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会計 税務・会計 解説 解説一覧

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第55回】「中小M&Aガイドライン(第3版)の活用」~第三者に支払う手数料~

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第55回】 「中小M&Aガイドライン(第3版)の活用」 ~第三者に支払う手数料~   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒中小M&Aガイドラインを参考にして売り手を見る際の手がかりを得る。 売り手企業 ⇒中小M&Aガイドラインを参考にして買い手を見る際の手がかりを得る。 支援機関(第三者) ⇒中小M&Aガイドラインを買い手・売り手に対する助言に活かす。 その他の対象者 ⇒中小M&Aガイドラインを参考にして買い手・売り手の見方を知る。   【第54回】に続き、「中小M&Aガイドライン(第3版)」(以下、「本ガイドライン」といいます)から、買い手・売り手の見方・見られ方に関する内容に絞って解説します。   ◎ 第三者に支払う手数料の取扱い M&Aにかかる手数料は、「中小M&Aガイドライン改訂(第3版)に関する概要資料」等で掲げられる7つの事項の1つ(【第54回】参照)であり、第3版で追記されました。 M&Aの手数料は、買い手又は売り手、あるいは買い手及び売り手からM&Aの仲介機関やFA(フィナンシャル・アドバイザー)といった第三者に支払われるものですので、M&A当事者の利益に影響を及ぼします。しかも、支払う手数料に納得感があればよいですが、そうでないのに第三者に手数料を支払わなければならないとすれば、買い手・売り手は第三者に対して不満を抱えたままM&Aをすることになります。 手数料は業務内容にマッチしたものであることが望ましいですが、買い手・売り手はほぼM&Aの未経験者であるのに対して、第三者はM&Aを本業にしています。両者の知識、ノウハウ、情報量、経験値の差は明らかであり、手数料は圧倒的に第三者に有利な状況のもとで決まる可能性が高いと思われます。 そのため、第3版の改訂に伴い、本ガイドラインにおいて、第三者から依頼者である買い手や売り手に対して、M&Aに関して提供する業務の範囲、業務内容、手数料に関する事項など、契約に係る重要な事項を書面に記載し、その書面の交付と説明を求める内容が追加されたのは前進だと思います。 本ガイドラインでは、(1)手数料に関する事項、(2)相手方の手数料に関する事項、(3)提供される業務に関する事項の3つが整理されています。 (1) 手数料に関する事項 買い手や売り手に対して、報酬額のみならず、その報酬額を決める基準を確認する重要性が説明されています。その際、「M&A支援機関登録制度」のホームページでは、当制度に登録した第三者の手数料算定基準が公表されていますので、手数料の比較や参照に活用することが期待されています。 M&A支援機関登録制度のホームページにある「登録支援機関データベース」には、登録各社の手数料体系が掲載されています。 表示の例として、本稿では国際的な会計事務所の1つであるグラントソントン(Grant Thornton)グループの「太陽グラントソントン・アドバイザーズ株式会社」を示します。 (出典) M&A支援機関登録制度ホームページ「登録支援機関データベース」(最終アクセス2024年11月17日) 本稿に関係する内容はFAと仲介の手数料体系ですので、この画面からさらに各手数料体系への画面へと進みます。同社の場合、FA・仲介ともに譲渡側と譲受側それぞれの手数料体系を示していますが、各社の対応状況や体制に応じてこれらの表示がされていないこともあり、未対応の場合は各詳細を選択できないようになっています。 なお、この画面の右上にある「第2版対応」は、本稿執筆時点において「第3版対応」となっている機関もあります。執筆時点では第3版改訂から間もないですが、いずれ最新版に対応できているかどうかも第三者選びのポイントになるかもしれません。 (出典) M&A支援機関登録制度ホームページ「登録支援機関データベース」(最終アクセス2024年11月17日) 例として、FAで譲渡側、つまり売り手側の手数料体系を示したページを示しました。同社の場合は、このほかに、FAの譲受側(買い手側)、仲介の売り手・買い手側の手数料体系も示されていますが、本稿ではこれらの説明は割愛します。 M&Aの手数料算定に実務上よく使われる「レーマン方式」によってM&Aの規模感に応じた手数料体系が示されるとともに、最低手数料水準、項目ごとの手数料の有無などが明記されています。同社の場合は成功報酬に含まれる月額報酬とタイムチャージが記載されています。 成功報酬は、表示されたページの記載のように、「主にクロージング時等の案件完了時に発生する手数料である」と示されています。なお、クロージングとは、M&Aの最終決済の時を表し、言い換えれば、ここではM&Aを終える時、M&Aの終盤との認識で構いません。 この点、譲渡側である売り手からすれば、依頼段階での支払手数料が分かっていないと不安を抱く原因になりますので、第三者側は本件の手数料がいくらで、いつ頃支払わなければならず、定額なのか変動するのか、成功報酬の定義は明確か、といった初動段階で不安を払拭する材料を十分に提供する必要性があり、義務を果たしてから業務に臨む必要があると思います。 このホームページでは、同社を含め各社の手数料体系が示されていますが、比較可能な明瞭性は担保される一方で、買い手・売り手にとって分かりやすい形で具体的な手数料体系まで示されているとは思いません。ですから、同社に限らずM&Aの実務にあたって相談段階に至らないと詳細が分からない点については、今後このホームページの利便性が高まり解消されることを期待したいです。 また、肝心のM&Aに係る知識や経験の差を埋めることはこのようなホームページがあっても難しいため、手数料体系が示されているからといって、買い手や売り手がこのホームページ情報を見て理解ができるとは限らない点にも注意が必要です。 自らが関わっている業界の専門用語に精通しているのは当たり前です。しかし、全く経験のない相手がその専門用語を知らないのも当然です。