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税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第79回】「土地の使用貸借であるが借主の死亡を直接の理由とせず、使用収益をなすに足るべき期間の経過により契約の終了を認めた裁判例」
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第79回】 「土地の使用貸借であるが借主の死亡を直接の理由とせず、使用収益をなすに足るべき期間の経過により契約の終了を認めた裁判例」 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 今回取り上げる事案も、前回と同じく使用貸借の終了に関して争われたものです。ただし、前回の事案は、貸主が死亡してその相続人と借主(親族)の間で使用貸借の終了をめぐり争われたものであるのに対し、今回の事案は、借主が死亡してその相続人と貸主(親族)の間で争われた点に相違があります。 いずれにしても、使用貸借とはいえ、その権利の消滅のために何がしかの対価の支払いが必要となっている点は共通しており、このような案件が鑑定評価の対象となった場合、不動産鑑定士には税務上の扱いとは異なる判断が求められます。 2 今回取り上げる裁判例 建物所有を目的とする土地の使用貸借において、民法第599条(※)の適用を否定した上で、「使用収益をなすに足るべき期間の経過」があったことを理由とする解約の申入れにより契約が終了したとされた事例(東京地裁平成7年10月27日判決(判例時報1570号、70頁))を取り上げます。 (※) 本件判決当時適用されていた民法条文であり、その趣旨は、使用貸借は借主の死亡によって終了するというものです。なお、現行民法では第597条第3項に編成替えされていますが、以下、判決当時の条文のまま掲載します。 3 事案の概要と裁判所の判断 (1) 事案の概要 (人的な関係) YはXの実妹であり、ZはYとその夫Aとの間の長女です(下記関係図のとおり)。 【人的関係図】 (経緯) 〇 Xの主張の基になった主な理由 本件土地の使用貸借は、親族関係に基づく恩恵的なものであり、Yの一家の居住を目的としたものであるが、現在においては借主であるAはすでに死亡し、娘のZは結婚して社宅に居住しており、結局、本件建物にはYだけが居住しているにすぎない。 (2) 裁判所の判断 本件審理に当たった裁判所は以下のとおり判断の上、本件使用貸借は終了したとの結論を下しました。 ① 本件契約は使用貸借に該当するか 以下の点からすれば、XはAに対し、本件土地を木造建物所有の目的で使用貸借したものと認められる。 ② 本件契約に民法第599条は適用されるか 民法第599条によれば、使用貸借は借主の死亡によってその効力を失うと規定されている。しかし、本件土地の使用貸借はAとYおよびZの家族の居住を確保するために行われたものであり、借主はAであるとはいえ、その妻がXの妹であるという関係から無償の貸借を得られたものである。このように、いわばYを介して使用貸借をするに至る特別な関係が成立していることなどの事情を勘案すれば、本件土地の使用貸借については民法第599条は適用されないと解するのが相当である。 ③ 本件契約は使用収益をなすに足るべき期間の経過により終了したか 本件審理に当たった裁判所は、上記のとおり本件には民法第599条は適用されないとしたものの、次の事実および諸事情を考慮し、Yにとって本件土地につき使用収益をなすに足るべき期間は経過したとして、使用貸借の終了を認めています。 4 まとめ 使用貸借はいうまでもなく無償契約であり、(親族間等のように)貸主・借主との特別の関係に基づいて成立することが多いため、民法上、借主の死亡によって終了するとされています。 この点、本件事案では裁判所が貸主・借主間の特殊な関係や契約の経緯等を考慮したためか、使用貸借は借主Aの死亡によっては終了しないと認定している点に大きな特徴がみられます。 しかし、現行民法第598条第1項(本件判決当時は民法第597条第2項但書がこれに該当)には、使用収益に関し、貸主は借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは契約の解除をすることができる旨規定されており、本件判決の結論を導く際にもこのような考え方が拠り所となっている点に留意が必要です。 なお、本文にも記載したとおり、本件事案においては、貸主から相続後の借主であるYおよびZに対して立退料や代替家屋の提供を申し入れています。このような事実をもってしても、使用貸借が税務上は価値を認めない権利であるにもかかわらず、貸主から借主に退去(土地の返還)を求める際には、(補償的な意味合いを込めて)鑑定評価の際には何がしかの経済価値を織り込んでいるケースが多いことを裏付けることができると思います。 (了)
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令和8年度税制改正に関する《資料リンク集》(更新)
令和8年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和8年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
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プロフェッションジャーナル No.676が公開されました!~今週のお薦め記事~
2026年7月9日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.676を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
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暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第96回】
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第96回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 (3) 期待と限界 ア ブロックチェーン分析の有効性:期待と限界 このように、調査選定や個別の税務調査の場面において、税務当局が暗号資産の匿名性や分散性による税務執行上の課題に直面する際、ブロックチェーン分析は有効な手法となりうる。 ブロックチェーンに公開されているアドレスやトランザクションの情報を分析して、本人確認を行っているCEX等と結びつけることにより、匿名性や分散性を克服しようとする試みである。 いわば、オンチェーン情報である「公開されているトランザクション履歴」とオフチェーン情報である「本人確認済み口座情報」とを接点で結びつけることにより、仮名性の背後にある実在の納税者をあぶり出す点に特徴がある。 しかしながら、国内や海外のCEX等のいずれに結びつけるにしても、CEX等で本人確認が行われていることが前提となる。 