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〔しっかり身に付けたい!〕はじめての相続税申告業務 【第27回】 「納付方法の選択」
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第27回】 「納付方法の選択」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 今回から相続税の納税をめぐるポイントについて、見ていくこととする。相続税の納税期限は、申告期限と同様に、他界した日の翌日から10ヶ月以内である(相続税法33条)。 〔3つの納付方法〕 相続税の納付方法としては、以下の3つがある。 この3つのいずれかを納税者が任意で選択できるわけではない。 納付期限までに「現金一括納付」を行うことが原則である(相続税法33条)。 そして、「金銭で納付することを困難とする理由」がある場合にのみ、その納付を困難とする金額を限度として、「延納」が認められる(相続税法38条)。 さらに「延納によっても金銭で納付することを困難とする理由」がある場合にのみ、その納付を困難とする金額を限度として、「物納」が認められる(相続税法41条)。 〔ほとんどのケースでは現金一括納付〕 国税庁が公表している、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの実績によると、延納・物納の件数は、以下のようになっている。 また、国税庁が公表している、平成24年中に相続が開始した相続税申告案件(税額がない場合を除く)の実績によると、以下の通りである(上記の実績数の期間とは厳密には対応していないが、他に参照できる国税庁公表データがないため、簡便的に同一期間とみなして検討する)。 このデータからわかるように、大半のケースは現金一括納付であり、延納、物納は非常に限定的であることがわかる。 これは延納・物納は常に認められるわけではなく、「金銭で納付することを困難とする理由」「延納によっても金銭で納付することを困難とする理由」がある場合のみ、納付を困難とする金額を限度として認められるためであり、かつ、この「金銭で納付することを困難とする理由」「延納によっても金銭で納付することを困難とする理由」は、具体的な数値・根拠を示して延納・物納申請を行う必要があるため、延納・物納の許可を得るハードルが高くなっているという事情があると思われる(延納については、次回検討を行う予定である)。 筆者の実務経験では、平成18年の延納・物納手続の改正後、大半のケースは現金一括納付、まれに延納を選択するケースがある、という印象である。 〔納税資金の準備と特例適用時の注意点〕 上述のとおり相続税の申告・納付期限は他界後10ヶ月以内であるが、相続税の納税が発生する場合には、「納税資金の準備」が必要となる。 相続財産に金融資産があり、相続税納税資金に困らない場合は問題ないが、相続財産の大半を不動産が占める場合などは、相続税納税資金の準備に時間が必要な可能性がある。 したがって、相続税業務を受託した場合には、相続税概算額を早期に計算し、納税者に早い段階で報告を行い、納税者に納税資金準備のための時間を多く確保する必要がある(第22回参照)。 なお、納税資金が不足する場合には、一般的には延納手続を行うことになると思われるが、利子税負担があることなどから、多くのケースでは、延納手続の後、相続財産(不動産など)の一部を処分し、延納している相続税を納付することが多いと考えられる。 このような場合には、以下の2点に留意を行う必要がある。 (1) 相続財産売却時の税金(所得税・住民税) 相続財産の取得費加算特例(租税特別措置法39条)の適用にあたり、土地等については、平成27年以後の相続により取得したものについて、平成26年度税制改正により、計算方法が従来と異なるため、留意が必要である。 (2) 小規模宅地特例の適用(相続税) 相続税申告において小規模宅地特例(租税特別措置法69条の4)の適用対象としている土地等を売却する場合、小規模宅地特例の適用要件として、「相続税申告期限までに継続して所有していること」が求められるケースがあるため、相続税申告期限前に売却を行うことは、この特例の適用の観点からは回避する必要がある(*)。 (了)
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経理担当者のためのベーシック税務Q&A 【第17回】「欠損金の繰越控除」
経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第17回】 「欠損金の繰越控除」 仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久 1 欠損金の繰越控除制度とは 法人税法においては、各事業年度の益金の額から損金の額を控除した所得の金額を計算し、この所得の金額に一定税率を乗じて法人税額を計算します。つまり、法人税額の計算は、事業年度ごとに区切って行うことが原則です。 一方、法人は事業を継続して営んでいることから、所得の生じた事業年度についてだけ課税し、ある事業年度の欠損金と他の事業年度の所得の金額を通算できないと、税負担が加重となるため、この例外の一つとして、前事業年度以前に発生した欠損金を当事業年度の損金の額に算入することができる『欠損金の繰越控除制度』があります。 2 制度のあらまし 前事業年度以前に生じた欠損金がある場合に、次の3つの要件に該当する場合に、その欠損金のうち当事業年度の繰越欠損金控除前の所得金額の80%に相当する金額を、当事業年度の所得の金額を計算する上で、損金の額に算入することができます(法法57)。なお、この80%相当額の縮減の制限は、平成24年4月1日以後に開始した事業年度から適用されます(平成23改正法附則10)。 3 中小法人の特例 中小法人については、繰越控除される欠損金に80%相当額の縮減の制限はありません。 したがって、欠損金は、繰越欠損金控除前の所得金額を限度として、当事業年度の所得の金額を計算する上で、損金の額に算入することができます(法法57⑪)。 4 欠損金の控除制限 特定支配関係を有することとなった日以後5年以内に一定の事由に該当した場合には、欠損等法人の欠損金については、この欠損金の繰越控除の規定は適用されません(法法57の2)。 5 繰越控除の順序 繰越欠損金が複数の事業年度において生じている場合には、最も古い事業年度において生じたものから順次、繰り越して控除をします(法基通12-1-1)。 なお、欠損金が発生した事業年度から9年(または7年間)に繰越控除期間が制限されていますので、繰越控除期間内に控除しきれない欠損金は切り捨てられます。 6 制度適用に当たっての留意点 欠損金が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出していれば、その後の事業年度において提出した確定申告書が白色申告書であっても、欠損金の繰越控除制度が適用されます。 ただし、連続して確定申告書を提出していることが必要ですので、無申告の事業年度がある場合には、欠損金の繰越控除制度は適用されません。 7 大法人(中小法人以外の法人)であった場合の欠損金の繰越控除計算例 資本金額2億円で大法人に該当する場合には、繰越控除される欠損金に80%相当額の縮減の制限があります。 各事業年度の所得と欠損の金額が設問のQと同じであった場合、当事業年度の欠損金控除前の所得金額の80%に相当する金額1,200万円(=1,500万円×80%)を限度とし、古い事業年度から生じた欠損金から順次、繰り越して控除をします。 なお、当事業年度の所得の金額から控除できなかった欠損金については、中小法人と同様、各欠損金が生じた事業年度以後9年間、繰り越すことができます。 8 中小法人と大法人の比較 中小法人に該当する場合には、例えば、繰越欠損金の額が200万円で、その事業年度の繰越欠損金控除前の所得金額が100万円の場合には、200万円のうち100万円が損金の額に算入され、その事業年度の所得金額は0となります。 一方、大法人(中小法人以外の法人)に該当する場合には、例えば、繰越欠損金の額が200万円で、その事業年度の繰越欠損金控除前の所得金額が100万円の場合には、200万円のうち80万円(=100万円×80%)が損金の額に算入され、その事業年度の所得金額は20万円となります。 (了)
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『単体開示の簡素化』の要点をおさえる 【第2回】「具体的な免除項目と導入に当たっての留意事項」