その差を埋める努力、労力は知見のある側の義務だと思いますので、買い手や売り手からすれば、手数料体系を丁寧に説明してくれる第三者かどうかを手数料体系以上に気にしておいた方がよいと思います。 (2) 相手方の手数料に関する事項 (出典) 経済産業省「中小M&Aガイドライン(第3版)」 M&Aにかかる手数料が支払われる資金の流れを見ると、買い手・売り手から外部にキャッシュアウトするのが手数料です。そのため、手数料の資金の動きを勘案すると、各社の利益に直結し、M&Aの譲渡価額にも影響します。手数料を意識するのはM&Aの各当事者にとって非常に重要であり、誰かの取り分を優先した時点で、ほかの誰かが損をする構造を簡単に作り出せてしまいます。買い手・売り手としては、自己利益を優先するような第三者ではないかどうかの見極めがとても大事です。本ガイドラインでは、これを第三者の「中立・公平性」と表現しています。 本ガイドラインでは悪例として、買い手が第三者に多く手数料を払い、その代わりに第三者が売り手に譲渡価額を安くするよう誘導して、買い手の手数料負担分を売り手の譲渡価額の低下である程度相殺しつつ、第三者の取り分が多くなるようなM&Aが行われる可能性が示されています。この場合、買い手はどうしても対象の売り手を手に入れたいから多くの手数料を払ってもM&Aを実現させたい、第三者は多額の手数料を払ってくれる買い手なら大歓迎という構図が想定されます。その結果として、本来であれば、売り手の譲渡価額に反映され、買い手から売り手にわたるはずのキャッシュが、買い手から第三者に流れることで、売り手が損をする結果になることを意味します。そのため、誠実な手数料説明が本ガイドラインで求められています。 しかしながら、ガイドラインで示されていても、結局、売り手からすればいくらの手数料が妥当か分かりづらく、どうしても売りたい状況であれば言われたまま契約する可能性は残りますし、売り手のM&Aの知見が少ないことには変わりません。本ガイドラインがあっても、ガイドラインを各プレイヤーが順守の上、M&Aに臨むかどうかの行動面を拘束できない以上、実務での心配は依然として尽きません。 本ガイドラインでは触れていませんが、普段から売り手と付き合いのある他の第三者、例えば顧問を務める士業事務所や金融機関などが売り手とのコミュニケーションを通じて、中立な立場から手数料の妥当性に関するアドバイスを行うことも有用ではないかと筆者は思います。 (3) 提供される業務に関する事項 本ガイドラインでは、「必要となる仲介・FA業務」「マッチングの難易度」「提供される業務の質」を手数料に関して確認する案が示されています。 ① 必要となる仲介・FA業務 本ガイドラインでは、M&Aのプロセスである「バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)」「マッチング」「基本合意の交渉・締結」「デュー・ディリジェンス(DD)」「最終契約の交渉・締結」「クロージング」「クロージング後」「その他業務(プロセス共通の業務含む。)」ごとの主な業務例を表に整理しています。この表に従い、プロセスごとにどのような業務が提供されるか明らかにすることが重要とされています。詳しくは本ガイドラインでご確認ください。 買い手・売り手はM&Aの未経験者であることがほとんどです。第三者がこれらの各プロセスに紐づく業務を具体的に、文書を活用しながら説明することはもちろんですが、通り一遍の説明では十分ではありません。買い手・売り手からすれば、この支援で十分か、過不足はないかはきっと分かりませんし、専門用語のオンパレードの説明では説明を受ける側の理解度は低いままであるに違いありません。 そのため、買い手・売り手が納得するまで十分な説明を尽くす第三者であるかどうかが最も重要だと思われます。すべてのプロセスごとにどのような業務が想定され、その中で第三者が行う業務はこれであり、なぜしない業務があるのか、行う業務で十分と言える理由は何か、不必要な業務を行おうとしていないか、余計な手数料負担を求めようとしていないか、といった点から組むべき望ましいパートナーかどうかを見極めたいものです。 ② マッチングの難易度 業種、財務状況、販路、技術、M&Aのスキームなど、マッチングの難易度はケースによって全く異なりますので、個々のケースの状況を細かく確認することが重要であるとされています。マッチングの難易度を考慮することは、買い手も売り手も自社の属する産業や事業がどの程度の難易度に当てはまるかを知ることに繋がりますので、M&Aしやすい企業か、M&Aに向けてどのような体制構築が必要かを検討する機会に活かす意味で、難易度という切り口、視点を普段の経営において意識するのは有益だと思います。 ③ 提供される業務の質 適切な候補先を紹介できる「ネットワーク」や、円滑なM&Aに繋がる知見をはじめとする「組織体制」が第三者の提供する業務の質に大きく関係します。例えば、これまでの第三者の成約実績、担当者のスキルや経験といった点からの確認を勧めています。 ただし、ネットワークが十分でなくても成長している第三者や、大規模でも担当者レベルだと頼りない第三者の可能性がありますので、ネットワークや組織体制だけが提供業務の質を決めるとは思えません。形式的に当てはめ可能な事項に加えて、買い手や売り手自らこの第三者と組んで問題ないかを、第三者のネットワークや組織体制にばかり頼らずに見極めていただくとよいでしょう。 これらに加えて、本ガイドラインでは、第三者から説明を受けても不安が残る場合に、「士業等専門家や事業承継・引継ぎ支援センター等からセカンド・オピニオンを聴取しておくことも有効」であり、「手数料や業務内容を理解した上で、手数料が提供される業務に見合っていないと感じ、納得ができない場合には、(中略)他の仲介者・FAへの依頼も視野に入れて検討」することも考えられると示されています。 前述のように、ほとんどすべての買い手・売り手は1度目のM&Aですから、自社内では検証可能な比較対象がありません。可能であれば、自社の持つ別のネットワークを通じて、買い手・売り手に寄り添った知見からのアドバイスを受けられる環境を普段から作っておくのをお勧めします。 (了)
#597(掲載号)
#荻窪 輝明
2024/12/05
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

