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「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例7(贈与税)】 「住宅取得等資金の贈与に係る相続時精算課税の特例を適用して申告したが、申告期限までに住宅用家屋の新築工事が完了していなかったことから、特例が受けられなくなってしまった事例」
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例7(贈与税)】 税理士 齋藤 和助 《事例の概要》 平成24年分の贈与税につき、65歳未満の実母からの現金の贈与につき、特定贈与者の年齢制限がない「住宅取得等資金の贈与に係る相続時精算課税の特例」を適用して申告したが、申告期限までに住宅用家屋の新築工事が完了(少なくとも屋根を有する状態)していなかったことから、特例が受けられなくなってしまった。 これにより、暦年課税での申告となり、暦年課税による贈与税額720万円につき賠償請求を受けた。 《賠償請求の経緯》 平成24年10月に自宅新築の請負契約を締結。 平成24年12月に母親より現金2,000万円の贈与を受ける。 平成25年2月に住宅取得資金として相続時精算課税制度による贈与を受けたい旨の相談を受ける。 平成25年3月に上記現金の贈与を相続時精算課税制度を適用して申告。 平成25年5月に税務署より申告期限までに住宅用家屋の新築が完了(少なくとも屋根を有する状態)していないことから、 相続時精算課税制度が適用できない旨の連絡あり。 《基礎知識》 ◆相続時精算課税制度(相法21の9~相法21の18) 相続時精算課税制度とは、65歳以上の親から20歳以上の子への生前の贈与について、納税者の選択により、贈与時に贈与財産に対して一定の贈与税を支払い、相続開始時にその贈与財産を相続財産にプラスして相続税を計算し、支払った贈与税を精算する制度である。 ただし、特別控除額の2,500万円までは贈与税はかからず、さらに相続開始時にこれらの生前贈与財産をプラスしても相続税がかからない場合には、贈与税の負担なしで生前贈与が可能となる。 ◆住宅取得等資金に係る相続時精算課税制度の特例(措法70の3) 相続時精算課税制度について、自己の居住の用に供する一定の家屋の取得又は増改築をするための資金の贈与を受ける場合に限り、65歳未満の親からの贈与についても特別控除2,500万円として適用できる。 なお、住宅用家屋の新築につき、この特例を受けるためには、申告期限までにその住宅取得資金の全額により住宅用家屋を新築し、同日後遅滞なく特定受贈者の居住の用に供することが確実と見込まれる場合に限られる。 ◆住宅用家屋の新築の場合(措規23の6①) 「新築に準ずる状態」とは、屋根(その骨組みを含む)を有し、土地に定着した建造物として認められる時以後の状態とする。 《税理士の落とし穴》 《税理士の責任》 税理士は依頼者から、住宅用家屋の新築にあたり、実母から受けた現金贈与につき、相続時精算課税制度の適用を受けたい旨の相談を受け、実母の年齢が65歳未満であったことから、住宅取得等資金贈与の特例を説明して相続時精算課税制度を選択させ、同制度を適用して贈与税の申告を行った。しかし、諸事情により工事が遅れ、特例の適用要件である申告期限までに住宅用家屋の新築工事が完了している状態(少なくとも屋根を有する状態)にはならなかったことから、特例の適用が受けられなくなってしまった。 依頼者は、住宅用家屋の新築工事の完了が特例の適用要件であることを事前に説明してもらえれば、贈与は受けなかったと主張するが、贈与は税理士に相談する前に行われており、また、新築工事が完了しなかったことは不可抗力であり、税理士の責任ではないことから、依頼者の主張に根拠はない。 しかし、住宅用家屋の新築工事が完了しなかった場合には暦年課税による申告になることについて説明していなかったことについては、税理士にも落ち度がある。 《予防策》 [ポイント①] チェックシートを活用する 贈与税の特例は特に適用要件が複雑であることから、国税庁の手引き(「贈与税の申告のしかた」)の中に、「住宅取得等資金の非課税制度」及び「相続時精算課税選択の特例」のチェックシートを設けている。 このようなチェックシートを活用して、依頼者と適用の有無を事前に確認することが必要である。 [ポイント②] 提出資料を事前に確認する 特例の適用には、意思確認のための届出書と適用要件を確認するための添付資料の提出が義務付けられていることが多い。本事例の場合にも通常の届出書等以外に以下の資料の提出が必要であった。 特例の適用を受けたい旨の相談があった場合には、上記チェックシートに加え、事前に提出資料を確認し、無理なく提出できるかどうか依頼者と検討することが必要である。 (了)
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居住用財産の譲渡所得3,000万円特別控除[一問一答] 【第4問】「家屋の持分とその土地の持分が異なる場合」-居住用財産の範囲-
