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建設業が危ない!労務トラブル事例集・社会保険適用の実態 【第3回】「社会保険未加入の実例」
建設業が危ない! 労務トラブル事例集・ 社会保険適用の実態 【第3回】 「社会保険未加入の実例」 なりさわ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 今回は、建設業における社会保険未加入の実例をお伝えしたい。 建設業であっても、多くの企業は社会保険にキチンと加入し、保険料を納付している。それは社員に安心して働いてもらうためでもあり、良い社員を雇用するためでもある。 しかし現実には、社会保険料の負担を避けるために、保険加入を免れようとしたり保険料を抑えるために、様々な方法を用いているケースもみられる。 典型的なケースを紹介すると、以下のようなものである。 【ケース1】 実態は雇用だが、個人事業主として扱い社会保険へ加入しない よく使われているケースの一つ。特に職人気質が強く、自身の技能に対する自信と自己責任が基本姿勢のためか、社会保険に頼る必要はないと考えている。 実態としては雇用契約なのだが、個人事業主として請負契約とし、個人が国民年金・国民健康保険に加入している。 本人も社会保険に加入したくない、会社側も法定福利費を抑えたいため個人事業主の契約を望んでいる。 【ケース2】 社員を退職したとして元の会社での社会保険の資格を喪失させ、別会社を設立し、別会社で雇用をしているが社会保険には加入していない 全社員ではないものの、社会保険料を支払いたくないと要望している一部の社員を退職扱いとし、元の会社で社会保険の資格を喪失させる。その後、新たに設立した別会社で雇用はするものの、社会保険には加入せずに、各自に国民年金・国民年金健康保険に加入してもらう。 若い社員の中には、年金に対する不信感も手伝ってか、国民年金の納付をしない者もいる。 【ケース3】 社会保険料を抑えるために、給与として支給する分と、業務委託報酬として支給する分とを分けて支払う 社員として雇用している者の給与構成を分け、総支給額の半分を給与として支給し、この金額を元に社会保険料の基本となる標準報酬を決めている。残り半分は業務委託に対する報酬支払であるとし、社会保険料の計算から除外する。 中には、給与額が最低賃金を下回っている場合もある。 結果として、本来支払うべき社会保険料の半分程度まで下がるため、本人も会社も保険料負担が抑えられるとされる。零細企業でよく使われる方法でもある。 【ケース4】 同一人物の給与を複数で受け取っているようにみせかけ、社会保険加入を免れる 元々は1人の人物に支払うべき給与を、親族も同じ会社に勤めているようにみせかけ、2人に対して分けて給与を支給。 2人に分けることで、勤務日数や労働時間も少なくなるため、社会保険の加入要件に該当しないようにし保険料負担を免れていた。 * * * 上記いずれのケースも、会社にとっては法定福利費を抑えるための節約術と考えがちだが、どの方法であっても法律に違反していることは違いない。 調査が入らなければ分からないから大丈夫と思っているかもしれないが、いざ調査が入ったら、遡及して社会保険料の納付が必要となる。 本来社員から徴収すべき保険料も、納付義務は会社側にあるため、最悪の場合、保険料を取り損ねることもある。 社会保険料を安く抑える=将来受け取れる年金額が安くなるわけで、社員が将来受け取るべき年金が、満額で受け取れないという状況を自ら用意している事態にもつながっていると自覚すべきであるといえる。 次回は、労務管理上の注意点・トラブル事例をお伝えしたい。 (了)
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活力ある会社を作る「社内ルール」の作り方 【第5回】「企業文化による統治へどう取り組むか」
活力ある会社を作る 「社内ルール」の作り方 【第5回】 「企業文化による統治へどう取り組むか」 特定社会保険労務士 下田 直人 〈企業文化=価値観の共有〉 今回は、企業文化を中心として社内ルールを作る場合の考え方について述べてみたい。 企業文化中心の社内ルールをつくるためには、(当たり前のことであるが)最初に企業文化を戦略的につくることから始めなければならない。 つまり、企業文化の構築を通じて「社内の価値観統一」を図っていくということだ。 そのためには、会社が大切にしている「気持ち」、「心がけ」、「行動」などを具体化していくことが必要となる。 この時に大事なのは、経営者が企業文化を戦略的につくり、それをベースにして経営を行うということに腹をくくることである。つまり、営業方針から採用、人事制度などなど、至るところで「ブレなく企業文化が価値判断の基準となる会社をつくる」という腹決めをするということだ。 経営者にこの「腹決め」がないと、必ず試みは失敗する。 そして、腹決めの後に、会社の実情を見渡してみることが必要だ。その際には、経営者が日頃から思っていること、特に創業時や経営者になった時の思い、後継者であるならば先代が創業した時の思いなどを思い起こしてみて活字にしてみることも重要である。 そして次に、「この会社を体現している人」「一番、この会社っぽい人」をピックアップし、その人がどんな心構えや性格、どんな行動を取っているかを思い起こし、やはり活字にしてみると良い。 上記のような作業から出てきたキーワードをまとめることを繰り返しながら、会社が大切にしたい価値観をまとめ上げていき、企業文化をつくっていくのだ。 