公開日: 2016/06/09 (掲載号:No.172)
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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第42回】「法人税法にいう『法人』概念(その6)」~株主集合体説について考える~

筆者: 酒井 克彦

酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第42回】

「法人税法にいう『法人』概念(その6)」

~株主集合体説について考える~

 

中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦

(その1)はこちら

はじめに

1 個人株主と法人との間の配当二重課税排除

(1) 支払配当控除方式

(2) グロスアップ方式(法人段階源泉課税方式、インピュテーション方式)

(その2)はこちら

2 配当控除(所法92)と受取配当益金不算入(法法23)

3 LPS事件

(1) 事案の概要

(その3)はこちら

(2) 判決の要旨

4 LPS事件の検討

(1) 参考となる最高裁判決

(その4)はこちら

(2) 法人該当性と私法準拠

(3) 第一のアプローチ

(4) 第二のアプローチ

(その5)はこちら

5 形式的な借用概念論の限界

(1) 統一説を前提とした解釈論

(2) 外国における概念と我が国における概念

(3) ガーンジー島事件

6 民法上の「法人」概念と租税法上の「法人」

(1) 第二のアプローチによる検討

ここまで、法人該当性を検討するに当たっては、2つのアプローチが考えられることを示した上で、LLC事件、ガーンジー島事件を素材に議論を進めてきた。すなわち、

 第一のアプローチ

租税法上の「法人」について、概念論の見地から、私法上の「法人」概念の理解を参考にして検討する方法(「法人」概念の検討)

 第二のアプローチ

租税法上の「法人」について、性質論の見地から、私法上の「法人」の性質と比較した上で検討する方法(「法人」性質論の検討)

の2つのアプローチである。

上記の検討からすれば、第二のアプローチを採用することには一定の説得性があることが判然とする。

したがって、LPS事件最高裁平成27年7月17日第二小法廷判決が第二のアプローチを採用したことは妥当といえよう。

しかしながら、ここで改めて、租税法上の「法人」概念について再確認しておく必要があるのではなかろうか。なぜなら、第二のアプローチは、概念を単なる記号としてみるのではなく、その実質的内容にまで踏み込んで解釈論を展開する構成であるため、我が国租税法が採用する「法人」概念の実質的意味内容が明らかにならない以上、かかるアプローチを展開することはできないと言わざるを得ないからである。

(2) 民法上の法人概念

我が国の租税法がいかなる法人観を有しているかという点については、すでにこの連載の【第37回】において述べたところであるが、通説はいわゆる株主集合体説という考え方に立つ。

他方で、民法の学説上は法人を法律による組織体とみる組織体説が通説であると思われる。すなわち、この立場は、法人実在説的な考え方であり、我が国の租税法が支持する法人擬制説的な立場とはその考え方を異にする。

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〈深読み◆租税法〉

【第42回】

「法人税法にいう『法人』概念(その6)」

~株主集合体説について考える~

 

中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦

(その1)はこちら

はじめに

1 個人株主と法人との間の配当二重課税排除

(1) 支払配当控除方式

(2) グロスアップ方式(法人段階源泉課税方式、インピュテーション方式)

(その2)はこちら

2 配当控除(所法92)と受取配当益金不算入(法法23)

3 LPS事件

(1) 事案の概要

(その3)はこちら

(2) 判決の要旨

4 LPS事件の検討

(1) 参考となる最高裁判決

(その4)はこちら

(2) 法人該当性と私法準拠

(3) 第一のアプローチ

(4) 第二のアプローチ

(その5)はこちら

5 形式的な借用概念論の限界

(1) 統一説を前提とした解釈論

(2) 外国における概念と我が国における概念

(3) ガーンジー島事件

6 民法上の「法人」概念と租税法上の「法人」

(1) 第二のアプローチによる検討

ここまで、法人該当性を検討するに当たっては、2つのアプローチが考えられることを示した上で、LLC事件、ガーンジー島事件を素材に議論を進めてきた。すなわち、

 第一のアプローチ

租税法上の「法人」について、概念論の見地から、私法上の「法人」概念の理解を参考にして検討する方法(「法人」概念の検討)

 第二のアプローチ

租税法上の「法人」について、性質論の見地から、私法上の「法人」の性質と比較した上で検討する方法(「法人」性質論の検討)

の2つのアプローチである。

上記の検討からすれば、第二のアプローチを採用することには一定の説得性があることが判然とする。

したがって、LPS事件最高裁平成27年7月17日第二小法廷判決が第二のアプローチを採用したことは妥当といえよう。

しかしながら、ここで改めて、租税法上の「法人」概念について再確認しておく必要があるのではなかろうか。なぜなら、第二のアプローチは、概念を単なる記号としてみるのではなく、その実質的内容にまで踏み込んで解釈論を展開する構成であるため、我が国租税法が採用する「法人」概念の実質的意味内容が明らかにならない以上、かかるアプローチを展開することはできないと言わざるを得ないからである。

(2) 民法上の法人概念

我が国の租税法がいかなる法人観を有しているかという点については、すでにこの連載の【第37回】において述べたところであるが、通説はいわゆる株主集合体説という考え方に立つ。

他方で、民法の学説上は法人を法律による組織体とみる組織体説が通説であると思われる。すなわち、この立場は、法人実在説的な考え方であり、我が国の租税法が支持する法人擬制説的な立場とはその考え方を異にする。

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連載目次

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉

◆最新テーマ

▷消費税法上の実質行為者課税の原則

◆これまでに取り上げたテーマ

(※) タイトルをクリックするとご覧いただけます。

筆者紹介

酒井 克彦

(さかい・かつひこ)

法学博士(中央大学)。
国税庁等での勤務を経て、現在、中央大学法科大学院教授として、法科大学院のほか税務大学校等でも教鞭をとる。
一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。

一般社団法人ファルクラム https://fulcrumtax.net/
一般社団法人アコード租税総合研究所 http://accordtax.net/

【著書】
「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈―判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』(2015年、清文社)
「相当性」をめぐる認定判断と税務解釈―借地権課税における「相当の地代」を主たる論点として』(2013年、清文社)
『スタートアップ租税法〔第4版〕』(2021年)、『クローズアップ保険税務』(2016年)その他5冊のアップシリーズ(財経詳報社)
『裁判例からみる所得税法〔二訂版〕』(2021年)、『裁判例からみる法人税法〔三訂版〕』(2019年)、『裁判例からみる税務調査』(2020年)、『裁判例からみる保険税務』(2021年、大蔵財務協会)
『レクチャー租税法解釈入門』(2015年、弘文堂)
『プログレッシブ税務会計論Ⅰ〔第2版〕、Ⅱ〔第2版〕、Ⅲ、Ⅳ』(Ⅰ、Ⅱ 2018年、Ⅲ 2019年、Ⅳ 2020年、中央経済社)
『アクセス税務通達の読み方』(2016年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -法人税裁判事例精選20』(2017年)、『同 -所得税裁判事例精選20』(2018年)、『同-相続税裁判事例精選20』(2019年、第一法規)
『30年分申告・31年度改正対応 キャッチアップ仮想通貨の最新税務』(2019年)、その他5冊のキャッチアップシリーズ(ぎょうせい)
その他書籍・論文多数

 

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