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親族図で学ぶ相続講義【第2回】「数次相続と遺産分割(その1)」

親族図で学ぶ相続講義 【第2回】 「数次相続と遺産分割(その1)」   司法書士 Wセミナー専任講師 山本 浩司 上の相続関係説明図は、前回のものをちょっとだけ変形したものです。 どこが変わったかというと、甲野一男の死亡の日付です。今度は、甲野一男は、被相続人である甲野太郎の死亡より後に死亡しています。 前回の講義で、被相続人が死亡したときに生存していない者には相続権はないという「同時存在の原則」についてお話しましたが、今度は、被相続人である甲野太郎の死亡したときに、その養子である甲野一男は生存していました。 したがって、被相続人である甲野太郎の相続財産は、その配偶者(甲野花子)と子(甲野一男)が各2分の1の相続分で相続します。 なぜって、子がいれば孫が代襲相続することはありえないし、被相続人である甲野太郎の姻族一親等の甲野桜子には相続権がないことも前回お話しましたね。 そして、その後に相続人の甲野一男が死亡して、第二の相続が発生することになります。 こういうパターンを「数次相続」といいます。 第一の相続(甲野太郎死亡による相続:平成24年3月20日)によりその子である甲野一男が相続した相続分(甲野太郎の相続財産の2分の1)は、第二の相続(甲野一男死亡による相続:平成24年4月10日)により、甲野一男の相続人に承継されます。 では、甲野一男の相続人は誰でしょうか。 こういうときの考え方の基本は「相続は一件ずつ」ということです。 第一の相続と第二の相続は「別の事件」ですから、別々に考えればいい(基本的に両者は無関係の関係)のです。 つまり、第二の相続では、前回の講義ではテーマとなった甲野一男が甲野太郎の養子であることや、甲野一郎が養子縁組前の養子の子であるということはまったく考慮の必要がありません。 甲野一男の相続人は、その配偶者の甲野桜子(相続分は4分の2)と子(嫡出子)の甲野一郎および甲野次郎(相続分は各4分の1)です。 つまり、第二の相続は、配偶者とその配偶者の間の嫡出子2人が相続するという、世間でごくありふれた相続事件にすぎません。 さて、以上で結論がでました。甲野太郎の相続財産は数次相続の結果、次の割合で各人に承継されます。 甲野花子  8分の4 甲野桜子  8分の2 甲野一郎  8分の1 甲野次郎  8分の1 第1回の講義のとき(甲野一郎が被相続人甲野太郎の死亡以前に死亡したパターン)とは、大きく結論が異なりますね。 このように相続事件は、関係者の死亡の前後で結論に大きな相違が生じることが多々あります。 では、ここからが問題です。 もし、みなさんの税理士事務所に、甲野太郎の相続財産の全部を甲野一郎に相続させたいという依頼があったらどうするか? しばし、考えてみてください。 たとえば、甲野太郎が所有する「X不動産の名義を甲野一郎にしたい」という依頼があったらどうするか? この問題は、けっこう面白い論点があり、また、相続というものの法的性質を考える上でも示唆にとむ問題でありますので、その結論は次回のお楽しみということにしましょう。 (了)
#5(掲載号)
#山本 浩司
2013/02/07
労務・法務・経営 経営

〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第1回】「病床規模別の利益率と業績格差を生む要因」

〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第1回】 「病床規模別の利益率と業績格差を生む要因」   東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕   1 本連載の目的 病院は医師・看護師・その他専門職が集うプロフェッショナル集団であり、個の力が果たす役割は極めて大きい。個の力が強すぎるがゆえに、組織力に欠ける傾向もあり、俗人的な要素が強いことも否定できない。 その点では、会計プロフェッションと共通しており、会計人と同じ悩みを共有しているともいえる。だからといって、組織マネジメントに関する経営理論を適用しても、病院の成長は期待できない。 医療人は、同じプロフェッショナルとして、会計人に対して強い信頼と期待を寄せている。 しかし、病院経営は会計に関する知見だけでは解けない難題の連続である。「人件費が増えている。医薬品費が増えている」など問題点を指摘したところで、「今なにをすべきか」を導き出すことは困難である。しかし、病院経営層が求めているのは処方箋あるいは手術であり、ピンポイントで課題を指摘され、その解決策を提示してほしいと強く願っている。 つまり、会計の知見を提供するだけでは、病院経営層の真の信頼は得られず、期待ギャップが生じることは避けられない。 会計プロフェッションにとって、病院は潜在的・顕在的クライアントとして重要な価値がある。病院経営層からさらなる信頼を醸成するためには、会計プラスαの付加価値を有することが鍵を握る。そのための実践的なスキルを提供するのが本連載の目的である。 我が国の病院をより良い方向に導き、成長軌道に乗せるための定石について余すところなく言及する。   