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税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第77回】「用途地域がまたがる敷地に適用される建築物の高さ制限」
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第77回】 「用途地域がまたがる敷地に適用される建築物の高さ制限」 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 前回は、「複数の敷地が異なる用途地域にまたがる場合の建築制限」について取り上げ、そのなかで、同じ用途地域内にのみ存する敷地と比べて、 について述べました。 また、用途地域が防火地域(または準防火地域)とその指定を受けていない地域にまたがる(あるいは防火地域と準防火地域にまたがる)場合、敷地全体にはどのような防火規制が適用されるのかについても言及しました。 今回は、前回の続編となりますが、用途地域がまたがる敷地に適用される建築物の高さ制限について取り上げます。 2 用途地域がまたがる敷地に適用される建築物の高さ制限 これには、絶対高さ制限と高度地区による制限、斜線制限および日影規制があります。 以下、それぞれの概要を述べておきます。 (1) 絶対高さ制限と高度地区による制限 建築物の高さが制限されるケースとしては、まず、 があり、それぞれ制限の内容は異なってきます。 ここで、絶対高さ制限が適用される用途地域は、第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域および田園住居地域とされ、高さの上限は10mまたは12mとなります(いずれにするかは各自治体が都市計画に基づいて定めます)。 次に、高度地区の規制内容ですが、これは行政(自治体)により異なっています。 参考までに、(資料1)は神戸市の例です。 (資料1) (出所) 神戸市役所ホームページ さらに、用途地域がまたがる場合の高さ制限ですが、建築物の高さ(上記「高度地区」による制限を含みます)は、それぞれの用途地域ごとの制限を受けることとなります(同法第55条~56条の2)。 例えば、(資料2)の図で、用途地域(A)が第1種中高層住居専用地域の場合はある程度の高さまで建築が可能ですが(先程は20mの制限の例をあげましたが、高さの程度については都市計画で指定された高度地区の種類によって異なります)、用途地域(B)が第1種低層住居専用地域の場合は、絶対高さは10mまたは12mに制限されます。 (資料2) (2) 斜線制限(道路斜線、隣地斜線、北側斜線)と高さ制限 一概に斜線制限といっても、これには道路斜線制限、隣地斜線制限、北側斜線制限の3つがあります。文章で表わすと煩雑になりますので、図を中心にポイントのみ掲げておきます。 ① 道路斜線制限とは 道路斜線制限とは、道路に面した建築物の高さを制限し、道路や周辺の建築物の日照・採光・通風が妨げられないようにするための建築基準法上の規制を指します。 道路斜線のイメージは(資料3)の図のとおりですが、用途地域ごとに道路幅等に応じて斜線が引かれ、建築物の高さが斜線の範囲を超えないよう制限を受けることとなります(建築基準法第56条第1項第1号)。 (資料3) (出所) 東京都都市整備局ホームページ ② 隣地斜線制限とは 隣地斜線制限とは、隣地の採光・通風が妨げられないようにするための建築基準法上の規制を指し、これも建築物の高さを制限するものです(同法第56条第1項第2号)。 そのイメージは(資料3)の図のとおりですが、ここでは敷地境界線上の地盤面から垂直に20m(注1)または31m(注2)立ち上がった地点を起点とし、そこから(資料3)に示す角度で斜線を引き、その範囲内に建築物が収まるよう制限を受けます。 (注1) 用途地域が第1種中高層住居専用地域、第2種中高層住居専用地域、第1種住居地域、第2種住居地域、準住居地域の場合に20mの制限が適用されます。 (注2) 用途地域が近隣商業地域、商業地域、準工業地域、工業地域、工業専用地域の場合に31mの制限が適用されます。 なお、隣地斜線制限は、第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域、田園住居地域のように、建築物の絶対高さが10mまたは12mに制限される地域においては適用されません。 ③ 北側斜線制限とは 北側斜線制限は、住居系の用途地域のみに適用される制限であり、北側の隣地や道路に面する建築物の高さを制限し、隣地の日照や通風が妨げられないようにするための建築基準法上の規制を指します。 そのイメージは(資料3)の図のとおりですが(同法第56条第1項第3号)、北側からの斜線には、これ以外に各自治体で定めた高度地区による高さ制限があることに留意が必要です。 以上、用途地域がまたがる敷地に適用される斜線制限(高さ制限)に関しては、それぞれの用途地域にかかる制限を受けることとなり、煩雑なものとなります。 (3) 日影規制と高さ制限 日影規制とは、冬至の日を基準として、建築物が周辺に一定時間以上の日影を生じさせないように、建築物の高さと配置を制限する建築基準法上の規制を指します(同法第56条の2)。そのイメージ図は(資料4)のとおりです。 (資料4) (出所) 目黒区役所ホームページ 日影規制に関しては、各自治体の条例により用途地域や容積率に応じて規制対象となるエリアが指定されているのも特徴の一つです。 なお、用途地域がまたがる敷地の場合、日影規制による高さ制限に関しては、それぞれの用途地域による制限を受けることとなります。 3 まとめ 前回と今回にわたり、複数の敷地が異なる用途地域にまたがる場合の建築制限につき様々な視点から述べてきましたが、鑑定評価においてはそれぞれの場面ごとに適用される制限の内容や相違を念頭に置くことが必要となります。 不動産鑑定士にとっても建築基準法の基本的知識は必須なものとされている所以です。 (了)
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《税理士のための》登記情報分析術 【第36回】「株式会社の役員変更登記」
《税理士のための》 登記情報分析術 【第36回】 「株式会社の役員変更登記」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 税理士は顧問先の役員が変更になった場合、司法書士に役員変更登記を依頼することが多いであろう。ここ10年程度で会社に関する登記の規律もさまざまな変更があり、司法書士から提供を求められる資料や情報の量が増えていると感じている読者も多いと思われる。本稿ではよくある役員変更登記の事例に触れつつ、近年どのような改正が行われてきたのかを紹介する。 1 辞任による退任の登記 役員が辞任すると退任の登記を申請する必要があるが、その際に必要になるのが「辞任届」である。辞任届には辞任する役員が署名または記名押印をすることになるが、押印に用いる印鑑は認印で原則として差し支えない。ただし、平成27年2月27日からは商業登記規則の改正により会社実印の法務局への届出を行っている代表取締役が辞任する場合には、辞任届に会社実印で押印をするか、辞任する代表取締役の個人の実印で押印を行い、印鑑証明書を添付することが必要となっている。これは代表取締役が知らないところで勝手に辞任届を作成され、退任の登記を申請されてしまうことを防止することを目的としている。 会社からすると手間が増えたといえるが、実際に代表取締役が勝手に退任させられてしまったというトラブルが生じているようであり、やむを得ないといえるだろう。司法書士によっては、別途退任する代表取締役に電話確認を行うこともある。 2 就任の登記 役員の就任の登記はその選任機関に応じて株主総会議事録、取締役会議事録等の選任を証する書面が必要になるほか、以下のような添付書面が必要となる。 (1) 就任承諾書 会社による選任に応じて役員候補者が就任を承諾したことを証する就任承諾書が必要になる。就任承諾書には氏名だけではなく住所を記載する必要がある。 (2) 本人確認証明書 再任を除き就任承諾書に記載された役員の住所、氏名が記載された公的書面(本人確認証明書)の添付が必要となる。これも商業登記規則の改正により平成27年2月27日から変更された取扱いである。本人確認証明書の添付により役員が実在することを証明させることで虚偽の登記を防止する趣旨である。 本人確認証明書の例としては以下のものがある。 ① 住民票の写し ② 戸籍の附票 ③ 運転免許証のコピー(両面) ④ マイナンバーカードのコピー(表面のみ) ③、④の本人確認証明書については本人が「原本と相違がない。」と記載して、記名することが求められる。押印は必須ではない。なお、新規就任する代表取締役のように登記申請に印鑑証明書を添付する役員について本人確認証明書は不要とされている。 M&Aのように役員が大幅に入れ替わる事例では、役員候補者に対して本人確認証明書の準備を事前に案内しておくとスムーズである。 (3) 株主リスト 平成28年10月1日からは商業登記規則の改正により株式会社等の登記申請において、株主総会議事録を添付する場合には、併せて「株主リスト」を添付することが必要になった。これは虚偽の登記申請の防止や会社の実質的支配者を法務局が把握することで、会社の透明性を確保することなどが制度の創設理由であるとされている。 株主リストには、「議決権数上位10名の株主」または「議決権割合が3分の2に達するまでの株主」のいずれか少ない方の株主について、住所、氏名、株式数、議決権数等を記載することになる。株主リスト作成のために司法書士から税理士に対して株主の情報が記載されている「法人税申告書の別表二(同族会社等の判定に関する明細書)」の提出を求めることが増えたのはこうした背景がある。 株主リストの作成がきっかけとなり、名義株の存在が明るみに出て解消に向けて会社が動き出すなど影響が生じることもある。株主の正確な把握は適正な経営や事業承継においても重要であるため、好ましい影響といえるだろう。 3 就任の登記に関して必要となるヒアリング事項 添付書面に関することではないが、制度改正により会社からヒアリングすべき事項も増えている。具体的に次のようなものがある。 (1) 旧氏(旧姓)の併記 商業登記規則の改正により平成27年2月27日から婚姻前の旧氏を併記して登記することが可能となったが、令和4年9月1日からは婚姻前の旧氏に限らず、養子縁組前の旧氏や、離婚後婚姻中の旧氏なども併記可能となった。可能であれば役員候補者から旧氏を併記するかをヒアリングすることが望ましいといえる。 (2) 代表取締役の住所非表示措置 商業登記規則の改正により、代表取締役の住所非表示措置が創設され、令和6年10月1日からは登記記録に表示される代表取締役の住所を最小行政区画(「東京都大田区」など)までとすることが可能となった。プライバシー保護のために創設された制度であるが希望する人が多いため、代表取締役の候補者には希望するかをヒアリングすることが望ましいといえるだろう。 (了)
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〈税務ライター・鈴木まゆ子の〉『ここがヘンだよ日本の税制』【第5回】「酒の通信販売免許、アップデートが必要?フリマサイト転売によるリスク3つ」
〈税務ライター・鈴木まゆ子の〉 ここがヘンだよ日本の税制 第5回 酒の通信販売免許、アップデートが必要? フリマサイト転売によるリスク3つ 税理士・税務ライター 鈴木 まゆ子 日本ではお酒の製造にも販売にも「免許」が必要です。しかし数年前から、ウィスキーなどの価格高騰にともない、オンラインでのフリーマーケットやオークションサイト(以下「フリマサイト」)でお酒の転売を行うケースが増えた模様です。ときには酒税法違反となり、ニュースになることも。 このようなフリマサイトでのお酒の転売、みなさんはどのように感じられるでしょうか。 と思われるかもしれません。しかし酒の販売免許制度の趣旨を考えると、デメリットがあまりにも大きいのです。今回は、酒の販売免許制度の概要を伝えつつ、フリマサイトで安易に転売できてしまうことのリスクを分析します。 なぜ酒の販売に免許が必要なのか 日本では、酒類の販売業免許がなければ酒類を売ることができません。理由は次の2つです。 引用元:令和8年度版 税大講本 間接税法(基礎編)|税務大学校 免許が必要な酒類販売は対面販売だけではありません。インターネットなどを介した通信販売でも求められます。 また、酒類の小売業者については現在、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律の第86条の9により、酒類販売管理者を選任する義務を負わされています。これは20歳未満の者に対する酒類の販売を行わないようにするための制度です。 引用元:酒類の販売管理|国税庁 ちなみに、酒類の製造にも免許が必要です。これは高税率である酒税を確実に徴収できるようにするため、検査監督を十分に行えるようにすることで高税率に適する酒の品質を維持し、同時に国民の保健衛生を担保するためだとされています。 なお、酒類の販売免許は「販売業、代理業、媒介業」などと「業として」、つまり反復継続して行う場合に必要となります。一方、製造については業であるかどうかを問わず、一切について免許が必要です。明治初期の日本では「どぶろく」など、酒を自家発酵して作る風習がありました。しかし明治32年(1899年)以降、禁止されています。 酒のオンライン転売はコロナ禍の時期に増加・・・なぜ? 酒類の販売には免許制度が必要ですが、その網をかいくぐるかのような行為が近年、散見されるようになりました。フリマサイトで個人同士が相対で酒を売買しやすくなったからです。 特に令和2年以降数年にわたるコロナ禍では、酒の個人の相対取引が急増しました。飲食店の営業が休業あるいは短時間営業となり、外食での飲食ができなくなったため、自宅で飲む用のお酒の需要が高まったからと見られます。加えて、ジャパニーズウィスキーが平成後期から価格高騰するようになり、「いいお酒を安く買いたい」というファンがフリマサイトで買い求めるようになった模様です。 「このお酒、お歳暮でもらったけど飲まないのよね」くらいの気持ちで安く譲るくらいなら問題ありません。業として販売するのでなければ免許はいらないからです。しかし、中には転売で味をしめ、気がついたら反復・継続して販売していた・・・となることもあります。そうなると無免許で販売していたとして、酒税法違反が問われます。 実際「業として酒の販売をしていた」とされて酒税法違反で処分されたケースがありました。 酒の売買が業に該当する可能性について、本人に自覚があったかどうかはわかりません。ただ、中には「ちょっとお酒が余っただけだから」を言い訳に、意図的に繰り返し転売をする可能性もないとは言い切れないのです。 無免許の酒の転売を放置するリスクとは このようなフリマサイトでのお酒の無免許販売を放置すると、次のような悪影響が懸念されます。 ●免許を受けている小売業者・通販業者が損をする 1つ目は「正直者が馬鹿を見る」状況になってしまうことです。酒類の販売免許は、通信販売も含めて、資本要件や場所の要件などが厳格に定められています。また記帳も適宜、行わなくてはなりません(※)。つまり、マジメに酒類販売をするなら、高いハードルを超えなくてはならないのです。 (※) 参考:通信販売酒類小売業免許申請の手引|国税庁 一方、フリマサイトで転売をする人の多くは、販売免許の許可が下りにくい人だと思われます。販売するお酒は狭い自宅で保管しているでしょう。資金力はそれほどなく、中には税金を滞納している人がいるかもしれません。そういう人が酒の転売で儲けても、たいていは所得税も消費税も申告せずに終わる可能性が高いと言えます。つまり、マジメにルールを守って販売している業者たちの利益を転売者たちがかすめとるような構造になってしまうのです。 ●ニセモノの酒が横行する 2つ目に懸念されるのが「ニセモノの酒の横行」です。 オンラインのフリーマーケットやオークションサイトでは、よくお酒の空瓶が販売されています。多くは安酒の瓶ではなく、国内外問わず人気のある高級ウィスキーの瓶です。転売者の中には、この瓶に安酒をつめこんでフリマサイトで転売する人もいると見られています。実際、高級ウィスキーと信じて買ったものの、飲んでみたら安酒だった・・・という声もあるようです。 酒を混ぜて販売すること自体、酒税法違反です。これを放置すると、それぞれの酒のブランド価値を毀損することになりかねません。さらに、ニセモノの酒を飲んだ人の健康を害するおそれもあります。 ●20歳未満の酒の購入を許してしまう 3つ目の懸念が、20歳未満の酒の購入を許してしまうことです。オンラインでの酒の購入では、身分証の提示を求められることがありません。「あなたは20歳未満ですか?」の確認画面が出るのみです。つまりそこでウソをつけば20歳未満でも酒の購入ができてしまいます。フリマサイトが誰でもアクセスできる場所である以上、これは避けようがありません。 なお、この問題はフリマサイトに限らずAmazonのようなオンラインのショッピングモールについても同じことが言えます。 酒類の通信販売免許はアップデートが必要 このような問題を解決するには、酒類の通信販売免許の厳格化が必要だと思われます。筆者は、次のような対策が必要ではないかと感じている次第です。 転売者たちをすべて見つけて処分するのには限界があります。そのため、彼らの活動場所であるプラットフォームそのものに義務を課すことで、酒税法違反を取り締まることが可能になるのではないでしょうか。 なお、酒類の通信販売免許制度が創設されたのは平成元年(1989年)です。当時はインターネットもなく、カタログでの販売が中心でした。時代の変遷を経て途中改正されることもありましたが、それでもなお、基本的なルールは平成初期のままです。 本来の酒税法の趣旨、そして国民生活や経済活動への影響を考えるなら、そろそろ抜本的な改正が必要なのかもしれません。 (了)
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《速報解説》 【続報】非上場株式評価、大改正へ~第2回有識者会議の論点と評価通達のあり方から読み解く~
《速報解説》 【続報】 非上場株式評価、大改正へ ~第2回有識者会議の論点と評価通達のあり方から読み解く~ 税理士 柴田 健次 国税庁は令和8年5月11日、「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第2回を開催し、その資料が公開された。 1 はじめに 第1回有識者会議が会計検査院の指摘を受けた評価額の著しい乖離の実態整理と国税庁が問題視する圧縮スキームの開示に充てられたのに対し、第2回有識者会議では、租税法学者、会社法学者、M&A実務家という外部専門家による提出資料を中心に議論がなされ、評価通達の理論的・実証的基盤そのものへの根本的な問題提起がなされた。 本稿では、渋谷雅弘委員(中央大学法学部教授)、弥永真生委員(明治大学専門職大学院会計専門職研究科教授)、熊谷秀幸委員(株式会社日本M&Aセンター取締役常務執行役員)の3委員の提出資料を踏まえ、論点を整理する。 2 相続税法22条の時価評価と評価通達の考察 渋谷委員は、相続税法22条の時価評価原則を再確認した上で、「取引相場のない株式については、事業承継の観点から評価額が押さえられてきた」と現状を率直に指摘した。 特に、東京高判令和6年8月28日の事案では、通達評価額がM&Aによる買収額の約8%にとどまったとの具体例が示された。マンション評価をめぐる最高裁令和4年4月19日判決の事案(通達評価額が取引価格等の約4分の1)よりもはるかに大きい乖離が、非上場株式の世界では現に発生している。第1回会議で会計検査院が指摘した「類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の27.2%」という乖離は、より大きな問題の一端に過ぎないということになる。 また、渋谷委員は最高裁令和4年判決における平等原則について、「この最判は、平等原則を、同じ評価方法を用いるという意味で用いている(評価方法の平等)」と指摘した上で、「評価水準の平等は、異なる種類の財産間でも、同じ種類の財産間でも達成されない」、「評価水準の平等を達成するためには、評価通達の内容の合理化が必要」と説いた。これは、最高裁の判断枠組みが形式的な評価方法の平等を要求するにとどまり、実質的な租税負担の公平を実現するためには評価通達自体の合理化が不可欠であるという問題提起である。総則6項による事後的打消しでは限界があり、評価通達本体の手当てが必要であるという立場と理解される。 (※) 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 2026年5月11日(第2回)渋谷委員提出資料」より抜粋 3 会社法の観点からの取引相場のない株式の評価 会社法学者である弥永委員は、現行評価通達の中核である類似業種比準方式に対して、理論的にも実証的にも極めて厳しい評価を下している。 第一に、会社法上の裁判例において類似業種比準方式は事実上「死に体」となっている。提出資料添付の裁判例一覧(昭和59年~令和5年)によれば、「公刊物掲載裁判例では、京都地決昭和62・5・18を最後として、類似業種比準方式によるものはみあたらない」とされ、また「札幌高決平成17・4・26を皮切りに、DCF法による評価額またはそれを主な要素として価格決定を行う裁判例が多数を占めるに至っている」と整理されており、純資産価額方式は「下支え(下限)」として位置付けられることが多いとされる。 第二に、類似業種比準方式が用いられなくなった理由として、弥永委員は次の2点を挙げる。すなわち、「比準割合の算定方法やしんしゃく割合については理論的な根拠も実証的な裏付けもない」、「適切な比準対象の上場会社を見出すことが難しい(実際には不可能である)」の2点である。第1回会議で示された会計検査院の27.2%という乖離は、まさにこの理論的根拠なきしんしゃく割合(0.7・0.6・0.5)が累積した結果といえる。 第三に、純資産価額方式と継続価値の関係について、弥永委員は「清算価値>継続価値であれば、解散して清算することが合理的なので、会社法の観点からは、企業価値が純資産価額方式による評価額を下回ることはないことを前提として考えるのが自然」とし、「かりに、税法が純資産価額による評価額よりも低い企業価値を前提として株式価値を算定するという考え方をとるのであれば、それは、経済的に不合理な行動をとるよう企業を動機づけることになりかねない」と警鐘を鳴らした。 結論として弥永委員は、「取引相場のない株式の評価方法のレベルではなく、たとえば、事業承継税制などで、納税の猶予等の措置を講ずることが筋なのではないか」と提言した。 (※) 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 2026年5月11日(第2回)弥永委員提出資料」より抜粋 4 M&A実務における企業価値評価と税務評価との決定的乖離 東証プライム上場の日本M&Aセンターから提出された熊谷委員の資料は、現場のM&A実務における中堅中小企業の企業価値評価が、税務上の評価方式と決定的に異なることを示している。 中堅中小企業のM&Aにおける株式価値計算において最も多く採用されている評価手法は「時価純資産+営業権法」とされている。 同社の資料では、類似業種比準法・類似会社比準法・配当還元法のいずれも採用できない理由が明示されている。すなわち、類似業種比準法については「類似業種比準法は、相続対策や同族間での株式の移動を検討する際に適した計算方法ですが、独立した第三者間の取引価格を計算する際に利用することは適当ではありません」とされ、類似会社比準法は規模・業種が類似する会社を複数選定できないため不適、配当還元法は「一般的には投資目的が主に配当期待である少数株主の立場から株式価値を計算する場合に適切な方法であり、本件取引の場合には適当ではない」と判断されている。 