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居住用財産の譲渡所得3,000万円特別控除[一問一答] 【第2問】「「3,000万円特別控除」と「買換えの特例」の選択」
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第2問】 「「3,000万円特別控除」と「買換えの特例」の選択」 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、15年前に取得し、それ以来居住の用に供してきた家屋とその敷地を譲渡しました。譲渡価額は6,000万円ですが、取得費1,000万円、譲渡費用300万円を差し引くと残りは4,700万円となります。 譲渡代金と手持資金で7,000万円の居住用財産を取得しようと考えていますが、この場合、「3,000万円特別控除(措法35)」の適用を受ける場合と「買換えの特例(措法36の2)」の適用を受ける場合とでは、どちらが有利となるでしょうか? A 将来、買換資産を譲渡するようなことにならなければ、「買換えの特例」の適用を受ける方が良いといえるが、将来譲渡することになると必ずしも「買換えの特例」の適用を受けることが良いとはいえない。 〈解説〉 「3,000万円特別控除」と「買換えの特例」のいずれの要件にもあてはまる場合に、どちらの特例の適用を受けるかは、納税者の選択したところによる。 ところで、いずれの特例の適用を受けるのが良いかは当面の所得・住民税はもちろんのこと、次の1及び2も検討して判断することとなる。 したがって、長期譲渡所得の金額が3,000万円を超え、かつ、買換資産の取得価額が譲渡資産の譲渡価額以上である本事例の場合には、その譲渡所得に係る所得税及び住民税はもとより(本事例の場合、「買換えの特例」の適用を受ける場合には譲渡所得金額は生じないが、「3,000万円特別控除」の適用を受ける場合には、課税所得金額は1,700万円となる)、上記1の合計所得金額との関係からも「買換えの特例」を選択した方が当面の税負担額を考慮すると有利になる。 しかし、「買換えの特例」の適用を受けた者がその買換資産を取得後短期間(譲渡の年の1月1日現在で所有期間が5年以下)内に譲渡し、3,000万円の特別控除額を超える譲渡益が算出されることとなれば、上記2の買換資産の取得価額との関係から、「買換えの特例」の適用により課税の繰延べを受けていた譲渡所得が短期譲渡所得として重課されることとなるので、一般的には、当初の申告において「3,000万円特別控除」を選択しておいた方が良かったということになる。 筆者における元国税資産税職員としての経験をお伝えすると、被相続人が生前に「買換えの特例」を選択して課税の繰延べを受けていた財産を取得した相続人が、旧資産の取得価額を引き継いでいたことを知らずに修正申告書の提出を余儀なくされ、追徴課税を受ける事例を数多く見てきた。 将来を見据えた場合は、「3,000万円特別控除」を選択しておいた方が良い場合が多いのではないかと考える。 (了)
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法人・個人の所得課税における実質負担率の比較検証 【第3回】「累進課税制度の抜け道とは」
法人・個人の所得課税における 実質負担率の比較検証 【第3回】 (最終回) 「累進課税制度の抜け道とは」 (株)よつばコンサルティング 税理士 石渡 晃子 税理士 青木 岳人 はじめに 第1回及び第2回では、“所得”に対する課税について、個人形態で獲得した場合と法人形態で獲得した場合、課税制度にどのような違いが存在し、それぞれ実質負担率はどの程度で、また、有利不利が入れ替わる金額はどのあたりか、といった比較を行った。 同じ課税所得であっても、「個人」という形態又は「法人」という形態、どちらで獲得するかによってその実質負担率が異なることは前回述べたとおりである。 それでは、例えば個人で1,000万円という課税所得を獲得した場合において、それがどのような種類の所得であっても実質負担率は同じになるのであろうか。 答えは否である。 それでは、課税所得が増大するにしたがって、実質負担率は最高税率に限りなく近づいていくのであろうか。 これも答えは否である。 所得税の制度は“総合累進課税”が原則であるが、すべての所得についてこれが適用されるわけではないためである。 所得税には、「超過累進税率」と「比例税率」という2つのシステムが「混在」している。 そこで最終回である第3回では所得税にスポットを当て、所得税の最大の特徴である累進課税制度、その矛盾点について考察をしたい。 1 所得税の制度 所得税とは、個人の所得に対して課される税であり、大まかな税額計算は、 という流れである。 ここで、10種の各所得分類ごとに課税方法を整理してみよう。 このように、所得税の税額計算には原則として、①総合課税により、②超過累進税率を適用、といった特徴があるが、いくつか例外がある。 まず、退職所得・譲渡所得の一部・山林所得は、その特殊性から総合課税ではなく、申告分離課税による課税がなされる。 また、利子所得は15%(比例税率)の源泉分離課税による。 さらに、配当所得・譲渡所得(土地建物等・特定の株式出資)は所得の種類によりそれぞれ7%~30%(比例税率)の申告分離課税による(*2)。 (*2) 配当所得については申告分離課税は強制ではなく選択制である。 ここで着目すべきは、所得税は原則超過累進税率が適用される税であるが、すべてが累進的な税率ではなく、“一部比例税率が混在する”という事実である。 