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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第46回】株式会社日本ハウスホールディングス「調査委員会報告書(平成28年4月13日付)」
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第46回】 株式会社日本ハウスホールディングス 「調査委員会報告書(平成28年4月13日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【調査委員会の概要】 【株式会社日本ハウスホールディングスの概要】 株式会社日本ハウスホールディングス(旧社名:東日本ハウス株式会社。以下「ハウスHD」と略称する)は、昭和44年設立。住宅の請負建築事業を中核に、ホテル事業、ビール事業、太陽光発電事業を行っている。連結売上高50,165百万円、経常利益3,282百万円。従業員数1,473名(数字はいずれも平成27年10月期)。本店所在地は岩手県盛岡市であるが、本社機能は東京都千代田区にある。東京証券取引所一部上場。 不適切な会計処理が発覚した株式会社銀河高原ビール(以下「ビール」と略称する)は平成6年11月設立の東日本沢内総合開発株式会社がその前身であり、平成22年2月に現社名に変更、平成23年12月、ハウスHDの完全子会社となっている。ビール単体の売上高は1,057百万円、経常利益64百万円、従業員数は19名(平成27年10月期)。 ハウスHDは、平成6年から地ビール製造に参入してきたが、ビール業界における競争激化などを理由に新設した4か所の工場のうち3か所を操業停止して、その経営母体を清算してきた。 【調査委員会報告書の概要】 1 不適切な会計処理が発覚した経緯 平成28年2月25日、平成28年10月期第1四半期レビューにおいて、ハウスHDの会計監査人である優成監査法人から、ビールについて「第1四半期の売上高と比較して、第1四半期末の売掛金残高が大きすぎる。滞留債権があるのではないか」との指摘があり、ハウスHDの連結決算担当者が、ビール管理部副課長(以下「ビール副課長」と略称する)に問い合わせた。 3月2日になって、監査法人がビール副課長より入手した売掛金明細の合計額に不一致があることを発見し、資料に改ざんの疑いがあることを経理部長・常勤監査役に報告した。これを受けて、常勤監査役は、経理・財務の責任者であるビール工場長に調査を指示した。 ビール工場長は、当初、ビール管理部主任(以下「ビール主任」と略称する)が、個人的な売上高の集計ミスを隠蔽するために行ったと説明したが、常勤監査役・経理部長・監査法人で現地に赴いて調査を行った結果、3月5日、組織的な利益の過大計上であったことが判明し、翌6日、臨時取締役会を開催して、調査委員会が発足した。 2 不適切な会計処理の概要 ビールにおける不適切な会計処理は大きく4つに分類され、それぞれが損益に与えた影響額は以下の表のとおりである。 (1) 売上・売掛金の過大計上 販売管理システムから出力したエクセルデータには、現在取引のない得意先名も表示されていたため、ここに実在しない売上を記入して、架空の売上計上を行っていた。監査法人による往査に際しては、売掛金明細表上の「当月発生額」と「当月回収額」に任意の数字を書き込み、滞留債権ではないように偽装するとともに、合計金額を直接入力することにより、請求一覧表などの数値と合致させていた。また、売掛金残高確認の対象となることを避けるため、多数の得意先に分散して、架空売上を計上していた。 (2) 棚卸資産の過大計上 棚卸資産管理はエクセルで行っていたため、エクセル上の在庫数量及び単価を操作することによって、在庫の過大計上を行っていた。監査法人の実地棚卸では、実際は空のタンクにビールが貯蔵されているように見せかけるためメータの細工を行ったこともあり、また、倉庫業者の在庫証明は、偽造して数量を水増ししたものを監査法人に提出していた。 (3) 売上原価・販管費計上の次期繰延 受取済みの請求書を意図的に決算に織り込まずに、次期に繰り延べるため、項目別・相手先別にエクセルで集計、管理していた。 3 関与者 調査委員会が認定した関与者は以下の5人である。 不適切な会計処理を始めたのは工場長と管理部副課長であり、管理部副課長が、会社計画と実績の差をどのような操作で埋めるかを計画し、工場長がこれを承認、他の関与者には、管理部副課長が伝達していた。 4 不適切な会計処理に至った背景と目的 ビールの業績は長期間にわたり低迷してきたが、平成23年10月期は、東日本大震災により大手メーカーの供給量が減少したことを受けて、黒字化した。翌期の業績は、震災以前の水準に戻ることが予想されたが、ハウスHDの意向を反映して、利益計画は小幅減の水準とされたことから、利益の過大計上を行うに至った。 また、ビール代表取締役は、業績低迷時に、「赤字が継続した場合はビール事業撤退の意思決定」がハウスHDにより下される可能性があると全従業員に伝達していたため、利益計画立案と決算の取りまとめを行うビール工場長には心理的な圧力が加わっていた。 当初、ビール工場長は、過大計上分を翌期に取り消す予定であったが、売上が増えず、さらに返品などのトラブルが発生し、前年計上分を取り消せないばかりか、過大計上額が年々増えていくこととなった。 5 発生原因 調査報告書には、発生原因として以下の6項目が挙げられている。 調査委員会は、ビールにおいては、営業部門に売上計画・利益計画の策定能力がなく、管理部門が利益計画の策定・業績責任を負っていたため、責任と権限が工場長に集中し、ビール代表取締役及び取締役営業部長による内部統制は機能しなかったことが、長期間にわたり不正が行われた原因であると分析している。 また、営業部門の内部統制が機能しなかったことについては、以下のような記述がある。 