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相続税対策からみた生前贈与のポイント 【第5回】「税制の特例を活用した贈与の検討」
相続税対策からみた 生前贈与のポイント 【第5回】 (最終回) 「税制の特例を活用した贈与の検討」 税理士法人タクトコンサルティング 税理士 山崎 信義 1 相続税対策として選択すべき贈与税の特例とは 相続税の節税対策のために贈与を行う場合、贈与税の特例の選択にあたって一番に検討すべき条件は、「贈与した財産が贈与者の死亡時に相続税の課税対象とならないこと」である。贈与財産が贈与者の相続税の課税対象とされては、贈与をした意味がないからだ。 したがって贈与税の課税方法は、贈与者の相続時に贈与財産が相続税の課税対象とされる相続時精算課税制度は選ばす、暦年課税制度によるべきである。 贈与税の暦年課税制度による財産の贈与を行う場合、注意すべきは生前贈与加算(相法19)の適用である。 贈与者が贈与後3年以内に死亡し、その受贈者が贈与者からの相続又は遺贈により財産を取得したときは、生前贈与加算の規定により、受贈者の相続税の課税価格に贈与財産の贈与時の価額が加算されてしまう。贈与者の相続開始の時期は予定できないので、贈与税の特例の選択の際には、贈与財産が生前贈与加算の対象とならない特例を選ぶことがポイントになる。 また、相続税対策として贈与を行う場合には、相続税の課税を一回飛ばして財産を移転するため、贈与の相手先を「孫」とすることがしばしば検討される。このため、孫への贈与についても適用が認められるような贈与税の特例を選択したいところである。 以上の条件をすべて満たす贈与税の特例が、相続税の節税対策として望ましいものとなるが、それは次の①~③の特例である。 上記①~③の特例は、贈与財産の価額のうち一定額について贈与税が非課税となり、かつ贈与後3年以内に贈与者が死亡した場合であっても、贈与税が非課税とされた額については、贈与者に係る相続税の計算上、生前贈与加算の対象とはされず、相続税の課税がされることはない。 ①~③の特例の適用を受けるにはそれぞれの要件を満たす必要があり、贈与税の非課税枠には上限があるものの、確実に相続税の節税効果が期待できる。 相続税対策の一環として贈与を考える場合は、まずはこれら特例の適用要件を満たす「孫」がいないかどうかを検討してみるべきだろう。 2 相続税対策としての贈与税の配偶者控除の活用 上記①~③以外に相続税対策としての活用を考えたい特例としては、婚姻期間が20年以上の夫婦間で自宅不動産等の贈与をした場合の贈与税の配偶者控除(相法21の6)がある。 贈与税の配偶者控除に係る贈与者がその贈与後3年以内に死亡した場合、贈与者の死亡に係る相続税の計算上、生前贈与加算額は贈与税の配偶者控除額を控除した金額とされる。 したがって、この特例の適用を受けることにより、控除額(最大)2,000万円と基礎控除額110万円を合わせた2,110万円までが、相続税の課税対象から除外できる。 贈与税の配偶者控除を活用した贈与は配偶者への財産移転であるため、二次相続(受贈者の死亡)時の相続税負担の増大が懸念されるが、贈与者や受贈者の所有財産額によっては、相続税の節税対策として活用できる場合もある。 例えば、夫の主たる財産が自宅不動産と預貯金で、その金額が相続税の基礎控除をわずかに上回る程度であり、かつ妻の固有財産もわずかである場合には、夫から妻に自宅不動産を贈与し、夫の財産額を基礎控除以下にすることによって、相続税の負担をゼロにすることが可能である。 二次相続に係る相続税については、夫の相続時の遺産分割で相続人である妻と子の間で調整をすれば、妻の相続に係る相続税の負担をゼロにすることも可能であろう。 3 おわりに 相続税対策として親から子に贈与をする場合には、税制以外にも重要なポイントがある。 それは、生前や相続後を通じ、子には極力、公平に財産を渡すことである。 公平な財産の配分に心を砕いておかないと、親の死亡後に子の間で相続争いが起きかねない。 民法上、相続人である子には「遺留分」という、相続できる最低限の権利が保証されている(民法1028~1044)。この遺留分の算定においては、被相続人が相続開始時に所有していた財産のほか、生前に子に贈与した財産も加算される。 相続人は相続による自分の取り分が遺留分より少なければ、遺留分の減殺請求によって財産を取り戻すことができる。ただし、兄弟間でこれを実行すれば、信頼関係が崩れるおそれが大である。 贈与による相続税の節税も重要ではあるが、節税の大前提は、相続が円満に行われることである。 相続で不幸な結末を迎えないためにも、子への財産の配分には公平を期し、全相続人の遺留分を確保するようにしたいものである。 (連載了)
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〔書面添付を活かした〕税務調査を受けないためのポイント 【第2回】「書面添付制度の概要・現状と考え方」