〈ベテラン社員活躍のための〉高齢者雇用Q&A 【第4回】「定年後再雇用社員と無期転換ルール」

〈ベテラン社員活躍のための〉 高齢者雇用Q&A 【第4回】 「定年後再雇用社員と無期転換ルール」   Be Ambitious社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 飯野 正明   ― 解 説 ― 1 無期転換ルールとは 無期転換ルールとは、同一の使用者との有期雇用契約が「通算5年」を超えて繰り返し更新された場合に、労働者の申込により、無期雇用契約に転換するというものです。労働契約法の改正により、2013年4月から適用されています。このルールは、有期雇用契約の更新を繰り返している労働者の「いつ雇用契約を切られるか分からない」という不安を解消し、雇用の安定を図ることを目的としています。 転換後は無期雇用契約になるため、有期雇用契約であれば可能だった「契約期間満了による退職」は認められず、原則として、本人の申し出がなければ継続的に会社に在職してもらうことになります。 また、2024年4月からは、労働条件明示のルールが改正され、企業は以下の事項を明示することを義務付けられました。 この改正により、有期雇用労働者は、契約更新の都度無期転換ルールの存在を確認することができるようになりました。   2 無期転換申込権の発生 定年後の再雇用について、就業規則等に「再雇用の上限年齢は原則として、65歳とする。ただし、本人が雇用の延長を希望し、会社が認めた者については、雇用を延長することがある」といった旨が規定されていることが多く見受けられます。 この場合、65歳を超えて再雇用を延長すると、前述の「無期転換ルール」の適用を受けることとなります。 つまり、正社員として「無期雇用契約」であった方が、定年退職後は、再雇用制度の対象として「有期雇用契約」となり、その後5年間の有期雇用契約を経て、再雇用契約の上限に達したタイミングで退職となれば、特段対応の必要はないのですが、「有期雇用契約」を延長すると、その時点で通算「5年」を超えることになりますので、「無期転換申込権」が発生するのです。この「無期転換申込権」は、5年を超えて有期雇用契約を更新していれば、どのタイミングでも行使することが可能となっています。 中小企業では、人手不足なこともあり、再雇用後の雇用延長をしている方が少なからず在籍しているのが実態です。この方たちが「無期転換申込権」を行使すると、基本的には本人が退職を希望しない限り、雇用を継続することとなります。   3 無期転換申込権発生への対応策 無期転換申込権発生への対応策として、①第二定年制度の導入と②無期転換ルールの継続雇用の高齢者に関する特例措置を受けることが考えられます。 (1) 第二定年制度 第二定年制度とは、就業規則上の定年(第一定年)を超えて無期雇用に転換する有期雇用労働者について、定年がなくならないように、第一定年よりも、もう1段高い年齢に定年を設けることをいいます。 例えば、第一定年を60歳として、その後再雇用制度の上限年齢を65歳とします。この上限年齢を超えて雇用を延長した方に対して、第二定年として「68歳」と設定するというようなことが考えられます。 この場合、65歳を超えて無期雇用となり、66歳の時点で「無期転換申込権」を行使した場合であっても、68歳をもって定年退職という扱いとなります。 ただし、第二定年である「68歳」を超えても会社にとって必要な人材は雇用を延長したいとなると、「68歳」を超えて雇用している方については、年齢の上限がないことになり、会社は、「第三定年、第四定年・・・」とまた同じことを考えなければなりません。 第二定年を決める場合は、その年齢をもって一律に退職させることを前提に、自社にとって適切な年齢を設定する必要があります。もちろん、就業規則への規定も行わなければなりません。 (2) 無期転換ルールの継続雇用の高齢者に関する特例措置 前述の通り、無期転換ルールの適用により、通常は定年退職後に再雇用される有期雇用労働者についても、無期転換申込権が発生します。 ただし、以下の要件をすべて満たす場合には、「無期転換申込権が発生しない」とする特例が設けられています。 この特例の適用にあたっては、事業主は本社・本店を管轄する都道府県労働局に雇用管理措置に関する計画の認定申請を行う必要があります。 具体的には、「第二種計画認定・変更申請書」を作成し、都道府県労働局に提出します。都道府県労働局からこの認定を受けることで、定年に達した後、引き続いて雇用される有期雇用労働者については、「無期転換申込権が発生しない」ということになります。 【書式】第二種計画認定・変更申請書 (出所) 厚生労働省「高度専門職・継続雇用の高齢者に関する無期転換ルールの特例について」 なお、認定を受けるにあたっては、以下のいずれかの措置を実施することが必要となります。 (出所) 厚生労働省「高度専門職・継続雇用の高齢者に関する無期転換ルールの特例について」   4 まとめ 人手不足が問題視される現状の中で、再雇用後の人材も貴重な戦力となります。年齢にとらわれずに、できるだけ長く働いてもらえるというのは、企業にとってもありがたいことです。 一方、年齢による健康状態の変化や運動機能の低下などがあることも事実です。ただし、これらは一定の年齢がくれば一律に訪れるものではなく、各人ごとにそのタイミングは異なります。それを踏まえると、第二定年制度を導入し一定の年齢で雇用契約を終了するよりも、無期転換ルールの特例措置の適用を受けたうえで、各人ごとの働き方、健康状態、本人の意思などを確認し、労働条件を見直しながら、1年ごとに雇用契約を更新するのがよいと考えます。 *  *  * 筆者がお付き合いしている企業の中に、社員に対し「仕事ができる限りは、ずっと続けていいよ」と言っているオフィス家具製造会社があります。そこで働いていたある方は、75歳を過ぎ、通勤で使っている車の運転を家族が心配しはじめたということで、本人から退職の申し出をしてきたとのことです。本人は、自分が納得するまで働かせてくれた会社に非常に感謝していたそうです。すべてのケースがこの企業のような美談になるわけではないでしょうが、良い話だと思いませんか。 (了)
#597(掲載号)
#飯野 正明
2024/12/05
労務・法務・経営 法務

空き家をめぐる法律問題 【事例62】「宅地建物取引業者の火災に関する調査説明義務」

空き家をめぐる法律問題 【事例62】 「宅地建物取引業者の火災に関する調査説明義務」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 当社は、空き家の媒介を頼まれ販売活動をしております。建物内を確認したところ、換気扇上部の内壁の表面に煤けたような部分がありました。売主から事前に過去の火災について説明を受けていませんが、宅地建物取引業者は、過去の火災の有無について、どこまで調査して買主に説明する必要がありますか。   1 検討の視点 中古住宅の売買契約が締結された後、過去に火災が発生していたことが発覚し、買主と売主との間や、買主と宅地建物取引業者との間で紛争になることがある。このような紛争は、契約締結時に宅地建物取引業者から買主に対して火災の有無について説明がないことによることが多いと考えられる。 そこで、本事例では、過去の火災の発生に関する宅地建物取引業者の調査説明義務について検討する。   2 過去の火災と建物の瑕疵との関係 中古住宅の売買が行われる場合、建物の経年劣化による損傷等は、売買代金に反映されているはずであるから建物の瑕疵には該当しない。これに対して、経年変化を超える無視できない特別の損傷等は、売買代金に反映されていないのであれば、建物の瑕疵に該当するものと考えられる。 火災によって生じた損傷が修理されていないことによって、建物の客観的な交換価値が下がっている場合には、通常の経年変化を超える無視できない特別の損傷等があるものとして瑕疵が認められることになると考えられる。また、火災によって生じた損傷を修理して物理的な耐久性や安全性に影響がなくなった場合であっても、過去に火災が発生した事実は、買主の購買意欲を減退させ代金減額の要因となりうるものである。そのため、建物の客観的交換価値に影響を与えるほどの火災が過去に生じていた場合には、建物の瑕疵が認められることになると考えられる(東京地判平成16年4月23日判時1866-65)。   3 宅地建物取引業者の調査説明義務 宅地建物取引業者は、宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という)第35条に基づいて、宅地建物取引士をして、同条に規定する重要説明事項について書面を交付して説明させる義務を負い、また、同法第47条に基づいて、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるものに関して、故意に事実を告げないことや不実のことを告げることが禁止されている。 これらの義務は、買主等の利益を保護する観点から義務付けられているものであるため、宅地建物取引業者の業法的規制にとどまらず、買主に対する民事上の調査説明義務の根拠となるものである。具体的には、宅地建物取引業者は、買主に対して、過去の火災の有無を含む物件の瑕疵の有無を調査して、その結果を説明するべき義務を負うことになる。もっとも、宅地建物取引業者が行う調査は、建物の内部及び外観から認識しうる範囲での調査に留まるものであり、それ以上に独自に調査して報告すべきことまでは含まれないものと解されている(上記東京地判、東京地判平成22年3月8日判例秘書)。 ところで、火災に限らず過去に発生した事件や事故は、時間の経過とともに風化するものであるが、住民の流出入が少ない地域においては、過去の事件や事故が風化することなく周辺住民の記憶に留まりやすい傾向にある。売主や宅地建物取引業者の説明義務違反の有無が争われている事案では、このような周辺住民からの話(例えば「〇年前に消防車が来て大騒ぎになった」「この家で過去に何があったのか知っているか」等)が端緒になっていることもある。宅地建物取引業者としては、意図せず過去の事件や事故の情報を取得することもあるが、調査の結果、火災が発生している可能性を認識した場合は、事後的な紛争の発生を予防するため、当該火災が建物の客観的価値に影響するものであるかにかかわらず、買主に対して説明を行っておくことが無難であると考えられる。   4 本件において 宅地建物取引業者が建物内を確認したところ、換気扇上部の内壁の表面に煤けたような部分があったことからすると、換気扇周辺で何らかの火災が生じたことを推測できたはずである。売主から事前に情報提供を受けていなかったとしても、建物内部の確認をした結果を売主に伝えることによって、火災の有無や当時の状況をより具体的に把握できることもありうる。 相談事例では、火災の程度は明らかではないが、実際に火災が生じた影響が残っていることからすると、建物の耐久性や安全性に問題がなかったとしても、これによって買主の購買意欲を減退させ、建物の客観的交換価値の低下に影響することは十分に考えられる。したがって、宅地建物取引業者としては、上記のような調査を行った上で、その結果を買主に対して説明することになると考えられる。 なお、相続財産清算人が空き家の売主として関与する事案では、相続財産清算人が当時の状況を把握していることは稀であるため、宅地建物取引業者が情報を得にくいことに留意が必要である。 (了)
#597(掲載号)
#羽柴 研吾
2024/12/05
読み物 連載