営業部門については、「顧客ごとの売上計画・実績管理」を行っていないこと、「出荷量を伸ばすことに専念」していたことが明らかになっているが、取締役営業部長プラス3名の営業部員が、売上の水増し計上に全く関与していない(関与できない)という社内体制が問題であったことは間違いないと言えよう。 6 再発防止に向けた改善策 調査委員会による改善策の提言は以下のとおり、8項目にわたっている。 注目されるのは、(7)合理的な根拠に基づく連結子会社の利益計画策定、である。 調査委員会は、連結子会社の利益計画が、親会社(ハウスHD)の要求水準に基づき策定され、計画数値が独り歩きすることが連結子会社役員及び従業員に過度な心理的負担を与えているという事実を認めた(上記5(4)とも関連する)。そのうえで、新設の「グループ管理部」が一連の予算設定プロセスを管理指導することによって現実的な計画を策定するとともに、「不合理な利益計画の押し付け」は「内部通報制度の対象となる旨、周知する」ことを提言している。 また、(8)では、内部統制の評価範囲を全連結子会社に拡大し、内部監査室の人員を現在の3名から1名増強して、連結子会社の内部統制の整備及び運用サポート等に充てるよう提言を行っている。 【調査報告書の特徴】 地ビールブームは、1994(平成6)年の酒税法改正という規制緩和によって、小規模事業者の市場参入が可能となったことに起因したものであることは周知の事実である。その中でも「銀河高原ビール」は、コンビニエンスストア等でも入手可能な、比較的知名度が高い銘柄であり、その生産拠点で行われていたのが、不適切な会計処理であった。 本件は、図らずも、地ビール生産業者の業績が芳しくないことを露呈したものとなった。 以下に、本調査報告書の特徴をいくつか検討したい。 1 発覚から公表までの期間が非常に短いこと 調査報告書17ページ以下の「発覚した経緯」によれば、監査法人からの問い合わせが2月25日、ヒアリングの結果、不適切な会計処理に加わっていた工場長以下が組織的な利益の過大計上を認めたのが3月5日、翌6日調査委員会設置が決議されたということである。 その後、約1ヶ月の調査期間を経て、結果の適時開示が4月13日であり、同日において、過年度損益の訂正まで発表するというのは、非常に短期間での調査、結果の公表であったということができよう。 2 内部統制の有効性の評価範囲 ハウスHDにおける連結売上高が約500億円、その中に占めるビール事業の売上高は約10億円であるから、「全社的な内部統制の有効性の評価範囲」に含めないという判断は、それだけでは不合理なものとは言えない。 とはいえ、近時の子会社による会計不正事件では、傍流の子会社、地理的に離れて存在する子会社による事件が頻発していることを鑑み、かつ、ハウスHDによる内部監査が「法定帳票などの保管整備状況の確認、諸会議体に係る議事録の確認、現金・重要物の管理状況の確認が中心」であったこと、経理部による査閲が、「外部証憑などの裏付資料を入手して報告の信頼性を確かめる実証的な手続は実施していない」こと(以上、調査報告書21ページ)を勘案すれば、全社的な内部統制の有効性について評価がなされていれば、工場長に対する権限の集中、営業部門による牽制機能の欠如など、会計不正の端緒を把握することが可能であったかもしれない。 3 手口は決して複雑なものではなかったこと 調査期間が非常に短時日で終わった背景には、不適切な会計処理を行っていた工場長以下従業員がそれを認めていたことに加え、不正の手口が非常に単純なものであったことが挙げられよう。 例えば、期末決算において、経理部が、売上計上の根拠となる外部証憑(倉庫に対する出荷指示書や顧客からの注文書・物品受領書)を徴求することを日常化していれば、こうした書類の偽造が疑われる事象が発覚し、より早期に不正が暴かれた可能性も否定できない。 上記2の内部統制の有効性の評価の範囲外にしたことと同様、ハウスHD管理部門におけるビールの重要性の過小評価が、不正発覚を遅らせた一因と言えよう。 4 「工場」という閉鎖環境で働く従業員に内部通報は可能か 組織図(調査報告書5ページ)によれば、ビール本社・醸造所の人員は、工場長以下従業員が16名、パート4名となっている。こうした小さな組織で、トップである工場長以下幹部社員が不正行為を働いていた場合に、果たして内部通報は有効に機能するのであろうか。この点、調査報告書は、「連結子会社従業員などによる内部通報が十分に行われていなかった」としか記述しておらず(調査報告書24ページ)、なぜビール従業員から内部通報がされなかったかについての原因分析はない。 調査委員会は、社外取締役である弁護士を外部通報窓口とし、トップメッセージによる内部通報制度の利用励行の発信などを通じて、通報しやすい制度運用を行うとともに、運用状況の評価・分析により定期的な制度の見直しを行うことを提言しているが、これで十分なのかどうか、疑問が残るところである。 ビール従業員は、「赤字が継続した場合は(親会社による)ビール事業撤退の意思決定」があるというビール代表取締役の言葉を聞いていた。自分たちの職場を守るためには、工場長以下の不正についても見て見ぬふりをし、あるいは指示に従うことが必要であるという心理が働いたのではないかと思料される。であれば、経営トップが発するメッセージは、「ビール事業からの撤退は考えていない」であり、「雇用は必ず守る」というものでなければならないのではないか。そのうえで、「ビール事業の採算性を上げていくためには、疑問に感じたことは通報してほしい」という形になるのではないだろうか。 (了)
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経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第117回】引当金の会計処理⑤「訴訟損失引当金」
