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会社ができるメンタルヘルス《事前・事後》対策 【第1回】「メンタルヘルス不調者発生時の対応」
会社ができるメンタルヘルス 《事前・事後》対策 【第1回】 「メンタルヘルス不調者発生時の対応」 アクタスマネジメントサービス株式会社 社会保険労務士 筒井 恵美子 1 早期発見と受診の勧め 会社は、安全配慮義務に基づき、労働者が業務を安全に遂行できているかどうかを常に把握しておくことが必要である。病気が疑われる労働者を放置して仕事を続けさせ、病気が悪化すれば、会社の安全配慮義務が問われる場合もある。 そのため、必要なことは、従来とは違った行動、働き方をする労働者の早期発見及び早期対応である。 労働者の変容は何らかの行動や態度に表れてくるため、『いつもと違う様子』に気づくことが発見のポイントである。 いつもと違う様子が見えた際は、本人から事情を聴く前にまず上司から事情を聴き、事前に状況を把握した後に本人から事情を聴くようにする。また、必要に応じて同僚などから事情聴取する場合は、個人情報の保護に十分に注意したい。 病気の治療は、病気の種類にかかわらず、本人とその家族の責任において行うのが原則である。会社は上記で述べた通り、労働者の就業にあたり安全配慮義務を負っているが、医師でもない職場の人間が憶測の病名を口にしたり、精神科の受診等を不用意に勧めたりすれば人権に関わる場合がある。 そのため、「勤務状況が悪い」「仕事のミスが多い」「被害妄想がある」「うつ病が疑われる」といった変容があった際は、具体的な業務上の支障を時系列に明示し、本人に自覚させ、改善のために医療の専門家のアドバイスを受けるよう勧めるようにしたい。 2 診断書が提出されたら メンタルヘルス関係の診断書が提出されたら、 を確認する。また、必要に応じ主治医の意見を聴いたり、産業医へ相談するようにする。 次に、提出された診断書の内容が就業規則の「休職規定」に照らし、休職事由に該当する場合は休職命令を発令する。 3 休職規定の整備 (1) 休職事由について 会社がどのような場合に労働者を休職扱いとするかについては、就業規則に定める休職事由が問題となる。 一般的には、私傷病による休職事由は、 と定めることが多い。 ①の事由については、欠勤が連続した場合に限られるような表現が多く、メンタルヘルス不調の場合、欠勤が断続的に続くことが想定される。 そのため、断続的な欠勤であっても連続欠勤と同視できる場合は、休職扱いにできるよう規定しておくことが望ましい。 ②の事由については、単に就労不能か否かだけではなく、療養に専念することにより復職する見込みが必要であるということも、休職事由として規定しておくことが望ましい。 また、会社によっては、一定期間欠勤が連続したら自動的に休職とするケースも見受けられるが、そもそも休職制度は、療養による復職を前提としたものであるので、復職の見込みのない事由にまで休職を認める必要がないと思われる。 このため、自動的に休職とするのではなく「休職事由に該当した場合に会社が休職命令を発令する」という明記にしておくことが有用である。 (2) 休職期間中の取扱いについて 休職命令を発令後、復職させるか、退職させるかを判断するためには、労働者が療養に専念しているか把握することが重要である。 そこで、休職規定に、 等を明記するとともに、休職命令発令時に、労働者本人からこれらの事項について確認した旨の覚書(念書)を取り付けることが望ましい。 特に、②については、本人の心身状況に配慮する必要があることから、労働者本人、親族、主治医等誰と連絡を取り合うのか、連絡を取り合う頻度は月1回なのか、2ヶ月に1回なのか、電話、電子メール又は手紙等の連絡方法についてあらかじめ確認し、本人から了解を得ておく必要がある。 その他、休職中の労働者が、疎外感から同僚と話をしたい、復職したいので会社の様子を自分の目で確認したいなどの理由で、自発的に会社に立ち寄ることがある。 原則、休職期間中は療養に専念してもらうことが何よりも大事なため、立ち寄ることをすべて拒否するものではないが、一定のルールを設けておくようにするとよい。 * * * 次回は、職場復帰支援について解説したい。 (了)
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事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第15回】「総額表示の特例と誤認防止措置〔①税抜価格のみを表示する場合〕」
事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第15回】 「総額表示の特例と誤認防止措置〔①税抜価格のみを表示する場合〕」 のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 山田 瞳 1 総額表示義務とその特例措置 (1) 総額表示方式とは 総額表示方式とは、消費者に対して商品やサービスを販売する課税事業者が、消費者に対する値札や広告などにおいて価格を表示する場合に、消費税相当額を含んだ支払総額の表示を義務付けるものである。すなわち、この方式の下では、消費税率5%当時には、本体価格1,000円の商品について、消費税5%相当額を含む税込価格である「1,050円」という金額を表示することが義務付けられていた。 総額表示方式(消費税法63条)は平成16年4月に導入されたもので、消費税に関する価格表示について導入前に生じていた、 という問題点を解消することを目的としていた。 (2) 総額表示義務の特例としての誤認防止措置 平成25年10月1日に施行された消費税転嫁対策特別措置法は、その施行後に2度にわたる消費税率の引上げが見込まれていることに伴い、総額表示方式を貫いた場合に事業者に生じる値札の貼り替え作業等の事務負担が過大になること等を配慮して、上記施行日から同法が失効する平成29年3月31日までの間、総額表示義務の特例として、税込価格を表示することを要しないことにした(同法10条)。 すなわち、本体価格1,000円の商品について、消費税率8%の施行後も、消費税相当額を含まない「税抜価格1,000円」での表示が可能になったものである。 これにより、小売店等の企業は、消費者に対するわかりやすさ等を重視して総額表示を続けるか、税込価格と税抜価格を併記するか、値頃感の確保や値札貼り替えの手数軽減を重視して税抜価格による表示を行うか、経営判断により様々な価格表示の方法を選択できるようになった。その意味で、消費税転嫁対策特別措置法が定める総額表示義務の特例は、企業にとって歓迎すべきものといえるだろう。 ただし、総額表示義務の特例の適用を受けるためには、現に表示する価格が税込価格であると消費者に誤認されないための措置(誤認防止措置)を講ずることが必要とされている。消費税転嫁対策特別措置法は、この措置を講じることを要件とすることで、上記①及び②の問題にも配慮し、消費者の利便性を図ろうとしているのである。 誤認防止措置であると認められるためには、いくつかのポイントをクリアする必要があるため、以下、これらのポイントについて解説する。 (3) 誤認防止措置といえるためのポイント(*1) (*1) 「総額表示義務に関する特例の適用を受けるために必要となる誤認防止措置に関する考え方」平成25年9月10日 財務省 例えば、「当店の価格表示は税抜きです。」