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減損会計を学ぶ 【第15回】「減損損失の認識の判定③」~将来キャッシュ・フローの見積期間が20年を超えるケース~
減損会計を学ぶ 【第15回】 「減損損失の認識の判定③」 ~将来キャッシュ・フローの見積期間が20年を超えるケース~ 公認会計士 阿部 光成 減損損失の認識の判定は、割引前将来キャッシュ・フローの総額を用いて、それが帳簿価額を下回るかどうかによって行うこととされている(「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という)二、2(1))。 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号。以下「減損適用指針」という)では、減損損失の認識の判定に用いる将来キャッシュ・フローについて、その見積期間が20年を超えるかどうかによって、異なる取扱いとしている。 今回は、将来キャッシュ・フローの見積期間が20年を超えるケースについて解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 減損損失の認識 減損損失の認識の判定は、資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較することによって行い、資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合に、減損損失を認識することになる(減損会計基準二、2(1))。 減損損失を認識するかどうかを判定するために割引前将来キャッシュ・フローを見積もる期間は、資産の経済的残存使用年数又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方で行うことになる(減損会計基準二、2(2))。 Ⅱ 将来キャッシュ・フローの見積期間(20年を超えるケース) 1 基本的な考え方 減損適用指針は、①主要な資産と、②主要な資産以外の構成資産に分けて規定している。そして、主要な資産の経済的残存使用年数と、主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数のいずれが長いかによって、さらに詳細な規定を設けている。 2 主要な資産(20年を超える) 資産又は資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数が20 年を超える場合には、21年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フローに基づいて算定された20年経過時点における回収可能価額を、20年目までの割引前将来キャッシュ・フローに加算する(減損適用指針18項(2))。 回収可能価額とは、資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額である(減損会計基準注解(注1)1)。 このため、20年経過時点の回収可能価額については、21年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フローも、その割り引かれた金額が減損損失を認識するかどうかを判定するために見積もられる割引前の将来キャッシュ・フローに含まれることになる(減損適用指針98項)。 【将来キャッシュ・フローの見積りのイメージ(20年を超えるケース)】 (出所:監査法人トーマツ編『Q&A減損会計適用指針における会計実務』(清文社、2004年4月)103ページを一部修正) 3 主要な資産以外の構成資産(主要な資産の経済的残存使用年数を超えない) 資産グループ中の主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数が、主要な資産の経済的残存使用年数を超えない場合には、当該構成資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の正味売却価額を、主要な資産の経済的残存使用年数までの割引前将来キャッシュ・フロー(当該構成資産の経済的残存使用年数が20年を超えるときには21年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フロー)に加算する(減損適用指針18項(3))。 4 主要な資産以外の構成資産(主要な資産の経済的残存使用年数を超える) 資産グループ中の主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数が、主要な資産の経済的残存使用年数を超える場合には、当該主要な資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の回収可能価額を、21年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フローに加算する。(減損適用指針18項(4))。 以上についてまとめると、資産グループ中の主要な資産のほか、それ以外の構成資産の経済的残存使用年数が20年を超える場合には、以下を21 年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フローに加算するということになる。 また、資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数は20年を超えるが、それ以外の構成資産の経済的残存使用年数が20年を超えない場合、当該構成資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の正味売却価額を、主要な資産の経済的残存使用年数までの割引前将来キャッシュ・フローに加算するとされている(減損適用指針18項(3))。 減損適用指針98項では次のイメージ図を示している。 (横軸は経済的残存使用年数、矢印は割引前将来キャッシュ・フローに加算する金額) (了)
