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〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《賞与引当金》編 【第3回】「未払賞与」

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《賞与引当金》編 【第3回】 「未払賞与」   公認会計士・税理士 前原 啓二   はじめに 前回までにご紹介した賞与引当金は、引当金計上した事業年度には有税引当となりますが、所定の要件を満たす賞与については、当期末現在従業員への支給が未払であっても税務上当期の損金として算入できるケースがあります。 今回は、この未払賞与についてご紹介します。   1 当期末及び翌期X2年12月10日における仕訳 〈当期〉 〈翌期X2年12月10日〉 税法上、次に掲げる要件のすべてを満たす賞与については、使用人にその支給額を通知した日の属する事業年度において、損金に算入します。 上記の処理は、会計上も当期末X2年11月30日までの支給対象期間に係る賞与について、当期の費用として計上されているので、会計上も妥当な処理となります。   2 決算書の金額 〈当期損益計算書〉 〈当期末貸借対照表〉   3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 上記1で記載したとおり、この設例では会計上の処理と税務上の取扱いが一致しているので、当期における損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整はありません。 (了)
#99(掲載号)
#前原 啓二
2014/12/18
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

過労死等防止対策推進法と企業への影響 【第3回】「企業への影響」

過労死等防止対策推進法と企業への影響 【第3回】 (最終回)  「企業への影響」   特定社会保険労務士 池上 裕美   前回までに、法律制定の背景、過労死等防止対策推進法の概要をお伝えした。 今回は、企業への影響についてお伝えする。   《各関係団体の談話等》 各関係団体は、過労死等防止対策推進法について、次のとおり談話等を公表している。 各関係団体は、過労死等防止対策推進法について、プラスに評価しているとともに、3年後の法改正に大きな期待を寄せている。 つまりこの法律は、将来的にどうするのか、どのようにして過労死被害の根絶を実現していくのか、ということが重要とされているのである。   《企業への影響》 この法律では、企業の責務として、「国及び地方公共団体が実施する過労死等の防止のための対策に協力するよう努めるものとする」としている。直接的な労働時間の上限規制などはなく、企業は、直ちに何らかの法的義務を負うわけではない。 では、企業は法律制定後も、今までと何ら変わりなくいることができるのであろうか。 企業の責務については、「自らの職場内での過労死等を発生させない責務」も入れるべきではないかとの議論もなされていた。しかし、既に労働基準法や労働安全衛生法等では、企業の義務づけを定めており、あえて規定されなかった。だが実際は、現行法に従って、労働基準監督署が企業を監査できておらず、徹底されていないことも事実である。 過労死等防止対策推進法は、労働諸法令の適用について、過労死等の防止等という理念から、一層の徹底を図って、各法律の解釈と運用を行うことになるものとして、作成されたのである。 また、前回紹介した通り、国の調査研究が進行し、遺族、労働者代表、使用者代表及び専門的知識を有する者から構成される過労死等防止対策推進協議会の意見のもと、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が策定される。となれば、今後、企業にはより実践的な長時間労働防止の対策を求められることが予想される。 さらに国の啓発活動も進めば、労働者やその家族は知識を得て、企業を訴えるケースも増加するであろう。いったん紛争が起こると、コストや時間がかかり、労使双方がエネルギーを消耗する。 このような消耗を避けるためにも、過労死をリスクと捉え、企業は過労死等の原因となる長時間労働の防止やメンタルヘルスのケアを行っていく必要があるのではないか。 今回の過労死等防止対策推進法で企業の義務として定められたのは、「国の対策に協力するよう努力すること」であるが、やはり、企業は傍観していられない。 現時点から、長時間労働防止の対策として、仕事の仕方・させ方の仕組みを考え、業務効率を図っていく必要があるであろう。 (連載了)
#99(掲載号)
#池上 裕美
2014/12/18
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