2 病床規模別の利益率 経済が停滞している中で社会保障費の占める割合は増加しており、医療費は抑制せざるを得ない状況にある。つまり、病院は一定範囲の収益の中で経営を行っていくことが求められる。 本連載の第1回では、医療機関の現状の業績を可視化し、業績格差を生む要因について検証する。 図表1は、公表資料をもとに病床規模ごとの黒字病院と赤字病院の割合をみたものである。 図表1 一般病院では全体として6割が赤字であり、厳しい経営環境に置かれていることがわかる。特に400床未満は赤字病院の割合が多い傾向があり、中小病院冬の時代といっても過言ではないであろう。一方、400床以上では、600床台のみが赤字病院が多いがこれは大規模病院の建て替え需要を反映したものであり、経済的に余裕があったからこそ大規模投資を行い、結果として減価償却費が業績を圧迫したのかもしれない。 次に業績格差を生む要因について考えていく。 図表2に示すように、黒字病院は医業収益に占める給与費の割合(以下、給与費率とする)が低く、ヒトの生産性が高いことがわかる。 図表2 一般病院全体 黒字病院と赤字病院の比較 給与費率は、給与費/医業収益であるため、分子の給与費が多いのではないか、つまり赤字病院は人が多いという仮説を持つ方も多い。 しかし、その仮説はほとんどのケースでは間違っている。人が多い病院ほど利益が出ている傾向があるからだ(図表3)。 赤字に陥る病院は、分母にある医業収益が少ないのである。この要因は地域の中での立ち位置や診療報酬の適切な算定など様々な理由が考えられるが、医業収益を増加させなければ、経営成績の向上は期待できない。 図表3 医業利益率と職員数の状況   実際、図表4に示すように、給与費率が低い病院は、手術料が多く収入が多い傾向がある。給与費率については、外部委託の多寡が影響するので、給与費と委託費をあわせて検証することも有効である。 図表4 人件費率+委託比率と手術件数の相関   また、図表5は最も赤字病院の割合が多かった20~99床と600床~699床病院の財務状況をみたものである。 図表5 一般病院 黒字病院と赤字病院の傾向 ここから、材料費率については給与費率ほど、黒字病院と赤字病院で大きな差はみられない。手術を積極的に行う高機能な病院ほど材料費率が高い傾向があり、重症患者をどれだけ診ているかの指標ともいえる。もちろん材料の管理が適切でなかったり、購買のあり方に問題をはらんでいるケースもゼロとは言えないが、それなりの介入を行えば比較的短期間に改善できることである。 また、材料を多少安く買ったところで、それだけで黒字になるほど病院経営は甘くない。材料費率に含まれる医薬品については院内処方であれば多くなり、結果として給与費率が低くなる傾向があることには留意したい。 3つ目は減価償却費比率である。 新築などの大規模投資後には、減価償却費が利益を圧迫することは避けられない。しかし、この点でも黒字病院と赤字病院に大きな差はみられない。差が大きくないのは、積極的に投資を行い成長し続ける病院がある一方で、業績悪化のため新規投資を控えざるを得ず低収益という負のスパイラスに陥る病院があることを意味するのであろう。もちろん過剰な投資は不採算につながるため慎重にすべきであるが、適切な医療を行うためには継続して一定程度の投資はやむを得ない。 最後に、図表6に示すように、規模が大きい病院ほど固定比率が低く、財務的な弾力性が高いことが予想される。この点が大規模病院の方が利益が出やすい傾向にあることと関係しているものと考えられる。 図表6 対医業収益比の医業費用の構成比率 (了)
#5(掲載号)
#井上 貴裕
2013/02/07
労務・法務・経営 経営

事例で学ぶ内部統制【第9回】「個別決算業務プロセスの内部統制の評価」

事例で学ぶ内部統制 【第9回】 「個別決算業務プロセスの 内部統制の評価」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 今回から2回にわたり、決算財務報告プロセス(FSCP)の内部統制をめぐる事例を取り上げる。 FSCPは、いわゆる単体決算と連結決算に分かれるが、今回取り上げるのは、単体決算である個別決算業務プロセスの内部統制の評価である。 筆者(株式会社スタンダード機構)主催の実務家交流会では、個別決算業務プロセスにおけるリスクとコントロールの概要、その運用評価に利用する評価ツールについて意見交換を行った。 交流会で明らかとなった各社の創意工夫を見てみよう。   個別決算業務プロセスのリスクとコントロール そもそも、実務ではどのように個別決算業務プロセスを定義しているのだろうか。 筆者が参加企業に対して、「個別決算業務プロセスをさらに細かく分けると、どのようなサブプロセスに分かれているか。個別決算業務プロセスの中身を確認したい」と切り出した。 参加企業Aは、「①資産評価、②引当金計上、③税金計算・税効果の3つに分けた」(部品メーカー)と話した。 参加企業Bも、「個別決算業務の内容はA社さんと同じだ。ただ、食品の加工に使う材料の輸入が多いので、為替予約ヘッジ会計処理、仕入在庫確定レート算出という業務を加えた」(食品メーカー)と話した。 参加企業Cも、「A社さんの分類に加えて、建設業を営むわが社は、工事進行基準決算売上、完成工事保証損失引当金、工事損失引当金という業務を加えた。