Profession Journal » 税務・会計 » 会計 » 解説 » 監査 » 財務諸表監査 » 〔会計不正調査報告書を読む〕 【第46回】株式会社日本ハウスホールディングス「調査委員会報告書(平成28年4月13日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第46回】株式会社日本ハウスホールディングス「調査委員会報告書(平成28年4月13日付)」

筆者:米澤 勝

文字サイズ

〔会計不正調査報告書を読む〕

【第46回】

株式会社日本ハウスホールディングス

「調査委員会報告書(平成28年4月13日付)」

 

税理士・公認不正検査士(CFE)
米澤 勝

 

【調査委員会の概要】

〔適時開示〕

〔第三者委員会〕

【委員長】

名取 弘文(常務取締役)

【委 員】

柴谷 晃(社外取締役、弁護士)

千谷 英造(社外監査役、公認会計士)

白田 則和

当社経理部門、業務システム部門、内部監査部門など専門的な知識と調査技術を有する人員8名が調査を補助

〔調査期間〕

2016(平成28)年3月6日から2016(平成28)年4月13日まで

〔調査の目的〕

(1) 連結子会社である株式会社銀河高原ビールの不適切な会計処理に関する事実関係の究明

(2) 他の子会社において同様の問題が生じていないかどうかの確認

(3) 内部管理体制の実態確認

(4) 再発防止策の立案

〔適時開示(調査結果)〕

 

【株式会社日本ハウスホールディングスの概要】

株式会社日本ハウスホールディングス(旧社名:東日本ハウス株式会社。以下「ハウスHD」と略称する)は、昭和44年設立。住宅の請負建築事業を中核に、ホテル事業、ビール事業、太陽光発電事業を行っている。連結売上高50,165百万円、経常利益3,282百万円。従業員数1,473名(数字はいずれも平成27年10月期)。本店所在地は岩手県盛岡市であるが、本社機能は東京都千代田区にある。東京証券取引所一部上場。

不適切な会計処理が発覚した株式会社銀河高原ビール(以下「ビール」と略称する)は平成6年11月設立の東日本沢内総合開発株式会社がその前身であり、平成22年2月に現社名に変更、平成23年12月、ハウスHDの完全子会社となっている。ビール単体の売上高は1,057百万円、経常利益64百万円、従業員数は19名(平成27年10月期)。

ハウスHDは、平成6年から地ビール製造に参入してきたが、ビール業界における競争激化などを理由に新設した4か所の工場のうち3か所を操業停止して、その経営母体を清算してきた。

 

【調査委員会報告書の概要】

1 不適切な会計処理が発覚した経緯

平成28年2月25日、平成28年10月期第1四半期レビューにおいて、ハウスHDの会計監査人である優成監査法人から、ビールについて「第1四半期の売上高と比較して、第1四半期末の売掛金残高が大きすぎる。滞留債権があるのではないか」との指摘があり、ハウスHDの連結決算担当者が、ビール管理部副課長(以下「ビール副課長」と略称する)に問い合わせた。

3月2日になって、監査法人がビール副課長より入手した売掛金明細の合計額に不一致があることを発見し、資料に改ざんの疑いがあることを経理部長・常勤監査役に報告した。これを受けて、常勤監査役は、経理・財務の責任者であるビール工場長に調査を指示した。

ビール工場長は、当初、ビール管理部主任(以下「ビール主任」と略称する)が、個人的な売上高の集計ミスを隠蔽するために行ったと説明したが、常勤監査役・経理部長・監査法人で現地に赴いて調査を行った結果、3月5日、組織的な利益の過大計上であったことが判明し、翌6日、臨時取締役会を開催して、調査委員会が発足した。

 

2 不適切な会計処理の概要

ビールにおける不適切な会計処理は大きく4つに分類され、それぞれが損益に与えた影響額は以下の表のとおりである。
(単位:百万円)  	H24.10期	H25.10期	H26.10期	H27.10期	合 計 売上過大計上	△004	△031	△039	△039	△114 棚卸資産過大計上	 	△008	△015	△028	△051 売上原価繰延	△005	△008	△002	△017	△034 販管費繰延	△013	0	△002	0	△015 利益影響額	△023	△047	△060	△084	△216

(1) 売上・売掛金の過大計上

販売管理システムから出力したエクセルデータには、現在取引のない得意先名も表示されていたため、ここに実在しない売上を記入して、架空の売上計上を行っていた。監査法人による往査に際しては、売掛金明細表上の「当月発生額」と「当月回収額」に任意の数字を書き込み、滞留債権ではないように偽装するとともに、合計金額を直接入力することにより、請求一覧表などの数値と合致させていた。また、売掛金残高確認の対象となることを避けるため、多数の得意先に分散して、架空売上を計上していた。

