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改正労働契約法──各企業への適用に当たっての注意点 【第3回】「雇止め法理に関する実務対応」
改正労働契約法 ──各企業への適用に当たっての注意点 【第3回】 「雇止め法理に関する実務対応」 特定社会保険労務士 奥田 エリカ 第1回、第2回では、有期労働契約の反復更新によって無期労働契約へ転換される場合の問題について、その説明と対応を検討した。 第3回となる本稿では、改正ポイントの2つ目「「雇止め法理」の法定化」を取り上げ、有期労働契約の終了にあたって留意しなくてはならない点を検討する。 [改正ポイント②] 「雇止め法理」の法定化 (改正労働契約法19条) 雇止め法理とは、有期労働契約の労働者が、引き続き有期労働契約の申込みをした場合には、使用者が申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、従前の有期労働契約と同一の労働条件で申込みを承諾したものとみなされるというものである。 つまり、雇止めが無効となってしまうのである。 この場合、対象となる有期労働契約は、次のとおりである。 (1)は、反復更新が無制限に行われ、実質的に無期労働契約と変わらず、また、(2)は労働者が更新を当然に期待する状況があるため、一方的かつ不合理な雇止めはできないという論理である。 (1)又は(2)に該当するかどうかは、有期労働契約における雇用の臨時性、常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待性などの要素を総合的に考慮した上で、個々の事案について判断される。 ◆過去に反復更新された有期労働契約は終了することができない? 上記(1)については、東芝柳町工場事件(最判昭49.7.22)が代表的な判例である。 このケースでは、有期労働契約における期間満了、契約更新の手続がずさんであり、労働者にすれば、契約更新が自動的に行われ継続雇用されるものと信じており、その点において契約期間満了による雇止めは無効と判断されたのである。 (2)については、日立メディコ事件(最判昭61.12.4)で「更新を期待することについて合理的な理由がある」ものと認められるかどうかについてが争われた。本ケースでは、有期労働契約の管理は厳格に行われていたが、更新の回数や雇用の通算期間、職種などから雇用継続の期待が認められると判断された。 上記をまとめると、次のとおりである。 つまり、反復更新された有期労働契約については、解雇権の濫用法理が類推適用され、期間満了をもって終了することは容易ではないといえる。 しかし、有期労働契約は、期間が満了すれば雇用終了であることが原則である。本来の原則を貫くためには、結局、会社として適正な契約期間の管理が極めて重要である。自動更新や口約束といった安易な管理をせず、都度、契約更新の可否や労働条件を確認することで、無期労働契約と実質的に同じとみなされることは一定程度、防げよう。 なお、労働契約法の改正に伴い、労働基準法施行規則でも改正が行われ、労働条件の明示事項に「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準」に関する事項が追加となった。 会社として雇止めを考慮するときには、契約締結・更新前に明示した更新基準に照らし、労働者との信義誠実の原則を踏まえて、更新しない場合の理由を説明することとなる。 一方、難しいのは、上記(2)の雇用継続の期待が認められる場合である。 上記のように雇用期間の管理を適正に行っていたとしても、労働者が更新期待を有するかどうかは主観の問題もある。例えば、有期労働契約について過去に1人も雇止めの実績がないときなどは、契約更新の期待性が認められることとなる。 仮に、契約書に「更新しない」や「更新は3回までとする」と記載しても、更新期待が認められると、雇止めには、解雇権濫用法理が類推適用されることになる。 雇止め法理については個々の事案によって判断され、一般化することは難しい。 「有期労働契約の労働者だから、簡単に雇用関係を終了できる」と考える経営者、人事担当者は今なお多いが、契約更新が反復されれば(あるいは反復されていないとしても)、その終了には注意が必要な点を改めて認識する必要がある。有期労働契約による雇用は、原則として、それが臨時的な業務であるために行われるというのが行政、司法の考えである。人件費の削減や雇用調整をも意図する会社側とその点で齟齬が生じる。しかし、契約期間が長期にわたるのであれば、会社側も正社員登用へのキャリアパスなど考慮に入れるべきだろう。 なお、雇止め法理の法定化におけるもう1つのポイントは、契約期間が満了するまでに労働者が、当該有期労働契約の更新を申込みした場合、又は有期労働契約期間の満了後、遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合に限り、従前の有期労働契約の内容である労働条件を承諾したとみなされる点である。反対に言えば、労働者から申込みがなければ、更新等の申込みを承諾したとみなされることはない。 「労働者からの申込み」とは、雇止めの意思表示があったときに、労働者が「嫌だ」「困る」という労働者の反対の意思表示が会社に伝わるものでもよいとされている。 もし紛争になった場合には、「申込みがあったかどうかの主張・立証責任は労働者側にあるとされ、直接的に会社に伝えているほか、訴訟提起や団体交渉、関係機関への申立てなどによって、申込みの意思あるいは雇止めへの拒否が会社に伝わっていることが必要となる。 現実的に有期労働契約の雇止め・更新にあたってはトラブルが多いところであり、実務面からいえば、当該労働者との話合い、適正な雇用管理がより求められるところである。 本連載の最終回となる次回は、3つ目の改正ポイントである「期間の定めのあることによる不合理な労働条件の禁止」について検討したい。 (了)
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会計事務所の事業承継~事務所を売るという選択肢~ 【第4回】「会計事務所の譲渡契約」
