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〔しっかり身に付けたい!〕はじめての相続税申告業務 【第10回】「土地を評価する③」~路線価方式による評価~
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第10回】 「土地を評価する③」 ~路線価方式による評価~ 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 今回は土地評価の路線価方式について学ぶこととする。 〔路線価方式の計算〕 路線価方式による宅地評価は、基本的には で行われ、これに一定の調整計算(*)を行うこととなる。 ※国税庁ホームページより 〔宅地評価(路線価方式)による調整計算〕 宅地評価を詳細に説明することは紙面の関係上、別の機会に譲ることとし、本稿では割愛するが、宅地評価(路線価方式)による調整計算項目のみ列挙することとする。 〔宅地評価(路線価方式及び倍率方式の共通)の調整計算〕 また、宅地評価(路線価方式及び倍率方式の共通)の調整計算として主なものに、以下のものがある。 なお、財産評価基本通達には明記されていないが、利用価値が著しく低下している宅地については、10%減額できることとされている(国税庁タックスアンサー(財産の評価)No.4617「利用価値が著しく低下している宅地の評価」参照)。 (了)
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小説 『法人課税第三部門にて。』 【第21話】「退職した税務職員の再任用制度」
小説 『法人課税第三部門にて。』 【第21話】 「退職した税務職員の再任用制度」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「そうか・・・蔵本さんも今年が定年で、退職されたのか・・・」 渕崎統括官が椅子にもたれながら、「定期人事異動速報」を見ている。 蔵本は統括官で、この7月の人事異動で退職している。 職員は皆昼食に出ているので、法人課税第三部門は渕崎統括官以外、誰もいない。 「最近は退職して税理士になったとしても仕事がないって聞くし、蔵本さん、どうするのかな?」 渕崎統括官がつぶやく。 「統括官は食事終わりました?」 いつの間にか田村上席が、渕崎統括官の机の傍らに立っている。 食事の後らしく、爪楊枝をくわえている。 「いや、まだだが・・・ところで君は、蔵本さんを知っているよね」 「くらもと・・・?」 田村上席は、口から爪楊枝を外し、ゴミ箱にポイと捨てる。 「確か蔵本さんは、君の前任署の上司じゃなかったか?」 「ああ・・・蔵本統括官ですか」 田村上席は懐かしそうに蔵本の名を口にした。 「その蔵本統括官が、どうかしたのですか?」 渕崎統括官は、読んでいた「定期人事異動速報」を開いたまま田村上席に見せた。 開かれたページには130人以上の課長・統括官級の退職者の氏名が掲載されており、その中にある「蔵本明」という氏名に赤いチェックが付けられている。 「ああ、退職されたんですか・・・僕はずいぶんいろいろなことを蔵本統括官に教わったんですが・・・」 田村上席は残念そうに、その名前を見つめる。 「でも、退職したら税理士になるんでしょうね」 田村上席は、渕崎統括官に問いかける。 「いや、わからない・・・」 渕崎統括官は、頸を傾げる。 「どうしてですか。蔵本統括官はもちろん税理士の資格も既に持っているでしょうし、税務職員は、退職したら税理士になるものだと思っていましたけど」 田村上席は、渕崎統括官を責めるような口調で言う。 「しかし、税理士業界も不況業種だから・・・税理士になったからといって、すぐに食べていけるというものでもないだろう」 今度は田村上席が頸を傾げる。 「それじゃあ、あの・・・再任用制度を希望する、ということですか?」 田村上席がポツリと言う。 「・・・それも選択肢の1つかもな」 渕崎統括官は頷く。 「週4日勤務して給与は月額30万円ぐらいもらえるらしいし・・・もっとも賞与はもらえないから年収として360万円ほどになる。・・・しかし、これぐらいもらえるなら、仕事の少ない税理士をやるより良いとも思うが・・・」 渕崎統括官は椅子の背にもたれて天井を見上げる。 「・・・ということは、渕崎統括官は退職したら、再任用を希望するのですか?」 田村上席は、目を大きくして尋ねる。 「・・・まあ、まだ決めてはいないが、再任用も悪くはない・・・」 渕崎統括官は、自嘲気味に言う。 「そうなんですか・・・ところで・・・統括官は・・・あと何年で・・・退職ですか?」 田村上席は、おそるおそる尋ねる。 「あと、3年だな・・・まあ3年なんて、あっという間だよ」 田村上席は、薄くなっている渕崎統括官の頭髪を見る。 「しかし、もし、僕が再任用されて、その配属先の上司が田村君だったら、その時はよろしく頼むよ」 渕崎統括官は笑いながら言う。 「・・・そんな、ご冗談を・・・」 田村上席は、頭を掻きながら顔を赤くする。 「・・・いや、冗談じゃないさ。僕が退職して再任用されると、もちろん・・・統括官ではなく、一般の調査官になるし・・・」 渕崎統括官は笑いながら話を続ける。 