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〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第23回】「平均在院日数の計算方式の見直し及び1入院包括払いの適用」
〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第23回】 「平均在院日数の計算方式の見直し及び 1入院包括払いの適用」 東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕 1 平均在院日数短縮の重要性 急性期病院にとって、集中治療を行い平均在院日数の短縮を図ることは大切な取組みである。平均在院日数の短縮は入院診療単価の向上をもたらし、経済性の向上のためにも不可欠である。 このことはDPC/PDPSにおける点数設定に如実に反映されており、さらに機能評価係数Ⅱで高い評価を受けるためにも、平均在院日数の短縮は必須である。 機能評価係数Ⅱで在院日数の評価が行われているものとしてはじめに思い浮かぶのが効率性係数だが、地域医療係数における定量評価指標についても、地域の中でのシェアが評価されている。 地域への貢献が評価された地域医療係数を高めるためには、在院日数を短縮し病床回転率を高めることが必要である。さらに、カバー率係数、複雑性係数、効率性係数で評価の対象になるのは年間12症例以上ある診断群分類のみであるが、このハードルは予想以上に高い。 病床規模及び回転率にもよるが、概ね20~30%程の診断群分類のみが評価されており、頻出するもののうちの一部しか評価されていない。年間12症例以上のハードルをクリアするためには、在院日数を短縮し、次の新入院患者を受け入れる体制を整備しなければならない。 平均在院日数を短縮すると病床利用率が低下するため、明確に在院日数短縮を目標として掲げることはできないという病院経営層もいる。 何よりも病床利用率が大切だというのである。 病床が埋まっていればいいという考え方については、適切なたとえではないかもしれないが、喫茶店の経営において、コーヒー一杯しか頼まないが長時間居座る客でも、大勢いれば安心するという考え方と似通っている。 もちろん喫茶店ならば、そのようなそのような顧客でも足しげく通ってくれる常連は大切にすべきであろう。しかし、保険医療機関として、さらに急性期病院としてその姿勢でいいのか、改めて考え直す必要がある。 急性期を志向するならば病床利用率を重視する姿勢を是正すべきであり、仮に病床利用率が下落してでも平均在院日数の短縮を図っていくことが望ましいと筆者は考えている。ただし、それでは固定費が多くを占める病院において経済的に破たんしかねない。 そこで、目標として掲げるべきなのは新入院患者数であり、急性期病院ならば病床回転率が2回転以上になるよう効率的な病床運営を行うことが期待される。 2 平均在院日数算定方式変更の影響 平均在院日数の短縮に関するインセンティブが数々設けられているにもかかわらず、「病床」という既得権を持った病院は、相変わらず病床利用率を重視する姿勢を変えない。 この状況に対して、ついに政策も方針転換を図る方向に舵を切った。 この議論は、当初2万床を想定して新設したものの35万床を超えるまで増大した7対1入院基本料の絞込みの議論の一施策として展開されている。 現在、平均在院日数の算定は、90日超えなどの特定除外患者を除き原則としてすべての入院患者が評価の対象となっている。この方式では、白内障やEMRなどの短期滞在手術が多い病院や前立腺生検などの検査入院が多い病院では平均在院日数が短くなる。 このような病院は見かけ上、平均在院日数が短いだけであり、急性期病院らしく重篤な患者を受け入れて集中治療を行った結果として在院日数が短いわけではない。平均在院日数は短くても、DPC/PDPSにおける効率性係数では決して高い評価は受けないであろうし、入院診療単価も同規模病院と比較して高い水準にはないだろう。 つまり、急性期機能が高いとはいえない。 そこで、厚生労働省の入院医療等の調査・評価分科会において4泊5日以内の短期手術等の症例を除いて平均在院日数を算定しようという報告がなされており、2014年度の診療報酬改定で実現する可能性が高い。短期手術・検査等を計算式から外した場合、全国平均では0.6日の平均在院日数が延びるという報告がある。しかし、筆者が試算したところ、1日から4日程度平均在院日数が延びるケースが多いようである。 現行の診療報酬では、7対1入院基本料を届け出るためには18日以内の平均在院日数が求められているが、現在13.9日が全国平均であり、平均+1SDでも16.6日であるため、この基準はさらに短縮されるであろう。結果として、7対1入院基本料を算定する病床は減少する可能性もある。