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第87話】「103万円の壁」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第87話】 「103万円の壁」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「103万円の壁か・・・」 そう言うと、中尾統括官は、傍らにいる浅田調査官を見る。 「浅田君・・・この年収の壁って、本当に深刻なの?」 浅田調査官は、机の上で、調査報告の起案をしている。 「はあ・・・103万円の壁って・・・近頃・・・よく聞きますが・・・」 浅田調査官は、あまり関心を示さない。 「要は・・・年収が103万円を超えると・・・税金がかかったり、扶養から外れたりしてしまうということだろう・・・」 中尾統括官は、傍らにある新聞を見る。 (※) 毎日新聞2024年10月31日掲載記事より抜粋。 「・・・103万円というのは、基礎控除と給与所得控除を合計した金額で、それを超えると課税され、また、配偶者や親などの扶養に入っている場合、扶養控除の対象から外れることになる・・・」 中尾統括官の言葉を聞いた浅田調査官は、手を止める。 「・・・大学生などは、103万円の壁って、よく知っていますよ・・・バイトをしすぎると、103万円なんて、すぐに超えてしまう・・・そうすると、扶養している父親が勤務している会社から扶養控除ができないと言われ・・・父親は息子がバイトでそんなに稼いでいることを知らなければ、会社で恥をかくことになる・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 「・・・中尾統括官の息子さんも大学生でしょ・・・きっと、バイトをしているのでは・・・どれくらい稼いでいるか知っていますか?」 浅田調査官は、ニヤニヤしながら聞く。 「・・・いや、バイトをしているのは知っているが、どれくらい稼いでいるかは知らないな・・・」 中尾統括官が答える。 浅田調査官は、いつの間にか、右手に電卓を持っている。 「・・・例えば、103万円をオーバーしている金額を10万円とすると、息子さんは、所得税率5%が適用され、5,000円支払うことになる・・・そして、息子さんが父親の特定扶養親族(19歳以上23歳未満)であれば、所得税63万円、住民税45万円の控除ができなくなる・・・中尾統括官の所得税の税率が仮に20%とすると・・・12万6,000円、地方税は一律10%だから4万5,000円、合計で17万1,000円の増税になります・・・」 浅田調査官は、机の上の罫紙に今話したことを書き写す。 「・・・つまり、息子さんが103万円を超えて10万円稼ぐと、逆に税金が増え、家庭内の実質的な手取りが7万6,000円少なくなるのです・・・」 「なるほど、特定扶養親族から外れると、税負担が増えるのだな」 中尾統括官は、感心しながら、罫紙を見る。 「・・・ところで、壁を103万円から178万円に引き上げると、財務省の試算では、約7~8兆円の財源が必要になってくる・・・これにどう対処するかが問題だ・・・」 中尾統括官は腕を組みながら言う。 「・・・それに、この引上げは、高所得者ほど減額効果が大きいということを認識しなければならない・・・」 浅田調査官は、再び、電卓を持ち出す。 「この75万円の控除額増加による所得税の減少額の算出に際しては、高額所得者は所得税の最高税率45%が適用される一方、低額所得者は5%が適用されることになります」 「・・・更に、この75万円の根拠についても批判が多い・・・1995年から現在までの間に、最低賃金は611円から1,055円へと約1.73倍に上昇したので、103万円に1.73倍を乗じると、178万円になるということなのですが・・・しかし、これは、最低賃金ではなく、物価上昇率をベースとすべきであるという意見が多く、また、1995年を基準とするのが適切なのかという批判もあります・・・」 浅田調査官は続けて話す。 「・・・加えて、社会保険が親の扶養から外れる130万円の壁があります・・・年収130万円以上になると、親などの扶養者の社会保険の扶養を外れ、自身で国民健康保険等かバイト先の社会保険に加入する必要が生じます・・・この国民健康保険料等や社会保険料の負担額は、おおむね年間15~20万円になります・・・そうすると、手取りが大きく減ることになるので、仕事をしなくなるという事情があります・・・」 浅田調査官の言葉をじっと聞いていた中尾統括官は、突然、「「勤労学生控除」の27万円を学生が使うのはどうだろうか」と尋ねる。 「納税者自身が勤労学生であるときは、勤労学生控除の27万円は使えますが・・・ただ、扶養控除の対象からは外れます」 そう言うと、浅田調査官は、勤労学生控除の対象となる要件を言う。 「・・・しかし、勤労学生控除の金額もそれほど大きくはないです」 浅田調査官は、勤労学生控除にそれほど興味を示さない。 「・・・ところで、社会保険料は、支払えば将来自分が年金をもらえるというメリットがあるのだから、手取りは減るけれども、税金とは異なる支出だと思う・・・」 中尾統括官が言う。 「しかし、年収の少ない若者にとっては、老後の年金よりも、現在の手取金額を考えるのでしょう」 浅田調査官は、若者を代弁して言う。 (つづく)
#597(掲載号)
#八ッ尾 順一
2024/12/05
お知らせ 所得税 税務 税務・会計 税務情報の速報解説 速報解説一覧

《速報解説》 国税庁、「ストックオプションに対する課税(Q&A)」を改訂~令和6年度税制改正等を反映し、注書きや参考を追記~

 《速報解説》 国税庁、「ストックオプションに対する課税(Q&A)」を改訂 ~令和6年度税制改正等を反映し、注書きや参考を追記~   税理士 中尾 隼大   (1) 「ストックオプションに対する課税(Q&A)」の改訂 国税庁は、令和6年11月13日付で「ストックオプションに対する課税(Q&A)」(以下、単に「Q&A」という)を改訂した。 今回の改訂は、以下(2)で触れる設問に関して、令和6年度税制改正の内容等を反映するための注書きや参考が追加された形である。   (2) 追加された内容 既存のQ&Aに追加された主な内容は次の通りである。 【問6 税制適格ストックオプションの課税関係】 ストックオプションの「付与決議の日」について、「割当てに関する決議」である旨の解説箇所に、以下の通り会社法に関する解説が追記された。 また、参考として、「令和6年度税制改正で措置された税制適格ストックオプションの改正の概要」が追記された。 【問10 税制適格ストックオプションの権利行使価額(契約変更)】 この設問は、令和5年7月の租税特別措置法通達の改正を踏まえ、権利行使価額を引き下げる契約変更を行うことに関するものである。契約を変更した場合において、当初契約に反した権利行使とはならない場合には、税制適格ストックオプションとされる旨等の注書きが追記された。 【問12 税制適格ストックオプション(信託型)の課税関係】 「付与決議の日」及び端数処理、そしていわゆる保管委託要件についても、問6の参考箇所と同様の注書きが加えられ、令和6年度税制改正に沿う形に改訂がなされている。   (3) 今回の改訂について 今回の改訂は、令和6年度税制改正を反映させる形でなされたものであり、随所に参考という形でその内容が追記されている。注書き等の追記であるため細かな改定ではあるが、内容は重要であるため、これらの改訂内容を確認しつつ実務に活用したい。 (了) ↓お勧め連載記事↓
#中尾 隼大
2024/12/04
お知らせ 税務 税務・会計 税務情報の速報解説 速報解説一覧