「・・・何年か前に税理士から聞いた話だが・・・税務署から税務調査の連絡を受けた税理士が、その担当者の名前を「税務職員録」で調べると、「調査官」となっていた。だから、その税理士は、「30歳過ぎぐらいの若い職員が税務調査に来ますよ」と納税者に伝えていたところ、当日税務調査に来た職員はずいぶん老けていて、大変驚いた、と・・・」 田村上席も苦笑いする。 「田村君は、僕が退職する頃には統括官になっているだろうから・・・僕が部下になる可能性は十分にありうる。でも・・・できれば税務調査ではなくて、内勤をしたいがね」 「税務調査は嫌ですか?」 「うーん・・・やっぱり税務調査は精神的に疲れるから・・・定年で一旦退職すると、むしろ申告書の受付のような、あまり気をつかわない内勤がいいよ」 渕崎統括官は笑いながら言う。 「そうですか・・・でも、統括官のように、税務調査に関する豊富な知識と経験を使わないなんて・・・少し、もったいない感じがしますね」 田村上席は、真剣な顔で言う。 「そんなことはないさ。しかし、僕も年をとったせいもあるのだろうけど、確かに今の若い職員を見ていると、覇気がないように見える」 渕崎統括官の力のこもった言葉に、田村上席は大きく頷く。 「確かにそうですね・・・税務調査も、もちろん昔のように無茶な税務調査はできなくなって、これからは情報収集を中心としたスマートな調査手法を開発していかなければならないのだけれど、でも、結局は人間が行うことですから、仕事に対する情熱・・・そう、やる気はやっぱり大切ですよね」 田村上席は付け加える。 「・・・老兵は去るべきなんだろうけど、まだ僕なんか、若い税務職員に、自分の知識や経験などを伝えたいと思っているから、再任用されて、時間があれば、そんなこともやってみたい気持ちはある・・・」 「それは良いことですね・・・私が統括官になったら、ぜひ、渕崎統括官、いや、渕崎調査官を私の法人課税部門でスカウトしますよ」 田村上席がそう言うと、2人はお互いに顔を見合わせて、大きく笑った。 (つづく)
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経理担当者のためのベーシック税務Q&A 【第9回】「役員借入金と税金」―役員借入金の解消策―
経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第9回】 「役員借入金と税金」 ―役員借入金の解消策― 仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久 1 役員借入金の特徴 (1) 財務数値の悪化 金融機関は、企業の財務数値等を用いて信用格付を行っています。 役員借入金の金額が大きくなると自己資本比率(自己資本÷総資本)が悪化し、会社の財務体質の評価が下がる場合があります。 仮に、役員借入金を解消することができれば、自己資本比率が改善し、銀行の信用格付が高くなります。 (2) 相続税の課税財産 役員が会社に貸している債権の回収は難しいと思われる場合であっても、役員に万が一のことがあった場合には、役員が会社に対して有する債権(会社からみた場合の借入金)は相続税の課税財産として、原則として帳簿価額で評価されます(評基通204、205)。 仮に、役員借入金を資本金に振り替えることができれば、相続税の課税財産としては、評価減が可能な会社に対する出資(株式)として評価されます(評基通178~180、185、188、188-2、189~189-6)。 2 役員借入金の解消方法 (1) 役員借入金の免除 会社と役員の契約において、役員からの借入金を免除してもらう方法です。 (2) 資金繰りの中から返済 役員報酬等の人件費、諸経費の削減による余剰資金を、借入金の返済原資とする方法です。 (3) 資本金へ振り替え(通称DES:デット・エクイティ・スワップ) 役員が会社に対する貸付金(=借入金)を現物出資して会社の債務を消滅させ、会社の資本金に振り替える方法です。 (4) 疑似DES(疑似デット・エクイティ・スワップ) 債務消滅益に対する課税を回避し、かつ、借入金の帳簿金額の全額を資本金に振り替えないと債務超過が解消できない時には、疑似DESが用いられる場合があります。 疑似DESとは、債権者である役員が金銭払込みによる増資を行った後、会社が役員に借入金を弁済する方法で、結果的にDESと同様な効果が得られます。 疑似DESは、現物出資ではなくあくまでも金銭出資の一種ですので、平成18年度税制改正後においても債務消滅益は生じません。 しかしながら、DESと効果は同じであることから、経済合理性のない租税回避のみを目的とした疑似DESは、同族会社の行為計算の否認等を受けるリスクがありますので注意が必要です。 特にDESに関する会計上、税務上の取扱いはとても複雑です。 本稿の内容は、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分がありますので、本稿に基づく情報によりDESを実行する場合には、専門家にご相談されることをお勧めします。 (了)
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貸倒損失における税務上の取扱い 【第6回】「子会社支援のための無償取引②」
