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経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第33回】税効果会計②「税効果会計の方法」─資産負債法と繰延法について

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第33回】 税効果会計② 「税効果会計の方法」 ─資産負債法と繰延法について   仰星監査法人 公認会計士 菅野 進   〈事例による解説〉 〈会計処理〉 X1年3月31日(決算日) (*1) 棚卸資産評価損30×40%=12 (*2) (投資有価証券の時価150-簿価100)×40%=20 〈会計処理の解説〉 前回の解説では、企業会計と税務の相違は会計上の収益又は費用と税務上の益金又は損金の期間帰属の相違に着目して解説しましたが、厳密にいうと税効果会計は、企業会計上の資産又は負債と税務上の資産又は負債の相違に対して適用します。 税効果会計の方法には「繰延法」と「資産負債法」とがあります。 上記の会計処理は「資産負債法」を採用していることによります。 「繰延法」とは、企業会計上の収益又は費用の金額と税務上の益金又は損金の額に相違がある場合、その相違項目のうち、損益の期間帰属に基づく差異(期間差異)について税効果会計を適用する方法です。 一方、「資産負債法」とは、企業会計上の資産又は負債の金額と税務上の資産又は負債の金額との間に差異があり、会計上の資産又は負債が将来回収又は決済されるなどによりこの差異が解消される時に、税金を減額又は増額させる効果がある場合に税効果会計を適用する方法です。 棚卸資産評価損30について繰延法と資産負債法で比較すると、企業会計と税務の差異の捉え方は異なりますが、差異の金額は同じです(図1)。 〈図1〉   しかし、ご質問のその他有価証券評価差額金50について繰延法と資産負債法で比較すると、資産負債法の場合には差異50が生じますが、繰延法の場合には生じません(図2)。 〈図2〉   このように繰延法と資産負債法では、企業会計と税務の差異の捉え方が異なっています。税効果会計は「資産負債法」により、企業会計と税務との差異を捉えることとなります。 なお、繰延法で捉える差異を「期間差異」といい、資産負債法で捉える差異を「一時差異」といいます。 それでは、税効果会計における一時差異にはどのようなものがあるのでしょうか。 次回は「税効果会計における一時差異 ~一時差異の類型」について解説します。 (了)
#56(掲載号)
#菅野 進
2014/02/13
労務 労務・法務・経営

人的側面から見た「事業承継」のポイント 【第2回】「事業承継対策に立ちはだかる問題」

人的側面から見た「事業承継」のポイント 【第2回】 「事業承継対策に立ちはだかる問題」   社会保険労務士法人スマイング 代表社員 特定社会保険労務士 成澤 紀美   1 はじめに 日本の中小企業にとって、今や大きな問題となっているのが、事業承継問題である。 例えば、中小企業庁が実施したアンケート結果によると、事業を後継者に承継させるに当たって、何らかの障害があると認識している経営者は、全体で4割強に上っている。 後継者の確保をはじめとする事業承継の問題が、多くの中小企業経営者にとっての悩みの種となっていることがお分かりいただけるだろう。 その背景には、中小企業経営者の平均年齢の上昇がある。 我が国全体の平均年齢が高齢化している中、経営者の平均年齢も60歳に手が届きつつあるにもかかわらず、多くの企業経営者が、後継者を見つけ、又は育てるのに苦労しているというのが現状であろう。   2 中小企業の多くは「同族会社」であるという実態 日本では、中小企業のほとんどが同族会社であるとされている。 多数の中小企業における「所有と経営の一致」は、事業承継問題の結論を決める根本的なポイントであり、現実にも、同族会社の後継者が、創業者一族と無関係に決まるケースは多くはない。 その理由として、 こと等が挙げられる。 このような企業と家業が密接にリンクしている企業体では、株式が同族の中で保持されており、所有と経営が一致しているのが通常である。 したがって、経営者の存命中は、資本政策上の問題はほとんどないが、経営者が死去し、相続が発生する際に問題が顕在化するケースがある。 というのも、後継者としての地位は親族のうちの一人の者に専属させることができたとしても、後継者に相続・移転させる株式については、均分相続や遺留分などの他の相続人が有する民法上の権利により、相当程度の制約を受け、分散させざるを得ない場合が出てくるからである。 会社の資本政策としては、後継者の目から見て、誰に株式をどのくらい持たせるのか、最大の株主が死去した後の方策を検討すべきところ、多くの場合にはこの親族内の相続によって大きな制約を受けざるを得ない。 決定権者であり、仲裁者でもある先代経営者の死と、親族内での株式分散という事態が加わり、経営方針等に端を発した親族内での争いが激化するというようなケースは、珍しいことではないのである。   3 積極的に取り組む「きっかけ」や「動機」が欠けている 事業承継問題がこれだけ大きな問題であるにもかかわらず、多くの中小企業では、事業承継に向けた計画的準備がなされていないというのもまた事実である。 例えば、東京商工リサーチの事業承継に係る事前の取組みに関する調査結果において、「特別なことはしなかった」とする回答の割合が全体の3割強を占めており、中には、事業承継に関する特段の問題が存在しなかったために対策をとらなかったという恵まれたケースもある。 これらの背景には、少なくとも自分(現経営者)が元気なうちには発生しないという事業承継問題の特殊性があると考えられる。 目の前に発生している問題であればともかく、将来に発生する「可能性のある」問題に対して、対策を講ずることというのは、如何なる組織、如何なる個人であろうとも、前向きになりにくいものである。 自分が困る問題ではなく、残された家族・会社が困る問題だから、対策をとらないなどと考える人は少ないだろうが、やはり目の前にある今日の問題をこなしていくことに精一杯となれば、遠い将来の話と思われがちで、かつ、目に見えた利益を即座に生むわけでもないこの問題については、対処が後回しになってしまうのも、当然かもしれない。 中には、会社内及び家庭内での影響力の低下を嫌って、事業承継の方針及びこれに伴う家庭内の財産分配の方針の策定を、できるだけ先延ばしにしようとするケースもあるようで、どの側面から見ても、現経営者が事業承継問題に積極的に取り組むだけのきっかけや動機が欠如していると考えるしかないようである。   4 周りから言い出しにくい 現経営者が自発的に取り組むということが難しい以上に、周囲からその取組みを促すことを期待しにくいことが、より問題を難しくしている。 前述のような同族会社であれば、事業承継という場合によっては「社長の死」を想起させるような話題を家族内で正面から取り上げて議論するということは憚られるであるし、議論することによって新たなトラブルが生じる場合すらあり得る。 これが血のつながらない他人であれば尚更であり、一般的には従業員から切り出せるような類の話ではない。 また、会社の外部にいる金融機関などの債権者も、積極的に事業承継計画の策定を求めるといったことはあまりなく、企業経営者等からの相談があればそれに応ずるといった受身的対応にとどまっている例が多いと考えられる。 このように、周囲から経営者に対して、この問題に本格的に取り組むべしという要請がかかるということは少ないというのが現状なのである。 ◆  ◆  ◆ 次回は、事業承継計画と後継者教育についてお伝えしたい。 (了)
#56(掲載号)
#成澤 紀美
2014/02/13
労務・法務・経営 法務

