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事例で学ぶ内部統制【第10回】「連結決算業務プロセスの内部統制の評価」

事例で学ぶ内部統制 【第10回】 「連結決算業務プロセスの 内部統制の評価」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 今回は、決算財務報告プロセス(FSCP)の内部統制から、連結決算業務プロセスの内部統制の評価を取り上げる。 筆者(株式会社スタンダード機構)主催の実務家交流会では、連結決算業務プロセスのリスクとコントロールの概要と評価手法について意見交換を行った。 交流会で明らかとなった各社の創意工夫を見てみよう。   連結決算業務プロセスの実態 意見交換に入る前に、筆者が参加企業に対して、参考情報として、準拠する会計基準(日本基準、現地基準、IFRS)について確認した。 参加企業Aは、「親会社は日本基準を採用している。連結子会社の所在地が日本の場合は、その子会社が準拠する会計基準は日本基準だ。米国子会社の場合は米国基準、欧州やアジアの子会社の場合は、各国の現地基準となる。このように、親会社と連結子会社との間で会計基準が相違しているため、親会社の経理部が、毎四半期の連結決算業務で日本基準に決算数値を組み替えている」(部品メーカー)と話した。 参加企業Bは、「親会社としてのわが社は米国基準を採用している。連結子会社は、一部IFRSを採用する連結子会社もあるが、各国の現地基準だ。連結子会社の経理レベルが低く、親会社が採用する米国基準で決算を組むことができるのは連結子会社の総数の1%にも満たないため、A社さんと同様、毎四半期の連結決算業務で親会社が大量の組替仕訳を行うのだが、連結子会社に対して細かい確認をする手間が重いし、雑多な確認作業で情報が錯綜して誤るリスクが高い」(商社)と話した。 参加企業Cは、「親会社は日本基準、連結子会社は現地基準なので、会計基準が異なっている。さらに、親会社は3月決算だが、連結子会社の一部は12月決算だ。また、連結決算では、3ヶ月の期ズレを許容し、連結子会社の数値は親会社の数値よりも3ヶ月古い前四半期の数値を連結している」(食品メーカー)と話した。 他の参加企業も同様の報告をしていた。 そこで、連結決算業務プロセスの実態を簡潔にまとめると、次のようになる。   連結決算業務プロセスのリスクとコントロール では、各社は内部統制の評価の実務で、どのように連結決算業務プロセスを定義しているのだろうか。 筆者が参加企業に対して、「連結決算業務プロセスを構成するサブプロセスはどうなっているか」と質問したところ、次のようなサブプロセスに収斂した。 前回(第9回)明らかにしたように、個別決算業務プロセスを構成するサブプロセスは参加企業間での呼称も統一されておらず、企業の固有事情に応じてサブプロセスを加減していた状況に比べれば、連結決算業務プロセスの中身は参加企業間で差異が少ない。 では、各社が連結決算業務プロセスでリスクが高いと判断するサブプロセスは何か、設定したコントロールはどのようなものか。 前出の参加企業Aは、「連結決算業務プロセス自体がFSCP全体においてリスクが高い業務プロセスであるという認識を前提に、特にリスクが高いと思うサブプロセスは、決算方針、決算体制、決算日程の決定である。 このサブプロセスは、連結財務諸表作成のための基本となる人員配置や日程などの重要事項の承認や新会計基準や新税法基準に対応するための連結パッケージの変更やシステム設計変更の承認を行う。 このサブプロセスに内在するリスクは、新しい基準が担当者に十分理解されないため、会計方針が適時、適正に更新されないリスク、新会計基準や新税法基準に対応するシステムの新設・変更の漏れや誤りが発生するリスクとなる。 そこで、経理部門の責任者及び担当者の二重チェック、監査法人との事前の基準内容の確認ミーティングの開催、イントラネットへの掲載や社内文書通知の徹底という人的コントロールに加え、ITインフラに組み込まれた機能を使う自動化コントロールを設定した」と、連結決算業務プロセスの入り口の体制整備を重要視していた。 参加企業Dは、「連結会計システムへのデータ入力と取込み、その他連結仕訳の入力というサブプロセスに注意を払っている。このサブプロセスは、連結子会社又は親会社の連結決算担当者による勘定科目毎の入力、為替レートのデータ入力から、科目振替えによる決算組替仕訳入力、税効果戻しなどの仕訳入力を行い、元資料と入力後データとの整合性の承認を行うサブプロセスである。 このサブプロセスには、入力すべき仕訳の漏れ、データ入力元資料の計算や記載の誤り、データ入力時の誤りが発生するリスクがある。どのリスクも、決算数値に直接的に反映され、かつ誤りがあっても修正の機会が限られている点で、極めて高いリスク属性であると思う。 わが社は、連結子会社の規模が小さい場合、ライセンスコストの削減のため、親会社が使っている連結会計システムを導入していないことから、そのような連結子会社から決算数値がバラバラなデータフォーマットで電子メールを通じて親会社に送られるため、親会社の組替入力の負担が大きく、誤りや漏れが発生するリスクが高い。 そこで、経理部門の責任者及び担当者の二重チェック体制を取り、データ投入前チェックリスト、連結決算処理確認一覧表等を利用して漏れや誤りを発見する人的コントロールと、関係帳票間のシステムチェックによるエラーの確認という自動化と人的の混合型コントロールを設定し、運用評価の対象とした」(商社)と、組替業務のリスクとコントロールを強調した。 