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国際出向社員の人事労務上の留意点(海外から日本編) 【第3回】「帰国前後の事務処理」
国際出向社員の人事労務上の留意点 (海外から日本編) 【第3回】 (最終回) 「帰国前後の事務処理」 社会保険労務士 平澤 貞三 (1) 手続の概要 エクスパットが帰任により出国することとなった場合、給与、社会保険関連では以下の事務処理が必要となる。 (2) 帰国後の給与処理 出国日の翌日から非居住者となるので、たとえ居住者であった期間に対する金銭給与や現物給与であっても、出国日の翌日以降に支払う給与については20.42%の税率で源泉徴収を行う必要がある。 3年間日本で勤務したエクスパットが、9月30日に出向元企業のあるアメリカへ帰任した。その後、本人が使用した水道電気代の最後の請求(50,000円)が届き、会社は10月に入ってから本人に代わってすべて支払いをした。 ⇒給与(会社が本人の水道光熱費を負担したという経済的利益)を支給した時点の居住形態は「非居住者」であり、国内勤務時に受けた利益であるから「国内源泉所得」に該当する。したがって、20.42%の税率でグロスアップ計算が必要となる。 〔事例①〕のエクスパットに対し、出国年の7月1日から12月31日までの勤務に対する賞与が確定し、翌年1月にその全額がアメリカ側で払われた。 ⇒日本勤務に基づく部分のみが国内源泉所得に該当するため、上記例では全体の約半分が日本での課税所得となる。 (連載了)
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現代金融用語の基礎知識 【第9回】「GPIF」
現代金融用語の基礎知識 【第9回】 「GPIF」 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 GPIFとは GPIFとは、Government Pension Investment Fundの略で、年金積立金管理運用独立行政法人のことである。文字どおり年金積立金の管理と運用を行う組織だが、より具体的に言うと、国民年金と厚生年金で国民から集めた保険料のうち、国民に年金として給付した後に余ったお金を運用する組織である。実際には自身で運用を行っているわけではなく、民間の信託銀行や投資顧問会社に運用を委託している。運用資産額は平成26年3月末時点で126兆5,771億円あり、世界最大の年金基金である。 〈GPIFによる年金積立金の運用〉 2 今なぜGPIFが注目されるのか GPIFは民間の信託銀行や投資顧問会社に運用を委託しているのだが、それらに完全に運用を任せっぱなしというわけではない。管理運用方針を定めたうえで、運用を委託した信託銀行や投資顧問会社に対して運用目標や運用手法などを指示する。ポートフォリオ(資産構成割合)も定めていて、現在は、日本債権60%、日本株12%、外国債券11%、外国株12%、短期資産5%の割合で運用することとしている。 最近になって急にメディアでGPIFという名前を見聞きするようになったが、その理由はこのポートフォリオの内訳を変更する可能性があるからなのである。平成26年6月24日に閣議決定された「日本再興戦略」改訂2014においてもGPIFのポートフォリオの見直しがあげられている。昨年平成25年にも、アベノミクスによる株価の上昇を受けて、日本株の割合が11%から12%に増やされたのだが、今後行われるポートフォリオの見直しにおいても日本株の割合が増やされるのではないかと見られている。 3 ポートフォリオ変更のはらむリスク 上述のとおりGPIFは世界最大の年金基金である。それが日本株として運用する割合を増やせば、日本の株式市場に大量の資金が投入されることになり、当然、株価が上がることになる。だから今GPIFは注目を集めているのである。そうしたGPIFの動きを期待して(株価が上がるかもしれないと期待して)、日本株を購入する動きもあり、それも現在株価を上げる要因となっている。 しかし、大丈夫なのだろうか。GPIFは、平成24年度以降、アベノミクスの影響で10兆円以上の収益を得ている。しかし、毎年度収益を得られているわけではなく、損失を出している年度もあり、平成20年度はリーマンショックの影響で9兆円以上の損失を出した。日本株として運用する割合を増やせば、株式相場の影響をより大きく受けることになり、損失を出すリスクがより高まることになる。 そうしたリスクに対応するため、「日本再興戦略」改訂2014では、GPIFのポートフォリオの見直しとともにガバナンス体制の見直しも行うこととされている。しかし、政府が行うこうした組織のガバナンス改革は当てにならないだろう。おそらく適当に形だけを整えて、自分達に都合の良い人達をそこに充当するのだろう。そうしたガバナンス体制が機能するはずがない。 そもそもなぜGPIFは日本株の運用割合を増やすのだろうか。日本株の運用割合を増やすに当たっては、それが合理的なのだという説明がなされるだろう。それが本当ならばいいのだが、他方、株価上昇を政権への支持につなげたいという安倍政権の意図があるのではないかという見方もある。もしも株価を上げるためにGPIFの日本株の運用割合を増やすのだとしたら、とんでもないことだ。年金積立金は国民のものであることを決して忘れないでいただきたいものである。 (了)
