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労務・法務・経営 法務

空き家をめぐる法律問題 【事例66】「空き家の引取サービスを利用する場合の留意点」

空き家をめぐる法律問題 【事例66】 「空き家の引取サービスを利用する場合の留意点」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私は、傾斜地上にある空き家を所有していますが、立地上、売却できる目途も立たないことから、空き家の引取サービスを利用したいと考えております。 引取サービスを利用する場合の留意点を教えてください。   1 検討の視点 空き家の増加に伴って、管理負担や売却に要する期間の長期化を回避する手段として、所有者が引取業者に対し金銭を支払って空き家を引き取ってもらう「引取サービス」の利用が見られるようになってきた。国土交通省の調査によれば、インターネット上で引取サービスを提供する事業者は59社(うち宅建業者38社)確認されており、本社所在地の約5割が東京都に集中しているとのことである。 引取サービスは、空き家の所有者の需要に応じるものであり、適正に取引が行われる限りにおいて有用なサービスである。一方で、その中には宅地建物取引業法の規制が及ばない問題等もあることから、本事例では引取サービスの利用上の留意点を検討することにしたい。   2 引取サービスに関する問題と留意点 (1) 所有権移転登記手続の確保 通常の売買契約の場合、代金の決済と同時に所有権移転登記手続が行われるところ、引取契約において、引取業者が所有権移転登記手続を行うまで所有権が移転しないものと定められている場合、所有者は引取料を支払ってもなお所有権を保有し続けることになる。そのため、所有者として相隣関係上の責任を負うほかに、当該空き家の損傷等によって第三者に損害を発生した場合には、所有者として民法第717条に基づく損害賠償責任を負うおそれもある。 そこで、空き家の所有者として引取サービスを利用する際には、所有権移転登記手続が完了したことを条件に引取料を支払うことや、引取料と所有権移転登記手続を同時履行とする場合でも、引取業者に登記手続を行う期限を設け、その期限までに履行されない場合には契約を解除できること等を引取契約に含めるべきである。 (2) 適正な料金の確認 空き家に限らず不動産の所有者が引取サービスを利用する場合、それ以前に宅建業者に依頼して売却を試みたものの、買手が見つからなかったケースも少なくないと考えられる。もっとも、所有者が引取料を支払う形式の引取サービスは、所有者が所有権を譲渡する点では売買契約と本質的には同じであるが、宅地建物取引業法の規制を受けないため、当該規制を受けない様々な事業者が関与しうることになる。場合によっては、本来であれば宅建業者に依頼すれば適正価格で売却できたような物件まで、所有者の「空き家を手放したい」との心理に乗じて引取サービスの対象とされてしまう可能性もあるため留意が必要である。 また、一定の価値のある空き家を、引取料を支払って引取業者(法人)に譲渡した場合には、譲渡所得税の課税対象となる可能性があり(所得税法第59条第1項第1号)、予期しない税負担が生じるおそれがある。 そのため、空き家の所有者としては、引取サービスを利用に先立ち、宅建業者等の不動産取引の専門家に相談の上、利用の可否を慎重に検討するべきである。 (3) 追加費用・法的責任等の免除の有無の確認 引取サービスを利用して空き家を譲渡する場合には、通常の売買契約と同様に、引渡後に契約不適合責任を負わないように、引取契約に「現状有姿」での引渡しを行う旨及び契約不適合責任を免除する旨の内容を含めておくべきである。 また、引取料やその他の費用負担についても、事前に十分な確認が必要である。引取サービスそのものの問題ではないが、近年、1970年代から1980年代にかけて被害が多発した「原野商法」の二次被害が問題視されている。具体的には、原野商法によって価値のない不動産を所有することになった被害者に対し、「土地を買い取る」などと勧誘を行い、調査費用等の名目で金銭を支払わせたり、別の無価値な山林や原野を時価を大きく上回る価格で購入させたりする手法がとられている。 このような問題は、「価値のない不動産を早く手放したい」という所有者心理を悪用する点で、空き家の引取サービスにおいても生じうるものである。したがって、空き家の所有者としては、引取料がどのように設定されているのか、また引取料以外に追加費用が発生するか否か、発生する場合にはその内容や条件について、引取契約の締結前に専門家に相談しておくことが好ましい。   3 引取サービスの今後の動向 引取サービスは空き家の所有者のニーズにも応えるものであり、今後も拡大していくことが見込まれる。その一方で、上記2で指摘した事項に限らず、様々な問題が生じうる可能性がある。 このような状況を受けて、令和5年には、引取サービスを行う民間事業者によって「不動産有料引取業協議会」が設立され、行動指針や安全基準が策定されている。そこで示された指針や基準は、空き家の所有者が引取サービスの利用を検討する際に一定の参考となるものであり、今後の引取サービスの拡大に伴って、さらなる充実が期待されるところである。 また、上記2の(2)でも指摘したように、引取料を支払う形式での引取サービスには、宅地建物取引業法が適用されない。今後の取引実態等を踏まえて、宅地建物取引業法を含めた法規制の対象になる可能性もあることから、今後の法規制の動向についても注視していく必要がある。 (了)
#617(掲載号)
#羽柴 研吾
2025/05/08
読み物 連載

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第92話】「プロ野球選手の必要経費」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第92話】 「プロ野球選手の必要経費」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「それにしても・・・すごい金額ですね・・・」 浅田調査官は顔を赤くして、中尾統括官のところにやってくる。 「・・・何をそんなに興奮しているんだ?」 稟議書を読んでいた中尾統括官は、顔を上げる。 「これですよ・・・」 そう言うと、浅田調査官は、手に持っていた新聞を見せる。 (※) 朝日新聞digital(2025.4.2)より 中尾統括官は、新聞を見ながら、ため息をつく。 「・・・飲食代が3年間で、2億4,000万円ということは・・・年間8,000万円を飲み食いに使っていたということだが・・・そんなに飲み食いをすれば・・・身体に悪いんじゃないか?」 中尾統括官はそう言うと、浅田調査官を見る。 「たしかに・・・年間8,000万円も飲食代に使うこと自体、異常ですよね・・・たとえ同僚の選手と一緒に飲み食いしていたとしても・・・」 浅田調査官は、羨ましそうに言う。 「・・・ところで、新聞では3年間の修正申告となっていますが、税法の除斥期間を考えると、5年間の修正申告書を提出してもらわなければいけないんじゃないですか?」 浅田調査官は手元の「税務六法」を手に取り、国税通則法70条1項を開く。 