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第117回】 引当金の会計処理⑤ 「訴訟損失引当金」 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:百万円) (X2年3月決算時) 事件の概要、相手方等及び損額賠償額等について、偶発債務として注記することが必要な場合がある(財務諸表等規則ガイドライン58-1)。 (X3年3月決算時) 〈会計処理の解説〉 我が国では、引当金について、企業会計原則注解18(以下「注解18」という)にその計上基準が示されています。企業会計基準委員会及び日本公認会計士協会から、個別の会計事象等について、会計基準や監査上の取扱い等が公表されていますが、引当金に関する包括的な会計基準は設定されていません。 そのため、会計事象について「注解18」に示されている引当金の計上基準を満たす場合には、引当金を計上する必要があると考えられます。 なお、発生の可能性の低い係争事件に係る賠償義務等の現実に発生していない債務については、引当金を計上することはできないとされています。 この場合は、偶発債務として当該事件の概要及び相手方等を示し、その金額を注記することが求められる場合があります。 ただし、重要性が乏しいものについては、注記を省略することができます(財務諸表等規則第58条、同ガイドライン 58-1)。 (1) 訴訟損失引当金の計上要件 会計上、「注解18」に示されている引当金の計上基準を訴訟損失引当金に当てはめると以下のような計上要件になると考えられます。 (2) X2年3月決算時の会計処理 裁判の判決が確定しておらず、和解も確定していないので、当然ながら当社は、未だ賠償金の支払いをしていません。また、訴訟は当社の製品Bの製造技術についてのものであり、当期以前の事象を対象としていると考えられます。 しかし、X2年3月決算時点では、当社は、敗訴し損失が発生する可能性は低いと判断していますので、引当金を計上することはできないと考えられます。 また、損害賠償金額が5,000百万円であるので、一般的に重要性が乏しいとは考えられません。よって、偶発債務として財務諸表に注記することが求められる場合があると考えられます。 (3) X3年3月決算時の会計処理 X3年3月期決算時点で、当社は第1審で敗訴したことを受けて、訴訟損失の発生する可能性が高いと考えています。また、判決の内容から訴訟損失額を合理的に見積もることができると考えられます。よって、訴訟損失引当金の計上が必要になると考えられます。 (了) ※7月はソフトウェア会計を取り上げます。
労務
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「確定拠出年金等改正法」の成立について
「確定拠出年金等改正法」の成立について 特定非営利活動法人確定拠出年金総合研究所(NPO DC総研) 理事長 秦 穣治 【はじめに】 厚生労働省は、公的年金制度の見直し等に合せて企業年金制度の改正を目指し、2013年10月に社会保障審議会企業年金部会を立ち上げ、計15回に及ぶ部会審議の後に、2015年4月に「確定拠出年金法等の一部を改正する法律案」を提出した。 しかしながら、以前に成立した同種の法案同様、今回も国会審議が捗らず継続審議扱いとなっていたが、今年5月24日に衆議院にて再可決成立し6月3日に公布された。日頃より気を揉んでいた多くの関係者は一様に安堵したわけだが、ここからいよいよ改正法の具体化の問題が発生する。 現段階では関連する政省令等は一切出ておらず、より詳細な具体化の方向は必ずしも充分に見えてこないが、取り敢えず、今言えることを手短に解説する。 1 確定拠出年金(DC)法案の概要 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 改正法は大きく下記の4つの分野に分かれており、公的年金の目減り部分を私的年金(企業年金及び自助努力)の強化により補てんしようとの方向感が明確に出ている。 詳細は、昨年本誌に寄稿した「確定拠出年金制度の改正をめぐる今後の展望(【第1回】~【第6回】)」を参照されたいが、本表のうち、具体的内容に関わらない留意点は以下の通り。 2 現時点で検討すべきこと DC導入企業及び導入予定企業が、今般の改正法に関連して、至急検討しておくべきポイントは次のとおりである。 3 今後について 現段階では不明な点が多く、多くの皆様が関心のある 拠出限度額の年管理とは具体的にどうすればよいのか 商品数の上限はいくつになるのか 継続教育はどうすれば法律違反にならないのか デフォルト商品(指定された運用方法)の設定は本当に必要なのか 運営管理機関の評価義務は具体的にはどうすればよいのか など、おそらく9月以降に具体的な姿が見えてくる項目が多々ある。したがって、それらがある程度明確になり次第、また、本誌上において解説する予定にしている。 (了) ↓お薦め連載記事↓
労働基準関係
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労務・法務・経営
「従業員の解雇」をめぐる企業実務とリスク対応 【第3回】「解雇紛争の手続」~解雇紛争はどのように争われるのか~
「従業員の解雇」をめぐる 企業実務とリスク対応 【第3回】 「解雇紛争の手続」 ~解雇紛争はどのように争われるのか~ 弁護士 鈴木 郁子 1 はじめに 前回説明したように、解雇の有効・無効をめぐっては、最終的には訴訟において①復職、②バックペイ及び遅延損害金の支払いの有無に帰着することになるが、実務的には、解雇に一旦踏み切ったとしても、それまでの間に、従業員と会社の間に何らかの金銭支払等の合意ができ、解決されるケースが大半である。一度こじれた会社・従業員間の関係が復職により修復することは事実上困難だからである(会社と従業員の解雇の問題はその意味で夫婦の離婚に似ている)。 どのタイミングで、どのような内容の合意をすればよいのか、それとも訴訟も辞さず判決を得た方がよいのかを判断するためには、解雇が一般にどのような手続・経過を経て訴訟による判決に至るのかについて、押さえておく必要がある。 2 交渉段階 (1) 解雇理由書の作成・交付と従業員の疑義の表明 会社が従業員を解雇するにあたっては、会社が解雇通知書等により、従業員に対し解雇の意思表示を行う。 