会計事務所の事業承継 ~事務所を売るという選択肢~ 【第4回】 「会計事務所の譲渡契約」 公認会計士・税理士 岸田 康雄 1 譲渡契約書 今回は開業税理士個人の会計事務所を売り手、税理士法人を買い手とするM&Aを前提として、譲渡契約書の記載内容を検討する。 個人の税理士であれば、税理士業務以外のサービスも提供することができる。しかし、税理士法人は税理士業務以外のサービスを提供することができない。 それゆえ、買い手が税理士法人の場合は、税理士法2条1項及び2項以外の業務(例えば、保険代理店、経営コンサルティング、M&Aアドバイザリー業務など)を承継することができない。 譲渡契約書において財産及び契約関係を明示しなければならない。譲渡対象となる資産(什器備品など)の明細書を別紙として添付すればわかりやすい。 会計事務所の経営権が移転し、売り手の所長が退職すると、所長に帰属していた顧客が流出するリスクが顕在化する。 そこで、そのリスクを売り手に負担させるため、譲渡対価の一部の支払いを留保しておき、一定期間経過後に顧客の減少に応じて対価の払戻しを行う方法が採用されることが多い。 税理士は、商法で規定する「商人」に該当しないため、競業避止義務(商法16条)を負うことはない。競業避止義務を定める場合には、譲渡契約書において個別に規定することとなる。 税理士の場合、会計事務所を売却した後に既存顧客を引き抜き、新たに会計事務所を一から立ち上げる売り手も稀に存在することから、買い手にとって競業避止義務は必要不可欠である。 買い手は競業避止義務をできるだけ長くしたいと考えるだろう。しかし、無期限の義務とする規定は、売り手に厳しすぎるとしてその効力を否定される可能性がある。そこで、通常は3年間から5年間と規定されるケースが多い。 また、併せて顧客勧誘禁止義務(顧客に顧問契約の切替えを斡旋することを禁止するもの)や職員勧誘禁止義務(職員の転職を斡旋することを禁止するもの)が規定されることがある。 これらも売り手が既存顧客の引抜きを防止する趣旨である。 ここでも売り手の顧客引抜きを防止するための措置が講じらている。売り手が、クロージング日以降に買い手の会計事務所の職員として勤務を続け、既存顧客との関係性維持に努める義務を負わされるのである。これにより、慎重に顧客を買い手所長へ承継させることができる。 このような引継ぎ期間の役務提供の対価として、売り手は職員としての給与と退職金を受け取ることになる(これは譲渡対価の一部を構成するものと考える)。 表明保証、クロージングの前提条件、契約解除、損害賠償(補償)については、事業会社のM&Aとほぼ同じである。M&Aの譲渡契約は停止条件付きの契約であるため、クロージングの前提条件をすべて充たさなければ取引は実行されない。条件の一つでも充たされなければ、相手方は取引を実行する義務を負わないのである。 M&Aに失敗するリスクは、売っておしまいという売り手よりも、買った後に投資回収を行う買い手の方が大きい。それゆえ、買い手は、損失が発生する要因は、譲渡契約書の中で可能な限り排除しなければならない。 リスク要因は幅広く存在し、想定できなかったリスクが顕在化して驚くケースが多々存在する。多少のコストを負担してでも、ケース経験豊富なM&Aアドバイザー及び弁護士を雇い、専門家のアドバイスを得る方が結果的には安上がりになるであろう。自分は税理士だからと過信すべきではない。 (了)
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〔税理士・会計士が知っておくべき〕情報システムと情報セキュリティ 【第2回】「IT サービス(クラウド、SaaS、ASP)とは」
〔税理士・会計士が知っておくべき〕 情報システムと情報セキュリティ 【第2回】 「IT サービス(クラウド、SaaS、ASP)とは」 公認会計士 坂尾 栄治 クラウドとは クラウド(cloud)という言葉は2009年頃から頻繁に使われるようになったが、正確には「クラウド・コンピューティング」の略である。 システムの絵を書くときにネットワークを雲のマークで表すのが一般的であるため、ネットワークの向こう側にデータを置いたり、ネットワークの向こう側のソフトウエアを利用したりすること、すなわち、データやソフトウエアの所在を意識することなく、アクセスしあるいは利用することをこのクラウド(雲)という言葉で表すようになった。 2006年8月にグーグルのCEOであるエリック・シュミットが唱えたところから、世間に広く知られるようになったといわれている。 クラウド・コンピューティングと呼ばれるサービスには、具体的には以下のようなものがある。 データやファイルを保存するストレージサービスとしては、sugar syncやEverNoteなどが、また、メール・サービスとしてはGmailやYahooMailなどがある。さらに、エコポイントで日本国内での認知度を一気に上昇させたSalesforce.comによるアプリケーションの提供や、amazonは、よりクラウドの概念を定着させ、また普及に弾みをつけたと思われる。 パブリック・クラウドとプライベート・クラウド パブリック・クラウドとは、不特定多数の利用者を対象に提供されるクラウドを指す。通常、クラウド・コンピューティングといった場合は、このパブリック・クラウドを指す。 これに対して、プライベート・クラウドとは、特定の利用者を対象にしたものを指す。例えば、自社のサーバをデータセンターに集約して、当該サーバにWebを介してアクセスする場合が、このプライベート・クラウドに該当する。 この例でわかるように、プライベート・クラウドは決して新しいサービスではなく、またデータセンターが雲の向こう側といえるのかという点からも、クラウドに含まれるか否かといった議論になるところではあるが、データやソフトウエアがネットワークの向こう側にあるという意味では、クラウド的なものとして捉えられている。 SaaSとは クラウドに含まれるものの一つとして、SaaSと呼ばれるサービスがある。 SaaS(Software as a Service、サース)とは、ソフトウエア提供者(プロバイダ)がユーザにソフトウエアを提供し、ユーザの使用した期間・量に応じてサービス料を徴収する形態のサービスで、提供するソフトウエアがプロバイダ側のコンピュータで稼働するものをいう。 SaaSは、自社でソフトウエアを購入し自社側のコンピュータに導入する場合に比べて、短期的には費用を抑えられる場合が多い。 また、自社内にITの専門家がいなくても、ソフトウエアの導入・運用が行えるため、IT部門の縮小化傾向にある企業を中心にSaaSによるソフトウエアの導入が増加する傾向にある。 しかしながら、個人情報や会計情報といった重要な情報をクラウド上に置くことへの懸念があるため、SaaSに二の足を踏む企業があるのも事実である。 SaaSと階層をなす概念としてPaaS(Platform as a Service、パース)、IaaS(Infrastructure as a Service、イアース)などがある。 PaaSとは、ソフトウエアの実行基盤として利用するプラットフォームをネットワークを通じて提供するサービスであり、IaaSとは、コンピュータシステムを構築及び稼動させるためのハードウエアや回線・ネットワーク等のITインフラそのものをネットワークを通じて提供するサービスである。 ASPとは ASP(Application Service Provider)とは、正確にはソフトウエアの機能をネットワークを通じて顧客に提供する事業者のこと、すなわちSaaSを提供するプロバイダのことをいうが、実務的にはソフトウエアの機能をネットワークを通じて顧客に提供するサービス自体をASPという場合が多い。 クラウドのメリット サーバやソフトウエアを購入しないので、初期費用を抑えることができるとともに、保有、設計、開発の手間がなくなり、システムの運用までの期間を大幅に短縮できる場合があり、さらにシステムの規模の変更や使用の中止が容易である。