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〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載38〕 民事再生法において資産評定がある場合とない場合

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載38〕 民事再生法において資産評定がある場合とない場合   税理士 長岡 栄二   Q 民事再生法による再生手続開始の決定を受け、財産評定の作成に着手しています。 民事再生等では、資産評定がある場合とない場合で、欠損金等の取扱いに違いがあるといわれていますが、どのような違いがあるのでしょうか。 A 民事再生法による認可決定を受けて債務免除益が計上される場合には、いわゆる期限切れ欠損金と青色欠損金から構成される設立当初からの欠損金を損金算入することができるが、「資産評定」がある場合とない場合では、期限切れ欠損金から優先して控除するのか、青色欠損金から優先して控除するのかの違いがある。 解 説 1 民事再生法の概要と関連税制 民事再生法は、経済的に窮境にある債務者について、債権者の多数の同意を得、かつ、裁判所の認可を受けた再生計画を定めること等により、債務者と債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し、その債務者の事業又は経済生活の再生を図ることを目的としている(民事再生法1)。 民事再生手続の認可決定までの標準的な流れは、次のとおりである。   再生計画の認可決定によって計上される多額の債務免除益には、それに見合う損金や青色欠損金がないと、税負担が生じるおそれがある。通常、民事再生を申し立てる法人は、業績等が悪化している場合がほとんどで、多額の含み損や欠損金を有している場合が少なくない。しかし、青色欠損金の繰越期間は、最長9年間(平成20年3月31日以前終了年度の繰越期間は最長7年間)である。 法人税法では、再建計画への影響を考慮して、民事再生法等の適用を受ける一定の場合には、いわゆる期限切れ欠損金を含めた設立当初からの欠損金を控除して課税所得を圧縮できるようになっている。 また、再生手続開始の決定を受けた場合には、法人税法上、「再生手続開始の決定があった場合の損金経理方式」と「再生計画認可の決定があった場合の別表添付方式」という2つの評価損の損金算入制度が用意されている。 以下では、民事再生手続における債務者について、評価損益と設立当初からの欠損金の規定を中心に解説する。   2 民事再生法における財産評定と法人税法における資産評定などの相違点 民事再生法における財産評定(民事再生法124①)は、再生手続開始決定日の処分価値により行われるが、清算価値以上を再生債権者に付与する必要があるための手続であり、財産評定によって資産の帳簿価額を付け替える必要はない。 この点は、別表添付のみを要件とし、帳簿価額の付替えを要しない法人税法における「別表添付方式」による「資産評定」と同様であるが、財産評定による価額を新たな帳簿価額として付け替える会社更生法や、法人税法における帳簿価額を付け替えて減額する「損金経理方式」とは異なる。 なお、ここでは民事再生法における「財産評定」と、法人税法における「別表添付方式」による「資産評定」は、異なる手続として用いる。 ちなみに、法人税法における評価損益の時価は、使用収益する際に通常付される(正常)時価による(法基通4-1-3、9-1-3)。また、時価の算定時期は、「損金経理方式」による評価替えが再生手続開始決定日の期末時価、「別表添付方式」による「資産評定」が再生手続認可決定時の時価による。 民事再生法における財産評定の時価と、法人税法における評価損益の時価は、その意義及び時点においても異なるため注意が必要である。 さらに、ここでは詳細には触れないが、民事再生法における財産評定が全ての資産に対して行われるのに対し、法人税法における評価損益の対象資産は限定的である点も、あわせて注意したい。   3 再生手続開始の決定があった場合の資産の評価損【損金経理方式】 再生手続開始の決定により財産評定を行い(法基通9-1-3の3)、資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額した評価損の金額は、評価換え年度の損金の額に算入される(法法33②、法令68①)。この規定は損金経理を要件とすることから、一般に「損金経理方式」と呼ばれる。 4 再生計画認可の決定があった場合の資産の評価損益【別表添付方式】 (1) 概要 再生計画認可の決定時の価額により「資産評定」を行っているときは、資産の評価損益の額は、認可決定時の事業年度の益金の額又は損金の額に算入される(法法25③、法法33④)。この規定は別表の添付が要件とされることから、一般に「別表添付方式」と呼ばれる。 別表添付方式による評価損益の計上は、後述する「5 設立当初からの欠損金」の「(3) 評価損益の計上が行われる場合」に該当し、民事再生における期限切れ欠損金を優先的に控除するための要件の1つとなる。 (2) 留意点   5 設立当初からの欠損金 (1) 概要 欠損金は、平成23年12月税制改正によって、青色欠損金を除外せずに設立当初からの欠損金として整理され、期限切れ欠損金と青色欠損金から構成されるものと改正された。 あわせて、設立当初からの欠損金の控除額(損金算入額)のうち青色欠損金に相当する部分は、翌期に控除対象とならないように切り捨てられることとなった。 (2) 設立当初からの欠損金を利用できる一定の場合 次の①②③のいずれかの事由に該当する場合には、対象利益額①②③の合計の範囲で、設立当初からの欠損金が控除できる(法法59②、法令117一)。 ③の事由に該当するか否か、つまり、「別表添付方式」による評価損益の計上が行われるか否かによって、以下(3)と(4)のように、期限切れ欠損金の優先性に違いが生じる。 (3) 評価損益の計上が行われる場合 再生手続認可の決定による債務免除益等が計上される際に、上記(2)③の事由に該当する場合、つまり別表添付方式により資産の評価損益の計上が行われる場合の設立当初からの欠損金は、上記(2)債務免除益等①②③の合計額の範囲内で、期限切れ欠損金を青色欠損金に優先して控除(所得金額を限度)できる。 (4) 評価損益の計上が行われない場合 再生手続認可の決定による債務免除益等が計上されても、上記(2)③に該当しない場合、つまり、別表添付方式による評価損益の計上が行われない場合の設立当初からの欠損金は、青色欠損金の部分から先に利用されたものとされる。期限切れ欠損金の部分は、上記(2)債務免除益等①②の合計額の範囲で控除(青色欠損金控除後の所得金額を限度)できる。 評価損益の計上が行われない場合は、債務免除益等に対し青色欠損金を優先して控除するが、中小法人等以外の法人については、青色欠損金の控除額が制限された金額であっても設立当初からの欠損金で控除が可能であった。そのため、債務免除益等を超える部分の所得についても結果的に控除が認められており、課税上弊害が生じていた。 平成25年度税制改正によって、債務免除益等を超える部分の所得が生じている場合の設立当初からの欠損金の控除額は、青色欠損金の控除後の所得金額から「債務免除益等を超える部分の所得金額の20%相当額」を控除した金額を限度とすることに改正された(法法59②)。 なお、青色欠損金の所得制限がない中小法人等については、この改正による変更はない(法法57⑪、59②)。 (了)
#38(掲載号)
#長岡 栄二
2013/10/03
会計 固定資産 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第20回】減損会計①「減損会計の目的」─損失の早期計上