『単体開示の簡素化』の要点をおさえる 【第2回】 「具体的な免除項目と導入に当たっての留意事項」 公認会計士 中村 真之 5 免除項目の確認 (1) 単体開示を免除する項目 前回紹介した通り、「当面の方針」を踏まえ、連結開示で十分な情報が開示されている項目について、単体開示を免除することとしているが、連結開示で十分な情報が開示されているか否かについては、投資者保護の観点から、主として2つの観点から検討が加えられている。 1つ目は金商法の連結開示と単体開示を比較し、単体開示における情報が連結開示における情報に包含されているような場合など、連結開示の情報から単体の情報が推測できる程度の情報が提供されているかという視点である。 2つ目は当該項目を免除した場合でも、投資者にとって必要な情報を大きく損なわないかどうかという視点である。例えば重要な会計方針の注記や重要な後発事象の注記、継続企業の前提に関する注記などについては、投資者保護の観点から開示を省略することが適当でないと考えられる項目については、連結開示で十分な情報が開示されていると認められても、単体開示の免除はしないこととした。 その結果、以下の項目について、単体開示を免除することとした。 (2) 単体開示を会社法の水準に合わせる項目 以下の項目については、金商法の連結開示のみでは十分な情報が開示されていないために単体開示を免除できないものの、金商法の開示水準と会社法の開示水準が同程度であると認められるため、金商法の単体開示に関する規定を会社法の単体開示の規定に合わせることとした。 (3) その他の免除項目 上記のほか、以下の項目については、単体開示が免除されている。 ① 製造原価明細書 連結財務諸表においてセグメント情報を注記している場合は、製造原価明細書の作成が免除されている。これは、作成に要する負担に比してその有用性が低下している旨の指摘があることや、多角的に事業展開を行う会社が多くなっている現在において、複数の事業に係る原価を合算して1つの明細書で開示しても投資情報としての有用性は低いと考えられたためである。 ただし、単一事業の場合には、投資情報としての製造原価明細書の有用性は低下していないと考えられることから、セグメント情報を開示していない会社においては、引き続き製造原価明細書の作成が求められている。 なお、売上原価明細書に関しては、有用性が低下しているという指摘はなく、改正の対象外とされていることに留意する必要がある。 ② 主要な資産及び負債の内容 主要な資産及び負債の内容については、連結開示を主としている中、単体財務諸表の内容開示についての有用性は相対的に低くなっていると考えられることから、連結財務諸表を作成している会社は、主要な資産及び負債の内容の開示を要しないものとしている。 ③ 合併により消滅した会社の最終事業年度に係る財務諸表の記載 当該情報については、連結財務諸表の企業結合の注記において記載されているため、単体財務諸表においての開示を要しないものとしている。なお、合併以外の企業結合のケースは従前どおりとされているので、留意が必要である。 (4) 非財務情報に移行する項目 従来、会社法以外の法律の規定又は契約により、剰余金の配当について制限を受けている場合、貸借対照表に係る注記としての開示を求められていたが、投資家の利便性の観点から、記載箇所の一元化を図るため、非財務情報として開示されている配当政策に関する情報と合わせて開示することとしている。 (5) 現状の開示を維持する項目 今般の改正後においても、税効果に関する注記、会計方針の変更に関する注記及び重要な後発事象の注記、継続企業の前提に関する注記については、これまでの開示水準が維持されている。 6 導入に当たっての留意事項等 (1) 冒頭記載事項 新財務諸表等規則第127条の規定に基づいて単体開示を簡素化する場合、財務諸表提出会社はその旨を記載することとされている。一般的には、経理の状況の冒頭に、「会社が特例財務諸表提出会社に該当する」旨、「財務諸表規則等127第1項に従った処理を行う」旨を記載する。 (2) 比較情報の取扱い 「当面の方針」を踏まえ、金商法における単体開示の簡素化の検討に当たって、金商法の単体開示を会社法の要求水準に合わせる中で、開示期間についても1期間のみとすることも検討された。しかし、期間比較可能性の確保は、投資者保護に資する情報提供という観点で必要と判断されたことから、現行の2期間の開示を維持することとされた。 そのため、新財務諸表等規則を適用し、単体開示を簡素化した場合でも、比較情報の開示は必要となるが、比較情報については以下の通り記載することになる。 ① 本表を会社法に合わせる場合 この場合、新様式に基づき本表が作成されることになるため、前期分に関しては新様式に合わせて適宜組み替えを行う。 ② 注記等について 単体開示が免除されている項目について、注記を省略する場合は、比較情報としての前期分を開示する意義がなくなるため、比較情報の記載は不要となる。 一方、注記等について、会社法と合わせた開示を行う場合、前期分についても前年度の計算書類で開示されている情報を比較情報として記載する。 (3) 表示方法の変更について 新財務諸表等規則を適用し、単体開示を簡素化する場合には、注記を省略する場合、注記を会社法の記載と合わせる場合のいずれについても、表示方法の変更に該当するため注記が必要となる。 ただし、通常、表示方法の変更の注記については、前期の数値を当期の方法によった場合、どのようになるかを注記することが求められるが、実務上困難であることに鑑み、新財務諸表等規則第127条の規定を適用する場合、適用初年度においては、表示方法の変更の旨のみを記載し、前期の金額の記載は要しないものとされている。 なお、本表の区分掲記の重要性基準の改正に伴い、表示方法を変更する場合には、新財務諸表等規則127条に係るものではないことから、通常の表示方法の変更として、前期の数値を記載することになる点は留意する必要がある。 (連載了)
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基礎から学ぶ統合報告 ―IIRC「国際統合報告フレームワーク」を中心に― 【第4回】「7つの「指導原則」とは?(その1)」
基礎から学ぶ統合報告 ―IIRC「国際統合報告フレームワーク」を中心に― 【第4回】 「7つの「指導原則」とは?(その1)」 公認会計士 若松 弘之 前回は、長期にわたる価値創造を様々なステークホルダーに分かりやすく説明しようという統合報告書の主目的において、とても重要なフレームワークの「基礎概念」、すなわち6つの「資本」や「ビジネスモデル」と「価値創造プロセス」の関係などを解説しました。 それでは各企業や組織において、6つの「資本」や「価値創造プロセス」が明確に識別された後、それをどのような視点や表示方法で報告書に表していけばよいのでしょうか。 今回と次回は、統合報告書作成の指針となる「指導原則」について解説します。 まずは、東郷くんと豊国さんの会話から、「基礎概念」と「指導原則」の関係を理解していきましょう。 「指導原則」とは、統合報告書の内容や情報の開示方法に関する考え方を示すものであり、次の7つの視点により構成されています。 以下では、フレームワーク本文での定義とそのポイントについて簡潔に解説していきます。 (A) 戦略的焦点と将来志向 この項目で大事なキーワードは「戦略」「価値創造能力」「資本の利用」「資本への影響」です。 このうち、「資本の利用」と「資本への影響」については、前回の「価値創造プロセス」イメージ図をあらためて確認してみましょう。 (出所:IIRC国際統報告フレームワーク日本語訳) この図の中で、企業や組織のビジネスモデルへの6つの資本の流入が「インプット」となっており、これが「資本の利用」を表しています。同様に、企業や組織のビジネスモデルから6つの資本への流出が「アウトカム」となっており、これが「資本への影響」を表しています。 企業は、6つの資本をビジネスモデルに「インプット」し、それを上回る「アウトカム」を目指していきます。これが実現することで長期にわたる価値創造が継続し、この効率が良いほど「価値創造能力」が高いといえます。通常、長期にわたり価値を着実に創造していくためには、長期的視野や大所高所からの「戦略」が必要となるでしょう。 したがって、フレームワークでは、統合報告書を作成するうえで、企業の「戦略」を「価値創造能力」と関連付けて分かりやすく説明することを求めています。 (B) 情報の結合性 この項目の定義はシンプルですが、要求していることはなかなか奥が深く、ある意味で統合報告が求めている核心といえる部分です。 フレームワークでは「情報の結合性」の実現のためには、「統合思考」が組織に根付いている必要があるといっています。この「統合思考」がまさに統合報告の原点といえるでしょう。 では、具体的にはどのような要素を統合的に結合させて考えればいいのでしょうか。フレームワークでは、具体例として、次の7つの相互関係を挙げています。 (C) ステークホルダーとの関係性 企業価値は組織単独ではなく、企業を取り巻く様々なステークホルダーとの関係性を通じて創造されていくため、企業は、自社に対するステークホルダーのニーズや関心をきちんと理解する必要があります。 統合報告書では、企業がステークホルダーとの日常継続的または臨時的なコミュニケーションや意思決定、行動、実績を通じて、そのニーズや関心をどのように理解し、対応しているかについて開示することを求めています。 「(D) 重要性」以降の「指導原則」については、次回解説します。 (了)
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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第7回】「連結会計」