貸倒損失における税務上の取扱い 【第6回】 「子会社支援のための無償取引②」 公認会計士 佐藤 信祐 清水惣事件は関係会社間における無利息貸付けに利息相当額の収益を認識することができるか否かが争われた事件である。 この事件では昭和39年度及び昭和40年度に無利息貸付けを行ったことにつき、利息相当額につき収益とし、同額を寄附金と認定して、寄附金の損金不算入額を加算する更正処分が行われたものである。 なお、第1審・大津地裁昭和47年12月13日判決、控訴審・大阪高裁昭和53年3月30日判決とかなり古い判決ではあるが、現在の法人税基本通達9-4-1、9-4-2が昭和55年に定められた通達であり、本事件の影響を受けたものと言われていることから、無利息貸付けに係る法人税法上の取扱いを理解するためには、理解しておくべき判決であると言える。 4 清水惣事件 (1) 第1審・大津地裁昭和47年12月13日判決(高裁民集31巻1号103頁、訟月19巻5号40頁、判時695号54頁、税資66号1112頁、金判345号11頁) ① 判決の概要 第1審においては、 として、原告(納税者)の請求を認容し、本件更正処分が取り消された。 本判決については、約40年前の判決とはいえ、現在の税実務からするとかなり違和感のある判決である。そのため、その後の控訴審で取り消されているとはいえ、無利息貸付けについての法人税の考え方を理解するためにも、まずは先入観を抜きにして判決文を読む必要がある。 ② 被告側の主張 第1審における被告(近江八幡税務署長)の主張をまとめると、以下の通りである。 ③ 原告側の主張 これに対し、原告(納税者)の主張をまとめると以下の通りである。 被告は、原告が本件融資を無利息にしたのは、法人税の負担を不当に軽減することを企図したものと主張するが、原告にはそのような意図はなかった。 経済合理性の有無の判定は、親会社が子会社に無利息融資すること、そのこと自体が不合理、不自然かどうかによって決すべきであって、子会社を如何に経営するか、したがって、その資本金、借入金更には営業実績等の一切は税務行政庁がせん索干渉すべき事柄ではないというべきである。 親会社が出資をして子会社を設立し、親会社への利益還元を期待してこれを育成援助することは世上通例のことである。そして、育成援助の仕方も、当該企業が営利政策の見地から自由に資金の融通、担保の供与、資材の支給等の方法を選択決定できるのであり、原告の訴外会社に対する本件無利息融資行為も、子会社である訴外会社の育成援助のための初歩的な通常の手段に属し、したがって、本件無利息融資は、被告の主張のような不合理、不自然なものということはできない。 原告会社は本件無利息融資によって税負担を減少させたのではなくこれによって子会社たる訴外会社を育成して倍旧の利潤をあげ、訴外会社共々納税の実を挙げている次第であって、かえって法人税納付を増加させる結果となっているのである。 本件の無利息融資は、原告会社が商業人として利潤追求のためにする子会社育成援助の手段であって、このことは原告会社の事業活動に関係があるというより、直接事業収益に向けられた事業活動の一環であり、事業活動そのものなのである。 ④ 裁判所の判断 このように、被告側は寄付金に該当するものと主張し、原告側は寄付金に該当しないものと主張したが、裁判所は原告側の主張を認め、更正処分を取り消した。 その理由をまとめると、以下の通りである。 ⑤ 総括 このように、第1審判決は、現在の税実務からするとかなり違和感のある判決が下された。 法人税法において、経済的便益を受けた側ではなく、経済的便益を提供した側に対して課税を行うということは、法律家にとっては違和感があるということは有名な話ではあるが、本判決にもその影響があることは推察できる。 また、この点につき、大淵博義教授は、 と述べられている。 次回では、控訴審判決について解説を行う予定である。 (了)
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〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載46〕 自己株式と現物給与などに関する消費税の課税関係
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載46〕 自己株式と現物給与などに関する 消費税の課税関係 税理士 飯田 聡一郎 1 自己株式として取得される株式の譲渡者側の取扱い (1) 通達における取扱いの確認 有価証券を譲渡した場合は、消費税法上は非課税売上に該当する。しかし、有価証券の譲渡であっても、株主が保有する他社株を、その株式の発行法人に譲渡する場合は、資産の譲渡等に該当しないこととされている。 上記通達のとおり、発行法人が自己株式として取得した場合の株主の譲渡、あるいは株式発行法人が自己株式を処分した場合については、資産の譲渡等と考えないことになる。 なお、上場株式について、公開買付けの場合は自己株式の取得であることが明らかであり、上記通達に該当するが、証券市場での買入れについては、譲渡した法人がその株式の買い手が株式発行法人であるかどうかはわからないため、株式発行法人である上場会社が、公開買付け以外の市場取引で自己株式を取得した場合は、その株式を譲渡した法人については単に、有価証券の譲渡と割り切って考えることになる。 (2) 資産の譲渡等に該当しない理由 なぜ、自己株式として取得される場合の取引、自己株式の処分として行われる取引が資産の譲渡等に該当しないのかについて検討を加える必要がある。 自己株式の取得という行為は、かつて発行した株式について払戻しをする行為と考えられる。また自己株式の処分は、新株発行と同様の行為と考えることができる。そして、資本の払戻し、あるいは新株の発行については、株式発行法人にとっては、資産の譲渡等とは考えていない。 株式保有法人が、株式発行法人に当該株式を譲渡する場合は、それ自体、資産の譲渡であるが、消費税では、資産の譲渡については、同一性を保持したまま、他人に移転させることとされている。この限りでは、資産の同一性が保持されないので、上記通達で、資産の譲渡等に該当しないと明記された。 なお、会社が自己株式を取得する場合は、他人が保有している時点では、発行法人への議決権や配当請求権、残余財産分配請求権を有する資産(有価証券)であるが、自己株式となった時点で会社法では、資本剰余金等のマイナス概念として、支払額が帳簿価額として認識されるのみである。法人税においても、株式発行法人が有する自己株式は有価証券から除かれている。 2 現物出資による場合の取扱い 株式発行法人にとって、株式の交付は、新株発行であっても、自己株式の処分であっても、会社法においても、法人税においても資本等取引なので、譲渡ではない。しかし、資産を現物出資して、他社株を取得した場合は、現物出資により、株式の交付を受けた法人は資産の譲渡等となる。 この点については、確認的に、消費税法施行令2条1項では次のように規定されている。 金銭以外の資産の出資、つまり現物出資は、資産の譲渡等に含まれると規定されている。株式の発行は資産の譲渡等ではないのに、一方で現物出資が資産の譲渡等に含まれるというのは、どのように解釈すべきであろうか。 下記のように、取引を分解して考える必要がある。 上記の①有価証券の交付については、資産の同一性が保たれない移転で資産の譲渡等とは認識せず、②現物による払込みは、資産の同一性を保った資産の移転であるため、資産の譲渡等と認識することになる。 この場合、譲渡を行った者は出資者側であるから、出資者が課税事業者であれば、現物出資した資産の種類に応じて、課税資産の譲渡あるいは非課税資産の譲渡を認識する必要が生じる。この場合の課税標準額の計算にあたっては、株式の取得の時における価額が課税標準額となる(消令45②三)。 ちなみに、現金による払込みの場合は、上記②の部分が、出資者から支払手段の譲渡があったことになる。しかし、消費税法上は支払手段の譲渡は非課税で、かつ課税売上割合の計算にも影響しないため、事実上の対象外取引として考えられる(消費税法別表第一第二号、消基通3-2-3)。 3 中期国債ファンドの解約について 自己株式に関わる取引の他に、証券投資信託などの金融商品の場合でも、譲渡なのか解約なのかで、消費税の取扱いが異なる。 国税庁の照会事例では、中期国債ファンドを設定後30日以内に換金した場合は、その時の時価で有価証券を譲渡したこととして取り扱い、一方で設定後30日経過して解約した場合には、分配金は利子となり、元本部分については課税関係が生じないこととなる。 これは、30日経過後は、手数料なしで解約できる契約となっていることから、30日以内の場合は事実上の譲渡と考え、30日経過後は解約による分配金と元本の返還と考えることになる。 4 現物給与の課税関係 上記のように、取引を2つのモノの流れに分解して考える場合に、現物給与について、資産の譲渡等に含まれるのか否かという疑問が生じる。 上記の①労働役務については、消費税法第2条第1項第12号で、給与等を対価とする役務の提供は課税仕入から除かれるため、課税対象外取引と考えられる。一方で、②現物給与については、資産の譲渡等が行われていると考えることもできる。 しかし、現物給与については、基本通達において、単に現物を給付することとする場合の現物給付は代物弁済に該当せず、結果として資産の譲渡にならないとされている。 また、この点について、国税庁消費税課が作成した消費税審理事例検索システム(平成12年)の質疑応答事例でも、もう少し踏み込んだ記載がなされている。 この質疑応答事例でも、現物給与は、代物弁済に該当しない限り、課税対象とならないと解説している。 この点については、国税庁消費税課係長・課長補佐を歴任され消費税の創設・導入に尽力された木村剛志先生が著書の中で、 としている。書きぶりからすると、代物弁済との認定が容易ではないため、課税の対象としないという考え方のようである。 理論上は、同じように資産の引渡しが行われて、異なる課税関係となる点は、疑問が残らないわけではない。しかし、条文上は、消費税法第2条第1項第8号及び消費税法施行令第2条で、資産の譲渡等の範囲を定めており、代物弁済、負担付贈与、現物出資などについては資産の譲渡としているのに対して、現物給与についての規定はない。 そこで、消費税法基本通達5-1-4で、現物給与が資産の譲渡等に該当しない取扱いであることを確認的に明らかにしていると考えるのが自然な解釈である。 1つの仮定だが、現物給与1,000万円とした場合に、それが課税対象を構成した場合、現物支給を行う会社側が消費税を受け取っていないのにもかかわらず、消費税を負担することは消費税の趣旨からは理論的ではないように思われる。一方で、交換や代物弁済などについては、課税しない構成とすれば消費税の脱法行為がまかり通ることになる。 その意味では、課税上の弊害と消費税の負担とのバランスを考慮して、ぎりぎりのところで、資産の譲渡等に含まれる範囲を定めたと考えることができよう。 (了)
