件すべての結果を表示
労働基準関係
労務
労務・法務・経営
税理士事務所の労務管理Q&A 【第33回】「時間単位での年次有給休暇」
税理士事務所の労務管理Q&A 【第33回】 「時間単位での年次有給休暇」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 時間単位で取得できる年次有給休暇を導入している事業所は、増加傾向にあります。従業員にとっては利便性が向上して働きやすさにつながります。今回は時間単位の年次有給休暇導入時の手順と留意点について解説します。 * * 解 説 * * 1 年次有給休暇の時間単位付与 年次有給休暇(以下「年休」という)の最低付与単位は、「1日単位」であり、「半日単位」は事業所が認めれば与えてもいいとされていましたが、平成22年4月の労働基準法の改正により「時間単位」での付与が認められるようになりました。 労働基準法によって付与が義務付けられた年休のうち、時間単位で付与できるのは5日までです。6日分以上を時間単位で付与することは認められません。 2 時間単位での年休導入の手順 時間単位の年休を導入する際には、労使協定(※)を締結し、就業規則への記載が必要です。 (※) 労使協定とは、使用者と従業員の過半数を代表する者が合意の上で締結する書面による協定をいいます。 (1) 労使協定の締結 年休を時間単位で与える場合には、労働者の範囲、取得可能日数の上限、1日の年次有給休暇に相当する時間数等を労使協定で定めなければなりません(下記の協定(例)参照)。 労使協定がない限り、時間単位の付与はできません。 〈年次有給休暇の時間単位での付与に関する労使協定(例)〉 (2) 就業規則への記載 常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、就業規則の作成が義務付けられています(労働基準法89条)。休暇については、就業規則での記載が義務付けられている事項(絶対的必要記載事項という)に該当するため、時間単位の年休を導入する場合は、その制度内容を就業規則に規定しなければなりません。 〈就業規則規定(例)〉 3 時間単位の年休導入のメリットと留意点 時間単位の年休を導入することにより、従業員にとっては年休の取得方法において、選択肢が増え、取得もしやすくなります。働きやすさが向上し、ワークライフバランスにも繋がります。 ただし、時間単位年休は、年5日の年休取得義務(※)のカウントには含まれず、使用者は別途「1日または半日単位」で5日以上取得させる必要があります。 (※) 年5日の年休取得義務とは、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対して、使用者は付与日から1年以内に5日分の休暇を時季を指定して取得させる義務をいいます。 したがって、1日・半日単位と時間単位の取得状況を区別して管理する必要があり、導入後は年休管理が多少煩雑になるので、導入するときは事務担当者とも十分に協議してください。 (了)
労働基準関係
労務
労務・法務・経営
〔業種別Q&A〕労使間トラブル事例と会社対応 【第19回】「派遣における解雇・雇止めの問題」
〔業種別Q&A〕 労使間トラブル事例と会社対応 【第19回】 「派遣における解雇・雇止めの問題」 〈人材派遣業・人材紹介業〔Q2〕〉 弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士 石居 茜 【Q】 当社は登録型の人材派遣会社です。この度、3ヶ月単位での契約更新を繰り返し、同一の派遣先(特定の部署)で通算3年以上勤務してきた有期雇用の派遣労働者について、派遣先との労働者派遣契約が期間満了で終了することになりました。これに伴い、派遣元である当社との雇用契約も更新せず、期間満了をもって終了(雇止め)にしたいと考えています。 このように何度も契約更新を重ねて長期間勤務している派遣労働者であっても、「派遣先との契約が終了したこと」を理由に雇止めすることは法律上問題ないのでしょうか。また、雇止めを行うにあたって、派遣元が講ずべき手続きや実務上の注意点があれば教えてください。 【A】 有期雇用の派遣労働者に対する期間満了時の雇止めについては、通常の有期契約労働者と同様に、労契法第19条(雇止め法理)が適用されます。ただし裁判例の傾向として、派遣労働者の場合は、同一の派遣先で長期間勤務し反復更新されていたとしても、派遣元と派遣先との契約が商取引であることなどを理由に、雇用継続への合理的期待(更新への期待)が認められにくい、あるいは「派遣契約の終了」自体が雇止めの客観的・合理的な理由になりやすいと判断される傾向にあります。 もっとも、何ら事前の対応をせずに安易に雇止めをすることは紛争を招くリスクが極めて高く、特に通算3年以上同一組織単位に派遣される見込みがある労働者については、派遣法上、派遣先への直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの「雇用安定措置」を講じる義務があります。 さらに、3回以上の更新または1年を超える継続勤務がある場合は、少なくとも30日前までの雇止め予告が必要です。これらの義務や実務上のステップを怠ると、雇止めが無効と判断されたり、行政指導の対象になったりする可能性があります。 ▲ ▼ ▲ 解 説 ▲ ▼ ▲ 1 派遣労働者における「雇止め法理」(労契法19条)の適用 有期雇用の派遣労働者との雇用契約が期間満了を迎えた際、更新を拒否して契約を終了させる「雇止め」については、労契法第19条が適用される。 同条に基づき、①過去に反復して更新され、実質的に期間の定めのない(無期)契約と実質的に異ならない状態にある場合(同条1号)、または②労働者が契約期間満了時に「当然に更新される」と期待することについて合理的な理由がある場合(同条2号)には、雇止めに「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要とされる。これらを欠く雇止めは認められず、従前と同一の労働条件で契約が更新されたものとみなされる(雇止め無効)。 2 派遣労働者の合理的期待と裁判例の傾向 派遣労働における雇止め法理の適用にあたっては、通常の直接雇用労働者と比較して、雇用継続への「合理的期待」が認められにくい、あるいは派遣契約の終了が雇止めの「合理的理由」になりやすいという特徴がある。