2 所得税と担税力 租税の大きな役割は、 であり、税の負担をどのように割り当てるのかについて、「応益負担」「応能負担」という2つの考え方があることは第1回にて述べたとおりである。 所得税は、このうち「応能負担」の考え方を色濃く反映する税である。したがって、その税負担は担税力に応じたものであり、累進的な税率を課すことが求められる。 ところで、担税力とはいったい何を示すのであろうか。 個人の担税力を示すものとしては、所得・消費・資産といったものが考えうるが、所得税においては「所得」を担税力の指標としている。 次にその所得についてであるが、「所得」と一括りに言ってもその源泉は多種多様であり、所得税法上は大きく10種類に分類されている。 担税力は、それを「量的」に測るのか、「質的」に測るのか、2つの計測方法がある。 すなわち、 といった問題である。 もう少し具体的に考えれば、勤労による所得、金融による所得、資産による所得、その所得の源泉は異なってもその担税力は同等であるのかどうか、という問題である。 このような担税力の違いや政策的な配慮から、所得税においては「総合課税」と「分離課税」、「超過累進税率」と「比例税率」が混在するのである。 3 超過累進税率の矛盾 冒頭部分で、課税所得が同じであっても実質負担率は異なることに触れた。 ここで、個人が1,000万円という課税所得を獲得した場合を考えてみよう。なお、前提として、所得の源泉が異なるのみでその他の所得控除はすべて等しいものとする。また、課税所得とは税率を適用する直前の金額で、すべての控除を適用後の金額とする。 上記は極端な例ではあるが、どのように獲得した所得であるのか、という所得の発生形態の違いにより、同じ所得税でありながらもその実質負担率は全く異なるのである。 次に、下の図を見ていただきたい。 「平成22年度税制改正の大綱」の参考資料である。 所得階級別に申告所得税負担率の推移を示している。 〈申告納税者の所得税負担率(平成19年分)〉 (備考) 国税庁「平成19年分申告所得税標本調査(税務統計から見た申告所得税の実態)」より作成。 (注) 所得金額があっても申告納税額のない者(例えば還付申告書を提出した者)は含まれていない。 また、申告不要を選択した場合の配当所得や源泉徴収で課税関係が終了した源泉徴収特定口座における株式等譲渡所得や利子所得等も含まれていない。 (財務省ホームページより) 上図をみると、合計所得金額の増加とともに税負担率も右肩上がりに上昇する。所得税は原則超過累進税率を適用するため、当然の結果ともいえよう。 しかし、合計所得1億円の階級における負担率26.5%を頂点に、その負担率は急激に下降し、税負担の累進性は喪失している。 超過累進税率はここで完全に矛盾するのである。 この要因について、大綱では を挙げている。 (*3) 金融所得とは、利子所得、配当所得、有価証券譲渡益など金融資産の運用から生じるものとするのが一般的な定義である。 現行での金融所得に対する所得税の税率は比例税率を適用しており、利子所得15%、配当所得20%(上場株式等に係るものは7%)、株式等譲渡所得15%(上場株式等に係るものは7%)である。 そもそも金融資産は高所得者層ほど多く保有していることが予想されるため、これを前提に総合課税の税率と比較をすると軽課であり、さらに、比例税率を適用するため、例えば上場株式等譲渡益であれば税率は7%で頭打ちである。 金融所得に関する税制度が高所得者層の負担率を下げる要因となり、累進性を矛盾させていることは、容易に想像できる。 冒頭にて、所得税の役割のひとつに「所得再分配機能」があることを挙げた。 「経済財政白書(平成21年版)」によると、税による再分配効果はOECD21ヶ国の中で日本が最も低い。 これは低所得者の負担が他国と比較して高いことがひとつの要因であるが、最高税率の引下げや累進税率の緩和に加え、この金融所得への低率な分離課税による累進性の喪失も一因であると考えられる。 近年、格差や貧困といったものは社会的な問題となっており、最近の所得税改正は所得再分配機能の回復を念頭に置いているようである。 4 金融所得課税の一体化 1990年代に北欧諸国で始まった税制に、“二元的所得税”という新たな考え方がある。 二元的所得税とは、「勤労所得」と「金融所得」はその所得の種類が異なるものであるから、これらを分離し、勤労所得には累進的な税を課し、金融所得には比例的な税を課す、という考え方である(*4)。 (*4) 厳密にいえば、所得税のタイプには①包括的所得税、②二元的所得税、③準二元的所得税、④比例税、⑤支出税の5つの定義が存在し、これは③の枠に属するものかと考えられる。 グローバルな取引から生み出される金融所得については、その取引による経済成長を阻害することなく、また、国際的な潮流に足並みを揃える必要がある。 日本の税制の土台であるシャウプ勧告によれば、包括的に所得を捉え課税することを求め、すべての所得を合算する総合課税を理想としている。 すべての所得に対し、超過累進税率により税を課すことにより、真の応能負担の原則が実現し、所得再分配機能を果たしうるのである。 しかし、そもそも包括的な所得の捕捉は困難である。また、金融所得に対しても累進税率を適用すると過大な税負担となる可能性があり、自由な金融取引を阻害し、経済の活性化を妨げることとなる。 そこで、金融所得課税の一体化を行おうという動きがある。 つまりは、7%から15%への税率アップと非課税から課税への転換という金融所得に対する増税である。 しかしながら、上記改正を行うと高所得者ばかりか低所得者にまで増税の効果が及ぶことになりかねず、累進性逆進の解消や所得再分配機能の回復には結び付かない。 