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雇用促進税制・所得拡大促進税制の実務 ~要件・手続の確認から両制度の適用比較まで~ 【追補】「所得拡大促進税制に係る通達の新設」
雇用促進税制・ 所得拡大促進税制の実務 ~要件・手続の確認から両制度の適用比較まで~ 【追補】 「所得拡大促進税制に係る通達の新設」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 平成25年6月27日、国税庁より「法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」が公表された。 今回の改正では、平成25年度税制改正で新たに導入された所得拡大促進税制(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)に関し、新たな通達が設けられている。 そこで本稿では、新設された通達の内容について解説することとし、かねて連載していた「雇用促進税制・所得拡大促進税制の実務」(所得拡大促進税制の内容については、第3回の記事を参照)の補足としたい。 2 新たに設けられた通達 租税特別措置法関係通達(法人税編)において、第42条の12の4《雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除》関係として、以下の通達が新たに設けられた。 以下、個別に内容を説明していく。 3 中小企業者等であるかどうかの判定の時期(措通42の12の4-1) 青色申告書を提出する法人は、雇用者給与等支給増加額の10%相当額を(その事業年度の所得に対する)法人税の額から控除することができるが、控除限度額は法人税額の10%となる。ただしその法人が「中小企業者等」に該当する場合、所得拡大促進税制に係る税額控除限度額が法人税額の20%となる(措法42の12の4①)。 ここでいう「中小企業者等」とは、資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人のうち、以下のいずれにも該当しない法人をいう(措法42の4⑫五、措令27の4⑩) この点に関し、新設された通達では、ある事業者が「中小企業者等」に該当するかどうかは、所得拡大促進税制の適用を受ける事業年度終了の時の現況によって判定することを明らかにしたものである。 具体的には、その事業者の資本金の額又は出資金の額は事業年度終了時における額をもって判定し、発行済株式又は出資の所有関係についても、事業年度終了時の現況で判定するということである。 4 他の者から支払いを受ける金額の範囲(措通42の12の4-2) 所得拡大促進税制における計算基礎となる「雇用者給与等支給額」の算定に当たり、その給与等の支給に充てるため他の者から支払いを受ける金額がある場合には、その金額を控除する必要がある(措法42の12の4②三)。 この点に関し、「他の者から支払を受ける金額」の具体的な内容については、条文上必ずしも明確ではなく、第3回の連載記事においても「今後通達が整備される可能性がある」と記載したところであるが、今回の通達の新設によって具体的な取扱いが明らかとなった。 今回の通達は、雇用促進税制における通達(措通42の12-2)と全く同じ内容となっており、控除すべき額の具体例としては、①雇用者の数に応じて国等から支給される助成金の額、②出向先法人から支払いを受ける給与等負担金の額が挙げられている。 これらは例示列挙であるから、以上に該当しないものであっても、給与等に充てるために支払いを受ける額がある場合には、雇用者給与等支給額の金額の計算上控除しなければならない点につき留意が必要と考える。 5 出向先法人が支出する給与負担金(措通42の12の4-3) この通達は、出向先法人が支出する給与負担金について、出向先法人における取扱いを明らかにしたものである。 すなわち、出向先法人において、出向者が労働基準法第108条に規定する賃金台帳に記載されている場合には、出向先法人が出向元法人に対して支払う給与負担金の額は、当該出向者に対する給与支給額と同視して「国内雇用者に対する給与等の支給額」に含まれるということを明らかにしたものである。 したがって、出向先法人において所得拡大促進税制の適用を受ける場合には、「雇用者給与等支給額」の計算に当たり給与等支給額を含めることができる(ただし、当該出向者の賃金台帳への記載が必要)ということである。 (了)
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「移転価格事務運営要領」の改正について
「移転価格事務運営要領」の改正について 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 1 はじめに 国税庁は、平成25年6月28日付けで、「移転価格事務運営要領」(以下「事務運営要領」)の一部を改正することを明らかにした。 主な改正項目は、以下の4項目である。 改正事項は平成25年4月1日以降開始する事業年度の法人税に係る調査及び事前確認審査に適用し、それ以前は従前の例によるとされている。 以下、上記4つの項目について順に解説する。 2 ベリー比の適用に関する参考事例の解説 (1) ベリー比とは 平成25年度税制改正において移転価格算定方法のうちの取引単位営業利益法(TNMM)に営業費用総利益率(いわゆるベリー比)を利益指標とする方法が追加された(租税特別措置法施行令39条の12第8項4号及び5号)。 ベリー比は、営業費用と売上総利益の相関関係が高い取引に適した算定方法である。 例えば、商社の取引に典型的にみられるように、果たした機能に比して売上高が多額であるが総利益率は低い取引に適した算定方法である。 こうした取引に売上高営業利益率を適用した場合、過大な営業利益が算出されてしまう可能性がある。 