さらに、19程度の疾患については1入院包括払いを提供することも提案されている。 このような議論が展開されるに至ったのは、DPCの浸透によって診療内容の標準化が進んだことに加え、急性期病院で手術・検査等の外来化が急速に進んでいることが関係しているものと考えられる。特に2012年度診療報酬改定において、DPC対象病院を3つの医療機関群に分けたことの影響は大きい。 Ⅱ群病院ではすでに短期滞在手術・検査等を外来化していたところは少なくないし、Ⅲ群病院でもハードルが高かった手術1件当たり外保連手術指数や1日当たり包括範囲出来高平均点数である診療密度を高めるために、手術等の外来化に着手した医療機関は多数存在する。 今回の政策的な意図は「外来でできることは入院させないで治療する」ことが望ましく、すでに積極的に短期滞在手術・検査等の外来化を図り、入院病床をより重症患者のために活用する効率的な病床運用を行う医療機関を見習うように、とも捉えることができる。 入院が必要のない患者を空床になってしまうから、あるいは短期手術・検査等の患者は高額な室料差額を払ってくれるなどの病院の都合で入院させるのは、保険診療では許されることではない。時代の波に乗り遅れることなく、無理のない範囲で外来化を推進していく必要があると筆者は感じる。 ただし、外来化のためには回復室を充実させる必要がある医療機関も多く、また7対1入院基本料のために、病棟ばかりに重点的に看護師を配置してきた方針を変更する視点も求められるだろう。 3 短期滞在手術基本料のさらなる評価を 今後は診療報酬において、短期滞在手術基本料の評価が高まることが予想される。 短期滞在手術基本料1及び2は、届出が必要であるが、現状では全国で100病院程度しか届け出る医療機関はない。施設基準の緩和あるいは包括評価されている報酬等の見直しが行われれば、届け出る医療機関は増加するであろう。 外来で短期手術等を実施することは医療機関にとって大きな負担になり、その決断を行うことは容易ではない。 医療費抑制につながる施策を積極的に展開する医療機関の取組みに高い評価を期待したいところである。 (了)
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《速報解説》 医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の創設~平成26年度税制改正大綱~
《速報解説》 医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の創設 ~平成26年度税制改正大綱~ 税理士 小幡 修大 平成21年度税制改正において、中小企業法に定める中小企業者に対しては「取引相場のない株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予制度」が創設されたが、医療法人は適用対象外となっていた。 「地域医療を確保するには、医療機関の円滑な事業承継がさらに図られ、医業水準の維持向上が期待できるものであることが望ましい」との観点から、日本医師会から医療法人においても相続税及び贈与税の納税猶予制度が適用できるよう要望がされていた。 そこで、平成26年度税制改正大綱において、「医療継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度」の創設が明記された。 1 相続税の納税猶予制度 (1) 制度の概要 相続人が持分の定めのある医療法人の持分を相続又は遺贈により取得した場合において、その医療法人が相続税の申告期限において認定医療法人(仮称)であるときは、担保の提供を条件に、当該相続人が納付すべき相続税額のうち、当該認定医療法人の持分に係る課税価格に対応する相続税額については、移行計画(仮称)の期間満了まで、その納税を猶予する。 また、移行期間内に当該相続人が持分のすべてを放棄した場合には、猶予税額を免除する。 (注) 認定医療法人(仮称)とは、良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律に規定される移行計画(仮称)について、認定制度の施行の日から3年以内に厚生労働大臣の認定を受けた医療法人をいう。 【イメージ】 (2) 税額の計算 2 贈与税の納税猶予制度 (1) 制度の概要 持分の定めのある医療法人の出資者が持分を放棄したことにより他の出資者の持分の価額が増加することについて、その増加額(経済的利益)に相当する額の贈与を受けたものとみなして当該他の出資者に贈与税が課される場合において、その医療法人が認定医療法人(仮称)であるときは、担保の提供を条件に、当該他の出資者が納付すべき贈与税額のうち、当該経済的利益に係る課税価格に対応する贈与税額については、移行計画(仮称)の期間満了までその納税を猶予する。 また、移行期間内に当該他の出資者が持分のすべてを放棄した場合には、猶予税額を免除する。 【イメージ】 (2) 税額の計算 3 適用期間 上記1、2の改正は、移行計画(仮称)の認定制度の施行の日以後の相続若しくは遺贈又はみなし贈与に係る相続税又は贈与税について適用される予定となっている。 (了)