これには派遣特有の三面関係(派遣元、派遣先、派遣労働者)が影響している。 主要な裁判例として、以下の判断が示されている。 これらの裁判例が示すように、期間途中の解雇が厳格に制限されるのに対し、期間満了による雇止めについては、企業間の商取引である「労働者派遣契約の終了」という外部的要因が雇止めを正当化する事情として重視されやすい傾向にある。しかし、派遣先による不当な動機に基づく解除や、派遣元による雇用継続への努力が著しく欠けている場合には、雇止めが無効とされるリスクもあるため、慎重な判断が求められる。 3 派遣法に基づく「雇用安定措置」の履行義務 派遣元は、単に「派遣契約が終了したから」という理由だけで直ちに雇止めを行ってよいわけではない。派遣法第30条に基づき、派遣元は派遣労働者の雇用の維持を図るための「雇用安定措置」を講じる義務がある。 特に、今回の質問のように「同一の組織単位(課やグループなど)に継続して3年間派遣される見込みがある者(対象者A)」に該当する場合、派遣元は以下のいずれかの措置を講じる「義務」を負う。 【雇用安定措置における実務上の留意点】 4 実務的な雇止め手続きと注意点 上記の法的・義務的背景を踏まえ、実際に雇止めを進める際には、以下の実務対応を確実に行う必要がある。 派遣元企業としては、自社が雇用主として労働関連法規の責任を負っていることを強く意識し、派遣法上の雇用安定措置を適正に履行したプロセスを客観的な証拠(派遣元管理台帳の記載など)として残した上で、手続きを厳格に進めるべきである。 (了)
労務・法務・経営
法務
〈具体事例から見る〉取適法施行に伴う企業対応Q&A【第4回】「手形払い等の禁止」
▼ ▼ ▼ 解説 ▼ ▼ ▼ 1 手形払い等の禁止(禁止行為の拡充) 改正前の下請法の下では、委託事業者は、受領日から60日以内のできる限り短い期間内において支払期日を定めたうえ、その支払期日までに製造委託等代金を支払わなければならないこととされていたが、その支払手段については、現金払いを原則としつつも、手形やその他の支払手段(電子記録債権、ファクタリングなどの一括決済方式)による支払も認められていた。 そのため、例えば、委託事業者が受領日から60日以内の支払期日に手形を交付すれば、手形の交付は現金払いと同様に取り扱われるため、中小受託事業者は、代金の支払期日に手形を受け取ることはできるものの、そこから手形サイトに相当する期間を待たなければ現金を受領することができず、実質的には支払が繰り延べられているのと等しい結果となっていた。また、中小受託事業者が、資金繰りのために、手形サイトの期間を待たずに受け取った手形を現金化しようとすると、割引料が必要となるため、実質的に製造委託等代金の全額を受領することはできない。 このような状況に対して、公正取引委員会及び中小企業庁は、手形サイトが60日を超える手形は割引困難手形(改正前下請法第4条第2項第2号)に該当するものとして運用を行ってきたが、取適法は、このような手形払いに対する規制をもう一段推し進め、取適法上の支払手段として、手形サイトに関係なく、手形払いを全面的に禁止することとした(取適法第5条第1項第2号かっこ書き)。 2 電子記録債権・一括決済方式による支払 電子記録債権やファクタリングなどの一括決済方式は、電子記録債権の満期日やファクタリング方式などにおける債権譲渡の決済日を製造委託等代金の支払期日よりも後に設定することによって、満期日または債権譲渡の決済日まで支払を繰り延べることができるため、手形の代替手段となる。 取適法は、これら手形以外の代替的支払手段についても、「製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」は、支払遅延に該当するとした(取適法第5条第1項第2号かっこ書き)。 「製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるもの」とは、「金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」をいい、例えば、①一括決済方式または電子記録債権の支払の期日(いわゆる満期日・決済日等)が代金の支払期日より後に到来する場合において、中小受託事業者が代金の支払期日に金銭を受領するために、当該支払手段を担保に融資を受けて利息を支払ったり、割引を受けたりする必要があるものや、②一括決済方式または電子記録債権を使用する場合に、中小受託事業者が当該支払手段の決済に伴い生じる受取手数料等を負担する必要があるものが、これに該当する(運用基準「第4、2、(5)」)。 公正取引委員会は、委託事業者が支払期日における割引料等を代金の額に上乗せするなどしてこれを負担する場合であっても、「支払期日に金銭を受領するために、中小受託事業者において割引を受ける等の行為を要するとき」は、「割引を受ける」という作為を要する点で、「金銭による支払と同等の経済的効果が生じるとはいえない支払手段」にあたり、支払遅延に該当するとしている(運用基準「第4、2、(5)」、テキスト65頁「Q80」参照)。 したがって、電子記録債権または一括決済方式の満期日・決済日を製造委託等代金の支払期日よりも前に設定するか(代金支払の繰延べという目的は達成できない)、現金化するための割引料等のコストを委託事業者が自ら負担し、かつ、製造委託等代金の支払期日に(中小受託事業者の作為を要することなく)自動的に割引が行われるような方策を講ずるなどの場合でなければ、取適法の適用対象となる取引の支払手段として、電子記録債権またはファクタリングなどの一括決済方式による支払を用いることは許されず、利用に関する実務上のハードルは高いと考えられる。 (連載了)
労務・法務・経営
経営
〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例118】昭和ホールディングス株式会社「代表取締役選任が出来ていないこと、経営の現況と今後の方針」(2026.7.8)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例118】 昭和ホールディングス株式会社 「代表取締役選任が出来ていないこと、経営の現況と今後の方針」 (2026.7.8) 公認会計士/開志創造大学大学院事業創造研究科教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、昭和ホールディングス株式会社(以下「昭和ホールディングス」という)が2026年7月8日に開示した「代表取締役選任が出来ていないこと、経営の現況と今後の方針」である。 同社の開示は本連載【事例95】でも取り上げたが、それは、定時株主総会において、定足数が満たされないため、取締役を選任できないという内容だった。今回の開示は、タイトルのとおり、取締役会において新たな代表取締役を選ぶことができないという内容である。今度は、取締役会の定足数を満たすことができないのだろうか。 2 代表取締役の「選任」ができない? 今回の開示の「代表取締役の選任が出来ていないことと今後の見込み(対応方針)」の記載は、次のとおりである。 やはり取締役会の定足数を満たすことができないからであった。定時株主総会だけでなく取締役会までも定足数を満たさないとは、上場会社としてはもちろん、会社としての体をなしていない。 なお、タイトルだけでなく本文中においても何度も、新たな代表取締役を選ぶことについて「選任」といっているが、正しくは「選定」である(会社法362条2項・3項)。今回の開示の問合せ先とされている昭和ホールディングス取締役の細野敦氏(以下「細野氏」という)は、同社の第125期有価証券報告書の「役員の状況」によると、弁護士である。 3 定時株主総会の定足数は? 本連載【事例95】で見たとおり、昭和ホールディングスの定時株主総会は、2021年3月期から2024年3月期にかけて、ずっと定足数を満たさないため、取締役を選任できていなかった。2025年3月期の定時株主総会も同様だった(2025年1月10日開示「第123回定時株主総会継続会における定数を必要とする議案の結果について」、2025年6月30日開示「第123回定時株主総会終結及び第124回定時株主総会における定数を必要とする議案の結果について」、2026年3月19日開示「第124回定時株主総会継続会における定数を必要とする議案の結果について」)。 しかし、今回の開示の「代表取締役の選任が出来ていないことと今後の見込み(対応方針)」に「2026年6月29日に開催された株主総会後、選任された取締役」とあるように、2026年3月期の定時株主総会では、定足数を満たすことができたのか、取締役を選任できたようである。 同社は、今回の開示の前、2026年6月30日に「第125回定時株主総会における代表取締役の異動(退任)と取締役選任結果に関するお知らせ」を開示していた。それによると、これまで同社の取締役だった此下竜矢氏(以下「此下氏」という)・渡邉正氏・庄司友彦氏・戸谷雅美氏の4名(2025年3月期の定時株主総会まで取締役は選任できていなかったのだが)は取締役に選任されず、此下氏がこれまで同社の代表取締役であったため、新たな代表取締役の選定が必要になったということのようである。 4 取締役間の対立 今回の開示の「代表取締役の選任が出来ていないことと今後の見込み(対応方針)」に「2026年6月30日、代表取締役選任を議題として取締役会を開催する旨全取締役に招集通知を発出し、ニコラス・ジェームズ・グロノウ取締役と細野敦取締役が出席」とあるが、「第125回定時株主総会における代表取締役の異動(退任)と取締役選任結果に関するお知らせ」によると、ニコラス・ジェームズ・グロノウ氏(以下「ニコラス氏」という)と細野氏は取締役に選任されている。 ニコラス氏と細野氏も、これまで同社の取締役だったのだが(2025年3月期の定時株主総会まで取締役は選任できていなかったのだが)、彼らと取締役に選任されなかった此下氏ら4名との間には対立があったようである。昭和ホールディングスは2025年9月26日に「当社(監査等委員である取締役を除く)取締役の地位確認等請求訴訟の判決についてのお知らせ」を開示しているが、その「判決の内容」の記載は次のとおりである。 この判決に対して、同社、すなわち、その時点では此下氏側は控訴することとして、2025年10月10日に「当社(監査等委員である取締役を除く)取締役の地位確認等請求訴訟についてのお知らせ」を開示している。このように、ニコラス氏・細野氏と此下氏ら4名は、お互いに「俺たちがこの会社の取締役だ。お前らは取締役ではない。出て行け」といいあって、争っていたようである。 5 監査等委員である取締役とは 「第125回定時株主総会における代表取締役の異動(退任)と取締役選任結果に関するお知らせ」によると、これまで監査等委員だった取締役(2025年3月期の定時株主総会まで取締役は選任できていなかったのだが)は、引き続き取締役に選任されている(同社の第125期有価証券報告書の「役員の状況」によると、戸谷雅美氏はそれまで監査等委員ではなかった)。 今回の開示の「代表取締役の選任が出来ていないことと今後の見込み(対応方針)」には「監査等委員である取締役3名が出席せず、取締役会は成立しませんでした。なお、その際、監査等委員である取締役は、取締役会を招集した細野敦取締役に対して一切の連絡をしてこず、現在まで監査等委員である取締役3名とは、連絡は取れておりません。」とある。 「当社(監査等委員である取締役を除く)取締役の地位確認等請求訴訟の判決についてのお知らせ」の「判決の内容」にあるとおり、2021年3月期の定時株主総会において、ニコラス氏や細野氏を取締役候補者とする動議が提案された。昭和ホールディングスは2021年7月15日に「当社監査等委員会による第120回定時株主総会における議決権及び運営に関する調査結果に関するお知らせ」を開示しているが、それによると、監査等委員である取締役は、その当時からニコラス氏と細野氏に対して良い心証を持っていなかったようである。 同社の第125期有価証券報告書の「役員の状況」によると、監査等委員である取締役は、ニコラス氏と細野氏よりも前に同社の取締役に就任しており、此下氏ら側と交流があることがうかがえる。また、同有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの概要」には、2026年3月期の取締役会への各取締役の出席状況が記載されているのだが、ニコラス氏と細野氏はすべて欠席であるのに対して、ほかの取締役のほとんどはほぼすべてに出席している。ニコラス氏と細野氏は、監査等委員である取締役とも良好な関係を築けていなかったようである。 6 子会社が子会社でなくなった結果 今回の開示には「当社の経営の現況と今後の方針」も記載されており、それは次のとおりである。 