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給与計算の質問箱 【第58回】「源泉所得税の扶養親族等の数の変更時期」
給与計算の質問箱 【第58回】 「源泉所得税の扶養親族等の数の変更時期」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 源泉所得税の扶養親族等の数に変更があった場合、いつから給与計算に反映させればよいか、ご教示ください。 なお、当社の給与計算は月末締め翌月25日支払です。 A 扶養親族等の数に変更があった場合の、給与計算における対応は以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 原則的な対応 給与の支払を受ける者は、その年最初に給与の支払を受ける日の前日(中途入社の場合は入社後最初に給与の支払を受ける日の前日)までに扶養控除等(異動)申告書を会社に提出する。 その後、申告書の記載内容に異動があった場合は、異動日後、最初に給与の支払を受ける日の前日までに異動の内容を記載した申告書を会社に提出する。会社は申告書を受領後、給与計算において源泉所得税の扶養親族等の数を変更する。 例えば、その月の社会保険料等控除後の給与等の金額が30万円の従業員が、10月10日に結婚し控除対象配偶者が追加になった場合は、10月24日までに扶養控除等(異動)申告書を会社に提出する。会社は10月25日支払の給与計算より、天引きする源泉所得税を8,420円(扶養親族等の数0人)から6,740円(扶養親族等の数1人)に変更する。 〈図表〉源泉徴収税額表 (出典) 国税庁「給与所得の源泉徴収税額表(令和6年分)」より抜粋 2 例外的な対応 年の中途で控除対象配偶者が死亡し、死亡した時点で控除対象配偶者の条件を満たしている場合(配偶者のその年の1月1日から死亡日までの合計所得金額が48万円以下)は、年末調整で配偶者控除の適用を受けられる。 したがって、扶養親族等の数を変更することなく1人のままで12月25日支払まで給与計算する。年末調整が終わり、翌年1月25日支払から扶養親族等の数を0人に変更して給与計算する。 控除対象扶養親族が死亡した場合についても同様である。 (了)
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税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第58回】「鑑定評価の過程には不動産鑑定士の判断が累積する」~鑑定評価書の利用者からみた留意点~
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第58回】 「鑑定評価の過程には不動産鑑定士の判断が累積する」 ~鑑定評価書の利用者からみた留意点~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 前回は、不動産の鑑定評価という行為が、自然的要素よりも人間的要素の強いものであることを述べました。今回は、鑑定評価書の利用者にこのことをより身近に感じていただくために、不動産鑑定士の判断が累積されて鑑定評価の作業が進められていく複数の過程を例に、そのイメージを掴んでみたいと思います。 それとともに、鑑定評価書の利用者が、そこに記載された様々な判断の結果が妥当なものであるかどうかを見極めるために押さえておきたい留意点についても述べていきます。 2 鑑定評価の条件の記載内容とその妥当性 鑑定評価の条件の意義及びどのような場合に条件を設定することができるかについては【第41回】で述べましたが、鑑定評価書の利用者にとっては、これらの内容を理解するとともにその妥当性を確認しておくことが重要です。その理由は、鑑定評価額は評価の前提条件のいかんで大きく異なることもあり得るからです。 詳細は【第41回】を参照いただくこととし、鑑定評価で設定される条件には、対象確定条件(対象不動産の所在、面積及び評価の対象範囲等)のように最初に必ず確定させておかなければならない条件のほかに、想定上の条件や調査範囲等条件のように必要に応じて設定されるものもあります。 例えば、ある人が所有している土地の隣接地を買い取ることにより、もともと形状の悪かった所有地が著しく形状の良い土地の一部に変化する場合には、一般の人が購入するよりも割高な隣接地の価格が求められても不合理ではありません(その理由は、もともとの所有地の価格も上昇するというメリットが生じるためです)。このような前提条件を置いた鑑定評価を行う場合も対象確定条件に該当します。 次に、想定上の条件は、例えば、対象不動産の属する地域が将来○○○○○のような地域に変化することを想定した場合、その価格はどれくらいとなるかという前提に立つものですが、このような条件は都市計画の策定やこれに関する諸規制の変更、改廃に関する行政庁の確実な計画が存しない限り許容されません。 さらに、土壌汚染の状況調査など、不動産鑑定士の通常の調査では対象不動産の価格に対する影響の程度を判断することが難しい場合には、調査の範囲を制限して鑑定評価を行うことも可能となりますが、このような条件は調査範囲等条件に該当します。 条件を設定して鑑定評価を行うことができるというためには、それぞれの条件について鑑定評価上の取扱いが妥当なものと判断できることが必要であり、鑑定評価書の利用者は、鑑定評価書のなかにその条件設定を不動産鑑定士が妥当と判断した根拠が明確に記載されているかどうかを確認することが重要です。 3 価格時点が将来のものとなっていないか 鑑定評価書に記載されている価格時点が将来のものとなっている場合、鑑定評価書の利用者は、その理由(将来時点の鑑定評価を行う特段の必要性)が明確に記載されているかどうかを確認することが重要です。 価格時点を将来のものとすることは、不安定な価格形成要因を基に鑑定評価を行うこととなるため、このような条件は原則として設定してはならないこととされています。 4 不動産鑑定士が対象不動産の実地調査を行った範囲 不動産鑑定士は、対象不動産の物的確認を行うに当たり、現地確認を実施しなければならないことはもちろんですが、なかには(中高層の)テナントの入居している貸事務所等のように、テナントの業務上の都合によりすべてのフロアーについての内覧が困難な場合もあります。 このような場合、鑑定評価書の利用者は、鑑定評価書の以下の点についても目を配る必要があります。 5 鑑定評価書に記載されている資料 鑑定評価に際し、土地に関して以下について調査範囲等条件が設定されている場合でも、このことを理由に法令上の規制の有無(例えば、土壌汚染調査の場合は、土壌汚染対策法上の要措置区域、形質変更時要届出区域の指定の有無)及びその状況が確認できる公的な資料についての記載がなければ鑑定評価書として不備なものとなります。この点も1つのチェックポイントです。 