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〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載27〕 小規模宅地等の減額特例に関する平成25年度改正について ─区分所有建物に居住していた場合の取扱い─
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載27〕 小規模宅地等の減額特例に関する 平成25年度改正について ─区分所有建物に居住していた場合の取扱い─ 税理士 小林 磨寿美 1 予定された改正と実際の法令 平成25年度税制改正大綱では、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(以下「小規模宅地等の減額特例」)について、次の見直しを行うとしていた。 これにより、小規模宅地等の減額特例の対象となる特定居住用宅地等については、二世帯住宅に係る構造要件が撤廃されたとして、被相続人居住部分に加えて、生計を一としない親族が取得したその親族が居住する部分も、その対象になるとされた。そして、例えば、親子で上下階に住む二世帯住宅で、外階段を有するものについても、その敷地のすべてが小規模宅地等の減額特例の対象となるとの報道がされていた。 大綱を受け、平成25年3月30日成立の所得税法等の一部を改正する法律(法律第5号)により、租税特別措置法69条の4第3項2号が改正され、さらに、平成25年5月31日公布の租税特別措置法施行令の一部を改正する政令(政令第169号)により、同40条の2第10項が改正された。 改正された法律及び政令の一部を次に記載する(下線:筆者)。 2 現法令の定めと改正法令の定め 措置法通達69の4-21(被相続人の居住用家屋に居住していた者の範囲)前段では、次のように記載されている(最終改正平24.12.10)。 したがって、次の図のような二世帯住宅を想定した場合、各居住部分が「構造上区分され独立して住居その他の用途に供することができるもの」であるかどうかにより、生計別親族が取得した宅地等が、特定居住用宅地等に該当するかどうかの判断が分かれることとなる。 《現行法令》 ※( )内は実際に特定居住用宅地等となる部分を示す。 一方改正法令では、この「構造上区分され独立して住居その他の用途に供することができるもの」に代えて「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」が判断基準となり、特定居住用宅地等の範囲が異なることとなる。 《改正法令》 ※( )内は実際に特定居住用宅地等となる部分を示す。 3 「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」とは ここで問題となるのは「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」の意味である。建物の区分所有等に関する法律第1条は次のようになっている。 この条文は区分所有権の目的とすることができる建物について定めているものである。そこで、不動産用語集((株)不動産流通研究所)により、区分所有建物となるための要件を確認すると、次の2つの要件を満たすことが必要であるとしている。 出典:不動産用語集((株)不動産流通研究所)より つまり、構造上かつ利用上の独立性のある建物の各部分について、別個の所有権が成立しているときに、その建物は区分所有建物となる。「構造上かつ利用上の独立性のある建物」を、ここでは「区分所有可能な建物」と呼ぶ。 そこで、「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」の意味を考えてみると、考えられるのは、次の2つのものである。 前述のように、区分所有法第1条は「できる規定」であるため、第二説である「区分所有可能な建物」を指すというのが素直な読み方であろう。 次に、改正法令から、第一説及び第二説を検証してみる。改正措令40条の2第10項は、特定居住用宅地等の定義において、相続又は遺贈により敷地を取得する生計別親族が居住していた部分を示しており、次のようになっている。 この2号規定は、「前号に掲げる場合以外の場合」である。そして、区分所有可能な建物以外の建物は、そもそも構造上かつ利用上の独立性のある部分がない一棟の建物であるから、被相続人又は当該被相続人の親族の居住の用に供されていた部分として独立の部分が存在しないこととなり、本来この規定の対象外であるはずである。 上記各説を当てはめた場合に、この2号規定は、次のようになる。 以上のことにより、改正法令の「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」は、条文を文言解釈する限りは、「区分所有可能な建物」となるが、条文の文意や平成25年度税制改正大綱から推測した場合は、「区分所有建物」としかならない。 4 区分所有登記された建物とした場合 改正法令の「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」は「区分所有登記された建物」であるとする取材記事が、本年6月末から7月始めに発行された税務雑誌に掲載されている(「週刊税務通信」3267号(2013年6月24日)p.4、「T&A master」No.505(7/1号 )p.4-6)。もし、そうであるならば、「建物の区分所有等に関する法律第1条に規定する所有権の目的として登記された建物」とされるべきである。 そして、登記の有無で区別するのであれば、区分所有登記済みの建物であっても、相続開始前に建物の合併登記が完了するかどうかで取扱いが異なることとなるのであろうか。 