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経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第11回】棚卸資産会計①「実地棚卸時の会計処理」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第11回】 棚卸資産会計① 「実地棚卸時の会計処理」   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   〈事例による解説〉 商品Aの3月末の在庫は、帳簿上は100個(@10)で、実地棚卸の結果は80個(@10)であった。 〈会計処理〉 〈会計処理の解説〉 帳簿上の在庫は、仕入及び売上による商品の払出しの差引きで算出されます。不正がなく、正確に在庫の管理、仕入及び売上による商品の払出しの記帳を行っている限り、「帳簿上の在庫」=「実地棚卸による在庫」となります。しかし、記帳が誤っていたり、在庫管理の不備や不正があった場合には、「帳簿上の在庫」≠「実地棚卸による在庫」となります。 財務諸表には、会社の実態を表す必要があるため、「実際の在庫」で計上します。言い換えると、実地棚卸時の数量により在庫を計上します。 本事例では、「帳簿上の在庫」よりも「実地棚卸による在庫」が20個少なかったため、(100個-80個)×@10=200を棚卸減耗損(売上原価)として計上します。そして、在庫は80個×@10=800となります。 また、期首商品棚卸高100で、当期仕入を5,000とした場合、売上原価は、以下のようになります。 「帳簿上の在庫に基づいて計算した売上原価」は、「期首商品棚卸高100+当期商品仕入5,000-期末商品棚卸高1,000=売上原価4,100」となります。 一方、「実地棚卸に基づいて計算した売上原価」は、「期首商品棚卸高100+当期商品仕入5,000-期末商品棚卸高800=売上原価4,300」となります。「帳簿上の在庫に基づいて計算した売上原価」よりも「実地棚卸に基づいて計算した売上原価」は200多くなっています。 これは、「帳簿上の在庫に基づいて計算した売上原価」よりも「実地棚卸に基づいて計算した売上原価」の方が、棚卸減耗損200の分、「期首商品棚卸高+当期商品仕入」から控除する「期末商品棚卸高」が少なくなっているためです。 言い換えると、「実地棚卸に基づいて計算した売上原価」では、棚卸減耗損200を売上原価に計上することになり、「帳簿上の在庫に基づいて計算した売上原価」よりも売上原価が200多くなります。 次回は、「棚卸資産評価の会計処理」について解説します。 (了)
#26(掲載号)
#西田 友洋
2013/07/04
会計 税効果会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

税効果会計を学ぶ 【第13回】「その他有価証券の評価差額の取扱い①」

-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。   税効果会計を学ぶ 【第13回】 「その他有価証券の 評価差額の取扱い①」   公認会計士 阿部 光成   今回は、その他有価証券の評価差額に係る税効果会計の取扱いを解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ その他有価証券の評価差額 「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号)は、その他有価証券に関する会計処理を規定している。 その他有価証券については、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は洗い替え方式に基づき、次のいずれかの方法により処理する(金融商品会計基準18項)。 そして、純資産の部に計上されるその他有価証券の評価差額については、税効果会計適用上の一時差異となり、これについては繰延税金資産又は繰延税金負債が認識されることとなる。 後述するように、その他有価証券は多様な性格を有していることから、税効果会計の適用に際して、銘柄別の評価差損と評価差益の各合計額を相殺した後の純額に対して繰延税金資産又は繰延税金負債を認識することも認められるか否か、その場合の繰延税金資産の回収可能性の判断をどのように行うかについて論点がある。   Ⅱ その他有価証券の性格 その他有価証券は、売買目的有価証券、満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式以外の有価証券と定義されている(金融商品会計基準18項)。 その他有価証券は、業務上の関係を有する企業の株式等から市場動向によっては売却を想定している有価証券まで多様な性格を有しており、一義的にその属性を定めることは困難と考えられている(金融商品会計基準75項)。 金融商品会計基準は、その他有価証券について、その多様な性格に鑑み保有目的等を識別・細分化する客観的な基準を設けることが困難であるとともに、保有目的等自体も多義的であり、かつ、変遷していく面があること等から、売買目的有価証券と子会社株式及び関連会社株式との中間的な性格を有するものとして一括して捉えることとしている(金融商品会計基準75項)。   Ⅲ その他有価証券の評価差額に関する税効果会計 上記の論点に対応するため、日本公認会計士協会は「その他有価証券の評価差額及び固定資産の減損損失に係る税効果会計の適用における監査上の取扱い」(監査委員会報告第70号。以下「監査委員会報告第70号」という)を公表し、監査上の取扱いを示している。 1 原則的処理 原則的処理としては、その他有価証券の評価差額に対する税効果会計については、評価差額を評価差損と評価差益とに区分し、個々の銘柄ごとに、評価差損(将来減算一時差異)については回収可能性を検討した上で繰延税金資産を認識するとともに、評価差益(将来加算一時差異)については繰延税金負債を認識することになる。 2 例外的処理 前述のように、その他有価証券は多様な性格をもつことから、監査委員会報告第70号は、その他有価証券の時価評価により生じる評価差額については、税効果会計を一括して適用することも認められるとし、次の会計処理を、監査上、容認している。 (*) 一時差異の将来解消見込年度のスケジューリングをいう。   3 その他有価証券の評価差額の純額に税効果会計を適用したケース その他有価証券の評価差額に関する純額で税効果会計を適用したケース(図表1の②の処理)では、純額の評価差損又は評価差益に対して、次のように繰延税金資産又は繰延税金負債を認識している場合には、監査上妥当なものとして取り扱う(監査委員会報告第70号、3)。 4 その他の監査上の取扱い 監査委員会報告第70号は、その他の監査上の取扱いとして、次の事項を規定している。 (了)
#26(掲載号)
#阿部 光成
2013/07/04
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

