「税理士損害賠償請求」
頻出事例に見る
原因・予防策のポイント
【事例153(法人税)】
「賃上げ促進税制」の適用に当たり「雇用者給与等支給額」及び「比較雇用者給与等支給額」の欄に誤って「継続雇用者給与等支給額」及び「継続雇用者比較給与等支給額」を記載してしまったため、結果として限度額まで特別控除が受けられなくなってしまった事例
税理士 齋藤 和助
《事例の概要》
令和X年3月期及び令和Y年3月期の2期分の法人税につき、「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除」(以下「賃上げ促進税制」という。)の適用を受けるに当たり、別表六の「雇用者給与等支給額」及び「比較雇用者給与等支給額」の欄に誤って「継続雇用者給与等支給額」及び「継続雇用者比較給与等支給額」を記載してしまった。これが国税局からの問い合わせにより発覚し、当初申告で誤記載した「雇用者給与等支給増加額」が更正の請求の上限となってしまい、更正の請求が受けられず、限度額まで特別控除が受けられなくなってしまった。
これにより、限度額まで特別控除が受けられた場合との差額につき過大納付が発生し賠償請求を受けた。
《賠償請求の経緯》
- 令和X年5月
令和X年3月期の法人税を「賃上げ促進税制」を適用して申告。その際、別表六の「雇用者給与等支給額」及び「比較雇用者給与等支給額」の欄に誤って「継続雇用者給与等支給額」及び「継続雇用者比較給与等支給額」を記載。 - 令和Y年5月
令和Y年3月期の法人税を「賃上げ促進税制」を適用して申告。その際、別表六の「雇用者給与等支給額」及び「比較雇用者給与等支給額」の欄に誤って「継続雇用者給与等支給額」及び「継続雇用者比較給与等支給額」を記載。 - 令和Y年7月
国税局から令和Y年3月期の「比較雇用者給与等支給額」と令和X年3月期の「雇用者給与等支給額」が相違している理由について問い合わせを受け、上記ミスが発覚。 - 令和Y年7月
関与先より正しいデータを入手。 - 令和Y年8月
国税局へ正しい金額に訂正した申告書を提出するも、当初申告に記載された「雇用者給与等支給増加額」が限度となるため更正の請求は認められず。 - 令和Y年9月
関与先に報告。損害賠償請求を受ける。
《基礎知識》
◆給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(賃上げ促進税制)
(1) 原則(措法42の12の5①)
青色申告書を提出する法人が、令和4年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度(設立事業年度、解散(合併による解散を除く。)の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度を除く。以下同じ。)において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、その事業年度においてその法人の「継続雇用者給与等支給額」からその「継続雇用者比較給与等支給額」を控除した金額のその「継続雇用者比較給与等支給額」に対する割合(以下「継続雇用者給与等支給増加割合」という。)が3%以上であるときは、その法人のその事業年度の所得に対する法人税額から、その法人のその事業年度の「控除対象雇用者給与等支給増加額」の10%を控除する。ただし、法人税額の20%相当額が限度となる。
なお、その事業年度終了の時において、その法人の資本金の額若しくは出資金の額が10億円以上であり、かつ、その法人の常時使用する従業員の数が1,000人以上である場合又はその事業年度終了の時においてその法人の常時使用する従業員の数が2,000人を超える場合には、給与等の支給額の引上げの方針、下請事業者その他の取引先との適切な関係の構築の方針その他の事項をインターネットを利用する方法により公表したことを経済産業大臣に届け出ている場合に限る。
(2) 特定法人の特例(措法42の12の5②)
青色申告書を提出する法人が、上記(1)の適用を受ける事業年度を除き、令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度において国内雇用者に対して給与等を支給する場合で、かつ、その事業年度終了の時において特定法人に該当する場合において、その事業年度において「継続雇用者給与等支給増加割合」が3%以上であるときは、その法人のその事業年度の所得に対する法人税額から、その法人のその事業年度の「控除対象雇用者給与等支給増加額」の10%を控除する。ただし、法人税額の20%相当額が限度となる。