この意味で、本人確認を行っているCEX等からの情報に依存する特定事業者等に対する報告の求め(通法74の7の2)やCARF(暗号資産等報告枠組み)と同様、ブロックチェーン分析を駆使したとしても、税務当局は暗号資産の匿名性や分散性が税務執行にもたらす問題を完全に乗り越えることができるわけではない。 特に、完全な自己管理型ウォレットを、本人確認を徹底している事業者との接点を一切持たない態様で利用している場合には、ブロックチェーン分析は「資金の流れ」は把握できても「誰の資金か」を特定するには至らない。 これは、ブロックチェーンには、トークンの「移転」の情報は記録されているが、「主体の身元」の情報は記録されていないという技術的特徴に由来する。 要するに、ブロックチェーン分析それ自体は、本人確認を行っていないCEXの口座やプライベートウォレットの管理者が誰であるのかを明らかにするものではない。 このため、納税者が、本人確認を行っているCEX等との接点を一切持たない形で本人確認を行っていないCEXの口座やプライベートウォレットを利用している場合には、そのような口座やウォレットの管理者を特定することは極めて困難となる。 この意味で、ブロックチェーン分析にも限界があるといえる。 このことは、少なくとも現時点においては、CEX等で本人確認手続が実施され、納税者がそのようなCEX等を利用していることが、暗号資産に対する適正な税務執行を確保する上で極めて重要な前提条件となっていることを示している。 換言すれば、暗号資産の適正課税を確保するためには、技術的分析能力のみならず、KYC(顧客確認)制度や情報報告・交換制度といった制度的インフラが不可欠なのである。 このことは、技術と制度は代替関係ではなく、補完関係に立つことを示唆している。 いずれにしても、ブロックチェーン分析は税務当局にとって重要な執行補助手段となりうる。 ブロックチェーン分析により、①「本人確認を行っていないCEXの口座やウォレットアドレス」が②「国内CEXその他の本人確認を行っているCEX等」と一度でもトランザクションのやりとりをしている場合、①を管理している者の身元を間接的に特定できる可能性がある。 これは、本人確認済みのCEX等との間でトランザクションの接点が存在すれば、その履歴を起点として当該事業者に対する照会を行うことができ、結果としてウォレットの管理主体の特定につながる可能性が生じるためである。 また、当該アドレスに関連付けられたトランザクション履歴や残高、同一人物によって管理されていると推定される他のウォレットやCEX口座を把握できる場合もある。 このようなクラスタリング分析は、単一のアドレスではなく、実質的に同一主体が管理していると推定されるアドレス群を束ねることにより、保有規模や資金移動の全体像を再構成する機能を有し、上記のような身元の特定の機会を増加させる。 さらに、DEX上のトランザクション等はブロックチェーン上に記録されているから、特定のウォレットアドレスがDEXで、いつ、どのような取引をどの程度の規模で行っているかという点を把握することも可能である。 これにより、CEXを経由しない取引についても、少なくとも移転数量や移転時期といった客観的データの把握は可能となる。 実務上は、これらの客観的データと市場価格データとを照合することで、損益計算の整合性検証が可能となる点も重要である。 例えば、取引時点の市場価格(時価)のデータを用いて、申告所得との乖離を検証することが可能となる。 なお、ブロックチェーン分析は、課税段階のみならず、徴収段階においても資産所在の把握という点で有意義なものである。 イ 国税庁がとるべき対応策 CARFを含む国内外の暗号資産関連の規制強化が進む中、税務執行の場面において、ブロックチェーン分析の存在感は一層高まると予想される。 日本においても、暗号資産の匿名性や分散性が引き起こす税務執行上の問題に対処するために、国税庁は高性能なブロックチェーン分析ツールを積極的かつ効果的に活用するとともに、そのために国税調査官の専門的トレーニングを強化する必要がある。 単なるツール導入にとどまらず、分析結果を法的証拠として適切に位置付ける能力の育成や事業者からの情報収集制度・国際情報交換制度と連動させる運用体制の構築が求められる。 現時点では、ブロックチェーン分析は、犯罪捜査の場面において一定の成果を上げているようである。 例えば、警察庁サイバー特別捜査部と埼玉県警など9府県警の合同捜査本部は、秘匿性が高いとされる暗号資産Moneroを悪用しマネーロンダリングを図っていたグループについて、Moneroの流れを追跡して容疑者を特定したと報じられている(※)。 (※) 2024年10月22日付日本経済新聞朝刊「クレカ不正か、首謀者摘発 警察庁など 仮想通貨追跡、被害1億円」 また、米国では、暗号資産所得の申告除外者を特定するプロジェクトの一環として、IRSの不正取締局は、IRSの職員に対して、600以上のブロックチェーン分析ツールのライセンスを配付している。 IRSの犯罪捜査部門は、デジタル資産のコンプライアンス違反に対処するために分析ツールを活用し、ブロックチェーン分析企業と組んで、デジタル資産を利用して所得を隠匿することで脱税を図っている可能性のある個人を特定することに成功している一方、民事調査部門における努力は間接的で無視できる程度にすぎず、改善の余地があるといわれている(※)。 (※) TIGTA, VIRTUAL CURRENCY TAX COMPLIANCE ENFORCEMENT CAN BE IMPROVED, REP. NO. 2024-300-030, at 9,14(July 10,2024). この点について、刑事分野で蓄積された分析技術が、今後民事課税分野への転用が期待される。 ウ まとめ ブロックチェーンは公開台帳である。 しかし、公開データであっても、それを意味ある情報に変換する能力は高度に専門化されている。「誰でも閲覧できる」という公開性と、「誰でも分析できる」という意味は同義ではないという点が重要である。 ここには、技術的分析能力、各種法制度、事業者協力体制、国際情報交換体制といった複数の要素が介在している。 別の視点から見れば、「データが存在すること」と「それを法的証拠として活用できること」とは別問題であるということである。 したがって、ブロックチェーン分析は、暗号資産の匿名性や分散性が引き起こす税務執行上の問題に対する万能の解決策ではない。 しかしながら、ブロックチェーン分析は、適切な制度的枠組みや専門的な調査体制の下で活用されることにより、納税者の特定や資金移動の把握を通じて、損益の計算や課税要件事実の認定を可能とする重要な分析手法となり得ることも否定できない。 (了)
所得税
税務
税務・会計
解説
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社長からの無理難題の断り方・かわし方 【第7回】「所得税の還付を受けることができる期限」
