回】「派遣先の休業・中途解約の場合の労働問題」

〔業種別Q&A〕 労使間トラブル事例と会社対応 【第18回】 「派遣先の休業・中途解約の場合の労働問題」 〈人材派遣業・人材紹介業〔Q1〕〉   弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士 石居 茜   〈人材派遣業・人材紹介業の特徴と特有の労務問題〉 人材派遣業や人材紹介業では、自社のプロパー従業員を雇用しているため、解雇やパワハラといった一般企業と同様の労働問題が発生します。しかし、それに加えて、それぞれのビジネスモデルに起因する業界特有の労務問題が存在します。 【人材派遣業の特徴と特有の労務問題】 派遣元と派遣先の二重構造:雇用主(派遣元)と実際の業務の指揮命令を行う者(派遣先)が異なるため、労働基準法などの関連法令における責任が派遣元と派遣先で分担されるという大きな特徴があります。 中途解約や休業時の対応義務:派遣先の都合で労働者派遣契約が中途解約されたり休業となったりした場合でも、派遣元と派遣労働者との雇用契約は期間満了まで継続します。そのため、派遣元には休業手当の支払いや新たな就業機会の確保などの義務が生じます。 多様な課題への対応:有期雇用・無期雇用の選択、派遣労働者の雇止め、法改正に伴う同一労働同一賃金への対応など、検討すべき人事労務の課題が多岐にわたります。 紛争時の影響拡大リスク:トラブルが労働局への申告や外部労働組合との団体交渉などに発展した場合、取引先である派遣先をも巻き込んだ大きな紛争に発展するリスクを孕んでいます。 【人材紹介業の特徴と特有の労務問題】 職業安定法や厚労省指針の厳格な遵守:法令により、求人情報などの的確な表示が義務付けられているほか、求人・求職者情報を正確かつ最新の内容に保つことが厳しく求められます。 紹介手数料をめぐるトラブル:紹介した人材が早期に自己都合退職した際の「紹介手数料の返還約定」の解釈をめぐる紛争や、手数料の未払いトラブルが実務上多く見られます。 不適切な転職勧奨の禁止:「就職お祝い金」などの名目で求職者に金銭等を提供し、転職を勧奨することは、厚労省の指針によって禁止されています。 【まとめ】 両業界ともに、関連法令や指針への違反は行政指導や企業名の公表、事案によっては罰則といったペナルティに繋がるリスクがあります。そのため、トラブルが顕在化する前の平時から、労働者派遣契約書や人材紹介契約書、求人サイトの規約といった各種文書を適法に整備しておく「予防法務」の視点が非常に重要となります。   【Q】 当社は登録型の人材派遣事業を行っています。この度、取引先である派遣先企業から、業績悪化を理由に労働者派遣契約を期間途中で中途解約されてしまいました(または休業を余儀なくされました)。 当該派遣先に派遣されていた労働者に対し、当社は残りの派遣期間満了までの賃金を支払わなければならないのでしょうか。また、すぐに次の派遣先が見つからない場合、派遣先がなくなったことを理由として、派遣労働者との雇用契約を期間途中で解約(解雇)することはできるのでしょうか。 【A】 労働者派遣契約が期間途中で解除されたり休業となったりした場合でも、派遣労働者と貴社(派遣元)との雇用契約は直ちに終了するわけではなく、期間満了まで継続しています。したがって、貴社は原則として賃金を支払う義務があります。 新たな派遣先が見つからず、やむを得ず派遣労働者を休業させる場合は、労基法に基づき、休業期間中について平均賃金の6割以上を休業手当として支払う必要があります。 また、派遣先がないことを理由に、期間途中で雇用契約を解約(解雇)することは、労契法上の「やむを得ない事由」が認められない限り無効となります。実務上、この要件は厳格に判断されるため、まずは新たな就業機会の確保など、解雇回避の努力を尽くすことが求められます。 ▲ ▼ ▲ 解 説 ▲ ▼ ▲ 1 労働者派遣契約の中途解約と雇用契約への影響 登録型の派遣においては、労働者の雇用期間は労働者派遣契約の派遣期間と同じに設定されていることが多い。しかし、派遣元と派遣先の間の労働者派遣契約と、派遣元と派遣労働者の間の雇用契約は別個独立の契約である。 そのため、派遣先が業績悪化などの都合により、一方的に労働者派遣契約を中途解約したり、休業したりしたとしても、派遣元と派遣労働者の雇用契約が当然に終了するわけではない。派遣労働者から見れば、残余の雇用期間があるにもかかわらず、突然派遣先での就業ができなくなる事態が生じることとなる。   2 派遣労働者の雇用安定を図るための措置(派遣元指針・派遣先指針) 派遣先による一方的な中途解約に伴う派遣労働者の雇用不安を防ぐため、派遣元指針および派遣先指針において、当事者が講ずべき措置が定められている。 派遣先指針では、派遣先は専ら派遣先に起因する事由で期間満了前に解除を行おうとする場合、あらかじめ相当の猶予期間をもって派遣元に申入れを行うことや、関連会社での就業あっせん等により新たな就業機会の確保を図ることが求められている。それができない場合には、派遣元に生じる損害(休業手当や解雇予告手当に相当する額以上の額)について賠償を行わなければならないとされている。 一方、派遣元指針では、派遣元は派遣先と連携して新たな就業機会の確保を図ること、それができない場合はまず休業等を行い雇用の維持を図り、休業手当の支払等の労基法等に基づく責任を果たすことが求められている。   3 賃金および休業手当の支払い義務 派遣先が休業や中途解約をした場合、派遣元は期間満了まで他の派遣先に派遣する努力を行う必要がある。 それができず派遣労働者を休業させる場合は、派遣元の「使用者の責めに帰すべき事由」による休業に該当するため、労基法第26条に基づき、平均賃金の6割以上の休業手当を支払う義務が生じる。 また、判例によれば、派遣先でのトラブル等を理由に派遣元が十分な調査を行わずに就労停止を告知し、かつ同水準の派遣先を提供できなかった事案において、民法第536条第2項により、派遣労働者は雇用契約終了までの賃金全額の請求権を失わないとされた例もある(浜野マネキン紹介所事件・平20.9.9東京地判)。休業手当の支給にとどまらず、賃金全額の支払いが命じられるリスクがあることにも留意すべきである。   4 派遣労働契約の中途解約(解雇)の有効性 派遣先がなくなったことを理由に、期間の定めのある派遣労働契約を途中で解約(解雇)することのハードルは極めて高い。 労契法第17条第1項および民法第628条によれば、有期労働契約は「やむを得ない事由」がある場合でなければ、期間途中で解雇することはできない。 裁判例においても、登録型派遣における労働者派遣契約の解消は、派遣労働契約の当然終了事由にはならないと判断されている(社団法人キャリアセンター中国事件・平21.11.20広島地判)。 さらに、期間途中の解雇の有効性は、期間の定めのない労働契約における整理解雇の4要件(①人員削減の必要性、②解雇回避の努力、③被解雇者選択の合理性、④解雇手続の相当性)に照らして総合的に判断され、通常の解雇権濫用法理よりも厳格に判断される傾向がある。 例えば、派遣先の労働者派遣契約の解除を受けて派遣元が解雇を行った事案において、派遣元自身が健全な財務状況にあり、他の派遣先のあっせん等の努力を全くしていなかったことから、「やむを得ない事由」があるとはいえず、解雇は無効と判断された事例がある(プレミアライン事件・平21.4.28宇都宮地裁栃木支部決定)。 労働契約の期間内においては、派遣元は他の派遣先を確保することが務めであり、新たな派遣先が見出せず就業機会を提供できなかったことについて派遣元に帰責性が認められ、期間満了までの賃金全額の仮払いを命じられた例もある(ワークプライズ事件・平21.7.23福井地決)。   5 実務的な会社対応 以上の法的枠組みや判例を踏まえ、派遣先から中途解約や休業を申し渡された場合、派遣元は以下の実務対応を行うべきである。 第一に、労働者派遣契約締結の段階から、中途解約時の損害賠償に関する規定をしっかりと盛り込んでおくことが予防策として重要である。紛争発生時には、派遣先に対し、派遣先指針に基づく新たな就業機会の確保を求め、不可能な場合は休業手当や解雇予告手当に相当する損害賠償を請求する。 第二に、派遣労働者に対しては安易に解雇や雇止めを行うのではなく、自社での他の派遣先の開拓や紹介等、就業機会の確保に向けた最大限の努力(解雇回避努力)を尽くすことである。 第三に、やむを得ず休業とする場合には、休業手当を適正に支払い、雇用の維持を図らなければならない。 万が一、解雇せざるを得ない極めて例外的な状況であっても、少なくとも30日前の予告または解雇予告手当の支払いといった労基法上の手続きを厳守する必要がある。 派遣元としては、労働者派遣契約と雇用契約が別であることを深く認識し、派遣先との紛争と派遣労働者との労働問題を明確に切り分け、各法令・指針に則った適切な善後策を講じることが求められる。   (了)