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第4問】 「家屋の持分とその土地の持分が異なる場合」 -居住用財産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q X及びYは、下図のような持分にて居住用の家屋とその土地を共有しています。 このほど、一括して譲渡しました。 この場合、X及びYの「3,000万円特別控除(措法35)」に係る適用関係はどのようになるのでしょうか? A X及びYは共に、それぞれの所有する家屋及びその所有する土地のすべてについて「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができる。 〈解説〉 X及びYが所有する土地は、それぞれがその全部を居住の用に供している家屋の敷地であることから、家屋は共有であるとしても、それぞれの持分の全部を居住用家屋の敷地の用に供されている土地と認めることが相当である。 したがって、それぞれの家屋の持分と土地の持分のすべてが「居住用財産」の範囲内であると考えられる。 (了)
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財産評価
〔しっかり身に付けたい!〕はじめての相続税申告業務 【第8回】「土地を評価する①」~地目・評価単位の判定~
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第8回】 「土地を評価する①」 ~地目・評価単位の判定~ 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 〔土地評価の手順〕 前回は建物の評価について学んだが、今回、次回と2回に分けて、土地の評価について学んでいくこととする。 相続税申告業務における土地評価は難易度の高い業務領域であり、そのすべてを説明することは難しいので、一般的な宅地(自宅敷地、賃貸アパート敷地など)を主に想定して説明することとする。 土地を評価する場合、概念的には以下の順序で行うことになる。 以下、順にそれぞれを見ていくこととする。 なお、土地評価を行う際に、「1 地目判定」及び「2 評価単位判定」が正しく行われないと、結果として土地評価が正しく行われないことになるため、「3 路線価方式又は倍率方式による評価」を行う前に、これらを正確に行う必要がある。 1 地目判定 土地評価は、原則として、地目ごとに行うこととされており、地目とは宅地(*2)、田、畑、山林、原野、牧場、池沼、鉱泉地、雑種地をいう(評基通7)。 したがって、評価対象地の地目を判断し、原則として、地目ごとに(以下で述べるように、同じ地目でもさらに評価単位が分かれる可能性あり)土地評価を行う。 〔図1〕 上記の場合、土地Aの地目は「宅地」、土地Bの地目は「雑種地」となる。 したがって、土地Aは宅地として、土地Bは雑種地として、それぞれ別の評価単位として評価を行う。 ケース1と同様に、土地Aは宅地、土地Bは雑種地となる。 ただし、土地A賃貸アパートの賃借人のみが土地B駐車場の賃借人であり、かつ、賃貸アパート敷地内の駐車場であるなど、駐車場の貸付けの状況が賃貸アパートの賃貸借と一体と認められる場合には、利用の単位を同一とみて、全体を一体として評価して差し支えないものと考えられる(参考『平成24年版 土地評価の実務』(大蔵財務協会)p.325「〈質疑〉貸ビル用の駐車場敷地の評価」)。 2 評価単位判定 宅地の場合には、1画地の宅地を評価単位として評価することになる(評基通7-2)。 1画地の宅地は、原則として、 具体的には、以下の通りである。 (1) 所有する宅地を自ら使用している場合には、居住の用か事業の用かにかかわらず、その全体を1画地の宅地とする。 〔図2〕 土地ABの所有者は甲である。土地Aは甲所有建物が建ち、その建物は甲自宅として利用している。土地Bは甲所有建物が建ち、甲が事業用店舗として利用している。 この場合、土地ABとも建物の敷地であるため、宅地となる。土地ABとも、所有者甲が自ら建物を使用しているため、全体を1画地の宅地として評価する。 (2) 所有する宅地の一部について借地権を設定させ、他の部分を自己が使用している場合には、それぞれの部分を1画地の宅地とする。一部を貸家の敷地、他の部分を自己が使用している場合にも同様とする 〔図3〕 土地ABの所有者は甲である。土地Aは乙所有建物が建ち、乙は土地Aの借地権者である。土地Bは甲所有建物が建ち、甲が自宅として利用している。 この場合、土地ABとも、建物の敷地であるため、宅地となる。土地Aは借地権が設定されており、土地Bは甲が自己使用しているため、土地A、土地Bをそれぞれ1画地の宅地として評価する。 〔図4〕 土地ABの所有者は甲である。土地Aは甲所有建物が建ち、乙はその建物を賃借している。土地Bは甲所有建物が建ち、甲が自宅として利用している。 この場合、土地ABとも、建物の敷地であるため、宅地となる。土地Aは甲所有建物が建っているがその建物は乙が賃借しており、土地Bは甲が自己使用しているため、土地A、土地Bをそれぞれ1画地の宅地として評価する。 (3) 所有する宅地の一部について借地権を設定させ、他の部分を貸家の敷地の用に供している場合には、それぞれの部分を1画地の宅地とする 〔図5〕 土地ABの所有者は甲である。土地Aは乙所有建物が建ち、乙は土地Aの借地権者である。土地Bは甲所有建物が建ち、その建物を丙が賃借している。 この場合、土地ABとも、建物の敷地であるため、宅地となる。土地Aは借地権が設定されており、土地Bは甲所有建物が建っているがその建物は丙が賃借しているため、土地A、土地Bをそれぞれ1画地の宅地として評価する。 (4) 借地権の目的となっている宅地を評価する場合において、貸付先が複数であるときには、同一人に貸し付けられている部分ごとに1画地の宅地とする 〔図6〕 土地ABの所有者は甲である。土地Aは乙所有建物が建ち、乙は土地Aの借地権者である。土地Bは丙所有建物が建ち、丙は土地Bの借地権者である。 この場合、土地ABとも、建物の敷地であるため、宅地となる。土地ABは借地権が設定されており、かつ、それぞれ借地権者が異なるため、土地A、土地Bをそれぞれ1画地の宅地として評価する。 (5) 貸家建付地(貸家の敷地の用に供されている宅地をいう)を評価する場合において、貸家が数棟あるときには、原則として、各棟の敷地ごとに1画地の宅地とする 〔図7〕 土地ABの所有者は甲である。土地Aは甲所有建物が建ち、その建物を乙が賃借している。土地Bは甲所有建物が建ち、その建物を丙が賃借している。 この場合、土地ABとも、建物の敷地であるため、宅地となる。土地ABはともに甲所有建物が建っているが、それぞれ建物が別棟で賃借人が異なるため、土地A、土地Bをそれぞれ1画地の宅地として評価する。 (了)
国際課税
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税務・会計
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経理担当者のためのベーシック税務Q&A 【第8回】「企業の海外活動と税金(その2)」―海外進出する際に検討しておきたいこと―
経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第8回】 「企業の海外活動と税金(その2)」 ―海外進出する際に検討しておきたいこと― 仰星税理士法人 公認会計士・税理士 村松 昌信 3 現地での事業に関係する商流と物流の決定 事業戦略上、現地事業体が果たすことになる機能(例えば、研究開発機能、製造機能、マーケッティング機能、流通機能、コミッショネアー機能、連絡・調整機能等)から、取引の種類(棚卸資産取引、無形資産取引、サービス取引、あるいは、資金の貸借取引等)と商流が決定されることになると思いますが、移転価格税制に関わるリスクを軽減するために、グループ会社間の取引の種類をなるべく少なくすることが可能か否か、また、グループ会社間取引を金額的に取引量が少なくて済む種類の取引に変更することが可能か否かも、事業戦略との関係において検討するのがよいと思います。 なお、「移転価格税制」とは、グループ会社間の実際の取引価格を独立企業間価格に引き直して法人の課税所得を再計算できる権限を課税当局に付与している税制で、課税権が及ばない外国に所得を移転することを防止する税制です。 ちなみに、日本の移転価格税制は、海外のグループ会社との取引のみに限定していて、海外グループ会社との取引を行った結果として、日本法人の課税所得が過少となっている場合にのみ適用されます。すなわち、海外のグループ会社に(から)独立企業間価格よりも高い(低い)価格で製品を販売して(仕入れて)いる場合には、日本での移転価格税制の適用はありません。 また、商流や物流を決定する際には、関税に影響を及ぼすFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)の有無も考慮する必要があります。さらに、現地事業体が果たす機能によっては、現地事業体ではなく、他のグループ会社が現地の付加価値税の納税義務を負う場合がありますので注意してください。 4 現地事業体での事業資金の調達方法の選定 現地事業体(支店を除く)が必要とする事業資金のうち、どの程度をグループ会社からの借入れで賄うのかについては、通常、投資の回収期間、現地事業が生み出すキャッシュフローの額、減資手続の難易度等を考慮して決められますが、現地に「過少資本税制」がある場合には、借入金に係る支払利息の一部が損金算入できませんので注意してください。 また、日本の親会社から海外のグループ会社を経由して現地事業体に貸し付ける場合には、当該グループ会社の所在国での過少資本税制にも注意する必要があります。 5 人材派遣費用に対する派遣形態別の現地事業体の負担割合の決定 日本から現地子会社に人を派遣する場合には、現地で必要とする人材、人数及び派遣期間等を考慮して派遣形態を決めますが、派遣形態別(出張、出向、又は、転籍)に現地事業体(支店を除く)の負担分を検討する必要があります。 (了)
国税通則
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小説 『法人課税第三部門にて。』 【第19話】「印紙税の税務調査と『印紙税不納付事実申出書』」