介護事業所の労務問題 【第3回】「休暇・休職問題と夜勤体制の問題点」

介護事業所の労務問題 【第3回】 「休暇・休職問題と夜勤体制の問題点」   クロスフィールズ人財研究所 代表 社会保険労務士 三浦 修   1 休暇(年次有給休暇・産前産後休暇等)・休職時の問題点 介護事業所のような女性職員が多い職場でよくある問題の1つが、産休や育休を含む休暇や休職をめぐる問題である。 中でも、特に問題となりやすいのが年次有給休暇(以下、年休)の問題だ。これは介護事業所の特徴から大きく2点に分けられる。1つ目の問題は、人員を必要最小限で行う傾向があるため年休が取得しづらいという問題。2つ目の問題は、年休をよく取得する職員と、取得しない職員に二分されてしまう権利意識の問題である。 1つ目の問題は、介護保険法との関連性もあるが、そもそも介護事業所(特に小規模)は、高利益体質の業種ではないため、必要最小限の人員配置で事業を行っているところが多く、その体制による問題が大きい。もちろん中には大規模・中規模、また併設型等で事業を行うことにより、人員配置上、多少の余裕をもっている事業所もあるが、小規模なものが多い介護事業所でそういった対応を行うのはかなり難しいのが現状である。 もちろん、小規模事業所であれば介護事業以外でも同様の問題は発生するが、介護事業所の場合はその問題にプラスして、人員基準の問題がある。この問題の解決方法としては、大規模・中規模経営を行い人員に余裕を持てる体制を作ることも考えられるが、現実的ではないであろう。 2つ目の問題については、介護事業所をはじめ医療・福祉など女性が多い職場、特にシフト編成が必要な職場でよくありがちなのが、年休の取得について積極的な職員と、消極的な職員の差が大きいということである。 このことは、経営者や管理者が注意・指導をしなければ、年休に対して積極的な職員と、消極的な職員の差が開く一方で、最悪の場合、パワハラ問題に発展することも考えられる。 このような権利意識を強くもつ職員が現れることは、介護事業所にかかわらずよく耳にするが、大きな問題とならないような事業所の風土づくりの一環として、労務管理上、また事業運営上、様々な工夫をしていかなければならない。ハラスメントにも関連するが、管理職としての役割を理解し、コミュニケーションを取れる職場環境作りのためにも、定期的な管理職研修を行うことが重要になる。 介護保険法から考えられる問題点 産休や育休を含む年休とその他の休暇・休職問題については、女性が多い職場であれば、あらゆる業界に共通することだと予測されるが、介護事業所の場合はさらに人員基準が影響してくる。職員が年休や産前産後休暇等、また休職を行うと、人員基準を満たさなくなってしまう場合もあり得るからである。 例えば、デイサービスの生活相談員が休暇を取得した際や、デイサービスの看護職員が休暇を取得した際に、それにより配置基準を満たすことができなくなることが想定される。また、訪問介護事業所で休暇を取得した際に、常勤換算2.5人を満たすことができないといった状況が生じる可能性が考えられる。このような場合には、介護報酬が請求できなくなることも想定しておかなければならない。   2 夜勤(有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅等)の管理体制 夜勤に関しての労務問題としては、労働時間と深夜割増、そして採用難の問題が生じることが推測できる。また、夜勤中は管理職等の不在が多いため、怠慢、虐待等あってはならない問題も発生する可能性があり、それによる懲戒、または解雇が問題となることも考えられる。 (1) 労働時間と深夜割増 介護事業所は労働時間と休憩時間が曖昧な場合が多く、また弊所の地元である熊本県のように、宿直の許可が受けられない可能性が高い自治体も存在する。よって、どの介護事業所も夜勤については宿直としてではなく、通常の労働時間として算入し、シフト管理を行っていくことになる。 これは、社会福祉法人として運営を行っている特別養護老人ホームや、医療法人として運営を行っている介護老人保健施設だけでなく、有料老人ホームやサービス高齢者住宅等の住まい住宅としてみなされる施設であっても同じことが言える。 例えば、有料老人ホームやサービス高齢者住宅等居住系で行われる可能性がある、訪問介護の早朝加算の対象となっている早朝時間(6~8時)、夜間時間(18~22時)などの時間帯は、場合によっては他の業務がほとんどなく、夜勤担当職員としての労働時間ではないと判断したいところだが、実際にはそういった時間帯についても労働時間として算入しれなければならないであろう。よって、その際の作業内容も勘案し、賃金の設定をすることになる。 (2) 夜勤専従等職員の採用が難しい 上記にもあるように、介護事業所では夜勤の時間帯の拘束時間が長く、場合によっては過度な肉体労働であること、また入居者とのトラブルや虐待等の可能性があることから、採用が難しいポストの1つである。 このため、一般の介護職員に夜勤の従事をしてもらう場合も多々あると思われる。または、小規模の事業所の場合は経営者自らが夜勤を行っていることもよくあるだろう。しかし疲労が蓄積してしまい、様々な問題を引き起こしかねないといったリスクも理解しなければならない。 (3) 怠慢、虐待等に対する懲戒・解雇問題 上記のような労働環境によるストレス等も考えられるが、夜勤の時間帯における入居者、利用者への虐待等の問題も発生しているのが実情である。これはモラルの問題とも言えるが、どうしても管理が難しい時間帯なので、発見が遅れたり、発見できなかったりといった状況も多くなる。そのため、多くの事業所では問題が顕在化していない可能性も多くあるのではないかと想定される。 対策方法の一つとして、廊下に監視カメラをつけることによる抑止力を活用することや、また定期的に入居者とそのご家族にアンケートを取るなどの工夫をしていく必要があると思われる。 介護保険法から考えられる問題点 夜勤がある介護サービスは、ほとんどが施設系・居住系であり、通所介護(お泊りデイサービスを除く)、訪問介護等においてこれらの問題が発生し、人員基準が直接影響することは多くはないと思われる。しかし、夜勤の担当者がいない、夜勤専従者が退職した場合などは、昼の勤務を行っている職員が夜勤に従事することになるため、勤務シフトの問題、すなわち労働時間の問題上、日中の介護サービス提供事業で人員基準の問題が生じる可能性も考えられる。 その他に想定される問題として、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など併設型の場合、夜勤担当職員の業務と、訪問介護サービス提供者が早朝(6~8時)・夜間(18~22時)、また深夜(22~6時)の勤務の際に介護サービス、保険外サービス提供が混同されることも考えられる。夜勤担当者が誤って訪問介護サービスを提供した時など、介護報酬、また早朝・夜間・深夜加算の請求ができなくなる可能性もあるので、注意が必要である。 *   *   *  最終回である次回は、職員の懲戒問題と、突然の退職をめぐる問題について解説する。 (了)
#99(掲載号)
#三浦 修
2014/12/18
労務・法務・経営 経営