また、現行の措置法通達69の4-21なお書きでは、区分所有可能な建物の独立部分のうち被相続人が居住の用に供していた独立部分以外の独立部分に居住していた親族がいる場合(被相続人の配偶者又は被相続人が居住の用に供していた独立部分に共に起居していた相続人がいない場合に限る)において、その親族が、同居親族であるとして申告したならば、これを認めるとしている。 これは、建物全体が被相続人又は被相続人の親族によって所有され、その建物に係る各独立部分に被相続人とその親族が分かれて居住しているケースについては、「同居」として取り扱うこととしても特に問題がないと考えられる(香取稔『相続税・贈与税関係租税特別措置法通達逐条解説(平成18年版)』大蔵財務協会)ことから、そのように取り扱うものとされているものであるが、改正法令においては、被相続人等の居住の用に供されていた部分が一棟建物である場合は、建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物であるかどうかにより、明確にその取扱いを分けているため、引き続きそのような解釈が成り立つかどうかは不明である。 通達の趣旨からいえば、このなお書き規定の継続が望まれる。 改正法令の「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」を「区分所有登記された建物」とした場合の特定居住用宅地等の範囲をまとめると、次のようになる。 (了)
中小企業会計
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会計リレーエッセイ 【第7回】「中小企業の会計の行方」
会計リレーエッセイ 【第7回】 「中小企業の会計の行方」 筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授 弥永 真生 わが国における非上場会社、とりわけ、中小企業の会計は、―適切になされている事例は散見されるものの―少なくとも拡大前EU加盟国や北欧諸国と比べ、残念ながら、マクロ的には見劣りがすることは否定できない。 すなわち、ヨーロッパ諸国においては、EC会社法指令に基づいて、計算書類の登記所開示が行われるとともに、外部監査人の監査の対象となっている会社の「割合」も日本に比べればはるかに高い(そもそも、原則として対象となるが、例外的に監査を受けることを要しない―とはいえ、監査の対象とならない中小企業の絶対数は多い―というアプローチになっており、例外的に会計監査人監査が要求されるとする日本とは発想が異なる)。 日本で、このようなことになっている原因としては、計算書類の公告義務について全くエンフォースがなされていないこと、及び、金融については、不十分な面がある一方で、必ずしも十分なディシプリンが働かない状況で行われてきたように思われることなどがあげられよう。 後者については、物的担保や人的担保(保証)に過度ではないかと思われるほど依存したり、また、信用保証協会の保証が付されていることに依拠して、十分な審査を経ないで貸付けが行われてきたという経験を最近の日本は有しているように思われる。これは、裏側からみれば、会社の計算書類には依拠しない与信がなされてきたということにほかならない。 しかし、第183回国会には、保証人が金銭の貸付け等を業として行う者との間で締結する保証契約のうち、主たる債務者が事業のために負担する貸金等債務を主たる債務とする保証契約等は、保証人が法人又は主たる債務者である法人の代表者である場合を除き、その効力を生じないこととすることを内容とする「民法の一部を改正する法律案」(議員提案)が提出され、その修正案が6月12日に参議院本会議で可決されている。すなわち、保証に依拠する余地が減少することになる。しかも、近年の経済情勢を考慮すれば、物的担保に依存することも難しいはずである。 このような中で、金融機関が、中小企業への与信をまっとうな形で行うためには、計算書類の信頼性の確保が必要なのではないかと思われる。 もっとも、中小企業における経理部門の人材確保上の困難性に鑑みれば、企業会計のルールが単純で分かりやすいものであることが必要なのであり、平成14年以降、中小会計指針や中小基本要領などが策定されているのは、中小企業にも、それなりの会計を行っていただこうという趣旨に基づくものであると思われる。 逆に、とりわけ、1990年頃から2000年頃までの間、全くといってよいほど中小企業の会計が話題とならなかったのは、中小企業の計算書類軽視という風潮があったからなのではないかとも勘ぐられるところでもある。しかも、1980年代までは、法務省を別とすれば、中小会社の計算の充実にさほど関心を払っていなかったのではないかとすら思われた。 これに対し、現在では、日本商工会議所その他中小企業団体、中小企業庁、日本税理士会連合会及び日本公認会計士協会などが、中小企業の会計の改善に注目され、そのために力を尽くされているのであるから、中期的・長期的には希望がみえてきたように思われる。 実際、中小企業の会計には、いわゆる確定申告のおかげで、税務申告との結び付きゆえに、税理士及び(税理士登録をしている)公認会計士が関与していることが大きいことに思いをいたすならば、会計専門職業人及びその団体がどのような態度をとるかが、中小企業会計の改善の流れが持続するかどうかを分けるといえよう。 また、残念ながら、会計参与制度の普及はなかなか進まないのであるが、仮に、会計参与制度でもコストとベネフィットが見合っているとはいえないのであれば、中小企業の会計の信頼性を確保する他の制度を検討することも含めて、真剣に取り組む必要があるかもしれない。 そして、これとの関連でも、金融機関とりわけ信用金庫や信用組合といった中小企業を主たる顧客とする金融機関に対して、監督当局が、計算書類に基づく与信及びその後の与信先管理を行うよう誘導し、かつ、金融機関が中小企業の会計の改善を引き続き後押しして下さることも期待したい。 (了)
