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会社を成長させる「会計力」 【第12回】「成長戦略からみたエクイティファイナンスの姿」
会社を成長させる「会計力」 【第12回】 (最終回) 「成長戦略からみたエクイティファイナンスの姿」 島崎 憲明 《資本市場からの資金調達》 上場企業が将来の成長へ投資するため、必要な資金を公募増資で調達するケースが相次いでいる。 「アベノミクス」の効果により、脱デフレの動きや円高の是正で企業を取り巻くビジネス環境は改善しつつある。2014年3期の決算発表時の次期予想や中期経営計画の説明では、経営者による事業の拡大に向けた積極的な発言が目立つ。 企業は設備の増強や事業投資などに必要な資金を金融機関からの借入金だけでなく、資本市場から直接資金を調達し、資本を増やす方法で賄っている。「エクイティファイナンス」と呼ばれる手法で、株式を新たに発行して投資家から資金を集める公募増資が代表的である。 公募増資で得た資金は、借入金のように返済期限や金利は付かないが、株主の期待は、この資金が中長期的な会社の成長につながる事業等に投下され、株価や配当という形で株主に還元されることを期待している。 最近の新聞報道によると、「三井不動産が日本橋などの再開発投資のために32年ぶりに資本の増強を決め、3,000億円超を調達する」とか、「第一生命保険が米国中堅生保を約5,800億円で買収すること決め、買収額のうち2,500億円は公募増資で賄う資金をあてる」など、大型の増資計画が公表されている。 エクイティファイナンスは発行株数を増やし資本を増強するのであるから、P/Lのボトムライン(連結純利益)が同じであれば一株当り利益(EPS)や資本金利益率(ROE)は悪化する。企業には投資家に対して、この悪化は一時的なものであり、中長期的には改善するという確かなエクイティストーリーの説明が求められる。 つまり、増資資金を元手にした成長戦略が必要であるということだ。 《調達資金が本来目的に使われなかった時代》 反省を込めて、少々昔の話を思い出してみたい。 1989年、日経平均株価が最高値(12月29日、3万8,915円)を付けたこの年、日本企業は資本市場からの資金調達ラッシュとなった。 当時、筆者はニューヨークでの駐在が5年目を過ぎたところで、米国では日本企業の駐在員が急増し、日本企業による巨額の不動産投資などがピークを迎えようとしていた。まさに、日本は「ライジング サン」、「ジャパン アズ ナンバーワン」と言われ、エクイティファイナンスで調達した豊富な資金で米国市場を席巻していた時でもあった。 この時に最も多用されたのは「ユーロドルワラント債(新株引受権付社債)」と呼ばれるものであった。普通社債に比べ、ワラント分だけ起債コストが低くなり、ドル円をスワップすると、最終の起債コストがマイナスになるケースもあった。 この6月に欧州中央銀行(ECB)がマイナス金利政策の導入に踏み切り、民間銀行が余剰資金を中央銀行に預け入れる際に金利が付かずに手数料を徴収する仕組みが話題になった。当時のワラント付社債はマイナス金利で資金を調達できるということで、確たる資金の使途もないまま社債の発行が急増した。これらの資金が株式や不動産の投資に回り、いわゆる「財テクバブル」を招いた。 それはその後のバブル崩壊によって巨額の損失処理を余儀なくされるのだが、エクイティファイナンスで調達した資金が企業の成長のための投資にではなく、本業と全く関係のない金融資産等に投資された結果でもあった。 《増資の成功による「攻めの経営」への転換》 企業の成長のためには優良な資産の積み上げが必要であり、それに伴うリスク資産の積増しに見合った、資本(リスクバッファー)の拡充が不可欠である。 ここで、リスクバッファー増強のために実施した増資の話に触れてみたい。 住友商事は2004年7月に1990年3月期以来15年ぶりの増資を実施した。約1,000億円の資金調達であったが、その使途について、開示資料では次のように説明している。 1999年からの2003年までの4年間の経営計画で掲げた課題(ひとことで言えば、身の丈に見合った資産規模にB/Sを縮小する)を確実に達成したことにより、企業体質の強化とコアビジネスの拡充による収益性向上を図ることができた。2003年から始まる2年間の中期経営計画は、優良資産の積極的な積み増しによりリターンの絶対額を増やす「攻めの経営」に転じる時期でもあった。 収益規模を拡大するには利益率の改善に加え、資産(換言すればリスクアセット)の積み増しが必要であり、そのためにはリスクバッファーのさらなる充実が必須だったのである。 15年ぶりの増資は国内外で資金調達するグローバルオファリング(144A私募債)で行った。米国の投資家も対象としたオファリングであるということで、オファリングサーキュラー(新株式発行届出目論見書)に必要な5年分の財務諸表について米国上場会社並みの監査を改めて行うということで、かなりの時間がとられた。既に公表済みの財務諸表について修正が入り、対応に苦慮したことを思い出す。 目論見書の大部分は「事業等のリスク」に対する説明であったが、当時の社長が「これだけのリスクについて説明を受けたら、当社の株を買う気になれないね」と、半ば冗談で言っていたのを思い出す。 