《速報解説》 国税庁が質疑応答事例を更新し、新たに27事例を追加~グループ通算制度で損益通算等の適用がある場合の「1株当たりの利益金額Ⓒ」の計算等~

《速報解説》 国税庁が質疑応答事例を更新し、新たに27事例を追加 ~グループ通算制度で損益通算等の適用がある場合の「1株当たりの利益金額Ⓒ」の計算等~   Profession Journal編集部 国税庁は11月27日付けで質疑応答事例を更新し、新規掲載事例一覧を公表した。税目等は、所得税、源泉所得税、譲渡所得、相続税、財産の評価、法人税、消費税、印紙税の8項目と幅広く、新たに27事例を掲載している。 なお、新規掲載の27事例は以下の通り。 (了)
#Profession Journal 編集部
2024/11/28
お知らせ その他お知らせ

プロフェッションジャーナル No.596が公開されました!~今週のお薦め記事~

2024年11月28日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.596を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2024/11/28
税務 税務・会計 解説 解説一覧

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第44回】「会計的意味における包括的所得概念と法人税法上の包括的所得概念」-未計上資産無償譲渡[相互タクシー]事件・最判昭和41年6月24日民集20巻5号1146頁-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第44回】 「会計的意味における包括的所得概念と法人税法上の包括的所得概念」 -未計上資産無償譲渡[相互タクシー]事件・最判昭和41年6月24日民集20巻5号1146頁-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 所得税や法人税は「所得」を課税物件とする租税であり(所税7条、法税5条以下)、所得税及び法人税の課税は「所得課税」と称される。ただ、所得税法や法人税法は、課税物件としての所得(課税所得)の概念を定義することなく、実際の経済生活の中に存在する「所得」という経済的事実を課税物件として取り込んで課税所得を定めていることから、その意味内容を明らかにするには、所得税法や法人税法の個々の規定の解釈だけでなく、それらの全体構造やそれを支える基礎理論としての所得概念論の検討・解明も必要である(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【167】参照)。金子宏教授が「[租税法における]基礎理論的研究の第一歩」(同『所得概念の研究〔所得課税の基礎理論 上巻〕』(有斐閣・1995年)9頁[初出・1966年])として所得概念を研究されたのは、まさにこのような問題意識に基づくものであると考えられる。 「所得税は様々な社会階級の様々な所得源泉を前提とし、したがって資本主義社会を前提とする。」(Karl Marx, Kritik des Gothaer Programms, 1875, IV A.)といわれるように、所得税は、産業革命の母国であり資本主義が世界史上最も早く始まったイギリスで1799年に採用されて以来、資本主義の発展に伴い各国で採用されるようになったが、所得概念論すなわち所得とは何かという議論は、まずは、資本の自律的運動(投資及び再生産の過程における資本の循環)の結果として継続的・反覆的に生み出される経済的利得(例えば賃金、利潤、利子、配当、地代など)を課税所得として観念する学説において、19世紀後半から20世紀初頭にかけて主としてドイツで、展開された。それらの学説は、経済的利得を継続的・反覆的に生み出す源泉に着目して所得概念を構成する点で共通しており、所得源泉説(Quellentheorie)と総称される(前掲拙著【168】参照)。 その後、所得概念論は純資産増加説(Reinvermögenszugangstheorie)の登場によって画期的な展開をみた。純資産増加説は、シャンツ(Georg von Schanz)が1896年に「所得概念と所得税法(Der Einkommensbegriff und die Einkommensteuergesetze)」という論文(Finanz-Archiv 13.Jahrg., 1896, S.1)で、所得源泉の如何を問わず担税力の増加を「所得」として観念して所得源泉説を批判して唱えた考え方である。 シャンツは当時における商人の利益計算を念頭に置いて純資産増加説を構想したが、「主として法人税についてシャンツの純資産増加説が述べられていることへの一層の理解を得る」(清永敬次「シャンツの純資産増加説(一)」税法学85号(1958年)7頁。なお、金子宏教授による所得概念研究は「考察の重点を個人所得の問題におく」(同・前掲書4頁)ものである)という観点からすれば、次の見解(Max Lion, Der Einkommensbegriff nach dem Bilanzsteuerrecht und die Schanzsche Rinkommenstheorie, in: H. Teschenmacher (Hrsg.), Beiträge zur Finanzwissenschaft (Festgabe für Georg von Schanz zum 75. Geburtstag 12. März 1928), Tübingen 1928, 273, 287f. 下記の邦訳については拙著『税法創造論』(清文社・2022年)394-395頁を再掲した)は傾聴すべきものである(清永敬次「シャンツの純資産増加説(二・完)」税法学86号(1958年)15頁、22-23頁も参照)。 この見解によれば、純資産増加説には、資産増加(Vermögenszugang)と資産増価(Vermögenszuwachs)との区別に対応して2つのタイプのものがあることになる。シャンツは前者に着目する純資産増加説を唱えたのに対して、後者に着目する純資産増加説も観念することができるのである。両説の違いは、商人の利益計算の方法(今日でいえば企業会計における利益計算の方法)の違いであり、前説はその利益計算の方法として損益法を採用するものであり、後説は財産法を採用するものである。 このような考察に基づき、筆者は、前説を「損益法型純資産増加説(Reinvermögenszugangstheorie)」と呼び、後説を「財産法型純資産増加説(Reinvermögenszuwachstheorie)」と呼ぶことにしている(前掲拙著『税法創造論』395頁、前掲拙著『税法基本講義』【179】参照。後記Ⅲ2も参照)。 この2つのタイプの純資産増加説はいずれも企業の利益計算の観点から所得概念を包括的に構成するものであるから、両説による所得概念は「会計的意味における包括的所得概念」(前掲拙著『税法基本講義』【179】)と総称することができよう。とはいえ、前記の見解が説くように、損益法的純資産増加説によれば、実現した利益のみが課税されるのに対して、財産法型純資産増加説によれば、未実現の利益(評価益)も課税される点に、両説の決定的な違いがある。 この両説の違いを背景として、法人税法上の包括的所得概念の意義が昭和40年全文改正前法人税法(昭和22年法律第28号。以下「旧法人税法」という)9条1項の「総益金」の解釈をめぐって争われたと解される事件に関する最高裁の判断として、未計上資産無償譲渡[相互タクシー]事件・最判昭和41年6月24日民集20巻5号1146頁(以下「本判決」という)がある。