会計
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林總の管理会計[超]入門講座 【第6回】「正しい原価計算とは何?」
林總の 管理会計[超]入門講座 【第6回】 「正しい原価計算とは何?」 公認会計士 林 總 (了)
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財務会計
経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第12回】棚卸資産会計②「棚卸資産評価の会計処理」-収益性の低下に基づく簿価切下げ
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第12回】 棚卸資産会計② 「棚卸資産評価の会計処理」 -収益性の低下に基づく簿価切下げ 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 〈事例による解説〉 期末に商品在庫が1,000ある。また、正味売却価額は900であった。 〈会計処理〉 〈会計処理の解説〉 通常の販売目的(又は販売するための製造目的)で保有する棚卸資産は、取得原価を貸借対照表価額としますが、期末時の正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、収益性が低下しているものとして、棚卸資産評価損を計上して正味売却価額を貸借対照表価額とします(棚卸資産の評価に関する会計基準7項)。 なお、正味売却価額が取得原価を上回っている場合には、何ら会計処理を行いません。 ここで、正味売却価額とは、以下のように算定されます(棚卸資産の評価に関する会計基準5項)。 基本的に棚卸資産の評価は、上記のように正味売却価額に基づいて評価を行います。しかし、製造業における原材料等のように、売却市場の時価よりも購買市場の時価の方が把握しやすい場合もあります。 そのため、製造業における原材料等のように購買市場の時価(再調達原価)の方が把握しやすく、正味売却価額が再調達原価の値動きと同じように動くと想定される場合、継続して適用することを条件に、正味売却価額ではなく、再調達原価を用いることができます(棚卸資産の評価に関する会計基準10項)。 本事例では、正味売却価額が取得原価よりも低下しているため、棚卸資産評価損を計上する必要があります。計上金額は、取得原価1,000-正味売却価額900=100となります。 また、棚卸資産評価損は、原則、売上原価として計上します。ただし、収益性の低下に基づく評価損が、臨時の事象(例えば、重要な事業部門の廃止、災害損失の発生等)によるもので、かつ多額である場合には、特別損失に計上することができます(棚卸資産の評価に関する会計基準17項)。 次回は、「正常な営業循環過程から外れた棚卸資産評価の会計処理」について解説します。 (了)
労働基準関係
労務
労務・法務・経営
長時間労働と労災適用 【第2回】「長時間労働と労災認定の関係」
長時間労働と労災適用 【第2回】 「長時間労働と労災認定の関係」 特定社会保険労務士 大東 恵子 前回記載した総合評価の対象となる長時間労働に関する労災認定基準について、心理的負荷の強度が「強」と判断される具体的な時間外労働時間が示されている。 長時間労働に関して「強」と判断される時間外労働時間は、以下の通りである。 上記の時間外労働時間数に該当し、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであれば、「長時間労働」という事実のみで「強」の判断がなされることになる。 ただし注意しておきたい点は、上記の時間外労働を超えなければ、労災認定を受けないというわけではない、ということである。 上記時間外労働時間数に至らない場合であっても、例えば重度の病気やけがをしていたり、いじめや嫌がらせを受けていたなど、その他の事情を考慮した総合評価によって労災認定される場合は当然にある。 したがって、時間外労働時間が上記時間に至っていないからといって、その時間まで働かせてもいいという考えはされない方がよいであろう。 脳・心臓疾患発症と長時間労働との関連性は、以下の通りである。 上記のように、長時間労働に関しては、精神障害による労災認定基準よりも、脳・心臓疾患の場合の認定基準の方が、より厳しい基準となっていることが分かる(すなわち、精神障害が発症するよりも、脳・心臓疾患が発症するリスクの方が、より短い労働時間で高くなるということになる)。 このように、精神障害の場合の労災認定基準となる時間外労働時間を超えなかったとしても、脳・心臓疾患に関する上記時間に該当する場合があるため、注意が必要となる。 (了)
労務・法務・経営
法務
民法改正(中間試案)―ここが気になる!― 【第5回】「民事法定利率」
