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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第19回】「医療費控除の対象となる『医薬品』(その1)」
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第19回】 「医療費控除の対象となる『医薬品』(その1)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに この連載では、これまで課税要件について述べてきたが、租税法律主義の下、租税法律関係においては文理解釈が優先されると解されている。その理由については、租税法が侵害規範であるからという説明によって整理されることもある。 もっとも、法律の規定にできるだけ忠実に文理解釈をするべきだとしても、条文に使用されている概念(用語)の意味が明らかでなければ文理解釈もままならない。その概念も租税法中に定義があるとか、文脈からその意味するところを明らかにできるのであれば、さしたる問題も起きないが、問題は定義規定のない概念の意味をいかに理解すべきかという点にある。 この点が、租税法の解釈を巡る重大な問題であり、また租税法における要件事実のうち、もっとも大きな論点となっているのである。 今回は、所得税法上の医療費控除にいう「医薬品」の意義を巡る問題を取り上げて考えてみたい。 Ⅰ 法令の規定及び通達の取扱いにみる「医薬品」 納税者が購入した自然医食品が、薬事法2条1項に規定される医薬品に該当しないものである場合、その自然医食品の購入は、医薬品の購入の対価として医療費控除の対象となるのであろうか。 所得税法73条《医療費控除》1項は、次のように規定する。 このように規定し、かかる医療費については、第2項が次のように規定する。 そして、所得税法施行令207条《医療費の範囲》は、次のように規定する。 ここにいう「医薬品」について、所得税基本通達73-5《医薬品の購入の対価》は以下のように通達している。 この通達の考え方に従えば、「医薬品」とは薬事法の理解に従うということになる。 このように、通達は、薬事法に規定するものを「医薬品」というとしており、特に、日本薬局方に収載されているものを「医薬品」というと解している。 そこで、 納税者が購入した自然医食品が、薬事法2条1項に規定される医薬品に該当しないものである場合、その自然医食品の購入は、医薬品の購入の対価として医療費控除の対象となるのかという疑問はこの通達によって解消されることになるようにも思われる。 しかしながら、通達はあくまでも、国税庁内部における解釈の統一を図る目的の上意下達の命令手段にすぎず、法律としての性質を有するものではないから、租税法律主義の下、何ら法的な拘束力があるわけではないのはいうまでもない。 この点について検討するに当たって、参考となる事例として、福島地裁平成11年6月22日判決(税資243号703頁)がある。 事案の概要は次のようなものである。 Xは、確定申告において、医療費控除の適用を行った上で課税総所得金額を91万6,945円と申告した。これに対し、税務署長Yは、主として、クリニックにおけるいわゆる自然食品の購入費やクリニックへの通院費等が医療費控除の対象となる医療費と認められないことを理由に、申告に係る医療費控除額を認めず、課税総所得金額を145万6,455円として本件処分を行った。 Xは、本件処分は、所得税法73条2項及び所得税法施行令207条の解釈を誤り、幸福追求権(憲法13条)によって保障されるべき、Xのクリニックで診療を受ける権利を侵害した違法な処分であるとして、その取消しを求めて提訴した。 本件において、福島地裁は、次のように事実認定を行っている。 このように認定した上で、同地裁は、次のように、医療費控除該当性を否定している。 このような判断は正しいのであろうか。 (続く)
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組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第5回】「みなし共同事業要件の濫用(東京地裁平成26年3月18日判決)⑤」
組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第5回】 「みなし共同事業要件の濫用(東京地裁平成26年3月18日判決)⑤」 公認会計士 佐藤 信祐 前回解説したように、裁判所の判断としては、「組織再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかであるもの」については、包括的租税回避防止規定を適用することができるとしたうえで、本事件における特定役員引継要件の形式的な充足を制度趣旨に反するということを理由として、包括的租税回避防止規定の適用を認めている。 しかしながら、その理論構成については、【争点1】はともかくとして、【争点2】についてはかなり問題があると感じている。 第5回目以降においては、判決文についての具体的な評釈を行っていく予定である。 (8) 評釈 ① 法人税法132条の2の意義【争点1】 (ⅰ) 判決文の構成 判決文の構成としては、「主文」「事実及び理由」にまず分けられる。そして、「事実及び理由」は、「第1 請求」「第2 事案の概要」「第3 当裁判所の判断」に分けられる。 このうち、「第3 当裁判所の判断」については、以下により構成されており、別紙として、代理人目録、関係法令の定め、本件更正処分等の根拠及び適法性、当事者の主張が添付されている。 (ⅱ) 法132条の2の趣旨 上記のうち、【争点1】については、(3)に掲げられている「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」の解釈が重要な論点となるため、以下においては、その内容について分析を行うこととする。 まず、法人税法132条の2が設けられた趣旨であるが、「平成13年度版改正税法のすべて」(大蔵財務協会、244頁)において、以下のように記載されている。 すなわち、一般的には、組織再編税制が比較的新しい制度であることから、多種多様な租税回避行為が行われると考えられるため、それを防止するために設けられた制度であると言われている。この点については、特に争われている内容ではなく、むしろ当然の前提となっている。 (ⅲ) 法132条の2が適用される場面 しかしながら、本事件においては、従来から言われていた「取引が経済的取引として不合理・不自然である場合」だけでなく、「組織再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかであるもの」も含めると判示したため、非常に画期的な内容となっている。逆に言えば、送り込まれた取締役副社長が名ばかり役員ではなく、その実態を備えていたことから、「取引が経済的取引として不合理・不自然である場合」という解釈だけでは包括的租税回避防止規定を適用することができなかったということが推定される。 このような解釈は従来から存在したわけではなく、従来の通説において、租税回避とは、 とされており、平成20年当時税務大学校研究部教授であった清水一夫氏の論文においては、行為計算否認(法法132、132の2、132の3)を適用するための要件として、①形式的要件、②税負担の減少、③税負担減少の不当性(本件取引の行為・計算が通常の経済人を基準として不自然・不合理であることの評価根拠事実)を挙げられ(※2)、平成23年には、財務省主税局OBであった佐々木浩氏も包括的租税回避防止規定については経済合理性がキーワードになる旨を述べられている(※3)。しかしながら、平成24年になると、同じく財務省主税局OBであった朝長英樹氏が制度の濫用について適用されるものであるという見解を述べられ(※4)、また、平成24年当時税務大学校研究部教授であった斉木秀憲氏の論文(以下、「斉木論文」という)においては、包括的租税回避防止規定が適用される場面について、①組織再編税制の基本的な考え方からの乖離、②組織再編成の濫用、③個別防止規定の逸脱の3つに類型化されている(※5)。原告が本件更正処分を不服として東京地方裁判所に提訴したのが平成23年であることを考えると、本事件を意識して見解をまとめられたことは十分に推測できる。 (※1) 金子宏(2013)『租税法(第18版)』弘文堂121頁 (※2) 清水一夫(2008)「課税減免規定の立法趣旨による『限定解釈』論の研究」税大論叢59号314頁 (※3) 仲谷修・栗原正明・中村慈美・佐々木浩・武井一浩(2012)『企業組織再編成税制及びグループ法人税制の現状と今後の展望』大蔵財務協会129頁 (※4) 朝長英樹・藤田耕司・仲谷栄一郎(2012)「組織再編成税制を巡る否認が相次ぐ中、今明かされる『行為計算否認規定(法人税法132条の2)』の創設の経緯・目的と解釈」T&Amaster 449号9頁 (※5) 斉木秀憲(2012)「組織再編成に係る行為計算否認規定の適用について」税大論叢73号40-42頁 このうち、斉木論文については、私見に基づく立場としてまとめられているとはいえ、少なくても新聞報道から本事件の概要を把握していたと推定されることや、要約や目次を除いた本文だけでも74頁にも及ぶ大作となっているため、包括的租税回避防止規定が適用される場面を広げる解釈をまとめたものとしては十分に研究に値する内容である。 次回以降は、斉木論文を紹介するとともに、【争点1】についての私見をまとめたい。 (了)
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こんなときどうする?復興特別所得税の実務Q&A 【第5回】「非居住者へ支払う利子から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税の処理」
こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第5回】 「非居住者へ支払う利子から源泉徴収する 所得税及び復興特別所得税の処理」 税理士・社会保険労務士 上前 剛 当社は、平成25年8月1日に社長の知人のニューヨーク在住のアメリカ人から運転資金として1,000万円を借り入れました。このアメリカ人は、所得税法上の非居住者です。また、金銭消費貸借契約において、借入期間は1年、借入利率は2%、平成26年7月31日に元本と利子を一括で返済することになっています。 非居住者へ支払う利子から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税の処理についてご教示ください。 非居住者へ支払いをする際は、日本が非居住者の居住地国との間で租税条約を締結しているかどうかを確認する。平成26年7月1日現在、日本は、61条約、84の国・地域と租税条約を締結している(財務省ホームページ「我が国の租税条約ネットワーク」参照)。 租税条約を締結している場合、租税条約の限度税率と所得税法の税率を比較し、いずれか低い方の税率を適用する。租税条約を締結していない場合、所得税法の税率を適用する。 日本は、アメリカとの間で日米租税条約を締結しているため、日米租税条約の限度税率と所得税法の税率を比較し、いずれか低い方の税率を適用する。 1 日米租税条約の限度税率 日米租税条約の利子(その他)の限度税率は、10%である(図表1参照)。 図表1 日米租税条約の配当、利子、使用料の限度税率 (出所:財務省ホームページ「日米租税条約のポイント」) 2 所得税法の税率 国内において業務を行う者に対する貸付金で当該業務に係るものの利子(所得税法161条6号)の税率は、20.42%である(所得税法213条)。20.42%のうちの0.42%は、復興特別所得税の税率である。 3 日米租税条約の限度税率と所得税法の税率の比較 したがって、税率10%にて所得税を源泉徴収する。また、租税条約の限度税率を適用する場合は復興特別所得税は課されないため、源泉徴収する必要はない(復興財源確保法33条)。 4 源泉所得税の計算 5 「租税条約に関する届出書」の提出 アメリカ人は、利子の支払日の前日(平成26年7月30日)までに「租税条約に関する届出書」を会社経由で会社の所轄税務署長へ提出しなければならない。提出しなかった場合は、会社は所得税法の税率20.42%で所得税及び復興特別所得税を源泉徴収する。 「租税条約に関する届出書」は、納税管理人及び会社がアメリカ人の代理人となることにより作成し、提出することもできる。会社がアメリカ人の代理人となる場合、一定の委任状を添付しなければならない。 (了)
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〈条文解説〉地方法人税の実務 【第3回】「課税標準・税額の計算(第9条~第11条)」
〈条文解説〉 地方法人税の実務 【第3回】 「課税標準・税額の計算(第9条~第11条)」 税理士 小谷 羊太 税理士 伊村 政代 今回は、地方法人税法の「第二章 課税標準(第9条)」及び「第三章 税額の計算(第10条・第11条)」について詳解する。 Ⅰ 課税標準(第9条) 「基準法人税額」とは、確定申告書を提出すべき内国法人の法人税の課税標準である各事業年度の所得の金額につき、法人税法その他の法令により計算した法人税の額(附帯税を除く)をいう。 つまり、法人税法により計算した法人税額が地方税法による課税標準となる。 Ⅱ 税額の計算(第10条・第11条) 1 税率 2 課税標準法人税額の留意点 上記算式において、税率を乗じる前の金額『課税標準法人税額』は、法人税法第68条から第70条の2までの規定《税額控除》、及び附帯税の額を除くことになっている。 具体的には、 を適用しないで計算した法人税の額となる。 また、「特定同族会社等の特別税率の適用がある場合」には、留保金課税により加算された金額を控除した金額を課税標準法人税額とする。 (※) 2014/9/8追記:上図中「差引所得に対する法人税額」は、本稿公開時「差額所得に対する法人税額」となっていましたが、正しくは上図のとおり「差引所得に対する法人税額」です。お詫びの上、訂正させていただきます。 Ⅲ まとめ 課税標準法人税額を算出するにあたっての数値の拾い出しは、具体的に次のようにして計算することとなる。 * * * 次回も引き続き「税額の計算」について詳解する。 (了)
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税務判例を読むための税法の学び方【39】 〔第5章〕法令用語(その25)
税務判例を読むための税法の学び方【39】 〔第5章〕法令用語 (その25) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 14 不確定概念と宥恕規定 ③ 「違法」と「不法」「不適法」「非合法」「不当」「不正」「不適当」「不相当」「反正義」「不公正」【後半】 表題の一つに「不適当」を挙げておいたが、実は「適当」「不適当」は、法令用語とはされていない。 とはいえ前々回に挙げた所得税法第18条のように、「不適当」とされた場合には所轄国税局長により別の納税地を指定されるため、何をもって不適当とされるかについて明確であるべきであるが、制定当時の立法趣旨が記された「所得税、法人税制度史草稿(昭和30年大蔵省主税局調査課)」によっても「適当でない」とする限りである。 