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法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載3〕 株式会社の解散と法人税申告の実務 【第3回】期限切れ欠損金の損金算入制度における租税債務の取扱い

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載3〕 株式会社の解散と法人税申告の実務 【第3回】 期限切れ欠損金の損金算入制度における 租税債務の取扱い   税理士 竹内 陽一    F社は、この度、解散して清算することを検討しています。 F社の解散時に想定される資産・負債の状況は下図のとおりで、諸資産の売却収入(7,000)で諸負債(6,500)を弁済しようと考えています。資産(5,000)には含み益(2,000)があり、利益積立金額▲2,500は、期限切れ欠損金額と考えてよいものです。青色欠損金は、ありません。 F社は、このまま解散して清算すると、未払法人税等(800)が発生してしまうのではないかと思われますが、仮に未払法人税等(800)が発生するということになると、残余財産がなくなり、債務超過となってしまいます。 この場合にも、期限切れ欠損金額を損金に算入することができるのでしょうか。 ただし、上記の資産に関しては、解散時の時価が高くなる可能性がありますので、念のため、時価が8,000(含み益3,000)の場合の取扱いに関しても、併せてご教授下さい。   1 未払法人税等を計上すると残余財産がないこととなるケースの取扱い F社は、解散時に債務超過であり、資産を譲渡した時に債務超過の状態は解消されますが、この場合、未払法人税等を計上すると、債務超過の状態となります。 法人税法59条3項(残余財産がないと見込まれる場合の期限切れ欠損金額の損金算入)においては、残余財産がないと見込まれるときは、その事業年度において、期限切れ欠損金額を、当該所得金額を限度として、損金の額に算入する、とされていますので、F社の場合には、最終事業年度の所得金額が零となり、500(7,000-6,500)の残余財産が残ることとなります。 残余財産がないと見込まれるときの判定は、清算中の各事業年度終了の時の現況によって判定することとされており(法基通12-3-7)、残余財産がないと見込まれることを説明する書類には、例えば、各事業年度末の実態貸借対照表が該当する(法基通12-3-9)、とされています。 この残余財産がないと見込まれるときの判定については、上記通達以外に、国税庁質疑応答事例(法人が解散した場合の設立当初からの欠損金額の損金算入制度(法法59③)における「残余財産がないと見込まれるとき」の判定について)において、次のように説明されています。 上記の説明文からすると、F社の場合には、青色欠損金控除後の所得について法人税額等を未払計上して実態貸借対照表を作成し、残余財産がないと見込まれると判定して、法人税法59条3項により、期限切れ欠損金の損金算入を行うことができる、ということになります。 このため、期限切れ欠損金2,500の内の2,000が損金算入されて、法人税額等が発生しないこととなり、残余財産として500が残って株主に分配されることになります。 この事例では、解散時の簿価純資産価額のマイナス▲1,500は、資本金等の額1,000+利益積立金額▲2,500ですが、仮にこれが資本金等の額▲2,000+利益積立金額500であっても、同様に、資本金等の額のマイナス2,000を損金算入することになります(法令118①一)。   2 未払法人税等を計上しても残余財産があるケースの取扱い 上記1のケースにおいては、未払法人等を計上することにより、残余財産がないこととなり、期限切れ欠損金の損金算入を行うことができましたが、2のケースにおいては、未払法人税等を計上しても、残余財産が残ることとなり、法人税法59条3項を適用することはできません。 このため、2のケースにおいては、最後に残余財産として残って株主に分配することができる金額は、上記1のケースより少ない300(8,000-7,700)となります。 上記1と2のケースを比べると、資産の残高が多い方が株主に分配することができる残余財産が少なくなるという逆転現象が生ずることとなりますが、法令の規定及び国税庁の解釈からすると、このような結論となることになります。 (了)
#3(掲載号)
#竹内 陽一
2013/01/24
会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計 過年度遡及修正

〔過年度遡及会計基準〕 売上高の総額・純額表示の変更について

〔過年度遡及会計基準〕 売上高の総額・純額表示の変更について   公認会計士 阿部 光成   平成24年5月15日、日本公認会計士協会は「比較情報の取扱いに関する研究報告(中間報告)」(会計制度委員会研究報告第14号。以下「研究報告」という)を公表している。 これは、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号。以下「過年度遡及会計基準」という)及び「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第24号。以下「過年度遡及適用指針」という)の公表、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」等において、比較情報の作成が規定されたことを受けたものである。 後述するように、過年度遡及会計基準は、会計方針の変更と表示方法の変更を分けて規定しており、また、その区別についても従来の考え方から変更している。 本稿では、会計方針の変更と表示方法の変更の区別について、研究報告のQ7の売上高と売上原価の総額表示・純額表示の変更を用いて述べる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 会計方針の変更等の定義 過年度遡及会計基準では、会計方針と表示方法を分けて、それぞれの定義が設けられている。これに合わせて、会計方針の変更と表示方法の変更も区別されている。 これらの定義は次のとおりである(過年度遡及会計基準4項(1)、(2)、(5)、(6))。 「会計方針」とは、財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続をいう。 