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《速報解説》 「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」について~女性の登用等に関する記載を義務付けへ~
《速報解説》 「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」について ~女性の登用等に関する記載を義務付けへ~ 大阪経済大学教授 小谷 融 平成26年8月22日に、金融庁から「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」が公表された。 本改正案は、平成26年9月22日(月)12時00分までコメントが募集されている。 Ⅰ 改正の背景 民間投資を喚起する成長戦略である「日本再興戦略」は、アベノミクスの「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」と併せて、三本の矢を形成するものである。 昨年の成長戦略で残された課題の1つに、「女性の更なる活躍の場の拡大や海外の人材の受入れの拡大を含めた『世界でトップレベルの雇用環境』をどう実現していくか」がある。これを含めた課題の解決に向けて、「『日本再興戦略』改訂2014-未来への挑戦-」が平成26年6月24日に閣議決定された。 このなかで、「女性の更なる活躍促進」の方策の一つとして、「企業側のマインドを変えるために、役員の女性比率や女性の登用方針等を積極的に開示することを促すこと」を提言している。 具体的には、「有価証券報告書における役員の女性比率の記載を義務付けるとともに、コーポレート・ガバナンスに関する報告書において、企業における役員、管理職への女性の登用状況や登用促進に向けた取組を記載するよう各金融商品取引所に要請する」というもの。 Ⅱ 主な改正内容 有価証券報告書の【役員の状況】においては、定められた様式に、役員ごとの役名・職名・氏名・生年月日・略歴・任期・所有株式数を記載することになっている。改正案は、その様式の冒頭に「男性 名 女性 名(役員のうち女性の比率 %)」の欄が設けられ、「役員の男女別人数を記載するとともに、役員のうち女性の比率を括弧内に記載する」というもの。 なお、この改正は、有価証券報告書のほか有価証券届出書、四半期報告書および半期報告書が対象となっている。 Ⅲ 適用時期 改正後の規定は、平成27年3月31日以後に終了する事業年度を最近事業年度とする有価証券届出書およびその事業年度に係る有価証券報告書から適用される予定である。 (了)
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Profession Journal No.82が公開されました!~今週のお薦め記事~
2014年8月21日(木)AM10:30、Profession Journal No.82 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。
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日本の企業税制 【第10回】「BEPS行動計画13『移転価格の文書化』をめぐる動向」
日本の企業税制 【第10回】 「BEPS行動計画13『移転価格の文書化』をめぐる動向」 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久 1 はじめに 欧州における米国系多国籍企業への過度なタックス・プランニングへの牽制から始まったBEPS(Base Erosion and Profit Shifting=税源浸食と利益移転)問題は、G20の要請を受けたOECD租税委員会においてOECD加盟国に加え、OECD非加盟のG20メンバー国8カ国(中国、インド、ロシア、アルゼンチン、ブラジル、インドネシア、サウジアラビア、南アフリカ)も参加し、国際課税ルールの抜本改革を目指す一大プロジェクトとして進められている。 全15の行動計画のうち、今年9月には、行動計画1(電子商取引への課税)、行動計画2(ハイブリッド・ミスマッチ・アレンジメントの効果の否認)、行動計画6(租税条約の濫用防止)、行動計画13(移転価格文書化の再検討)について完了する予定であるが、そのいくつかは平成27年度税制改正を含めたわが国の国際租税制度の改正へとつながるものである。 そこで、本稿ではBEPS議論の全体像を示した上で、とくに現時点で、わが国での影響が大きいと考えられる「移転価格の文書化」を紹介することとしたい。 2 OECD租税委員会BEPSプロジェクトの概要 多国籍企業が税制の隙間や抜け穴を利用した節税対策により税負担を軽減している問題に対し、OECD租税委員会(議長:浅川・財務省国際局長)は、2012年6月よりBEPSプロジェクトを立ち上げ、2013年2月には「BEPS報告書」が、2013年7月には「BEPS行動計画」が公表されている。 このBEPS行動計画は、G20財務大臣・中央銀行総裁会議(2013年7月19~20日、モスクワ)に提出され、G20の全面的な支持を得た。 2013年2月のBEPS報告書では、税源を浸食する方法により利益を移転させることを目的としたプランニングのために、政府が相当の法人税収を失っており、「国境を越える利益への課税に係る国内的及び国際的なルールが今や崩壊しており、そして、租税はただ愚直な者によって支払われるだけであるという認識を助長した」との指摘がなされており、まさに、国際課税ルールの根本的な見直しが必要であるとの認識が示されている。 2013年7月の「BEPS行動計画」では、具体的に15項目の課題を示しているが、移転価格税制、外国子会社合算税制(タックスヘイブン税制)、租税条約はじめ国際課税全体にわたる見直しが提起されている。 