これに対し、従業員が解雇に納得していない場合には、まず、会社に対し解雇理由書の交付を求めるのが通常であるので、会社は、解雇理由書(なお、解雇通知書と解雇理由書は兼ねることができる)を作成しこれを交付する(解雇理由書の作成方法、その他の解雇に必要な手続の説明は【第4回】を予定)。 従業員に解雇への疑義があれば、通常、解雇を争う旨の内容証明等が会社宛てに送られてくるのが一般的である。そして、従業員・会社間での交渉が始まる。 (2) 交渉 交渉では、双方もしくは片方に弁護士がつく場合とつかない場合がある。 従業員側の弁護士は、この時点では、会社の出方を探り、また会社の解雇理由に関する不用意な言動を期待して、従業員のバックで法律相談等の形で助言等は行っていても、表には出てこないことがある点、注意が必要である。 3 労働審判 (1) 労働審判とは 交渉で解決しなかった場合、従業員側は訴訟提起の前に、裁判所に労働審判を申し立てることが多い。 労働審判とは、原則として3回以内の期日(申立てから約3ヶ月程度以内)で、裁判所が事件を審理し、調停(和解)の成立による解決を試み、解決に至らない場合には裁判所(裁判官1名と労働者側・使用者側の委員各1名で構成される労働審判委員会)が審判(一定の判断)を行うという手続である。 これに応じず出席しない場合には、会社側は不利益な判断をされるため、会社側は事実上これに応じざるを得ない。 なお、労働審判においては、訴訟と同様、法を踏まえた主張を行うことが求められるため、弁護士に依頼せずにこれを進めていくことは事実上困難である。 (2) 労働審判の期日と準備について 第1回目の期日までの間に、会社は主張書面や証拠を提出する必要がある。第1回期日は申立てから約40日後に指定され、書面等の提出はその7日~10日前に指定される。 第1回目の期日では、通常、裁判所は、事前に提出された主張書面・証拠等を踏まえ、当事者双方に対し口頭で言い分・事実関係を質問し確認する。その後、評議(労働審判委員会内部での打ち合わせ)を経て、裁判所なりの事件に対する心証を形成し、その心証を元に、従業員・会社の双方に対し調停(和解)を試みる。 このように、裁判所は第1回目の期日で心証をほぼ固めるため、会社は、第1回目の期日までに、訴訟における最終準備書面に近い、すべての会社側の言い分を尽くし従業員側の反論を踏まえた書面(答弁書)や証拠を用意することが必要となる。 会社は1ヶ月程度でその準備を行わなければならないが、その準備のために費やさなければならない時間・作業量は極めて膨大であること(弁護士との数回の打ち合わせのほか相当の調査・作業量がある)は覚悟しておいてほしい。 (3) 調停(和解)・審判、解雇の場合の特殊な要素 前述のとおり、労働審判の期日は原則として3回であるが、第3回目の期日まで至らずに、第1回目や第2回目の期日で調停(和解)が成立することが多い。また、申し立てられたもののうち7割程度が審判に至らず、調停(和解)成立で終わるとのデータがある。 調停(和解)が成立しない場合には審判がなされるが、ここで解雇の場合には注意が必要な点がある。 それは、労働者側が復職を希望しない場合には、裁判所は、事案に照らし解雇の有効・無効を必ずしも判断せずその十分な理由を摘示することなしに、退職の確認と会社に対し一定の金員の支払いを命じる審判ができる、ということである(訴訟ではあくまで解雇の有効・無効を判断する)。 要するに、訴訟で解雇無効との判断がなされる可能性の高い案件でも、従業員が復職を希望しない場合には、裁判所が全体的解決の見地から、少額ではあっても会社に対し一定の金員の支払いを命じることがあるのである(だからこそ、従業員側は、復職を希望せず、解雇無効が微妙な事案については、訴訟ではなく労働審判を申し立てることが多い)。 なお、裁判所が支払いを命じる金員の額(給与の何ヶ月分が相当かという形で議論されることが多い)は、訴訟になった場合の解雇の有効・無効の見通し、解雇の違法性の程度、会社のこれまでの対応、会社が従業員に辞めてもらいたい気持ちの強さ、従業員が会社に復職したい気持ちの強さ、従業員の勤続期間、再就職の容易性、会社・従業員のそれぞれの経済状況、年齢等を総合考慮して判断されているものと思われる。 (4) 異議申立てと訴訟への移行 審判の結果、2週間以内に、当事者の少なくとも一方が異議を申し立てた場合には、訴訟に移行する。 4 仮処分 訴訟による判決を待っていたのでは、従業員の生活が脅かされる可能性がある場合には、従業員により、裁判所に対し賃金の仮払いを求める仮処分の申立てがなされることがある。 従業員が多額の預貯金等を持っており生活に困らないと思われる場合には、仮払いは認められない。 5 訴訟 (1) 訴訟での判断内容 訴訟では前述のように、判決までに和解が成立しない限り、原則として地位確認等請求事件として、裁判所により、解雇の有効・無効、すなわち、地位の確認(復職)・バックペイ及び遅延損害金が認められるか認められないかとの二者択一の判断がなされる。 なお、訴訟まで至ってしまった場合には、解雇から時間が経過し従業員が他社で就労していることも多いので、他社での就労の有無等を確認し、中間利益(中間収入)の主張をすることを忘れないようにしたい(詳細は【第2回】参照)。 (2) 訴訟手続 手続としては、約1ヶ月に1回の期日が開かれ、その都度、当事者双方が交替で主張書面や証拠を提出し、双方の主張が尽きたところで、証人尋問(通常、従業員本人と解雇理由に最も近い立場にある会社関係者)を行い、判決がなされる。 地裁判決(第一審)までは短くとも10ヶ月近くかかり(平均審理期間1年4ヶ月)、これに控訴を経ての高裁判決(第二審)までとなると、地裁への提起から2年程度かかると見込んでおく必要がある。 なお、判決まで至ってしまった場合には、事件名に会社名が付いた上で(「〇〇会社解雇事件」等)、判例誌などの公刊物に掲載されるという信用リスクがある点にも注意が必要である。 