すなわち「相当重要な特例を認める権限が政府に与えられたのである。納税地の指定がこれであって・・・それらの法人の事業の状況からみて法人税の納税地として適当でないと認めたときは、・・・」とある。 もっともこれは、所得税法第18条と類似の規定である法人税法第18条の解説である。 表題に挙げられている「不相当」もまた、法令用語ではないが、税法における不確定概念としてよく用いられる。 一般的に、「相当」は「ふさわしいこと」、「つりあうこと」を意味し、「不相当」はその逆の「ふさわしくないこと」、「つりあわないこと」を意味する。 理論的には「相当でない」と「不相当」が全くの同一か否か、すなわち「相当」とはいえないが「不相当」とまではいえない範囲が存在するか否かという点は議論の余地がありそうではあるが、通常は「相当」ではないのだから「不相当」とされる。 この条文の場合には、「相当の地代」に該当しない場合は「不相当」としてこの条文の適用がないのであるから、「相当ではない」=「不相当」となろう。 当然、何をもって「相当ではない」となるか、そのためには「相当の地代」が何かについて基準が必要となるが、課税庁は通達で、これを明示している(法人税基本通達13-1-2)。(もっとも通達である以上、これを絶対視するべきではない。) 一方、前々回に示した法人税法第36条や同法第34条2項には、「不相当(・・・)に高額」と「不相当」が使われている。 当然、ここでも、何をもって「不相当」となるかについて基準が必要となるため、法人税法施行令第70条や第72条の2に示されている(条文においても「不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額」と政令で規定する旨が示されている)。 なお、税法においては、「相当する」という語が「対応する」というようなニュアンスの語としても使われている。 例えば所得税法の以下の規定にある「相当する」は、この「対応する」に類する(「不相当」を対義語とする先の用例の「相当」とは異なった)使用例である。 次に「反正義」であるが、前々回、条文としては「『正義に反する』と認めるとき」(刑事訴訟法397条)を示した。 これもいわば不確定概念であるが、これを明確に示すことは難しい。法の存在そのものが正義と衡平(公平)の実現を目的としているものであるから、法を適用する場合には常にこれに反していないかが問われている。 かの袴田事件においても静岡地裁の裁判長が、「これ以上、勾留を続けることは耐え難いほど正義に反する」として再審請求が認められ、釈放されたことは記憶に新しい。 なおこの概念は、刑法においてよく用いられる。 最後に「不公正」であるが、これは「公正」ではない状態を示す語である。 「公正」は法令上よく使われる(税理士法第1条、商法第19条、会社法116条・431条等)が、法令用語というより、一般的な言葉の概念で使われている。 しかし「不公正」は、独占禁止法(ただし、独占禁止法においては、「不公正な取引方法」という一括りの言葉の中の概念 として「不公正」を考える必要がある)や金融商品取引法においては「違法」を示すものとして用いられている(通常は「著しく不公正」な場合が違法とされる。例:会社法212条等)。 これらの法令は、市場(金融商品取引法は証券市場)による公正な価格形成がなされることを目的としているものであるから、「公正」でないものは、「不公正」として「違法」を意味するものとされている。 この点、これらの法律は、用語の使い方が少し異なる。 かつては、独占禁止法の特別法であった(現在は消費者保護法令の1つとされる)「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」においては、「不当」な表示は「違法」な表示であるから、「不当」と「違法」は同じ程度を示すごということになる。 しかし通常、「不当」は裁量の範囲内における問題とされ、「不当」ではあるが「違法」ではない領域があるとされている。 行政不服審査法では、「不当な処分」についても不服申立ての対象としている(第1条、40条等)が、司法で争われるのは違法性であるとして、不当性は問題とされない。 というのも、不当性とは、「裁量の範囲逸脱や濫用に至らない程度の裁量の不合理な行使をいう。」と解されており、この「裁量の範囲逸脱や濫用に至らない程度」とされるかぎり、違法性はないとされるからである。 (了)
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日本の会計について思う 【第7回】「日本再生ビジョンとIFRS」