また、決算の早期化に取り組んでいるため、月次決算や未経過勘定関連仕訳を個別決算業務プロセスに加えて適時性や正確性を評価している」(プラント会社)と話した。 このように、各社が設定していたサブプロセスは多数あり、呼称も統一されていなかったものの、個別決算業務プロセスを構成する重要な要素としては、次の3分類を基礎に、企業の固有事情に応じてサブプロセスを加減していると総括できた。 なお、企業の固有事情に応じて評価対象に追加したと報告されたサブプロセスの事例は、次のとおりとなった。 月次決算 未経過勘定関連仕訳 仕掛品評価(各カンパニーからの仕掛品データ入手、ITからの仕掛品データ入手、未実現利益数値の転記、製造専属費の按分、原価差額の按分、仕掛品集計表の作成、仕訳入力) 原価差額調整 販売管理費表示組替え 工事進行基準決算確定(適用案件調査の実施、工事進行基準総括表の作成) 材料勘定(総勘定元帳とITのリスト照合、各カンパニー作成受払表照合、全社残高集計表作成) 経費確定 製品保証引当金(個別事情の受容、繰入率の計算、引当金取崩し、引当金戻入れ、引当金繰入れ) 工事損失引当金(引当対象案件の抽出、引当金繰入れ・取崩し) 完成工事保証損失引当金(個別事情の受容、繰入率の計算、引当金取崩し、引当金戻入れ、引当金繰入れ)   個別決算業務プロセスにおける内部統制の運用評価に利用する評価ツール 次に、個別決算業務プロセスの内部統制の運用評価を行う場合に利用する評価ツールについて議論を行った。 その結果、参加企業の対応は、次の3つに分かれた。 【パターン1】 リスクコントロールマトリクス(RCM)型 参加企業Dは、「個別決算業務プロセスでも、業務記述書、フローチャート、RCMと呼ばれる3文書を作成し、運用評価ではRCMを使っている」(医療機器メーカー)と、個別決算業務プロセスを通常のプロセスレベルの内部統制(PLC)として捉えていた。 パターン1の参加企業は過半数に上った。 【パターン2】 チェックリスト型 参加企業Eは、「個別決算業務プロセスの内部統制の評価にRCMを作っていると聞いて、正直なところ驚いている。個別決算業務は、いずれの業務を見ても、担当者に経理財務の専門知識が求められるだけでなく、帳簿外で複雑な計算や評価を行うことが多いので、フローチャートにまとめるには馴染まないと思った。 そこで、わが社は、RCMも含めて3文書は作成せず、むしろ、重要な確認事項を質問形式で確認するチェックリストを作って評価している」(情報通信会社)と、個別決算業務プロセスを全社レベルの内部統制(ELC)の一環として捉えていた。 参加企業Fも、「わが社も個別決算業務プロセスの評価はチェックリストで行っている。個別決算業務は、それを構成するサブプロセスが複雑で、かつ証憑に残りにくいため、RCMを作成しにくかった。 そこで、コントロールだけを質問形式にしたチェックリストを作成した。なお、運用評価では、サンプルチェックではなく、全件チェックしている」(建設会社)と話した。 この報告に対して、複数の参加企業から、「その場合、評価実務は誰が行うのか」という質問が投げかけられた。 前出の参加企業Eは、「評価者は、経理部門に所属している。すなわちセルフチェックとなっているが、評価者自身が業務やコントロールの内容を熟知しているため、チェックリストによる評価でも実質的な評価が可能だ」と話した。 前出の参加企業Fは、「わが社も評価者は、経理部門に所属しているが、セルフチェックとならないように、運用評価を行う経理部員は日常の伝票起票や承認といった経理実務には関与しないことにより独立性を確保している」と話した。 【パターン3】 混合型 参加企業Gは、「チェックリストとRCMの両方を使っている。チェックリストは、経理規程、経理マニュアル、経理作業項目確認表の整備と周知のように、個別決算業務に着手する前に全社レベルで対応するコントロールの評価に使う。RCMは、資産評価、引当金計算、税金計算・税効果や決算数値の増減分析や異常値の承認というコントロールの評価に使う。 確かに、個別決算業務は複雑だが、一定の流れはあるし、職務分掌で担当者は分かれているので、できるだけPLCに倣ってリスクとコントロールを記述した。 また、わが社では、経営者評価で監査部の担当者が個別決算業務プロセスで算出された数値の正確性を評価する場合、帳簿から計算過程を発生源にどこまで遡って数値を再現すべきかが課題となったが、その課題に一定の目安を提示するため、RCMに明記する方が便利だった」(総合電気メーカー)と話した。 また、前出の参加企業Bは、「わが社も、当初はチェックリストを使っていたが、個別決算業務に精通していない監査部の担当者が、リスクの内容やそのコントロールが設定されている実質的な理由を忘れてしまい、効果的な評価ができなくなってきたため、チェックリストを廃止してRCMを作ることに変えた。今はその過渡期で、両者を使っている。 E社さんもF社さんも、個別決算業務の複雑性や証憑の少なさを理由にチェックリストで対応されたと報告されたが、わが社はむしろ逆の発想だ。 つまり、業務が複雑で証憑に残りにくいからこそ、その性質として財務報告の信頼性に対するリスクが高いと考えられるから、経理知識が少ない監査部の担当者であっても、リスクとコントロールの内容を理解して評価にあたることができるようにするため、RCMで明記する方が有効と判断した」と、RCMの優位性を主張した。 次回は、連結決算業務プロセスの内部統制の評価を紹介する。 (了)