【BEPS行動計画の概要】 3 行動計画13-移転価格関連の文書化の再検討 「移転価格文書化の再検討」とは、多国籍企業に対し、グローバルな所得の配分、経済活動、進出先国で支払われた税について必要な情報を共通のフォーマットにより、関係するすべての国の政府に提供することを求めるものである。 (1) ディスカッション・ドラフト 2014年1月、OECD租税委員会より「移転価格文書化と国別報告に係るディスカッション・ドラフト」が公表されているが、その主な内容は以下の通りであった。 (2) 産業界の意見 このディスカッション・ドラフトの提案に対しては、各国産業界から、直ちに以下のような問題点が指摘された。 そこで、経団連としても、OECDに対する各国産業界の諮問組織であるBIAC(The Business and Industry Advisory Committee)を通じてコメントを提出するとともに、本年2月、独自に意見書をOECD租税員会に提出し、 等を申し入れた。 また、4月にOECD租税員会のサンタマン事務局長他の税制担当幹部が来日した機会を捉え懇談会を東京で開催し、働きかけを行った。 さらに、本年5月19日にパリのOECD本部で開催された行動計画13に対する公聴会(Public Consultation on TP documentation & CBC reporting)に、経団連として川﨑日立製作所税務統括部長ほかが参加し、各国産業界とともに意見を述べている。 (3) OECD公聴会と今後の見通し この公聴会では、OECDから行動計画13に関わる検討状況について説明があり、その上で国別報告書の内容及びその提出・共有の方法、マスター・ファイル、ローカル・ファイルの内容等について討議がなされた。 国別報告書の内容については、ディスカッション・ドラフト段階からはかなり緩和され、ロイヤルティ・利子・役務提供の対価の支払・収受額)は削除され、また、データにはある程度のフレキシビリティが認められる見込みである。一方で、各国産業界が強く求めていた、重要性基準(Materiality)は認められず、その国で事業を行っていれば情報を記載することとされたが、数値情報は事業体(entity)ごとではなく、進出先国ごとの総体でも可能とされる見込みである。 国別報告書の提出・共有方法については、条約ベースの共有方式を支持する産業界・会計事務所と、各国ごとの提出方式又は国別報告書の公開を主張する途上国・NGOという構図となり、さらに、OECD租税員会で議論されることとなった。 4 おわりに 行動計画13に関するOECDの最終決定は、本年9月20日~21日にケアンズで開催されるG20財務大臣・中央銀行総裁会議への報告が予定されていることから、検討は既に最終段階にあるものと思われる。 経団連ではBIACを通じて詳細な情報収集を進めているが、提出が求められることとなるマスター・ファイル、ローカル・ファイル、国別報告書の内容はディスカッション・ドラフトよりは緩和されてはいるものの、なお相当に厳しいものである。 これが、OECD、G20を通じて、移転価格の文書化に関する新たな国際ルールとなることは間違いなく、わが国においても、早急に関連法制などの対応がなされることとなる。 大企業、中小企業を問わず、およそ海外に事業所や関連会社を持ち事業展開を行っている企業であれば、その動向に十分な注意が必要である。 (了)
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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第20回】「医療費控除の対象となる『医薬品』(その2)」
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第20回】 「医療費控除の対象となる『医薬品』(その2)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅱ 借用概念と一般概念 自然医食品の医療費控除適用の有無について、前回紹介した福島地裁平成11年6月22日判決は、 としている。 ここでは、特に医療費控除の対象となる「医薬品」について関心を寄せたいが、福島地裁は、かかる自然医食品の購入費用を社会通念からみて「疾病の治療又は療養に必要な医薬品の購入の対価」と認めることができないとしている。 課税実務では、前回述べたとおり、「医薬品とは、薬事法第2条第1項《定義》に規定する医薬品をいう」とされている(所基通73-5)。すなわち、課税実務は、所得税法73条2項、所得税法施行令207条2号にいう「医薬品」を薬事法からの借用概念と考え、薬事法2条1項に規定する「医薬品」と解している。これに対して、上記福島地裁は、そのようには解しておらず、社会通念に従って判断すべきとしているのである。 このように考えると、医療費控除の対象となる「医薬品」については、①薬事法にいう「医薬品」をいうとする理解と、②社会通念上の「医薬品」をいうとする理解の2つの解釈ルートがあるように思われる。 この2つの解釈ルートは、所得税法73条2項にいう「医薬品」を借用概念と捉えるべきか、あるいは一般概念として捉えるべきかの考え方の違いからくる見解の相違であるといえよう。 もっとも、福島地裁は、社会通念上「疾病の治療又は療養に必要」としているだけであって、「医薬品」を社会通念で判断するという態度に出たものではないかもしれない。そうであるとすれば、上図の借用概念と捉える解釈ルートによっていると考えることもできる。 Ⅲ 東洋医学と「医薬品」 ところで、薬事法2条1項は次のように「医薬品」を規定している。 