常識としてのビジネス法律 【第8回】「契約に関する法律知識(その4)」

常識としてのビジネス法律 【第8回】 「契約に関する法律知識(その4)」   弁護士 矢野 千秋   1 約定解除 「約定解除」とは、契約当事者があらかじめ解除権留保の合意をし、この特約によって解除の効力が生ずる場合をいう。 ① 当事者の明示的合意によるもの 継続的契約中などに定める即時解除条項などが具体例であり、これは相手方の資力信用に問題が発生した場合に備えて契約の解除権を留保する条項である。 ② 法律によって解除権が留保されたもの 手付の授受(民法557条)、不動産の買戻し特約(民法579条)などがある。   2 法定解除の作用 債務不履行に対する債権者の救済手段として がある。 ①現実的履行の強制とは、例えば売買契約の目的物たる土地などを裁判に掛けてでも引き渡させるような場合を指す。また、②のように単に債務不履行を理由として、つまり契約を解除せずに損害賠償請求をすることができる。さらに③のように契約を解除して、損害があれば損害賠償請求をすることも可能である。 解除をしてもしなくても損害賠償請求ができるのであれば、あえて解除までして損害賠償請求を認める実益は、例えば買主が代金を支払わず、売買目的物を引き取ろうともしない場合、売主は契約を解除し、目的物引渡し義務を免れた上で、他に売却し、それでも償われない損害を買主に請求するような場合にある。   3 約定解除の作用 ① 当事者の明示的合意による場合 法定解除権の発生要件を軽減したり(履行遅滞があれば催告不要との特約など)、その効果を明らかにするもの(損害賠償額の明記)などがある。 ② 法律上解除権留保とされる場合 解約手付がある。契約が履行される前に再考の機会を与えるもので、相手方が履行に着手する前であれば解除が可能である。ただし、手付流し、手付倍返し(前回の1(3)参照)。 不動産の買戻し特約は、契約履行後に契約以前の状態に復帰する可能性を残すもので、後日、同一目的物を買い戻せるよう、解除権留保の形式をとる。   4 合意解除(解除契約) 契約の効力発生後に、契約当事者が、解除権の有無を問わず、契約を解消して契約がなかったのと同一の状態を作出することを内容としてなす新たな契約(合意)をいう。契約当事者の紛争や膠着状態を解決するためになされる場合が多く、この場合は示談的要素をもつ。 契約を将来に向かって解消する合意をすることも可能である(合意解約)。   5 告知(解約) 「解除」が契約当事者の一方的意思表示により、契約が初めから存在しなかったものとすることをいうのに対し、継続的債権関係(賃貸借、雇用、委託など)において、契約当事者の一方的意思表示によって、契約の効力を将来に向かって消滅させることをいう。「解約告知」ともいわれ、遡及効をもつ解除と区別される。   6 消費者との契約における説明のポイント 消費者契約法は事業者と消費者間の契約(消費者契約という)に適用される。すなわち、事業者と消費者の情報、交渉力などには大きな差があり、機械的に平等に扱ったのでは、かえって不公平になる。 そこで消費者は、以下の場合に申込又は承諾の意思表示を取り消せるものとした(結局は契約が取り消されたことになる)。消費者保護の一般法である。 ① 誤認類型 消費者契約の締結の勧誘に際し、 事業者が、契約上の重要事項について不実告知(事業者が真実でないことを知っている必要はない)をし、消費者が当該告げられた内容が事実であると誤認し、または 事業者が、契約の目的となるものに関する将来の見込みについて断定的判断(将来不確実なものを確実であると誤解させるような判断の提供)を提供し、消費者が当該断定的判断の内容が確実であると誤認し、または 事業者が、ある重要事項又は関連する事項について消費者の利益となる旨を告げ、かつ当該重要事項につき消費者の不利益となる事実(利益告知により不利益事実は存在しないと通常消費者が考えるもの)を故意に告げなかったことにより、消費者が当該事実は存在しないと誤認して 契約を締結した場合である。 ② 困惑類型 消費者契約の締結の勧誘に際し、消費者がその住居または就業場所から事業者に退去するよう求めたにもかかわらず、これらの場所から退去しないこと、または 事業者が勧誘している場所から消費者が退去したいと求めたにもかかわらず、消費者を退去させないこと、 により消費者が困惑したことによって消費者契約を締結した場合である。 ③ 重要事項 「重要事項」とは、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容、対価、その他の取引条件をいう。   7 その他の形式 (1) 別紙 別紙は、本文に書くと本文が長くなって分かりにくくなるとか、目録形式の方が使いやすいような場合に使われるが、契約書と一体をなすものであり、当然契約内容の一部になるものである。「物件目録」「作業目録」「作業工程」「価格表」等がある。 (2) 表紙と裏表紙 表紙をどうするかであるが、付けても付けなくても構わない。ただし付けるのであれば表紙に契約のタイトル、日付、当事者名(押印はしない。法人なら法人名のみ)は書いておくべきである。