日本の会計について思う 【第7回】 「日本再生ビジョンとIFRS」 関西学院大学教授 平松 一夫 「日本再生ビジョン」の公表 政府は2014年6月24日に新しい成長戦略をまとめた。これに先立つ5月23日、自由民主党の日本経済再生本部が「日本再生ビジョン」を公表した。 「日本再生ビジョン」では再生の7つの柱として、 が掲げられている。 このうち、④の「日本再生のための金融抜本改革」の中で、日本を世界で最もビジネスがしやすい場所にするためには、企業を縛る規制やルールを国際水準にそろえ、日本のガラパゴス化を防ぎ、グローバルに通用する企業及び人材の育成を図ることが必要であり、そのためにコーポレートガバナンスや、会計基準を含む企業情報の開示ルールを早急に国際水準にそろえることが重要であると指摘している。 今後、わが国の政策としてIFRS(国際会計基準)の導入が再び重視されることになると考えられるので、やや引用箇所が多くなるが、今回は「日本再生ビジョン」のうちIFRSに関わる部分について見てみることとする。 単一で高品質な国際会計基準策定へのコミット 「日本再生ビジョン」では、2008 年のリーマンショック直後のG20 首脳宣言でわが国が会計における「単一で高品質な国際基準」を策定するという目標にコミットしたことに言及している。そして、わが国において、会計基準を国際的に通用する単一の基準に統一していくことが必要であるとするのである。 この中で、自民党・企業会計に関する小委員会が昨年6月にまとめた提言が「わが国としてのIFRSの強制適用の是非や適用に関するタイムスケジュールを決定するよう、各方面からの意見を聴取し、議論を深めることを求めて」いることから、「政府は、タイムスケジュールの決定に向けて具体的作業を早急に始めるべきである」とされている点は注目される。 IFRSの任意適用企業の拡大促進 「日本再生ビジョン」はさらに、本連載【第1回】「IFRS任意適用拡大への期待」で筆者が指摘したのと同じ点にも言及している。すなわち、2016年のIFRS財団モニタリング・ボードのメンバー定期見直し後も日本がIFRS基準策定に発言権を維持するために、日本企業によるIFRSの顕著な適用が不可欠であることに触れているのである。 「日本再生ビジョン」は、2016 年末までに300 社程度の企業がIFRSを適用する状態にするためにあらゆる対策を検討し、実行に移すとともに、積極的に環境整備に取り組むことを求めている。 JPX新指数に採用された企業への働きかけ 「日本再生ビジョン」では、2013年5月の自民党・日本経済再生本部の「中間提言」が独立社外取締役の採用などと並んでIFRSの導入を促すこともねらって、新指数の創設(「東証グローバル300社」インデックス)を日本取引所グループ(JPX)に対して求めたことに言及している。 その上で、今後JPXにおいては、当該指数銘柄に採用された企業について、IFRS導入動向状況をモニターし、当該企業への働きかけや、それらの加点割合を増加させる等、一層の促進策の検討を行うべきであるとしている。 「IFRS適用レポート」の作成 「日本再生ビジョン」は、「上場企業に対し、IFRSの適用に関する基本的な考え方(例えば、IFRSの適用を検討しているか、検討している場合は検討状況等)について、投資家に説明することを東証上場規則によって促すことを提案」している。 また、金融庁がIFRSの任意適用会社に対して「IFRS移行時の課題をどのように乗り越えたのか、また、移行によるメリットにはどのようなものがあったのか」等について、実態調査・ヒアリングを行って「IFRS適用レポート(仮称)」を公表し、未だIFRSへの移行を検討中の企業の後押しを行うべきであるとしている。 IFRS導入への取り組み姿勢 このように、「日本再生ビジョン」におけるIFRS適用への積極的な姿勢は注目に値する。筆者は、「日本再生ビジョン」がその「はじめに」において、昨年12月に来日したドイツのシュレーダー前首相による「シュレーダー改革」によりドイツが国際競争力を著しく向上させたことを引き合いに出している点にも注目したい。 そこでは、ドイツが「国家リーダーによる、揺らぐことなきトップダウンの改革断行」によってコーポレートガバナンスの強化を図り、企業を強くし、金融を強くし、雇用の流動性を高め、社会保障改革を進めたことに言及している。そして、日本でも今まさに、「日本版シュレーダー改革」ともいうべき、包括的な改革を行わなければならないと指摘しているのである。 これまで本格的には手がつけられてこなかったわが国企業の体質、経済の文化・風土をも変え、健全かつ活力の満ちた、競争力のある企業へと転換させることが重要であると述べる「日本再生ビジョン」。IFRSへの取り組みもその一環として、強力に進められることを強く期待するものである。 (了)
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減損会計を学ぶ 【第12回】「グルーピングに関するその他の留意事項」