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「民法の一部を改正する法律」の成立について~民法900条4号前段但書(婚外子の差別相続規定)の削除~(更新)
「民法の一部を改正する法律」の成立について ~民法900条4号前段但書(婚外子の差別相続規定)の削除~ 平成25年9月4日の婚外子差別相続に係る最高裁違憲決定に基づき改正が審議されていた「民法の一部を改正する法律」が、12月5日に可決・成立しました。 この改正法は、公布の日から施行され、経過措置として平成25年9月5日以後に開始した相続について適用されます。 既掲載の関連記事等は以下の通りです。
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《速報解説》 相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(取得費加算の特例)の見直し~平成26年度税制改正大綱~
《速報解説》 相続財産に係る譲渡所得の課税の特例 (取得費加算の特例)の見直し ~平成26年度税制改正大綱~ 税理士 齋藤 和助 1 はじめに 会計検査院は平成24年10月に、相続財産である土地等の一部を譲渡した場合の取得費加算額が、平成5年改正により「その譲渡した土地等に対応する相続税相当額」から「その者が相続したすべての土地等に対応する相続税相当額」となっていることについて、特例を取り巻くその後の状況が大きく変化した結果、その必要性が著しく低下しているとし、本来の趣旨に沿ったより適切なものとするための検討を行うよう求めていた。 これを受け、「平成26年度税制改正大綱」において、取得費加算の特例の見直しが盛り込まれた。 2 改正の内容 大綱に盛り込まれた改正の内容は次の通りである。 なお、以下の2点のほかに、取得費加算における「適用対象者」「計算の基礎となる相続税額」「対象となる相続財産」などの現行の取扱いを法令に規定する旨が併せて記載されている。 (1) 土地等を譲渡した場合の取得費加算の特例 相続財産である土地等を譲渡した場合の特例について、当該土地等を譲渡した場合に譲渡所得の金額の計算上、取得費に加算する金額を、その者が相続したすべての土地等に対応する相続税相当額から、その譲渡した土地等に対応する相続税相当額とする。 (改正前) (改正後) (2) 取得費加算の特例の更正の請求期限 相続財産の譲渡に係る確定申告書の提出期限後に、当該相続財産の取得の基因となった相続に係る相続税額が確定した場合(相続税の期限内申告に限る)には、当該相続税の期限内申告書を提出した日の翌日から2月以内に限り、更正の請求により本特例の適用を受けることができることとする。 3 適用時期 上記2の改正は、「平成27年1月1日以後に開始する相続又は遺贈により取得した資産を譲渡する場合について適用する。」とされている。 なお、本改正による実務への影響等については、下記拙稿をご覧いただきたい。 (了)
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《速報解説》 給与所得控除の見直し(縮小)~平成26年度税制改正大綱~
《速報解説》 給与所得控除の見直し(縮小) ~平成26年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 先日(2013年12月12日)、与党による「平成26年度税制改正大綱」が公表された。 所得税に関する改正事項は、「① 給与所得控除の見直し」「② 金融・証券税制」「③土地・住宅税制」「④ 租税特別措置等」「⑤ その他」に大きく区分される。 今回は、所得税に関するこれらの改正事項のうち、「給与所得控除の見直し(縮小)」について解説を行う。 1 給与所得控除の概要 給与所得の金額は、給与等の収入金額から給与所得控除額を差し引いて求められる(所法28②)。 この算式から明らかなように、給与所得控除は、所得税の課税ベースを自動的に引き下げる性質のものである。 2 見直しの背景 給与所得控除の現行の水準は、平均すると給与等の収入金額の30%程度を占めており、給与所得者が実際に負担している勤務関連支出と比べても、主要国の概算控除額との比較においても、その割合が高いと指摘されている。 そこで「平成26年度税制改正大綱」では、中長期的に主要国並みの控除水準とすることを目的として、給与所得控除の額を順次引き下げることが示されている。 