表紙をめくらなくても4Wが分かり、契約書をピックアップできる場合が多いからである。 裏表紙も付けても付けなくても構わない。付ける場合は白紙のもので、何も記載しないのが普通である。 特に裏表紙も付けたとき、ステイプラーでの綴目の部分を袋状に糊付けし(袋綴じという)、袋と裏表紙に掛けて1ヶ所押印すれば後述の契印を各ページにしたことになる。大きめの文房具屋であれば、この袋綴じ用の袋に当たる「製本テープ」という商品を販売している。 (3) 契印 契約書が2枚以上になったとき、ステイプラーで左側2ヶ所を綴じる。そして契約書を本を開いたような状態にして、左ページと右ページをまたいで綴目に契印をすることが多い。これは必須というわけではないが、重要な契約の場合、各ページが一連のものとしてその順番に綴られていることを示すために押されることが多い。したがって全ページに押さねばならない(なお、前記袋綴じ参照)。これによりページの抜取り、差替えが防止できる。 契印は全当事者が押す必要はなく、一方の当事者だけの契印でも構わないのであるが、綴目に沿って縦に並んで全当事者が押すのが通常である。押す位置は綴目の上部でも中央部でも下部でも構わない。押す順番は契約書の調印欄に押した順番で契印も上から下へと並べるのが通常である。 (4) 収入印紙 その契約書が印紙税法上の課税文書に当たるときは、契約書1ページ目の表題の左横に収入印紙を貼らねばならない。印紙税額は契約金額に応じて累進課税になっていることが多いので、「印紙税額一覧表」などを参考にして該当税額の印紙を貼る。印紙は、契約書原本を2通以上作成した場合は作成した全契約書に貼らねばならない。なお、契約書のコピーに印紙は不要であるが、コピーに署名や押印したりすると原本扱いとなり課税されることになる。印紙を貼らなくても契約の効力には無関係であるが、税務署の調査が入って貼っていないのが発見されると、故意過失を問わず不足額の3倍の懈怠税が課されることになる。 次に、貼付した印紙には消印を押さねばならない。通常、契約書作成に用いた印鑑で、印紙と契約書にまたがって消印を押す。これも全当事者が押すのが実務では一般的である。消印を忘れると、貼ってある印紙税額分の懈怠税が課されることになる。 (5) 作成通数 契約書は、当事者数分の通数を作成するのが通常である。記名押印等された、つまり朱肉が付いているものを「原本」、それをコピーしたものを「写し」という。原本に比べると写しは若干証明力が落ちるので、当事者数分原本を作成することが多い。しかし前述したように印紙税が課されるような場合には節税の意味で、原本は1通、写しを1通などにする場合もある。 また、契約当事者以外に立会人などが記名押印したような場合は、立会人分は写しで済ませるのが通常である。 (6) 文章の訂正 契約書の文章中に誤りがあれば作成しなおすのがベストであるが、調印してから誤りが発見された場合など、後日の訂正が必要になることがある。この場合には訂正する箇所を二重線で消し、正しい文章を消した箇所の上部に書き込み、契約書の左の余白に当事者全員が押印して、「何字削除」、「何字加入」と書き込む。これに備えて、全当事者が前もって捨印を押しておくことも多い。 また、二重線で消して正しい文章を書き込んだ訂正箇所に上から全員が押印しても構わない。 (7) 原本、謄本、抄本、正本、副本 ① 原本とは 「原本」とは、最初に確定的に思想を表現するものとして作成された文書をいう。捺印した文書であれば、朱肉の付いているもののことである。 文書の持つ証明力は、最も強い。 ② 謄本とは 「謄本」とは、原本の内容を完全に写したものをいう。そのうち、公証権限を有する者(公証人、登記官等)が原本と同一である旨を記載した認証謄本が重要である。登記簿謄本や戸籍謄本がこれに当たる。 したがって登記簿謄本は、登記部分は謄本であり、認証部分は原本に当たる複合文書である。このように認証部分である原本を複合させることにより変造を防いでいる。原本のコピーを繰り返すことにより、内容を痕跡が残らぬように改ざんするなどの変造を企てれば、認証部分の原本の印影部分が黒色に変わってしまうからである。 ちなみに認証謄本は、私人がなす場合もある。例えば、株主総会議事録は本店に原本を備え置き、支店に代表取締役が認証した謄本を備え置くなどである。 ③ 抄本とは 「抄本」とは、原本の一部を、当該部分と原本全体との関係を明らかにして抜粋した謄本をいう。要は証明に必要な部分のみを抜粋した一部謄本のことである。戸籍抄本などがこれに当たる。 ④ 正本・副本とは 「正本(副本)」とは、原本に代えて原本と同じ効力を持たせるために、公証権限を有する者が法定の場合に作成する謄本の一種をいう。 原本が1通しかないと、例えば証拠として裁判所に提出する際などに困ることになる。そこで謄本を2通作成し、それを原本と照合した上で、その後は謄本をもって原本と同様の効果(同一の証明力)を認める工夫である。 ちなみに、単なる謄本では、原本より証明力が落ちる。先述のように原本のコピーを繰り返すことにより、内容を痕跡が残らぬように改ざんすることも謄本の場合には可能だからである。 (了)
#56(掲載号)
#矢野 千秋
2014/02/13
労務・法務・経営 経営

顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第35回】「個別決算業務のKPI(その② 決算承認)」

顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第35回】 「個別決算業務のKPI (その② 決算承認)」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 今回は、個別決算業務を構成する複数のKPIから、個別決算業務の効率性を評価するKPIを取り上げる。 個別決算業務に執りかかった経理財務部門の焦眉の急は、個別決算数値の確定である。その担当者は、個別決算数値が確定するまでは、逼迫した時間的制約の下で緊張を強いられながら仕事に当たる。しかし、経理財務部門の責任者が、心底から愁眉を開くことができるのは、個別決算数値が経営層によって正式に承認されたときであろう。経営層による個別決算数値の承認を取らないことには、仕事が経理財務部門の手から離れたとは言えない。 そこで、決算承認に関連する業務プロセスから、個別決算業務の効率性を評価するKPIを取り上げる。   KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 経済産業省スタンダードでは、個別決算業務と同義の単体決算業務において、会社が担う一般的な機能として、「決算準備」、「決算手続」、「役員報告」、「監査対応」の4個の機能を挙げている。 今回解説するKPIは、「役員報告」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:単体決算業務で会社が担う機能〉  (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より)   さらに、経済産業省スタンダードでは、「役員報告」に関連して、付議資料作成という業務プロセスを次のようにまとめている。 〈経済産業省スタンダード:9.3.1付議資料作成〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より)   付議資料作成は、経理財務部門が、当会計年度の個別決算数値と経営管理のために使われる経営計画数値や過年度の個別決算数値等を併せて、決算報告資料を作成する業務である。この決算報告資料に記載された個別決算数値は、株主総会の承認を受けていない決算案である。 会社法によれば、決算案は、まず取締役会の承認を受けてから、決算案の承認に関する議案が定時株主総会に提出されてその承認を受けなければならない。但し、大会社のように会計監査人と監査役が各監査報告書で適正と認めた場合は、株主総会の承認事項ではなく報告事項とすれば足りる。 このような会社法の要請に限らず、決算案は、経営会議等の経営層による承認を受けることが実務の不文律である。 今回のKPIは、経営層による個別決算数値の承認を速やかに受けることが個別決算業務の効率性を反映していることに着目し、直前決算期末日から起算して、経営層による個別決算数値の承認日までの日数を問うものである。   定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 「個別決算数値」とは、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表をさす。 「経営層」とは、取締役会、代表取締役や取締役が出席した経営会議体をさす。 「経営層による個別決算数値の承認日」とは、取締役会による計算書類の承認日をさす。さらに、取締役会に先立ち開催される経営会議で実質的に承認されている場合には、その承認日を含む。   KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルでこのKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、個別決算業務を効率的に行い、ひとたび個別決算数値を確定したなら速やかに経営層による承認を受けることが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 では、経営層による個別決算数値の承認を早く受けることにどのような意味があるのか。 経営層による個別決算数値の承認を早く受けるためには、付議資料の作成と個別決算数値の確定を早期に完了する必要があり、いずれも、業務の効率性が雌雄を決する。 日常の経理財務業務と決算手続の両方が効率的な会社は、個別決算数値の確定が早い。 日常の経理財務業務の効率性が高くても決算手続の効率性が低い会社は、個別決算数値の確定が遅れる。この場合、個別決算業務自体の効率性が問われる。 日常の経理財務業務の効率性が低い会社は、決算の段階においてあらゆる残課題を処理しようとするため、決算手続の効率性を上げることは困難であるから、個別決算数値の確定が遅れる。この場合、日常の経理財務業務の非効率が個別決算業務の非効率を生ぜしめているのであるが、日常の経理財務業務の効率性を評価するKPIで個別決算業務の効率性の評価まで尽くされているとは言い難いので、問題の所在を切り分けるためには、別途KPIを設定する必要がある。 いずれも、個別決算業務における個別決算数値の確定、付議資料の作成、経営層による承認までの業務の流れを見た場合、個別決算業務自体の効率性が業務にかかる日数に表れてくることが分かる。つまり、経営層による個別決算数値の承認を早く受けることは、個別決算業務の効率性が高いことを意味すると考えられる。 そこで、スコアリングモデルでは、個別決算業務の効率性を比較するため、直前決算期末日から起算した経営層による個別決算数値の承認日の日数をKPIとした。この数値が小さい会社が大きい会社よりも相対的に望ましいと考えている。   顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、個別決算業務において、経理財務部門が付議資料を提出する業務プロセスが組み込まれていること、個別決算数値の承認を求める会議体を確認していただきたい。 例えば、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表を承認する経営会議議事録や取締役会議事録を閲覧し、その承認日を確認いただきたい。 さて、読者の顧問先において、直前決算期末日から起算して、経営層による個別決算数値の承認日までの日数は何日になったであろうか。 *  *  * 最終回は、「個別決算業務」を構成する複数のKPIから、期中対応に関連する業務プロセスに着目したKPIを取り上げる。 (了)
#56(掲載号)
#島 紀彦
2014/02/13
読み物 連載