長時間労働と労災適用 【第1回】「労災認定基準の基本的な考え方」

長時間労働と労災適用 【第1回】 「労災認定基準の基本的な考え方」   特定社会保険労務士 大東 恵子   近年、うつ病の発症やそれに伴う自殺が増大し、それに伴って労災請求も増大している。 平成9年には41件であった精神障害等に関する労災請求件数はほぼ増加の一途をたどり、平成23年度には1,272件を記録するほどまで大幅に増加し、今後もさらに増加することが見込まれる状況となっている(厚生労働省「平成23年度「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」まとめ」【P14 表2-1】)。 企業としても、従業員が業務上の理由でうつ病を発症し、また、うつ病により自殺する事態が生じると、労災請求に加え、企業に安全配慮義務違反があるとして、従業員又はその遺族から民事訴訟が提起される可能性がある。 このため、企業としては、こうした事態を未然に防ぐ対策が必要であり、うつ病発症の一因となっている長時間労働に対する対策もその一つとなる。 さて、精神障害を発症した者が、労災認定されるためには、その精神障害が「業務上の疾病」に該当しなければならない。そして、精神障害が「業務上の疾病」といえるためには、以下の要件を満たす必要がある。 上記要件のうち、(2)について補足したい。 「認定基準」には、「業務による心理的負荷評価表」があり、この表を判断指標として、業務による心理的な負荷の強度を、「強」「中」「弱」の三段階に区分し、総合評価で「強」と判断される場合には、上記(2)の要件を満たすことになる(「業務による心理的負荷評価表」については、厚生労働省「精神障害の労災認定」P5を参照)。 また、「認定基準」にはついては、心理的負荷の強度を「強」「中」「弱」と判断する場合の「出来事」の具体例が示され、その「出来事」の発生の有無や程度を考慮して、総合評価を行うことになっている。 (了)
#26(掲載号)
#大東 恵子
2013/07/04
労務・法務・経営 法務