「・・・国税通則法70条は、課税庁の更正、決定等の期間制限の規定ですが・・・納税者に提出を求める修正申告も、この規定にならって・・・通常5年間、遡って修正申告を納税者に求めるものではないのでしょうか・・・」 浅田調査官は、不満そうに言う。 「納税者との交渉の結果・・・なのかもしれないな。」 中尾統括官は、苦笑する。 「・・・僕が担当の税務調査官であれば、5年間の修正申告書の提出を求めます・・・もし納税者が拒否をすれば・・・その時には・・・更正処分をします。」 浅田調査官の語気は荒い。 「・・・ほう・・・強気だな・・・」 中尾統括官は興味深そうに、浅田調査官の顔を見る。 「・・・また、飲食代については・・・3年間だけではなく、過去にも同じような支出をしていたと考えられます・・・普通の納税者であれば税務署は、5年間の修正申告を求めると思うのです・・・坂本選手の修正申告をさらに2年間遡ると・・・1億6,000万円の増差所得(1年間当たり8,000万円の飲食代があると仮定)になりますからね・・・」 浅田調査官は、まだ赤い顔をしている。 「ところで・・・君は確か・・・巨人ではなく、ヤクルトのファンだったな。」 中尾統括官は、笑いながら言う。 「それは・・・関係ありません。」 浅田調査官は、きっぱりと言う。 「あと実は・・・もう1つ疑問があるのです・・・このケースでは、なぜ重加算税を決定しなかったのでしょうか?」 浅田調査官がたずねる。 「悪質な申告漏れにはあたらない・・・とされてはいますが・・・8,000万円の飲食代が否認されているのだから、「悪質ではない」なんて、言えるのでしょうか・・・私だったら、重加算税を賦課決定処分します。」 浅田調査官は、さらに六法で国税通則法68条1項を開き、中尾統括官に見せる。 (※) 条文内の括弧書き等、一部を省略。 「今回のケースは・・・隠蔽又は仮装に該当する・・・というのか・・・」 中尾統括官は、条文を見ながらつぶやく。 「・・・最高裁平成7年4月28日判決では・・・納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からも伺いうる特段の行為をした上、その意図に基づく過少申告をしたように場合には、重加算税の賦課要件が満たされている・・・と述べられています・・・」 浅田調査官は、最高裁の判断をそらんじている。 「・・・同僚らとの8,000万円の飲食代の支出が・・・野球(事業)に関連する必要経費に該当するということは常識的に考えられないことから、それらの支出金額をあえて必要経費に入れるということは・・・過少申告の意図を外部からも伺いうる特段の行為に該当する・・・と思うのです・・・」 中尾統括官は腕を組んだまま、感心した様子で浅田調査官の説明を聞いている。 「たしか、この最高裁の事件は・・・株式等の売買による所得が1億円ほどあったと認識していたにもかかわらず、これをまったく申告書に記載しなかったというもので・・・顧問税理士や証券会社の担当者からも申告するよう注意を受けていたと認定されていたな・・・」 中尾統括官は、事件の概要を思い出す。 「それにしても、これだけの金額の飲み食い代が必要経費に該当しないことを・・・顧問税理士は坂本選手へ助言しなかったのですかねえ・・・」 浅田調査官は、首をかしげる。 「・・・新聞では・・・従来認められていた自主トレなどの費用も含めて否認された・・・と書かれていますが、野球選手として必要な自主トレなどの費用については、税務署は否認しないでしょう・・・」 浅田調査官は、憮然として言う。 「そうだな・・・野球選手として必要な自主トレなどの費用については、もちろん、税務署は否認することができない・・・新聞では、従来から認められていた費用なんて弁明しているが・・・疑問だな・・・」 中尾統括官は、苦笑しながらうなずく。 (つづく)
#617(掲載号)
#八ッ尾 順一
2025/05/08
お知らせ 会計 会計情報の速報解説 税務・会計 財務会計 速報解説一覧 開示関係

《速報解説》 新リース会計基準等を受け、金融庁が「特定目的信託財産の計算に関する規則」等の改正案を公表

《速報解説》 新リース会計基準等を受け、 金融庁が「特定目的信託財産の計算に関する規則」等の改正案を公表   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025(令和7)年4月28日、金融庁は、「「特定目的信託財産の計算に関する規則」等の改正(案)」を公表し、意見募集を行っている。 これは、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等を受けたものである。 意見募集期間は2025年5月29日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 以下では、「特定目的信託財産の計算に関する規則」(案)について解説する。 「投資信託財産の計算に関する規則」(案)などの主な改正内容も基本的に同様である。 1 定義 賃貸等不動産の定義について、「所有する不動産」を「所有し、又はリースにより使用する権利を有する不動産」と改正する(2条2項11号)。 また、使用権資産を定義し、リースの対象となる資産を使用する権利をいうとする(2条2項12号)。 ファイナンス・リース、所有権移転ファイナンス・リース、所有権移転外ファイナンス・リースも定義する(2条2項13号~15号)。 2 資産及び負債 資産の内容において、使用権資産を規定し、また、負債の内容において、リース負債を規定する(17条、26条)。 3 注記 「リースに関する注記」において、次の事項の注記を規定する(重要性の乏しいものを除く。22条)。 ただし、金融商品取引法24条5項において準用する同条1項の規定による有価証券報告書を提出しなければならない受託信託会社等以外の受託信託会社等は、当該事項の注記を要しない(22条1項)。 「特定目的信託財産の計算に関する規則」(案)22条1項の規定にかかわらず、ファイナンス・リースの借手である受託信託会社等が当該ファイナンス・リースについて資産及び負債を計上する会計処理を行っていない場合におけるリースに関する注記は、リースの対象となる資産(固定資産に限る)に関する事項とする(22条2項)。 この場合において、当該資産の全部又は一部に係る次に掲げる事項(各資産について一括して注記する場合にあっては、一括して注記すべき資産に関する事項)を含めることを妨げない(22条2項)。 「金融商品に関する注記」において、金融商品(リース負債を除く)の時価に関する事項と改正する(8条の2)。また、「賃貸等不動産に関する注記」も改正する(8条の3)。   Ⅲ 施行期日等 パブリックコメント終了後、所要の手続を経て公布、施行の予定である。 経過措置に注意する。 (了)
#阿部 光成
2025/05/01
お知らせ 会計 会計情報の速報解説 四半期(中間) 税務・会計 財務会計 速報解説一覧

《速報解説》 期中財務諸表に関する会計基準(案)及び同適用指針(案)が公表される~中間会計基準及び四半期会計基準等を統合、意見募集は6月30日まで~