〈IT会計士が教える〉『情報システム』導入のヒント(!) 【第3回】「仕様に漏れのないプロトタイプ型開発。それでもERP導入が失敗するワケ」

〈IT会計士が教える〉 『情報システム』導入のヒント (!) 【第3回】 「仕様に漏れのないプロトタイプ型開発。 それでもERP導入が失敗するワケ」   公認会計士 小田 恭彦     はじめに 会計システムをはじめ販売、購買など企業の業務を取り扱うシステムを一般的に「基幹システム」と呼ぶ。 この基幹システムの開発は、「オーダーメイドによる開発」から「パッケージシステムをベースにした開発」が主流になりつつある。 今回はパッケージシステムをベースとした導入をより効率的かつ効果的に進めるための手法である「プロトタイプ型」についてまとめてみたい。   ▼基幹システム開発の主流は「オーダーメイド」から「パッケージ」へ▼ “ERP”という言葉の説明はいまさら不要かもしれないが、改めて簡単に解説しておく。 ERPとは“Enterprise Resource Planning”の略であり、企業が保有しているヒト・モノ・カネなど経営資源を統合的に管理し、業務の効率化や全体最適化を目指すという概念であり、一般的にはそれを実現するために導入する統合型パッケージ型の基幹システムを指す。 1990年代から2000年代にかけてのERPの台頭やクライアント・サーバー型システムの普及を境に、企業の基幹システムは大きく変化した。それ以前はいわゆる「オフコン時代」と呼ばれる汎用機によるオーダーメイド型の開発が中心であったが、それ以降はERPを中心としたパッケージシステムによる既製品の導入が主流となった。   ▼期待ギャップが起こりやすい開発手法▼ オフコン時代のオーダーメイド開発は、いわゆる「ウォーターホール型」の開発が主流であった。ウォーターホール型とは、「要件定義」「概要設計」「詳細設計」「プログラミング」「テスト」といった開発手順をその時系列通りに行い、前工程の成果物の品質を確保し前工程への手戻りを最小限にする開発手法である。逆に言えば、手戻りが発生した場合のリスクが大きい開発手法でもある。 ウォーターホール型の開発のポイントは上流工程の精度であり、それは「最も上流工程の要件定義の精度」に依存すると言っても過言ではない。 つまり、このシステム開発においては、「最初が肝心」ということである。 ただしこの「最初」が、以下の理由により、非常に難しい作業となる。 ソフトウエア開発の作業が難しい理由の1つに「無形のもの」を作り上げていくという点がある。要件定義はベンダーからユーザーへの要件の聞き取り作業を中心に行われるが、そのやりとりは互いが「無形のモノ」をイメージしながら行われる。 この「自社業務は理解しているがシステムには詳しくないユーザー」と、「システムには詳しいがユーザーの業務に詳しくないベンダー」が、互いのイメージにズレないよう要件を取りまとめるのは、簡単なようで非常に難しい作業なのである。 失敗するシステム開発の多くは、テストの段階(要件定義、設計及び開発が終わった後で実際にユーザーがシステムの出来上がりを確認する段階)で“事”が発覚するケースが多い。 その時にベンダーとユーザーとの間でよく繰り広げられる会話は、以下のようなものである。 このように、その多くは誤解や期待ギャップによる「仕様の漏れ」に関する事項であり、それは要件定義に関連するもの(つまり「最初」の作業に関するもの)がほとんどである。   ▼プロトタイプ型によるパッケージ開発で“漏れ”をなくす▼ 上述したように、2000年以降、オフコンによるオーダーメイド開発からクライアント・サーバー型のパッケージ導入へ移行することにより、開発手法も「ウォーターホール型」から「プロトタイプ型」へと変化した。 「プロトタイプ型」とは、開発プロセスの比較的早い段階において、機能制限版、簡易版等の試作環境(プロトタイプ)を作成し、ユーザーにそれを評価させる開発手法である。 パッケージシステムの特徴は、いくつかのパラメータを設定し、マスタデータを登録すれば「すぐに動かすことができる」という点である。プロトタイプ型はこの点に着目して考えられた導入手法である。 住宅建築や土木建築のような「有形のもの」作り上げる場合、完成予想図や模型を用いることにより最終製品を視覚的に共有することができる。視覚的に捉えることができると、そこからさらなる疑問や要件が出やすく、実現が難しい要求に対する代替案や妥協案も出やすくなり、お互いの認識のズレは発生しにくくなる。 プロトタイプ型では、要件定義を行った後(ないしは要件定義の途中で)、プロトタイプを構築し、実際の画面の動きやアウトプット(帳票や証票)を確認したり、ユーザーに実際にシステムを操作したりすることより、よりリアリティをもって要件定義を進めることができる。 つまり、プロトタイプ型はあくまで試作品であるため、機能範囲も限定的であったり、要件漏れや誤認がある状態であったりするが、ウォーターホール型とは異なり「有形のもの」を評価することで、ユーザーの想像力は無形のそれを評価するよりも圧倒的に広がり、具体的な議論を進めることができるのである。 そしてプロトタイプの検証により生じる要件の追加や変更をとりまとめ、さらに次のプロトタイプに反映させることによって精度を高めていくことになる。 さらに、プロトタイプ型の利点として、ユーザー側がシステムを実際に操作しながら工程を進めるため、開発作業を通じ操作方法の習得も進められることが挙げられる。 なお、プロトタイプ型の場合、プロジェクトメンバーの中に「パワーユーザー」などと呼ばれるユーザー部門から選出したメンバーが入り、このパワーユーザーが自部門の業務要件定義の取りまとめや他部門との調整を行うとともに、自部門の他のユーザ(「一般ユーザー」と呼ぶことが多い)に対して機能説明や操作説明を展開する。   ▼プロトタイプ型でも起こる開発失敗の要因とは▼ このようにプロトタイプ型はユーザーとベンダー間の誤認や要件漏れも生じにくく効率的な開発手法であるが、この導入手法によるパッケージシステムの導入が主流となった現在でも、プロジェクトの失敗がなくなったわけではない。 その理由のひとつに、プロトタイプ型開発が十分に効果を出せないという点があり、具体的には以下のような状況が考えられる。 このようにパッケージシステムをプロトタイプ型で導入する場合においても、実際にはその利点を生かすことができずに失敗する場合があるという点については、十分留意しなければいけない。 (了)
#99(掲載号)
#小田 恭彦
2014/12/18
読み物 連載