3 見直しの概要 平成24年度の税制改正により、すでに平成25年分の所得税計算からは、給与所得控除に上限額が設定されている。給与等の収入金額が1,500万円を超える場合の給与所得控除額は、一律245万円である(所法28③六)。 詳しくは拙稿「〈平成25年分〉おさえておきたい年末調整のポイント【第1回】「給与所得控除の上限設定」」(本誌No.41掲載)をご覧いただきたい。 「平成26年度税制改正大綱」においては、当面の措置として、所得水準の比較的高い給与所得者を対象に追加の見直しが示されている。 具体的には、平成28年は、給与等の収入金額が1,200万円を超える場合の給与所得控除の上限が230万円となり、平成29年以後は、給与等の収入金額が1,000万円を超える場合の給与所得控除の上限が220万円となる。 平成25年分の所得税計算から適用されている改正内容と合わせると、次のように、段階的に給与所得控除の上限額が引き下げられることとなる。 〈各年における給与所得控除の上限額の推移〉 (注1) 個人住民税では、平成29年分に適用。 (注2) 個人住民税では、平成30年分以後に適用。 〈給与等の収入金額に対する給与所得控除額〉 ※一部抜粋 なお、給与所得控除の上限額が引き下げられることに伴い、下記についても所要の措置が講じられる。 4 改正の影響 この見直しによる所得税に対する影響額を試算すると、次の通りとなる(復興特別所得税を除く)。 ① 給与等の収入金額1,000万円以下の場合 ⇒影響なし ② 給与等の収入金額1,200万円の場合(所得控除の合計額を320万円と仮定) ③ 給与等の収入金額1,500万円の場合(所得控除の合計額を340万円と仮定) ④ 給与等の収入金額2,000万円の場合(所得控除の合計額を340万円と仮定) (了)
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《速報解説》 交際費課税の見直しについて(大企業への拡充等)~平成26年度税制改正大綱~
《速報解説》 交際費課税の見直しについて(大企業への拡充等) ~平成26年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 新名 貴則 自由民主党と公明党は、平成25年12月12日、「平成26年度税制改正大綱」を発表した。 この中で、消費税引上げに伴う消費拡大のための対策として、交際費課税の見直しが明記され、大企業にも50%の損金算入が認められる見通しとなった。 ここでは、その内容について解説する。 【現行の交際費課税(平成25年度末まで)】 (*) 資本金1億円以下の法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く) 【現行の中小企業の特例のイメージ】 上記のとおり、現行の交際費課税においては、資本金1億円超の大企業については、税務上の交際費等の損金算入は一切認められていない。これに対して、一定の中小企業については、特例として年間800万円までは損金算入が認められている。 「平成26年度税制改正大綱」では、以下の改正点が明記された。 (*) これらの見直しを加えた上で、交際費の損金不算入制度(措法61の4)そのものを2年間延長する。 〈①の改正について〉 これまで大企業は税務上の交際費等を一切損金算入できなかったが、改正後は飲食のために支出した交際費等の50%を損金算入できることになる。また、その損金算入額に上限は設定されない予定である。 ただし、あくまで「飲食のために」支出したものに限定されており、すべての交際費等の50%が損金算入されるわけではない点に注意が必要である。 また、飲食のための交際費等であっても、いわゆる社内接待費(専ら社内の役員や従業員等の接待等のための費用)についても、50%の損金算入は認められない。 【①のイメージ】 〈②の改正について〉 中小企業に認められている交際費課税の特例(800万円まで損金算入可能)の適用期限を、2年間延長する。 ただし、①との選択適用とされているので、有利な方を選択する必要がある。飲食での接待費が年間1,600万円を超える中小企業では、①を選択した方が、損金算入額が多くなる。 ◆ ◆ ◆ 最後に、交際費の損金不算入制度の適用期限は、平成26年3月31日までに開始する事業年度とされているが(措法61の4①)、上記①と②の改正を加えた上で2年間延長されることになる。 (了)
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《速報解説》 復興特別法人税の1年前倒し廃止~平成26年度税制改正大綱~