6 区分所有建物及びその敷地の鑑定評価書 区分所有建物及びその敷地の鑑定評価においては、特定の部屋の専有部分及び敷地の持分がその対象となります。しかし、専有部分の属する1棟の建物及びその敷地についても、その状況を鑑定評価書に記載しなければならないこととされています。それは、区分所有建物及びその敷地は、1棟の建物及びその敷地の存在を前提として成り立つものであり、そこで求められる価格も1棟の建物及びその敷地の状況(建築年次、環境条件等)により大きな影響を受けるからです。 鑑定評価書の利用者からすれば、このような事項はあまり意識の対象とはならないと思われますが、チェックポイントとして押さえておくべきです。 7 最有効使用の判定 対象不動産についての最有効使用の方法は1つに絞られます(その意味で、「最」ということばが付されています)。そのため、鑑定評価書にこれが複数記載されている場合(例えば、「中高層マンションの敷地」のほかに「店舗付中高層事務所の敷地」というように)は、どのような鑑定評価の手法が対象不動産にとって最も適切であるかが不明確なものとなります(鑑定評価書で採用されている鑑定評価の手法が、上記の例でいえば「中高層マンションの敷地」としての使用が最有効であると想定していれば、鑑定評価書に「店舗付中高層事務所の敷地」も最有効使用として記載しては整合性がとれないこととなります)。併せて、最有効使用の判定の理由が明確に記載されているかどうかも、重要なチェックポイントとなります。 また、対象不動産の現状とは異なる用途を近隣地域の標準的使用と判定する一方で、対象不動産の最有効使用は現状の用途の継続であると判定されることも実際にはあります。 その例として、近隣地域の標準的使用が戸建住宅の敷地で、対象不動産の現状が共同住宅(建築後かなりの年数が経過しているが、賃貸に供されており、建物が古い割には安定した一定の収益が得られている)というケースがこれに該当します。 このようなケースでは、現存する建物(共同住宅)を撤去し、(近隣地域の標準的使用である)戸建住宅の敷地の用に供しようとしても多額の撤去費を要し、最有効使用を実現するには経済合理性に見合わない出費を伴うという判断が働くことがあります。すなわち、現状と同じ用途のまま賃貸を継続していく方が費用対効果から判断して合理的であるという考え方です。 鑑定評価書のなかに、対象不動産の現況は近隣地域の標準的使用とは異なるが、現況の使用方法をもって最有効使用と判定した旨の記載がある場合、鑑定評価書の利用者はその理由が明確に鑑定評価書のなかに記載されているかを確認しておく必要があります(上記のケースは、標準的使用と最有効使用の異なる理由を説明する1つの例といえます)。 8 まとめ 今回取り上げた内容は、不動産鑑定士の判断が累積されて鑑定評価という行為が進めらていく過程の一例です。 鑑定評価書の利用者は、結果としての鑑定評価額だけでなく、不動産鑑定士の判断結果が鑑定評価書のどこにどのように記載されているのかという視点をもつことにより、一層有意義な活用方法が見出せるものと思われます。 (了)
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《税理士のための》登記情報分析術 【第17回】「代表取締役等の住所非表示措置」
《税理士のための》 登記情報分析術 【第17回】 「代表取締役等の住所非表示措置」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 令和6年10月1日から、代表取締役等の住所非表示措置が施行された。会社の登記記録には、これまで代表取締役等の住所が記載されてきたが、希望者が申出を行えば一定の要件のもとに、住所の記載を最小行政区画までに留めるという制度である(以下、「本制度」という)。税理士にも本制度の利用を希望する顧問先から相談が寄せられる可能性があるため、本連載でその概要を紹介するものとする。 1 制度創設の背景 本制度の創設の背景には、プライバシー保護の要請の高まりがある。 会社の登記記録に代表取締役等の住所が記載されてきた趣旨としては、会社に対する訴訟や連絡を容易にするためといったものがある。会社に対する訴訟を起こしたい場合に、事務所の閉鎖等により会社の本店に訴状が送達できないときには、代表取締役等の個人の住所に訴状を送達するといったことが行われている。 一方で、インターネットの発達により、情報を入手・拡散することが簡単になり、登記された代表取締役等の個人の住所情報が様々な犯罪や迷惑行為に悪用されるおそれも指摘されていた。本制度はそうした懸念について対応するものである。 2 本制度の対象 本制度の対象となるのは、株式会社の代表取締役等(代表執行役、代表清算人を含む)の住所である。一般社団法人や医療法人の代表者についても住所が登記されるが、本制度の対象とはなっていない。 【住所非表示措置が施される前の登記記録例】 【住所非表示措置が施された後の登記記録例】 3 本制度の利用方法 本制度を利用するには、利用を希望する者が、登記官(法務局)に対してその旨の申出を行う必要がある。注意が必要なのは、申出だけを単独で行うことはできないということである。 以下のような、代表取締役等の住所を登記することとなる登記申請と同時にする場合に限り、申出を行うことができる。 【本制度の申出を行うことができる登記申請】 4 本件制度利用の必要書類 申出の際には、登記の申請書に本制度の利用を希望する旨等を記載するほか、以下のような添付書面が必要となる。協力関係にある司法書士に依頼すれば、準備をすることが可能であろう。 【申出の添付書面】 5 本制度利用にあたって検討すべきこと 本制度は、代表取締役等のプライバシー保護の観点からは優れた制度ではあるが、実際に利用するかどうかは、以下の点について理解したうえで判断をするとよいだろう。 (1) 本人確認が煩雑になる可能性がある 銀行との取引や登記手続にあたって、代表取締役等の本人確認が求められるが、本制度を利用すると登記記録からは代表取締役等の住所を確認することができないため、別途代表取締役等の住民票の写しや印鑑証明書の提示を求められる可能性がある。不動産業のように頻繁に銀行取引や不動産取引を行う事業者の場合は、手間が増える可能性もある。 (2) 代表取締役等の住所が登記事項であることは変わりがない 本制度を利用した場合でも、代表取締役等の住所が登記事項であることは変わりがない。よって、代表取締役等の住所が変更された場合には、忘れずに登記申請を行う必要がある。本制度を利用すると、代表取締役等の住所自体が登記不要になったと誤解してしまうおそれがあるが、正確な認識が必要となる。 なお、本制度の利用を終了したい場合には、その旨の申出をすることで終了させることができる。この申出は登記申請と同時である必要はなく、単独で行うことができる。 (了)
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《顧問先にも教えたくなる!》資産づくりの基礎知識 【第17回】「採用・定着のために整備したい! 今時の福利厚生制度3選」