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「企業結合に関する会計基準」等の改正点と実務対応 【第4回】「共通支配下の取引の会計処理②」~子会社株式を一部売却した場合(売却後も支配関係は継続)の連結財務諸表上の会計処理~
「企業結合に関する会計基準」等の 改正点と実務対応 【第4回】 「共通支配下の取引の会計処理②」 ~子会社株式を一部売却した場合(売却後も支配関係は継続)の連結財務諸表上の会計処理~ 有限責任監査法人トーマツ 公認会計士 布施 伸章 (注)本連載記事において、文中、意見に関する部分は筆者の私見である。 1 はじめに 今回は、平成25年改正連結会計基準のうち、子会社株式を一部売却した場合(売却後も支配関係は継続)の連結財務諸表上の会計処理について解説する。 解説に当たっては、以下の設例をもとに、会計基準の改正前と改正後の会計処理及び連結財務諸表への影響を比較しながら行う。 なお、以下の文中、「改正前(後)仕訳○」は、設例中の「改正前(後)会計基準」欄の仕訳No.を示している。 2 子会社株式の一部売却(売却後も支配関係は継続)の会計処理 子会社株式を一部売却した場合(売却後も支配関係は継続)には、改正前会計基準では、以下の改正前仕訳⑥のように、売却した株式に対応する持分80を親会社の持分から減額し、非支配株主持分(少数株主持分)80を増額(※)する。そして、売却による親会社の持分の減少額(売却持分(※))80と投資の減少額72との間に生じた差額8は、子会社株式の売却損益の修正として処理する。 さらに、のれんの未償却額64のうち売却した株式に対応する額26(=64×40%=25.6)を、子会社株式売却損益の修正として処理するものとされていた(改正前連結会計基準29項、(注9)(1))。この結果、連結財務諸表には子会社株式売却益が44(=78-(8+26))計上されることになる。 改正後会計基準では、以下の改正後仕訳⑥のように、売却した株式に対応する持分を親会社の持分から減額し、非支配株主持分(※)80を増額する。そして、売却による親会社の持分の減少額(売却持分(※))80と売却価額150との間に生じた差額70を、資本剰余金とすることとされた(改正後連結会計基準29項)。 (※) 売却持分及び増額する非支配株主持分については、親会社の持分のうち売却した株式に対応する部分として計算する(連結会計基準(注9)(1))。 【図表】 設例の仕訳No.6を抜粋 (注) 子会社株式の一部売却において、関連する法人税等(子会社への投資に係る税効果の調整を含む。)は、資本剰余金から控除することとされているが(連結会計基準(注9))、この点については本連載【第6回】で取り上げる。 上記の改正後仕訳⑥を、上段と下段に分けて改めて考えることとする。 上段は、親会社の個別財務諸表で計上された子会社株式売却益78から売却持分に対応した子会社投資に係る損益(連結上は認識済)8(=200(連結上の評価額)×40%-72)を控除するための調整である。この会計処理にあたり、売却後も支配関係が継続しているときは、上段の子会社株式売却損益の調整処理において、売却時に関連するのれんの未償却残高があっても、それを取り崩してはならない点に留意する必要がある。 下段は、売却価額150と売却持分に対応する連結上の評価額80との差額70を親会社の個別財務諸表で計上された子会社株式売却益から資本剰余金へ振り替えるための調整である。 この結果、親会社の個別財務諸表で計上された子会社株式売却益78は、連結上はゼロとなる。 3 改正による連結財務諸表への影響 設例では、X2/3期とX3/3期のいずれの期も、親会社の損益はゼロ(X3/3期は子会社株式売却益を除いて損益ゼロ)、子会社の当期純利益は100としている。 (1) X2年3月期(持分比率100%) 子会社で計上された利益100から支配獲得時に計上した親会社持分(100%)に係るのれんの償却額16が控除されるため、当期純利益は84となる(親会社帰属額も同額)。 (2) X3年3月期(持分比率60%) ① 連結P/L 子会社株式の一部売却が行われた年度の連結損益に与える影響は、子会社株式売却益の調整処理(資本剰余金への振替)とのれん未償却残高の取扱いの相違から生じる。 〈子会社株式売却益の調整処理:親会社の利益〉 改正前は売却価額と親会社持分(のれんの未償却残高の調整後)との差額44(=150-(80+26))は、子会社株式売却益として連結上も当期純利益に計上された。 