総じて言えば、連結決算業務プロセスにおいても、コントロールの設計は次の3つの要素が考慮されている。 より重要なのは、複数の参加企業が、「他の業務に比べて、連結決算業務プロセスでは、会計システム入力前の証憑自体が、外部のステークホルダーから得られる客観的な証憑ではなく、連結子会社や親会社の連結決算担当者の計算や集計によって作成されることが多い。つまり、それらは誤っている可能性がある。そこで、証憑の存在だけでなく、証憑が証明する会計事象や計算や集計の正しさまで確認する必要性が相対的に高くなる」と指摘している点である。 それに敷衍し、前出の参加企業Aは、「だからこそ、内部統制の評価の時点で、確認対象となる資料がきちんと整頓されていることが、評価作業を効率的に進める鍵になる。そこで、わが社は、親会社と連結子会社で評価対象データの抽出時期をずらし、例えば、親会社の評価は3月決算のデータを使うが、連結子会社の評価は9月決算のデータを使い、連結子会社に資料を整備する十分な準備期間を設けて余裕をもって対応できるようにした」と、資料整備の重要性を加えた。 次回は、運用評価の効率化に向けた評価対象部門の集約事例を紹介する。 (了)
#6(掲載号)
#島 紀彦
2013/02/14
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会計事務所 “生き残り” 経営コンサル術 【第2回】「決算書で利益が出ていても、お金が残らないのは常識だ」

会計事務所 “生き残り” 経営コンサル術 【第2回】 「決算書で利益が出ていても、 お金が残らないのは常識だ」   株式会社 経営ステーション京都 代表取締役 京セラ株式会社 元監査役 公認会計士・税理士 田村 繁和   今から50年ほど前の話になります。ある著名な経営者が経理部長と激論しました。その原因は、決算書で利益が出ていたのに、お金が全くなかったことだったそうです。 経理部長は利益が出ていたので「社長、今期は儲かりました!」と切り出しました。 社長は税金を払うお金もなかったので「何を寝ぼけたことを言っているんだ。儲かってなんかいない」と怒り出しました。 部長は唖然として「利益が出ていても、お金がないのは会計の常識です。もう少し会計を勉強して下さい」と反論しました。 すると社長はさらに怒って「儲かるということは、常識的に考えるとお金が残って税金も余裕で払えるということだ。お金がないのに儲かったということ自体がおかしい。会計の常識が間違っているんだ!」と。 以後、社長の考え方に基づいて経営を行っていき、現在、すばらしい財務内容の会社になりました。 今でこそ、キャッシュフロー経営という言葉がありますが、当時はそんな言葉もなく、また社長自身、会計の知識も充分になかったのですが、キャッシュフロー経営をごく自然に理解しておられたのでした。 この話を聞かれて、あなたはどのように思われますか。 会計の中には、このような会計の常識の話でも、一般の非常識になっていることがたくさんあります。まず、この不思議な会計の常識を見つけ出し、経営者の目線で考えることが大切です。 それによって社長から「お前とは話が合うなあ」と気に入られるようになることが、お客様獲得の第一歩です。 しかし、このことをなかなか納得できない専門家の人が多いのも現実です。理論ばかりが先行して、また会計の専門家としてのプライドが許さないのか、社長の勉強不足のせいにしてしまうのです。 そして、もう少し会計に理解のある社長に出会ったら、自分の考え方をわかってもらえるのに、と考えてしまうのです。 自分を中心に考えて青い鳥を追い求めても、そんなに青い鳥がいるはずがありません。中小企業では、むしろ青い鳥以外の鳥がいっぱいいるのが現実です。 成功するためには、素直な気持ちになって、中小企業の社長の立場になり考えてあげることが大切です。そのためには、話の始めに戻りますが、「利益が出ていてもお金がなければ、儲かっていないんだ」とごく自然に言えるような柔軟な頭が必要なのです。 (了)
#6(掲載号)
#田村 繁和
2013/02/14
読み物 連載

資産の海外移転をめぐる シンガポール最新事情【第2回】─オフショア口座による資産移転の動向─

資産の海外移転をめぐる シンガポール最新事情 【第2回】 ─オフショア口座による資産移転の動向─   Advance Business Support Pte. Ltd. 代表 大曽根 貴子    ■国外財産調書の提出制度の創設 2013年より、国外財産調書の提出制度が創設された。 国外財産調書の提出制度とは、株や預金、不動産など5,000万円相当を超える資産を国外に保有している個人(日本の居住者)に対して、所轄の税務署に調書(財産目録)の提出を義務付けるものである。 2013年12月31日における国外財産の保有状況を記載して、翌年の確定申告時に提出することとなった。 こうした制度が創設された背景には、日本から海外への資産移転の増加が挙げられる。 「東日本大震災以降、海外に資産を移したいという人の属性が変化した」とシンガポールのプライベートバンカーは言う。 以前は、資産数十億円クラスの40歳代の富裕層からの依頼が多かったが、震災以降は、これまで海外投資に興味のなかった65歳以上の保守派及び資産数億円クラスの若い富裕層からの依頼が増えているという。   ■誰にでもできるオフショア口座開設 「海外に資産を移したい」と考えているのは、富裕層ばかりではない。 