6 合意・和解について (1) 合意・和解の時期・内容について 訴訟の判決が確定に至るまで、いつでも、従業員側との話し合いにより、何らかの形で解雇紛争を決着させることは可能である。 しかしながら、合意・和解をするのであれば、できるなら交渉段階で行うことが望ましい。これまで説明したように、労働審判・訴訟の手続的・費用的コストは非常に大きく、この初動対応の如何によって(その対応の判断要素は【第2回】の記述を参照)、当該解雇紛争解決にかかるコストが大きく変わってしまうからである。 筆者も、労働審判や訴訟が申し立てられた後に、会社側から相談や代理人就任の依頼を受けることがあるが、交渉の初期段階から相談をしてくれていれば、ここに至る前にうまく解決できていたはずなのにと思うことも多い。それほど、この交渉段階での対応のあり方は重要であることを心に止めておいていただきたい。 訴訟の手続中においても、和解の話し合いは可能である。しかしながら、解雇無効判決が確実視される案件では、従業員側は、それまでのバックペイ分の支払いは当然の前提として、これに加え、これまでの手続に費やした弁護士費用分、退職と引き替えのプラスα分の支払いがなければ、和解に納得せずに、そのまま判決を求めることが多い。くれぐれも早期に和解することを考えたい。 (2) 合意・和解の条項について 合意・和解の条項については専門的な内容となるため、以下では要点のみ記載する。 ① 復職の合意・和解 復職を内容とする場合には、解雇の撤回、復職日の確認、復職までの賃金等の処理及び復職後の雇用条件等の再確認、その他解決金の支払いがある場合は、これを定めることが多い。 ② 退職の合意・和解 解雇の撤回と合意退職の確認、解決金の支払いがある場合は解決金の支払条項が設けられることが多い。 なお、退職日を解雇日ではなく和解日とすると、それまでの間の賃金(税金・社会保険も含む)の処理の問題が発生し、また、従業員が失業保険の仮給付を受けている場合にはこれを返還しなければならないため、実務上は、解雇日を退職日とする扱いが選択されることが多い。 また、失業保険給付の関係から、従業員自身が、解雇のままもしくは会社都合退職の形にしてほしいと希望することもある。 会社側の希望により守秘義務条項が設けられることもある。 (了)
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マイナンバーの会社実務Q&A 【第12回】「就業規則の改定⑤(「損害賠償」の条文の改定)」
マイナンバーの会社実務 Q&A 【第12回】 「就業規則の改定⑤(「損害賠償」の条文の改定)」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 〈Q〉 当社の「損害賠償」の条文の改定について教えてください。現在の条文は、以下の通りです。 〈A〉 会社が社員に損害賠償を請求することは可能である(民法715条)。マイナンバーが流出した場合の会社の損害として、番号法に規定されている罰則により課される罰金(最大200万円。【第7回】参照)、弁護士費用などが考えられる。 顧客の個人情報が流出した場合と異なり、マイナンバーは社内の人間の個人情報なので、謝罪広告の掲載費用やお詫び状の作成・発送費用、お詫びの品の購入・発送費用などは生じないと考えられる。 とはいえ、会社はマイナンバーを流出させた社員に損害賠償を請求することもありうるのだということを周知し、予防的効果を高めるために条文化しておく。 以上を前提に改定を行う(今回は1パターンのみ)。 〈パターン1〉 第2項に“社員がマイナンバーを他にもらしたり、不正アクセス行為などによりマイナンバーを取得したことにより会社に損害を与えた場合は、損害の一部または全部を賠償させることがある。”を追加した。 (了)
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〔誤解しやすい〕各種法人の法制度と税務・会計上の留意点 【第5回】「社会福祉法人(中編)」
〔誤解しやすい〕 各種法人の法制度と 税務・会計上の留意点 【第5回】 「社会福祉法人(中編)」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 公認会計士・税理士 濱田 康宏 ▷〔前編〕はこちら ▷ 税務・会計について 2 社会福祉法人固有の注意点を確認する (1) 会計 ① 社会福祉法人会計基準の改正の歴史と思想 社会福祉法人は、過去に何度か会計基準の変遷があった。かつては、収支計算だけで損益計算の思想がなかったことから、企業会計における損益計算書に相当する事業活動計算書が組み込まれた平成12年度が、一番大きな改正であろう。 そして、その後、会計処理基準の一本化と、当時既に公益法人会計基準等で導入されていた最新の企業会計手法である時価会計等の導入を目的として、社会福祉法人会計基準の大幅な改正が行われている。 既にこの社会福祉法人会計基準は、平成28年3月決算までに各法人で導入することとされているが、社会福祉法人全体の会計報告を目的とした基準であることが最大の特色といえるだろう。 ② 社会福祉法人会計基準の大きな特色 社会福祉法人会計基準は、基本的に、各法人の裁量の余地を極力減らしているというのが、大きな特色である。良く言えば、これに従えばよいといえるし、悪く言えば、各法人の個性を会計処理で反映する余地のないガチガチの基準だともいえる。 これは、社会福祉法人が、厚生労働省の監督あるいは各市町村などの監督を常に受けるべき存在であるということが、影響している。社会福祉法人の財源は、寄附金や補助金・助成金などが多く、その使途の適正性が常に問われることになるものばかりである。 さらに、税制上の優遇などもあるし、社会福祉法人しか開設できない施設もあるので、不正を招くインセンティブが高く、残念ながら、不正事例が各地で生じてきた歴史がある。 有名な事例で言えば、特養施設の建築資金のキックバックであり、近年、朝日新聞などで社会福祉法人の不正について報道の特集を組んでいたのは、記憶に新しいところだろう(社会福祉法人の私物化(2014年06月02日 朝刊)など)。