そこで、この改正にあたり、100万円以下の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等については非課税措置が創設され、平成26年1月1日より適用される。いわゆる世間一般でNISA(ニーサ)と呼ばれているものである。この非課税措置は資産形成の支援・促進を目的としているが、同時に、比例税率のなかにも多少の累進性を持たせる効果もある。 ここで、上記の申告所得税負担率の推移図をもう一度見ていただきたい。 この金融所得課税一体化改正の目的は、合計所得1億円超から起こる負担率の下降を少しでも食い止めることである。これは同時に、合計所得1億円以下、特に中・低所得者層の負担率を下げることにもなり得よう。 上記改正により、超過累進税率の矛盾がなくなるわけではないが、所得階級別の実質負担率は当然変化するであろう。その結果、累進税率の逆進性は現行より弱くなり、所得再分配機能にも影響を及ぼすかもしれない。 そう、税の負担はその時代その経済状況により変化するのである。 ◆ おわりに ◆ 全3回にわたり、“税金の実質負担率“という視点から所得に対する税について比較と検証を行ってきた。 同じ事業から獲得した所得であっても、法人形態と個人形態では税金の種類が異なるため、実質負担率にも差が生じる。 それでは、同じ所得税であれば、その所得の種類が異なっても実質負担率は同じかといえば、そうでもない。 税の制度というものは、さまざまな原理、時代背景や社会情勢、経済状況、政策的な配慮から成り立ち改正が重ねられている。どういった視点から税をとらえるのか、何を重要視するのかにより、そのシステムは全く異なるものとなる。もしかしたら100年後の税制は現在とは大きく異なるものになっているかもしれない。 本稿では平成25年9月という一時点にたち、所得に対する税について、そのシステムと負担率、また税の根幹にある考え方について考察を試みた。 本稿執筆現在も法人税率の引下げや復興特別法人税の前倒しでの廃止などが議論されているが、毎年の税制改正について、その背景にある経済状況や社会情勢とつなぎ合わせて考えてみるのもまた一興であろう。 (連載了)
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小説 『法人課税第三部門にて。』 【第18話】「行政指導か、税務調査か」
小説 『法人課税第三部門にて。』 【第18話】 「行政指導か、税務調査か」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「おい、君は一体、どう言ったんだ!」 渕崎統括官は、少し声を荒げる。 調査選定をしている山口調査官は目を丸くして、渕崎統括官の声に驚く。 「・・・・・・」 「さっき、納税者に電話をしていただろう」 山口調査官は、頷く。 「ええ、坂口工業に電話したのですが・・・」 山口調査官は、渕崎統括官に応える。 「坂口工業の提出された確定申告書をチェックしていたら、計算の誤りが何ヶ所かあったので、それで電話をして・・・」 「・・・そのとき、「調査をする」とか言ったのか?」 渕崎統括官がすかさず尋ねる。 「ええ・・・計算誤りが何ヶ所か見つかったので、調査をしたら何かもっと大きな誤りを発見できると思って・・・「調査をする」と言ったのですが」 渕崎統括官は、渋い顔をする。 「調査選定の判断は、最終的に統括官の私がするのだから、勝手に君がそんなことを納税者に言ったら駄目じゃないか」 山口調査官は、目を伏せて聞いている。 「それに君も、改正された国税通則法について研修を受けただろうだから、当然「税務調査」がどういうものか知っているだろう」 渕崎統括官の声がますます大きくなる。 内勤をしている周りの職員は黙って仕事をしているが、皆、聞き耳を立てている。 「国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達1-2(調査に該当しない行為)(1)ロに、こう書いてあるだろう」 渕崎統括官が通達を広げて、読み始める。 静まり返った法人課税第三部門に、渕崎統括官の声が響く。 「通達に、ちゃんと、「提出された納税申告書に計算誤り」って、書いてあるだろう」 山口調査官を問い詰める。 「しかし・・・私は、調査対象の選定をしていて・・・この会社に計算誤りがあることを発見したことから、他にも誤りがあるだろうと推測して税務調査をしようとしたのですが・・・このような選定はできない、ということですか?」 山口調査官の声も高くなる。 「それは・・・」 渕崎統括官の声が一瞬詰まる。 「まあ・・・この通達は自発的な見直しを要請する行為の例として挙げているが・・・君の税務職員としての経験や勘で、この計算誤りを奇貨として税務調査の選定を行うことは、一向にかまわないが・・・」 渕崎統括官の声がトーンダウンする。 「そうすると、統括官、この場合、税務調査に行く前に相手方がこの計算誤りについて修正申告を提出してきたら、どうなるんですか?」 山口調査官は、何かを思い出したように質問をする。 「どうなるって・・・」 渕崎統括官が聞き返す。 「つまり、この修正申告に対して、こちらで、過少申告加算税を課することができるかどうかということですよ」 山口調査官の語調は、さらに強くなる。 「そりゃあ・・・こちらが計算の誤りを指摘して、調査をすると言ってから納税者が修正申告書を提出するのだから、「更正を予知しないでした申告」には該当しないだろう」 渕崎統括官は、一瞬、考えてから言う。 国税通則法65条5項では、次のように書かれている。 