普通の会社員も同様である。 財政破綻、増税、震災等のジャパンリスクを懸念し、資産を海外に移したいという人は増えている。 その手段として、海外、特にシンガポールや香港などのオフショアで銀行口座又は証券口座を開設している。 オフショアとは、一般的に、外国の投資家や企業の資産管理を積極的に受け入れるために、非居住者(外国人)に対して、租税環境を優遇している国又は地域をいう。 オフショアでは、投資や事業によって得た収益に対して無税又は低税率などのメリットがあるため、タックスヘイブン(Tax Haven)と呼ばれることもある。 オフショアであるシンガポールでは、利息やキャピタル・ゲインは非課税である。 このメリットを享受するため、シンガポールで銀行口座を開設する日本人も多い。 シンガポールでは、労働ビザを持たない日本人であっても地場銀行であるDBS銀行、OCBC銀行や外資系銀行であるHSBC又はCitibank等で口座を開設することができる。 ただし、口座開設時には英語でのやり取りが必要となる。 口座の最低預入金額は、銀行及び口座の種類によって異なるが、20,000シンガポールドルから200,000シンガポールドルである。最低預入金額は頻繁に変更される。商品の中には外国人が購入できない商品もあるが、日本と比べると商品の選択肢は多様である。 シンガポールで口座開設をする日本人が増加していることから、英語が苦手な人向けに現地での銀行口座開設をサポートする業者や口座開設ツアーが開催されている。   ■オフショア口座開設のメリットとは 日本国内でも海外の金融商品を購入することは可能である。 それなのに、なぜオフショア口座を開くのか? それには日本の投資家保護制度がある。 日本の金融機関は、投資家保護のため、すべての取引を日本語で説明しなければならない。つまり海外の商品に関するすべての資料を日本語に翻訳しなければならないのだ。 そのコストが高くつき、日本の金融機関は、コストに見合う採算の取れそうな商品を限定的に提供することしかできない。 例えば、ある10年満期の海外金融商品(100万円)が、海外では年利5%で販売されていたとする。日本の金融機関では、翻訳等のコストがかかるため、年利3%で販売したとする。 10年後、前者は163万円を受け取るが、後者の受取額は134万円となる。 オフショアで口座開設をするメリットとして、オフショアでの税金が非課税であり税務メリットが取れることと、金融商品の種類が豊富であり投資の選択肢が広がることが挙げられる。   ■オフショア口座開設時の注意点 オフショア口座を開設し、利息やキャピタル・ゲインを受け取った場合、オフショアでは税金はかからない。 しかし、所得税法上の居住者に該当するのであれば、それらの利息や配当金は日本の所得税の課税の対象となる。 これらの所得は確定申告時に総合課税により、所得に応じて5%から40%までの所得税が課税される。 オフショアでの利息やキャピタル・ゲインは、オフショアでは非課税であることから、日本でも税金がかからないと認識している人が多いが、それは誤りであるから注意が必要である。 (了)
#6(掲載号)
#大曽根 貴子
2013/02/14
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《速報解説》 研究開発税制の拡充について─平成25年度税制改正大綱─

《速報解説》 研究開発税制の拡充について ─平成25年度税制改正大綱─   税理士 三浦 誠   1 はじめに 平成25年1月24日、政府与党の平成25年度税制改正大綱が決定され、同29日に閣議決定された。 平成25年度税制改正では、経済活性化のための税制措置を講じることとされている。 本稿では、その一環として拡充された研究開発税制について解説を行う。   2 改正の趣旨 近年、研究開発拠点の海外移転が進み、国内の研究開発投資の減少、国際競争力の低下が懸念されてきた。 研究開発投資の促進は、民間投資の喚起による成長力強化の一環として、イノベーションによる新たな付加価値の創造を通じて需要を喚起するとともに、将来の経済成長の礎になる極めて重要な事項であることから、平成25年度税制改正において、研究開発税制の総額型の控除限度額を引き上げるとともに、オープンイノベーションを推進するため、特別試験研究費の範囲に一定の共同研究が追加されることとなった。   3 拡充の内容 (1) 総額型の控除上限額の引上げ 研究開発税制には、恒久的措置である総額型と、時限措置である増加型・高水準型がある。 総額型は、試験研究費の総額に対して8%から10%(中小企業、産学官連携の場合は一律12%)の税額控除を受けられるもの、増加型は試験研究費の増加額に対して5%の税額控除を受けられるもの、高水準型は売上高の10%を超える試験研究費の額に対して一定の控除率による税額控除が受けられるものである。 平成25年度税制改正により、以下の税額控除制度について、2年間の時限措置として、控除税額の上限額が当期の法人税額の30%(現行20%)に引き上げられる。 なお、増加型及び高水準型についての改正は行われない。 (2) 特別試験研究費の範囲の拡大 特別試験研究費(試験研究費の額のうち、国の試験研究機関又は大学と共同して行う試験研究、国の試験研究機関又は大学に委託する試験研究、その用途に係る対象者が少数である医薬品に関する試験研究などに係る試験研究費の額をいう)の額に係る税額控除制度について、一定の契約に基づき企業間で実施される共同研究に係る試験研究費等が追加される。 今回の改正により、研究開発投資の底上げと研究開発拠点の空洞化防止を図り、経済波及効果と雇用創出効果が期待されている。 また、平成24年度の税制改正により、繰越欠損金の控除限度額が制限される大法人等(資本金1億円超のもの、資本金が5億円以上の法人の100%子法人等)については、繰越欠損金を有している場合であっても課税所得が発生することになるため、税額控除制度の適用の可否の検討は、従来以上に重要になると考えられる。 (了)
