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鵜野和夫 平成25年度税制改正を読む③ 「相続税が増税」
鵜野和夫 平成25年度税制改正を読む③ 「相続税が増税」 ~しかし、居住用宅地の減額特例の改正で~ 税理士・不動産鑑定士 鵜野 和夫 (一) (二) (三) (四) (了)
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《速報解説》 株式保有特定会社に係る「財産評価基本通達」の一部改正(案)について
《速報解説》 株式保有特定会社に係る 「財産評価基本通達」の 一部改正(案)について 税理士 齋藤 和助 1 はじめに 平成25年4月2日付で国税庁からパブリックコメント『「財産評価基本通達」の一部改正(案)に対する意見公募の手続の実施について』が発表された。 これは、平成25年2月28日の東京高裁判決を受けたもので、改正(案)の概要は次の通りである。 ※この改正後の評価通達は相続税又は贈与税について、改正後に納税者が申告する場合又は税務署長が更正・決定にする場合の財産評価に適用する。 2 判決の概要 本件事案は、取引相場のない株式の評価上、大会社に該当する評価会社が、保有資産に占める株式の割合が25%以上である場合には、一般の評価会社に適用できる「類似業種比準方式」は認められず、株式保有特定会社として一律に「純資産価額方式」又は「S1+S2方式」で評価しなければならないのかが争われたものである。ちなみに、本件事案の評価会社の株式保有割合は25.9%であった。 一審の東京地裁においては、一律適用は不合理であり、評価会社の規模や実態を考慮すべきとして、納税者の主張が認められた(平成21年(行ウ)第28号、平成24年3月2日判決)。 二審の東京高裁でも一審の判決が支持され、「類似業種比準方式」で評価すべきであるとされた(平成24年(行コ)第124号、平成25年2月28日判決)。 本事案は、上告受理の申立てがなされず確定している。 3 国側の主張 現行の財産評価基本通達によれば、株式保有割合による大会社の評価方法は以下のようになっており、25%以上になると通常有利な類似業種比準方式を選択できない。 国側は、株式保有割合25%という数値は、平成2年の通達改正当時の法人企業統計等に示された資本金10億円以上の会社の株式保有割合が平均7.8%であったことなどから、25%はその3~4倍であり、資産構成が著しく株式に偏っている会社と認識され、決定されたものであるとし、さらに、本件事案の相続開始時である平成15年度の法人企業統計を基に算定された資本金10億円以上の営利法人の株式保有割合は16.31%であり、25%と比べ、なお低い水準にあるため、不合理ではないと主張していた。 4 裁判所の判断 しかし、平成9年の独占禁止法改正によって従前は全面禁止されていた持株会社が一部認容されるなど、会社の株式保有に関する状況は大きく変化しており、独占禁止法では、総資産額に占める子会社株式の取得金額の割合が50%超の会社を持株会社とし、特別な規制がされていること等から、25%以上の大会社のすべてについて一律に、類似業種比準方式を用いるべき前提を欠くということはできないとし、株式保有特定会社に該当するか否かは、その企業規模等を総合考慮して判断するのが相当であるとした。 5 今後の運用 上記判決によれば、今後は、株式保有割合に加え、その会社の実態等も総合考慮して株式保有特定会社に該当するか否かを判断することになるが、この判定基準そのものが合理性を有するものであれば、会社の実態等を考慮することまでをも求めるものでないとして、従来どおり形式基準は維持することとされた。 また、この改正(案)は、申告のみならず、税務署長の更正・決定の財産評価にも適用される。したがって、この通達が改正された場合には、取扱いの変更を知った日の翌日から2月以内であれば更正の請求が可能となる。 ただし、国税当局が更正できる期間は、その更正の対象となる申告分の法定申告期限から5年以内に限られているため、法定申告期限から5年を過ぎている分については、更正を受けることができない。 (了)
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monthly TAX views -No.3-「番号制度をどう税制に活用するか、これからの課題」
monthly TAX views -No.3- 「番号制度をどう税制に活用するか、 これからの課題」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 国民一人ひとりに住民基本台帳に基づく番号を割り振って、年金、医療、介護保険、福祉、労働保険、税務の6分野での活用する、番号制度(民主党政権下では「マイナンバー」と称した)導入の法律(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案)が成立しそうだ。 この法律は、昨年の通常国会に民主党政権が提出し、自民、公明、民主の3党で修正合意していたが、同年11月の衆院解散で廃案になったものである。 これにより、個人に、生涯変わらない番号が交付され、様々なサービスを受けることが可能になる。 わが国を除く先進諸国は、IT時代に不可欠な番号というツールを活用して、効果的で効率的な行政を展開しており、やっとわが国もその仲間入りしたということであろう。 今回の法律は、いわば番号というハードウエアを導入したということである。どのようなソフトを開発し、どのように行政に役立てるのかという点は、これからの仕事である。 では、税務の活用としては、どのようなことが考えられるのだろうか。 まずは、正確な所得把握の向上に向けて、支払調書制度の「範囲を拡大する」ことの検討である。これまでの議論では、米国などすでに番号制度を導入している国を参考にしながら、どのような情報を新たに求めるのか検討していくことになっている。 今後議論になると予想されるのは、諸外国と比較してわが国が求めていない、預貯金利子所得の情報を求めるかどうかという点である。預貯金利子については、わが国では源泉分離課税制度となっているので、税務当局は情報をとる必要がない。 しかし今後、消費税率引上げの際の低所得者対策として給付付き税額控除を導入するということになれば、利子所得を求める必要が出てくる。なぜなら、所得は低いが金融資産が多くあるという人は、この制度の対象から排除する必要があるからである。 このように、フローの金融所得情報を活用して、ストックを調べることの有用性・必要性は、今後様々な社会保障制度において、求められるであろう。 番号を活用して、納税者ごとに利子所得の名寄せができるようにするためには、源泉分離課税を申告分離課税に制度改正する必要がある。銀行にとっては、あらたな手間やコストがかかることになる。 