「そうすると・・・」 山口調査官が腕を組んで、考える。 「もし私が、坂口工業の計算誤りに対して、この通達のように自発的な見直しを要請することで、修正申告書の提出を要請した場合・・・もちろん相手方には「これは行政指導です」と伝えるのですけど・・・」 山口調査官は渕崎統括官の顔を見る。 渕崎統括官は、国税通則法が載った「税務六法」を見ている。 「それはもちろん、過少申告加算税は課せられないだろう・・・。わざわざこの関係通達1-2にも「これらの行為のみに起因して、修正申告書若しくは期限後申告書の提出又は源泉徴収に係る所得税の自主納付があった場合には、当該修正申告書等の提出等は更正若しくは決定又は納税の告知があるべきことを予知してなされたものには当たらないことに留意する」と書いてあるのだから・・・」 渕崎統括官は、山口調査官に応える。 「そうすると、おかしいですね・・・」 山口調査官は、頸を傾げる。 「何がおかしい?」 「だって、同じ計算の誤りで、税務署が「税務調査をする」と言えば過少申告加算税が課せられ、「行政指導」と相手に伝えれば、課せられないということが・・・」 「それは・・・税務調査をするという前提で計算の誤りを伝えるのだから、その後、修正申告書が提出されたら、国税通則法65条5項は適用されないだろう」 渕崎統括官のコメントに、山口調査官は、しばし沈黙した。 (つづく)
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〔しっかり身に付けたい!〕はじめての相続税申告業務 【第7回】「建物を評価する」
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第7回】 「建物を評価する」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 〔不動産(土地・建物)の評価〕 今回から3回にわたって不動産(土地・建物)の評価について学んでいくが、本連載では相続税における評価を説明していくこととする。 なお、遺産分割協議においては、厳密には相続税評価額でなく時価を基礎として話合いを行うことが理論的であることから、土地の時価については相続税評価額を公示価格ベースに変換するため、相続税評価額を80%で除した金額(*1)を時価とすることも実務上は行われる。 なお、不動産(土地・建物)の評価のうち、今回は建物の評価(相続税評価)について見ていく。 〔建物の評価方法〕 相続税評価は、実務的には国税庁の財産評価基本通達(以下「評基通」)に従って評価を行うことがほとんどである。 建物の評価については、固定資産税評価額をもって相続税評価とすることとされている(評基通89)。 ただし、貸家の場合には、以下の算式で評価を行うこととされている(評基通93)。 実際の実務を経験していないとイメージしづらいと思われるため、具体的に見ていくこととする。 〈固定資産税課税明細書〉 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます(東京主税局ホームページへ)。 (東京主税局ホームページより) 上図は、ある建物の固定資産税評価額を示している。 この資料上、建物の固定資産税評価額は「価格」という欄に表示されている(下拡大図参照)。したがって、この建物の相続税評価額は、固定資産税評価額である6,000,000円となる。 なお、この建物を他人に賃貸している場合には、以下のように相続税評価額が計算される。 〔借家権割合について〕 借家権割合は、毎年公表される財産評価基準書(都道府県毎)に記載がある(*2)。 なお、すべての都道府県で借家権割合は一律30%とされている。 〔賃貸割合について〕 賃貸割合は、以下の算式で計算する(評基通93、26(2))。 つまり、賃貸している部分の床面積の比率(貸していない部分がある場合、その部分は除く)となる。 戸建賃貸の場合では、課税時期において、貸している場合100%であり、貸していない場合0%となる(*3)。またアパート賃貸の場合には、課税時期において、全室賃貸していれば100%であり、一部賃貸していない場合(親族が使用している場合など)には、その部分の床面積分だけ賃貸割合が減少することになる(*4)。 建物の相続税評価は、固定資産税評価額(賃貸している場合には固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合))となるが、必ずしも建物を一人で単独所有している場合だけではない。つまり、共有している場合(*5)や、区分所有している場合(*6)もある。 共有の場合には、建物の相続税評価額に共有の持分割合を乗じることで、相続税評価額が計算される(評基通2(なお、共有の持分割合は建物の登記簿に記載がある))。 区分所有の場合には、建物全体の相続税評価額を基に、各部分の使用収益等の状況を勘案して計算した各部分に対応する価額によって評価する(評基通3)。 具体的には、区分所有の対象となる部分ごとに固定資産税評価額が付されているため、それを基礎にして相続税評価を行う(*7)。 (了)
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鵜野和夫の不動産税務講座 【連載7】「路線価図の読み方(4)」