民法改正(中間試案) ─ここが気になる!─ 【第5回】 「民事法定利率」 弁護士 中西 和幸 1 民事法定利率に関する改正の概要 前回は損害賠償について解説したが、こうした損害賠償請求に関しては、民事法定利率の問題も同時に考えなければならない。 この民事法定利率は、民法制定当時から変わっていないが、現在の預金金利の水準が低いことから、その変更も民法改正で議論されている。 そこで今回は、利率をどうするか、固定金利か変動金利か、中間利息控除ではどう取り扱うか等について解説する。 2 民事法定利率の変更 (1) 民事法定利率が問題となる場面 民事法定利率の出番は、概ね2つに分けられる。 まずは、金銭消費貸借における利息や、履行遅滞による遅延損害金などにおいて利率を明確に定めなかった場合である。 もう1つは、当事者間に法的な関係がなかったところへ債権債務関係が発生する場合、すなわち交通事故等の不法行為における損害賠償請求権や不当利得関係が生じた場合の返還請求権である。 この場合は、利率に関する合意が成立する余地がないことから、民事法定利率が当然適用されることになる。 (2) 5%が高率かどうか いわゆる「バブル」の崩壊以降、日本経済の発展は停滞し、金融機関における預金利息等は低水準なまま継続し、資産を運用してもさほど大きな利幅は得られない時期が長期間継続している。 その中で、市場金利と比較すると、民事法定利率が5%というのは高すぎるとの意見が相次いだことから、当面これを引き下げることが提案されている。 実際、現行法では、裁判上の和解において、利息及び遅延損害金を免除し元本を全額支払うとする和解案を裁判所や債務者が提案しても、債権者がこれに応じず、逆に元本に加え一定の利息を要求する例が増加してきたとの意見を聞いたことがある。 確かに、年5%の法定利率は、預金金利の水準から考えると高い利率であるといえよう。しかし、金融機関からの貸出金利については、とりわけ、信用リスクが低くない中小企業等に対する貸出しについては、5%を超える利率のものも少なくない。金融機関からの借入れ以外の場面、すなわち信販会社や消費者金融などの貸金業者による融資の場合、不動産担保融資などの例外的な場合を除き、5%を超える金利での融資がほとんどである。 すると、預金金利としての運用益から見る限り現行の法定利率は高率であるが、取引先の債務不履行(すなわち金銭の支払いがないこと)により資金調達が必要な場合に、金融機関等から借り入れることにより資金を調達する場合のコストを考えると、年5%の利息や遅延損害金は必ずしも高率とはいえないのではなかろうか。 3 改正案の概要 (1) 利率の変更(固定利率) まずは、現行法の5%を引き下げたうえで固定利率とする提案がなされている。 中間試案においては3%が提案されているが、その数値は今後の検討に委ねられるものとして、ブラケットで囲まれている。 (2) 変動利率 次に、民事法定利率を変動利率とする提案もある。 変動利率の場合、利率を確定する計算方法を定めることが必要となるが、その定め方について以下の提案がなされている。 まとめると、基準日時点で現行の利率と基準金利(又はスプレッドを加算)との差が0.5%以上生じた場合、0.5%刻みで、基準日の1ヶ月以降に法定利率を上げ下げするということである。 (3) 変動利率をどう適用するか 民事法定利率が変動利率となった場合、具体的な債権債務関係においてどのように法定利率が適用されるかという規定が必要であり、以下の提案がなされている。 4 実務への影響 (1) 契約上合意をすることが主流 ビジネス実務上は、融資や遅延損害金については、金利を特約で定めることが多い。 例えば融資については固定金利としたり、長短期プライムレートやLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)、TIBOR(東京銀行間取引金利)といった基準金利に一定のスプレッドを乗せた変動利率などの定め方がある。 融資やその他の金銭債務に関する遅延損害金は、消費者契約法の影響からか、14%~14.6%が定められることが多い。 そうすると、民事法定利率の出番は、個人間の金銭消費貸借契約、注文書と請書等の伝票(という形式の契約書)を交わすだけのビジネス、すなわち基本契約書を交わさない場合等が中心となろう。 ビジネス実務上は、契約を書面化して紛争等を回避する流れからすると、民事法定利率の改正の影響は軽微なものと想定される。もっとも、変動利率とされた場合、民事法定利率と約定利率の(高い方/低い方)の利率を適用するという合意も考えられるところである。 (2) 金銭債務の損害賠償 前回説明したとおり、中間試案では、金銭債務については、原則として法定利率を損害とするが、金銭債務であっても超過損害を証明すればこれを請求することができるとする。 そのため、どのような場合に、金銭債務の不履行に対して超過損害額の主張/立証に挑戦するかという戦略をとることも可能であろう。 5 中間利息控除 中間利息控除については、通常の取引実務ではあまり関わることはない。最も大きな影響を受けるのは、将来の逸失利益の算定と考えられる。 例えば交通事故において、将来の収入を失った場合、将来の収入を現在の価値に引き直して計算するため、将来収入に中間利息控除を行って損害額を算定している。交通事故の逸失利益の損害賠償の場合、死亡時の収入から生活費割合を控除し、これにライプニッツ係数を乗じて算定するが、このライプニッツ係数は民事法定利率が5%であることを前提に定められている。 中間試案では、この5%を変更しない案を提示しているが、民事法定利率と中間利息控除の割合を異なる数値とする合理的な根拠は見出しがたい。一方、中間利息控除の利率を小さくすると、損害賠償額が現行より高額となることが予想される。 そのため、賠償金を受け取って預金しても利息がわずかしか付かない現代では、不法行為の被害者救済につながると考えられる。 逆に、最も大きな負担を負うのが損害保険業界であると考えられる。その場合、損害保険会社がリスクを転嫁するために各種保険の保険料を上昇させることになり、その結果、契約者の各種コストが上昇することが懸念される。 民事法定利率の改正については、固定利率であればともかく、変動利率となると実務上の処理が大変となる。結局のところ、当事者間の合意により合理的な利率を定めるという現行法下の丁寧な実務に沿う限り、さほど影響はないものと思われる。 ただし、中間利息控除の利率が低下した場合、損害保険料の値上げという、法令の改正と異なる方面からの影響があるかもしれない。 (了)