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第20回】 減損会計① 「減損会計の目的」 ─損失の早期計上   仰星監査法人 公認会計士 菅野 進   〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ×3年3月31日(決算日) (*1) 固定資産400÷耐用年数4年=減価償却費100 ×4年3月31日(決算日) (*2) 固定資産の帳簿価額300-回収可能価額100=減損損失200 〈会計処理の解説〉 企業は事業用固定資産を事業に用いて利益を得ることを期待しているため、その固定資産自体の市場価格が変動しても、企業にとっての価値が変動するわけではありません。また、事業用の固定資産を使って利益を得るには、通常、ある程度の時間が必要となります。 そのため、事業用の固定資産は金融商品のように毎期末に時価評価を行うことはせずに、貸借対照表では取得原価から減価償却費等を控除した帳簿価額で評価され、損益計算書では減価償却費が計上されます(図1)。 図1 しかし、上記のように減価償却による費用配分等を通じて貸借対照表価額を評価する事業用の固定資産であっても、将来の収益性(当該事業から得ることのできる将来のキャッシュ・フロー)が低下し、当該固定資産への投資額の回収が見込めなくなった場合に、回収可能性を反映させ固定資産の帳簿価額を減額させる必要があります。 そのような場合にその事業から得ることができる将来のキャッシュ・フロー(回収可能価額といい、使用価値と正味売却価額のうち、いずれか高い方となります。詳しい説明は減損会計③で行います)と現在の事業用固定資産の帳簿価額を比較して、当該固定資産の過大な帳簿価額の部分を早めに減額し、将来に損失を繰り延べないために行われる会計処理を「減損会計」といいます(図2)。 図2 すなわち、事業用固定資産を400百万円で購入したものの、B外食事業がふるわないため、翌期以降使い続けていたとしても100百万円しか回収できない見込みとなってしまった場合に、期末帳簿価額300百万円と回収見込額100百万円の差額200百万円を将来の損失とせずに、当期に損失を認識しようというのが減損会計です。 では具体的に、どのように減損損失を認識するのでしょうか。 次回の減損会計②では「減損会計のステップ ~減損損失の測定までの流れ」について解説します。 (了)
#38(掲載号)
#菅野 進
2013/10/03
会計 税効果会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

税効果会計を学ぶ 【第19回】「連結財務諸表における税効果会計の取扱い④」~連結会社相互間の債権と債務の相殺消去による貸倒引当金の減額修正

-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。   税効果会計を学ぶ 【第19回】 「連結財務諸表における 税効果会計の取扱い④」 ~連結会社相互間の債権と債務の相殺消去による貸倒引当金の減額修正   公認会計士 阿部 光成   「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第6号。以下「連結税効果実務指針」という)3項では、連結財務諸表固有の一時差異として、「連結会社相互間の債権と債務の相殺消去による貸倒引当金の減額修正」を規定している。 そこで、本稿では、連結財務諸表における税効果会計として上記に関する一時差異を取り上げる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 連結会社相互間の債権と債務の相殺消去に関する基本的な考え方 親会社と子会社との間で債権と債務があった場合には、連結財務諸表作成において、債権と債務を相殺消去することになる(「連結財務諸表に関する会計基準」31項)。 個別財務諸表では、通常、債権に対して貸倒引当金が計上されていることから、連結財務諸表作成上、債権と債務の相殺消去に伴い貸倒引当金も調整されることになる。 貸倒引当金については、個別財務諸表において、税務上損金として認められたものである場合と、税務上損金として認められず所得に加算されている場合がある。   Ⅱ いわゆる無税分 1 考え方 個別財務諸表において、債権に対して計上した貸倒引当金が税務上損金として認められたものである場合、個別貸借対照表上の貸倒引当金と税務上の貸倒引当金との間に差異はない。 連結財務諸表においては、債権の消去に伴い、それに対する貸倒引当金が減額されることから、連結貸借対照表上の貸倒引当金は税務上の貸倒引当金より小さくなり、将来加算一時差異が生ずることとなる(連結税効果実務指針18項)。 2 会計処理 減額修正された貸倒引当金が税務上損金として認められていたものについては、前述のように将来加算一時差異が生ずるため、原則として連結手続上、繰延税金負債を計上する。 適用される税率は債権者側の連結会社に適用されるものである(連結税効果実務指針19項)。 ただし、債務者である連結子会社の業績悪化に伴い、債権者が個別財務諸表上で貸倒引当金を計上し、税務上損金算入した場合には、将来加算一時差異について税効果を認識しない。 これは、税務上の損金算入が認められる貸倒引当金が、債権債務の相殺消去に伴い減額修正されても、将来加算一時差異に係る税金は将来においてその支払が見込まれないと考えられるためである(連結税効果実務指針50項)。   Ⅲ いわゆる有税分 1 考え方 前述のように、連結財務諸表においては、債権の消去に伴い、それに対する貸倒引当金が減額されるが、減額修正される貸倒引当金が税務上損金として認められず所得に加算されている場合には、個別貸借対照表上の貸倒引当金は税務上の貸倒引当金より大きくなるため、個別財務諸表上、将来減算一時差異が発生する。 しかしながら、連結手続上、貸倒引当金の減額修正が行われると、連結貸借対照表上の貸倒引当金は当該修正額だけ小さくなり、結果として税務上の貸倒引当金に一致し、個別財務諸表上で発生した将来減算一時差異は消滅することになる(連結税効果実務指針18項)。 2 会計処理 減額修正された貸倒引当金が税務上損金として認められていないものであれば、その減額修正により個別財務諸表上の将来減算一時差異は消滅するため、個別貸借対照表に計上した繰延税金資産を連結手続上、取り崩すことになる(連結税効果実務指針20項、51項)。 (了)
#38(掲載号)
#阿部 光成
2013/10/03
労務 労務・法務・経営 社会保険