加えて、本稿作成中にも、報道事例があった。 このような背景から、社会福祉法人会計基準は、監督官庁の都合を意識したものになっているといえる。そもそも、社会福祉法により、決算期が3月決算しか設定できないことも、この点を裏付けている。 また、もう1つ言えることは、社会福祉関係の費用削減のため、国としては、無駄遣いがないかを、全国的な施設を横断する形で比較したいとのニーズがある。そのためにも、標準化して国あるいは厚労省としてデータを採取しやすくすることが、当然に予定されているということである。 厚労省は、取扱いについて、通知やQ&Aなどで細かく指示を出しているので、実務では、これらを熟読することが避けられないと考えてよいだろう。 ③ 財務諸表体系における注意事項 社会福祉法人会計基準では、他の非営利法人と若干異なる、財務諸表体系における注意事項がある。 [注意1] 基本金と国庫補助金等特別積立金は純資産の部だが、繰入が特別損失 社会福祉法人の貸借対照表の純資産は、基本金・積立金・次期繰越活動増減差額からなる。 次期繰越活動増減差額は、企業会計でいう損益計算書に相当する事業活動計算書と繋がるので、理解は容易だろう。 しかし、純資産に位置づけられる基本金に組み入れるべき財産の寄贈を受けた場合、これを特別収益として受入れ処理した上で、基本金組入額を特別費用処理する(注解12)。純資産の次期繰越活動増減差額から、同じ純資産の基本金に移動させるのに、事業活動計算書を通すわけである。 ただ、これは企業会計における費用収益の基本概念、つまり、資産負債の増減変動原因が費用収益であるとの考え方とは矛盾する。厚労省の監督のしやすいようにしているとはいえ、財務諸表体系としては、違和感の残るものとなっている。 同様に、積立金のうち国庫補助金等特別積立金への積立てについても、同じ純資産項目でありながら、国庫補助金受入れ時に特別収益計上した上で、積立時に特別費用処理する(注解11)。 これらを敢えて位置づけるとすれば、基本金や国庫補助金等特別積立金については、純資産の部にありながらも、実は負債に準じてとらえられている可能性がある。この点を裏付けるのが、次の国庫補助金等特別積立金の取崩し処理である。 [注意2] 国庫補助金等特別積立金の毎期取崩し処理 国庫補助金等特別積立金については、取得した減価償却資産の減価償却費に対応する額だけを、毎期、取崩し処理して、減価償却費の控除項目とすることとされている(注解10)。 つまり、補助金で助成を受けた部分だけ、減価償却費が毎期圧縮される処理になるわけである。いわば、補助金は、預り金であり、それを毎期必要な分だけ助成額として振替して受けたのと同じという処理である。 国庫補助金等特別積立金を長期前受収益として位置づければ、これ自体は、理論的な処理と考えられる。ただし、前述のように、この科目は、負債ではなく、純資産の部に位置づけられていることに、違和感が残る。 [注意3] 資金収支計算書の資金定義 財務諸表としてのキャッシュフロー計算書と異なり、社会福祉法人の資金収支計算書の資金定義は、「流動資産-流動負債」となっている。これは、キャッシュフロー計算書の体系化前において、会計慣行として広まっていた資金収支計算書では流動資産-流動負債で定義されていたことによる。予算設定手段としても、実務で定着しているため、これを敢えて変更する必要はないとされたものであろう。 その代わり、資金収支計算書は、内部統制の管理手段と位置づけられ、財務諸表の体系外に置かれた。予算管理などのために作成はされるものの、外部への開示報告の対象とはされていないとの意味である。とはいえ、財務諸表との整合性、特に事業活動計算書との繋がりは実務上の要確認事項となっている。 なお、一定規模以上の法人は、収支計算書とは別途、制度としてのキャッシュフロー計算書の作成が義務付けられることになっている。 [注意4] 拠点区分・事業区分・サービス区分 社会福祉法人の会計では、法人全体の会計以外に、拠点区分・事業区分・サービス区分という3つの区分概念がある。 社会福祉法人は、社会福祉法で認められた事業(社会福祉事業・公益事業・収益事業)以外の事業を行うことができない。仮に収益事業に該当する場合であれば、所轄庁への相談が必要になる。例えば、太陽光発電を社会福祉法人が行うことができるかについては、下記参照されたい。 このように、3つの事業のどれに該当するのか、区別を求めるのが「事業区分」であり、いわば当然の区分である。 その上で、「拠点区分」は、物理的な事業所を中心とした概念であり、一体として運営される施設、事業所又は事務所を1つの拠点区分とする。その拠点区分に、社会福祉事業・公益事業・収益事業という各種の事業がぶら下がる格好になる。 ただし、例外が2つ設けられている。まず1つめの例外は、一体運営している小規模な公益事業については、わざわざ拠点区分を分けることなく、1つの拠点区分に含めてよいとされている点である(運用指針4)。いわゆるサテライト型の施設を開設しているような事例で、人員の配置など一体運営されていることを考えれば当然といえるが、収益事業は、この例外の対象となっていないので、少額でも、別の拠点区分として経理する必要がある。 2つめの例外は、保護施設・養護老人ホーム・特別養護老人ホームなど、指定された12の施設については、それぞれの施設ごとを独立した拠点区分とするとされている点である。仮に養護老人ホームを2つ設けるのであれば、それぞれが別々の拠点区分となる。 それぞれの施設を管理あるいは監督するとの視点で言えば、当然だが、会計の手間が大きいことに加えて、会計システムの対応の問題も視野に入れておく必要がある。 実務的には、共通費用の按分の問題もあるため、複数の拠点区分処理する際には、事前の方針検討が欠かせないといえる。 そして、上記の拠点区分・事業区分という社会福祉法に基づく管理とは別の法令の要請により、「サービス区分」の概念が求められる。介護保険サービスと障害福祉サービス等について、その他のサービスと区分した会計処理が必要になるからである。 