減損会計を学ぶ 【第12回】 「グルーピングに関するその他の留意事項」 公認会計士 阿部 光成 前回までで述べたように、減損会計では、グルーピングがポイントになる。 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(以下「減損適用指針」という)は、グルーピングに関して、経営の実態が適切に反映されるよう配慮して行うと述べ、資産のグルーピングを行う手順を例示することにより、実務的な指針として役立てることを目的としている(減損適用指針7項、70項)。 今回は、グルーピングに関するその他の留意事項について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 資産の処分等の意思決定を行った場合 減損適用指針8項は、次のような資産については、原則として、それぞれがキャッシュ・フローを生み出す最小の単位として扱うと規定している。 資産の処分や事業の廃止に関する意思決定は、取締役会や常務会等において行われるほか、社内規定等に基づき、他に決定権限が委譲されている場合には、当該決定権限に従った権限者の承認により行われると述べられている(減損適用指針71項)。 また、処分の意思決定を行った重要な資産や、廃止の意思決定を行った事業に係る重要な資産、将来の使用が見込まれていない重要な遊休資産は、これら同士の将来キャッシュ・フローを合算して減損損失を認識するかどうかの判定を行ったり、減損損失を測定したりしないことに留意すると述べられている(減損適用指針72項)。 Ⅱ グルーピングの継続性 資産のグルーピングについては継続性が求められており、原則として、毎期同様に行う必要があると規定されている(減損適用指針9項)。 グルーピングの変更が認められるのは、事実関係が変化した場合であり、減損適用指針は、次のものを例示している(減損適用指針74項)。 Ⅲ 物理的な1つの資産をグルーピングの単位の基礎とすること 資産のグルーピングを決定する基礎となる単位は、継続的な収支の把握の単位である(減損適用指針7項(1))。 例えば、店舗・工場などの括りで継続的に収支の把握がなされている場合は、その括りがグルーピングを決定する基礎となる単位となる。 この場合、減損適用指針は、資産のグルーピングの単位を決定する基礎は、原則として、小さくとも物理的な1つの資産になると考えている(減損適用指針70項(1))。 これは、固定資産の減損会計は、資産を対象とするため、1つの資産において、継続的に収支の把握がなされている単位が複数存在する場合でも、1つの資産を細分化して減損処理の対象とすることは適切ではないと考えられているためである(減損適用指針70項(1))。 要するに建物は建物、機械装置は機械装置を単位とし減損会計を適用するものであり、例えば、建物をフロアごと部屋ごとに分割して減損会計を行うということではないと解される。 ただし、物理的な1つの資産でも仕様が異なる等のため、複数からなる資産と考えられる場合もある。 これには、商業ビルにおいて仕様が異ならなくとも、自社利用部分と外部賃貸部分とが長期継続的に区分されるような場合も含めることができるものと考えられると述べられている(減損適用指針70項(1))。 実務においては、上記の状況に関して、経営の実態が適切に反映されるようにグルーピングを行うよう注意する必要があると解される。 Ⅳ セグメント情報における開示対象セグメントを超えないこと 減損適用指針は、連結財務諸表における資産グループは、どんなに大きくとも、事業の種類別セグメント情報における開示対象セグメントの基礎となる事業区分よりも大きくなることはないと考えられると述べている(減損適用指針73項)。 セグメント情報については、「セグメント情報等の開示に関する会計基準」(企業会計基準第17号)が公表されており、マネジメント・アプローチが採用されている。 マネジメント・アプローチとは、経営上の意思決定を行い、業績を評価するために、経営者が企業を事業の構成単位に分別した方法を基礎としてセグメント情報を開示する手法である(企業会計基準第17号45項)。 減損適用指針は、「事業の種類別セグメント情報における開示対象セグメント」の表現を用いているが、グルーピングについては、実務的には、管理会計上の区分や投資の意思決定(資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む)を行う際の単位等を考慮して決定すると規定しているので(減損適用指針7項)、「セグメント情報等の開示に関する会計基準」と基本的に同様に考えることができると解される。 Ⅴ 連結におけるグルーピングの見直し 連結財務諸表においても、原則的には、個別財務諸表における資産のグルーピングをそのまま用いることとなる(減損適用指針75項)。 連結財務諸表においては、連結の見地から、個別財務諸表において用いられた資産のグルーピングの単位が見直される場合がある(「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」四、2(6)①なお書、減損適用指針10項)。 この場合には、次のことに注意する。 連結の見地から資産のグルーピングの単位が見直された場合には、個別財務諸表における減損損失が、連結上、修正されることとなる(減損適用指針75項)。 連結財務諸表において計上される減損損失が、個別財務諸表における減損損失の合計額を下回る場合には、連結上、当該差額を消去し、上回る場合には、連結上、当該差額を追加計上することとなる。 (了)
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税務・会計
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財務会計
〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《退職給付債務・退職給付引当金》編 【第4回】「自社積立の退職一時金制度(自社退職金規程に基づく確定給付型)を採用し、かつ、その一部について確定給付型企業年金制度に移行している場合」
〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《退職給付債務・退職給付引当金》編 【第4回】 「自社積立の退職一時金制度 (自社退職金規程に基づく確定給付型)を採用し、 かつ、その一部について確定給付型企業年金制度に 移行している場合」 公認会計士・税理士 前原 啓二 1 退職時、掛金支出時及び決算時の仕訳 〈退職時の仕訳〉 〈企業年金掛金支出時〉 〈X2年3月31日の仕訳〉 この設例は、退職金規程に基づく確定給付型の退職一時金制度で、かつ、その一部について確定給付型の企業年金制度に移行している場合です。退職金の財源を一部だけ外部拠出し、残りを自社が積立てしていきます。 このような場合には、①移行前の退職一時金制度全体として計算する方法、②退職一時金制度と企業年金制度の各制度ごとに計算する方法の2つがあります。 この設例は①の方法で、具体的には、 です。 ⅰ) 在籍する従業員に係る退職給付債務 在籍する従業員について、企業年金制度に移行した部分も含め移行前の退職一時金制度全体としての期末自己都合要支給額は、前期末55,000,000円、当期末60,000,000円であり、これらをそれぞれの時点の在籍する従業員に係る退職給付債務とします。 ⅱ) 年金受給者及び待期者に係る退職給付債務 年金受給者及び待期者について、直近の年金財政計算上の数理債務の額は、前期末は7,000,000円、当期末は7,500,000円であり、これらをそれぞれの時点の年金受給者及び待期者に係る退職給付債務とします。 ⅰ)とⅱ)の金額は、いずれも年金資産から給付される額を含むので、ⅰ)とⅱ)の合計額から直近の年金資産の時価(前期末22,000,000円、当期末25,500,000円)を控除した額(前期末40,000,000円、当期末42,000,000円)を、それぞれの時点の退職給付引当金の残高とします。 退職給付引当金の前期末残高から当期末残高の増減を、ⅰ)在籍する従業員に係る退職給付債務、ⅱ)年金受給者及び待期者に係る退職給付債務と、年金資産に分解して示すと、次のとおりです。 前期末貸借対照表上の退職給付引当金残高40,000,000円から当期退職一時金支給額2,000,000円(上表の注①)と当期の年金掛金支出額3,600,000円(上表の注②)を差し引いた34,400,000円が、決算整理前の退職給付引当金残高です。この残高から42,000,000円を当期末の退職給付引当金残高とするため、決算整理前の退職給付引当金残高34,400,000円から7,600,000円を増加させます。この7,600,000円の増加は、ⅰ)在籍する従業員に係る退職給付債務の増加7,000,000円(上表の注③)、ⅱ)年金受給者及び待期者に係る退職給付債務の増加1,000,000円(上表の注④)と、年金資産の増加400,000円(年金資産の運用益:上表の注⑤)に分解できます。 2 決算書の金額 〈当期損益計算書〉 〈当期末貸借対照表〉 3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 〈当期法人税申告書別表四〉 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 税務上は、実際に退職一時金を支給した日の属する事業年度にその支給額が損金算入されます。したがって、当期の退職給付引当金の計上費用7,600,000円は加算・留保します。 一方、当期に退職一時金2,000,000円を支給しているので、この額を損金算入できますが、会計上はこの支給額を退職給付引当金の減額で処理し費用計上していないことから、税務上はこの金額を減算調整します。 また、確定給付企業年金の掛金については支出額をその支出した事業年度に損金算入できますが、会計上はこの支出額を退職給付引当金の減額で処理し費用計上していないことから、税務上はこの金額を減算調整します。 (了)
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経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第49回】金融商品会計⑤「子会社株式・関連会社株式の評価」