鵜野和夫の不動産税務講座 【連載7】 路線価図の読み方(4) 税理士・不動産鑑定士 鵜野 和夫 (一) 道路と建物 (二)道路とは――道と道路 (三) セットバックの減額補正 図表1(ア) (イ) 図表2 普通住宅地区 図表3 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (四) 計画道路予定地の減額補正 図表4 道路予定地に関する補正率表 図表5 普通商業・併用住宅地区 図表6 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
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〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載40〕 外国子会社への出向者の帰国後の現地所得税を内国法人が負担した場合の取扱い
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載40〕 外国子会社への出向者の 帰国後の現地所得税を 内国法人が負担した場合の取扱い 税理士 郭 曙光 内国法人が社員を外国子会社に出向させ、社員の現地における所得税相当額を負担するというケースが見受けられるが、そのようなケースにおいて、社員が出向を終えて帰国し、帰国後に、外国子会社における勤務期間の給与に係る現地の所得税相当額を内国法人が負担した場合には、その負担額が内国法人からの国内における給与として源泉徴収の対象となる、という裁決(東裁(所)平23年第7号、平成23年7月6日)が出されている。 本稿においては、この裁決の内容を確認した上で、上記のようなケースとその類似ケースにおいて、内国法人が出向者の現地所得税相当額を負担した場合の取扱いについて、解説と検討を行うこととする。 1 本件裁決における海外勤務者給与に関する事実関係 本件裁決における事例(以下、「本件」という)における内国法人は、海外勤務規定や覚書等において、海外出向社員に対する海外勤務者給与について、次の図に示す処理を行っている。 上記の図から分かるとおり、外国子会社が負担して支給する給与に対する現地の所得税は、外国子会社が社員名で納税を行い、内国法人が負担して支給する給与に対する現地の所得税は、内国法人が社員名で納税を行うこととしている。 この内国法人の社員名による納税は、この社員の帰国後に行われている。 内国法人は、この納税に関しては、給与の支給時に、我が国の所得税及び住民税の負担水準と同様の水準の負担が生ずるものと考えて納税額を計算し、未払費用を計上している。そして、納税時に、この未払費用の計上を修正し、その上で、不足分の納税額を含めて、納税額の総額を給料として計上している。 2 双方の主張の相違と本事案の争点 原処分庁は、帰国した社員が負担すべき外国所得税額を内国法人が負担したことによる経済的利益は、内国法人が雇用関係に基づいて社員に支給する給与等に該当し、その外国所得税額を現実に納付した時に経済的利益を供与したとして、内国法人に源泉徴収義務がある、と主張した。 これに対して、請求人(内国法人)は、海外勤務規定に海外出向社員の外国所得税額を内国法人が負担することがあらかじめ定められていることや外国所得税額が帰国した社員の海外勤務中に支給される給与等の手取保証額を基礎したグロスアップ計算により算出されていることから、外国所得税額に相当する給与等は手取保証額である給与等と一体であり、その手取保証額である給与の支給時に生じた所得、すなわち、帰国した社員の非居住者期間に生じた国外源泉所得に該当し、内国法人に源泉徴収義務はない、と主張した。 要するに、外国子会社に出向した社員が帰国した後に内国法人が納付したその社員の海外勤務中の給与に係る外国所得税額の負担による経済的利益は、その社員の非居住者であった期間中に生じた所得であるのか、あるいは、居住者となった時以後の所得であるのか、ということが本件の主な争点となっている。 3 国税不服審判所の裁決 国税不服審判所は、海外勤務規定等に内国法人が外国所得税額を負担する旨を定めているものの、負担時期に関する定めがないことや手取保証額である給与の支給時において納付すべき外国所得税額が確定していない等の理由から、内国法人が外国所得税額を現実に納付した時に、社員が外国所得税額に係る租税債務の消滅による経済的利益を享受したとし、内国法人が納付した外国所得税額による経済的利益は、その社員が日本の居住者となった以後の所得に該当するとして、内国法人に源泉徴収の義務がある、という裁決を下した。 ただし、本件の外国所得税額を納付したことによる経済的利益は、内国法人が未払費用として計上した金額を超える部分の金額となるとして、更正処分の一部を取り消した。 4 検討 上記3において述べたとおり、この裁決においては、内国法人が外国所得税額を見積計上した金額(未払費用として計上した金額)を超える部分の負担額のみが社員が居住者となった時以後の所得に該当する、としている。 この裁決に従えば、内国法人が正しく外国所得税額を見積計上していれば課税は行われない、という結論となる。 このような結論は、納税者が実務対応をする上では、歓迎するべきものと言ってもよい。 納税者は、我が国における年末調整と同じように、外国所得税の額の計算を正しく行って未払費用又は預り金を計上すればよいわけである。 しかし、本来、どのような判断が適切であるのかという点に関しては、疑問が残ることとなった。 内国法人が支給する給与が非居住者である期間の所得となるのか、あるいは、居住者である期間の所得となるのかという問題は、経理の仕方の如何によって結論が変わるものではないはずである。 本件における海外勤務規定や覚書等の内容の詳細が分からないため、確たることは言えないが、本件においては、仮に、社員が帰国後に内国法人において勤務していなかったとしても、内国法人は海外勤務規定や覚書等によって社員の外国所得税を負担しなければならなかったのではないかと想定される。 