改正後は売却価額と親会社持分との差額70は、損益ではなく資本剰余金に直接計上されることとなった。 〈のれん未償却残高の取扱い:子会社の利益〉 期首に子会社株式の一部売却が行われているため、その年度に子会社が計上した利益100は、親会社帰属額60(60%)、非支配株主持分帰属額40(40%)となる。 改正前会計基準では、子会社株式の一部売却後ののれん償却額は売却後の持分(60%)に対応する額9(=64×60%/4年(残存償却年数)=9.6)だけが計上されていた(改正前仕訳⑧)。 改正後会計基準では、改正後仕訳⑥のように、一部売却時におけるのれんの未償却残高を取り崩さないため、のれんの償却額は当初取得時持分(100%)に対応する額16が継続的に計上されることになる。 このように、子会社株式を一部売却した場合(売却後も支配関係は継続)には、子会社が計上した利益の親会社帰属割合(60%)とのれん償却額の親会社帰属割合(100%)とが異なることになる。 上記の結果、当期純利益は、改正前は135であるが、改正後は84と減少し、また、当期純利益の親会社帰属額も、改正前は95であるが、改正後は44(=100(子会社利益)×60%-16(のれん償却額))となる。 ② 連結B/S 改正後会計基準では、売却持分に対応したのれん未償却残高19(=(64-16)×40%=19.2)が取り崩されないため、改正前との比較では、貸借対照表に計上されるのれん未償却残高がその額だけ大きくなる。 なお、その後、子会社株式を処分した場合(支配関係を喪失)には、当該のれんの未償却残高が取り崩されることになるため、改正前との比較では、その分、子会社株式売却益が小さくなる(この点については、次回【第5回】で取り上げる)。 4 設例 【買収年度(X1/3/31)】 ●P社はX1/3/31にS社持分の100%を180で取得した。 ●支配獲得時のS社の諸資産の時価と簿価は同じである。 ●P社及びS社のX1/3/31のB/Sは以下のとおりである。 【翌年度(X2/3/31)】 ●P社の当期純利益は0、S社の当期純利益は100である。 ●のれんの償却期間は5年(年間償却額16)である。 ●P社及びS社のX2/3/31のB/Sは以下のとおりである。 【一部売却年度(X3/3/31)子会社(100%)→子会社(60%)】 ●P社は期首(X2/4/1)にS社株式の40%を150で売却し(売却後持分60%)、個別財務諸表上、子会社売却益を78計上(=150-(180×40%))した。 ●P社の当期純利益(売却益78を除く)は0、S社の当期純利益は100である。 ●税効果は省略する。 ●のれんの償却期間は5年(年間償却額16)である(改正前会計基準における売却後の持分に係るのれんの償却期間は5年(年間償却額9)である)。 ●P社及びS社のX3/3/31のB/Sは以下のとおりである。 【参考】 会計基準の改正前と改正後の連結上の評価額の推移 【参考】 会計基準の改正前と改正後の子会社の当期純利益の帰属額の比較 (了)
会計
税務・会計
管理会計
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林總の管理会計[超]入門講座 【第15回】「個別原価計算への誤解」
林總の 管理会計[超]入門講座 【第15回】 「個別原価計算への誤解」 公認会計士 林 總 特定の製品・作業に対する集計方式ではない 個別原価計算であるべき理由 (了)
会計
税効果会計
税務・会計
解説
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財務会計
税効果会計を学ぶ 【第23回】「完全支配関係にある国内会社間の譲渡取引」
-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。 税効果会計を学ぶ 【第23回】 「完全支配関係にある国内会社間の譲渡取引」 公認会計士 阿部 光成 「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号。以下「個別税効果実務指針」という)と「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第6号。以下「連結税効果実務指針」という)では、完全支配関係にある国内会社間の譲渡取引について規定している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 完全支配関係にある国内会社間の譲渡取引 1 一時差異 完全支配関係(法人税法2条12の7の6号)にある国内会社間の資産の移転に係る譲渡損益のうち一定の要件を満たすものは課税の繰延べが行われる。 課税の繰延べを行った場合、税務上の調整資産又は調整負債が生ずることになる。 個別税効果実務指針では、完全支配関係にある国内会社間の資産の移転による譲渡損の繰延べに係る税務上の調整資産については将来減算一時差異となると規定している(個別税効果実務指針8項)。また、完全支配関係にある国内会社間の資産の移転による譲渡益の繰延べに係る税務上の調整負債については将来加算一時差異となると規定している(個別税効果実務指針10項)。 