「表示方法」とは、財務諸表の作成にあたって採用した表示の方法(注記による開示も含む)をいう。 「会計方針の変更」とは、従来採用していた一般に公正妥当と認められた会計方針から他の一般に公正妥当と認められた会計方針に変更することをいう。 「表示方法の変更」とは、従来採用していた一般に公正妥当と認められた表示方法から他の一般に公正妥当と認められた表示方法に変更することをいう。   Ⅱ 会計方針の変更と表示方法の変更   1 会計方針の変更と表示方法の変更の区別 表示方法の変更には、財務諸表における同一区分内での科目の独立掲記、統合あるいは科目名の変更及び重要性の増加に伴う表示方法の変更のほか、財務諸表の表示区分を超えた表示方法の変更が含まれる(過年度遡及会計基準4項(6)、過年度遡及適用指針4項)。 過年度遡及適用指針は、会計処理の変更に伴って表示方法の変更が行われた場合は、会計方針の変更として取り扱い、表示区分を超える変更であっても、会計処理の変更を伴うものでない限り表示方法の変更として取り扱うと規定している(過年度遡及適用指針7項、15項、19項)。 ここで、会計処理の変更を伴うという意味は、資産及び負債並びに損益の認識又は測定について変更が行われる場合である(過年度遡及適用指針19項)。 つまり、「財務諸表の表示区分を超えた表示方法の変更」と「会計方針の変更」の区別については、資産及び負債並びに損益の認識又は測定についての変更があるかどうかによって行うことになる。 2 表示方法の変更のケース 過年度遡及適用指針19項では、ある収益取引について営業外収益から売上高に表示区分を変更する場合、資産及び負債並びに損益の認識又は測定について何ら変更を伴うものではないときは、表示方法の変更として取り扱うと規定している。 研究報告のQ7でも、例えば、前事業年度まで営業外収益に計上していた賃貸収入について、当事業年度から売上高に表示区分を変更する場合のように、売上総利益及び営業利益という区分を超える変更であったとしても、資産及び負債並びに損益の認識又は測定について変更が行われないときには表示方法の変更として取り扱われると述べている。 3 売上高と売上原価の総額表示・純額表示の変更のケース 研究報告のQ7では、損益計算書の売上高の表示に際して、従来、売上高と売上原価の総額で表示していたが、過年度における当該総額表示が適切であり、また、取引契約の内容が変更されるなどの事実の変更がないという前提において、正当な変更の理由の存在及び変更の適時性が認められる場合に(過年度遡及適用指針6項及び「正当な理由による会計方針の変更等に関する監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第78号)8項)、売上高と売上原価を相殺し、純額で表示する方法への変更は、損益の認識又は測定の変更を伴うものであるので会計方針の変更として取り扱われると述べている。   Ⅲ 実務上の留意点   1 資産及び負債並びに損益の認識又は測定について変更があるかどうかについて慎重に判断すること 会計方針の変更と表示方法の変更の区別に関するポイントになるので、慎重に判断する必要がある。 2 取引契約の内容が変更されるなどの事実の変更がないかどうかについて慎重に判断すること 研究報告のQ7では、「取引契約の内容が変更されるなどの事実の変更がないという前提」を置いて述べている。 取引契約の内容が変更されるなどの事実の変更がある場合には、当該取引契約の内容の実態を反映するように会計処理及び表示に関する方法を選択することになると考えられる。 このような場合には、会計方針の変更ではなく、会計事実の変更に該当すると判断されるものと考えられる。 過年度遡及適用指針8項では、次の事象は会計方針の変更に該当しないと規定しているので、会計方針の変更に該当するかどうかの判断に際しては、注意が必要である。 会計処理の対象となる会計事象等の重要性が増したことに伴う本来の会計処理の原則及び手続への変更 会計処理の対象となる新たな事実の発生に伴う新たな会計処理の原則及び手続の採用 3 「正当な理由による会計方針の変更等に関する監査上の取扱い」 監査上の取扱いとして、「正当な理由による会計方針の変更等に関する監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第78号。以下「実務指針78号」という)が公表されている。 実務指針78号8項では、監査人は、経営者による会計方針の選択及び適用方法が会計事象や取引を適切に反映するものであるかどうかを評価しなければならないとし、会計方針の変更のための正当な理由があるかどうかの判断に当たっては、以下の事項を総合的に勘案する必要があると規定している。 会計方針の変更が企業の事業内容又は企業内外の経営環境の変化に対応して行われるものであること 会計方針の変更が会計事象等を財務諸表に、より適切に反映するために行われるものであること 変更後の会計方針が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に照らして妥当であること 会計方針の変更が利益操作等を目的としていないこと 会計方針を当該事業年度に変更することが妥当であること(変更の適時性) このため、会計方針の変更を行う際には、上記の事項について総合的に勘案し、判断する必要がある。 また、実務指針78号9項では、会計方針は、原則として、事業年度を通じて首尾一貫していなければならないと規定している。 四半期決算を行う企業の第2四半期以降における自発的な会計方針の変更は、当該四半期会計期間(第4四半期会計期間を含む)において発生した特殊の事情、例えば、直前の四半期会計期間の末日までには考慮する必要がなかったが、当該四半期会計期間に至って考慮せざるを得ない状況が発生した場合等に限って認められるものとされている(中間決算を行う企業の下期における自発的な会計方針の変更も同様)。 このため、会計方針の変更を行う場合には、原則として、四半期決算を行う企業の第1四半期から行うことになると考えられる。 表示方法の変更については、実務指針78号13項において、同78号12項②の会計事象等を財務諸表により適切に反映するために行う変更であるかどうかを判断するに当たっても、監査人は同78号8項の判断の指針に留意することが必要であると規定されているので、注意が必要である。 (了) 【参考】ASBJ/FASFホームページ ・「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号) ・「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第24号)