内国法人による外国所得税の負担がその内国法人の下における社員としての勤務にかかわらず行われるものであるとすれば、その負担額の全額を非居住者である期間の勤務に基因する外国源泉所得とすべきであると考える。 本件においては、内国法人による外国所得税の追加負担額に相当する金額が外国において給与として課税対象となっておらず、我が国においても課税対象としないということであれば、いずれの国においても課税されない給与があることを容認することとならざるを得ないことを背景として、外国所得税額の追加負担額に相当する金額を我が国における課税対象とするという判断を下したものではないかと想定される。 仮に、本件がそのような事情にあるとすれば、上記の裁決は、行政判断としては妥当であるとの評価がなされることになるものと思われるが、理論的には難しい課題を残すものとなったと評価されることにならざるを得ないと考える。 (了)
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税効果会計を学ぶ 【第20回】「連結財務諸表における税効果会計の取扱い⑤」~のれん・子会社への投資の評価減に関する税効果
-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。 税効果会計を学ぶ 【第20回】 「連結財務諸表における 税効果会計の取扱い⑤」 ~のれん・子会社への投資の評価減に関する税効果 公認会計士 阿部 光成 「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第6号。以下「連結税効果実務指針」という)では、のれん(又は負ののれん)と子会社への投資の評価減に関する税効果の取扱いについて規定している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ のれんに関する税効果 1 考え方 連結財務諸表の作成において、投資時における資本連結手続上、子会社への投資額と子会社資本の親会社持分額との間に差額が生じている場合は、のれん(又は負ののれん)として処理される(「連結財務諸表に関する会計基準」24項)。 税効果会計は、一時差異等について繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する処理であるので、のれん又は負ののれんが一時差異等に該当するかどうかがポイントになる。 2 のれん(又は負ののれん)に関する繰延税金資産又は繰延税金負債 連結税効果実務指針27項は、のれん又は負ののれんは税務上の資産又は負債の計上もその償却額の損金又は益金算入も認められておらず、また、子会社における個別貸借対照表上の簿価は存在しないから一時差異が生ずることになると述べている。 しかしながら、連結税効果実務指針27項では、のれん(又は負ののれん)に関して繰延税金負債又は繰延税金資産は計上しないと規定している。 これは、のれん(又は負ののれん)が投資と資本の相殺消去の結果生じる差額であるため、のれん(又は負ののれん)に対して子会社が税効果を認識すれば、のれん又は負ののれんが変動し、それに対してまた税効果を認識するという循環が生じてしまうことを回避するためである(連結税効果実務指針52項)。 Ⅱ 子会社への投資の評価減 1 考え方 親会社の個別財務諸表において子会社株式の評価減を行うことがある。 連結財務諸表の作成において、子会社株式の評価減は資本連結手続によって消去されることから、評価減の消去に伴う将来加算一時差異が発生する。 これについて、連結税効果実務指針は①評価減が税務上損金に算入されないケースと②評価減が税務上損金に算入されるケースに分けて規定している(連結税効果実務指針28項)。 2 評価減が税務上損金に算入されないケース 個別財務諸表における子会社株式の評価減について、将来減算一時差異の全部又は一部に対して繰延税金資産が計上されているときには、資本連結手続によって行われた評価減の消去に係る将来加算一時差異に対して、先に税効果を認識した将来減算一時差異の金額を限度として税効果を認識する。 その結果、連結手続上発生した将来加算一時差異に対して計上される繰延税金負債の額は、個別貸借対照表において計上された繰延税金資産の額と完全に一致することになり、連結財務諸表上、子会社への投資について一時差異が生じていないことと同様になり、税効果を認識していない結果と同様になる。 3 評価減が税務上損金に算入されるケース 個別財務諸表における子会社株式の評価減が資本連結手続上消去されたときには、評価減の消去に伴う将来加算一時差異に対して税効果を認識しないものとする。 * * * 連結税効果実務指針では、2又は3の手続を実施した後に、あらためて子会社への投資に係る一時差異について、連結税効果実務指針29項から38-3項に示された手続を実施すると規定している。 そして、本手続の適用上、当該各項において「個別貸借対照表上の投資簿価」とあるのは「税務上の簿価」と読み替えるものとし、その結果、投資の連結貸借対照表上の価額と親会社の税務上の簿価との差異について税効果が認識され、繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されると述べている。 (了)
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経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第22回】減損会計③「回収可能価額」─使用価値 vs 正味売却価額