#679(掲載号)
#石居 茜
2026/07/30
労務・法務・経営 法務

〈具体事例から見る〉取適法施行に伴う企業対応Q&A【第3回】「協議を適切に行わない代金額の決定の禁止」

▼ ▼ ▼ 解説 ▼ ▼ ▼   1 協議を適切に行わない一方的な代金額の決定の禁止(禁止行為の拡充) 自由経済主義の下においては、取引価格は、基本的には取引当事者間の自律的な交渉により決定されるべきものである。そのため、コスト上昇局面において当該上昇分が上乗せされることなく、価格が据え置かれたり、コスト増に見合う価格の引上げが行われなかったりしたとしても、そのこと自体が直ちに違法となるわけではない。しかしながら、中小受託事業者が価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格交渉の協議すら行われなかったり、内実の伴わない形式的な協議が行われるにすぎなかったりするような場合には、取引条件を自律的な交渉によって決定することが前提となる市場メカニズムが有効に機能しなくなっている可能性がある。 そこで、取適法は、「協議」というプロセスに着目した新たな規制として、「協議を行わない一方的な代金額の決定の禁止」を追加し、委託事業者が遵守すべき禁止行為の範囲を拡充した。 具体的には、①中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、②中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、③当該協議に応じず、または、当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明もしくは情報の提供をせず、④一方的に製造委託等代金の額を決定することによって、⑤中小受託事業者の利益を不当に害したときは、取適法違反に該当することとなる(取適法第5条第2項第4号)。   2 給付に関する費用の変動その他の事情(①) 適切な価格転嫁の円滑化という取適法の目的に照らし、上記①の「給付に関する費用の変動その他の事情」としては、労務費、原材料価格、エネルギーコスト等の増加を想起しやすいが、これに加えて、「従来の納期の短縮、納入頻度の増加や発注数量の減少等による取引条件の変更、需給状況の変化、委託事業者から従前の代金の引下げを求められた場合」など、コスト上昇以外の要因も広く含まれる(運用基準「第4、9、(2)」)。 そのため、例えば、需要の減少に伴う発注数量の減少や需要の急増に伴う納入頻度の増加など、中小受託事業者の費用の増減に影響を与える事情が生じた場合にも、上記①の要件を満たすこととなる。 他方で、例えば、中小受託事業者の過失による生産設備の一部滅失に伴う生産コストの増加など、中小受託事業者の責めに帰すべき事由によるコストの増加は、上記の取適法の目的に照らし、①の事情には該当しないものと考えられる。   3 中小受託事業者による協議の求め(②) 上記②の「協議を求めた」にあたる場合とは、書面か口頭かを問わず、明示的に協議を求める場合のほか、協議を希望する意図が客観的に認められる場合を含む(運用基準「第4、9、(3)」)。 したがって、中小受託事業者が明示的に協議を申し入れた場合に限らず、例えば、中小受託事業者が従来の単価を引き上げて計算した見積書を提示した場合なども、上記②の「協議を求めた」に該当する(テキスト112頁)。   4 委託事業者の協議交渉義務(③) 上記③の「当該協議に応じず」とは、協議の求めを明示的に拒む場合のほか、協議の求めを無視したり、協議の実施を繰り返し先延ばしにしたりして、協議の実施を困難にさせる場合をいい、「当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明もしくは情報の提供をせず」とは、中小受託事業者が求めた特定の事項について、その自由な意思により代金の額を決定するために必要な説明または根拠となる情報の提供をしないことをいう(運用基準「第4、9、(3)」、同「(4)」)。 委託事業者は、かかる協議交渉義務を負うこととなるため、中小受託事業者から求められた価格の引上げの全部または一部を拒む場合には、コストの上昇に見合った価格転嫁を受け入れられない理由や情報、例えば、入札や相見積りによって当該中小受託事業者の他により低額で供給する受注者が存在することや、中小受託事業者から求められた転嫁分を委託事業者の顧客に転嫁することが困難である、あるいは自社の内部で吸収することが困難である事情などを、合理的な根拠とともに説明することが必要となる。 なお、前述したとおり、取適法におけるこの新規制は、従来の不当減額規制や買いたたき規制など「代金額」という結果に着目した規制ではなく、「協議」というプロセスに着目した規制であるため、取引当事者間において適切な協議が行われた結果として、従前の価格が据え置かれたり、中小受託事業者が求めた金額の一部しか価格の引上げが行われなかったり、合意に至らず委託先を変更したりしたとしても、そのこと自体が直ちに違法となるわけではない(パブコメ210)。 もっとも、例えば、委託事業者が中小受託事業者に対し、自ら提示する価格での受注を見送る場合には取引を減らしたり、打ち切ったりすることを示唆した上で協議を行った場合など、委託先の自由な意思に基づく判断が阻害されるような事情が認められるときは、適切な「協議」というプロセスを経たと評価することはできず、取適法違反となる可能性がある(テキスト115頁)。   5 中小受託事業者の利益の不当な侵害(⑤) 例えば、中小受託事業者側において容易に採り得るコスト低減策を講ずれば、コストの増額幅を低減し得るにもかかわらず、中小受託事業者がこれをしないような場合には、上記⑤の「中小受託事業者の利益を不当に害したとき」には該当しないと解する余地もあるように思われる。ただし、この場合であっても、容易に採り得るコスト低減策の内容について、委託事業者が中小受託事業者との間で十分な説明や協議を行わず、一方的にコスト低減策を講じた場合のコストの増額幅に限定した値上げにしか応じないような場合には、取適法上問題となる可能性がある。   (了)
#679(掲載号)
#木下 雅之
2026/07/30
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《速報解説》 会計士協会、「上場会社等における会計不正の動向(2026年版)」を公表~会計不正の業種別公表件数は、情報・通信業が卸売業を抜いて2番目に~

