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〔理解を深める〕研究開発税制のポイント整理 【第3回】「試験研究の範囲・試験研究費の範囲」
〔理解を深める〕 研究開発税制のポイント整理 【第3回】 「試験研究の範囲・試験研究費の範囲」 税理士法人山田&パートナーズ 税理士 吉澤 大輔 1 はじめに 本連載の第1回は研究開発税制の制度概要と改正の変遷を、第2回は具体的な計算方法におけるポイントを解説してきた。 今回からは、研究開発税制の適用にあたり、実務上留意すべき点を解説していく。 2 実務上の留意点 研究開発税制を適用するにあたり実務上留意すべき点は、税額控除の対象となる「試験研究費」に関する次の3点である。 今回は(1)(2)に関する一般的な試験研究費の考え方を解説し、(3)は次回解説する。 3 試験研究の範囲 試験研究費の範囲を述べる前に、まず「試験研究」の範囲を整理することが必要である。 「租税特別措置法42条の4第12項1号 試験研究費の意義」では、税額控除の対象となる試験研究費の「試験研究」を「製品の製造に関する試験研究」「技術の改良・考案・発明に関する試験研究」としている。 そのため、それぞれの試験研究に該当する支出であれば、当該試験研究の内容が、例えば製品の改良試験等の通常の試験研究又は開発的な試験研究であったとしても、その内容を問わず当該支出のすべてが税額控除の対象となる試験研究費の「試験研究」に該当することになる。 また、試験研究に該当する支出を基礎研究、応用研究、工業化研究のいずれかの段階で支出した場合においても、当該支出は税額控除の対象となる試験研究費の「試験研究」に該当することになる(旧昭和28.12.16直法1-136通達参照※)。 ※昭和28.12.16直法1-136通達は、昭和44年の法人税法基本通達の全文改正の際に「法基通5-1-4」を新たに定めたことから、廃止された。 しかしながら、経営組織改善のための考案や販売技術の改良のように、製品の製造、技術の改良・考案・発明に関連のない試験研究は、税額控除の対象となる試験研究費の「試験研究」には該当しない。ただし、これらの支出が税額控除の対象となる試験研究費の「試験研究」に該当するか否かを判断する基準は、税務上明らかにされていない。 したがって、実務においては、一般的常識に従ってその判断をすることになる。 4 試験研究費の範囲 試験研究費の範囲は、租税特別措置法施行令27条の4第6項において次のように定められている。 試験研究費の範囲における「人件費」の意義は、実務上留意すべき点の一つとして挙げられる。 そこで本稿においては、「人件費」の意義を解説していく。 (1) 人件費について 措通42の4(1)-3には「人件費」の意義が定められている。 この通達は昭和53年に改正されており、改正前の旧措通42の3-1では「人件費」を次のように定めていた。 昭和53年の改正後、現行の措通42の4(1)-3では「人件費」を次のように定めている。 上記のように、昭和53年の改正により「専ら試験研究の業務に従事する者」から「専門的知識をもって試験研究の業務に専ら従事する者」に改められた。 これにより、企業内の独立した研究所の事務職員等の人件費は試験研究費の対象外とされ、研究を統括する管理職や専門的知識を有する研究補助者の人件費が試験研究費の対象になった。 (2) 「専ら」について 措通42の4(1)-3の「・・・専門的知識をもって試験研究の業務に専ら従事する者・・・」における「専ら」の要件に関しては、下記の取扱いが国税庁から発遣されている(国税庁「試験研究費税額控除制度における人件費に係る「専ら」要件の税務上の取扱いについて(通知)」)。 次回も引き続き、実務上の留意点について解説する。 (了)
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交際費課税Q&A~ポイントを再確認~ 【第8回】「交際費と給与を区別する」
交際費課税Q&A ~ポイントを再確認~ 【第8回】 「交際費と給与を区別する」 公認会計士・税理士 新名 貴則 会社が事業を行うに当たり、本来自社の役員や使用人が負担すべき費用を、会社が負担することがある。 このとき、この支出を「交際費等」として扱うのか「給与」として扱うのかで、課税関係が異なる。 交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人がその得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいう(措法61の4③)。 これに対して「給与」とは、勤務先から受ける給料、賞与などの所得をいう。 これには金銭で支給されるもののほか、給与支払者から受けた次のような「経済的利益」も含まれる。 役員や使用人が本来負担すべき費用を法人が負担した場合、税務上は交際費等と判断されると、原則として損金には算入されなくなる。 資本金1億円以下の法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く)は下図のとおり損金に算入されるが、上限を超える部分についてはやはり損金に算入されない。 【平成25年度税制改正後の中小企業の交際費等の取扱い】 これに対して、税務上は給与であると判断されると損金には算入されるが、給与所得として所得税の源泉徴収が必要となる。また、対象が役員である場合は定期同額給与や事前確定届出給与に該当しない限り、損金には算入されない。 このように「交際費等」となるか「給与」となるかで課税関係の違いが生じるので、実務において適切に判断を行う必要がある。 ここで、役員や使用人に対する次のような支給は、交際費等ではなく給与として扱うこととされている(措通61の4(1)-12)。 したがって、対象が使用人であれば当然に損金に算入され、役員であれば定期同額給与等に該当すれば損金にされることになる。また、役員か使用人かを問わず、所得税の源泉徴収が必要となる。 昼食代等の50%以上を本人から徴収している場合は、所得税は非課税となる(法人の負担額が月額3,500円を超える部分は課税)(所基通36-38の2)。 通常の勤務時間外の勤務として、残業や宿日直を行った者に支給する食事代も、所得税は非課税となる(所基通36-24)。 使用人等に対する値引き販売であっても、次の要件をすべて満たす場合は、所得税は非課税となる(所基通36-23)。 いわゆる「渡切り交際費」といわれるものである。 使用人に対する支給であれば問題なく損金に算入されるが、役員に対する支給である場合は注意が必要である。 この渡切り交際費についても定期同額給与等の要件を満たす場合のみ、損金に算入されることになる。 (了)