建設業が危ない!労務トラブル事例集・社会保険適用の実態 【第1回】「社会保険加入の現状」

建設業が危ない! 労務トラブル事例集・ 社会保険適用の実態 【第1回】 「社会保険加入の現状」   なりさわ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美   1 建設業における社会保険未加入問題 建設業は、上位の工事発注元から下位の一人親方・職人まで、複数の下請構造となっており、末端になればなるほど小規模零細事業者・個人事業主となることから、労災保険・雇用保険・健康保険等の保険への未加入が多い業種といえる。 労災保険は、業務上での様々な事故が多いことから加入率も高いが、一方で、業務上の事故が発生した際には、保険料率が上がることを避けたいがために、元請事業者が下請事業者に自身の保険利用を強制するなどの不正もしばしば見受けられる。   2 建設国保とは 建設業の健康保険・厚生年金保険については、全国建設工事国民健康保険組合(以下「建設国保」)という制度がある。 これは全国の大工・とび・土木・造園・左官・板金などの建設工事業に従事する者が加入できる保険制度として、昭和45年6月に設立されたもので、通常の健康保険に比べると保険料が安いという特徴がある。 加入資格は、建設工事業に携わっている個人事業所又は一人親方が原則となる。ただし、株式会社などの法人事業所や常時5人以上の従業員を雇用している個人事業所は、健康保険(協会けんぽなどの被用者保険)と厚生年金保険に加入することが義務づけられているが、すでに建設国保に加入している者は、日本年金機構に手続を行い「健康保険適用除外」の承認を受けることで、引き続き建設国保に加入することになっている。   3 平成24年10月調査における加入状況 では現実に、どの程度の加入状況となっているのか。 平成24年10月調査の「公共事業労務費調査における保険加入状況調査の結果」によると、企業別では雇用保険の未加入企業は5%、健康保険の未加入企業は11%、厚生年金保険の未加入企業は11%となっている。 労働者別(一般の被保険者、日雇い、短期雇用)では、雇用保険の未加入は25%、健康保険の未加入は39%、厚生年金保険の未加入は40%となっており、4割が健康保険・厚生年金保険へ加入していないという状況になる。 元請・下請別での加入率でみると、元請79%、1次下請55%、2次下請以下は46%と、下請になるほど加入率は低くなり、年齢別では24歳以下で平均54%程度、65歳以上では50%以上が未加入という状況である。 都道府県別でみると、全国平均で58%に対し、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の都市部での加入率が38%程度と加入率が低い。 職種別では、関連職種平均で58%に対し、とび工・鉄筋工・型枠工は43%程度と加入率が低くなる。これは小規模事業所や個人事業主比率が高い職種での加入が低い傾向につながると考えられる。 社会保険への加入がされていない状況は、技能労働者に対する処遇が低い状況でもあり、万が一、ケガや病気になった際に、適正に保険を利用することができず、健康保持ができない状況が続くと持続的な発展に必要な人材が確保できず、業界全体の発展にも影響することから、行政では5年計画で社会保険加入推進を掲げている。 *    *    * 次回は、なぜこのように社会保険未加入が多い状況となっているのかをお伝えしたい。 (了)
#38(掲載号)
#成澤 紀美
2013/10/03
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

活力ある会社を作る「社内ルール」の作り方 【第4回】「就業規則による管理のポイント」

活力ある会社を作る 「社内ルール」の作り方 【第4回】 「就業規則による管理のポイント」   特定社会保険労務士 下田 直人   〈就業規則がなくなるわけではない〉 前回においては、企業統治についても「螺旋階段的発展の法則」に従って、以下のようなステップを踏んでいくという話をした。 これは、世の中全体もそうであるし、1つの企業の動向を見ても同じことがいえる。 また、どんなに文化や風土による統治の時代が来たとしても就業規則が全くなくなるわけではないことも、IBMのレポートの中のコメントを引用して述べた。 今回は、就業規則による統治のポイントを述べてみたい。 最終的な上記[ステップ3]の文化や風土による統治に至る前段階の明文化された規則による統治のステージにいる企業にとって必要な事項となる。   〈明確化すべきは自社ルール〉 就業規則による統治のポイントは、労働基準法に定めのない部分に先回りして、「自社オリジナルのルール」として明確にしておくところにある。 法的に定めがある部分については、極論を言ってしまえば工夫の余地はない。 例えば、年次有給休暇の付与については、正社員であるならば、入社から6ヶ月経過した時点で10日は付与しなければならない(もちろん、法律の基準より前倒しすることは自由だが)。 これをいくら就業規則で「当社は入社1年後に有給休暇を付与する」としても、無効である。 それに対して、法律に特段の定めがないことは、会社によって扱いが異なるため明確なルールを定めておくことが重要となる。特に“服務規律”と呼ばれる、「当社の従業員であるならばやってはならないこと」「当社の従業員であるならばやらなければならないこと」については明確に定めておく必要がある。 例えば、副業、遅刻・欠勤時の手続、Facebookなどのソーシャルメディアの取扱い、社内への私物の持込みなどについては、会社により考え方が異なる部分でもあるので、自社のルールを明確にして示しておくことが重要である。 例えば会社を欠勤するときは、上司へ許可を求めるのか、届出さえすればいいのか? ある会社は、「欠勤時は上司に届け出ろ」としている。 また、ある会社では、「上司の許可をもらえ」となっている。 前者は特段許可を要しないので、これも極論を言えば、本人に出欠を決定する権利をゆだねているといえる。 それに対して、後者は、欠勤を決定する権利は従業員にはなく、会社側にあることを明確にしている。   〈SNSの取扱いをどこまで言及するか〉 ソーシャルメディアについての取扱いも注意を要する。 もちろん、プライベートにおける使用についてまで、会社で制限をかけることはできない。また、会社の秘密事項などを書き込むことについて問題があることは、一般的には理解あるだろう。 例えば、競争入札をするときに、会社の入札額がわかる資料をソーシャルメディアにアップしてしまっては大問題となることは容易に想像がつく。判断が難しくなってくるのはそういうことではなく、会社で行った日常的な出来事や社員や役員のプライバシーに間接的に関わってくるようなものの取扱いだ。 例えば、営業の社員が得意先である●●社を訪問したことが明らかとなるような写真をアップした場合等だ。具体的に「●●社に訪問した」とコメントしなくても、その会社の看板が写った写真をアップすれば取引関係にあることが想像ついてしまう。これがライバル会社にわかってしまえば、いらぬ問題に発展する可能性もある。 このようなところから、自社のソーシャルメディアの取扱いをどのようにするのかは、基準を定めておくことが望ましい。 このほかにも労働時間の設定や休暇の設定、懲戒処分の設定などを決めておく必要がある。   〈米国企業における自社ルールの定め方〉 ただし、何度も述べていることであるが、就業規則による統治を進めていくと、どんどん細部までルール化する必要が出てきて不便極まりない状況に陥り、どこかで方向転換が必要になってくる。そのターニングポイントが、文化や価値観などを明確にして、それによる経営に転換していくときだ。 前回も紹介したが、IBMのレポートでは、グローバル企業のCEOへのインタビュー結果を次のようにまとめている。 これに基づけば、ある時点から価値観を共有することで遵守されるルールは廃止していくことになる。例えば、そのような会社では、ソーシャルメディアの取扱いについてはポリシーのみ定めて、具体的なルールは廃止していくことになるだろう。 実際、筆者が9月に企業訪問したアメリカの企業では、会社の価値観(コアバリュー)による経営が徹底されており、Facebookの扱いなどについて管理はしていないと言っていた。そして、そのことが経営陣が従業員を尊敬している証となりモチベーションを高めていると話しているのが印象的だった。 また、ある会社では、年次有給休暇の日数管理すらしていなかった。価値観の浸透により悪用する者がいないからだそうだ。 このような会社の業績が悪いのであれば見習うこともできないだろうが、共通しているのはどの会社も複数年にわたって業績好調であった。 (了)
#38(掲載号)
#下田 直人
2013/10/03
労務・法務・経営 法務