〔書面添付を活かした〕 税務調査を受けないためのポイント 【第2回】 「書面添付制度の概要・現状と考え方」 公認会計士・税理士 田島 龍一 1 書面添付制度の特徴 書面添付制度は、「〈1〉税理士が納税者のために会計・税務調整した処理のうち、重要と思われる事項の説明等を定められた書面に記載し、申告書に添付すること(法33条の2)」及び「〈2〉税務当局は、事前告知税務調査前に、その添付書面の内容につき、税理士から意見聴取(法35条)をすることにより、税務調査が不要であると判断した場合には、税務調査を省略する」という一連の制度のことをいう。 (注:上記文中カッコ内の「法」とは「税理士法」を意味する。) その特徴として、次の点を挙げることができる。 2 意見聴取のタイミングと手続の流れ 意見聴取は、予告通知税務調査予定日の1~2週間前に税務当局より税理士に通知され、納税者抜きで実施される。その主なタイミングと手続の流れは以下の通りである。 3 書面添付の普及率とその背景 この書面添付の普及率は、現状では極めて低い状況である。財務省資料によると、平成23年度における法人税申告書の「書面添付」割合は、7.4%(前事業年度7.0%)であり、e‐Taxの利用率52.7%と比較すると低迷している(財務省「平成23事務年度 国税庁が達成すべき目標に対する実績の評価書」平成24年10月31日付)。 書面添付制度は平成13年より制度化(注)されているが、普及率が低い理由として、次のような税理士の心理がある。 (注:「税務調査前意見聴取」制度を有しない書面添付は、昭和31年よりあったが、メリットが無く、ほとんど利用されなかった。) 上記に挙げたデメリットに対する筆者の考えを以下に記述する。 4 書面添付のメリット 一方、書面添付のメリットとしては、次のようなことが考えられる。 上記のうち最大のメリットは、事前通知税務調査が省略されうることである。しかし、そのためには、それなりの手順と準備期間が必要である。 自計化率の増加問題や赤字会社のクライアントに負担をかけて、「書面添付」のための手続を促すのはどうか等、実務的な困難さも立ちはだかる。 書面添付は、税理士の意思で任意に行うものであり、無理をして行うものではない。 しかし、書面添付にチャレンジすることは、税理士及び納税者双方にとって、より質の高い信頼関係を築く機会となり、また、税務署に対する信用度も上昇する機会となりうる。 次回は、「意見聴取の対策(留意点)」を取り上げる。 (了)
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税務判例を読むための税法の学び方【18】 〔第5章〕法令用語(その4)
税務判例を読むための税法の学び方【18】 〔第5章〕法令用語 (その4) 自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 (前回はこちら) (承前)このように、「ものとする」があってもなくても意味が変わらないにもかかわらず、これを付すのは、語感や語呂から、また表現をソフトにするためであり、例外を認める余地はなく、義務を課したものである。 ③ 解釈の明確化 「・・・(の規定)は、・・・に適用があるものとする」というような用例がある。 これまで述べた用例とはやや異なり、そこで問題となっているある規定が、ある場合に適用があるのは解釈上あるいは論理上当然のことであるが、解釈上の疑義を避けるために、念のために規定で明確にするという場合に使われるものである。 この場合、これを「・・・適用する」と言い切ってしまうと、本来適用のないところを、この規定で適用するようにしたという創設的意味が付加されたという解釈が生じることになりかねない。そこで、創設的意味が付加されているのではなく、念のためのものであるということを表す趣旨で、この「・・・ものとする」が使われている。 なお、若干表現は異なるが、「規定の適用があるものとする」(例えば、所得税法施行規則第100条第3項)も同じ趣旨のものである。 ④ みなし規定と類似の「制度としてそのように決める」という意義を持つもの 「制度的に、そのように決める。」という場合に、主に「とする」と表現する。 これは「みなす」(次回詳細に解説する)という用語が、「擬制的にそのように扱う」という趣旨であるのと異なり、本来そのように扱っておかしくない性質をもっているので「制度としてそのように決める」という趣旨で用いている。 この「とする」の前に「もの」が来た場合に「ものとする」という表現になる場合があるため、ここで説明する。 所得税法第12条には以下のようにある。 また、法人税法第11条には以下のようにある。 収益が実際に、名義人に帰属せずに実質所得者によって享受され、その享受する者に帰属しているわけであるから、税制上は名義人でなく、実質所得者に帰属するものと定めればよいのであるから「みなす」のではなく「とする」と規定している。 相続税法施行令第1条の12には、以下のようにある。 この第3項~4項に見られる「するものとする」もまた、同様の用例である。 しかし、第6項の「納めるものとする」は前回紹介した「② 法文上の語感から付されるもの」の用例であり、義務を課したものである。 また第9項の「規定は、・・・適用があるものとする」は、上記「③ 解釈の明確化」の用例である。 ⑤ 法令用語として慣用的に用いられるもの 「するものとする」が慣用的に用いられている場合としては、例えば、準用の場合の読替規定がある。ここでは、「読み替える」と言い切らないで、法文上「読み替えるものとする」と表現する慣行がある。 例えば法人税法第81条の6第6項には、以下のようにある。 この用例のものは、前回の「② 法文上の語感から付されるもの」の一種ともいえるが、慣行となっているため、ここに分類した。 また、制定の当初から、その附則の中に、「この法律は、・・・までに廃止するものとする」という規定が置かれていることが、時折みられる。期間満了とともに何らの措置をとることなく自動的に失効する限時法と異なり、このような定め方をしている場合には、期限の到来をもって自動的に失効するのではなく、「・・・までに廃止するものとする」という一種の政治的義務が宣言されているだけであるから、この法律の効力を失わせるためには、廃止の措置を別にとる必要がある。 なお、上記①~⑤とも、「ものとする。」と言い切らずに、「ものとし、」と続く場合もあるが、「する」の活用変化として当然あり得る表現であることを付言しておく。 (了)