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〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載34〕 会社分割により退職給付債務を移転する場合の税務処理
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載34〕 会社分割により退職給付債務を 移転する場合の税務処理 公認会計士・税理士 有田 賢臣 Q 当社(P社)は、分社型分割により完全子会社(S社)を新設し、S社へ引き継ぐ従業員に係る退職給付債務をS社に移転する予定です。 この移転の税務処理に関して注意すべき点をご教授下さい。 A 適格分割の場合、P社において、移転する退職給付債務相当額を損金の額に算入する余地はなく、S社において、退職給付債務を負債として引き継ぐこともない。 非適格分割の場合、P社において、移転する退職給付債務相当額を譲渡損失として損金の額に算入し、S社において、退職給与負債調整勘定を計上する。 解 説 1 退職給付債務に係る税務処理 平成14年度税制改正により退職給与引当金制度は廃止されており、通常の事業年度において増減する退職給付債務は、税務上、負債として認識されていない。 ただし、平成18年度税制改正により「非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の損金算入制度」が創設されたため、非適格合併等により移転を受ける事業に係る退職給付債務に限り、税務上、退職給与負債調整勘定(又は差額負債調整勘定)として負債に計上されている。 なお、非適格合併等とは、適格合併に該当しない合併又は適格分割に該当しない分割、適格現物出資に該当しない現物出資若しくは事業の譲受けのうち事業及びその事業に係る主要な資産又は負債のおおむね全部を移転するものをいう(法法62の8①、法令123の10①)。 2 適格分割で退職給付債務を移転する場合の税務上の取扱い (1) 分割法人 実質的な負債である退職給付債務を移転する場合、移転しない場合に比して退職給付債務の額を反映して分割対価が低くなっているが、適格分割の場合には、分割法人において移転する資産及び負債の譲渡損益は計上されないので、分割法人において、この退職給付債務に相当する金額を損金の額とする余地はない。 (2) 分割承継法人 適格分割の場合には、分割法人の負債が帳簿価額のまま分割承継法人に引き継がれることとなるが、退職給付債務のように税務上の負債となっていないものに関しては、分割承継法人に引き継がれることはない。 次の設例を用いて、適格分割により退職給付債務を移転した場合の会計上・税務上の処理及び別表5(1)の記載方法を説明する。 ① 分割法人(P社) 〈会計上の処理〉 単独新設分割により子会社を設立した場合の分割法人の会計処理は、共通支配下の取引として処理される(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(以下「企業結合指針」)260項)。 退職給付債務は、会計上、退職給付引当金の勘定科目で負債に計上されており、その帳簿価額をもって移転の処理が行われる。 設例による会計上の仕訳は、次のとおりである。 〈税務上の処理〉 適格分割(分社型分割)により交付を受けた分割承継法人(S社)の株式の取得価額は、その直前の移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算した金額となる(法令119①七)。退職給付債務は税務上の負債でないため、この移転負債には含まれない。 設例による税務上の処理を仕訳の形態で示すと、次のとおりである。 〈申告調整〉 【設例】による税務上の申告調整を仕訳の形態で示すと、次のとおりとなる。 会計上の仕訳と税務上の仕訳の差異から申告調整仕訳が作成される。 〈別表5(1)の記載方法〉 別表5(1)の記載にあたっては、この申告調整仕訳について、各勘定科目の相手科目を「利益積立金額」にして分解すると分かりやすい。 ⇒この仕訳から、区分名を「S社株式」として利益積立金額の「増③」欄に600と記載すれば良いことが分かる。 ⇒この仕訳から、区分名を「退職給付引当金」として利益積立金額の「減②」欄に600と記載すれば良いことが分かる。 別表5(1)Ⅰ 利益積立金額の計算に関する明細書 ② 分割承継法人(S社) 〈会計上の処理〉 単独新設分割により子会社を設立した場合の分割承継法人の会計処理は、共通支配下の取引として処理される(企業結合指針261項)。 分割法人から受け入れる資産及び負債は、分割期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。増加すべき払込資本(資本金、資本準備金、その他資本剰余金)の内訳は、会社計算規則49条に基づき決定する。 設例による会計上の仕訳は、次のとおりである。 〈税務上の処理〉 適格分割(分社型分割)により移転を受けた資産・負債の取得価額は、その適格分割(分社型分割)の直前の分割法人における帳簿価額となる(法令123の4)。資本金等の額については、分割法人の適格分社型分割の直前の移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算した金額に相当する金額だけ増加する(法令8①七)。