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第22回】 減損会計③ 「回収可能価額」 ─使用価値 vs 正味売却価額 仰星監査法人 公認会計士 菅野 進 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ×4年3月31日(決算日) (*1) ① 使用価値 ② 回収可能価額 使用価値123百万円 > 正味売却価額100百万円 → 123百万円 ③ 減損金額 帳簿価額300百万円 - 回収可能価額123百万円 = 177百万円 〈会計処理の解説〉 今回は前回解説した減損会計のステップ(下図参照)のうち、(4)減損損失の測定について、もう少し詳しく見てみましょう。 そもそも、減損金額は下記の方法で算出しました。そして「回収可能価額」は「使用価値」と「正味売却価額」のどちらか高い方を選びます。 それでは「使用価値」と「正味売却価額」は、どのように算出するのでしょうか。 (1) 使用価値 「使用価値」とは、事業用資産を使用又は処分して得られる将来キャッシュ・フローを貨幣の時間価値を考慮して現時点の価値、すなわち現在価値へ引き直したものです。 そこで、「貨幣の時間価値」とは何でしょうか。 例えば、今10万円もらうのと、1年後に10万円もらうのとでは、今10万円もらって銀行に預ければ1年後には利息がつくため、今10万円もらう方が得をすることになります。 つまり、「今」と「1年後」にもらう10万円の価値は、異なることになります。 これを貨幣の時間価値といいます。 そして、例えば1年後に2%の利息がつくとすると、今もらう10万円は1年後には10万円×(1+2%)=10万2,000円となります。 これを現在の価値に引き直すには、10万2,000円÷(1+2%)=10万円として計算し、この10万円を「現在価値」といいます。 なお、現在価値に引き直す際に用いる利率(上記の場合2%)のことを「割引率」といいます。 したがって、使用価値は下記の方法で算出されます(なお「n」は期間を表します)。 (2) 正味売却価額 「正味売却価額」とは、事業用資産の時価から処分費用見込額を控除して算定される金額をいいます。 すなわち、当該事業用固定資産を処分費用等も考慮して、今売却した場合に、実際に回収できる金額のことをいいます。 ただし、通常、正味売却価額より使用価値の方が高いと考えられるため、減損損失の測定において、明らかに正味売却価額が高いと想定される場合や処分がすぐに予定されている場合などを除き、必ずしも現在の正味売却価額を算定する必要はありません。 (了) ※11月は純資産会計を取り上げます。
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建設業が危ない!労務トラブル事例集・社会保険適用の実態 【第3回】「社会保険未加入の実例」
建設業が危ない! 労務トラブル事例集・ 社会保険適用の実態 【第3回】 「社会保険未加入の実例」 なりさわ社会保険労務士事務所 代表 特定社会保険労務士 成澤 紀美 今回は、建設業における社会保険未加入の実例をお伝えしたい。 建設業であっても、多くの企業は社会保険にキチンと加入し、保険料を納付している。それは社員に安心して働いてもらうためでもあり、良い社員を雇用するためでもある。 しかし現実には、社会保険料の負担を避けるために、保険加入を免れようとしたり保険料を抑えるために、様々な方法を用いているケースもみられる。 典型的なケースを紹介すると、以下のようなものである。 【ケース1】 実態は雇用だが、個人事業主として扱い社会保険へ加入しない よく使われているケースの一つ。特に職人気質が強く、自身の技能に対する自信と自己責任が基本姿勢のためか、社会保険に頼る必要はないと考えている。 実態としては雇用契約なのだが、個人事業主として請負契約とし、個人が国民年金・国民健康保険に加入している。 本人も社会保険に加入したくない、会社側も法定福利費を抑えたいため個人事業主の契約を望んでいる。 【ケース2】 社員を退職したとして元の会社での社会保険の資格を喪失させ、別会社を設立し、別会社で雇用をしているが社会保険には加入していない 全社員ではないものの、社会保険料を支払いたくないと要望している一部の社員を退職扱いとし、元の会社で社会保険の資格を喪失させる。その後、新たに設立した別会社で雇用はするものの、社会保険には加入せずに、各自に国民年金・国民年金健康保険に加入してもらう。 若い社員の中には、年金に対する不信感も手伝ってか、国民年金の納付をしない者もいる。 【ケース3】 社会保険料を抑えるために、給与として支給する分と、業務委託報酬として支給する分とを分けて支払う 社員として雇用している者の給与構成を分け、総支給額の半分を給与として支給し、この金額を元に社会保険料の基本となる標準報酬を決めている。残り半分は業務委託に対する報酬支払であるとし、社会保険料の計算から除外する。 中には、給与額が最低賃金を下回っている場合もある。 結果として、本来支払うべき社会保険料の半分程度まで下がるため、本人も会社も保険料負担が抑えられるとされる。零細企業でよく使われる方法でもある。 【ケース4】 同一人物の給与を複数で受け取っているようにみせかけ、社会保険加入を免れる 元々は1人の人物に支払うべき給与を、親族も同じ会社に勤めているようにみせかけ、2人に対して分けて給与を支給。 2人に分けることで、勤務日数や労働時間も少なくなるため、社会保険の加入要件に該当しないようにし保険料負担を免れていた。 * * * 上記いずれのケースも、会社にとっては法定福利費を抑えるための節約術と考えがちだが、どの方法であっても法律に違反していることは違いない。 調査が入らなければ分からないから大丈夫と思っているかもしれないが、いざ調査が入ったら、遡及して社会保険料の納付が必要となる。 本来社員から徴収すべき保険料も、納付義務は会社側にあるため、最悪の場合、保険料を取り損ねることもある。 社会保険料を安く抑える=将来受け取れる年金額が安くなるわけで、社員が将来受け取るべき年金が、満額で受け取れないという状況を自ら用意している事態にもつながっていると自覚すべきであるといえる。 次回は、労務管理上の注意点・トラブル事例をお伝えしたい。 (了)