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〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載35〕 措置法40条申請の承認取消しと贈与者の死亡
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載35〕 措置法40条申請の承認取消しと 贈与者の死亡 税理士 鈴木 達也 Q 個人が公益法人等に対して資産を贈与又は遺贈し租税特別措置法40条の申請に係る承認を受けた場合に、その承認が取り消されたときの課税関係について教えてください。 また、その取消時に贈与者が死亡している場合には、どうなりますか。 A 個人が租税特別措置法40条1項後段の承認を受けた場合において、寄贈財産が公益法人等の公益目的事業の用に供される前にその承認が取り消されたときは、その寄贈者に対して、その公益法人等の公益目的事業の用に供された後にその承認が取り消されたときは、その公益法人等に対して、その取消日の属する年分の所得税が課される。 また、その寄贈者が死亡している場合には、それぞれの者に対してその贈与者の死亡日の属する年分の所得税が課されるが、その申告期限から時効が進行するため、一定年数を経過して取り消されたときは、時効により課税されない。 解 説 個人から公益法人等に対して財産の贈与又は遺贈があった場合において、その財産がその贈与又は遺贈があった日から2年を経過する日までの期間内に、公益法人等の公益目的事業の用に直接供され又は供される見込みであるときは、一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたものについて、所得税法59条1項1号のみなし譲渡課税の適用にあたり、その財産の贈与又は遺贈がなかったものとみなされる(措法40①後段)。つまり、贈与者又は遺贈者に対してみなし譲渡課税が行われない。 その後、その贈与又は遺贈に係る財産が公益目的事業の用に供される前にその承認が取り消された場合には、その贈与又は遺贈をした個人に対して課税が行われる。また、その贈与又は遺贈に係る財産が公益目的事業に供された後に取り消された場合には、その公益法人等に対して課税が行われる。 1 財産が公益目的事業の用に供される前の承認取消し ① 課税関係 下記②の事由により国税庁長官の承認の取消しがあった場合には、その贈与又は遺贈をした個人に対して、みなし譲渡所得に係る課税が行われる。 具体的には、その贈与又は遺贈があった時に、その時の価額に相当する金額により、その贈与又は遺贈を受けた財産の譲渡があったものとして、その贈与又は遺贈によるみなし譲渡所得に係る譲渡所得の金額等を計算し、次のいずれかの年分の所得として、所得税を課することとなる。 イ 贈与の場合 その贈与をした者の非課税承認が取り消された日の属する年分(非課税承認が取り消された日までに、その贈与をした者が死亡していた場合には、その死亡の日の属する年分【図1】) 【図1】 ロ 遺贈の場合 その遺贈をした者のその遺贈があった日の属する年分【図2】 【図2】 ② 取消事由 その贈与又は遺贈について、次のいずれかの事実が生じた場合には、国税庁長官は、その承認を取り消すことができる。 2 財産が公益目的事業の用に供された後の承認取消し ① 課税関係 下記②の事由により国税庁長官の承認の取消しがあった場合には、その公益法人等に対し、その非課税承認に係る贈与又は遺贈を行った個人とみなして、みなし譲渡所得に係る課税が行われることになる(措法40③、措令25の17⑮)。 この取扱いは平成20年度税制改正により変更されたもので、公益法人等がその贈与又は遺贈を受けた資産を一旦その公益目的事業の用に供した後にその用に供しなくなるといった、いわば後発的事由により承認が取り消される場合には、その事情を考慮して、その贈与又は遺贈をした者ではなく贈与又は遺贈を受けた公益法人等に対して課税することとしたものである。 具体的には、その贈与又は遺贈があった時に、その時の時価相当額により、その贈与又は遺贈があったものとして、その財産に係る譲渡所得等の金額を計算し、次のいずれかの年分の所得として、所得税が課される。 イ 贈与の場合 その贈与をした者の非課税承認が取り消された日の属する年分(非課税承認が取り消された日までに、その贈与をした者が死亡していた場合には、その死亡の日の属する年分【図3】) 【図3】 ロ 遺贈の場合 その遺贈をした者のその遺贈があった日の属する年分【図4】 【図4】 ② 取消事由 国税庁長官の承認に係る財産の贈与又は遺贈を受けた公益法人等が、次のいずれかの事由に該当することとなった場合などの一定の事実(上記1②の取消事由を除く)が生じた場合には、国税庁長官はその承認を取り消すことができることとされている。 3 贈与者の死亡日の属する年分に課税される所得税と時効 贈与者が死亡後に上記2の承認の取消しが行われた場合には、その公益法人等に対して、その贈与者の死亡日の属する年分の所得税が課される。これは、公益法人等がその贈与者とみなされて所得税が課税されるため、課税年度も公益法人等の事業年度を基準として考えるのではなく、その贈与者の課税年度を基準として考えることとなり、その結果、その者の課税できる最後の年、つまり死亡日の属する年で課税することとなる。 