従来からベリー比はTNMMの1つである総費用営業利益率法(ネット・コスト・プラス)の一種と解釈して現行規定でも適用可能との見解もあったが、反対意見もあり取扱いが明確でなかった。 今回、政令で認められたことから、適用に関する透明性が確保された。 ベリ―比を用いたTNMMが認められたことにより、我が国の移転価格算定方法の種類は以下の表のとおりとなった。 〈独立企業間価格の算定方法〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 では、ベリー比とはどのような方法なのかを、簡単な計算例でみてみよう。 〔4号ベリー比の計算〕 検証対象企業は関連者から仕入れた商品を120円で第三者に販売している。検証対象企業の営業費用が8円、第三者に120円で販売している場合、比較対象企業のベリー比(売上総利益/営業費用)が1.5とすると、関連者からの仕入取引の独立企業間価格Xは下記のとおり108円となる。 比較対象企業のベリー比=1.5とすると、 X=120-8×1.5=120-12=108 〔5号ベリー比の計算〕 検証対象企業は第三者から100円で仕入れた商品を関連者に販売している。検証対象企業の営業費用が8円、比較対象企業のベリー比(売上総利益/営業費用)が1.5とすると、関連者に対する売上取引の独立企業間価格Yは下記のとおり112円となる。 比較対象企業のベリー比=1.5とすると、 Y=100+8×1.5=100+12=112 (2) 事例集における売上高営業利益率法とベリー比の適用区分に関する解説 ベリー比の解説は、「参考事例集」の「事例6」の「前提条件2」として挿入された。 事例6はTNMMの適用に関する事例の解説であり、改正前は「前提条件1」として売上高営業利益率法、「前提条件2」として無形資産の使用許諾取引の場合の解説があったが、今回の改正で、「前提条件2」としてベリー比が挿入された。 【売上高営業利益率法の適用が最適となる条件】 ベリー比の導入に伴って、売上高営業利益率の適用の前提条件の記述も若干変更されている。改正前は、「売上総利益及び売上原価の金額を把握することができず」との前提条件を付していたが、これを削除している。 また、改正後は、「S社は独自性のある広告宣伝・販売促進活動を行っておらず、S社による独自の価値ある寄与があるとは認められない(独自の価値ある寄与をなす無形資産と所得の源泉との関係については、【事例10~15】参照)が、自らの販売計画に従ってP社から購入した製品Aを、一定の在庫を保有して管理し、再販売している。(下線部筆者)」として、下線部の文言が追加されている。 さらに、「比較可能性分析の結果、S社の果たした機能の価値は、営業費用ではなく、売上との間に関係があることが確認されている」との記述を追加している。 以上から、国税庁は、①主体的に立てた販売計画に基づいて一定の在庫を保有し管理していること、及び②機能の価値が営業費用ではなく売上との間に関係がある、といった条件を満たす場合に、売上高営業利益率法の適用が最適と考えていることがうかがわれる。 【ベリー比の適用が最適となる条件】 一方、ベリー比の適用条件については、事例6の「前提条件2」において、次の条件を設定している。 また、 との条件が設定されているが、この条件がベリー比を適用するうえでの積極的な条件になると考えられる。 以上から、国税庁は、①主体的な販売計画を持たず、独自性のある広告宣伝活動を行わず、在庫管理機能も持たず、実質的な仲介活動を行っており、②機能の価値が営業費用に反映されている場合にベリー比の適用が最適であると考えていることがうかがわれる。 事例6の解説の中で、取引単位営業利益法の適用における3つの利益指標である売上高営業利益率(リターン・オン・セールス)、総費用営業利益率(ネット・コスト・プラス)、営業費用売上総利益率(ベリー比)について、それぞれどのような場合に適切な方法となるかについての記述が追加されている。 3 事前確認の年次報告書の様式の制定 事前確認を取得した後、各対象年度における確認内容を順守していることについて報告書を提出することとされており(事務運営要領5-17)、一般的に「年次報告書」と呼ばれている。 従来は様式に定めがなく適宜の様式で提出していたが、このたび表紙の様式「独立企業間価格の算定方法等の確認に関する報告書」(別紙様式8)が定められた(事務運営要領5-17)ので、平成25年4月1日以降に開始する年度の報告書からはこの様式による必要がある。様式は以下のとおり。 「独立企業間価格の算定方法等の確認に関する報告書」(別紙様式8) ※画像をクリックすると、PDFファイルが開きます(国税庁ホームページへ)。 4 事前確認の適用に関する報告書の審査を「行政指導」に区分 事前確認適用報告書の審査は国税局調査部国際情報課など課税部局が行っていることから、その行為が「行政指導」なのか「調査」なのかが問題になる。行政手続法上の区分は、改正前の事務運営要領では「報告書等の検討は、法人税に関する調査に該当することに留意し」と規定され「調査」の扱いとなっている。 このため、審査の結果申告に非違があった場合には加算税が賦課される。ただし、報告書の検討があったことを知ったと認められる以前に自主的に修正申告書を提出する場合には、加算税を付さないとされている。 改正後は、取扱いが大きく変わり、原則として「調査」ではなく「行政指導」に該当することとなった。 このため改正後は、行政指導である限りにおいて、加算税は課されない。 ただし、確認法人が行政指導に応じない場合には、調査に移行することとされた。 5 過大支払利子税制の適用上の移転価格税制の適用 過大支払利子税制とは、関連者(直接・間接持ち分50%以上)への利子のネット支払額(支払い-受取り)が調整所得金額の50%を超える場合に利子費用の損金算入を認めないという制度である。利子の支払先の国において租税が課されない場合に適用される。 移転価格調査で、支払利率が独立企業間価格を超えている場合や受取利率が独立企業間価格を下回っている場合の取扱いが問題になるが、今回の改正で以下の取扱いが明らかにされた(事務運営要領2-25)。要するに、移転価格税制を優先して適用した結果算定される金額によることになる。 6 適用開始時期 改正後の事務運営要領の適用は、平成25年4月1日以降開始する事業年度の法人税に係る調査及び事前確認審査から開始し、それ以前は従前の例によるとされている(事務運営要領「経過的取扱い・・・改正通達の適用時期」)。 (了)