というような誤認防止のための表示がなされていても、これが、 ◆店内のレジ周辺だけで行われている ◆商品カタログの申込用紙だけに記載されている ◆インターネットショッピングのウェブページの決済画面だけに記載されている など、消費者が商品等を選択する時点において、表示価格が税込価格ではないことを認識できない場合には、総額表示義務の特例を受けるための誤認防止措置とは認められない。消費者が、値札等を見て商品等を選択した後に、実は値札等に記載された金額が税抜価格であると気づくという流れでは、消費者の誤解や混乱を招くことになるためである。 例えば、「当店の価格表示は税抜きです。」というような誤認防止のための表示がなされていても、 ◆その文字が著しく小さすぎる ◆文字と文字の間の余白が狭すぎる ◆表示の背景の色と文字の色とが同系色であるために文字が背景にとけ込んで見える など、一般消費者にとって見づらい場合には、総額表示義務の特例を受けるための誤認防止措置とは認められない。そのような表示は、税抜価格であることを形ばかり表示したにすぎず、消費者に適切な判断を促すことができないためである。 なお、ある表示が明瞭か否かは、その表示が主に対象としている消費者を基準に考えることになる。例えば、主に走行中の車の中にいる人を対象とした看板等の場合、表示価格が税込価格でないことは、走行中の車から明瞭に認識できるような表示であることが必要であり、歩行者が明瞭に認識できるだけでは足りない。 2 誤認防止措置の具体例(*2) (*2) 「総額表示義務の特例措置に関する事例集(税抜価格のみを表示する場合などの具体的事例)」国税局課税部 消費税室 (1) 税抜価格のみを表示する場合 ア 個々の値札等で税抜価格であることを明示する場合 イ 店内の掲示等により一括して税抜価格であることを明示する場合 ウ 店内の一部の商品等について税抜価格のみの表示を行う場合 店内の一部の商品等については消費税率8%による税込価格を表示し、一部の商品等について税抜価格のみの表示を行う場合には、 エ チラシ等に掲載している商品について、一括して税抜価格であることを明示する場合 (2) 設例の場合 設例の場合のように、8%消費税率の導入に伴い、一部の商品については、税抜価格による値札への貼り替えが完了したが、売れ残っている商品等について値札等の貼り替えが行われておらず、旧税率5%による税込価格の表示が残っている場合が考えられる。 この場合に誤認防止措置がとられていると認められるためには、 (了)
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常識としてのビジネス法律 【第13回】「各種代金の請求・取立てに関する法律実務(その1)」
常識としてのビジネス法律 【第13回】 「各種代金の請求・取立てに関する法律実務(その1)」 弁護士 矢野 千秋 1 代金はいつどのように請求するか 債権の請求をする際には、まず請求する債権が確実に存在することを証明できる資料を揃えておく。次いで継続取引なら過去にさかのぼって個別取引の一覧表を作成しておく。これらは債務者の信用に問題が生じた緊急時に限らず、通常取引時においても継続して整理しておくべきである。 請求は原則として、請求書を交付して行う。請求書を交付する目的は、後日の証拠とするためである(時効中断、遅延損害金の発生、契約解除等)。請求により、期限の定めのない債務は請求時点から期限が到来し(民法412条2項)、債権の消滅時効が中断し(ただし、裁判外の請求の場合は、6ヶ月内に裁判上の請求をしないと、中断しなかったことになる。筆者の勝手な造語であるが、「仮中断」と呼ぶ)、支払期限に支払いがなければ遅延損害金が発生する。利率の約定があればそれに従い、なければ商事法定利率6%である(民事は5%であるが、会社の取引であれば商事になる)。 請求書の作成については担当者を複数にするのが望ましく、一定期間の売上が簡単確実に抽出できるようにし、番号は一連のものにし、値引き・返品の有無の確認及び請求内容の単価表等との照合は確実に行い、請求書自体の発行時期について基準を設けておくべきである。 誤った請求書を発行すれば、通常取引時でも会社の信用に関わるし、緊急時であれば相手方の苦し紛れの言い訳に利用されることもあるからである。 2 請求書、催告書、督促状の書き方 以前にも述べたが、要は、誰が(WHO)、誰に対して(WHOM)、いつ(WHEN)、「どのような内容」を「いつまでに」(合わせてWHAT)請求、催告、督促するのかを明確にする。「いつまでに」は期限であり、内容(WHAT)の一部であるが、請求においては期限が重要なので抜書きした。 内容を具体的に言うと、請求日、請求金額及びその特定、支払条件(支払日、決済条件等)の明示、振込銀行口座等となる。 請求書が相手に届いた段階で債権の消滅時効は中断し(仮中断である)、履行期限を定めて請求した場合は、その履行日の翌日から遅延損害金が発生する。したがって、重要な請求、すなわち後日の紛争の恐れがあるものは、配達証明付内容証明郵便によるべきである。 また、請求書のうちでも、催告書や督促状は、相手が支払期日に支払わないために通常発信されるものなので、契約解除の前提ともなり、後日の紛争の恐れ大であるので、必ず配達証明付内容証明郵便によるべきである。 3 相手から支払いの延期を求められたら 回収を考えるに当たっては、常に回収の現実化と確実化(回収手段はこのどちらかに分類される)の2面から対策を講ずるべきである。 「現実化」とは現時点での回収であり、「確実化」とは将来をにらんでの回収のことである。そして、支払いの延期の要請(後記の危険な兆候の発生も潜在的な支払延期の要請である)があったときが現実化及び確実化の最大のチャンスである。相手方も支払延期を求めている以上、応ぜざるを得ない可能性が高いからである。 万一、請求している債権が文書化されていない場合には、少なくともこの時点で債務確認書や契約書などの文書化をする(証明力の強い書証にする)。 また、この時点で通常取引時から緊急時に局面が変わり、現実化及び確実化のできる限度も、やらねばならぬ限度も跳ね上がることになる。 さて、企業間は継続的な取引が行われている場合が多く、その場合にまず問題となるのは、「出荷停止」か「出荷継続」かである(御社の回収の問題であるから、御社が物品やサービス等を提供している側だからである)。 出荷停止するか否かを判断する前提は、相手方の信用調査の結果である(後述、「5 危険な兆候」も参照)。 出荷を継続する場合は(要請1回目の「待ってくれ」ならこちらの可能性が高い)、文書化をしていなかったのであれば文書化(確実化)、与信の枠を狭めるか(確実化)、現金決済(現実化)にすると同時に、出荷継続の見返りとして、また単発的取引の場合は支払延期の見返りとして、できるだけそれまでの売掛金を回収し(現実化)、残債に人的物的担保を付けさせるか(確実化)、手形化し(確実化)、できれば執行認諾文言付の公正証書にしておく(確実化)。(この3つの「確実化」を筆者は「回収三種の神器」と呼んでいる。もちろん強力な武器だからである。) 「再興の余地なし」との判断に至れば(要請2回目の「待ってくれ」になれば通常こちら)、継続的供給契約などであれば内容証明郵便で解除(前提として、継続的供給契約中に相手方信用悪化の場合の即時解除条項を規定しておくこと)して出荷停止をし、商品引上等の回収手段(主として現実化)に進む。 各現実化・確実化の手段に関しては後述する。 4 依頼されたのが手形ジャンプであったとき 「手形ジャンプ」とは、振出人が手形所持人に依頼して手形金の支払いを猶予してもらうことである。 