同社の評価方式と税務上の評価方式との具体的差異として、①不動産(土地)の評価が時価(3年以内など関係なく時価での評価を行い、路線価ベースよりも高いことが多い)、②前払費用なども控除せずに計上、③減価償却不足・特別償却・圧縮記帳の調整、④賞与・退職給付引当金の計上、⑤営業権算定上の損益修正(高額な役員報酬、節税目的の保険、オペレーティングリースなど節税商品の損益、非経常的な損益の修正)が挙げられている。 (※) 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 2026年5月11日(第2回)熊谷委員提出資料」より抜粋 5 事業承継配慮の本来あるべき場所 第2回会議において租税法学者の渋谷委員と会社法学者の弥永委員が、それぞれ異なる切り口から同じ結論に到達した点は重要である。すなわち、渋谷委員は「税負担の考慮は、本来は基礎控除、税率や特別措置によるべき」とし、弥永委員も「取引相場のない株式の評価方法のレベルではなく、たとえば、事業承継税制などで、納税の猶予等の措置を講ずることが筋なのではないか」とした。 これは、評価通達における「評価の引下げ」によって事業承継への配慮を達成しようとする現行の構造そのものへの根本的な問題提起である。法人版事業承継税制の特例措置は令和9年12月末で贈与・相続の適用期限を迎えるが、事業承継税制と非上場株式評価は不可分の関係にあり、両者は一体で議論されるべき問題である。 すなわち、非上場株式の評価は相続税法22条における時価であるべきであり、評価通達による価額と時価との乖離は是正されるべきものである一方で、法人の事業継続性の観点から事業承継税制のような税負担軽減措置の政策的な配慮が必要となる。 6 総括(私見) 最後に、評価通達見直しのあるべき方向性について、筆者の私見を述べておきたい。 第一に、評価通達は相続税法22条の時価以下の金額で評価することが前提となっており、評価の安全性が考慮されている点を改めて確認しておく必要がある。現に路線価は時価(地価公示価格)の8割での評価が前提となっており、令和6年1月1日以後に適用されている居住用の区分所有財産の評価についても、理論的な市場価額の6割になるように個別通達が運用されている。非上場株式の場合においても、一般的に類似業種比準価額が時価よりも低い価額であることは周知の事実である。したがって、評価通達による価額と相続税法22条の時価との乖離はそもそもある程度は想定されているが、問題は、この「想定された範囲」を超える乖離が、評価通達自体の構造的要因によって恒常的に生じている点である。評価通達の見直しは、まさにこの「想定外の乖離」を是正することが前提となるべきである。 第二に、最高裁令和4年判決の枠組みにおいても、評価通達を超える価額で課税することは、平等原則の観点から原則として違法とされている点が重要である。評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合に限り、合理的な理由があると認められて違法にはならないという例外的な構造である。すなわち、評価通達こそが大原則であり、その大原則自体に構造的欠陥があるならば、評価通達本体の手当てによって解決すべきである。 第三に、評価通達の見直しと事業承継配慮との関係について、渋谷教授のご指摘のとおり、税負担の考慮は本来、基礎控除、税率や特別措置によるべきである。事業承継への配慮を評価通達における「評価の引下げ」によって達成しようとする現行の構造は、①相続税法22条の時価評価の原則を歪め、②評価通達による画一的評価と実勢価額との乖離を恒常化させ、③納税者の予見可能性を著しく損なう、という問題を生じさせている。仮に評価通達の見直しによって非上場株式の評価額が上昇し、事業承継の観点から税負担で問題になることがあるとしても、それは評価自体の問題ではなく、事業承継税制のような政策的措置によって税額負担措置を考慮するべきである。 以上を踏まえると、評価通達の見直しは、「評価通達本体の合理化」と「事業承継税制の抜本拡充」の両輪で実施されるべきものといえる。事業承継税制は平成21年に創設されたものの実際の適用件数はまだ少なく、現行制度を分かりやすい制度に見直すことと、非上場株式評価の適正化は、本来一体として議論されるべきものである。第1回・第2回有識者会議の議論は、まさにこの両輪改革の必要性を強く示唆するものである。 今後の有識者会議の議論を引き続き注視していきたい。 (了)
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monthly TAX views -No.159-「給付付き税額控除の具体案の公表と論点」
monthly TAX views -No.159- 「給付付き税額控除の具体案の公表と論点」 東京財団 シニア政策オフィサー 森信 茂樹 2026年4月23日の本誌(掲載号:No.666)は《編集部レポート》として、先日筆者が責任者として取りまとめた東京財団の「給付付き税額控除の具体的制度設計」について報じた。 筆者のほかに佐藤主光一橋大学教授、土居丈朗慶應義塾大学教授、小黒一正法政大学教授の計4名による共同提言(以下、「提言」)だ。その後、政党や研究会などでこの案を説明し議論を行ったので、今後問題になる論点を論じてみたい。なお、動画も作成しているので、参照いただければ幸いである。 * * * 第1に問題となるのが給付付き税額控除の対象者だ。提言では勤労する個人、つまり厚生年金等の社会保険に加入し保険料を払っている者を対象とした。したがって、年金受給者やパート労働をする第3号被保険者は含まない。 世帯単位にしなかった理由は2つ。ひとつは、給付付き税額控除の制度は勤労して所得が増えると給付が減額・消失する。世帯単位をとる英国や米国では、これを避けようと、世帯の一方(多くは女性)の就労インセンティブが損なわれるという問題が指摘されており、これを回避する必要があるということ。もうひとつは、世帯情報は地方自治体が管理しており、国の制度とすべき給付付き税額控除にはなじまないという点だ。 2番目は、税額控除と給付を組み合わせるという本来の形はやめて給付に一本化したことだ。最大の理由は、先般の岸田定額減税の実施に当たって生じた調整給付(減税し足りない残りの給付)の事務負担を避けるためである。 諸外国の例を見ても、事務の煩雑さを避けるため給付に一本化した例が多い。英国では導入当初、減税は税務当局、残りの給付は社会保障官庁とそれぞれが執行していたが、事務の煩雑性を回避するためユニバーサルクレジットとして社会保障官庁による給付に一本化した。カナダも、逆進性対策としての給付付き税額控除を2026年に給付に統合した。米国では全員申告のため申告時に給付付き税額控除を行っているが、不正が多いことが指摘されている。 3番目にデータベースの構築だ。当面は市町村が保有する所得情報を国が活用することとするが、3年後には本格的な情報連携基盤として英国のような毎月の所得データの取得・情報連携、つまり企業が会計ソフトで管理する毎月の従業員の所得情報(収入や税・社会保険料の源泉徴収額)を活用する「ガバメント・データ・ハブ(仮称)」の構築を目指す。地方自治体の所得は前年所得であり、給付対象者の直近の経済状況を反映していないという大きな問題を避けるためだ。これについては今後改めて解説したい。 * * * 具体案の説明をする。支給開始の所得は社会保険料を払い始める130万円の年収からとした。給付額は20万円(年間)である。これは、130万円を超えると15%程度(本人負担)、つまり20万円程度の社会保険料負担が生じるので働き止めをする「壁」をなくすためである。メインシナリオは、250万円までは年間20万円という定額の給付を維持し、それを超えると給付額は逓減し300万円で消失する。給付の形は台形の右半分というイメージだ。この案では支給対象者は1,500万人超、必要財源は2.8兆円となる。 様々なバリエーションも示しており、例えば250万円まで定額支給を続け、350万円で消失するケースでは1,905万人が対象となり必要財源は3.1兆円と試算される。 国民会議において夏前に具体案をまとめるというが、給付付き税額控除については、プログラム法で工程表に従って順次拡充していく形での導入が望ましい。恒久財源の確保もお忘れなく。 (了)