女性会計士の奮闘記 【第24話】「社長の決断。そしてM子の決断。」

女性会計士の奮闘記 【第24話】 「社長の決断。そしてM子の決断。」   公認会計士・税理士 小長谷 敦子   《退職金の計算のしくみ》 一般的に退職金の限度額の計算は以下の通りとされています。 (※1) 役位別係数は1倍から3倍とされています。 (※2) 功労金加算は30%までとされています。 (再びホワイトボード) 法善寺社長の退職金の限度額=50万円×30年×3×1.3=5,850万円 ◆ワンポントアドバイス◆ 退職金に対する所得税は、以下のように軽減されています。 そのため、退職金規定が一般的に認められる形で整備されており、それに基づいて支給されなければ、税務上退職金と認められないことがあります。 また、役員退職金を支給する場合には、支給の3年以上前から月額報酬の見直しや資金の準備をしておく必要があります。 (了)
#99(掲載号)
#小長谷 敦子
2014/12/18
お知らせ その他お知らせ

Profession Journal No.98が公開されました!~今週のお薦め記事~

2014年12月11日(木)AM10:30、Profession Journal(プロフェッションジャーナル)  No.98 が公開されました。   - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2014/12/11
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第24回】「法人税法22条2項の「取引」の意義(その3)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第24回】 「法人税法22条2項の「取引」の意義(その3)」   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦     Ⅲ 固有概念としての「取引」概念 1 会計上の「取引」概念 前述したとおり、会計学では、「取引」とは「資産、負債および資本に増減変化を及ぼす一切の事象である」と解されている。このような理解は、当事者間の契約が前提とされるであろう一般概念としての「取引」とは異なるものかもしれない。すなわち、会計上の「取引」とは「資産、負債および資本に増減変化を及ぼす一切の事象」というのであるから、取引要素説(注)の8要素に従えば、次のような16のパターンが考えられる。 〔結合関係表〕 上記の結合関係表に表れる一切の事象が会計上の「取引」であるとすると、そこにいう「取引」には、売買及び金銭貸借はもちろん、火災、紛失等のような一般に取引と称されない単純な事実もがこれに含まれることになる。他方、一般に取引に含まれるものと理解されている物品の賃貸借契約は、資産、負債及び資本に価値変動を引き起こすことがないことから、会計上の「取引」には当たらないことになろう。刑事裁判において、検察官が求刑を軽減する代わりに被告人に罪を認めさせることを司法取引というが、このような取引も一般的には取引と理解されているかもしれないが、会計上の「取引」には含まれない。 このように、会計上の「取引」は、必ずしも当事者の意思の合致を前提とするものと考えることはできないであろう。   2 本件最高裁判決にいう「取引」概念に対する疑問 さて、本件最高裁判決は、「法人税法22条2項にいう取引とは、関係者間の意思の合致に基づいて生じた法的及び経済的な結果を把握する概念と解される。」と論じている。このように、「取引」を当事者間の意思の合致に基づいて生じた結果を把握する概念であると考えると、上記の図にいう一般的な「取引」の理解にやや近接したものとなるようにも思われる。すなわち、例えば、物品の賃貸借は、関係者間の意思の合致に基づいて生じた法的及び経済的な結果を把握する概念であるからである。 ところで、法人税法22条3項は、損金の額に算入すべき金額として、その3号に「損失の額」を規定している。 同条項3号は、損金の額に算入すべき金額として、損失の額で資本等取引以外の「取引に係るもの」と規定しているところであるが、ここにいう「取引」には、火災や紛失が含まれると解されている(渡辺淑夫=山本守之『法人税法の考え方・読み方〔4訂版〕』85頁(税務経理協会1997)、武田昌輔『立法趣旨法人税法の解釈〔新版〕』266頁(財経詳報社1988))。 つまり、法人税法22条3項3号にいう「取引」は、会計学において「取引」とされる火災や紛失といった、意思の合致に基づかないものも含まれて解釈されているのである。 およそ同じ条文内における同じ概念を異なる意味に理解するのは自然ではないことからすると、法人税法22条2項と3項とで「取引」の概念が異なるものとするのは、正しい理解とはいいがたい。そうであるとすると、法人税法22条2項の「取引」についても、意思の合致を前提としないものが含まれると解するのが素直であろう。 このように考えると、法人税法22条2項の「取引」概念には、意思の合致とは到底いえない火災や紛失が含まれると解されることになる。そうであるとすれば、同条項の「取引」を「関係者間の意思の合致に基づいて生じた・・・結果を把握する概念」とする本件最高裁判決の説示には疑問が残るといわざるを得ない。 もっとも、このように取引概念の説示については問題があるとしても、本件最高裁判決の「結論」に問題があるとまでは即断できない。けだし、法人税法22条2項の「取引」に火災や紛失が含まれると解したとしても、X社とC社の合意に基づいて実現された持分の譲渡が排除されるべきということにはならないからである。換言すれば、同条項にいう「取引」概念の理解を拡張的に捉えることが可能となっただけで、限定的に解釈すべきということにはならないのである。 そこで、最終的には、法人税法22条2項にいう「取引」には、会計上の「取引」以外の取引も含まれると解するべきかという論点こそが判決の「結論」に大きな影響を及ぼすことになるといえよう。 関係者間の意思の合致に基づいて生じた法的及び経済的な取引を法人税法上の所得金額の計算に織り込むということは、税務調整に委ねることを意味するが、これは必ずしも記帳制度を否定するものではない。すなわち、記帳を前提としない「取引」概念を持ち込むことは、記帳制度を前提とする法人税法が同法施行規則53条において、青色申告法人に対して、「その資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引につき、複式簿記の原則に従い、整然と、かつ、明りように記録し、その記録に基づいて決算を行なわなければならない。」と規定していることを否定するものでもなければ、制限をするものでもない。なぜならば、記帳制度はあくまでも帳簿体系内の問題であって、同規定が、税務調整を制限する趣旨を有するわけではないからである。   小括 そもそも、法人税法が会計制度を前提とした仕組みを採用し、記録された取引を計算した上で確定申告する制度を設けていることからすれば、会計記録に載らないものまでをも法人税法22条2項の「取引」と解するというのは理解しづらいように思われる。しかしながら、法人税法が、いわゆる企業会計準拠主義を採用しているからといって、企業会計上のルールに全面的に依拠するというものではない。 本件最高裁の判断には、概念の理解において租税法の思想が混入されるべき場合には、そのスクリーンにかけられることがあるとの思考が根底に流れているのかもしれない。 (了)
#98(掲載号)
#酒井 克彦
2014/12/11
消費税・地方消費税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