この承認の取消しが、その贈与者の死亡日の属する年分の法定納期限から5年を経過した日後に行われた場合には、その公益法人等に対して課される所得税の徴収権が時効となる(通法72①)ため、結果として、その公益法人等に対して所得税が課されることはない【図5】。 【図5】 4 贈与者の死亡日の属する年分に課税される所得税に係る延滞税 上記1の承認の取消しがあった場合には、非課税承認を受けた者に対して所得税が課されることとなるが、既に贈与した者が死亡している場合や遺贈の場合におけるその所得税の額に対する延滞税の計算にあたっては、これらの所得税の法定納期限の翌日が起算日とされている【図6】。 ただし、法定納期限の翌日よりも通知日が遅い場合には、その通知をした日の翌日からそのみなし譲渡課税に係る所得税を完納するまでの期間を基礎として延滞税を計算することとされている(措法40⑭、措令25の17(26))【図7】。 【図6】 【図7】 また、上記2の承認の取消しがあった場合には、公益法人等に対してみなし譲渡に係る所得税が課されることとなるが、既に贈与した者が死亡している場合や遺贈の場合におけるその所得税の額に対する延滞税の計算にあたっては、これらの所得税の法定納期限の翌日が起算日とされている【図8】。 ただし、法定納期限の翌日よりも通知日が遅い場合には、その通知をした日の翌日からそのみなし譲渡課税に係る所得税を完納するまでの期間を基礎として延滞税を計算することとされている(措法40⑭、措令25の17(26))【図9】。 【図8】 【図9】 (了)
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会計リレーエッセイ 【第9回(前編)】星野佳路氏インタビュー「経営者から見たクリエイティブな財務戦略とは」
会計リレーエッセイ 【第9回(前編)】 星野佳路氏インタビュー 「経営者から見たクリエイティブな財務戦略とは」 株式会社星野リゾート 代表取締役社長 星野 佳路 ――クリエイティブな財務戦略のために 古典的な議論ではありますが、特にホテル業界の場合、財務に携わる人とマーケティングに携わる人では、考え方の方向性が異なることが多くあります。つまり同じホテル経営に携わる人でも、財務部門には稼働率優先型の人が多く、マーケティング部門には単価優先の人が多い、というのが典型的なパターンです。 具体的には、まずマーケティング部門は「単価を維持することがブランドの維持につながり、ブランドの維持が結果的に収益へつながる」と考えるのに対し、財務部門は「客室は在庫がきかないので、とにかく単価を下げてでも稼働率の向上を優先すべきであり、その日ごとの稼働を最大化する単価に設定することが、結果的に収益が高まる」と考えます。 この考え方の相反は、ホテル経営が学問として語られるようになってからの典型的な議論であり、コーネル大学のホテルスクールにおいても、財務の授業では「本来どちらを優先すべきなのか」という話から始まります。 私が思うのは、クリエイティブな財務戦略を採っていく上で重要なのは、マーケティング部門が財務部門の事業を理解することがまず一点、それから逆に、財務部門がマーケティング部門の言う顧客満足度やブランド戦略の重要性を理解することがもう一点。 つまり、まずはお互いの分野を理解することから始めていかなければならないと思います。 ――財務部門とマーケティング部門の平行線 このような財務部門とマーケティング部門がたどる平行線の原因としては、財務部門が扱っている事業については明確な数値が出るのですが、マーケティング部門が扱う顧客満足度やブランド力というものは、明確な数値が出てこないということが挙げられます。このため財務部門は「数値として見えないものは信用できない」と指摘する人が多いですし、マーケティング部門からすると「財務部門は数値の話ばかりする」と思ってしまうのです。 そのため、まず私が取り組んだのは、財務部門に顧客満足度やブランド力をより理解してもらうため、それらを数値化することでした。 顧客満足度・ブランド力が重要であるということは財務部門の人も概念的には理解しているのですが、それらについて毎年測定を行い、数値化して示すことによって、広告費やマーケティングにかかるプロモーション費用、またどのくらいお金を使えばブランド認知にどの程度の効果があるか、といった具体的な効果についての理解が深まるのです。 ――顧客満足度の数値化とその活用 この数値化にあたっては、お客様からのアンケート結果がその元になっています。星野リゾートでは1994年からアンケート調査を行っていて、当初はご利用いただいたお客様へ直接アンケート用紙をお渡しして郵送で返信していただく方法でしたが、現在はご利用いただいたお客様にアンケート用のURLが記載された「サンキューメール」をお送りし、そのメールに記載されたURLからアンケートに答えていただくようにしております。もちろんアンケートの結果はデータで自動集計されていますから、現場へのフィードバックも従来に比べて早まっています。 ここでもっとも重要なのはアンケートの返信率で、統計的に有意な数値を確保するために、必達目標を20%に設定しています。私は常々総支配人には「顧客満足度を上げるのと同じくらい重要なのは、アンケート調査のサンプル数を集めることだ」と言っていますし、月1回の総支配人の会議では、利益や売上、稼働率といった業績の報告の前に、このアンケート調査の返信率を施設別に報告させています。