件すべての結果を表示
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載41〕 雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除制度(所得拡大促進税制)の疑問点(前編)

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載41〕 雇用者給与等支給額が増加した場合の 法人税額の特別控除制度(所得拡大促進税制)の疑問点 (前編)   税理士 長谷川 敏也    Q 給与等支給額を増加させた場合におけるその増加額の一定割合の税額控除を可能とする制度(所得拡大促進税制)が創設されましたが、以下の2点はどのようになりますか。 また、申告書別表の記入はどのようになるのでしょうか。事例を示してください。 (1) 給与等支給額に出向者受入れに伴う分担金や、海外赴任者のいわゆる留守宅手当が含まれますか。 (2) 当期に新設した法人ですが、全額が増加額としてカウントできるのでしょうか。 A (1) 出向先法人が出向元法人へ出向者に係る給与負担金の額を支出する場合において、当該出向先法人の国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に当該出向者を記載しているときには、当該給与負担金の額は、「国内雇用者に対する給与等の支給額」に含まれる。また留守宅手当は国内雇用者ではないので除かれる。 (2) 新設法人の場合には、基準事業年度等がないので、最も古い事業年度等である設立の日を含む事業年度を基準となる事業年度とした上で、その設立の日を含む事業年度の給与等支給額の70%相当額を基準雇用者給与等支給額とすることとされている。これにより、新設法人が国内雇用者に給与等を支給する場合には、必ず、この制度の適用ができるということになる。 解 説 (1) 制度の概要 この制度は、法人の平成25年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する各事業年度において次の3要件を満たすときは、その雇用者給与等支給増加額の10%相当額の税額控除ができるというものである(措法42の12の4)。 この制度を適用できる法人は、青色申告書を提出する法人とされ、適用に当たり資本金の額の多寡等の要件はない(措法42の12の4①)。 なお、平成25年10月1日に取りまとめられた与党税制改正大綱では、個人の所得水準の改善を通じた消費喚起をさらに推進するため、この所得拡大促進税制の拡充が提案されている。具体的には次の見直しを行った上、適用期限を2年間延長することとされている。   (2) 国内雇用者に対する給与等支給額 ① 国内雇用者 法人の使用人のうち、その法人の国内の事業所に勤務する雇用者をいい、具体的には、国内に所在する事業所について作成された労働基準法に規定する賃金台帳に記載された者とされている(措法42の12の4②一、措令27の12の4②)。 労働基準法上、賃金台帳には、日々雇い入れられる者も記載することとされているので、日々雇い入れられる者も国内雇用者に該当することとなる。 また、出向先が海外にあるため出向元法人が支給するいわゆる留守宅手当の額は、当該出向者が「その法人の国内の事業所に勤務する雇用者」ではないので除かれる。 なお、法人の使用人に限られているので、当然に役員は対象外であり、実質的に役員と同一の者と考えるべき者として、役員と特殊の関係のある次の者は除かれている(措法42の12の4②一、措令27の12の4①)。 また、使用人兼務役員は、使用人としての職務を有する役員であるが、その使用人としての部分を含め、対象から除かれているので留意が必要である。 ② 給与等 所得税法第28条第1項に規定する給与等をいうこととされている(措法42の12の4②二)ので、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与をいうこととなる。 ③ 出向者の取扱い 「平成25年度税制改正の解説」(財務省,435頁)によれば、次の通り記載されている。 また、租税特別措置法関係通達においては次の通り規定されている。 この租税特別措置法関係通達42の12の4-3(出向先法人が支出する給与負担金)では、「当該出向先法人の国内に所在する事業所につき作成された労働基準法第108条に規定する賃金台帳に当該出向者を記載しているとき」とあり、労働基準法及び同施行規則では次の通り規定されている。 上記のように賃金台帳に関する定めにおいて、出向者を除外する旨の定めは設けられていない。 出向とは、「出向元事業主との間に雇用契約関係があるだけではなく、出向元事業主と出向先事業主との間の出向契約により、出向労働者を出向先事業主に雇用させることを約して行われている出向元事業主及び出向先事業主双方との間に雇用契約関係がある、すなわち、出向先事業主と労働者との間の雇用契約関係は通常の雇用契約関係とは異なる独特のもの」(「労働者派遣事業関係業務取扱要領(平成23年4月)」(厚生労働省職業安定局))である。 すなわち、出向については出向元、出向先の両法人で賃金台帳を作成することになると考えられる。賃金負担割合は関係ないため、出向者の給与の負担割合が出向元2割出向先8割などといった双方が負担しているという状況だけではなく、出向先が全額負担している(出向元負担なし)という状況であったとしても出向元、出向先ともに賃金台帳を作成しなければならず、賃金台帳に当該出向者を記載しているときには、当該給与負担金の額は、措置法第42条の12の4第2項第3号から第5号までの「国内雇用者に対する給与等の支給額」に含まれることとなる。 また、上記通達42の12の4-3では、「出向先法人が出向元法人へ出向者に係る給与負担金の額を支出する場合において、・・・当該給与負担金の額は、措置法第42条の12の4第2項第3号から第5号までの「国内雇用者に対する給与等の支給額」に含まれる。」としている。 この「給与負担金の額」に関しては、特に通達の本文上は定義等が設けられていないが、法人税基本通達9-2-45(出向先法人が支出する給与負担金)の解説(逐条解説)の最後の文章に「その経営指導料等の内容を給与相当部分、福利厚生部分等に区分したうえで本通達の取扱いが適用されることになる」とあることから、実質的に給与相当部分が対象となる、と解される。実費精算という形で行われている場合には給与等の部分が対象となる。なお、「福利厚生部分等」は「給与負担金の額」には該当しないが、損金にならないということではない。 「出向者給与負担金」が、実費精算という形で行われている場合には給与等の部分を把握することは可能であるが、所得税法上の給与等以外の法定福利費の事業主負担分や退職給付費用等が加算されている場合に、その給与等金額を抜き出すことが、出向元法人から開示されない等の理由から合理的にできない場合がある。 その場合には「出向者給与負担金」の総額を賃金台帳に記載して、当該金額を給与等支給額とせざるを得ないと考えられる。 (次号(後編)へ続く)
#41(掲載号)
#長谷川 敏也
2013/10/24
会計 固定資産 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