また、サーバやソフトウエアの保守管理をする必要がなく、ソフトウエアのバージョンの更新作業から解放される。 クラウド上にソフトウエアがあるため、特定のPC以外からも当該ソフトウエアを使うことができ、クラウド上のストレージを利用するサービスの場合には、使用するPCのディスク容量の制約を受けず、ディスクの故障によるデータの破損も避けることができる。 クラウドのデメリット クラウドを利用することにより、初期費用を抑えることができる反面、長期間利用すると、購入した場合に比べてかえって費用がかかる場合がある。ソフトウエアの仕様変更や設定変更を容易に行えない場合があり、システムが柔軟性を失う場合がある。また、自社でサーバやソフトウエアを保持し運用管理する場合に比べて、システムがブラックボックス化する可能性が高くなる。 さらに、以下のようなクラウド提供者側の影響を受けることとなる。 まとめ ネットワークが電気や水道のように、基本的な社会インフラとなったといえる今日、クラウドによる新しいサービスは日々生まれ続けている。 ネットワークの向こう側であるクラウド(雲)によるサービスの多くは、大きくパラダイムを変換するものであり、固定観念にとらわれると、拒否反応を示してしまう場合も決して少なくない。 確かにクラウドにはシステムの柔軟性が失われるとともに、自社でコントロールしえないクラウド提供者の影響を受けるというリスクもある。しかしその反面、初期費用が少なく、短期間でシステムを使えるなど多くのメリットもある。 そのため、クラウドを検討する場合には、当該リスクとどのように向き合うかが重要となる。 リスクを受け入れられる業務、例えば基幹業務以外でのみクラウドを利用するといった保守的な方法ももちろんあるが、さらに一歩進んで、リスクを低減するためにクラウド提供者の選定や契約内容を十分に検討することにより、リスクを上回るメリットを享受できるようにすることもできるだろう。 今後より一層普及していくであろうクラウドを避けて通るのではなく、前向きに受け止めて、有効に活用していくべきではないだろうか。 (了)
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〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第6回】「DPCⅡ群病院の意義」
〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第6回】 「DPCⅡ群病院の意義」 東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕 1 基礎係数による新たな評価 2012年度診療報酬改定によって、DPC/PDPSにおける医療機関別係数に変更が加えられた。 従来の「機能評価係数Ⅰ+機能評価係数Ⅱ+調整係数」による評価から、「機能評価係数Ⅰ+機能評価係数Ⅱ+暫定調整係数+基礎係数」とされた。特に基礎係数という新たな評価が始まったことは新たな一歩を踏み出したことになる。 基礎係数は、病院の基礎体力を評価したものであり、3つの病院群が設定され、各群ごとに係数の設定が行われた。Ⅰ群は大学病院本院であり(全国80病院、基礎係数:1.1565)、Ⅱ群は高診療密度病院群(全国約80病院、基礎係数:1.0840)、その他がⅢ群とされた(全国約1,300病院、基礎係数:1.0422)。このような格付けによる係数設定は、史上初めてのことである。 従来も地域医療支援病院やがん診療連携拠点病院などの評価は存在したが、その承認にあたっては政策的な意味合いもあり地域格差などもあり必ずしも公平なものではなかった。しかし、基礎係数はDPC参加病院が同じフォーマットのデータを提出し、全国一律の基準で評価が行われたことは注目に値する。 2 Ⅱ群病院の特徴 2012年度診療報酬改定によるⅡ群とⅢ群の基礎係数は4%程度の違いであり、暫定調整係数も存在するため、必ずしもⅡ群が係数全体で有利になるとは限らない。むしろⅡ群で下の方にいるよりは、Ⅲ群で上位に位置した方が経済的には有利になることもありえる。しかしながら、今後、2018年に向けて暫定調整係数は段階的に廃止されると、基礎係数の重みは増すことが予想される。 図表1 Ⅱ群病院の一覧 ※画像をクリックすると、別ウィンドウで拡大表示されます。 Ⅱ群病院は、診療密度、医師研修の実施、高度な医療技術の実施(手術1件当たり外保連指数、DPC算定病床当たりの同指数、手術件数)、重症患者に対する診療の実施の4項目によって評価される(図表2)。 図表2 調整係数の見直しに係る対応と経過措置 手術件数についてはDPC病院の平均である3,200件が要件とされ、その他は大学病院本院の最低値(外れ値を除く)をすべてクリアすることが求められている。これら要件のうち、高度な医療技術の実施、特に手術1件当たり外保連指数を満たせなかった病院が非常に多い。これは、図表3に示すように、外保連の第8版で行われている手術難易度、協力医師数及び手術時間が考慮されて決定されたものである。 図表3 保連手術試案(第8版) ※画像をクリックすると、別ウィンドウで拡大表示されます。 手術1件当たりの外保連手術指数の基準値:14.69 簡単に言えば、高難易度手術の割合が多い病院が有利になる傾向がある。つまり、がんセンターや大学病院の分院などの医師が多く、高度な医療提供を行う病院が多くを占めている。この外保連手術指数によって、白内障手術などを外来化する病院が多くなってきており、このことは中長期的には、急性期病院に甚大な影響をもたらすものと予想される。 3 Ⅱ群に入るためには Ⅱ群に入るためには、高難易度手術の割合を高める必要がある。特に、全身麻酔手術の多い病院がⅡ群に分類されている傾向が強い(図表4)。 図表4 100床当たりの全身麻酔件数の月平均 手術室の機能を重視した病院運営を行い、手術室の稼働率を高めるべく、重点的に人員配置を行うことが求められる。そのためには、外来の縮小なども視野に入れる必要があるだろう。 Ⅱ群かⅢ群かは、病院にとってはプライドをかけた戦いでもあり、経済性だけでは語れないのも事実である。将来的には基礎係数の重み付けにより、様々な制度設計が可能となる。また、高診療密度を有するⅡ群に今後、優秀なスタッフが集中するようなこともありえるかもしれない。必ずしもⅡ群に入ることばかりが目標ではないが、まずは、自院のポジショニングを明確にすることが求められている。 (了)
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NPO法人 “AtoZ” 【第3回】「NPO法人の管理運営①」~事業報告書の提出・備置き・定款変更・役員変更・登記事項の変更~