#3(掲載号)
#阿部 光成
2013/01/24
会計 税務・会計 管理会計 解説 解説一覧

企業予算編成上のポイント 【第2回】「『予算作成の流れ』を理解する」

企業予算編成上のポイント 【第2回】 「『予算作成の流れ』を理解する」   公認会計士 児玉 厚   会社は「人」である。 次期の目標を実現するためには、社員のベクトルを一本化していかなければならない。 しかし実際は「次期目標を数値化した予算」は十分に理解されていない。 つまり、経営企画室は、予算の大枠は理解しているが、個別の部門予算作成プロセスは理解していない。一方、たとえば、営業マンは売上高予算作成プロセスを理解しているが、予算作成の全体像は理解されていない。 したがって、すべての社員が「予算作成の流れ」を正しく理解していることが重要である。紙幅の関係上制約があるが、以下「予算の流れ」を解説する。 予算作成のポイントは下記の点にある。 予算の内容が中期経営計画と合理的に結び付いていること 予算の内容が全社、部門のみならず担当者レベルの具体的行動計画に結び付くこと すべての予算費目について、金額算定の根拠を示す客観的基礎資料があること 当期に発生した問題点や課題が適切に次期予算に反映されていること 各部門の予算は実状に応じ、公正に評価されること 予算達成に対する従業員のやる気を促す報奨制度があること 部門間の利害調整を適切に行うこと 月次発生主義に基づく厳格な実績管理が行われていること 予算作成の事務作業が適正に、かつ迅速に行われること(「システム化」) 予算がブレるリスクを事前に洗い出し、対応策を事前検討すること 「予算作成の流れ」を図1に従って簡潔に解説する。 図1 予算作成の流れ ※クリックすると画像が拡大されます。 注:製造部門は販売部門へ社内売上を計上している。   【手順1】[12月] 3ヶ年の「中期経営計画」…① を作成する(管理部門) 【手順2】[1月中旬] 3月末の「実績予想の損益計算書、貸借対照表、株主資本等変動計算書及びキャッシュ・フロー計算書」を作成し、予算実績分析を行い、課題を整理する…② 〈留意点〉当期実績は予想値であること 【手順3】[1/25] 上記①・②より、「次期全社予算編成方針(目標売上高、目標利益等)」を作成する…③ 〈留意点〉理想的には、目標営業キャッシュ・フローも明示 併せて「予算編成スケジュール表」を作成する…④   《販売部門》[1/28~3/17] 【手順4】 上記③・④より、「販売部門予算編成方針」(販売部門予算スケジュール表含む)を作成する…A1 併せて、販売戦略も作成する。 【手順5】 上記①及びA1より、「設備投資・処分等申請書」を作成する…A2 【手順6】 営業マンごとに、「担当者別相手先別販売計画表」を作成する…A3 【手順7】 A3を集計して「製品別販売計画書(売上高・販売数量)」を作成する…A4 【手順8】 A4を実現するための「販売費予算表(販売費)」を作成する…A5 【手順9】 管理部門作成の「C6全社管理費予算表」等より、「販売部門管理費予算表」を作成する…A6 【手順10】 社内振替単価×月次完成品数量=月次社内売上原価の計算式より、「社内振替売上原価予算表」を作成する…A7 【手順11】 管理部門「C4人件費計画表」より、「販売部門人件費予算表」を作成する…A8 【手順12】 管理部門「C13本社費配賦表」より、「販売部門本社費予算表」を作成する…A9 【手順13】 上記A1~A9より、「販売部門予算書(損益計算書)」を作成する…A10 【手順14】 A3より、決済条件(例:末締翌月末振込入金)を基礎として、「担当者別相手先別売上代金回収計画表」を作成する…a1 【手順15】 a1を集計して「売上代金回収計画書」を作成する…a2 【手順16】 A5より、決済条件(例:末締翌月末振込支払)を基礎として、「販売費支払計画表」を作成する…a3 【手順17】 上記a1~a3より、「販売部門資金収支計画書」を作成する…a4   《製造部門》[1/28~3/17] 【手順18】 上記③・④より、「製造部門予算編成方針」(製造部門予算スケジュール表含む)を作成する…B1 併せて、生産戦略も作成する。 【手順19】 上記①及びB1より、「設備投資・処分等申請書」を作成する…B2 【手順20】 歩留率を考慮し、製品1個当たり投入量・単価を示す「製品別単位製造費用予算表」(例:直接材料費=材料2.2㎏×@100千円=220千円など)を作成する…B3 【手順21】 販売部門の「A4製品別販売計画書」の月次販売数量=月次出庫数量になるので適正在庫水準を考慮して「製品別生産計画兼製品在庫計画表」を作成する…B4 【手順22】 B3・B4より、「材料仕入兼在庫計画表」を作成する…B5 【手順23】 B3・B4より、「外注費計画表」を作成する…B6 【手順24】 管理部門「C4人件費計画表」及びB3・B4より、「製造人件費予算表(作業時間・平均賃率)」を作成する…B7 【手順25】 B3~B7より、「製造直接費予算表」を作成する…B8 【手順26】 管理部門作成の「C6全社管理費予算表」及びB3~B7より、「製造間接費予算表」を作成する…B9 【手順27】 B3・B4・B8・B9より、「製品別製造原価計画表」を作成する…B10 【手順28】 社内振替単価×月次完成品数量=月次社内売上高の計算式より、「社内売上予算表」を作成する…B11 【手順29】 管理部門「C13本社費配賦表」より、「製造部門本社費予算表」を作成する…B12 【手順30】 上記B1~B12より、「製造部門予算書(損益計算書)」を作成する…B13 【手順31】 B5より、決済条件(例:末締翌々月末振込支払)を基礎として「材料仕入代金支払計画表」を作成する…b1 【手順32】 B6より、決済条件(例:末締翌月末振込支払)を基礎として「外注費支払計画表」を作成する…b2 【手順33】 B8・B9の個別製造経費について、決済条件(例:末締翌月末振込支払)を基礎として「個別製造経費支払計画表」を作成する…b3 【手順34】 b1~b3より、「製造部門資金収支計画書」を作成する…b4   《管理部門》[1/25~3/17] 【手順35】 上記③・④より、「管理部門予算編成方針」(管理部門予算スケジュール表含む)を作成する…C1 併せて、財務戦略も作成する。 