《速報解説》 期中財務諸表に関する会計基準(案)及び同適用指針(案)が公表される ~中間会計基準及び四半期会計基準等を統合、意見募集は6月30日まで~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年4月23日、企業会計基準委員会は、「期中財務諸表に関する会計基準(案)(以下「期中会計基準(案)」という)」(企業会計基準公開草案第83号)等を公表し、意見募集を行っている。 上場会社及び財務諸表利用者から中間決算と四半期決算は同じ会計基準等に基づいて行うべきであるとの意見が聞かれていたことから、「中間財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第33号)と「四半期財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第12号)などについて、統合した会計基準等とし、「期中財務諸表に関する会計基準(案)」及び「期中財務諸表に関する会計基準の適用指針(案)」などとして開発するものである。 意見募集期間は2025年6月30日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 開発にあたっての基本的な方針 同じ企業が作成する期中財務諸表であるにもかかわらず金融商品取引法と金融商品取引所の定める規則のいずれに基づくかにより会計処理に不整合が生じることは適切ではないと考えられることから、次の考え方を採用している(期中会計基準(案)BC14項~BC18項)。   Ⅲ 範囲 期中会計基準(案)は、期中財務諸表を作成する場合に適用する(期中会計基準(案)3項)。 ただし、第二種中間連結財務諸表及び第二種中間財務諸表については、「中間連結財務諸表作成基準」、「中間連結財務諸表作成基準注解」、「中間財務諸表作成基準」及び「中間財務諸表作成基準注解」を適用する。 金融商品取引法に基づく半期報告書において開示される第二種中間連結財務諸表及び第二種中間財務諸表については、従前より中間作成基準等が適用されており、引き続き中間作成基準等が適用される(期中会計基準(案)3項)ため、期中会計基準(案)の適用対象となる期中財務諸表には含まれない(期中会計基準(案)BC22項)。 また、臨時計算書類については、期中会計基準(案)の適用対象とする期中財務諸表には含まれないと考えられている(期中会計基準(案)BC22項)。   Ⅳ 定義 例えば、次の定義が規定されている(期中会計基準(案)4項)。   Ⅴ 期中連結財務諸表の範囲 期中連結財務諸表の範囲は、「包括利益の表示に関する会計基準」(企業会計基準第25号)に従って、1計算書方式による場合、期中連結貸借対照表、期中連結損益及び包括利益計算書、並びに期中連結キャッシュ・フロー計算書とする(期中会計基準(案)5項)。 また、2計算書方式による場合、期中連結貸借対照表、期中連結損益計算書、期中連結包括利益計算書及び期中連結キャッシュ・フロー計算書とする。 期中個別財務諸表の範囲は期中会計基準(案)6項に規定されている。   Ⅵ 会計処理 次のように規定されている(期中会計基準(案)9項、10項、14項)。   Ⅶ 有価証券の減損処理などの個別の項目 前述の「Ⅱ 開発にあたっての基本的な方針」で述べた原則に照らして、個別に検討を行った項目は次のとおりである(期中会計基準(案)BC16項)。 有価証券の減損処理及び棚卸資産の簿価切下げに係る方法については、洗替え法が原則とされている(期中適用指針(案)4項、7項)。 ただし、期中適用指針(案)の適用前に「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第32号)又は「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第14号)に基づき切放し法を適用していた場合には、継続して切放し法を適用することができる(切放し法を適用する場合には、その旨を注記する)。 期中会計基準(案)は、上記の個別に検討を行ったものを除いて、基本的に「四半期財務諸表に関する会計基準」等と「中間財務諸表に関する会計基準」等の定め及び考え方を引き継いでいる(期中会計基準(案)BC17項)。 このため、期中会計基準(案)の開発にあたり再検討を実施せずに考え方を引き継いでいるものについては、「四半期財務諸表に関する会計基準」等及び「中間財務諸表に関する会計基準」等の結論の背景をそのまま引用することが考えられる(期中会計基準(案)BC17項)。   Ⅷ 期中財務諸表の科目の表示 次のように規定されている(期中会計基準(案)21項、22項)。   Ⅸ 注記事項 重要な会計方針について変更を行った場合に関する事項、セグメント情報等に関する事項、収益の分解情報に関する事項などについて規定されている(期中会計基準(案)24項)。   Ⅹ 6ヶ月ごとより高い頻度で期中財務諸表を作成する場合 第一種中間財務諸表及び四半期財務諸表に共通の取扱いと、四半期財務諸表のみに適用される取扱い(6ヶ月ごとより高い頻度で期中財務諸表を作成する場合の固有の取扱い)を区分し、6ヶ月ごとより高い頻度で期中会計基準(案)に従い期中財務諸表を作成する場合には、期中会計基準(案)28項から33項に定める事項を除いて、期中会計基準(案)9項から26項を適用するとされている(期中会計基準(案)27項、BC18項(1))。 例えば、期中キャッシュ・フロー計算書の開示の省略について規定されている(期中会計基準(案)33項)。   Ⅺ 適用時期等 20XX年4月1日[公表後最初に到来する年の4月1日を想定している]以後開始する連結会計年度及び事業年度の最初の期中会計期間から適用する(期中会計基準(案)34項)。 期中会計基準(案)の適用初年度において、期中会計基準(案)の定めに従い会計方針を変更する場合には、新たな会計方針を適用初年度の最初の期中会計期間から将来にわたって適用する(期中会計基準(案)35項)。 (了)
#阿部 光成
2025/04/25
お知らせ その他お知らせ

プロフェッションジャーナル No.616が公開されました!~今週のお薦め記事~

2025年4月24日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.616を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2025/04/24
税務 税務・会計 解説 解説一覧