さらに、資産税への番号の活用を求める声もある。個人の持つ不動産に番号を付けて管理できれば、相続税や固定資産税の課税実務が向上するという議論である。 注意すべきは、わが国はガチガチの徴税国家になるべきではないということだ。個人の資産残高をすべて、番号付きで税務当局に報告するような制度はとるべきではない。そこにはおのずから限度がある。 もう一つ重要なことは、国民利便の観点からの番号の活用も忘れてはならないということである。この点筆者は、「事前記入式申告制度」の導入を提言している。 番号導入後には、個人全員に「マイ・ポータル」というウエブサイトが提供され、行政サービスの対象者を国家が番号で割り出し、必要な行政サービスを自動的に届けることとされている。申請を忘れたために必要なサービスが受けられなくなった、ということは原則なくなるわけで、国家と国民の関係を変えるものである。 またポータルには、給与所得の源泉徴収額、各種支払調書の内容、社会保険料や医療費の支払額などが表示されることになっている。欧州では、それらの情報をあらかじめ申告書に記入し、納税者はそれを確認して、必要に応じて訂正して、送り返すことにより申告となる「記入済み申告制度」が導入されている。わが国でもぜひ導入すべきではないか。 将来的には、e‐Tax(イータックス)を組み合わせ、選択的に自らが確定申告できるような制度も検討をしていく必要があろう。 自らの納税額を自らが確定することによって、民主主義の基本であるタックスペイヤーの自覚が芽生え、様々な行政の無駄を批判する基礎ともなる。16年に導入予定の番号制度活用のソフトとして、今後積極的な検討を進めてもらいたい。 (了)
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株式交換前に株式交換完全子会社が自己株式を保有している場合の会計・税務処理
株式交換前に株式交換完全子会社が 自己株式を保有している場合の 会計・税務処理 公認会計士・税理士 有田 賢臣 1 会社法上の取扱い P社がS社を吸収する合併では、S社が保有する自己株式に対して合併対価を割り当てることはできない(会社法749①三かっこ書)。一方、P社がS社を完全子会社とする株式交換では、S社が保有する自己株式にも対価の割当てが行われる(会社法768①三)。 子会社は親会社株式を取得してはならないとされているが(会社法135①)、株式交換により自己株式と引換えに親会社株式の割当てを受ける場合には、例外的に親会社株式の取得が認められている(会社法135②五、会社法施行規則23二)。なお、子会社は、相当の時期にその有する親会社株式を処分しなければならない(会社法135③)。 子会社において、株式交換の効力発生前に自己株式を消却すれば、株式交換により子会社が親会社株式を取得することはない。自己株式を消却するには、取締役会にて、消却する自己株式の数を決議する必要がある(会社法178)。 ただし、株式交換に反対するS社株主が、株式買取請求権(会社法785①)を行使する場合には注意が必要である。反対株主が株式買取請求権を行使すると、株式交換の効力が生じる直前にS社は反対株主から自己株式を取得することになる。反対株主による株式買取請求権の行使は、株式交換期日の前日まで認められていることから、株式交換期日よりも前に、消却する自己株式の数を特定し、取締役会決議を行うことができるのかという実務上の問題が生じるからである(詳しくは、商事法務No.1812「株式交換における反対株主の株式買取請求と子会社への親会社株式割当て」参照)。 2 会計上、税務上の取扱い 【設例】 S社の発行済株式総数10株(P社が7株、S社が1株、外部株主が2株を保有) P社は株式交換により、S社の株主に対しP社株式(時価 @80)を交付する。 株式交換比率は、1:1とする。 〈会計上の仕訳〉 平成25年1月11日に公表された「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(案)」(以下「企業結合適用指針(案)」)に基づく会計処理は以下のようになる。 ① 親会社(P社) ※S社株式の取得原価=S社の株主資本簿価400×持分比率30%=120 ※現在の企業結合適用指針に基づくS社株式の取得原価は240(P社株式時価@80×3株)である。 親会社が追加取得する子会社株式の取得原価は、当該子会社の適正な帳簿価額による株主資本の額を基礎として算定する(企業結合適用指針(案)236項)。 親会社の株主資本は、株主資本等変動額(=子会社の株主資本簿価を基礎として算定した額)だけ増加する。その増加額は資本金又は資本準備金に計上される。債権者保護手続を行えば、その他資本剰余金への計上も可能となる(会社計算規則39)。 ② 子会社(S社) ※P社株式の取得原価=S社の株主資本簿価400×持分比率10%=40 ※現在の企業結合適用指針に基づくP社株式の取得原価は80(P社株式時価@80×1株)である。 自己株式と引換えに受け入れた親会社株式の取得原価は、親会社が付した子会社株式の取得原価を基礎として算定する。また、親会社株式の取得原価と自己株式の帳簿価額との差額は、自己株式処分差額としてその他資本剰余金に計上する(企業結合適用指針238-3項)。 〈申告調整仕訳〉 ① 親会社(P社) ※税務上のS社株式の取得価額は40(S社の自己株式簿価0と外部株主のS社株式簿価40の合計額)であるが、会計処理によりS社株式の帳簿価額が120増加しているので80減額する。 ※資本金等の額は、株式交換により移転を受けた子会社株式の取得価額40だけ増加するが、会計処理により資本金が120増加しているので80減額する。 適格株式交換により、親会社が追加取得する子会社株式の取得価額は、子会社の株主数が50人未満である場合には、子会社株主における子会社株式の税務上の帳簿価額を基礎として算定する(法令119①九イ)。なお、S社が保有するS社株式(自己株式)の税務上の帳簿価額は0であることに注意が必要である。 親会社の資本金等の額は、株式交換により移転を受けた子会社株式の取得価額だけ増加する(法令8①十)。 ② 子会社(S社) ※税務上のP社株式の取得価額は0(=S社の自己株式簿価)であるが、会計処理によりP社株式の帳簿価額が40増加しているので40減額する。 ※資本金等は増減しないが、会計処理により自己株式が100増加し、その他資本剰余金が60減少しているので40減額する。 自己株式と引換えに受け入れた親会社株式の取得価額は、当該自己株式の税務上の帳簿価額を基礎として算定する(法令119①八)。自己株式の税務上の帳簿価額は0であることから、親会社株式の取得価額は0となる。 子会社は保有する子会社株式(自己株式)と交換に親会社株式を受け入れたに過ぎないため、資本金等は増減しない(法令8①一ヘ)。 3 親会社株式の処分 S社がP社株式を外部に90で売却した場合、会計上は売却益が50計上されるのに対し、税務上は売却益が90計上され、思わぬ課税が生じてしまう。P社株式の会計上の帳簿価額は40であるのに対し、税務上の帳簿価額は0であることによる。 そこで、売却に代えて、P社株式を現物配当することが考えられる。100%子会社であるS社が親会社P社に対して行う現物配当は、P社・S社が内国法人である限り、適格現物分配に該当する(法法2十二の十五)。 適格現物分配の場合、S社ではP社株式を簿価で譲渡したものとして取り扱われることにより譲渡益が認識されず(法法62の5③)、配当に係る源泉徴収も不要とされている(所法24①)。一方、P社ではP社株式の配当直前の帳簿価額で自己株式を取得したものとされ(法令8①十八ロ・123の6①)、P社株式を受け入れたことにより生ずる収益は益金不算入となる(法法62の5④)。 (了)