退職給付債務は税務上の負債でないため、この移転負債には含まれない。 設例による税務上の処理を仕訳の形態で示すと、次のとおりである。 〈申告調整〉 設例による税務上の申告調整を仕訳の形態で示すと、次のとおりとなる。会計上の仕訳と税務上の仕訳の差異から申告調整仕訳が作成される。 〈別表5(1)の記載方法〉 別表5(1)の記載にあたっては、この申告調整仕訳について、各勘定科目の相手科目を「利益積立金額」にして分解すると分かりやすい。 ⇒この仕訳から、区分名を「退職給付引当金」として利益積立金額の「増③」欄に600と記載すれば良いことが分かる。 ⇒この仕訳から、区分名を「資本金等の額」として利益積立金額の「減②」欄に600と記載するとともに、区分名を「利益積立金額」として資本金等の額の「増③」欄に600と記載すれば良いことが分かる。 別表5(1)Ⅰ 利益積立金額の計算に関する明細書 別表5(1)Ⅱ 資本金等の額の計算に関する明細書 3 非適格分割で退職給付債務を移転する場合の税務上の取扱い (1) 分割法人 実質的な負債である退職給付債務を移転する場合、移転しない場合に比して退職給付債務の額を反映して分割対価が低くなっているため、非適格分割の場合には、分割法人において譲渡利益額の減少又は譲渡損失額の増加が生ずる。 (2) 分割承継法人 非適格分割においても、適格分割と同様に、分割承継法人において退職給付債務を負債として計上することはできないため、分割対価の額と移転資産及び移転負債の額との間には、この退職給付債務に相当する差額が生ずる。 分割承継法人に生ずるこの差額に関しては、分割承継法人が分割法人から引継ぎを受けた従業者に係る会社分割後の退職その他の事由により支給する退職給与の額につき、会社分割前における在職期間その他の勤務実績等を勘案して算定する旨を約し、かつ、これに伴う負担の引受け(退職給与債務の引受け)をした場合には、その会社分割の時における引継従業者に係る退職給付引当金の額に相当する金額が退職給与負債調整勘定の金額とされる(法法62の8②一、法令123の10⑦・⑨・⑩)。 なお、分割法人の役員についても退職給与債務引受けをした場合、その役員に係る役員退職慰労引当金の額は差額負債調整勘定の金額になるものと考えられる。 法人税法施行令123条の10第7項では、 と規定しており、退職給付引当金のみに限定されているため、そのように解さざるを得ないからである(詳しくは、『T&A master(No.515)』掲載予定の「非適格合併等における役員退職慰労引当金の取扱い」を参照のこと)。 先ほどの設例を用いて、非適格分割により退職給付債務を移転した場合の会計上・税務上の処理及び別表4と別表5(1)の記載方法を説明する。 ① 分割法人(P社) 〈会計上の処理〉 会計上、この会社分割は「共通支配下の取引」とされる。設例による会計上の仕訳は、次のとおりである。 〈税務上の処理〉 時価評価が適正に行われるとすれば、交付される分割承継法人株式の時価には、移転する退職給付債務額が反映されており、その一方で、退職給付債務は税務上の負債でないことから移転負債には含まれない。そのため、退職給付債務に相当する額が譲渡損失として認識される。 設例による税務上の処理を仕訳の形態で示すと、次のとおりである。 〈申告調整〉 設例による税務上の申告調整を仕訳の形態で示すと、次のとおりとなる。会計上の仕訳と税務上の仕訳の差異から申告調整仕訳が作成される。 〈別表4及び別表5(1)の記載方法〉 別表4及び別表5(1)の記載にあたっては、この申告調整仕訳について、各勘定科目の相手科目を「利益積立金額」にして分解すると分かりやすい。 ⇒この仕訳から、区分名を「非適格分割による移転資産等の譲渡損失額」として所得金額の「減算(留保)」欄に600と記載すれば良いことが分かる。利益積立金額については、貸借ともに600が計上されているため、結果的には変動させる必要はない。 ⇒この仕訳から、区分名を「退職給付引当金」として利益積立金額の「減②」欄に600と記載すれば良いことが分かる。 別表4 所得の金額の計算に関する明細書 別表5(1)Ⅰ 利益積立金額の計算に関する明細書 ② 分割承継法人(S社) 〈会計上の処理〉 会計上、この会社分割は「共通支配下の取引」とされる。設例による会計上の仕訳は、次のとおりである。 〈税務上の処理〉 非適格分社型分割による移転資産・移転負債の取得価額は、当該非適格分社型分割時の時価となる。退職給付債務は税務上の負債でないため、この移転負債には含まれない。 資本金等の額については、分割法人に交付した分割承継法人株式の当該非適格分社型分割時の時価だけ増加する(法令8①七)。時価評価が適正に行われるとすれば、分割法人に交付した分割承継法人の株価には、移転を受ける退職給付債務額が反映されている。 結果として、移転を受ける退職給付債務額について貸方差額が生じる。当該貸方差額は、退職給与負債調整勘定として計上される。 設例による税務上の処理を仕訳の形態で示すと、次のとおりである。 〈申告調整〉 設例による税務上の申告調整を仕訳の形態で示すと、次のとおりとなる。会計上の仕訳と税務上の仕訳の差異から申告調整仕訳が作成される。 〈別表5(1)の記載方法〉 別表5(1)の記載にあたっては、この申告調整仕訳について、各勘定科目の相手科目を「利益積立金額」にして分解すると分かりやすい。 ⇒この仕訳から、区分名を「退職給付引当金」として利益積立金の「増③」欄に600と記載すれば良いことが分かる。 ⇒この仕訳から、区分名を「退職給与負債調整勘定」として利益積立金の「減②」欄に600と記載すれば良いことが分かる。 別表5(1)Ⅰ 利益積立金額の計算に関する明細書 別表5(1)Ⅱ 資本金等の額の計算に関する明細書 (了)
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経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第17回】工事契約会計①「工事契約の収益認識」