実際に企業文化を構築する過程では、経営者がリーダーシップを発揮しながらも従業員をうまく巻き込み、従業員の目線も取り入れていく方法が良いと思われる。 よく言われる話ではあるが、価値観というものは、「思い」が根源にあるものであるから、誰かが決めたものを一方的に押し付けられるより、「みんなで決めた」という納得感のもとで確立していく方が、従業員の間に浸透しやすい。 こうして企業文化の構築を図り、価値観の浸透が図られてきたならば、社内ルール(就業規則)もそれに基づいて構築しなおしてみることで、社内に「文化を基準とした統一感」が出てくるのである。 〈価値観から来るルールとは?〉 価値観から来るルールとは、なんであろうか。 それは、その価値観が尊重される働き方をする場合には都合が良く、そうでない場合には不都合が多いようなルールを構築していくことである。また、価値観に基づいて行動するのであれば、当然そのような行動となるであろうことまで事細かにルール化しないことでもある。 例えば「ワクワクすることに取り組む」という価値観を大切にする会社があったとする。 この価値観が実現されるためには、 「どんな働き方がいいのか?」 「どんなルールがこの価値観の実現を阻害するのか?」 ということを考えていく。 そうすると、例えば、「ワクワクすること」に取り組めるように、 という発想が生まれるかもしれない。 すると、フレックスタイム制を導入しようという発想になるかもしれない。 もしくは、 という意見が出てくるかもしれない。そのために、 というルールが生まれるかもしれない(実際にこれは筆者の事務所でも行っており、機能している)。 また、価値観が共有されていれば、当然に実行される(反対に、そのような行動はしない)というルールは就業規則上から省いていくことも検討できる。 例えば、 という価値観を大切にしている会社があったとしよう。 もし、この会社でこの価値観が浸透され実行されるのであれば、有給休暇の申請期限といったルールは必要なくなる可能性がある。 また、 と言ったルールも必要なくなる可能性がある。 有給休暇を取得すること自体は自由だが、そのことにより自分の家族が迷惑を被っては困る。すると、それなりの期間を置いて、周囲の理解を得ながら申請するのが当然の行動となる。また、家族と思えば、家族からリベートを要求する人はいなくなるわけである。 もし、そのような行為をする従業員がいれば、その本人に対して ということを周囲から問われることになる。 つまり、規則がその人を許さないのではなく、仲間がその人を許さないことになるのだ。 このように望ましい企業文化をつくり、その中に流れる価値観を明確にすること。そして、その価値観に基づいて社内ルールを構築していくと「一本筋の通った組織」となり、また、規則による「ダメ」「いけない」で統治された組織ではなく、自律型の価値観に基づいて「すべき」で動く組織をつくっていくことができるのだ。 (了)
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常識としてのビジネス法律 【第2回】「ビジネスと文書(その2)」
常識としてのビジネス法律 【第2回】 「ビジネスと文書(その2)」 弁護士 矢野 千秋 前回に引き続き、法律上の義務はないが作成が望ましい文書の留意点についてまとめる。 なお、各記載事項における共通の記載方法については前回の「領収書」における説明をご参照いただきたい。 1 「請求書」の記載ポイント 「請求書」を作成する際の注意点は、「いつ(時効中断との関係で重要)(WHEN)」「誰が(WHO)」「誰宛に(WHOM)」「どのような内容を」「いつまでに(合わせてWHAT)」請求するかを明確にすることである。 「いつまでに」、すなわち期限を抜書きしたのは、請求における「期限」の重要性による。 つまり、漫然と期限を切らずに請求したのでは請求書のインパクトが弱いし、また期限を過ぎれば遅延損害金の発生、契約の解除権の発生など種々の法律効果の起算点ともなるため、期限を切ることが請求書においては特に重要となる。 請求権がいくつかある場合は(継続取引にはよくある。WHY)、どの請求権を行使しているのかを明確にする。 重要な請求書は、配達証明付内容証明郵便によることが望ましい。 この場合の「重要な請求書」とは、相手方が不履行に陥っているときの催告書のように、後日紛争が予想される場合に送付する請求書のことを指す。 2 「注文書」の記載ポイント 日常取引(特に基本契約に基づく個別契約など)では「注文書」と「注文請書」とで契約書の代替をさせることが多いので、正確な内容のものを作成し、必ず控え(これに相手方の署名でも貰えば注文請書となる)をとっておくようにするべきである。 注文書だけでは相手方に渡してしまい、手元に残らないからである。 やはり「誰が(WHO)」「誰に(WHOM)」「内容(WHAT)」「いつ(WHEN)」を明確にする。 WHATの内容を具体的に書くと、以下のとおりである。 3 「注文請書」の記載ポイント 別途契約書を作らない場合に、契約の成立を証明するには、「注文書」と「注文請書」が必要である。 通常は「注文書」の複写を作成し、末尾に「上記注文を承諾しました。」等の文言を付加して「注文請書」を作る。 これが入手できないときは、注文書の写しに署名だけでももらっておくべきである。 これにより、注文(申込)内容を相手方が了解(承諾)した、すなわち契約が成立したことの証拠となる。 