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第48回】「所得税法56条の解釈適用に関する2つのアプローチ」-所得税法56条弁護士「夫」税理士「妻」事件に係る各審級裁判所の判断の比較検討-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第48回】 「所得税法56条の解釈適用に関する2つのアプローチ」 -所得税法56条弁護士「夫」税理士「妻」事件に係る各審級裁判所の判断の比較検討-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 今回は、所得税法56条弁護士「夫」税理士「妻」事件を取り上げ、所得税法56条の解釈適用について、同事件の第一審・東京地判平成15年7月16日判時1891号44頁(以下「平成15年東京地判」という。なお、同判決は「国破山河在」(杜甫)に擬えて「国敗れて[東京地裁民事]三部あり」といわれた藤山判決(藤山雅行裁判官)の1つである)と、控訴審・東京高判平成16年6月9日判時1891号18頁(以下「平成16年東京高判」という)及びこれを是認した上告審・最判平成17年7月5日税資255号順号10070(以下「平成17年最判」という)とを比較検討することにする。平成17年最判は、所得税法56条の解釈適用については所得税法56条弁護士「夫婦」事件・最判平成16年11月2日訟月51巻10号2615頁(以下「別件平成16年最判」という)を参照しているので、この判決も上記の比較検討において考察の対象とすることにする。 上記の2つの事件で争点となったのは、所得税法56条が「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族」として定める要件(以下「家族同一生計要件」という)と、「その居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合」として定める要件(以下「家族事業稼得要件」という)という2つの要件の解釈適用である。 これらの要件は所得税の課税単位とも関連する内容をもつので、前記各判決の比較検討に入る前に、ここで、課税単位に関して家族同一生計要件と家族事業稼得要件の位置づけを行っておくことにする。 課税単位とは、所得税の場合には、「税額算定の基礎となる人的単位あるいは担税力の測定単位」(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【202】)をいうが、所得税における課税単位の制度設計については、大別すると、個人単位主義、夫婦単位主義及び家族単位主義という3つの類型が従来から議論されてきた(わが国における代表的な研究として、金子宏「所得税における課税単位の研究」同『課税単位及び譲渡所得の研究 所得課税の基礎理論 中巻』(有斐閣・1996年)1頁[初出・1977年]参照)。また、課税単位の類型は、所得概念論の観点から、取得型所得概念を前提として稼得単位主義と、所得の使途のうち「消費」に着目して消費単位主義とに分類されることもある(ただ、後者は夫婦単位主義及び家族単位主義と結びつけて論じられることが多いが、この点については金子・前掲論文4-6頁、前掲拙著【203】参照)。 わが国の所得税は、明治20年(1887年)の創設以来、家族単位主義を採用してきたが、第二次世界大戦後、昭和24年(1949年)のシャウプ勧告を受けて翌年の所得税法改正によって個人単位主義を採用し今日に至っている(所税2条1項3号~5号参照)。ただし、所得税法56条は個人単位主義の例外として一種の家族単位主義を採用したものと解される(前掲拙著【205】参照。金子・前掲論文42頁は「わが国の制度は、個人単位主義をとりつつも、・・・・・・家族に支払う対価の必要経費不算入(所得税法56条)によって、家族単位主義の要素を加味したものとなっている。」とする)。このような理解は、岡山地判平成12年9月19日税資248号749頁(以下「平成12年岡山地判」という)の次の判示(下線・傍点筆者)でも示されているところである。 ところで、個人単位主義については、稼得単位主義と消費単位主義のいずれによっても、課税単位の制度設計に違いが生ずることはないのに対して、夫婦単位主義や家族単位主義については、稼得単位主義と消費単位主義のいずれによるかで課税単位の制度設計に違いが生ずる場合があり得る。所得税法56条の適用場面はまさにそのような場合である。所得税法56条が採用する家族単位主義について、(1)稼得単位主義の観点から解釈適用を行うか又は(2)消費単位主義の観点から解釈適用を行うかで、同条の解釈適用の結果に違いが生ずるのである。その違いが平成15年東京地判と平成16年東京高判及び平成17年最判との結論の違いに帰結したと考えるところであるが、以下では、このことを本件各審級裁判所の判断の比較検討を通じて明らかにすることとする。 その際、所得税法56条において消費単位主義は家族同一生計要件として、稼得単位主義は家族事業稼得要件として具体化され要件化されているとの理解の下に、上記(1)を「家族事業稼得要件重視アプローチ」、上記(2)を「家族同一生計要件重視アプローチ」とそれぞれ呼ぶことにする(田中治「親族が事業から受ける対価」税務事例研究77号(2004年)25頁は家族事業稼得要件を単に「事業要件」、家族同一生計要件を単に「生計要件」と呼び、両要件は「法56条の解釈適用においてその比重が違うというべきである」(36頁)と述べているが、結論はともかく着眼点には本稿と共通するところがある)。   Ⅱ 家族事業稼得要件重視アプローチと家族同一生計要件重視アプローチ 1 伝統的アプローチ 所得税法56条の解釈適用に関する平成15年東京地判以前の裁判例の傾向について、次のような指摘がされている(品川芳宣「判批」税研113号(2004年)103頁、105頁。傍点筆者)。なお、次の引用文中にいう「旧法」について「昭和25年シャウプ税制改正後の所得税法」という補足説明を加えたが、それ以降の叙述では「旧法」という略称をそのまま用いることにする。 そのような裁判例の「代表例」(品川芳宣「判批」TKC税研情報13巻1号(2004年)38頁、44頁)とされる東京地判平成2年11月28日税資181号417頁は次のとおり判示している(下線・傍点筆者。以下「平成2年東京地判」という。所得税法56条の趣旨について同様の理解を示すものとして、東京高判平成3年5月22日税資183号799頁、東京高判平成12年6月29日税資247号1428頁等参照。ほかに、家族同一生計要件に該当する事実の認定だけで所得税法56条の適用を肯定するものとして、京都地判昭和58年9月9日シュトイエル262号40頁、高松高判平成10年2月26日税資230号844頁等参照)。 平成15年東京地判の直前に示された、別件平成16年最判の原々審・東京地判平成15年6月27日税資253号順号9382も、次のとおり判示している(下線筆者)。 このように、従来の裁判例は、家族同一生計要件の「一律」適用によって、家族事業稼得要件に関する個別的判断なしに、所得税法56条の適用を肯定する傾向にあったとみてよく、その意味で、裁判例の伝統的アプローチは家族同一生計要件重視アプローチであったといえよう。 ただ、従来の裁判例が判示した所得税法56条の趣旨は、「支払われた対価をそのまま必要経費として認めることとすると、個人事業者がその所得を恣意的に家族に分散して不当に税負担の軽減を図るおそれが生じ、また、適正な対価の認定を行うことも実際上困難であることから、そのような方法による税負担の回避という事態を防止するために設けられたもの」(平成2年東京地判)というようなものであるが、これは、個人事業者(事業主)の所得稼得に着目し稼得所得に対する所得税負担の回避を防止することを意味することから、家族事業稼得要件の正当根拠としては妥当であるとしても、それ自体では家族同一生計要件の「一律」適用を正当化することはできないように思われる。むしろ、平成15年東京地判の次の判示(下線・傍点筆者。以下「平成15年東京地判㋐判示」という)と結び付いて初めて、家族同一生計要件の「一律」適用を正当化することができるように思われる。 