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第49回】 金融商品会計⑤ 「子会社株式・関連会社株式の評価」 仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① A社株式取得時(X1年4月1日) ② B社株式取得時(X1年7月1日) ③ 決算時(X2年3月31日) 〈会計処理の解説〉 子会社株式及び関連会社株式は、他の企業の意思決定機関を支配する目的で保有する株式のことをいい、その支配力の強さに応じて、子会社株式あるいは関連会社株式に分けられます。 被投資企業が子会社あるいは関連会社に該当するかどうかは、実質的な判断を伴いますが、例えば、以下のような場合、被投資企業は子会社あるいは関連会社に該当します。 子会社株式及び関連会社株式は、個別財務諸表上、取得原価をもって貸借対照表価額とします。これは、子会社及び関連会社に対する投資が、時価の変動による利益を目的とした「金融投資」ではなく、被投資企業に対する「事業投資」と考えられるためです。 「金融投資」はいわば余剰資金の運用であり、主に株式や債券への投資のことをいいます。一方、「事業投資」は本業への投資であり、主に商製品の仕入や設備投資のことをいいます。 子会社及び関連会社への投資は、株式を通じて行われるため、形式的には「金融投資」ですが、その目的は他の企業の意思決定機関を支配することであるため、その実態は「事業投資」と考えられます。 したがって、会計上は、子会社株式及び関連会社株式を「事業投資」と捉え、取得原価をもって貸借対照表価額としています。 子会社株式は個別財務諸表上、取得原価をもって貸借対照表価額とするため、子会社の実質価額が子会社株式に反映されません。しかし、連結財務諸表においては、被投資企業の実質価額が適切に反映されます。 例えば、本事例におけるA社がX2年3月期に当期純利益を計上した場合、個別財務諸表上の子会社株式の貸借対照表価額は変わりませんが、連結財務諸表上は、当期純利益が認識され、利益剰余金が増加します。連結財務諸表の具体的な作成方法については、『経理担当者のためのベーシック会計Q&A』第26回、第27回、第28回をご参照ください。 〈子会社株式及び関連会社株式の減損処理〉 子会社株式及び関連会社株式は、個別財務諸表上、取得原価をもって貸借対照表価額とします。しかし、個別財務諸表においても、その他有価証券と同様、時価が著しく下落したときには減損処理を行わなければなりません。 ただし、子会社株式及び関連会社株式が上場していない場合には、時価を把握することが極めて困難であるため、被投資企業の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したとき、減損処理を行うこととされています(金融商品会計に関する実務指針92項)。 子会社株式及び関連会社株式において、「財政状態の悪化」とは、1株当たりの純資産が、取得時よりも相当程度下回っている場合のことをいいます。また、「実質価額が著しく低下したとき」とは、株式の実質価額が取得原価に比べて50%程度以上低下した場合のことをいいます。 子会社及び関連会社が「財政状態の悪化」と「実質価額の著しい低下」を満たしたとき、当該株式の減損が必要となります。 以上で述べてきたように、子会社及び関連会社に対する投資の評価は、個別財務諸表と連結財務諸表で認識するタイミングが異なります。 これらをまとめると、以下のようになります。 * * * 次回は、満期保有目的の債券の評価について解説します。 (了)
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国際出向社員の人事労務上の留意点(日本から海外編) 【第2回】「国際出向社員の各種法律における身分関係②(社会保障協定)」
国際出向社員の人事労務上の留意点 (日本から海外編) 【第2回】 「国際出向社員の各種法律における身分関係②(社会保障協定)」 社会保険労務士 平澤 貞三 (1) 社会保障協定の概要 日本を含めた世界のほとんどの国では、その国で就労している人をその国の公的年金制度の対象としている。このため、自国を離れ国外に赴任する場合、派遣先国の年金保険料を支払い、かつ、受給権確保のため自国でも年金保険料を支払うという現実がある。 ここで生じる問題として、①保険料の二重払い、②支払期間が短いがゆえの「掛け捨て」が挙げられるが、これらの回避策として、日本政府は平成12年のドイツを皮切りに、各国との社会保障協定を推し進めている。 (2) 保険料の二重払い回避措置 他国の企業から、おおむね5年以内の予定で派遣され就労するエクスパットについては、当該派遣期間中は派遣先国の年金等への加入適用が免除され、原則として当該他国(派遣元国)の法令のみが適用されることになる。 《社会保障協定がない国の場合》 《社会保障協定のある国の場合》 (3) 掛け捨て防止(保険期間の通算)措置 年金受給のために必要な加入期間を数えるうえでは、自国および他国での年金加入期間を通算することになる。また、年金受給額は、両国それぞれの加入期間に応じた額となる。 ※イギリス、韓国、イタリアとの協定には、保険期間通算措置は規定されていない。 《事例解説》 (※) Cの期間においては、申し出により日本の厚生年金に加入し続ける(=二重払いする)ことも可能(社会保障協定の実施に伴う厚生年金保険法等の特例等に関する法律第25条) 【日本の協定相手国】15ヶ国(平成26年1月現在) 【免除申請手続】 原則として、派遣元国の年金制度等の保険者から「適用証明書」の交付を受け、派遣先国の保険者窓口に提示することにより、派遣先国での年金加入手続きが不要となる。 (了)