NPO法人 “AtoZ” 【第3回】 「NPO法人の管理運営①」 ~事業報告書の提出・備置き・定款変更・役員変更・登記事項の変更~ 税理士 岩田 聡子 1 事業報告書等の備置き・提出等 NPO法人は、毎事業年度初めの3ヶ月以内に、前事業年度の次に掲げる書類を作成して、翌々事業年度末日まで、事務所に備え置かなければならない(NPO法28①)。 また、これらの書類は、条例の定めるところにより、毎事業年度に1回、所轄庁に提出しなければならないこととされている(NPO法29)。 この他、定款・役員名簿(最新のもの)も事務所に備え置くことが必要である。 なお、これらの書類は、正当な理由がある場合を除き、その社員及利害関係人に閲覧させなければならない。 2 役員変更等の届出(NPO法23、24) NPO法人は、役員の氏名、住所又は居所に変更があった場合、任期満了により再任された場合(役員の任期は2年以内)等には、 ① 役員の変更等届出書 ② 変更後の役員名簿 を所轄庁に届け出なければならない。 役員が新たに就任した場合(任期満了と同時に再任された場合を除く)には、上記に加え、新たに就任した役員の ③ 就任承諾及び誓約書の謄本 ④ 役員の住所又は居所を証する書面 を提出する。 また、代表を有する者の氏名、住所及び資格に関する事項に変更が生じた場合には、変更後2週間以内に、主たる事務所の所在地での登記が必要である。 3 定款変更(NPO法11、25) NPO法人が定款を変更しようとする場合には、定款に定めるところにより、社員総会で議決しなければならない。 社員総会の議決は、定款で特別の定めがない限り、社員総数の2分の1以上が出席し、その出席者の4分の3以上の多数をもってしなければならない。 なお、下記の定款の変更事項には、所轄庁の条例により、社員総会の議事録の謄本及び変更後の定款を添付した書類を所轄庁に提出し、所轄庁の認証が必要となる(下記③及び⑧の事項の変更の場合は、当該定款の変更の日の属する事業年度及び翌事業年度の事業計画書及び活動予算書の添付も必要である)。 提出した書類の一部は、受理した日から2ヶ月間、公衆の縦覧に供され、所轄庁は、受理した日から4ヶ月以内に認証又は不認証の決定を行う。 変更事項に登記事項があった場合には、認証後、2週間以内に主たる事務所の所在地での登記、3週間以内に従たる事務所の所在地での登記をすることが必要である。 さらに、登記完了後、定款変更の登記完了提出書を所轄庁に提出する。 4 登記事項の変更 NPO法人は、設立の際、次の事項を登記しなければならない。 上記⑦以外の登記事項に変更が生じた場合には、2週間以内に主たる事務所の所在地での登記を、3週間以内に従たる事務所の所在地での登記をすることが必要である。 「⑦資産の総額」の登記は、毎事業年度終了後2ヶ月以内に行う。 NPO法人は、所轄庁への事業報告書等の提出期限が、条例の定めるところにより、毎事業年度終了後3ヶ月以内であることから、資産の総額の登記もそれに合わせて行う法人も多いのだが、組合等登記令では、毎事業年度終了後2ヶ月以内と定められていることに注意しなければならない(組合等登記令3③)。 特に、認定NPO法人を目指すようなNPO法人は、登記の遅れが問題となる可能性もあるため、このことはしっかり認識したうえ、登記を行う必要がある。 (了)
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雇用促進税制・所得拡大促進税制の実務 ~要件・手続の確認から両制度の適用比較まで~ 【第1回】「雇用促進税制の適用要件」
雇用促進税制・ 所得拡大促進税制の実務 ~要件・手続の確認から両制度の適用比較まで~ 【第1回】 「雇用促進税制の適用要件」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 最近の雇用失業情勢を概観すると、新規求人倍率、有効求人倍率、完全失業率などの指標については平成21年度から平成23年度にかけて改善がみられ、平成24年度は比較的安定している状況にあると見受けられる(『最近の雇用失業情勢(平成25年2月分)』東京都労働局)。 雇用対策は経済成長戦略上も重要な課題である。税制上の措置としても、平成23年度税制改正において「雇用促進税制」が創設され、平成25年度税制改正においては「所得拡大促進税制」が創設されたほか、「雇用促進税制」の拡充が図られている。 そこでこの連載では、雇用対策のための2つの税制である「雇用促進税制」及び「所得拡大促進税制」の実務について取り上げることとし、まずは雇用促進税制の概要及び適用要件についての解説を行う。なお、内国法人以外の法人及び連結納税に係る部分は対象外とし、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを予め申し添える。 2 雇用促進税制の概要(平成25年度税制改正後) 青色申告法人が平成23年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する各事業年度(以下「適用年度」という)において、雇用者を5人以上(中小企業者※においては2人以上)増加させ、かつ、雇用者増加割合が10%以上である等の一定の要件を満たす場合には、増加雇用者1名当たり20万円(平成25年4月1日以後開始事業年度については、1名当たり40万円)を法人税額から控除することができる(措法42の12)。ただし控除税額は法人税額の10%(中小企業者は20%)を限度とする。 ※ここでいう「中小企業者」とは、資本金の額が1億円以下の法人のうち、以下のいずれかに該当する法人以外の法人をいう(措法42の12、措法42の4⑥、⑫五、措令27の4⑩)。 ・発行済株式総数の2分の1以上が同一の大規模法人(資本金の額が1億円を超える法人)の所有に属している法人 ・発行済株式総数の3分の2以上が大規模法人の所有に属している法人 なお中小企業者に該当するかどうかは、適用年度終了時の現況によって判定する(措通42の12-1)。 3 雇用促進税制の適用要件 青色申告法人が雇用促進税制の適用を受けるためには、以下の(1)~(5)のすべての要件を満たすことが必要である。 (1) 離職者要件(措法42の12①一) 離職者とは、その法人の都合により離職した雇用者及び高年齢雇用者をいう。 つまり、事業主都合による離職者がいないことが必要となる。 事業者都合による離職は、雇用保険被保険者資格喪失届の喪失原因の「3 事業主の都合による離職」に該当するものであるが、具体的には以下のようなものが該当する。 ① 事業主の都合による解雇 ただし、以下のものは該当しない。 ② 事業主の勧奨等による任意退職 ただし、実質的には労働者の都合による任意退職であるのに事業主が退職金等を支給するために勧奨退職の形式を取った場合は該当しない。 (2) 基準雇用者数要件(措法42の12①二イ) 基準雇用者数は、適用年度終了の日における雇用者の数から、前事業年度終了の日における雇用者(適用年度終了の日において高年齢雇用者に該当する者を除く)の数を減算した数をいう(改正措法42の12②四)。 基準雇用者数 = 適用年度末の雇用者数 - 適用年度の前事業年度末の雇用者数 つまり、基準年度末における雇用者の数が前事業年度末に比べて5人以上(中小企業者については2人以上)増加していることが必要である。 また、「雇用者」の定義については留意が必要である。 