手形ジャンプには、満期を延期した新手形をもらう方法と、手形上の満期を変更する方法とがある。しかし、手形上の満期変更は手形券面上からジャンプの事実が分かってしまって好ましくないので、あまり使われない。新手形と差し換える場合が多い。 満期を延期した新手形を交付させる場合には、旧手形を返してよい場合と、新旧両手形とも保持せねばならない場合とがあるが、旧手形に裏書や保証がある場合は旧手形を返してはならない。通常、旧手形上の裏書人や保証人は新手形には再度の裏書や保証をしてくれないことが多く、返してしまうと担保責任や保証責任の追及ができなくなってしまうからである。 新手形に再度の裏書や保証をしてくれない理由は、裏書人や保証人が再度の裏書や保証をすると、新旧両手形により二重に担保責任や保証責任を負担するリスクを負うことになるからである。 新手形に再度の裏書や保証をしてくれた場合にも、返却する旧手形のコピーを取っておく。 まず振出人の信用調査をし、ジャンプに応ずるか否かを決定する(後述「5 危険な兆候」も参照)。応じない時は直ちに取立てにまわし、回収対策(現実化)を立てる。 応ずる時は、一部でも支払ってもらい(現実化)、加えてなんらかの人的(手形表面に名前を書くだけで足りる略式保証が簡便)物的担保を取り(確実化)、できれば不渡りに備えて執行認諾文言付公正証書(確実化)にする。 なお、新手形の金額は、旧手形の金額に遅延利息を付したものとなる。 いずれにせよ、ジャンプ依頼は資金繰りが付かないことを意味するから要注意である。 そして旧手形上に裏書がある場合は、依頼返却の手続きを取る。 5 危険な兆候 新規取引に当たって、また取引継続中も相手の信用調査を十分に行う。すなわち、登記簿謄本を提出させ、実地調査、銀行などの取引先や近隣での聞き込み調査、会社四季報や調査会社による調査などを行う。 なかでもベストな調査マンは、自社の営業担当者である。この者が、最も相手方に近い位置で継続的に相手方と接しており、種々の重要な情報や兆候を最も収集しやすい立場にあるからである。 したがって、営業担当者が、常日頃から取引先の状況には注意をしておくことが必要である。 その兆候としては、前述した支払延期依頼、ジャンプ依頼があるが、それ以外にも以下のような兆候に注意する。 などがある。 取引先が倒産してからでは、回収は極めて困難となる。このため、できれば事前にこれらの兆候を察知し、噂の真偽を確かめて、早期に万全の手段を講じることが望ましい。 6 出荷停止と商品引上げ(現実化)の判断 出荷停止をするか否かの判断は、前述したとおりであるが、最も手っ取り早い現実化であるところの「納入商品の引上げ」を強行できるだろうか。 自社商品も納品後は通常相手方の所有物となり、商品引上げには自力救済に伴う危険、すなわち刑事民事の責任発生の可能性があるので、慎重適切な方法で行う。 刑事責任としては勝手に商品を引き上げれば窃盗罪であろうし、民事責任としても相手方の所有物は相手方の債権者全員の平等の引当であるから、それを抜け駆け的に引き上げれば「詐害行為」になり、後日取り消される危険性がある。 以下、自社商品の場合と他社商品の場合に分けて検討する。 (1) 自社商品の引上げ 自社商品引上げの場合は、売買契約解除(返品処理)を承諾した旨の書面を作成して持参し、相手方から署名又は捺印を取り、直ちに商品を引き上げる。代表者の署名がベストであるが、取れなければ営業責任者でもよい。 こうした場合、署名かつ捺印という署名方法も有力である。相手方の特徴的な痕跡を二重に取ることにより、印鑑を無断で悪用されたとか、無理やり署名させられた等の相手方の後日の苦し紛れの言い訳を封殺するためである。 相手方の同意を取ったわけであるから、これで刑事責任は回避できる。そして民事責任も、自社の納入商品の場合は動産売買の先取特権(担保権)が法定されており、法によって自社商品からの優先弁済が認められているので自社商品引き上げは「詐害行為」に当たらないからである。 (2) 他社商品の引上げ 法形式的には、代物弁済契約による(他社商品を金銭の代わりの弁済目的物とする。代物弁済契約書による)か、他社商品を購入した形を取り、その売買代金債務とそれまで請求していた売掛金債権を相殺する(売買契約書及び相殺契約書による)ことになる。 なるほどこれで刑事責任は回避できるが、詐害行為には当たることになり、民事責任は避けられない。一般的には、詐害行為に当たる他社商品の引上げは勧められない。 ただし、倒産した場合などは、どの商品が自社商品か他社商品かが判然としない場合がある。このような場合は見切りで商品一切を引き上げてしまうことも考慮すべきである。この場合も前述した書面を取っておくことは勿論のことである。債務の返済まで他社商品を預かるという形式も可能である。 7 売掛金の手形化(確実化) 前述したとおり、支払猶予の申入れ等があれば、売掛金を約束手形化する。 手形用紙がなければ先日付小切手を取ることも検討する。 手形、小切手は6ヶ月以内に二度不渡りを出すと銀行取引停止処分、すなわち企業の死刑判決であるから、相手方は何をおいても支払いに努めることになり、極めて回収力が強い(会社の命を出すか金を出すか。金があるなら金を出すだろう。前述した三種の神器のひとつである理由である)。 また、迅速な手形訴訟制度を利用することも可能であるからである。 8 個人保証を取る(確実化) 社長等の会社以外の第三者から個人保証を取る。人的担保である。 有限会社及び株式会社は有限責任制であり、原則として会社財産のみが会社債権者の引当になっている。したがって、個人保証を取らねば会社の役員等の個人責任は問えないからである。 例外的に法人格否認の法理や取締役の対第三者責任の規定により会社以外の個人責任を追及できる場合もあるが、要件立証が難しく、責任追及の可能性は低い。 ただ後述するごとく、個人保証は個人の資力次第であり、かつ個人の資力は外部からは見えにくい難点を持つ。物的担保の方が強力である(人的担保物的担保については後述)。 9 公正証書の利用法(確実化) (1) 公正証書の効力 適法かつ有効な内容で、無能力による取消しのおそれのない契約であれば、いかなる内容の契約でも公正証書にすることは可能であるが、その内容を公正証書にするだけの実益がなければ意味がない。 そこで以下では、公正証書の効力を述べる。 ① 債務名義としての効力 債務名義とは強制執行によって実現される請求権が存在するとの公文書のことである。最も重要な効力であり、裁判所の判決なしに強制執行ができる。 一定の金額の支払い又は他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とするものに限る。 債務不履行の場合直ちに強制執行に服する旨の記載、執行認諾文言が必須である。 ② 証書の信用力を高める効力 作成手続の厳格性の故に、証書としての信用力が高く、後日紛争が生じても十分な証拠力を有する。 ③ 第三者に対する効力 公正証書には確定日付の効力(裁判になってもこの日付は争いえない)が認められているので、外観からは明確でなく、第三者から疑いを受けやすい法律行為の存在を明らかにするために公正証書が利用される。 (2) 公正証書の作成手続 公正証書を作成するには、公証役場(どこの公証役場でもよい)へ当事者が出頭する必要がある(代理人に依頼することも可能)。 本人が出向く場合は本人の印鑑証明書(発行後6ヶ月以内のもの)、代理人に依頼する場合は、本人の委任状、印鑑証明書と、代理人の印鑑と印鑑証明書が必要である。本人が法人の場合は、法人の代表者の資格証明書(商業登記簿謄本など)と代表社印が必要である。 前もって公証役場と連絡を取り、雛型などを入手して文書にしておき、公証人とアポイントを取って約束の日時に出頭すればよい。費用、印紙代なども聞いて用意していく。 公証役場では原本を保管し、正本を交付してくれる。送達申請も合わせてしておく(後日債務者が夜逃げしたりして送達不能になることがある)。 (了)