税理士・公認会計士事務所[ホームページ]再点検のポイント 【第15回】「ネットの世界の取組みでホームページへの訪問者を増やす(その3)」~手っ取り早く効果を出すには?

税理士・公認会計士事務所 [ホームページ]再点検のポイント 【第15回】 「ネットの世界の取組みで ホームページへの訪問者を増やす(その3)」 ~手っ取り早く効果を出すには?   データライズ株式会社 代表取締役社長 公認会計士・税理士 河村 慎弥   ホームページのアクセス数を上げるための対策、SEO(エス・イー・オー)。 前回は「内部SEO」の具体的な方法についてお話しましたが、「外部SEO」についてもお話しておきましょう。 そして、費用をかけて手っ取り早く効果を上げる「リスティング広告」という方法についてご紹介します。 *  *  * 「内部SEO」は、事務所ホームページ内の記述を工夫するなど、ホームページ自体に手を加える対策でしたが、「外部SEO」は、事務所ホームページとは別の、外部のホームページで行う対策です。 この連載【第13回】で、検索サイトによる検索結果の順位付けは、そのホームページの内容や、被リンク(他のホームページからリンクされていること)の数などで決められているらしいということをお話しました。 この「被リンクの数」を増やしていくというのが、典型的な外部SEOです。 多くのホームページからリンクを張られているホームページ(被リンク数の多いホームページ)は、検索サイトにおいて、多くの人から支持されている社会的に有用なホームページであると判断されているようで、検索順位の上位に表示される傾向があります。 ここで注意しなければいけない点があります。 以前は、被リンク数さえ増やせば検索順位が上がったため、多くのSEO業者がまったく内容のないホームページ(例えば、ほとんど何も書いていないようなホームページ)を大量に作り、それらのホームページから「特定のホームページ」にリンクを張ることで、その「特定のホームページ」の検索順位を上げるという方法をとっていました。 例えば、ほとんど何も書いていないホームページを1,000個作って、そのすべてからあなたの事務所ホームページにリンクを張ります。そうすると、見かけ上、あなたの事務所ホームページは1,000個のホームページからリンクされているホームページということになり、検索サイトから「社会的に有用なページだ」と判断されるというわけです。 しかし、2013年半ばに検索サイト側が対策を施し、このような外部SEOの手法は通用しなくなりました。 リンク元のホームページが、単にリンク数を稼ぐだけのホームページと判断されると、いくらリンクを張ってもリンク先のホームページの検索順位が上がることはなくなりました。それどころか、そのような対策をしたホームページは、逆に検索順位を極端に下げられるというペナルティを受けるようになったのです。 これは、リンクを張られること自体が悪いというわけではなく、意味のないリンクを張って検索サイトを騙そうとすることが悪いという判断だと思われます。 現在でも、きちんとしたホームページから張られたリンクは、検索順位を上げるのに役立つと考えられています。ただ、外部SEOとして手っ取り早く効果を出す対策はとれなくなりました。 そのため現状は、SEOとしては内部SEOが主流となっており、効果が出るまでには、以前よりも長い期間が必要となっています。 *  *  * SEOの話はここまでとして、次に、自分の事務所ホームページを、お金を払って検索結果の1ページ目に表示させる方法、「リスティング広告」についてお話します。 まずは【第13回】で掲載した検索結果の画面を改めて確認しましょう。 〈Googleで「相続 税理士 東京」を検索したら・・・〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 【①】と【③】は広告であるとお話しましたね。 実はこれらが「リスティング広告」と呼ばれるもので、前回ご紹介したGoogle(グーグル)のAdWords(アドワーズ)もリスティング広告の1つです。 リスティング広告とは、予めキーワードを登録することで、そのキーワードの検索が行われた時に、検索結果と共に広告が表示されるというものです。 広告が表示されただけでは広告料金は発生せず、広告がクリックされた時に、「1クリックいくら」という計算で広告料金が発生します。 つまり、広告を通じて自分の事務所ホームページに訪問者が来るタイミングで課金されるという仕組みです。 1クリックの値段は予め決めておくのですが、高く設定するほど順位が高く表示されます。また、上限金額を決めておき、広告料金が上限金額に達したら広告の表示が行われなくなります。 このようにリスティング広告を使えば、お金さえ出せば、検索結果の1ページ目の表示を獲得できます。ただし、上記のとおり外部SEOの効果が出にくくなって以来、リスティング広告の利用者が急増したようで、現在、上位表示をするための広告単価が高騰しています。 人気のあるキーワードだと、上位表示するためには1クリック3,000円程度の設定が必要な場合もあります。 この相場はGoogleのAdWordsで、無料で調べることができます。もしも、月10万円くらいの広告予算がとれるのなら、費用対効果の高いと思われるキーワードを探してリスティング広告を出してみるのもよいかもしれません。 また、どんなキーワードに人気が集まっているのかを調べて、内部SEOに活かすのも良いでしょう(これなら無料です)。 (了)
#56(掲載号)
#河村 慎弥
2014/02/13
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《速報解説》 「「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」の一部改正について(法令解釈通達)のあらまし(情報)」の公表~「家なき子」の同居判断について~