注文書と注文請書に種々の事故対策などを通常書かないのは、注文書等はスペースに限りがあるし、事故対策は個別取引に共通のものであり、取引基本契約書などに記載されるべきものだからである。 4 「催告書」の記載ポイント 「催告書」は、金銭の支払い、目的物の交付、建物明渡し等、相手方の債務の履行を促す文書、すなわち請求書の一種であるが、遅延損害金の発生や契約の解除と関係することが多く、後日の証拠として先日まで公の機関(私的自治の例外)だった郵便局の証明を付することが望ましい。 相手方が約定どおりの履行をしないから催告しているのであり、もはや紛争が現実化しているとさえいえるからである。 このため催告書の送付は、配達証明付内容証明郵便によるべきである。一歩進めば訴訟も考えられ、訴訟をにらんで、できるだけ証明力の強い証拠を作成しておこうとする当事者の努力の表れである。 配達証明付内容証明郵便については次回以降に解説する。 5 「報告書」の記載ポイント 文書化が望ましいものとは、長期にわたる特命事項の報告、他の関係者にも伝達を要する事項の報告、その報告に基づいて計画や方針が決定される重要事項の報告、後日のために保存の必要がある事項の報告、正確な伝達が困難な事項の報告等、要は「重厚長大」に関わる場合である。 内容的に4Wが必要なことは当然として、その他の注意点としては、「事実」と「担当者判断」を分けて記載することが望ましい。 その理由は、報告を受ける者も、まずは生の事実のみを読んで独立した判断ができるようにし、その上で担当者判断と突き合わせて判断の正しいことを検証するべきだからである。 分けて記載されていないと、報告を受ける者が事実を読む過程において担当者判断を読んでしまい、担当者判断を先に読んでしまうと自分の判断形成になんらかの影響を受けることが多く、独立した客観的な判断ができなくなるからである。 つまりは、報告書の持つ機能の一つである「ダブルチェック機能」を十分に発揮させるためである。 6 「委任状」の記載ポイント 「委任状」とは、ある人に一定の事項を委任した旨を記載した文書であり、訴訟の場合は法律上委任状が必要である。 代理の場合において、本人が意思表示をしていないのに本人に法効果が帰属する理由は、本人が代理人に代理権を与え(代理権)代理人が本人のためにすることを示して(顕名:民法99条)代理人が意思表示(意思表示)をしたためである。 ただし、商事においては(会社関係はこちらの適用になる)、代理人が本人のために商行為を代理するとき、必ずしも本人のためにすること(顕名)を示さなくともよい(商法504条本文)。 これは、商取引は迅速性と共に安全性を要求しているためである。 担当者が行為をすれば、通常会社などを代理して行為していると信ずるのが普通である。 その信頼を保護しないとすれば、取引の安全が害されるからである。 しかし相手方が、代理人が本人(会社など)のためにしていることを知らなかったときは、代理人に対して履行の請求ができるとして相手方の保護を図っている(商法504条但書)。 「委任状」の記載におけるその他の留意点は以下のとおりである。 ① 表題 表題は「委任状」と記載する。訴訟の委任状であれば「訴訟委任状」と記載すべきである。 ② 受任者 受任者とは代理人のことであるから、代理人の住所・氏名(WHOM)を記載する。 この者がなした意思表示の効果が委任者本人に帰属することになる。 ③ 委任文言 「以下の事項を委任します。」と記載する。 代理権を与えた旨の中核的記載である。 ④ 委任事項 下記のように不動産などに関する契約の場合は、不動産登記簿謄本を参照するのが無難である。 ⑤ 条件 条件があれば、必ず具体的に書いておく。 もし条件があるのに記載していない場合は、その条件の存在を知らない無過失の相手方に対して、その条件の存在を対抗できなくなる(民法110条)。 すなわち上記の例で、㎡あたり9万円で売買契約が締結されても、無過失の相手方に対してはその売買契約は有効とされる。もちろん、善意無過失の相手方の保護、取引の安全のためである(③~⑤まで合わせてWHATに当たる)。 ⑥ 作成年月日 実際に作成した日を書く(WHEN)。 一応この日を基準として、代理権の存否も判断されるからである。 ⑦ 委任者 委任者、すなわち本人の住所、氏名及び実印を押捺する(認印でも法律上は有効)。 会社ならば、登記上の本店所在地、会社名、代表資格、代表者名及び代表者印を押捺する(WHO)。 ⑧ 白紙委任状 WHATの欄が空欄になっているものをいい、一種無制限の代理権の授与となり乱用されると極めて危険であるので、よほど信頼できる相手方に交付するような場合を除いて、極力避けるべきである。 ⑨ 印鑑証明 印鑑証明書も併せて要求されることが多いが、万一不安があれば委任状の余白に印鑑証明書を糊付けし、実印で割印しておくと流用を防止できる。 (了)
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〔税理士・会計士が知っておくべき〕情報システムと情報セキュリティ 【第8回】「会計事務所の情報(IT)化」