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《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(平成25年10月~12月)」~注目事例の紹介~
《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(平成25年10月~12月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、6月24日、「平成25年10月から12月分までの裁決事例の追加等」を公表した。 今回追加されたのは表のとおり、全16件の裁決であり、国税不服審判所によって課税処分等が全部又は一部取消された事例が9件、すべて棄却された事例は7件と、これまでの公表裁決に比べ、棄却の割合が高まった印象がある。 税法・税目として所得税法関係が4件、国税通則法、法人税、相続税が各3件、消費税法関係が1件、国税徴収法2件となっている。 【公表裁決事例(平成25年10月~12月)の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された16件の裁決事例のうち、注目される事例をいくつか紹介したい。 1 信義則の原則と所得税の還付後における更正処分・・・① (1) 事例の概要 請求人は、平成23年度において2箇所から給与所得を有していたが、勤務先に提出した扶養控除等申告書に16歳未満の親族2名を記載しており、給与支払者は、それに気づかないまま、源泉徴収税額を算出していた。 請求人は、平成23年分の所得税の確定申告書を、平成24年1月23日に原処分庁に提出した。原処分庁は、確定申告に基づき、還付金を請求人名義の銀行預金口座へ振り込む手続を行い、平成24年2月3日、請求人に対して、本件還付金に係る国税還付金振込通知書を送付し、本件還付金は同月6日に本件口座へ入金された。 その後、原処分庁は、これに対し、平成24年10月30日付で、給与所得の一部が申告漏れであること及び扶養控除の適用に誤りがあるとして、更正処分をした。 (2) 争点となった信義則違反 ① 争点 本事例の争点は、原処分庁が、所得税を一旦還付した後に、本件更正処分をしたことが信義誠実の原則(以下「信義則」という)に反し違法であるか否か、である。 ② 信義則違反 信義則違反について、審判所は、 としたうえで、次の5つの点を考慮すべきであるとした。 (3) 審判所の判断 審判所は、 ことから、本件確定申告書の作成について税務官庁が請求人に対して信頼の対象となる公的見解を表示したとは認められないとして、信義則違反が問える状況にはないと判断し、棄却する判断を示した。 また、請求人による、 という主張に対しては、 として、その主張を退けている(下線は筆者による)。 2 帳簿書類の不提示と青色申告の承認取消し・・・⑥ (1) 事例の概要 本事例は、税務調査にあたって、帳簿書類を提示できなかった請求人が、その後、帳簿書類に代わる書類の提示を申し出るが、調査担当職員はこれを受領せず、所得税の青色申告の承認取消し処分を行うとともに、消費税等については、仕入税額控除の適用を認めない決定処分を行ったものである。 (2) 審判所の判断 審判所は、以下の理由から、青色申告の承認取消しは違法であり、取消しを免れないと判断し、これに伴い、理由を附記することなく行った所得税の更正処分並びにこれに付随してなされた過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分は、違法なものとして、その全部が取り消されるべきであると判断した。 また、消費税についても、審判所は、以下のとおり判示して、本件先行各課税期間の消費税等の各更正処分のうち、課税仕入れに係る消費税額の控除を否認した部分については、そのすべてを取り消すべきであると判断した。 3 団地の管理組合による共有部分の賃貸料収入・・・⑧ (1) 事例の概要 本事例は、団地共用部分である塔屋の一部を携帯電話の無線基地局設置のために賃貸して得た収入について、原処分庁が、当該団地の管理組合である審査請求人は法人税法第2条第8号に規定する人格のない社団等に該当し、当該収入は請求人の収益事業による収入であるとして、法人税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をしたことに対し、請求人が、当該収入は団地建物の各区分所有者の不動産収入であって請求人の収入でないなどとして、その全部の取消しを求めた審判である。 (2) 争点と審判所の判断 ① 争点 争点は、次の3つであった。 請求人は、人格のない社団等に該当するか否か 団地共用部分の賃貸収入は、請求人(管理組合)と団地建物の各区分所有者のいずれに帰属するか 団地共用部分の賃貸は、収益事業(不動産貸付業)に該当するか否か ② 審判所の判断 審判所は、最初の争点について、「代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定していることが認められる」ことから、請求人は、私法上の法人格のない社団としての要件を充足した団体であるとして、人格のない社団等に該当すると判断した。 この判断を前提に、賃貸収入の帰属については、「請求人は人格なき社団であるから、法人税法上、その構成員から独立した収益の帰属主体として扱い得ることとなる」とし、共有部分を管理する請求人が、定期総会の決議に基づき、請求人を当事者として本件各賃貸借契約を締結し、本件賃貸収入を収受しているのであるから、本件賃貸収入は一旦人格なき社団である請求人に帰属して請求人の財産を構成して、その段階で、法人税の納税主体である請求人の収益として、法人税の課税対象となり得るのであると判断した。 なお、請求人は、本件団地建物所有者の代理人として賃貸借契約を締結したのであり、代理人たる請求人が行った行為の効果は、直接、本人である本件団地建物所有者に帰属する旨、また、本件賃貸収入に係る金員は、請求人の資産・資金でなく、本件団地建物所有者各人に帰属するものである旨主張したが、いずれも、審判所により、退けられている。 以上のことから、審判所は、 のであり、請求人の行った共用部分の賃貸は、 から、不動産貸付業に該当すると判断して、原処分庁の各賦課決定処分は、いずれも適法であると結論づけた(下線は筆者による)。 (了)
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お申込み期限せまる! 7/12(土)開催:笹岡宏保氏セミナー【改正で大幅に見直された『小規模宅地等の課税特例』を検証する!!】
株式会社プロフェッションネットワーク主催の笹岡宏保氏セミナー「改正で大幅に見直された『小規模宅地等の課税特例』を検証する!!」の開催が、7月12日(土)とせまってまいりました。 お申込締切りは7月11日(金)17:00まで(銀行振込をご利用の場合、7月10日(木)までにお手続きください)。※お申込みは終了しました。 今回は、皆様からご要望の多かった「小規模宅地等の課税特例」をテーマに、課税特例の基本的な内容を確認するとともに、税法改正項目の確認とその実務的な影響、そして誤りやすい事例の検証まで、実務に必要なこの規定に関する知識を包括的に網羅、確認します。