#5(掲載号)
#三浦 誠
2013/02/13
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《速報解説》 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置について─平成25年度税制改正大綱─

《速報解説》 教育資金の一括贈与に係る 贈与税の非課税措置について ─平成25年度税制改正大綱─   ミレニア綜合会計事務所 代表税理士 甲田 義典   はじめに 平成25年1月29日付で平成25年度税制改正大綱(以下「大綱」という)が閣議決定された。 本稿では、大綱で盛り込まれた資産課税に関する項目のうち、教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置(以下「本制度」という)について解説する。   1 本制度創設の背景 本制度は、祖父母世代から孫世代への世代間における資産移転を促進させ、将来必要となる子供の教育資金の早期確保を図る目的で創設される予定である。 その背景には、およそ1,500兆円といわれている我が国の個人金融資産の多くが60歳以上の高齢者層に偏っているという現状と、一方で、消費の多いといわれる30代、40代の子育て世代が、消費を抑え将来の子供の養育費のために貯蓄にまわしている傾向が見られる点にある。 そこで、本制度には、高齢者層に偏った金融資産を子育て世代へ早期に移転させることにより、養育費負担を軽減させ、より家計の支出を消費にまわしてもらうことを税制面からサポートする目的があると考えられる。   2 本制度の概要 (1) 概要 30歳未満の子や孫(以下「受贈者」という)の教育資金に充てるために、その受贈者の直系尊属(例えば、祖父母や父母)が金銭等を拠出して、信託銀行や銀行等の一定の金融機関に信託等をした場合には、信託受益権の価額又は拠出された金銭等の額のうち受贈者1人につき1,500万円(学校等以外の者に支払われる金銭等については、500万円を限度とする)までは、平成25年4月1日~平成27年12月31日に拠出されるものに限り、贈与税は課さないこととしている。 大綱では、教育資金の定義を以下のように述べている。 なお、大綱では、学校等とそれ以外の者に支払う金銭等によって異なる非課税枠を設けているが、学校等の定義が明確となっていない。 一般に、我が国の学校には、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、大学及び高等専門学校、専修学校などあるが、学校等以外の者とは何か、海外の学校は対象に含まれるのかなど、今後税制改正の動向が注目される。 また、教育資金の金銭等の範囲や、贈与した資金使途を教育資金に限定させるため、その要件としている信託等の具体的な範囲についても、明確にされることが望まれる。 (2) 教育資金拠出時の申告要件 受贈者は、本特例の適用を受けようとする旨等を記載した「教育資金非課税申告書(仮称)」を、金融機関を経由し受贈者の納税地の所轄税務署長に提出する必要がある。 (3) 資金使途の確認 受贈者は、払い出した金銭を教育資金の支払いに充当したことを証する書類を金融機関に提出する必要がある。 一方、金融機関は、提出された書類に関して一定の保存義務が課せられている。 (4) 本制度適用終了時の手続き 受贈者が30歳に達した場合には、金融機関は、本特例の適用を受け信託等がされた金銭等の合計金額(以下「非課税拠出額」という)及び契約期間中に教育資金として払い出した金額の合計金額(以下「教育資金支出額」という)その他の事項を記載した調書を受贈者の納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。 一方、受贈者は、非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額(つまり、贈与資金のうち教育資金に充てられなかった部分の金額)について、受贈者が30 歳に達した日に贈与があったものとして贈与税が課税される。 なお、受贈者が30歳に達する前に死亡した場合には、金融機関は、その旨を記載した調書を受贈者の納税地の所轄税務署長に提出する必要があるが、受贈者は非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額について贈与税は課税されない。 (了)
#5(掲載号)
#甲田 義典
2013/02/13
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《速報解説》 小規模宅地等の課税特例の拡充について─平成25年度税制改正大綱─