労務・法務・経営
経営
起業家が求める税理士の役割、税理士が求める経営者の姿勢 【下】「日々の記帳・申告業務における経営者との関係」
起業家が求める税理士の役割、 税理士が求める経営者の姿勢 【下】 「日々の記帳・申告業務における 経営者との関係」 株式会社クロスフィールド 取締役 税理士法人あおやま 代表社員 公認会計士・税理士 松元 良範 1 整理は苦手でも売上を上げる経営者 前回述べたように、しっかり売上を上げている経営者の方々の中には、資料の整理が苦手な方が意外と多い。 何度お願いしても資料を出していただけない、あるいは半年過ぎてやっとまとめて資料を受け取る場合がある。しかし時間が経っているためか、大抵は歯抜け状態の場合が多い。 時には資料を出していただけないまま年度を超えてしまい、申告できない場合もある。 こうなると、期中において売上がどうなっているのか、利益は出ているのか出ていないのか、全く分からない状態に陥ってしまう。しかし、経営者本人としては自分の口座にお金がありさえすれば何とか生活できてしまうので、さほど気にはならない。 結局、自分のお金なのか会社のお金なのかさえも、よく分からなくなってしまう。 いずれにしても、売上が上がりお金が入金されるので、何とかなってしまうのである。 何とかなるので、経理に対する優先度が落ちてしまう。 こうなると、税理士としては大変困る状況に陥る。 これは、会社にとっても(もし会社に感情があるのであれば)大変困る状況なのであるが、唯一困らないと感じているのは、個人としての経営者本人だけなのかもしれない。 こういうタイプの経営者の方々は、もしかしたら会社形態ではなく個人事業形態でやっている方が良かったのではと思うことがよくある。 会社形態の場合には個人と会社の財布をきっちりと分けて管理しなければならず、個人事業に比べ手間がかかるからである。 こういった状況に陥った場合、我々税理士はどうしたらよいだろうか。 こういった経営者の方々と長い間接していると、彼らには全く悪意がないという共通点に気が付く。ただ単に、事務処理が少々苦手なのである。 資料を提出していただけない場合には、最終的には帳簿を作成することができず、申告期限を過ぎてしまうわけであるが、こういった場合、我々税理士は税務上のデメリット(例えば青色申告の承認の取消しなど)や、経営管理上のデメリット(例えば期中の利益が把握できない)を辛抱強く説明するしかない。 特に悪意がないので、こういったデメリットを真剣に説くと、その意味を真摯に受け取っていただき、真剣に対応してくれるようになる。ただ、如何せん、もともと事務処理が苦手な方々なので、長続きしないケースも少なくない。 このため我々も、決して諦めず、繰り返し説明することが必要である。 ただし、売上を着実に上げている方々が多いので、財務的に多少とも余裕がある場合には、事職員を雇用して彼らに事務処理を任せるよう提案することが多い。事務職員がきちんと資料を整理し我々に提出いただければ大変ありがたい。 さらに発展して事務職員が記帳を行いその結果を我々税理士がレビューするという形態、すなわち自計化することができれば、会社は迅速に業績を把握できるようにもなる。 2 経理業務に偏重し売上を立てられない経営者 上記1で述べたケースとは、全く逆のタイプもある。 つまり、完璧なまでに日々の証憑を整理して提出していただける経営者の方々もおられるのだ。 彼らは簿記や税務の基本的なレベルもきちんと勉強されているので、こちらの説明もすぐに理解していただける。税理士にとっては大変助かる経営者の方々である。 しかし、こういった経営者の方々の中には、全く売上が立たない方が少なくない。そのため、提出していただく資料は支出ばかりで売上関係の書類がない。証憑も整理されておりシンプルであるため記帳もスムーズに進み、綺麗な帳簿は作成できるものの、設立時の資本金をみるみる食いつくして、あっという間に立ち行かなくなってしまう。 このような場面に立ち会うと、何のために会社を設立したのだろうと疑問に思うことがある。起業すること自体が目的化してしまったのかもしれない。とても残念である。 こういった方々を見ていると、多少経理事務には荒っぽい感覚を持っている方が、起業という初期段階においては、むしろうまく行くのではないかと思うこともある。 3 ある成功した起業家の話 最後に、起業からある程度の規模へもっともスムーズに成長していった経営者の例に触れたい。 この経営者は、サラリーマン時代に培った自分のスキルと人脈を生かして、昔の仕事仲間3人と一緒に事業を始めた。持ち前の営業力もあり、手堅く仕事を受注する一方、会計の重要性も良く理解されていた。 会計に関しては我々税理士にお任せしようというスタンスであったが、決して丸投げではなく、必要な情報は何かというものを理解され、そして適度に整理された資料を提出していただき、我々が月次で記帳し、年度末は申告するという流れであった。期中においても利益の発生状況をお互いに確認しながら、年度の着地見込みを議論する。そしてさらなる拡大のために、社員の採用についても議論する。 こういった中で着実に売上を伸ばしてきた。 従業員が6名程度になってきた段階で、事務職員を雇うことにより、それまで社長自身が行っていたもろもろの証票整理等から解放され、よりマネジメントに注力できるようになってきた。現在は13人規模となり、さらなる成長へと日々邁進している。 終わりに ここまで2回にわたって、経営者と税理士との関係性について触れてきた。 起業される方は基本的に個性的な方々が多く、経営スタイルや経理業務に対する意識もまちまちである。 このことから、経営者の方々と税理士との関係にもいろんなパターンが生まれてくる。 どれが一番良いのかは一概には言えないが、いずれのパターンにおいてもお互いの信頼関係がなければその先の発展がない。 信頼関係を築くためには、税理士として何が重要なのか。 必要な税務知識の習得に磨きをかけることは言うまでもないが、やはり経営者とのコミュニケーションが一番大事だ。 どんな仕事でも同じことだが、税理士の世界も、いかにコミュニケーション能力を高められるかが、最も重要なのである。 (連載了)