小説 『法人課税第三部門にて。』 【第19話】 「印紙税の税務調査と 『印紙税不納付事実申出書』」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「『印紙税不納付事実申出書』って、一体何なのですか?」 山口調査官はいきなり大きな声で、田村上席に質問を投げかけた。 「『印紙税不納付事実申出書』? ああ・・・過怠税を1.1倍にするという書類だったな」 田村上席は、興奮している山口調査官の顔を見ながら応じる。 「それがどうかした?」 山口調査官は、まだ興奮が収まらない様子。 「・・・・・・」 田村上席は面白そうに、山口調査官の表情を眺める。 「昨日、四部門の神岡上席と一緒に調査へ行った浪速建設の件ですが・・・」 神岡上席の調査担当であった浪速建設の規模が大きかったので、法人課税四部門の統括官が渕崎統括官の了解を得て、山口調査官を調査の応援に行かせた会社のことである。 「・・・それで?」 田村上席が、話を続けるように、山口調査官を促す。 「私は、神岡上席から印紙税を調べてくれと言われたので、会社の保管している契約書などを見ていたのですが、その中に、印紙の貼っていない契約書が何枚かありまして・・・」 山口調査官は、昨日の税務調査の状況を思い浮かべながら喋る。 「それでどうなったの?」 田村上席は再びせき立てる。 「私は、てっきり、これらの印紙の貼っていない契約書については、印紙税の3倍の過怠税を徴収するものだと思っていたのですが・・・」 山口調査官は手元にある『税務六法』を開き、印紙税法20条1項を読む。 「・・・つまり、契約金額が4億円の請負契約書に8万円の印紙が貼られていなかったので、印紙税法20条1項によって24万円の過怠税を徴収するものかと思ったのですが」 山口調査官は、条文の文言どおりに、過怠税の算式を罫紙に書いた。 「君の計算で正しいのでは?」 田村上席は、山口調査官の算式を見ながら同意する。 「しかし神岡上席は、「貼るべき印紙の1.1の過怠税で良いから、納税者に『印紙税不納付事実申出書』を提出しなさい」と言ったんですよ」 山口調査官は、少し怒った口調で話を続ける。 「そんなこと、可能なんですか?」 山口調査官は、田村上席を見る。 そして再び、開かれている『税務六法』から、こんどは印紙税法20条2項を読む。 「この条文から、「過怠税についての決定があるべきことを予知してされたものでないとき」と条件が付されているから、税務調査で印紙税の貼っていない契約書が見つかった場合には、この条文の適用の余地はないでしょう?」 山口調査官は、強い口調で言う。 「まあ・・・確かに君の言うとおりなのだが・・・過怠税って、本来の印紙税の3倍に相当する金額になるだろう。これって、けっこう重いんだな・・・納税者にとって」 田村上席は、子供を諭すようにゆっくりと説明する。 「だから、税務調査で発見された印紙税の洩れについては、過怠税を軽減(印紙税の1.1倍)するために、『印紙税不納付事実申出書』を提出させて、印紙税法20条2項を適用しているんだ」 田村上席は、不服そうな山口調査官の顔を見て、説明を続ける。 「私も今まで、印紙税の調査で3倍の過怠税を徴収した記憶はないよ。よほど悪質でない限り、だいたい印紙税の1.1倍を過怠税として徴収している」 「田村上席。それって合法性の原則に反しますよね。たとえ納税者に有利になる処理であったとしても、我々税務職員は、法律に定められたとおりに課税・徴収をしなければならないでしょ」 田村上席は、頭を掻きながら、苦笑いする。 「確かにそのとおりだ・・・。君の言うことは正しい」 田村上席は、あっさりと脱帽する。 「ところで、印紙税について、税理士は何か言ってたかい?」 田村上席は、山口調査官に尋ねる。 「会社の人は、税理士と相談していたようですが・・・ただ、税理士法2条で、印紙税は税理士の業務から除かれていますから・・・神岡上席は税理士を無視して、会社の人に印紙税の件について説明をしていましたけど」 田村上席は、山口調査官の説明に大きく頷く。 「印紙税について、税理士は税務代理人になることはないのだから、それはそれで良いのだろう」 そして、田村上席は「税務調査手続に関するFAQ(税理士向け)」を広げる。 「このFAQにも、印紙税の調査結果の内容説明等は、納税者に対して行うことになると書かれているしね」 山口調査官はFAQの冊子を覗きながら、まだ納得できない様子で頷いた。 (つづく)
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〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載42〕 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除制度(所得拡大促進税制)の疑問点(後編)
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載42〕 雇用者給与等支給額が増加した場合の 法人税額の特別控除制度(所得拡大促進税制)の疑問点 (後編) 税理士 長谷川 敏也 (前編はこちら) (再掲) Q 給与等支給額を増加させた場合におけるその増加額の一定割合の税額控除を可能とする制度(所得拡大促進税制)が創設されましたが、以下の2点はどのようになりますか。 また、申告書別表の記入はどのようになるのでしょうか。事例を示してください。 (1) 給与等支給額に出向者受入れに伴う分担金や、海外赴任者のいわゆる留守宅手当が含まれますか。 (2) 当期に新設した法人ですが、全額が増加額としてカウントできるのでしょうか。 A (1) 出向先法人が出向元法人へ出向者に係る給与負担金の額を支出する場合において、当該出向先法人の国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に当該出向者を記載しているときには、当該給与負担金の額は、「国内雇用者に対する給与等の支給額」に含まれる。また留守宅手当は国内雇用者ではないので除かれる。 (2) 新設法人の場合には、基準事業年度等がないので、最も古い事業年度等である設立の日を含む事業年度を基準となる事業年度とした上で、その設立の日を含む事業年度の給与等支給額の70%相当額を基準雇用者給与等支給額とすることとされている。