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谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第42回】「国税通則法と国税徴収法との「一体的」観察・検討」-国税徴収法の性格の変化:「中間的な通則法」から滞納処分手続法へ-
谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第42回】 「国税通則法と国税徴収法との「一体的」観察・検討」 -国税徴収法の性格の変化:「中間的な通則法」から滞納処分手続法へ- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 1 はじめに これまで本連載をコンメンタール的「読み物」(第1回1参照)として国税通則法の規定を検討してきたが、前回で国税通則法第9章(雑則)までの検討を終えた。 残すは国税通則法第10章(罰則)と第11章(犯則事件の調査及び処分)となったが、この2つの章は租税処罰法ないし租税制裁法のうち、租税危害犯等の租税犯及び租税罰を定める租税刑法に関する規定並びに犯則事件調査及び通告処分を定める租税犯則手続法に関する規定を置く章である。それらの規定のうち煽動犯及び租税犯則手続法に関する規定(税通126条、131条以下)は、平成29年度税制改正(平成29年3月31日法律第4号)前は国税犯則取締法(明治33年3月17日法律第67号)に置かれていた規定が、同改正によって同法の廃止(平成30年4月1日)に伴い国税通則法に移されたものである。 そこで、それらの章に置かれた規定(税通126条~160条)を本連載でどのように取り扱うかを検討したところ、本連載のタイトル及びその基礎にある本連載の構想を考慮して、税法の体系上租税手続法とは区別される租税処罰法の分野に属する上記の規定は本連載では取り上げないことにした(税法の体系については清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)11頁、金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)28-29頁、拙著『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)【86】等参照)。 本連載のタイトルを「国税通則法の構造と手続」としたのは次のような構想(第1回3)が念頭にあったからである。 このような構想からすると、本連載において国税通則法の検討にその実定的構造からアプローチすることは前回で終えたことになるが、その体系的構造からアプローチする場合には、国税徴収法の検討がなお課題として残されていることになる。すなわち、国税徴収法は、国税通則法と同じく、租税実体法に対して目的従属的関係にある租税手続法に属しており、しかも国税通則法の制定前には「いわば中間的な租税通則法」(租税徴収制度調査会「租税徴収制度の改正に関する答申」(昭和33年12月。以下「租税徴収制度調査会答申」という)4頁)ないし「中間的な通則法」(税制調査会「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)」(昭和36年7月。以下「国税通則法制定答申」という)2頁)としての性格をもつと考えられていたことからすると、税法学の体系の観点からは、国税通則法と「一体として」観察し検討すべきものであり、むしろそうすること(国税通則法と国税徴収法との「一体的」観察・検討)によって国税通則法の実定的構造の特色もより明らかになるように思われる。 2 「中間的な通則法」としての国税徴収法 さて、租税徴収制度調査会答申は国税徴収法改正の内容及び法形式について次のとおり述べていた(同答申3-4頁。下線筆者)。 ここからは、租税徴収制度調査会答申が「各税法に分散する租税の共通規定を整理統合し、かつ、租税債権の発生、消滅、時効等の総則的規定を整備した租税通則法」(以下「本来的意味での租税通則法」という)の制定を断念し「改正法にいわば中間的な租税通則法としての性格をもたせること」にとどめた理由が、本来的意味での租税通則法を制定するためには「現行の租税の賦課形態についても根本的に検討すべきものが含まれている」点にあったことを、読み取ることができる。 上記にいう「現行の租税の賦課形態についても根本的に検討すべきもの」を検討したところを、国税通則法制定答申は冒頭の「第一 国税通則法制定の趣旨とその法形式」において次のとおり総括的に述べている(同答申1-3頁。第1回2参照。下線筆者)。少し長くなるが主要部分を以下に引用しておこう。 国税徴収法は、この答申でも、「中間的な通則法としての性格を有している」とされていたが、ただ、上記引用文の冒頭で「現行の国税に関する法律」としては明記されているものの、最後の「国税通則法の法形式の定め方」に関しては、意識的にか否かはともかく、少なくとも明示的には言及されていない(「通則法」に「中間的な通則法」も含まれると読めば別であるが)。この点について、次の解説(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和7年改訂・18版〕』(大藏財務協会・2025年)18-19頁。下線筆者)がされてきたところである。 いずれにせよ、国税通則法の制定後も、国税徴収法は単行法として存置されたが、前記1の最後に述べたように両法を「一体として」検討するためには、両法の関係や性格を明らかにしておく必要があるように思われる。 3 賦課徴収制度と申告納税制度における国税徴収法の適用範囲 既に述べたように、租税徴収制度調査会答申が国税徴収法の改正において「改正法にいわば中間的な租税通則法としての性格をもたせること」にとどめたのは、本来的意味での租税通則法を制定するためには「現行の租税の賦課形態についても根本的に検討すべきものが含まれている」と考えたためであろう。そうすると、国税徴収法と国税通則法との関係を検討するに当たっては、「現行の租税の賦課形態についても根本的に検討すべきものが含まれている」ということの意味を更に検討する必要があるように思われる。 まず、そこでいう「現行の租税の賦課形態」の意味から考えてみると、旧国税徴収法(明治30年3月29日法律第21号)では「賦課権と徴収権は相互に補完して租税債権の実現に奉仕するもの」(税制調査会「国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)」(昭和36年7月。以下「国税通則法制定答申別冊」という)33頁)として税務官庁が徴収権だけでなく賦課権をも行使することが前提とされていたのに対して、第二次世界大戦後とりわけシャウプ勧告(昭和24年)に基づき申告納税制度が国税に関して広く導入された後は、同制度の下では、税務官庁は賦課権を更正決定によって第二次的に行使することとされ、第一次的には納税者が賦課権の行使による租税債権の確定に対応する納税義務の確定を納税申告によっていわゆる自己賦課(self-assessment)として行うこととされたが、前記にいう「現行の租税の賦課形態」はそのような「租税の賦課形態」を意味するものと解される。 ここで「賦課権」とは、「更正、決定その他税務官庁が租税債権を確定する処分をすることができる権利」(国税通則法制定答申6頁)ないし「すでに成立した租税債権の額を確定するもの」(国税通則法制定答申別冊33頁)をいうが、これは申告納税制度の下では「確定権」と呼ぶべきものである。