《速報解説》 会計士協会、「上場会社等における会計不正の動向(2026年版)」を公表 ~会計不正の業種別公表件数は、情報・通信業が卸売業を抜いて2番目に~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   日本公認会計士協会(経営研究調査会)は、2026年7月15日付けで経営研究調査会研究資料第13号「上場会社等における会計不正の動向(2026年版)」を公表した。 「上場会社等における会計不正の動向」(以下「研究資料」と略称する)は、2018年から毎年公表されているものであり、研究資料における分類項目を当初から変化させることなく、比較可能性が維持されている。ただし、2026年版においては、「会計不正の動向」9項目のうち、4項目目に当たる「会計不正の上場市場別の内訳」が、「会計不正の上場市場別・上場年数別・売上規模別・従業員規模別の内訳」と改められ、より詳細な分析結果が追加される形となっている。 本稿では、公表された研究資料の概要を紹介するとともに、2018年3月期以降の会計不正の動向の変化について検討をしたい。   1 会計不正の定義 研究資料では、過去の研究資料と同様に、会計不正(Accounting fraud)の類型を、主に「粉飾決算」と「資産の流用」に分類したうえで、「粉飾決算」と「資産の流用」とに明確に区分できないものは「粉飾決算」に含めて集計している。 巻末に【参考】として記載されているそれぞれの定義の一部を引用する。 なお、定義については、2018年版から変更されていない。   2 会計不正の動向 研究資料で集計、分析を行っている項目は次の9つに分類されている。上述のとおり、2026年版では(4)につき拡充が行われている。   3 集計・分析結果の特徴 (1) 会計不正の公表会社数 会計不正を公表した会社の数は、2022年3月期から2026年3月期までの5年間で205社となっている。当該5年間では、2025年3月期の56社が最大であり、2020年3月期及び2024年3月期の46社を上回って、研究資料が公表されている2018年3月期以降で、最多となっている。なお、2026年3月期は40社である。 (2) 会計不正の類型と手口 会計不正を「粉飾決算」と「資産の流用」に分類した場合、2026年3月期までの5年間の平均で「粉飾決算」の割合が76.8%となっている。2026年3月期においては、件数ベースでは74.1%が「粉飾決算」で、調査対象の5年間で最も少なかった2024年3月期の75.3%に次いで少ない割合となっている。 粉飾決算の公表が80%程度で推移していることについて、研究資料では、「資産の流用による影響額よりも、粉飾決算による影響額の方が多額になる」ことから、「上場企業等が適時開示基準に準拠して公表する数は、粉飾決算の方が多くなると考えられる」と分析しており、この分析は2018年版以降、同じ表現となっている。 不正の手口としては、収益関連の会計不正(売上の過大計上、循環取引、工事進行基準)の割合については5年間平均で36.5%となっている。2026年版の特徴としては、「収益関連の会計不正」の占める割合が25.6%と過去5年間で最も少なくなっている一方で、「売上の過大計上」と「費用の繰延べ」が同じ件数で、割合としては20.9%となっている。 (3) 会計不正の主要な業種内訳 2026年3月期までの5年間で、会計不正が行われた事業を基に分類した業種別の公表件数では、サービス業が49社でトップ、次いで情報・通信業が25社、卸売業が23社となって、情報・通信業が卸売業を抜いて第2位となった。以下、建設業が20社、小売業が15社と続いている。 (4) 会計不正の上場市場別・上場年数別・売上規模別・従業員規模別の内訳 会計不正を公表した会社が上場している市場別に分類したところ、2026年3月期においては、東証プライム市場16社(前年同期24社。以下括弧内の数字が前年同期を示す)、東証スタンダード市場14社(20社)、東証グロース市場9社(5社)、その他1社(1社)となっている。 また、2026年3月31日現在の市場別上場会社数と、東証において市場区分の見直しが行われた後4年間の市場別の会計不正の件数の割合を比較した表は、次のとおりである。 市場区分 上場会社数の割合 会計不正発覚割合 差異 プライム 42.0% 42.8% 0.8% スタンダード 42.0% 40.4% △1.6% グロース 16.1% 16.9% 0.8% 研究資料では、各市場の上場数と不正の発生会社数とはおおむね比例関係にあると言えると分析している。 2026年版から追加された各市場の上場年数別、売上高別、従業員数別に会計不正の発覚事案を公表した会社等の4年間累計の内訳を見ると、上場年数別では、プライム市場とスタンダード市場では「30年以上」が最も多くなっており、「5年以上10年未満」のカテゴリーで最多となっているグロース市場との差異が際立っている。 一方、売上高別では500億円未満が56%と過半を占め、従業員数では1,000人未満で50%となり、100人以上1,000人未満が37%で最多であった。 (5) 会計不正の発覚経路 2026年3月期までの5年間における会計不正の発覚経路は、当局の調査等が49社(前年同期は47社。以下括弧内の数字が前年同期を示す)、内部統制等が34社(31社)、内部通報が27社(28社)、取引先からの照会等が26社(26社)、公認会計士監査が19社(16社)となっていて、前回同期との比較では、当局の調査等が3年連続して1位であり、それ以下の発覚経路についても、前年同期と大きな変化はない。一方、調査報告書に発覚経路が公表されていないケースは27件(構成比14.1%)を占めている。 (6) 会計不正の関与者 2026年3月期までの5年間における会計不正の主体的な関与者、共謀の有無などを分析した結果、関与者の役職や共謀の有無については年度ごとのバラつきが見られるものの、役員と管理職については、共謀して会計不正を行うことが多く(共謀が100社、単独が45社)、非管理職については、単独35社、共謀12社と、単独での会計不正が共謀を上回っている傾向が、2026年3月期も継続していることが明らかになった。 (7) 会計不正の発生場所 2026年3月期までの5年間における会計不正の発生場所を上場会社(本社)、国内子会社及び海外子会社の別に分類して集計した結果、上場会社本体が87社、国内子会社が87社、海外子会社が21社となった(複数の場所で発生している会社については、それぞれ集計している)。2025年3月期及び2026年3月期は、上場会社本体での会計不正の発生社数(19社及び12社)を国内子会社(22社及び15社)が上回る傾向が続いている。一方、海外子会社における会計不正の件数は、2025年3月期には10社となり増加が顕著であったものの、2026年3月期は1社に減少している。 会計不正が発覚した海外子会社の所在地については、中国が42%、北米・南米が29%、中国を除くアジアが21%となっている。 (8) 会計不正の不正調査体制の動向 2026年3月期までの5年間における会計不正発生時の調査委員会の組成を、「社内のみ」「社内+外部専門家」「外部専門家のみ」の3つに分類して集計したところ、それぞれ、23社、61社、104社となった。「外部専門家のみ」の調査委員会設置数については、2025年3月期及び2026年3月期は過半数を超えている(それぞれ、62%及び59%)。 会計不正の分類別に不正調査体制を比較すると、「粉飾決算」では「外部専門家のみ」で組成されている調査体制を採用する会社が多く(59.1%)、「資産の流用」では「社内のみ」または「社内+外部専門家」で調査に当たる会社が多くなっている(「社内のみ」が35.7%、「社内+外部専門家」が39.3%)ことがわかる。 (9) 会計不正と内部統制報告書の訂正の関係 2026年3月期までの5年間において、会計不正の発覚が公表された205社のうち、その後に内部統制報告書を訂正した上場会社は92社であり、その割合は44.8%であった。また。訂正を行った会社のうち82社は、会計不正の類型が「粉飾決算」であった。 (了) ↓お勧め連載記事↓