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法人税の解釈をめぐる論点整理 《寄附金》編 【第1回】
法人税の解釈をめぐる論点整理 《寄附金》編 【第1回】 弁護士 木村 浩之 1 はじめに 法人が対価性のない、あるいは対価性の乏しい行為をすることで、第三者に対して経済的な利益の移転がなされる場合がある。そのような利益の移転行為については、法人の事業に直接又は間接的に関連する場合と、間接的にも関連しない場合があり得るが、その境界は必ずしも明確でないといえる。 そこで、そのような利益の移転行為については、それが法人の事業と直接関連することが明らかな場合を除き、寄附金に該当するものとして、一定の基準によって損金算入限度額を定めて、その限度額の範囲内でのみ損金算入を認め、それを超える部分については損金算入を認めないものとされている(法法37①)。 この寄附金税制は、事業とは関連しない、あるいは関連性の乏しい支出を無制限に認めることによって、各事業年度の所得金額を操作されるおそれがあること、他方、事業に関連する支出は本来費用となるべきであるが、その事業関連性は必ずしも明確に判断できるものではないことから、一種の割り切りとして、損金算入限度額の範囲内であれば、事業関連性の有無を問わず、形式的に損金算入を認めるが、それを超えるものについては、一律に損金算入を否定するものである。 実務上は、税務調査などにおいて、寄附金該当性をめぐって争われることが非常に多いことから、本稿では、寄附金の範囲に関する論点を中心として、寄附金税制に係る論点を整理することとしたい。 取り上げる予定のテーマは、以下のとおりである。 2 寄附金の範囲(総論) 寄附金とは、 を意味する。 法律上は、「寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。)」とされている(法法37⑦)。 また、寄附金には、無償行為による支出以外に、対価の不均衡(低廉取引)によってなされる経済的利益の移転も含まれ、法律上は、「資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額」も寄附金に含まれるとされている(法法37⑧)。 このように、寄附金には、経済的利益の移転が広く含まれるものと解されるが、事業に直接関連する費用(法律上は、「広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費」と規定される)については、寄附金に含まれないとされている。 そこで、寄附金の範囲(寄附金該当性)をめぐっては、第一に、寄附金に含まれない費用(事業に直接関連する費用)に該当するか否かが問題となる。第二に、「任意に」経済的利益の移転がなされたものといえるかが問題となり、第三に、「対価性」の有無等が問題となる。 言い換えれば、第一の問題は、隣接費用との区分の問題であり、第二の問題は、貸倒損失等との区分の問題であり、第三の問題は、対価性の有無等という本来の意味での寄附金該当性の問題である。 3 隣接費用との区分 (1) 広告宣伝費等との区分 広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用は、一般的な販売管理費に含まれるものであり、事業と直接関連することが明らかといえることから、これらの性質を有する支出等については、寄附金には該当しないことになる。 この広告宣伝費等に該当するか否かは、その目的及び効果に照らして実質的に判断がなされるべきであり、 であれば、その支出等の名目いかんにかかわらず、また、その支出等の相手方が事業とは直接関係のない者であったとしても、広告宣伝費等に該当し得ることになる。 例えば、販促キャンペーンとしてのキャッシュバックや景品供与等が広告宣伝費等に該当することはもちろん、宣伝効果を期して自社製品を配布すること、大会やイベント、あるいは一定の団体に資金を提供すること(ただし、自社名の表示など、実際に宣伝効果を有することが必要である)、広告宣伝を統括する親会社に合理的な範囲で負担金を拠出することなども広告宣伝費等に該当するのであり、寄附金には該当しない。 (2) 交際費等との区分 交際費等については、事業との関連性が一定程度認められるものの、冗費としての性格を有するものであることから、寄附金税制とは別に、租税特別措置法によって損金算入が制限されている(措法61の4①)。この交際費等と寄附金については、対価性がない(乏しい)という点で共通していることから、その区分が問題となる。 一般には、その区分に当たっては、交際費等に該当するか否かを先に判断し、交際費等に該当しない場合に、寄附金に該当するか否かを判断することになる。 交際費等の要件は、次のとおりである。 したがって、事業に関係のない者に対して利益の供与がなされた場合、また、事業に関係のある者に対して利益の供与がなされた場合であっても、それが事業とは無関係の目的からなされたものであるときには、交際費等には該当せず、寄附金(場合によっては、役員に対する給与)に該当し得ることになる。 (3) 役員又は従業員に利益供与がなされた場合の費用区分 ア 給与に該当する場合 法人から役員又は従業員に対して経済的利益の供与がなされた場合、明確な対価関係が認められないとしても、通常、それは役員等としての地位に基づいて利益を受けるものであり、広く労務の対価としての性質を有するものとみなされることになる。 したがって、そうではないことが明らかなもの(役員等以外の地位に基づいて利益を受けるものであることが明らかなもの)を除き、給与に該当することが多いといえる。 また、第三者に対して経済的利益の供与がなされた場合であっても、その第三者が役員等の親族などの関係者であり、法人から供与された利益が実質的には当該役員等個人に帰属するとみられる場合は、その者に対する寄附金ではなく、当該役員等に対する給与となる(拙稿《役員給与》編・6(2)参照)。 