《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第17回】 「採用・定着のために整備したい! 今時の福利厚生制度3選」 株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝 〇ファイナンシャルウェルビーイングと採用・定着 前回お知らせしたとおり、今回は、ファイナンシャルウェルビーイングの観点から、企業が採用・定着のために取り組むべきことを解説します。 筆者は、今年7月に開催された大手新聞会社主催のイベントで、企業がコミットするべきファイナンシャルウェルビーイングについてお話ししました。このイベントでは、従業員の採用・定着のために、企業が積極的に「従業員の将来を応援する取組み」をアピールする必要があるということが論じられました。今は圧倒的に人手不足の時代です。だからこそ、優秀な人材に「選ばれる企業」になることが重要だという趣旨です。 もちろん、「選ばれる企業」になるために取り組むべきことは様々あると思いますが、筆者は従業員のファイナンシャルウェルビーイングへの取組みとして、企業型DC、iDeCo+、職場つみたてNISAの3つの制度が活用できると考えます。 〇企業型DCの活用 企業型DC(企業型確定拠出年金)は、退職金あるいは企業年金の一種です。ただ、従来の退職金制度のようにまとまった金額を「将来」支払うのではなく、分割かつ前払いで「今」従業員に支払うのが特徴です。従業員は、前払いで受けた退職金の掛金を、自らの将来における退職金として資産運用します。 資産運用については従業員の自己責任のもと行われるので、企業の責任は毎月の掛金の支払いのみとなります。これにより、企業は従来のような「将来債務」を負わずに退職金を準備することができます。 企業側の掛金は、従業員1人に対し月55,000円まで拠出可能です。この掛金は、勤続年数や役職による、あるいは基本給の何%などと、段階的に設定されることも多いです。なお、企業が負担する掛金は全額損金計上がされますが、法定福利費の算定対象にはなりません。 同時に、企業は従業員が満足な退職金を得られるように、環境を整える責任が課せられます。それが従業員に対する金融教育です。制度導入時はもちろんのこと、定期的かつ継続的に従業員に対して十分な教育を施す必要があります。 また、企業年金ですので、体制整備にも費用がかかります。企業の規模によっても変わりますが、通常導入時と毎月の制度維持に費用が発生します。 〇iDeCo+の活用 企業型DCまではなかなか準備ができないという企業の場合は、中小事業主掛金納付制度というものもあります。これは「iDeCo+」と呼ばれ、従業員数300人以下の厚生年金適用事業所であり、企業年金はない企業が対象です。 企業型DCは、基本的には全社員を対象とした制度(非加入者には代替措置が必要)でしたが、こちらは希望者だけに掛金を拠出する制度です。財形貯蓄によくある企業からの奨励金のようなイメージです。 具体的には、iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入している従業員で、希望する者にだけ企業は掛金を拠出します。例えば、従業員が2万円iDeCoに掛金を拠出していれば、そこに企業が毎月1,000円掛金を上乗せして拠出することができるといった流れです。企業が負担する掛金は月1,000円以上22,000円以下です。 企業が拠出する掛金は全額損金計上、法定福利費の算定対象外と、企業型DCと同様の扱いになりますが、掛けられる金額の上限が22,000円と少ない点が特徴です。また、企業型DCの場合、制度導入や制度維持に関し費用負担がありましたが、iDeCo+で企業が負担すべきものは掛金くらいですので、事業規模の小さい企業で代替として検討されることが多いです。なお、従業員への金融教育については任意です。 〇職場つみたてNISAの活用 最後は職場つみたてNISAです。こちらはNISAですから、確定拠出年金のように拠出時・運用時・受取り時の税制優遇はなく、運用期間中に得た利益にのみ税金がかからないという仕組みです。税金面でのメリットは確定拠出年金より劣りますが、いつでも解約が可能と、流動性の面では使いやすくなっています。 そもそもNISAは個人の資産形成の仕組みですが、これを企業が支援することで、職場つみたてNISAとなります。企業が従業員を支援する方法は2つあります。 1つ目は、「場の提供」です。NISAを始めようとすると、通常は個人で金融機関を選び口座開設をする必要がありますが、職場つみたてNISAでは、この工程を企業側が段取りします。予め企業がNISA提供事業者と契約を結び、そこに個人の口座を紐付けていきます。 2つ目は、iDeCo+のように、従業員のNISAに企業が掛金をプラスすることです。従業員からすると、企業からもらえるお金は金額の多寡にかかわらず嬉しいものでしょうし、企業からすると、この掛金は賃上げ促進税制の対象となるので、税の控除が受けられるというメリットがあります。 〇3つの制度の選択 これら3つの制度は、すべて企業が従業員の将来に向けた資産形成を応援するものです。企業の状況や目的によって、選ぶべき制度は異なります。 企業型DCとiDeCo+は併用できないので、どちらか1つを選択することになります。一方、企業型DCと職場つみたてNISA、あるいはiDeCo+と職場つみたてNISAは併用可能です。 制度を導入することによる企業側のメリットはそれぞれですので、企業としてどのようなファイナンシャルウェルビーイングを従業員に提供したいのか、目的に合わせて検討されるとよいでしょう。 なかなか3つの福利厚生制度について、並行して、検討のための十分な情報提供を受けることは難しいと思いますが、ぜひ専門家の力を借りながら自社にとって最も良い内容の制度導入をご検討ください。 (了)
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《速報解説》 会計士協会、中間連結財務諸表等を含む半期報告書に関する表示のチェックリストの改正・策定を公表~監査事務所が表示の確認を実施する際に有用~