これにより、新設法人が国内雇用者に給与等を支給する場合には、必ず、この制度の適用ができるということになる。 解 説 (3) 基準雇用者給与等支給額 ① 原則 基準雇用者給与等支給額は、平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度開始の日の前日を含む事業年度(以下「基準事業年度等」という)の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいうこととされている(措法42の12の4②四・四イ)。 すなわち、その法人の最初の適用年度となる事業年度の直前の事業年度を基準となる事業年度として、この基準となる事業年度の給与等支給額が基準雇用者給与等支給額ということになり、具体的には、平成25年4月1日以後に新設した法人を除き、3月決算法人であれば同年3月31日に終了する事業年度が、それ以外の法人であれば平成25年4月1日を含む事業年度が、それぞれ基準事業年度等となる((4)事例1参照)。 ② 基準事業年度等がない場合 基準事業年度等がない場合の基準雇用者給与等支給額は、最も古い事業年度等の給与等支給額の70%相当額とされている(措法42の12の4②四ハ)。 すなわち、平成25年4月1日以後に新設した法人(以下「新設法人」という)の場合には、基準事業年度等はないので、最も古い事業年度等である設立の日を含む事業年度を基準となる事業年度とした上で、その設立の日を含む事業年度(=最も古い事業年度等)の給与等支給額の70%相当額を基準雇用者給与等支給額とすることとされている。 これにより、新設法人が国内雇用者に給与等を支給する場合には、必ず、この制度の適用ができるということになる((6)事例3参照)。なお、合併や分割など組織再編成が行われた場合には別の取扱いが定められている(措令27の12の4③~⑦他)。 ③ その他特殊な場合に該当する場合 基準事業年度等において国内雇用者に対して給与等を支給していない場合には、基準雇用者給与等支給額は1円とされている(措令27の12の4⑧三)。 これにより、雇用者給与等支給増加割合の計算で異常値とならないこととなる((5)事例2参照)。 (4) 事例1(中小法人等。基準事業年度のある場合) 【事例1:記載例】 法人税申告書別表6(20) 「雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (5) 事例2(中小法人。基準事業年度があるが基準給与等を支給していない場合) 【事例2:記載例】 法人税申告書別表6(20) 「雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (6) 事例3(中小法人。新設法人の場合) 【事例3:記載例】 法人税申告書別表6(20) 「雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
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税効果会計を学ぶ 【第21回】「連結財務諸表における税効果会計の取扱い⑥」~子会社への投資に係る一時差異
-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。 税効果会計を学ぶ 【第21回】 「連結財務諸表における 税効果会計の取扱い⑥」 ~子会社への投資に係る一時差異 公認会計士 阿部 光成 「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第6号。以下「連結税効果実務指針」という)では、子会社への投資に係る一時差異について規定している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 子会社への投資に係る一時差異 1 投資時の一時差異 子会社へ投資を行ったときには、投資の取得価額と投資の連結貸借対照表上の価額(子会社資本の親会社持分額と資産の部に計上されたのれんとの合計額)とは一致し、親会社にとって投資に係る一時差異は生じないことになる(次図参照。連結税効果実務指針29項、53項)。 2 投資後の一時差異 投資後、子会社では損益が計上され、また、為替換算調整勘定及びのれんの償却等により、投資の連結貸借対照表上の価額が変動することになる。 その結果、子会社への投資の連結貸借対照表上の価額と、親会社の個別貸借対照表上の投資簿価との間に差額が生ずる。当該差額が連結財務諸表固有の一時差異に該当する(連結税効果実務指針29項)。 この関係を図解すると、次のようになる(連結税効果実務指針53項)。 Ⅱ 将来減算一時差異と将来加算一時差異 1 将来減算一時差異 子会社への投資の連結貸借対照表上の価額が親会社の個別貸借対照表上の投資簿価を下回るときは、将来減算一時差異が生ずる。 投資に係る将来減算一時差異は、投資後に子会社が計上した損失の親会社持分額、為替換算調整勘定及びのれんの償却額からなる(連結税効果実務指針31項)。 2 将来加算一時差異 子会社への投資の連結貸借対照表上の価額が親会社の個別貸借対照表上の投資簿価を上回るときは、将来加算一時差異が生ずる。 投資に係る将来加算一時差異は、投資後に増加した子会社の留保利益(親会社持分に限る)、為替換算調整勘定又は負ののれんの償却もしくは発生益からなる(連結税効果実務指針33項)。 Ⅲ 一時差異の解消 子会社への投資に係る一時差異は、次の事由により解消する(連結税効果実務指針30項)。解消時に、親会社において税金を増額又は減額する効果が生ずる。 次の規定に留意が必要である(連結税効果実務指針30項)。 子会社への投資に係る一時差異については、それぞれ該当する解消事由ごとに親会社において税効果額を見積もり、連結税効果実務指針29項から38-3項に従って繰延税金資産及び繰延税金負債としての計上の可否及び計上額を決めることになる。 (了)