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活力ある会社を作る「社内ルール」の作り方 【第5回】「企業文化による統治へどう取り組むか」
活力ある会社を作る 「社内ルール」の作り方 【第5回】 「企業文化による統治へどう取り組むか」 特定社会保険労務士 下田 直人 〈企業文化=価値観の共有〉 今回は、企業文化を中心として社内ルールを作る場合の考え方について述べてみたい。 企業文化中心の社内ルールをつくるためには、(当たり前のことであるが)最初に企業文化を戦略的につくることから始めなければならない。 つまり、企業文化の構築を通じて「社内の価値観統一」を図っていくということだ。 そのためには、会社が大切にしている「気持ち」、「心がけ」、「行動」などを具体化していくことが必要となる。 この時に大事なのは、経営者が企業文化を戦略的につくり、それをベースにして経営を行うということに腹をくくることである。つまり、営業方針から採用、人事制度などなど、至るところで「ブレなく企業文化が価値判断の基準となる会社をつくる」という腹決めをするということだ。 経営者にこの「腹決め」がないと、必ず試みは失敗する。 そして、腹決めの後に、会社の実情を見渡してみることが必要だ。その際には、経営者が日頃から思っていること、特に創業時や経営者になった時の思い、後継者であるならば先代が創業した時の思いなどを思い起こしてみて活字にしてみることも重要である。 そして次に、「この会社を体現している人」「一番、この会社っぽい人」をピックアップし、その人がどんな心構えや性格、どんな行動を取っているかを思い起こし、やはり活字にしてみると良い。 上記のような作業から出てきたキーワードをまとめることを繰り返しながら、会社が大切にしたい価値観をまとめ上げていき、企業文化をつくっていくのだ。 実際に企業文化を構築する過程では、経営者がリーダーシップを発揮しながらも従業員をうまく巻き込み、従業員の目線も取り入れていく方法が良いと思われる。 よく言われる話ではあるが、価値観というものは、「思い」が根源にあるものであるから、誰かが決めたものを一方的に押し付けられるより、「みんなで決めた」という納得感のもとで確立していく方が、従業員の間に浸透しやすい。 こうして企業文化の構築を図り、価値観の浸透が図られてきたならば、社内ルール(就業規則)もそれに基づいて構築しなおしてみることで、社内に「文化を基準とした統一感」が出てくるのである。 〈価値観から来るルールとは?〉 価値観から来るルールとは、なんであろうか。 それは、その価値観が尊重される働き方をする場合には都合が良く、そうでない場合には不都合が多いようなルールを構築していくことである。また、価値観に基づいて行動するのであれば、当然そのような行動となるであろうことまで事細かにルール化しないことでもある。 例えば「ワクワクすることに取り組む」という価値観を大切にする会社があったとする。 この価値観が実現されるためには、 「どんな働き方がいいのか?」 「どんなルールがこの価値観の実現を阻害するのか?」 ということを考えていく。 そうすると、例えば、「ワクワクすること」に取り組めるように、 という発想が生まれるかもしれない。 すると、フレックスタイム制を導入しようという発想になるかもしれない。 もしくは、 という意見が出てくるかもしれない。そのために、 というルールが生まれるかもしれない(実際にこれは筆者の事務所でも行っており、機能している)。 また、価値観が共有されていれば、当然に実行される(反対に、そのような行動はしない)というルールは就業規則上から省いていくことも検討できる。 例えば、 という価値観を大切にしている会社があったとしよう。 もし、この会社でこの価値観が浸透され実行されるのであれば、有給休暇の申請期限といったルールは必要なくなる可能性がある。 また、 と言ったルールも必要なくなる可能性がある。 有給休暇を取得すること自体は自由だが、そのことにより自分の家族が迷惑を被っては困る。すると、それなりの期間を置いて、周囲の理解を得ながら申請するのが当然の行動となる。また、家族と思えば、家族からリベートを要求する人はいなくなるわけである。 もし、そのような行為をする従業員がいれば、その本人に対して ということを周囲から問われることになる。 つまり、規則がその人を許さないのではなく、仲間がその人を許さないことになるのだ。 このように望ましい企業文化をつくり、その中に流れる価値観を明確にすること。そして、その価値観に基づいて社内ルールを構築していくと「一本筋の通った組織」となり、また、規則による「ダメ」「いけない」で統治された組織ではなく、自律型の価値観に基づいて「すべき」で動く組織をつくっていくことができるのだ。 (了)