また、お客様にどういう説明をすれば返信率が高まるか、どのタイミングでサンキューメールをお送りすればいいかといった返信率を上げるためのノウハウについても蓄積を続けています。 こうして顧客満足度やブランド力を指標として数値化することで、財務部門から「こういうところにお金をかければ、もっとブランド力が上がるのではないか」、「ここは少し原価を下げても満足度に影響は出ないのではないか」といったクリエイティブな活動・提案が出てくるようになるのです。 ――どの部門からでも全体を見られる環境づくり それから逆に、マーケティング部門の人に、財務部門の人の発想を理解してもらうことも重要です。そのため財務部門には、現場のスタッフが直接業務に生かせるような形に数値を加工して出してもらっています。例えば売上については、お土産などの付帯売上が数値に含まれたままだと営業側にとっては指標がぶれてしまいますから、ADR(部屋単価)をほかの分野の売上とは別にするといった方法です。 このように、それまで数値化されていなかったものを数値化したり、数値を加工してフィードバックし合うことで、財務部門・マーケティング部門双方がお互いの事情を理解し、トータルな目線で判断できるようになります。そうして相互理解が深まることで、これまで気づかなかった視点による提案が出てくるようになり、競合他社にはないクリエイティブな戦略が打てるようになるのです。 ここで重要なのは、お互いの事情や指標が理解しやすい「環境をつくる」ということです。環境さえつくれば、スタッフはその環境をうまく利用し、自分の主張を通していける環境が自然と生まれるようになるのだと思います。 ――売上高経常利益率20% 次に、少し具体的な話をすると、星野リゾートは「売上高経常利益率20%」という数値を目標にしています。 これは、業界の標準値と比較してもかなり高い数値です。 また、ホテル業界のマネジメントに使われている指標として「GOP」があります。GOPとは「Gross Operating Profit」の略で、売上から運営会社が自分で関与できる費用項目だけを並べて利益を出した「運営会社が責任を持てる」数値です。ここからオーナーごとにファイナンシングや納税があって、売上高経常利益につながるのです。 おそらくこのGOPを40%以上出さないと、売上高経常利益率20%を達成するのは無理だと思います。 GOPの世界基準は約25%ですから、この40%という数値もかなり高いものですが、軽井沢の「星のや」は、そのGOPが45%出せています。「星のや」については私自分でハード面から設計に携わっており、プールやスキー場などの付帯施設もなく効率化されていますし、スタッフの動線についても効率化できていますから、この結果につながっているのだと思います。 ――ホテル経営における運営と所有の分離 ただ、ハード面から設計したほうが効率がいいからと、はじめから施設を所有してそれを運営することは、基本的に考えていません。再生案件を手がける際にも、再生プロセスの中で必要と判断した場合はいったん施設を所有するケースもありますが、その施設が安定した軌道に乗って収益が出てきたときには、投資家に売却したり、オーナーに所有していただくことになります。 私は、ホテル経営においては、「運営」と「所有」は本来分離すべきだと思っています。運営に特化したノウハウこそが私たちの得意分野であり、そこを得意分野にしなければならないと思ってスタートしたところもありますので、今後は運営に特化していきたいというのが星野リゾートの将来像です。また、現在はREITが上場していますから、今後はREITに組み込んでもらう流れも考えられます。 所有している施設とそうでない施設があると、「自分が所有している施設を優先するのではないか」と思われてしまうこともあり、それは運営会社としての信頼に関わる話になります。また、資金があるときに、例えばシステムなどの運営の仕組みに投資したくても、例えば所有している施設の屋根の修繕に資金を取られるのは、運営会社として望ましくありません。 資産を所有して管理する会社か、不動産収益に重点を置いた会社か、私たちのように運営で収益を得る会社かで、基本的に会社の体質は異なります。私たちが世界のホテル業界で闘っていくには、運営に特化していかなければなりません。事実、ヒルトン・ハイアット・マリオットのような世界的に事業を展開しているホテルチェーンはすべて運営に特化していて、所有は1つもしていないのです。 (後編に続く)
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林總の管理会計[超]入門講座 【第10回】「経費を分類する」
林總の 管理会計[超]入門講座 【第10回】 「経費を分類する」 公認会計士 林 總 「外注費」とそれ以外に分類する 経費予算の管理は難しい (了)
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経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第18回】工事契約会計②「契約変更があった場合の会計処理」