労務・法務・経営
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〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第12回】「慢性期DPCの予想される制度概要と影響」
〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第12回】 「慢性期DPCの予想される制度概要と影響」 東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕 1 なぜ慢性期DPCなのか 2025年に向けての医療制度改革の一環として、2012年度診療報酬改定で急性期医療における医療機関群(Ⅰ群・Ⅱ群・Ⅲ群)が設定されたことは注目されるところである。しかし、今後の高齢社会を考えると、むしろ急性期後の医療が重要になることは明らかであり、その対応策として慢性期医療に関しても新たな方向性が台頭してきている。 「慢性期医療費包括支払い制度(仮称慢性期DPC)について」(一般社団法人日本慢性期医療協会)によると、2025年には全対象患者757万人のうち慢性期医療の受け持ち部分はその90%と想定されている(図表1)。 図表1 (「慢性期医療費包括支払い制度(仮称慢性期DPC)について」(一般社団法人日本慢性期医療協会)P1より) この試算が正しいと仮定した場合、医療需要のほとんどは慢性期医療であり、慢性期病院が担うべき役割は極めて大きいことになる。また、急性期の定義からいうと、急性期病床で30日超の入院患者は急性期患者といえるのかという見解もあり、慢性期病院といえども急性期治療機能を持っていなければならないとされている(現行のDPC/PDPSでは、急性期の定義はデータ病床比が用いられており、在院日数が短く、新入院患者が一定以上の病床回転率が高い病院が想定されているものと考えられる)。 今後は、Post acute(急性期後)を受け入れる病床が必要であり、特に2025年の医療提供体制を構築するためには、現行の医療区分とADLによる分類による支払いでなく、DPC/PDPSに準じたいわゆる「慢性期DPC」が必要であるとされている。 2 慢性期DPCとは 慢性期DPCは、図表2に示すように一般病床(亜急性期病床)、回復期リハビリテーション病棟及び療養病床のうちより治療密度が高い範囲が想定されている。 図表2 (「慢性期医療費包括支払い制度(仮称慢性期DPC)について」(一般社団法人日本慢性期医療協会)P3より) 現行の診療報酬体系を前提とするとDPC/PDPSに参加しない一般病床から療養病床まで幅広い範囲が想定される壮大な制度になる。この慢性期DPCの範囲には急性期病床の受け皿や在宅療養の支援が含まれており、長期入院医療への対応については別の制度設計とすることが望ましいと筆者は考えている。 この慢性期DPCでは、図表3に示すようにDPC/PDPSと類似した構造であり「主たる疾患」(Diagnosis)、「処置等」(Procedure)の組み合わせ(Combination)による、出来高点数と包括点数からなる支払い方式が想定されている。 図表3 (「慢性期医療費包括支払い制度(仮称慢性期DPC)について」(一般社団法人日本慢性期医療協会)P5より) また、図表4に示すように急性期におけるDPC/PDPSと同様に、対象病院の機能や診療実績等に基づいて「基礎係数」、「機能評価係数Ⅰ」、「機能評価係数Ⅱ」から構成される医療機関別係数が設定されることも注目される。 図表4 (「慢性期医療費包括支払い制度(仮称慢性期DPC)について」(一般社団法人日本慢性期医療協会)P6より) DPC/PDPSでは医療機関別係数で1.5倍程度の差がついている。慢性期DPCでは、基礎係数は基本的に全対象病院共通とされており差はつかない。それに対して、機能評価係数Ⅰは人員配置等の構造的な要因が評価され、入院基本料等でより高い評価を受けることがポイントになる。 この慢性期DPCで目新しい視点であり、差がつきやすいのが機能評価係数Ⅱであろう。 慢性期DPCにおける機能評価係数Ⅱでは、緊急対応に対する評価(緊急送迎、緊急入院、緊急画像診断、緊急検査、緊急処置)、在院日数を短縮することに対する評価(効率性)、重症患者を受け入れることに対する評価(複雑性)、在宅や地域との連携を重視することの評価(在宅復帰率、在支病の届出、地域連携パスの届出)が具体的に挙げられている。現行の急性期病院のDPC/PDPSにおいても救急医療に対する評価(救急医療係数)が高い病院ほど機能評価係数Ⅱが高くなっており、緊急対応能力は慢性期DPCではさらに高く評価されるものと予想される。 緊急対応に高い評価ウェイトが置かれるのは、緊急対応能力に病院間格差が大きいからであり、緊急対応ができる長期急性期病院にとって魅力的な制度設計になるであろう。 3 慢性期DPC導入の影響 ① 機能による差 慢性期DPCでは機能評価係数Ⅱで病院機能により診療報酬の支払いに差がつくことが想定されている。これは1点10円、全国一律の評価から慢性期医療も解放されることを意味し、慢性期病院の機能及び経済性について二極化を加速させる。 