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第7回】 「連結会計」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 昨今では、1社単独ではなく、複数の企業を一体とした企業グループにより経営活動を行うことが多い。このような状況では、企業グループ間で様々な取引を行っており、個別財務諸表だけでは、企業グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を経済的実態に沿って開示することはできない。 例えば、同じ企業グループ内でA社からB社へ製品の販売を行い、B社が消費者へその製品を販売する場合、個別財務諸表においては、A社及びB社ともに売上が計上される。しかし、企業グループとしてはB社の消費者への販売のみが売上に該当し、A社のB社への売上は企業グループ内の内部取引にすぎない。したがって、個別財務諸表だけでは、企業グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を正しく開示することはできない。 そのため、企業グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を経済的実態に沿って、適切に開示するために「連結財務諸表」が必要となる。 連結会計は、以下の9つのステップに分けることができる。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 なお、持分法については、次回解説する。 【連結・持分法会計の全体イメージ】 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (次ページ【STEP1】へ進む) (前ページ【はじめに】へ戻る) 連結財務諸表を作成するためには、まず、連結の範囲(連結財務諸表に含める子会社の範囲)を決定しなければならない。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 子会社とは 株主総会等の意思決定機関を支配している場合、当該企業は子会社に該当する。具体的には、以下の①~③に該当する場合、子会社に該当する。 ただし、更生会社、破産会社その他これらに準ずる企業であって、かつ、有効な支配従属関係が存在しないと認められる企業は除く(企業会計基準第22号「連結財務諸表における会計基準」(以下「連結基準」という)6、7)。 (2) 連結の範囲 原則としてすべての子会社を連結の範囲に含める必要がある(連結基準13)。ただし、以下の①及び②は連結の範囲内に含めない(連結基準14)。また、以下の③については、連結の範囲に含めないことができる(連結基準注3)。 子会社のうち、連結の範囲に含まれた子会社を連結子会社といい、連結の範囲に含まれなかった子会社を非連結子会社という。 (注)持分法適用会社、持分法非適用会社については、次回、解説する。 (次ページ【STEP2】へ進む) (前ページ【STEP1】へ戻る) 親会社の決算日が連結決算日となる(連結基準15)。ただし、親会社と連結子会社の決算日は異なることも多い。そこで、連結基準では、連結子会社と連結決算日との差異が3ヶ月を超えるか否かで異なる取扱いが設けられている。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 連結子会社の決算日と連結決算日との差異が3ヶ月を超えない場合 連結子会社の決算日と連結決算日との差異が3ヶ月を超えない場合には、連結子会社の決算日における個別財務諸表を用いて連結することができる。 この場合には、連結子会社の決算日と連結決算日が異なることから生じる連結会社間の取引の重要な不一致について、必要な調整を行う必要がある(連結基準注4)。 (2) 連結子会社の決算日と連結決算日との差異が3ヶ月を超える場合 連結子会社の決算日と連結決算日との差異が3ヶ月を超える場合には、連結子会社は連結決算日における正規の決算に準ずる合理的な手続によって仮決算を行う(連結基準16)。ただし、相当の理由がある場合には、連結決算日から3ヶ月を超えない範囲の一定の日を仮決算日とすることができる(連結財務諸表規則ガイドライン12-1)。 この場合には、連結子会社の決算日と連結決算日が異なることから生じる連結会社間の取引の重要な不一致及び連結子会社と連結会社以外の会社との取引・債権・債務等に係る重要な変動について、必要な調整を行う必要がある(連結基準注4、連結財務諸表規則ガイドライン12-1)。 (次ページ【STEP3】へ進む) (前ページ【STEP2】へ戻る) 親会社、連結子会社間で会計方針、勘定科目に違いがある場合、本格的な連結の会計処理を行う前にその違いを統一しておく必要がある。また、決算日が異なることによる修正の検討も必要である。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 会計方針の統一による修正 同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親会社と連結子会社が採用する会計方針は、原則として統一しなければならない(連結基準17)。 例えば、同一の取引に係る売上の計上基準について、親会社で出荷日基準を採用している、連結子会社で納品日基準を採用している場合、企業集団の財政状態及び経営成績をより適切に表示する会計方針に統一する必要がある。 (※) 在外子会社との会計方針の統一については、本フロー・チャートでは解説していない。 (2) 勘定科目の統一による修正 同一環境下で行われた同一の性質の取引等については、親会社と連結子会社で同じ勘定科目を使用する必要がある。そのため、親会社と連結子会社で使用している勘定科目が異なる場合には、統一する必要がある。 (3) 決算日が異なることによる修正 【STEP2】で解説したとおり、以下のような場合に修正が必要となる。 例えば、以下のような場合に修正が必要となる。 連結決算日が3月末で連結子会社の決算日が12月末の場合に、3月中に連結子会社から親会社に重要な土地の売却があった。この場合に何ら修正しないと、「親会社の土地購入」という取引は親会社の3月末の個別財務諸表に計上されるが、「連結子会社の土地売却」という取引は12月末の個別財務諸表に計上されておらず、3月末に連結財務諸表を作成する際に、適切な連結修正を行うことができない。 そのため、連結子会社の12月末の個別財務諸表に土地売却取引の会計処理を追加する必要がある。 (次ページ【STEP4】へ進む) (前ページ【STEP3】へ戻る) 在外子会社の個別財務諸表は外貨で表示されているため、日本円に換算する必要がある。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 具体的には、以下のように換算を行う(外貨建取引等会計処理基準第三、会計制度委員会第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」(以下「外貨指針」という)39、44)。 (*1) 在外子会社の決算日が連結決算日と異なる場合、在外子会社の貸借対照表項目の換算に適用する決算時の為替相場は、在外子会社の決算日における為替相場とする(外貨指針33)。なお、連結決算日との差異期間内において為替相場に重要な変動があった場合、在外子会社は連結決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続による決算を行い、当該決算に基づく貸借対照表項目を連結決算日の為替相場で換算する(外貨指針33、71)。 (*2) 在外子会社の決算日が連結決算日と異なる場合、在外子会社の損益計算書項目の換算に適用する期中平均相場は、連結会計期間に基づく期中平均相場ではなく、当該在外子会社の会計期間に基づく期中平均相場とする(外貨指針34)。 換算したことによる差額は「為替換算調整勘定」として連結貸借対照表の純資産の部に計上する。 《設例1》 換算後の財務諸表は以下のとおりである。 (*1) 1,000ドル×決算時の為替相場@110 (*2) 800ドル×決算時の為替相場@110 (*3) 100ドル×株式取得時の為替相場@100 (*4) (*10)と同額 (*5) 差額 (*6) 500ドル×期中平均相場@105 (*7) 500ドル×親会社との取引時の為替相場@100 (*8) 500ドル×(期中平均相場@105 - 親会社との取引時の為替相場@100) (*9) 900ドル×期中平均相場@105 (*10) 差額 又は 100ドル×期中平均相場@105 (次ページ【STEP5】へ進む) (前ページ【STEP4】へ戻る) 連結子会社は親会社に支配されていることから、資産・負債・収益・費用のすべて(連結会社間の取引は除く)を、連結財務諸表に計上する。そのため、親会社と連結子会社の個別財務諸表は単純合算する。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 連結財務諸表の作成においては、連結財務諸表専用の会計帳簿はないため、【STEP5】~【STEP9】までの会計処理は、連結精算表で記録する。 (次ページ【STEP6】へ進む) (前ページ【STEP5】へ戻る) 単純合算まで終わったら、次に連結修正仕訳を行う。連結修正仕訳は資本連結、取引・債権債務の相殺、未実現損益の消去、連結税効果に分けることができる。【STEP6】では資本連結を解説する。 資本連結とは、親会社の連結子会社に対する投資とこれに対応する連結子会社の資本を相殺消去し、消去差額が生じた場合には当該差額をのれん(又は負ののれん)として計上するとともに、連結子会社の資本のうち、親会社に帰属しない部分を非支配株主持分に振り替える一連の処理をいう(連結基準59)。 具体例として、以下の(1)~(4)の手続がある。 (※) 他にも応用的な論点として、株式売却による支配喪失の場合、株式売却により子会社から関連会社になった場合、増資の場合等あるが、本フロー・チャートでは解説していない。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 支配獲得時の資本連結 資本連結は大きく支配獲得時と支配獲得後に分けることができる。まず、支配獲得時の資本連結を解説する。 また、支配獲得時の資本連結は、「一括取得」と「段階取得」に分けて考えることができる。 ① 一括取得における投資と資本の相殺 一括取得とは、連結子会社を一度の取得で支配した場合をいう。一括取得における支配獲得時の資本連結では、以下の検討を行う。 (ⅰ) 連結子会社の資産・負債の時価評価 通常、資産を購入するときに、時価を考慮する。