昭和ホールディングスの事務は、子会社の昭和ゴム株式会社(以下「昭和ゴム」という)が行っていたようなのだが、「昭和ゴム株式会社が当社の子会社でなくなった結果」とあるとおり、昭和ゴムは、昭和ホールディングスの子会社ではなくなっている。 少しややこしいのだが、昭和ゴムは、昭和ホールディングスの他の子会社に取得されたため、昭和ホールディングスの子会社ではなくなっているのである。昭和ホールディングスは子会社から資金を借りており、昭和ゴムの株式はその子会社から担保として取られたのである(2026年6月25日開示「連結子会社からの借入に伴う連結子会社に対する子会社株式の担保提供に関するお知らせ」、2026年6月26日開示「連結子会社からの担保権行使通知書の受領、及び連結子会社の異動に関するお知らせ(連結子会社から持分法適用関連会社への異動)」)。 子会社から子会社を取られるという奇妙な話なのだが、昭和ゴムの株式を取得した他の子会社の取締役会長は此下氏、代表取締役は庄司友彦氏である。 7 もっと早く ニコラス氏と細野氏は此下氏ら4名をようやく追い出すことができたのだが、勝者といえるだろうか。今回の開示の「当社の経営の現況と今後の方針」に「当社は、実印、会計帳簿、預金通帳等一切の物・データ類を占有しておらず、その占有場所・保管場所も不明の状態」とあるように、もう昭和ホールディングスはどうにもならない状態といえる。ニコラス氏と細野氏は法的措置を取ろうとしているのかもしれないが、ここまで来ると、そうする意義があるのか疑問に思えてくる。 こうした状態であるので、当然といえば当然なのだが、同社は上場廃止となることが決まった(2026年7月27日「当社株式の上場廃止の決定及び整理銘柄の指定に関するお知らせ」)。東京証券取引所が2026年7月24日に出した「上場廃止等の決定」の「理由の詳細」の記載は次のとおりである。 しかし、「上場会社として必要な内部管理体制が確保されていること」は、本連載【事例95】のときから確認できていなかったはずである。会社としての体をなしていない、こうした会社をこれまで上場させておいてよかったのだろうか。もっと早く「内部管理体制等が適切に整備される又は適切に運用される見込みがないと認められるか否かについて」確認すべきではなかったのだろうか。 (了)
お知らせ
会計
会計情報の速報解説
監査
税務・会計
速報解説一覧
《速報解説》 会計士協会が金融商品会計実務指針の改正等を受け、「投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱い」の改正案を公表
《速報解説》 会計士協会が金融商品会計実務指針の改正等を受け、 「投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱い」の改正案を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026年8月21日、日本公認会計士協会は、「業種別委員会実務指針第38号「投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱い」の改正」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、2025年3月11日公表の改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」、2025年6月23日公表の「投資事業有限責任組合契約書例及びその解説(令和7年版)」(経済産業省産業組織課・新たなモデルLPAの作成等のための有識者検討会)に対応するものである。 意見募集期間は2026年9月18日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 用語の一般性や有限責任事業組合(LLP)と区別するため「有責組合」を「LPS」に変更している。 改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」では、特定の要件を満たした場合に、組合員はその出資する組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く)について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とすることが認められている。 また、「投資事業有限責任組合契約書例及びその解説(令和7年版)」が公表され、その25条4項では、「無限責任組合員は、本組合が保有する投資証券等の評価を、[時価/IFRS会計基準で定める公正価値/米国において一般に公正妥当と認められる会計基準で定める公正価値/International Private Equity and Venture Capital Valuation Guidelineで定める公正価値測定のガイドラインに準拠した方法]を用いて実施するものとする」と記載されている。 上記を受けて、次のように改正する提案を行っている。 監査報告書の文例なども改正する。 Ⅲ 適用時期等 2027年1月1日以後開始する事業年度又は会計期間に係る監査から適用する。 ただし、2026年12月31日以後終了する事業年度又は会計期間に係る監査から適用することを妨げない。 適用初年度の取扱いに注意する。 (了)
お知らせ
税務
税務・会計
税務情報の速報解説
財産評価
速報解説一覧
《速報解説》 国税庁、第5回有識者会議にて非上場株式の評価見直しの方向性を明示~簿価純資産を基礎とする残余利益方式の採用を示唆~