#5(掲載号)
#島 紀彦
2013/02/07
読み物 連載

資産の海外移転をめぐる シンガポール最新事情【第1回】─世界の富裕層が集まる国、その理由とは─

資産の海外移転をめぐる シンガポール最新事情 【第1回】 ─世界の富裕層が集まる国、その理由とは─   Advance Business Support Pte. Ltd. 代表 大曽根 貴子    ■世界の富裕層が集まる国、シンガポール 「シンガポールに資産を移転したい」という依頼が、金融機関やコンサルタントの元に相次いでいる。 東日本大震災以降、資産だけでなく、生活の拠点を移したい、本社機能を移転したいという相談も増えつつある。 シンガポールには、世界から資金が流入し、富裕層が生活拠点を移している。 ボストン・コンサルティングが行った世界財産調査によれば、2011年時点において全世帯における富裕世帯(富裕世帯とは、金融資産100万米ドル超を保有する世帯のことをいう)の割合が最も高いのは、シンガポールの17.1%であった。 シンガポールでは、6世帯に1世帯が富裕世帯なのである。 ジョージ・ソロス氏と共にクォンタム・ファンドを設立した投資家のジム・ロジャース氏や、フェイスブックの共同創設者であるエドアルド・サヴェリン氏などもシンガポールに移住している。   ■シンガポール税制の魅力 世界中から富裕層がシンガポールに住まいを移すのはなぜか。 その理由には、魅力的な税制が挙げられる。 シンガポール税制の概要をまとめると、以下のとおりである。   ■富裕層課税が強化される日本 一方、日本の税制は今、どうなっているのか。 2013年1月24日に公表された平成25年度税制改正大綱では、所得税の最高税率を2015年から課税所得4,000万円超について45%に引き上げること、相続税の基礎控除額を削減し、最高税率を55%に引き上げることなどが盛り込まれている。 富裕層にとって、日本はさらに住みづらい国となってしまう。 税負担の増加を懸念し、資産を海外に移転する個人及び法人が年々増加している。 また、海外移住を検討する起業家や投資家は、限定的であるものの増加している。 このような流れから、課税当局は2013年より国外財産調書の提出制度を導入し、課税逃れ行為の監視体制を強化している。 また、外国に移住した後、キャピタル・ゲインや国内源泉所得について申告漏れを指摘され、課税当局と訴訟となったケースもある。 このため、移住や相当額の資産を海外移転する場合には、事前に税務リスクを洗い出し、対策を検討した上で実行することをお勧めする。 (了)
#5(掲載号)
#大曽根 貴子
2013/02/07
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《速報解説》 贈与税関連の改正事項(教育資金贈与以外)─平成25年度税制改正大綱─

《速報解説》 贈与税関連の改正事項 (教育資金贈与以外) ─平成25年度税制改正大綱─   税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良   平成25年1月24日に、与党から平成25年度税制改正大綱が公表された。 本稿では、平成25年度税制改正大綱に含まれる贈与税関連(教育資金贈与以外)の改正について、その内容を概観し、改正の影響を検討していく。   1 平成25年度税制改正の内容   ―贈与税関連(教育資金贈与以外) (1) 贈与税(暦年課税)の税率構造の見直し 【改正前】 【改正後】20歳以上の者が直系尊属から贈与を受ける場合 【改正後】上記以外 相続税の最高税率が50%から55%に改正されることに併せて、贈与税の最高税率も50%から55%に改正される。 また、20歳以上の者が直系尊属から贈与を受ける場合には、改正により贈与税の税率が緩和される。 この改正は、平成27年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用される。 (2) 相続時精算課税制度 改正により、相続時精算課税制度が適用される受贈者の範囲に、20歳以上である孫が追加される。また、贈与者の年齢要件が60歳以上に緩和される。 この改正は、平成27年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用される。 (3) その他 この改正は、平成25年4月1日以後に贈与により取得する国外財産に係る贈与税について適用される。   2 平成25年度税制改正の影響   ―贈与税関連(教育資金贈与以外) 平成25年度税制改正で相続税が増税となる一方、贈与税は減税の方向で改正が行われる。 具体的には、20歳以上の子供・孫が贈与を受ける場合、改正前と比較して、改正後は適用される贈与税率が緩和される。また、改正後は、相続時精算課税制度の適用範囲が拡大し、受贈者に20歳以上の孫が追加され、贈与者の年齢要件が60歳以上に引き下げられる。 相続税増税が実施されることに伴い相続税対策の必要性が増加すると考えられるが、その対策の1つである生前贈与は、この贈与税改正もあり、より実行されるケースが増加すると考えられる。 なお、平成25年度税制改正により、贈与税の課税財産の範囲が拡大している(相続税も同様)。 改正前では、受贈者を海外に居住させ、かつ日本国籍を持たない場合、国内財産のみが贈与税の対象となるが、改正後は、贈与者が日本に住所をもつ場合、国外財産も贈与税の対象となる。 富裕層の相続税対策を行う場合には、この改正点についても留意する必要がある。  (了)  