したがって、子会社株式を取得する時も時価を考慮するはずである。 したがって、連結子会社を支配した時は、連結子会社の資産・負債のすべてを支配獲得日の時価で評価する(連結基準20)。この時価評価方法を「全面時価評価方法」という。 時価評価したことによる差額は子会社の資本に「評価差額」として計上する。この際には、税効果も考慮する。 《設例2》 会計処理は以下のとおりである(法定実効税率は35%とする)。 (*1) 時価1,200-簿価1,000=200 (*2) 差額 or (*1)×(1-35%) (*3) (*1)×35% (ⅱ) 投資と資本の相殺 親会社の投資(子会社株式の取得)は企業グループで見ると、単に金銭が親会社から子会社へ移動しているにすぎない。つまり、企業グループ内の内部取引にすぎない。 したがって、親会社の投資と子会社の資本を相殺する必要がある(連結基準23)。 ここで、子会社の資本には、以下が含まれる(会計制度委員会第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(以下「資本指針」という)9)。 (※) 子会社の資本には、新株予約権は含まれない。 なお、取得関連費用(外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等)は、個別財務諸表上、子会社株式の取得原価に含まれている。しかし、連結財務諸表上は、発生した事業年度の費用として処理する(企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(以下「企業基準」という)26)ため、投資と資本の相殺の際の投資の金額には含めない。 (ⅲ) 非支配株主持分の計上 子会社の資本のうち親会社に帰属する部分を「親会社持分」という。親会社に帰属しない部分(親会社以外の株主に帰属する部分)を、「非支配株主持分」という(連結基準26)。非支配株主持分は、親会社以外の株主に帰属する部分のため、連結貸借対照表の純資産の部に「非支配株主持分」として計上する。 なお、親会社が子会社株式の100%を保有している場合には、非支配株主持分は生じない。 (ⅳ) のれん(又は負ののれん)の計上 親会社が子会社株式を取得するとき、子会社の資本の金額よりも高く購入したり、安く購入したりする。「親会社の子会社への投資額=子会社の資本」になるとは限らない。 そのため、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本を相殺消去すると、差額が生じる場合がある。この場合に、借方に生じた差額を「のれん」という。貸方に生じた差額を「負ののれん」という(連結基準24)。 具体的な会計処理は以下のように行う。 《設例3》 投資と資本の相殺の会計処理は以下のようになる。 (*1) 取得原価(=個別上の簿価) (*2) 子会社の資本900(=800+100)×20%=180 (*3) 連結上の簿価1,000(=(800+100)×80%+280) (*4) 差額 (注) 「個別上の簿価」とは、個別財務諸表上の子会社株式の金額をいう。「連結上の簿価」とは、「連結子会社の資本に対する親会社持分」と「のれん未償却残高」をいう。なお、支配獲得時には、個別上の簿価=連結上の簿価となる。 ② 段階取得における投資と資本の相殺 段階取得とは、複数回に分けて株式を取得して、支配を獲得した場合をいう。例えば、前期末に30%の株式を取得し、当期末に40%の株式を取得し、子会社を支配した場合が該当する。 段階取得における投資と資本の相殺は以下のように行う。 (ⅰ) 支配獲得前の子会社株式の時価評価 個別財務諸表上、親会社の子会社株式は取得原価で計上される。一方、連結子会社の資産・負債は支配獲得時の時価で評価する(下記(ⅱ)参照)。段階取得においてこのまま投資と資本の相殺をすると、連結子会社の資本は支配獲得時の時価になっているが、親会社の子会社株式には、支配獲得「前」の取得原価と支配獲得時の取得原価(=支配獲得時の時価)が含まれており、支配獲得時の時価同士で相殺することができなくなり、のれんの算定が正しく行われない。 そのため、投資と資本の相殺を支配獲得時の時価同士で相殺するために、支配獲得前に取得した子会社株式を支配獲得時の時価に評価替えする必要がある。 そして、評価替えによる差額は「段階取得に係る損益」として原則、特別損益に計上する(企業基準25(2)、企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」305-2)。 《設例4》 【個別財務諸表】 当期末のA社株式 80,000 前期末と当期末のA社株式の取得単価が異なるため、前期末に取得した300株を当期末の時価に評価替えを行う。 300株×(@125-@100)=7,500 【投資と資本の相殺する際の投資金額】 87,500 (ⅱ) 連結子会社の資産・負債の時価評価 連結子会社を支配した時は、連結子会社の資産・負債のすべてを支配獲得日の時価で評価する(連結基準20)。詳細は上記①(ⅰ)参照。 (ⅲ) 投資と資本の相殺 親会社の投資(子会社株式の取得)は企業グループで見ると、単に金銭が親会社から子会社へ移動しているにすぎない。つまり、企業グループ内の内部取引にすぎない。したがって、親会社の投資と子会社の資本を相殺する必要がある(連結基準23)。詳細は上記①(ⅱ)参照。 (ⅳ) 非支配株主持分の計上 非支配株主持分は、親会社以外の株主に帰属する部分のため、連結貸借対照表の純資産の部に非支配株主持分として計上する。詳細は上記①(ⅲ)参照。 (ⅴ) のれん(又は負ののれん)の計上 親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本を相殺消去すると、差額が生じる。この場合に、借方に生じた差額を「のれん」という。貸方に生じた差額を「負ののれん」という(連結基準24)。詳細は上記①(ⅳ)参照。 (2) 支配獲得後の資本連結 支配獲得後における資本連結では、例えば、以下のような検討が必要である。 ① 当期純損益の按分 連結子会社の支配後に連結子会社が獲得した利益には、親会社株主に帰属する部分と親会社以外の株主(非支配株主)に帰属する部分がある。したがって、連結子会社が獲得した利益のうち、非支配株主に帰属する部分は、非支配株主持分に振り替える必要がある。 非支配株主に帰属する部分は、連結損益計算書上は、当期純利益の内訳項目である「非支配株主に帰属する当期純損益」として表示する(連結基準39(3))。 《設例5》 当期純利益の非支配株主への按分の会計処理は以下のとおりである。 1,000 × 非支配株主持分比率 20%=200 【連結損益計算書】 ※当期純利益は連結子会社A社のみとする。 ② 配当金の消去 連結子会社が親会社に配当金を支払ったときに、親会社では損益計算書上、受取配当金として計上される。しかし、この受取配当金は企業グループ内での資金移動にすぎないため、消去する必要がある。 また、非支配株主へ配当金を支払っているときは、それは、企業グループ外への資金流出であるため、その分、連結子会社から利益剰余金(資本)が減少していることになる。そのため、非支配株主への支払配当金分を非支配株主持分から減少させる。 なお、連結子会社が支払った配当金は、全額、受取配当金と消去するか、非支配株主持分から減少させるため、連結株主資本等変動計算書に計上されない。 《設例6》 配当金の消去及び非支配株主持分の減少の会計処理は以下のとおりである。 【配当金の消去】 1,000×親会社持分比率80%=800 【非支配株主持分の減少】 1,000×非支配株主持分比率20%=200 ③ その他の包括利益の按分 その他有価証券評価差額金や繰延ヘッジ損益等のその他の包括利益も当期純損益と同様に支配獲得後に発生した部分のうち、非支配株主に帰属する部分は、非支配株主に振り替える必要がある。 《設例7》 その他有価証券評価差額金の非支配株主への振り替えの会計処理は以下のとおりである。 500×非支配株主持分比率20%=100 ④ のれんの償却 のれんは原則、発生後、その効果の及ぶ期間にわたって20年以内の年数で定額法等により規則的に償却する(企業基準32)。詳細は、上記(1)①(ⅳ)参照。 (3) 追加取得 ここでは、追加取得の会計処理を検討する。「追加取得」とは、前期末に70%株式を取得し、子会社となった後に、当期末に10%取得した場合等の、支配獲得後にさらに株式を取得した場合をいう。 追加取得すると、非支配株主の持分比率が減少し、親会社の持分比率が増加するため、連結子会社の資本に対する非支配株主持分が減少し、親会社持分が増加する。 そして、追加取得によって増加した親会社持分は、追加投資額と相殺する。この相殺によって生じる差額はのれんではなく、資本剰余金として処理する(連結基準28)。 なお、資本剰余金残高がマイナスとなる場合には、連結会計年度末において、資本剰余金をゼロになるように、マイナス部分を利益剰余金から減額する(連結基準30-2、67-2)。 《設例8》 追加取得の会計処理は以下のとおりである。 (*1) 取得原価 (*2) 子会社の資本 10,000×10%=1,000 (*3) 差額 (4) 一部売却(売却後も支配継続あり) ここでは、一部売却(売却後も支配継続あり)を検討する。一部売却(売却後も支配継続あり)とは、前期末に80%の株式を保有していて、当期末に10%売却した場合等の、支配していて、その後、支配を喪失しない範囲内で一部の株式を売却した場合をいう。 一部売却(売却後も支配継続あり)すると、親会社の持分比率が減少し、非支配株主の持分比率が増加するため、子会社の資本に対する親会社持分が減少し、非支配株主持分が増加する。 