《速報解説》 小規模宅地等の課税特例の拡充について ─平成25年度税制改正大綱─   税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良   平成25年1月24日に、与党から平成25年度税制改正大綱が公表された。 本稿では、平成25年度税制改正大綱に含まれる相続税関連の改正事項のうち、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」(租税特別措置法69条の4)に係る改正について、その内容を概観し、改正の影響を検討していく。   1 平成25年度税制改正の内容 (1) 適用対象面積 特定居住用宅地等の適用対象面積が、改正により、240㎡から330㎡へ拡大される。 また、特定事業用等宅地等と特定居住用宅地等は、基本的にどちらか一方の適用対象面積までしか適用されないが、改正により、特定事業用等宅地等と特定居住用宅地等がそれぞれ適用対象面積まで適用可能となる。 つまり、特定事業用等宅地等を400㎡適用し、特定居住用宅地等を330㎡適用することが可能となる。 この改正は、平成27年1月1日以後に相続・遺贈により取得する財産に係る相続税について適用される。 (2) 特定居住用宅地等の適用要件 特定居住用宅地等の小規模宅地特例を適用する場合に、二世帯住宅で、いわゆる完全分離型のものであるケースでは、内部で行き来ができる構造でない場合には同居として判断されていないが、改正により、内部で行き来ができない構造であっても同居として判断されると思われる。 また、民間老人ホームへの入居については終身利用権の問題もあり、現状では自宅土地について居住の用に供していたものと判断されていないケースが多いと思われるが、改正後は、終身利用権に係らず、介護の必要性、貸付等用途の非供用、のみで判断される。 この改正は、平成26年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について適用される。   2 平成25年度税制改正の影響 平成25年度税制改正では、相続税の基礎控除が引き下げられるため、相続税の対象者は大幅に増加すると思われる。ただし、上記の小規模宅地特例(主に特定居住用宅地等)の改正によって、増税の影響が緩和される。 特定居住用宅地等については適用対象面積が330㎡に拡大するため、自宅土地が広く、かつ東京のように地価の高い地域である場合には、相続税額に大きな影響がある。 また、自宅土地が330㎡未満であっても、適用限度面積に達しない面積は、一定の調整計算の上で、貸付事業用宅地等などとして別に適用できる可能性があるため、賃貸アパートなどの所有者の相続税にも少なからず影響が生じる。 これらの影響を考慮して、今後は相続税対策を行うべきといえる。 また、特定居住用宅地等の適用要件につき、民間老人ホームへ入居した場合の終身利用権の問題、二世帯住宅(完全分離型で、内部で行き来ができない構造のもの)の同居判定問題については、上記のように要件が緩和される方向で手当てされており、この点で小規模宅地特例の適用可能性は高まると考えられる。  (了)
#5(掲載号)
#根岸 二良
2013/02/08
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《速報解説》 国内設備投資を促進するための税制措置の創設について─平成25年度税制改正大綱─

《速報解説》 国内設備投資を促進するための 税制措置の創設について ─平成25年度税制改正大綱─   マネーコンシェルジュ税理士法人 税理士 今村 京子   平成25年度税制改正大綱において、「生産等設備投資促進税制」の創設が明記された。   ● 生産等設備投資促進税制の創設趣旨 「成長と富の創出の好循環」を実現し、わが国経済を再生していくためには、製造業を中心とする投資に対する慎重な姿勢を反転させ、設備投資の拡大によって経済の底上げを図るとともに、生産設備の更新を通じて産業競争力の強化を図る必要がある。 このため、国内における設備投資へのインセンティブを広く付与する生産等設備投資促進税制を創設し、生産等設備への投資額を一定以上増加させた場合に、新たに取得等した機械・装置について30%の特償却又は3%の税額控除を認めるというものである。   ●適用要件 青色申告書を提出する法人の平成25年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する各事業年度(設立事業年度を除く)において取得等した国内の事業の用に供する生産等設備で、その事業年度終了の日において有するものの取得価額の合計額が次の①及び②の金額を超える場合において、その生産等設備を構成する資産のうち機械装置をその法人の国内にある事業の用に供したときは、その取得価額の30%の特別償却とその取得価額の3%の税額控除との選択適用ができる。 ただし、税額控除における控除税額は、当期の法人税額の20%を上限とする(所得税においても同様)。なお、控除限度超過額については、繰越しはできない。 ここで生産等設備とは、その法人の製造業その他の事業の用に直接供される減価償却資産(無形固定資産及び生物を除く)で構成されているものをいう。 なお、本店、寄宿舎等の建物、事務用器具備品、乗用自動車、福利厚生施設等は該当しない。 また、中小企業者等については、法人税の特別償却又は税額控除が法人住民税及び法人事業税においても適用される。 これまでの投資減税の場合1台当たりの取得価額などに要件があったが、今回の制度はそれらの要件がないため、幅広く活用できる可能性がある。 また、平成25年4月1日以降開始する事業年度から適用できるため、3月決算法人の翌期事業計画を策定するに当たっては事前検討が必要となろう。 (了)