現行のDPCⅢ群病院で無理をして急性期に留まっている病院にとっては、慢性期DPCに参加した方が高い係数の設定となり、経済的な魅力度が増す制度設計になることも十分にありえるだろう。つまり、急性期DPC対象病院の一部が慢性期DPCに移行し(一部の病棟であることも考えられる)、長期急性期病院として高評価を受けることも可能となるものと予想される。 それに対してDPC以外の一般病床、亜急性期病床・回復期リハビリテーション病棟・療養病床では、緊急対応ができるかによって評価が分かれるだろう。 ② 慢性期病院とっての影響 現行の診療報酬において、療養病床は医療区分とADL区分に基づいた支払いが行われているのに対して、慢性期DPCではより精緻化した支払いが行われることが予想される。 つまり、同じ包括払いといえども、患者の病態に応じてきめ細かい診療報酬の設定が行われるであろう。 このことは慢性期病院にとってマイナスの影響ばかりではなく、より重症患者を受け入れる施設にとっては増収機会も到来するはずである。それに対して長期療養型を中心とする療養病床については、診断群分類ごとの全国平均の在院日数(現行のDPC/PDPSでは入院期間Ⅱという)を超えると診療報酬が低減され、厳しい評価になることであろう。さらに、長期療養型の場合には、医療機関別係数が低くなる可能性があり、現在よりも入院診療単価が下落することもありえる。 慢性期DPCが始まったとしても、その存在に恐れをなす必要はない。しかし、DPCの本質は医療機能に見合った報酬の支払いであり、現行の制度とは一線を画することは肝に銘じなければならない。 (了)
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会計事務所 “生き残り” 経営コンサル術 【第7回】「“どうすれば利益が出るの?”って聞かれてどう答えますか」
会計事務所 “生き残り” 経営コンサル術 【第7回】 「“どうすれば利益が出るの?”って 聞かれてどう答えますか」 株式会社 経営ステーション京都 代表取締役 京セラ株式会社 元監査役 公認会計士・税理士 田村 繁和 中小企業をクライアントにもっていますと、必ず聞かれることは“どうすれば利益が出るのでしょう”ということです。 その時、あなたはどのように答えられますか? 恥ずかしい話ですが、私はずっと「総資本利益率を高めることだ」とクライアントに説明してきました。 総資本利益率は「売上/総資本 × 利益/売上」で求められます。 そのため、総資本回転率と売上高利益率を高めていけばいいのです。総資本回転率を高めるためには、商品回転率や売掛金回転率を高める。つまり、商品や売掛金の回収を早くしていけばいいのです。 これは皆様方もご承知かと思いますが、経営分析の本に書いてあります。会計士の受験でも時間をかけて勉強しましたので、私はこれを頭から信じ込んで説明していたのでした。 そんな時に、ある社長から「そんな抽象的な話なんて聞きたくない。先生も京セラの稲盛さんの『実学』という本を読めばいいよ」と言われたのでした。読みますと、“利益は売上から経費を差し引いたもので、売上を最大に経費を最小にすれば、ほっておいても利益が増えてくる”と書いてありました。 なんだこんなこと、誰だって分かっているわと思っていますと、“この誰でも分かっていることができていない会社が多い。これを全社員が理解して行動していかなければ利益なんか出ない”とも書いてありました。 私はこの本を読んでびっくりしました。そして自分が説明してきた〝利益を出すには総資本利益率を高めることだ〟ということが、何と抽象的で難しいことだったのかと恥ずかしい思いがしました。 クライアントの中小企業の社長の言葉は、まさにその通りです。そして、経営分析を勉強したことがむなしくなってきました。 中小企業の社長の顧問として生きていく限りは、その人のニーズをつかまなければなりません。 そのためには、訳の分からない抽象的な理論ではなく、本当の実学を学ぶことが大切です。 会計人としての視点で考えたものを提供するのではなく、クライアントに本当に役に立つ、クライアントが望んでいることを提供してあげることが、会計事務所発展の原点だと思います。 (了)
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顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第6回】「スコアリングモデルで評価する留意点」 ~いきなり業績評価に使ってはいけない~
顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第6回】 「スコアリングモデルで評価する留意点」 ~いきなり業績評価に使ってはいけない~ 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 前回述べたとおり、スコアリングモデルは、複数の会社から集めた非会計情報からなる137個のKPIデータを統計的手法で定量化し、経理財務部門のサービスレベルを会社間で比較する相対評価を通じて、問題点を発見し、時代のベストプラクティスを目指して改善を促す契機とするものである。 スコアリングモデルは、会社の規模の大小を問わず、その経理財務部門のサービスレベルをデータに基づいて客観的に評価することができるが、実際に読者が顧問先にスコアリングモデルを活用して評価を行う場合に問題となるのは、どのような単位で評価を行うのか、評価結果をどのように活用するか、ということであろう。 そこで今回は、スコアリングモデルの評価単位と評価の留意点について解説しよう。 法人格単位で評価を実施 スコアリングモデルで評価を行う単位は、原則として法人格の単位と同じである。