#米澤 勝
2026/07/23
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《速報解説》 公認会計士・監査審査会が「監査事務所検査結果事例集(令和8事務年度版)」を公表~「完了した監査業務に対する定期的な検証」等を新たに掲載~

《速報解説》 公認会計士・監査審査会が 「監査事務所検査結果事例集(令和8事務年度版)」を公表 ~「完了した監査業務に対する定期的な検証」等を新たに掲載~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026(令和8)年7月17日、公認会計士・監査審査会は、「監査事務所検査結果事例集(令和8事務年度版)」を公表した。 また、同日に公表された「令和8事務年度監査事務所等モニタリング基本計画」では、「一般社団法人監査支援機構」の設立に言及するなど監査品質の向上に関する監査業界の動向が記載されている。 今回の事例集の改訂のポイントは次のとおりである。 事例集は、公認会計士・監査審査会が行う監査事務所の検査で確認された指摘事例等を取りまとめたものであり、基本的に、監査事務所に関する内容である。 本稿では、事例集に記載された事項のうち、一般事業会社における会計処理等においても参考になると考えられるものを紹介する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 取締役、監査役等、投資者等による活用を期待 事例集では、上場会社等の取締役・監査役等や投資者等に対する監査に関する参考情報の提示という観点から、審査会検査で確認された幅広い指摘事例をできるだけ分かりやすく記載している。 そのほか、監査事務所の改善取組などにおいて評価できる取組例も取り入れているので、会計監査人の適切な評価のために、是非参考にしていただきたいとのことである。   Ⅲ 個別業務における「問題となった事例」 事例集は、次のような事例について述べている。 (了)
#阿部 光成
2026/07/23
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プロフェッションジャーナル No.678が公開されました!~今週のお薦め記事~

2026年7月23日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.678を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2026/07/23
国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

国際課税レポート 【第26回】「トランプ関税劇場の第3幕」~最高裁判決後に浮上した301条・強制労働リスク~

国際課税レポート 【第26回】 「トランプ関税劇場の第3幕」 ~最高裁判決後に浮上した301条・強制労働リスク~   税理士 岡 直樹 (公財)東京財団名誉フェロー   7月24日、10%の122条関税が終了する。この関税は、2026年2月20日、米連邦最高裁が、国際緊急経済権限法(IEEPA)は大統領に関税を課す権限を与えていないと判断したことを受け、急遽導入されていたものだ。判決により、第二次トランプ政権の看板政策「トランプ関税」のうち、2025年の「相互関税」などIEEPAに基づく措置は法的根拠を失った。122条関税の延長には議会による立法が必要だが、本稿執筆時点で、延長に向けた具体的な動きはみられない。 2月の最高裁判決後、米税関・国境警備局(CBP)は2026年4月20日に還付手続きを開始し、5月にはIEEPA関税の還付金の支払いが始まった(JETROビジネス短信2026年5月28日)。赤澤亮正経済再生担当相が2025年4月から7月にかけて8回訪米し、関税引下げ交渉の対象として知られた「相互関税」の終了は、日本企業にとっては吉報、トランプ政権にとっては打撃となっていた。 もっとも、これで自らを“タリフマン”と呼ぶ「トランプ関税劇場」の幕が下りるわけではない。 緊急事態を理由に広範な関税を一挙に課す手法は行き詰まったが、政権は既存の通商法に基づく複数の制度へと関税政策を組み替えつつある。しかも、その過程で、これまで関税問題の陰に隠れていた強制労働などが新たな争点として浮上した。嵐が去るどころか、暴風域が広がったともいえる。 以下では、第一次トランプ政権の対中関税、第二次トランプ政権のIEEPA関税に続く“トランプ関税第3幕”についての現状と展望を紹介する。 (注) IEEPAに基づくトランプ関税導入と裁判の経緯について詳しくは、本連載【第20回】「「トランプ関税」と「ピラー2」~米・欧2つの最高裁審査~」参照   米最高裁がIEEPA関税(相互関税)を否定 トランプ大統領は2025年、米国の恒常的な貿易赤字や、合成麻薬・不法移民の流入を「国家緊急事態」と位置付け、IEEPAを根拠に広範な追加関税を導入した。IEEPAは、国家緊急事態に際して外国との経済取引を規制する法律であるが、歴代大統領が同法を根拠に関税を課した例はなかった。 最高裁は2026年2月20日のLearning Resources v. Trump判決で、IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていないと判断した。これにより、相互関税や麻薬対策関税などIEEPAに基づく措置は法的根拠を失い、同日、ホワイトハウスもIEEPAに基づく関税措置を終了させている(JETROビジネス短信2026年2月24日)。   IEEPA関税の還付 判決後は、すでに徴収された関税をどう還付するかが大きな実務問題となった。米税関・国境警備局(CBP)は4月20日、オンラインシステム「CAPE」を稼働させ、還付のための行政手続きを開始した。 米国の関税は、輸入時に見積関税額を申告・納付し、その後のliquidation(税額確定手続)で最終税額が確定する。当初の対象は、税額確定前の輸入申告及び税額確定後80日以内の輸入申告が中心だった。 さらに6月29日からは、輸入時には暫定価格で申告し、後日、移転価格などを反映して関税評価額を精算する「reconciliation」の対象申告にも、還付手続きが広がった。企業グループ内取引では、輸入後に取引価格を調整するケースが少なくない。このため、米国へ輸出する多国籍企業にとっても、IEEPA関税の還付を受けられる可能性が広がった。 ただし、すべての申告をCBPが行政手続きだけで還付できるかは、なお決着していない。不服申立て期間が過ぎ、法的に最終確定した申告までCBPが一律に行政手続きで処理できるのか、それとも輸入者が裁判を起こして個別の命令を得る必要があるのかについては、政府と裁判所の見解が対立している。政府は、訴訟を起こしていない輸入者の最終確定済み申告まで裁判所が行政手続きによる還付を命じることに異議を唱え、控訴している。したがって、対象企業には、行政還付の進展を待つだけでなく、申告の確定時期や不服申立て期限を確認し、必要に応じて権利保全のための司法手続きも検討することが必要になっている。 還付金は原則として米国の輸入者に支払われる。このため、日本の輸出者にとっても、誰が実質的に関税を負担していたのか、還付金を米国子会社に残すのか、仕切価格の調整によって日本親会社に戻すのか、在庫原価の調整や、移転価格税制上どのように処理するのかという問題が生じる。   