#5(掲載号)
#今村 京子
2013/02/08
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《速報解説》 交際費課税の特例拡充について─平成25年度税制改正大綱─

《速報解説》 交際費課税の特例拡充について ─平成25年度税制改正大綱─   公認会計士・税理士 新名 貴則   平成25年1月29日、平成25年度税制改正大綱が閣議決定された。 この中で、景気回復を図るため中小企業の交際費課税の特例を拡充することが明記されている。 ここではその内容について解説する。   1 改正前の交際費課税  *資本金1億円以下の法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く) 【改正前の中小企業の特例のイメージ】   2 平成25年改正後の交際費課税(平成25年度末まで)  *資本金1億円以下の法人(資本金5億円以上の大法人の完全子会社を除く) 【改正後の中小企業の特例のイメージ】 仮に交際費の合計額が800万円であった場合、 このように交際費の損金不算入額が減少するので、法人税の減税効果が期待できる。 特に、年間の交際費が600万円を超えていた中小企業にとっては、損金不算入額が大幅に減少することになるので、減税効果は大きい。また、企業の交際費支出が増加することにより、景気を刺激する側面もあると考えられる。 しかし、昨今の景気低迷により各企業は経費削減の努力をし、交際費も大きく削っている。 この状況において、税制改正により損金算入枠が拡大されたからといって、交際費支出が増えるかどうかは疑問のあるところである。 (了)
#5(掲載号)
#新名 貴則
2013/02/07
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monthly TAX views -No.1-「アベノミクス税制改正の評価」

monthly TAX views -No.1- 「アベノミクス税制改正の評価」   中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹   平成25年度税制改正が決着した。 内容を見ると、経済再生を掲げるアベノミクスを後押しする様々な租税特別措置のオンパレードとなっている印象を受けるが、本筋の改正はきちんと評価すべきである。それは、所得税・相続税の負担増を3党合意にそって誠実に実行しているところである。 万人に負担増となる消費税率の引上げの際には、所得・資産について余裕のある者に負担増を求めることは重要なことだ。「所得再分配がきちんと行われ格差の少ない国ほど経済成長率が高い」ということが、IMFなどの実証研究の結果示されている。 今回わが国も、経済成長一本やりの税制改正ではなく、きちんと所得再分配も行っていくという意思表示を示せたことは筋を通したともいえる。 中でも筆者が評価するのは、いわゆる証券優遇税制の廃止だ。 上場株式についての配当と株式譲渡益に10%の優遇税率を課していたが、これを2014年から本則の20%に戻すことを決定した。あわせて、公共債などの利子所得を金融所得一体課税し損益通算の対象とすることと、日本版ISAの創設も決定された。 わが国の個人金融資産1,500兆円を念頭に、個人がリスクテイクを取る環境が整いつつあるといってもよい。 もっとも、疑問もある。 消費税率負担増を緩和するための新規住宅取得や自動車購入者への負担軽減策、資産の孫への移転促進、人件費増加企業への減税など、税の理屈や効果をきちんと検証したうえでの改正なのだろうか、という点である。 とりわけ筆者が気になるのは、住宅取得者への現金給付である。 住宅ローン控除は税額控除なので、所得の比較的少ない人には控除の枠が余ることになる。それを現金給付する方向で検討する(夏までに姿を示す)というのが今回の決定である。これは、逆進性対策として民主党が主張してきた「給付付き税額控除」と極めて似た制度である。 民主党は、所得の捕捉を確実にする番号(マイナンバー)とセットでの導入としていたのだが、自民党ではその点は無視されており、とにかく消費税の負担増分を返すことを最優先している。所得税減税、住民税減税、現金給付という3層構造なのだが、はたして番号なくして適切な執行ができるのだろうか。 このように、極めて多彩な平成25年度税制改正だが、苦言を呈したいのは、議論の透明性の欠如である。 自民党のホームページを開いてみたが、どこにも自民党税調の議事録・議事概要・提出資料などは掲載されていない。わずかに、幹事長の記者会見で言及されるのみである。 われわれ国民は、新聞・テレビの報道を通じてしか議論の中身は知らされなかった。自民党という一政党内部の話だということだろうが、自民党税調は事実上の決定機関である。 昨年末に選挙があって、すぐ税制改正議論に入ったので、政府の方で税制調査会を開催して議論する時間がなかったことも、この不透明性に輪をかけている。 民主党政権下では、連日開かれた政府税制調査会の模様が、インターネット中継され、資料もほぼ即日入手できたことに比べると、このような透明性の欠如は問題だ。来年からは、連日の資料の公表と責任者によるブリーフを公表すべきではないか。 (了)
#5(掲載号)
#森信 茂樹
2013/02/07
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「平成25年度税制改正」はこう読む 【第2回】