《速報解説》 「「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」の 一部改正について(法令解釈通達)のあらまし(情報)」の公表 ~「家なき子」の同居判断について~   税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良   平成26年1月15日付で、国税庁から「「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」の一部改正について(法令解釈通達)のあらまし(情報)」が公表された(以下「情報」という)。 平成25年度税制改正で相続税の小規模宅地特例が改正され、それに関連して租税特別措置法通達も改正されているが、情報はその通達改正に関するあらましを示したものである。なお、通達改正のポイントについては下記拙稿をご覧いただきたい。 今回の情報については、租税特別措置法通達に示されているもの以上の追加的な情報は特に見当たらない。 ただし、二世帯住宅の小規模宅地特例について、3つの事例が設例として示されており、特に「家なき子」のケースにおける【事例3】は、通達改正の理解に役立つと考えられる。 そこで本稿では、情報のうち【事例3】について解説を行うこととする。 (事例3  区分所有建物の登記がされていない1棟の建物の敷地を措置法69条の4③二ロの親族が取得した場合) 〈問〉 被相続人甲は、自己の所有する宅地の上に一棟の建物を所有し、甲及び生計を別にする子乙の居住の用に供していた(建物は、区分所有建物である旨の登記がなく、甲単独で所有している。)。 相続人である子乙及び子丙は、当該宅地の2分の1の持分を各々相続により取得し、申告期限まで引き続き所有し、かつ、当該宅地を居住の用に供している。 なお、丙は、相続開始前3年以内に、丙又はその配偶者の所有する家屋に居住したことがない。 甲の所有していた宅地は、特定居住用宅地等に該当するか。 〈答〉 1 被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の判定 被相続人甲の居住の用に供されていた一棟の建物の敷地には、甲の居住の用供されていた部分(以下「A部分」という。)と、生計を別にする親族乙の居住の用に供されていた部分(以下「B部分」という。)がある。 当該一棟の建物は、区分所有建物である旨の登記がされていないことから、生計を別にしていた丙の居住の用に供されていた部分についても、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の部分に含まれることとなる(措置法令40条の2④)。 したがって、敷地の全体が、措置法第69条の4第1項に規定する被相続人等の居住の用に供されていた宅地等に該当することとなる。 2 特定居住用宅地等の判定 (1) 乙が相続により取得した部分 乙は、甲の居住の用に供されていた一棟の建物(区分所有建物である旨の登記がされ ていない建物)の措置法令第40条の2第10項第2号に規定する「当該被相続人の親族の居住の用に供されていた部分」に居住していた者であって、相続開始から申告期限まで被相続人等の居住の用に供されていた宅地等を有し、かつ、当該建物に居住していることから、措置法第69条の4第3項第2号イの親族に該当する。 したがって、乙が取得したA部分(100㎡)及びB部分(100㎡)の持分の割合(2分の1)に応ずる部分(100㎡)は、特定居住用宅地等に該当する(措置法69条の4③二イ、措置法令40条の2⑨)。 (2) 丙が相続により取得した部分 措置法第69条の4第3項第2号ロに掲げる親族は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等を取得した者に限るとされている。 丙が取得したA部分(100㎡)の持分の割合(2分の1)に応ずる部分(50㎡)は、被相続人の居住の用に供されていた宅地である。 次に、B部分は、被相続人の生計を別にする親族の居住の用に供されていた宅地であるが、措置法令第40条の2第4項により被相続人等の居住の用に供されていた部分に含まれることから、被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当するものとして取り扱うことができ、丙は、措置法第69条の4第3項第2号ロに掲げる被相続人の居住の用に供されていた宅地等を取得した者に該当することとなる。 また、被相続人甲の居住の用に供されていた一棟の建物のうち、甲の居住の用に供されていた部分に甲と共に起居していた親族はいない。 以上のことから、丙は、措置法第69条の4第3項第2号ロに規定する他の要件を満たせば、同号ロに規定する親族に該当し、丙が取得したA部分(100㎡)及びB部分(100㎡)の持分の割合(2分の1)に応ずる部分(100㎡)は、特定居住用宅地等に該当することとなる(措置法69条の4③二ロ、措置法令40条の2⑨)。 上記のポイントは、改正前は、同居親族のケース(租税特別措置法69条の4第3項イ)と「家なき子」のケース(租税特別措置法69条の4第3項ロ)、とで同居の定義は一致していたが、改正後では、同居親族のケース(租税特別措置法69条の4第3項イ)と「家なき子」のケース(租税特別措置法69条の4第3項ロ)、とで同居の定義は一致しなくなった、という点にある。 改正前では、同居親族のケース(租税特別措置法69条の4第3項イ)として小規模宅地特例が適用される場合には、「家なき子」(租税特別措置法69条の4第3項ロ)としては小規模宅地特例の適用はされない。 これは、「家なき子」(租税特別措置法69条の4第3項ロ)の適用要件の一つに、「相続開始の直前においてイに規定する家屋に居住していた親族で政令で定める者がいない場合に限る」ということがあるためである(要するに、同居する親族(法定相続人)がいないことが要件とされており、この同居の定義は、同居親族のケースと家なき子のケースで一致していた)。 ただし、改正後においては、同居親族のケース(租税特別措置法69条の4第3項イ)として小規模宅地特例が適用される場合でも、同時に「家なき子」(租税特別措置法69条の4第3項ロ)として、小規模宅地特例が適用される可能性がある。 これは、以下改正による影響である。 結果として、情報の【事例3】のように、二世帯住宅(区分所有家屋でないものに限る)で構造上区分されたものに関し、構造上区分されるそれぞれの部分に、被相続人・相続人が各々居住し、かつ別居している他の相続人(自己及び自己の配偶者の所有する家屋に、相続直前3年間居住したことがない者に限る)がいるケースで、同居していた相続人、別居していた相続人が当該宅地等を相続する場合には、(他の要件を満たしている前提で)いずれの相続人も(前者は同居親族として、後者は家なき子として)小規模宅地特例を適用できる結果となる。 なお、「家なき子」(租税特別措置法69条の4第3項ロ)として小規模宅地特例を適用できるケースは、筆者の経験上、非常に限定的であると感じている。 ただ、平成27年1月1日以降は、相続税の基礎控除が引き下げられ、相続財産が従前よりも少額である場合にも相続税の対象となるケースが増加することが予想され、かつ相続財産である不動産は自宅のみというケースも大幅に増加することが予想される。 このような傾向のなかでは、平成27年1月1日以降に他界するケースにおいては、「家なき子」として小規模宅地特例を適用できるケースが増加する可能性がある。 「家なき子」のケースは限定的であるからといって、正確に理解せずに相続税申告業務を進めると、トラブルになる可能性もあるため、情報の【事例3】を含め、しっかりと理解をしておく必要があると思われる。 (了)
#55(掲載号)
#根岸 二良
2014/02/06
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Profession Journal No.55 公開のお知らせ