時間稼ぎの122条、長期化を狙う301条 最高裁判決の直後、トランプ政権は1974年通商法122条に切り替え、2月24日から原則10%の一時的な輸入課徴金を導入した。122条は、深刻な国際収支上の問題に対処するため、最大15%の追加関税や輸入数量制限を認める制度である。ただし、議会が延長しない限り150日で失効する。現行措置も7月24日までの時限措置であり、トランプ大統領が求める恒久的な関税ではない。 122条にも訴訟が提起され、米国際貿易裁判所は5月、国際収支上の発動要件を満たさないとして、措置を違法と判断した。ただし、救済は訴訟の原告に限定された。さらに連邦巡回控訴裁判所が6月11日に判決の効力を停止したため、関税徴収は現在も続いている。122条は、最高裁判決後の空白を埋める「つなぎ」としては機能するが、恒久的な制度という観点からは不安定である。 そこで後継候補として重要なのが301条である。301条は、外国政府の措置・政策・慣行が「不合理又は差別的」で米国通商を負担・制限すると米国通商代表部(USTR)が認定した場合に、追加関税その他の対抗措置を認める(※)。IEEPAと異なり、調査、相手国との協議、事実認定、意見募集といった手続を予定しており、122条のような150日の自動失効もない。政権にとっては導入まで時間がかかる一方、発動後は長期化させやすい。実務的には、122条で時間を稼ぎ、その間に301条調査を仕上げる構図とみることができる(United States Trade Representative)。 (※) 本稿の「301条」は通常の通商法301条であり、1988年に導入された「スーパー301条」の手続きとは異なる。日本は1989年、スーパーコンピューター等をめぐる貿易慣行について優先対象に指定され、関税引上げなど米国による対抗措置の発動を避けて通商摩擦を解決するため、翌1990年、各分野の市場開放措置に合意した。 もう一つの候補が、一般に「201条セーフガード」と呼ばれる制度である。これは、不公正貿易の認定を要しない代わりに、特定品目の輸入急増が米国内産業に重大な損害を与えている、又はそのおそれがあると認定された場合に、関税引上げや輸入制限を行う制度である。太陽光製品など個別産業の保護には使えるが、全輸入品に一律関税を課すための制度ではない。 IEEPA関税による徴収額は1,600億ドル(約26兆円)を超えるとされる(米上院中小企業・企業家委員会)。これほど巨額の関税収入を一挙に失うことは政権にとって受け入れ難く、代替となる法的根拠を確保する強い動機がある。 米国の追加関税制度の一覧を「表」に示す。 〈表:米国の追加関税についての制度一覧〉 制度 (導入年・大統領) 対象となる問題・発動要件 主体・手続 可能な措置 主な制約・特徴 適用事例 IEEPA(国際緊急経済権限法) 1977年/カーター(民) 全部又は相当部分が米国外に源を有する「異常かつ重大な脅威」が、米国の安全保障・外交・経済に及ぶ場合。 大統領が国家緊急事態を宣言し、規則・命令・許可等により権限を行使。 外国為替、信用移転・支払、外国又はその国民が利害を有する財産取引・輸出入等の調査・規制・禁止。 最高裁は2026年2月20日、IEEPAは関税を授権しないと判示。資産凍結等の権限は残る。 1979年のイラン政府資産凍結。2025年の「相互関税」等は、2026年最高裁判決でIEEPAによる関税権限を否定。 通商法 122 条 1975年/フォード(共) ①巨額で深刻な国際収支赤字、②ドルの差し迫った大幅下落、③国際収支不均衡の国際協調是正が必要な場合。 大統領が発動。不公正行為の調査・認定は不要。 最大 15%の一時輸入追加関税、数量制限又は両者の併用(数量制限は、国際協定上許容され、追加関税だけでは有効に対処できない場合)。 原則 150 日以内(延長は法律が必要)。原則無差別で、対象は可能な限り広範・均一。個別産業保護を目的とする制度ではない。 大統領布告 11012 号:2026年2月24日から150日間、原則 10%(品目・協定上の除外あり)。 通商法 201 条 (セーフガード) 1975年/フォード(共) 特定品目の輸入増加が、同種又は直接競合する製品を生産する米国国内産業の重大な損害又はそのおそれの実質的原因となっている場合。 米国国際貿易委員会(USITC)が調査・認定し、救済措置を勧告。大統領が措置の有無・内容を最終決定。 追加関税、数量制限、関税割当て等。 不公正貿易の認定は不要。品目別の一時的措置で、当初最長4年、延長を含め最長8年。全輸入品への一律関税には不向き。 2018年(トランプ1次)、太陽光製品及び大型家庭用洗濯機。 通商法 301 条 1975年/フォード(共) 通商協定上の権利侵害、又は不当・不合理・差別的な外国措置が米国通商を負担・制限する場合。 米国通商代表(USTR)が申立て又は職権で調査し、対象国との協議、意見募集・公聴会等を経て決定。 通商譲許の停止、追加関税・輸入制限、外国サービスへの料金・制限、拘束的合意等。 原則、調査・協議・意見募集等の法定手続が必要。 2018年(トランプ1次)、中国の技術移転・知的財産慣行を調査し追加関税(第1弾は7月6日)。 通商法 232 条 1962年/ケネディ(民) 特定品目の輸入が、数量又は状況により国家安全保障を害するおそれがある場合。 商務長官が申請・他省庁の要請・職権で調査し、原則 270 日以内に報告。大統領は 90 日以内に判断し、措置は原則 15 日以内に実施。 輸入の「調整」。追加関税、数量制限、関税割当て、国別合意等。 15%上限・150日期限はない。商務省調査と国家安全保障上の認定が必要。措置は限定列挙されない。 2018年(トランプ1次)、鉄鋼 25%・アルミニウム 10%の追加関税(布告 9705 号・9704 号)。 UFLPA(ウイグル強制労働防止法) 2021年/バイデン(民) 新疆(ウイグル)で全部又は一部を生産した物品、又は対象リスト企業の製品は、強制労働によるものと推定。新疆由来の原材料・部品を含む第三国製製品も対象。 強制労働執行タスクフォース(FLETF・米国国土安全保障長官が議長)が戦略・対象リストを策定し、米国税関・国境警備局(CBP)が輸入時に審査。 留置、排除(輸入拒否)、押収等。 対象外ならサプライチェーン資料を提出。例外は、ガイダンス遵守・CBP照会への完全回答に加え、強制労働不使用を「明白かつ説得的な証拠」で立証。原材料までの追跡が事実上必要。 優先分野は綿、トマト、ポリシリコン等。2025年に銅、リチウム、鉄鋼等を追加。 (出所) 2026年7月3日現在の情報により筆者作成   強制労働301条調査――日本は12.5%案の対象? 現在、最も注目されるのが、強制労働を理由とする301条調査である。USTRは2026年3月、米国輸入の99%超を占める60の国・地域を対象に調査を開始し、6月2日、対象国について、強制労働産品の輸入を十分に規制していないため、米国企業が低コストの強制労働産品との不公正な競争にさらされていると認定した(USTR 2026年6月2日「USTR報告書」)。 提案されている措置は広い。強制労働産品の輸入禁止制度を有する国、又はその導入を米国に約束している国等には原則10%、それ以外には12.5%の追加関税を、Annex Aの除外品目を除く全産品に課すというものである。 日本は、報告書において国内で強制労働が行われていると認定されたのではないが、米国の1930年関税法307条に相当する「強制労働産品そのものの輸入禁止制度を持たない国」と評価され、問題がありうる54の国・地域の一つに分類された。この分類を現在の関税案に当てはめれば、日本は12.5%側に入ると考えられる。日本への批判の対象は、日本企業の個別製品ではなく、日本の輸入規制制度である(USTR報告書68頁)。 