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Profession Journal No.76が公開されました!~今週のお薦め記事~
2014年7月3日(木)AM10:30、Profession Journal No.76 が公開されました。 Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開してまいります。
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monthly TAX views -No.18-「軽減税率・インボイス導入と共に必要となる『マージン課税』」
monthly TAX views -No.18- 「軽減税率・インボイス導入と共に必要となる『マージン課税』」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 1 軽減税率8案と共に公表された一枚紙「マージン課税制度について」 6月の与党税制協議会で、軽減税率の適用範囲と減収額に関する「8つのケース」が公表された。あわせて、区分経理のための記載、つまりインボイスについても「4案」が公表された。 今後年末に向けて、軽減税率導入の是非、範囲、時期、代替財源、インボイスの具体案などが議論され、何らかの決定がなされる。 今回で取り上げるのは、これらの案に加えて公表された、「マージン課税制度について」と題する一枚紙(以下、「一枚紙」)の話である。 2 欧州諸国で導入されているマージン課税 マージン課税制度というのは、わが国では聞きなれない制度だが、VATの導入されている欧州諸国では、アンティーク業界や中古自動車業界などに広く導入されている制度である。 今回、軽減税率の導入が決まれば、インボイスの導入が不可欠になるが、その際には、消費者や免税事業者からの仕入についてはインボイスが発行できないため、中古自動車業界や美術賞、古本屋などは、仕入税額控除ができなくなる。 そうなると、課税事業者である「中古品等」の販売事業者は、仕入税額控除ができなかった部分について、二重課税(タックスオンタックス)が生じることになる。 そこで、そのような事態が生じないように、中古品等の販売については、その実現したマージン、つまり「売上価格」から「仕入価格」を差し引いた課税事業者の利益そのものを課税対象とする特別の課税方式を設けて、二重課税を排除する仕組みが必要となる。 わが国でも、インボイス制度が導入される場合には、この方式(マージン課税)を導入せざるを得なくなるのである。 「一枚紙」には、マージン課税の対象として、 の4つを挙げている。 マージン課税の適用を受けるためには、原則として、古物等を一品管理し、仕入先や仕入価格などの仕入に係る情報だけではなく、売上先、販売価格などの売上に係る情報も明らかにする必要がある。 2 英国における実例 この制度を導入している英国の実例を見てみよう。 EU各国は、EU6次指令を修正した「中古品等に適用される特例に関する修正指令」(1994年5月採用)に基づいてこの制度を導入しているのだが、英国では、おおむね以下のような制度を導入している。 仕入については、相手方の住所・氏名、仕入の年月日、支払額(税込)、取得インボイス番号、売上については、譲渡の相手方の氏名・名称・住所、譲渡の年月日、対価の額(税込)、売上インボイス番号、マージン価格(売上価格-仕入価格)などの記載の義務付けである。 さらに、マージン課税されたものとそうでないものとを区分するための管理番号も必要とされている。 「一枚紙」には、次のような記載がある。 二重課税を排除するためには、マージン課税制度の導入は不可欠である。 同時に、そのような特例措置を適正に運営していくための新たな手続きを検討していく必要がある。 【参考】 与党税制協議会「消費税の軽減税率に関する検討について」p7より (了)
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《編集部レポート》 税賠保険に「事前税務相談業務担保特約」が登場
《編集部レポート》 税賠保険に「事前税務相談業務担保特約」が登場 Profession Journal 編集部 税理士業務にはリスクが付きまとうが、税理士の税務判断ミスにより顧問先に損失を生じさせた場合の賠償を考えると、やはり加入しておきたいのが税理士職業賠償責任保険(いわゆる「税賠保険」)だ。 この税賠保険に新たなラインナップ「事前税務相談業務担保特約」(事前相談特約)が加わった。商品の詳細を確認して、業務のリスクに合致する場合は加入を検討されたい。 〇「事前税務相談業務担保特約」とは? 新たな商品である「事前税務相談業務担保特約」の大きな特徴は、事前相談特約は、いまだ発生していない事実に対する“事前”の税務に関する相談を扱う点だ。これまで販売されてきた主契約である税賠保険が申告など既に発生している事実に対する“事後”の税務に関する相談を扱うのとは一線を画すものとなっている。 例えば、 などのケースが該当する。 これまでは上記のような事前相談に応じた際の税務判断ミスについては、税賠保険に加入していたとしても保険の対象とはならず免責となっていた。 だが、最近の税務では、従来の税賠保険がカバーする課税事実が生じた後の対応というよりは、事前の計画段階から想定される課税関係をめぐって税務判断を迫られることが増加しており、そうしたニーズに対応するものが事前相談特約というわけだ。 〇「事前の税務相談」のみが対象となる点に注意 この特約で注意したいのは、対象となる業務が「事前の税務相談業務」に限られる点だ。例えば経営アドバイスなどの経営コンサルを行った場合など、税務の要素が欠落している業務はカバーされない。 また、あらかじめ行われる事前の税務相談であったとしても、税務以外の要素が混在し、また顧問先による意思決定責任などの要素が加わった場合には、税理士の負う責任が100%であるとは認められず、顧問先にも一定の責任が生じる「相殺過失」が多くの事例でみられることとなろう。 免責となる範囲には「将来の予測の過誤に起因する賠償責任」も設けられており、顧問先からの相談時より先の「将来予測」を見誤ったことに起因するものが含まれる。 例えば、相続対策として相続時精算課税制度を選択したものの、その贈与財産の価値が将来的に増加すると想定したにもかかわらず下落してしまい当初の税メリットを受けられない場合や、法人の顧客の翌期の業績が好調と想定されたため、税額控除を狙って機械等を取得したものの、実際には業績が悪化したため、その投資自体が効果を生じさせなかった場合などだ。 そして、本保険契約は「特約」とされていることからもわかるように、特約だけでは加入することはできず、あくまでも主契約である税賠保険に付随する商品であることは確認しておきたい。 本特約商品はすでに販売が開始されており、対象保険期間は7月1日からのスタートとなっている。 (了)
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生産性向上設備投資促進税制の実務 【第5回】「事前確認書(手続実施結果報告書)〔記載例〕」