以下では、まず、本判決の判断内容をみておこう。   Ⅱ 本判決の判断内容 本件は、大阪相互タクシー株式会社(原告・控訴人・被上告人)が、昭和22年11月21日から同23年11月20日に至る事業年度において当時の独禁法10条による制約(金融業以外の事業を営む一般事業会社による他社株式取得の禁止)の下で「その所有する増資会社の株式を一時自社の重役に信託的に譲渡し株主名義を重役個人に書き替える方法により、または増資会社から第三者指名権を与えられて自社の重役個人を指名する方法によつて、これら重役等に各社の増資新株の割当を受けさせ、それぞれその新株を取得させた」(本判決による原判決=大阪高判昭和36年11月29日行集12巻11号2288頁の事実認定の要約)ところ、上記方法による自社の各重役への新株引受権(増資会社の株式の所有に基づき享受する経済的利益=新株プレミアム)の無償移転について譲渡益(益金)を認定する更正処分を受けたので、これを争って審査の請求をし所轄国税局長(被告・被控訴人・上告人)から一部取消しの裁決を受けたものの、これを不服として当該裁決の取消しを求めた事案である。 本判決は、原判決が前記事実認定に続けて「このように第三者に新株を割当させることのできた被上告会社の地位そのものは、金銭に見積ることもできる経済的価値ある利益とし、被上告会社の前叙の行為は、同社に帰属した新株の割当に関する利益を各重役に移転したものと見ることができる旨を判示した」ことを確認した上で、「被上告会社は、前叙の行為により重役等個人にそれぞれ増資株式を取得させたうえ、重役等のこれによつて取得した利益を同社に回収することを約さしめることもできたはずであり、また重役その他の第三者に対し相当の対価を徴して、その者のために前叙の行為をすることもできたわけであるから、被上告会社がこのような方法に出ないで、重役等のために前叙の行為をしたことは、増資会社の株式の所有に基づき被上告会社が享受する経済的利益を無償で重役等に授与したことを意味し、この点に関する前叙原判示は正当といわなければならない。」と判示した。 以上の判断を踏まえ、本判決は上記判示に続けて次のとおり判示した(下線・傍点筆者)。   Ⅲ 財産法型純資産増加説に基づく「総益金」の解釈 1 本判決による未計上資産無償譲渡に係る益金認定の法的根拠 この判示について、清永敬次教授は、「最高裁は未計上資産(隠れていた資産価値、価値増加分)が無償で社外に流出する、無償で譲渡される場合にも益金を認識すべきであると判示したのである。このような判断を最高裁が下したのははじめてのことであり、またこの判断は税法上の益金概念に関して極めて重要な意義を有するものである。」(同「判批」シュトイエル57号(1966年)7頁、12-13頁)と評価されつつ、「このような判断がいかなる根拠に基づいて肯定しうるかについて若干考えてみよう。」(同13頁)と述べ、その根拠の「説明」(同頁)として、前記判示のうち次の部分を引用しておられる(同頁)。 その上で、清永教授は次のとおり述べておられる(同頁。下線筆者)。 清永教授が指摘されるように、確かに、本判決は未計上資産の無償譲渡に係る益金の認定について法的根拠を明示してはいないが、ただ、「最高裁の判決を生み出す原動力となつた上告理由は、この未計上資産の計上が必要な理由を法律の規定を根拠にして議論している。」(清永・前掲「判批」13頁)ことも事実である。本件上告理由は、次のとおり述べている(民集20巻5号1151-1152頁。下線筆者)。 本件上告理由は、上記の引用部分の冒頭で旧法人税法9条1項の規定及びその解釈を示しているので、これが未計上資産の無償譲渡に係る益金の認定の法的根拠であることは確かであるが、上記の引用部分に続けて「以上の見地に立脚して、財産の時価の値上がり分その他未だ企業の帳簿に計上されていない経済的利益が社外に流出した場合について、その実現が如何に把握さるべきかの問題を考察するに、それはその社外に流出した時に従来既に発生し存在していた潜在的利益が客観的、かつ確定的となつて顕在化し、企業の収益として実現したと見るべきである。」(民集20巻5号1152頁)と述べており、本判決も前記の判示において基本的にはこの考え方を受け入れたものと解される(清永・前掲「判批」13頁は本件上告理由を「最高裁の判決を生み出す原動力となつた」とみている)ことからすると、「以上の見地」こそが未計上資産の無償譲渡に係る益金の認定の実質的根拠を示すものと解される。 2 旧法人税法上の包括的所得概念と財産法 そこで、次に、本件上告理由にいう「以上の見地」をどのように理解するかが問題になるが、それは、「商法上の会社、特に株式会社の商法上の利益の概念から法人税法上の所得概念を展開しようとする方法論」(忠佐市『租税法要論〔第10版〕』(森山書店・1984年)189頁)の影響を受け、「このような[多少とも財産法の考え方が昭和37年改正まで継続してきた]商法の規定ないし解釈に依拠して、税務行政庁は、資産の評価益は法人の益金を構成するという解釈をとり、判例・学説もそれを支持してきた。」(金子宏『所得課税の法と政策〔所得課税の基礎理論 下巻〕』(有斐閣・1996年)333頁[初出・1983年])ことに鑑みると、財産法の考え方を意味するものであるように思われる(これと異なる理解を示すものと解される見解として村井正「判批」民商法雑誌56巻2号(1967年)279頁、284-285頁参照)。 この点については、次の見解、すなわち、法人税法の昭和40年全文改正後の同法22条の規定について、「法解釈学上の論争をみても、損益法的発想になる法人税法22条の解釈が取り上げられ、同条の解釈通達であるとされている基本通達51(註)および52(註)に言及することが殆ど見当たらなくなっている」(長穰「法人税法における財産法の影響について」税務大学校論叢1号(1968年)83頁、89頁)と述べ、「法人税法では、一般に、法律が、損益法のパターンを示し、通達が、財産法のパターンを示している。」(同89頁)という認識を示した上で、「財産法は、規定の背後に沈潜し、当然の前提となって存在しているから、言語的表明の形式を取っていない。」(同90頁。下線筆者。黒澤清=番場嘉一郎監修・新井清光ほか編『体系制度会計〔第1巻〕基礎理論』(中央経済社・1978年)43頁[黒澤清執筆]も同旨)との観察命題を定立し、その検証を試みる見解が、注目される。 この見解において上記の観察命題の前提となっている上記の認識については、そこでいう「通達」すなわち旧法人税基本通達51及び52の廃止後においても、一見すると同様のもののように思われる認識を示す次の見解(武田隆二「税務会計の基礎(二)」会計113巻5号(1978年)741頁、742-743頁。太字・傍点原文。下線筆者)がある。 ただ、この見解のいう「財産法」は、本件上告理由が言及した税務行政庁の解釈が想定していた財産法(長・前掲論文のいう「財産法」も同じものと解される)とは異なる意味での「財産法」であるように思われる。その理由は、この見解を説く論者が「法人税法上の所得概念」について次のとおり説くところ(武田隆二「税務会計の基礎(三)」会計113巻6号(1978年)913頁、919頁。傍点原文。下線筆者)から、明らかになるように思われる。 