7月7日から9日まで公聴会が開かれた。議事録によると、日本を中国と同じ関税率の区分に置くことについて、両国の強制労働リスクや労働法の執行状況には差があり、一律に扱うのは妥当でないとの指摘があった(議事録2日目89頁)。一方、日本を含む40超の国・地域に派遣されたベトナム人労働者の多くが、債務拘束・強制労働の状態にあるとの指摘もなされている(92頁)。7月11日時点でUSTRが公表しているのは提案段階の措置であり、税率、除外品目、既存の232条・301条関税等との重複関係を含め、今後の最終決定を待つ必要がある。 今回の301条案は、強制労働対策を名目として、IEEPA関税や122条関税に代わる広範な関税を導入するものに見える。日本を含む多くの国も、国内法上、強制労働自体を禁止している。それにもかかわらず、米国と同様の輸入禁止制度を備えていないという制度上の形式的な差異を理由に、強制労働と無関係な物品を含む広範な輸入品に関税を課すことは、日本からみれば納得感に乏しい。しかも、通商法第301条は関税措置を明示的に予定しており、IEEPA関税よりも司法審査で覆されにくく、恒久化しかねないだけに、なおさらである。   301条とUFLPA(ウイグル強制労働防止法)――国別関税と個別貨物規制 米国の輸入規制として、強制労働を扱う制度としては、ウイグル強制労働防止法(UFLPA)があるが、今回の301条を巡る動きと比べた場合、両者の役割や効果は異なる。UFLPAは、中国の新疆ウイグル自治区で全部又は一部が生産された物品や、指定事業者が関与した物品について、強制労働によるものと推定し、個々の貨物の輸入を止める制度である(JETRO「UFLPA戦略概要」)。超党派の圧倒的な支持(上院は全会一致)を得て議会を通過し、2021年12月に成立している。 輸入者は、原材料、生産者、加工工程、輸送・支払記録などを結び付け、対象地域・事業者が供給網に含まれないことを示さなければならない。対象地域等との関係がある貨物について例外を求める場合には、「明白かつ説得力のある証拠」により、強制労働が用いられていないことを示す必要がある。最終製品がベトナム、日本その他の第三国で製造されていても、上流の原材料や部品に新疆等との関係があれば対象となり得る。 これに対し、今回の301条案は、個別貨物の強制労働関与ではなく、相手国の法制度が不十分であることを理由に、国単位で追加関税を課す。したがって、日本企業の製品は、供給網に新疆等との関係があればUFLPAによる留置・輸入拒否の対象となり得る一方、関係がなくても、日本原産品であることを理由に301条関税を負担させられる可能性がある。   事例が示す供給網証拠の重要性 米国市場への輸出を避けて通ることのできない日本多国籍企業にとって、追加関税の問題はもちろん重要だが、ウイグル強制労働防止法は米国への輸入そのものが制限される点でより深刻と言える。 Abalance社(太陽光パネルの製造・販売や太陽光発電所の開発・運営を手がける東証上場の再生可能エネルギー企業)の事例は象徴的だ。2026年4月の同社開示によれば、ベトナム子会社VSUNが製造した太陽光パネルがUFLPA審査の対象となり、同社はウイグル地域産原材料を使用していないと説明したが、当初輸入が認められなかった。その後6月26日の開示によれば、一部貨物について米国への輸入・販売が進んでいる。 関税率の上昇は、価格転嫁や利益率の問題として計算できる。しかし、UFLPAで貨物が止まれば、販売計画が狂うほか、追加コストが同時に生じる。しかも、問題となるのは「強制労働への関与やそのことについての認定」の回避ではなく、原材料の採掘・栽培段階から製造、輸送、決済までをつなぐサプライチェーンに問題がないことについての、検証可能な記録である。   トランプ関税劇場第3幕で注意すべきこと トランプ関税劇場の展開を振り返ると、IEEPA(最高裁判所による否定)⇒ 122条(150日間の時間稼ぎ)⇒ 強制労働を理由とする301条案(広範な追加関税)と言った流れを見て取ることができる。 IEEPA判決で変わったのは、関税政策の方向ではなく、関税を課すための法的な器である。短期は122条、より長期には「強制労働」に名を借りた301条、個別産業には201条セーフガードが使われる。 そうであれば、これからの日本多国籍企業にとって重要なのは、関税率を予測するだけでなく、輸入者との間で関税の負担関係(還付がある場合も含む)を明確にし、サプライチェーン情報を米国における通関証拠として保存できる体制を整えることが必要になる可能性がある。 次の節目は7月24日となる。10%の122条関税は、議会による延長がなければ同日で終了するため、それまでに強制労働301条案の最終決定又は別の代替措置が示されるかが焦点となる。 事業展開にあたっては、こうした点を見落とさないようにしておく必要があるだろう。 (了)
#678(掲載号)
#岡 直樹
2026/07/23
消費税・地方消費税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例160(消費税)】 「特定期間の課税売上高が1,000万円超であったため、給与等支払額の合計額が1,000万円以下であったにもかかわらず「2割特例」を適用しないで申告してしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例160(消費税)】   税理士 齋藤 和助       《基礎知識》 ◆特定期間における納税義務の免除の特例(消法9の2①) その事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合において、その事業年度に係る特定期間(その事業年度の前事業年度開始の日から6月間をいう)の課税売上高が1,000万円超であるときは、その事業年度における課税資産の譲渡等については納税義務が免除されない。 なお、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかの判定については、課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額により判定することができる。したがって、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えていても、給与等支払額の合計額が1,000万円以下であれば、免税事業者となれるため、「2割特例」は適用できる。 ◆適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)(平成28年改正法附則51の2①②) (1) 経過措置の内容 「2割特例」とは、インボイス発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になったこと又は免税事業者が「課税事業者選択届出書」の提出により課税事業者となった場合には、仕入税額控除の金額を、特別控除税額(課税標準である金額の合計額に対する消費税額から売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の100分の80に相当する金額)とすることにより、納付税額をその課税標準に対する消費税額の20%とすることができる経過措置である。 したがってインボイス発行事業者となる前から課税事業者である場合等には適用できない。 (2) 適用できる期間 「2割特例」を適用できるのは、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間である。このため、免税事業者である3月決算法人が令和5年10月1日から登録を受けた場合には、令和6年3月決算分(10月~翌3月分のみ)から令和9年3月決算分までの計4回の申告に適用することができる。 〈法人(3月決算の場合)〉 (出典) 財務省「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答」より一部抜粋 (3) 適用できない場合 次のような場合には「2割特例」の適用はできない。 (4) 適用を受けるための手続き 「2割特例」の適用に当たっては、事前の届出は必要ない。消費税の確定申告書に「2割特例」の適用を受ける旨を付記することにより、適用を受けることができる。       (了)