5%・8%税率が混在する消費税申告書の作成手順 【第1回】「一般課税の申告書・付表作成の流れ(前編)」

5%・8%税率が混在する消費税申告書の作成手順 【第1回】 「一般課税の申告書・付表作成の流れ(前編)」   アースタックス税理士法人 税理士 島添  浩 (監修) 税理士 小嶋 敏夫(執筆)   平成26年4月1日に消費税率が5%から8%に引き上げられたことで、施行日以後に終了する課税期間については旧税率と新税率が混在することとなり、経過措置用の付表を作成する等、これまでの申告実務とは異なる対応が必要となる。 そこで本連載では、一般課税と簡易課税による申告書及び付表の作成方法について、具体例を交えつつ確認していくこととする。 1 施行日以後に作成する確定申告書及び付表について 施行日以後に作成する消費税の申告において提出しなければならない帳票は、以下のとおりである。 (1) 一般課税用の確定申告 ① 経過措置の適用がない場合 消費税及び地方消費税確定申告書(一般用) ⇒様式はこちら 付表2(課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表) ⇒様式はこちら ② 経過措置の適用がある場合 確定申告書に控除不足還付税額の記載がある場合には、「消費税の還付申告に関する明細書」も併せて提出しなければならない。 消費税及び地方消費税確定申告書(一般用) ⇒様式はこちら(同上) 付表1(旧・新税率別、消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表〔経過措置対象課税資産の譲渡等を含む課税期間用〕) ⇒様式はこちら 付表2-(2)(課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表〔経過措置対象課税資産の譲渡等を含む課税期間用〕) ⇒様式はこちら (2) 簡易課税用の確定申告 ① 経過措置の適用がない場合 消費税及び地方消費税確定申告書(簡易課税用) ⇒様式はこちら 付表5(控除対象仕入税額の計算表) ⇒様式はこちら ② 経過措置の適用がある場合 消費税及び地方消費税確定申告書(簡易課税用) ⇒様式はこちら(同上) 付表4(旧・新税率別、消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表〔経過措置対象課税資産の譲渡等を含む課税期間用〕) ⇒様式はこちら 付表5-(2)(控除対象仕入税額の計算表〔経過措置対象課税資産の譲渡等を含む課税期間用〕) ⇒様式はこちら   2 一般課税における申告書及び付表の作成手順 (1) 申告書及び付表の作成手順 施行日以後に終了する課税期間で、消費税の確定申告(一般課税)を行う場合には、旧税率と新税率が混在することが考えられ、従来の付表2ではなく、複数税率の計算をするための付表1及び付表2-(2)を作成し、確定申告書に添付することとなる。 具体的には、以下の手順で作成することとなる。 《確定申告書作成の流れ》 各付表及び確定申告書を作成するためには、まず、その課税期間における課税売上げや課税仕入れを税率ごとに区分して計算することとなるが、具体的には、以下のような数値が必要になる。   (2) 付表2-(2)の作成 ⇒様式はこちら 付表2-(2)は、課税売上割合や仕入税額控除の計算を行うために作成するのであるが、旧税率と新税率が混在している場合には、それぞれの税率を基に計算をしていくこととなるが、具体的には、以下のようになる。 この付表2-(2)を上記に従って作成し、各欄の中に「付表1へ」と記載がある部分は、そのまま付表1に記載することとなる。 次回は付表1と確定申告書の作成の流れを確認する。 (了)
#98(掲載号)
#小嶋 敏夫
2014/12/11
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