ここでいう「雇用者」とは、法人の使用人※のうち、雇用保険の一般被保険者に該当するものをいい、高年齢雇用者(高年齢継続被保険者)は含まれない(改正措法42の12②二、三)。 このため、基準雇用者数を計算するに当たって、前事業年度末において「雇用者」であった者が当該適用年度末において「高年齢雇用者」に該当する場合には、基準雇用者数の計算から除かれることに留意が必要である。 ※「法人の使用人」には、以下の者は含まれない。 ・役員 ・役員と特殊の関係のある以下の者 (A) 役員の親族 (B) 役員と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者 (C) (A)(B)以外で役員から生計の支援を受けているもの (D) (A)(B)と生計を一にするこれらの者の親族 ・法人の使用人としての職務を有する役員(使用人兼務役員) (3) 基準雇用者割合要件(措法42の12①二ロ) 基準雇用者割合は、基準雇用者数の適用年度開始の日の前日における雇用者の数に対する割合をいう(改正措法42の12②五)。 基準雇用者割合 = 基準雇用者数 ÷ 適用事業年度の前事業年度末の雇用者数 つまり、適用年度における雇用者数の増加割合が10%以上であることが必要である。 なお、適用年度の前事業年度末の雇用者数がゼロである場合には、基準雇用者割合要件については考慮不要である(措法42の12①二)。 (4) 給与等支給額増加要件(措法42の12①二ハ) ① 給与等支給額 給与等支給額は、法人の給与等の支給額のうち、適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される金額をいう(改正措法42の12②七)。 ここでいう「給与等」とは、所得税法28条1項に規定する給与等(雇用者に対して支給するものに限る)をいう(改正措法42の12②六)。具体的には、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与をいう(所法28①)。 給与等の支給額については、その給与等に充てるため他の者から支払いを受ける金額※がある場合には、その金額を控除した金額とし、高年齢雇用者に係るものを除く点に留意が必要である。 ※「他の者から支払いを受ける金額」とは、例えば次に掲げる金額が含まれる(措通42の12-2)。 ・雇用保険法施行規則110条に規定する特定就職困難者雇用開発助成金、雇用対策法施行規則6条の2に規定する特定求職者雇用開発助成金など、労働者の雇入れ人数に応じて国等から支給を受けた助成金の額 ・法人の使用人が他の法人に出向した場合において、その出向した使用人(出向者)に対する給与を出向元法人が支給することとしているときに、出向元法人が出向先法人から支払いを受けた給与負担金の額(出向先法人の負担すべき給与に相当する金額に限る) ② 比較給与等支給額 比較給与等支給額は、以下のように計算される(改正措法42の12②八)。 比較給与等支給額 = (A÷B)+(A÷B×C×30%) 雇用者数が増加しても、給与等支給額が増加しなければ雇用環境がむしろ悪化することとなり、雇用対策としての税制措置の恩典を与えることは適当でないという価値判断が含まれているものと考えられる。 そこで、税制措置の恩典を与えるというメルクマールとして、雇用者数の増加割合の3割程度の給与支給額の増加額(比較給与等支給額)を設定しているものと考えられる。 例えば、適用年度前事業年度(12ヶ月)の給与等支給額を3,000万円、基準雇用者割合を15%とした場合の比較給与等支給額は、 3,000万円÷1+(3,000万円÷1×15%×30%)=3,135万円 となる。 (5) 適用事業要件(措法42の12①本文) 雇用保険法5条1項では、「労働者が雇用される事業を適用事業とする」と広く一般的に定めているが、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律2条1項に規定する風俗営業又は同条5項に規定する性風俗関連特殊営業を適用事業から除くこととされている(措令27の12③)。 つまり、風俗営業又は性風俗関連特殊営業以外の事業を行っていることが必要である。 4 適用手続 この制度の適用を受けるためには、適用事業年度開始後2ヶ月以内に、主たる事業所を所轄する公共職業安定所(ハローワーク)に「雇用促進計画」の提出を行い、都道府県労働局又は公共職業安定所で上記の(1)~(3)までの要件について確認を受け、その際交付される雇用促進計画の達成状況を確認した旨を記載した書類の写しを確定申告書に添付する必要がある(措法42の12①、措令27の12①②、措規20の7①)。 次回は、それぞれの適用手続について詳細に確認していくこととする。 (了)
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建物(旧定率法)を合併により受け入れた場合の減価償却
建物(旧定率法)を 合併により受け入れた場合の 減価償却 税理士 石井 幸子 Q 当社(A社:3月決算法人)は、平成25年4月1日にB社を被合併法人とする適格吸収合併を行いました。B社から引き継いだ資産の中には次の建物があり、B社はこの建物を旧定率法により償却計算を行っていました。 当社は、建物の償却方法は定額法を選定していますが、引き継いだ建物の償却計算はどのように行えばよいですか。 A 適格合併により移転を受けた建物の償却計算の基礎となる帳簿価額及び取得日は、被合併法人の帳簿価額48,370千円及び取得日平成9年4月1日を引き継ぐ。また、償却方法は、合併法人が選定している方法によることとなる。 耐用年数は、その建物の法定耐用年数によることが原則であるが、中古資産を取得した場合の耐用年数を適用することも可能である。 それぞれ次のように考える。 ◆ 解説 ◆ 1 取得価額・帳簿価額と取得日の考え方 合併により資産等が移転をしたときは、これらの資産等は、原則として、その合併の時の「時価による譲渡」をしたものとして、時価と被合併法人における帳簿価額との差額は譲渡損益として計上することとしている(法法62①)。 この原則的な取扱いに対する例外として、適格合併による資産等の移転については、被合併法人の合併直前の「帳簿価額による引継ぎ」をしたものとして、移転する資産等の譲渡損益を繰り延べることとしている(法法62の2①)。法人税法では、合併により資産等を移転する前後で経済実態に実質的な変更がないと認められるもの、すなわち、移転する資産等に対する支配が合併後も継続しているなどの「適格要件」を満たす合併を「適格合併」と位置付け、例外的な取扱いを認めているのである。 適格合併により合併法人に引き継いだ資産の取得価額は、被合併法人における取得価額に、合併法人が事業の用に供するために要した費用の額を加算した金額とされている(法令54①五イ)。 したがって、適格合併により移転するこの建物は、被合併法人B社での取得価額及び帳簿価額を引き継いで、A社における取得価額は100,000千円、帳簿価額は48,370千円となる。 