酒井克彦の
〈深読み◆租税法〉
【第11回】
「内縁の妻は配偶者控除の適用を受けられるか?(その2)」
~租税行政への配慮と実質に従った租税法の適用姿勢~
国士舘大学法学部教授・法学博士
酒井 克彦
1 租税行政事務への配慮
内縁の妻に配偶者控除を認めることにより、租税行政事務に重大な支障を来たしはしないかという問題もあろう。
この点について、前回一部を紹介した大阪地裁昭和36年9月19日判決(行裁例集12巻9号1801頁)は次のように論じている。
問題は徴税事務に重大な支障を来たしはしないかの点である。もし徴税機関が内縁関係(いかなる男女間の関係を指すかは学説、判例又は健康保険法等の各条項により、容易に判明するところである。)の発生日時を確定しなければならないとすると、その認定は非常に困難である。この点が問題の大部分である。
実際問題として、租税行政庁において、内縁の妻かそれ以外の単なる私通関係であるか、婚姻関係であるかを見極めることが可能であろうか。この点について考える必要があるかもしれない。
もっとも、租税法には、内縁関係であることの認定を前提とする規定がいくつも存在している。
例えば、国税徴収法75条《一般の差押禁止財産》は、次のように規定して、内縁関係者の所有する生活最低限の用に供する財産への差押えを禁止している。
国税徴収法75条
次に掲げる財産は、差し押えることができない。
一 滞納者及びその者と生計を一にする配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係にある者を含む。)その他の親族(中略)の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
(以下略) ※下線筆者
また、所得税法等は、同族会社等の行為又は計算の否認等の対象について、その同族会社の判定基準を施行令に委任しているが、例えば、所得税法施行令276条《事業の主宰者の特殊関係者の範囲》は、次のように規定しており、「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」の保有する株式等をも勘案した上で、判定を行うこととしている。
所得税法施行令276条
法第157条第1項第2号ロ《同族会社等の行為又は計算の否認等》及び第158条《事業所の所得の帰属の推定》に規定する主宰者と政令で定める特殊の関係のある個人は、次に掲げる者及びこれらの者であった者とする。
一 当該主宰者の親族
二 当該主宰者とまだ婚姻の届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
(以下略) ※下線筆者
このように、租税法においては、しばしば婚姻の届出をしていないものの婚姻関係と同様の関係にある者の認定を行うことを前提とした規定を用意しているのである。
上記大阪地裁判決においても、次のように説示している。
しかし所得税法第8条第7項により扶養親族であるかどうかは毎年の12月31日の現況によるのであるから、徴税機関が右発生日時を確定する必要はない。そうすると、あとは申告書に記載ある場合に12月31日現在において、納税義務者と生計を一にする者が、内縁の配偶者であるかどうかを認定しさえすればよいことになり、これはさほど困難ではなく、婚姻届のなされている配偶者の場合に比して特段の差を認めることができない。
2 実質によるべきか形式によるべきか
また、租税法の解釈適用の場面においては、適用対象とされる事実の実質的側面に注目して適用を行うべきか、形式的側面に注目して適用を行うべきかという点が論じられることがある。
この点につき、東京大学名誉教授の金子宏氏が、
他の法分野におけると同様に、租税法においても、要件事実の認定に必要な事実関係や法律関係の「外観と実体」ないし「形式と実質」がくいちがっている場合には、外観や形式に従ってではなく、実体や実質に従って、それらを判断し認定しなければならない
と論じられるとおり(金子『租税法〔第18版〕』135頁(弘文堂2013))、実質は形式を凌駕すると考えるべきであろう。
そうであれば、なおさら、形式上の「婚姻届」という用紙の提出のみに着目をするのではなく、より租税法がその適用の基礎とすべきとされている実質、すなわち、婚姻の意思や共同生活の実体という側面の認定を前提として、課税関係を考えるべきなのではないかという疑問が浮上する。
そもそも、心素である婚姻意思と体素である共同生活が一体となった状態である内縁関係は、婚姻意思が存在するが共同生活を欠く場合である婚約や、婚姻意思が存在しないいわゆる私通関係とは区別されているのである。
民法は、内縁関係に認められる実質的な婚姻関係性に配慮して、様々な議論を経て、学説及び判例において、婚姻関係にある者と同様の法律的保護を与えるようにしており、また、他の社会法領域においても同様に内縁関係者を保護しているのである。
例えば、最高裁昭和33年4月11日第二小法廷判決(民集12巻5号789頁)は、次のように判示して、内縁関係者を保護している。
いわゆる内縁は、婚姻の届出を欠くがゆえに、法律上の婚姻ということはできないが、男女が相協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点においては、婚姻関係と異るものでなく、これを婚姻に準ずる関係というを妨げない。そして民法第709条にいう「権利」は、厳密な意味で権利と言えなくても、法律上保護せらるべき利益があれば足りるとされるのであり、内縁は保護せらるべき生活関係に外ならないのであるから、内縁が正当の理由なく破棄された場合には、故意又は過失により権利が侵害されたものとして、不法行為の責任を肯定することができるのである。されば、内縁を不当に破棄された者は、相手方に対し婚姻予約の不履行を理由として損害賠償を求めることができるとともに、不法行為を理由として損害賠償を求めることもできるものといわなければならない
このように考えると、租税法においても同様に、内縁の妻を配偶者控除の対象としても問題はないように思われるが、どうであろうか?
(続く)
「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週・4週に掲載します。






