常識としてのビジネス法律 【第1回】「ビジネスと文書(その1)」

常識としてのビジネス法律 【第1回】 「ビジネスと文書(その1)」   弁護士 矢野 千秋   1 ビジネスにはなぜ文書が必要か ビジネスには文書が必要とされる場合が多く、そのうち権利義務に関するものや、それを証明するものを「法律文書」と呼ぶ。 その代表例は、営業関係でいえば、領収証、請求書、注文書、注文請書、催告書、報告書、契約書、委任状などであるが、その形式について、どのように作るべきかなどの法律上の制約は、原則として存在しない。 これは、もともと私的自治の原則(私法上の大原則)とそれから派生する契約自由の原則(締結の自由、相手方選択の自由、内容決定の自由、方式の自由。この4つの自由が含まれている)に由来する。 「私的自治の原則」とは、簡単に言うと、他人に迷惑をかけない限り私人間のことは自由である、官は余計な規制をしない、という意味であり、歴史上、人民が国家権力から勝ち取ってきたものである。 したがって、方式も内容も規制がなく、書面にするかしないか、どのような内容を盛り込むかも自由なのであるが、実務上は重要なものであれば書面化が望ましいし、内容的にも、最小限「いつ」「誰が」「どのような内容を」「誰宛に」(4W)書いたかを明らかにすることが必要である。 上記のように方式に法律上の制約がないのであれば、文書を作っても作らなくてもよいはずなのに、なぜ文書を作成することが望ましいのか。 それは以下のメリットがあるからである。 ① 内容の明確性を担保する(すなわち、誤解、思い違い、忘却等を防ぐ) 書面化することによってお互いの意思を再確認できるし、内容が複雑な場合に忘却等を防ぐことができる。 このメリットを考えれば、担当者の記憶だけに任せておくようなことでは確実な回収は望めないことが明らかであろう。 また内容の明確性は、次の②の前提ともなっている。 ② 後日の証拠となる(すなわち、紛争となった場合に、水掛け論を防止し、裁判上の強力な証拠となる) 裁判上の証拠としては、書面のみならず証人の証言も法律上は均しく証拠として同じ扱いなのであるが、人証(証人の証言)と書証(書面による証拠)には実務上証明力の違いがあり、一般に書証の方が強力である。 その理由は、利害が絡むと人間は嘘をつくこともあるので、いきおい裁判官は書証に重きを置くことになるからである。 以上より、たとえ訴訟になった場合にも、勝訴判決が取れる可能性が高い。ということは、相手方は訴訟で争っても敗訴の可能性が高いわけであるから、手間ヒマをかけても無駄になり、それなら争わずに履行することにもつながる。 すなわち、紛争の抑止力にもなるのである。   2 作成が望ましい文書 私的自治の原則から、原則として法律上文書作成が義務づけられているものは少ない。 以下、法律上文書作成が義務づけられているわけではないが、後日の証拠とする意味で作成しておくことが望ましい文書について説明する。 内容としては最小限、前述の4Wは落さないようにする。なお、契約書については稿を改めて説明する。   3 「領収証」の記載ポイント 金銭を支払ったときには領収証を請求できる。これは「相手方が領収証を出さないときには支払いを拒否できる」ということである。 そして領収証の証明力を担保するためには、以下の事項の記載が最少限必要である。 ① 領収金額 できるだけタイプ等で印刷したものが望ましい。手書きの場合は算用数字のみならず、漢数字を併記する方がベターである。 もちろん手書きの算用数字は変造が容易だからである。 算用数字は3桁ごとにコンマを入れ、冒頭に¥、末尾にピリオド(.)及びハイフン(-)を記載して終了を示す。 漢数字は冒頭に「金」、末尾に「円也」で終了を示すべきである。 金額の訂正は好ましくない。 できれば金額を誤った領収証は破棄し、新しい領収証用紙を用いるべきである。 どうしても訂正が必要な場合は訂正すべき金額欄全体を2本線で消し、その真上に新しい金額を記載して領収証作成に使用した印章を訂正箇所の上から押捺する。 ② 領収文言(領収金額と合わせてWHAT) 金額欄の下に、「上記金額を領収致しました。」との文言を入れるべきである。 通常表題に「領収証」と記載するから、表題のもつ補充的効力から一定金額を領収したものであることが推測できるが、文書作成のメリットの1つが「内容の明確性の担保」にあることから、補充的効力に頼るのは望ましいことではない。 ③ 領収年月日(WHEN) 実際に金銭を領収した日を入れるべきである。 実際の日と異なった日を入れると、相手方の帳簿の日付などと相違した場合に領収証自体の信憑性が問われることにもなりかねない。 また、担当者に金銭の受領権限があったか否かなども、一応この記載された日が基準となって判断されるからである。 ④ 領収者の記名・捺印(WHO) 領収者の署名(自署)でも構わないのだが、通常取引では記名、すなわち印刷かゴム印が良い。 これは、取引では記名が用いられることが一般的だからである。 捺印は受領担当者のものになることが多い。したがって、真実その者に受領権限があるかどうかに注意する。 ⑤ 宛名(支払った者。会社間取引では会社名になる)(WHOM) できるだけ「上様」はやめる。 支払いをした会社名を完全に記載して交付すべきである。 「上様」は税務署が偽造を疑う場合の一つであり、取引先に迷惑をかけることにもなる。 ⑥ 「領収したのが何の代金か」も記載した方が望ましい(望ましいもう1WのWHY) 単発的な取引においても金銭を受け取った原因、理由は書くべきであるし、また文書化のメリットから考えて、多数取引があるときや、継続取引などでは、個々の請求権との対応関係を明らかにするために必須ともいえる。 ⑦ 領収金額に応じた収入印紙の貼付 3万円未満は非課税、3万円以上100万円以下は200円、100万円超200万円以下は400円等となる(くわしくは「印紙税額一覧表」17号文書を参照のこと)。 消費税額は必ず別記載する。 【例:525万円(消費税額25万円を含む)等】 この場合、記載金額は500万円となり、印紙税額は1,000円である。合計額525万円だけを書いていると合計額が記載金額となり、印紙税額は2,000円となる。 金銭を領収したもの、すなわち領収証作成者が印紙代を負担する。 なお、消印は領収者が領収証作成に用いた印章を用いて消すのが無難である。 ボールペンでのバツ(×)印などでは、税務署は消印と認めない。 ⑧ 領収証用紙など 市販の領収証用紙などを用いるのは好ましくない。 領収者の属する会社特有のものを使用すべきである。 市販の領収証用紙などは、やはり税務署が脱税を疑う場合の一つだからである。 それ以外にも、日付、領収者の住所・電話番号などが入っていないもの、捺印に三文判が用いられているもの、金額が妙に丸いもの(10万円などのようにキリのいい数字)なども疑惑を持たれやすい。 *   *   * 次回も引き続き「作成が望ましい文書」のうち、「請求書」「注文書」などの記載上の留意点について紹介する。 (了)
#38(掲載号)
#矢野 千秋
2013/10/03
労務・法務・経営 法務