「平成25年度税制改正」はこう読む 【第2回】   一般社団法人 日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部 泰久   3 一体改革の残された課題 昨年6月15日の「社会保障・税一体改革」に関する民主・自民・公明の3党協議の結果、政府提出の税制抜本改革法案(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案)から所得税の最高税率引上げ、資産課税の見直しの規定が削除され、これらについては「平成24年度中に必要な法制上の措置を講ずる」(附則20条、21条)とされ、平成25年度改正の課題とされていた。 また、消費税率引上げに伴う低所得者対策、住宅取得への影響緩和、車体課税の見直しなどについても「速やかに必要な措置を講じなければならない」ものとされていた。 これを受けて、平成25年度税制改正では、前回述べたように3党協議が重要な場となり、特に所得税の最高税率引上げ、資産課税の見直しについては民主党の意向が最大限反映された結論となっている。 (1) 所得税の最高税率引上げ 昨年の3党協議では、所得税の最高税率引上げをめぐり課税所得5,000万円超について45%とする政府・民主党案に対し、公明党は3,000万円超45%さらに5,000万円超50%の2段階の引上げを主張して合意に至らなかった。自民党は具体的な主張をしておらず、むしろ消極的であったとされる。 今回、まず自民・公明の与党間で最高税率を45%に引き上げることを合意し、適用所得は3,000万円超から5,000万円超の間で民主党に決定を委ねるという奇策に出た。 結果、その中間点の4,000万円超となったが、この最高税率が適用される所得階層は事業所得者等を含め全体で5万人程度、増収見込額も590億円(平年度ベース)であることから、消費税率引上げの傍ら高額所得者にはさらなる負担を求めるという象徴的な意味でしかないと言われている。 しかし、24年度税制改正では給与所得控除の上限設定・役員等の減額がなされており、今回の最高税率引上げを加えて、該当者にとっては、かなりの負担増となる。 (2) 資産課税の見直し 相続税については、昨年の3党合意では「バブル後の地価の大幅下落等に対応して基礎控除の水準を引き下げる等としている旧政府案を踏まえつつ検討を進める」とされており、抜本改革法においても「格差の固定化の防止、老後における扶養の社会化の進展への対処等の観点」(抜本改革法附則21条)からの見直しが明記されていた。 総選挙公約では、民主党は所得再分配機能などを高める方向で相続税の改正を行うことを、公明党も基礎控除の引下げや最高税率の引上げを明記していた一方、自民党は24年度中に必要な法制上の措置を講じるとするのみで具体的な主張をしておらず、課税強化には消極的とも見られていた。 ところが、実際の3党協議では、自民党も基礎控除引下げ、税率構造の見直し等には異論を示さず、死亡保険金の非課税措置の対象範囲縮小が見送られていることを除き、旧政府案通りに3党で合意された。贈与税も、税率構造の見直し、相続時精算課税制度の対象者を孫までに拡大するなど、旧政府案通りに決着している。 ただし、自民党税制調査会では、基礎控除の大幅引下げにより大都市部では小規模自営業者の相続までが課税対象になるとの批判が高まり、小規模宅地等についての課税価格計算特例のうち、居住用宅地の適用対象面積を240㎡から330㎡に拡大した上で、自営業者の店舗等の特定事業用宅地(400㎡まで)と合算し、最大730㎡までを80%減とすることとされ、公明、民主両党も追認している。 このほか、25年度税制改正では事業承継税制の見直し、教育資金の一括贈与の特例がなされている。いずれも相続税増税の影響緩和のための措置であることは間違いないが、3党協議でのテーマとされていなかったので、それぞれ後述する。 (3) 消費税率引上げに伴う低所得者対策=複数税率 今回の与党協議、3党協議の中で最も重要なテーマが、消費税率引上げに伴う低所得者対策としての軽減税率の扱いであった。 昨年の3党協議では、民主党が給付付き税額控除の導入を主張、公明党は軽減税率の早期導入を主張し、抜本改革法では、同法7条1号イに、「給付付き税額控除等の施策の導入について、所得の把握、資産の把握の問題、執行面での対応の可能性等を含め様々な角度から総合的に検討する。」としつつ、同号ロに「低所得者に配慮する観点から、複数税率の導入について、財源の問題、対象範囲の限定、中小事業者の事務負担等を含め様々な角度から総合的に検討する。」として両論併記の形になっている。 総選挙公約では、公明党は8%の段階から軽減税率導入を明記し、自民党も食料品等に対する複数税率の導入を検討し、関係者の理解を得た上で実施としていた。 しかし、与党税制協議会では、自民党は来年4月1日の8%引上げ時点での軽減税率導入は不可能と主張し、公明党は米、味噌、醤油、水、新聞に限って8%引上げ時点から軽減税率を導入し、10%引上げ段階でさらに対象を拡大することを提案し、取りまとめができなかった。なお、公明党が実現可能性を無視してあえて8%段階からの導入に固執したのには、軽減税率を5%に止めるとの意向があったためとされる。 結局、「消費税率10%引き上げ時に、軽減税率制度を導入することをめざす」とし、本年末の平成26年度税制改正決定時までに「関係者の理解を得た上で、結論を得る」として、与党税制協議会に軽減税率制度検討委員会を設置することで合意し、その旨を与党税制改正大綱に明記した。 