生産性向上設備投資促進税制の実務 【第5回】 「事前確認書(手続実施結果報告書)〔記載例〕」 税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 小幡 修大 前々回と前回は、生産性向上設備投資促進税制(措法42の12の5)のうち設備ユーザーが作成する「産業競争力強化法の生産性向上設備等のうち生産ラインやオペレーションの改善に資する設備投資計画の確認申請書」及び「別紙根拠資料」の具体的な記載内容等を紹介した。 「生産ラインやオペレーションの改善に資する設備の要件確認スキーム」においては、公認会計士や税理士が対象設備を確認し、投資利益率要件を満たしていることを確認することが要件となっている。 今回は公認会計士や税理士が記載する「事前確認書(手続実施結果報告書)」の記載例を紹介する。 なお、記載内容の前提となる設備投資の内容については、前々回紹介した確認申請書に基づいているため、そちらをご覧いただきたい。 《記載例》 「(様式2) 事前確認書(手続実施結果報告書)」 ※赤字部分にマウスを移動すると【コメント】が表示されます。 ※【コメント】がうまく表示されない場合は、こちらからPDF版をご覧ください。 (様式2) 平成26年7月31日 株式会社**** 私は、株式会社****(以下「会社」という。)からの依頼に基づき、会社の作成した平成26年度の産業競争力強化法の生産性向上設備等のうち生産ラインやオペレーションの改善に資する設備投資計画の確認申請書(以下「申請書」という。)及びこれに添付された「基準への適合状況」(以下「基準への適合状況」という。)について、以下の手続を実施した。なお、当該手続は、会社が産業競争力強化法の生産性向上設備等のうち生産ラインやオペレーションの改善に資する設備投資計画の確認申請を行うために作成した「申請書」及び「基準への適合状況」に記載された記載内容を対象として確認することを目的とするものである。 手続の目的 私は、「申請書」及び「基準への適合状況」に関して、本報告書の利用者が手続実施結果を以下の目的で利用することを想定し、「実施した手続」に記載された手続を実施した。 (1) 「申請書」に記載された設備投資の内容(「申請書」5で記載する事項)が、必要十分な設備として、当該設備の導入の目的(「申請書」2で記載する事項)及び事業者の事業の改善に資することの説明(「申請書」4で記載する事項)に照らして整合しているかどうかについて確かめること。 さらに、事業者の事業の改善に資することの説明(「申請書」4で記載する事項)が「基準への適合状況」に記載された「本件設備投資による効果」に照らして整合しているかどうかについて確かめること。 また、「申請書」の「設備投資の内容」に記載された内容(「申請書」5で記載する内容)が、会社において承認された設備投資計画及び見積書等の根拠資料に照らして整合しているかどうかについて確認すること。 (2) 「申請書」の「設備投資の内容」に記載された金額(「申請書」5で記載する金額)が、「基準への適合状況」に記載された設備投資額と整合しているかどうかについて確かめること。 また、「基準への適合状況」に記載された投資利益率並びに簡易CF(営業利益+減価償却費)の各年度及び3年平均の金額が、売上高、売上原価、販管費及び減価償却費の各年度の金額を用いて算定されているかどうかについて確かめること。 さらに、「基準への適合状況」において記載された「本件設備投資による効果」の金額が当該数値の算出根拠資料に照らして整合しているかどうかについて確認すること。 (「申請書」-申請要件及び基礎となる設備投資計画関連) 1. 「申請書」に記載された設備投資の内容(「申請書」5で記載する事項)が、「申請書」2及び4に記載したとおり、産業競争力強化法第2条第13項に規定する「商品の生産若しくは販売又は役務の提供の用に供する施設、設備、機器、装置又はプログラム(情報処理の促進に関する法律(昭和45年法律第90号)第2条第2項に規定するプログラムをいう。)であって、事業の生産性の向上に特に資する」ものとして必要十分な設備であるかどうかについて、会社のに質問した。 2. 「申請書」に記載された設備投資の内容(「申請書」5で記載する事項)のうち、「金額」について「数量」に「単価」を乗じて計算調べを行った。さらに、「金額」の合計について計算調べを行った。 3. 「申請書」に記載された設備投資の内容(「申請書」5で記載する事項)のうち、「設備の名称」「型番」「数量」「単価」「金額」について、会社から「申請書」に添付提出するものとして提示された設備投資計画(以下「設備投資計画」という。)の記載内容と合致するかどうかについて確かめた。さらに、「設備投資計画」に会社の代表者又はそれに代わる者の押印があるかどうかについて確かめた。 4. 「申請書」に記載された設備投資の内容(「申請書」5で記載する事項)のうち、設備別の「金額」について、当該設備に関連するため、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示された見積書を集計して突合し、両者が合致するかどうかについて確かめた。 (「基準への適合状況」-「申請書」及び根拠資料関連) 5. 「申請書」の「設備投資の内容」に記載された金額(「申請書」5で記載する金額)が、「基準への適合状況」に記載された設備投資額と合致しているかどうかについて確認した。 また、「基準への適合状況」に記載された投資利益率並びに簡易CFの各年度及び3年平均の金額について、売上高、売上原価、販管費及び減価償却費の各年度の金額を用いて計算調べを行った。 6. 「基準への適合状況」に記載された「本件設備投資による効果」のうち、各年度のスクラップ加工処理数量について、当該数値の算出根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして提示を受けた「生産計画総括表」の増加数量と合致しているかどうかについて確認した。 7. 「生産計画総括表」においては、見積スクラップ加工処理能力は、既存設備の過去2年間の生産記録を根拠に新規設備の加工処理能力の増加を見込み、増加数量を算定していると会社から説明を受けた。 これを前提として、以下の手続を実施した。 (1) 「生産計画総括表」の記載事項のうち、各年度の生産実績について、当該数値の根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示を受けた「原価計算資料」を根拠として算出した生産量と合致しているかどうかについて確認した。 (2) 「生産計画総括表」の記載事項のうち、新規設備の予想スクラップ加工処理量について、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示を受けた「新規設備生産増加量算定資料」と合致しているかどうかについて確認した。また当該資料の生産増加見込量が、新規設備のメーカーが見込む処理量の範囲内であることを確認した。 8. 「基準への適合状況」に記載された「本件設備投資による効果」のうち、各年度の売上高の増加金額について、当該数値の算出根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして提示を受けた「売上増加見込額算定表」の売上高増加金額と合致しているかどうかについて確認した。 9. 「売上増加見込額算定表」においては、「生産計画総括表」の見積スクラップ加工処理量を前提に、平成26年3月期の販売実績及び鉄スクラップ相場(新断)の推移を根拠に売上高増加を算定していると会社から説明を受けた。 