#5(掲載号)
#根岸 二良
2013/02/07
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《速報解説》 雇用促進税制の拡充について─平成25年度税制改正大綱─

 《速報解説》 雇用促進税制の拡充について ─平成25年度税制改正大綱─   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   1 はじめに 平成25年1月24日、与党の平成25年度税制改正大綱が決定され、同29日には閣議決定された。 平成25年度税制改正では、民間投資や雇用を喚起し持続的成長を可能とする成長戦略に基づく政策税制措置を講じることとされており、特に雇用の拡大・所得の増大を念頭に置いた税制措置として「所得拡大促進税制」が創設されたほか、従来の雇用促進税制の拡充が盛り込まれた。 本稿では「雇用促進税制」について解説を行う。なお、所得拡大促進税制の創設についてはこちらをご参照いただきたい。   2 改正前の雇用促進税制の概要 青色申告法人が平成23年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する各事業年度(以下「適用年度」という)において、雇用者を5人以上(中小企業においては2人以上)増加させ、かつ、雇用者増加割合が10%以上である等の一定の要件を満たす場合には、増加雇用者1名当たり20万円を法人税額から控除することができる(措法42の12)。ただし、控除税額は法人税額の10%(中小企業は20%)を限度とする。 この制度における「雇用者」とは、法人の使用人のうち雇用保険の一般被保険者であるものをいう(役員の特殊関係者及び使用人兼務役員を除く)。 (1) 適用要件 雇用促進税制の適用を受けるためには、各適用年度において、以下に示す要件を満たす必要がある。 そしてこの制度の適用を受ける場合には、適用事業年度開始後2ヶ月以内に、主たる事業所を所轄する公共職業安定所(ハローワーク)に「雇用促進計画」の提出を行い、都道府県労働局又は公共職業安定所で上記の①~③のまでの要件について確認を受け、その際交付される雇用促進計画の達成状況を確認した旨を記載した書類の写しを確定申告書に添付する必要がある(措法42の12①、措令27の12①②、措規20の7①)。 (2) 税額控除限度額 20万円×基準雇用者数(法人税額の10%【中小企業者等は20%】を限度とする)   3 改正の概要 税額控除限度額を増加雇用者数1人当たり40万円(現行20万円)に引き上げるほか、適用要件の判定の基礎となる雇用者の範囲について所要の措置を講ずる。 今回の改正では適用要件そのものは変更されていないものの、雇用者の範囲の見直しについては、「雇用保険の一般被保険者」という定義が見直されるのかどうか、引き続き留意したい。 (了)
#4(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2013/02/06
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《速報解説》 所得拡大促進税制の創設について─平成25年度税制改正大綱─

 《速報解説》 所得拡大促進税制の創設について ─平成25年度税制改正大綱─   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   1 はじめに 平成25年1月24日、与党の平成25年度税制改正大綱が決定され、同29日には閣議決定された。 平成25年度税制改正では、民間投資や雇用を喚起し持続的成長を可能とする成長戦略に基づく政策税制措置を講じることとされている。 本稿では、その一環として創設された「所得拡大促進税制」について解説を行う。   2 所得拡大促進税制の概要 青色申告書を提出する法人が国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、以下の①~③の要件を満たすときには、その給与等支給増加額の10%の税額控除(法人税額の10%(中小企業者等については20%)を限度)ができる。 なおこの制度は、雇用促進税制、復興特区等に係る雇用促進税制との選択適用となる。   3 各用語の意義 (1) 国内雇用者 法人の使用人(法人の役員及びその役員の特殊関係者を除く)のうち、法人の有する国内の事業所に勤務する雇用者をいう。 ここで「雇用者」の定義については現段階では明らかとなっていないが、雇用促進税制との選択適用となることを考慮すると、雇用促進税制における「雇用者」の定義(措法42の12②二)と同様、「雇用保険の一般被保険者」に該当するものに限られると考えられる。パートタイマーやアルバイトの取扱いについては留意が必要である。 (2) 給与等支給額 各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう。 (3) 基準事業年度 平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度の直前の事業年度をいう。   4 適用関係 平成25年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する事業年度について適用される。   5 数値による設例 (了)