#678(掲載号)
#齋藤 和助
2026/07/23
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

[令和8年度税制改正解説]関連者間取引に係る書類の整理保存の特例創設の影響と実務対応 【前編】「改正の背景と特例措置の内容」

  1 はじめに 令和8年度税制改正により、関連者間取引に係る書類の整理保存の特例措置が創設されることとなった。本連載では、この新たに創設された関連者間取引に係る書類の整理保存の特例措置について解説する。 【前編】では、まず改正の背景と特例措置の内容について確認する。   2 改正の背景 企業グループ内の法人間取引、特に共通費用の配賦を伴う取引は、取引条件や対価の算定過程が不明確になりやすく、恣意的な支払額の調整が行われやすい傾向にある。現状、取引内容や支払額の根拠を詳細に確認できる資料が受領・作成されていない事例も見られ、既存の保存書類だけでは経費の支払額の適正性を十分に検証できず、正確な実態把握が困難であった。こうした弊害を解消すべく、本特例措置が設けられるに至った。   3 関連者間取引に係る書類の整理保存の特例措置 (1) 概要 企業グループ内の関連者(下記(3)参照)との間で関連者間取引(詳細は【後編】にて解説)を行った場合には、支払いを行う法人の法人税の課税所得の計算上保存が義務付けられている書類等にその取引に関する資産又は役務の提供の明細、その取引における支払金額の計算の明細及びその取引に係る支払金額を算定するために必要な事項の記載等がないときは、これらの事項を明らかにする書類等を取得・作成し、保存することを義務付けられることとなる。 (2) 適用対象法人 青色申告の承認を受けている内国法人、内国法人である普通法人等(普通法人、協同組合等並びに収益事業を行う公益法人等及び人格のない社団等)が適用対象となる一方、外国法人はその対象から除外されている(法規59の2、67の2)。 (3) 関連者の範囲 関連者は、対象法人との間に次の関係があるものをいう。移転価格税制における関連者と同様の基準により判定するが、移転価格税制と異なり外国法人に限定されないため、関連者には内国法人も含まれる点に留意したい(法規59の2③)。 ① 資本関係 イ 親子関係 2つの法人のいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式等(自己株式を除く)の50%以上を直接又は間接に保有する関係(法規59の2③一) ロ 兄弟姉妹関係 2つの法人が同一の者によってそれぞれその発行済株式等の50%以上を直接又は間接に保有される場合におけるその2つの法人の関係(法規59の2③二) ② 実質支配関係 次の事実その他これに類する事実(特定事実)が存在することにより2つの法人のいずれか一方の法人が他方の法人の事業の方針の全部又は一部につき実質的に決定できる関係(法規59の2③三) 基本的には資本関係により判定するが、役員の派遣、取引の依存状況、資金の貸付けなどによって実質的に法人の意思決定を支配しているケースを考慮し、実質支配関係も含まれる。 ③ 資本関係と実質支配関係の連鎖がある場合 イ 2つの法人が資本関係又は実質支配関係にある複数の法人を介して連鎖がある場合における2つの法人の関係(法規59の2③四) ロ 2つの法人が、同一の者との間で資本関係又は実質支配関係にある複数の法人を介して連鎖がある場合における2つの法人の関係(法規59の2③五) ④ 間接保有の計算 資本関係の場合、直接に保有する株式等の保有割合に間接に保有する株式等の保有割合とを合計した割合によって、50%以上の資本関係があるか否かを判定することとなっている(法規59の2④)。 なお、ここでいう間接保有の株式等の割合は、50%以上の出資の連鎖がある場合に足し算方式で計算する(法規59の2⑤)。これは掛け算方式による割合ではない点に留意が必要である。 (4) 関連者の判定時期 関連者に該当するかどうかは、それぞれの取引が行われた時の現況により判定する(法規59の2⑧)。 (5) 罰則 青色申告の承認の取消事由の一つに、その事業年度に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が法人税法126条(青色申告法人の帳簿書類)1項に規定する財務省令で定めるところに従って行われていないこととある(法法127①一)。 したがって、財務省令(法規59の2)で定められている一定の事項を記載した書類の保存がない場合には、青色申告の承認の取消事由となり得る。 (6) 適用開始時期 令和8年4月1日以後に開始する事業年度に行う関連者間取引について適用される(改正法規附則8)。   (了)
#678(掲載号)
#川瀬 裕太
2026/07/23
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

令和8年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第4回】

令和8年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第4回】   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   (2) 中小企業者の試験研究費に係る税額控除制度(中小企業技術基盤強化税制) ① 通算グループ全体の税額控除可能額の計算方法 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ② 各通算法人の税額控除可能分配額の計算方法 各通算法人は、次の算式により計算した税額控除可能分配額を税額控除限度額(税額控除額)とします。 ③ 通算法人の繰越税額控除額の計算方法 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (3) 特別試験研究費に係る税額控除制度(オープンイノベーション型) ① 通算グループ全体の税額控除可能額の計算方法 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ② 各通算法人の税額控除可能分配額の計算方法 各通算法人は、次の算式により計算した税額控除可能分配額を税額控除限度額(税額控除額)とします。   (続く)
#678(掲載号)
#足立 好幸
2026/07/23