親族図で学ぶ相続講義 【第7回】「遺言のハナシ」

親族図で学ぶ相続講義 【第7回】 「遺言のハナシ」   司法書士 Wセミナー専任講師 山本 浩司     [被相続人甲野太郎 相続関係説明図]   前回少し触れましたが、今回は遺言の方式についてご紹介しましょう。 遺言というのは、要式行為の典型でありまして、民法が定める方式に従ってこれをしないと、全く無効とされてしまいます。 ※「この法律」とは、もちろん、民法のことである。 まず、もっとも簡単な自筆証書遺言についてご説明しましょう。 これは、自宅で、1人で作成できます(証人が不要)。 読者のみなさんが、今から書こうと思えば、すぐに簡単に作ることができます。 以上です。 「たったのこれだけ?」と驚くかもしれませんが、これで、有効な遺言です。 ただ、この遺言は、全文、日付、氏名が自書でなければいけないのです。 つまり、ワープロはだめです。 これは、後に、この遺言の真贋が問題となったときに、その筆跡鑑定をするためなのです。 では、自筆証書遺言について、その条文をご紹介します。 どうですか。 先の遺言書の記載は、そのすべてが自書であれば、この民法968条1項の要件をすべて満たしていることをご確認ください。 つまり、先の遺言書は有効な遺言書なのです。 では、その他の注意点をご紹介しましょう。   [その1] 「平成25年7月吉日」と書いた場合 無効な遺言となります。 それは、自筆証書遺言の法定要件のうち、日付の自書がないためです。吉日では、それが何日かが分からないのです。 これに対して、遺言書に「長野オリンピック開会式当日」と自書されていたときは、その遺言は有効です。 その日がいつであるかの特定ができるので、日付の自書があるということになります。   [その2] 「指印」で押印した場合 自筆証書遺言の法定要件の1つに、印を押さなければならないとあります。 ただし、民法は「印」と書いただけで、それ以上の制限は置いていませんから、これは、印であれば何でもかまいません。 ですから、指印が押された遺言も有効です。 もちろん、認印でもかまいません。 しかし、認印で押印した遺言は、その後、その遺言の真贋が問題となったときの証拠力が弱いので、実際に作成するときには、実印を押印した方がよいでしょう。 また、印の場所も法定されてはいません。 したがって、氏名の下に押印がなくても、例えば、遺言書を入れた封筒の封じ目に印が押印された場合でも、その遺言書は有効です。   [その3] ペンネームを書いたとき ペンネームも氏名に当たります。 したがって、ペンネームからその遺言書の作成者をはっきりさせることができるときは、その遺言は有効です。 *  *  * 以上が、自筆証書遺言を作成するときの形式上の注意点です。 あとは、その内容ということになりますが、この部分は、法律を知らない人にはちょっと敷居が高いですね。 私は、こんな自筆証書遺言を見てギョッとしたことがあります。 はい。この遺言の効力はどうでしょうか? もちろん、上記の項目のうち、2の条項は無効ですね。 遺言者は、「もともと俺の財産なんだから、これをどうするかは全部俺が決める」と思っているわけです。 しかし、これは法律的に言うと、とんでもない間違いとなるわけです。 「相続は一件ずつ」という基本的な考え方は、本連載においてはもうご説明済みですよね?(第2回参照) まず、夫の死亡による第一の相続によって、相続財産は妻の固有財産となります。 これは、妻の財産です。 すでに夫の財産ではありません。 ですから、その後、妻のものとなった財産をどうするかは、地上の日本国の法律においては妻以外の人が決めることはできません。 民法には、天国の夫があの世からこれを支配する仕組みは存在しないわけです。 というわけで、先の遺言は、その項目のうち2の条項が、全く無効です。 上記は極端な例にしても、自筆証書遺言には、よく、その趣旨が法律的に不明瞭であったり、その効力が不分明なもの、遺言の執行に困難を伴うものが存在しがちです。 では、どうしたらよいか。 遺言者が、死後の遺言の執行を心底願うなら、少々の手間と費用を惜しまず、公正証書遺言を作成すべきなのです。 (了)
#26(掲載号)
#山本 浩司
2013/07/04
労務・法務・経営 経営