このように法人税法では、合併による資産等の移転を、適格要件を満たすか否かにより、「時価による譲渡」と「帳簿価額による引継ぎ」という異なる取扱いをしている。この規定の仕方の違いにより、「譲渡」とすると移転を受ける側は新たな「取得」となり、「引継ぎ」とすると移転を受ける側は被合併法人から「引き継ぐ」という違いが生じる。適格合併による資産等の移転は、被合併法人から、これらの資産等のいわば歴史の「引継ぎ」を受けたものであり、移転によって新たに「取得」したものではないと考える。 そのため、適格合併により移転を受けた建物の取得日は、合併の日である平成25年4月1日ではなく、被合併法人B社の当初の取得日である平成9年4月1日となる。 ところで、法律上の「取得」には、承継取得と原始取得がある。合併による権利の承継は、包括承継であり承継取得に含まれる。合併により資産の移転を受けることは、法人税法上の適格要件を満たすか否かにかかわらず、私法上は「取得」に当たる。 そのため、適格合併による資産の移転は「引継ぎ」を受けたものであり、新たに「取得」したものではないとする考え方は、適格合併等の課税関係を整理するための税法独自のものといえる。 しかしながら、下記2の「減価償却資産の償却方法の届出書」や、3の「中古資産を取得した場合の耐用年数」に関する規定では、適格合併による資産の引継ぎを「取得」に含めるとしている。 このように、税法における「取得」という用語の使い方が、登場する局面により異なる点には注意が必要である。 2 償却方法は引き継げるか 適格合併により移転した資産の取得日や帳簿価額は、被合併法人から引き継ぐこととされているが、償却方法は被合併法人から引き継ぐという規定はない。被合併法人から引き継いだ資産の償却方法は、合併後は、合併法人が選定している償却方法による。 したがって、合併により被合併法人B社から引き継いだ建物は、合併後は、合併法人A社の選定している定額法により償却計算を行うこととなるが、取得日はB社の取得日である平成9年4月1日となるので、平19年3月31日以前に取得した資産に適用される定額法として、旧定額法により償却計算を行う。 このように被合併法人と合併法人の選定している償却方法が異なっていても、「減価償却資産の償却方法の届出書」を提出することにより、被合併法人が選定していた償却方法を合併後も継続して適用できるケースがある。 この届出書を提出することができるのは、次の2つのケースである(法令51②四・五)。 適格合併により移転を受けた建物が、合併法人が行っていた事業とは独立しているような場合には、上記②に該当することになると考えられる。このような場合には、届出書を提出することにより、合併により引き継いだ建物について、合併法人においても旧定率法による償却計算を行うことが可能である。 この届出書の提出期限は、新たに事業所を設けた日、つまり、合併の日の属する事業年度の確定申告書の提出期限までとなっている(法令51②五)。 したがって、ご質問のケースで、合併後も旧定率法による償却計算を希望する場合における届出書の提出期限は、平成26年3月期の確定申告書の提出期限である平成26年5月31日となる。 3 中古資産の耐用年数を適用できるか 適格合併により引き継いだ資産の償却費を計算する際の耐用年数は、原則として、その資産の法定耐用年数によるが、中古資産を取得した場合の耐用年数を適用することも可能である。この中古資産を取得した場合の耐用年数が適用できる「取得」には、適格合併による被合併法人からの引継ぎが含まれるからである(耐令3①)。 この規定は、「適用することができる」規定なので、適格合併により引き継いだすべての資産に適用せず、特定の資産にのみ適用することも可能である。 ところで、この中古資産を取得した場合の耐用年数が適用できる「取得」に、適格合併による被合併法人からの引継ぎが含まれることとされたのは、平成15年度税制改正後のことである。改正前は、旧耐用年数の適用等に関する取扱通達関係1-5-13に、適用できない旨が明記されていた。これは、適格合併による資産の移転は「引継ぎ」を受けたもので、新たに「取得」したものではないとする考えからであり、上記1でも述べたとおり、現在においてもこの考えは変わっていない。 根幹にある考えが変わっていないにもかかわらず、適格合併での適用を認めた背景には、同じ適格組織再編成である適格分社型分割などにより移転を受けた資産に、中古資産を取得した場合の耐用年数の適用が認められていたことにある。適格合併についても適用を認めることは、上記の考えとは矛盾することになるが、適格組織再編成により移転を受けた資産についての取扱いを一本化するために、適格合併により移転を受けた資産についても適用を認めることとしたのである。 中古資産を取得した場合の耐用年数を適用して、定額法や旧定額法により償却計算を行う場合の計算の基礎となる取得価額は、被合併法人における取得価額をそのまま使うことはできない。被合併法人の取得価額から被合併法人で既に損金算入した金額を控除した金額、つまり被合併法人における合併直前の帳簿価額を取得価額として償却計算を行うこととなる(耐令3③)。具体的な計算方法は、下記4(2)の計算例を参照のこと。 4 計算例 (1) 法定耐用年数を適用して旧定額法で償却した場合 B社から適格合併により移転を受けた建物について、法定耐用年数を適用して、旧定額法により償却計算を行うと、次のようになる。 (2) 中古資産の耐用年数を適用して旧定額法で償却した場合 B社から適格合併により移転を受けた建物について、中古資産を取得した場合の耐用年数を適用して、旧定額法により償却計算を行うと、次のようになる。 (3) 中古資産の耐用年数を適用して旧定率法で償却した場合 B社から適格合併により移転を受けた建物について、中古資産を取得した場合の耐用年数を適用して、償却方法の届出書の提出により旧定率法で償却計算を行うと、次のようになる。 (了)
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小説 『法人課税第三部門にて。』 【第5話】「修正申告の勧奨(その1)」