【施行前に再チェック】相続財産に係る譲渡所得の課税の特例の見直し 【第2回】「施行前におさえておくべき事項」

【施行前に再チェック】 相続財産に係る譲渡所得の課税の特例の見直し 【第2回】 「施行前におさえておくべき事項」   税理士 齋藤 和助   1 はじめに 平成26年度税制改正により、相続財産に係る譲渡所得の課税特例(措法39)(以下「相続税の取得費加算の特例」という)について、現行では相続したすべての土地等に対応する相続税相当額が取得費に加算できるのに対し、改正後は譲渡した土地等に対応する相続税相当額だけが取得費に加算できることになる(平成27年1月1日以後の相続等により取得した土地等を譲渡した場合により適用)。 前回では改正点を一通り確認したので、今回は、施行前の注意点や対応方法をまとめてみた。   2 具体例による検証 改正前と改正後を数字を使って具体例で検証すると以下のようになる。 このケースでは、取得費加算額が1億円減少し、譲渡所得税は2,000万円増加している。土地等を多く相続し、その一部を譲渡した者は取得費加算上著しく有利な状況となっていたことがよくわかる。 上記具体例は、相続税評価額が時価の8割であると仮定して譲渡価額を設定しているが、取得費加算改正後は、時価で譲渡できたとしても、相続税額の完納はできないため、相続財産の中に預貯金等がない場合、とりわけ相続財産のほとんどが土地の場合には物納の検討が必要となる。   3 「譲渡」か「物納」か 相続財産のほとんどが土地の場合には、譲渡所得税が増加すれば、物納を検討する必要がある。したがってこのようなケースにおいて、税理士は、相続財産である土地を譲渡した場合と物納した場合との有利選択に必要な資料を事前に提供する必要がある。 この場合、ポイントとなるのが土地の取得時期や取得価額である。 相続税の申告上、今まではあまり気にせずに済んだことだが、上記有利選択には「いつ」「いくら」で取得した土地なのかが重要な要素となる。「いつ」は税率に、「いくら」は譲渡所得金額に影響する。 例えば、取得後5年以下の土地を譲渡した場合には39%(所得税30%、住民税9%(※復興税を除く))の譲渡所得税がかかる。また、同じ相続税評価額の土地であっても、先祖伝来の土地で譲渡価額の5%が取得価額となる土地と、高い時期に購入し、譲渡価額を上回る取得価額のある土地とでは譲渡の際の税負担が異なるため、相続税法上同じ価値とはいえ、所有財産としての価値が違うと言える。 これらの要素は相続財産のほとんどが土地であり、納税資金のない相続人にとっては、以前にも増して必要な情報となる。   4 物納に対する事前準備 上記有利選択で物納有利が判断された場合でも、簡単に物納が認められるわけではない。平成18年度の税制改正により物納の状況も以前とはだいぶ事情が違っている。 改正前はとりあえず物納申請しておいて、譲渡先を探し、譲渡できたら延納や金銭一時納付に切り替えることが実務上行われていた。しかし、平成18年度の税制改正により、納付順位の厳格化や、物納申請財産の適格性が以前にも増して求められるようになっている。 それぞれの実務におけるポイントを挙げると以下のようになる。 (1) 相続税納付順位の厳格化 相続税の納付は金銭一時納付が原則である。そして一時納付の例外として第二順位の延納が、金銭の例外として第三順位の物納が認められている。したがって、第三順位の物納が認められるためには、第一順位の金銭一時納付、第二順位の延納が不可能であることを納税者自らが示す必要がある。 このために用意されているのが「金銭納付を困難とする理由書」である。 