起業家が求める税理士の役割、税理士が求める経営者の姿勢 【上】「アーリーステージにおける税理士の役割」

起業家が求める税理士の役割、 税理士が求める経営者の姿勢 【上】 「アーリーステージにおける税理士の役割」   株式会社クロスフィールド 取締役 税理士法人あおやま 代表社員 公認会計士・税理士 松元 良範   はじめに 会社のアーリーステージ(起業準備から起業を経て2、3年程度)の方々をサポートする機会が多いが、そのアーリーステージの過ごし方で、その後の会社の発展もしくは存続可能性が概ね決まってくると言っても過言ではない。 実際、創業して10年後に残っている会社は、ほんの数%にすぎない。 また、アーリーステージにおける経営者の経営スタンスは、自ずと対税理士との関係においても表れてくるものである。 そこで、税理士との人間関係を通して普段接しているアーリーステージの経営者の方々を考察し、我々税理士には何ができるのか、どうあるべきかについて考えてみたい。   1 起業準備段階での税理士の役割とは これから起業しようとする方々から多く寄せられる質問の1つとして、例えば、個人事業が良いのか会社形態が良いのか、そして会社の場合どのような会社形態がいいのか、といった質問がある。 しかし、これに対応する普遍的な解答はない。 例えば、従来の得意先と独立起業後も取引を継続するために会社形態であることが条件とされる場合には、個人の戦略や嗜好とは別に、否応にも会社形態にしなければ事業がスタートできない場合もある。また、以前から付き合いのあるビジネス上のパートナーと一緒に起業する場合には、必然的に個人ではなく会社形態にするのが通常であろう。 そして、特段そういった事情がない場合には、個人と会社とで税務上どちらが有利なのか、といった点に着目する方々が大半である。 とかく起業する前においても節税の観点から事を考えがちではあるが、節税は利益あってこその話である。そもそも利益が出なければ、そのようなことを考えても全く意味がない。 利益が出なければ、そもそも事業を継続することができないのだ。 まずは、利益を出せる事業構想であるのか、自分はそれを実現できるだけのアイデア、経験、スキル、人脈等を果たして持っているのか、これについてまず自問自答してほしいと常々考える。 税理士の立場からすると、多くの方々が起業し、我々の顧問先になっていただき、共に成長していくのはこの上ない喜びである。 しかし、起業したものの、数年ですぐ行き詰まる会社が実に多い。うまくいかない典型的なパターンは、これまで自分が全く経験していない領域で事業を起こす場合である。 つまり、素晴らしいアイデアこそあるものの、それを実現するための具体的なプランがない。 このようなケースで、我々税理士として彼らをサポートできることは一体何であろうか。 彼らがこれから始めようとするビジネスそのものについては、我々も門外漢であることは間違いない。しかし、何もできないわけではない。 まずは、経営者には事業で収益を上げることに専念してもらい、その他もろもろのバックオフィス業務については我々が一手に引き受けることである。しかし、これは至極当たり前のことであり、これだけでは十分ではない。 もう一歩踏み込んで、彼らのサービスや商品に対して、買う側の立場だとしたらどう思うのか、どう感じるのかを、素人の観点、しかし客観的な観点から意見を述べることはできるだろう。 経営者はなかなか第三者の意見を聞く機会が少ない。創業時から事情を知っている我々税理士は、経営者に対して客観的な意見を消費者と同じ立場から物申すことができる数少ない立場の人間であり、経営者からみても単なる帳簿付け、申告書作成をお願いしているだけでなく、そういった役割を期待しているはずである。 経営者と税理士は単に税金の話だけではなく、ビジネスそのものについても議論できる関係になってこそ、お互いに成長できるのだと思う。   2 経営者と対立する場面で必要なこと しばしば一般の会社において、営業と経理部とが対立する場面を見かける。 営業は、第一に売上を上げることが本来の仕事である。一方、経理部は会社の帳簿に会社の取引の実態を適切に反映すること、そのために、現場から正確な情報を入手することが仕事である。この役割分担が、時として対立関係に発展する。 例えば売掛金の額と入金額とが違う場合、経理の立場からすると、この差の原因が分からなければ会計処理ができない。営業に問い合わせると、「得意先に問い合わせるのが面倒だし、大した差ではないから適当に処理してくれ」と要望されてしまう。 あるいは、相手の会社名や参加した人数が書かれていない飲み代の領収書が営業から経理へ提出される。経理では交際費なのか会議費なの判断がつかない。そこで営業に問い合わせると、「いちいち細かいことを聞いてくる」と不満を言われる。 営業からすると、「経理の依頼ばかり聞いていると管理業務ばかり増えて営業に専念できない」「誰が稼いで会社を支えていると思っているのか」などと、怒鳴り合いの関係になってしまう。 税理士と顧問先との間においても、記帳業務を請け負っている場合には、同じような関係になる場合がある。 顧問先から請求書や領収書を預かって、税理士の方で記帳するのだが、顧問先からいただく資料だけでは、会計処理に必要な情報が不足している場合が往々にしてある。 そこで、顧問先に問い合わせると、「そんな細かいこと覚えてないから適当にやってくれ、忙しい中、資料をそろえて渡しているんだ、それでも不満があるのか」と。 「それも含めて税理士にお願いしているのだ」と。 このような経営者の中には、実は着々と売上を上げている方々が多い。ある意味、立派な経営者である。しかし、経理の重要性についての認識が足りない。 このような場合には、会計処理の重要性、そして現場からの情報の必要性について理解してもらうよう税理士も努力しなければならない。社内で管理業務を行ってくれる事務職員を雇えれば、その社員に整理をしてもらえば良いかもしれない。しかし、そこまでの余裕がない場合には、経営者を説得してそこはきちんとやってもらうように指導しなければならない。 ただし、単に、「お願いします」ではなく、やはりここでも経営者の立場になって考える必要がある。 資料整理はとても大変な作業である。経営者にとって最低限の労力で済み、かつ、記帳する上でも必要最低限の情報をいただくための工夫を、経営者と一緒に議論すべきである。 税理士が単に請負作業者として仕事をしているのでは、会社にとっても良くないのだ。 (了)
#26(掲載号)
#松元 良範
2013/07/04
労務・法務・経営 経営