《速報解説》 会計士協会、中間連結財務諸表等を含む半期報告書に関する 表示のチェックリストの改正・策定を公表 ~監査事務所が表示の確認を実施する際に有用~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年10月10日付で(ホームページ掲載日は2024年10月11日)、日本公認会計士協会は、次のものを公表した。 これは、監査事務所が表示の確認を実施する際の参考となるチェックリストである。 いずれの研究報告も監査事務所における利用を想定しているが、財務諸表の作成者も利用可能である。また、「本研究報告利用上の留意点」が記載されているので、実際の利用に際しては注意が必要である。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 第1種中間連結財務諸表等を含む半期報告書に関する表示のチェックリストの改正 2024年4月1日以後開始する事業年度に係る中間会計期間から適用となる事項については、チェックリスト上、黄色の網掛けを付している。 「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第46号)について記載されている。 Ⅲ 第2種中間連結財務諸表等を含む半期報告書に関する表示のチェックリストの公表 次の構成となっている。 (了)
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プロフェッションジャーナル No.589が公開されました!~今週のお薦め記事~
2024年10月10日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.589を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第136回】「消費税の性質論(その4)」
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第136回】 「消費税の性質論(その4)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 4 検討(承前) (6) 消費税の納税義務者 本件判決は、「消費者は、消費税の実質的負担者ではあるが、消費税の納税義務者であるとは到底いえない。」と断じており、納税者の主張を排斥している。 これは、本件判決が論じるとおり、消費税法にも税制改革法にも消費者が消費税の納税義務者とは規定されていないことからすれば当然の結論のように思われるが、果たして、そもそも、「消費税の実質的負担者ではあるが」とする説示の部分は正解しているといえるのであろうか。 本件判決が、転嫁されるかどうかは取引当事者の自由に決し得るところである旨の説示を展開していることについてはこれまで確認してきたとおりである。そうであるのにもかかわらず、消費者を消費税の「実質的負担者」といい切ることができるのであろうか。むしろ、消費税制度における消費税額相当額の転嫁が単に「予定されている」というだけに留まるのと同様、消費者が消費税の「実質的負担者であることが予定されている」という程度にとどまるのではなかろうか。 すなわち、消費税額相当額の「転嫁」が、予定されているとおりに現実になされていることを前提として初めて、消費者が消費税の「実質的負担者」といい得るのであって、かかる消費税額相当額の「転嫁」が予定されているにすぎないのであれば、消費者は消費税の「実質的負担者」として予定されているというにすぎないのではなかろうか。 いずれにしても、本稿において検討したとおり、消費税制度の議論をしているのかあるいは消費税法の議論をしているのかによって、すなわち論脈に注意関心を寄せるべきであることが判然とした。消費税法の議論をするときに、消費税のあるべき姿や想定されている姿を前提とした規範定立を行うとすれば、それは議論のすり替えともいい得ることにもなりかねない。 消費税の性質論としては、そもそも消費税額相当額の取引価格への「転嫁」が予定されており、そのことから消費者が消費税の「最終負担者」となることが論じられることになろうが、消費税法の議論においては、消費税の「転嫁」については事実問題として整理されるべき論点であり、その実際の「転嫁」の有無については保証の限りではないということになろう。 かような意味において、消費税ないし消費税法の性質論の検討については慎重なる態度が要請されているように思われるのである。 前述の名古屋地裁判決は、消費税が取引段階において次々と価格に転嫁され、最終的には消費者に負担を求めるものとされていることなどを理由として、同法上の対価の意義を目的的関係説によって判断しているが、「転嫁」が本件判決が指摘するとおり事実行為であることに思いを致すと、説得力に欠けるものであったというべきではなかろうか。 (7) インボイスについて さて、最後にインボイス制度についても言及しておきたい。 インボイス制度について、本件判決は次のように述べる。 インボイス制度が導入されるに当たって、多くの議論があったところではあるが、果たして今日的には説得力のある説示であるといえるのであろうか。本件判決が指摘するとおり、「事業者が仕入れ取引を行うに当たり、逐一その相手方が免税業者であるか否かを確認しなければならないとすれば、その事務が極めて複雑になる〔下線筆者〕」から帳簿方式(いわゆる日本版インボイス方式)が採用されてきたところであるが、果たして、そこでいうような「その事務が極めて複雑になる」という事態は解消されたのであろうか。 このような観点から議論を展開すると、本件判決が提示された当時と現在とで、「その事務が極めて複雑」であるか否かについて大幅に事実認識を異にするような状況変化があったというべきなのであろうか。例えば、電子インボイス普及の環境が整ったなどという明確な環境変更があるのであれば格別、そのような環境変化というべき状況変更はない中にあって、本件判決の説示を前提とした場合に、令和5年10月のインボイス制度の施行は適確なタイミングであったのであろうか。 あるいは、この点についての本件判決の説示は妥当性を欠くものであったのであろうか。議論のあるところであろう。 結びに代えて 本稿においては、消費税法の本質論を議論する素材として本件判決を取り上げた。消費税法もこの本件判決が示された当時に比していくつかの部分改正はあるものの、消費税法の本質自体に変容があったものと認めるに足る積極的な素材はなさそうである。 そのような中であればなおさら、本件判決の論じている内容について今一度振り返りを行い、消費税ないし消費税法の本質論の不安定性について再確認をすべきなのではなかろうか。 (了)
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谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第31回】「国税通則法75条(~77条の2・80条)」-租税不服申立要件-
谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第31回】 「国税通則法75条(~77条の2・80条)」 -租税不服申立要件- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 国税通則法75条(国税に関する処分についての不服申立て) 1 はじめに 国税通則法第8章は「不服審査及び訴訟」に関する規定を定めている。同章の規定はいわゆる租税争訟ないし税務争訟に関する規定であり、税法の体系上は、納税義務の成立・承継及び消滅に関する法(租税実体法)に対して目的従属的な関係に立つ租税手続法のうち、成立した納税義務の確定及び履行の過程に関する法(税通第2章~第7章の3及び税徴。租税行政法)と並ぶ納税者の権利救済に関する法(租税争訟法ないし租税救済法)に属する(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【86】参照)。 税法における租税争訟ないし税務争訟の意義について、次の見解(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)1093頁。下線筆者)は正鵠を射たものである(なお、税務争訟の目的については、後記2の最後に引用する税制調査会『国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)』(昭和36年7月)115頁参照)。 租税争訟の意義をこのように租税法律主義との関係で捉える考え方は「画餅論」と呼ぶことができようが、画餅論こそ租税争訟法の解釈適用論及び立法論の出発点において常に重視し考慮すべき考え方である。手続的保障原則(前掲拙著【27】)は、租税の賦課徴収に関する適正な手続のうち事後手続について、画餅論に基づいて「租税争訟制度の確立」を租税法律主義からその「不可欠の要素」として導き出す基本原則であるといってもよかろう。 今回から、国税通則法の定める租税争訟法・租税救済法について検討していくことにするが、まず今回は、租税不服申立ての提起に関する国税通則法の定めをみておこう。租税不服申立てを提起することができるのは、「国税に関する法律に基づく処分・・・・・・に不服がある者」(税通75条1項柱書)であるから、以下では、これを租税不服申立ての対象と租税不服申立資格に分けて検討することにする。これらは租税訴訟に係る広義の訴えの利益のうち訴えの対象と原告適格という訴訟要件に対応する租税不服申立要件である(広義の訴えの利益については泉徳治ほか『租税訴訟の審理について〔第3版〕』(法曹会・2018年)43頁以下参照)。 なお、その他の不服申立要件として、国税通則法は、不服申立ての種類すなわち再調査の請求及び審査請求に応じて不服申立先(税務署長、国税局長、税関長、国税不服審判所長、国税庁長官)を定め(75条)、また、不服申立期間を定めている(77条)。 また、国税通則法80条は「行政不服審査法との関係」について定めているが、同法が「不服審査」について定める規定(第8章第1節)は「ほぼ自己完結的」(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年)1057頁、武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)4001頁)であり、一般法である行政不服審査法が適用される余地は少ない。この点において、同法114条が「訴訟」(第8章第2節)について定める「行政事件訴訟法との関係」と大きく異なる。 2 租税不服申立ての対象 租税不服申立ての対象は「国税に関する法律に基づく処分」である。ここで「国税に関する法律」とは、「国税について、課税標準、税率、納付すべき税額の確定、納付、徴収、還付等国と納税者との間の権利義務に関する事項を規定している法律」をいい、「国税通則法、国税徴収法、所得税法、法人税法、地方法人税法、相続税法、地価税法、消費税法、酒税法、国際観光旅客税法、租税特別措置法等」がこれに当たり、「関税法、地方税法、財政法、会計法、国税収納金整理資金に関する法律、税理士法、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」はこれに含まれない(武田監修・前掲書4030頁。志場ほか共編・前掲書1088頁も同旨)。 また、そこでいう「処分」とは、「行政庁が行政法規の具体的な適用ないし執行として、公権力の行使として国民に対し優越的な立場で行う、権利義務その他法律上の地位の形成若しくは変動又はその存否範囲の具体的確定等の法律上の効果を発生させる行為」(武田監修・前掲書4030頁。志場ほか共編・前掲書1088頁も同旨)をいうものと解されている。これは、国税通則法が不服申立事項につき採用する一般概括主義(武田監修・前掲書4091頁、志場ほか共編・前掲書1100頁)に基づく解釈である。 一般概括主義は手続的保障原則からみて不服申立事項の定め方として肯定的に評価すべきものであり、上記の解釈によれば、除外事項として規定されている処分(税通76条1項)及び不服申立てについてする処分に係る不作為(同条2項)以外の処分に対しては広く不服申立てをすることができることになることも合理的かつ妥当である。 とはいえ、「処分」に関する前記の定義は、「権利義務その他法律上の地位の形成若しくは変動又はその存否範囲の具体的確定等の法律上の効果を発生させる行為」とする点において、内容的には、講学上の行政行為概念を基礎とする実体的行政処分を想定して示されたものと解され、したがって、「国民の権利義務に影響を及ぼさない行為」(武田監修・前掲書4031頁)はこれに当たらないと解されている(同書4031-4035頁、志場ほか共編・前掲書1088-1091頁参照。なお、行政行為と行政処分との関係については宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第8版〕』(有斐閣・2023年)365頁参照)。 もっとも、そのような解釈の下でも、源泉徴収等による国税に係る納税の告知(税通36条1項2号)については、「給与等の受給者の源泉納税義務の存否、範囲に影響を及ぼすものではなく、給与等の支払者が納税の告知を受けながら、その旨を受給者に知らせることなく、納税の告知が行政処分として確定しても、受給者の権利・利益を侵害したことにはならない(最高判昭和45・12・24民集24巻13号2243頁)(受給者は、支払者から、その税額に相当する金額の支払を請求されたときは、自己において源泉納税義務を負わないこと又はその義務の範囲を争って、支払者の請求の全部又は一部を拒むことができる(同上判例)。)。」(同1090頁。武田監修・前掲書4033頁も同旨)と述べられていることからすると、租税不服申立ての対象としての「処分」は、実体的行政処分に限定されず、「本来は非権力行政作用としても把握できるものであるが、争訟法上の見地から、形式的・技術的に行政処分として」(芝池義一『行政法総論講義〔第4版補訂版〕』(有斐閣・2006年)135頁)構成される形式的行政処分もその「処分」に当たると解される(同『行政救済法』(有斐閣・2022年)52-53頁のほか、谷口教授と学ぶ「税法基本判例」【第41回】Ⅲ2も参照)。 租税不服申立ての対象に関する以上の解釈は、手続的保障原則適合的解釈といってよかろう。