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相続税対策からみた生前贈与のポイント 【第2回】「貸家を贈与した場合の敷地の評価」
相続税対策からみた 生前贈与のポイント 【第2回】 「貸家を贈与した場合の 敷地の評価」 税理士法人タクトコンサルティング 税理士 山崎 信義 賃貸不動産を多数所有する個人が、所得税の節税対策のため、所得の少ない子に貸家の贈与を行う場合がある。 これは、子に家賃収入を移転させることにより子の財産と収入を増やすとともに、親の所得に対する税率と子の所得に対する税率の格差を利用して親子トータルでの税負担の軽減を図ろうとするものである。 このような所得税対策のため貸家の贈与を行う場合、相続税対策の面からは贈与後の敷地の評価額が問題となる。仮に目先の所得税の軽減が図られたとしても、敷地の相続税評価額が増加し、将来の相続税負担が大きくなるのであれば、実行の是非が問われることになるからだ。 そこで今回は、親が子に貸家を贈与し、その敷地を子に無償で使用させる場合の敷地の相続税評価について解説したいと思う。 1 貸家の敷地の評価 土地付き建物を所有している人が建物を他に貸し付けている場合における、その建物の敷地のことを「貸家建付地」という。 相続税評価上、貸家建付地の価額は の算式により計算する。 貸家の借家人には建物敷地の利用権があり、所有者であっても、その敷地の処分や利用について制限がされる。このため、相続税評価上、貸家建付地は土地所有者が自己使用地(自用地)としての評価額から借家人の有する敷地利用権相当額(自用地評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)を控除して評価する。 2 使用貸借により土地を貸した場合の評価 建物の所有を目的として無償による土地の借受け(使用貸借)をした場合は、借地借家法が適用されず、借主は借地権のような強い法的保護が受けられない。 このように使用貸借による土地の使用権は経済的価値が極めて低いと考えられるので、相続税評価上はゼロとされる。借主側の土地使用権の評価額がゼロとされることから、使用貸借に係る土地の貸主側の相続税評価は、自用地として評価される。 3 親から子に貸家の贈与があった後の敷地の評価 貸家とその敷地を所有する親が建物のみを子に贈与し、建物の敷地を使用貸借により貸し付けることにした場合、貸家贈与後のその敷地の相続税評価は、貸家の贈与前後で借家人の異動があったかどうかにより、次のとおりに取り扱われる。 (1) 貸家の贈与前後で貸家の借家人が同じ場合 使用貸借に係る土地を相続により取得した場合、相続税の計算上はその土地を自用地として評価する。しかし、贈与前は建物所有者である親がその敷地の所有者でもあるから、建物の所有者である親と建物の借家人との間で締結された賃貸借契約に基づき、建物の借家人は建物の敷地利用権を有している。判例においても、建物借家人の有する敷地利用権は建物が第三者に譲渡された場合でも侵害されないとしている(最判昭和38年2月21日民集17巻1号219頁)。 このことから、賃貸している建物の所有者が変わり、新たな建物所有者の敷地利用権が使用貸借に基づく利用権となっても、建物所有者の変更以前に有していた建物借家人の敷地利用権まで変更されたとはいえない。贈与前と同一の借家人が建物を賃借している場合は、土地所有者は建物敷地について引き続き処分や利用が制限されるので、土地評価は自用地としての評価額から相応の減額を行うのが当然といえる。 以上により、建物とその敷地の所有者が同一人で、その建物が他人に賃貸されているときに、その建物だけが贈与されて建物の敷地につき建物の贈与を受けた者に使用貸借が行われている状況で、その土地の相続があった場合、その土地の相続税評価額は、貸家建付地として評価される。 (2) 貸家の贈与前後で貸家の借家人が異なる場合 (1)の取扱いは、貸家の贈与前と贈与後で借家人が同一であることが前提である。 貸家の贈与後に借家人の異動があった場合には、贈与された貸家に係る敷地については使用貸借で貸した土地として自用地評価となる。 (3) 建物を同族会社に一括貸し、借家人に転貸する場合 建物を管理会社に一括で貸し、管理会社が入居者に建物を転貸している場合は、貸家の贈与後に入居者が変更したとしても借家人(管理会社)は贈与前と同じであるから、貸家の敷地は、貸家建付地として評価される。 したがって、不動産オーナーに賃貸管理業を営む同族会社がある場合、贈与前にその同族会社に建物を賃貸し、賃借人を同族会社に固定しておけば、建物贈与後も土地が貸家建付地として評価されることになる。 (了)
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鵜野和夫の不動産税務講座 【連載4】「路線価図の読み方(1)」
鵜野和夫の不動産税務講座 【連載4】 路線価図の読み方(1) 税理士・不動産鑑定士 鵜野 和夫 (一) 路線価と時価との関係は (二) 路線価の読み方は 図表1 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (三) 借地や貸宅地の場合は (四) 路線価の付けられていない宅地は 図表2 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます(国税庁ホームページへ)。 図表3 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます(国税庁ホームページへ)。 (五) 倍率地域の宅地は 図表4 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます(国税庁ホームページへ)。 (六) それから、画地の位置・形状による調整が (了)