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第17回】 工事契約会計① 「工事契約の収益認識」 仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広 〈事例による解説〉 受注から完成・引渡しまでの発生原価は、以下のとおりです。 〈会計処理〉 ① 完成工事高及び完成工事原価の計上(×1年3月期) (*1) 1,000百万円×180百万円/900百万円=200百万円 (*2) 諸口には材料費、労務費、経費等が含まれます。 ② 完成工事高及び完成工事原価の計上(×2年3月期) (*3) 1,000百万円×630百万円/900百万円-200百万円=500百万円 ③ 完成工事高及び完成工事原価の計上(×3年3月期) (*4) 1,000百万円-(200百万円+500百万円)=300百万円 〈会計処理の解説〉 工事契約とは、仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、土木、建築、造船や一定の機械装置の製造等、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行うものをいいます。したがって、工事契約には一般的な土木、建築工事の請負契約だけではなく、ソフトウェア開発などの請負契約も含まれます。 工事契約等における工事収益及び工事原価の認識基準には、「工事進行基準」と「工事完成基準」があります。 工事進行基準とは、工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗度を合理的に見積もり、これに応じて当期の工事収益及び工事原価を計上する方法のことをいいます。 これらを計算式で示すと、以下のようになります。 工事進捗度は、工事の進捗割合を合理的に反映する方法を用いて見積もります。一般的には原価比例法が用いられますが、より合理的に工事進捗度を見積もる方法があれば、原価比例法以外の方法も認められます。 工事進行基準は、適切な工事収益総額、工事原価総額及び工事進捗度の見積りができなければ適用できません。したがって、工事進行基準の適用は、これら3つの要素について信頼性をもった見積りを可能とする内部統制を構築することが前提となります。 工事収益総額、工事原価総額及び工事進捗度について、信頼性をもった見積りができない場合は、工事完成基準に基づき、工事が完成し、顧客に引渡しが完了した時点で完成工事高と完成工事原価を計上することとなります。 次回は、契約変更があった場合の会計処理について解説します。 (了)
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税効果会計を学ぶ 【第17回】「連結財務諸表における税効果会計の取扱い②」~子会社の資産及び負債の時価評価による評価差額
-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。 税効果会計を学ぶ 【第17回】 「連結財務諸表における 税効果会計の取扱い②」 ~子会社の資産及び負債の時価評価による評価差額 公認会計士 阿部 光成 資本連結における子会社の資産及び負債の時価評価による評価差額について、連結財務諸表における税効果会計の取扱いを述べる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 資本連結手続に関する会計処理 「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号。以下「資本連結実務指針」)は、連結貸借対照表の作成に当たり、支配獲得日において、取得した株式に係る子会社の資産及び負債を時価により評価すると規定している(資本連結実務指針11項)。 この時価評価額と当該資産及び負債の個別貸借対照表上の金額との差額については、資産及び負債の帳簿価額の修正額として計上するとともに、その純額を評価差額として子会社の資本に計上すると規定している(ただし、個別財務諸表において資本又は損益に計上されたものを除く(「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(以下「連結税効果実務指針」)21項))。 当該評価差額は親会社の投資と子会社の資本との相殺消去及び少数株主持分への振替により全額消去されるが、評価対象となった子会社の資産及び負債の連結貸借対照表上の価額と個別貸借対照表上の資産額及び負債額との間に差異が生じる。この差異は、連結財務諸表固有の一時差異に該当する(連結税効果実務指針3項)。 Ⅱ 子会社の資産及び負債の時価評価による評価差額 1 一時差異と税効果 前述のように、取得された会社の個別財務諸表では、資産及び負債の価額は帳簿価額に基づいているが、連結財務諸表では時価評価されることから、税効果会計上、一時差異が生じることになる。 連結財務諸表固有の一時差異については、連結財務諸表上、税効果会計を適用し、当該一時差異について繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しなければならない。 この場合、当該税効果額は法人税等調整額に計上せずに直接評価差額から控除することから、評価差額の残高は当該税効果額を控除した後の金額となる(資本連結実務指針11項、連結税効果実務指針24項)。 2 子会社の資産の評価減のケース 例えば、子会社の棚卸資産を考えてみると、時価評価を行ったところ、時価が帳簿価額よりも低かった場合には、子会社の個別貸借対照表上の棚卸資産額は帳簿価額のままであるので、時価との差額が将来減算一時差異となる。 そこで、子会社の棚卸資産を時価評価した時点で評価減に対応する税効果額を繰延税金資産に計上する一方、相手勘定は評価差額として処理される。 なお、棚卸資産の販売年度には当該繰延税金資産を取り崩し、当該取崩額を法人税等調整額に借方計上する。これにより、個別損益計算書の利益額と連結損益計算書の利益額の調整が図られることになる。 3 子会社の資産の評価増のケース 例えば、子会社の所有する土地を考えてみると、時価評価を行ったところ、時価が帳簿価額よりも高かった場合には、子会社の個別貸借対照表上の土地の価額は帳簿価額のままであるので、時価との差額が将来加算一時差異となる。 そこで、子会社の土地を時価評価した時点で評価増に対応する税効果額を繰延税金負債に計上する一方、相手勘定は評価差額として処理される。 なお、土地の売却年度には当該繰延税金負債を取り崩し、当該取崩額を法人税等調整額に貸方計上する。これにより、個別損益計算書の利益額と連結損益計算書の利益額の調整が図られることになる。 (了)