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第18回】 工事契約会計② 「契約変更があった場合の会計処理」 仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広 〈事例による解説〉 受注から完成・引渡しまでの請負金額、原価予算及び発生原価は以下のとおりです。 〈会計処理〉 ① 完成工事高及び完成工事原価の計上(×1年3月期) (*1) 1,000百万円×180百万円/900百万円=200百万円 (*2) 諸口には材料費、労務費、経費等が含まれます。 ② 完成工事高及び完成工事原価の計上(×2年3月期) (*3) 1,100百万円×646百万円/950百万円-200百万円=548百万円 ③ 完成工事高及び完成工事原価の計上(×3年3月期) (*4) 1,100百万円-(200百万円+548百万円)=352百万円 〈会計処理の解説〉 前回述べたとおり、工事進行基準は、工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗度を合理的に見積もり、これに応じて当期の工事収益及び工事原価を計上する方法です。したがって、これら3つの要素の見積りが変更された場合には、変更後の見積りにより工事収益及び工事原価を認識します。 ×1年3月期は見積りの変更がないため、当初の見積り(請負金額1,000百万円、原価予算900百万円)に基づき、工事収益及び工事原価を認識します。 本事例では、×1年4月1日に契約変更が行われ、請負金額が1,100百万円、原価予算が950百万円に変更されています。したがって、×2年3月期以降は、変更後の見積り(請負金額1,100百万円、原価予算950百万円)に基づき、工事収益及び工事原価を認識します。 次回は、工事損失引当金の会計処理について解説します。 (了)
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競業避止規定の留意点 【第2回】「競業禁止義務と秘密保持義務」
競業避止規定の留意点 【第2回】 「競業禁止義務と秘密保持義務」 特定社会保険労務士 大東 恵子 前回説明したように、現行法上「競業避止義務」が課せられるためには、企業の経営に直接関与し、企業との利害の一致が要請される。つまり、取締役や支配人、幹部労働者が対象となる。 一般労働者は、企業経営に直接関与しないため、企業と利害の一致にはならないケースが多い。ただし、一般労働者も労働契約上の義務として、使用者の秘密を保持すべき義務を負っている。 これに対し、退職した労働者が退職後も秘密保持義務を負うか否か、という点では議論が分かれている。 なお、在職中に競業行為が行われた場合には、就業規則に沿った懲戒処分が行われる。労働者は不正な競業によって使用者の正当な利益を侵害しない競業避止義務を信義則による労働契約上の付随的義務として負うことに関しては、学説・裁判判例上の争いはない。 退職した労働者が退職後も秘密保持義務を負うか否か、についての判例は以下のとおりである。 《判例1》 競業禁止を認めた判例 「新大阪貿易事件(大阪地裁・平成3.10.15)」 〔概要〕 会社は、印字機、チケット・ラベル等の製造販売会社。 被申請人Nは、会社の元営業部長である、退職後、即日、自ら代表となって新会社を設立し、退職した会社が取り扱う商品の販売を開始した。 その際、Nは在職当時会社の名で、取引先に対し会社の業務を発展的に継承すべく新会社を設立した旨の挨拶状を送付。また、Nは退職に当たり顧客情報の具体的内容を伴う引継ぎを行わなかった。退職した会社の在庫品を無断で持ち出し一部を新会社で販売、さらに、退職した会社の従業員3名中2名を新会社に移籍させたなどにより、会社の月商が10分の1程度に落ち込んだため、Nに対して競業避止義務に基づく営業停止の仮処分を申請した。 〔ポイント〕 被申請人Nの入社時の雇用契約書には競業避止義務負担特約条項がある。その特約内容は「社員である限り、かつ社員の地位を喪失後3年間に限り、(中略)商品を製造、組立、取扱い若しくは販売してはならない。」とするもの。被申請Nは、この契約書を締結していた。 〔判決〕 裁判所は、事業の性質上重要な顧客情報の利用に関し、得意先を奪うといった競業の禁止行為を、その行為の申請人(会社)に対する影響が最も大きい退職後の3年間に期間を限定し、特約によって禁止することは不合理ではなく、被申請人のいう職業・営業の選択の自由や存在権を侵すものでなく、公正な取引を害するものではない、とした。 《判例2》 競業禁止を否定した判例 「中部日本広告社事件(名古屋高裁・平成2.8.31)」 〔概要〕 控訴人は23年11ヶ月の在職の後、広告業を営む被控訴人会社を退職。退職後直ちに自営の広告代理業の経営を始めた。会社は就業規則に基づき退職金を不支給とした。 〔ポイント〕 会社の就業規則には、退職後6ヶ月以内に同業他社に就職した場合(自営を含む)には退職金を支給しない旨の定めがあった。 〔判決〕 退職金の全額不支給は控訴人に大きな不利益をもたらすものである。それが許認されるには、「顕著な背信性」がある場合に限る。 就業規則に上記の定めがあったとしても、上記①~③の理由により控訴人の退職金をゼロにすることが適当と考えられる「背信性」は認めがたいとして、退職金の不支給を無効とした。 上記判例を見ても、有形無形にかかわらず、技術、ノウハウ、顧客情報など重要となる情報を競合に流失させないため、就業規則、契約書等の作成は急務である。 (了)
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民法改正(中間試案)―ここが気になる!― 【第9回】「債権譲渡」