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経理担当者のためのベーシック税務Q&A 【第4回】「不動産投資と税金」―借地権の税務―
経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第4回】 「不動産投資と税金」 ─借地権の税務─ 仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久 1 権利金の認定課税 法人が所有する土地を第三者に賃貸した場合には借地権が設定されることになり、一般的には、借地権の設定の対価として借地人から地主へ相応の権利金の支払いが行われます。 このため、関係会社間等の特殊な関係にある者の間で行われた取引において、権利金を収受する取引慣行があるにもかかわらずその収受がなされない場合には、税務上はこれらの行為があったものとみなして、権利金の認定課税が行われます(法法22、法令137、法基通13-1-1)。 ただし、次の2、3のいずれかの方法に該当する場合には、権利金の認定課税は行われません。 2 相当の地代を収受している場合 仮に権利金の収受がなされていなくても、その代わりに地代を高く設定していれば、権利金の認定課税の問題は生じません。この権利金の問題が生じない地代の額を『相当の地代』といいます。 この場合には、契約書においてその後の地代の改訂方法を定め、かつ、「相当の地代の改訂方法に関する届出書」を地主と借地人の連名で税務署長に提出します。(法令137、法基通13-1-2、平成元年3月30日直法2-2)。 3 土地の無償返還に関する届出書を提出している場合 仮に権利金の収受がなされていなくても、その代わりに立ち退きの際に立ち退き料を支払う必要がなければ、権利金の認定課税の問題は生じません。 この場合には、契約書において将来、借地人がその土地を無償で返還することを定め、かつ、「土地の無償返還に関する届出書」を地主と借地人の連名で税務署長に提出します。 なお、この届出書は、地主と借地人の間で借地権の設定がなく、かつ、権利金の収受がまったくないことを前提にしていますので、一部でも権利金を収受した場合には適用がありません(法基通13-1-7)。 4 地主と借地人が法人と法人の取引の場合 権利金を収受する取引慣行があり、かつ、権利金をまったく収受しておらず、地主と借地人が法人と法人の取引の場合に権利金の認定課税の問題が生じるのは、『相当の地代』を収受しておらず、かつ、「土地の無償返還に関する届出書」が提出されない場合です。 法人と法人の取引の場合の一般的な取扱いをまとめると、次のようになります。 5 自然発生借地権 「相当の地代の改訂方法に関する届出書」では、(1)原則として3年毎に『相当の地代』を改訂する方法と、(2)地代を据え置く方法を選択します。 ここで、(2)の方法を選択した場合には、計算上は土地の価額の変動に応じて借地権の額が算出されますので、いわゆる自然発生借地権の問題が生じる可能性があります(法基通13-1-8)。 6 地代の認定課税 「土地の無償返還に関する届出書」を提出していても、実際に収受している地代が『相当の地代』より少ない場合には、地代の認定課税の問題が生じる可能性があります。 この場合には、税務上は、その差額に相当する金額を借地人に贈与したものとして取り扱われます(法基通13-1-3)。 * * * 借地権を取り巻く課税の問題はとても複雑です。権利金の認定課税の問題以外にも、地代の認定課税や自然発生借地権の問題が生じる可能性があります。 本稿の内容は、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分がありますので、本記事に基づく情報により実務を行う場合には、専門家に相談の上行うか、十分に内容を検討の上実行してください。 (了)
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税務判例を読むための税法の学び方【15】 〔第5章〕法令用語(その1)
税務判例を読むための税法の学び方【15】 〔第5章〕法令用語 (その1) 自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 (前回はこちら) 1 法令用語の意義 今回より章を新たにし、法令用語について解説する。 「法令用語」と一口に言っても様々ある。立法技術的な表現のために用いられる法律専門の用語で、「立法技術用語」ともいわれるものがある。また、特定の意味内容を持つ用語で法律上一定の意義が与えられている(この意義の与えられ方も、法令により定義付けがなさせている場合と慣習や判例等により意味が与えられている場合とがある)ものがある。 前者の例としては、これまでに紹介した「又は」と「若しくは」、「及び」と「並びに」、「者」と「物」「もの」、「場合」と「とき」「時」、「その他」と「その他の」がそうである。 これらの立法技術用語は、①意味の違いの明確化、②条文構造の明確化、③表現の簡略化、④条文相互間の関係の明確化等のために、長い間使いならされてきた。 これらの立法技術用語については、その意味や使い方を定めた法令などはなく、もっぱら長年の慣習によって、その使い方が定着したものである。 これに対し、後者の例を一つ挙げる。 例えば「親族」という言葉は一般社会でも用いられているが、法令上は民法第725条において「次に掲げる者は、親族とする。 ①六親等内の血族、②配偶者、③三親等内の姻族」と定義が付されているため、民法以外の法律においても、通常この意義で用いられている。 狭義には立法技術用語ともいわれる前者を法令用語といい、後者のようなものは法律用語ではあるが法令用語には含めない考え方もある。 ここでは、前者を中心に解説していく。 2 「その他」と「その他の」 まずは、これまでに紹介したものの中から、詳細は後述するとした「その他」と「その他の」について解説する。先に「「A、Bその他C」と異なり「A、Bその他のC」の場合は、ABはCの例示とされ、内容的にCに含まれる。」と記した(第9回参照)。 この点を詳しく見てみる。 これまで取り上げた「又は」と「若しくは」、「及び」と「並びに」、「者」と「物」「もの」、「場合」と「とき」「時」は、いずれも日常用語としては特に区別することなく使われている(ただし「者」と「物」は使い分けられていよう)ものでも、法令用語としては明確に意識して使い分けているものである。 「その他」と「その他の」も同様であり、日常用語としてもよく使われており、その場合に特に意味の上で違いを意識して使われているとは思われない。しかし、この「の」が付くか付かないかだけの違いで、法令上は大きく意味が異なる。 まず、「その他の」は、通常、前に置かれた名詞又は名詞句が、後に続く一層意味内容の広い言葉の一部をなすものとして、その中に包含される場合に用いられる。これを「包括的例示」という。 所得税法第2条第1項第16号は「棚卸資産」の定義規定であるが、そこには「事業所得を生ずべき事業に係る商品、製品、半製品、仕掛品、原材料その他の資産(有価証券及び山林を除く。)で棚卸しをすべきものとして政令で定めるものをいう。」 とある。 この「その他の資産」の前にある商品、製品、半製品、仕掛品、原材料も資産の例であり、資産に包含されている。 これに対し、「その他」は、この言葉の前後の語句が独立しており、それぞれが、一応、別個の概念として並列的に並べる場合に使われる。これを「並列的例示」という。 所得税法第2条第1項30号イに寡婦の定義として「夫と死別し、若しくは夫と離婚した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、扶養親族その他その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有するもの」とある。 この中の「扶養親族その他その者と生計を一にする親族」の「その者と生計を一にする親族」は、前の「扶養親族」とは別の概念のものということになる。 もう一つ別の例を挙げる。 国税通則法第11条は、「国税庁長官、国税不服審判所長、国税局長、税務署長又は税関長は、災害その他やむを得ない理由により、国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、届出その他書類の提出、納付又は徴収に関する期限までにこれらの行為をすることができないと認めるときは、政令で定めるところにより、その理由のやんだ日から2月以内に限り、当該期限を延長することができる。」と規定している。 この中には「その他」が2箇所出てくる。 最初の「災害その他やむを得ない理由」であるが、「災害」と「やむを得ない理由」とは別個の事情であり、「やむを得ない理由」とは災害以外の事情を指すのである。 また、次の「申告、申請、請求、届出その他書類の提出」においての「書類の提出」は、前にある「申告」「申請」「請求」「届出」とは異なる書類の提出を指すことになる。ただし「申告」「申請」「請求」「届出」もすべて通常は書類提出をもって行うのであるから書類の提出に含まれるため、ここにおいては「その他の」とした場合と大差ないように思える。 なお、続く「又は」がどう係るかであるが、「申告」「申請」「請求」「届出」が「書類の提出」に含まれるのであれば、「「書類の提出」、「納付」又は「徴収」」が「A、B又はC」の構造になることになる。 しかし文言に忠実に従えば「その他書類の提出」は「申告」「申請」「請求」「届出」と並列的なものであるから、「「申告」、「申請」、「請求」、「届出」、「その他書類の提出」、「納付」又は「徴収」」という「A、B、C、D、E、F又はG」の構造となり、これに後続する「に関する期限」が繋がることになる。 現在、例えば「申告」においては電子申告といった書類提出以外の方法もあるため、必ずしも「申告」は「書類の提出」に含まれないと考えれば、これはやはり「その他の」ではなく「その他」とすべき条文であり、「A、B、C、D、E、F又はG」の構造と捉えるべきである。 (了)
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〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載29〕 債務超過の適格分割型分割を行った場合の資本金等の額と利益積立金額の計算(その2)
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載29〕 債務超過の適格分割型分割を行った場合の 資本金等の額と利益積立金額の計算 (その2) 税理士 掛川 雅仁 【解説】 1 債務超過である分割法人が分割型分割を行ったときの資本金等の額と利益積立金額の正負による場合分け 「その1」においても触れたが、分割法人が債務超過である場合には、その資本金等の額と利益積立金額とがプラスであるのかマイナスであるかによって、【表1】の太線内のように、【表2】のケースA・C・Dと関連付けて整理することができる。 