ここにいう「日本薬局方」とは、薬事法41条により 、医薬品の性状及び品質の適正を図るため、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定めた医薬品の規格基準書をいい、日本薬局方に収載されている医薬品は我が国で繁用されている医薬品が中心となっている。 日本薬局方作成基本方針には、「保健医療上重要な医薬品の全面的収載」が掲げられ、およそ適正な品質が確保されているとされる医薬品の多くを掲載することとされているため、医療費控除の対象となる医薬品の解釈に当たって、課税実務が薬事法2条1項に依拠することは網羅性などの点からみれば妥当であるように思われる。 もっとも、当然ながら、その網羅性は、政策的・行政的観点から、日本薬局方に収載すべきとされる医薬品にとどまるという意味でのものである。すなわち、薬事法が想定する医薬品に所得税法上の医療費控除の対象となる「医薬品」を限定するという判断枠組みを採用すれば、結果的には日本薬局方に収載されているか否かが医療費控除の適用を考える上での重要な判断要素となるのであるが、ここに問題はなかろうか。医療費控除の対象となる「医薬品」を、なぜ薬事法が規定する医薬品に限定して解釈しなければならないのかという点について、理論的な説明ができるのであろうか。 第十七改正日本薬局方作成基本方針では、具体的な方策として、「保健医療上重要な医薬品の全面的収載」が示されており、かかる「保険医療上重要な医薬品」とは、「有効性及び安全性に優れ、医療上の必要性が高く、国内外で広く使用されているもの」をいうとされているのであるが、「優先的に新規収載をすべき品目」としては、「米国薬局方(USP)や欧州薬局方(EP)等に収載され、国際的に広く使用されている医薬品」が一例に示されている。かような記述からすれば、日本薬局方は現代西洋医学を中心としているという見方ができるように思われる。 そして、課税実務がそれに依拠しているということは、相対的にみて東洋医学を基とする医薬品は医療費控除の対象として認められにくいということを意味することになりはしないだろうか。 あるいは、日本薬局方に示される医薬品には含有成分量に定量性があるという点が要請されるところ、漢方は定量性を充足しないという点で、かかる医薬品の定義には馴染まないという議論がある。含有成分量の定量性という観点は、果たして所得税法上の医療費控除の対象となる「医薬品」を考える上で特段の意味を持ち得るものであろうか。 国税不服審判所平成14年11月26日裁決(裁決事例集64号172頁)では、 と判断されている。 ここでは、自然医食品が薬事法上の医薬品ではないという点によって医療費控除該当性が否定されている。なるほど、「食品」が食品衛生法により定義されているのに対して、「医薬品」は薬事法により定義され、それぞれの取扱いが規制されていると考えれば、法律上、食品と医薬品は別個のものとして整理されているようにも思われる。さすれば、自然食品あるいは健康食品とされた時点で薬事法が規定する医薬品に該当しなくなり、ひいては医療費控除の対象から排除されることになりそうである。 この点、昭和26年当時の所得税法に関する基本通達では、入院患者の食事の費用は医療費控除の対象とはされておらず、食品と医薬品とは厳格に区別されていたのかもしれない。 Ⅳ 「食品」か「医薬品」か しかしながら、現行の課税実務上、入院若しくは入所の対価として支払う食事代の費用は医療費控除の対象となると解されており(所基通73-3)、特段「食品」に係る費用を入院費から除外するようなことは求められていない。さらにいえば、課税実務では、入院患者の付添人の食事代であっても、家政婦などの付添いの対価の一部として支払われている場合には医療費控除の対象と解されているのである。 このことを図示すると、次のようになる。 この点、医療費控除の対象に食事代が含まれるか否かが議論された事例において、国税不服審判所昭和63年2月18日裁決(裁決事例集35号83頁)も同様の判断を示している。 すなわち、同審判所は、 とする。 この判断は、請求人が、 と主張したことに対するものであるが、入院若しくは入所の対価を構成しているかどうかという点のみが判断を分けている。 すなわち、病院で東洋医学による食事療法が採用された場合の当該食事代は「食品」の対価であるにもかかわらず医療費控除の対象となるが、病床数の制約関係で、自宅治療に切り替えられた場合には、同様に医者からの指導で「食品」を購入したとしても、かかる対価は医療費控除の対象とはならなくなるということになる。 食事療法を前提として考えた場合に、病院内における「食品」の摂取が医療費控除の対象となり、自宅における「食品」の摂取が医療費控除の対象とはならないというのは、「医薬品」であるかどうかという判断基準の絶対性を肯定するものではないことを意味している。 まして、次の薬事法上の判決を考慮に入れれば、自然医食品が薬事法上の医薬品に該当しないということが本当にいえるのかは必ずしも判然とはしないのである。 広島高裁昭和55年2月26日判決(刑集36巻2号201頁)は、 との被告の主張を、 と判示している。 すなわち、 とし、 と説示するのである。 かような判断を考慮に入れると、「食品」か「医薬品」かは必ずしも明確に峻別できるものとは言い切れないように思われるのである。 もっとも、薬事法上の医薬品に該当するとしても、「医療又は療養に必要な」という所得税法73条2項の要件によって、「自然医食品」が排除されるということは考えられるが、その際には、処方せんがあるということの意味が検討されるべきではなかろうか。 しかしながら、前述の国税不服審判所平成14年11月26日裁決においては、「処方せん」があるということが医療費控除該当性の判断において何らの考慮もされていない。なるほど、現行所得税法上、医薬品の購入代金が医療費控除の対象となるか否かの判断において、処方せんの有無は要件とはされていないのであるが、入院患者に行う食事療法と医師の処方箋に従った食事療法との本質的な違いは、上記に述べたとおり必ずしも判然とはしないのである。 なお、医薬品の購入代金に係る医療費控除の判断基準としての処方せん要件は、昭和26年の所得税法改正において撤廃されている。 (続く)