(2) 棚卸資産の過大計上

棚卸資産管理はエクセルで行っていたため、エクセル上の在庫数量及び単価を操作することによって、在庫の過大計上を行っていた。監査法人の実地棚卸では、実際は空のタンクにビールが貯蔵されているように見せかけるためメータの細工を行ったこともあり、また、倉庫業者の在庫証明は、偽造して数量を水増ししたものを監査法人に提出していた。

(3) 売上原価・販管費計上の次期繰延

受取済みの請求書を意図的に決算に織り込まずに、次期に繰り延べるため、項目別・相手先別にエクセルで集計、管理していた。

 

3 関与者

調査委員会が認定した関与者は以下の5人である。

  • 工場長
  • 管理部副課長
  • 管理部主任
  • 物流IT課副課長
  • 醸造品質課副課長

不適切な会計処理を始めたのは工場長と管理部副課長であり、管理部副課長が、会社計画と実績の差をどのような操作で埋めるかを計画し、工場長がこれを承認、他の関与者には、管理部副課長が伝達していた。

 

4 不適切な会計処理に至った背景と目的

ビールの業績は長期間にわたり低迷してきたが、平成23年10月期は、東日本大震災により大手メーカーの供給量が減少したことを受けて、黒字化した。翌期の業績は、震災以前の水準に戻ることが予想されたが、ハウスHDの意向を反映して、利益計画は小幅減の水準とされたことから、利益の過大計上を行うに至った。

また、ビール代表取締役は、業績低迷時に、「赤字が継続した場合はビール事業撤退の意思決定」がハウスHDにより下される可能性があると全従業員に伝達していたため、利益計画立案と決算の取りまとめを行うビール工場長には心理的な圧力が加わっていた。

当初、ビール工場長は、過大計上分を翌期に取り消す予定であったが、売上が増えず、さらに返品などのトラブルが発生し、前年計上分を取り消せないばかりか、過大計上額が年々増えていくこととなった。

 

5 発生原因

調査報告書には、発生原因として以下の6項目が挙げられている。

(1) 不適切な会計処理を許す企業風土

(2) 経営者及び取締役会ならびに監査役による不十分な監視監督

(3) 権限と責任の集中と内部牽制、内部統制の欠如

(4) 利益計画達成のプレッシャー

(5) 内部統制の整備・運用状況と内部監査

(6) エクセルによる決算資料の作成

調査委員会は、ビールにおいては、営業部門に売上計画・利益計画の策定能力がなく、管理部門が利益計画の策定・業績責任を負っていたため、責任と権限が工場長に集中し、ビール代表取締役及び取締役営業部長による内部統制は機能しなかったことが、長期間にわたり不正が行われた原因であると分析している。

また、営業部門の内部統制が機能しなかったことについては、以下のような記述がある。

顧客と直接関わっている営業部門が売掛金明細を査閲する内部統制がビールに存在すれば、現在取引のない得意先に多額の売掛金残高が存在することに気付いた可能性が高い。

営業部門については、「顧客ごとの売上計画・実績管理」を行っていないこと、「出荷量を伸ばすことに専念」していたことが明らかになっているが、取締役営業部長プラス3名の営業部員が、売上の水増し計上に全く関与していない(関与できない)という社内体制が問題であったことは間違いないと言えよう。

 

6 再発防止に向けた改善策

調査委員会による改善策の提言は以下のとおり、8項目にわたっている。

(1) ビールの管理体制見直しと内部牽制及び内部統制の導入

(2) ビールの取締役会及び監査役の機能強化

(3) 当社「グループ企業管理部」の設置

(4) 子会社役員・従業員のコンプライアンス意識の向上

(5) 連結子会社における内部通報制度の強化

(6) 連結子会社の財務報告に関する当社の監視監督機能の強化

(7) 合理的な根拠に基づく連結子会社の利益計画策定

(8) 当社による内部統制の評価範囲の拡大及び内部監査機能の強化

注目されるのは、(7)合理的な根拠に基づく連結子会社の利益計画策定、である。

調査委員会は、連結子会社の利益計画が、親会社(ハウスHD)の要求水準に基づき策定され、計画数値が独り歩きすることが連結子会社役員及び従業員に過度な心理的負担を与えているという事実を認めた(上記(4)とも関連する)。そのうえで、新設の「グループ管理部」が一連の予算設定プロセスを管理指導することによって現実的な計画を策定するとともに、「不合理な利益計画の押し付け」は「内部通報制度の対象となる旨、周知する」ことを提言している。

また、(8)では、内部統制の評価範囲を全連結子会社に拡大し、内部監査室の人員を現在の3名から1名増強して、連結子会社の内部統制の整備及び運用サポート等に充てるよう提言を行っている。

 

【調査報告書の特徴】

地ビールブームは、1994(平成6)年の酒税法改正という規制緩和によって、小規模事業者の市場参入が可能となったことに起因したものであることは周知の事実である。その中でも「銀河高原ビール」は、コンビニエンスストア等でも入手可能な、比較的知名度が高い銘柄であり、その生産拠点で行われていたのが、不適切な会計処理であった。