これを前提として、以下の手続を実施した。 (1) 「売上増加見込額算定表」の記載事項のうち、各年度の販売数量について、当該数値の根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示を受けた「平成26年3月期販売実績表」を根拠として計算した販売数量であることを確認した。 (2) 「売上増加見込額算定表」の記載事項のうち、各年度の1トン当たりの鉄スクラップ価額について、当該数値の根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示を受けた「鉄スクラップ相場推移表(新断)」を確認した。 (3) 「売上増加見込額算定表」の記載事項のうち、各年度の売上高について、当該数値の根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示を受けた「適正単価算定表」を確認した。 10. 「基準への適合状況」に記載された「本件設備投資による効果」のうち、各年度の売上原価金額について、当該数値の算出根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして提示を受けた「売上原価減少見込額算定表」の売上原価金額と合致しているかどうか確認した。 11. 「売上原価減少見込額算定表」においては、「生産計画総括表」に記載された見積スクラップ加工処理量を前提に、新規車両について見積もった予想ガソリン消費量と、「申請書」に記載された既存車両の過去2年間の運搬記録から当該運搬量に相当するものとして算定されるガソリン消費量を比較して、「ガソリン消費増加見込量」を算定し、これに最近の請求記録から把握した「ガソリン単価金額」を乗じて、各年度のガソリン代を算定していると会社から説明を受けた。 これを前提として、以下の手続を実施した。 (1) 「売上原価減少見込額算定表」の「ガソリン消費見込量」に「ガソリン単価金額」を乗じて、各年度のガソリン代の計算調べを行った。 (2) 「売上原価減少見込額算定表」の記載事項のうち、新規設備の予想ガソリン消費量について、当該数値の算出根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示を受けた「ガソリン削減量算定資料」と合致しているかどうかについて確認した。 (3) 「売上原価減少見込額算定表」の記載事項のうち、「ガソリン代」について、当該数値の算出根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示を受けた「平成26年3月度のガソリン代請求書の単位当りガソリン代」の請求記録と合致しているかどうかについて確認した。 12. 「基準への適合状況」に記載された「本件設備投資による効果」のうち、各年度のその他製造原価の増加金額について、当該数値の算出根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして提示を受けた「その他製造原価算定表」の増加金額と合致しているかどうかについて確認した。 13. 「その他製造原価算定表」においては、「生産計画総括表」に記載された新規設備について見積もったスクラップ加工処理量を前提に、新規設備について見積もった予想その他製造原価発生額と、「申請書」に記載された既存設備の過去2年間の生産記録から当該生産量に相当するものとして算定されるその他製造原価発生額を比較して、各年度のその他製造原価の増加金額を算定していると会社から説明を受けた。 これを前提として、以下の手続を実施した。 (1) 「その他製造原価算定表」の記載事項のうち、各年度のその他製造原価増加金額について、新規設備のその他製造原価発生額と既存設備について算定したその他製造原価発生額を比較して計算調べを行った。 (2) 「その他製造原価算定表」の記載事項のうち、新規設備のその他製造原価発生額について、当該数値の算出根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示を受けた「新規設備に係るその他製造原価算定資料」と合致しているかどうかについて確認した。 (3) 「その他製造原価算定表」の記載事項のうち、既存設備について算定したその他製造原価発生額について、当該数値の算出根拠資料であり、「申請書」に添付提出するものとして会社から提示を受けた「製造原価報告書」と合致しているかどうかについて確認した。 手続の実施結果 (「申請書」-申請要件及び基礎となる設備投資計画関連) 1. 上記の手続1.について、会社の代表取締役 ****氏から、「申請書」の対象とする設備が、「申請書」2及び4に記載したとおり、産業競争力強化法第2条第13項に規定する「商品の生産若しくは販売又は役務の提供の用に供する施設、設備、機器、装置又はプログラム(情報処理の促進に関する法律(昭和45年法律第90号)第2条第2項に規定するプログラムをいう。)であって、事業の生産性の向上に特に資する」ものであり、必要な十分な設備である旨の回答を得た。 2. 上記の手続2.について、計算調べを行った結果、計算結果は「申請書」に記載された設備投資の内容の「金額」及び「金額」の合計と合致した。 3. 上記の手続3.について、「申請書」と「設備投資計画」を突合した結果、「設備の名称」「型番」「数量」「単価」「金額」の記載内容は合致した。 また、提示された「設備投資計画」に代表取締役****氏の押印が記載されていた。 4. 上記の手続4.について、会社から提示された見積書を集計して「申請書」と突合した結果、設備別の金額は合致した。 (「基準への適合状況」-「申請書」及び根拠資料関連) 5. 上記の手続5.について、「設備投資の内容」と「基準への適合状況」を突合した結果、「設備投資の内容」に記載された金額は「基準への適合状況」に記載された設備投資額と合致した。また、「基準への適合状況」に記載された投資利益率並びに簡易CFの各年度及び3年平均の金額は、売上高、売上原価、販管費及び減価償却費の各年度の金額を用いた計算結果と合致した。 6. 上記の手続6.について、「基準への適合状況」と「生産計画総括表」を突合した結果、各年度のスクラップ加工処理量額は合致した。 7. 上記の手続7.(1)について、「生産計画総括表」に記載された各年度の生産実績は「原価計算資料」を根拠として計算した生産量と合致した。 上記の手続7.(2)について、「生産計画総括表」と「新規設備生産増加量算定資料」を突合した結果、新規設備の生産増加見込量は合致した。 8. 上記の手続8.について、「基準への適合状況」と「売上増加見込額算定表」を突合した結果、各年度の売上高増加金額は合致した。 9. 上記の手続9.(1)について、「売上増加見込額算定表」と「平成26年3月期販売実績表」を根拠として計算した数量を突合した結果、販売数量は合致した。 上記の手続9.(2)(3)について、「売上増加見込額算定表」と「適正単価算定表」を突合した結果、各年度の適正販売単価は合致した。 10. 上記の手続10.について、「基準への適合状況」と「売上原価減少見込額算定表」を突合した結果、各年度の売上原価金額は合致した。 11. 上記の手続11.(1)について、計算調べ及び合計調べを行った結果、計算結果は「売上原価減少見込額算定表」に記載された各年度のガソリン代削減金額と合致した。 上記の手続11.(2)について、「売上原価減少見込額算定表」と「ガソリン削減量算定資料」を突合した結果、新規車両のガソリン代発生額は合致した。 