民法改正(中間試案) ─ここが気になる!─ 【第9回】 「債権譲渡」 弁護士 中西 和幸 民法改正の中間試案の中で、最も複雑なものが債権譲渡に関する部分である。 特に、債権譲渡の対抗要件を、債務者を情報センターとする方法(債務者に対する通知や債務者の承諾とする方法:現行の民法に規定される方法)と、債権譲渡登記を活用する方法(「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」により定められた方法)と二通りが並行して考えられており、結論が出ていない点が大きい。 この点が改正の中心となるようであり、実際、「法制審議会民法(債権関係)部会第74回会議(平成25年7月16日開催)」にて議論されているが、その他にも重要な点がある。 1 対抗要件 (1) 債権譲渡登記(甲案) まず、金銭債権の譲渡については対抗要件を登記とし、非金銭債権については、譲渡の事実を証する書面に確定日付を付することを対抗要件とする考え方である。 この考え方は、債務者がいわば「情報センター」として機能するため、債務者が債権者や譲渡を受けようとする者から照会を受けたりすることが煩雑であり、債権譲渡の当事者が債務者に照会したところ債務者が守秘義務を理由に回答しない等の問題が生じることもあるとのことである。これに加え、債務者を債権譲渡通知の順序を正確に把握しなければならない煩雑さから開放することや、特に金銭債権についての取引の安全を保護することを主眼とする。 もっとも、現在、債権譲渡登記は法人に限って認められているため、自然人への拡張をどのようにするか、債権譲渡があまり広く開示されると譲渡人の信用状態が拡散するおそれがあること、取引の安全のために登記申請に対するアクセスをどうするか等の解決すべき点がある。 (2) 通知(乙案) 債権譲渡登記に対し、現行民法の制度(民法467条)を基本とし、債権譲渡通知を対抗要件とする制度である。この点、乙案は、債務者の承諾は対抗要件とはならないとする案であるが、債務者の承諾を対抗要件から除く理由がないという、現行制度を維持する案も並列している。 なお、スペースの関係上詳細は省略するが、債権譲渡が競合した場合の処理についても、甲案、乙案双方とも提示されている。 (3) 権利行使要件 上記(1)(2)の対抗要件は、いずれも債務者以外の第三者に対する対抗要件である。債務者に対する対抗要件について、中間試案では「権利行使要件」と呼ばれている。甲案の場合は債権譲渡登記がなされたことを証する書面(金銭の場合)を債務者に交付しなければならないとし、乙案は、債権譲渡通知を行えばよいとし、いずれも債務者の承諾は要件としていない。 (4) 異議をとどめない承諾の廃止 債権譲渡に関する承諾に関しては、現行法上、債権譲渡の対抗要件や権利行使要件としての承諾について「異議をとどめない承諾」という制度がある。 債権譲渡において特段異議なく「承諾」をすることにより、債務者が債権者に対して主張できる事由(例えば、期限の利益、時効、相殺等)たる抗弁が、異議なき承諾により一切消滅してしまう制度である(民法468条1項)。 これに対し、改正案では、「抗弁の放棄」という、書面による特別の意思表示を要求する制度に変更している。これにより、想定外に抗弁を放棄するという不意打ちが解消されることになる。 また、債権譲渡と相殺の抗弁の関係についても整理されている。 2 将来債権の譲渡 判例上認められている将来債権の譲渡を明文化するとともに、対抗要件の具備が必要であることや権利行使要件等の関連事項についても、明確化の趣旨で明文化するものとされている。 ただし、債権譲渡後の譲渡制限特約について、債務者が譲渡制限特約を譲受人に主張できないことや、譲渡人の地位に変動があった場合の効力、また不動産賃料債権の譲渡に関する不都合の回避(詳細はスペースの都合上省略する)など、周辺にいくつかの細かな論点が残っている。 3 譲渡制限特約 現行法では、契約上、債権譲渡禁止特約を付することは有効とされている(民法468条2項)。そして、債務者としては債務の弁済先が変動しないメリットがあることから、譲渡制限特約が盛り込まれることは多い。しかし、この譲渡禁止特約は、外部から見えず、そのわりには効果が強いことから、裁判上もいろいろと問題になっている。 一方、ファクタリングやバルクセール、また債権の流動化や債権担保融資など、ファイナンスに関連する債権譲渡に関する必要性は高い。そこで、譲渡禁止特約について、中間試案では、譲渡禁止特約が債務者の利益(弁済先を確定する効力等)を保護するためのものであることを貫徹し、ファイナンスの支障となっている部分を改善しようとするものとなっている。 そのため、譲渡制限特約について善意無重過失の譲受人には対抗できないという判例を明文化したほか、債権譲渡の効力を有効とし、譲渡制限特約が有効であれば債務者は譲渡人に対して弁済や相殺をすればよいものと整理している。 最も影響が大きい事案が、譲渡人が第一譲受人(先)と第二譲受人(後)の双方に債権を二重譲渡した事例である。 このとき、第一譲受人が債権譲渡を受け対抗要件と権利行使要件を備えたが、譲渡制限特約について知っていた一方、第二譲受人が、第一譲受人の対抗要件及び権利行使要件の具備の後に、対抗要件と権利行使要件を具備した場合である。 この場合、現行法の解釈では、判例は見当たらないが、譲渡禁止特約に反する悪意者への債権譲渡が無効となることを貫徹すると、第一譲受人に対する債権譲渡が無効となり、第二譲受人が債権を有効に譲り受けることになろう。 これに対し、譲渡禁止特約と債権譲渡の対抗要件の当事者を確定する機能を切り離し、上記の事例の場合、債務者は譲受人からの履行請求に対して譲渡禁止特約の有効性を主張し弁済や相殺は譲渡人に対して行えばよいが、第二譲受人が債権を有効に譲り受ける余地はないということである。 この他に、債務不履行や債務者が破産等をした場合の処理についても譲渡禁止特約を一定の場合に対抗できないことが提案されている。 