図表10を参照いただきたい。 図表10 スコアリングモデルで評価を行う単位 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (1) 子会社を持たない場合 ① 経理財務機能が集中している場合 顧問先が、子会社を持たず、経理財務機能が本社に集中している小規模組織である場合、その会社だけを単体として評価する。 これが最も単純な事例である。 例えば、図表10で、赤い点線で区切った範囲で事業を行っているが、経理財務機能が本社に集中していて、A事業部、B事業部、C事業部、E工場、F工場、G支店、H支店には経理財務機能が存在しない場合、その本社の経理財務部門からKPIデータを提供してもらい評価する。この場合、評価対象は1個となる。 ② 経理財務機能が分散している場合 顧問先が、子会社を持たないが、組織が複雑で、経理財務機能が複数の部門で分散して担われている場合、会社の中のどこで重要な業務が担われているかを確認し、その分散度に応じて評価の単位を設定する。 例えば、図表10で、赤い点線で区切った範囲で事業を行っているが、経理財務機能が本社だけでなく、A事業部、G支店が個別の経理財務部門を持ち、その単位で決算書を作成している等の重要な経理財務機能を担っている場合、本社、A事業部、G支店の経理財務部門からそれぞれ該当するKPIデータを提供してもらい、別個に評価する。 この場合、評価対象は3個となる。 (2) 子会社を持つ場合 顧問先が、複数の子会社を持つグループを形成している場合、売上高、経常収益等の指標による一定の基準に基づき選定された重要な拠点の法人格単位で行う。 例えば、図表10で、親会社が、子会社X、子会社Y、関連会社Zを持つ場合、重要な拠点として親会社に加えて、子会社X、子会社Yが選定されたとすれば、親会社、子会社X、子会社Yの経理財務部門からそれぞれKPIデータを提供してもらい、別個に評価する。 この場合、親会社において本社に経理財務機能が集中していれば、評価単位は3個となるが、親会社において経理財務機能が分散していると、分散度に応じて親会社を何個の評価単位と見るかによって評価対象の数が増える。 (3) 持株会社と事業会社によるグループ経営の場合 顧問先が、持株会社と事業会社によるグループ経営を行っている場合、持株会社が担う経理財務機能の内容に応じて、事業会社とは別の単位で持株会社を評価する。 例えば、図表10で、子会社X、子会社Y、関連会社Zを持つ本社が別の持株会社の傘下に入っている場合、持株会社と事業会社の経理財務部門からそれぞれKPIデータを提供してもらい、事業会社と区別して持株会社を別個に評価する。 もっとも、持株会社が、全社的な予算管理、資金管理、資金配分を担うが、売上管理、仕入管理、原価管理等の日常的な経理業務を行うことがなく、必ずしも18種類すべての業務を担っていない場合は、該当する業務に対応するKPIデータだけを提供してもらい評価する。 (4) 委託業務がある場合 顧問先が、重要な経理財務業務の一部を外部業者に委託している場合、その外部業者を評価の対象として追加する。 例えば、図表10で、売掛金の回収業務や経費管理業務といった経理財務機能の一部を外部業者に委託している場合、当該外部業者から該当するKPIデータを提供してもらい、委託元の会社と区別して外部業者を別個に評価する。 このように、外部委託した場合の経理財務のサービスレベルと、自社で行った場合の経理財務のサービスレベルを比較し、業務のアウトソースの判断基準を得ることはスコアリングモデルの企図するところであり、企画の趣旨に合致する。 スコアリングによる評価結果を社内業績評価のみに使わないことが鍵 顧問先がスコアリングモデルを活用すると、スコアリングによる評価結果として、「総合スコア」、「財務諸表の信頼性スコア」、「業務の有効性・効率性スコア」、「5つの視点別スコア」、「18種類の業務プロセス別スコア」、「137個のKPI別スコア」に加えて、順位、格付が提供される(図表1、図表2)。 図表1 スコアリングモデルのイメージ① (再掲) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 図表2 スコアリングモデルのイメージ② (再掲) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 そこで、経営者としては、偏差値が分かったのだから、業績評価、人事報奨、部門予算配分等、社内の諸々の評価に活用したいという思惑が生まれるかもしれない。 しかし、逆説的ながら、業績評価、人事報奨、部門予算配分等の上意下達的な強制力の契機のみでスコアリングモデルを活用しようとすれば、評価結果が歪曲化して評価対象となる部門に伝わり、改善に向けた機運が削がれ、KPIデータの提供や改善の対応において、評価対象部門の協力が得られなくなることがある。 スコアリングモデルの本来の趣旨は、業務改善の客観的ベンチマークを経理財務部門に代表される内部のステークホルダーと投資者に代表される外部のステークホルダーに提供することである。 そして、評価対象となる部門がスコアや格付を通じて自社の経理財務のサービスレベルを客観的なデータの裏付けによって自己点検し、全員参画型で改善策の策定と遂行に当たる業務改善を行い、その改善度を外部のステークホルダーに伝達するPDCAサイクルの自発的契機を促すことが望ましい。 スコアリングによる評価結果を、業績評価、人事報奨、部門予算配分等、社内の諸々の評価に活用するのは、そのような自発的な改善の機運が十分熟成し、改善の達成度が見えた後の方が良い。 読者各位におかれては、スコアリングによる評価結果で業績評価を拙速に行わないように、顧問先の経営者に助言していただくことが重要と思う。 (了)