《速報解説》 復興特別法人税の1年前倒し廃止 ~平成26年度税制改正大綱~ 税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 石田 寿行 1 復興特別法人税の概要 経済の好循環を早期に実現する観点から、「平成26年度税制改正大綱」により復興特別法人税が1年前倒しで廃止されることとなった。 復興特別法人税は、東日本大震災からの復興を図るために必要な財源を確保するため平成24年度税制改正により創設され、平成24年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する各事業年度について、法人税額に10%を上乗せする制度である。 今回の改正で1年前倒しで廃止されることにより、平成26年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する事業年度については復興特別法人税が課税されないこととなる。 改正前と改正後の税率は以下の通りとなる。 〈改正前〉 〈改正後〉 (※1) 期末の資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下の普通法人その他一定の法人 (※2) 平成27年4月1日以後開始事業年度については19%(本則) 2 改正後のタイムテーブル 本改正によるタイムテーブルを示すと、以下のようになる。 〈法人税率〉 〈中小法人軽減税率〉 (了)
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《速報解説》 国税不服申立制度の見直し~平成26年度税制改正大綱~
《速報解説》 国税不服申立制度の見直し ~平成26年度税制改正大綱~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 1 はじめに 去る12月12日に公表された与党による「平成26年度税制改正大綱」は、133ページにわたる大部のものである。 その中において、本稿で取り上げる「国税不服制度の見直し」に言及した部分はわずか20行あまりであるが、見直しが実現すれば、実務面においては大きな影響のある内容となっている。 2 不服申立前置主義の見直し 大きく見直されたのは、以下の3点である。 もともと、「異議申立て」と「審査請求」という二重の前置主義に対しては、納税者側からの批判も多かったところであるが、本見直しにおいて、“異議申立て前置”という縛りを外し、直接不服審査請求を行うことも可能にすることにより、納税者に選択権を与えたことは、申立期間の1ヶ月延長とともに、納税環境整備の一環として評価できる。 3 国税不服審判手続の見直し 大きく見直されたのは、以下の2点である。 これまで、審査請求人が閲覧(閲覧のみで謄写は不可)できる証拠は、処分庁が提出したものに限られており、審判官が職権で収集した資料を見ることができなかった。 その結果、処分庁は提出書類をなるべく減らし、審判を優位に進めようとする傾向にあったが、今回の見直しが実現すれば、そうした情報の非対称性が緩和され、審査請求人がより効果的な主張・立証を行えるようになると考えられる。 また、審査請求人が審判官に対して口頭で意見を陳述するだけの現在の審判手続に、処分庁に対して質問できる権利を通則法上で整備することによって、国税不服審判所の目指す「納税者の正当な権利利益の救済を図る」という役割が、これまで以上に増すことが期待できよう。 4 国税不服審判所長による通知 国税通則法99条によれば、これまで、通達と異なる法令の解釈による裁決には、国税不服審判所長が、国税庁長官にあらかじめ意見を申し出なければならず、国税庁長官は、国税審議会の議決に基づいて指示を行うとされてきた。 これを本見直しでは、国税不服審判所長は、国税庁長官にあらかじめ意見を通知すればよく、その後、国税庁長官と国税不服審判所長は、連名で、国税審議会に諮問、国税不服審判所長はその議決に基づいて裁決することになる。 2011年11月に財務省が行政救済制度検討チームに提出した資料によれば、これまで、国税不服審判所長の申出はわずか9件に過ぎず、実質的に機能してこなかった通則法99条は、国税不服審判所が国税庁から独立していないことの証左の一つとされてきた。 この見直しが実現すれば、国税不服審判所長は、これまでよりも通達に縛られずに判断が可能となる可能性が高まるかもしれない。 5 適用時期 上記2及び3の見直しについては、「改正行政不服審査法の施行の日から適用する」とされているが、行政不服審査法の改正については、6月21日に、総務省が発表したリリースにおいて、「次期通常国会への法案提出を目指します」と記されているのみで、具体的な施行日付までは明らかになっていない。 また、上記4の見直しについても、改正及び施行時期について、大綱には言及されていない。 (了)