そのリスク情報とは、次のようなリスクについての詳細説明である。 筆者は海外投資家を対象としたロードショーに2週間の日程で出かけたが、米国での初日のミーティングで機関投資家から厳しい質問を頂戴した。 なぜこのタイミングでこの規模の増資を行うのか、増資は借入れよりコストが高いのになぜ希薄化までして増資するのか、株価が下がるではないか、もっとレバレッジを利かせるべきだ、等々、質問というより詰問であった。 こちらからは、成長戦略、そのための優良資産の積み上げとバッファー拡充の必要性、12~3%の希薄化は収益の伸びで十分吸収できることなど説明した。 議論は平行線となったが、最後は、「会社は既に決断したことであり、あとは、あなたが買うかどうかを決めればよい」と突き放した。 後々判明したことだが、この投資家は増資新株を引き受けて値上がり益を享受できたようで、すっかり住友商事のファンになったと聞いた。リスク・リターン指標の開発以来、常に考えていたことを多くの海外投資家に説明し、特に当社の成長戦略に理解を得たことが何よりも嬉しかった。 ロードショーを終え、ロンドンのホテルで発行価格決定の瞬間をメンバーと一緒に固唾をのんで見守ったこと、決定後に筆者の部屋で関係者と早朝から祝杯を挙げ痛飲したことなど、思い出深い仕事となった。 40数年の会社人生の中で、最初で最後のエクイティファイナンスであったが、この増資を機に住友商事による「攻めの経営」が始まり、優良資産の積み上げによる収益拡大が加速したのである。 《株主からの期待を意識した成長ストーリーを》 株主資本は金利のかからない資金ではあるが、株主が期待するリターンを稼がなくてはいけないという意識を持つことが大事だ。株主資本に対するリターンの比率はROEであるが、ROEが株主資本コスト(=株主が要求する利回り)を上回っていれば、株主の要求を満たしている企業ということである。 総合商社大手5社の2014年3月期業績を見ると、利益の規模もさることながら、5社平均のROEは12.1%と、日本企業平均の株主資本コスト6~7%の2倍ほどのパフォーマンスであり、2013年度の東京証券取引所の平均ROE、8.6%をかなり上回っている。 これは、本連載でも幾度となく説明してきたが、総合商社が資本コストを意識し、共通のモノサシによる事業の集中と選択を積極的に進めてきた結果である。 このレベルであっても、欧米のトップ企業に比べるとROEの向上は引き続いての経営課題であり、あわせて、自社株買いや増配など株主還元策にも気配りしながら、企業の持続的成長を確かなものにしていく経営が求められるのである。 ◆連載を終えるにあたって◆ 『会計』とは、社会に出て以来、45年の付き合いになる。 財務諸表作成などの会計実務からスタートしたこの世界の仕事であるが、部長、取締役と職責が重くなるに従い、同じ会計の仕事でもその質が変わってきた。 「広い意味での会計知識」を経営に生かす仕事、すなわち、会社の持続的成長を図るための仕組みを構築し実行する機会にも恵まれた。 これらの経験で得たものを12回の連載でお伝えしたかったが、連載を終えるにあたって十分に説明できたか心配は残る。 少しでも読者の参考にしていただければ幸いである。 (連載了)
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私が出会った[相続]のお話 【第8回】「時には役者のようにふるまって?」~遺留分侵害の遺言執行は説得次第~
私が出会った[相続]のお話 【第8回】 「時には役者のようにふるまって?」 ~遺留分侵害の遺言執行は説得次第~ 財務コンサルタント 木山 順三 〔遺留分侵害の遺言を執行する心得〕 遺言執行者は一旦就職すれば、その遺言を粛々と執行する義務が生じます。 たとえ遺留分を侵害するような遺言内容であっても、その手続に変わりはありません。 その際、遺留分を侵害された相続人より減殺請求の申立てがあったとしても、それは当事者同士で話し合うべき問題なのです。 特に遺産の中で不動産の執行が絡んでいる場合は、遺言執行者として、速やかな手続が必要です。なぜなら不動産は、相続人の1人が単独で共同相続登記ができるからです。 すなわち遺言内容に不服な相続人が、半ば嫌がらせのためにこの行為を行うこともありうるのです。 なお、遺言書上に「不動産を売却し、換金の上、分与をする」旨の内容が記載されていて、相続人がその売却を拒否した場合も、理屈の上では遺言執行者は、その不動産を売却し、執行することは可能です。 ただしこの場合、どうしても不動産を売りたくないということで、売却を拒否した相続人から、別途損害賠償請求を訴えられる恐れがあります。 現に私の知り合いの弁護士も、同内容の遺言執行に際して、とりあえず遺言者から弁護士宛てに遺贈してもらい、その上で受遺者である弁護士が売却手続を行い、別途相続人に遺産分割するという、変則的な執行手続を取っているほどです。 もちろんその弁護士にかかる公租公課の負担を明示し、別に友人の弁護士に遺言執行者を依頼して対処するとのことです。 このように遺言執行に関しては、複雑な問題を含んでいるケースが多々あります。 