すなわち、利益供与が役員等個人の私的な理由によってなされる場合、本来個人が負担すべきものを法人が代わって負担する場合(法基通9-4-4の2参照)には、その利益は当該個人に帰属するものとして、その者に対する給与に該当することになる。 イ 福利厚生費に該当する場合 前記アのとおり、法人が役員等に経済的利益の供与をした場合は、通常は、給与に該当することになる。もっとも、形式的には、役員等個人に利益が帰属するかのようにみえる場合であっても、実質的には、法人の便宜のためになされるものについては、福利厚生費として給与には該当しないと考えられる。 この福利厚生費に該当するための要件は、次のようなものとなる。 このようなものであれば、その経済的利益は実質的には役員等個人ではなく、法人自身に帰属するものとして、福利厚生費に該当することになると考えられる。 例えば、職場の士気、労働意欲を高めるために社員優待制度を設けること、社員の結束を高めるために社員旅行をすること、健康増進のための器具備品を備えること、健康診断の費用を負担することなど、合理的な範囲で物心両面から職務環境を整えることは個人の利益を図る目的を超えて法人の事業遂行の目的のために必要であるので、その対象者に不合理な限定がなされておらず、その範囲が過剰なものではない(費用対効果が均衡していると言い得る)限りにおいては、その利益は実質的には法人自身に帰属すると言えることから、福利厚生費として損金算入が認められる。 次回は、「貸倒損失等との区分」について解説する。 (了)
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〔平成25年4月1日以後開始事業年度から適用〕 過大支払利子税制─企業戦略への影響と対策─ 【第5回】「調整所得金額」及び「適用除外」
〔平成25年4月1日以後開始事業年度から適用〕 過大支払利子税制 ─企業戦略への影響と対策─ 【第5回】 「調整所得金額」及び「適用除外」 アースタックス税理士法人 税理士 中村 武 前回は、本制度による損金不算入額計算の第二段階である「控除対象受取利子等合計額」及び「関連者純支払利子等の額」に関して、確認すべきポイントを解説した。 今回は引き続き、損金不算入額計算の最終段階として、関連者純支払利子等の額と比較するための基準となる「調整所得金額」について解説を行うとともに、「損金不算入額」及び本制度の適用の対象外となる「適用除外」について併せて解説を行う。 1 調整所得金額 損金不算入額の計算の基礎となる調整所得金額は、一定の調整を加えたその事業年度の所得の金額に、関連者純支払利子等の額及び減価償却費等一定の金額を加算し、特定外国子会社等に係る課税の特例に係る一定の金額を控除した金額となる(措法66の5の2①、措令39の13の2①)。 〔調整所得金額の計算式〕 なお、計算された調整所得金額がマイナスの金額となる場合には、当期の調整所得はゼロとして、本制度を適用することとなる。 〈ポイント1〉 本制度における所得の金額 まず、本制度の導入の趣旨は、第1回で述べたように「所得金額に比して過大な支払利子」について損金算入を制限するということである。したがって、調整所得金額計算における所得の金額の基本的な考え方として、既存の税務上の特別な取扱いにより益金の額又は損金の額に加減算されるものについては考慮外とする必要がある。 したがって、当該加減算がなかったものとした場合の所得の金額が調整所得金額の計算のベースとされており、以下のような規定が調整所得金額の計算上適用しないこととされている。 また、当該事業年度において支出した寄附金についてもその全額を損金の額に算入する形で、調整所得金額計算における所得の金額の計算を行うものとする。 〈ポイント2〉 加算する金額とは 調整所得金額の計算の第二段階として、所得の金額に加算する金額は以下の3項目となっている。 調整所得金額の計算の基本的な考え方は、利払い前の所得(上記〈ポイント1〉で解説したように税務上の特別な取扱いによる加減算は考慮外)をベースとするため、まず、関連者純支払利子の加算を行う。 また、減価償却費については、政策的な見地から、設備投資に積極的な企業が本制度の適用において不利にならないよう損金算入額を加算することとしており、貸倒損失については、一定の事実が起こった場合にその損失の計上を強制する税法上の特別な取扱いを踏まえて、特別に調整所得金額の計算上加算を行うこととしている。 〈ポイント3〉 控除する金額とは 本制度と内国法人の特定外国子会社等に係る課税の特例(外国子会社合算税制)との調整措置(次回以降でその内容について解説を行う)の対象となる特定外国子会社等に係る課税対象金額又は部分課税対象金額については、調整対象所得の金額から控除することとされている。 2 関連者支払利子等の損金不算入金額 上記1で求めた「調整所得金額」と第4回で解説した「関連者純支払利子等の額」との比較により、本規定による損金不算入金額を求める(損金不算入額のイメージについては第2回解説を参照のこと)。 〔関連者支払利子等損金不算入額〕 3 適用除外 〈ポイント1〉 本制度の適用がない場合とは これまで、本制度による損金不算入額の計算方法について解説を行ってきたが、本制度は、次のいずれかに該当する場合には適用しないこととされている(措法66の5の2④)。 ※法人との間に連結完全支配関係がある連結法人に対する支払利子等の額及び法人に係る関連者等に対する支払利子等の額で、その関連者等の課税対象所得に含まれるものを除く。 本規定は、所得金額に比して過大な支払利子について損金算入を制限しようとするものであるが、①のように当該支払利子の額が一定額(1,000万円)を超えない場合においては、その影響を鑑みて、本制度の適用はないものとされている。 また、②のように、関連者支払利子等の額の合計額が総支払利子などの額の半分以下のような状態であれば、恣意的に関連者間の利子を増加させた可能性が少ないと考えられるため、本制度の適用はないものとされる。 なお、ここで用いられる「総支払利子等の額」からは、関連者等に対する支払利子等の額でその支払いを受ける関連者等において課税対象所得に算入されるものが除かれているが、これは国内関連者等からの借入れを意図的に増やすことにより総支払利子等の額を増加させて、本制度の適用を逃れることを防止するための措置となっている。 〈ポイント2〉 適用除外を受けるための申告要件 この適用除外規定は、法人が確定申告書(中間申告書を含む)に適用除外に該当する旨を記載した書面及びその計算明細の添付があり、かつ、その計算に関する書類を保存している場合に限り適用される(措法66の5の2⑤)。 また、適用除外関係の書面・明細の添付は、外国子会社合算税制のような他の租税回避防止措置と同様、当初の確定申告書に限定されている。したがって、事後の更正請求書や修正申告書に添付したとしても、適用除外が受けられないことに留意が必要である。 また、関連者純支払利子などの額が調整所得金額の50%以下であるために、適用除外を適用しなくても本制度による損金不算入額が生じない場合には、本制度にかかる計算明細を確定申告書に添付する必要はない。 実務的には、以下のような流れとなる。 * * * 以上の通り、第3回から今回(第5回)にかけて、本制度による「損金不算入額」の計算規定について解説を行った。 次回(第6回)においては、本制度のもう一つの特徴である、翌年度以降の「超過利子額(損金不算入額の繰越額)の損金算入」について解説を行うものとする。 (了)