減損会計を学ぶ 【第1回】「減損会計の全体像」

減損会計を学ぶ 【第1回】 「減損会計の全体像」   公認会計士 阿部 光成   平成14年8月に、企業会計審議会から「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(以下「減損会計意見書」という)が公表され、平成17年4月1日以後開始する事業年度から実施されている。減損会計はすでに実務に定着しているものといえる。 減損会計は、企業の業績が悪化するなどし、将来の収益が十分には獲得できない場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように固定資産の帳簿価額を減額する会計処理である。このため、減損会計は毎期決算のポイントとなる事項であり、将来の収益の獲得という見積りの要素が重要となる。 前述のように減損会計はすでに実務に定着しているものの、導入当初はなかなかなじみにくい会計基準であるとの意見が聞かれた。これは、減損会計には全体像が理解しにくい面があること、減損の兆候などの新しい用語が使用されていること、管理会計の要素を考慮する面があることなどがあるためではないかと考えられる。 本連載では、「減損会計を学ぶ」として、減損会計の基本的な考え方から解説を行う。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 減損会計に関連する会計基準等 減損会計に関連する会計基準等としては次のものが公表されている。 減損会計はこれらの会計基準等に準拠して行うので、これらについて理解することが必要となる。   Ⅱ 減損会計の全体像 1 プロセスによる理解 大きく分けると、減損会計は、次のステップによる一連のプロセスである。 ここでのポイントは、減損会計をプロセスとして理解することである。 下記の図解では矢印が基本的に一方向に流れていくように記載されている。これは、最初のステップから最後の減損処理のステップまでが一連の流れ(プロセス)であることを示している。 減損会計は、それまでに設定・改訂された会計基準と比較して、実務において理解しづらいものと受け止められることが多かったと思われる。一つの理由として、減損会計の全体像を理解することが難しかったためではないかと思われる。 減損会計の理解には、下記の図解のように一連のプロセスとして理解することがポイントになると思われる。 (出典)監査法人トーマツ編『Q&A減損会計適用指針における会計実務』(清文社、2004年4月)12ページを一部修正   2 対象資産の把握 「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「減損会計基準」という)は、固定資産を対象に適用すると規定している(減損会計基準一)。 ただし、他の基準に減損処理に関する定めがある資産は除かれる(例:「金融商品に関する会計基準」の金融資産)。 3 グルーピング 複数の資産が一体となって独立したキャッシュ・フローを生み出す場合には、減損損失を認識するかどうかの判定及び減損損失の測定に際して、合理的な範囲で資産のグルーピングを行う(減損会計意見書四2(6)①)。 通常、単独の固定資産としてキャッシュ・フローを生み出すことはそれほど多くないと考えられる。例えば、製造業の工場のように建物、土地、機械装置などの複数の資産を一体として利用し、キャッシュ・フローを生み出していることが多いと考えられる。そこで、資産のグルーピングを検討することになる。 4 減損の兆候 減損の兆候とは、資産又は資産グループに減損が生じている可能性を示す事象をいう(減損会計基準二1)。 減損会計基準では次の事象を例示している。 5 減損損失の認識の判定 減損損失を認識するかどうかの判定は、資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較することによって行う。そして、資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合には、減損損失を認識すると判定することになる(減損会計基準二2(1))。 6 減損損失の測定及び減損処理 減損損失を認識すべきであると判定された資産又は資産グループについては、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として当期の損失として処理する(減損会計基準二3)。 減損会計基準注解1では次の用語を定義している。   (了)
#41(掲載号)
#阿部 光成
2013/10/24
会計 税務・会計 管理会計 解説 解説一覧