【表1】 債務超過である分割法人が分割型分割を行ったときの資本金等の額と利益積立金額の正負による場合分け 【表2】 現行法人税法における分割移転割合の上限・下限 2 現行法人税法における分割移転割合の上限・下限と立法趣旨 平成22年度改正後の移転割合の計算において、移転簿価純資産価額(分子の金額)が前事業年度末簿価純資産価額(分母の金額)を超える場合には、単純に計算すると移転割合が1を超えてしまい、分割法人の資本金等の額を超える資本金等の額の減少が生じてしまい、その結果、分割後の分割法人の資本金等の額がマイナスとなりかねない。 そこで、このようなことが生じないように、法令8①十五ロ括弧書において、移転割合の計算上、分子の金額(移転純資産の帳簿価額)が分母の金額(分割前事業年度終了時の純資産の帳簿価額)を超える場合には、分子の金額は分母の金額と同額にする、と規定し、移転割合は1を上限とするとしている。 この結果、分割法人の資本金等の額を超える資本金等の額の減少は生じず、その結果、分割後の分割法人の資本金等の額がマイナスにもならず、最少でもゼロに留まるように手当てされている。 そのほか、上記【表2】のように移転割合計算上の分子と分母の額の各種ケースを想定し、移転割合の上限・下限を定めて、分割後の分割法人の資本金等の額がマイナスとなったり、不適切な増加が生じないように手当てをしている。 3 債務超過である分割法人の資本金等の額がプラスである場合にプラスの純資産を分割承継法人に移転させる分割型分割を行ったとき ところで、債務超過である分割法人がプラスの純資産を分割型分割により分割承継法人に移転した場合に、分割法人の分割直前の資本金等の額がプラス(つまり、利益積立金額のマイナスを原因として、債務超過になっている状況)であれば、上記【表1】のケースDに該当する。 この場合は、分割移転割合は1とすると定められているから(法令8①十五括弧書)、移転する資本金等の額は分割法人の分割直前の資本金等の額の全額となる。その結果、分割法人の分割後の資本金等の額は、次のように0となってしまう。 設例(平成22年度改正後) 次の貸借対照表の分割法人が資産500、負債300を分割承継法人へ移転した。 【分割法人の分割時の仕訳】 ※分割直前の資本金等の額がプラスであり、分割前事業年度終了時の純資産の帳簿価額がマイナス(債務超過)であり、移転純資産がプラスである場合には、分割移転割合は1とする。 = 400×1(分割移転割合は1とする) = 400 これに対して、実務家からは、次の違和感が呈されていたところである。 4 移転する資本金等の額が分割直前の資本金等の額全額となってしまう根本的な理由 このように、債務超過である分割法人の資本金等の額がプラスである場合にプラスの純資産を分割承継法人に移転させる分割型分割を行ったときにおいて、移転する資本金等の額が分割直前の資本金等の額全額となってしまう根本的な理由は、「その1」において指摘したように、平成22年度改正において、分割型分割におけるみなし事業年度を廃止したことを背景に、「まず資本金等の額の引継額を計算し、移転純資産の帳簿価額から資本金等の額を減算した金額を利益積立金額の引継額とすることが適当であると考えられます。」(『平成22年度税制改正の解説』297頁)として、改正前の組織再編成税制における利益積立金額と資本金等の額の増減に関する算定順序を逆転させたことにあると考えられる。 5 平成22年度改正前の適格分割型分割における資本金等の額と利益積立金額の増減金額に関する規定 ちなみに、平成22年度改正前の適格分割型分割における資本金等の額と利益積立金額の増減金額に関する規定を算式で示せば、次のとおりとなっていた。 【分割承継法人】 増加資本金等の額(旧法令8①六) = 移転資産の帳簿価額-(移転負債の帳簿価額+増加利益積立金額) 増加利益積立金額(旧法令9①四) = 適格分割型分割に係る分割法人の分割減少利益積立金額 【分割法人】 減少資本金等の額(旧法令8①十七) =移転資産の帳簿価額-(移転負債の帳簿価額+分割減少利益積立金額) 分割移転割合・・・期末利益積立金額等が0に満たない場合には0とし、小数点以下3位四捨五入 また、適格分割型分割で分割法人において減少する利益積立金額についても、次のように、分割前事業年度終了時の純資産の帳簿価額と移転純資産の帳簿価額とを、それぞれ上限と下限とする旨の規定が設けられていた。 【表3】 平成22年度法人税法改正前における減少利益積立金額の上限・下限 設例(平成22年度改正前) 次の貸借対照表の分割法人が資産500、負債300を分割承継法人へ移転した。 【分割法人の分割時の仕訳】 分割移転割合・・・期末利益積立金額等が0に満たない場合には0とし、小数点以下3位四捨五入 =▲900×0(分割移転割合は0とする) =0 減少資本金等の額(旧法令8①十七) =移転資産の帳簿価額-(移転負債の帳簿価額+分割減少利益積立金額) =500-(300+0) =200 このように、平成22年度改正前においては、移転純資産が200であれば、分割法人の減少資本金等の額は400全部ではなく、移転純資産の帳簿価額に対応する200だけ減少するように規定されていた。 以上のように、平成22年度改正後の法人税法の規定による計算と平成22年度改正前とでは、大きく異なっており、計算結果が異なるように改正されたことやその改正理由は一切説明されていない。 6 適格分割型分割と非適格分割型分割とで資本金等の額の減少額が異なる現行法 ところで、実務家から呈されていた第2の違和感として、次のものがあった。 これについては、現行の法令8①十五の本文括弧書には、「当該分割型分割が適格分割型分割でない場合において、当該計算した金額が当該分割型分割により当該分割法人の株主等に交付した分割承継法人の株式(出資を含む。以下この条において同じ。) その他の資産の価額を超えるときは、その超える部分の金額を減算した金額」という規定がある。 これは、非適格分割型分割においては、分割法人の減少する資本金等の額は、株主に交付した分割承継法人の株式その他の資産の時価を上限とするというものである。 