ただ、実際には、介護保険サービスの中で、さらに事業を区分するので、かつての指導指針ではセグメントと表現されていた。具体的には、特養や通所介護などの事業区分である。 【事業区分・拠点区分・サービス区分の例示】 介護保険サービス・障害福祉サービスでは、拠点区分事業活動明細書の作成が求められ、保育所運営費、措置費事業による事業実施拠点では、拠点分別資金収支表の作成が求められる。 これらの処理以外でも、社会福祉法人は、独特の処理内容が多くあるため、先述のように厚生労働省の通知を確認されることをお勧めしたい。 なお、このたび、平成28年3月31日付けで「社会福祉法人会計基準」(平成28年厚生労働省令第79号)が制定され、新たに「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の留意事項について」(平成28年3月31日厚生労働省課長連名通知)が発出された。さらに、「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の留意事項について」(平成28年3月31日厚生労働省課長連名通知)も出されている。 * * * 次回は税務における注意点を解説する。 (了)
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被災したクライアント企業への実務支援のポイント〔経営面のアドバイス〕 【第1回】「復旧予定時期の設定」
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔経営面のアドバイス〕 【第1回】 「復旧予定時期の設定」 公認会計士・税理士 中谷 敏久 1 最優先でなすべきは復旧予定時期の設定 災害直後のパニックの中で非常に難しいかもしれないが、経営者として最優先でなすべきことは、「復旧予定時期の設定」である。 復旧予定時期が3ヶ月後であるならば当然3ヶ月分の固定費を賄うだけの運転資金が必要となるであろうし、顧客に対する商品サービスの提供も3ヶ月間止まることになる。運転資金が確保され、また顧客も3ヶ月間の供給停止を了承するのであれば問題ないが、そうでない場合は会社の存亡を左右することとなる。 復旧予定時期の設定がいい加減であったがために、結果的に従業員への給料が支払えなくなった、あるいは顧客の商品サービスの提供時期が延期されたということになれば、従業員が退職しあるいは得意先との取引が中止になるかもしれない。 復興復旧のための融資制度を利用し事務所工場を再建したものの従業員を確保できず、また顧客からの受注が戻らないまま多額の借金だけが残ったということになれば、目も当てられないのである。 2 正確な復旧予定時期を設定するための情報収集 では、正確な復旧予定時期を設定するために必要な情報とはいったい何か。 欠くことのできないのは である。 これらの状況把握を正確にできるか否かが、以後の復旧時期の設定に大きく影響する。 各項目のポイントは以下の通り。 3 経営者としての事業継続の意思を示す これらの状況を正確に把握し、復旧の制約要因となるものを特定することによって、目標とする復旧予定時期を設定する。そして、復旧予定時期を得意先や従業員に伝えることによって、経営者としての事業継続の意思を明確にしなければならない。 ただし、復旧予定時期があまりにも先になることが見込まれる場合、あるいは復旧の目途が立たない場合には、取引先との契約を一旦解消し、従業員を解雇することが経営者として正しい判断になることもあり得ることを認識しておく必要がある(この点については【第3回】で紹介する)。 (了)
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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第42回】「法人税法にいう『法人』概念(その6)」~株主集合体説について考える~
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第42回】 「法人税法にいう『法人』概念(その6)」 ~株主集合体説について考える~ 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 6 民法上の「法人」概念と租税法上の「法人」 (1) 第二のアプローチによる検討 ここまで、法人該当性を検討するに当たっては、2つのアプローチが考えられることを示した上で、LLC事件、ガーンジー島事件を素材に議論を進めてきた。すなわち、 の2つのアプローチである。 上記の検討からすれば、第二のアプローチを採用することには一定の説得性があることが判然とする。 したがって、LPS事件最高裁平成27年7月17日第二小法廷判決が第二のアプローチを採用したことは妥当といえよう。 しかしながら、ここで改めて、租税法上の「法人」概念について再確認しておく必要があるのではなかろうか。なぜなら、第二のアプローチは、概念を単なる記号としてみるのではなく、その実質的内容にまで踏み込んで解釈論を展開する構成であるため、我が国租税法が採用する「法人」概念の実質的意味内容が明らかにならない以上、かかるアプローチを展開することはできないと言わざるを得ないからである。 (2) 民法上の法人概念 我が国の租税法がいかなる法人観を有しているかという点については、すでにこの連載の【第37回】において述べたところであるが、通説はいわゆる株主集合体説という考え方に立つ。 他方で、民法の学説上は法人を法律による組織体とみる組織体説が通説であると思われる。すなわち、この立場は、法人実在説的な考え方であり、我が国の租税法が支持する法人擬制説的な立場とはその考え方を異にする。 このように、「法人」概念の実質にまで踏み込んで考えた場合に、果たして民法の概念を借用しているからといって、同義に理解することが妥当なのであろうか。再説になるが、第一のアプローチを採用しているのであれば、それは可能であるとしても、第二のアプローチを採用するとした場合、そこには理論上の障壁が立ちはだかっているのではなかろうか。 