〔税理士・会計士が知っておくべき〕 情報システムと情報セキュリティ 【第8回】 「会計事務所の情報(IT)化」 公認会計士 中原 國尋 はじめに ひとことで「会計事務所」と言っても、数人で運営している事務所から数百人を超える事務所まであり、その規模感は幅広い。そして、その主たる業務である会計業務は、情報システムによって管理されていることがほとんどである。 そのような中で、「会計事務所のIT化」はどのように進められているのか、また今後どのように進められるべきなのか、検討を進めたい。 会計事務所内の情報システム~ネットワーク、サーバの設定~ まず、会計事務所で情報システムを利用するに当たって、事務所の構成員が十分に情報システムを利用できる環境を整えなければならない。 会計事務所の中には、外部のシステムサポート業者に全面的に委託しているケースもあると考えられるが、「情報システムを用いて何をしたいか」を明確にしたうえで、事務所の意向を実現すべく対応することが期待される。 検討すべき項目の例としては、次のようなものが挙げられる。 会計事務所内で使用するPC等のハードウェアの管理及びグループウェア等の情報ツールをどのようにするのか、まず検討されるべき項目であろう。 PC等については、一般的には事務所が所有しているPC等を従業員に貸与しているケースが多いと考えられる。日常業務はそのPC等を用いて行われるが、そのPCを貸与されているユーザーが「どの範囲まで利用可能な状況にするのか」については、検討しなければならない。 多くは個人のID及びパスワードを設定して管理していると思われるが、貸与されたユーザーが不在の場合にPCにアクセスできない事態を回避するためにも、事務所の情報システム担当者が管理目的でアクセスできる権限を有するIDを設定しておくことは重要である。ユーザーが多くなれば、後述するようにユーザーアカウントを統合的に管理する方法も検討される。 情報ツールについては、最近は多くのサービスが外部業者から提供されている。事務所内に構築したサーバに各種ソフトウェアをインストールして使用する場合には特段問題にならないが、第三者が提供している各種サービスを利用する際には、考慮すべき事項がある。 事務所内で情報を共有しながら業務を進めていくためには、ファイル共有等の仕組みが重要になるが、通常はファイルサーバを構築して、そこに情報を集約する方法が採られる。 以上のような業務を進めるにあたっては、利用可能なネットワークの構築が必須である。そしてそのネットワークは通常、インターネットにつながっていることが多い。 すなわち、事務所内で秘匿性の高い情報を扱っているネットワークとインターネットがつながることになる。 したがって、ネットワーク導入の際には、ユーザーの利便性もさることながら、目的に応じたネットワークの導入を行うことが必要である。 システムサポート業者に依頼する場合に「よくわからない」ことを理由に業者任せにすると、思わぬ不具合が残る可能性が指摘される。 クラウドの活用~顧客企業への情報システム支援~ 情報システム及びネットワーク環境が充実している昨今、有料無料を問わずクラウドコンピューティングによるサービス提供が広く行われている。会計事務所が業務を提供するにあたっても、それらのサービスを活用することによって業務活動を有効に行うことができる。 広く利用されているクラウドサービスには、例えば次のようなものがある。 クラウドサービスを有効に利用することができれば、業務上非常に有用である。しかしながら、特に第三者が提供しているクラウドサービスを利用する場合には、いくつかの点について留意しておかなければならない。 まず第一は、クラウドサービスを利用するために保存する情報は、外部のどこかのサーバに保存されているケースがほとんどであるということである。 これはすなわち、保存されているサーバの管理者であれば、必ず閲覧することができる環境にあるということである(Gmail等の電子メールサービスについても同様である)。 次に、世界中誰にでもアクセス可能であるということである。 もちろん誰もが閲覧等できない状況にするために、設定をすることで制御することは可能である。しかし設定が間違っていれば、関係者以外のユーザーが閲覧可能になってしまう可能性があるのである。一般に発生する情報漏えい事件は、後者の設定間違いに依存するケースが多いようである。 ある業界では、クラウドサービス提供による情報事故の発生を受けて、「少なくとも有料サービスを用いて、サービス提供業者の責任を明確にすること」を求めたことがある。 会計事務所においても、便利なサービスの利用を無条件に拒絶するのは効率的でなくなることも考えられるので、利用については最低限のルールを設けるべきである。 情報セキュリティの確保 情報システムを利用するにあたって、会計事務所は顧客企業の重要情報を多く保有していることからも、情報セキュリティについては十分に検討しなければならない。特に、利用可能な第三者が提供しているサービスを利用する機会もますます多くなってくる。 そのようなとき、次のような点を中心に、情報セキュリティについてどのようにするか考えていなければならない。 情報セキュリティを十分に確保するためには、事務所としての方針を決定することが望まれる。そして、技術的な情報セキュリティの対策は取らなければならないが、もっとも重要なのは「教育」であることを考慮していなければならない。 ユーザーのアクセス制御については、ユーザーIDとパスワードを用いた管理が最初に考えられる方法である。 例えばPCごとに利用ユーザーを設定しているケースが多いと考えられるが、ユーザーが増えてくると個別の管理は煩雑になるため、“ディレクトリサービス”と呼ばれる統合管理を行うことが多い。 ところで、ユーザーのアクセス制御はPCのログイン管理のみならず、事務所内で保存している情報、外部に保存している情報、利用可能なネットワークなど、アクセス制御を検討すべき箇所は多い。