【手順36】 上記①及びC1より、「設備投資・処分等申請書」を作成する…C2 【手順37】 A2・B2・C2より、当期末の「固定資産管理台帳」を基礎として、「固定資産増減兼減価償却費計画表」を作成する…C3 【手順38】 次期の役員・社員の増減を予測し、「人件費計画表」を作成する…C4 「管理部門人件費予算表」を作成する…C5 【手順39】 「全社管理費予算表」を作成する…C6 C6より、「管理部門管理費予算表」を作成する…C7 【手順40】 「借入金等計画表(借入金・支払利息等)」を作成する…C8 【手順41】 「資金運用計画表(金融商品・受取利息等)」を作成する…C9 【手順42】 「消費税等予算表(仮受・仮払消費税等、未払消費税等)」を作成する…C10 【手順43】 「特別損益予算表(固定資産売却損益・除却損等)」を作成する…C11 【手順44】 「税金等予算表(税効果含む)」を作成する…C12 【手順45】 C1~C12より、「管理部門予算書」を作成する…C14 【手順46】 C14より、「本社費配賦表」を作成する…C13 販売部門及び製造部門に賦課する。 【手順47】 C3より、決済条件を基礎として「設備投資・処分等収支計画表」を作成する…c1 【手順48】 C4より、決済条件を基礎として「人件費支払計画表」を作成する…c2 【手順49】 C6より、決済条件を基礎として「全社管理費支払計画表」を作成する…c3 【手順50】 C8より、決済条件を基礎として「借入金等収支計画表」を作成する…c4 【手順51】 C9より、決済条件を基礎として「資金運用等収支計画表」を作成する…c5 【手順52】 C11より、納付期限を基礎として「税金等支払計画表」を作成する…c6 【手順53】 C1より、決済条件を基礎として「剰余金処分等支払計画表」を作成する…c7 【手順54】 c1~c7より、「管理部門資金収支計画書」を作成する…c8   《総合予算書》[3/22~3/27(但し、⑪は4/30)] 【手順55】 「a4販売部門資金収支計画書」「b4製造部門資金収支計画書」「c8管理部門資金収支計画書」より、「月次資金計画書」を作成する…⑤ 【手順56】 「A10販売部門予算書」「B13製造部門予算書」「C14管理部門予算書」を合算し、内部取引(社内売上高・社内売上原価)を消去し、「予算損益計算書」を作成する…⑥ 【手順57】 「B4製品別生産計画兼製品在庫計画表」「B5材料仕入兼在庫計画表」「B10製品別製造原価計画表」「C3固定資産増減兼減価償却費計画表」「C8借入金等計画表」「C9資金運用計画表」「C10消費税等予算表」「C12税金等予算表」「a4 販売部門資金収支計画書」「b4製造部門資金収支計画書」「c8 管理部門資金収支計画書」「⑤月次資金計画書」及び「上記②の実績予想貸借対照表」より、「比較予算貸借対照表」を作成する…⑦ 【手順58】 上記⑥・⑦より、「予算株主資本等変動計算書」を作成する…⑧ 【手順59】 上記⑦の増減差額を予算キャッシュ・フロー科目へ振り替える「予算キャッシュ・フロー組替仕訳(予算C/F組替仕訳)」を作成する…⑨ 【手順60】 上記⑤~⑨より、「予算キャッシュ・フロー計算書」を作成する…⑩ 【手順61】 上記⑥より、「決算短信業績予想」を作成する…⑪   《月次部門別予算書》[3/31~4/4] 【手順62】 A10より、「販売部門月次予算書(損益計算書)」を作成する…A11 【手順63】 B13より、「製造部門月次予算書(損益計算書)」を作成する…B14 【手順64】 C14より、「管理部門月次予算書(費用予算書)」を作成する…C15 上記A11・B14・C15より、月次部門予算・実績管理を行っていく。 (了)
#3(掲載号)
#児玉 厚
2013/01/24
会計 監査 税務・会計 解説 解説一覧 財務諸表監査

〔会計不正調査報告書を読む〕【第4回】オリバー架空・循環取引「社内調査委員会・第三者調査委員会調査報告書」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第4回】 オリバー架空・循環取引 「社内調査委員会・第三者調査委員会 調査報告書」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概要】   【株式会社オリバーの概要】 株式会社オリバー(以下「オリバー」という)は、愛知県岡崎市に本店を置くインテリアの製造・販売会社で、連結売上高20,445百万円、連結経常利益1,938百万円。従業員386名。国内に有線テレビ事業を営む連結子会社1社と、アメリカ、ニュージーランドにそれぞれ連結子会社を有している(数字はいずれも2011年10月期)。名古屋証券取引所上場。   【報告書のポイント】 1 架空・循環取引が発覚した経緯 (1) 取引先C社による債権残高の照会(2012年9月25日) 取引先C社の社長以下がオリバーを訪問し、同社の売掛債権が1億円以上あり、かつ、当該債権について執行役員医療福祉営業部長(以下「元部長」という)が作成した念書があることを説明した。 オリバーのC社に対する買掛債務は100万円であったため、事実関係を確認しようとしたが、元部長は、その前日から出張に出かけ不在であった。 なお、元部長の所在は、現在に至るまで分かっていない。 (2) 社内調査委員会による調査 オリバーは、9月28日の取締役会で、社長を委員長とする調査委員会を設置し、医療福祉営業部員に対するヒアリングを行うとともに、C社を含む取引先との面談及び資料の提供を受けて、C社を含む複数の取引先(以下「特定取引先6社」という)との間で、架空の売上計上、架空の仕入計上の疑いがあることが判明した。 元部長以外の医療福祉営業部員らは、関与を全面的に否定した。 (3) 第三者調査委員会の設置 社内調査の結果、元部長の所在が不明であることから取引の詳細は明らかではないものの、何らかの架空取引があったとの判断から、11月6日、第三者委員会を設置し、翌日、その事実を開示した。   2 調査結果により判明した事実 (1) 納入実体のない架空・循環取引 元部長による、特定取引先6社を巻き込んだ架空・循環取引による売上計上額は2005年12月から2012年10月までの間に2,892百万円に達し、経常利益を363百万円不正に過大計上していた。 不正の手口としては、直送取引(商品が仕入先から設置場所に直送され、オリバーを経由しない取引)を利用し、特定取引先6社の協力を得て証憑書類を作成して、入出金を行い、架空・循環取引であることを隠蔽して行われていた。 (2) 不正な金銭の受領 元部長は、個人口座に振り込ませたり、飲食代金等の肩代わりをさせたりする方法で、特定取引先のうちの1社であるA社から10年間で総額10,946千円を支出させ、同じくE社からは、1年半の間に9,597千円を支出させていた。 (3) 架空・循環取引参加社の対応 最も後から架空・循環取引に参加したE社は、仕入先には現金で支払い、オリバーからは120日手形を受け取る条件で8~10%の利ざやを得ていたが、架空・循環取引の破綻に伴い、オリバーを被告として不法行為に基づく損害賠償請求訴訟(訴額493百万円)を提起した。 一方、特定取引先のうちA社は、2012年10月破産申立手続きを行い、翌月、破産手続の開始が決定している。   3 架空・循環取引を組成するに至った理由 (1) 予算達成のプレッシャー及び昇進・昇給目的 調査報告書は、オリバーの、業績に偏重した成果主義、昇格制度、予算ノルマ達成へのプレッシャーなどが、元部長をして、架空売上・利益の計上を企図させた原因としている。なお、元部長の評価は高く、同期入社のトップで執行役員に昇進している。 社内調査報告書には、2003年10月、元部長が、前年の業績不振により降格されたという記載もあり、降格人事を経験したことがより一層強いプレッシャーを感じる原因となったことが類推できる。 (2) オリバーの企業風土 調査報告書は、オリバーの、コンプライアンス意識の不徹底、社内規定、決裁権限の不備を不正の発生原因とし、内部監査、監査役監査が機能していなかったことを指摘している。 また、人事異動が適切に行われていなかったことが、当該部門を不正の温床とし、取引業者との癒着につながったと批判している。 (3) 利益供与目的 前述のように、元部長は、特定取引の2社から合計2,000万円以上の不正な利得を得ており、自らの遊興費欲しさに、架空・循環取引を組成した面もある。   4 調査報告書の特徴 架空・循環取引がマスコミで報じられるようになったのは、2007年1月のアイ・エックス・アイ社に対する強制捜査、翌年4月のニイウスコー社の破綻などからであろうか。 2010年にはメルシャン社の不正が親会社まで巻き込んだ。本事例は、執行役員営業部長が、長年、架空・循環取引を捏造し、しかも、仕入先から不正に利益供与を受けていた事件である。 第三者調査委員会は、オリバーの取締役の責任について、 としかコメントしていないが、オリバーの取締役・監査役の中には、他社で行われた不正の報道に触れて、「自社は大丈夫だろうか」とか、「もっと厳格な監査が必要ではないか」と心配するメンバーは存在しなかったようである。 第三者委員会は、懲戒解雇にした元部長を刑事告訴すべきと断じ、また、監査法人についても、「監査法人の監査チームが、リスク意識を十分に理解せずに監査業務を遂行していた」から、本件取引に気づかなかったと厳しく指摘しているが、それに引き換え、取締役の責任に対する上記のコメントは歯切れが悪く感じる。 もちろん、不正を働いた元部長が悪いのは間違いない。しかし、有能な社員を不正に走らせ、8年間、その不正を発見できなかったのみならず、失踪にまで追い込んだ社内管理体制の不備、それを放置した経営者の責任はもっと重いのではないだろうか。 内部統制の目的は不正を防止することだけではなく、社内から犯罪者を出さない、社員を刑事被告人にしないことも含まれるはずである。 (了)
#3(掲載号)
#米澤 勝
2013/01/24
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

高年齢者の継続雇用を巡る企業対応(最高裁平成24年11月29日判決を受けて)

高年齢者の継続雇用を巡る企業対応 (最高裁平成24年11月29日判決を受けて)   弁護士 薄井 琢磨   1 はじめに 平成16年改正の高年齢者雇用安定法(以下「平成16年改正法」という)の施行を受けて、多くの企業が継続雇用制度を導入した。 ところが、近時、継続雇用制度を巡る紛争が増加し、裁判例が相次いで出されている。 この種の紛争の典型例は、定年を迎えて継続雇用を希望する労働者に対し、企業が継続雇用基準を満たさないなどの理由でこれを拒み、労働者が雇用継続を求めて提訴するというものである。 今般、継続雇用拒否に対する法的救済を認めた最初の最高裁判決(津田電気計器事件・最高裁平成24年11月29日第一小法廷判決)が出された。 本判決は、企業の実務対応を考える上で重要な意義があると思われるので、概要を紹介し、併せて実務対応上の留意点に触れたい。   2 継続雇用制度を巡る状況 (1) 平成16年改正法の概要 平成16年改正法は、企業に対して60歳を下回る定年の定めを禁止したうえで(8条)、65歳未満の定年を定めている企業は、従業員の65歳までの安定した雇用を確保するため、以下の①~③のいずれかの措置を講じなければならないとした(9条1項)。 また、②継続雇用制度について、企業が、過半数代表との書面による協定(労使協定)に対象者の基準を定め、当該基準に基づく制度を導入したときは、②継続雇用制度の措置を講じたものとみなすとした(9条2項)。 (2) 企業の対応動向 これを受けて、多くの企業は②継続雇用制度を導入し、その割合は上記①~③の措置を講じた企業の8割超にのぼる(平成24年厚生労働省告示第559号)。 継続雇用には、定年までの労働契約を終了させずそのまま延長する勤務延長と、いったん定年で労働契約を終了したうえで改めて有期労働契約を締結する(雇用確保年齢まで契約を更新する)再雇用の2つのタイプがあるが、継続雇用制度を導入した企業の大部分が、賃金をはじめとする労働条件をリセットできる再雇用タイプを選択している。 また、継続雇用制度を導入した企業の6割弱は、継続雇用基準を定めた労使協定を締結し、これをクリアした者を再雇用している。   3 津田電気計器事件・最高裁判決の概要 (1) 事案の概要 X(被上告人)はY社(上告人)に正社員として入社した。 Y社の定年は60歳とされていたが、Y社には高年齢者継続雇用規程(以下「本件規程」という)があった。 XはY社に継続雇用の希望を伝えたが、Y社はXに対し、本件規程の継続雇用基準を満たさないことを理由に、再雇用しない旨を通知した。 そこで、Xが、本件規程に基づき再雇用されたこと等を主張して、Y社を提訴した。 (2) 判旨 (審理の結果、Xが継続雇用基準を満たすことを認定したうえで)Xは本件規程の継続雇用基準を満たしていたから、Xが雇用が継続されると期待することには合理的な理由がある。