労務
労務・法務・経営
国民年金
社会保険
年金制度をめぐる最新の法改正と留意点 【第1回】「第3号被保険者不整合期間の対応(その1)」~不整合期間の特定期間化~
年金制度をめぐる 最新の法改正と留意点 【第1回】 「第3号被保険者不整合期間の対応(その1)」 ~不整合期間の特定期間化~ 特定社会保険労務士 佐竹 康男 はじめに(改正の背景) 国民年金の年金記録において、実態は第1号被保険者であったにもかかわらず、第3号被保険者のままとなっている記録(以下「不整合記録」といい、その記録に関する期間を「不整合期間」という)の問題への対応策として、不整合期間に係る特例等を定めた「公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」(平成25年法律第63号)が、平成25年6月26日に公布され、平成25年7月1日から施行されている。 1 第3号被保険者とその認定 第3号被保険者とは、第2号被保険者の配偶者であって、主として第2号被保険者の収入により生計を維持するもの(第2号被保険者であるものを除く。「被扶養配偶者」という)のうち20歳以上60歳未満の人をいう(下図参照)。 その認定は日本年金機構によって行われるが、具体的には、年収が130万円未満であることなど、健康保険の被扶養者(配偶者)と同様の認定基準が定められている。 2 種別変更漏れ (1) 種別変更届漏れ 国民年金の種別(第1号被保険者、第2号被保険者及び第3号被保険者)に変更があった場合には、種別変更届が必要になる。例えば、サラリ-マンの夫が退職して自営業者になった場合は、夫は2号から1号へ、妻は3号から1号への種別変更届が必要になる。 ところが、この種別の変更の届出をせず、3号のまま記録されている人が数十万人いると言われている。 ◎届出漏れの具体例◎ 〈法定どおりの取扱い〉 〈問題となっているケ-ス〉 種別変更の届出が行われていないと、夫の転職後も妻は第3号被保険者のままになってしまう。 3 対応策 〈不整合期間対応のスケジュ-ル〉 (1) 時効消滅不整合期間の届出(特定期間該当届) 被保険者又は被保険者であった者は、第3号被保険者とされていた被保険者期間(平成25年6月以前の保険料納付済期間に限る)のうち時効消滅不整合期間について、厚生労働大臣に届出(以下「特定期間該当届」という)することができることとなった。 特定期間該当届は、年金事務所に提出する。提出期限は設けられておらず、届出を行い時効消滅不整合期間が特定期間とされたときは、年金機構から「時効消滅不整合期間に係る特定期間該当届受理通知書」が送られる。 (2) 特定期間及びその効果 届出が行われた時効消滅不整合期間は特定期間となり、その届出が行われた日以後、年金額には反映しないが、年金の受給資格要件や保険料納付要件を判定する場合に、保険料免除期間(学生納付特例の期間)と同等のものとして取り扱われる期間とみなされる。 (3) 特定保険料の納付 特定期間は年金額には反映されないため、被保険者又は被保険者であった者は、厚生労働大臣の承認を受け、特定期間について保険料を特例追納することができる。 (4) 特例追納が可能となる期間 特例追納が可能な期間は、平成27年4月1日から平成30年3月31日までの3年間となる。なお、特例追納の申込書の提出は、平成27年2月1日から行うことができる。 (5) 特例追納の対象期間 特例追納の対象期間は、それぞれ次に掲げる期間となる。 (6) 特定保険料の額 特定保険料の額は、それぞれ次に掲げる額となる。 また、特例追納は、先に経過した月から順次行うこととされている。 また、平成27年度の特定保険料の額については、平成26年度末に、具体的な額が告示されることになる。 (7) 特例追納の効果 特例追納が行われたときは、特例追納が行われた日に、特例追納した月の保険料が納付されたものとみなされる。 (8) 後納制度との関係 平成24年10月1日から平成27年9月30日までの間、被保険者等については「後納制度」(*)を利用することができる。 特例追納の対象期間と後納制度の対象期間が重なる場合には、当該期間の保険料を納付するにあたり、後納制度を利用することとされている。 (*) 国民年金の保険料を遡って支払う場合は、2年より前の期間は時効により、納付することができなかったが、平成24年10月より3年間に限って、納付可能な期間が2年から10年に延長された制度。 (了)
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建設業が危ない!労務トラブル事例集・社会保険適用の実態 【第5回】「建設業で起こりがちな労務トラブル(その2)」