小説 『法人課税第三部門にて。』 【第5話】 「修正申告の勧奨(その1)」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「そうか・・・修正申告をしないのか・・・」 田村上席調査官は、隣に座っている山口調査官の話を聞きながら、腕を組む。 「非違事項は、交際費と棚卸資産だけなんですが・・・」 山口調査官は困った顔をしている。 山口調査官は、先週から3日間、太田工業の実地調査をした後、「調査結果の内容の説明等」を納税者に行ったのである。 交際費の否認の内容は、会社が主催した「創立20周年の記念祝賀パーティー」の費用である。パーティーの請求書の金額は、850万円であった。 しかし、招待客から、「祝い金」を合計で198万円を受け取っていたのである。 実地調査で、山口調査官が記念行事の名簿を調べているとき、それぞれの招待客の名前の横に、金額が記されていた。 「ここに書かれている金額は何ですか?」 山口調査官が質問した。 「招待客から頂いた祝い金ですが・・・」 と経理担当者は応えた。 しかし、帳簿には、雑収入として「祝い金」が計上されていない。 会社の伝票では、次のように仕訳がなされていた。 経理担当者は「会社が実質的に負担した費用のみを、交際費として処理した」と答えた。すなわち、198万円は、招待客が負担した費用であるから、交際費の弊社の実際の負担は、652万円であると主張した。 これに対して、山口調査官は、次のような仕訳を書き、経理担当者に示した。 そして、税務上はこのように処理すべきで、交際費は850万円であると述べた。 棚卸資産については、申告書に添付されている決算書の棚卸金額と集計用紙が30枚の綴りとなっている棚卸表の合計金額に900万円の差があった。 「この差の原因は何ですか?」 山口調査官の質問に、経理担当者の表情が変わる。 「ちょっと・・・調べてみます」 山口調査官から棚卸表を経理担当者が受け取ると、そそくさと自分の机に持っていき、計算をし始めた。 しばらくして、少し青ざめながら、山口調査官が調査をしているテーブルにやって来た。 「集計誤りです・・・」 山口調査官は、経理担当者が指で示す一枚の集計用紙の小計欄を見た。 10,000,000円という数字が書かれている右端に、1,000,000円と書かれている。 そして、1,000,000円の数値の上に二重丸◎が付いている。 「どちらの数字が正しいのですか?」 「・・・確か・・・10,000,000円が正しかったと・・・」 経理担当者は困ったような表情をした。 「でも、この集計用紙では、1,000,000円の数値で計算されている」 山口調査官は、もう一度、集計用紙の数値を電卓で叩く。 「・・・おかしいな。どう計算しても、この小計欄の金額は10,000,000円になる・・・」 少し声を大きくして経理担当者に言う。 「・・・なんで、ここに1,000,000円が記載されているのですか?誰が書いたのですか?」 経理担当者は、矢継ぎ早の質問に青ざめて黙っている。 「これが、隠ぺい・仮装だったら、重加算税の対象ですよ」 山口調査官は、少し興奮して、経理担当者に伝えた。 以上の税務調査の状況から、山口調査官は、調査結果の内容の説明等を口頭で行い、交際費と棚卸資産について、「修正申告等の勧奨」を行った。さらに、棚卸資産については、重加算税を賦課決定する旨を伝えた。 山口調査官の調査結果の内容の説明を、社長、経理課長、経理担当者そして若い税理士の4名が机を挟んで聞いている。 しばらくして、若い税理士が尋ねる。 「これって、以前と違って、新しい国税通則法では、修正申告を提出しても、更正の請求ができるはずですよね」 「ええ、それについては、これから説明しようと思って・・・」 山口調査官は、修正申告書を提出した場合、不服申立てはできないが、更正の請求をすることができる旨を記載した「教示文」を鞄から取り出して、机の上に置いた。 4人が一斉に、その教示文の内容を確認するために、前かがみになる。 「申し訳ないのですが・・・この教示文は、国税に関する法律の規定に基づき交付する書面なので、署名・押印を頂きたいのですが・・・」 山口調査官は、4人を前にして、少し頭を下げる。 「修正申告・・・しかも、重加算税か・・・」 社長が横に座っている経理課長をチラッと見る。 「棚卸の洩れは・・・集計ミスで・・・」 そう言いながら、経理課長は、経理担当者の方向をみる。経理担当者は、黙って俯いている。 そのとき、若い税理士は、はっきりした口調で、社長に問うた。 「この際、税務署に更正処分をしてもらいましょうか」 (つづく)
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〔平成25年4月1日以後開始事業年度から適用〕 過大支払利子税制─企業戦略への影響と対策─ 【第6回】「超過利子額の損金算入」
〔平成25年4月1日以後開始事業年度から適用〕 過大支払利子税制 ─企業戦略への影響と対策─ 【第6回】 「超過利子額の損金算入」 アースタックス税理士法人 税理士 中村 武 前回までの解説において、「関連者支払利子等の額」「控除対象受取利子等合計額」「関連者純支払利子等の額」「調整所得金額」及び「適用除外」に関して、その意義や算出方法等のポイントを確認してきた。これにより、本制度における「損金不算入額」の計算過程についての解説を終えたこととなる。 今回は、本制度のもう一つの特徴である、翌年度以降の「超過利子額(損金不算入額の繰越額)の損金算入」について解説を行う。 1 超過利子額の損金算入 法人の各事業年度開始の日前7年以内に開始した事業年度において、本制度により損金の額に算入されなかった金額(この措置及び本制度に係る超過利子額と外国子会社合算税制との適用調整によりその各事業年度前の事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたものを除く)(以下「超過利子額」)がある場合には、その超過利子額(本制度に係る超過利子額と外国子会社合算税制との適用調整により各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されるものを除く)に相当する金額は、その法人の各事業年度の調整所得金額の50%に相当する金額から関連者純支払利子等の額を控除した残額に相当する金額を限度として、その法人のその各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することとされる(措法66の5の3①)。 〈ポイント1〉 損金算入制度の趣旨 前回までの解説のとおり、本制度は「所得金額に比して過大な支払利子」について損金算入を制限し、租税回避を防止するために導入されたものであり、課税の繰延べをその目的とするものではない。 しかしながら、その判断の基礎となる所得金額及び支払利子の水準は、短期的な市況・当該企業の状況等、企業を取り巻く様々な要因により大きく変動する要素となっている。 したがって、当該変動による影響を緩和する目的で、単年度の状況だけでなく、事後の一定期間(7年間)の状況を踏まえて、過大な支払利子に該当するかどうかの判断を行うこととしている。 具体的には、本制度の適用により生じた損金不算入額を翌年度以降に繰り越し、調整所得金額の50%に相当する金額が関連者純支払利子等の額を上回る事業年度において、その差額に相当する金額を限度として損金算入することとされている。 〈ポイント2〉 翌年度以降の損金算入イメージ 第2回においても簡単な事例を用いて超過利子額の損金算入について概略を解説したが、理解を深めるため、再度二期連続でのイメージを下記に記載する。 〔イメージ図〕 〈ポイント3〉 翌期以降の確認ポイント 上記イメージ図においても確認できるように、当該年度の超過利子額が繰り越され、翌期以降、調整所得金額が多い事業年度(正確には調整所得金額の50%に相当する金額が関連者純支払利子等の額を上回る事業年度)において、超過利子額が損金算入されることとなる。 したがって、本制度による損金不算入額の最終的な影響を考える際には、当期のみならず、当該企業の経営計画等に基づき、翌期以降の関連者純支払利子等の額及び予想所得金額を考慮する必要がある。 