手続的保障原則適合的解釈は、税制調査会・前掲答申別冊115頁が「税務争訟の考え方」について次のとおり説く「目的論的見地」のうち「人民の権利利益の救済」の「目的」に重きを置く考察を、租税不服申立の対象に関する解釈に反映させるものといってもよかろう。 3 租税不服申立資格 国税通則法は、国税に関する法律に基づく処分に「不服がある者」(75条1項柱書、2項柱書)に不服申立資格を認めている。「不服がある者」の意義については、「当該処分に対し不服申立てをする法律上の利益を有する者、すなわち、当該処分によつて直接自己の権利又は法的利益が侵害されている者」(東京地判昭和53年12月21日訟月25巻4号1192頁)と解されている(なお、不当景品及び不当表示防止法上の不服申立資格について最判昭和53年3月14日民集32巻2号211頁も参照)。 ただ、そこでいう「法律上の利益」とりわけ「法的利益」の意義は、前記の「処分」要件の解釈に対応して「争訟法上の見地から」目的論的に(緩やかに)解釈するのが相当であると考えられる。そのような解釈こそ、租税不服申立資格に関する手続的保障原則適合解釈といえよう。 また、「法律上の利益」には、租税実体法上の利益のみならず租税手続法上の利益も含まれることを忘れてはならない。その代表的な利益としては、青色更正の理由附記による利益が挙げられ、確立した判例では、「一般に、法が行政処分に理由を附記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨に出たものである」(最判昭和38年5月31日民集17巻4号617頁)とされているが、平成23年度[11月]税制改正では、そのような理由附記(提示)による利益が「国税に関する法律に基づく処分」のうち不利益処分について一般的に拡大された(税通74条の14第1項、行手14条参照)。 ほかにも、租税手続法上の利益に関して、最判令和6年5月7日判タ1523号66頁の宇賀克也裁判官反対意見が青色申告承認取消処分について事前意見陳述の機会の保障を憲法上の適正手続の保障からの要請として説示したことが注目される。 (了)
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国際課税レポート 【第7回】「国連『国際租税協力枠組条約』とは何か」
国際課税レポート 【第7回】 「国連『国際租税協力枠組条約』とは何か」 税理士 岡 直樹 (公財)東京財団政策研究所主任研究員 2024年8月、国連・国際租税協力枠組条約(以下「枠組条約」)起草委員会は、枠組条約の骨子(Terms of Reference)案を賛成110、反対8で採択した。ナイジェリアをはじめとするアフリカ諸国のイニシアチブで議論されてきたものだ。日本は、反対票を投じている。(※1)。 (※1) 反対はオーストラリア、カナダ、イスラエル、日本、ニュージーランド、韓国、英国、米国の8ヶ国。賛成した主な国には中国、ブラジル、インド、インドネシア、メキシコ、マレーシア、南アフリカ、ロシア等が含まれる。なお、棄権した主な国は、フランス、ドイツ、イタリア、シンガポール、アラブ首長国連邦など。 今後、毎年3回以上政府間交渉を行い、枠組条約と、規範形成の対象となる具体的な事項についての2つの議定書を策定し、2027年の国連総会に提出することが予定されている。 本稿では、今後、2024年12月に開催される第79回国連総会で採択される見込みとなった「枠組条約」及び「議定書」の骨子案について簡単に紹介するとともに、OECDとは別にこうした議論が登場した背景、そして国際的な租税ポリシー形成に与える影響について考えてみたい。 枠組条約の概要 枠組条約の目的、原則、そして目指すもの(コミットメント)についてのポイントは以下のようなものである。 (出所) Draft Terms of Reference for a United Nations Framework Convention on International Tax Cooperation(Report A/79/333)12~13頁より抜粋して筆者作成 枠組条約の対象となる個別具体的な項目(議定書) また、規範形成の個別具体的な項目について、議定書が作成されることが予定されている。加盟国は、議定書の締約国となるかについて、議定書ごとに選択できることが予定されている。さしあたり、次の項目を盛り込むことが提案されている。 (出所) Draft Terms of Reference for a United Nations Framework Convention on International Tax Cooperation(Report A/79/333)14頁より抜粋して筆者作成 枠組条約が登場したのはなぜか デジタル経済における課税権の配分を巡る議論は、2016年に日本で第1回会合が開催されたOECD/G20・BEPS包摂的枠組(以下「IF」)で行われてきた。枠組条約は、国際的な課税権の配分について、これとは別のフォーラムを国連に創設するものとなる。 それでは、なぜ枠組条約の議論が登場したのか。背景には、OECD(IF)におけるBEPSプロジェクトの議論を巡る途上国のフラストレーションと第1の柱(Amount A多国間条約)を巡るOECDの議論の停滞があると思われる。 2012年にOECD租税委員会で始まったBEPSプロジェクトの議論の歴史は、2つの期間(フェーズ)に分けて振り返ることができる。第一のフェーズは、多国籍企業が経済実態と既存の課税ルールの間に生じたズレを利用して利益移転・課税逃れを行う問題(Base Erosion and Profit Shifting)への対応であり、2015年に最終報告書をとりまとめている。 そして、とりまとめられたBEPSパッケージをOECDやG20以外の国においても時機を逸することなく実施するため、OECDは2016年1月に「各国が対等の立場で参加する枠組み」という触れ込みでIFを創設した。IFのメンバーとなるためには、各国はBEPS最終報告書の内容(ミニマム・スタンダード)を受け入れること等が必要とされている。 BEPSの議論の第二のフェーズは、2018年から本格的に議論が始まった、デジタル経済に即した課税権の分配を巡る議論である。これは、15あるBEPSプロジェクトの行動計画のうち行動計画1とされていたもので、BEPSプロジェクトを象徴するテーマであるが、GAFAといったデジタル巨大企業を多数抱える米国と、多くのユーザー・市場を持つ欧州の間の意見の対立が大きく、第一のフェーズではコンセンサスを得るまでには至らなかったものである。 しかし、米国で法人税率の引上げ等の政策を掲げるバイデン政権が2021年1月に誕生し、税率引下げ競争に歯止めをかけるため(外国の税率が低いままだと、米国企業の課税ベースが軽課税国に流出するおそれがある)OECDでのコンセンサスの達成に方針を転換したことなどから、困難な議論と妥協を経て「2本柱による解決」として2021年10月の「最終合意」にこぎつけたものである。 