したがって遺留分侵害の遺言執行に際しては、できれば極力円満な執行が望ましく、相続人および受遺者全員の合意があれば、必ずしも遺言書通りの執行を行うことに、こだわりはありません。 そのあたりの相続人間との間合いの取り方、阿吽の呼吸には微妙な対応が必要であり、そのような事例を参考までにご紹介しましょう。 ただし、すべてがこのようにうまくいくとは限らないことをお知りおきください。 〔Tさんのお父様が示した遺留分侵害の内容〕 ある日私の事務所に、Tさんから相続対応のご相談がありました。 Tさんのお父様が余命いくばくもないご病気で、遺言書を作成したいとのことです。 幸いにしてTさんのお父様は意識もしっかりされており、私との面談も何ら問題なく、ご自分の意思をしっかり述べられました。 T家は大変な旧家で、代々その継承に注力してこられました。 Tさんのお父様のお話から把握できた内容は、以下のとおりです。 ここで特に問題となったのは、お父様は長女に対し、遺言上に財産分与を全く記載しないというお考えでした。 すなわち、完全なる遺留分侵害です。 私はお父様に 「いくらなんでも全くのゼロとは、やりすぎではないですか?」 と申し上げると、 「私はあの娘をそんな子に育てていない。きっとこの旧家を継承する大変さをわかっているはずだ!」 とはっきり言い切られました。 〔長女のために値上げ交渉?〕 そこでまず、少しでも遺留分の壁を低くするよう提案しました。 それは孫との養子縁組です。 もともと夫人と長男Tさんには固有の財産があり、今回の相続財産を加算することは次の相続時のネックとなります。 また、Tさんの後は孫にT家を託すことも約束済みです。 残るは遺留分の対処です。 孫養子を行うことにより、子供たちの遺留分割合は1/8から1/12にバーが下がります。 それでも長女には1億円の財産分与が必要です。 私は再度お父様に具体的な遺留分の金額を示すと、お父様は 「それなら1,000万円だけあげよう。」 と言われました。このため私が、 「1,000万円でも、手元に残るのは500万円しかないのですよ。」 とお伝えし、さらに値上げ交渉の結果、3,000万円を相続させることになりました(私とは面識のない長女のために、何でここまでやらなければならないのか? しかも、これでもまだ遺留分侵害なのですが・・・) 〔速やかな交通整理を実行〕 お父様のご病気という時間の制限もあり、 を速やかに行いました。 その結果、家族構成は以下のようになりました。 [家族構成] 〔遺言執行の場で、役者になる〕 それから1年後、Tさんのお父様が亡くなられました。 いよいよ遺言執行の時がやってきたのです。 まず頭をよぎったのは、長女への遺留分の侵害です。 Tさんとも相談し、遺言書の披露は四十九日の法要後に行うことにしました。 当日、法要の後、孫養子を含む相続人全員に集まってもらいました。 私は極力淡々と、遺言書の文言を読み上げました。 そして、長女への金額提示を行うとともに「付言事項」に書かれている故人の遺志を披露する場面で、気持ちを込めて、このように申し上げました。 「実はお父様は、『娘には嫁入り前に十分なことをしているので、今回は一銭もあげないつもりだ。あの子はこの家を守っていく大変さを十分理解しているから。』とおっしゃいました。 ところが、ここにおられるお兄様(Tさん)が、『それでは妹があまりにも可哀想だ。もう少しあげてほしい!』とおっしゃったのです。」 私がこのように披露しましたところ、妹(長女)は、 「お兄さん、私のことをそこまで考えてくれてありがとう。大切に使わせていただきます。」 と言って、Tさんに感謝の言葉を投げかけられました。 それを聞いて私はホッと安心し、と同時に 「やはりTさんのお父様の教育は正しかったのだなぁ。」 と感心したのです。 〔本当は私が値上げ交渉したのですが・・・〕 いかがですか? これを『善意の回し蹴り作戦』と言います(冗談です)。 もし当事者であるTさんが上記のようなことを言っても、妹(長女)への効果は薄いと思います。 むしろ第三者から伝えることで、より信憑性が高まるのです。 このように税理士さんも、時には役者となってパフォーマンスをする必要があるのです。 それが当家にとって円満に相続手続が完了するのなら、なおさらのことと思います。 * * * 来月も引き続き「遺留分侵害の遺言執行」について、単にその遺言執行だけでなく、その困難な対応に携わったおかげで、第2・第3の相続事案へと発展した、いわゆる税理士業として理想的な『資産家丸抱え』の事例をお話します。お楽しみに。 (了)
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《速報解説》 「修正国際基準JMIS」(公開草案)が公表~「のれんの会計処理」「その他の包括利益項目のノンリサイクリング処理」について「修正又は削除」を提案~