なお、その事業年度終了の時において、その法人の資本金の額又は出資金の額が10億円以上であり、かつ、その法人の常時使用する従業員の数が1,000人以上である場合には、給与等の支給額の引上げの方針、下請事業者その他の取引先との適切な関係の構築の方針その他の事項をインターネットを利用する方法により公表したことを経済産業大臣に届け出ている場合に限る。
(3) 中小企業等の特例(措法42の12の5③)
中小企業者等(適用除外事業者に該当するものを除く)が上記(1)又は(2)の適用を受ける事業年度を除き、平成30年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、その事業年度においてその中小企業者等の「雇用者給与等支給額」からその「比較雇用者給与等支給額」を控除した金額のその「比較雇用者給与等支給額」に対する割合(以下「雇用者給与等支給増加割合」という。)が1.5%以上であるときは、その中小企業者等のその事業年度の所得に対する法人税額から、その中小企業者等のその事業年度の「控除対象雇用者給与等支給増加額」の15%を控除する。ただし、法人税額の20%相当額が限度となる。
【特定法人】(措法42の12の5⑤十)
常時使用する従業員の数が2,000人以下の法人(その法人及びその法人との間にその法人による支配関係がある他の法人の常時使用する従業員の数の合計数が1万人を超えるものを除く。)をいう。
【適用除外事業者】(措法42の4の⑲八)
その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度(以下「基準年度」という。)の所得の金額の合計額を各基準年度の月数の合計数で除し、これに12を乗じて計算した金額が15億円を超える法人をいう。
《税理士の落とし穴》
中小企業者等以外の場合、適用の可否は「継続雇用者給与等支給増加割合」で判定するが、税額控除限度額は「雇用者給与等支給増加額」で計算すべきところ、「継続雇用者給与等支給増加額」で計算してしまった。
《税理士の責任》
依頼者は資本金1億円以下であるが、中小企業者の適用除外事業者に該当する青色申告法人であり、令和X年3月期及び令和Y年3月期の2期分について税理士は「賃上げ促進税制」の適用の有無を確認するため、事前に依頼者から「継続雇用者給与等支給額」及び「継続雇用者比較給与等支給額」の金額提示を受けており、適用要件を満たしていることを確認していた。
そして、実際の特別控除額は「雇用者給与等支給増加額」で計算すべきところ、別表六の記載を誤り、「継続雇用者給与等支給増加額」で計算して申告してしまった。そして、国税局より、令和Y年3月期の「比較雇用者給与等支給額」と令和X年3月期の「雇用者給与等支給額」が相違している理由を尋ねられ、初めて上記記載ミスに気付いている。そして、正しい金額に訂正した申告書を提出したが、更正の請求は当初申告に記載された「雇用者給与等支給増加額」が限度となるため認められず、過大納付が確定してしまった。別表六の記載を誤らなければ、「賃上げ促進税制」について、限度額まで特別控除は受けられたことから、税理士に責任がある。
《予防策》
[ポイント①]
適用事業年度の「比較雇用者給与等支給額」が前事業年度の「雇用者給与等支給額」と一致しているかを必ず確認
適用事業年度と前事業年度の月数が同じである場合には、組織再編成を行っているなどの場合に該当しない限り、適用事業年度における「比較雇用者給与等支給額」は、前事業年度における「雇用者給与等支給額」と一致する。本事例も、この金額の一致を確認していれば防げた可能性は高いことから、当期の「比較雇用者給与等支給額」と前期の「雇用者給与等支給額」の一致は必ず確認すること。
[ポイント②]
「賃上げ促進税制」の改正は必ず確認
「賃上げ促進税制」はその創設以来、幾度となく改正を繰り返して存続されている。
今後も同様の傾向が続くものと想定されることから、「賃上げ促進税制」の改正は毎年必ず確認したい。
[ポイント③]
ダブルチェック体制の構築
申告時のミスは、期中処理と違い、ある程度申告書自体をチェックすることで防げる。担当者だけのチェックであると、正しく作成したはずであるとの思い込みから、何度チェックしても見落としてしまうことがある。したがって、担当者以外の有資格者等により、チェックシート等を使用して事務所等内でダブルチェックができる体制を構築しておきたい。
(了)
次回は1/29に公開予定です。