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《速報解説》 税理士制度の見直し~平成26年度税制改正大綱~
《速報解説》 税理士制度の見直し ~平成26年度税制改正大綱~ 弁護士 木村 浩之 1 はじめに 平成26年度税制改正大綱では、納税環境整備の一環として、その重要な役割を担う税理士制度の見直しが盛り込まれている。 税理士は、税務に関する専門家として、「独立した公正な立場において、申告納税制度の理念に沿って、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする」とされており(税理士法1条)、今回の改正では、このような税理士の公共的使命に照らして、その業務をより適正に遂行するための所要の整備がなされることになる。 以下では、主な改正の内容について概説することとしたい。 2 改正の概要 (1) 税理士業務に関するもの 税理士には、「開業税理士」と「補助税理士」があり、補助税理士については、他の税理士又は税理士法人の補助者として常時税理士業務に従事する税理士であることから、その所属する税理士等が委嘱を受けた事案について、自らの名において税理士業務を行うことができるが、納税者等から直接委嘱を受けて税理士業務を行うことはできないとされている。 今回の改正では、これをより柔軟にして、その所属する税理士等の承諾を得て、納税者等から直接委嘱を受ける場合の手続が定められることになる。 この改正については、平成27年4月1日から適用される予定である。 (2) 税理士資格の取得に関するもの 弁護士及び公認会計士については、自動的に税理士となる資格が付与されている(税理士法3条1項3号4号)。 これについては、日本税理士会連合会が一定の要件を課すべきであるとの要望をしており、これに対して日本弁護士会連合会及び日本公認会計士協会が反対をしていたことは最近のニュースにもなっていた。 今回の改正では、日本税理士会連合会の意見を一部採り入れる形で、公認会計士に係る資格付与については、一定の税法に関する研修を受講する必要があるものと変更されることになる。 この改正については、現在の有資格者及び当面の受験予定者に配慮して、平成29年4月1日以後に公認会計士試験に合格した者について適用されることになる。 (3) 税理士の信頼性確保に関するもの 以上の改正のほか、税理士の信頼性を確保するために、次のような改正がなされることになる。 これらの改正については、平成27年4月1日から適用される予定である。 (了)
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《速報解説》「租税特別措置法(相続税法の特例関係の取扱いについて)の一部改正について(法令解釈通達)」の公表について~小規模宅地等の評価減特例に関する取扱い~
《速報解説》 「租税特別措置法(相続税法の特例関係の取扱いについて)の 一部改正について(法令解釈通達)」の公表について ~小規模宅地等の評価減特例に関する取扱い~ 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 【はじめに】 平成25年11月29日付で、国税庁から「「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」の一部改正について(法令解釈通達)」が公表された(以下、通達改正と呼ぶ)。これは平成25年度税制改正における相続税の小規模宅地特例の改正に関連する通達改正である。 平成25年度税制改正での小規模宅地特例の改正は、以下の4項目となる(平成25年度税制改正の大綱)。 今回の通達改正は、69-4-10(選択特例対象等のうちに貸付事業用宅地等がある場合の限度面積要件)の改正以外は上記の(3)(4)に関連するものである。したがって、改正通達の適用時期については、平成26年1月1日以後に相続・遺贈により取得をする財産に係る相続税について適用される。 ただし、改正通達のうち、69-4-10(選択特例対象等のうちに貸付事業用宅地等がある場合の限度面積要件)についてのみ、平成27年1月1日以後に相続・遺贈により取得をする財産に係る相続税について適用される。 これらの適用時期は、上記(1)(2)(3)(4)に適用時期にあわせる形となっている。 以下、通達改正につき、個別にみていくこととする。 【措通69の4-7】(被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の範囲) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 平成25年度税制改正により、被相続人が老人ホームへ入所した場合でも一定の要件を満たしていれば自宅土地につき小規模宅地特例が認められるようになった(上記(4))。 