親族図で学ぶ相続講義 【第10回】「遺言と生前行為」

親族図で学ぶ相続講義 【第10回】 「遺言と生前行為」   司法書士 Wセミナー専任講師 山本 浩司   [被相続人甲野一男 相続関係説明図]   上記の相続関係説明図を元に、今日は、2つの問題を考えてみることにしましょう。 いずれも、甲野一郎が所有しているX不動産の所有権が、誰に帰属するかという問題です。 いわゆる「二重譲渡」の問題です。 以下の、贈与も、遺贈もいずれもその効力を有するときに、乙野花子と甲野一郎のいずれがその所有権を取得するか、この問題は、登記の先後で決します(つまり、登記の早い者勝ち)。 この規定により、登記のある甲野一郎は、乙野花子のその所有権を対抗(主張のこと)できます。 登記のない乙野花子は、甲野一郎にその所有権を対抗(主張のこと)できません。 したがって、X不動産の所有権は甲野一郎に帰属します。   【事例1】とは、順番が違いますね。 今度は、遺言の作成が先です。 この場合は、どうなるでしょうか? 一見すると、【事例1】と同じにみえます。 しかし、その結論は異なります。 今度の事例には、次の規定の適用があるのです。 この規定の背景にある思想をご説明しますと、遺言の制度の趣旨は、遺言者の最終の意思の尊重ということにあります。 そこで、1項は、(前の遺言と後ろの遺言は、原則として、双方が有効だが)、仮に、前の遺言と、後ろの遺言にの内容が抵触したら、生き残るのは、後ろの遺言だ(前の遺言は撤回とみなす)ということを言っています。 むろん、後ろの遺言が、遺言者の最終意思だからです。 そして、この考え方を、遺言者の遺言後の生前処分に準用したのが、第2項です。 そこで、【事例2】の場合、まず、X不動産を甲野一郎に遺贈する遺言を作成し、その後に、同一の不動産を乙野花子に贈与したときは、遺言者の最終意思は、乙野花子への贈与にありますから、遺言は、撤回みなしとなります。 このため、【事例2】のケースは、実は、次の法律関係となります。 甲野一郎は、登記名義を有するものの、その登記は実体のない無効な登記です。 無権利者である甲野一郎は、自らの名義の登記を有するものの、乙野花子の登記の欠缺(けんけつ:登記が欠けていること)を主張する正当な利益を有しませんから、結果として、X不動産の所有権は、乙野花子に帰属することとなります。 (了)
#38(掲載号)
#山本 浩司
2013/10/03
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会社を成長させる「会計力」 【第2回】「東京五輪とIFRS財団アジア・オセアニアオフィス」―IFRS財団アジア・オセアニアオフィスの東京開設と期待―