賦課権と確定権については次の用語法(金子・前掲書154頁)によるのが適切である(前掲拙著【99】【110】参照)。 このように考えてくると、戦前にわが国の税制で一般的に採用されていた賦課課税制度は、現行の賦課課税方式(税通16条1項2号)とは異なり、「賦課徴収制度」と呼ぶべきものであると考えられる。賦課徴収制度については次のような説明がされている(租税法研究会編『租税徴収法研究(上)』(有斐閣・1959年)17頁[桃井直造発言]。傍点原文)。 このような賦課徴収制度を採用した実質的な理由について、次の見解(租税法研究会編・前掲書4頁[杉本良吉発言]。下線・傍点筆者)は徴収面における租税債権の特殊性の観点から説明している。 以上で「租税の賦課形態」の観点から賦課徴収制度と申告納税制度をみてきたが、租税徴収制度調査会の設置(昭和30年12月16日閣議決定)当時の両制度の下において、国税徴収法の適用範囲は次のように整理されていた(杉山宗六『国税徴収法の解説』(中央経済社・1954年)2頁。下線筆者)。 要するに、国税徴収法は、賦課徴収制度の下では、「実体法的地位」にある「賦課の基本的規定」との関係で「手続法的地位」にあり「その全部が適用され」ていたのに対して、申告納税制度の下では、その「適用範囲」が「若干狭小せしめ」られることになった、と整理されていたのである。 ただし、「申告納税制度の採用は、国税徴収法の適用範囲を若干狭小せしめることとなった」という前記の整理は、昭和20年代(下記①②にいう「最初」ないし「当初」)における申告納税制度の運用実態(その分析として田中二郎「租税法雜觀」自治研究25巻10号(1949年)39頁、43-44頁参照)を踏まえたものであって、昭和30年代(下記①にいう「最近」、下記②にいう「現在」ないし「今」)以後は、「狭小せしめ」られる「国税徴収法の適用範囲」は「若干」ではなく、申告納税の改善に伴って拡大していったことに注意すべきである(下記①:租税法研究会編『租税法総論』(有斐閣・1958年)148頁[白石正雄発言]、下記②:同149頁[平田敬一郎発言])。 4 納税者主導型租税手続と税務官庁主導型租税手続との接合論 さて、前記の整理を踏まえて考えると、租税徴収制度調査会答申が本来的意味での租税通則法を制定するためには「現行の租税の賦課形態についても根本的に検討すべきものが含まれている」と述べたのは、「国税徴収法の適用範囲」のうち申告納税制度の下で「若干狭小せしめ」られることになった部分を問題にしたものと解される。 その部分には、前記の国税通則法制定答申のいう「このような租税の賦課権と徴収権とについて、その区分が明らかにされていない」部分が含まれると考えられるが、その部分は、国税通則法制定答申の当時には「まずまず申告納税制度は軌道に乗りつつある」(前記②)ことに伴い、拡大しかつ実際上も重要性を増していたことからすると、その部分においては、申告・納付といういわば「納税者主導型租税手続」と更正決定・徴収といういわば「税務官庁主導型租税手続」との関係が明確でなく両者の接合が十分かつシームレスにはされていないところがあったということが、国税通則法制定答申において問題とされたものと考えられるのである。 この問題を論ずる議論を「納税者主導型租税手続と税務官庁主導型租税手続との接合論」ということにすると、「国税通則法の隠れた趣旨」を申告納税制度の拡大・一般化に認める次の見解(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])B13-B18頁[須貝脩一執筆]。下線筆者)の説くところは、その議論の核心を突いたものと考えられる。少し長くなるが、その議論の検討において重要と思われる部分を引用しておこう。 このように申告納税制度の拡大・一般化を国税通則法制定の「隠れた趣旨」として捉えると、納税者主導型租税手続と税務官庁主導型手続との接合論は、国税通則法(昭和37年4月2日法律第66号)の制定によって所期の目的を基本的には達成したとみてよかろう。すなわち、両手続は、従来から賦課権として議論されてきた確定権については「第2章 国税の納付義務の確定」で、また、徴収権については「第3章 国税の納付及び徴収」で、さらに、それらの権利の期間制限については「第7章 国税の更正、決定、徴収、還付等の期間制限」で、それぞれシームレスに接合されて規定され、その後、特に平成23年度[11月]税制改正における「第7章の2 国税の調査」の創設によって、両手続の接合について更なる緊密化が図られてきたのである。 5 「中間的な通則法」から滞納処分手続法へ このように考えてくると、国税通則法は、納税者主導型租税手続と税務官庁主導型租税手続との接合を図るという点では、その名に相応しい内容の規定を整備してきたものと評価することができよう。 ただ、納税者主導型租税手続のうち「国税の納付」(税通第3章第1節)に接合された「国税の徴収」(同章第2節)という税務官庁主導型租税手続のうち最終手続である「滞納処分」(同節第2款)の実質的内容は、国税徴収法がこれを定めるという形で「わが国の租税徴収制度の基本法ともいうべき国税徴収法」(「租税徴収制度調査会第一回会合における大藏大臣(一万田尚登)の挨拶」三ヶ月章=加藤一郎監修・青山善光=碓井光明編『租税法制定資料全集―国税徴収法(昭和改正編)(1) 日本立法資料全集151』(信山社・2002年)69頁)は存置されてきたのである。 勿論、「国税通則法が制定された後の国税徴収法は、その名称こそ従来と同じであるが、その内容において実質的に滞納処分手続法として、これに直接関係する規定のみが残存し、それ以外の規定は、あげて国税通則法に移された」(志場ほか共編・前掲書19頁。下線筆者)が、「滞納処分に関する手続の内容は、・・・・・・、すべて国税徴収法にゆだねることとしているので、[国税]通則法では、ただどのような状態になったときに滞納処分が行われることになるか、及び、滞納処分は、いわゆる自力執行権として、裁判所等の他の国家機関の手を煩わすことなく、債権者たる税務官庁自らが、国税徴収法の規定により、これを行う旨を規定しているにとどまるのである。そしてこれらの関係は、本法[=国税通則法]制定前と変わりはない。」(同70頁。下線筆者)と考えられてきたのである。 6 おわりに 最後に、今回の検討を総括すると、昭和30年代に始まった国税徴収法の改正論議は、「国税徴収法を拡充してこれを通則法にすべきではないかという議論」(志場ほか共編・前掲書18頁)としては展開されず、「中間的な通則法としての性格」(同頁)を有していた国税徴収法を滞納処分手続法にいわば「純化」させ、同法の通則法的な性格の規定を新たに制定する国税通則法に移して統括し、かつ、納税者主導型租税手続と税務官庁主導型租税手続との接合論と結びつき、もって本来的な意味での租税通則法すなわち「各税法に分散する租税の共通規定を整理統合し、かつ、租税債権の発生、消滅、時効等の総則的規定を整備した租税通則法」(租税徴収制度調査会答申3頁)を目指す方向で展開されてきた、ということができよう。 このような認識に基づき、「国税通則法の構造と手続」という本連載においては、次回以降、国税通則法と国税徴収法との「一体的」観察により、税務官庁主導型租税手続の最終段階の手続として国税徴収法による滞納処分手続を検討し、その検討内容・結果をコンメンタール的「読み物」として述べていくことにする。 なお、本連載における筆者の一貫した問題意識となっているところであるが、前記の一連の改正論議は、「納税義務に関する基本的租税債権債務の法律関係が、行政手続によるという他の特徴によつておおいかくされてはならない。その意味において、租税法律関係の明確化が納税者の権利利益の保護に資し、また、行政官庁の手続きを誤りなからしめるために、要請される。」(中川=清永編・前掲書E13頁[須貝脩一=清永敬次執筆])という「租税基本法的要請」(同E16頁[同])に十分に応えるものではなかったということをここでも確認しておきたい(第10回2も参照)。 (了)