このように、非適格分割型分割において、分割法人の減少する資本金等の額に上限を設けるのであれば、たとえ、平成22年度改正前と改正後とで、組織再編成税制における利益積立金額と資本金等の額の増減に関する算定順序を逆転させたとしても、適格分割型分割においても、適正な金額をもって、分割法人の減少する資本金等の額とするという上限規定があって然りだと容易に考え得るところである。 7 移転する資本金等の額のあるべき見直し内容 本稿で取り上げた設例では、その分割法人の減少する資本金等の額の適正な金額とは、適格分割型分割で移転する簿価純資産の額とすべきである。 このように見直すことで、平成22年度改正前と後で、次のように、同額の資本金等の額と利益積立金額が移転することになり、改正前後の整合性が保てることになる。 設例(平成22年度改正後の本来あるべき状態) 次の貸借対照表の分割法人が資産500、負債300を分割承継法人へ移転した。 【分割法人の分割時の仕訳】 ※分割直前の資本金等の額がプラスであり、分割前事業年度終了時の純資産の帳簿価額がマイナス(債務超過)であり、移転純資産がプラスである場合には、分割移転割合は1とする。 =400×1(分割移転割合は1とする) =200(ただし、移転純資産の額200を限度とする) 以上のように、特殊なケースの分割型分割であっても、平成22年度改正前と後で、同額の資本金等の額と利益積立金額が移転することになるように、改正前後の整合性を回復するような手当てが早急になされることが必要と考える。 (了)
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民法改正(中間試案) ─ここが気になる!─ 【第6回】 「約款」 弁護士 中西 和幸 1 約款の意義と現行法 民法改正においては、約款の項を新たに設け、「多数の相手方との契約の締結を予定してあらかじめ準備される契約条項の総体であって、それらの契約の内容を画一的に定めることを目的として使用するものをいうものとする。」と定義している。 すなわち、本来、契約は当事者間での合意であり個々に内容が定まることが原則であるところ、多数の相手方と画一的に内容を定めた契約を締結し、個々の同意がなくともその内容について一律の変更等ができるという例外を認めた契約方法が「約款」である。 「約款」については、現行民法上は全く規定がない。しかし、公共交通機関における標準鉄道利用運送約款(鉄道事業法)、道路運送事業における約款(道路運送法)、電気通信事業者が作成する約款(電気通信事業法)、損害保険や生命保険における約款(保険業法)など、法令に根拠を持つものがある(法的拘束力が完全に生じるかどうかは別問題である)。 これを、民法上正面から認めるという提案が中間試案からなされているのである。 2 約款の効力と組入要件 (1) 約款に拘束力が生じる根拠 契約による合意が拘束力を生じるためには、当事者間の合意が必要である。 そこで、中間試案は、現代社会においては大量の定型的取引を迅速かつ効率的に行うことが求められる場面が多く、これを実現するため、契約の一方当事者があらかじめ一定の契約条項を定め、個別の交渉を省き画一的な内容の契約を結ぶことが必要であるとして、約款を明文化して法的安定性を図ろうとしている。 そして、約款を「多数の相手方との契約の締結を予定してあらかじめ準備される契約条項の総体であって、それらの契約の内容を画一的に定めることを目的として使用するものをいうものとする。」と定義している。 こうすることにより、ある者(通常は事業者)と商品やサービスを購入する等の取引を行った場合、約款が作成されていれば、その契約者は常にその約款に拘束されることになるのである。 約款による合意においては、特定の条項については合意しない、あるいは特定の条項は変更したい等の当事者の意思は考慮されないという、一方的な拘束力が生じることになる。そのため、現行法下では法令の規定に根拠を持ち、監督官庁の管掌の下に用いられている。 もっとも、法令の規定がなくとも一定の限度で裁判例が約款の拘束力を認めている例があるが、中間試案の補足説明で紹介されている裁判例は、警備契約が1例と、決して多くはない。 そこで、約款を民法において規定し、かつ監督官庁による管掌がない状態にしようというものである。 (2) 約款が有効となる要件 ① 契約の当事者がその契約に約款を用いることを合意すること ある意味当然の要件である。そして、その合意のためには、相手方が当該約款を用いた契約を締結することに合意するか否かを判断できるよう、契約締結時までに相手方が約款の内容を認識する機会が確保されている必要がある。 もっとも、どのような場合に上記要件を満たすかについては、中間試案本文では、約款使用者の相手方が合理的に期待することができる行動を取った場合に約款の内容を知ることができる状態が約款使用者によって確保されていれば足りるとするが、結局のところ、その契約の内容や取引の態様、相手方の属性、約款の開示の容易性、約款の内容の合理性についての公法的な規制の有無等の事情を考慮して定まるとして、実務上は明確になっていない。 ② 契約締結時までに、相手方が合理的な行動を取れば約款の内容を知ることができる機会が確保されていること およそ知ることもできなかった約款については、組入合意があってもその合意に拘束力を認めることはできないため、当然の要件である。そして、約款を明示的に提示することを必ずしも原則的な要件とはせず、具体的な開示の方法については個別の契約ごとに様々な要素を考慮して判断することとしている。 例えば、約款をウェブサイトに掲示ししたり、商品の外装箱に印刷したりするような、取引前に容易に確認できる方法が考えられる。また、店舗に掲示する方法や交通機関のように駅窓口で閲覧できる方法も考えられる。ただし、相手方が遠方に出かけたり取り寄せるまでに日数がかかる場合などは、その要件を満たさないとみなされる可能性もあろう。 3 不意打ち条項 (1) 不意打ち条項 本文では、相手方が約款に含まれていることを合理的に予測することができないものは、約款に記載されていても契約としての効力が生じない旨規定している。