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平成26年度税制改正における消費税関係の改正事項 【第1回】「簡易課税制度のみなし仕入率の見直し①(改正内容の確認)」
平成26年度税制改正における 消費税関係の改正事項 【第1回】 「簡易課税制度のみなし仕入率の見直し① (改正内容の確認)」 税理士 金井 恵美子 ◆ はじめに ◆ 平成26年度税制改正において、消費税は、簡易課税制度のみなし仕入率、課税売上割合の計算、輸出物品販売場における免税対象物品の範囲等の改正が行われた。 本連載では、今週から連続して、その主な改正点を解説する。 1 簡易課税制度のみなし仕入率の見直し 簡易課税制度におけるみなし仕入率が、次のように改正された。 〈改正前〉 〈改正後〉 2 事業区分は日本標準産業分類の大分類による 平成26年5月29日付けで公表された改正後の消費税法基本通達13-2-4は、第三種事業に該当することとされている製造業等、第五種事業に該当することとされているサービス業等、第六種事業に該当することとされている不動産業の範囲は、おおむね日本標準産業分類の大分類に掲げる分類を基礎として判定することとしている。 日本標準産業分類の大分類と、簡易課税制度の第三種事業、第五種事業及び第六種事業とを対比してみると、次のように整理することができる(改正消基通13-2-4、13-2-8の3)。 日本標準産業分類は、統計の正確性と客観性を保持し、統計の相互比較性と利用の向上を図ることを目的として設定された統計基準であり、すべての経済活動を産業別に分類している。昭和24年10月に設定され、平成19年5月に現行統計法(平成19年法律第53号)が成立して、平成21年3月に同法第28条における統計基準となったものである。直近は、平成25年10月30日付け総務省告示第405号をもって改定され、平成26年4月1日から適用されている。 上記以外の大分類には、「I 卸売業、小売業」、「S 公務(他に分類されるものを除く)」「T 分類不能の産業」がある。「T 分類不能の産業」とは、「A 農業、林業」から「S 公務(他に分類されるものを除く)」までのいずれにも該当しない産業があるという積極的な分類ではなく、「主として調査票の記入が不備であって、いずれに分類すべきか不明の場合又は記入不詳で分類しえないものである。」と説明されている。 3 不動産業の範囲 今回の改正により、第六種事業に該当することとなった不動産業の範囲は、おおむね日本標準産業分類の大分類の「K 不動産業、物品賃貸業」のうち、不動産業に該当するものである(改正消基通13-2-4)。 日本標準産業分類の大分類において不動産業に該当する事業は、「建物売買業、土地売買業、不動産代理業・仲介業、貸事務所業、土地賃貸業、貸家業、貸間業、駐車場業、その他の不動産賃貸業、不動産管理業」であるが、このうち、建物売買業及び土地売買業は、第一種事業又は第二種事業となる。 4 金融業、保険業の範囲 改正により、第五種事業に該当することとなった金融業、保険業の範囲は、おおむね日本標準産業分類の大分類 「J 金融業、保険業」に該当するものである。 「J 金融業、保険業」の内容は、次のように整理することができる。 これらの事業において生ずる主な取引は非課税資産の譲渡等に該当するものが多いが、手数料収入などを得る事務手続などは、第五種事業に該当することとなる。 (了)
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事業者等から質問の多い項目をまとめた「生産性向上設備投資促進税制」の『Q&A集』について 【第2回】「A類型(先端設備)に係る留意点」
事業者等から質問の多い項目をまとめた 「生産性向上設備投資促進税制」の『Q&A集』について 【第2回】 「A類型(先端設備)に係る留意点」 経済産業省 経済産業政策局 産業再生課 課長補佐 矢口 雅麗 質の高い設備投資を促進するための大胆な税制である「生産性向上設備投資促進税制」について、前回は本税制全体に共通する留意点を説明したが、第2回である今回は、A類型(先端設備)に係る留意点について説明を行いたい。 〈1 A類型の申請スキーム〉 A類型は、単品設備毎に、設備メーカー等を通じ簡易的に証明書発行を受けられる認定スキームである(〈図1〉参照)。 〈図1〉 (経済産業省「生産性向上設備投資促進税制について(平成26年7月)」p8) 設備ユーザー(設備投資を行う事業者)は、設備メーカーに対し、証明書の発行依頼を口頭等で行うだけでよく、実際の申請は設備メーカーが行うことになる。設備メーカーは、設備ユーザーから依頼があった場合、設備の種類毎に指定された工業会等に対し申請を行い、要件を満たしている場合、工業会等から証明書が発行される。なお、設備メーカー自身が工業会等に属している必要はなく、非会員であっても申請可能である。 なお、申請にあたっては、当該設備の性能把握やメーカー内の新旧モデルの判別が必要となるため、原則は最終製品を製造したメーカーから申請することとしているが、当該メーカーの代理店や子会社(現地法人を含む)等で正確な申請が可能であれば、メーカーに代わって申請することも可としている。 海外メーカー品(輸入設備)についても特段制限はないため、海外メーカーや代理店等が上記スキームに沿って申請を行うことで、証明書の発行を受けることが可能である【A-3】。 〈2 A類型の対象設備〉 A類型の対象設備は、経済産業省関係産業競争力強化法施行規則第5条第1号にて限定列挙された設備のみとなっている(〈表1〉参照)。 