社長からの無理難題の 断り方・かわし方 第7回 所得税の還付を受けることができる期限 〈JUN税会〉 税理士 日髙 真帆 * * 解 説 * * 1 事実関係の把握 社長へのヒアリングと現状確認により、以下の事実が確認されました。 2 法的論点の整理 (1) 確定所得申告(所法120、121) 多くの給与所得者は年末調整によってその年分の所得税の精算が行われるため、確定申告をする必要はありませんが、次のいずれかに該当する者は確定申告が必要です。 (2) 還付を受けるための申告(所法122) 一方で(1)に該当せず、確定申告書を提出する義務がない人でも、以下のような場合に該当し、給与等から徴収された所得税額や予定納税をした所得税額が年間の所得税額より多い場合には、確定申告を行うことで所得税の還付を受けることができます。 (3) 期間の計算及び期限の特例(国通法10) 国税通則法は、国税についての基本的な事項及び共通的な事項を定めた法律です。この条文では、その期間の計算をいつから開始するのか、また期間計算による場合の期間の末日のほか、期間計算によらない期限について、これらが休日に当たる場合の期限の特例について定めています。 その期限が日曜日、国民の祝日法に定める休日その他全国的な一般の休日、土曜日又は12月29日から31日まで(以下「休日等」)に当たるときは、最後の休日等の翌日をもって期限とみなします。 ただし、この特例規定が適用される期限は、国税に関する法律に定める申告、申請、請求、届出その他書類の提出、通知、納付又は徴収に関する期限に限られ、単に計算の基準となっている期間の末日などは含まれません。 (4) 更正の請求(国通法23) 確定申告書の提出期限後に申告書に記載した税額等に誤りがあったことを発見した場合や、確定申告をしなかったために決定を受けた場合などで、申告等をした税額等が実際の所得税額より多かったときに、正しい額に訂正することを求める場合の手続きです。これにより、既に納税した税額と正しい税額との差額の所得税の還付を受けることができます。 (5) 還付金等の消滅時効(国通法74) 還付金等(過誤納金及び各税法に規定する国税の還付金)の請求権の消滅時効が5年であること及びその時効については、援用を要せず、時効完成後における利益の放棄ができないことを規定した条文です。つまり、還付金等を請求することができる日から5年を経過したときは、還付金請求権は時効により絶対的に消滅します。還付金のうち、各税法に定めている租税の還付金については、還付を請求することができる時から時効が進行します。なお、還付請求権の譲渡があった場合には、時効進行の効果は承継されるため、起算日は変わりません。 3 本件事例へのあてはめ (1) 確定申告の有無 社長は毎年年末調整のみ行っており、確定申告は行っていませんでした。 (2) 還付手続きの種類 年末調整のみで還付を受けるための確定申告も行っていなかったことから「還付申告」に該当します。 (3) 提出期限と手続き方法 還付申告の場合、還付請求権の起算日は翌年1月1日となります。したがって、令和2年分の所得税の還付請求権の起算日は令和3年1月1日となり、令和3年1月1日から5年以内が期限となるため、令和7年12月31日が令和2年分の所得税の還付申告の期限となります。 4 実務上の対応 (1) 更正の請求と還付申告の手続き すでに確定申告書を提出している場合、または還付を受けるための申告を行っている場合には、一定の事項を記載した更正の請求書にそれを証明する書類を添付して、納税地の所轄税務署長に提出します。よって、医療費控除の場合には領収書の提出が必要となります。 一方で、年末調整で完結し、確定申告書を提出していなかった場合には、その還付を受けようとする年分の確定申告書を納税地の所轄税務署長に提出します。この場合、通常の確定申告書と同じ形で申告を行うため、領収書等の添付は必要ありません。 (2) 提出期限の違い 「更正の請求」は、国税に関する法律の規定に従っていなかった場合又はその計算に誤りがあった場合に、その「法定期限」から5年以内に一定の事項を記載した更正の請求書を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。ただし、確定申告を要しない人が還付を受けるために確定申告を行っている場合には、その「提出した日」から5年以内とされています。なお、提出期限が休日等に当たる場合は、これらの日の翌日が提出期限となり、起算日が休日等によりその翌日となった場合には、その提出期限も翌日となった日から5年以内となります。 一方で「還付申告」については提出期限が定められていませんが、暦年終了後の翌年1月1日以後いつでも還付申告書を提出することができることから、国税通則法74条1項の規定により還付請求の起算日が翌年1月1日となります。よって、翌年1月1日から5年以内が所得税の還付請求をできる期間となります。なお、例え12月31日が休日であったとしてもその期限が1月4日に延びることはありません。 給与所得者が多い我が国においては、それぞれ、「所得税が年末調整で完結する人」「確定申告を要する人」「確定申告を要しないが、還付を受けるために確定申告を行う人」の3種類に分かれ、それぞれの提出期限をまとめると次にようになります。
国際課税
税務
税務・会計
解説
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〈最短で理解する〉海外取引の税務実務ガイド 【第2回】「企業が直面しやすい国際税務リスク」
〈最短で理解する〉海外取引の税務実務ガイド 【第2回】 「企業が直面しやすい国際税務リスク」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 吉本 壮介 Q 前回は国際税務の二重課税の排除の仕組みなどについて概観しました。顧問税理士としては、国際税務において具体的にどのような論点に注意すべきでしょうか。 A 前回は、国際税務の基本構造として、課税権の競合とその調整方法(租税条約・外国税額控除)について整理しました。 本稿では、それを前提として、企業が実務上直面しやすい代表的な国際税務リスク、すなわち「源泉所得課税」「移転価格税制」「外国子会社合算税制」について解説します。 これらはいずれも国家間の課税権が競合する領域であり、税務当局の関心も高く、税務調査において厳しくチェックされる論点でもあります。また、指摘を受ければ追徴税額が多額になる傾向にあるため、日常的なリスク管理が極めて重要となります。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ 1 国際税務におけるリスクについて― 税務当局が注目する主要論点 ― (1) 源泉所得課税 ― 外国法人への支払いに潜む基本的な税務リスク ― 日本企業が海外の会社に対して、配当、利子、使用料(ロイヤルティ)、役務提供の対価などを支払う場合には、その取引の内容によっては、日本において源泉徴収を行う必要があります(所法161、212)。 ここで重要な点は、源泉徴収の要否は単に「海外の会社に対する支払いであるかどうか」だけではなく、「国内源泉所得」に該当するかどうかによって判定されるという点です。 すなわち、国際課税のルールに基づき、海外の会社が稼得する所得が、日本国内で生じたものとされる場合には、海外現地国のみならず、日本国も課税権を有し、その徴収方法として、支払者である日本企業に源泉徴収義務が課されることになります(租税条約で免除・軽減されるケースもあります)。 【国内源泉所得の典型例】 実務上問題となりやすい主な類型は、例えば次のとおりです。 これらは、日本国内で生じた所得(国内源泉所得)となるため、原則として日本において源泉徴収が必要です。