それに加えて、持ち出され破壊されないように物理的管理を検討しなければならない。 また、業務で使用しているデータの保全も大きな問題となる。 データの喪失は業務停止を意味することも多いため、例えば、重要なデータを集中管理して個別にバックアップを取得したり、取得したバックアップを別サイトに保存したりすることによって、万一の場合に備えることも重要である。 これらについては、世間一般に確定しているような画一的なルールは存在しないことから、事務所の状況に応じて考えていかなければならない。また最近は顧客企業や事務所内のネットワークに対しVPN接続等により外部ネットワークから接続可能にするサービスも広まりつつあり、そのような環境も考慮したうえでセキュリティのあり方を考えなければならない。 そうであるならば、外部のシステムサポート業者にすべて任せることが非現実的であることが、よく分かるのではないだろうか。 情報セキュリティを強化することは、利便性の追求とトレードオフとなる。利便性をすべて犠牲にしてしまっては情報環境を利用している意味が低減することから、事務所で必要な情報セキュリティのレベル感を十分に考慮しなければならないのである。 そのレベル感を検討するために、日本公認会計士協会IT委員会が公表している各種指針(IT委員会実務指針第4号「公認会計士業務における情報セキュリティの指針」、IT委員会研究報告第34号『IT委員会実務指針第4号「公認会計士業務における情報セキュリティの指針Q&A」』)及びそのチェックリスト(IT委員会実務指針第4号及びIT委員会研究報告第34号に基づくチェックリスト)が参考になる。 おわりに 会計事務所にとってIT化は、避けては通れない。これは明らかである。 特に直接的に見読不可能な電子データ形態で保有している情報をどのように管理するのかについては、会計事務所が情報事故をなくすために非常に重要である一方、顧客企業にとっても依頼している会計事務所の情報管理の実態は、業務依頼するにあたって一つの判断要素になるものである。 (了)
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顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第19回】「棚卸資産管理のKPI(その③ 在庫管理)」
顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第19回】 「棚卸資産管理のKPI (その③ 在庫管理)」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 今回は、棚卸資産管理を構成する複数のKPIから、「在庫管理」のサービスレベルを評価するKPIを取り上げる。 棚卸資産管理の対象となる資産は、商品、製品、半製品、原材料等、いずれも最終的に販売を予定した流動性の高い資産であり、受払の管理、売れ筋の管理、在庫量の過不足の管理、滞留在庫の管理のあり方が会社の収益や資金繰りを左右すると言っても過言ではない。 そこで、滞留在庫による収益や資金繰りの悪化を予防する観点で重要なKPIを紹介しよう。 KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 前回述べたとおり、経済産業省スタンダードでは、棚卸資産管理において、会社が担う一般的な機能として、「残高管理」、「受払管理」、「適正在庫管理」という3つの機能を挙げている。 今回解説するKPIは、「適正在庫管理」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:棚卸資産管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) さらに、経済産業省スタンダードでは、「適正在庫管理」に関連する業務プロセスとして、在庫年齢管理を次のようにまとめている。 〈経済産業省スタンダード:3.3.2在庫年齢管理〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) 在庫年齢管理では、実際に保管されている棚卸資産の保管期間を確認し、あらかじめ定めた滞留年齢基準と比較する。比較の結果、実際の保管期間が滞留年齢基準を超過している場合、原因を究明し、事業上の対応策を検討するとともに、長期の滞留によって通常の販売価格では販売できないことが明らかな著しい陳腐化が発生している場合、当該資産にかかる評価損を計上する。 今回のKPIは、在庫年齢管理において滞留在庫を認識するために使われる在庫年齢表を作成する頻度に着目して、滞留在庫による収益や資金繰りの悪化を予防するリスク管理のレベルを問うものである。 定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 「在庫年齢」とは、仕入計上日から売上計上日までの経過日数をさす。従来の日本の会計慣行と物理的な在庫管理を重視すると、在庫年齢は入荷日から出荷日までの経過日数に等しくなる。 もっとも、上場企業等で適用が検討されている国際財務報告基準(IFRS)を採用した場合には、出荷日が売上計上日と一致しない可能性が高い。 KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルにおいて、このKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、滞留在庫の発生を予防し適正に管理するため、定期的に在庫年齢を把握することが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 棚卸資産の種類毎に定期的に在庫年齢を点検し、あらかじめ定めた一定の基準在庫年齢の超過を発見した場合、事業リスク管理の観点では、滞留原因を究明し、対応策を策定しなければならない。他方、財務報告の信頼性の観点では、正味売却価額が取得原価を下回る収益性の低下が認められた場合、それを帳簿価額に反映しなければならない。 なぜ、在庫年齢の管理を重要と考えるのか。 長い期間販売されずに保管されたままの棚卸資産では、見た目は欠陥品でなくても、商品ライフサイクルの変化による経済的な劣化や市場における供給過多による売価の下落に起因する陳腐化が発生することがあり、収益性の低下を招くからである。したがって、在庫管理では、物理的に劣化した欠陥品の管理だけでなく、経済的な劣化にも注意が必要である。 在庫年齢は、そのような経済的な劣化を、販売部門、倉庫部門、購買部門、経理財務部門に伝達し、警告を促す重要なきっかけとなる。 では、もし会社の中で、このような価値判断が共有されず、関係部門において在庫年齢表による在庫年齢の見える化ができていない場合、どのような問題が起こるのか。 端的に言えば、各部門は、それぞれの業績評価の向上だけを目指して行動し、会社全体として最適な行動をとることができなくなり、滞留在庫が増加する可能性が高い。 筆者(株式会社スタンダード機構)がこれまで行った業務改善コンサルティングで見聞した経験則では、業績評価において異なる目標を掲げる部門が集まって成り立っている会社という組織においては、一般的な傾向として、各部門は自分のことだけを考えて行動するので、中立的な経理財務部門が経営管理や業績評価に関与しなければ、会社全体で見た場合に在庫管理をめぐって発生している無秩序状態は解消せず、放置すれば在庫増加圧力が高まるバイアスがかかっていると拝察する。 つまり、販売部門は、その時々の新商品や人気商品の売れ筋の販売ばかりに注力して多くの在庫を持ちたがるが、人気のない商品には感心を示さない傾向を持つ。 倉庫部門は、日常の作業の邪魔となる受払の少ない在庫を倉庫の奥の方に保管する傾向を持つ。 購買部門は、仕入割戻の獲得や事務手数の削減のため、購入ロット量を増やす大量発注を継続する傾向を持つ。 このような、勝手気ままな各部門の集まりである会社という組織の力学としては、人気の少ない正常品が自ずと人目から遠ざかった場所に放置されて、組織の見えないところに内臓脂肪のように蓄積し、年に数度の健康診断である実地棚卸で存在が発見されるのが関の山という有様である。 結局、滞留在庫が、借入金利、保管料等の負担を発生させることによって会社財産を食いつぶしていることが実地棚卸まで発見されなくなるのである。このように、滞留在庫に対する適正な初動が遅れると、収益や資金繰りを圧迫する事態も招来する。 そこで、スコアリングモデルでは、実地棚卸を待たずに、滞留在庫による収益や資金繰りの悪化を早期に予防するリスク管理のレベルを比較するため、在庫年齢表の作成頻度をKPIとした。そして、この日数が短い会社が長い会社よりも相対的に望ましいと考えている。 顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 まず、読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、一定の頻度で適正な在庫年齢管理が行われていることを確認していただきたい。 例えば、在庫管理規程を閲覧し、在庫年齢別の在庫管理表を作成する頻度、査閲する関係部門、関係部門の対応行動が定められていることを確認することが考えられる。 それを前提に、例えば、一定期間の実際の在庫年齢別の在庫管理表を試査により閲覧し、在庫管理規程の定めが運用されている痕跡と頻度の日数を確認していただきたい。 さて、読者の顧問先において、在庫年齢別の在庫管理表を作成する頻度は何日になったであろうか。 * * * 次回からは、「固定資産管理」のKPIを取り上げる。 「固定資産管理」を構成する複数のKPIのうち、まずは「資産取得実行・リース実行」に関連する業務プロセスを評価するKPIから取り上げる。 (了)
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税理士・公認会計士事務所[ホームページ]再点検のポイント 【第7回】「今の事務所ホームページ、最低限ここだけは点検してください」~表示が崩れていませんか~
税理士・公認会計士事務所 [ホームページ]再点検のポイント 【第7回】 「今の事務所ホームページ、最低限ここだけは点検してください」 ~表示が崩れていませんか~ データライズ株式会社 代表取締役社長 公認会計士・税理士 河村 慎弥 前回まではホームページの管理業者を変えるときのポイントや問題点などについてお話してきました。 今回からは、公開中のご自分の事務所のホームページを見直していく際のポイントをお話します。 今回と次回は、「最低限、これだけはすぐに直しましょう!」ということについてのお話です。 (今回は覚えることがたくさんありますが、がんばってついてきてください!) * * * まず最初に、ホームページの構成を簡単にご説明します。 以下は、ホームページの中でも「トップページ」と呼ばれる、新聞でいえば「一面」に相当するページです。 図の中の①は「メニュー」、②は「バナー」と呼ばれます。 