結びに代えて―米国の「法人」概念と我が国租税法上の「法人」概念 我が国租税法上の「法人」概念は、株主集合体説により捉えており、所得税法92条の配当控除において法人税と所得税の二重課税を排除し、法人税法23条において、原則として、受取配当益金不算入制度を採用することによって、法人の利益配当における多重課税の問題を克服している(【第37回】参照)。 この考え方の背後には、法人税を所得税の前払いと位置付け、所得税法92条の二重課税の計算はドイツ租税法などにおけるいわゆるインピュテーション方式に合致するような計算が理論的には採用されているということを確認した。これは、法人を法人実在説により捉える米国租税法の考え方とは大きく異なるものである。 仮に、米国租税法における「法人」概念に従って、民法上の「外国法人」を理解し、民法上のその法人概念を租税法上の「外国法人」概念と理解するのであれば、第二のアプローチを採用した場合にさらなる問題が惹起されることになる。 第二のアプローチを採用するとしても、米国の「法人」概念の理解に従って、我が国租税法上の「法人」概念を考えることには十分に慎重でなければならないのはいうまでもない。 ましてや、米国における「法人」概念の理解に従うとした場合に、米国における「租税法上の法人」概念を検討の要素にすることは妥当ではないであろう。 なぜならば、我が国租税法上の概念を検討するに当たって、借用概念論の統一説を接着剤として我が国私法上の概念理解を参照することは理論的に説明がつくとしても、我が国私法上の概念を理解するために、米国租税法上の概念を根拠にあるいは参照して議論することは理論的に破たんしているといわざるを得ないからである。 したがって、米国における「租税法上の法人」概念は、議論の俎上にのせるべきではないであろう。 そもそも、我が国民法上の「外国法人」を検討するに当たっては、米国私法上の法人概念を念頭におかなければならないことはいうまでもない。なぜなら、民法上の「外国法人」概念を考えるに当たって、外国の私法上の「法人」概念を念頭におくのは当然であるからである。 そこで、改めて問題として残されているのは、上図にいうところの②の部分であるということが分かる。 この点は、LPS事件最高裁判決においても残された課題であるというべきであろう。 もっとも、上記最高裁は、このような観点ではなく、直接、米国におけるLPSが権利義務の主体となり得るかどうかという観点で論じており、米国私法上の法人該当性の議論(上図②の問題)に触れることはしていない。 本連載の【第39回】においてみたように、最高裁は、当該LPSが「法人該当性の実質的根拠」となる「権利義務の帰属主体」とされているか否かについて、州LPS法を根拠に議論を展開している。 このような点から、最高裁は、次のように説示した。 このように、②の問題に触れずに解決の道筋をつけた判断であったとみることもできるのである。 (了)
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延滞税の除算期間に係る計算期間の特例の見直しについて~最高裁判決を受けた平成28年度税制改正事項~
延滞税の除算期間に係る計算期間の特例の見直しについて ~最高裁判決を受けた平成28年度税制改正事項~ 税理士 佐藤 善恵 はじめに 延滞税は、法定納期限までに国税が完納されなかったときに、未納額及び遅延期間に応じて課されるものであるが(通法60)、長期間に遡って更正処分がされた場合等は、延滞税の計算期間から一定期間を除くこととされている(通法61)。 これが、いわゆる「除算期間」(計算期間の特例)である。 この除算期間は、税務調査による更正・決定等の時期が税務官庁の事務都合で左右されることから、それによる各納税者の延滞税の負担の違いを救済するといった趣旨によるものである。 平成28年度税制改正では、この除算期間について新たな条項が追加され見直しが行われることとなった(通法61②)。 なお、この改正は、最高裁平成26年12月12日判決が契機となったものであり、平成29年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税について適用される。 本稿ではこの改正内容について解説を行う。 1 従前からの計算期間の特例 修正申告書の提出又は更正があった場合、偽りその他不正の行為に係る部分等を除き、次の期間が延滞税の計算期間から除かれる(通法61①)。したがって、重加算税が課された場合等は、この特例の適用はない(参考:昭和51年6月10日徴管2-35外「延滞税の計算期間の特例規定の取扱いについて」)。 2 平成28年度税制改正により新設された計算期間の特例 期限内申告書又は期限後申告書が提出された後(当初申告後)に減額更正があり、さらに、その後に増額更正や修正申告書の提出があったとき、除算期間と、その適用を受ける金額に関する規定が新設された。 〈イメージ図〉 (1) 延滞税を課さない期間について ① 減額更正が「職権」による場合 当初申告に係る税額の納付日(法定納期限前のときは法定納期限)の翌日から減額更正の日までの期間(通法61②一)と、減額更正の日から増額更正等の日までの期間(通法61②二)。 ② 減額更正が「更正の請求」による場合 上記①の★の期間について、その起算点が減額更正の翌日から1年を経過する日となる(通法61②二括弧書)。つまり、除算期間が上記①よりも1年短くなる。 (2) 新設された特例の適用を受ける(延滞税を課さない)部分 新設された特例の適用を受ける部分の金額については、国税通則法施行令第26条に規定された(通令26④)。 例えば下図のように、当初申告に係る税額150、その後、減額更正により70の税額が減額され(減額後80)、さらに140の増額更正がされた場合(増額後220)、(a)更正等により納付すべき税額(140)と、(b)当初申告に係る税額(150)から減額更正後の税額(80)を控除した金額(70)を比べて、少ない方の金額(70)は、延滞税が課されないこととなる。 (了)