4 債権譲渡に関連する制度 (1) 債務引受 中間試案では、判例で認められてきた免責的債務引受と併存的債務引受を明文化することが提案されている。 併存的債務引受については、成立後の債務が連帯債務であること、債権者と引受人の合意又は債務者と引受人の合意であれば足り三者合意が不要であること、債権者の権利は債権者が承諾をしたときに発生することなどを明文化している。 免責的債務引受については、債権者が関与することにより債権者の損害を防止するため、効力発生時期を債権者の免責の意思表示の時とし、また債務者と引受人の合意については債権者の承諾を要件とした。さらに、担保権と保証は免責的債務引受と同時に移転することができるものとし、保証と第三者が提供した担保については第三者の承諾を要件とすることを明文化している。 (2) 契約上の地位の移転 中間試案では、実務上の一般的な理解を明文化するものとしているが、特段詳細な規定は明確にされていない。 5 実務への影響 (1) 対抗要件が未確定 債権譲渡に係る対抗要件については、中間試案に対するパブリックコメント後の現在も早い段階で法制審議会において議論されていることからわかるとおり、どのようになるか方向性が明確でない。 また、施行されるとしても、債権譲渡登記が中心となるのであれば、法務局のシステムを変更する時間が必要となるため、検討し対策を講じる時間が確保でき、焦る必要はないものと思われる。 (2) 債権譲渡登記が金銭債権に限定されていること(甲案) 債権譲渡登記が金銭に限定されている場合、金銭債権と非金銭債権が一体化している債権の譲渡(各種会員権等)については、現時点での解決策は明確でない。 (3) 債務者による承諾が選択肢から外れること 債権譲渡における権利行使要件及び第三者対抗要件から、債務者の承諾が除かれている。 現行法上は選択することが可能であったことから、債務者の承諾による便宜(例えば、債権譲渡の承諾と譲渡禁止特約に対する承諾を兼ねることや、一括決済システムのように多数の債権譲渡にかかる承諾を包括的に取ることなど)が失われる可能性がある。 (4) 譲渡禁止特約の影響 債務者が倒産した場合の処理については、ファイナンスとの影響がどの程度か明確でない。債務者が倒産した場合はもとより、譲渡人の倒産もあり得ることであり、その実務上の影響についての詳細な検討はまだ不十分なように思われる。今後の法制審議会の検討を待つことになろう。 (5) その他 債務引受と契約上の地位の移転については、全く明文がない制度を法律に明文化するものである。 明文がある制度と異なり、明文化する意義は一定程度あろうが、どのような内容が明文化されるか、また、新しい解釈が設けられるかどうかなど、不明確な点が多い。 (6) まとめ 中間試案では、一般的(何が一般的かという問題は残る)実務や判例が明文化される部分が多い中、債権譲渡については制度変更が提案されている部分が多い。この制度変更により、実務自身が大きく変化を余儀なくされる可能性があり、かつ、登記制度自身の見直しという法的制度も影響が大きい可能性がある。 法制審議会では、これほどの改正をしなければならない必要性がどこにあるかを十分検討してもらいたいところではあるが、現場としては、決定されたものに従うしかないのが現実である。 そのためには、結論が出ていない現在は準備のしようがないが、法制審議会の議論をフォローしてある程度方向性が見えた段階で対応を始めることになろう。 (了)
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会計事務所 “生き残り” 経営コンサル術 【第9回】「実務では変動費・固定費の区分なんて子供騙しだ」
会計事務所 “生き残り” 経営コンサル術 【第9回】 「実務では変動費・固定費の区分なんて子供騙しだ」 株式会社 経営ステーション京都 代表取締役 京セラ株式会社 元監査役 公認会計士・税理士 田村 繁和 本を読みますと、経費は変動費と固定費に分けられ、変動費は管理可能で固定費は管理不能だと書かれています。 「管理不能だ」という意味は、一度支出すれば長期間にわたって支払いが続いていくため、管理することが難しいということです。 私は学生時代に損益分岐点の本を読んで、このように学びました。そして、固定費とは家賃や地代、リース料のことをいうのだと知ったのでした。 当時は、「なるほど、このように経費を分析していき、損益分岐点を求めるのか」と感心したものでした。 しかし実際に仕事をしていて、中小企業の優秀な社長から次のように言われびっくりしてしまいました。 「俺たち会社経営する者にとっては、変動費と固定費の区分なんて全く関係ない。ましてや固定費が管理不能費だなんて、笑わしちゃいけないよ。そんな子供騙しのようなことで経営なんかできない。俺たちにとって、経費はすべて管理可能費だ。管理不能費だなんてありえない」と言われたのです。 私は「しかし、家賃や地代は一度支出を決めたら、ずっと続いていくので、管理不能の固定費になるのでは?」と反論しました。 するとその社長から「それじゃ、安い家賃の所へ引っ越せば家賃は下がる。だから家賃は管理可能費だ。 それでもあなたが固定費だと言うのなら、あなたの頭が“固定”費じゃないの」と言われたのでした。 私はその時「そう言えばそうだ。固定費だってすべて管理可能だ。事業に失敗すれば社長の自宅が失くなるのだから、すべての経費が管理可能だと思って経営していかなければ倒産してしまう」と思いました。 そしてこの業界で生きていくには、中小企業の社長の考え方をよく知っておかなければ、成功なんかしないということを教えられたのでした。 (了)