改正金融検査マニュアルのポイントと中小企業へ与える影響 【第3回】「マニュアルを使った[債務者区分]の判定」

改正金融検査マニュアルのポイントと 中小企業へ与える影響 【第3回】 「マニュアルを使った [債務者区分]の判定」   OAG税理士法人 税理士 山下 好一   1 金融検査マニュアル 金融検査マニュアルは、金融庁及び地方の財務(支)局(一部の金融機関については、農林水産省及び厚生労働省も検査を行う)の検査官が金融機関を検査する際に用いる手引書である。 この金融検査マニュアルは、「経営管理(ガバナンス)」、「金融円滑化編」及び「リスク管理等編」で構成されている。 この中で、中小企業等に最も影響があるのが、「リスク管理等編」の「資産査定」である。 (「金融検査マニュアル」195頁「資産査定管理態勢の確認検査用チェックリスト」参照) 金融機関は、金融検査マニュアルに沿った自己査定マニュアルを策定し、これによって与信先の査定を行い、債務者区分を決定する。 なお、自己査定マニュアルは、金融機関が規模・特性に応じたものを独自に策定するため、各金融機関において異なるものとなっている。 このため、例えば甲社の債務者区分は、A金融機関では「要注意先」、B金融機関では「正常先」と、判定が異なる場合がある。このような場合には、B金融機関の検査において、検査官が異なる理由を解明した上で横串を刺し、甲社の債務者区分を「要注意先」としている。 「債務者区分」とは、債務者の財務状況、資金繰り、収益力等により、返済の能力を判定して、その状況等により債務者を正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先及び破綻先に区分することをいう。 (「金融検査マニュアル」「自己査定(別表1)」参照) 債務者区分の判定において、金融検査マニュアル自己査定(別表1)を見ると、「要注意先」の適切性の検証では「・・・業況が低調ないしは不安定な債務者又は財務内容に問題がある債務者など今後の管理に注意を要する債務者をいう。」とある。 また、正確性の検証についても、「左記に掲げる債務者が要注意先とされているかを検証する。・・・」とある。 しかし、ここに記載されている内容だけでは、債務者区分の判定は困難である。たとえ総合的に勘案し判定したとしても、判定者によってその結果は異なるものになるであろう。 そのため、自己査定では、例えば有利子負債の債務償還年数が5年以下は「正常先」、6年以上10年未満は「要注意先」といった、金融検査マニュアルの内容に沿うような定量的な判定方法を用いている。 このようにして判定された債務者区分が要注意先以下になると、金融機関にとっては、回収の危険度(信用リスク=引当金)が増加するため、それに見合った金利(収益)を設定することになる。 また、破綻懸念先では新規融資は原則不可能となるほか、場合によっては元金の回収となる。 このように債務者区分は、借手の企業にとって、資金調達に大きく影響するものである。   2 金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編) 中小企業等と大企業を比較した場合、両者には大きく異なる点がある。 それは、中小企業は「株主=経営者」であるのに対し、大企業は「株主≠経営者」となる点である。 また、技術力、販売力や成長性などの内部要因は、中小企業等の業績の変化に大きく影響を与えることに加え、外部要因も中小企業の業績を大きく左右する。 このような、大企業とは異なる中小企業等の経営実態の観点から、債務者区分の判定においては、「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」(以下「マニュアル別冊」という)が策定されている。 このマニュアル別冊では、一定の要件のもと、債務者区分のランクアップができるようになっている。 「一定の要件」とは、 など、財務諸表では明らかにならないものとなっている。 つまり、先に述べた定量的な判定に捉われず、中小企業等の経営実態など定性的な要件に重点を置いた判定を行うものである。 金融機関が、マニュアル別冊に沿った債務者区分の判定を行うためには、中小企業等との密度の高いコミュニケーションを通じて、経営実態を適切に把握(コンサルティング機能の発揮)する必要がある。 これにより、金融機関は、信用リスクを下げることができる。 逆の見方をすれば、借手の中小企業等は、金融機関に対して、代表者等個人の財力を含め、自社の優れた技術力等の経営実態に関する情報を積極的に提供する必要がある。 これにより、中小企業は、債務者区分のランクアップが可能になり、資金調達が今よりも容易になる。 (了)
#26(掲載号)
#山下 好一
2013/07/04
労務・法務・経営 経営

顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第5回】「スコアリングモデルの特長」 ~非会計情報を、定量化し、相対評価せよ~

顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第5回】 「スコアリングモデルの特長」 ~非会計情報を、定量化し、相対評価せよ~   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 前回述べたとおり、スコアリングモデルは、経理財務を構成する18種類の業務について、「正確性」、「効率性」、「安定性」、「リスク管理」、「戦略性」の5つの視点で設定した137個のKPIを使って、経理財務部門のサービスレベルを評価する手法である。 スコアリングモデルは、経理財務部門のサービスレベルを評価する標準的な手法として経済産業省の実証事業により構築された。 おそらくこれより前にも、巷では経理財務部門のサービスレベルを評価する手法は存在していたであろう。それでも、この実証事業に経済産業省が取り組んだのは、スコアリングモデルがこれまでの国内外の取組みと決定的に異なる特長を備えており、国の事業として取り組む意義があると考えたからである。 では、他の取組みと異なるスコアリングモデルの特長とは何か。 これが、今回のテーマである。   他の取組みと異なる特長 スコアリングモデルがこれまでの国内外の取組みと決定的に異なる特長として、次の3つが挙げられる。 (1) 非会計情報 1つ目は、評価にあたり非会計情報を活用していることである。 そもそも、スコアリングモデルが評価の対象としているのは、財務指標で表される会社の経営成績の結果ではなく、経理財務部門が行う業務そのもののサービスレベルの良し悪しである。 そこで、会計情報が生成される前の業務プロセスに照準を当てて、組織のあり方や従業員の行動を変革することによって、直接的に管理し改善することができる非会計情報からKPIを作った。その必然的な結果として、137個のKPIとして、会計情報を加減乗除して作る財務指標は一切採用していない。 その意味で、財務分析に使う財務指標を結果指標とすれば、スコアリングモデルは、非会計情報から導き出される先行指標、プロセス指標を活用しているといえる。 例えば、スコアリングモデルでは、販売先の与信判断を見直す頻度、予算編成の日数等をKPIとして設定しているが、これらのKPIは会社の業績が好況であろうと不況であろうと、そのような経営成績の結果とは独立して、経理財務部門が能動的に管理することができるし、日常の行動を意識的に変えることで改善を図ることができるという点で、経理財務部門が行う業務のサービスレベルを評価するプロセス指標であり、先行指標であるといえる。 (2) 定量化 2つ目は、評価に使うすべてのKPIは定量化されるということである。 まず、スコアリングモデルは、会社間の比較を行うので、できるだけ定量指標を多く設定することを目指した。その結果、137個のKPIのうち6割強に当たる85個が数えられる定量指標、4割弱に当たる52個が監査証拠に基づき「はい」又は「いいえ」で答える定性指標とされている。 例えば、従業員当たりの業務処理量、業務処理の平均日数等は、数えることによって初めて管理し会社ごとに比較できる定量指標である。これらは、元々が定量指標であるため、評価においてもそのまま定量化が可能である。 より重要なのは、6割強の定量指標だけでなく、4割弱に当たる定性指標についても、評価される会社から成る母集団の回答状況に応じて、難易度が設定される統計処理によりスコアに変換され、定量化していることである。 このような「はい」又は「いいえ」で答える定性指標は、これまでも監査法人が利用するチェックリストにおいて数多く取り入れられていたが、会社の経理財務部門のサービスレベルを定量化できる体系は用意されていなかったと思われる。 (3) 相対評価 3つ目は、相対評価を採用していることである。 すなわち、スコアリングモデルでは、母集団を構成する複数の会社から提供されたKPIデータ群の偏差に基づき、その会社の経理財務部門のサービスレベルを比較するのである。比較から得られる評価は、経済産業省の評価でもなく、コンサルタントや監査法人の評価でもない。あくまで各会社が提供したKPIデータに基づく評価であり、いわばKPIデータ群によって形成されるベンチマークに基づく評価である。 KPIデータによる相対評価を採用するということは、言い方を変えれば、人による絶対評価を採用しないということである。 例えば、監査役監査、内部統制監査においても、経理財務部門のサービスレベルを評価するかもしれないが、それらはいずれも人による絶対評価である。なぜなら、それらは特定の前提に基づいてあらかじめ設けられた監査基準に照らして評価対象が基準に準拠していることを、専門的な知見と経験則を活用して判断し、有効か否か、妥当か否かという発想で評価するからである。 無論、監査役や会計監査人は、監査実務の蓄積の過程で、会社の経理財務部門の優劣を心証として持っていることが多いかもしれない。しかし、それはいわば属人的な経験則に基づくため、その人が背負ってきた価値基準のバイアスを受けやすく、客観的な会社間比較に利用するにはおぼつかないと思われる。   時代のベストプラクティスは顧問先自らが自己責任で作り上げるもの スコアリングモデルでは、なぜ、相対評価を採用するのか。 スコアリングモデルは、会社の経営者が絶えず経営管理の改善を継続している現実を重視し、その時代のベストプラクティスを決めるのは、特定の価値基準を持つ人ではなく、切磋琢磨する会社に実在する客観的データ群であるべきという発想に立つからである。 例えば、読者が顧問先の業務のあり方を振り返ったとき、20年前には時代を先取りするベストプラクティスであった業務処理が、今の時代ではどの会社でも当たり前になっている事例があるのではないかと拝察する。 時代のベストプラクティスが何かを見極めるのは、難しい作業である。 むしろ、評価をKPIデータに委ね、自社の経理財務部門のサービスレベルがその時代のベンチマークからどのくらい優れているのか、あるいはどのくらい劣っているのかを相対評価することで、自社に必要な改善点が浮き彫りになる自発的契機を促すと考えている。 このような考え方に立って初めて、顧問先の経営者は、KPIデータに裏付けられた「総合スコア」、「財務諸表の信頼性スコア」、「業務の有効性・効率性スコア」、「5つの視点別スコア」、「18種類の業務プロセス別スコア」、「137個のKPI別スコア」を通じて、自社の経理財務部門のサービスレベルがその時代のベンチマークと比較してどのくらいのレベルにあるのかという客観的ポジショニングを自社の問題として認識し、納得できるようになると思う。 翻ると、そのような詳細かつ納得性のある会社間比較を人による絶対評価を通じて達成することは困難ではないか。 相対評価を敷衍すれば、属人性のバイアスから解放されたKPIデータによる評価結果は、そのKPIデータを提供した会社の経理財務部門、究極的には経営者の経営管理のありようを忠実に映し出す。 KPIデータ群が作るベンチマークが、時代のベストプラクティスを指し示す。 ベンチマークとの比較を通じて行う相対評価だからこそ、その評価結果は自己責任であり、切磋琢磨する会社群が作り上げた時代のベストプラクティスに近づく努力も同じく自己責任であるということが、顧問先の経営者の中で、すっきりと腑に落ちるようになるであろう。 (了)
#26(掲載号)
#島 紀彦
2013/07/04
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《速報解説》 「無形資産に関する検討経過の取りまとめ」の解説