上記の手続11.(3)について、「売上原価減少見込額算定表」と「平成26年3月のガソリン代請求書の単位当たりガソリン代」の請求記録を突合した結果、「単位当たりガソリン代」は合致した。 12. 上記の手続12.について、「基準への適合状況」と「その他製造原価算定表」を突合した結果、各年度の売上原価増加金額は合致した。 13. 上記の手続13.(1)について、計算調べ及び合計調べを行った結果、計算結果は「その他製造原価算定表」に記載された各年度のその他製造原価増加金額と合致した。 上記の手続13.(2)について、「その他製造原価算定表」と「新規設備に係るその他製造原価算定資料」を突合した結果、新規設備におけるその他製造原価増加金額は合致した。 上記の手続13.(3)について、「その他製造原価算定表」と「製造原価報告書」を突合した結果、既存設備について算定したその他製造原価発生額は合致した。 上記の手続は、会社が行う産業競争力強化法の生産性向上設備等のうち生産ラインやオペレーションの改善に資する設備投資計画の確認申請に関連して実施したものであり、全体としての「申請書」又は「基準への適合状況」の各記載事項に対する監査意見又はレビューの結論の報告を目的とした一般に公正妥当と認められる監査の基準又はレビューの基準に準拠するものではない。 したがって、私は、「申請書」又は「基準への適合状況」の記載事項について、将来情報の予測の正確性に関する結論や保証を含め、いかなる結論の報告も、また保証を提供することもしない。また、実施した手続が十分であるかどうかについての結論の報告もしていない。 本報告書は、会社の産業競争力強化法の生産性向上設備等のうち生産ラインやオペレーションの改善に資する設備投資計画の確認申請に関連して作成されたものであり、確認申請以外の目的で利用又は配布されることを想定していない。 (以 上) (了)
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貸倒損失における税務上の取扱い 【第21回】「判例分析⑦」
貸倒損失における税務上の取扱い 【第21回】 「判例分析⑦」 公認会計士 佐藤 信祐 第20回目においては、法人税基本通達9-6-1(3)についての検討を行った。 第21回目にあたる本稿においては、法人税基本通達9-6-1(4)についての検討を行う前に、大阪地裁昭和33年7月31日判決(行集9巻7号1403頁、税資26号773頁)を紹介したい。 本判決は、法人税基本通達9-6-1(4)が定められる前の判決であるため、本通達の判断を示すものではないが、放棄した債権が回収可能であったか否かという点について触れられている判決であり、貸倒損失の取扱いを理解するうえで、知っておくべき重要な判決であると言える。 ③ 法人税基本通達9-6-1(4)の検討 (ⅰ) 大阪地裁昭和33年7月31日判決(行集9巻7号1403頁、税資26号773頁) 本事件については控訴されていないため、第1審で確定した判決である。判決文において、 としている。 そのうえで、本事件においては、以下の事実により債権放棄が回収不能によるものとは言えないと判断している。 なお、「原告と訴外会社とは特殊密接な関係にあり」としていることから、子会社、関連会社に対する債権放棄について、法人税基本通達9-6-1(4)を適用することができないように誤解を受けてしまうが、「なるほど原告と右訴外会社との間に特殊密接な関係があること、あるいは回収手段をとらなかったことだけでは、債権放棄を回収不能によるものではないと見るわけにはいかないけれども」としているため、必ずしも、子会社、関連会社に対する債権放棄であったとしても、法人税基本通達9-6-1(4)を適用することができないわけではない。 ただ、「また僅か2年の後に右訴外会社が解散した事実(この事実は被告において明らかに争わないところである)があり、また放棄した債権が全額ではないけれども、だからといってそのために右債権放棄が回収不能によるものとすることはできず、」としていることから、2年後に解散したという事実は何ら回収不能の判断に影響を与えないという点のみを判断しているだけではなく、債権放棄した金額のうち、回収可能部分について貸倒損失とし、それ以外の部分については寄附金とするということではなく、そのすべてを寄附金として処理するという厳しい判断もなされていることが分かる。 なお、最近の事例として、宇都宮地裁平成15年5月29日判決(税資253号順号9355)があるが、 としたうえで、 と判示し、原告の主張を破棄している。 このように、法人税基本通達9-6-1(4)においては、「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」について、貸倒損失として損金の額に算入することができるが、単純に債務超過の状態が相当期間経過していただけでは足りず、債権放棄を行った金額について、回収することができないということが必要になってくる。 また、大阪地裁判決においても、宇都宮地裁判決においても、債権放棄を行った金額のうち、回収不能部分だけについて寄附金と認定したのではなく、債権放棄を行った金額の全額について寄附金と認定したという点に留意が必要である。 なぜならば、そもそも、その全額が回収可能であることが明らかな債権を放棄するということは考えにくく、回収可能か否かの判断が曖昧であり、少なくとも、納税者の側からするとかなり回収可能性が乏しい債権について債権放棄を行っているのであるから、債権放棄額のうち、回収不能部分を見積もることは不可能ではなかったはずである。 しかしながら、いずれの裁判においても、納税者側が主張していないというのもあるが、裁判所の判断としては触れられていない。また、課税実務上も、債権放棄損を回収不能部分と回収可能部分に分けて処理するという考え方は採用されていない。さらに、デット・エクイティ・スワップ(DES)が非適格現物出資に該当した場合における債権者の処理についても、帳簿価額と時価との差額が譲渡損として処理されたに過ぎないのに対し、法人税基本通達9-4-2に該当しない場合には、当該譲渡損が寄附金として処理されてしまうというのが現行法上の解釈であるが(法基通2-3-14)、ここでいう「時価」とは回収可能見込額であることから、譲渡損に相当する金額は回収不能見込額であるため、これを寄附金とするということは、理論上は疑問を感じるところであるが、上記のように、債権放棄損を回収不能部分と回収可能部分に分けずに、その全額を寄附金として処理するという考え方に足並みを揃えるのであれば、実務的には、そのような解釈もやむを得ないと考えられる。 このように、法人税基本通達9-6-1(4)の要件を満たすことはハードルが高く、債権放棄の対象となった債権の全額が回収不能であることを立証しないとその全額が寄附金として処理されてしまうことになるが、本稿で紹介した判決については、回収不能部分を明らかにしたうえで、当該回収不能部分についてのみ債権放棄をした場合について、貸倒損失として損金算入を認めないということまでは意味していない。 実務上、同一の債権者に対して、担保付債権と無担保付債権の両方を有しているケースは少なからず存在し、担保付債権については一部回収可能なものの、無担保付債権についてはその全額が回収不能ケースも考えられるからである。 次回においては、このような場合において、回収不能な債権のみを債権放棄したときに、法人税基本通達9-6-1(4)を適用することができるのか否かについて検討を行う。 (了)