つまり、家族同一生計要件の「一律」適用は、上記の判示にいう「それが家計費、すなわち法45条にいう家事関連費との区別が困難であること」の考慮すなわち所得税法における「家事費排除の原則」(前掲拙著【316】。税制調査会『所得税法及び法人税法の整備に関する答申』(昭和38年12月)43頁は「家事費を除外する所得計算の建前から所得計算の純化を図るためには家事費との区分が困難な経費等はできるだけこれを排除すべしとする考え方」とする)に基づき正当化することができるように思われるのである。このことは、平成15年東京地判㋐判示の直前の次の判示(下線・傍点筆者)からも読み取ることができるように思われる。 この判示とりわけ下線部からは、旧法11条の2は、事業主の支出それ自体について直ちに家事費該当性を認める規定ではなく、事業主にとって「本来必要経費と認めるべき労務の対価等」(平成15年東京地判㋐判示)が生計を一にする親族等に支払われ当該親族等がこれをその生計の資に充てることを想定した上で、そのいわば「反射的効果」として事業主の当該支出について家事費該当性を認める規定であるという解釈論(以下「支払対価の反射的性質決定論」という)が成立する可能性を読み取ることができるように思われる。平成15年東京地判㋐判示がその末尾で「この限度で正当」と認めた「被告らの主張」については、同判決の中で別途次の説示がされているが(下線筆者)、これは支払対価の反射的性質決定論に基づいて行われた主張であると解される。 ともかく、支払対価の反射的性質決定論は、所得税法56条の解釈適用に当たって、家族同一生計要件重視アプローチに立脚し、家族事業稼得要件の解釈においても家族同一生計要件重視の考え方を貫徹するための解釈論であるといってよかろうが、これによれば、事業主から生計を一にする親族等に支払われた労務の対価等のうちその親族等が当該生計の資に充てるものは、結局、「親族等が受ける所得」には含まれない(平成12年岡山地判の表現を借りると、事業主が「自己の所得として内部留保する」)ことになると考えられるのである。 2 平成15年東京地判のアプローチ ところが、支払対価の反射的性質決定論は、平成15年東京地判㋐判示に続く次の判示(下線筆者。以下「平成15年東京地判㋑判示」という)によって否定された。 なお、この判示中の下線部に関連して、平成15年東京地判は前記の「被告らの主張」に対して次のとおり説示している(下線筆者)。この説示は、傍論的な説示ではあるものの、支払対価の反射的性質決定論を否定する論拠を示そうとするものであるから、長くなるがそのまま引用しておこう。 ただ、この説示は、支払対価の反射的性質決定論が所得税法56条の定める家族同一生計要件の解釈論として主張される一種の租税回避否認論(後記Ⅲ参照)であることを必ずしも正解しているようには思われない。 いずれにせよ、平成15年東京地判は、平成15年東京地判㋑判示に加えて、所得税法56条の立法経緯及び立法趣旨に関する検討に先立って行った家族事業稼得要件中の「Aその他のB」タイプの文言に係る「文理、、」解釈(「その他の」という法令用語の通例の用法に従って行われる解釈)をも踏まえて、次のとおり判示した。 要するに、平成15年東京地判は、家族事業稼得要件重視アプローチに立脚し、同要件を限定解釈することによって、結果的には、家族同一生計要件の「一律」適用を否定したのである。 3 平成16年東京高判及び平成17年最判のアプローチ これに対して、平成16年東京高判は、平成15年東京地判㋐判示及びその直前の前記判示と基本的には同じ内容の判示を行いつつも、これらの判示に続く判断を、平成15年東京地判㋑判示の冒頭の「しかし」で始めるのではなく、「以上を踏まえて」で始めて「以上を踏まえて、法56条にいう『事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合』の解釈を明らかにする。」として、旧法11条の2の立法趣旨等及び同条中の「Aその他のB」タイプの文言に係る趣旨、、解釈を行い、その解釈の結果を次のとおり判示している。 このように、平成16年東京高判は、平成15年東京地判以前の裁判例と同じ立場(伝統的アプローチ)に立ち戻ったのであるが、平成17年最判も次のとおり判示してこれを支持した。 ここで参照されている別件平成16年最判は次のとおり判示している(下線筆者)。   Ⅲ 家族同一生計要件の租税回避否認要件としての意義 以上で検討してきたように、平成15年東京地判と平成16年東京高判及び平成17年最判とは所得税法56条の解釈適用の立脚点を異にするものであること、すなわち、前者が家族事業稼得要件重視アプローチに立脚し、後二者が家族同一生計要件重視アプローチに立脚したことが、前者と後二者との結論の違いに帰結したと考えるところである。 ただ、平成15年東京地判㋐判示及びその直前の前記判示については、前述のとおり、平成16年東京高判も基本的にはこれと同じ内容の判示を行っていることからすると、平成15年東京地判と平成16年東京高判との「判断の分かれ目」は、結局、支払対価の反射的性質決定論(に基づく前記の「被告らの主張」)を認めるか否かにある、といってよかろう。 既に述べたとおり、平成15年東京地判㋐判示からは、支払対価の反射的性質決定論を認めることができるように思われるが、平成15年東京地判は、この判示に「しかし」で逆接し、したがって、支払対価の反射的性質決定論を否定した上で、「同条のうちシャウプ勧告と異なる部分については、当時の所管官庁の理解からしても親族等が事業自体に参加又は雇用されて得た対価に限定されるものと解すべきであるし、その立法理由もそれらの支払は家事関連費との区別が困難であるという点に尽きるのである」(平成15年東京地判㋑判示の冒頭)と判示し、もって家族同一生計要件の「一律」適用を否定したのに対して、平成16年東京高判は、「以上を踏まえて」で順接し、したがって、支払対価の反射的性質決定論を踏まえて、家族事業稼得要件を特に限定解釈することなく、家族同一生計要件の「一律」適用を肯定したのである。 平成15年東京地判については、これを基本的に支持する見解(肯定説)も多い(田中・前掲税務事例研究42頁、三木義一「判批」税理46巻14号(2003年)10頁、14頁、増田英敏「判批」月刊税務事例35巻12号(2003年)1頁、4頁、渡辺充「判批」税務弘報53巻11号(2005年)8頁、13頁等参照。なお、反対する見解としては、品川・前掲「判批」TKC税研情報46頁以下及び税研105-106頁、伊藤義一「判批」TKC税研情報13巻3号(2004年)1頁、11頁以下、久乗哲「判批」税研114号(2004年)87頁、90頁等参照)。 それらの見解(肯定説)のうち特に注目されるのは、家族同一生計要件と家族事業稼得要件との関係を「所得の稼得面における居住者[=事業主]の支配力が、所得の消費面においても貫徹する関係」(田中・前掲税務事例研究35頁)とみて次のとおり説く見解(同36頁。以下「田中説」という)である。 田中説は、家族事業稼得要件重視アプローチに立脚し同要件を限定解釈し、もって家族同一生計要件の「一律」適用を否定するものであるが、同時に、「居住者が事業からその親族に対して対価を支払うことは、居住者が自らの所得から直接生計維持費用を支出することと同じである、とする家事費混同論」(田中・前掲税務事例研究39頁。下線筆者)を、「当該対価と事業との関係を切断する点において相当ではない」(同頁)として否定するものでもある。 