《速報解説》 「修正国際基準JMIS」(公開草案)が公表 ~「のれんの会計処理」「その他の包括利益項目のノンリサイクリング処理」について 「修正又は削除」を提案~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成26年7月31日、 企業会計基準委員会は「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)(案)」を公表し、意見募集を行っている。 意見募集期間は、平成26年10月31日までである。 これは、企業会計審議会の「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」で示された、IFRSのエンドースメント手続に関するものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 修正国際基準の公表の方式 国際会計基準審議会(IASB)により公表された会計基準及び解釈指針を直接「削除又は修正」することなく、「削除又は修正」した箇所について企業会計基準委員会による修正会計基準を公表する方式を採用している。 このため、修正国際基準は、次のものから構成される。 2 のれんの会計処理 「のれんの会計処理(案)」(修正会計基準公開草案第1号)では、のれんの非償却に関して、企業結合で取得したのれんは、耐用年数にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却するように、IFRS第3号「企業結合」の規定について、「削除又は修正」することを提案している(IAS第28号「関連会社及び共同支配企業に対する投資」も同様)。 また、企業結合で取得した無形資産の識別などの関連する論点については、「削除又は修正」を必要最小限にするなどの理由で「削除又は修正」を行わないことを提案している。 3 その他の包括利益項目のノンリサイクリング処理 「その他の包括利益の会計処理(案)」(修正会計基準公開草案第2号)では、その他の包括利益項目のノンリサイクリング処理に関して、過去にその他の包括利益に認識した利得又は損失の累計額を、その他の包括利益累計額から純損益に組替調整額として振り替えるように、IFRS第9号「金融商品」の規定について、「削除又は修正」することを提案している(IFRS第7号「金融商品:開示」、IAS第1号「財務諸表の表示」にも注意)。 IAS第19号「従業員給付」の規定についても「削除又は修正」することを提案している。 また、確定給付制度債務に関する過去勤務費用などの関連する論点については、「削除又は修正」を必要最小限にするなどの理由で「削除又は修正」を行わないことを提案している。 Ⅲ 適用時期等 次の項目については、修正国際基準が金融庁により制度化される段階で定められる見込みであると述べられている。 (了)
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Profession Journal No.80が公開されました!~今週のお薦め記事~
2014年7月31日(木)AM10:30、Profession Journal No.80 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。
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税務
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法人税改革の行方 【第2回】「欠損金の繰越控除と減価償却」
法人税改革の行方 【第2回】 「欠損金の繰越控除と減価償却」 慶應義塾大学経済学部教授 土居 丈朗 本連載は、今回以降、法人税での課税ベースの見直しに関わるところを詳説したい。今回は、欠損金の繰越控除と減価償却を取り上げる。 前回も述べたように、法人実効税率引下げを優先するという大局観から見れば、できるだけ企業行動に悪影響が及びにくい形で課税ベースを拡大することで代替財源を捻出することが望まれる。 《欠損金の繰越控除の控除割合縮小と繰越期間延長》 さて、欠損金の繰越控除は、法人税の課税ベースが小さくなっている要因の中で最も大きい。図1によると、2012年度で欠損金の繰越控除による法人税の減収額は2.3兆円に上る。 図1[法人税額(国税)と税引き前利益の関係(平成24年度)] (政府税制調査会第2回法人課税ディスカッショングループ「財務省資料〔課税ベースの拡大等〕」(2014年3月31日)) 欠損金の繰越控除は、企業がゴーイング・コンサーンである限り認めるべきものである。 例えば、毎年10万円の黒字を出す企業と、ある年に10万円赤字になり次の年に30万円黒字になる企業は、利子率がゼロなら2年間合計の利益の現在価値は同じだが、他が同じなら欠損金の繰越控除が制約なく認められないと、前者の企業より後者の企業の方が多く法人税を払わなければならなくなる。欠損金の繰越控除に制限を付けるのは、本来は望ましくない。 しかし、欠損金の繰越控除は、法人税率引下げを行った2011年の税制改正時に、大企業の控除上限を10割から8割に引き下げるとともに、繰越期間を7年から9年に延長したことを受けて、控除上限の引下げに伴う増収見込額を織り込んだ前例がある。財務省主税局「平成23年度の税制改正(内国税関係)による増減収見込額」によると、2011年の税制改正時における増収見込額は、1,788億円(平年度ベース)とされている。 これはどういうことかを、数値例で示すと次のようになる。 0年目に400の欠損金が生じたが、1年目以降、毎年50の控除前法人所得(利益)を上げる企業があったとする。