ただし、海外企業に対する支払いであっても、全てが国内源泉所得に該当するわけではなく、対象は限定されています(所法161)。 また、国内源泉所得に該当するケースであっても、租税条約の適用により源泉税が軽減または免除される場合があります。ただし、適用を受けるためには事前に「租税条約に関する届出書」の提出が必要となりますのでご留意ください。 【なぜトラブルになりやすいのか】 源泉所得課税に関する最大のリスクは、本来源泉徴収すべき支払いについて、源泉徴収を行わずに全額送金してしまうことです。 税務調査で指摘された場合には、本来外国法人が実質負担するはずであった税額を、日本企業が追徴されてしまいます。すでに海外に送金済みの金額から後日回収することは困難であるため、実務上はそのまま会社負担となるケースが多く、金額的なインパクトも大きくなりがちです。 【海外送金前に行う実務上の判断ステップ】 (2) 移転価格税制 ― グループ内取引価格への規制 ― 移転価格税制は、親会社と海外子会社など、関連者間で行われる取引価格などを規制する制度です(措法66の4)。 例えば、日本の親会社が海外子会社に製品を販売する際、本来100円で販売できるものを50円で販売したとします。 その結果、日本の利益は減少し、海外子会社の利益が増加します。もし海外の法人税率が日本より低ければ、グループ全体の税負担はさらに軽減されます。 しかし税務当局から見れば、「本来日本で計上されるべき利益が海外に移転した」と判断し、追徴課税に向けて綿密な税務調査が行われることになります。 上記の「100円の製品を50円で売る」という例は分かりやすいですが、実務において見落とされがちなのが、海外子会社に対して「ノウハウの提供」や「技術指導」を無償、あるいは格安で行っているケースです。 製品の売買がなくても、日本の親会社が持つ技術やノウハウを無償で使わせている場合、税務当局から「第三者間取引であれば当然回収すべき対価(ロイヤルティ)を受け取っていない=利益を海外に移転させている」とみなされ、厳しい指摘を受けるリスクがあります。 この際の基本原則が独立企業間価格です。 親子会社間であっても、無関係な第三者と取引する場合と同水準の価格で取引すべきだ、という考え方です。 また、個々の取引価格だけでなく、日本親会社及び海外子会社の利益水準が同業他社と比較して大きく乖離していないかなどといった観点からの検証も必要です。 実務上のチェックポイント 海外子会社について、「取引価格はなぜその価格なのか」、「ノウハウ等の供与対価・料率は適正か」、「会社の利益水準は適切か」などを合理的に説明できる資料(ローカルファイル等)を事前に整備しておく必要があります。 「赤字補填のため」、「経営判断として安くした」などといった理由は、税務上の観点からは合理的とは言えないと判断され、否認されるリスクが高くなるといった点に注意が必要です。 (3) 外国子会社合算税制(CFC税制) ― 軽課税国を利用した課税逃れの捕捉 ― 外国子会社合算税制は、税率の低い国や地域に子会社を設立し、そこに利益を留保することで日本での課税を回避する(日本は比較的高税率国)行為を防ぐための制度です。 一定の要件を満たさない海外子会社については、その所得をあたかも日本の親会社の所得であるかのように扱い、日本の親会社自身の所得と併せて合算課税が行われます(措法66の6)。 実務上のチェックポイント 軽課税国だけでなく、一般的な国にある子会社であっても、 現地優遇税制などの適用により、法定税率より実際の租税負担割合が低くなっている 事業実体があまりなく、配当やロイヤルティなどの資産運用的な所得の割合が高い といった場合には対象となる可能性があります。 一つの目安として、その子会社の租税負担割合が20%(ペーパーカンパニーでは27%)未満となっていないかを定期的に確認することが重要です。 2 新たな潮流― BEPSプロジェクトとグローバル・ミニマム課税 ― 最後に、現状の国際課税を語る上で欠かせないトレンドとして、OECD主導で進められているBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトがあります。 特に注目されているのが、第2の柱と呼ばれるグローバル・ミニマム課税です。 これは、大規模な多国籍企業グループに対し、「世界のどこで活動しても、最低15%の税負担を確保する」ことを求める制度です(法法6の2他)。 進出先の国での実効税率が15%未満となる場合、その差額を親会社所在国などが追加的に課税する仕組みが整備されつつあります。 この仕組みの導入により、単に税率が低いことだけを理由とした進出のメリットは薄れ、より純粋なビジネス上の合理性が問われる時代になってきているものと思われます。 3 まとめ― 顧問税理士が持つべき三つの視点 ― 前回に続き、国際税務の基本構造について論じてきました。国際税務は複雑に見えますが、根底にある考え方は非常にシンプルに思えます。 それは、「国家間で課税権をどのように配分し、二重課税や課税逃れを防ぎながら適正な課税をどう実現していくのか」という点に集約されるものと筆者は考えます。 その上で、顧問税理士は特に次の三つの局面で国際税務を意識する必要があります。 まずは顧問先の海外取引の全体を俯瞰し、その上でそれぞれの取引について「どの国が課税権を持つのか」を意識します。各国の課税権が競合する中で、会社が国際税務のルールに基づいて適切な税金を負担しているのか、不要な税金を負担していないかを確認することが、顧問税理士に求められる重要な役割であると考えます。 (了)
消費税・地方消費税
税務
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〈適切な判断を導くための〉消費税実務Q&A 【第22回】「売上げの帰属によって変わる消費税の取扱い」
〈適切な判断を導くための〉 消費税実務Q&A 【第22回】 「売上げの帰属によって変わる消費税の取扱い」 税理士 石川 幸恵 【Q】 キッチンカーで移動販売を始めようと思います。委託元(以下「本部」という)とは「粗利を折半する」という口約束しかしていません。消費税の取扱いについて、後々トラブルにならないよう、あらかじめ決めておいた方がよいことはありますか。 【A】 キッチンカーを訪れるお客様から受け取る販売代金が、本部とキッチンカー事業者のどちらの売上げになるのかが分かるように契約内容を明確にしておくことが重要です。 この「売上げの帰属」は、キッチンカー事業者の消費税実務において、納税義務の判定、適用税率、簡易課税の適用と事業区分の判断、インボイスを交付する主体に影響します。なお、消費者が負担する消費税率は売上げの帰属によって変わるものではなく、持ち帰りか店内飲食かで判断されます。 〈キッチンカー事業者の消費税の取扱い〉 売上げの帰属 キッチンカー事業者 本部 課税売上高 キッチンカーを訪れたお客様から受け取る販売代金 本部から受け取る営業委託料 簡易課税の 事業区分 持ち帰りの場合は第2種又は第3種(※1) テーブル、椅子などを設置する場合は第4種 第5種 適用税率 持ち帰りの場合は、軽減税率。 テーブル、椅子などを設置する場合等は標準税率(※2)。 標準税率 インボイスを 交付する者 キッチンカー事業者 原則的には本部が交付。 キッチンカー事業者が代理交付又は媒介者交付特例によって交付することも可能。