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企業不正と税務調査 【第5回】「経営者による不正」 (2)架空(水増し)人件費
企業不正と税務調査 【第5回】 「経営者による不正」 (2) 架空(水増し)人件費 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 架空の人件費の計上による裏金作り/所得隠しは、かつては一般的な脱税手法であったが、近年は、税務調査において露見する可能性が高いということが経営者に浸透したためか、報道される件数は減っている。 しかし、昨年夏、パチンコ業界大手のガイア社が、グループ全体で40億円の所得隠しがあり給与の水増しが行われていたという報道があり、業種・業態によっては、こうした裏金作り/所得隠しスキームは健在であることが裏づけられた。 ガイア社の所得隠し報道は以下のようなものであった(一部抜粋)。 1 架空(水増し)人件費計上の手口と特徴 (1) 架空人件費 架空の社員やパートタイム従業員を雇用したように見せかけたり、退職した従業員の雇用が継続しているように見せかけたりすることにより、その給料や交通費などを不正にプールして、架空人件費の計上による所得隠し(脱税)と裏金作りを同時に図るスキームである。 社会保険に未加入なのは、加入のためには、住所や年金基礎番号が必要であるため加入できないといった事情だけではなく、会社負担分の保険料の支払いを嫌っているためであるが、中には、退職者に対する架空給与計上するために、保険料を払い続けているケースもある。 銀行振込ができないのは、銀行の口座開設の際の本人確認が厳格化されたせいで、架空の個人名義の口座の開設が不可能になったからである。 従業員の数に比してデスクの数が少ないのはすぐに気づく点であるが、他にも、複数の従業員の出退勤時間がまったく同じになっていたり、タイムカードが他の従業員のものと比べて妙に新しかったりといった点も、架空人件費を疑わせる兆候ではないかと思われる。 (2) 水増し人件費 実在する従業員の給与台帳を二重帳簿化して、実際に支給する以上の人件費を計上してこれを損金として利益を圧縮し、支給しない部分を不正にプールすることにより裏金を作るスキームである。 会社決算や法人税の申告には、水増しされた賃金台帳の数値を用い、社会保険や労働保険の保険料は、実際に支給した人件費をベースに算定を行う。 問題は、水増しされた賃金台帳に記載された支給額と従業員への実際の振込額との差額をどう処理するかであり、処理方法によっては、簡単に二重帳簿が見破られる可能性のある不正といえよう。 【給与支給時の仕訳】(保険料・所得税の源泉徴収等は考えない) (借方) 給料 1,000 (貸方) 銀行預金 500 (貸方) 未払金* 500 *「未払金」「預り金」「社内預金」などが考えられる この未払金残高が右肩上がりに増加しているようだと、支払う意思のない給料=水増し人件費であることが露見してしまうし、経営者が不正に蓄財し、又は費消するために、実際に支払ったように見せかけるとしても、銀行振込では支払先の口座がわかって、これもまた露見してしまう。 たとえば、架空の「社内預金規程」を作り、水増し分の給料を営業用の銀行預金口座と異なる口座に預け替えるなどの手法をとることも考えられるが、当該口座から引き出した現金が従業員の手に渡った証拠まで偽造するのは骨の折れる仕事である(従業員に「社内預金」について質問するだけで、すべては露見する)。 2 税務調査による発見手法 (1) 市区町村の税務課に対する問い合わせ 平成25年1月1日施行の国税通則法では、それまで個別税法に規定されていた税務調査に関する手続規定が74条の2から74条の13として規定されているが、今回のテーマである架空(水増し)人件費の調査にあたっては、同法74条の12(旧・法人税法156条の2)に規定する「官公署等への協力要請」に基づき、会社の従業員名簿をもとに、その住所地の市区町村の税務課に対して、実際に居住しているかどうかや給与支払報告書提出の有無、従業員の所得金額などを照会する方法により、架空の従業員に対する給与支払いや水増し給与の実態を暴くことが可能となる。 (2) 銀行調査 反面調査の一環として、調査対象会社の取引銀行の入出金データを照会することにより、給与の支給が従業員名簿に記載された氏名とは異なる名義の銀行預金口座への振り込まれていることを発見することが可能である。 また、経営者が、裏金としてプールしている口座が見つかる場合もある。 (3) 張込みによる出勤状況の調査 経営者の家族名義の報酬・給料が支払われていて、それが多額である場合など、税務調査に入る前に、調査官が対象会社を張り込み、実際の出勤状況を把握しておくという手法がとられることもある。 (4) 従業員に対するヒアリング もっとも簡単な発見法は、経営者がいないときを見計らって、事務所にいる従業員に対して、架空だと思われる人の名前をあげ、「○○さん、今日はどこにいますか?」と尋ねたり、水増しが疑わしいと思った場合には、「あなたの給与明細を見せてください」と依頼したりすることによって、経営者が弄した策はあっさりと崩れる可能性もある。 次回は、こうした経営者の不正に対し、内部監査部門、外部監査人又は顧問税理士が、どうやって不正の端緒をつかみ、税務調査で発覚する前にこれを止めさせられるのか、検討したい。 (了)
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組織再編税制における不確定概念 【第5回】「みなし配当と株式譲渡損の両建て」