公明党は、これを10%引上げ時の軽減税率導入を担保するものとしているが、自民党はあくまでも「めざす」ものでしかないとしている。また「関係者の理解」とは、軽減税率導入に反対する日本商工会議所をはじめとする中小企業団体の理解を得ることが前提との趣旨であり、そのために具体的検討課題に、「インボイス制度等の区分経理のための制度の検討」、「中小事業者等の事務負担増加、免税事業者が課税選択を余儀なくされる問題への理解」が明記されている。ここでインボイス導入に限定せずに「区分経理のための制度」とされていることは注視すべきであり、インボイスなしでの軽減税率導入が示唆されたものと考える。 なお、民主党は引き続き給付付き税額控除制度を主張しているが、前提となる番号制度が前臨時国会で法案が不成立に終わり、今国会で早期に成立しても当初想定の平成27年1月からの開始が1年遅れとなることから、少なくとも10%引上げ時点での導入は困難となっている。 (4) 住宅取得対策 住宅取得対策について昨年の3党合意では、「平成25年度以降の税制改正及び予算編成の過程で総合的に検討を行い、消費税率の8%への引上げ時及び10%への引上げ時にそれぞれ十分な対策を実施する」とされており、必ずしも平成25年度改正ですべての対策を用意することとはされていなかった。 しかし、「消費税率の引上げの前後における駆け込み需要及びその反動等による影響が大きいことを踏まえ」(抜本改革法7条1号チ)、税制措置については今回で処理することとされ、住宅取得税制(住宅ローン減税)について平成29年末まで延長し、26年4月以降は大幅に拡充することとされた。また、自己資金による住宅取得特例、住宅リフォームについても同様に26年4月以降分の拡充がなされている。 一方、中堅以下の所得層では住宅ローン減税で所得税・個人住民税から控除しきれない部分が生じる問題については、個人住民税の控除限度額引上げのみを決定し、いわゆる財政措置の具体的な内容は示されず「別途、良質な住宅ストックの形成を促す住宅政策の観点から適切な給付措置を講じ」、税制措置とあわせて「消費税負担額をかなりの程度緩和する」ことが与党大綱に明記されて終わった。 今後、26年度予算編成までに具体化するとされているが、多くの国民の住宅取得計画に影響を与える問題であり、できるだけ早期に具体案を示すべきである。 (5) 自動車課税の見直し 車体課税は、今回の税制改正で最後まで錯綜し、結論を実質的に先送りして終わった。 昨年の3党合意では、自動車取得税、自動車重量税については「抜本的見直しを行うこととし、消費税率8%への引上げ時までに結論を得る」こととされていたが、抜本改革法では「国及び地方を通じた関連税制の在り方の見直しを行い、安定的な財源を確保した上で、地方財政にも配慮しつつ、簡素化、負担の軽減及びグリーン化の観点から、見直しを行う」(抜本改革法7条1号カ)となっており、単純な廃止は想定されていなかった。 総選挙公約では、自民党は取得税及び重量税について廃止を含め負担軽減の方向で検討し8%への引上げ時までに結論を得るとし、公明党も自動車税制は簡素化、特に取得税は廃止を目指すとしていた。民主党はもともと取得税、重量税について負担の軽減、簡素化を主張していた。 今回の与党協議では、公明党は取得税の廃止及び重量税のいわゆる当分の間税率(道路財源時代の暫定税率)分の縮減を主張し、3党協議では、民主党から両税の廃止が求められた。 しかし、自民党税制調査会の中では、2,000億円を超える自動車取得税収、さらには3,000億円弱の自動車重量税の地方譲与分の代替財源の確保がない限り両税の廃止・縮減はできないとする多くの地方自治体の声に押され、さらには道路財源化復活の主張まで現れて、調整がつかない状態となった。 最終段階には、野田毅会長と自動車議連会長をも務める額賀福志郎小委員長との間で、大綱案取りまとめ直前の深夜まで行われたが、時間切れとなり、車体課税の扱いは平成26年度改正に先送りされた。 与党大綱では、取得税については「安定的な財源を確保して、地方財政への影響に対する適切な補てん措置を講じることを前提に」2段階で引き下げ、消費税率10%の時点で廃止するが、「必要な財源は別途措置する」こととなった。 また同時に都道府県税である自動車税について、「安定的な財源確保の観点から、地域の自主性、自立性を高めつつ、環境性能に合せた課税を実施することとし、他に確保した安定的な財源と合わせて、地方財政へは影響を及ぼさない」とされている。 これは、他の財源が見い出せなければ、取得税の代替財源を自動車税の増税により補てんできるように、自動車税の税率等を各都道府県の判断により引き上げることを可能とすることを示唆しているものと思われる。 重量税についても、平成26年度改正に先送りされたが、「その税収について、道路の維持管理・更新等のための財源として位置付け、自動車ユーザーに還元されるものであることを明らかにする方向で見直しを行う」ことが明記された。 この箇所は、自民党内で税制調査会が取りまとめた大綱案を形式的に審査するはずの場であった政策審議会で問題となり、かつてのような道路特定財源化を意味しないとの理解で案文通りとされたが、平成26年度改正に大きな火種を残すこととなった。 (了)
#5(掲載号)
#阿部 泰久
2013/02/07

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