#4(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2013/02/06
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《速報解説》 相続税関連の改正事項(小規模宅地特例・事業承継税制以外)─平成25年度税制改正大綱─

《速報解説》 相続税関連の改正事項 (小規模宅地特例・事業承継税制以外) ─平成25年度税制改正大綱─   税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良   平成25年1月24日に、与党から平成25年度税制改正大綱が公表された。 本稿では、平成25年度税制改正大綱に含まれる相続税関連(小規模宅地特例・事業承継税制以外)の改正について、その内容を概観し、改正の影響を検討していく。   1 平成25年度税制改正の内容   ―相続税関連(小規模宅地特例・事業承継税制以外) (1) 相続税の基礎控除の引下げ 基礎控除は、改正前の金額と比較して、改正後は40%マイナスした金額に引き下げられる。 この改正は、平成27年1月1日以後に相続又は遺贈により取得される財産に係る相続税について適用される。 (2) 相続税の税率構造の見直し 相続税の税率構造が見直され、上記表における2億円以下までの部分については税率の変更はないが、2億円超3億円以下、及び6億円超、の部分については税率がアップしている。 この改正は、平成27年1月1日以後に相続又は遺贈により取得される財産に係る相続税について適用される。 (3) 未成年者控除と障害者控除の引上げ 未成年控除、障害者控除の金額は、税制改正により引き上げられる。 この改正は、平成27年1月1日以後に相続又は遺贈により取得される財産に係る相続税について適用される。 (4) その他 平成24年度税制改正大綱では、相続税の計算における死亡保険金の非課税枠について圧縮することが示されていたが、平成25年度税制改正大綱では改正が行われておらず、現行の取扱いが継続される。   2 平成25年度税制改正の影響   ―相続税関連(小規模宅地特例・事業承継税制以外) 平成25年度税制改正の相続税関連(小規模宅地特例・事業承継税制以外)で一番大きな影響がある部分は、基礎控除の引下げといえる。 国税庁が公表している統計年報(平成22年)によれば、相続税が生じた相続については、法定相続人の数は3人が一番多く、次いで2人、3人となっている(税額が生じる相続税申告全体に占める割合78.3%)。 したがって、相続税申告(税額が生じるもの)を行う場合の基礎控除は、7,000万円、8,000万円、9,000万円が約8割を占めていることになる。 これが改正後は、これらの基礎控除が4,200万円、4,800万円、5,400万円に引き下げられることから、相続税の対象者が大幅に増加することが予測される。 また、10億円以上の財産を所有する富裕層にとっては、基礎控除の引下げ及び相続税の税率構造の見直しは、共に相続税の税額を増加させるものであり、従前以上に相続税対策の必要性が高まると考えられる。  (了)  
#4(掲載号)
#根岸 二良
2013/02/05
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《速報解説》 延滞税等の見直し─平成25年度税制改正大綱─

《速報解説》 延滞税等の見直し ─平成25年度税制改正大綱─   弁護士 木村 浩之 1 はじめに 与党である自民党・公明党が策定した平成25年度税制改正大綱(平成25年1月24日公表)において、納税環境整備の一環として、延滞税等の見直しが盛り込まれた。 以前より、延滞税等の割合については、市中金利に比べて高すぎるとの批判があったところである。 そこで、今回、平成26年4月からの消費税率の引上げに伴い、消費税等の長期滞納が懸念される企業の税負担の緩和策として、延滞税の割合(税率)の引下げが図られたものである。また、それに合わせて、利子税、還付加算金などの割合(利率)も引き下げられることになる。 以下では、延滞税等の見直しに関する改正の概要につき、主に国税に関して述べるが、地方税(延滞金、還付加算金)についても同様の改正がなされる予定である。   2 延滞税の税率の引下げ 延滞税は、期限内に国税の納付がなされない場合に課されるものであり、遅延利息(履行遅滞に基づく損害賠償)の性質を有するものと解されている。 現行の制度では、納期限から2ヶ月(地方税については1ヶ月)を経過するまでの間は、未納税額に特例基準割合(現在、年4.3%)を乗じて計算される額の延滞税が課されることになる。この期間を超えると、未納税額に年14.6%を乗じて計算される額の延滞税が課されることになる。 