OECD(IF)プロセスの問題 しかし、IF最終合意の内容を実際の条約や各国国内法に落とし込む作業が進むにつれ、「2本柱による解決」の内容が複雑で、途上国を中心に多くの国にとって実施困難なため、実質的な普遍性を欠いている問題が露呈することにもなった。 国連事務総長が2023年8月に公表した「国連事務総長報告書」は、OECD(IF)プロセスには実質面の問題、手続面の問題があるとして次を指摘している。 (出所) 本田光宏「国際課税システムにおけるグローバルサウスの存在感の高まり」「具体化する国際課税改革の展望・提言」東京財団政策研究所研究プログラム「デジタル経済と国際課税」(2024)及び国連事務総長報告書(2023)より筆者作成 OECD主要国の団結と影響力の低下 枠組条約が登場した背景として、より深刻と思われるのは、米国、EU各国等のOECD主要国(コアメンバー)の団結力・統一的な規範形成力の弱体化があると思われる。Amount Aのための多国間条約締結のための議論は、下記「年表」に示すように、合意時期について目途が立っていない(しかも、OECDで合意しても米国議会が承認し、条約が発効する見込みがない)。 OECD主要国が、自国の主張に過度に固執しはじめ、あるいは国内で議会を説得できず、議論を膠着させていることが、開発途上国やグローバルサウスと言われる国々の存在感を高めている面があると思われる。 〈OECDの議論と国連の議論の経緯(年表)〉 (出所) 筆者作成 国連租税委員会との関係 経済社会理事会(ECOSOC)の委員会の1つである国連租税委員会は、個人の資格で参加する25人の専門家で構成され、国連モデル租税条約(2021)、国連移転価格マニュアル(2021)、環境税、炭素税ハンドブック(2021)等を作成している。枠組条約はこれとは別個の動きであり、租税委員会の活動は今後も従前と同じように行われ、その成果は国連モデル租税条約のアップデート等に反映されるものと推察される。 国連モデル租税条約は、OECDモデル租税条約と比べ、源泉地国の課税権を広く認める内容になっており、従前から第12条A「テクニカル・サービス・フィー」(デジタルサービス等技術的役務等について支払地国での課税を認める規定)があったが、2021年のアップデートでは第12条B「自動的デジタルサービス所得」(オンライン広告等、インターネットを通じて提供されるサービスに源泉地国(市場国)での課税を認める規定)が新たに追加されるなど、国連租税委員会としての経済のデジタル化への対応についての措置が盛り込まれている。 おわりに 2024年7月の国際租税協力に関するG20閣僚リオデジャネイロ宣言は、枠組条約の骨子(ToR)作成に向けた国連の作業に言及し、 を指摘している(パラ5,14)。前述したように、OECD・IFにおけるAmount A多国間条約締結に向けた合意形成が停滞している現状を謙虚に受け止めれば、耳を傾けるべき指摘であろう。 OECDのBEPS包摂的枠組みが140もの国の参加を得ていながら、国連における枠組条約新設提案の登場を許した背景を、単にグローバルサウス(開発途上国)とOECD(先進国)の利害の相克であり、これまでにもよくあった問題として片づけるのであれば問題の本質を見誤るだろう。 1番目の問題としては、国際課税のルール作りにリーダーシップを発揮してきたOECD主要国間で利害対立を自律的に解決できていない点があるように思う。OECDの議論に不満を持つ米国上院議員(共和党)の一部は、OECDの予算の停止を求める歳出委員会委員長(民主党)宛の書簡を連名で発出したほどであり(※2)、米国議会のOECD、そして米財務省に対する不信には根深いものがあるようにも見える。 (※2) 2024年7月24日、Mike Crapo(上院財政委員会共和党トップ)他。 2番目の問題としては、OECD・IFが生み出した数百~千ページにも及ぶ膨大なガイダンスへの異議申立てがありそうだ。OECDは、簡素なルールを作ることに失敗しており、国連事務総長レポートが指摘するIFプロセスの実質面の問題(OECDは専門性の高いガイダンスを大量に作成するが、ニーズや優先度に対応しないものが多く、実施することができないことが多い)という指摘に共感する国は多そうだ。これは、リソースが十分でないといわれる開発途上国に限られないだろう。 国連の枠組条約が具体的に動き出すのは2027年以降であり、本当に条約が成立するのか、あるいは実際にどのように運用されるのか等は現時点で見通すことはできない。 言うまでもないが、資源や市場に乏しいわが国の多国籍企業にとって、安定してグローバルに活躍できる環境が必要であり、国際協調主義は日本にとって重要である。国連の枠組条約についても、多数の国が賛成しており、議論していく流れができてしまった以上、議論の中に入って発言権を確保していく工夫が必要であろう。 (了)
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Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第47回】「〔第5表〕直前期末の直前に土地の売買契約を締結した場合の買主法人における資産の部及び負債の部の計上金額の留意点」
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第47回】 「〔第5表〕直前期末の直前に土地の売買契約を締結した場合の 買主法人における資産の部及び負債の部の計上金額の留意点」 税理士 柴田 健次 Q 経営者甲(令和6年8月1日相続開始)が100%所有している甲株式会社の株式を長男が相続していますが、甲株式会社の資産の中に駐車場として賃貸しているA土地があります。A土地は令和6年3月1日に売買契約を締結し、同日に10,000千円の手付金を支払い、令和6年6月1日に引渡しを行っています。 甲株式会社は3月決算で直前期末は令和6年3月31日となり、売買契約の内容及び時系列の詳細は下記の通りです。 この場合に、甲の相続税の甲株式会社の株式価額の算定上、第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」のA土地の購入に関連する資産の部及び負債の部に計上する相続税評価額及び帳簿価額はそれぞれいくらになりますか。 なお、純資産価額の計算においては、直前期末方式(直前期末の資産及び負債の帳簿価額に基づき評価する方式)により計算するものとします。 A土地の令和6年における路線価に基づく相続税評価額は70,000千円です。 A 第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部及び負債の部に計上する相続税評価額及び帳簿価額は、下記の通りが相当かと思料されます。 ◆ ◆ ◆ ① 仮決算方式と直前期末方式 第5表の純資産価額の計算は、原則として仮決算方式で評価するべきこととされていますが、評価会社が課税時期において仮決算を行っていないため、課税時期における資産及び負債の金額が明確でない場合において、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がなく評価額の計算に影響が少ないと認められるときは、直前期末方式により計算することができるものとされています。 したがって、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がある場合については、直前期末方式により計算ができません。 仮決算方式と直前期末方式を比較すると下記の通りとなります。 (※) 帳簿価額は、会計上の帳簿価額ではなく税務上の帳簿価額となります。 ② 売買契約締結後に課税時期が到来した場合の買主側における相続財産の種類と相続税評価 売買契約締結後、引渡しの前に買主に相続が発生した場合には、相続又は遺贈により取得した財産は、原則として土地等又は建物等の引渡請求権等となり、被相続人から承継した債務は、相続開始時における残代金支払債務となります。 最高裁判決と国税庁情報でその取扱いの内容が明確にされています。 (1) 最高裁判決における取扱い 昭和61年12月5日の最高裁判決(TAINSコード:Z154-5841)は、被相続人が農地の買受契約を締結し、農地法3条による許可申請に対する許可通知が被相続人の死亡後に到達した場合、相続に係る相続税の課税財産は農地であるのか債権であるのか、その評価はどうするかが争われた事例です。 納税者は、相続財産は農地であり、財産評価基本通達に定める農地の評価方法によるべきであると主張しましたが、最高裁は次のとおり判示し、納税者の請求を棄却しました。 なお、本事例においては、相続後に支払った残代金及び仲介手数料は債務として認められています。 本連載【第45回】で解説した最高裁判決(売買契約中に売主に相続が発生した場合)と上記の最高裁判決(売買契約中に買主に相続が発生した場合)は、同日に行われており、売主側と買主側における財産の種類及び相続税評価の取扱いをまとめると下記の通りとなります。 (2) 国税庁情報における取扱い 上記(1)の最高裁判決を踏まえて、国税庁の取扱いにおいても、土地等又は建物等の売買契約締結後、売主から買主への引渡しの日(農地法所定の許可又は届出を要する農地等である場合には、その許可の日又はその届出の効力の生じた日後にその土地等の所有権が売主から買主へ移転したと認められる場合を除き、その許可の日又は届出の効力の生じた日)前に買主に相続が開始した場合には、相続又は遺贈により取得した財産は、その売買契約に係る土地等又は建物等の引渡請求権等とし、被相続人から承継した債務は、相続開始時における残代金支払債務とされました。 なお、土地等又は建物等の引渡請求権等の価額は、原則としてその売買契約に基づく土地等又は建物等の取得価額の金額とされていますが、その売買契約の日から相続開始の日までの期間が通常の売買の例に比較して長期間であるなどその取得価額の全額がその相続開始の日におけるその土地等又は建物等の引渡請求権等の価額として適当ではない場合には、別途個別に評価した価額によります。 また、その土地等又は建物等を相続財産とする申告があったときは、それを認めるものとされていますが、課税処分が訴訟事件となり、その審理の段階で引渡し前の相続財産が「土地等」であるとして争われる場合には、相続財産が「土地等」であるとしてもその価額が当該売買価額で評価すべきである旨を主張する事例もあるとされています(国税庁資産税課情報第1号(平成3年1月11日付))。 売買契約中に買主に相続が発生した場合の相続財産の種類と相続税評価について、国税庁情報の取扱いをまとめると下記の通りとなります。 本連載【第45回】で解説していますが、売買契約中に売主に相続が発生した場合には、最高裁判決と同様に「売買契約に基づく残代金請求権」を相続財産としています。これに対して、売買契約中に買主に相続が発生した場合には、国税庁情報では、「土地等又は建物等」を相続財産とする例外処理を認めており、この部分については最高裁判決と異なりますので、注意が必要です。 ③ 本問への当てはめ 本問の場合には、令和6年3月1日の売買契約の締結時において手付金10,000千円を支払っていますので、会計上及び税務上の仕訳は下記の通りとなり、前渡金が資産の部に計上されます。 そして、上記②の取扱いにより、土地の売買契約締結後、引渡しの日までの間に課税時期が到来した場合には、原則として引渡請求権、例外として土地となります。これを直前期末方式の場合に準用すると土地の売買契約締結後、引渡しの日までの間に直前期末が到来した場合には、原則として引渡請求権、例外として土地となります。引渡請求権として計上したほうがいいのか、土地として計上したほうがいいのかについて考察すると、課税時期においては土地の引渡しが行われていること及び仮決算方式との整合性の観点から土地として評価することが相当かと思料します。 仮に引渡請求権(債権)として計上した場合に土地保有特定会社に該当せず、土地として計上した場合に土地保有特定会社に該当したときは、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がある場合に該当することになり、直前期末方式が認められません。 したがって、財産の種類は土地として計上することが適正な評価実務になります。 また、相続税評価額の計上金額は、課税時期前3年以内に取得した土地に該当するので、相続税評価額ではなく、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価を行います。「帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとする」とされていますので(評価通達185括弧書き)、本問の場合には取得価額である100,000千円を計上することになります。 第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部及び負債の部に計上する相続税評価額及び帳簿価額の計上金額の考え方としては、直前期末時点において土地の引渡しが行われた場合の仕訳を考えると分かりやすいかと思います。 上記の通り、土地の引渡しがあったものとして、土地を計上し、前渡金は消滅したものとして考えます。 なお、帳簿価額をどのように処理するかについては、下記の2通りの考え方があります。 《A案》 《B案》 上記の《A案》も《B案》も評価差額に対する法人税等相当額は生じませんので、評価に影響はありませんが、本問の場合には、課税時期前に土地の引渡しが完了していますので、仮決算方式との整合性を考慮し《A案》が相当かと考えます。 ☆実務上のポイント☆ 直前期末から課税時期までの間に資産の変動がある場合には、直前期末方式を採用する場合であっても、仮決算方式ではどのように処理がされるかを考えることが重要となります。 (了)