会社を成長させる「会計力」 【第2回】 「東京五輪とIFRS財団アジア・オセアニアオフィス」 ―IFRS財団アジア・オセアニアオフィスの東京開設と期待―   島崎 憲明   《2020年夏季五輪の東京招致》 2013年9月8日は、日本にとって歴史的に記念する日となった。 早朝の起きがけにテレビのスイッチを入れた瞬間、ロゲIOC会長が五輪マーク入りの封筒を開け、「TOKYO 2020」と書いたカードを掲げながら「トーキョー」と読み上げる姿が目に飛び込んできた。 全くの偶然だが、歴史的瞬間に立ち会うことができた。 東京開催の決定は、前回の失敗を踏まえ政財界を挙げたオールジャパンでの招致活動が実を結んだものである。 五輪開催の経済的効果や国民のマインドが前向きになるという期待もあり、安倍首相はライバルのマドリッドやイスタンブールに競り勝って東京開催が決まった後、「15年続いたデフレ、縮み志向の経済を五輪開催決定を起爆剤として払拭していきたい」と語っている。 この五輪招致は「今後7年は続く成長戦略」、「アベノミクス第四の矢」と期待する報道もみられる。久々の明るい話題として喜びたい。 今月は「リスク・リターンとバランスシート・マネジメント」を予定していたが、これに代えて「IFRS財団アジア・オセアニアオフィスの東京開設と期待」について話を進めたい。   《IFRS財団アジア・オセアニアオフィス設置の必要性》 IFRS財団は2001年に設立され、ロンドンを拠点にグローバルな活動を行ってきた。 EUが2005年からIFRSを採用したこともあって、欧州中心の運営が長く続いている。アジア・オセアニアと北米にサテライトオフィスを設ける話はリーマンショック以前から検討されていたが、財団の財政上の問題もあって決定が棚上げになっていた。 ちょうど私が財団のトラスティに就任した2009年当時は、アジア各国ではIFRSとのコンバージェンスやアドプションが急速に進展しつつあり、我々の地域の、我々のためのオフィスが必要であるとの声が高まっていた。 サテライトオフィスの設置には日本の他に中国、香港、シンガポールが非公式に名乗りを上げ、招致合戦の火蓋がきられたのもこの頃で、中国、シンガポールは、まさに国を挙げての活動を展開しているとの話も聞こえていた。 そのような中、私は日本への招致を実現するには、次の①~③などのような布石が必要との認識をもって、戦略の立案と内外関係者への働きかけを開始した。 規模は違うが、夏季オリンピックの東京招致活動に似たところがあるように思える。   《東京に設置が決まった要因》 アジア・オセアニアオフィスを東京に招致できた要因は、次の5点であろう。 ① 官民挙げての継続的な招致活動 会計・資本市場関係者のトップから実務担当レベルまで、幅広い層による取組みが実を結んだ。 ② 我が国のIFRS 財団に対する人的・資金的貢献 財団の創設以前から、金銭面に止まらず、国際標準策定のために汗を流してきた実績が評価された。 ③ 過去10年の貢献実績に加え、次の10年に向けた日本への期待 日本が、IFRSの導入について任意適用からさらに踏み込んだ方向性を示し、この地域のリーダー国としての役割を果たしてほしいという期待である。 ④ 決定のタイミング 日本と中国とがお互いに譲らぬまま最終段階を迎えたが、財団内には「円満に合意形成ができるまで正式決定を急ぐ必要はない」という雰囲気があった。 しかし、時が経てば経つほど、経済的台頭著しい中国への支持が大きくなるという懸念もあり、早期の正式決定に向けて根回しした記憶がある。東京設置の正式決定は東日本大震災発生の前月、2011年2月であった。 ⑤ オーストラリアとインドからのサポート アジア・オセアニア地域代表のトラスティによるコンセンサス形成では、東京での設置について、オーストラリアとインドから支持を取り付けることができた。   《オーストラリア、インドからの支持》 両国との関係構築は、財務会計基準機構、経団連、日本公認会計士協会、東京証券取引所、金融庁など会計関係者オールジャパンの総合力を発揮することによって実現した。 まずオーストラリアとは、2009年9月にミッションを派遣し、同国財務省、会計士協会、商工会議所などを訪問したのが始まりである。シドニー、キャンベラ、メルボルン、シドニーと4日間に13回のミーティングとオフィシャルディナーとランチを持つというハードスケジュールであった。 また、2011年2月には東京で「オーストラリアから学ぶIFRSの実務的導入」と題するセミナーを開き、これにより会計の日豪関係がさらに深まった。 次にインドとは、2010年2月と4月の2回、ニューデリー、ムンバイを訪問した。インド企業省大臣、次官、会計士協会会長、証券取引委員会議長など主要関係者との面談が目的である。企業省との打合せでは、日印関係構築に向けたMOUの締結と日印IFRSダイアローグの開催まで一気に話が進んだ。 7月には、インド企業省次官を団長とする資本市場・会計関係者19人を東京に迎え、第一回日印ダイアローグとIFRSフォーラムを開催した。 インドとの関係構築がこのスピード感で実現したのは驚きだが、これは、日印両国のIFRS導入の状況が類似しており、将来への想いを共有できたことの結果である。   《中国との関係》 中国との関係では、2010年6月と2011年6月の2回、財務会計基準機構理事長と共に北京を訪問し、中国財務省副大臣、会計士協会会長などと面談した。 初回の訪中は、日本が招致に名乗りを上げ、中国との招致争いが熾烈化するタイミング。次は、東京での設置が正式に決まった直後である。 初回の訪中で副大臣からは、アジア・オセアニアオフィスを北京に招致したいとの強い意向が示されたが、日本側も譲れない。副大臣との面談では、「1つのオフィス設置を2都市で争うことになるが、正々堂々とやりましょう」という発言もあった。 1年後の訪問では、東京に決まった報告とオフィスの運営について中国の協力を要請。副大臣からは礼を尽くした対応に「男の友情は女の涙より尊い」との言葉があり、あとは大変な歓待で「乾杯、乾杯」のエール交換で盛り上がった。   《2011年6月の金融担当大臣発言と政権交代後の動き》 金融担当大臣発言により、2009年6月に公表された中間報告に基づくロードマップの日程が先延ばしされることになった。 東日本大震災の発生や米国の方向性が見えていないことが日程延期の理由とされたが、決定には唐突感があった。 大臣発言の4ヶ月前の2月に、IFRS財団アジア・オセアニアオフィスの東京開設が決まっている。当時のIASB議長デービッド・トゥイーディ氏は決定後の記者会見で、「日本がIFRSを強制適用することで、アジアの他の国でもIFRSの全面採用に進んでいくと期待している」と発言している。その期待にブレーキを踏むような大臣発言であった。 機会を捉えて日本での議論のポジティブな面を強調するなど、国際対応に苦慮した覚えがある。 しかしここにきて、前政権下では足踏み状態、否、後退感が強かったIFRS導入論議に、新たな進展がみられる。 5月29日、自民党企業会計小委員会に招聘され、我が国におけるIFRS導入について意見を述べる機会があった。その後に取りまとめられた同小委員会の提言では、強制適用についてはさらなる議論が必要としたものの、任意適用の拡大に関しては数値目標と期限を定めている。 IFRS導入についての大きな前進であると評価したい。 また、再開された企業会計審議会では日本版IFRSの策定が議論されており、同時に、我が国からの国際的意見発信力強化の必要性も強く提言されている。 IFRS財団アジア・オセアニアオフィスは当地域の声をIASBの基準開発に反映させるための拠点としての機能が期待され、新設されたASAF(会計基準アドバイザリー・フォーラム)は世界各地域の意見を聴取する場となるであろう。 このような場と機会を捉えて、我が国が積極的で前向きな意見発信を継続的に行うことが、我が国がG20で国際的にコミットしている「高品質で単一の国際的な基準開発への貢献」に繋がると思う。 *   *   * 来月は「リスク・リターンとバランスシート・マネジメント」に話を戻したい。 (了)
#38(掲載号)
#島崎 憲明
2013/10/03
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顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第17回】「棚卸資産管理のKPI(その① 受払検証)」

顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第17回】 「棚卸資産管理のKPI (その① 受払検証)」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 前回までは「仕入・買掛債務管理」のKPIを取り上げたが、今回から3回にわたり、「棚卸資産管理」のKPIを取り上げる。 棚卸資産は、販売用の商品・製品、製造中の半製品・仕掛品、その原材料の総称である。それらは、営業活動の仕入を受けることによって増加し、販売で払い出されることによって減少する。その残高は、帳簿棚卸や実地棚卸により数えることによって確定するが、いずれの場合も有効な管理を行うためには、棚卸資産の受払の記録を継続していることが求められる。 この点で「棚卸資産管理」は、これまで取り上げた「売上・売掛債権管理」や「仕入・買掛債務管理」と業務の流れにおいて密接に連動している。 そこで、今回は、有効な棚卸資産管理を行う前提となる受払の継続記録の正確性を担保するKPIを取り上げる。 なお、スコアリングモデルを構成する18種類の業務全体の中では、「棚卸資産管理」は、該当する会社だけが回答する選択調査項目である。   KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 経済産業省スタンダードでは、棚卸資産管理において、会社が担う一般的な機能として、「残高管理」、「受払管理」、「適正在庫管理」という3つの機能を挙げている。 今回解説するKPIは、「残高管理」と「受払管理」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:棚卸資産管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より)   さらに、経済産業省スタンダードでは、「残高管理」と「受払管理」に関連する業務プロセスを次のようにまとめている。 〈経済産業省スタンダード:3.2.1受払検証〉   〈経済産業省スタンダード:3.1.1実地棚卸検証〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より)   なお、経済産業省スタンダードでは、「残高管理」を「受払管理」よりも先に紹介して連番を付けているが、スコアリングモデルでは、「受払管理」が日常的に継続され、「残高管理」が定点観測的に行われるという実務の業務の流れを重視し、以下では、「受払管理」、「残高管理」の順に紹介する。 まず、「受払管理」では、棚卸資産の種類毎に日常の受払とその結果として算出される残高を継続的に記録する受払帳票を作成する。作成の過程で、受払帳票と証憑を照合し、取引の品名、受払日、数量、単価、金額が正確に帳簿に記帳されていることを検証する。 次に、「残高管理」では、棚卸資産の現物を実際に数える実地棚卸を行い、実地棚卸結果を「受払管理」で記録された帳簿残高と照合する。照合の結果、両者に乖異があった場合には、原因を究明し、帳簿残高を実際の残高に修正する。 今回のKPIは、実地棚卸によって判明した実際の残高と帳簿残高の乖離に着目し、日常の受払管理の正確性のレベルを問うものである。   定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 「棚卸差異」(A)とは、修正前帳簿記録の棚卸高と直前決算期末の実地棚卸高の差の絶対値をさす。 「棚卸差異」(A)、「実地棚卸高」(B)いずれも、数量ではなく取得原価で測定した金額で算定する。 なぜ、数量ではなく金額で比率を求めるのか。 財務報告上の実施棚卸の目的は、期末の単なる数量合わせにとどまらず、売上原価と期末の棚卸資産帳簿残高という金額を適正に測定、表示することにある。数量の差異だけを議論しても、棚卸資産毎の取得原価の違いが財務諸表の金額に与える影響を測りきれない。 会社の経営者や外部の利害関係者の立場でも、棚卸資産毎に受払管理の正確性のレベルを通じて最終的な財務諸表の金額の正確性のレベルを会社間で比較できることが有用と思われる。 このような観点から、数量でなく金額で比率を求めることにした。 ところで、「棚卸差異」(A)は、棚卸資産の紛失や盗難という現物管理上の原因と、受払記録の誤りという会計上の原因で発生するため、「棚卸差異」(A)の比率を受払記録の正確性を測る指標とするには、実地棚卸を適正に行う管理体制の整備が前提となる。 すなわち、実地棚卸を倉庫担当者等日常的に棚卸資産に接する者や営業部門担当者等帳簿を計上する者だけに任せるのでなく、両者に加えて両者から独立性のある経理財務部門担当者を交えて行う職務分掌、現物の実在性や真正性を担保する体制や確認方法、在庫の集計表を作成するまでの承認手続の整備が欠かせない。   KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルにおいて、このKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、棚卸資産の数量と金額を適正に財務諸表に反映するため、継続記録の精度を高めることが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 この価値判断が共有されず実地棚卸で多額の棚卸差異が発見される場合、次のような問題が会社に潜んでいるだろう。 まず、会計上の観点では、仕入計上や売上計上が架空であるか又は漏れている可能性がある。これは、棚卸資産管理に先行する売上・売掛債権管理や仕入・買掛債務管理において、会社が組織的に備えるべき日常的経理能力と内部統制のレベルが低いことを意味し、結果として財務諸表の信頼性が揺らいでしまう。 現物管理上の観点では、保管中の棚卸資産の紛失、横流し、破損、目減り等が放置されている可能性があり、資産保全上のリスクを惹起する可能性が高い。 そこで、スコアリングモデルでは、実地棚卸という発見的統制によって日常の継続記録の正確性のレベルを比較するため、棚卸差異の比率をKPIとした。比率は%で表されるが、この比率が小さい会社が大きい会社よりも相対的に望ましいと考えている。 では、どの程度の比率が望ましいのか。これが読者の最も高い関心事と思われる。 本連載の第5回で述べたとおり、スコアリングモデルの特長は、KPIデータに基づく相対評価を採用し、コンサルタント等の人による絶対評価を採用しないことにある。そのような立場を前提にすれば、望ましい比率があらかじめ決まっているわけではなく、各会社が競争の過程で一定のレベルに収斂すると想定される比率、すなわち、各会社が提供したKPIデータ群によって形成されるベンチマークが、会社が目指すべき目安となる。   顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 まず、読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、日常的な売上計上や仕入計上に受払検証が組み込まれていること、一定の頻度で実地棚卸検証が行われていることを確認していただきたい。 例えば、販売管理規程、購買管理規程、実地棚卸規程を閲覧し、職務分掌や承認手続の整備を確認することが考えられる。 それを前提に、試算表、在庫集計表を試査により閲覧し、試算表の修正前帳簿残高金額と在庫集計表の実地棚卸結果金額の差異を算出していただきたい。 さて、読者の顧問先において、修正前帳簿記録と実地棚卸の乖離は何%になったであろうか。 *  *  * 次回も、引き続き「棚卸資産管理」を構成する複数のKPIから、「実地棚卸」に関連する業務プロセスを評価するKPIを取り上げる。 (了)
#38(掲載号)
#島 紀彦
2013/10/03
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税理士・公認会計士事務所[ホームページ]再点検のポイント 【第6回】「ホームページの移管に制約があるケースも・・・」