以下において会計処理を述べるが、これらに関する税効果会計の考え方は資産負債法で整理するところがポイントになる。 2 完全支配関係にある国内会社間の譲渡取引の損益の繰延べ 前述のとおり、譲渡当事会社の属する企業集団の連結財務諸表において、譲渡した事業年度の課税所得を構成せずに課税が繰り延べられることとなる損益は、基本的には、連結財務諸表上においても消去されることから、繰延税金資産及び繰延税金負債を認識しない(連結税効果実務指針12-2項、47項)。 3 企業集団内の会社に投資(子会社株式又は関連会社株式)を売却した場合の税効果 連結税効果実務指針30-2項では、企業集団内の会社が企業集団内の他の会社に投資(子会社株式又は関連会社株式)を売却すると、個別貸借対照表上の投資簿価が購入側の取得原価に置き換わることになり、投資の連結貸借対照表上の簿価との差額、すなわち、連結財務諸表上の一時差異の全部又は一部が解消することとなると規定している。 この場合、企業集団内での投資の売却により、追加的に又は新たに発生する一時差異については、連結税効果実務指針30項に従い会計処理することになる。 ある会社が完全支配関係にある他の会社に投資(子会社株式又は関連会社株式)を売却したことにより発生した譲渡損益の繰延べに係る税務上の調整資産又は負債に係る個別財務諸表上の一時差異の税効果については、連結財務諸表上も、修正されずに、個別財務諸表上において認識された繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されることになると規定している。 連結税効果実務指針53-2項では、企業集団内における完全支配関係にある国内会社間において、投資を売却することにより、売手側の個別貸借対照表上、完全支配関係にある国内会社間における資産の移転による譲渡損益の繰延べに係る税務上の調整資産又は負債として、将来減算一時差異又は将来加算一時差異が生じ、これに係る繰延税金資産又は繰延税金負債が認識されている場合には、投資に係る一時差異とは性格が異なるものであるため、連結財務諸表上においても、個別財務諸表上において認識された繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されることになると述べている。 Ⅱ 設例 企業集団内の会社に投資(子会社株式又は関連会社株式)を売却した場合の税効果については、理解しにくい内容であるので、連結税効果実務指針でも次の設例により解説している。 【売却前後で税効果が同じ結果となるケース(売却後、子会社の投資に係る将来減算一時差異に回収可能性がある場合)】 (*1) S1社におけるS3社株式の税務上の簿価 (*2) S1社におけるS3社株式売却益に係る税務上の調整負債 (*3) S2社におけるS3社株式の税務上の簿価 【仕訳】 ■売却前 〈連結〉 ■売却後 〈S1社個別〉 〈S2社個別〉 〈連結〉 親会社P社と完全支配関係にある企業集団内のS1社が、同じく完全支配関係にある企業集団内の他のS2社に投資(S1社個別上の簿価100、連結上の簿価120)を130で売却する場合、売却前に、子会社への投資に係る将来加算一時差異20に対して、連結上、企業集団内であるが、売却予定があるため、繰延税金負債8(=20×40%)を計上していたものとする。 その後、投資を売却した場合、当該一時差異20が解消し、新たに10(=120-130)の将来減算一時差異が生じることになる。この場合、繰延税金負債8を戻し、また、S2社において投資を売却する予定があり、かつ、回収可能性に問題ないときは、繰延税金資産4(=10×40%)が計上される。 また、S1社とS2社が完全支配関係にあるという前提においては、S1社において、譲渡損益の繰延べに係る税務上の調整負債30(=130-100))について、繰延税金負債12(=30×40%)が計上される。これは、上記の投資に係る一時差異とは異なるものであるため、連結財務諸表上も、繰延税金負債12が計上される。 この結果、投資の売却前後とも、純額の繰延税金負債は8となり、同じ結果となる。 (了)
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年金制度をめぐる最新の法改正と留意点 【第3回】「年金強化法等における改正事項(その1)」
年金制度をめぐる 最新の法改正と留意点 【第3回】 「年金強化法等における改正事項(その1)」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 「社会保障と税の一体改革関連法」の成立に伴い「公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律(年金機能強化法)」が公布(平成24年8月22日)されている。 施行日は改正内容によって異なるが、一部は平成26年4月1日から施行される。 1 遺族基礎年金の支給対象の拡大(平成26年4月1日施行) 国民年金の遺族年金である遺族基礎年金は、被保険者又は被保険者であった者の妻又は子に支給されていたが、その遺族の範囲が妻又は子から配偶者又は子へ改定され、父子家庭の父親にも遺族基礎年金が支給されることとなった。 