《速報解説》 国税庁、第5回有識者会議にて非上場株式の評価見直しの方向性を明示 ~簿価純資産を基礎とする残余利益方式の採用を示唆~ 税理士 柴田 健次 国税庁は令和8年8月20日、「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第5回を開催し、その資料が公開された。 1 はじめに 第1回から第4回までの有識者会議では、会計検査院指摘の実態整理と国税庁が問題視する圧縮スキームの開示(第1回)、学術・実務家による評価通達本体への根本的問題提起(第2回)、中小企業・実務家・会計学の三者三様の視点(第3回)、国税庁による論点整理と当局として意見を求める6事項の提示(第4回)と、議論が段階的に進展してきた。 これに対し、第5回有識者会議では、「これまでの議論を踏まえた、国税庁の考える評価の見直しの方向性」として、国税庁が具体的な改正方針を初めて明示した点で、極めて重要な会議となった。 本稿では、第5回資料の要点を整理し、改正の方向性を読み解く。改正時期については、これまでの速報においても申し上げたとおり、令和9年度税制改正大綱において法人版事業承継税制の見直しと併せて議論がなされ、令和9年中に非上場株式の評価方法を明らかにした上で、令和10年の相続・遺贈・贈与から適用されるものと筆者は推測している。 2 国税庁が示した評価の見直しの方向性 ―3つの柱 第5回資料は、「これまでの議論を踏まえた、国税庁の考える評価の見直しの方向性」として、①評価体系、②評価方式、③インカムアプローチ、の3つの柱で改正の方向性を示した。 第一に、評価体系については、「評価方式間におけるかい離により、異なる規模の企業間の不公平と租税回避スキームの横行」を問題として指摘した上で、「規模別の区分を廃止し、広範の企業を共通の評価方式で評価することが考えられるか?」との方向性が示された。これは、第4回会議において「当局として意見を求める6事項」の第二として提示された「評価方式の一本化」を、より具体的な方向性として一歩踏み込んだものである。現行の大会社・中会社・小会社という会社規模区分自体を廃止し、単一の評価方式へ移行する方針が明確化されたといえる。 第二に、評価方式については、次の3つの方向性が示された。 第三に、インカムアプローチについては、(a)配当還元方式、(b)DCF法、(c)残余利益方式の3方式について、①適用ができない企業、②予測期間以降の残存価値、③将来予測の難易度、の3つの観点から特徴が比較整理された。配当還元方式は「配当を操作している企業(配当をゼロに抑制している企業等)」で適用不可、DCF法は「成長期(スタートアップ等)の企業(設備投資等によりFCFがマイナスの企業)」で適用不可であるのに対し、残余利益方式は「特には見あたらない」とされた。予測期間以降の残存価値についても、配当還元方式・DCF法が相対的に大きいのに対し、残余利益方式は「明らかに小さい」とされ、その理由として「現時点の保有資産を評価するため、将来予測への依存が小さい」ことが示された。将来予測の難易度についても、残余利益方式は「将来利益の予測は比較的容易」であり、「過去の実績から一定の予測可能」と整理された。 3 残余利益方式(簿価純資産ベース)の評価方法イメージ 第5回資料は、「仮に」残余利益方式(簿価純資産ベース)を採用した場合の評価方法のイメージを具体的に示した。株価の計算に必要なものは、①直前期末の貸借対照表(簿価純資産)と②過去数年分の損益計算書等(当期純利益)のみであり、配当金の額は資本変動計算書から確認するとされている。これにより、「複雑な業種目判定や時価純資産価額の算定が不要」となり、「法人税申告書等から容易に把握可能」との実務適用上の利点が示された。第3回にて日本税理士会連合会が指摘した「算定作業の過度な負担と複雑性」の問題への根本的対応となる。 企業収益と株式評価額の水準のイメージとしては、下記図のとおり、「期待収益率以上の収益率の会社」については「簿価純資産価額以上の株式評価額」となり、他方「期待収益率以下 又は 赤字の会社」については「簿価純資産価額以下の株式評価額」となる旨が示された。 (※) 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 2026年8月20日(第5回)資料」3頁より抜粋 「還元率」については、「例えば『上場株式の平均期待収益率』等を参考にCAPM(資本資産価格モデル)により算定してはどうか」との方向性が示されている。 この評価方法は、第3回会議で櫻井委員が提案した残余利益モデルを、簿価純資産ベースに簡素化した形といえる。時価純資産(清算価値)ではなく簿価純資産を用いる点で、第3回の日本税理士会連合会の建議書が示した「税務上の簿価純資産価額の採用」との親和性が高く、また実務家・税理士の事務負担への配慮もなされている。 4 租税回避スキーム(評価額圧縮スキーム)への対応の方向性 第5回資料は、「今回の見直しにおいては、多種多様な租税回避スキームへの対応も実施する必要がある」とし、「スキームへの対応は、企業価値評価の実務において当然に行われている対応も参考としてはどうか」との基本認識を示した上で、4類型のスキームへの具体的対応の方向性を明示した。 第一に、会社規模等の操作による評価額圧縮への対応である。「大会社ほど相対的に低い評価額となることから、意図的に会社規模を操作し、評価額を圧縮するスキーム」に対する対応として、「会社規模に応じて異なる方法を用いるのではなく、規模に関わらず単一の評価方式とすることで対応できないか?」との方向性が示された。これは、上記2で示された「規模別の区分を廃止し、広範の企業を共通の評価方式で評価する」との方向性と整合するものであり、会社規模操作型のスキーム(第4回別添2の事例①・③等)への根本的対応となる。 第二に、利益等の恣意的な操作による評価額圧縮への対応である。「オペレーティング・リース・役員報酬・役員退職金等により、利益等を一時的に操作することで、評価額を圧縮するスキーム」に対する対応として、「企業価値評価の実務における対応を参考に、評価は企業の正常利益により行い、非経常的な損益を除外して評価することにより、評価額の恣意性を排除することができないか?」との方向性が示された。第2回会議で熊谷委員(日本M&Aセンター)が指摘した「営業権算定上の損益修正(高額な役員報酬、節税目的の保険、オペレーティングリースなど節税商品の損益、非経常的な損益の修正)」の実務が、税務評価の場面にも導入されることが明確化された。 第三に、グループ法人税制を活用した評価額の圧縮への対応である。「完全支配関係法人間でグループ法人税制を活用し、税負担なく親会社の利益・資産を子会社へ移転し、評価額を圧縮するスキーム」に対する対応として、「企業価値評価の実務における対応を参考に、完全支配関係にあるグループ法人はグループ全体として評価を行うことで、評価額の操作性を排除することとしてはどうか?」との方向性が示された。第4回資料でも「連結財務諸表を前提とした株式の評価を行い、子会社・孫会社の収益・資産状況を親会社の株価に反映」との対応方針が示されていたが、第5回では「完全支配関係にあるグループ法人はグループ全体として評価を行う」とより明確な方針として提示された。 (※) 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 2026年8月20日(第5回)資料」7頁より抜粋 第四に、株主構成等の操作による配当還元方式の濫用への対応である。「株主構成や議決権割合を操作することで、配当還元方式のみを適用し、評価額を90%以上圧縮するスキームも可能」であり、また「従業員持株会等により、固定価格で買取る株式を活用することで、支配株主の株価を引き下げるスキーム」への対応として、「特例的評価方式である配当還元方式の趣旨を貫徹できるよう、適用する株主の範囲について整理、あわせて、固定価格株式の取扱いも見直してはどうか?」との方向性が示された。「株主構成の操作では、企業価値の総額から最大で約98%もの評価額圧縮を行う事例も存在」との具体的圧縮効果も示されており、第4回別添2の事例⑥(評価額約98%減)への具体的対応となる。 5 総括(私見) 最後に、第5回会議の資料を踏まえた筆者の私見を述べておきたい。 第一に、第5回会議は、これまでの4回の議論を踏まえて、国税庁が具体的な評価見直しの方向性を初めて明示した点で、有識者会議の議論が実質的な最終段階に入ったことを示す極めて重要な会議といえる。特に、(イ)規模別区分の廃止と単一評価方式への一本化、(ロ)類似業種比準方式の存置は困難、(ハ)インカムアプローチ(残余利益方式)を主軸とする、(ニ)簿価純資産ベースで評価する、という4点は、改正の骨格として概ね明らかになったといえる。第4回では「意見を求める6事項」として提示されていたものが、第5回では「国税庁の考える見直しの方向性」として一歩踏み込んで示されており、議論が具体化する段階に入ったことがうかがえる。 第二に、注目すべきは、「清算を前提とした『時価』ではなく、継続を前提として『簿価』を用いるべきではないか?」との方向性である。これは、時価純資産(清算価値)による評価に代わり、簿価純資産を基礎とする残余利益方式の採用を示唆するものであり、実務家・税理士の事務負担軽減の観点からも合理的な方向性といえる。第3回会議で日本税理士会連合会が提示した「税務上の簿価純資産価額の採用」の提案が、国税庁の方向性として採用された形となる。もっとも、簿価純資産をベースとすることで、時価との乖離が別の形で生じる可能性もあり、その点は評価の安全性配慮としてどう位置付けるかが今後の論点となろう。例えば、帳簿に記載のない借地権については、計上する必要がないとすると実際の企業価値を適正に反映していないとの問題もあるため、一定の簿価純資産の修正は必要になるものと思料される。 第三に、租税回避スキームへの対応として、①規模別区分の廃止、②正常利益による評価(非経常的損益の除外)、③グループ全体としての評価、④配当還元方式の対象株主範囲の整理、の4類型が具体的に示された点は極めて重要である。特に②の「非経常的な損益の除外」及び③の「グループ全体としての評価」は、これまで実務家が退職金等を活用した株価対策及び組織再編・グループ法人税制を活用して行ってきた株価対策の多くを、根本から見直す方向性であり、実務家への影響は極めて大きい。改正リスクと総則6項適用リスクの双方の観点から、現行スキームの継続には慎重な判断が求められる段階に入ったといえる。 次回以降の有識者会議では、これらの方向性を踏まえた具体的な制度設計、租税回避スキームへの対応等、いよいよ最終段階に入るものと予想される。 今後の有識者会議の議論を引き続き注視していきたい。 (了) ↓お勧め関連記事↓
お知らせ
その他お知らせ
プロフェッションジャーナル No.682が公開されました!~今週のお薦め記事~
2026年8月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.682を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
消費税・地方消費税
税務
税務・会計
解説
解説一覧
日本の企業税制 【第154回】「消費税減税に関する総理の決意表明に対する経済界の反応」
日本の企業税制 【第154回】 「消費税減税に関する総理の決意表明に対する経済界の反応」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 魚住 康博 高市早苗総理大臣は7月30日、総理大臣官邸で「飲食料品に係る消費税率の引下げ」及び「給付付き税額控除」についての会見を行った。前日の社会保障国民会議の親会議において策定された「中間とりまとめ」では、消費税減税に関する与野党間の意見の相違が解消されないまま各党の主張が並記されていたことから、高市総理による決意表明が行われた。 総理会見に先立って、高市総理は自民党幹部に対して党内の意見集約を指示しており、8月5日の党内手続きを経て同日に政府での閣議決定に至ったことから、秋から始まる臨時国会への法案提出の準備が進められている。 国民会議では、2月に検討が開始されて以降、22回に及ぶ「給付付き税額控除等に関する実務者会議」と7回に及ぶ「有識者会議」が開催されており、短期間で精力的な検討が進められてきた。総理の決意表明で示された改正案は、国民会議の小野寺五典実務者会議議長による提案に基づいて、次のステップで進められる予定である。 〈今後のステップのイメージ〉 消費税減税に関しては、実務上で様々な影響が生じることが懸念されることもあり、今後の検討継続の必要性を含めて、経済界では総理の決意表明を受けたコメントを公表した。「給付付き税額控除」の最終形の導入に向けて、さらなる議論の深掘りや環境整備が重要となる。 〇経団連:社会保障国民会議中間とりまとめを踏まえた高市総理表明に関する筒井会長コメント 〇日本商工会議所:飲食料品に係る消費税減税に関する高市内閣総理大臣の表明に対する小林会頭コメント 〇経済同友会:飲食料品に係る消費税の実質ゼロ化について(山口明夫代表幹事コメント) (了)
税務
税務・会計
解説
解説一覧
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【特別編:第1回】「暗号資産の分離課税の全体像」-令和8年度税制改正-