改正前は提出さえしておけば認められた感のあるこの理由書であるが、改正後は申請者である相続人の生活費があらかじめ印字されているなど厳格化されている。物納を認めてもらうためには、まずはこの理由書の記載がポイントとなる。 (2) 物納申請財産の適格性 物納申請財産の適格性も厳しく求められている。土地に関しては、隣地との境界が不確定なものなども、以前であれば容認されていたが、改正後は物納申請の審査期間が原則3ヶ月に法定化され、申請者による延長届出も最長1年とされたことから、申請の段階で管理処分不適格財産として認められない可能性がある。 したがって、相続財産のほとんどが土地等であるような場合には、物納を想定して、生前に測量等を行い、隣地との境界線を確定するなど、物納財産としての適格性を満たしておくよう生前対策を行う必要がある。   5 その他の留意事項 「相続税の取得費加算の特例」の実務上の解釈指針は措置法通達39に記載されており、全部で22ある。今回の改正を機に一通りその内容を確認していただきたいが、特に改正により影響がありそうな項目は次の3つである。 (1) 相続財産を譲渡した場合の取得費に加算する相続税額(措通39-8) 譲渡所得に加算する相続税額相当額は、取得費加算の計算式により計算した金額となるのであるから、当該計算した金額のうちその一部のみを当該譲渡資産の取得費に加算することはできない。 これは、取得費加算額はその譲渡した資産にだけに認められているものであり、他の譲渡資産の取得費として使用することを認めないことを明らかにしている。今回の改正において特に変更はないが、特例適用の基本的考え方として再確認しておきたい。 (2) 相続等により取得した土地等の譲渡が2以上ある場合(措通39-9) 土地等の譲渡に係る譲渡所得のうちに適用税率の異なる譲渡所得がある場合の当該譲渡所得等の取得費に加算する相続税相当額は、税率の高い譲渡所得の順に加算することとし、2以上の資産がある場合の取得費加算の特例の適用はそれぞれの資産ごとに任意に適用する。 改正前は、土地等に係る取得費加算額は同額であるが、改正後は同額ではなくなる(個々に計算する)ことから、取得費や譲渡費用、特例の適用の有無などを考慮して、納税者に有利になる土地を選択する必要がある。 (3) 土地等以外の資産を2以上譲渡した場合の取得費に加算する相続税額(措通39-11) 譲渡所得に加算する相続税相当額は、それぞれの資産ごとに計算することとし、土地以外の資産について、譲渡した資産のうちに譲渡損失が生じた資産がある場合には、譲渡損失の生じた資産に対応する部分の相続税額を他の譲渡資産の取得費に加算することはできない。 改正後は土地等についても同様となる。譲渡所得に加算する相続税相当額は譲渡した土地ごとに計算する。また、譲渡損失の生じた土地に対応する部分の相続税額を他の譲渡した土地の取得費に加算することはできない。   6 おわりに この改正により、取得費加算額が減少し、所得税額が増加することは確実である。しかし、反面、取得費加算が過大に使えることによる、物納の減少による税務署側の事務処理負担の軽減や、土地譲渡の促進等の副次的なプラス効果があったことも見逃してはならない。 今回の改正により、これらのプラス効果にどれだけ影響が出るのだろうか。改正後のこれらの数字にも注目していきたい。 (連載了)
#98(掲載号)
#齋藤 和助
2014/12/11
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