メニューやバナーには、「リンク」と呼ばれる情報が埋め込まれていて、クリックすることで、そのホームページ内の他のページや、そのホームページとは異なる他のホームページを見ることができます。これを「遷移する」といいます(この「リンク」と「遷移」については、次回お話します)。 今回お話する「点検していただきたいポイント」は、「表示が崩れていないか」という点です。 典型的な場合としては、以下のものがあります。 ① ホームページ全体の構成が崩れている 下の図をご覧ください。一目でホームページが崩れて表示されていることがおわかりいただけるはずです。 ② 文字同士や文字とイラストが被っている 下の図をご覧ください。上が正常な表示、下が崩れた表示です。 「お客様本位のサービス」というキャッチ・フレーズと、その下の解説文書が被ってしまっています。 ③ 写真のあるはずの場所に写真がない 下の図をご覧ください。左が正常な表示、右が崩れた表示です。ビルの写真がなくなってしまっています。 * * * 上のようなホームページは、閲覧した人にあまり良い印象を与えません。 どれだけすばらしい事務所でも、閲覧した人は「いい加減な雰囲気」として読み取ってしまいます。 そんな場合には、あなたの事務所そのものの印象まで悪くしかねませんので、すぐに修正した方がよいでしょう。 表示が崩れてしまう原因の多くは、上記の①と②についてはホームページを閲覧しているブラウザへの対応不足、③については管理上のミスです。 以下では、「ブラウザ」というものについてお話します。 ブラウザとしては、「インターネット・エクスプローラー」や「グーグル・クロム」、「ファイア・フォックス」が有名ですが(下記、用語説明あります)、どれを使って閲覧するかにより、同じホームページであっても見え方が違うことがあります。 グーグル・クロムで閲覧したら正常に表示されるのだけれど、インターネット・エクスプローラーで閲覧すると表示が崩れているとか、その逆であるとか・・・。 ホームページ制作会社は通常、この3つのブラウザについてはどれで閲覧しても表示が崩れないように対応して制作します。 しかし、同じブラウザであってもバージョン・アップしてしまうと見え方が違ってくることがあります。 何年も前に制作したホームページだと、制作した時にちゃんと表示されていたブラウザでも、その「新しいバージョン」で閲覧すると、表示が崩れてしまうこともあるのです。 ある調査によると、2013年10月1日現在の日本国内のブラウザのシェアは、インターネット・エクスプローラーの「バージョン8」が約11%、「バージョン9」が約7%、「バージョン10(最新版)」が約32%、グーグル・クロムの最新版が約21%、ファイア・フォックスの「バージョン23」が10%弱となっています。 筆者の経験からすると、グーグル・クロムとファイア・フォックスの表示結果が異なることは、それほど多くありません。 そのため、インターネット・エクスプローラーのバージョン10とグーグル・クロムの最新版で、ご自分の事務所のホームページがきちんと表示されるか、上記①~③のように表示が崩れているページがないか、確認しておくのがよいでしょう。 (了)
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「民間投資活性化等のための税制改正大網」に関する速報解説
「民間投資活性化等のための税制改正大網」に関する速報解説について 2013年10月1日付けで公表されました「民間投資活性化等のための税制改正大網」について、Profession Journalでは順次《速報解説》を公開してまいりますので、ぜひご覧ください。 ※速報解説は、プロフェッションネットワークのプレミアム会員限定サービスです。
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《速報解説》 中小企業投資促進税制の延長・拡充~民間投資活性化等のための税制改正大綱~
《速報解説》 中小企業投資促進税制の延長・拡充 ~民間投資活性化等のための税制改正大綱~ 税理士法人オランジェ 代表社員 税理士 石田 寿行 1 中小企業投資促進税制の拡充 ① 拡充の概要 拙稿「《速報解説》生産性向上設備投資促進税制の創設」で紹介したとおり、企業の設備投資を促進するため「民間投資活性化等のための税制改正」(平成25年10月1日与党税制改正大綱)により生産性向上設備投資促進税制が創設された。 また、地域経済及び雇用を支える中小企業を支援するため、中小企業投資促進税制についても延長・拡充がなされることとなった。 具体的には、中小企業投資促進税制の適用期限を平成29年3月31日まで3年間延長し、生産性向上設備投資促進税制の対象設備等に該当するものについては、即時償却又は7%(資本金3,000万円以下の特定中小企業者等であれば10%)の税額控除ができる。あわせて、中小企業者等の少額減価償却資産(30万円未満)の取得価額の損金算入の特例の適用期限を平成28年3月31日まで2年間延長する。 ② 拡充前と拡充後の具体的内容 中小企業投資促進税制は一定の指定事業(下記参照)を営む法人が特定機械装置等(一定の機械装置、工具器具備品、ソフトウェア、貨物自動車、内航船舶)を取得した場合に特別償却又は税額控除ができる制度である。 拡充前と拡充後の具体的な変更内容をまとめると、以下の通りである。 (注) 平成26年3月31日以前に終了する事業年度において産業競争力強化法の施行日から平成26年3月31日までの間に対象資産の取得等をした場合には、平成26年4月1日を含む事業年度において特別償却相当額又は税額控除相当額の償却又は繰越控除が可能。 