(※3) (※1) 国税庁「簡易課税の事業区分について」参照 (※2) 国税庁「消費税の軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編)問51」参照 (※3) 国税庁「インボイスQ&A問48」参照 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ 昨今は飲食業の開業に際し、固定店舗でテーブルや椅子を設置して食事を提供するほか、キッチンカーで移動して料理を販売するなどさまざまな形態があり得る。経営形態も完全に独立して営業するほか、フランチャイズ契約や営業委託契約などさまざまな選択肢がある。お客様から受け取った販売代金から食材や経費を差し引いた残りが利益となる点では、どのような営業形態でも違いはない。しかし、消費税では、お客様から受け取る販売代金が誰の売上げとなるのかによって取扱いが大きく異なるため、この点をあいまいにしたまま事業を開始すると判断を誤る恐れがある。 本稿では売上げの帰属が問題となりやすい営業委託契約を中心に解説する。 1 売上げの帰属の判断による影響 売上げがキッチンカー事業者と本部のいずれに帰属するかによって、課税売上高として認識する金額が異なるため、納税義務、簡易課税制度の適用の有無に影響する。 また、「誰に対してどんな役務を提供しているのか」が異なることにより、事業区分、適用税率並びにインボイスを交付する主体などが異なる。主な相違点は上記の表のとおりである。 2 売上げの帰属はどのように判断されるのか ここでは、令和2年福岡地方裁判所の裁判例を紹介したい。当裁判は、委託契約に基づく飲食店店舗の運営は事業者に対する人的役務の提供を行うサービス業であり、第五種事業に該当するとされた事例である(TAINSコード:Z271-13587)。 (1) 事実関係 「生そばうどん」コーナーを運営する納税者は、本部との間で、「粗利益折半方式」と呼ばれる契約を締結し、本部から粗利益折半額から経費負担額を差し引いた金額を「営業委託料」として受け取って店舗を運営していた。 契約内容を見ると、 などの事情が認められた。このように店舗運営は納税者が担当していたものの、営業上の重要事項や主要な費用負担は本部が担う契約内容となっていた。 (2) 裁判所の判断 裁判所は、上記の契約内容や費用負担の状況などを総合的に考慮し、納税者は来店者に飲食サービスを提供しているのではなく、本部から委託された店舗運営業務という役務を提供し、その対価として営業委託料を受け取っていると判断した。そのため、飲食店業ではなくサービス業に該当し、簡易課税制度における第五種事業とされた。 納税者は、粗利益を基礎として計算された営業委託料を受け取っていたにすぎず、その営業委託料を飲食店業の売上げと捉えることには無理がある。これを認めると、原材料費を控除した後の金額に対して、さらに飲食店業のみなし仕入率(60%)による仕入税額控除を受けることとなり、簡易課税制度の趣旨にもそぐわない。この点からも、裁判所の判断は実務上、理解しやすいものといえる。 本件では、裁判所は費用負担、営業上の権限などの契約内容を総合的に考慮して売上げの帰属を判断している。このような判断を口約束だけで行うことは容易ではない。後々のトラブルを避けるためにも、売上げの帰属をはじめ、営業委託料の内容、費用負担、売上金の管理方法などは書面により明確にしておくことが望ましい。 (了)
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令和8年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第2回】
令和8年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第2回】 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 Ⅰ 研究開発税制(既存制度)の見直し 1 改正の概要 研究開発投資をより促し、足元の物価上昇へ対応するため、一般試験研究費の税額控除制度(一般型)について、控除率を見直すとともに、試験研究費の増減割合に応じて控除上限が変動する制度も同様に見直すこととなった。その上で、時限措置(控除率の上限引上げ、控除上限・控除率の上乗せ措置)について、適用期限を3年間延長している(措法42の4①②③)。 また、中小企業技術基盤強化税制について、「繰越税額控除制度(3年間)」を創設するとともに、増減試験研究費割合に応じた控除率等の上乗せについて、時限措置の3年間の延長を行っている(措法42の4④⑤⑥⑦)。 さらに、特別試験研究費の税額控除制度(オープンイノベーション型)についても、手続き合理化や高度研究人材の活用の拡充と公募要件の緩和が行われている(措法42の4の2①②③、措令27の5②③、措規20の2㉑㉒㉓)。 なお、試験研究費の税額控除の対象金額について、海外への委託研究費について、国内の研究人材や研究開発拠点の維持・強化の観点から、海外で行う治験を除き、令和8年度から段階的に縮減することになった(措法42の4⑲、42の4の2③、42の5⑤)。 (出典) 経済産業省「経済産業関係 令和8年度税制改正について(令和7年12月)」 (出典) 経済産業省「経済産業関係 令和8年度税制改正について(令和7年12月)」 (出典) 経済産業省「経済産業関係 令和8年度税制改正について(令和7年12月)」 (出典) 経済産業省「経済産業関係 令和8年度税制改正について(令和7年12月)」 この改正は、令和8年4月1日以後に開始する事業年度について適用される(令8改所法等附1、51①③⑤)。 この場合、中小企業技術基盤強化税制の繰越控除制度は、令和8年4月1日以後に開始する事業年度に生じる繰越税額控除限度超過額について翌事業年度から繰越控除が可能となる(令8改所法等附1、51②)。 なお、オープンイノベーション型の適用において、経済産業大臣の指定を受けた大学等と共同・委託研究について、第三者による監査を不要とする取扱いについては、令和8年4月1日前に開始し、かつ、同日以後に終了する事業年度についても適用される(令8改措規附6)。 2 グループ通算制度における取扱い 研究開発税制(既存制度)の見直しについて、グループ通算制度における取扱いは以下のとおりとなる。 1 適用時期 この改正は、グループ通算制度を適用している場合、令和8年4月1日以後に開始する通算親法人の適用対象事業年度(試験研究費の税額控除を適用する事業年度)について適用される(令8改所法等附1、51①③⑤)。 また、中小企業技術基盤強化税制の繰越控除制度は、グループ通算制度を適用している場合、通算親法人の令和8年4月1日以後に開始する適用対象事業年度に生じる通算繰越控除限度超過帰属額について翌事業年度から繰越控除が可能となる(令8改所法等附1、51②)。 この場合、通算子法人については、通算親法人の令和8年4月1日以後に開始する事業年度終了の日に終了するその通算子法人の適用対象事業年度について、改正法の規定が適用される(令8改所法等附1、51①②③⑤)。 