林總の管理会計[超]入門講座 【第13回】「原価情報に大切なのは「新鮮さ」と「客観性」」

林總の 管理会計[超]入門講座 【第13回】 「原価情報に大切なのは 「新鮮さ」と「客観性」」   公認会計士 林 總   実務の部門別計算は 原価計算基準どおりではない   「責任を分ける」ための計算手順 (了)
#41(掲載号)
#林 總
2013/10/24
労務 労務・法務・経営 社会保険

建設業が危ない!労務トラブル事例集・社会保険適用の実態 【第4回】「建設業で起こりがちな労務トラブル(その1)」

建設業が危ない! 労務トラブル事例集・ 社会保険適用の実態 【第4回】 「建設業で起こりがちな労務トラブル(その1)」   なりさわ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美   実際に、建設業で起こりがちな労務トラブルとはどのようなものが多いのか、どんな点に注意をするべきなのか、2回にわたり、下記1~4について確認をしたい。 1 突然社員が出社しなくなり、そのまま退職してしまう これは業界問わず最近増加傾向にあり、入社年数が浅い社員に起こりがちなトラブルでもある。 「ある日突然に社員と連絡が取れなくなる」「1週間程前から休みがちだったのが出社しなくなってしまう」など会社側にも直接の原因が分からず、対応に困ってしまうケースである。 例えば、現場でのミスを上司に注意されたのが原因で出社拒否に至る場合は、原因となった上司との関係回復を図るなど対策を講じることもできるが、「会社に行きたくない」「つまらない」「飽きた」など、出社拒否につながる直接の原因がはっきりしない場合には、個人的な事情も含まれている可能性もあり、なかなか原因がつかめず、残念ながら退職として扱うしかないケースもしばしば見受けられる。 会社側からすれば、突然来なくなった社員には「給料も支給したくない・・・」と思われるのも当然の心理ではあるが、労働基準法上はそう扱うわけにもいかず、既に働いた分の給料は支給しなければならない。 このような状態に陥らないようにするには、 など細かな対応を、日々積み重ねていく必要がある。   2 現場での就業時間が把握しにくい 現場での就業状況を把握しにくく、実際の就業時間と会社が把握している就業時間とにズレが生じることが多いのも、この業界の特徴といえる。就業時間の把握ができてないということは、残業代未払いとの労働基準監督署からの指摘を受けかねない。 時間管理は現場管理者の職務責任となり、日々の業務管理の中で就業時間を把握するようにしていく必要がある。 ちなみに、屋外の建設現場の場合、日々の天候に工事進行が左右される。この場合、会社側の都合で休ませた場合の給与をどう扱うべきだろうか。 労働基準法第26条では と定めている。 ここでいう休業手当は、事業主(会社)の都合により休ませた場合に、最低限、社員の生活を保障する意味で定められたものであり、「使用者が不可抗力を主張できないすべての場合」をいうとされている。 日々の天候は、会社側がいくら晴天を望んでもその通りになるものではなく、会社の都合で調整できるものでもないため、自宅待機の場合であっても、基本的には休業手当の支払いは発生しない。 なお天候不順で現場が休みとなった日を、法律でいうところの「休日」とすることはできず、この場合は、原則的な休日を定めておき、天候不順で現場が休みとなった日を休日とし、元々の休日を振り替えて労働日とするように定めておくことで、雨天日の日などを休日扱いとすることができる。 *   *   * 次回は上記3及び4のトラブルについて確認したい。 (了)
#41(掲載号)
#成澤 紀美
2013/10/24
労務・法務・経営 経営

顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第20回】「固定資産管理のKPI(その① 資産取得実行・リース実行)」

顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第20回】 「固定資産管理のKPI (その① 資産取得実行・リース実行)」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 前回までは「棚卸資産管理」のKPIを取り上げたが、今回から3回にわたり、「固定資産管理」のKPIを取り上げる。 固定資産は、会社がその営業目的を達成するために所有し、その加工もしくは売却を予定していない資産である。固定資産は、営業目的を達成するため長期間にわたり利用されることを予定しているため、購入にあたり長期的な収益見通しの判断が伴う。さらに、その取得にかかる金額が大きいことから、資産除去債務の両建計上も相俟って、その評価と測定に実務上の課題が多い。 そこで、今回は、固定資産の取得の入口で正確性を担保するKPIを取り上げる。   KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 経済産業省スタンダードでは、固定資産管理において、会社が担う一般的な機能として、「資産取得」、「減価償却費管理」、「現物管理」、「資産評価(減損)」、「メンテナンス対応」、「資産除却」、「リース管理」、「固定資産税申告・納付」という8個の機能を挙げている。 これらの8個の機能のうち、資産取得に着目してその機能を分解すると、「資産取得申請」、「資産取得実行」、「支払」という3個の機能から構成される。 今回解説するKPIは、「資産取得」のうち、「資産取得申請」と「資産取得実行」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:固定資産管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より)   さらに、経済産業省スタンダードでは、「資産取得申請」と「資産取得実行」に関連する業務プロセスを次のようにまとめている。 〈経済産業省スタンダード:4.1.1申請内容検証〉 〈経済産業省スタンダード:4.2.1仮勘定計上〉 〈経済産業省スタンダード:4.2.2資産計上〉 〈経済産業省スタンダード:4.2.3資産計上(完成品)〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より)   「資産取得申請」では、会社が固定資産を取得する意思決定を行うにあたり、設備投資計画に照らして、取得する資産の内容、償却期間の確認、収益性の検証を行い、取得が妥当との判断に至れば、購入かリースかの取得形態を決める。 「資産取得実行」では、建設途中にある有形固定資産を取得する場合と、完成品としての有形固定資産を取得する場合で、業務プロセスが異なる。 前者の場合、いったん仮勘定を計上する。その後、固定資産が完成し、その使用・稼動が開始したときに、固定資産の取得にかかる付随費用を含めて資産計上額を算定し、仮勘定から固定資産への振替を行う。 後者の場合、固定資産を受領し、その使用・稼動が開始したときに、固定資産の取得にかかる付随費用を含めて資産計上額を算定し、固定資産を計上する。 今回のKPIは、資産取得実行に関連する業務プロセスを前提に、有形固定資産の使用・稼動開始の事実発生日から経理財務部門への報告日までの平均日数を問うものである。   定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 「有形固定資産の使用・稼動開始の事実」とは、固定資産が要求された機能を満たして実際に事業の用に供されていることをさす。その取得形態が、固定資産の購入によるもの、自家建設によるものだけでなく、リースによるものも含む。いずれの場合も、「有形固定資産の使用・稼動開始の事実」は、投資の入口で減価償却費又はリース料の計上開始の前提となる重要な会計事象である。 「経理財務部門への報告日」とは、工場等の固定資産利用部門からの報告を受けて経理財務部門が行う完成振替日、又は経理財務部門が現場を視察して使用・稼動開始を確認して行う完成振替日をさす。   KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルにおいて、このKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、減価償却費又はリース料の発生額を適正に財務諸表に反映するため、有形固定資産利用部門から経理財務部門に対して行う有形固定資産の使用・稼動開始の事実発生の報告を早期に完了することが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 このKPIが有効な評価指標として機能するために前提となる管理体制として、有形固定資産購入の前に、それを利用する部門が、稟議書を作成し、回覧する承認手続、使用・稼動の証拠を定める規程の整備が挙げられる。 さらに、資産計上する金額の正確性を担保するため、取得原価に含める借入費用等の付随費用の範囲の規程を整備すること、自家建設による場合では、建設等のため要した原材料費、労務費、経費と事業の用に供するため直接要した費用を適正な製造原価として算出する原価計算基準が必要である。 また、資産除去債務に関する会計基準に基づき、将来の資産除去費用の現在価値を取得原価に加算する会社は、投資の途中から出口までに発生する除去費用を投資の入口時点で見通すしくみが求められる。 もし会社の中で、このようなKPIを設定した価値判断が共有されず、有形固定資産の使用・稼動が開始されているのに経理財務部門への報告が遅れる場合、どのような事態が想定されるのか。 まず、取得した有形固定資産の帳簿への計上が漏れてしまうだろう。 そして、有形固定資産の計上が漏れた結果、計上すべき減価償却費やリース料の計上が漏れてしまう。 仮に計上漏れを防ぐことができたとしても、有形固定資産取得日と減価償却費又はリース料の計上開始日が一致しない可能性が高まり、減価償却費又はリース料の金額に誤りが発生する可能性が高まる。 そこで、スコアリングモデルでは、有形固定資産の計上の正確性のレベルを比較するため、有形固定資産の使用・稼動開始の事実発生日から経理財務部門への報告日までの平均日数をKPIとした。そして、この日数が短い会社が長い会社よりも相対的に望ましいと考えている。   顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 まず、読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、固定資産の取得申請と取得実行に関する業務プロセスが組み込まれていることを確認していただきたい。 例えば、固定資産管理規程を閲覧し、使用・稼動の証拠、取得原価の範囲、資産除去債務の定義と具体的処理が定められていることを確認することが考えられる。 それを前提に、稼動開始報告書、固定資産管理台帳を閲覧し、使用・稼動開始の事実が発生した日から経理財務部門における完成振替日までの平均日数を算出していただきたい。 さて、読者の顧問先において、有形固定資産の使用・稼動開始の事実発生日から、経理財務部門への報告日までの平均日数は何日になったであろうか。 *  *  * 次回も、引き続き「固定資産管理」を構成する複数のKPIから、「有形固定資産現物管理」に関連する業務プロセスを評価するKPIを取り上げる。 (了)
#41(掲載号)
#島 紀彦
2013/10/24
労務・法務・経営 経営

〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第19回】「地域医療支援病院~承認要件の見直し~」

〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第19回】 「地域医療支援病院~承認要件の見直し~」   東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕   1 地域医療支援病院見直しに関する議論 医療法改正の議論が進行中であり、その中で地域医療支援病院の承認要件の見直しが行われようとしている。 平成24年10月末時点で、地域医療支援病院は439病院存在する。現在、二次医療圏は全国で349であり、地域医療支援病院が存在する二次医療圏は208であるため偏在が生じており、その絞込みが図られる可能性が高い。 図表1は、二次医療圏別の地域医療支援病院数である。 図表1 二次医療圏別地域医療支援病院数 最も多いのが北九州医療圏の11であり、大阪市や福岡・糸島医療圏ではそれぞれ9が承認されている。 必ずしも二次医療圏に1つと限定されているわけではないが、二次医療圏を対象とした地域中核急性期病院という観点からは、承認数が多すぎる地域が存在するともいえよう(ただし、二次医療圏は人口や役割等が異なっており、画一的に数を制限することは医療提供の実態にそぐわない可能性もある)。 このように地域医療支援病院が増加したのは、経済性が関係していると思われる。 地域医療支援病院入院診療加算は、DPC/PDPSにおける機能評価係数Ⅰで0.0277とされており、当該加算だけで500床規模の病院では1億円程度の増収になることが期待できる。また、後述する外来縮小という点で比較的性格が似た総合入院体制加算とあわせると2億円以上の増収になることもあり、経済的な魅力度は高い。 ただし、地域医療支援病院の承認を受けるためには、紹介率・逆紹介率で一定水準以上が求められており、そのためには外来縮小を図る必要がある。 病院の外来縮小という方向性は、医療政策の喫緊の課題であり、特に大病院の場合には、経済性向上のためにも、勤務医の負担軽減を図るためにも求められる機能といえる。 今回の地域医療支援病院の見直しの議論では、図表2に示す紹介率の算式の分子から救急患者数を削除する方向性が打ち出されている。 図表2 仮にこのような変更が現実のものとなると地域医療支援病院数は減少することが見込まれており、政策的な意図は実現できるかもしれない。しかし、救急医療に注力し、地域医療を支える病院の成長を阻害する可能性もあり、慎重な判断が期待される。 また、この救急患者数は、地域医療支援病院の場合には、緊急入院した初診患者であり、その中には紹介状を持ってくる患者もいる。紹介状を持って来れば紹介患者としてカウントできるため、救急であろうと何でも紹介状がないと受付をしない医療機関が生じないことを願いたい。   2 紹介率・逆紹介率の算定方法 外来縮小のためには、紹介率・逆紹介率を一定水準にすることが求められている。ただし、クリアのためにあるテクニックを使う医療機関も存在し、外来縮小の取り組み実態が本当に評価されているとは言い難い部分もある。 紹介率・逆紹介率をクリアするために重要なのは、分母の初診患者数を減らすことである。紹介状を持たない患者に対して初診時選定療養費を設定する等の施策を行う医療機関は多く、実態として大病院で初診患者数を減らすことは医療政策の方向性に合致している。 しかし、上述したように“あるテクニック”を用いて、初診患者数を見かけ上、減少させている医療機関も存在するようである。 それは、“初診料を算定しない”という手法である。 傷病名や患者の状態によることはもちろんであるが、前回来院から3ヶ月程度で初診とする医療機関が多いようである。しかし、このテクニックを使う医療機関は、再診料をできるだけ算定し、再診までの間隔が1年を超える場合も存在するという。 術後のフォローアップ等で1年に1回予約をとっているような場合には、再診であろう。しかし、1年程度来院間隔があり、かつ、他の傷病名にもかかわらず、あえて初診料を算定しないことは適切な対応だろうか。 もちろん初診料を算定した方が再診料よりも点数は高く、再診料の算定を乱発することは経済的に不利な状況に陥る。しかし、地域医療支援病院になることの魅力はそれを上回っているのである。算定式の妥当性に疑問符がつくと言わざるを得ない。   3 紹介率・逆紹介率に関する提案 筆者は紹介率・逆紹介率の分母の設定について、初診患者数ではなく、延べ外来患者数を提案したい。異論があることは承知だが、外来患者を抜本的に減少させるための有効な施策であると考えられる。 実際に、地域医療支援病院であっても、外来患者延べ数を初診患者数で割った平均通院日数が非常に多い病院が存在する(図表3)。 図表3 地域医療支援病院の平均通院日数 これらの病院は、新患に対して再診患者数が多いにもかかわらず地域医療支援病院に承認されている。前述した初診料を算定していない等のことが関係している可能性もある。 また、分子の救急患者数については現行のままでよいと考える。地域中核病院として救急医療を支えることは重要であるし、ましてや緊急入院患者を対象としているので、入院するような重症な救急患者の受け皿がなくなったら地域医療は崩壊しかねない。 特定機能病院の紹介率における算式で、救急患者は救急車搬送の患者(入院したかどうかは問われていない)でありハードルが低いことをも踏まえ、地域の救急医療を支えることの意義をもう一度考えていただきたい。   4 総合入院体制加算との違い 地域医療支援病院は原則として200床以上であることが求められており、総合入院体制加算は病床数の基準はないが産科・精神科を標榜し一定以上の救急・全身麻酔などの症例数が求められるという違いはある。しかし、積極的に逆紹介を行い、地域と連携し外来縮小を図るという点では共通点もある。 それにもかかわらず、地域医療支援病院にはなれたが、総合入院体制加算は届出ができない。あるいはその反対の医療機関も存在する。 病院機能による違いはあるものの、総合入院体制加算を届け出ることの方が、地域中核病院としての役割を果たしているものと筆者は考えている。 総合入院体制加算は、まず総合性があり、最後の砦の医療機関としての機能を有しているとも捉えられる。さらに、入院患者について診療情報提供料Ⅰの注7(退院時情報添付加算)を算定する患者等が一定以上いることが求められ、地域との連携が必須となる(ただし、治癒を乱発し、当該加算を算定することは望ましくない)。 それに対して、地域医療支援病院は、形式的な要素が強く、外来患者に選ばれない、あるいは再診患者が集う医療機関が承認される事例も散見される。 地域中核病院の機能を定義することは容易ではないが、今こそ将来に向けた抜本的な議論をすべき時である。 地域の患者及び医療機関から信頼される病院を選別する視点を忘れてはいけないし、我々が目指し続けるべきことでもある。 (了)
#41(掲載号)
#井上 貴裕
2013/10/24
読み物 連載