法人税率が引下げ後に20%となったとして、欠損金の繰越控除が控除前利益の80%まで適用できる仕組みだったとする。 このとき、〈表1〉のように、1年目は控除前所得50から80%の40まで繰越控除が適用され、差額10に20%の税率で法人税が課税される。400の繰越欠損金のうち、1年目に40を使ったので、残る繰越欠損金は360となる。 このように、2年目以降も欠損金の繰越控除が適用されるが、控除期間が9年とされていると、9年目までは繰越控除が使えるが、10年目以降は使えず、40だけ繰越控除を使い残すことになる。 〈表1〉※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ここで、もし欠損金の繰越控除の控除上限を60%に引き下げるとともに控除期間を15年に延長したとする(この割合や年数に他意はない)。 このとき、〈表2〉のように、1年目は控除前所得50から60%の30まで繰越控除が適用され、差額20に20%の税率で法人税が課税される。400の繰越欠損金のうち、1年目に30を使ったので、残る繰越欠損金は370となる。2年目以降も繰越控除が使えて、最終的に14年目で繰越欠損金を使い尽くして0となる。15年目以降は、控除できる繰越欠損金はないので、(他に控除できるものがなければ)控除前法人所得にそのまま20%の税率で法人税が課税されることになる。 〈表2〉※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ここでいう欠損金の繰越控除による控除割合縮小と繰越期間延長に伴う増収見込額(初年度ベース)は、まさに〈表1〉と〈表2〉の1年目に現れる税収の差(この企業の場合は4-2=2)の全企業合計額となる(もちろん、税制改正決定時に見積もられる増収額は、個社の実額の積み上げ計算ではなくマクロで推計されたものとなる)。 ただ、この増収額は短期的なものにすぎない。長期的に見れば、企業からすれば、控除期間が短くて欠損金の繰越控除を使い残す〈表1〉よりも、たとえ控除割合が小さくても控除期間が長くて繰越控除を使い切る〈表2〉の方が、合計の法人税額は小さくなる。 例えば、単純化のため当該期間の単純合計が現在価値とみなせるよう利子率が0%としたならば、1年目から14年目までの法人税合計額は、〈表1〉では68なのに対し、〈表2〉では60である。 税務当局からすれば、長期的に見れば、繰越控除の使い残しがなければ、控除割合縮小と繰越期間延長は、税収の増減はほぼない。むしろ、繰越控除の使い残しがある分、繰越期間が短い方が、長期的には税収が増える可能性がある。とはいえ、2011年税制改正時には、欠損金の繰越控除の控除割合縮小と繰越期間延長による増収分を課税ベースの拡大とみなした前例があるのは事実である。 目下、多くの企業にとって、業績回復局面に入り、繰越欠損金が使い切ったり大きく縮小したりすると見込まれ、その局面においては、控除割合を縮小することによる企業への悪影響は小さいと見込まれる。その意味では、法人税の課税ベース拡大の項目として、欠損金の繰越控除の見直しは有力なものといえよう。 《減価償却方法の定額法への統一》 次に、減価償却方法の定率法から定額法への変更が検討されている。 政府税制調査会の議論でも、この変更は肯定的な意見が多かった。特に、国際会計基準(IFRS)が定額法を採用していることも、追い風となっている。 定率法を定額法に変更することは、設備投資直後の短期的には、減価償却費は小さくなるため、法人税の課税ベースを拡大する効果を持つ。ただ、これも欠損金の繰越控除の長期的な効果と同様に、最終的には減価償却を終了するまでの期間を捉えれば、減価償却費の合計額は定率法でも定額法でも(利子率や割引率が低ければなおさら)ほぼ同額であるから、法人税額に与える効果もほぼ同様である。 ただ、これも2011年の税制改正時において、250%定率法を200%定率法に見直したことを受けて、減価償却制度の見直しに伴う増収見込額を織り込んだ前例がある。財務省主税局「平成23年度の税制改正(内国税関係)による増減収見込額」によると、2011年の税制改正時におけるこの増収見込額は、1,780億円(平年度ベース)とされている。 減価償却の方法の変更は、設備投資に対し短期的に影響を及ぼす可能性はあるが、長期的に見れば中立的になる方向に作用する。次回取り上げる設備投資や研究開発に関する租税特別措置との整合性を担保すれば、設備投資に対する短期的な悪影響も小さくできるだろう。 その点で、減価償却制度の見直しは、法人税の課税ベース拡大に資するものとして意義が認められるだろう。 (了)
法人税
税務
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解説
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生産性向上設備投資促進税制の実務 【第7回】「事例を元にした特別償却付表(7)の記載方法の確認」