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【特別編:第1回】 「暗号資産の分離課税の全体像」 -令和8年度税制改正- 東洋大学法学部教授 泉 絢也 1 特別編を設ける理由 本連載第38回「10 暗号資産に係る所得を分離課税にしてほしいという改正要望」では、業界団体及び与党プロジェクトチームによる分離課税の要望を紹介したうえで、国会答弁を見る限り「要望が通る道は険しいようである」と述べた。 その後、事態は動いた。 令和8年3月31日、所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号。以下「改正法」という)が成立・公布され、租税特別措置法に、特定暗号資産の譲渡による所得に対する申告分離課税(措法38の2)と、特定暗号資産に係る譲渡損失の繰越控除(措法38の3)が創設された。 20%(所得税15%、個人住民税5%)の比例税率による課税と、3年間の繰越控除である。要望の中核部分は、ほぼ要望どおりの形で実現したことになる。 もっとも、実現したのは「暗号資産一般の分離課税」ではない。 分離課税の対象は、「特定暗号資産」を「暗号資産取引業者を通じて」「譲渡」した場合に限られる。それ以外の暗号資産、それ以外の経路による譲渡、そして譲渡に当たらないマイニング、ステーキング、レンディング、エアドロップ等は、従来どおり総合課税である。 改正後の暗号資産税制は、分離課税と総合課税が併存する二重の構造をとることになった。この点を見落とすと、実務判断を誤る。 そこで本連載では、特別編として3回にわたり改正の全体像を紹介する。 第1回にあたる本稿では、改正に至る経緯と、改正がどの法律のどこを動かしたのかを俯瞰する。第2回では分離課税ルートの要件と計算を、第3回では総合課税ルートに残された取扱いと「経路選択」を扱う。 2 改正に至る経緯 ―「金商法への移管」が扉を開いた 長らく、分離課税の要望に対する政府の回答は否定的であった。 第38回で紹介したとおり、住澤整財務省主税局長は令和4年3月16日の参議院財政金融委員会で、鈴木俊一国務大臣は同年4月13日の衆議院財務金融委員会で、それぞれ、上場株式等の譲渡益等に20%の分離課税が採用されているのは、税制の中立性・簡素性・適正執行の確保に加え、貯蓄から投資へという政策的要請と、一般投資家が投資しやすい税制を構築するという考え方によるものであると説明していた。 そのうえで、暗号資産については、給与や事業で稼いだ者に最大55%の税率が適用されることとのバランスについて国民の理解を得られるか、株式のように家計が暗号資産を購入することを国として推奨することが妥当かといった課題を挙げていた。 この膠着を動かしたのは、暗号資産の規制法上の位置付けを見直すという発想である。 自由民主党デジタル社会推進本部と金融調査会の連名による「暗号資産を国民経済に資する資産とするための緊急提言」(令和6年12月)は、暗号資産取引の振興や分離課税への道を拓く観点から、暗号資産の一部を金融商品として法的に位置付け、金融商品取引法の規制対象とすることも考えられるとして、規制法の移管を正面から取り上げた。 考え方はこうである。暗号資産を資金決済に関する法律上の「決済手段」から金融商品取引法上の「金融商品」へと位置付け直せば、同法の規制下にある上場株式やFX取引と課税上の取扱いを揃える道が開かれる。 実態の面でも、国内の暗号資産の口座開設数は1,400万を超え、利用者の取引動機のほとんどは長期的な値上がりを期待したものであるとされており(金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料」2頁)、投資対象としての利用実態と規制法上の位置付けとの隔たりは大きくなっていた。 以後の経緯は次表のとおりである。 【分離課税導入に至る主な経緯】 時期 事項 令和元年8月 JVCEA・JCBAが「2020年度税制改正に関する要望書」で分離課税を要望 令和4年11月 自由民主党デジタル社会推進本部 web3PT「web3関連税制に関する緊急提言」。20%申告分離課税・3年繰越控除・デリバティブ取引の対象化を提言 令和6年12月 自由民主党デジタル社会推進本部・金融調査会「暗号資産を国民経済に資する資産とするための緊急提言」。規制法の金商法への移管に言及。同月の与党令和8年度税制改正大綱に「検討事項」として記載 令和7年6月 閣議決定「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」に分離課税の導入を含む見直しの検討を明記 令和7年8月 JVCEA・JCBAが「2026年度税制改正に関する要望書」を公表。金融庁の令和8年度税制改正要望にも分離課税の導入を含む見直しが盛り込まれる 令和7年12月 与党の令和8年度税制改正大綱に分離課税の導入が明記され、閣議決定された政府大綱に具体的措置が示される 令和8年3月31日 改正法(令和8年法律第12号)成立・公布 令和8年7月23日 金商法等改正法(令和8年法律第64号)公布(同月15日成立) 3 改正の全体マップ 今回の改正は、租税特別措置法だけの話ではない。所得税法本法から国税徴収法にまで及んでいる。 【令和8年度税制改正における暗号資産関連の改正】 法令 主な改正事項 根拠条文 所得税法 暗号資産の定義を金商法2条49項に変更 所法2①十六括弧書 譲渡所得に「暗号資産の譲渡による所得」の区分を新設 所法33③三 暗号資産の譲渡益から50万円特別控除を排除 所法33④⑤ 暗号資産の譲渡所得を2分の1課税の対象から除外(保有期間の長短を問わない) 所法22② 暗号資産の譲渡所得の損失を損益通算から排除 所法69② 租税特別措置法 特定暗号資産の譲渡による所得の申告分離課税(20%)の創設 措法38の2①~③ 特定暗号資産に係る譲渡損失の3年間繰越控除の創設 措法38の3 特定暗号資産年間取引報告書の提出制度の創設 措法38の2④~⑨ 先物取引の分離課税の対象に特定暗号資産デリバティブ取引を追加 措法41の14①二 上場証券投資信託等の償還金等に係る課税の特例の対象拡大 措法9の4の2①二 ミニマムタックスの基準所得金額に特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額を追加 措法41の19②九 地方税法 個人住民税5%の分離課税 地法附則35の3の6①④ 消費税法施行令 暗号資産の譲渡を「支払手段に類するもの」から「有価証券に類するもの」へ再分類 消令9①一 課税売上割合の計算上、譲渡対価の5%相当額を分母に算入 消令48⑤ 暗号資産の貸付け(レンディング)の利用料を非課税化 消令10③十一 国税徴収法 自己管理暗号資産(特定電子移転財産権)の差押手続の整備 徴法72①、72の2 実務上の関心が集中するのは租税特別措置法38条の2の分離課税であるが、射程がより広いのは所得税法本法の改正である。