そして、一部売却(売却後も支配継続あり)によって減少した親会社持分は、支配が継続していることから、子会社株式売却損益として計上せずに、資本剰余金の増減として処理する(連結基準29)。なお、のれんの未償却残高があっても、のれんの取崩しは行わない(連結基準66-2)。 資本剰余金残高がマイナスとなる場合には、連結会計年度末において、資本剰余金をゼロになるように、マイナス部分を利益剰余金から減額する(連結基準30-2)。 《設例9》 一部売却(売却後も支配継続あり)の会計処理は以下のとおりである。 【個別財務諸表】 (*1) 12,000÷80%×10%=1,500 (*2) 売却金額 (*3) 差額 (*4) 子会社の資本 10,000×10%=1,000 (*5) 差額 (*6) (*1)と同じ (*7) (*3)と同じ (次ページ【STEP7】へ進む) (前ページ【STEP6】へ戻る) 親会社と連結子会社間の取引、連結子会社間の取引(以下「企業グループ間の取引」という)は、企業グループ内の内部取引に過ぎないため、連結財務諸表上は相殺消去する必要がある(連結基準35)。また、連結決算日に貸借対照表に計上されている企業グループ間の取引によって生じた債権債務も相殺消去する必要がある(連結基準31)。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 取引の相殺 取引の相殺とは、親会社と連結子会社、連結子会社間の取引を相殺消去することである。連結修正仕訳として消去する必要がある取引としては、例えば、以下のようなものがある。 なお、直接的な企業グループ間の取引のみならず、形式的には企業グループ間の取引ではなくても、実質的には企業グループ間の取引と考えられる間接取引についても消去する必要がある(連結基準注12)。 ここでは、以下の取引の相殺について解説する。 ① 売上高と仕入高の相殺 親会社から連結子会社への売上、連結子会社からの親会社への売上、連結子会社Aから連結子会社Bへの売上の場合で、相手が仕入として計上している場合、企業グループ間の取引であるため、売上高と売上原価を相殺する。 損益計算書を単純合算する時に、仕入高ではなく、売上原価として合算するため、売上高と消去する勘定科目は売上原価となる。 ② 売上高と販売費及び一般管理費の相殺 企業グループ間の取引において、売上側が売上高として計上していても、相手先が仕入高として計上しているとは限らない。相手先が販売費及び一般管理費として計上することもある。このような場合、売上高と販売費及び一般管理費を相殺する。 ただし、売上高と販売費及び一般管理費を相殺すると、売上総利益が大きく減少する。そのため、企業グループの実態に合った損益計算書になるように、相殺した売上高に相当する売上原価を販売費及び一般管理費に振り替える必要がある。 《設例10》 ただし、子会社Aの売上高に対応する費用90は売上原価に計上している。しかし、企業グループで見た場合、当該費用は、販売費及び一般管理費に計上するのが妥当である。 したがって、子会社で計上した売上原価90を販売費及び一般管理費に振り替える必要がある。 ③ 未達取引における相殺 一方の会社では売上高を計上しているが、他方の会社では、未達のため仕入高を計上していない場合がある。 このような場合、何にも追加で会計処理しないと、売上高と仕入高を相殺することができない。そのため、未達取引について追加で会計処理をする必要がある。 未達取引については、2つの考え方があり、どちらかの考え方に基づいて会計処理する。なお、どちらの考え方でも会計処理後の連結財務諸表は同一となる。 《設例11》 この場合の会計処理は以下のとおりである。 (ⅰ) 売上を計上した会社の売上がなかったとする考え方 この考え方の場合、親会社の売上がなかったものとする。 そのため、親会社で計上していた売上高と売掛金を消去する。 また、商品に係る売上原価を消去し、その分、在庫を増加させる。 (ⅱ) 未計上である仕入を計上するという考え方 この考え方の場合、連結子会社で仕入があったものとする。 そのため、仕入(売上原価)と買掛金を計上し、また、仕入(売上原価)は連結子会社の在庫になるので、在庫を増加させる。 次に親会社の売上高と連結子会社の仕入高を相殺する。 また、売掛金と買掛金も相殺する(下記(2)参照)。さらに、連結子会社の保有している在庫には、親会社が計上した利益が含まれているので、未実現利益の消去(【STEP8】参照)が必要となる。 連結子会社の在庫金額100-親会社の売上原価90=10 (2) 債権債務の相殺 債権債務の相殺とは、親会社と連結子会社、連結子会社間での取引により生じた債権債務を相殺消去することである。 連結修正仕訳として消去する必要がある取引としては、例えば、以下のようなものがある。 また、債権に対して個別財務諸表で貸倒引当金を計上している場合、債権債務の相殺消去により、債権がなくなるので、貸倒引当金も修正する必要がある。 ここでは、以下の連結修正仕訳について解説する。 ① 売掛金と買掛金の相殺 企業グループ内で売上取引を行ったことにより発生した売掛金と買掛金は、企業グループ間の取引で発生したものであり、企業グループ外への債権及び債務ではない。したがって、当該取引で発生した売掛金と買掛金は相殺する。 ② 貸付金と借入金の相殺 企業グループ内で資金の貸付を行ったことにより発生した貸付金と借入金は、企業グループ間の取引で発生したものであり、企業グループ外への債権及び債務ではない。したがって、当該取引で発生した貸付金と借入金は相殺する。また、受取利息と支払利息も相殺する(経過勘定も含む)。 ③ 貸倒引当金の修正 上記①、②のように相殺した債権に個別財務諸表で貸倒引当金を計上していた場合、債権が相殺されているため、それに対する貸倒引当金を修正する必要がある。 《設例12》 この場合の会計処理は以下のとおりである。 (次ページ【STEP8】へ進む) (前ページ【STEP7】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 企業グループ間で資産の売買を行う場合、資産を売却する会社は簿価よりも高く売ったり、安く売ったりすることがある。この場合、購入した会社にその購入資産が残高として残っていれば、その資産には、販売した会社の利益や損失が含まれている。しかし、この利益や損失は企業グループ内の取引で発生したものであるため、未実現の利益・損失(実現していない損益)である。したがって、全額消去する必要がある(連結基準36)。 ただし、売手側が親会社か連結子会社かで会計処理が若干、異なる。 親会社が売手(ダウン・ストリーム)である場合は、未実現損益を全額消去する。一方、連結子会社が売手(アップ・ストリーム)の場合、未実現損益を全額消去することに変わりはないが、非支配株主がいる場合には、非支配株主にも未実現損益の消去額を持分比率に応じて負担してもらう(連結基準38)。 なお、未実現損失の場合、売手側の帳簿価額のうち回収不能と認められる部分は、消去しない(連結基準36)。これは、企業グループ外に販売しても損失が出ることが明らかである場合には、保守主義・健全性の観点から消去しないというものである。 また、未実現損益の金額に重要性が乏しい場合には、消去しないことができる(連結基準37)。 さらに、未実現損益の消去後、実現した場合には、実現に係る連結修正仕訳が必要である。未実現損益の実現の態様を資産の種類ごとにまとめると以下のようになる。 ここでは、以下の連結修正仕訳について解説する。 ① 商品販売における未実現利益の消去 企業グループ内で商品販売を行い、購入会社が企業グループ外に販売していなければ、購入会社にはその取引による在庫が残っていることになる。そして、その在庫には、未実現損益が含まれている(売手が簿価で販売した場合を除く)。 そのため、その在庫に含まれている未実現損益を消去する必要がある。 《設例13》 【取引の相殺消去】 【未実現利益の消去】 100-90=10 連結子会社Bでは在庫金額100となっているので、連結子会社が保有していた時の在庫金額である90になるように修正する。 【非支配株主への按分】 未実現利益消去額10×30%=3 なお、翌期に連結子会社Bが企業グループ外へ販売した時には、上記で消去した未実現損益が実現する。 その際の会計処理は以下のとおりである。 【前期連結修正仕訳の引継(開始仕訳)】 【実現仕訳】 連結子会社Bは個別財務諸表上、在庫金額100であったものを販売している。 一方、連結財務諸表上は在庫金額は90であったものを販売している。 したがって、売上原価を10減少させる会計処理を行う。 ② 固定資産の売却における未実現利益の消去 企業グループ内で固定資産の売買を行い、購入会社が企業グループ外へと売買等していなければ、購入会社にはその固定資産が残っていることになる。そして、その固定資産には、未実現損益が含まれている(売手が簿価で売買した場合を除く)。 そのため、その固定資産に含まれている未実現損益を消去する必要がある。 《設例14》 【未実現利益の消去】 1,000-800=200 連結子会社の建物の帳簿価額1,000となっているので、親会社が保有していた時の建物の帳簿価額である800になるように修正する。 なお、翌期に減価償却費を計上することで、上記で消去した未実現損益が実現する。 その際の会計処理は以下のとおりである。 【前期連結修正仕訳の引継(開始仕訳)】 【実現仕訳】 未実現利益消去額200÷10年=20 (次ページ【STEP9】へ進む) (前ページ【STEP8】へ戻る) 【STEP6】から【STEP8】で行った連結修正仕訳について、税効果を考慮する必要がある。詳細は、第5回「連結財務諸表における税効果」参照。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 * * * 以上、9のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (了)