本件は、図らずも、地ビール生産業者の業績が芳しくないことを露呈したものとなった。

以下に、本調査報告書の特徴をいくつか検討したい。

 

1 発覚から公表までの期間が非常に短いこと

調査報告書17ページ以下の「発覚した経緯」によれば、監査法人からの問い合わせが2月25日、ヒアリングの結果、不適切な会計処理に加わっていた工場長以下が組織的な利益の過大計上を認めたのが3月5日、翌6日調査委員会設置が決議されたということである。

その後、約1ヶ月の調査期間を経て、結果の適時開示が4月13日であり、同日において、過年度損益の訂正まで発表するというのは、非常に短期間での調査、結果の公表であったということができよう。

 

2 内部統制の有効性の評価範囲

ハウスHDにおける連結売上高が約500億円、その中に占めるビール事業の売上高は約10億円であるから、「全社的な内部統制の有効性の評価範囲」に含めないという判断は、それだけでは不合理なものとは言えない。

とはいえ、近時の子会社による会計不正事件では、傍流の子会社、地理的に離れて存在する子会社による事件が頻発していることを鑑み、かつ、ハウスHDによる内部監査が「法定帳票などの保管整備状況の確認、諸会議体に係る議事録の確認、現金・重要物の管理状況の確認が中心」であったこと、経理部による査閲が、「外部証憑などの裏付資料を入手して報告の信頼性を確かめる実証的な手続は実施していない」こと(以上、調査報告書21ページ)を勘案すれば、全社的な内部統制の有効性について評価がなされていれば、工場長に対する権限の集中、営業部門による牽制機能の欠如など、会計不正の端緒を把握することが可能であったかもしれない。

 

3 手口は決して複雑なものではなかったこと

調査期間が非常に短時日で終わった背景には、不適切な会計処理を行っていた工場長以下従業員がそれを認めていたことに加え、不正の手口が非常に単純なものであったことが挙げられよう。

例えば、期末決算において、経理部が、売上計上の根拠となる外部証憑(倉庫に対する出荷指示書や顧客からの注文書・物品受領書)を徴求することを日常化していれば、こうした書類の偽造が疑われる事象が発覚し、より早期に不正が暴かれた可能性も否定できない。

上記の内部統制の有効性の評価の範囲外にしたことと同様、ハウスHD管理部門におけるビールの重要性の過小評価が、不正発覚を遅らせた一因と言えよう。

 

4 「工場」という閉鎖環境で働く従業員に内部通報は可能か

組織図(調査報告書5ページ)によれば、ビール本社・醸造所の人員は、工場長以下従業員が16名、パート4名となっている。こうした小さな組織で、トップである工場長以下幹部社員が不正行為を働いていた場合に、果たして内部通報は有効に機能するのであろうか。この点、調査報告書は、「連結子会社従業員などによる内部通報が十分に行われていなかった」としか記述しておらず(調査報告書24ページ)、なぜビール従業員から内部通報がされなかったかについての原因分析はない。

調査委員会は、社外取締役である弁護士を外部通報窓口とし、トップメッセージによる内部通報制度の利用励行の発信などを通じて、通報しやすい制度運用を行うとともに、運用状況の評価・分析により定期的な制度の見直しを行うことを提言しているが、これで十分なのかどうか、疑問が残るところである。

ビール従業員は、「赤字が継続した場合は(親会社による)ビール事業撤退の意思決定」があるというビール代表取締役の言葉を聞いていた。自分たちの職場を守るためには、工場長以下の不正についても見て見ぬふりをし、あるいは指示に従うことが必要であるという心理が働いたのではないかと思料される。であれば、経営トップが発するメッセージは、「ビール事業からの撤退は考えていない」であり、「雇用は必ず守る」というものでなければならないのではないか。そのうえで、「ビール事業の採算性を上げていくためには、疑問に感じたことは通報してほしい」という形になるのではないだろうか。

(了)

「会計不正調査報告書を読む」は、不定期の掲載となります。

連載目次

会計不正調査報告書を読む

第1回~第50回 ※クリックするとご覧いただけます。

第51回~

このエントリーをはてなブックマークに追加

筆者紹介

  • 米澤 勝

    (よねざわ・まさる)

    税理士・公認不正検査士(CFE)

    1997年12月 税理士試験合格
    1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
    1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
    2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
    2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

    【著書】

    ・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

    ・『架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2011)

    ・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

    【寄稿】

    ・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

    ・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

    【セミナー・講演等】

    一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
    「会計不正の早期発見
    ――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

    公益財団法人日本監査役協会主催
    情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

    株式会社プロフェッションネットワーク主催
    「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

関連書籍

Profession Journal » 税務・会計 » 会計 » 解説 » 監査 » 財務諸表監査 » 〔会計不正調査報告書を読む〕 【第46回】株式会社日本ハウスホールディングス「調査委員会報告書(平成28年4月13日付)」

Copyright ©2012- Profession Network Co.,Ltd. All Rights Reserved.

Scroll to top
Go to home