欠損金の繰越控除制度の見直しは何を意味するのか? 【第2回】「現行制度の制約要件と改正が意味するもの」

欠損金の繰越控除制度の見直しは何を意味するのか? 【第2回】 「現行制度の制約要件と改正が意味するもの」   税理士 小谷 羊太   ▷はじめに 欠損金の繰越控除制度は、事業年度単位課税の弊害をカバーするものであるという根本的な考え方については前回述べたとおりである。 今回はそのことを踏まえ、現行制度における欠損金の繰越控除の要件やグローバル化を目指す税制改正の意味と懸念について考えてみたい。   ▷特典としての本制度のあり方 本制度の本来の存在理由は、前回述べたように、事業年度単位課税の弊害をカバーすることにある。しかし、そのような制度であるにもかかわらず、我が国の現行の法人税法では、規定の適用を受けるために様々な制約が強いられている。 その1つが、本制度が「青色申告の特典」であることである。 これについては先にも述べたが、複式簿記による帳簿書類を作成できる会社でなければ、事業年度単位における正しい数値を追っていくことは難しいであろう。 ただ、欠損事業年度のみ青色申告書である確定申告書を提出していることが要件となっており、その後の事業年度においては、連続して確定申告書を提出していればよいことになっている。 つまり、連続して提出していれば、繰り越された欠損金を損金算入する所得事業年度については、青色申告であるか否かは問われない。さらには期限内申告である必要もない。 たとえ期限後申告であっても損金算入できることになる。   ▷見直されてきた控除期間と控除上限額 次に、損金算入できる欠損金額の控除期間は、「9年以内の事業年度」において生じたものに限定されている。 この「9年」という年数については、税制改正により延長されてきた経緯がある。 現行制度では、平成13年4月1日前に開始した各事業年度において生じた欠損金額については5年、平成13年4月1日以後に開始した事業年度から平成20年4月1日前に終了した事業年度において生じた欠損金額については7年、それ以降のものについては9年となっている。 青色申告の特典であるために、情報を付け加えると、平成16年度税制改正により繰越期間が7年とされたことに伴い、平成13年4月1日以後に開始した事業年度においては、従来保存期間が5年間とされていた帳簿書類については7年間に延長され、また、平成23年12月税制改正により繰越期間が9年とされたことに伴い、平成20年4月1日以後に終了した欠損金の生じた事業年度においては、帳簿書類の保存期間は9年間に延長されている。 控除上限額としては、中小法人の場合は、繰越欠損金のうち、所得から控除できる金額がその全額であるのに対し、大法人については80%までとされている。 先にも述べたように、本来は獲得した利益に対して課税されるべき税金であるにもかかわらず、事業年度単位課税を原則としているために、弊害となっている問題点を解決するための制度が欠損金の繰越控除制度であるはずが、現行の法人税法においては、それについて、期限付きで認めるにとどまっているのが現状である。また、大法人については80%という上限額も設定されている。 この上限額の見直しが、法人税率引下げの代替案として掲げられているが、結果として上限額を超える欠損金額は、その控除のタイミングが翌年以降に先延ばしされることになるので、一時的な代替財源の確保を実現するに留まる。   ▷諸外国との比較からみる日本の現行制度 これらの内容は、諸外国の欠損金に関する税制とはかけ離れた日本特有の厳しい制限であるともいえる。例えば、イギリス、ドイツ、フランスにおいては、繰越期間は無制限となっている。また、アメリカは期限付きではあるが、20年という長い期間をその期限としている。 これとは逆に、控除制限については、アメリカではAMTという独自の計算を合わせて、AMT課税所得の90%として制限している。また、ドイツでは100万ユーロを超える金額について60%、フランスでは、100万ユーロを超える金額について50%という制限をしている。イギリスでは全額が控除の対象となっている。 この控除制限に関する考え方は、過去に失敗したことについてはフォローするけれども、当期において儲かっているという事実がある以上、そのうちいくらかでも社会還元をしながらその失敗を取り戻すべきである、というところにある。 ただし、ドイツ、フランスについての控除制限は100万ユーロであるので、1ユーロ=135円で換算すると、1億3,500万円までは全額が控除対象となるのであるから、相当に大きな会社にのみ該当する制限となっていることになる。 このように、諸外国との比較によっても、税制改革によって日本が何をしたいのかを垣間見ることができる。要するに日本もこの国際競争社会において、国単位としての競争の渦中に立たされている現状があるため、グローバルな税制の採用は必須となっている局面がある。つまりは、緩い税制によりグローバル企業の誘致及び流出の抑制を図るのが目的といえる。 世界情勢の煽りを直接受け、赤字となったり黒字となったりするグローバル企業にとっては、無期限かつ無制限を採用しているイギリスに本拠地を構えて事業をするのが、今後のリスク回避にもつながる戦略であることは誰しも想像がつく。   ▷おわりに 欠損金の繰越控除の制度については、無期限・無制限が事業年度単位課税の弊害を完全に補完できる税制であるとはいえ、今までの短い期限付きの厳しい制度は逆に、日本の長い歴史や日本民族特有の気質からみても、この国際社会における強靱な日本経済の発展に大きく寄与してきた制度のひとつなのではなかろうかとも考える。 つまり、過去の失敗は社会に迷惑をかけることなく自らの努力により回復し、力強く右肩上がりに短期回復することができる企業こそが、淘汰されることなく生き残るべき企業であり、それが日本企業としてのあり方である、ということである。 (連載了)
#98(掲載号)
#小谷 羊太
2014/12/11

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