建設業が危ない! 労務トラブル事例集・ 社会保険適用の実態 【第5回】 (最終回) 「建設業で起こりがちな労務トラブル(その2)」 なりさわ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 前回に引き続き、建設業で起こりがちな労務トラブルとはどのようなものが多いのか、どんな点に注意をするべきなのか確認をしたい。 3 安全衛生に関する違反や、モラルの低い社員による服務規律違反が未だ多い 残念ながら安全衛生面での対応や、モラルの低い営業マンによる売上げ着服など、犯罪につながるような服務規律(=日常の業務を行うためのルール)違反が多いのが実態である。 服務規律については、通常、就業規則において定められているが、その内容については具体的になっているものはまだまだ少ない。 ひな形の就業規則にあるような、広く一般的な内容を定めておけばいいというものではなく、業界の特性や自社として守るべきルール・守ってほしいルールを「より具体的に」定めることで、結果として労務トラブルから企業を守ることができる。 服務規律は懲戒処分とも連動するものでもあり、「より注意深く扱う必要がある」との意識に立って取り扱うべきである。 4 就業環境の整備不足から発生する労災と労災隠しによる事業所の検挙 平成24年度の労働災害による死亡者が1,093名(内、建設業367名で最多)、死傷者が119,576名(内、建設業17,073名とこちらも最多)と、依然として災害発生は高い水準となっている。 特に建設業では、作業主任者の未選任、建設機械や建築部材でのはさまり・巻き込まれによる事故、墜落・転落事故につながるおそれのある足場の墜落防止措置が不十分であったりなど、労働災害時の安全衛生法違反による検挙数が減少せず、また工事現場での労災事故の届出を行わない等の労災隠しも平成24年度は送検数14件で過去10年で最高となっているのが実情である。 これらはいずれも就業環境の整備不足が原因で発生しているものであり、現場ごとの環境整備が求められている。 厚生労働省では、平成25年度からの5年間を計画期間とする「第12次労働災害防止計画」を策定しており、「長期的な災害動向と社会情勢の変化を踏まえて、重点対策を絞り込む」「重点業種・疾病ごとに数値目標を設定し、社会情勢の変化も踏まえつつ進捗状況を評価する」という基本的な考え方の下、6つの重点施策をたてている。 建設業では、「労働災害、業務上疾病発生状況の変化に合わせた対策の重点化」という施策の下、以下の重点対策を掲げ、死亡者数を20%削減するという目標をたてている。 〈連載のまとめ〉 これまで5回にわたり、建設業の労務管理についてお伝えしてきた。 業界特有の問題と片付けずに、1つずつ地道に解決していくことが就業環境の改善につながるものと考えている。 また機会があったら、深掘りした内容をお伝えしたい。 (連載了)
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顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第21回】「固定資産管理のKPI(その② 有形固定資産現物管理)」
顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第21回】 「固定資産管理のKPI (その② 有形固定資産現物管理)」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 今回は、固定資産管理を構成する複数のKPIから、「有形固定資産現物管理」のサービスレベルを評価するKPIを取り上げる。 有形固定資産は、販売を予定した棚卸資産と異なり、会社がその営業目的を達成するため長期間にわたり利用することを予定しているため、適正な管理を行う必要がある。すなわち、取得、支払、減価償却費の計上、リース料の計上、現物実査、資産評価、メンテナンス実行、除却といった一連の活動が発生する。 そこで、今回は、有形固定資産管理について、その効率性や適正人員配置の判断、自社による管理と外部業者への委託の是非に関する経営意思決定に役立つKPIを紹介しよう。 KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 前回述べたとおり、経済産業省スタンダードでは、固定資産管理において、会社が担う一般的な機能として、「資産取得」、「減価償却費管理」、「現物管理」、「資産評価(減損)」、「メンテナンス対応」、「資産除却」、「リース管理」、「固定資産税申告・納付」という8個の機能を挙げている。 今回解説するKPIは、「現物管理」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:固定資産管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) さらに、経済産業省スタンダードでは、「現物管理」に関連する業務プロセスとして、固定資産台帳管理と現物実査を次のようにまとめている。 〈経済産業省スタンダード:4.5.1固定資産台帳管理〉 〈経済産業省スタンダード:4.5.2現物実査〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) 固定資産台帳管理では、固定資産の種類毎に管理番号を付し、取得、減価償却費の計上、減損、メンテナンス、除却、休止、移動の有無を確認し、その情報を固定資産台帳に記録する。そして、このような固定資産台帳の記録の正確性を担保するのが現物実査である。 