そして、その判断要素について、他の契約条項の内容、約款使用者の説明、相手方の知識及び経験その他の当該契約に関する一切の事情に照らして判断するとしている。 これが、いわゆる「不意打ち条項」に関する規定である。 (2) 不意打ち条項に関する異議 こうした不意打ち条項に関する規定は、消費者保護的な発想から生まれている。しかし、民法に消費者保護的な規定を設けることに意義があるかどうかの異論が根強い。 また、かかる不意打ちについては、補足説明では「同時に不当条項であると評価される場合が多く、不当条項に該当しない場合であっても説明義務・情報提供義務違反の問題として処理することができることから、敢えて不意打ち条項に関する規定を設ける必要はないとの指摘もある。」とあり、法的意義を疑問視する意見もあるなど、いずれにしても改正案の成立について予想はしがたい。 4 約款の変更 一度約款により契約が成立したとしても、約款作成者としては約款を画一的かつ一律に変更を必要とする場合もあろう。しかし、相手方としては、知らないうちに契約内容が変更されることは、合意による契約という大原則に抵触することから、約款については変更が重要な問題となる。 この点、中間試案では、約款の変更について の4つの要件を満たす場合に、相手方に約款を変更する旨及び変更後の約款の内容を合理的な方法により周知するという手続を経ることにより、効力を生ずるものとするとしている。 例えば、ウェブサイトへの表示、店頭販売の商品については店頭での掲示、相手方に対する約款変更の通知書や電子メールを送付することなどが考えられる。 ただし、この点については引き続き検討するとされており、改正案に盛り込まれるかどうかは不明である。 5 不当条項規制 中間試案では、当該条項が存在しない場合に比し、約款使用者の相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重するものであって、その制限又は加重の内容、契約内容の全体、契約締結時の状況その他一切の事情を考慮して相手方に過大な不利益を与える場合には、無効とするものとする、という不当条項規制を設けることを提案している。 確かに、かかる条項を設けることにより相手方、通常は消費者を想定していることから、消費者保護につながるが、このような消費者保護の条項を設けるかどうかは、不意打ち条項と共に根強い反対がある。 また、実務上は、ある程度の縛りがかかっているとはいえ、「相手方に過大な不利益を与える場合」の判断に迷うところであろう。 6 実務への影響 (1) ビジネスチャンスの拡大等 この条項が明確になれば、一般的な事業者が約款を活用することが可能になるように見える。 確かに、現行法上、約款にかかる法規制は、特別法に規定されているのみであり、一般の事業者が利用できるかどうか不明確である。そのため、結局のところ契約の形式をとり、ひな形に同意しない場合は特約条項を設けるか、契約を断念するかをひな形作成者と相手方の間で選択せざるを得なかった。また、契約変更の場合、個別に何らかの承諾を得てこれを契約書に残す方法を使用するしかなかった。 それが、約款の導入により事業者にビジネスチャンスが広がること、つまり相手方に一律の内容の契約を締結させることができるため契約を断念するケースが減少したり、特約条項の管理にかかる負担を軽減することが可能となろう。 (2) 契約者拡大の裏に 確かに、契約を断念してきた相手方と約款取引により契約できることになる、というメリットがあるように見える。 しかし、ひな形を用いた場合に各種の調整や特約が必要な相手方と、ひな形のような調整なしに契約が約款により成立したとしても、その相手方は一定の不満を有しているのであって、何らかの機会にその不満が表に出ることも考えられよう。すなわち、相手方の不満を先延ばしにする機能しか有していないとも評価することができる。 すなわち、対象者の拡大と管理コストの削減は可能であるが当然これに伴うトラブルが一定程度発生することも念頭に置く必要があろう。 (3) 約款取引の拡大 約款取引の適用が拡大することにより、便利となる取引も考えられる。 例えば、コンピュータソフトウエアを消費者に販売する場合に、著作権に関する各種の同意やインストールする端末に関する制限に関する同意等々を得ることについて、現行法上は、シュリンク・ラップ契約(商品の封を破ることにより契約の成立がみなされる考え方)や、ユーザー登録などの方法により個別の契約をしてきた取引について、効率化が図れよう。 また、店頭にて不特定多数の者に商品を販売する場合であっても、その商品の購入者に一定の契約を成立させることができるため、様々な活用が考えられよう。例えば、中間試案において契約の趣旨が重視されるところ、契約の趣旨や必要な説明を総て約款取引にしておくことで、合理的な拘束力を不特定多数の者に発生させることができよう。 (4) 消費者保護的な条項との関係 約款による取引の場合変更が容易かどうか不明であること、また不意打ち条項や不当条項が禁止される結果、約款に対するトラブルが発生することが予想されるが、消費者だけでなく事業者(下請業者等の力関係に差がある場合を除く)との間でも不意打ち条項や不当条項が適用されるリスクがある。 (5) 総括 以上の通り、約款制度が明文化されることにより、一定の業務の効率化が可能であったり、ビジネスチャンスの拡大にもつながるが、とはいえ、別のトラブルが発生することも考えられる。 現行法下でも、各種事業者により様々な工夫がなされ、約款取引そのものやこれに準じた取引が行われているため、必ずしも本改正が必要かどうかは分からない(そのため、約款に関する改正をしない選択肢も、中間試案では示されている)。 実際に約款を導入すればメリットがある事業者であれば、現行法下でも有効な手段は考えられるので、法改正にかかわらず、約款に準じた考え方で業務の効率化を検討してよいであろう。 (了)