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〔会計不正調査報告書を読む〕【第18回】株式会社アイレックス・「第三者委員会調査報告書」
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第18回】 株式会社アイレックス・ 「第三者委員会調査報告書」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概要】 【株式会社アイレックスの概要】 株式会社アイレックス(以下「アイレックス」という)は、1948(昭和23)年設立。プリント配線板の製造を主たる事業としてきたが、近年はシステム開発に事業領域をシフトし、「システム開発を軸として、ハードウェア開発・設計、業務系アプリケーション開発から、評価・検証、運用・保守業務までのトータルソリューションサービスをワンストップで提供できる体制を構築(平成26年3月期有価証券報告書より)」している。 連結売上高37億3,200万円、経常利益1億7,800万円、従業員数392名(2014年3月末)。本店所在地は東京都中央区。JASDAQ上場。 【報告書のポイント】 1 二度にわたる第三者委員会の設置に至る経緯 (1) 不適切な会計処理(第一次)の発覚と調査 アイレックス監査役会は、平成24年11月、会計監査人である聖橋監査法人からの第2四半期レビュー結果報告をきっかけに、売上の実在性に疑義を持ったため、常勤監査役が経営会議等の席で、これを当時の代表取締役社長であった久次米氏(以下「久次米元社長」という)に質したが、明確な回答を得られなかった。 決算期末に当たり、久次米元社長から売上の減額処理を行うとの報告を受けた常勤監査役は、事の重大性に鑑み、親会社の社長に報告・相談した。その結果、親会社グループの社員が参加する内部調査委員会による調査が開始された後、第三者委員会(第一次)が設置され、平成25年6月10日になって、調査報告書が公表された。 (2) 第三者委員会(第一次)による調査結果 約1ヶ月という短期間での調査ということもあって、調査の対象は、実在性について疑義が生じていた「締め後売上」に、実質上、絞られていたようである。 「締め後売上」について、アイレックスは、東京証券取引所へ提出した改善報告書(平成26年3月31日付、以下「改善報告書」と略称する)の中で、次のように説明している。 例えば、顧客の締日が20日である場合、通常は前月21日から当月20日までの作業に係る売上を当月計上すべきところ(検収基準による売上計上)、四半期末に限って、当月21日から末日までの10日分の作業について、売上を計上する。毎月の発生費用は、すでに売上原価として処理されているので、締め後売上計上金額=利益となり、売上原価のない売上に不信感を持たれないように、他のオーダーから勤務表の改ざんを行って売上原価の付け替えを行っていたものである。 こうした締め後売上について、監査法人は、平成24年11月の第2四半期レビュー結果報告会で異常な増加(前年同期比1億7,000万円増)を指摘し、久次米元社長は、平成25年3月期決算において、1億4,000万円の減額処理を行うと報告していたが、第一次調査報告書では、さらに62百万円あまりの利益の訂正が必要であるとした。 (3) 第一次調査報告書の問題点 上述のとおり、第一次第三者委員会の調査対象は「締め後売上」の実在性をのみ対象としていた感があるので、第二次調査で露見した不適切な会計処理が見逃されたことを問題視するのは酷かもしれないが、工事進行基準に関する以下の認識については、疑問を感じるところである。 この文章は、アイレックスによる不適切な売上計上が、「締め後売上」という、いわば顧客の検収がない状態での売上計上に限られているという説明でのくだりにある。 工事進行基準による売上計上ついては、必ず「見積り」に依らざるを得ないところがあり、そうした恣意性の介在をどう防ぐか、どのような統制を行っているのかを問題にすべきであるというのが、一般的な考えであると理解しているが、第一次報告書には、何をもって「厳密に管理されて」いるという判断に至ったかの根拠が示されておらず、むしろ、締め後売上に係る売上原価の付け替えが容易に行われていたという事実からは、工事進行基準による売上計上においても、売上原価を実際よりも過大に計上することによって、売上が過大に、あるいは前倒しで計上されている可能性を排除すべきではなかったと考える。 結果的に、第二次第三者委員会報告書では、工事進行基準による売上の前倒し計上が発覚していることから、第一次第三者委員会の上記の認識は否定された形となっているが、この点に関しては、短い調査期間による調査対象を絞り込んだことの弊害があったと考えざるを得ない。 2 今回の調査結果により判明した事実 (1) 不適切な会計処理(第二次)発覚の経緯 アイレックスは、第一次調査報告書に基づく過年度決算短信等の訂正について、平成25年10月から、証券取引等監視委員会の検査を受ける中で、過年度の仕掛品の一部に資産性のないものが計上されたことが判明し、再び、第三者委員会(第二次)を設置して、平成20年1月から平成25年9月までの期間について、さらに不適切な会計処理に関する調査を行うこととなった。 そして、平成26年3月7日、第二次第三者委員会による調査報告書が公表された。 (2) 第三者委員会(第二次)により指摘された不適切な会計処理 第二次第三者委員会調査報告書により指摘された不適切な会計処理は、次の4つの類型にわたるが、いずれも、アイレックスは平成25年3月期決算で減損処理を行うなどして訂正を済ませた事象であり、第三者委員会は、これを平成25年3月期ではなく、それぞれの事象の発生時期において訂正すべきであるとして、訂正を求めている。 ① 締め後売上の架空計上 締め後売上の手法については上述したとおりであるが、第一次第三者委員会の調査により判明した締め後売上の他にも、金額は数百万円にとどまるが、平成21年3月期以降、締め後売上が計上されていたことが判明した。 ② 工事進行基準における売上の前倒し計上 工事進行基準による売上計上は、予定総原価に対する当期の実績原価の比率をもとに進捗度を計算して行うところ、実際には作業に従事していない人員の作業時間数を勤務表に修正して計上し、実績原価を高くすることにより、売上の前倒し計上を行っていることが判明した。 ③ 市場販売目的のソフトウェアの不適切な資産計上 アイレックスは、平成23年7月に完成した試作機を「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」(※)に規定する「最初に製品化された製品マスター」と判断して、それ以降のソフトウェアの機能の改良・強化を行う制作活動のための費用を「ソフトウェア仮勘定」として資産計上しているが、第二次調査委員会は、この試作機を「最初に製品化された製品マスター」には該当しないとして、費用発生の都度、研究開発費として費用処理するべきものであったと判断した。 (※) 日本公認会計士協会会計制度委員会報告第12号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」(平成23年3月29日改正) ④ 仕掛品の過大計上 アイレックス大阪支店の赤字プロジェクトの原価を仕掛品として計上することにより赤字を先送りしていたことをはじめとして、本来は工事原価として処理すべき人件費が仕掛品に計上されていたものがあった(第二次第三者委員会を設置するきっかけとなった証券投資等監視委員会の検査によって発見されていた事象でもあった)。 (3) 元社長による「公表値達成至上主義」 第二次調査報告書で繰り返し指摘されているのが、久次米元社長による「公表値達成至上主義」とも言うべき姿勢であり、不適切な会計処理は、久次米元社長から公表した業績予想の達成を強く求められた結果、当時の取締役システム本部長山口克己氏(以下「山口元取締役」という)が主導して行われたものであり、その際には、赤字であれば賞与が出ないというプレッシャーを受け、従業員の士気低下や離職を懸念して、公表値を達成するためにはコンプライアンスを無視しても仕方ないという雰囲気が醸成されたものであった。 なお、第二次第三者委員会の調査に対し、久次米元社長は、利益目標の達成を強く求めた結果、不適切な会計処理が行われたことは認めたものの、売上の前倒し計上を部下に指示したことは否定しているということである。 (4) 資金繰りの悪化 第二次調査報告書には、内部統制上の問題点として、「取締役会の監視機能の不全」という項目が挙げられ、不適切な会計処理が行われていることを知っていた取締役が存在したが、事実の是正を求めた者はいなかったとして、取締役相互の監視機能が不十分だったと結論づけている。 不適切な会計処理を主導した山口元取締役が事実を知っていたことは当然であるが、他にも、当時の取締役管理部長中野浩樹氏(以下「中野元取締役」という)は、第一次調査報告書によれば、「自らが作成した資金繰り表の預金残高と売上高が乖離」したことから、締め後売上が増加していることに、平成24年7月頃、すでに気づいていたということである。資金繰りの悪化は、すぐに久次米元社長に報告されたが、資金繰りの精査を指示されただけで、中野元取締役の営業部門に対する監視機能は働かなかった。 (5) 業務管理部門、経理部門の人員不足 第二次調査報告書では、「営業部門と業務管理・経理部門の相互牽制機能の欠如」を問題点として挙げ、再発防止策の中で「経理部門の増員」について提言しているが、具体的にどのような陣容で業務が行われていたかについては、改善報告書に記述があったので、そちらから引用する。 