現物実査では、定期的に固定資産の現物を直接視察し、その使用状況、所有権、移動を確認し、実査の結果と固定資産台帳の記録を照合する。照合の結果、両者に乖離があった場合には、原因を究明し、固定資産台帳を修正する。 今回のKPIは、有形固定資産の現物管理に関する一連の業務プロセスを前提に、有形固定資産において発生する取得件数と除却件数の合計が有形固定資産管理の業務量に比例する傾向があることに着目し、効率性の観点から、有形固定資産管理担当者1人あたりの件数を問うものである。 定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 KPIの算出式の分母にあたる「有形固定資産管理担当者のべ人数」とは、固定資産利用部門ではなく、経理財務部門における固定資産管理台帳の管理者が、有形固定資産管理に費やす時間をのべ人数で表したものをさす。 KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルにおいて、このKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、有形固定資産管理にかかる人員を適正なレベルに保つことが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 そこで、有形固定資産管理という業務により処理される量を反映する取得件数と除却件数を会社間で比較し、効率性のレベルを測ることにしたのである。スコアリングモデルでは、この件数が多い会社が少ない会社よりも相対的に望ましいと考えている。 ところで、このKPIは、1人あたり件数を算出したものであるが、有形固定資産管理にかかる人員の適正配置を考えるには、分子と分母を逆にして、有形固定資産管理にかかるコストを測定できていることが望ましい。 すなわち、管理会計の整備である。 人的資源に関連するコストは、財務会計においては人件費として表現されているが、財務会計上の勘定科目である人件費を、日常的管理になじむ有形固定資産管理という活動の単位で再集計し、有形固定資産管理にどれだけの人的資源を費やしているのかを金額によって把握するのである。管理会計では、個別の活動にかかるコストの再集計結果をコストプールと呼び、個別の活動量に影響を与える要因をコストドライバーと呼ぶ。 有形固定資産管理担当者のべ人数は、人件費を有形固定資産管理という個別の活動にかかる人件費として再集計するためのコストプールとなる。 有形固定資産管理のコストドライバーを特定するには、まずそれを構成する活動を明らかにする。活動を細かく分解すれば際限がないが、一般的には、取得、支払、減価償却費の計上、リース料の計上、現物実査、資産評価、メンテナンス実行、除却が挙げられる。このような活動の情報は、保有する有形固定資産の数が増えたり減ったりするたびに、固定資産台帳に記録される。このような考察から、有形固定資産の取得件数と除却件数が、有形固定資産管理の業務量に最も影響を与えるコストドライバーと考えられる。 このように、コストドライバーとコストプールを使って有形固定資産1件あたりの人件費を算出することにより、自社で有形固定資産管理を処理した場合のサービス原価が算出される。その結果、有形固定資産管理を自社の人員で処理するのが良いのか、それとも外部の経理サービス会社に委託するのが良いのか、そのときに支払うべき対価はどの程度が適正か、社内の人員配置と外部委託をどのように行うのが良いかを判断できるようになる。 もし会社の中で、このようなKPIを設定した価値判断が共有されない場合、どのような事態が想定されるのか。 まず、有形固定資産管理に隠れている効率性の問題が発見されず、過剰又は過少な人員配置が放置されたままになる可能性がある。 また、グループ内に経理業務受託サービス会社を設置しようとしても、その会社が提供できる有形固定資産管理サービスの処理量やコストが適正に把握できないため、適正な利益を確保するサービス価格を設定することが困難となる。 さらに、管理会計を整備しないまま合併や買収で規模を拡大する場合、各工場が旧来のままのやり方で管理を行うため、経営統合が進まず、複数の工場経理の効率性の差異や非効率が改善されず放置されてしまうことが非常に多い。 顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 まず、読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、一定の頻度で適正な現物実査により固定資産台帳を管理する業務プロセスが組み込まれていることを確認していただきたい。 例えば、固定資産管理規程を閲覧し、目的、管理責任部門、管理方法が定められていることを確認することが考えられる。 それを前提に、例えば、固定資産管理台帳を閲覧し、取得件数、除却件数を確認する。業務時間実績報告表を閲覧し、有形固定資産管理時間として1人あたり所定労働時間で割り戻した数値を算出する。有形固定資産管理業務以外の業務を兼務している場合、合理的な比率で有形固定資産管理業務にかかるのべ人数を算出していただきたい。 さて、読者の顧問先において、有形固定資産管理担当者1人あたりの取得及び除却の件数は何件になったであろうか。 * * * 次回は、「固定資産管理」を構成する複数のKPIから、「取得後追加支出」に関連する業務プロセスを評価するKPIを取り上げる。 (了)