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固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第62回】「実際に検収を行わずに検収書を作成し、機械装置の取得があったものとして税務処理をしたことは、単に事務的・形式的に検収書を作成、提出したにすぎないとして、重加算税の賦課決定処分が取り消された事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第62回】 「実際に検収を行わずに検収書を作成し、機械装置の取得があったものとして税務処理をしたことは、単に事務的・形式的に検収書を作成、提出したにすぎないとして、重加算税の賦課決定処分が取り消された事例」   税理士 菅野 真美   ▷重加算税が課されるためには 重加算税は、納税者が隠蔽又は仮装により適正な申告よりも過小な申告をし、又は申告自体しなかった場合のペナルティとして課される加算税の一つである。 重加算税が課されるためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その行為を原因として過少申告の結果が発生すること(昭和62年5月8日最高裁判所判決、TAINSコード:Z158-5922)が必要となる。 納税者の故意(主観的な意思)を外部から推し量るのは困難であるが、国税庁の「法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」において、たとえば、帳簿書類の改ざん(偽造及び変造を含む。以下同じ。)、帳簿書類への虚偽記載、相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成、帳簿書類の意図的な集計違算その他の方法により仮装の経理を行っている場合は、重加算税の対象とされる。 それでは、現品が到着した機械装置について、実際に検収を行わなかったにもかかわらず、検収書を作成し、納品請求書を取得し、機械装置として計上し、特別償却や普通償却を計上することは、重加算税の対象となる隠蔽又は仮装な行為に該当するか。この件で争われた事案を検討する。   ▷事案の概要 納税者は、主に土木設計、測量等を営んでいる1月決算の法人である。納税者は、車両に搭載するシステムと新車を注文した。なお、システム搭載後の車両のことを本件機械装置という。 本件機械装置は、旧措置法42条の6第2項に規定する特定生産性向上設備等に該当するものだった。 納税者は、平成29年1月25日、本件機械装置の検収書に同日付を記載し署名押印した検収書を提出し、同日付の納品請求書を受け取った。 納税者は、平成29年2月16日から17日にかけて、本件機械装置の概要説明と走行訓練の講習会に従業員を参加させ、講習会終了後、動作確認等の検査を完了した本件機械装置の引渡しを受けた。 納税者は、平成29年1月期に本件機械装置を総勘定元帳に計上するとともに、この事業年度において、本件機械装置の特別償却費と普通償却費を損金に算入する申告を行った。そして、課税庁は、平成31年1月28日付で、特別償却費等は損金の額に算入できないとして、法人税及び地方法人税の更正処分並びに重加算税の賦課決定処分、消費税の仕入税額控除ができないとして消費税等の更正処分及び重加算税の賦課決定処分を行った。納税者がこれを不服として審査請求したのが本件である。   ▷争点 争点は、以下の3点である。   ▷裁決 裁決は、(1)と(2)は適法であるが、(3)は、過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき、違法であり取り消すのが相当であるとした。 (1) 平成29年1月期に本件機械装置を事業の用に供したと認められるか否か 資産を事業の用に供したと認められるか否かは、業種、実態、その資産の構成及び仕様の状況を総合的に勘案し、その資産をその属性に従って本来の目的のために使用を開始したと言えるか否かによって判断するのが相当である。 本件機械装置について平成29年1月20日付で構造等変更の自動車検査の手続きを終え、1月25日に納品し、2月9日及び14日に機械装置の検査等を行い検査成績書等を作成し、その後、講習会終了後に引渡しを受けたことからすれば、機械装置をその属性に従って本来の目的のために使用を開始したといえるのは、2月17日以降になることは明らかだ。だから平成29年1月期において本件機械装置を事業の用に供したとは認められない。 (2) システムの「課税仕入れを行った日」は、平成29年1月期に属する日であるか否か 固定資産の課税仕入れを行った日について、資産の「引渡しがあった日」を原則とするものと解されるところ、納税者は、講習会終了後に機械装置の引渡しを受けたことからすれば、システムの「課税仕入れを行った日」は、平成29年2月17日となり、平成29年1月25日とは認められない。 (3) 通則法68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か 重加算税の適用要件が満たされるのは、納税者が当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をした場合である。 システムの販売担当者は、納税者に対し、経理上、検収書の提出を受けなければ納品請求書が発行できない旨説明し、機械装置に係る構造等変更の自動車検査を終了した後に検収書様式を送付するとともに、署名押印した後の検収書を提出するように依頼した。検収書の提出を受けた後に問題が生じた場合には、メーカーによる1年間の瑕疵担保責任により対応させることとしており、検収が実際に行われていたか否かではなく、検収書が存在することが重要であると認識していたと認められ、納税者が機械装置の検収を行った事実を確認していなかった。これらからすると検収書を単に事務的又は形式的に提出させたとみるのが相当だ。 納税者の代表者は、検収について、基本的に相手方から求められたら行うという程度であり、動作確認等を含めて必ず行っているものではない。納税者は、本件機械装置に限らず、実際の検収を伴わない形式上の検収でも問題は生じないとして、検収書を事務的に交付・提出したものとみるのが相当である。 そうすると、納税者が本件納品請求書の交付を受けるためにあえて作成・提出したと認めることはできない。したがって納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、外部からうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づき、法人税、地方法人税及び消費税等の過少申告をしたと認められる事実はないから、「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとは認められない。   ▷なぜ、実際に検収せずに検収書を送ったのか? このように、審判所は、「単に事務的・形式的に検収書を作成、提出したにすぎず、隠蔽し、又は仮装には該当しない」として、重加算税の決定処分については取り消した。 ところで、裁決書を読むと、納税者の主張として「本件機械装置を所有しなければ入札できない案件への事業提案及び参加表明を平成29年1月に行っている。」という極めて興味深い記載がある。 納税者としては、どうしても受注したい事業の入札があり、そこに参加するためには「1月中」に本件機械装置を所有していることが必須条件だったため、実際の検収を待たずに、検収書に署名押印して送り返したのが事実に近いのではないだろうか。しかし、もし税務調査や不服申立ての場で「1月の入札に間に合わせるために、あえて形式だけ1月中に取得したことにした。」と主張してしまえば、それこそ「過少申告の意図をもった仮装隠蔽」ととらえられ、重加算税を免れ得なかった可能性が高い。 そこで納税者は、「過少申告の意図はなく、あくまでも日常的な事務処理上の問題(ルーズさ)にすぎない。」という方向性で一貫して主張を展開した。その結果、見事に重加算税の取消しを勝ち取ったのだとすれば、これは納税者側の見事な「戦術の勝利」であったと言えるだろう。 (了)
#678(掲載号)
#菅野 真美
2026/07/23
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