まず、業務管理課であるが、平成25年3月(第一次不適切な会計処理発覚時)までは、スタッフ1名で実質的な管理職は配置されていなかったところ、平成25年4月から、専任の管理職2名、専任の担当者2名の体制としたということである。 一方、経理部は、平成25年3月まで管理部門の責任者である中野元取締役と経理課員の実質2名であったところ、専任の管理職2名、専任の担当者2名の体制にし、かつ、管理職は仕訳の入力・計上を行わず、内容の確認及び承認を行い、財務分析結果を取締役会に提出する体制となった(平成26年3月分から)ということである。 売上高37億円の上場企業の管理部門としては、いかにも人員不足の感は否めず、むしろ、決算書類や開示資料の作成などが期日通りにできた点に驚きを禁じ得ないが、これだけ少ない人員であれば、集計業務をこなすのが精一杯で、不正の端緒に気づいたとしても、何らかの調査に着手する余裕はなかったのではないかと思料する。 3 アイレックスによる再発防止策 最後にアイレックスによる再発防止策について、同社の有価証券報告書にある「対処すべき課題」から引用する。 両者を比較検討してみると、再発防止のための施策内容は、発覚した「締め後売上」という不適切な会計処理に対する個別的な対策が中心であった平成25年3月期から、平成26年3月期では、不適切な会計処理全般について網羅的な再発防止策を具体化していると言えよう。 例えば、経営改革推進室は、再発防止策というよりは、経営計画の作成、予算精度の向上、営業戦略、コンプライアンス推進など、実に幅広い機能を有する部署として設置され、「二度と有価証券報告書の訂正報告等が起こらない社内管理体制(改善報告書)」を構築する中心的役割が期待されている。 久次米元社長を中心とする旧経営陣が、平成25年6月開催の株主総会までに大幅に入れ替わり、平成26年3月期において再発防止策を進めた結果が、こうした記述になったものと考えられる。 なお、アイレックスに対しては、平成26年6月19日、証券取引等監視委員会から内閣総理大臣及び金 融庁長官に対して、金融庁設置法第20条第1項の規定に基づき、1,500万円の課徴金納付命令を発出するよう勧告を行った旨、公表がされている。 (了)
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国際出向社員の人事労務上の留意点(日本から海外編) 【第5回】「海外出向者の社会保険適用関係」
国際出向社員の人事労務上の留意点 (日本から海外編) 【第5回】 (最終回) 「海外出向者の社会保険適用関係」 社会保険労務士 平澤 貞三 (1) 健康保険・厚生年金 健康保険と厚生年金保険は、適用事業所である日本の出向元との使用関係がある限り、被保険者資格が継続する。 使用関係は、労務の提供、報酬の支払い、人事管理などの観点から判断されるが、実際の保険者の判断は、「報酬の支払いの有無」を重要視しているケースがほとんどである。 ここで問題となるのが、保険料の基礎となる標準報酬月額をどのように算定すべきか、ということであるが、法律には海外勤務者の標準報酬をどのように算定すべきか定義されておらず、日本年金機構においては過去の事例の積み上げで判断しているというのが実態である。 ちなみに、2014年3月に、これまでの事例積み上げ事例をベースに、日本年金機構から海外勤務者の算定報酬の基本的な考え方が示された。 上記発表を踏まえて、筆者が年金事務所に確認し、そのやり取りの中で次のように理解した。 これまでの筆者の経験では、海外勤務することで上乗せされた手当を除き、海外赴任時の国内給与をベースに標準報酬を算定し、その後もその基本給部分の増減をもって月額改定等を行ってきた会社が多数を占めていたのではないかと思われる。 実際の給与の支払い方(日本から払う円貨や現地で受ける外貨)は、会社の規程にもよるが、大半は赴任時の家族構成で決まることも多く、単にキャッシュベースで報酬の算定をするのは被保険者の利益を大きく損なうケースもあり、必ずしも妥当な考え方とは言えないのではないかと考える。 また、赴任者の給与を日本と海外の会社でどのように負担すべきかは、赴任の目的や会社間の関係、あるいは国税当局からの指導により決まることであり、これを個人の社会保険の費用(標準報酬)にリンクさせてしまうのは著しく公平性を欠くものと言わざるを得ない。 海外赴任者に関する社会保険の法整備が追い付いていないのが現状であり、早期に適正な法律やルールが示されることを待ちたい。 (2) 介護保険 国内に住所を有しない場合、介護保険の適用除外者となるので、「介護保険適用除外等該当届」を保険者に提出する必要がある。 (3) 雇用保険 雇用保険は、適用事業所である出向元との雇用関係がある限り、勤務地が国内外を問わず被保険者となる。 (4) 労災保険 「海外出張」中に発生した業務上の事故については通常の労災保険が適用となるが、「海外派遣」中については、「海外派遣の特別加入」手続きを行っていない限り、労災保険の適用はない。 (連載了)
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改正会社法―改正の重要ポイントと企業実務における留意点 【第1回】「『インセンティブのねじれ』の解消」
改正会社法 ―改正の重要ポイントと企業実務における留意点 【第1回】 「『インセンティブのねじれ』の解消」 西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 柴田 寛子 1 改正会社法の主眼 本年6月27日、会社法の一部を改正する法律(以下「改正会社法」という)が公布された。改正会社法の施行日は、公布日から1年6ヶ月以内で政令で定める日とされており(改正附則1条)、平成27年4月1日又は5月1日と見込まれている。 改正会社法は、「企業統治の強化」と「親子会社の規律」を主眼としたものであり、全面的な規制緩和が主眼であった平成17年商法改正による会社法制定とは大きく異なる。 具体的には、監査役制度の強化による企業統治強化が行き詰まる中、社外取締役選任の「準」義務化や監査・監督委員会設置会社制度の創設等、取締役会の監督機能強化による企業統治の充実が図られた。また、会計監査における「インセンティブのねじれ」の解消も一部盛り込まれた。さらに、親子会社のガバナンスに焦点が当たった初めての改正であり、多重代表訴訟制度の創設のほか、スクイーズ・アウトにより完全親子会社関係を作出するための新制度として株式売渡請求制度が創設された。 改正会社法のポイントについて解説する本シリーズの第1回では、「企業統治の強化」のうち、法務・監査実務に関与する方々にとって特に関心が高いと思われる、「インセンティブのねじれ」の解消について解説する。 2 「インセンティブのねじれ」の一部解消 (1) 現行会社法下での「インセンティブのねじれ」 現行会社法においては、①会計監査人の選解任等に関する議案の決定権及び②会計監査人の報酬等の決定権は、共に、取締役(会)が有している(ただし、委員会設置会社においては、①は監査委員会が有する)(会社法344条、404条2項2号)。監査役(会)には(②につき、委員会設置会社においては監査委員会)、上記①及び②の決定に係る同意権が付与されているに留まる(会社法399条)。 このように、会計監査の対象となる取締役(会)が、会計監査人を選任し、その報酬を決定していることにより、会計監査人の独立性を害し、ひいては会計監査の実効性に疑いを抱かせる原因となっているとの指摘があった(インセンティブのねじれ)。 (2) 改正会社法での対応 改正会社法においては、監査役(会)設置会社における会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定権は、監査役(会)が有することとなった(改正会社法344条)。 一方、会計監査人の報酬等の決定権限は、引き続き取締役(会)が有することとなった(委員会等設置会社においても変更なし)。これは、報酬等の決定は、重要な職務執行に該当するため、監査役(会)に付与することは適切ではないこと、また、監査役(会)や監査委員会が、会計監査人の報酬等に対する同意権等を通じて、会計監査人の独立性を確保することが期待できること等を理由とする。 もっとも、会計監査の独立性維持の観点から、報酬決定の透明性確保が重要であることについては、同意権付与とは異なる形で配慮されている。 具体的には、法務省令の改正により、事業報告や監査報告において、監査役(会)(委員会設置会社においては監査委員会)による、会計監査人の選解任等の議案の決定や報酬への同意の「理由等の開示」を義務づけることが予定されている。開示事項としては、「監査役(会)が当該候補者を会計監査人に選任すべきものとした理由」、「当該事業年度に係る各会計監査人の報酬等の額及び当該報酬等を定めることについて監査役(会)が同意をした理由」等が対象となるのではないかと見込まれる。 〈改正会社法下での監査役(会)及び監査委員会の会計監査人に関する権限〉 (※1) 改正会社法において新設される監査等委員会設置会社の監査等委員会も同様。 (※2) 委員会設置会社は、改正会社法においては、「指名委員会等設置会社」に名称変更される。 (3) 実務に与える影響 監査役(会)に会計監査人の選解任等に関する決定権限が付与されることに伴い、会計監査人の選解任等に関する監査役の負担・責任が重くなる可能性はある。もっとも、会計監査人は、通常、当然再任されることから、上記決定権が行使される場面は、実務上は限られる。 なお、会計監査人の選解任等に関する改正の適用時期については、改正会社法施行前に、選解任等に関する議案が上程される「株主総会の招集手続」が開始された場合には、なお従前の例によると規定されているため(改正附則15条)、改正会社法施行後に、該当する株主総会招集手続が開始される場合には、改正会社法に従うこととなる。 したがって、平成27年4月1日又は5月1日が改正会社法の施行日となった場合、3月決算の会社を例とすると、同年6月開催の定時株主総会において当該議案を上程するに際しては、改正会社法に従い、監査役(会)が会計監査人の選解任等について決定すべきことになろう。 また、監査役(会)による会計監査人の選解任等の議案の決定や報酬への同意の理由等の開示に関しては、仮に、改正法務省令の適用時期が、改正会社法の施行日と同日施行かつ適用とされた場合、3月決算の会社を例とすると、平成27年6月開催の定時株主総会に際して提供する事業報告及び監査報告において、これらの開示が求められることとなる。 したがって、関連する法務省令の改正及び適用時期については引き続き注視する必要がある。 (了)