これに関連して、相続時点では被相続人の居住の用に供されていない土地でも、上記(4)の要件を満たしている土地については、小規模宅地特例の適用対象となることが、改正通達69の4-7(2)に明記された。 なお、平成25年度税制改正により、二世帯住宅については、(区分所有以外については、家屋の構造にかかわらず)その敷地のうち被相続人及びその親族が居住していた部分に対応する部分が適用対象とされたため、改正通達69の4-7(注)にて、(被相続人の居住の用に供された部分だけでなく)被相続人の親族の居住の用に供された部分についても、小規模宅地特例の適用対象となることが明記された。 ここで「被相続人の親族の居住の用に供されていた部分」の「被相続人の親族」であるが、相続人に限定されてはいないため、相続人ではない(被相続人の民法上の)親族が居住している部分についても、小規模宅地特例の適用対象に含まれると判断される。 【措通69の4-7の2】(要介護認定等の判定時期) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 平成25年度税制改正により、被相続人が老人ホームへ入所した場合でも、一定の要件を満たしていれば、自宅土地につき小規模宅地特例が認められるようになった(上記(4))。 この一定の要件の1つに、「被相続人に介護が必要なため入所したものであること」がある。 改正された租税特別措置法及び同施行令では明確にはされていないが、改正通達69の4-7の2において、介護が必要であったか否か(具体的には、要介護・要支援認定、障害支援区分認定を受けていたかどうか)の判断は、被相続人の相続の開始の直前において行うことが明記された。 平成25年度税制改正の大綱では「被相続人に介護が必要なため入所したものであること」とあるため、民間老人ホーム等へ入居する時点において介護が必要(具体的には、要介護・要支援・障害支援区分認定をうけること)と考えることもできるが、改正通達では、そうではなく、相続の開始の直前の状況で判断することが明記された。 つまり、老人ホーム等へ入居する時点では、介護が必要でない(要介護・要支援・障害支援区分認定のいずれも受けていない)場合でも、その後において相続発生前までに介護が必要な状況になれば(要介護・要支援・障害支援区分認定を受ければ)、この要件を満たしていると判断されることとなる。 【措通69の4-7の3】(建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 平成25年度税制改正により、二世帯住宅については、その敷地のうち被相続人及びその親族が居住していた部分に対応する部分が適用対象とされた。 ただし、改正された租税特別措置法施行令40条の2第10項で、被相続人の自宅建物が「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」か否かにより、この二世帯住宅に対する小規模宅地特例の適用要件が異なることとされている。 被相続人の自宅建物が「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」に該当する場合には、被相続人の居住していた独立部分に、当該自宅土地を相続・遺贈で取得する親族が、生前から居住(同居)していることが小規模宅地特例の適用要件となる。 被相続人の自宅建物が「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」に該当しない場合には、被相続人の居住していた独立部分に、当該自宅土地を相続・遺贈で取得する親族が、生前から居住(同居)していることまでは要件とされておらず、当該建物に(被相続人の居住する独立部分だけでなく、同一建物のその他の独立部分のどこかにでも)、当該自宅土地を相続・遺贈で取得する親族が、生前から居住していることが、小規模宅地特例の適用要件とされている。 具体的には、二世帯住宅(玄関などすべてが分離されている構造のものを想定)について、各独立部分に被相続人、相続人が住んでいるケースで検討すると、 つまり、被相続人の居住していた自宅建物が「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」に該当するか否かで、小規模宅地特例の適用について大きな影響が生じる可能性がある。 したがって、「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」の定義が、小規模宅地特例の適用上、非常に重要となる。 建物の区分所有等に関する法律第1条には とあり、「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」の定義としては、「一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができる建物」と判断される。 