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競業避止規定の留意点 【第1回】「競業避止規定の重要性」
競業避止規定の留意点 【第1回】 「競業避止規定の重要性」 特定社会保険労務士 大東 恵子 昨今、1990年代から2000年代にかけて、円高や平成不況、リーマンショックなどの影響により企業の売上が低下し、人件費の圧迫過剰雇用に直面した結果、雇用の調整が大きな経営課題となっている。そのため、日本的経営であった終身雇用制を維持することは困難な状況にある。 なお、終身雇用された労働者との契約は、労働基準法上(労働基準法第14条)は「期間の定めのない雇用」(=「無期雇用」)である。 法律上の定義はなく、実態を指していう言葉であって明確な判断基準はない。 終身雇用制の崩壊に伴い「就社」という「入社から定年まで一企業で労働」という思考から、労働者自身のライフプランの実現、グローバル化や情報化の傾向により、社内外問わず適材適所を求めた人の流動性が活発化している。 一方、企業にとってはポテンシャルの高い優秀な人材(取締役や支配人(会社法14条等)幹部労働者)、知識・ノウハウ・情報を持った労働者の流動は大きな痛手である。 こういった人材の流動化等の影響により、機密を争点とした紛争は増加傾向にあり、主な漏洩経路として退職者等が絡んだ機密侵害が深刻化している。 そこで、企業経営を左右しかねない機密情報を扱う労働者に対し、「競業避止措置」をとることが重要となる。 競業避止義務とは、一定の者が、自己又は第三者のために、その地位を私的に利用して、営業者の営業と競争的な性質の取引をしてはならない義務である。 労働法においての競業避止義務の概念は、下記のとおりである。 なお、「不正競争防止法」にも、労働者(退職)に秘密を保持する義務が課せられる条文がある。保護する対象に対して、行為の規制(禁止)となる要件を定めている。 現行法上「競業避止義務」が課せられるためには、企業の経営に直接関与し、企業との利害の一致が要請される。つまり、取締役や支配人、幹部労働者である。一般労働者(退職者含む)では、企業経営に直接関与しないため、企業と利害の一致にはならないケースが多い。 そのため、企業が取り得る事前措置として、競業避止規定や不正競争防止法説明や機密保持契約書等を設ける必要がある。 次回は、退職した労働者も秘密保持義務を負うか否かについて、判例を交えて解説する。 (了)
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活力ある会社を作る「社内ルール」の作り方 【第2回】「就業規則を作る時に必要な視点」
活力ある会社を作る 「社内ルール」の作り方 【第2回】 「就業規則を作る時に必要な視点」 特定社会保険労務士 下田 直人 〈就業規則は必要なくなるのか〉 前回は、「権利と義務で統治することの限界」というテーマで、「権利と義務」での統治はどんどん窮屈な会社を作っていくということを述べさせていただいた。 このやり方が進んでいくと という積極前向きな姿勢ではなく、 という消極的な組織が出来上がってしまう。 そんな社員の集まりでは、スピードが要求される現在に対応できない。 これからの世の中では、「権利と義務」による統治ではなく、「価値観」や「理念」をベースにした企業統治によって、 という前向きな組織風土が大切である。 それでは、「権利と義務」が詰まった就業規則は、必要なくなるのであろうか。 私はそのようには考えない。 そこで今回は、就業規則を作成する際に必要な視点について述べてみたい。 〈法律的観点から見た就業規則〉 就業規則は、従業員が会社で働く上で必要な労働条件や服務規律等を定めたものである。 労働基準法の観点からみると、常時10人以上の従業員(法的には「労働者」と言っている)を使用する事業場においては、作成し、従業員に周知し、労働基準監督署へ届け出る義務を負っている。 また、その内容についても、必ず記載しなければならない事項(絶対的記載事項)や社内にそのようなルールが存在するならば、文書化しなければならない事項(相対的記載事項)というものがあり、規則化しなければならないことが決まっている。 しかし、これは反対から解釈すれば、それだけしか書いてはいけないということではない。 つまり上記の項目さえ具備されていれば、それ以外のことを書いてもかまわないのである。 次に、労働契約法の観点からみると、「使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」としており、就業規則に定められた労働条件が会社と従業員の間の労働契約の内容になるとしている。 「労働契約の内容になる」ということは、そこに記載されていることは、会社も従業員も守る義務があるということだ。 つまり、10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成し、労働基準監督署に届出し、周知する必要があり、周知すればその内容が労働契約になるということである。また、10人未満のところであっても法律上の義務ではないが、作成し周知すれば、その内容が労働契約になりうる。 