〈ポイント4〉 適格合併等があった場合の超過利子額の引継ぎ 適格合併が行われた場合において、被合併法人の引継対象超過利子額がある時は、合併法人等の事業年度において生じた超過利子額とみなされる。 また、その法人との間に完全支配関係がある他の法人でその法人が発行済株式等の全部若しくは一部を有するものの残余財産の確定についても、適格合併と同様に超過利子額の引継ぎが行われる。 〈ポイント5〉 連結納税の承認を取り消された場合の超過利子額の引継ぎ 連結納税の承認を取り消された場合等において、その連結納税の承認を取り消された場合等の最終の連結事業年度終了の日の翌日を含む事業年度開始の日前7年以内に開始した各連結事業年度において生じたその法人の連結超過利子個別帰属額があるときは、その連結超過利子個別帰属額は、その連結超過利子個別帰属額が生じた連結事業年度開始の日を含むその法人の事業年度において生じた超過利子額とみなされる。 2 適用要件 超過利子額の損金算入の規定の適用を受けるには以下の申告要件を満たす必要があり、この規定の適用を受けようとする事業年度だけでなく、超過利子額が発生した過年度の申告書に超過利子額に関する明細書の添付が必要とされていることに留意が必要である。 この規定は、超過利子額に係る事業年度のうち最も古い事業年度以後の各事業年度の確定申告書にその超過利子額に関する明細書の添付があり、かつ、この措置の適用を受けようとする事業年度の確定申告書に、適用を受ける金額の申告の記載及びその計算に関する明細書の添付がある場合に限り適用する。 この場合において、これらの規定の適用を受ける金額は、当該申告に係るその適用を受けるべき金額に限るものとする(措法66の5の3⑧)。 * * * 次回(第7回)においては、本制度と他規定(過少資本税制等)との二重課税の調整について、解説を行うものとする。 (了)
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租税争訟レポート 【第7回】法定外普通税の規定は地方税法違反で、無効〔納税者勝訴〕 (神奈川県臨時特例企業税通知処分等取消請求事件上告審判決)
租税争訟レポート【第7回】 法定外普通税の規定は 地方税法違反で、無効〔納税者勝訴〕 (神奈川県臨時特例企業税通知処分等取消請求事件上告審判決) 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【事案の概要】 1 神奈川県臨時特例企業税の概要 2 条例成立の経緯 平成13年3月21日、神奈川県議会で可決された神奈川県臨時特別企業条例(平成13年神奈川県条例第37号、平成13年8月1日施行。以下「本条例」という)は、地方税法4条3項及び259条以下の規定に基づく道府県法定外普通税として、臨時特別企業税(以下「特例企業税」という)を定めたものである。 その課税標準は、繰越控除欠損金額を損金の額に算入しないものとした場合における当該各課税事業年度の所得の金額に相当する金額であり、かつ、当該金額が繰越控除欠損金額に相当する金額を超える場合には、当該繰越控除欠損金額に相当する金額であることから、特例企業税は、繰越控除欠損金額に相当する金額を課税標準として課税するものである。 3 訴訟の経緯 本訴訟は、本条例に基づき特例企業税を課された原告(被控訴人、上告人)が、本条例は、法人事業税の課税標準である所得金額の計算上、欠損金額を繰越控除することを定めた地方税法の規定に違反し、違法・無効であると主張して争ったものである。 訴訟では、当事者双方から、行政法、租税法学者を中心とする多数の専門家の意見書が書証として提出され、納税者と神奈川県とのどちらを支持するかで、意見が分かれていた。裁判所の判断も、第一審である横浜地方裁判所は納税者の訴えを認め、東京高等裁判所が神奈川県の主張を認めていた。 本件は、そうした難しい争点に、最高裁判所が判断を示したものである。 【原審(控訴審)の判断】 原審は、条例が法律に違反するか否かは、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかにより決すべきである旨を判示した上で、上告人の請求をいずれも棄却すべきものとした。 【最高裁判所の判断】 地方税法に定める法定普通税についての規定は、別段の定めのあるものを除き、任意規定ではなく強行規定であると解されるから、普通地方公共団体は、地方税に関する条例の規定や改正に当たっては、同法の定めに拘束され、これに従わなければならないというべきである。 したがって、法定外普通税に関する条例において、同法の定める法定普通税についての強行規定に反する内容の定めを設けることによって当該規定の内容を実質的に変更することも、これと同様に、同法の趣旨、目的に反し、その効果を阻害する内容のものとして許されない。 本件条例の実質は、繰越控除欠損金額それ自体を課税標準とするものにほかならず、法人事業税の所得割の課税標準である各事業年度の所得の金額の計算につき欠損金の繰越控除を一部排除する効果を有するものというべきである。 特例企業税の課税は、各事業年度の所得の金額の計算につき欠損金の繰越控除を実質的に一部排除する効果を生ずるものであり、各事業年度の所得の金額と欠損金額の平準化を図り法人の税負担をできるだけ均等化して公平な課税を行うという趣旨、目的から欠損金の繰越控除の必要的な適用を定める同法の規定との関係において、その趣旨、目的に反し、その効果を阻害する内容のものであって、法人事業税に関する同法の強行規定と矛盾抵触するものとしてこれに違反し、違法、無効であるというべきである。 【解説】 神奈川県のホームページには、「県財政の危機的状況を訴える」と題した黒岩祐治知事の県民への訴えが掲載されている。 そこでは、「危機的状況にある県財政」を立て直すため、「身を削る行政改革の実施」が続けられていることが紹介され、「子や孫の世代のために」に、県民の皆様と危機感を共有し、この難局を乗り越えていきたいという、知事の考えが示されている。 特例企業税が、こうした県の財政難を克服するための一つの政策であったことは間違いない。そして、県として、地方税法の規定に則り、条例を可決し、総務大臣の認可を得て、法定外普通税として課税してきた。 最高裁判決が強調しているのは、地方税法に規定する法定普通税に関する規定は強行規定であり、地方公共団体が法定外普通税に関する条例を定めることによって、法定普通税の内容を変更すること、地方税法の趣旨、目的に反し、その効果を阻害することは許されないということである。なお、一部報道には、本判決を「課税自主権の侵害である」と捉える声もあるようだが、本判決は、法定外普通税そのものを否定したものではなく、法定外普通税においても強行規定たる地方税法に違反することは許されないとしたものに過ぎず、この批判は当たらないのではないかと筆者は考える。 神奈川県は、最高裁の判断が「違法・無効」となったことで、上告人以外の約1,700社に対しても、利息を含め約635億円を自主返還することを発表した。 (了)