《速報解説》 「「無形資産に関する 検討経過の取りまとめ」の解説   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成25年6月28日、企業会計基準委員会は「無形資産に関する検討経過の取りまとめ」(以下「中間整理」という)を公表した。 中間整理は、平成21年12月の「無形資産に関する論点の整理」公表以降に行ってきた審議の状況やリサーチ活動などの概要を取りまとめたものである。 なお、中間整理については、論点整理や公開草案のようなコメントの募集は行われていない。 以下では、中間整理の概要を述べ、整理の状況について解説を行う。 なお、文中、意見に関する部分は私見であることを申し添える。   Ⅰ 中間整理の概要 中間整理は大きく次の論点から構成されている。 企業会計基準委員会では、無形資産に関して会計基準のコンバージェンスの観点から長期間にわたり検討してきたが、「企業結合時に識別される無形資産の取扱い」や「他社から研究開発の成果を個別に取得した場合の取扱い」についても、現時点で一定の方向性を打ち出す状況には必ずしもないと考えられ、継続的な検討課題としている。   Ⅱ 個別論点の概要 個別論点の概要として、次の事項が述べられている。 (了)
#25(掲載号)
#阿部 光成
2013/07/04
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《速報解説》 「金融商品の監査における特別な考慮事項」(公開草案)の解説

《速報解説》 「金融商品の監査における 特別な考慮事項」(公開草案) の解説   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成25年6月28日、日本公認会計士協会は「監査基準委員会研究報告『金融商品の監査における特別な考慮事項』(公開草案)」(以下「公開草案」という)を公表し、意見募集を行っている。 意見募集期間は平成25 年7月18 日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 公開草案の内容 1 公開草案の概要 公開草案の概要は、次のとおりである。 2 公開草案のポイント 公開草案は、大きく「第Ⅰ部 金融商品についての一般的な情報」と「第Ⅱ部 金融商品に関する監査上の考慮事項」に分けて述べられており、目次は次のとおりである。 公開草案は、金融商品を利用する目的とリスクに関して、様々なリスクを述べるとともに、内部統制、網羅性、正確性、実在性、金融商品の評価、金融商品の表示と開示まで幅広く取り扱っている。 公開草案18項及び19項では金融商品に関連するリスクの主な種類が具体的に述べられており、金融商品に関する内部統制を整備・運用する際にもポイントになるものと思われる。また内部統制に関連しては、「付録 金融商品に関する内部統制の例示」が記載されており、実務において参考になるものと思われる。 「第Ⅱ部 金融商品に関する監査上の考慮事項」は監査人向けのものであるが、その記載内容は経営者や監査役などにおいても参考になるものと思われる。 (了)
#25(掲載号)
#阿部 光成
2013/07/04
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《速報解説》 「我が国の引当金に関する研究資料」の解説

《速報解説》 「我が国の引当金に関する 研究資料」の解説   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成25年6月24日、日本公認会計士協会は「我が国の引当金に関する研究資料」(会計制度委員会研究資料第3号。以下「研究資料」という)を公表した。 「研究資料」は、我が国の引当金の実務においては、経済環境の変化や企業の事業内容の多様化・複雑化などを背景として、認識又は測定に係る判断が容易ではない場合があるとの指摘が従来から見られ、監査実務においても論点となることが多いと述べている。 そこで、主として、我が国企業における「引当金の計上基準」の開示状況等による引当金に関する個別論点の洗い出し、具体的な会計処理(主に「企業会計原則」注解18に基づく)及び開示についての考察を行い、検討経過を研究資料として公表したものである。 「研究資料」については、次のことに注意が必要である。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 「研究資料」の内容 「研究資料」は、「具体的事例の考察」として、ケースごとに、(a)具体的事例、(b)会計処理の考え方を述べ、参考として、国際財務報告基準に照らした考察を行っている。 「研究資料」が取り扱っている引当金は次のものである。 このほか、「引当金の開示」についても考察を行い、また、「付録:我が国の会計基準とIAS37の比較」が記載されている。 (了)
#25(掲載号)
#阿部 光成
2013/06/27

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