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社長からの無理難題の断り方・かわし方 【第5回】「国外資産で得た所得の申告」
社長からの無理難題の 断り方・かわし方 第5回 国外資産で得た所得の申告 〈JUN税会〉 税理士 三木 孝夫 * * 解 説 * * 1 事実関係の把握 社長へのヒアリングと現状確認により、以下の事実が確認されました。 2 法的論点の整理 (1) 所得税の課税所得の範囲 日本の居住者は、原則として日本国内はもちろん国外において稼得した所得も課税対象とされ、非居住者は、日本国内で稼得した「国内源泉所得」のみが課税対象とされますので、当該社長が日本の居住者の場合は、国外資産から生じた不動産所得、株式の譲渡所得や配当等も日本で申告する必要があります。 個人の区分 定義 課税所得の範囲 居住者 非永住者以外の居住者 次のいずれかに該当する個人のうち非永住者以外の者 ・日本国内に住所を有する者 ・日本国内に現在まで引き続き1年以上居所を有する者 国内及び国外において生じたすべての所得 非永住者 居住者のうち、次のいずれにも該当する者 ・日本国籍を有していない者 ・過去10年以内において、日本国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である者 国外源泉所得以外の所得及び国外源泉所得で日本国内において支払われ、又は国外から送金されたもの 非居住者 居住者以外の個人 国内源泉所得 (2) 共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換 経済取引のグローバル化が進展する中で、外国の金融口座を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するために、OECDで策定された「共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)」に従って、金融機関が非居住者に係る金融口座情報を税務当局に報告し、これを各国の税務当局間で互いに提供することとなりました。 CRSは日本では平成27年度の税制改正により導入され、準備期間を経て平成30年に、平成29年分の口座情報に関して初の情報交換が行われました。令和6事務年度は、日本居住者のCRS情報約275万件(個人口座約272万件、同残高約9.6兆円、法人口座約3万件、同残高約8.1兆円)を101か国・地域の外国税務当局から受領し、外国居住者のCRS情報約33万件(個人口座約31万件、同残高約1.3兆円、法人口座約2万件、同残高約6.7兆円)を84か国・地域の外国税務当局に提供しました。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 【CRSに基づく自動的情報交換の実施時期に関するコミット状況】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (引用:「令和6事務年度 租税条約等に基づく情報交換事績の概要」│国税庁) CRSの参加国・地域は現在100を超えていますが、米国はCRSに参加していません。米国では2010年に「外国口座税務コンプライアンス法(FATCA:Foreign Account Tax Compliance Act)」が成立しており、独自の情報収集システムを有しているためで、その一方で自国にある外国人の口座情報を他国へ一律に提供する仕組みを持っていません。ただし、日本と米国の間には「日米租税条約」があり、税務調査や租税回避の疑いがある場合には、両国の税務当局間で情報交換が行われる仕組みが整備されていますので、仮に米国に資産を移しても、必要に応じてその情報が日本へ伝わる可能性は十分にあるといえます。 日本の税務署は受領したCRS情報の利用を重点項目の一つに掲げています。税務署は国外で所得が生じているにもかかわらず確定申告にこれらの所得が反映されていないことを把握し、税務調査へ着手しています。 またCRS情報は口座情報であることから、金融資産等に対する収入金額であって所得金額ではありません。例えば株式の売買を繰り返している場合には、税務調査時に各株式の取得価額を示して譲渡損益を証明していく必要があるものの、過去の取引明細書が手元になく、取引明細書の再発行には海外の金融機関の窓口に出向く必要がある場合もありますので、納税者が取得価額等を証明できなければ大きな修正額につながることにもなります。 なお申告書作成において、海外の金融口座を通じて取得する利子・配当所得の円換算は、譲渡所得とは異なりTTBが使用不可であることや、日本が外国と締結している租税条約(協定)で、利子・配当等の投資所得について現地で課される所得税が軽減・免除される場合、その軽減・免除される額を超えて課された外国所得税の額があったとしても、その超える外国所得税の額は外国税額控除の対象不可であること等、国外所得特有の論点もあります。 (3) 国外財産調書制度 近年、国外財産の保有が増加傾向にある中で、国外財産に係る課税の適正化が喫緊の課題となっていることなどを背景として、平成24年度の税制改正により国外財産調書制度が導入され、平成26年1月から施行されています。 具体的には、その年の12月31日において、その価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を保有する居住者(非永住者を除く。)は、その年の翌年の6月30日までに、当該国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した「国外財産調書」を、所轄税務署長に提出しなければならないこととされています(国外送金等調書法5①本文)。 (引用:「国外財産調書の記載例」│国税庁) 期限内に国外財産調書の提出等がない場合に、その国外財産に関する所得税等の申告漏れが生じたときは、その国外財産に関する申告漏れに係る部分の過少申告加算税等について、5%加重される過少申告加算税等の加重措置がとられています。 (4) 公社債・株式等に係る課税の方法と上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除が認められるのは、日本国内の金融口座(内閣総理大臣の登録を受けた金融商品取引業者)を通じて売委託等をして発生した上場株式等の譲渡損失(償還損失)に限定されています。 したがって、国外の金融口座を通じて売委託等をして発生した上場株式等の譲渡損失等は、日本国内の金融口座を通じて売委託等をした上場株式等の譲渡益と相殺することはできるものの、国内外の金融口座を通じて取得する上場株式等の利子所得・配当所得との損益通算や3年間の繰越控除はできません。 したがって、日本国内の金融口座で売委託等が可能な銘柄は、当該金融口座を通じて売買したほうが税制的には有利といえます。 3 本件事例への当てはめ (1) 居住者区分の判定 社長は日本国籍を有し、日本国内に住所を有しているため、「非永住者以外の居住者」に該当します。したがって、日本国内で生じた所得だけでなく、国外で生じたすべての所得(全世界所得)について、日本で申告・納税する義務があります。 (2) 未申告所得の整理 現地で完結して日本へ送金していない場合であっても、シンガポールの不動産から生じる賃貸収入(不動産所得)、現地証券口座での株式売買益(譲渡所得)や配当金(配当所得)、銀行預金の利息(利子所得)はすべて日本での課税対象となります。これらについて、各年分の所得を再計算し、過去に遡って速やかに期限後申告を行う必要があります。現地で納付した税金がある場合は、一定の要件のもと外国税額控除の適用を検討します。 (3) CRS情報による把握リスク 社長はシンガポールに金融口座を保有していますが、シンガポールはCRS(共通報告基準)に参加しており、すでに日本との間で金融口座情報の自動的情報交換が実施されています 。