女性会計士の奮闘記 【第10話】「セミナー講師をやってみる?」

女性会計士の奮闘記 【第10話】 「セミナー講師をやってみる?」   公認会計士・税理士 小長谷 敦子   ◆ワンポントアドバイス◆ プレゼンや勉強会の講師をする場面では、 ① 頷いてくれる人の方を見ながら話して、気を落ち着かせる。 ② 重要な点を話すときには、その前に間を空ける。緊張して余裕のない時は、ひと呼吸(深呼吸)する。 ③ 強調したい単語は2回繰り返す。 ④ 内容は、腹八分目。多くのことを伝えようとしても、聴いている方が消化不良を起こしてしまうことがある。 (了)
#41(掲載号)
#小長谷 敦子
2013/10/24
お知らせ その他 会計 会計情報の速報解説 税務・会計 財務会計 速報解説一覧

《速報解説》 電子記録債権に関する会計処理及び表示について(でんさいネット)

《速報解説》 電子記録債権に関する会計処理及び表示について(でんさいネット)   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 「電子記録債権法」(平成19年法律第102号)に基づいて電子記録債権を活用する際の会計処理及び表示については、企業会計基準委員会から「電子記録債権に係る会計処理及び表示についての実務上の取扱い」(実務対応報告第27号)が公表されている。 株式会社全銀電子債権ネットワーク(通称、でんさいネット)のホームページでは、電子記録債権の会計処理などに関する実務上の問題について述べている部分がある。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 電子記録債権 電子記録債権とは、その発生又は譲渡について、電子記録(磁気ディスク等をもって電子債権記録機関が作成する記録原簿への記録事項の記録)を要件とする金銭債権であり、その取引の安全を確保し事業者の資金調達の円滑化等を図る観点から、従来の指名債権や手形債権とは異なる新しい債権の類型として制度化されたものである。   Ⅲ 会計処理及び表示 電子記録債権の取扱いなどについては、株式会社全銀電子債権ネットワークのホームページで公開されている。 同ホームページでは10月15日付で、「よくある質問」の「その他」のQ18からQ20が更新されており、電子記録債権(でんさい)に関する会計上の取扱いについて次のQ&Aが追加されている。実際の回答については、同ホームページをご覧いただきたい。 実際の電子記録債権(でんさい)に関する会計処理及び表示については、公認会計士・税理士と十分に協議し、慎重に対応することになると考えられるので、注意が必要と思われる。 (了)
#40(掲載号)
#阿部 光成
2013/10/21
お知らせ 会計 会計情報の速報解説 税務・会計 財務会計 速報解説一覧 開示関係