今回の改正では、特例基準割合を現行の「日本銀行が定める基準割引率+4%」から「銀行の貸出約定平均金利(新規・短期)+1%)」に改めた上で、延滞税の税率について、以下のとおり実質的な引下げがなされる予定である。 なお、これに合わせて、納税の猶予等がなされた場合の延滞税の税率についても、現行の特例基準割合(年4.3%)から新たな特例基準割合(年2%程度)に、実質的な引下げがなされる予定である。   3 利子税・還付加算金の利率の引下げ 利子税は、延納等の場合に課されるものであるが、延滞税の税率の引下げに合わせて、原則的な利子税の利率も、現行の特例基準割合(年4.3%)から新たな特例基準割合(年2%程度)に、実質的に引き下げられる予定である。 また、同様に、還付金等に付される還付加算金の利率についても、今回の延滞税の割合の引下げに合わせて、現行の特例基準割合(年4.3%)から新たな特例基準割合(年2%程度)に、実質的に引き下げられる予定である。   4 適用時期など 以上の改正は、平成26年1月1日以後の期間に対応する延滞税等について適用されることが予定されている。 いずれの改正も、税法に規定される利息の性質を有するものの利息割合を市中金利に近づけようとするものであり、基本的に妥当なものといえることから、改正が実現する見込みは高いと考えられる。  (了)
#4(掲載号)
#木村 浩之
2013/02/05
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「平成25年度税制改正」はこう読む 【第1回】

「平成25年度税制改正」はこう読む 【第1回】   一般社団法人 日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部 泰久   はじめに 1月24日、自民・公明の新政権は、異例の年明けの税制改正で、実質18日間という短期間で、極めて重要な内容を含む平成25年度税制改正大綱(以下「大綱」)を決定した。 本稿では、大綱の概要を紹介しながら、その背後にある政治的な課題、経済・社会よりの要請を考察し、なぜ、平成25年度税制改正がこのような内容となったのかを解説していきたい。 いわば、大綱の深読みをしていくが、あくまで筆者の個人的な読み方であり、経団連の公式な見解ではないことを、まずお断りしておく。   1 税制の決定メカニズム 税制改正の中身に入る前に、まず、民主党から自民党・公明党連立への政権交代により、税制改正の決め方がどのように変わったのかを見ておきたい。 これは、税制改正の決定メカニズム=誰がどのように税制改正を決めるのかということ自体が、税制改正そのものの性格を形成するからである。 (1) 民主党政権下の税制改正決定 民主党政権下では、都合3回の年次改正が行われたが(このほか東日本大震災の関連税制措置が2回に分けて講じられている)、その決定方法はすべて異なっていた。 22年度改正では与党内に税制を審議する場を置かず、すべてを政府税制調査会で決めようとしたが、最後は小沢幹事長「裁定」の出番となった。23年度改正では民主党税制調査会が復活したが、これは与党の意見をまとめて政府税調に伝えるための組織と説明されていた。 24年度税制改正は、実質的に民主党税制調査会が「政治主導」で仕切った。民主党政権下の政府税調は財務大臣を会長、総務大臣を会長代理として、各省の副大臣クラスをメンバーとしていたが、所詮各省の代弁者でしかなく、相互に矛盾・対立する税制改正要望を整理し、税制改正を決定することはできなかった。 税は政治であり、税制改正は政治メカニズムの中でしか決められないことが、改めて確認されたとしか言いようがない。 (2) 自民党税制調査会の復活 自公政権は、最初から与党内で税制改正を決めることとして、政府税制調査会は実質的に廃止された。 最初に復活したのは自民党税制調査会の「インナー」であり、総選挙の結果判明後翌々日、12月19日に開催されていることは注目すべきである。 なお、当初のインナーメンバー7人のうち、伊吹文明氏が衆議院議長に、石原伸晃、林芳正の両氏が入閣していることは、インナーの顔触れ*の重要さを示唆している。この場で、平成25年度税制改正のスケジュールと、公明党との与党税制協議会の設置、一体改革関連は民主党を含めた3党で協議することを確認している。 さらには安倍新政権発足前、12月21日には最初の正副顧問幹事会を開き自民党税制調査会は動き出した。その後、12月27日に、抜けた3氏を除く4人でインナーを開催し、税制改正の具体的な検討項目と手順を確認し、財務省・総務省に準備を指示している。 年明けの1月7日の自民党税制調査会総会では、正副顧問幹事会の幹部人事、検討項目、与党としての大綱を1月末までに取りまとめることを決定した。 以降、正副顧問幹事会、国会議員であれば参加自由の小委員会、インナーや与党協議を含めば、12日、13日以外の全ての日に何らかの会合を設定し、24日の大綱決定に持ち込んでいる。 年次税制改正を決定する場として自民党税制調査会は完全に復活し、中でもインナーの位置付けは、旧来以上に高まっている。 もともとインナーは、正副顧問幹事会、小委員会の前に議論を整理する場であったが、今回のインナーは、実質的な決定機関として機能している。 