また、遺族基礎年金の改正に伴い、遺族厚生年金も改正され、今まで妻が死亡したとき、夫は遺族厚生年金の受給権者になっても60歳まではその支給が停止されていたが、夫が遺族基礎年金の受給権を有するときは、支給停止されず、遺族厚生年金が支給されるようになった。 〈国民年金法第37条〉 〈関連:遺族厚生年金保険法65条の2〉 2 産前産後休業期間中の社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の免除(平成26年4月1日施行) (*) 育児休業期間は、原則として、子が出生した日から満1歳になるまでであるが、女性の場合は産後休業が終了した日の翌日から育児休業が開始される。 現在、育児休業期間の社会保険料は事業主の申出により免除となっているが、産前産後休業期間中(産前42日、産後56日)は保険料が免除されない。 これが平成26年4月より、次世代育成支援の観点から、産前産後の休業期間についても、事業主の申出により、事業主及び被保険者の保険料が免除になる。 3 産前産後休業期間を終了した際の標準報酬の改定措置(平成26年4月1日施行) 育児休業等終了時改定と同様の方法により、産前産後休業終了時においても、標準報酬月額の改定(産前産後休業終了時改定)の対象となる。 ただし、産前産後休業終了日の翌日に育児休業を開始している被保険者は改定措置の対象とならない。 4 受給資格期間の短縮(平成27年10月1日施行予定) 将来の無年金者の発生を抑えていくという観点から、老齢基礎年金の受給資格期間が25年から10年に短縮される。 現在、受給資格期間を満たさず無年金である高齢者に対しても、改正後の受給資格期間を満たす場合は施行日以降、年金が支給されることになる。 〈国民年金法第26条〉 10年の受給資格期間の対象となる年金は、老齢基礎年金、老齢厚生年金、退職共済年金、寡婦年金及びこれらに準じる旧法の老齢年金である。 (了)
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年俸制と裁量労働制 【第4回】「年俸制と裁量労働制の運用上のポイント」
年俸制と裁量労働制 【第4回】 (最終回) 「年俸制と裁量労働制の運用上のポイント」 なりさわ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 年俸額に割増賃金分を含める場合 年俸制を導入する際に、年俸額に一定の割増賃金分も含めたい場合は、「この程度含んでおけば問題ないであろう」といった推測で決めるのではなく、過去1年間でどの程度の残業時間が発生しているのか、法定時間を超えている勤務状況を確認し、これを元に算出された割増賃金を含んだものとして年俸額を計算すべきである。 あらかじめ想定していた時間外勤務時間を超えて勤務した場合には、当然に割増賃金の支払いが必要となるのであり、始めから残業時間分を年俸額に含んでいるから問題ないということではない点を十分に認識しておく。 裁量労働制の労働時間管理 裁量労働制の運用にあたり、「業務の遂行手段や時間配分について、使用者が細かく指示するのではなく、労働者本人の裁量に任せる」という点に対し、「出社・退社時間も本人の裁量であるから」と好きに決め、全社会議などの指示がしにくいという声を聞くケースがある。 業務の遂行手段や時間配分=仕事の進め方や各仕事に対する時間配分の仕方を労働者に任せているのであり、何から何まで労働者の裁量に任せるものではない。 例えば、出社時間は他の労働者と同じとするが、退社時間は裁量労働制適用者の裁量に任せるなどの方法でも構わない。 労働時間の把握という点では、通常時間帯の勤務に対しては、出退勤時刻と実際の業務内容を把握する程度でよいとされているが、深夜労働と休日出勤に対しては、タイムカード等で客観的に労働時間数を把握し記録に残す必要があるとされている。 深夜労働と休日出勤に相当する賃金が、年俸額の内訳として、あらかじめ一定時間分に相当する額が含まれていない場合には、別途、法定割増賃金の支払義務がある。 最近の行政の指導内容では、出退勤時刻を把握・記録せずに、出勤日のみの記録としている場合は、労働時間の客観的把握ができていないと、是正指導の対象とされる傾向が強いので注意が必要である。 また、近年、長時間労働を原因とする労働者の健康障害が問題となっている。たとえ裁量労働制の適用者であっても、使用者には労働者の健康維持義務があり、過重労働につながるような働き方を防止する措置を講ずるよう努めるものとされている(厚生労働省通達 H18.3.17基発第0317005号別添)。 * * * 年俸制という給与に対する考え方と、裁量労働制という働き方に一定の自由性がある方法のイイトコ取りをして運用するというのは、労務上のリスクが必ず伴うものであり、それぞれのメリット・デメリットを十分に理解・把握した上で活用すべきである。 〈連載のまとめ〉 今回は、年俸制と裁量労働制についてお伝えしてきた。「年俸制」という給与支払方法と、「裁量労働制」という労働時間の管理方法という、まったく性質の異なるものを併せて運用する難しさをよく理解し、残業代抑制のために利用するのではなく、働く時間だけでは図ることができない業務内容に活用するのだと認識いただきたい。 (連載了)