2014年2月6日(木)AM10:30、Profession Journal  No.55 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。 Web情報誌 Profession Journalは、プロフェッションネットワークのプレミアム会員専用の閲覧サービスです。 Profession Journalについての詳細はこちら。 バックナンバー一覧はこちら。
#Profession Journal 編集部
2014/02/06
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

monthly TAX views -No.13-「法人税議論は課税ベース見直しの各論段階に」

monthly TAX views -No.13- 「法人税議論は課税ベース見直しの各論段階に」   中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹   安倍総理は、1月22日のダボス会議で講演し、「さらなる法人税改革に着手する」と発言、メディアは「国際公約」とはやし立てている。経団連の榊原次期会長も、総理との会談で法人税率の引下げを要請した。早々に議論が始まりそうだ。 しかし、この問題は簡単には進まない。 法人実効税率引下げの議論については、昨年末の税制改正大綱で以下のような記述になった。 今年一年、この記述に沿って議論が進められるわけだが、問題は、財源確保の観点から、「ヨーロッパ諸国でも行われたように政策減税の大幅な見直しなどによる課税ベースの拡大」と「他税目での増収策による財源確保」という2つの事項が明記されたことだ。 ではこの2つは、具体的にどのようなことを指しているのであろうか。 *  *  * まず「ヨーロッパ諸国でも行われたように政策減税の大幅な見直し」である。 これを解くカギは、自民党税調で財務省が資料提出した、ドイツと英国の法人税改革が参考になる。 08年のドイツ税制改革は、償却制度の定額法への変更、支払利息の損金算入制限により減税財源を捻出している。08年、10年の英国の法人税率引下げも減価償却制度の見直しである。 そこで、わが国でも、減価償却の見直し(償却率を遅くすること)が問題になるだろう。 もう一つの参考としては、11年民主党菅政権時代の法人税改正が参考になる。 その際の課税ベース拡大策として、減価償却制度の縮小と並んで議論されたのは、欠損金の繰越控除制度の見直しである。具体的には、これまでの100%繰越しを80%に制限するとともに、期間を7年から9年に延長した。 もう一つ参考になるのが、昨年暮れ財務省が自民党税調に提出した「法人税の課税ベース」という資料である(下記)。 これを見ると、欠損金の繰越控除により2.3兆円の法人税収が脱漏していることが分かる。以下、受取配当益金不算入で1兆円、研究開発減税で3,000億円、中小事業特例で1,000億円程度の税収が脱漏していることも記されている。 このあたりが議論になりそうである。 法人税の課税ベース (注) 平成23年度会社標本調査などによる財務省試算。 *  *  * では次に、「他税目での増収策による財源確保」とは何であろうか。 わが国の法人実効税率を高止まりさせている主因が地方法人課税であることを考えると、法人住民税・均等割の拡大などの地方法人税の課税ベース拡大策が考えられる。外形標準課税の拡大も議論になろう。さらに、固定資産税の特別措置の廃止・縮小、個人住民税の課税最低限の引き上げ なども候補になりうるであろう。 *  *  * 以上のように、法人税率の引下げに向けて検討すべき論点は明確にされている。 あとは、関係者がそれをどう受け止め、どう解決していくのかという調整の話である。 結局最後は、政権に「課税ベースの拡大」という“苦い薬”を調整していくだけの意欲とキャパシティがあるかどうか、この点が問われることになる。 (了)
#55(掲載号)
#森信 茂樹
2014/02/06
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