2 実務上の留意点 「中小企業投資促進税制」と「生産性向上設備投資促進税制」は、企業の設備投資を促進させるという目的は同じだが、以下のような相違点に留意すべきである。 ① 適用対象業種 中小企業投資促進税制は指定事業(製造業、建設業、農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、卸売業、道路貨物運送業、倉庫業、港湾運送業、ガス業、小売業、料理店業、その他の飲食店業、一般旅客自動車運送業、旅行業、郵便業、通信業、サービス業その他一定の事業)に限定されているが、生産性向上設備投資促進税制については全業種が対象となっている ② 適用対象法人 中小企業投資促進税制は資本金1億円以下の法人が対象となるが、生産性向上設備投資促進税制においては資本金1億円超の法人も対象となる(ただし、資本金1億円以下であっても、大規模法人の子会社など中小企業者等に該当しない場合には適用不可)。 (了)
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《速報解説》 事業再編を促進するための税制措置の創設~民間投資活性化等のための税制改正大綱~
《速報解説》 事業再編を促進するための税制措置の創設 ~民間投資活性化等のための税制改正大綱~ OAG税理士法人 税理士 辻 喜子 1 事業再編を促進するための税制措置の概要 産業競争力強化法(仮称)に規定する特定事業再編計画(仮称)の認定を受けた法人は、事業再編を行う際に取得した株式等の取得価額の70%を準備金として積み立て、損金算入することができる。 2 制度趣旨 我が国では、欧米等と比べて1つの事業分野に複数の企業が存在するために、結果として収益力や海外市場を開拓する力が弱いケースが多く、事業統合による収益力や国際競争力の強化が急務となっている。 このような中、事業部門の分離・他社事業部門等との統合等、潜在力ある事業の成長事業化や国際競争力強化に向けた事業再編を行う企業は、再編で誕生する新会社が軌道に乗るまで資金の支援を行うことが多く、その財務上の負担が再編の障害の一つとなっている。 本制度は、事業部門の分離・統合により設立される会社の成長に必要な資金負担を行う出資会社に対し、財務負担の軽減を図る趣旨で設けられたものである。 3 制度の内容 (1) 適用要件 以下のすべての要件を満たす必要がある。 (2) 損金算入限度額 特定株式等の取得価額 × 70% (3) 益金算入額 積立期間終了の日を含む事業年度終了の時における準備期間残高について翌事業年度から5年間で均等額を取り崩す。 なお、特定会社が解散等をした場合には、準備金を一括で取り崩すこととなると考えられる。 4 適用時期 本制度は、平成26年4月1日以後に終了する事業年度について適用される予定である。 なお、平成26年4月1日前に終了する事業年度において、産業競争力強化法(仮称)の施行日から平成26年3月31日までの間に特定株式等の取得をした場合には、平成26年4月1日を含む事業年度においてその準備金積立相当額の損金算入が認められる。 (了)
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《速報解説》 事業再編等に係る登録免許税の税率の軽減措置の創設~民間投資活性化等のための税制改正大綱~
《速報解説》 事業再編等に係る登録免許税の税率の軽減措置の創設 ~民間投資活性化等のための税制改正大綱~ OAG税理士法人 税理士 新村 育代 1 事業再編等に係る登録免許税の税率の軽減措置の概要 産業競争力強化法(仮称)の認定を受けて事業再編や中小企業の事業再生を行う場合、会社の設立・不動産の取得等について、現行の産活法(※)と同等に登録免許税の負担を軽減するものである。 (※) 産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(平成11年法律第131号) 2 制度趣旨 我が国では、一事業への集中による利益率の低下が問題視される一方で、他社との経営融合を図ることでさらなる成長が期待できる事業が多く存在するとされ、戦略的、抜本的な組織再編・事業再編を推進することにより、国内の過剰供給・過当競争構造を解消し、産業の競争力の強化を図る必要がある。 また、財務や事業の見直しにより再生可能な中小企業・小規模事業者について、債務超過の解消、収益性の向上等に向けた再生計画の策定を地域の関係機関や専門家等が連携して支援することにより、産業の新陳代謝を活性化させ、産業競争力の強化を図る必要がある。 本制度は、事業再編や中小企業の事業再生を行う場合のトランザクションコストである登録免許税の負担の軽減を図る趣旨で設けられた。 3 制度の内容 産活法では認定対象として4計画(事業再構築計画、経営資源再活用計画、経営資源融合計画、資源生産性革新計画)を掲げていたが、戦略の実行、加速化を図るための見直しが行われ、産業競争力強化法では2計画(事業再編計画及び特定事業再編計画)に統合された。なお、中小企業承継事業再生計画については現行のまま継続して措置されている。 これらの計画の認定を受けた事業者については、以下のとおり登録免許税が軽減される。 4 適用時期 産業競争力強化法の施行日から平成28年3月31日までの間に、同法に基づく上記計画の認定を受けた事業者に限り適用される。 (了)