所得税法本法の改正は、分離課税ルートと総合課税ルートの双方に共通して適用されるからである。 とりわけ、暗号資産の譲渡による所得が譲渡所得に区分されうることが法律上明記された一方で(所法33③三)、その譲渡所得からは50万円の特別控除も2分の1課税も奪われている(所法33④⑤、22②)。 これらは措置法の読替えによるものではなく、所得税法本法そのものの改正によって行われている。したがって、海外取引所やDEXでの譲渡であっても、これらの制限を免れることはできない。この点は第3回で詳述する。 4 3つの柱 改正の中身は、投資形態別に次の3つの柱で構成されている。 【令和8年度税制改正の3つの柱】 対象取引 課税上の位置付け 課税グループ 柱 ① 特定暗号資産の現物取引(暗号資産取引業者への売委託又は同業者に対する譲渡) 申告分離課税を新設 特定暗号資産の現物取引グループ (単独) 柱 ② 特定暗号資産デリバティブ取引 既存の先物取引の分離課税に追加 先物取引グループ (FX・商品先物等と同一) 柱 ③ 特定暗号資産ETF 一部の手当てのみ。個人の譲渡に係る分離課税は今後、措置される可能性 上場株式等グループ 柱①が改正の中核であり、本特別編でも中心的に扱う。 柱②は、新たな分離課税の枠組みを創設するものではなく、既にFX取引や商品先物取引について分離課税が適用されている「先物取引グループ」(措法41の14)に、特定暗号資産を原資産とするデリバティブ取引を追加するものである。 暗号資産デリバティブ取引は、原資産である暗号資産の有用性についての評価が定まっていなかったこと等から、令和2年度税制改正で同特例の対象から明示的に除外されていた経緯があり、今回はその取扱いを覆すものである。 実務上は、暗号資産のデリバティブ取引の損益をFX取引の損益と通算できるようになる点が大きい。 もっとも、対象となるのは、特定暗号資産を原資産とする市場デリバティブ取引と、金融商品取引業者又は登録金融機関を相手方とする店頭デリバティブ取引に限られる。外国市場で行われるものや、特定暗号資産以外の暗号等資産に係るものは、金融商品先物取引等から除外され、総合課税のままである(措法41の14①二)。 柱③は、限られた措置がとられたにとどまる。 閣議決定された大綱は、投資信託及び投資法人に関する法律施行令の改正を前提として、①上場証券投資信託等の償還金等に係る課税の特例の適用対象に一定の投資信託を加えること、②一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例等の対象となる株式等の範囲に特定暗号資産を投資の対象とする投資信託の受益権を加えることの2つを掲げていた。 しかし、令和8年度税制改正で法制化されたのは①のみである(措法9の4の2①二)。しかも、この特例は内国法人等が支払を受ける収益の分配について源泉徴収を要しないこととするものであり、個人に対する申告分離課税の措置ではない。 個人が暗号資産ETFの受益権を譲渡した場合の課税関係については、上記②が法制化されていない。投資信託及び投資法人に関する法律施行令の改正により暗号資産ETFの組成が認められた場合に、分離課税の適用に関して措置法上の整備的な規定が置かれるかどうかは、現時点では明らかではない。 そもそも暗号資産ETFの組成自体が上記施行令の改正を前提としており、その改正時期も未確定である。 ここで、決定的に重要な点を確認しておきたい。 3つの柱は、それぞれ別個の課税の枠組みであり、柱をまたいだ損益通算はできない。特定暗号資産の現物取引で生じた損失を特定暗号資産デリバティブ取引の利益から控除することはできず、その逆もできない。 もちろん、上場株式等の譲渡益と通算することもできない。「分離課税になったのだから株式やFXと通算できる」という理解は誤りである。 5 いつから適用されるのか 改正規定の適用開始日は、金商法等改正法の施行の日の属する年の翌年1月1日である(改正法附則1十イ・ロ、39①)。 金商法等改正法は令和8年7月23日に公布されたが、暗号資産に係る規制見直しの施行日は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされており、本稿執筆時点でこの政令は定められていない。 もっとも、公布日が確定したことにより、遅くとも令和9年7月22日までには施行されることとなった。新制度への準備期間を踏まえると令和9年中の施行が見込まれ、その場合、適用開始日は令和10年1月1日となる。 注意を要するのは、関連する制度の適用時期が一律ではない点である。以下、令和9年中に施行された場合を前提に、実務上とくに重要なものを挙げる。 まず、分離課税と繰越控除の本体は、令和10年1月1日以後に行う特定暗号資産の譲渡について適用される(改正法附則39①)。所得税法本法の改正、すなわち暗号資産の定義、譲渡所得の区分、50万円特別控除、2分の1課税及び損益通算に関する改正も、令和10年分以後の所得税について適用される(改正法附則4、6①、7)。 次に、個人住民税は前年課税であるため、その分離課税(5%)の適用は所得税より1年遅れ、令和11年度分以後となる(改正地法附則3十六、11十三)。 さらに、暗号資産取引業者が税務署長に提出する特定暗号資産年間取引報告書の制度も、分離課税本体より1年遅れ、令和11年1月1日以後に行う行為から開始する(改正法附則39②)。 * * * 次回は、分離課税ルートの適用要件と計算を、特定暗号資産の意義と取引経路の限定を中心に取り上げる。 (了) 本連載の筆者による新刊 暗号資産の税金はこう変わる -分離課税の仕組みと実務- 泉絢也 著/清文社 令和8年度税制改正で創設された特定暗号資産の申告分離課税(措法38の2)と譲渡損失の繰越控除(措法38の3)を、適用要件・計算・経路選択まで条文に沿って解説しています。 書籍の詳細をみる ▶
所得税
税務
税務・会計
解説
解説一覧
税理士が押さえておきたい「社宅」の税務と周辺知識 【第4回】「従業員用の借上げ社宅④」~水道光熱費と寄宿舎の非課税要件~
税理士が押さえておきたい「社宅」の税務と周辺知識 第4回 従業員用の借上げ社宅④ ~水道光熱費と寄宿舎の非課税要件~ 公認会計士・税理士 桝井康弘 〇社宅の水道光熱費 〇寄宿舎等の所得税非課税 (次回に続く)