つまり、グループ通算制度では、通算法人の試験研究費の税額控除について、通算グループ全体(通算親法人及び通算親法人の適用対象事業年度終了の日に通算完全支配関係がある通算子法人のすべて)で計算要素を集計して適用するため、通算親法人の適用対象事業年度が令和8年4月1日以後に開始する事業年度に該当する場合に、通算法人全社で改正後の取扱いが適用されることとなる。 そのため、通算子法人については、通算子法人の令和8年4月1日以後に開始する事業年度のうち通算親法人の同日前に開始した事業年度の期間内に開始する事業年度については、改正前の取扱いが適用される(注1)。 (注1) 例えば、通算子法人の加入日を令和8年5月1日とした場合、通算親法人の決算期が3月である場合は改正後の取扱いが適用され、通算親法人の決算期が12月である場合は改正前の取扱いが適用される。 ただし、令和8年4月1日以後に加入した通算子法人が通算親法人の事業年度終了の日以前に離脱する場合、たとえ、その加入日が通算親法人の令和8年4月1日前に開始した事業年度の期間内にある場合でも、加入日から離脱日の前日までの期間を事業年度とした通算法人としての単体申告は、改正後の取扱いが適用される(注2)。 (注2) 例えば、通算子法人の加入日を令和8年5月1日、離脱日を令和8年12月1日とした場合の令和8年5月1日~令和8年11月30日の期間の事業年度(通算法人としての単体申告)について、通算親法人の決算期が3月である場合も、12月である場合も改正後の取扱いが適用される。 なお、オープンイノベーション型の適用において、経済産業大臣の指定を受けた大学等との共同・委託研究について、第三者による監査を不要とする取扱いについては、通算親法人の令和8年4月1日前に開始し、かつ、同日以後に終了する事業年度終了の日に終了するその通算子法人の事業年度についても適用される(令8改措規附6)。 (続く)
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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第188回】SAAFホールディングス株式会社「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2026年6月11日付)」
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第188回】 SAAFホールディングス株式会社 「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2026年6月11日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【SAAFホールディングス株式会社調査委員会による調査の概要】 【SAAFホールディングス株式会社の概要】 SAAFホールディングス株式会社(以下、「SAAF」と略称する)は、2018年10月、ITbook株式会社とサムシングホールディングス株式会社が共同株式移転の方法により設立。設立時の社名はITbookホールディングス株式会社(2024年9月、現商号に変更)。コンサルティング事業、システム開発事業、人材事業、地盤調査改良事業、保証検査事業、建設テック事業及び海外事業を主たる事業とする。 連結子会社19社(うち海外子会社2社)、持分法適用会社1社によりグループを構成している。売上高29,580百万円、経常利益1,001百万円、当期純利益460百万円、資本金1,909百万円、従業員数1,315人。元代表取締役社長の前俊守氏が発行済み株式の5.82%を所有している(いずれも2026年3月期有価証券報告書による)。 本店所在地は東京都江東区。東京証券取引所グロース市場上場。会計監査人は、2025年3月期決算までゼロス有限責任監査法人、2025年6月24日付で、フロンティア監査法人が就任している。 【SAAFホールディングスと元代表取締役社長をめぐる紛争の経緯】 2025年4月30日 代表取締役社長の前俊守氏(以下「前氏」と略称する)が、代表取締役社長を辞任したことを公表。 「代表取締役の異動に関するお知らせ」 5月9日 会計監査人であるゼロス有限責任監査法人が6月24日開催の定時株主総会終結の時をもって任期満了となり、新たにフロンティア監査法人を会計監査人として選任したことを公表。 「公認会計士等の異動に関するお知らせ」 5月27日 前氏が定時株主総会終結の時をもって退任することを公表。 「取締役および補欠監査役候補者の選任に関するお知らせ」 6月24日 定時株主総会において、会社提案の議案はすべて承認可決。 「第7回定時株主総会決議後通知」 代表取締役社長執行役員に、左奈田直幸氏が就任。 2026年2月5日 株主である前氏から、取締役7名の解任と新たに取締役7名を選任することを議案とする臨時株主総会招集請求があったことを公表。 「株主による臨時株主総会招集請求に関するお知らせ」 3月3日 特別調査委員会設置 3月23日 東京地方裁判所が、前氏による株主総会招集許可申立てに対して、許可決定を行ったことを公表。 「株主による株主総会招集の許可決定に関するお知らせ」 4月29日 特別調査委員会の調査報告書(中間報告)を受領。 5月12日 臨時株主総会開催 株主である前氏が提案した議案すべて承認可決されたことを公表。 「臨時株主総会決議ご通知および当社の対応に関するお知らせ」 5月22日 東京地方裁判所に対して、前氏提案取締役候補者が取締役および代表取締役の地位にないことの仮処分の申立てを行ったことを公表。 「(開示事項の経過)当社取締役による地位確認仮処分の申立ておよび当社による地位確認仮処分の申立ての取下げに関するお知らせ」 6月2日 東京地方裁判所が、前氏提案の取締役候補者が「取締役および代表取締役の地位にないことを仮に定める」との決定をしたことを公表。 「(開示事項の経過)当社取締役による地位確認仮処分命令決定に関するお知らせ」。 6月11日 特別調査委員会による調査報告書(最終報告)を公表。 6月24日 東京地方裁判所が、株主である前氏による定時株主総会開催禁止仮処分申立てを却下したことを公表。 「当社株主による定時株主総会開催禁止仮処分申立て却下決定ならびに当社株主による一時取締役および一時代表取締役選任申立て却下決定に関するお知らせ」 6月29日 定時株主総会において、会社提案の議案はすべて承認可決。 「第8回定時株主総会決議後通知」 株主提案に係る第5号議案「取締役7名選任の件」は否決。 【特別調査委員会による調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 2025年3月下旬から4月上旬にかけて、SAAFの常勤監査役らに対し、複数回にわたる内部告発があり、その内容は、①当時、当社の代表取締役社長であり、100%子会社である株式会社サムシングの代表取締役会長であった前俊守氏、執行役員であり、サムシング代表取締役社長であった小白川貢氏(以下、「小白川氏」と略称する)及び常務取締役であり、サムシングの代表取締役副社長であった東剛志氏(報告書上の表記は「α氏」。以下、「東氏」と略称する)によるサムシングにおける交際費及び旅費交通費の私的流用の疑い、並びに②前氏の親族でありSAAFの内部監査室長であったYa氏に対する不相当な高額給与の支払及び同給与の一部の前氏への還流の疑いの指摘を含むものであった。 