〈表1〉 ※ 器具備品のうち、サーバー用の電子計算機については、情報通信業のうち自己の電子計算機の情報処理機能の全部又は一部の提供を行う事業を行う法人が取得又は製作をするものを除く。 (経済産業省「生産性向上設備投資促進税制について(平成26年7月)」p4) この分類は、設備ユーザーにて当該設備がどのような資産区分で資産計上されるのかを指しており、機械装置として資産計上されるものであれば用途又は細目によらず全て対象となるが、器具備品であれば試験測定機器や冷暖房機器等が対象となる一方、〈表1〉に列挙されていない医療機器やパソコンなどは対象にはならない。また、建物については断熱材や断熱窓の部分の取得価額のみが対象であり、建物全体については対象とならない。 また、設備ユーザーが中小企業者等(資本金1億円以下の法人等)の場合のみ、ソフトウエアや器具備品のうちサーバーについてもA類型の対象となる。 これら対象設備のうち、以下に示す「最新モデル要件」と「生産性向上要件」の両方を満たしている場合に、工業会等からの証明書が発行される。 〈3 最新モデル要件〉 まず「最新モデル要件」についてである。 これは、一定期間内(例:機械装置であれば10年以内)に販売開始されたもののうち、各メーカーにおいて最も新しいモデルのことを指す。あくまで各メーカー毎の最新モデルが対象になるものであり、業界全体で最も最先端の設備のみを対象としている訳ではない。 ただし、設備を取得する当年度かその前年度に販売開始されたモデルについては、(既に旧モデルとなってしまっているものも含め)全て最新モデルであると規定している。A類型における「年度」とは1月1日~12月31日までを指す【A-8】ため、2014年中に設備を取得する場合は、2013年1月1日以降に販売開始された設備であれば全て最新モデルとなる。 また、中小企業者等がソフトウエア組込型機械装置(あらかじめプログラムが組み込まれた専用のコンピューターが搭載され、そのコンピューターからの指示に基づいて作用する機械装置)を導入する場合は、最新モデルではなく一代前モデルであっても本税制の対象となる【中-1】。 〈4 生産性向上要件〉 続いて、「生産性向上要件」についてである。 これは、同一メーカー内で今回対象とする最新モデルとその一代前モデルとの性能を比較し、生産性向上につながるような性能が年平均1%以上向上していることを指す。 どのような性能(指標)を用いるべきかについては、特に指定はしていない。各メーカーがそれぞれ独自の創意工夫により様々な方向性で性能向上を図っていることを踏まえ、指標の選択についてはメーカーに一任しているが、その妥当性については工業会が確認・判断を行う【A-5】。 あくまで一つの指標で年平均1%以上の向上が必要であり、例えばエネルギー効率が0.5%、単位時間当たり生産量が0.5%向上と、複数の指標を合わせて1%向上している場合は要件を満たしたことにはならない【A-11】。 また、比較を行うのはあくまで同一メーカー内における最新モデルと一代前モデルであり、他メーカー品との比較や、ユーザーが現在使用しているモデルとの比較は一切不可である【A-6】。 比較をする新旧モデルの定義については、製品名や型番にとらわれず、機能や構造の変更など、大きな変更があった場合をモデル変更とみなし、変更前を「一代前モデル」、変更後を「最新モデル」と考える。ただし、デザイン(色等)の変更など、機能が変わらない変更についてはモデル変更とはみなさない【A-7】。 なお、比較すべき直接的な旧モデルが無いような新製品の場合も、同一メーカー内に類似する機能・性能を持つ設備や同じ用途で使用する設備等がある場合は、必ず当該設備との比較をすることが必要である。 特例として、新設会社における第1号製品でありそもそも取扱い製品が社内に1つしかない場合等は比較すべき指標がないと認められるため、生産性向上要件は不要となり、最新モデル要件のみ満たせばよいこととなるが、安易に「新製品であり比較不要」と判断することは不可であり、注意されたい【A-4】。 またソフトウエアについては、生産性向上要件はそもそも不要であり、その代わりに「情報収集機能」「分析機能」「指示機能」の3機能を有することが要件となっている。 〈5 その他留意点〉 以上の通り、A類型の証明書は、単品設備の性能等についての証明であるため、申請時期については設備を取得する前でも後でもどちらでもかまわない【A-10】が、設備ユーザーが確定申告を行う際に証明書を添付できるように、余裕をもって申請いただきたい。 また、原則1設備に対し1枚の証明書が必要であるが、同時に複数の同じ設備を導入する場合は、効率化の観点より、納入数量を記載することで1枚の証明書で対応可能としている【A-9】。 ただし、これはあくまで「同時に」導入する場合の効率化措置であり、例えば同じ年の4月と10月に同じ設備を導入する場合など導入時期が異なる場合は、4月時点で最新設備であったものが10月時点でも最新設備であるとは限らないため、それぞれ別の申請(証明書)が必要となる。 * * * 以上がA類型についての留意点であるが、個別案件について判断に迷う場合は、「最新モデル要件」や「生産性向上要件」については経済産業省や経済産業局に、資産区分(当該設備がそもそもどの分類で資産計上すべきか)については最寄りの税務署にお問い合わせいただきたい。 次回は最終回であるが、B類型(生産ラインやオペレーションの改善に資する設備)に係る留意点について解説を行いたい。 (了)
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建築物の『耐震改修工事』に伴う税務上の留意点~耐震改修促進税制を中心に~ 【第2回】「耐震改修促進税制の適用とその他の留意点」