生産性向上設備投資促進税制の実務 【第7回】 「事例を元にした特別償却付表(7)の記載方法の確認」 税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 石田 寿行 前回は具体例により、別表6(21)〈生産性向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書〉の記載方法を解説した。 今回は、生産性向上設備投資促進税制の特別償却を選択した場合に作成する特別償却の付表(7)〈特定生産性向上設備等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表〉について、以下、事例を前提に具体的な記載方法を確認していく。 なお、今回も前回と同様に、本連載第3回で設定した事例を前提としている。 【記載例】 特別償却の付表(7):特定生産性向上設備等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 以下では、上記の記載例を確認しながら、各欄の記載方法について確認していく。 (了)
国税通則
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「調査の終了の際の手続に関する同意書」の役割と税理士業務への影響
「調査の終了の際の手続に関する同意書」の役割と 税理士業務への影響 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 1 改正前の取扱い【税務慣行】 平成23年度改正前は、実地の税務調査が終了すると、税務当局は、納税者に対して、調査の結果を説明することになっていた。 その場合、「非違がある場合」と「非違がない場合」で、次のような説明をしていた。 2 改正後の取扱い【国税通則法で具体的に規定】 平成23年度改正後は、以下のように法定された。 上記の「調査結果の内容の説明等」及び「更正決定等をすべきと認められない旨の通知」については、納税義務者が「連結子法人である場合」又は「税務代理人がある場合」には、その納税義務者への通知等に代えて、それぞれ次の者に行うことができることとされている(国通法74の11④⑤)。 上記の(ロ)を書面化したものが、「調査の終了の際の手続に関する同意書」(平成25年1月から適用)である。 〈調査の終了の際の手続に関する同意書〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 同意書に記載された「対象となる行為」は、国税通則法第74条の11第1項から3項に規定する行為である。 「対象とする行為」の[2]では となっている(同法同条第2項)。この項に印(√)を付けることによって、税務代理人は、単独で調査の結果の説明を税務当局から聞くことができる。 すなわち、納税義務者よりも税務代理人である税理士は、更正決定等をすべきと認められる非違の内容を先に知ることが可能となるのである。 これによって、税理士の申告ミスに基づく更正等の指摘が仮に税務当局から行われたとしても、納税義務者に対して税理士が、その説明をする(対応する)時間的な余裕を獲得することができる。 その意味で、税理士は、上記の項目に印を付けて同意書を提出することが好ましいのかもしれない。 なお、同意書を提出しない場合でも、「電話または臨場により納税義務者に直接同意の意思を確認できた場合」には、税務代理人である税理士が単独で、調査の結果の説明を税務当局から聞くことが認められている。 (了) ↓お勧め記事↓
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改正『税理士法』の検証と今後への期待 【第2回】「税理士業務に関する改正事項・税理士の信頼性確保に関する改正事項」
改正『税理士法』の検証と今後への期待 【第2回】 「税理士業務に関する改正事項・ 税理士の信頼性確保に関する改正事項」 弁護士 木村 浩之 2 税理士業務に関する改正 (1) 補助税理士制度の見直し~補助税理士から所属税理士へ~ 税理士制度については、平成13年にも大幅な改正がなされ、税理士法人制度、補助税理士制度、補佐人制度、書面添付制度の創設など、いくつかの重要な新制度の導入がなされている。 このうち補助税理士制度については、従前、税理士の業務を行うためには、自ら開業する必要があったものが、他の税理士又は税理士法人の補助者として常時従事する場合には、「補助税理士」として業務を行うことができるとされたものである。 ただし、補助税理士については、その従事する税理士等が受任した案件について業務を行うことができるものの、自己が直接受任して業務を行うことはできないとされていた。 今回の改正では、これをより柔軟にして、その所属する税理士等の承諾を得るなど、一定の手続を経ることで、自己が直接依頼者から案件を受任して税理士業務を行うことができるようになった。 そのためには、具体的には、次の手続が必要とされている(税理士法施行規則1条の2)。 以上の手続を経ることにより、開業していない税理士であっても、自らの名義と責任で税理士業務を行えることになり、業務の幅が拡大することになったといえる。 また、このように、自己の名義と責任で業務を行えるようになったことに伴い、その名称も「補助税理士」から「所属税理士」に変更されている。 なお、この改正については、平成27年4月1日から適用される。 (2) 調査の事前通知 周知のとおり、平成25年度税制改正において、国税通則法の一部改正によって調査手続の大幅な見直しがなされ、調査の事前通知については、納税者本人と税理士の双方に行うものとされていた。 しかしながら、本来、税理士は、自らの専門家としての責任で税務代理権限証書を添付して納税申告書を提出しているのであり、それにもかかわらず納税者本人に事前通知が必要であるとするのは、むしろ、税理士に対する信頼を損なうものとも考えられる。 そこで、今回の改正では、税務代理権限証書に納税者の同意があれば、当該納税者に通知せずとも「税理士へ通知すれば足りる」とされることになった。 これにより、税理士が納税者からの信任を得た上で、専門家としての責任と自覚をもって納税申告書を作成し、提出することで、ひいては申告納税制度を円滑に機能させるということが期待されているものといえる。 3 税理士の信頼性確保に関する改正 (1) 概要 税理士が申告納税制度を支えるという公共的使命をよりよく果たすため、社会からの信頼を得ることが必要不可欠であることは言うまでもない。 ところが、昨今、OB税理士と国税職員との間で発生した不祥事や税理士による脱税事件への関与など、社会から非難されるべき事件が相次ぎ、税理士制度に対する信頼回復が急務になっていたといえる。 そこで、今回の改正では、税理士の信頼性を確保するため、いくつかの改正がなされている。 具体的には、非税理士に対する名義貸しの禁止を明文化し、その違反に対する罰則を定めたこと、懲戒処分における業務停止の期間を最大1年から2年に延長し、税理士に係る懲戒処分の適正化を図ったこと、税理士会の会則に租税教育等の活動に関する規定を明記することなどが定められた。 (2) 税理士に係る処分の適正化 税理士に係る懲戒処分の適正化について敷衍すると、もともと法44条は、税理士に対する懲戒処分の種類として、「戒告」「1年以内の業務停止」「業務禁止」の3つを定めていた。 このうち「業務禁止処分」については、当該処分がなされれば、税理士としての欠格条項に該当し、処分から3年は税理士となることができず、税理士登録は抹消され、税理士会からも退会を余儀なくされることになる。そのため、もっとも重い処分とされる。 これに対して、「業務停止処分」については、その期間は税理士業務を行い得ないが、税理士登録は抹消されず、税理士会会員としての身分も保持され、停止期間が満了すれば業務を再開することができる。一般に、業務禁止処分では処分が重くなりすぎる場合に業務停止処分が選択されるが、その期間が1年では十分な抑止効果が得られない場合がある。 そこで、今回の改正では、業務停止の期間が「1年以内」から「2年以内」に延長されることになった。 2年ということに関しては、弁護士、公認会計士などの他士業における懲戒処分に係る業務停止期間が2年以内とされており、それとの均衡も図られたことになる。 なお、この改正については、平成27年4月1日から適用される。 おわりに 今回の税理士法改正は、平成13年度改正以来の大幅な改正であった。 言うまでもなく、社会環境は日々変化しており、それにあわせて制度の変容も迫られる。 このうち、税理士資格の制度については、これまでも少しずつ変容してきたところであるが、大幅な変更には至っていない。今後の見通しとして、今回の改正で日税連の意見が一部実現したことにより、当面の間は、さらなる見直しがなされることはないと思われるが、不断の見直しが必要であろう。 ただし、重要なのは、資格そのものではなく、資格を得た後も日々研鑽に努め、専門家としての責務を全うすることで、納税者ひいては社会からの信頼を勝ち得るということである。 そのため、今回の改正でも、税理士業務を遂行する環境が整えられ、信頼性を確保するための仕組みが設けられている。これらはいずれも、制度そのものが重要なわけではなく、あくまでも制度を運用する個々の税理士自身が重要であることは言うまでもない。 本稿が少しでも税理士の方々の意識的な向上に貢献できれば幸いである。 (連載了)
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貸倒損失における税務上の取扱い 【第23回】「判例分析⑨」
貸倒損失における税務上の取扱い 【第23回】 「判例分析⑨」 公認会計士 佐藤 信祐 第21回においては、債権放棄の対象となる債権については、回収不能なものである必要があるという点について解説を行い、第22回においては、回収不能な部分のみを抜き出して債権放棄を行った場合について解説を行った。 第23回にあたる本稿においては、日本興業銀行事件において、法人税基本通達9-6-1(4)がどのように適用されるのかについて検討を行う。 (ⅲ) 日本興業銀行事件における法人税基本通達9-6-1(4)の検討 法人税基本通達9-6-1(4)についての原告、被告の主張については第15回で解説した通りであるが、 という点の2点が争われていた。 このうち後者については、第1審における原告側の主張として、「弁済を受けることが困難」であれば足り、法人税基本通達9-6-2と同様の意味での「回収不能」までは必要ないと主張しており、この主張については、第22回で紹介した大渕博義教授の見解もこれに近いものであると思われる。 