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事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第2回】「中国業者から仕入れた期限切れ肉事件」
事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第2回】 「中国業者から仕入れた期限切れ肉事件」 弁護士 原 正雄 1 本件が発覚した経緯 本件は、地元テレビ局が2ヶ月ないし3ヶ月に及ぶ潜入取材を経て、7月20日に番組として報道したことによって、世間が知るところとなった。 報道によれば、同番組では、品質保持期限を半月以上経過した食肉を原料として加工するシーンが映し出された。記者が指摘したところ、作業員らは「関係ない、運べ」と指示したという。また、別の作業員は、期限切れの食肉を混ぜることについて「混ぜる割合がある。多すぎると食感が変わる。普通は5%だ」などと語ったとのことである。期限切れで「臭いがする」牛肉が使用されていたこともあった。作業員の一人は「期限切れを食べても、死にはしない」と語っていた。 他にも、冷凍肉を箱に詰め替える際、常温で作業を行う、床に落ちたハンバーグや鶏モモ肉を生産ラインにそのまま戻す、カビが生えて青く変色した牛肉を原料に使う、ということもあったようである。 本件は、日本では「期限切れ肉」として報道されているが、海外ではより直接的な表現として“rotten meat”、すなわち『腐った肉』として報道されている。 以上について、F食品は、当初は「工員の個人的な行為」との見解を示していた。しかし、上海市は、工場ぐるみでの組織的な不正として捉え、7月23日までにF食品の責任者や品質担当幹部ら計5人を刑事拘束している。 本件の発覚の経緯は、F食品の作業員の内部告発であった。この作業員は、最初は上司に問題があると訴えたが、反対に解雇されてしまった。そこで、地元テレビ局に内部告発したとのことであった。 従業員が会社の問題を訴えた場合、会社は、それを真摯に受け止め、自ら改善していく必要がある。会社の問題を訴えた従業員を解雇しても、それは自ら改善する機会を放棄することであり、さらに問題が外部に発覚し、拡大する契機を作ることにもなる。 私たちは、F食品のこうした経緯を教訓とし、従業員からの訴えを真摯に受け止める体制を築かなければならない。 2 日本企業2社による初期対応 2014年7月24日現在、F食品から輸入した加工肉を使用した企業は、日本ではハンバーガーチェーンと、コンビニエンスストアチェーンの2社と報道されている。 ハンバーガーチェーンは、販売するチキンナゲットのうち2割をF食品から調達していた。同社は、本件が発覚した翌日の7月21日、対象商品であるチキンナゲットの販売を中止した。さらに翌22日には、F食品の加工肉を取り扱っていたことを公表するとともに、厚生労働省に報告をしている。 コンビニエンスストアチェーンは、F食品から調達したチキン2種類を販売していた。1つは、7月1日から全国約1万店舗で販売していたとのことである。もう1つは、試験販売中であったため、10店舗のみの販売であったとのことである。同社も、7月22日、対象商品であるチキンの販売を中止するとともに、F食品から輸入した加工肉を取り扱っていたことを公表している。 以上2社の対応は、初期対応として迅速なものであったと考える。 注目すべきは、F食品の加工肉を取り扱っていない外食チェーンも、一斉に、F社の加工肉の取扱いがないことを積極的に公表したということである。世界的に見れば、あまりに多くの著名外食チェーンがF社の加工肉を取り扱っていた。そのため、情報を発信しないと、消費者から「F社の加工肉を実は輸入していたのでは?」と疑われてしまうからである。 同業他社に不祥事が起きた場合、対岸の火事と思うのではなく、自社としていかなるリスクがあるかを判断し、適切に行動する必要がある。 3 輸入食品の自主管理ガイドライン 2008年1月、中国産の冷凍餃子による薬物中毒事件が発生した。それを受けて、厚生労働省は、同年6月5日、輸入加工食品の安全確保策の1つとして、輸入者自身による輸出段階での管理強化を目的としたガイドライン「輸入加工食品の自主管理に関する指針」を公表した。 同ガイドラインは、食品等事業者が、食品安全基本法8条1項に基づき、食品の安全確保について第一義的責任を有することを確認する。また、食品衛生法3条1項に基づき、原材料の安全性の確保、販売食品等の自主検査の実施、その他の必要な措置を講ずるよう努力すべきことを確認する。 そのうえで、同ガイドラインは、食品を輸入する事業者が、海外の製造者に対して「衛生的な環境下で食品の製造加工が行われるための管理体制が整備されていること」や「食品等の取扱い」等について、文書で確認すること、さらには、現地調査、駐在員の設置、試験検査等によって必要な確認を行うべきことを求めている。 4 検査体制の充実を 今回、F食品の加工肉を取り扱ってしまった会社は、上記ガイドラインの要求水準を満たしていたものと推測される。 上記ハンバーガーチェーンは、一般に、調達の際には、サプライヤーである食品加工会社に、HACCP(ハセップ、Hazard Analysis and Critical Control Point、危害分析・重要管理点)による衛生管理や、独自のグローバル品質マネジメントシステムによる品質管理を求めてきた。また、第三者に依頼して外部監査を行う認証制度を採用し、品質・衛生管理を徹底してきたとのことである。 同チェーンのホームページには、こうした仕組みが説明されており、厳格な品質・衛生管理を行っていることを積極的にアピールしている。F食品についても、こうした品質・衛生管理を行ってきたはずである。 また、上記コンビニエンスストアチェーンは、2014年春にF食品と取引を開始したばかりであった。取引開始にあたっては、輸入を仲介した商社に依頼して、ヒアリングや現地工場の視察を通じたチェック体制を構築してきたとのことである。 にもかかわらず、両社は、今回の不祥事を見抜くことができなかった。報道によれば、F食品は、不正を隠すために、帳簿を社内用と社外用とで分けていたとのことである。F食品は、米国の大手食肉加工会社Oグループの傘下にある。Oグループは、40ヶ国以上に食肉を供給しており、世界展開している食品チェーンなどとも幅広く取引をしている。F食品は、地元では「優良企業」として見られていたとのことである。 このように、一見信頼できる外見を有するF食品が、帳簿を偽装してまで隠蔽工作をした場合、取引先が不正を見抜くのは容易ではない。被害にあった米国ファストフードチェーンのCEOは「やや欺かれた」と説明している。 しかし、「偽装されたから見抜けませんでした」と説明しても、消費者が納得するわけではない。海外からの調達を積極的に進めている会社には、偽装を見抜く責任がある。 定期検査で見抜けなかったのであれば、抜き打ちの検査を行うなど、今まで以上に、検査体制を充実させる必要がある。 (了)
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事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第18回】「転嫁カルテル・表示カルテルの活用〔②効果的な活用方法と留意点〕」
事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第18回】 (最終回) 「転嫁カルテル・表示カルテルの活用〔②効果的な活用方法と留意点〕」 のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 山田 瞳 1 転嫁カルテルの活用方法と留意点 (1) 転嫁カルテルとして認められる行為 公正取引委員会「消費税の転嫁を阻害する行為等に関する消費税転嫁対策特別措置法、独占禁止法及び下請法上の考え方」(以下「公取委ガイドライン」という)の記述を元に検討すると、転嫁カルテルとして認められる行為は、以下のとおりである。 (2) 転嫁カルテルと認められない行為 公取委ガイドラインの記述を元に検討すると、転嫁カルテルとして認められない行為の具体例は、以下のとおりである。 (3) 独占禁止法上禁止されるカルテルに対する措置 以上のとおり、転嫁カルテルと認められる範囲を踏み越えた場合には、独占禁止法上禁止されるカルテルに該当する可能性があるため、転嫁カルテルが認められることを過大に受け止めず、細心の注意を払いつつ実施する必要がある。 注意喚起の意味で、独占禁止法違反と認定されたカルテルに対して課される処分等について述べると、以下のとおりである。 2 表示カルテルの活用方法と留意点 公取委ガイドラインの記述を元に検討すると、表示カルテルとして認められる行為は、以下のとおりである。 (連載了)