建築物の『耐震改修工事』に伴う税務上の留意点 ~耐震改修促進税制を中心に~ 【第2回】 「耐震改修促進税制の適用とその他の留意点」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 耐震改修促進税制の概要 青色申告法人が有する耐震改修対象建築物につき平成27年3月31日までに所定の報告を行ったものが、平成26年4月1日からその報告を行った日以後5年を経過する日までの間に、建設後事業の用に供されたことのない耐震基準適合建物等を取得し、または耐震基準適合建物等を建設して、これをその法人の事業の用に供した場合には、事業供用した日の属する事業年度において、その耐震基準適合建物等の取得価額の25%相当額の特別償却を行うことができる(措法43の2①)。 2 耐震改修促進税制の適用要件 本税制の適用要件は以下のとおりである。 前回述べたとおり、「耐震改修対象建築物」(要安全確認計画記載建築物または要緊急安全確認大規模建築物)の所有者は、耐震改修促進法に従い、所定の時期までに耐震診断を実施したうえで、その結果を報告しなければならない(耐震改修促進法7、同法附則3①)。 耐震改修促進法によれば、『要安全確認計画記載建築物』については、地方公共団体が定める日(都道府県耐震改修促進計画または市町村耐震改修促進計画に記載された期限)までに、また、『要緊急安全確認大規模建築物』については平成27年12月31日までに、耐震診断結果を報告することとされている。 しかし、本税制を適用するためには、いずれの建築物についても平成27年3月31日までに報告することが必要とされており、耐震改修促進法に定める期限よりも早期に期限が到来する点に留意が必要である。 このように、本税制適用のための報告期限は意外にも切迫している。期限までに耐震診断を実施しただけでは足りず、結果の報告を行うことが要件となっているため、耐震診断が義務づけられている対象者においては早急に対応する必要があろう。 耐震診断の結果、耐震改修が必要と判断された場合には、その後耐震改修工事が行われることとなるが、耐震改修対象建築物について施行される耐震改修工事に伴って取得し、もしくは建築される部分を「耐震基準適合建物等」という(措法43の2①)。 そして、平成26年4月1日から耐震診断結果の報告日(上記(要件2)参照)以後5年を経過する日までの間に、それまで事業の用に供されたことのない耐震基準適合建物等を取得または建設して当該法人の事業の用に供した場合には、本税制の適用対象となる。 ただし、本税制の適用を受けるためには、以下の者によって、その耐震改修工事が各種の「耐震関係規定」(地震に対する安全性に係る建築基準法又はこれに基づく命令若しくは条例の規定(耐震改修促進法5③一))またはこれに準ずるものとして「国土交通大臣が定める基準」(同法17③一)に適合することとなる旨の書類により証明されていることが必要である(措規20の11①)。 この証明書に記載される証明年月日も、計算明細書(特別償却の付表(9) [14欄])に記載する必要がある(下記(要件4)参照)。 本税制の適用を受けるためには、確定申告書等に耐震基準適合建物等の償却限度額の計算に関する明細書を添付する必要がある(措法43の2③、43②)。 具体的には、特別償却の付表(9)「耐震基準適合建物等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表」を添付することとなる。 特別償却の付表(9) 耐震基準適合建物等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表 5 その他税務上の留意事項 以上の要件を満たさず、耐震改修促進税制の適用を受けられない場合であっても、耐震改修関連の支出を予定している場合には、税務上、以下のような点につき留意が必要と考える。 ※なお本稿では、住宅に係る耐震改修特別控除(措法41の19の2)については取り上げない。 (1) 資本的支出と修繕費 法人が有する固定資産について支出する金額のうち、資産の使用可能期間を延長させるものや資産価値の向上をもたらすものについては、「資本的支出」となるため、支出日の属する事業年度において損金算入されず、新たな固定資産の取得と同じように取り扱われる(法令132)。 この点、耐震改修工事は資産の使用可能期間の延長をもたらすことから、一般的には「資本的支出」として取り扱われると考えられる。 ただし、震災等で被災した資産について、二次災害を回避する等の目的で行われる耐震補強工事については、同規模の地震や余震の発生を想定し被災建物の崩壊等の被害を防止するなど、被災前の効用を維持するためのものが多いと考えられる。 このため、法人が、被災資産(その被害に基づき評価損を計上したものを除く)の被災前の効用を維持するために行う補強工事、排水又は土砂崩れの防止等のために支出した費用について、これを修繕費として経理したときは、その処理が認められる(法基通7-8-6(2))。(※) これに対し「耐震診断」については、その結果として耐震改修が必要かどうかを判断するための支出であるから、耐震診断費用が直接的に資産の使用可能期間の延長をもたらすものとは考えにくい。 そのため、耐震診断費用については支出日の属する事業年度において損金算入することができると考えられる。 (2) 消費税の取扱い 消費税率が予定通り平成27年10月1日に10%へ引き上げられることとなった場合、耐震改修工事は「請負工事」に該当すると考えられるため、経過措置により、平成27年3月31日(平成27年指定日の前日)までに締結した請負契約に基づき、平成27年10月1日以後に課税資産の譲渡等(耐震改修工事の完成引渡し)が行われる場合には、引き続き旧税率(8%)が適用されるものと考えられる。 (連載了)