税理士・公認会計士事務所 [ホームページ]再点検のポイント 【第6回】 「ホームページの移管に 制約があるケースも・・・」   データライズ株式会社 代表取締役社長 公認会計士・税理士 河村 慎弥   前回、前々回と、ホームページの管理会社を替える、いわゆるホームページの移管についてお話してきました。今回は、その最後の話として、とても大切な、移管が制約されてしまうことがある「法律的な問題」と、「技術的な問題」についてお話します。  *  *  * まず、法律的な問題とは、著作権の問題です。 ホームページの管理会社を替えるとか、制作会社と違う会社にホームページの改変を依頼する場合には、必ず著作権が問題になります。 ただしここで、ホームページの著作権について、法律的な問題を延々とお話するつもりはありません。 税理士事務所や公認会計士事務所のホームページの移管において、 さらに これら2点に必要な注意点だけをお話していきます。  *  *  * 税理士事務所や公認会計士事務所のホームページに関する著作権について考えた場合、文章や事務所メンバーの写真などの掲載事項と、ホームページのデザインがその対象となるのが一般的です。 著作権の帰属は制作時の契約にもよりますが、掲載事項については制作委托者である税理士事務所や公認会計士事務所に、ホームページのデザインについては制作受託者であるホームページ制作会社に著作権があることが多いようです。 トラブルに巻き込まれないことが第一、という前提で考えると、まず、現在の管理会社の著作権に関する理解を確認する必要があります。 管理会社変更時において、既存のホームページを丸ごと持ち出して再使用できるのか、または、持ち出せるのは掲載事項だけなのか、はたまた、一切持ち出せないのかを確認しましょう。 さらに、持ち出せるとして、その後自由に改変できるのか、ということも確認します。 自由に改変できないとなると、ホームページの更新ができなくなってしまうからです。 現在の管理会社が、著作権について、制作時の契約と異なる主張をしてきた場合等を除き、現在の管理会社の理解に合わせてホームページの移管を考えるのが、トラブル回避という点からは得策です。 既存のホームページを丸ごと持ち出すことができるのでしたら、後は、技術的な問題点の検討になります(この点は後述します)。 また、掲載事項しか持ち出せない場合は、その掲載事項を使って、新しい管理会社で新たなデザインでホームページを制作することになります。 新規制作料金はかかってしまいますが、ゼロから新規制作する場合に比べれば遙かに短い日数で、かつ、新しいデザインのホームページが出来上がります。 具体的には、1~2週間程度もあれば充分でしょう。 「持出しは一切不可」とか、「持出後の改変は禁止」と言われてしまった場合には、移管ではなく、既存のホームページを廃棄して、新たな管理会社で制作し直すのが無難です。 その際も、以前のホームページをタタキ台にして新たな掲載内容や新たなデザインを決めていけば、ゼロから制作する場合に比べて遙かに短い日数で出来上がります。 具体的には2~3週間程度もあれば充分でしょう。 なお、現在のホームページのドメイン(第2回参照)を使い続けることができるのなら、ホームページを見ている人には、管理会社が変更されたことはわかりません。  *  *  * 最後に、移管が制約されてしまう技術的な問題です。 それは、CMSで制作されているホームページ(第3回参照)や、通販などのシステムが組み込まれているホームページの場合に生じ得ます。 くわしい解説は省きますが、そのようなホームページの場合には、丸ごと持ち出すことが不可能なケースもあるのです。 そうなると、たとえ上記でお話した著作権の問題がなくとも、部分的または全面的に制作し直す他なくなります。 これに該当するのか否かは、移管先の管理会社から移管元の管理会社に技術的な事項を問い合わせてもらうことにより、明らかにできます。  *  *  * ここまで3回にわたり、ホームページの移管についてお話してきました。 ホームページは半永久的に公開しているものですので、コスト的には制作コストよりも管理コストの方が重要である場合が多くなります。 問い合わせや更新依頼などへの対応も含め、納得のいく管理会社を選定しましょう。 (了)
#38(掲載号)
#河村 慎弥
2013/10/03

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