監査役会は、上記①及び②に加え、同時期に新たに疑義が生じていた③SAAFがM&Aにより子会社化した株式会社ユーシンの代表取締役会長が前氏に対して行った融資について、SAAFによる買収資金を原資とした迂回融資の疑いも併せて調査の対象とし、常勤監査役である西山靖氏の主導で調査を実施した。 4月25日には、監査役会から取締役会に対し、前氏の一部の経費について私的流用が疑われる旨等の調査結果が報告され、4月30日、前氏は、代表取締役を辞任し(取締役の地位は留保)、同日、松場清志取締役(以下「松場氏」という。)が新たに当社代表取締役に選任された。 その後、SAAFは、より独立・中立的な立場からの調査が必要であるとして、5月9日、A法律事務所のZa弁護士(特別調査委員会を構成する弁護士とは異なる)に対し、上記①から③までの各疑惑に係る調査を委嘱した。Za弁護士は、調査を行うにあたり、「SAAFホールディングス株式会社内部調査委員会」と称する組織を設置した。内部調査委員会の調査においては、5月の中間報告の時点で、前氏の経費の私的流用が認められる旨の結果が示されたため、SAAFは、5月27日に開催された取締役会において、前氏及び東氏について、6月24日に開催予定の定時株主総会に提出する取締役選任議案の候補者としないことを決定し、これに基づき、前氏及び東氏は、同株主総会の終結の時をもって任期満了により取締役を退任した。また、前氏は当社及びサムシングを含む全ての子会社の各役職を辞任又は退任し、小白川氏及び東氏も同様に各役職を辞任又は退任した。 その後、取締役退任後もSAAFの株式を保有していた前氏は、2026年1月27日付で株主として臨時株主総会招集請求を行い、前氏及び小白川氏を含む7名を取締役候補者とする取締役選任の付議議案を提案した。 こうした状況を踏まえ、SAAFは、内部調査委員会の調査において問題とされた本件事案並びに本件事案に係る当社の対応及び内部管理体制等について、株主に対する透明性の確保及び客観的な判断材料の提供の観点から、当社から独立した中立かつ公正な立場による詳細な調査・検証・評価が必要であると判断し、3月3日、特別調査委員会を設置した。 2 調査委員会による調査結果の概要 (1) 前氏による経費の私的流用 特別調査委員会は、業務関連性を主要な要素とする税務上の交際費等の定義及び実際の交際費等の使用態様を踏まえ、私的流用に該当する交際費等の使用の類型を次の4つの類型に分類した。 さらに、特別調査委員会は、事前稟議申請の欠如や参加者等の記載が不十分なままの会計処理について、事前稟議申請の欠如は社内規程に違反することはもちろん、稟議手続は不適切な支出を未然に防止するための内部統制の根幹をなすものであり、このような観点から重大な問題を含んでいると指摘したうえで、事前稟議申請の欠如や参加者等の記載が不十分なままの処理については、直ちに私的流用とまでは断じられないものの、社内手続上の不備が認められる経費使用として別途整理している。 特別調査委員会が認定した前氏による経費の私的流用は次のとおりである。 SAAF サムシング 類型① - - 3件 447,644円 類型② 4件 712,556円 3件 237,385円 類型④ 1件 170,173円 1件 9,200円 合 計 5件 882,729円 7件 694,229円 (2) SAAFの内部監査室長であったYa氏に対する不相当な高額給与の支払 特別調査委員会は、事実認定に基づき、前氏は、Ya氏の給与について取締役会の承認を経ず自身で決定していたが、SAAFにおいては室長への昇格については取締役会の承認事項とされる一方、その給与の決定については取締役会の承認事項とされていなかったことから、この決定は社内手続に反するものではないとした。さらに、Ya氏の給与が、入社当初の金額から、2022年7月に約2.3倍に昇給しており、他の従業員との関係でも入社時の給与との関係でも、相対的にかなり高額であったことは確かであるとしても、業務への適性及び実績を評価して、ある程度高額な給与を支払うことが明らかに不合理とはいいがたいとして、Ya氏の給与の決定について、前氏に善管注意義務違反があったとはいえないと結論づけた。 また、特別調査委員会は、Ya氏に支払われた給与の一部が前氏に還流したとする告発については、把握した資料からは、前氏への還流の事実については、認められないとしている。 (3) 株式会社ユーシンが前氏に対して行った融資が迂回融資であるとの疑い 監査役会による初動調査の過程で、前氏が、SAAF社から借り入れていた3億円を2025年3月28日に一括返済し、返済の原資が、2024年12月に買収したユーシンの代表取締役からの3億円の借入れであることが判明したことから、前氏の返済とユーシンの買収の時期が近接していたことを理由に、SAAFがユーシンに支払った買収資金20億円のうち3億円が、前氏個人に還流したのではないかとして、前氏が、ユーシン買収の意思決定を利用してSAAFの資金を不当に取得したのではないか(会社法上の特別背任又は業務上横領等に該当する可能性)との疑義が生じていた。 特別調査委員会は、ユーシンの買収を仲介したM&A仲介会社への照会等の結果から、前氏は、2025年3月期末が近付く中で3億円もの役員貸付がある状態で株主総会を迎えることは好ましくないとの問題意識から借入れを検討し、2024年12月にユーシン株式を譲渡したばかりで資金を有すると考えられた同社代表取締役に借入れを依頼したという経緯であったことが確認されたとして、買収及び借入れの経緯に照らせば、SAAFがユーシンに支払った買収資金が前氏個人に還流した事実は認められず、本件事案③については、前氏による当社に対する特別背任又は業務上横領等の不正行為は認められないという結論を導いている。 3 SAAFの内部管理体制について 特別調査委員会は、内部告発後のSAAFの対応について、次のように不適切な点があったことを指摘している。 ここでは、特別調査委員会による指摘のうち、「内部調査の独立性・第三者性確保の不徹底」及び「内部調査の結果に関する開示の検討が不十分であること」について、その内容を見ておきたい。 特別調査委員会は、「内部調査の独立性・第三者性確保の不徹底」について、監査役会が内部調査を委嘱したZa弁護士が、調査が継続している中で2025年8月より顧問弁護士としたうえで、継続して、調査を実施させていることは、内部調査委員会の調査の独立性・第三者性を損なっていると批判し、さらに、顧問弁護士を内部通報窓口とする場合は、内部通報を躊躇する者が存在し、そのことが不正の早期把握を妨げるリスクがあることに留意が必要であるにもかかわらず、そうしたリスクの検討なしに、顧問弁護士となったZa弁護士を内部通報窓口としたことについても、批判している。 また、「内部調査の結果に関する開示の検討が不十分であること」について、特別調査委員会は、一般に、代表取締役による経費の私的流用は、東京証券取引所の有価証券上場規程等に基づく適時開示が必要な事実に該当する可能性があり、「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」においても「不祥事に関する情報開示は、その必要に即し、把握の段階から再発防止策実施の段階に至るまで迅速かつ的確に行う。