まずは、この法的な性質を知っておかなければならない。 〈法律外の観点からみた就業規則〉 次に、法律的なことは抜きにして就業規則を考えてみる。 就業規則とはルールだ。 何のためにルールが必要なのかといえば、組織を効率良く動かし、生産性を上げるためである。そのために必要なルールを就業規則で定めていくという視点が重要だ。 そう考えた場合、必然と始業・終業時刻や休憩時間、休日などのルールが出来上がり、生産性を上げる活動において不合理な事態が生じた場合のために、解雇や懲戒処分のルールが出来上がってくる。 私はこの感覚が非常に重要だと思っている。 多くの会社ではあまり「生産性向上のためのルール」ということに気を配らず、単に「法律で決まっているから」ということで、形だけの規則を作っていることが多いように感じられる。 結果的に出来上がるルールは同じかもしれないが、「生産性向上」という視点があれば、同じことを決めるのにもアウトプットが異なってくることがある。 例えば、休憩時間だ。 多くの会社では「12時から13時」を休憩時間としていることが多い。 なぜ、この時間を休憩時間にしなければならないのだろうか。 特に都会のお昼時は、どこのレストランも混雑する。席に着くまで10分並んで、料理が運ばれてくるまで10分待ってなどということは日常茶飯事だ。すると、これだけで貴重な休憩時間の3分の1が失われてしまうことになり、休憩時間にさらに疲労が増すことになる。 では、この休憩時間を「11時30分から12時30分」に変更した場合どうであろうか。 たった30分の違いでどこのレストランも並ばず席に着くことができ、ストレスなく料理も運ばれてくる。たったこれだけの違いで、心からリフレッシュでき、午後の仕事の生産性が高まると思われる。 単に「法律で決まっているから作る」という視点では、上記のような発想は浮かんでこない。 〈人間は機械ではない〉 そして、ルールを作るうえで忘れがちな視点が、「人間は機械ではない」という視点だ。 生産的に働くためには、効率ばかりを追求した無味乾燥なルールではダメだ。人は感情を持っており、人のパフォーマンスは感情に左右されることを忘れてはならない。 そこで、社員自身や家族に長期療養が必要になった場合の取扱いのルール(休職制度)などがルール化し、その会社に所属することでの安心感を醸成することになる。 また、人が感情を持っているということは、同じことを書くのであってもその表現の仕方で、捉え方が異なってくるということも忘れてはならない。 例えば、 という表現と という表現では、同じことを言っているが、受け取る側の印象は違う。 後者の方が、有給休暇の取得を促進している印象があるのではないだろうか。 実は、このようなところまで気を配って就業規則を作成することが非常に大事なのだ。 そしてそのようなルールを作る際の指標となるのが、「企業文化」や「価値観」「理念」なのである。 つまり、それらと照らし合わせながら、自社のルールのあり方や表現方法などを決めていくことが重要な時代になってきていると思うのだ。 (了)
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親族図で学ぶ相続講義 【第9回】「特別受益」
親族図で学ぶ相続講義 【第9回】 「特別受益」 司法書士 Wセミナー専任講師 山本 浩司 [被相続人甲野一男 相続関係説明図] 上図のような相続事件が発生したとしましょう。被相続人は甲野一男です。 相続人は、配偶者と子供2人、一見、何の変哲もない相続事件です。 さて、甲野一男の相続開始時の財産の価額を金6,000万円としましょう。 相続人3名のうち、乙野花子が嫁入りのときに支度金として父(甲野一男)から金1,000万円の贈与を受けていたら、どうなるでしょうか? これが、特別受益の問題です。 乙野花子は「特別受益者」なのです。 この場合、民法は、乙野花子への贈与を相続分の前渡しと考えます。 そこで、次の計算式で3名の相続分を計算します(民法903条1項参照)。 以上です。 最後の数字が、各人の具体的な相続分となります。 こうして民法は、共同相続人間で相続分の具体的な公平を諮っているのですね。 さて、では、先の事例で、乙野花子の支度金が3,000万円だったらどうなるでしょう。 先の手順で乙野花子の相続分を計算すると、次の式となります。 (6,000万+3,000万)×1/4-3,000万=△750万円 はい。このようにマイナスになってしまいます。 では、この場合は、乙野花子は3,000万円のうち750万円を相続財産にお返ししなければならないのでしょうか? 民法は、これを否定します(民法903条2項) この場合、乙野花子は、相続分を受けることができませんが(相続分0円)、返金の必要はないのです。 では、この場合、甲野一男が残した金6,000万円の分配はどうなるのでしょうか? 以下、甲野一男の相続財産が金6,000万円相当の不動産(甲土地)であったとして、登記実務の考え方をご紹介します。 この場合、登記の申請に必要な相続関係書類の一部として、登記所に乙野花子の「特別受益証明書」を提供します。 次のような様式です。 ここに乙野花子さんが実印をついて印鑑証明書をくっつければできあがりです。 そこで、問題は、この場合に残る相続人である甲野花子と甲野一郎の相続分がどうなるかということです。 みなさん、考えてみましょうね。 ◆ ◆ ◆ では、解答発表です。 実際に登記申請書の冒頭部分を書いてみましょう。 はい。 これが正解です。 もともと、特別受益者がいないときは相続人3名の相続分の割合は次のようになります。 ですから、乙野花子の相続分がゼロのときは、上記の計算式を次のように変形するのです。 (了)
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会社を成長させる「会計力」 【第1回】「事業評価における共通のモノサシ」