組織再編税制における不確定概念 【第5回】 「みなし配当と株式譲渡損の両建て」 公認会計士 佐藤 信祐 受取配当等の益金不算入については、二重課税の排除を目的とした制度であるため、その制度趣旨に合致する範囲内においては、租税回避行為であると認定すべきではないと考えられる。 しかしながら、実務上、みなし配当と株式譲渡損が両建てになるケースも少なからず存在し、とりわけ、平成22年度税制改正によりグループ法人税制が導入される前においては問題とされていた。 本稿では、グループ法人税制が導入された後においても残されている問題点について解説を行う。 1 受取配当等の益金不算入 ある企業が獲得した利益を100とする。これに対して、法人税、住民税及び事業税が課されるため、これらの税金(40)を控除した残額(60)が税引後利益となる。 その後、税金を控除された利益のすべてを配当した場合には、その株主において受取配当金が発生することになるが、これらの受取配当金に対して法人税、住民税及び事業税を課した場合には、二重課税の問題が生じることになる。 このような二重課税を回避する目的として、法人税法において受取配当等の益金不算入の制度が以下のように設けられており、完全子法人株式等、関係法人株式等に該当した場合には、二重課税のほとんどを回避することが可能になっている。 このように、受取配当等の益金不算入の制度は、二重課税の回避という目的のために導入された制度であるが、受取配当等の益金不算入を適用することができた場合における法人税、住民税及び事業税の削減効果が大きいことから、租税回避行為に該当するか否かという点について、議論が生じることが多い。 2 具体的な事案 前述のように、受取配当等の益金不算入については、二重課税の排除を目的とした制度であるため、その制度趣旨に合致する範囲内においては、租税回避行為であるとは認められない。 しかし、実務上、みなし配当と株式譲渡損が両建てになるケースも少なからず存在し、具体的には、以下の事例を参照されたい。 【平成22年度税制改正前の取扱い】 〈前提条件〉 被買収会社の貸借対照表 ※純資産の内訳 被買収会社の社名はX社であり、買収会社の社名はY社である。 Y社はX社の発行済株式のすべてを9,000百万円で取得した後に、発行済株式総数の30%に相当する2,700百万円のX社株式をX社に買い取らせた。 上記のケースにおいては、Y社において、以下の仕訳が生じることになる。 ※みなし配当の金額=2,700百万円-(50百万円+50百万円)×30%=2,670百万円 ※株式譲渡損の金額=(2,700百万円-2,670百万円)-2,700百万円=△2,670百万円 このように、買収した法人に対して、自己株式を買い取らせた場合には、みなし配当と株式譲渡損が両建てになるケースが生じる。 これに対し、平成22年度税制改正によりグループ法人税制が導入され、完全支配関係のある法人間で自己株式を買い取らせた場合には、株式譲渡損益について損金の額又は益金の額に算入させず(法法61の2⑯)、資本金等の額の増減項目として取り扱うこととされた(法令8①十九)。 具体的には、以下の仕訳を参照されたい。 この取扱いは、その他資本剰余金の配当、残余財産の分配、非適格合併又は非適格分割型分割のように、みなし配当が生じる他の事由についても同様である。さらに、現金交付型合併における抱き合わせ株式の処理についても、株式譲渡損益を認識せず(法法61の2③)、株式譲渡損益に相当する部分の金額について資本金等の額として処理することとされた(法令8①五)。 そのため、平成22年度税制改正によりグループ法人税制が導入された後は、グループ法人税制の範疇外にあるケース、すなわち、完全支配関係のない法人の株式、完全支配関係のある外国法人の株式について、それぞれ、みなし配当と株式譲渡損が両建てになるケースが存在し得るという点が問題として残っている。 とりわけ、円高局面においては、当該取引を行う時点における為替相場において為替換算を行うことから、資本金等の額が小さめに算定されやすく(法基通20-3-14)、過去に設立した外国法人や買収した外国法人であったとしても、みなし配当と株式譲渡損が両建てになりやすいという傾向がある。 この点につき、自己株式の買取りについての手法を例に挙げるとすると、Y社がX社の発行済株式のほとんどを取得したものの、一部のX社株式については取得していないような場合において、X社から少数株主に資金を移転させず、Y社に対してのみ資金を移動させたいときは、剰余金の配当という手続によることはできないことから、自己株式の買取りによる手法は経済合理性が認められるため、同族会社等の行為計算の否認が適用されるケースは稀であると考えることもできる。 さらに、完全支配関係のある外国法人に対して自己株式を買い取らせるような場合であっても、現地の会社法において、自己株式の買取りの手続が剰余金の配当の手続に比べてそれほど煩雑というわけでないのであれば、税目的の見地から納税者が選択した手法が少なくも不利な方法ではないということになるため、同族会社等の行為計算の否認が適用されてしまうケースは、かなり極端な事案であると考えられる。 ※極端な事例を考えると、被買収会社の発行済株式総数の99%を取得し、当該被買収会社から事業を譲り受けた後に、当該被買収会社を解散した場合には、残余財産の分配により、みなし配当と株式譲渡損の両建てが生じやすく、かつ、グループ法人税制の対象外となりやすい。このような事案については、わざわざ1%の株主を残していることから、どのような場面で経済合理性があると主張できるのかという点が問題となりやすく、かつ、現金交付型合併を選択しなかったことについての合理性についても主張をする必要があるため、実務においては、慎重な対応が必要になってくる。 ※日本アイ・ビー・エム株式会社が否認された事例(「T&A master(ロータス21)」 No.416)では、グループ法人税制導入前にみなし配当と株式譲渡損の両建てを図った事例として注目されており、グループ法人税制導入後において、グループ法人税制の対象外となってしまう事案について、同様の効果が認められるような事案については、同様の否認がなされる可能性があるため、留意が必要である。 (了)
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税務判例を読むための税法の学び方【7】 〔第3章〕法令間の矛盾抵触とそれを解決する原埋(その2)