平成26年3月期 決算・申告にあたっての留意点 【第1回】「生産等設備投資促進税制・環境関連投資促進税制の要件確認」

平成26年3月期 決算・申告にあたっての留意点 【第1回】 「生産等設備投資促進税制・環境関連投資促進税制の要件確認」   OAG税理士法人 税理士 中島 加誉子   もうすぐ始まる平成26年3月期決算・申告について、いち早くその留意点を本連載にて解説する。 今回の決算では、平成25年度税制改正の内容を受け、 などが留意点となろう。以下、項目ごとに解説していく。   【国内生産等設備投資促進税制】 平成25年4月1日から平成27年3月31日までに開始した事業年度においては、国内の生産等設備への投資に対し、特別償却または税額控除が適用されることとなる。 〈適用要件〉 〈特別償却限度額、税額控除額〉 【参考図】 (財務省「平成25年度税制改正」より)   【グリーン投資減税(環境関連投資促進税制)】 エネルギー環境負荷低減推進設備等を取得した場合の特別償却または法人税額の特別控除制度が、平成25年度税制改正により変更されているので留意が必要である。 【参考図】 (経済産業省「平成25年度税制改正について」) (了)
#55(掲載号)
#中島 加誉子
2014/02/06
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

損益通算廃止に伴うゴルフ会員権売却判断のポイント 【第2回】「損益通算による節税効果と売却判断の留意点」

損益通算廃止に伴う ゴルフ会員権売却判断のポイント 【第2回】 (最終回)  「損益通算による節税効果と売却判断の留意点」   税理士 内山 隆一   平成26年3月31日までにゴルフ会員権を譲渡し、譲渡損が発生した場合の取扱いは次のように整理することができる。   1 損益通算をした場合の効果(節税額) ゴルフ会員権の譲渡損による損益通算の順序は次のとおりである。 なお、ゴルフ会員権の譲渡損は、土地建物等の譲渡による所得や株式等の譲渡による所得とは損益通算できない。 ※1 一時所得については損益通算後に2分の1する。 ※2 経常所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得及び雑所得をいう。   《例1》 ・給与所得:500万円 ・一時所得:なし ・総合長期譲渡所得:△300万円(ゴルフ会員権) [損益通算] 500万円-300万円=200万円(損益通算によって課税所得が300万円減少する) 300万円×税率=節税額 ※所得税・・・超過累進税率、住民税・・・10% 《例2》 ・給与所得:500万円 ・一時所得:200万円 ・総合長期譲渡所得:△300万円(ゴルフ会員権) [損益通算] 200万円-300万円=△100万円 500万円-100万円=400万円(損益通算によって課税所得が200万円減少する(注))  (注) 損益通算がなかった場合・・・500万円+200万円×1/2=600万円 200万円×税率=節税額 ※所得税・・・超過累進税率、住民税・・・10% 上記の計算例から、ゴルフ会員権の譲渡損が発生した場合に一時所得があると、損益通算による節税効果が半減してしまうことがわかる。 これは、もともと2分の1課税の一時所得と通算する場合に、2分の1をする前の金額と通算しなければならないためである。 なお、損益通算しきれない譲渡損を繰り越して控除する場合には、一時所得の金額は2分の1をした後の金額から控除されるため、「控除額×税率」により節税額を算定することができる。   2 値上がりリスクについて 平成26年4月1日以後にゴルフ会員権を譲渡した場合には損益通算ができないが、必ずしも今すぐ焦って売却し、損だしをしなければならないということでもないようである。 最近の動向では、値上がりするゴルフ会員権も出てきており、今後の経済情勢によっては回復の見込みもあるかもしれない。 最もバブル期のような金額にまで回復することは考えにくいであろうから、比較的最近のところで購入したゴルフ会員権に限定して検討すれば足りると思われる。   3 売却判断の流れ(フローチャート) ここまで検討してきた内容をまとめると、以下のようになる。 判断の参考にしていただければ幸いである。 (連載了)
#55(掲載号)
#内山 隆一
2014/02/06
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