会社を成長させる「会計力」 【第1回】 「事業評価における共通のモノサシ」 島崎 憲明 《総合商社のパフォーマンスと高いROE》 2013年3月期の企業業績は、昨年12月の政権交代と同時に打ち出された安倍新政権の「アベノミクス」効果による円安・株高基調に後押しされた。 東京証券取引所第1部に上場する1193社(金融を除く)の約2割にあたる企業が過去最高益を更新したが、総合商社5社の業績は丸紅を除き、いずれも前年比減益となった。しかしながら、過去10年間のスパンでみた総合商社のパフォーマンスは、ダイナミックな経営改革の実行により持続的成長を示している。 多くの日本企業が苦戦を強いられた成長なき日本経済の下で、総合商社が好業績をあげている背景として、資源・エネルギー関連の収益が大きく寄与していることが指摘されるが、それよりも総合商社のビジネスモデルがこの10年間で大きく変化してきたことに注目すべきであろう。 私は、1993年から5年間は部長として、1998年から2009年までの11年間は取締役として、総合商社の経営改革に直接関与してきた経験がある。具体的な進め方に多少の違いはあっても、経営改革の根本には大きな差は無いように思う。 次の表は、総合商社5社の純利益とROEをまとめたものである。 2003年から2013年までの10年間の変化をみると、5社合計で純利益は8倍、ROEは2倍強と著しい改善がみられる。東証第一部1319社(金融含む)のROEは2013年3期が5.57%、2012年3期が4.79%であるから、2倍を上回る実績である。 《総合商社の経営イノベーション》 過去、総合商社は幾度となく危機に直面し、存在そのものが不要と言われた時もあった。1960年代の商社斜陽論、1980年代の商社冬の時代論、1990年代の商社崩壊論・商社不要論などである。 世界的に見ても類のない、極めてユニークな事業形態である総合商社は、その規模に比して収益性の低さから、幾度となくその存在そのものが問い直されたのである。 私はインサイダーとして、外野からの評論家的意見が必ずしも的を射たものではないと思いながらも、総合商社の収益性が保有する経営資源に比べて高くないことは事実として受け止めざるを得ないものであった。 総合商社は時代とともに環境の変化に対応して、その機能の高度化を図ることによって生き残り発展してきた。1990年代末から2000年代初めに各社が進めてきた経営改革の重要なところは、事業成果を全社共通のモノサシで評価し事業の集中と選択を積極的に進めたことにある。 住友商事は1998年から全社共通の経営指標として「リスク・リターン」の概念を導入した。一定の「リスク」に対して、どの程度の「リターン」をあげているかという収益性をみる指標である。 具体的には、資産額に各資産価値の最大下落率を意味する「リスクウエイト」を掛けて、最大損失可能性額である「リスクアセット」計測し、それから生み出される利益が資本コストを上回るレベルにあるかどうかを事業評価の基準として事業の集中と選択を進めた。 三菱商事は2001年からMCVA(Mitsubishi Corporation Value Added)、伊藤忠は2001年からRRI(Risk Return Index)、丸紅は2004年からPATRAC(Profit After Tax less Risk Asset Cost)、三井物産はPACC(Profit After Cost of Capital)を活用している。 総合商社が取り扱う商品は「ラーメンからミサイルまで」と言われるほど多岐にわたり、ビジネスモデルもトレードから事業まで国際的広がりのなかで展開されているが、それらの様々なビジネスの成果を全社共通のモノサシで測るというのは、商社経営の大転換であり、一種の革命でもあった。 それまでの商社ビジネスは、扱う商品も顧客もマーケットもそれぞれが異なるのであるから、同じ土俵で良し悪しを測ることは難しいと言われていたのである。 ビジネスは「リスクをとってリターンを得ること」が基本という、どのビジネスにも当てはまる普遍的な認識を持つに至ったのであるが、それまでの道のりは長かった。 《リスクを回避する経営から、リスクを取り・リスクを管理する経営へ》 伝統的な総合商社のトレードビジネスは、低マージン高ボリューム型の仲介的取引が中心であった。「取扱量は膨大になるが利益率は低い」「使用している資金のわりには利益が少ない」「バランスシートは大きいが利益は一ケタ低い」と言われる商売を長い間続けてきた。 1980年代に入り「トレード(商取引)から事業へ」「トレードビジネスの高度化」など多様化・高度化の方向を模索し始めた商社であったが、1990年代までは苦労の連続であった。各社ともその間の決算において、事業撤退などによる多額の損失計上を余儀なくされた。 それは「低リスク低リターン」取引から「高リスク高リターン」取引へとビジネスモデルが大きく転換しつつある時期でもあった。従来の伝統的なリスク管理は、できる限りリスクを回避する、貸倒れは発生させないために貸付先を厳選する管理が求められた。 これが、「リスクのないところにリターンはない」、「リスクとリターンはトレードオフの関係にある」という認識に変わってきたのである。 事業で100戦100勝はあり得ない、一定の確率で蒙る失敗事業からの損失を織り込んだトータルでどの程度のリターンを達成できるのかということである。ビジネスが抱えるリスクを定量化してそれをきっちりと管理する、事業の入口審査、モニタリング、出口戦略などを共通のモノサシで定量的に評価する経営である。 事業の集中と選択を積極的に進めた経営の成果が、上述したROEに表れていると思うのである。 次回は「共通のモノサシと会計」という観点で話を進めたい。 (了)
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顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第13回】「売上・売掛債権管理のKPI(その④ 滞留債権対応)」
顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第13回】 「売上・売掛債権管理のKPI (その④ 滞留債権対応)」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 今回は、売上・売掛債権管理を構成する業務プロセスから、滞留債権対応の基本を問うKPIを取り上げる。 前回まで解説したKPIは、いずれも「日数」や「枚数」を数えて回答する定量指標であったが、今回のKPIは、「はい」又は「いいえ」で回答する定性指標である。 KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておきたい。 今回解説するKPIは、売上・売掛債権管理において、会社が担う「売上業務」、「債権残高管理」、「滞留債権対応」、「値引・割戻」という4つの一般的な機能のうち、債権残高管理と滞留債権対応の2つに関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:売上・売掛債権管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) さらに、経済産業省スタンダードでは、債権残高管理と滞留債権対応に関連する業務プロセスを次のようにまとめている。 債権残高管理では、「期日別債権管理」という業務プロセスにおいて、期日を超過している原因を究明する。その原因を吟味し、必要に応じて、滞留債権対応に移る。 滞留債権対応は、「滞留債権報告」と「貸倒引当金計上」という2つの業務プロセスに大きく分かれる。滞留債権として特定した販売先に対して、取引量の見直し、決済条件の変更、取引停止等の対応策を策定した後、滞留債権報告を通じて社内で情報共有を図る。他方、経理財務部門は、適正に、貸倒引当金の計上を行う。 今回のKPIは、このような滞留債権対応という一般的な業務を安定的に運用する重要性に着目し、滞留債権の定義と対応手順を文書化しているか否かを問うものである。 〈経済産業省スタンダード:1.7.1期日別債権残高報告〉 〈経済産業省スタンダード:1.8.1滞留債権報告〉 〈経済産業省スタンダード:1.8.2貸倒引当金計上〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) 定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 「滞留債権」とは、形式的には、期日が到来しているのに未だ資金を回収していない債権をさす。もっとも、滞留債権に該当するか否かの判断は、会社とその販売先における具体的事情で異なるはずなので、より実質的に定義すれば、回収にあたり特別な保全行動が求められる債権をさす。 「対応手順」とは、滞留債権であると判断した販売先について、会社が対応すべき手順をさし、具体的には、与信審査で設定した信用リスクの内部格付、与信限度額設定、限度超過額管理、発生原因の特定方法、取引量の変更、回収条件の変更、保全行動の内容、貸倒見積高の算定、貸倒引当金の計上、貸倒引当金の取崩し等に係る手順を想定している。 KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルにおいて、このKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、滞留債権の発生額を認識し、発生原因に応じて適正に対応するため、規程を整備することが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 滞留債権の発生原因は、会計基準の差異、仮単価、クレーム、返品やキャンセル、支払能力の低下等を理由に販売先が売掛債権の全額を支払わないという外的要因が考えられる。保全行動が必要となるのは、このような外的要因によって発生する滞留債権である。 ところが、実質的には滞留債権ではないのに、滞留債権と同じような期日超過が発生することがある。例えば、情報システムが社内で分断されていることによる売掛金元帳と総勘定元帳の乖離、架空売上計上、売掛債権の回収金の横領等、会社が売上・売掛債権管理において整備すべき内部統制に不備があると、見かけ上は滞留債権として現れる。この場合、必要なのは、保全行動ではなく、会社の内部統制の再整備である。 したがって、発生原因が会社の外部の販売先にあるのか、会社の内部にあるのかを見極めて、販売先への確認、保全行動、社内調査等の対応を変える必要がある。 滞留債権の発生原因を特定した後、貸倒れの見積りを行うことになる。貸倒見積高の算定は、一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権の債権区分や、発生日や期日からの経過日数に応じた簡便な債権区分を利用し、その要件と方法を具体的に定めることが必要である。 また、直接減額による貸倒引当金の取崩しに係る承認は、その金額の正確性を担保するという観点だけにとどまらない。期日超過の発生原因が、売掛債権の回収金の横領等の社内の内部統制の不備に起因する場合、貸倒引当金の取崩しが回収金の横領の隠蔽に利用されることがあるため、それを予防するという資産保全の観点も必要である。 顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 まずは、滞留債権に関して定めた文書を特定する必要があるが、どのような文書が考えられるだろうか。 例えば、経理規程を閲覧していただきたい。経理規程に、滞留債権の定義、滞留債権の発生を認識するために使う売掛金年齢管理表等の資料、原因特定の点検項目、与信管理方法、保全行動、債権区分の方法、貸倒引当金の取崩しに対する経理財務部門の承認が定められていることを確認することが考えられる。 さて、読者の顧問先の規程に、滞留債権の定義と対応手順は整備されていただろうか。 * * * 次回からは、「仕入・買掛債務管理」のKPIを取り上げる。 仕入・買掛債務管理を構成する複数のKPIのうち、まず「仕入計上」に関連する業務プロセスを評価するKPIから取り上げる。 (了)