税務判例を読むための税法の学び方【7】 〔第3章〕法令間の矛盾抵触とそれを解決する原埋 (その2) 自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 3 特別法優先の原理 形式的効力を同じくする法令間において、ある事柄について一般的に規定した法令がありながら、同じ事柄について特別の「事項、場合、対象、地域など」を限定してその一般的に規定した法令と異なる内容を規定した法令がある場合には、この両者は、一般法と特別法の関係にある(前者が一般法、後者が特別法)という。 特別法の規定があるときには、その特別法の対象となっている事項、場合、対象、地域などに関しては、その特別法の規定が優先的に適用され、この特別法の定めと矛盾抵触しない限度において一般法の規定が適用されることになる。これを特別法優先の原理という。法格言として、「特別法は一般法に優先する。」ともいわれる。 ここで注意すべきことは、一般法、特別法の概念は相対的なものであり、ある法令に対しては一般法であるが他の法令に対しては特別法になる場合もあるという点である。 税法の例でいえば、国税通則法(ただしその名称と異なり通則的内容というよりも手続規定としての性格も強いため、一般法にはあたらないという見解もあるが)は国税について基本的、共通的な事項を定めた法律であるから一般法となり、所得税法や法人税法などの個別の税法が特別法となる。 しかし、租税特別措置法は所得税法や法人税法の特例を定めた法律であるため、租税特別措置法との関係においては、所得税法や法人税法等の個別の税法が一般法、租税特別措置法が特別法ということになる。 4 後法優先の原理 後法優先の原理は、形式的効力を同じくする法令の規定が相互に矛盾抵触する内容のものであるときには、後から制定された法令の規定が、前に制定された法令の規定に優先する(その限りで前に制定された法令の規定は改廃されたものとなる)とする原理をいう。上記特別法優先の原理によって解決できない場合に、この原理が適用される。 社会が常に変化していく中で、その変化に対応した新しい法令が次々と制定されていく。そして新しい法令を制定しようとするときには、新法令と矛盾抵触する内容を有する既存の法令は、これを改正や廃止、調整する規定を置くなどの措置が講じられる。しかし立法上の不備等からその矛盾が整備されず、そのまま残されることもある。その場合に、新しい法令こそがその時点における法の内容を表現したものであるとして、後から制定された法令の規定を優先するのである。 これは実定法上明文の定めがあるわけではないが、立法者の意思を尊重するものとして、法の本質からくる必然的な帰結として承認されているものである。なお「後法は前法を破る。」という法格言は、このことを表わしている。 例を一つ挙げる。「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(独占禁止法)は、事業者又はその団体の共同行為等について規制しているが、かつてその例外を別の法律「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外等に関する法律」(平成11年6月23日法律第80号により廃止)で指定していた。 この「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外等に関する法律」に適用除外として列挙されていない「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」が後から制定された。そしてこの「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」では、酒類業組合の一定の共同行為を認める規定が設けられているため、両者間で矛盾抵触を生じた。 しかし、後から制定された「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」が、後法優先の原理によって優先適用されるため、特に問題とはならなかった。 では、前法・後法というが、どの時点を基準として前後を判断すべきか。この点に関しては、法令の成立の時、公布の時、施行の時というように説が分かれるが、法令の成立の時をもって判断すべきというのが通説である。 というのも、この原理は、後法に立法者の意思があるという立法者の意思の推定に根拠があるのであるから、その時点の判断は、立法者の意思が最終的に確定した時を基準にするべきである。 5 特別法優先の原理・後法優先の原理と上位法令優先の原理 特別法優先の原理や後法優先の原理が働く場合、その特別法や後法に基づく政令や省令のような下位の法令の規定と上位法令である一般法の規定が矛盾抵触する内容のものであるときは、いずれを適用すべきかという問題がある。 特別法の委任に基づく命令は、本来特別法自体が規定すべきことをその委任に基づき下位法令に委ねたものであるから、その特別法の一部とみなされ、特別法優先の原理により、一般法の規定に優先して特別法に基づく命令の規定を適用することになる。後法の委任に基づく命令の場合もまた、後法優先の原理により、一般法の規定に優先して特別法に基づく命令の規定を適用することになる。 たとえば租税特別措置法の命令である租税特別措置法施行令の規定は、各税法の一般規定に優先して適用されることになる。 ただし命令で規定した内容が委任の範囲を超えている場合や、重要な事項(税法の場合は課税要件の定め等)であるため命令に概括的・白地的な委任をなしえないにもかかわらず、委任の内容・程度が具体的・個別的でない場合には、この限りでない(第1回中「4 成文法の種類」「命令」の項参照)。 6 特別法優先の原理・後法優先の原理と基本法 ところで、特別法優先の原理、後法優先の原理につき、「基本法」と呼ばれる法律と通常の法律との関係について、これをどう考えるかという問題がある。 教育基本法や農業基本法、原子力基本法、災害対策基本法、中小企業基本法、環境基本法等々各種の基本法が制定されているが、これらの基本法は、それぞれその分野における基本方針を定めたもので、抽象的内容のものが多い。したがって、これら基本法の内容を実現するためには、通常、個別具体的な内容を有する法律を別に制定することになる。 そして、これら基本法を実施するための個別具体的な法律が基本法の内容に矛盾抵触し、後法や特別法に該当する場合にどう考えるべきであろうか。すなわち、基本法というのは各分野における憲法的な性質を持つ法律と考え、この基本法に反する個別具体的な法律が無効となるかという点である。 基本法といっても通常の法律と同一の形式の「法律」であり、共に同様の手続で国会において制定されたものである。したがって、その名称が基本法だとしても、その形式的効力は通常の法律と同じであり、この点、特別法優先の原理や後法優先の原理を適用すべきことになる。しかし基本法は各分野における基本事項を定めているのであるから、そのような基本法に対しこれらの原理により安易に否定してよいのかといった問題がある。 これは教育基本法の例であるが、この問題に関し最高裁判所は「同法(「教育基本法」筆者挿入)における定めは、形式的には通常の法律規定として、これと矛盾する他の法律規定を無効にする効力をもつものではないけれども、一般に教育関係法令の解釈及び運用については、法律自体に別段の規定がない限り、できるだけ教基法の規定及び同法の趣旨、目的に沿うように考慮が払われなければならないというべきである。」(昭和51年5月21日最高裁判所大法廷判決)と判示している。 したがって、この基本法に反するからといって個別具体的な法律が無効とはならないが、解釈に当たっては最大限尊重されるべきものといえよう。 (了)