一方、Y社がXを継続雇用基準を満たしていないとして再雇用しないことは、やむを得ない事情もないため、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とはいえない。したがって、Y社とXとの間には、本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が続いている。そして、期限や賃金、労働時間等の労働条件は、本件規程の定めに従う。 (下線:筆者) (3) 判決のポイント 継続雇用を拒否された労働者が、実は継続雇用基準を満たすと判断された場合、どこまでの法的救済が認められるのか(損害賠償に止まるのか、それとも継続雇用まで認められるのか)、また、継続雇用が認められるとすればその根拠は何かについて、議論があった。 有期契約労働者の雇止め(更新拒否)のケースについては、判例法理(改正労働契約法19条で条文化された)が確立している。 それは、①契約が反復更新されて期間の定めが有名無実化し、実質的に無期労働契約と同視できる場合、②①とまではいえないが、労働者の雇用継続の期待に合理性がある場合、解雇権濫用法理(労働契約法16条)を類推適用し、雇止めが濫用に当たる場合にはこれを許さず、契約が更新されたのと同様の法律関係になるというものである。 本判決は上記の議論に決着を付け、継続雇用拒否のケースについても、雇用継続の期待に合理性がある場合(上記②の場合)には判例の雇止め法理が妥当し、継続雇用が認められる場合があることを明らかにした。   4 実務対応上の留意点 継続雇用拒否が濫用と判断されると、継続雇用が認められることになるが、その労働条件(特に賃金額)は、継続雇用制度の内容を前提に、裁判所の解釈によって認定される可能性がある。 津田電気計器事件では、労働者から再雇用と併せて再雇用拒否後に生じた未払賃金等も請求されたが、継続雇用制度に関する社内規程(本件規程)に再雇用者の労働条件の大枠が定められていたため、裁判所の解釈によって具体的な未払賃金額が認定された。 これを踏まえて、継続雇用制度を導入する企業は、柔軟な対応ができるように、社内規程に継続雇用後の労働条件(賃金・労働時間)を定めることの是非や、どの程度まで具体的に定めるか等を含めて、規程を見直すことも考えられる。 ところで、労使協定で継続雇用の対象者を限定する仕組みは、平成25年4月1日から施行される改正高年齢者雇用安定法で廃止される。 その結果、継続雇用制度を導入する企業は、希望者全員を対象とする制度に改めければならなくなる。 もっとも、厚生労働省の指針(平成24年厚生労働省告示第560号)によれば、心身の故障のため業務に堪えられないと認められることや、勤務状況が著しく不良で従業員としての職責を果たしえないことなど、就業規則に定める解雇事由や退職事由(年齢に係るものを除く)に当たる場合には、継続雇用しないことができ、これらを継続雇用拒否事由として就業規則等に定めることもできるとされている。 ただし、「解雇事由又は退職基準と異なる運営基準を設けることは改正法の趣旨を没却するおそれがあることに留意する。」「継続雇用しないことについては、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められると考えられることに留意する。」との注意書きが付されている。 高年齢者の継続雇用については、以上の対応についても併せて検討する必要があるだろう。 (了)
#3(掲載号)
#薄井 琢磨
2013/01/24
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中国「社会保険法」の外国人に対する強制適用 ~適用開始から1年超が経過した、当局実務運用を含む現状解説~

中国「社会保険法」の 外国人に対する強制適用 ~適用開始から1年超が経過した、 当局実務運用を含む現状解説~   有限責任監査法人トーマツ 古谷 純子   1 中国「社会保険法」の外国人に対する強制適用の経緯及び現状 2011年7月1日から、中国「社会保険法」(主席令35号)が施行され、また同年9月には「中国国内で就業する外国人の社会保険加入暫定弁法」(人力資源社会保障部令 第16号、以下「暫定弁法」と省略)の公布により、中国「社会保険法」が外国人に強制適用されることが正式に決定した。同通達の施行日である同年10月15日が、外国人に対する中国社会保険法の適用開始日となっている。 しかし、外国人にも中国社会保険法が強制適用されるとの根拠である暫定弁法には、外国人及び当該雇用主が負担すべき金額の根拠となる比率等、実務的に必要な基本情報が含まれていない。したがって、実務的には各地方政府が地方通達を制定後に、外国人に対する社会保険納付を要求している。 地方政府の対応にはバラツキが見られ、北京市や青島市などは暫定弁法の公布を受けてすぐに地方通達を制定し、2011年中に外国人に対する強制適用を開始した。一方で、上海市のように2012年12月末現在、地方通達の制定や当該社会保険料の納付開始時期が未定の地域もあるなど、運用に地域差が見られている。 北京市、青島市など既に適用されている地域以外の状況では、2012年に入り、まず蘇州市や無錫市、杭州市などの華東地域でも適用が開始された。その後、同年11月には広州市でも地方通達が制定されるなど、日系企業が多数進出している地域では、上海市を除き、ほぼ外国人への適用が開始されている。 なお、日中政府間での社会保障協定が締結されていないため、日系企業は日中双方の社会保険に強制加入を余儀なくされているが、同協定が締結・発効すれば、原則、二重負担が排除されるため、早急な締結が望まれる。   2 外国人に対する適用内容 外国人に対する中国社会保険の適用内容は、暫定弁法に加え、「中国国内で就業する外国人の社会保険加入業務の適切な実施に係る関連問題についての通知」(人社庁発[2011]113号)等の中央レベルの通達により適用の大枠が定められている。 (1) 適用対象 “中国国内で就業する外国人”とは、具体的には“法的に有効な「外国人就業証」「外国専門家証」「外国常駐記者証」等就業証書や外国人居留証を取得、あるいは「外国人永住居留証」を有する中華人民共和国内で合法的に就業する非中国国籍の人員を指す”(注1)と定めている。 実務的には、Zビザを取得し勤務する外国人が対象であり、Fビザ(出張ベース)の外国人には適用されない。 (注1) 暫定弁法第1条及び第2条より抜粋。 (2) 納付すべき社会保険項目 外国人の納付すべき社会保険項目は、養老保険、医療保険、労災保険、失業保険、生育保険(以下「5保険」という)と定められている(注2)。 (注2) 従来から、中国籍人員に対しては通常「四金」あるいは「五金」と呼ばれる中国籍従業員を対象とした社会保険制度があり、例えば「四金」とは養老保険、医療保険、失業保険、住宅公共積立金制度を指す。 社会保険項目により、雇用主のみが社会保険料を負担する項目もあり、雇用主と個人負担部分における要否は表1の通りである。 【表1】 中国社会保険料の負担要否 (3) 加入時の手続 現地法人や駐在員事務所等の雇用単位は、駐在員など国外雇用主から派遣された外国人の就業証手続から30日以内に、所在地の社会保険機構で、社会保険登記申請(登記申請のために外国人が雇用単位に提出すべき必要書類は表2参照)が要求されている。 その後、社会保険用の個人口座を開設し、社会保険料の支払いや積立てを実施する。 なお、人社庁発[2011]113号では、対象となる外国人が2012年1月1日以降に社会保険登記を実施した場合、2011年10月15日に起算して延滞金を徴収するとしている。しかし、実務的には2012年1月1日以降に地方通達を制定し、適用を開始した地域がほとんどである。これらの地域では2011年10月15日起算での延滞金徴収を実施せず、各地の実情に合わせて、延滞金の発生時期を別途、独自に定めるなどの実務運用をしている。 (4) 帰国時の取扱い 日本では、年金の受給資格期間は現時点では25年(注3)だが、中国では15年と定められている。 暫定弁法では15年に満たずに出国する場合の定めがあり、当該社会保険の個人口座を保留し再度中国で就業する際に払込み年数を累計計算する方法と、申請により、当該個人口座の預金額を一括で受領する方法の2つが選択可能である。 運用面でも当該規定が遵守されていると考えられる(なお、北京市では養老保険金だけでなく医療保険金が返還された例を確認している(注4))。 (注3) ただし、年金機能強化法が平成24年8月22日に公布されており、同法の施行後は10年に短縮される予定。 (注4) 蘇州市当局も、養老保険金に加え医療保険金についても還付されるとの見解を示している。 (5) 納付すべき社会保険料の計算方法 社会保険料計算のベースとなる基数や労使の負担比率などは、各地域の実情に合わせる必要があるため、各地方政府により決定している。 社会保険料の計算基準となる社会保険納付基数は前年度の本人の平均月間賃金、そして基数上限は各地域共にほぼ一律に「所在地に就業する全従業員の、前年度の平均給与の3倍」が基準である。同基準は現地ローカル企業に勤務するワーカー等も含めた平均賃金であるため、ほとんどの外国人は上限3倍の金額に該当する。 また、基数に乗じるべき社会保険項目の各負担比率は、地域差はあるものの、住宅公積金も含めた会社負担分であれば、基数の概ね3~4割前後とする地域が多くみられる。 下記に上海市を例にとり、社会保険料を算出した場合、会社負担での日本円換算では1人当たり年間約73万円(個人負担分も会社が負担した場合には、同約94万円)(注5)が必要となり、社会保険料の負担は企業にとって軽くはない。 (注5) 1元=14.0円で計算したもの。 (6) 個人所得税の取扱い 「個人所得税法実施条例」第25条及び「基本養老保険料、基本医療保険料、失業保険料、住宅公積金に係る個人所得税政策に関する通知」(財税[2006]10号)では、企業と個人が国家等に納付した当該保険料は非課税となる旨が定められている。 したがって、当該保険料は個人所得税の計算上は非課税になると考えられる。 実務的にも、個人負担部分について、個人が負担した場合には課税所得に算入した上で控除するとの運用をする税務当局が一般的である。ただし、駐在員の場合には個人負担分も含めて会社が負担するケースも多く、この場合には課税所得とされる可能性がある。 このため、実務的には所在地の税務当局への確認が必要と思われる。 なお、日本の公的社会保険料における中国の個人所得税の取扱いにも、2011年1月以降、変化が生じているため、補足説明する。従来は国税発[1998]101号により、当該保険料の雇用主拠出金は、駐在員の中国個人所得税の課税所得には含めないとされていた。しかし、同通達が国家税務総局公告2011年第2号により廃止された。 一方において、実務的には代替する通達が未公布であるため、課税所得に含めないとの見解を示す税務当局もある。 したがって、当地の実情を確認しつつ、対応することが望ましい。   3 日中政府間の社会保障協定締結への動き 日中政府間では現状、社会保障に係る二国間協定が締結されていないが、当該協定が締結されれば、日中両国における二重負担が排除され、企業の負担が大幅に削減される。 日本が、中国以外の国々と締結した二国間社会保障協定では「適用調整(派遣期間が5年以内の見込みの場合、当該期間中は相手国の法令適用を免除、自国の法令のみを適用し、原則、同一労働に対する二重払いの回避が可能 )」と「(派遣期間が5年超と見込まれる等により、協定相手国で保険料を支払った場合の)保険期間の通算」を前提としている。なお、ドイツや韓国の場合には、中国と二国間協定が既に発効しており、社会保険の二重払いを回避している。 日中政府の社会保障協定締結に向けた交渉は、2011年3月に予備協議を、同年10月から正式協議を開始した段階にある。当該協定の締結には通常2~3年は要するが、駐在員を有する企業の負担は決して軽いとはいえず、早急な協定締結が望まれる。  *なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見である。 (了)
#3(掲載号)
#古谷 純子
2013/01/24
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誤りやすい[給与計算]事例解説〈第3回〉 【事例③】時間外労働時間等の集計