このように解釈すると、区分所有登記されていなくても、区分所有登記できる建物については、「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」に含まれると解釈される余地がある。 そうなると、二世帯住宅のうち完全分離型タイプのものは、中で行き来できるものでも、「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」に該当するものが相当程度発生する可能性があり、それらについては結果として、小規模宅地特例が適用できなくなるケースが大半と推測される。 ただし、この「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」の定義については、「通常は区分所有建物である旨の登記がされている建物」に限定される旨の解釈が、財務省立法担当者により示されている(「平成25年度税制改正の解説」p.589 )。 改正通達69の4-7の3においても、財務省立法担当者の解釈と同趣旨のことが明記された。 【措通69の4-9】(店舗兼住宅等の敷地の持分の贈与について贈与税の配偶者控除等の適用を受けたものの居住の用に供されていた部分の範囲) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 平成25年度税制改正により、参照条文番号が変更となったため、変更されている。 【措通69の4-10】(選択特例対象宅地等のうちに貸付事業用宅地等がある場合の限度面積要件) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 平成25年度税制改正により、小規模宅地特例(特定居住用宅地等)の適用限度面積が増加し(上記(1))、特定居住用宅地等と特定事業用等宅地等の併用適用が可能となった(上記(2))。ただし、貸付事業用宅地等と併用適用する場合には、従前どおり、適用面積の調整計算が必要であるため、改正通達69の4-10において算式が示されている。 なお、算式の意味するところであるが、特定事業用等宅地等(400㎡)、貸付事業用宅地等(200㎡)、特定居住用宅地等(330㎡)のそれぞれにつき、適用上限面積が異なるため、適用面積の調整を行っているものである。 【措通69の4-13】(不動産貸付業等の範囲) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 平成25年度税制改正により、参照条文番号が変更となったため、変更されている。 【措通69の4-21】(被相続人の居住用家屋に居住していた親族の範囲) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 69の4-21は改正前、同居親族が自宅土地を相続する場合(租税特別措置法69条の4第3項イ)及びいわゆる「家なき子」(租税特別措置法69条の4第3項ロ)の解釈通達という位置付けであった。 平成25年度税制改正により、一棟の建物(区分所有建物以外)内に、相続・遺贈でその敷地を取得する親族が居住していれば、被相続人及びその親族が居住する部分は小規模宅地特例の適用対象となったため、同居親族が自宅土地を相続する場合(租税特別措置法69条の4第3項イ)に、同居か否かについて特にその解釈は不要になったと考えられる。 したがって、69の4-21は、「家なき子」(租税特別措置法69条の4第3項ロ)の解釈通達という位置付けへ改正された。 「家なき子」の適用要件の一つに、 ことがある。 「被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族」の定義ついて、改正された69の4の21で解釈が示されているが、二世帯住宅のように複数の独立部分がある場合には、被相続人が居住していた独立部分において、被相続人と共に起居していた親族をいうことが示されている。 同居親族が自宅土地を相続する場合(租税特別措置法69条の4第3項イ)の同居判定は、区分所有登記されていない建物であれば、一棟の建物内に居住しているか否かで実質的に判断される一方、「家なき子」(租税特別措置法69条の4第3項ロ)の同居親族要件(同居親族がいる場合には「家なき子」として小規模宅地特例は適用できない)では、被相続人の居住する独立部分に居住(同居)しているか否かで判断されることとされているため、改正前後で「家なき子」の適用できるケースが大きく異なる可能性があると思われる。 具体的には、改正前よりも、より多くのケースで「家なき子」として小規模宅地特例の適用できる可能性があると思われるが、これについては別の機会に検討することとしたい。 (了)