《速報解説》 「新規上場に伴う負担の軽減」に関する議論について-新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方-

《速報解説》 「新規上場に伴う負担の軽減」に関する議論について -新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方-   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成25年10月15日、金融審議会の「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」(第6回)が開催された。 そこで示された「事務局説明資料」によると、新規上場に伴う負担の軽減のために、次の事項について議論が行われている。 特に、②の議論に関して、新規上場後一定期間に限り「内部統制報告書」に係る公認会計士の監査を免除することについては、従来の制度的な枠組みを大きく変えることになると考えられるので、慎重な議論が必要と思われる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 新規上場の際の有価証券届出書に記載する財務諸表の年数 新規上場の際(「企業内容等の開示に関する内閣府令」8条2項1号)に使用する有価証券届出書(第2号の4様式)の記載内容には次のものがある。 これについて、新規上場以外の上場企業が募集・売出しに当たり「有価証券届出書」を提出する場合には、直近の「有価証券報告書」を活用することが認められており、当該直近の「有価証券報告書」では、過去2年間分の監査済み財務諸表の記載で足りることなどの状況にあることから、次の議論が行われている。   Ⅲ 「内部統制報告書」の提出に係る負担の軽減 上場企業は、事業年度ごとに「内部統制報告書」の提出が求められており、当該「内部統制報告書」は、公認会計士による監査を受けることが必要である。 当該義務は、上場企業すべてに課されるものであり、新規上場企業も、上場後事業年度ごとに、公認会計士による監査を受けた「内部統制報告書」の提出が必要となる。 これについて、新規上場のコストを低減させる観点から、「内部統制報告書」の提出に係る負担を一定期間軽減することができないかについて検討され、次の議論がなされている。   Ⅳ 日本公認会計士協会の意見 平成25年10月15日付で、日本公認会計士協会は「新規上場における内部統制報告書提出に係る負担の一定期間の軽減に対する意見」を提出している。 日本公認会計士協会としては、有効な内部統制は適切な財務諸表作成の前提であり、社会的な責任もますます高まる新規上場に当たっては、その段階こそ内部統制を整備し、有効に運用していく体制が求められるものと考えるとし、経営者による内部統制報告書の信頼性を担保する措置として内部統制監査は必要不可欠なものであり、時代の要請に逆行する方向での施策には、投資者保護の観点からも基本的には反対であると述べている。 そして次の事項について述べている。 (了)
#40(掲載号)
#阿部 光成
2013/10/21
税務 税務・会計 解説 解説一覧