インナーの役割の高まりは、短期決戦での大綱とりまとめが必要であったこと、与党税制協議会、さらには、民主党を含めた3党協議会によって決すべき事項がある中で、速やかに自民党としての意見集約を必要としたことが理由として挙げられる。 *インナーメンバー:野田毅会長、額賀福志郎小委員長、高村雅彦顧問、町村信孝顧問、宮沢洋一参議院議員、石田真敏衆議院議員の6氏、このうち、町村氏を除く5名が与党税制協議会の自民党側メンバー。   (3) 短期間での大綱とりまとめ それでは、なぜ、極めて短期間での大綱とりまとめを必要としたのか。 1月24日の大綱とりまとめは、1月末までの平成25年度政府予算案の決定から逆算された日程でしかない。 歳入予算である税制改正案決定から政府予算案決定まで、1週間は必要である。また、緊急経済対策関連を重要な内容とする平成25年度税制改正法案を年度内に成立させることは、参議院選挙前までに景気回復を図るためにも不可欠である。 そのためには、たとえ自公で衆議院の3分の2を超える議席を有し再議決が可能であるとしても、例年通り2月初旬には法案を提出し、できるだけ早く衆議院を通過させ、参議院に送らなくてはならない。 逆に、短期間で取りまとめができたのは、次章で述べるように、25年度税制改正でやるべきことが予め決まっており、自民党内での重大な対決案件は車体課税ぐらいでしかなかったことが大きい。 (4) 与党協議と3党協議 前の自公連立政権でも、与党としての税制改正の決定は、双方の税制調査会の代表者からなる与党税制協議会で決しており、自民党税制調査会の審議と並行して、頻繁に与党税制協議会が開催されたことは当然でもある。 しかし、今回、与党税制協議の性格を大きく変えたのは、一体改革の積み残し課題については民主党を含む3党協議の前の与党内調整の場となったからである。 民主党政権下では、2010年参議院選挙後のねじれ国会での一体改革関連法案成立のため、消費税率引上げを政策として掲げる自民党、公明党との協力が不可欠となった。「社会保障・税一体改革大綱(2012年2月17日閣議決定)」以降、2012年6月の3党合意を経て、同年8月の一体改革法成立に至る過程は、3党協議がメインの場となった。 その中で、積み残された所得税最高税率引上げ、相続税・贈与税見直し、消費税率引上げに伴う住宅対策、車体課税等の課題は、引き続き3党間で協議して成案を得ることとされていたが、自公が衆議院で絶対多数を得たことでその扱いが注目されていた。 しかし、野田会長は与野党立場を変えても3党合意の結果を誠実に尊重することを繰り返し言明し、実際に3党協議はそれなりに有効に機能し続けた。 これは、できれば参議院で民主党の協力を得て円滑に税制改正法案を処理したいとの立場からは当然でもあるが、自公間での意見の相違がある項目を3党協議に持ち込むことで、公明党をけん制する意図があったものと思われる。現に、所得税最高税率引上げ、相続税・贈与税見直しは、公明党の主張を抑え込む形で、旧民主党政府案に近い形で決着をみている。   2 平成25年度税制改正の全体像 平成25年度税制改正が何であるのか、その全体像は大綱の前書きである「第一 平成25年度税制改正の基本的考え方」の1ページ目に尽くされている。 (1) 緊急経済対策 25年度税制改正の第1の姿は、緊急経済対策の一環としての税制措置である。 大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」を税制から補強するための「民間投資や雇用を喚起し持続的成長を可能とする成長戦略に基づく政策税制措置を大胆に講ずる」とされており、政策税制を不公平税制として縮小しようとしていた民主党政権からの180度の転換である。 さらに、民主党政権の分配政策重視との決別、経済成長=パイの拡大重視への宣言である。これは、7月の参議院選挙対策のような矮小な話ではなく、今後の自民党中心の政権の政策の柱の大きな一つとなるべきものである。 具体的には、大綱2~3頁に「1 成長による富の創出に向けた税制措置」として掲げられた、生産等設備投資促進税制、研究開発促進税制の拡充、所得拡大促進税制、雇用促進税制の拡充、中小企業対策としての交際費課税の軽減、相続税強化の緩和策としての事業承継税制、教育資金の一括贈与の非課税措置の創設などが盛り込まれている。 (2) 一体改革の積み残し課題 25年度税制改正の第2の姿は、税制抜本改革としての一体改革の積み残し課題の実現である。 具体的には、大綱3頁以降の「2 社会保障・税一体改革の着実な実施」として掲げられた、所得税最高税率の引上げ、相続税・贈与税の見直し、消費税引上げに伴う住宅取得への負担軽減措置、車体課税の見直し、低所得者対策としての軽減税率の導入である。 ここでは、所得税最高税率の引上げ、相続税・贈与税の見直しについて旧民主党政府案を尊重した決着となったことが、今後の国会審議の中で民主党の賛成までは得られないとしても、何らかの協力を得る足掛かりになるという点を重視したい。 また、積み残しとなった、車体課税や軽減税率の導入をめぐっては、さらなる3党協議の可能性もあり、これは特に参議院選挙後に、自公を軸としながらも、さらなる連立の組み合わせとしての民主党の余地を残すことにもつながろう。 (了)
#4(掲載号)
#阿部 泰久
2013/01/31
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