ここでは「財産法」という言葉が2とおりの意味で使われているが(なお、その後ニュアンスが違ってきているように思われるが、武田隆二『法人税法精説〔平成15年版〕』(森山書店・2003年)66-68頁参照)、この論者が前記の見解でいう「財産法」は後者の意味での「財産法」すなわち「個別経済内における財貨の流入および流出の全体を観察の基礎におき、両者の期間的総量の差額の確定を内容とする財産法」であるのに対して、本件上告理由が言及した税務行政庁の解釈が想定していた財産法は前者の意味での「財産法」すなわち「期首と期末の純資産の比較を内容とする財産法」である。これこそが「財産増価(Vermögenszuwachs)」を「計算」(発見・決定)する財産法である(筆者が財産法外純資産増加説でいう「財産法」もこれである。なお、筆者は後者の意味での「財産法」を損益法として捉え「期間的純資産増加説」を損益法型純資産増加説と呼んでいる。前記Ⅰ参照)。本件上告理由は、この前者の意味での「財産法」に基づくからこそ、「その所有資産の時価の騰落によつて生じた経済的価値の増減のうち実現したもの」をも総損益金に算入する旨を説いたものと解される。 3 財産法型純資産増加説における「いわゆる実現主義」 以上により、未計上資産の無償譲渡に係る益金認定の法的根拠は旧法人税法9条1項であるが、その実質的根拠は、旧法人税法上の包括的所得概念であり、さらには、これが財産法型純資産増加説に基づく包括的所得概念であると解されることから、結局のところ、前記の「期首と期末の純資産の比較を内容とする財産法」に帰着することになろう。 ただ、「商法は、昭和37年の改正で損益法の考え方に移行するまで、多少とも財産法の考え方をとってきた」(金子・前掲『所得課税の法と政策』333頁)とはいえ、「評価益を計上するかどうかは法人の任意であり、法人の所得計算上も、法人がその決算において評価益を計上した場合にのみそれは益金となると解されてきたこと」(同頁)からすると、前記の「期首と期末の純資産の比較を内容とする財産法」から、直ちに、未計上資産(本件では新株プレミアム)の無償譲渡に係る益金認定を根拠づけることはできないように思われる。 本件上告理由は、その間の論理展開についても、これを媒介する論理を提示しているように思われる。すなわち、本件上告理由は、「収益または損失の実現とは何をいうか、すなわち、如何なる事実または状態を以て収益または損失の実現と見るか」という「重要な問題」について、「それは、一般に承認され正規の簿記の土台になつている近代企業会計の理論に基礎を置き、租税負担の公平等いわゆる租税原則といわれるものを考慮して、それぞれの場合の損益の形態に応じ合目的見地から決定されるべきものである」と述べているが、ここで述べられている「合目的見地」こそが上記の媒介論理であるように思われるのである。 そのような「合目的見地」は、本判決の調査官解説(矢野邦雄「判解」最判解民事篇(昭和41年度)322頁)が「いわゆる実現主義」として次のとおり説く考え方(同328-329頁。下線・傍点筆者)を意味するものと解される。 この調査官解説のいう「いわゆる実現主義」は、「一般に企業の有する資産が企業から分離、、する時期をもって収益の実現、、があったものとして経理する」(傍点筆者)考え方であるが、本件で問題となったような企業所有の増資会社株式についていえば、新株プレミアム(株価の値上がり益=隠れた資産価値=含み益)を所得として把握すること(私見によれば、財産法型純資産増加説に基づく包括的所得概念によること)を前提にして、これが当該株式の所有企業において会社資産のうちに計上されないまま放置、、されることが通常であることを認めつつも、当該株式が有償で譲渡され所有企業の会社資産から分離、、される場合には、その対価の流入をもってその隠れた資産価値が表現、、され認識、、されるのに対して、当該株式が無償で譲渡され所有企業の会社資産から分離、、される場合には、その隠れた資産価値を明確、、にする措置(評価替え)をもってその隠れた資産価値が認識、、される、という考え方であると整理することができよう。 このような整理によれば、「いわゆる実現主義」は、未計上の資産(新株プレミアム)については、会社資産からの「分離」とその「認識」をもって「実現」を観念する考え方であるが、有償譲渡による「分離」の場合は、その隠れた資産価値が対価(の一部)として「表現」されることによって未計上資産の「認識」がもたらされるのに対して、無償譲渡による「分離」の場合は、その隠れた資産価値を「明確」にする措置(評価替え)によって未計上資産の「認識」がもたらされることになるのである。 このように考えてくると、「いわゆる実現主義」は、本件上告理由にいう「一般に承認され正規の簿記の土台になつている近代企業会計の理論」としての財産法による所得計算(私見によれば、財産法型純資産増加説による「総益金」の解釈に基づく所得計算)を前提にして、未計上の資産(新株プレミアム)については、本件上告理由にいう「租税負担の公平等いわゆる租税原則といわれるもの」を考慮して、本件上告理由にいう「合目的見地」から、有償譲渡の場合と無償譲渡の場合とを課税上公平に取り扱う考え方であるといってよかろう。 本判決の前記の判示のうち次の部分(傍点筆者)は、以上のような「いわゆる実現主義」を説示したものと解される。 もっとも、この判示部分では「実現」ではなく「顕現」という言葉が用いられているが、この点については、昭和40年の法人税法全文改正において同法22条1項の「当該事業年度の益金の額から」という部分に関する次のような議論(武田昌輔『法人税回顧六〇年~企業会計との関係を検証する~』(TKC出版・2009年)133-134頁)を考慮して、敢えて「実現」という言葉を用いなかったのかもしれないと推察される(「実現」の観念については金子・前掲『所得課税の法と政策』334-335頁も参照)。   Ⅳ おわりに 最後に、以上の考察をまとめると、本判決は、未計上資産の無償譲渡に係る益金認定の法的根拠を旧法人税法9条1項として、同項の定める「総益金」の概念を、同法が前提とする会計的意味での包括的所得概念(財産法型純資産増加説に基づく包括的所得概念)に依拠し、かつ、「租税負担の公平等いわゆる租税原則といわれるもの」を考慮して、有償譲渡の場合と無償譲渡の場合とを課税上公平に取り扱うという「合目的見地」から、解釈したものと解される。 昭和40年全文改正後の現行法人税法においては、同法22条1項が企業会計の理論ないし会計観の変更を受けて損益法を前提にして課税所得の計算を定め(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)344頁、前掲拙著『税法基本講義』【378】参照)、同条2項が資産の無償譲渡について収益の擬制を定めた(金子・上掲書346頁、上掲拙著【386】参照)ことから、本判決はその妥当性を失ったものと考えられる(金子・前掲『所得課税の法と政策』331頁以下も参照)。 もっとも、低額譲渡[南西通商]事件・最判平成7年12月19日民集49巻10号3121頁の下記の判旨(下線筆者)について、「判旨第1段落は、昭和40年法人税法改正前の相互タクシー事件に関する最判昭和41年6月24日(民集20巻5号1146頁、・・・・・・)の考え方を受け継いでいる。」(金子宏ほか編著『ケースブック租税法〔第6版〕』(弘文堂・2023年)396頁[増井良啓執筆])との見方があるが、筆者としては、判旨第2段落が、有償譲渡の場合と無償譲渡の場合とを課税上公平に取り扱うという「合目的見地」を、「受け継いでいる」と考えるところである。 (了)
#596(掲載号)
#谷口 勢津夫
2024/11/28
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〈令和6年分〉おさえておきたい年末調整のポイント 【第3回】「年調減税事務に関する実務Q&A」