「民間設備投資活性化等のための税制改正大綱」を読む【第2回】

「民間設備投資活性化等のための 税制改正大綱」を読む 【第2回】   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部 泰久   (前回はこちら)   7 産業競争力強化法と税制措置 日本再興戦略の確実な実行を図るために、産業競争力の強化に関する施策を総合的かつ一体的に推進するため、開会中の臨時国会において、「産業競争力強化法」の制定が予定されている。 (1) 産業競争力強化法の概要 産業競争力強化法は、日本再興戦略の実行を図る「緊急構造改革期間(平成30年度までの5年間)」において、以下の様々な施策を実現するための特例措置を整備するものである。 なお、産業競争力強化法の施行は、公布後3ヶ月以内とされているが、各種計画に必要な指針等を、パブリック・コメントを踏まえて策定する必要があることから、来年(2014年)1月になると思われる。 (2) 「事業再編促進税制」の創設 「日本再興戦略(6月14日閣議決定)」では、「収益力の飛躍的な向上に向けた戦略的・抜本的な事業再編を推進する企業に対して、税制措置や金融支援などの必要な支援措置を講じる。」として、事業再編を強力に後押しするために大胆な税制措置を講じることとされていた。 その具体化として、「事業再編促進税制」が創設される。 本特例では、産業競争力強化法施行の日から平成29年3月31日までの間に、産業競争力強化法により「特定事業再編計画」の主務大臣認定を受けた複数の事業者が、その事業の一部を分離・統合して新会社(特定会社)を設立する場合、特定会社に対する出資額の70%を「特定事業再編投資損失準備金」として積み立て損金算入することができる。 準備金は10年間据え置き、あるいは統合会社が3期連続で営業黒字に至った場合には、5年間で均等に取り崩し、それに至らず統合会社が解散した場合には、その期において一括して取り崩すことになる。 【事業再編促進税制】 (経済産業省ホームページより) (3) 「ベンチャー投資促進税制」の創設 「日本再興戦略」では、「開業率が廃業率を上回る状態にし、米国・英国レベルの開・廃業率10%台(現状約5%)を目指すために、ベンチャーへの資金供給を大幅に拡大する。このため、現行のエンジェル税制を使い勝手の良いものに改善し、民間企業等の資金を活用したベンチャー企業への投資を促すために、必要な措置を講ずる。」とされていた。 この具体化として、「ベンチャー投資促進税制」が創設される。 本特例では、産業競争力強化法施行の日から平成29年3月31日までの間に、産業競争力強化法により「特定新事業開拓投資事業計画」の主務大臣認定を受けた投資事業有限責任組合(ベンチャーファンド)に出資する事業者(有限責任組合員に限る。また、適格機関投資家である場合には出資予定額が2億円以上である者に限る)が、同計画により組合財産となる「新事業開拓事業者(ベンチャー企業)」の株式を取得した場合には、その株式の毎期末の帳簿価額の80%以下を「新事業開拓事業者投資損失準備金」として積み立て損金算入することができる。 準備金は翌期初に全額を益金算入した上で、期末に当期における新規投資額を加え売却分等を差し引いた額を損金算入する(洗い替え方式)。 【ベンチャー投資促進税制】 (経済産業省ホームページより) (4) 登録免許税の軽減 産業活力法の各種計画の主務大臣認定を受けた場合には、登録免許税が以下のように軽減される。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。   8 復興特別法人税の廃止と法人実効税率引下げへの道筋 今回の経済対策において、とりわけ重要であるのは、安倍総理が経済活性化の要として法人実効税率の引下げに強い意欲を示し、与党税制調査会や財務省の抵抗を押し切る形で、復興特別法人税の廃止とともに、法人実効税率引下げに向けた早期検討を打ち出したことである。 (1) 復興特別法人税の廃止 平成23年度税制改正により法人税率が30%から25.5%へ引き下げられたことにより、本来、法人実効税率も40%台から35%台(東京都:40.69%→35.64%)となるはずであったが、東日本大震災からの復興に要する財源策として法人税額(国税のみ)の10%を復興特別法人税として平成24年度~26年度の3年間にわたり上乗せし2兆4,000億円を捻出することされたため、法人実効税率は38%台(東京都:38.01%)に止まっている。 この2兆4,000億円とは、23年度税制改正において課税ベースの拡大等の増税等を差し引き、ネットで7,800億円の法人税減税となるはずであったところから、それに見合う分として8,000億円×3年分として算出されたものである。 しかし、企業収益の改善により、法人税収は当時の見通しを大幅に上回り、平成24、25年の2年度分だけで2兆円に近い額となるのは確実と期待されている。 すなわち、復興法人特別税を廃止しても、自然増収だけで復興財源分を十分に確保できる状況にある。 一方、与党内では、復興特別法人税の廃止が、投資・雇用の拡大や賃金上昇につながることが必要とする意見が強く、大綱では、「復興特別法人税の廃止を確実に賃金上昇につなげられる方策と見通しを確認すること等を踏まえたうえで、12月中に結論を得る」とされている。 この具体的な「方策と見通し」については、総理大臣の下に置かれた「経済の好循環実現に向けた政労使会議」において、経団連から提案することになる。 企業活力の再生を通じて国民生活の改善を実現させ、 という経済サイクルを始動させ、長年にわたるデフレ経済からの脱却を図ることができるのか、経済界としても具体的成果を示すことが求められている。 (2) 法人実効税率引下げに向けた検討 わが国の法人実効税率は、復興法人特別税廃止後も国際的にみれば依然として高い水準にある。また、日本同様に高いとされている米国では、オバマ大統領より28%(製造業は25%)に下げるとの方針が既に示されており、そうなれば日本の法人実効税率は主要国の中で突出して高いことになる。 【法人実効税率の国際比較】 注:英国は2014年4月から21%、2015年4月から20%へと引き下げる予定。 (財務省ホームページより) 大綱では「わが国が直面する産業構造や事業環境の変化の中で、法人実効税率引下げが雇用や国内投資に確実につながっていくのか、その政策効果を検証する必要がある。表面税率を引き下げる場合には、財政の健全化を勘案し、ヨーロッパ諸国でも行われたように政策減税の大幅な見直しなどによる課税ベースの拡大や、他税目での増収策による財源確保を図る必要がある。 こうした点を踏まえつつ、法人実効税率の在り方について、今後、速やかに検討を開始することとする。」とされているが、法人税の課税ベース拡大のみならず「他税目での増収策」と明記されたことは極めて重要である。 まずは、政府税制調査会において検討が開始されることとなったが、経団連と、早期実現を目指して具体的な提言を重ねていきたい。 (連載了)
#40(掲載号)
#阿部 泰久
2013/10/17

記事検索

メルマガ

メールマガジン購読をご希望の方は以下に登録してください。

#
#