このように、回収不能か否かという点を争っていないという点に違和感が存在するが、推測するに、もし、回収不能であるということであれば、法人税基本通達9-6-2で貸倒損失が認められることから、法人税基本通達9-6-1(4)の適用についてはそれほど厳密に回収不能である旨を主張するつもりがなかったのではないかと思われる。 そして、第1審における被告側の主張としても、法人税基本通達9-4-1の適用については、債権放棄に付された解除条件の不成就が確定した翌事業年度においては認められるとしていることから、本事件においては、解除条件付債権放棄の効力が生じていたと認められていれば法人税基本通達9-4-1により貸倒損失の損金算入が認められ、解除条件付債権放棄の効力が生じていたと認められない場合には、法人税基本通達9-6-2に該当した時に限り、貸倒損失の損金算入が認められるというのが被告側の解釈であると考えられる。 さらに、第1審における裁判所の判断においても、 としており、法人税基本通達9-6-1(4)についての判断をさほど行わず、同通達9-4-1についての判断を行っているように思える。 こうしてみると、本事件において、法人税基本通達9-6-1(4)についてはほとんど問題にならなかったように思える。これに対し、同通達9-4-1の適用については、貸倒損失を認識すべき事業年度のみが問題とされており、寄附金該当性についてはほとんど問題とされていないことから、解除条件付債権放棄の効力については重要な問題となっている。 過去の判例を見てみると、法人税基本通達9-4-2の適用について争われた事件は多いものの、同通達9-4-1の適用について争われた事件はほとんど存在せず、本事件についても、寄附金該当性について争われていない。 これは、法人税基本通達9-4-2が「例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等」の場合に適用されるのに対し、同通達9-4-1は「子会社等の解散、経営権の譲渡等」に伴って適用されることから、通達の要件に該当するかどうかの判断が容易であり、かつ、「子会社等の解散、経営権の譲渡等」に伴っていることから、「その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由がある」と認められるケースがほとんどであるため、裁判で争うまでもない事案が多いことが原因であると推定される。 しかしながら、法人税基本通達9-6-1(4)と9-4-1の境界線はどこにあるかも疑問に感じるところである。本事件においても、最高裁判決において、金銭債権が回収不能か否かについては、 としており、もしそうであるならば、社会通念に従って総合的に判断した結果、債権放棄の対象となった債権については全額回収不能であることから、法人税基本通達9-6-1(4)の適用は認められるという判断になっても不思議ではない。第20回で法人税基本通達9-6-1(3)と9-4-1の境界線について曖昧なものであるという解説を行ったが、結局のところ、同通達9-6-1(4)と9-4-1の境界線についても同様に曖昧であると言わざるを得ない。 この点につき、1984年の記事であるが、当時国税庁審理室係長であった大渕博義教授は、子会社に対する債権放棄に対する法人税基本通達9-6-1(4)の適用について、 としたうえで、 としており、法人税基本通達9-4-1の条項をあえて挙げずに、法人税基本通達9-4-1に含まれるべき内容を同通達9-6-1(4)に続けて解説しており、これもまた、同通達9-4-1の位置付けが極めて曖昧な証左であると言える。 実務上も、子会社に対する債権放棄について、法人税基本通達9-6-1(4)を適用することができるか否かを検討することはあまり多くなく、同通達9-4-1を適用することができるか否かを検討することがほとんどである。法人税基本通達の体系からすると、回収不能なものを書面による債権放棄を行った場合には法人税基本通達9-6-1(4)を適用し、回収可能ではあるにもかかわらず、経営判断により債権放棄を行った場合には同通達9-4-1又は9-4-2の適用を判断するということになるが、実務上は、回収不能の判断をほとんど行わず、法人税基本通達9-4-1又は9-4-2の適用を検討することはほとんどである。 これは、事業活動を継続している子会社に対して債権放棄を行う場合には回収不能であるという立証が困難であることから法人税基本通達9-4-2によらざるを得ず、子会社を清算したり経営権の放棄をしたりするのであれば、もともと寄附の要素はあることを否定していない法人税基本通達9-4-1の方が同通達9-6-1(4)に比べてハードルが低いということが理由であると推測される。 このように、理論上はともかくとして、実務上は、関係会社に対する債権放棄について法人税基本通達9-6-1(4)を適用することができる場面はそれほど多くはないというのが実態であると考えられる。法人税基本通達9-6-1(3)(4)、9-4-1、9-4-2の位置付けについては、いずれこの連載を通じて明らかにしていきたいと考えている。 次回は、本事件に対する法人税基本通達9-4-1の適用について解説を行う予定である。 (了)