田中説は、家族事業稼得要件重視アプローチを所得税法56条の解釈適用の立脚点とする以上、「家事費混同論」を「当該対価と事業との関係を切断する点において相当ではない」として否定するのは論理一貫しており、その意味では、平成15年東京地判の妥当性を補強するものであるといえよう。ただ、田中説が平成15年東京地判㋐判示、とりわけそこでいう「シャウプ勧告の内容とは異なるもの」をどのように理解しているかは必ずしも明らかでない。とはいえ、田中説が「家事費混同論」を一種の租税回避否認論として捉えていることは確かであろう。 つまり、「家事費混同論」は、①「居住者が事業からその親族に対して対価を支払うこと」を②「居住者が自らの所得から直接生計維持費用を支出すること」と「同じ」とみる考え方であるから、①を異常な法形式による支出、②を通常の法形式による支出とみることを前提にすれば、「家事費混同論」は①を②に引き直して家事費の支出として擬制し、もって①の支出を必要経費に算入することを否認する考え方であるといえ、したがって一種の租税回避否認論であるといえるのである(租税回避の否認の意味については前掲拙著【69】参照)。 そうすると、「家事費混同論」を否定する田中説によれば、「シャウプ勧告のいう『要領のよい納税者』の行う租税回避的な行為を封ずる」(平成15年東京地判㋐判示)という目的は、専ら家族事業稼得要件によって実現される、ということになろうが、その場合、同要件は、「わが国の個人事業は、基本的に、事業主(世帯主)の支配的影響力のもとにあり、個々の家族による労務提供、財産の提供などは、対価関係という事実がないか、たとえ対価関係という事実がある場合でも、その対価は恣意的に定められる可能性が大きい、という基本認識」(田中・前掲税務事例研究29頁)に立って、解釈適用されることになろう。 しかし、「対価関係という事実がない」場合や「たとえ対価関係という事実がある場合でも、その対価は恣意的に定められる可能性が大きい」場合には、事業主の当該支払それ自体について直ちに家事費及びこれに関連する経費(家事関連費)として必要経費算入が否認される(所税45条1項1号)のであるから、所得税法56条が家族事業稼得要件を定める必要はなく、また、そもそも、家族同一生計要件を定める必要は尚更ないと考えられる。そうすると、それらの場合については、そもそも、所得税法56条を定めること自体が必要なかったことになり、また、その解釈適用を問題にする意味もないことになろう。 そうすると、所得税法56条は、それらの場合以外の場合、例えば事業主Aがその事業上の取引先の事業主Bと生計を一にする家族であるような場合(今回取り上げている2つの事件はこの場合に当たる)において、家族同一生計要件の下で、支払対価の反射的性質決定論に基づき、Aが事業上の取引に基づきBに支払う対価について家事費該当性を認めその必要経費算入を否認する規定として、性格づけることができることになろう。所得税法56条のこのような性格づけによれば、支払対価の反射的性質決定論は、前記の見解のいう「家事費混同論」と同じく、一種の租税回避否認論とみることができようが、同条の目的は、同条の規定上は、家族同一生計要件の「一律」適用によって達成されるのである。 要するに、家族同一生計要件は、支払対価の反射的性質決定論に基づく租税回避否認要件としての意義を有すると考えるところである。   Ⅳ おわりに 今回は、所得税法56条弁護士「夫」税理士「妻」事件に係る各審級裁判所の判断を、所得税法56条の解釈適用に関する家族事業稼得要件重視アプローチと家族同一生計要件重視アプローチの観点から比較検討することによって、平成15年東京地判(いわゆる藤山判決)と平成16年東京高判及び平成17年最判との異同を明らかにした。 学説では、家族事業稼得要件重視アプローチを採用した平成15年東京地判を支持する見解も多いが、家族同一生計要件重視アプローチを採用した平成16年東京高判及びこれを是認した平成17年最判の考え方も十分に成り立つと考えるところである。所得税法56条の目的や家族同一生計要件に関する明文の定めからすると、むしろ、平成16年東京高判及び平成17年最判の方が同条の解釈適用上それらを適切に考慮するものとして妥当であると考えるところである。 ただ、家族同一生計要件が支払対価の反射的性質決定論に基づく租税回避否認要件としての意義を有することはいえるとしても、家族同一生計要件の「一律」適用が具体的な事案においてオーバー・インクルージョン(過剰包摂)の問題を惹起する場合があるかどうかについては慎重に検討すべきである。その際、租税回避否認規定のオーバー・インクルージョン問題に対して異なる判断を示した東京高判令和4年3月10日訟月70巻6号719頁とその上告審・最判令和5年11月6日民集77巻8号1933頁(草野耕一裁判官の補足意見)の比較検討は有益な示唆を与えてくれるように思われる。 (了)
#616(掲載号)
#谷口 勢津夫
2025/04/24
税務 税務・会計 解説 解説一覧

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第66回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第66回】   東洋大学法学部教授 泉 絢也   (4) Uniswap 著名なDEXの1つであるUniswapを例に本稿で検討の対象とする取引等を確認する。 Uniswapプロトコルは、イーサリアムブロックチェーン上のERC-20(トークンの共通規格)に準拠したトークンの流動性を提供し、取引するためのオープンソースプロトコルである。 これは、イーサリアムブロックチェーンが存続する限り、永続的に稼働・機能し、基本的にはアップグレード不可能なスマートコントラクトのセットとして実装されるものであり、交換レートを自動的に決定する市場を作り、ブロックチェーン上でピアツーピアの市場の創出とERC-20トークンの交換を容易にし、仲介者なしで機能するように設計されたプロトコルである(※1)。 (※1) Uniswap Docs「Uniswap Overview」参照 Uniswapプロトコルの開発とエコシステムをサポートするツールの構築はUniswap Labsによってなされている。ガバナンスはガバナンストークン(コミュニティの意思決定の際に使用される投票権付トークン)であるUNIトークンを利用して実現されている。 DeFiプロトコルの機能修正、追加や利率などのパラメータ変更、コミュニティ資金の使用などについて、ガバナンストークン保有者が保有量に応じて決められたルールに従って投票を行い、可決したものを実行する仕組みはガバナンス投票と呼ばれることが多い(株式会社クニエ「分散型金融システムのトラストチェーンにおける技術リスクに関する研究 研究結果報告書」13頁参照)。 ウォレットとインターネット環境さえあれば、誰でもUniswapを利用して、暗号資産の取引を行うことができる。規制によるサービスの利用の遮断などの心配はないが、ユーザーは自身でトークンを管理し、取引手数料やハッキング等のリスクを負担する。 Uniswapでは、スマートコントラクトが流動性プールに預けられている暗号資産の量から取引価格(交換レート)を自動的に計算する仕組みである自動マーケットメーカー(Automated Market Maker)が採用されている(クニエ・前掲報告書36頁参照)。 