この際、経緯や事案の内容、会社の見解等を丁寧に説明するなど、透明性の確保に努める」ものとされているにもかかわらず、SAAFにおいて、私的流用の事実を認識した時点で、事実への該当性や実施すべき対応についての検討を速やかに行うべきであり、仮に適時開示が必要とされる事象でなくとも、会社に対する投資判断に一定の影響を与える可能性に配慮し、任意での開示・公表を行うことも考え得るのであり、その観点からの検討もあわせて行うべきであったにもかかわらず、開示・公表の要否について上記の観点から十分な検討を行った形跡は見られないと批判している。 4 発生原因分析(調査報告書54頁以下) 特別調査委員会は、発生原因を大きく2つに分類したうえで、各項目について、分析を行っている。 5 再発防止策の検討・提言(調査報告書65頁以下) 特別調査委員会は、再発防止策について、上記の原因分析に対応させる形で、以下の項目を列挙している。 【調査報告書の特徴】 経営トップによる経費の私的流用については、本連載でもたびたびとりあげている。本事案の特徴としては、私的流用金額がきわめて少ないことにある。それでもSAAF取締役会は元代表取締役社長を辞任に追い込み、定時株主総会での取締役選任議案から外すことによって、経営から手を引かせた。客観的に見て、いささか強引な手法は、大株主である元代表取締役社長との間の法廷闘争につながり、現在も続いている。 税理士としては、特別調査委員会が、交際費等の私的流用を類型別に整理するにあたって、萬有製薬事件控訴審判決(東京高等裁判所平成15年9月9日)が採用した3要件説、つまり交際費等の定義として、「支出の相手方が事業に関係のある者であること」、「支出の目的が相手方との親睦を密にして取引関係の円滑な進行をはかることにあること」及び「支出による行為の形態が接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為であること」を引用して、業務関連性を主要な要素とする税務上の交際費等の定義及び実際の交際費等の使用態様を踏まえて判断しているところに大いに興味を持った。 1 2023年に設置された特別調査委員会による調査結果の概要 SAAFは、旧社名のITbookホールディングス株式会社として、2023年6月16日に特別調査委員会(以下、「2023年調査委員会」と略称し、本稿でとりあげた特別調査委員会については、「2026年調査委員会」と略称して区別したい)を設置し、8月31日に調査結果を公表している。2023年調査委員会による調査結果は、投資有価証券の過大計上と連結子会社における売上高の前倒し計上など認定するものであり、調査結果を受けて、過年度の有価証券報告書等の訂正を行うことになった。 その結果、SAAFは、2023年10月12日付で、東京証券取引所(以下、「東証」と略称する)から、「改善報告書の徴求及び公表措置(東証リリース)」を受けるとともに、2024年1月23日付で、証券取引等監視委員会(以下、「監視委」と略称する)から、1億929万円の課徴金納付命令勧告を受けている(監視委リリース)。 まず、東証による「改善報告書の徴求及び公表措置」の理由の詳細を見ておきたい。 次いで、監視委が公表している「令和5事務年度開示検査事例集(監視委)」から、SAAFに関する課徴金納付命令勧告における「事案のポイント」を見ておきたい(32頁)。 2 2023年調査委員会による調査結果を受けた再発防止策 SAAF(当時の社名は、ITbookホールディングス株式会社)は、2023年調査委員会の調査結果を踏まえて、2023年9月26日に、「再発防止策および関係者の処分等に関するお知らせ」をリリースして、再発防止策を公表している。その内容を引用する。 多くの項目が、2026年調査委員会による原因分析と再発防止策の提言でも言及されているように、客観的に見て、SAAFが公表した再発防止策が履行されていたとは考え難いと評価できるのではないだろうか。たとえば、「監査法人との連携強化」だけをとりあげても、SAAFの会計監査人は、次のとおり、短期間での交代が繰り返されており、リリースでは、「2022年11月の管理本部長の交代後は、内部統制上、および会計上の重要論点については事前に監査法人と共有する方針としております」と説明しているが、実効性については疑問を感じるところである。 2023年3月期 監査法人ナカチ 2024年3月期 ゼロス有限責任監査法人 2025年3月期 フロンティア監査法人 2026年3月期 フロンティア監査法人 3 元代表取締役社長による臨時株主総会招集請求 本稿冒頭部の「SAAFホールディングスと元代表取締役社長をめぐる紛争の経緯」で整理したとおり、元代表取締役社長で5%を超える株式を所有する前氏によって、SAAFは再三、臨時株主総会の招集請求を受け、2026年5月12日には、前氏が主導する臨時株主総会が開催されて、株主である前氏が提案した議案すべて承認可決されたことが公表されている。 本臨時株主総会決議については、SAAF側が法廷での争いに持ち込み、東京地方裁判所による仮処分などが行われて、また、6月29日開催の定時株主総会で、会社提案の取締役選任議案が承認可決された一方で、前氏による株主提案の取締役選任議案は否決されたことから、その有効性に疑義はあることは間違いないところであると思料する。なお、SAAFが、6月30日に提出した臨時報告書(EDINET)によれば、会社提案に係る取締役候補者への賛成割合は84%台後半から85%である一方、株主提案に係る取締役候補者への賛成割合は16%台前半となっている。 しかし、本稿執筆中の7月1日に、SAAFは、「株主による臨時株主総会招集請求に関するお知らせ」をリリースして、前氏から、臨時株主総会招集の請求を受けたことを公表した。 添附されている前氏による臨時株主総会招集の理由について、引用しておきたい。 SAAF現経営陣と前氏の対立は継続することとなったようである。 (了)
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〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2026年6月】
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2026年6月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026年6月1日から6月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 新会計基準関係 次のものが公表されている。 ◎ 改正企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」等 (内容:金融資産の譲渡において、譲受人が特別目的会社である場合の金融資産の消滅範囲の明確化を行うもの) Ⅲ サステナビリティ開示基準関係 次のものが公表されている。 ◎ サステナビリティ開示実務対応基準第1号「温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて『気候基準』の定めに従う場合の開示」 (内容:サステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」の解釈に関する懸念に対応するもの) (了)