〈令和6年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第3回】 (最終回) 「年調減税事務に関する実務Q&A」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   本稿(最終回)は、年調減税事務に関し、実務上判断に迷う事項等をQ&A方式で解説する。 取り上げる事項は以下のとおりである。   - 解 説 - 年調減税事務において減税額を控除する対象となるのは、次の《年末調整で定額減税の対象となる人の要件》のすべてを満たす人である(措法41の3の8①)。 《年末調整で定額減税の対象となる人の要件》 したがって、年末調整の対象となる人のうち、令和6年分の合計所得金額が1,805万円を超える人は、定額減税の対象にはならない。そのような人については、減税額を控除せずに年末調整を行い、給与等に係る源泉徴収税額から控除した減税額を精算する。 なお、合計所得金額が1,805万円を超えるかどうかは、原則として、従業員等から提出を受ける「基礎控除申告書」の記載から判定する。 また、支払う給与等が収入金額ベースで2,000万円を超える人は年末調整の対象とならないため、確定申告で減税額の精算を行うこととなる。 (例)役員A(年末調整の対象者)   - 解 説 - 月次減税事務では、「令和6年6月1日現在在職」、「扶養控除等申告書を受領」、「居住者」の3つの要件をすべて満たす従業員等について、減税額を控除することとされていた。よって、令和6年6月2日以後に就職した従業員等については、月次減税事務において減税額を控除していない。 しかし、年調減税事務では、【Q1】の《年末調整で定額減税の対象となる人の要件》のすべてを満たす場合には減税額を控除する。したがって、令和6年6月2日以後に就職し、月次減税事務では減税額を控除していなかった従業員等であっても、年末調整の対象者であり、令和6年分の合計所得金額が1,805万円以下であれば、年末調整で定額減税を適用する。   - 解 説 - 令和6年分の合計所得金額が1,805万円を超える人は、定額減税の適用対象外であるが、月次減税事務においては合計所得金額を勘案せずに減税額を控除している。 支払う給与等が収入金額ベースで2,000万円を超える人については、甲欄適用者であっても年末調整を行わないため、月次減税事務において控除した減税額は、納税者本人が確定申告により精算することとなる。給与支払者(会社等)において、減税額を精算する必要はない。 〈具体例〉 (※1) 1社から支払われた甲欄適用の金額   - 解 説 - 「令和6年6月1日現在在職」、「扶養控除等申告書を受領」、「居住者」の3つの要件を満たす従業員等は、月次減税事務において減税の対象者とされ、このとき従業員等が公的年金等の支給を受けているかどうかは勘案されていない。 したがって、給与等と公的年金等の両方の支給を受けている場合には、それぞれの源泉徴収税額から減税額が重複して控除される可能性があるが、この重複分は納税者本人が確定申告を行うことにより精算することとされている。給与支払者(会社等)が、年末調整において重複して控除されている減税額を調整する必要はない。   - 解 説 - 同一生計配偶者について記載された「源泉徴収に係る定額減税のための申告書」の提出を受けている場合でも、その配偶者を年調減税額の計算に含めるには、「配偶者控除等申告書」又は「年末調整に係る定額減税のための申告書」の提出を受ける必要がある。 また、同一生計配偶者について、源泉控除対象配偶者として記載された「扶養控除等申告書」の提出を受けている場合にも、その配偶者を年調減税額の計算に含めるには「配偶者控除等申告書」又は「年末調整に係る定額減税のための申告書」の提出を受ける必要がある。   - 解 説 - 配偶者や親族が同一生計配偶者又は扶養親族に該当するかどうか、また、配偶者や親族が居住者に該当するかどうかは、その年の 12月31日の現況で判定する。なお、年の中途で本人又は配偶者や親族が死亡した場合には、死亡の日の現況で判定する。 ①の子は、年の中途で出国し、令和6年12月31日の現況では非居住者に該当する。したがって、年調減税額の計算には含めない。 ②の子は、12月31日の現況で扶養親族に該当し、③の父は、死亡の日の現況で扶養親族に該当する。したがって、②と③の扶養親族は、いずれも年調減税額の計算に含める。 なお、月次減税額と年調減税額との間に生じた差額は、年末調整において精算することとなる。   - 解 説 - 同じ世帯に納税者が2人以上いる場合、同一の人をそれぞれの納税者の扶養親族として重複して申告しない限り、どの納税者の扶養親族としても差し支えない。誰の扶養親族に該当するかは、「扶養控除等申告書」に記載されたところによる。 子Bは、Aの夫の控除対象扶養親族として申告されているので、Aの控除対象扶養親族には該当しない。 定額減税の計算においても、同じ世帯に納税者が2人以上いる場合には、「扶養控除等申告書」の記載に基づき、いずれかの者の減税額計算の対象とする。1人の扶養親族を、各納税者が重複して減税額の計算の対象とすることはできない。   - 解 説 - 他の人の同一生計配偶者や扶養親族に該当する人は、令和6年分の合計所得金額が48万円以下であるので、源泉徴収税額が発生した月があったとしても年末調整により最終的な源泉徴収税額は0円となる。 年末調整をした従業員等の源泉徴収票の摘要欄には、控除した年調減税額と控除しきれなかった年調減税額を記載することとされているので、この場合にも、摘要欄に「源泉徴収時所得税減税控除済額0円、控除外額30,000円(※3)」と記載する。 (※3) その従業員等の定額減税としてではなく、同一生計配偶者や扶養親族としている親族(居住者)の定額減税の計算において加味される。 *  *  * なお、年調減税事務については、国税庁のホームページに公表されている「令和6年分所得税の定額減税Q&A」もご参照いただきたい。   (※) 本稿では、年末調整で使用する各申告書等を次のとおり表記する。 (連載了)
#596(掲載号)
#篠藤 敦子
2024/11/28
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「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例140(所得税)】 「土地を家屋とともに譲渡しなければならない旨の説明をしなかったため、結果として居住用財産の譲渡にならず、居住用財産の譲渡の特例が適用できなくなってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例140(所得税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(措法35) 次の要件を満たした居住用財産の譲渡をしたときは、所有期間の長短にかかわらず譲渡所得から最高3,000万円を控除できる。居住用財産が共有である場合に、この特例の適用を受けることができるかどうかは共有者ごとに判定する。また、家屋は共有ではなく、土地だけ共有としている場合には、家屋の所有者以外の者は原則としてこの特例の適用を受けることはできない。 ◆居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法31の3の①) その年の1月1日における所有期間が10年超の居住用財産を譲渡した場合に、一定の要件(原則として「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」の適用要件)に該当するときは、他の土地建物に係る譲渡所得と区分し、課税長期譲渡所得金額が6,000万円以下の部分については、通常よりも低い税率(所得税10%、住民税4%)で所得税等を計算することができる。 ◆居住用財産の譲渡の特例の適用関係 「3,000万円の特別控除の特例」は、所有期間の長短に関係なくその適用を受けることができるが、「軽減税率の特例」は長期保有資産に限り適用を受けることができる。したがって、所有期間10年超で、居住期間10年以上の居住用財産の譲渡については、「3,000万円の特別控除の特例」と「軽減税率の特例」を重複適用することができる。       (了)
#596(掲載号)
#齋藤 和助
2024/11/28

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