日本の税務署は受領したCRS情報の利用を重点項目の一つに掲げています 。税務署は、自動送付されてきた海外口座の情報と国内の確定申告書を照合し、国外所得の申告漏れを容易に把握して税務調査に着手しています 。したがって「海外の口座だから税務署にはばれない」という考えはもはや通用せず、未申告の事実を税務署から指摘されるのは時間の問題と言わざるを得ません。 (4) 国外財産調書の提出義務 社⻑が保有するシンガポールの不動産、上場株式、預⾦の合計額が2億円を超えており、基準額である「5,000万円超」に該当するため、毎年「国外財産調書」を所轄税務署長に提出する義務があります。未提出の場合、税務調査等で申告漏れが指摘された際の過少申告加算税等が5%加重される重いペナルティが課されます。 (5) 上場株式等の譲渡損失の取扱い シンガポールの現地証券会社を通じて行った上場株式等の売買で仮に譲渡損失が生じていた場合、その損失を日本国内の金融口座を通じた上場株式等の譲渡益と相殺(損益通算)することは可能です。しかし、利子所得・配当所得との損益通算や、翌年以降3年間の繰越控除は適用できません。今後の運用においては、国内の証券口座へ移管できる銘柄がないかなど、税務面を考慮した口座の見直しも検討すべきです。 4 実務上の留意点 (1) 速やかな期限後申告書の提出 未申告の国外所得がある場合、速やかに期限後申告書を提出することが最も重要です。自主的に期限後申告を行った場合には、無申告加算税が5%に軽減される場合があります(通則法第66条第6項)。税務調査の通知を受けた後や、更正・決定を受けた後では、より重いペナルティが課されます。 (2) 国外財産調書の提出 5,000万円を超える国外財産を保有している場合には、国外財産調書の提出が必要です。国外財産調書を期限内に提出している場合、その国外財産に関する所得税等の申告漏れがあったときは、過少申告加算税等が5%軽減されます。一方、提出がない場合には5%加重されます。 (3) 今後の取引口座の見直し 海外の金融口座を通じて取得した上場株式等については、損益通算及び3年間の繰越控除が認められません。日本国内の金融口座で売委託等が可能な銘柄については、国内の金融口座を通じて売買したほうが税制的には有利です。損切りのタイミングについても、このような税制上の制約を考慮に入れる必要があります。
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〈適切な判断を導くための〉消費税実務Q&A 【第20回】「輸入消費税等が過少申告であった場合、仕入税額控除の減少により納税額の不公平はないとして過少申告加算税は免除されるか」
〈適切な判断を導くための〉 消費税実務Q&A 【第20回】 「輸入消費税等が過少申告であった場合、仕入税額控除の減少により納税額の不公平はないとして過少申告加算税は免除されるか」 税理士 石川 幸恵 【Q】 外国の提携企業から製品を輸入しています。先日、税関の事後調査で「製品の開発費や金型製作費が輸入消費税等の課税価格に算入されていない」との指摘を受け、輸入消費税等の修正申告と追加納付を行いました。 輸入消費税等が過少申告であったことは受け入れますが、その一方で、当初申告当時、国内取引に係る消費税等の確定申告において仕入税額控除額が少なくなっていたことから、結果として課税期間を通じて国に納付した消費税等は輸入消費税等を適法に申告した場合と同額になっています。 このような場合でも、何か問題は生じるのでしょうか。 【A】 輸入消費税等と国内取引に係る消費税等は別個の納税義務として規定されており、例えば下の表のような違いがあります。 <申告及び納期限について> 輸入消費税等 原則として課税貨物の引取りの時 国内取引に係る消費税等 原則として課税期間の末日の翌日から2か月以内 このため、輸入消費税等を適法に申告した者と、過少申告して仕入税額控除を少なく受けた者の間には納付時期の差による客観的不公平が生じます。したがって実質的な納付額が同じであっても修正申告は必要であり、当該過少申告については、過少申告加算税が課されます。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ 輸入消費税等の申告漏れは、税関の事後調査において頻繁に指摘されている。本稿では、税関による調査の実態を確認したうえで、過少申告加算税が適法とされた裁決事例を紹介する。 1 輸入消費税等に関する製品の開発費等の申告漏れと事後調査の実態 税関による最新の事後調査の事績(令和6事務年度)では、3,609者が事後調査を受けており、そのうち2,690者(調査を受けた者のうち74.5%)が申告漏れ等を指摘されている。 当設問のように開発費や金型製作費、無償提供材料(これらは輸入時の課税価格に含める必要がある)の申告漏れは多く、産業用ロボットの開発費用等の申告漏れ6億7,259万円、追徴税額7,220万円という事例が税関ホームページで紹介されている。 なお、当連載【第2回】「外国企業に製造委託する際に送金した技術開発費用や金型製作費に係る消費税の取扱い」も参照されたい。 2 実質プラスマイナスゼロでも過少申告加算税が課される理由 【Q】のように輸入消費税等につき過少であった分、国内取引に係る消費税等の確定申告において仕入税額控除額が減少し、結果的に、適法に申告した者と国への納付額は同じだから、過少申告加算税は不当として争われた裁決事例がある(TAINSコード:F0-5-362)。本件の理解を深めるため、その概要を確認する。 (1) 事実関係 請求人は、バーコードリーダー等を韓国から輸入していた。図のように、外国貨物の引取りの際、開発費等1,000を輸入消費税等の課税価格に算入していなかったため、適法な納税の場合と比べて、100が過少申告となっていた(適法であれば150納付すべきところ50のみ納付)。 しかし、その課税期間の国内取引に係る消費税等の確定申告において、過少であった輸入消費税等100を仕入税額控除できないため、納付税額が100多くなり(150ではなく250)、結果として課税期間を通じて国に納付した消費税等(300)は輸入消費税等を適法に申告した場合と同額となっていた。 (2) 審判所の判断 審判所は(1)の事実関係と法令を踏まえ、次の2つの理由から過少申告加算税は適法と判断した。 ① 輸入消費税等と国内取引に係る消費税等の納税義務の区別 輸入消費税等と国内取引に係る消費税等とは、消費税法上明確に区分されており、両者には別個の納税義務が規定されている(消法4、5、45、47、49、50)。 <輸入消費税等> 保税地域から引き取られる外国貨物を引き取る者が、納税義務者として、引取りの都度、税関長に申告し、これを国に納付しなければならない。 <国内取引に係る消費税等> 国内において課税資産の譲渡等を行う事業者が、納税義務者として、課税期間の末日の翌日から2か月以内に、税務署長に申告し、これを国に納付しなければならない。 別個の納税義務が規定されている以上、過少申告分が国内取引に係る消費税等の納付税額に含まれて申告されていたという事実があっても、過少申告による納税義務違反の事実があったことに変わりはない。 ② 納付時期の差による客観的不公平 上記①でも確認したとおり、輸入消費税等の納期限は原則として引取りの時であるが、国内取引に係る消費税等は原則として課税期間の末日の翌日から2か月以内である。適法に納税した者との差は明らかに存在していることから、国に納付した消費税等が同額であったとしても、客観的不公平が生じていないとはいえず、過少申告加算税が課されるのは適法である。 (3) 修正申告により納付した輸入消費税等相当額の還付(補足) 修正申告により納付した輸入消費税等は仕入税額控除の対象となる。この裁決事例の請求人は、国内取引に係る消費税等につき税務署長に更正の請求を行い、修正申告により納付した輸入消費税等と同額が還付されている。 (了)