仲介者がいない中で、交換レートはどのように決まるのかというと、交換レートは、プール内のトークンペアの残高の積が、取引の前後で一定になるように自動計算される。一方の資産が他方の資産と交換されると、ペアとなる2つの暗号資産の相対価格が変動し、両方の暗号資産の新しい市場レートが自動的に決定される仕組みであり、ユーザーは、互いに相対的に評価された2つの暗号資産の流動性プールと直接取引することになる。ただし、UniswapV3以降はより柔軟にレートを決定できるような仕組みが採用されている(※2)。 (※2) Uniswap Docsトップページ参照 次の点を考慮すると、Uniswapには交換対象のペアとなる暗号資産2種類が備蓄されている必要があることがわかるであろう。 そうすると、金融機関等が不在であるのに誰が交換用の2種類の暗号資産を用意するのかという点が問題になる。  Uniswapでその役割を果たしているのは不特定多数のユーザーである。つまり、暗号資産の流動性を供給する不特定多数のユーザーによって交換(スワップ)用のトークンがUniswapにプールされる。 このように保有する暗号資産をDEXのプールに移転し、流動性を供給しているユーザーは「LP(Liquidity Provider)」、トークンを交換するユーザーは「スワップユーザー」と呼ばれる。 スワップユーザーは、プールに流動性を供給したユーザーであるLPと直接取引をするのではなく、スマートコントラクトという自動販売機のようなものに、保有する暗号資産を送付し、その代わりに取得したい暗号資産の送付を受けることになる。 よって、どのユーザーとどのユーザーが取引を行っているかを特定することはできない状態である。 この際、レートも自動的に計算されるため、まさに第三者の仲介なしに、トークンの交換が実現する。 上述のとおり、このような仕組みで交換が実現するためには、プールにトークンのペアが十分に用意されている必要がある。 流動性を供給するユーザーであるLPは、例えば、暗号資産Aと暗号資産Bといったように任意のトークンペアのプールを選び、保有するトークンをプールに移転して、流動性を供給する。 LPは、プールに供給したトークンの数量の相対的な割合を追跡するためのLPトークンを受領する。 LPトークンは、暗号資産(代替性のあるファンジブルトークン)であったり、代替性のないNFT(ノンファンジブルトークン)であったりする。 LPは、スワップユーザーが支払う交換手数料を原資とした報酬を受け取ることができる。 かくして、 LPは、LPトークンの発行を受けた上で、スワップユーザーから支払われる交換手数料の分配を受ける権利を取得すると説明される(斎藤創=浅野真平「Uniswap/DEX/AMM と日本法」3頁(2020.11.5改訂))。 ただし、何らかのトラブルで分配を受けることができない場合に、具体的に誰に対してどのような請求をできるのか、どのような法的救済を受けることができるのかという問題がある。 LPは、いつでも流動性を解除すること、すなわちLPトークンを再度移転することと引き換えに提供していたペアの暗号資産を引き出すことができる。また、LPトークンの市場があれば、これを売却することで同様の経済的効果を享受することができる。 上記のとおり、LPトークンを解除することで、提供していたペアの暗号資産がLPの手元に戻ってくるが、その際、提供したトークンと異なる数量の各暗号資産が戻ってくることが通常である。 これは、 LPが流動性を供給することにより取得する権利は、プールに提供されている各暗号資産の総数量に対する割合的持分を表章するものであることによる。 プールの中に存在する各暗号資産の総数量はスワップユーザーによる交換が行われることで日々変化している。よって、流動性を供給した各暗号資産の数量と、流動性を解除した時に戻ってくる各暗号資産の数量は異なっている。 流動性供給時と解除時における各暗号資産の市場レートも当然ながら異なる。このことは、市場の変動や裁定取引によって価値が失われる可能性(いわゆるインパーマネントロスと呼ばれるもの)があることを意味している(※3)。 (※3) Uniswap Docs「What is Impermanent Loss?」参照   (了)
#616(掲載号)
#泉 絢也
2025/04/24
消費税・地方消費税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例145(消費税)】 「特定期間における納税義務の免除の特例により課税事業者であったにもかかわらず、インボイス制度の経過措置である「簡易課税制度選択届出書の提出期限の特例」の適用が受けられるものと誤認し、期限までに「簡易課税制度選択届出書」を提出しなかったため、不利な原則課税での申告となってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例145(消費税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆特定期間における納税義務の免除の特例(消法9の2①) 法人のその事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合において、その法人のその事業年度に係る特定期間(その事業年度の前事業年度開始の日から6月間をいう)の課税売上高が1,000万円超であり、かつ、給与等支払額の合計額が1,000万円超であるときは、その法人のその事業年度における課税資産の譲渡等については、納税義務が免除されない。 ◆簡易課税制度選択届出書の提出期限の特例(28年改正法附則44④、消基通21-1-1、インボイスQ&A問9) 免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間に適格請求書発行事業者の登録を受け、登録を受けた日から課税事業者となる場合は、その課税期間中に「簡易課税制度選択届出書」を提出すれば、その課税期間から簡易課税制度の適用を受けることができる。       (了)
#616(掲載号)
#齋藤 和助
2025/04/24
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

学会(学術団体)の税務Q&A 【第16回】「オンラインセミナーを開催する場合の税務上の留意点」