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〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載13〕 従業員から役員になった場合の退職金計算の問題点【その2】
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載13〕 従業員から役員になった場合の 退職金計算の問題点【その2】 公認会計士・税理士 濱田 康宏 《1》 従業員が役員になった場合の退職金支給方法(承前) 本誌 No.5(2013/2/7公開)に掲載した拙稿「従業員から役員になった場合の退職金計算の問題点【その1】」(以下「前回分」という)において、従業員が役員になった場合の退職金支給方法は様々なパターンが考えられるが、大きく分けると、以下の2つであることを示した。 前回分では【1】について述べたが、今回は【2】について解説を行うこととする。前回分と併せてご覧いただきたい。 《2》 従業員退任時に従業員分を、役員退任時に役員分を支給する場合(【2】) 【2】についても、使用人兼務役員を前提とする論点がある。役員就任時に従業員分を払うのか、それとも、従業員身分喪失時に払うのかによって、ケースが分かれる。その上で、従業員分を払った後で、役員分を払う際に退職所得の計算がどのようになるのか、特に退職所得控除額の取り方を考える必要がある。 基本となる考え方は、従業員分を払った時点で退職所得控除額を計算する上での勤続年数がリセットされ、役員分の退職所得控除額は役員分だけで計算することになるというものである。 例えば、従業員期間20年(うち2年は使用人兼務役員)の終わりに従業員分を払い、2年後に役員分を払ったということであれば、役員勤続期間は2年ということになる。会社が役員退職金の支給基礎計算を4年で行っているので、そのまま税務上も4年で計算してしまうミスに留意したい。 ここで、特定役員退職所得控除額は、40万円×2年=80万円となり、特定役員退職手当等が400万円なら、退職所得の額は320万円となる。この場合、従業員分退職金支払時に勤続期間がリセットされ、勤続期間の重複がないとされるため、前4年内支給分に係る退職所得控除額の調整計算は生じない点も確認しておきたい。 《3》 会社が従業員入社時からの期間を退職金計算している場合の特例計算の可否 しかし、仮に、会社が役員分を支給する際に通算の勤続年数22年を基礎として退職金計算を行い、前回支給分を差引計算していればどうだろうか。 上記の例でいえば、従業員入社時からの22年を計算基礎として、1,000万円-支給済600万円=差引400万円とする計算を行っている場合である。 通常、従業員計算の場合であれば、退職所得控除額について、この会社の計算を基礎として計算することが可能である。所得税法施行令69条1項1号ハ但書に規定する「その支払者がその退職手当等の支払金額の計算の基礎とする期間のうちに、当該前に支払を受けた退職手当等の支払金額の計算の基礎とされた期間を含めて計算する場合」に該当すれば、退職所得控除額を計算する際に、総期間対応分から前回期間対応分を控除できるので、勤続期間20年を超える場合に、退職所得控除額をより大きく取ることが可能になる。 ただし、既に支給済の退職金に対応する退職所得控除額は、前回支給時の使い残し分を繰り越して使うということはできない。上記《2》の例で具体的に確認すれば、 【22年を計算基礎とした控除額】 【20年を基礎とした控除額】 (40万円×20年+70万円×2年) - (40万円×20年) =940万円-800万円 =140万円 が、退職所得控除額とされることになる。前回支給が600万円なので、800万円のうち200万円が未使用だったのだが、これを今回支給分に流用する計算は許されない。 この計算については、所得税基本通達30-10(前に勤務した期間を通算して支払われる退職手当等に係る勤続年数の計算規定を適用する場合)がある。ここでは、 とされており、退職金規程での定めが必須となっている点、注意が必要である。 さて、同様の計算が、役員分を払う際にも行われていたとすれば、特定役員退職手当等が400万円なら、400万円-140万円=260万円となり、当然ながら2分の1計算はできないが、先ほど説明した額(320万円)よりも低くなる。よって、会社が従業員分支給後に役員分を支払っている場合、この特例計算を行うことが必要とも考えられる。実際、条文上は、このような計算をして支障がないと読めなくもない。実務では、従業員上がりの役員というだけでなく、役員から再度従業員に戻ることもあるわけだから、このような通算があって然るべきだとの意見もある。 しかし、当局の表した「源泉徴収のあらまし」を確認する限り、特定役員退職所得控除額の計算式について、このような流用計算を認めているとは読みきれない。実際、上記通達30-10では使用人退職金規程での定めを要求していることから、現場では、この通算は認められないとの意見もある。 これについて、筆者が実際の個別事例で当局に照会した結果、そもそも従業員退職金の支給が打切支給として、期間通算を認めない前提であるために認められないものだとの回答があった。 確かに、役員としての勤務が継続しつつ、従業員退職時の退職金処理が認められるのは、所得税基本通達30-2(引き続き勤務する者に支払われる給与で退職手当等とするもの)(2)に該当するからであり、「その給与が支払われた後に支払われる退職手当等の計算上その給与の計算の基礎となった勤続期間を一切加味しない条件の下に支払われるもの」に該当するからに他ならない。 逆に言えば、期間通算ができるのであれば、そもそも従業員退職時の支給分は、退職所得ではないとされてしまうということである。よって、結論として、この期間通算処理については、できないと解するほかはないことになる。 なお、仮にこの特例計算を用いることができた場合でも、既に支払っている従業員分の退職所得控除の未使用分が使えなかった点に着目していただきたい。つまり、前回分で述べた【1】のように役員退任時に従業員分とまとめて払う計算よりも、退職所得控除額が目減りすることになっている。税理士が関与先から助言を求められた場合、退職金支給方法として、税務上は役員退任時に従業員分をまとめて支払う方がより有利になる点を伝えるべきということになるだろう。 《4》 まとめ 今後、税務上の配慮すべき点をまとめてみたい。 退職金制度は、経営上の重要事項であり、税務だけで決めるべきものではないのは、言うまでもない。むしろ世の中の流れは、退職金制度そのものを廃止すべきとの方向に流れており、この機会にそのような見直しがあってもよいのかもしれない。 しかし、税理士として助言を求められた際に、自らの不知で関与先に迷惑をかけることがないようにしたいものである。 (了)