  学会(学術団体)の税務Q&A 【第16回】 「オンラインセミナーを開催する場合の税務上の留意点」   公認会計士・税理士 岡部 正義   ▲▼▲[解説]▲▼▲ 近年、学会においては、オンラインでセミナーを開催するケースがよく見受けられるが、その際における税務上の留意点は、次の通りである。   1 法人税 法人税に関しては、オンラインセミナーが収益事業に含まれるか否かが論点となる。法人税法施行令に掲げられている34事業の収益事業の中には、通信業が含まれているが、通信業とは、「他人の通信を媒介若しくは介助し、又は通信設備を他人の通信の用に供する事業及び多数の者によって直接受信される通信の送信を行う事業」(法基通15-1-24)であるため、通信の手段を使っている事業自体(オンラインセミナー)が、通信業に該当することはないと考える。 一方で、有料の動画配信に関しては、デジタルコンテンツという物品を販売(又は貸付)していると考えると、物品販売業又は物品貸付業に該当する可能性が出てくる。しかしながら、通常、オンラインセミナーは、現地開催との同時視聴や一定期間のアーカイブ視聴を前提としているものであり、学会において、オンラインセミナーというデジタルコンテンツを販売(又は貸付)している例はあまり想定されない。 学会のオンラインセミナーに関しては、現地参加とオンライン参加のハイブリットで行う例も多いが、現地参加者に対しては役務の提供と考え、オンライン参加者に対してはデジタルコンテンツの物品販売(又は貸付)と考えるのは現実的ではないと考える。 そのため、現地参加かオンライン参加か否かに関係なく、オンラインセミナーとは、あくまでセミナーという役務を提供している事業であり、オンラインセミナーが収益事業に該当するか否かに関しては、セミナーの内容が技芸教授業に該当するか否かで判断するのが妥当であると考える。 なお、たとえ技芸教授業に該当する内容であっても、公益法人の学会が公益目的事業の一環として実施する場合は、法人税法上の収益事業から除外される(法令5②一)。 〈セミナーの収益事業判定〉   2 消費税 国内の学会が国内で現地開催のセミナーを実施する場合、その参加料は課税売上となる。他方で、オンラインセミナーの場合は、参加料がすべて課税売上になるとは限らない。なぜなら、オンラインセミナーは、インターネットを介して役務の提供を行うものであるため、消費税法上、電気通信利用役務の提供に該当すると考えられるためである。 そのため、電気通信利用役務の提供に該当するオンラインセミナーに関しては、参加者の住所が国内にあるかどうかで内外判定を行い、仮に国外からの参加者がいる場合、当該参加者の参加料は、国外売上(不課税)とする必要がある。そして、学会の消費税の計算においては、特定収入に係る仕入税額控除の調整計算が必要になる例が多いが、特定収入割合及び調整割合の計算の際は、当該国外売上を分母に含める点に留意する必要がある。 〈オンラインセミナーの参加料の消費税の取扱い〉 なお、厳密には上記のような取扱いになると考えられるが、国外からの参加人数が少ないことが想定されるようなオンラインセミナーの場合、参加者の住所の違いによって、事務処理のオペレーション(インボイス交付の有無)や、課税区分判定(課税売上か、国外売上か)を分けるのは煩雑であるため、参加者の住所を判定せずに、一律、課税売上としている例も実務では見受けられる。   (了)
#616(掲載号)
#岡部 正義
2025/04/24
固定資産税・都市計画税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第48回】「約17年間放置していた家屋について損耗減点補正率を使って評価しなかったことは違法であるとされた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第48回】 「約17年間放置していた家屋について損耗減点補正率を使って評価しなかったことは違法であるとされた事例」   税理士 菅野 真美   ▷固定資産評価基準で定める家屋の評価額 固定資産税の課税標準となる家屋の評価額は、賦課期日において、価格として家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に登録されたものに基づく(地方税法349①)。この価格は、固定資産評価基準に基づいて評価することになる(地方税法388、403)。 家屋の評価方法は、木造家屋及び木造家屋以外の家屋(以下「非木造家屋」という)の区分に従い、各個の家屋について評点数を付設し、当該評点数に評点1点当たりの価額を乗じて各個の家屋の価額を求める方法によるものとされている(固定資産評価基準第2章第1節一)。非木造家屋の評点数については次のような算式で計算する。 評点数 = 再建築費評点数 × 経過年数に応ずる減点補正率(経過年数に応ずる減点補正率(以下「経年減点補正率」という)によることが、天災、火災その他の事由により当該非木造家屋の状況からみて適当でないと認められる場合にあっては、評点数 =(部分別再建築費評点数 × 損耗の程度に応ずる減点補正率(以下「損耗減点補正率」という))の合計)とされている(固定資産評価基準第2章第3節一)。 この「天災、火災その他の事由により当該非木造家屋の状況からみて適当でないと認められる場合」については、天災、火災以外で認められる可能性は極めて低いといわれているが、認められた事例もある。 今回は、天災、火災のような突発的な災害が原因ではなく、約17年間放置されたことを原因として、家屋について損耗減点補正率を用いて評価しなかったことは違法であると裁判所が判断した事例を検討する。   ▷どのような事例か これは、納税者が平成30年度の市の公売により建物を含む不動産を8,900万円で取得したが、令和3年度の本件家屋についての土地・家屋課税台帳の登録価格が3億1,556万7,800円であった。この価格に不服な納税者が小樽市の固定資産評価審査委員会(以下「裁決庁」という)に審査の申出をしたところ棄却する旨の決定がなされた。この家屋は、評価減点事情があるにもかかわらずこれらの事情を考慮せずに登録価格が決定されたことは違法であるとして取消しを求めて訴えたのが本事例である。   ▷争点は この裁判における争点は以下の2つである。   ▷地裁判決は 地裁判決は、損耗の程度に応ずる減点補正を行わなかった違法があるとしたが、本来決定されるべき登録価格を具体的に算出することが困難であるとして、登録価格につき裁決庁で審査をやり直させるとして決定を取り消した。 なお、需給事情による減点補正を行わなかったことについては、違法があるとはいえないとした。 以下では上記2つの争点に対する裁判所の判示内容を確認する。 〈損耗の状況による減点補正において損耗の程度に応ずる減点補正を行わなかった違法があるか〉 〈需給事情による減点補正を行わなかった違法があるか〉 *   *   * この判決に不服な小樽市は控訴したが、高裁で棄却され、上告したが不受理となり確定した。 この裁判では、損耗減点補正率を使った評価が認められた。行政側は、損耗減点補正率が認められるのは、天災、火災等に類するような家屋の著しい減価を招く特段の事由が存在することが必要であると主張したが、裁判所はその主張を認めず、通常の維持管理を行う場合に生じる損耗を超えた損耗が明らかに生じているにもかかわらず、損耗減点補正率を使った評価を行わなかったから違法だと判断したのである。 固定資産評価基準では、「経過年数に応ずる減点補正率によることが、天災、火災その他の事由により当該非木造家屋の状況からみて適当でないと認められる場合」と定められている。法律用語で「その他の」と定められている場合は、その他の前の単語は包含的例示を表しているが、その例示のもとになる損耗の範囲が行政庁側と納税者側で大きく異なっており、今回は納税者側の主張を裁判所が支持した。今後、この判決のような判断基準が続くかどうかは未知数である。 (了)
#616(掲載号)
#菅野 真美
2025/04/24

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