誤りやすい [給与計算] 事例解説 〈第3回〉   税理士・社会保険労務士  安田 大   (1 支給額の算定) 【事例③】―時間外労働時間等の集計― 〔正しい処理〕 〔解   説〕 1 1日ごとの計算単位 時間外労働手当や休日労働手当などの算定基礎となる時間外労働時間等について、1日ごとの計算単位は1分ごととする必要があり、1時間単位や10分単位とすることは、原則として認められていない。 2 1ヶ月ごとの支給単位 時間外労働手当等の算定基礎となる時間外労働時間等について、1ヶ月ごとの支給単位は、1時間単位、30分単位、1分単位など設定することができる。 1時間単位の場合には、1ヶ月間の時間外労働時間等に1時間未満の端数が生じたときは、四捨五入する(30分未満は切り捨て、30分以上は1時間に切り上げる)ことができるが、常に切り捨てることはできない。 また、30分単位の場合には、1ヶ月間の時間外労働時間等に30分未満の端数が生じたときは、四捨五入する(15分未満は切り捨て、15分以上は30分に切り上げる)ことができる。 3 具体例 当社の給与は、末締め、翌月10日払いで、4月1日~30日の時間外労働(定時は18:00で1日8時間労働)は次のとおりである。 1日ごとの計算単位は、分単位とする必要がある。 1ヶ月間(4月1日~30日)の時間外労働時間について、「支給単位を1分単位とする」と規定している場合には、26時間39分となる。 1ヶ月間(4月1日~30日)の時間外労働時間について、「支給単位を1時間単位とし、1時間未満の端数は四捨五入する」と規定している場合には、39分は30分以上であるため切り上げて、27時間となる。 1ヶ月間(4月1日~30日)の時間外労働時間について、「支給単位を30分単位とし、30分未満の端数は四捨五入する」と規定している場合には、9分は15分未満であるため切り捨てて、26時間30分となる。 (了)
#3(掲載号)
#安田 大
2013/01/24
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面接・採用・雇用契約までの留意点 【第3回】「内々定及び内定とその取消し」

面接・採用・雇用契約までの留意点 【第3回】 「内々定及び内定とその取消し」   社会保険労務士 菅原 由紀   内々定とは 選考過程の中で、正式な内定通知に先立って「内定したと理解(期待)してもらってよい」などと、直接的ではなく間接的な表現で、暗に採用の内意を口頭で伝える場合がある。 これは一般に「内々定」と呼ばれ、正式な採用内定手続が後日行われることの通知であるといわれている。 つまり、労働契約締結の申込みに対する承諾の通知である採用内定の通知とは異なるものである。 しかし、この両者の切分けは難しい。 新卒採用の採用活動では、入社予定日の1年近く前に「採用内々定」を出し、10月1日に「採用内定式」を開催、「採用内定式」に出席した学生に対して「採用内定通知書」を渡し、誓約書等の提出を求めるというケースが多いようである。 この流れの中で「内々定」から「内定」までは、一般的に企業は学生に対して他社への就職活動を許容する。これに対し、内定後は原則として会社は内定を取り消せないし、学生も辞退できないという労働契約関係が成立したことになる。 具体的には、入社誓約書の提出、始業日付(入社日)入りの採用通知書、研修の参加といった事実があれば、採用決定としての「内定」があったとして、始期付き、解約権留保付きの労働契約が会社と内定者との間に成立し、その後は、会社からの「内定」の取消しは、労働契約の解約と同じく難しくなると考えられる。 学生は数社から「内々定」を得た後、内定開始日までに1社を選択し、その1社について採用内定関係に入ることになる。したがって、内々定の取消しは、内定取消しよりは会社の取消しの自由が認められると考えられる。   内々定取消しは解雇になるか 内々定の法的性質についてはいくつか議論があるが、「内々定」は未だ会社の承諾の意思表示であるということはできず、労働契約が成立しているとは解せないとされている。 そうすると、一般的には「内々定」の取消通知は、労働契約そのものの解除ではないことになるので、解雇ではないことになる。 ただし、内々定といいながらも、応募者を暗に拘束したり、内々定から内定に至るまで、何らの手続も用意されていない場合には、「採用内定」や「採用内定の予約」として認められる場合もあると考えられる。 そしてこの場合、内々定の一方的な破棄については、学生はその損害の賠償を会社に対して追及できる可能性がある。   内定とは 内定に関する法律関係については、労働基準法等の労働法規によって定められたものではなく、一般的に、会社が学生に対して、採用内定通知書を交付し、学生が会社に誓約書等を提出することにより、「内定」となると解されている。 そして、内定によって「就労の始期(通常4月1日)」又は「労働契約の効力発生始期」とした「始期付き留保解約権付き労働契約」が成立すると考えられている。 そして、会社が学生から誓約書等を提出されることの意義は、会社から採用内定通知により成立した内定関係を確認すること及び学生が内定期間中に守るべき事項を認識し、卒業できなかった場合には内定は取り消す等、内定取消しとなる事由を確認することで入社日までにやるべきことや、やってはならないことを理解し、無事入社の運びとなることにあると考える。   内定取消しとなる場合 会社側からの内定取消しについては、誓約書等の内定取消事由のすべてが直ちに適用されることが許されるわけではなく、「客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当と是認される場合」に限られる。 最もわかりやすい例としては、単位不足で卒業できず、4月1日からの就業が不可能な場合であろう。 この場合は、内定取消しも「社会通念上相当」と判断される。 (了)
#3(掲載号)
#菅原 由紀
2013/01/24
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会計事務所の事業承継~事務所を売るという選択肢~ 【第1回】「個人事務所の事業価値源泉」

会計事務所の事業承継 ~事務所を売るという選択肢~ 【第1回】 「個人事務所の事業価値源泉」   公認会計士・税理士 岸田 康雄    1 はじめに 税理士の高齢化が急速に進み、会計事務所の事業承継問題がクローズアップされてきている。 従来は、子供(親族)に税理士資格を取らせて後継者とすることが事業承継の基本とされ、子供が税理士資格を取得できなかった場合には、実質的に廃業という選択肢が取られてきた。 本稿では、会計事務所の廃業を避けるため、事業承継の新たな選択肢として近年増えてきている「会計事務所のM&A」を取り上げる。   2 税理士の世代交代の時期の到来 日本税理士連合会の税理士実態調査によれば、「60歳以上」の税理士の割合は5割を超え、高齢化がピークに達している。 つまり、税理士業界では、税理士の2人に1人が引退の時期に近づいた高齢者なのである。 また、税理士業界では、開業税理士が全体の8割を占めているため、引退する税理士の増加に伴い、残された税理士業務をどのようにして次世代へ引き継ぐか、税理士の事業承継問題が深刻化してきているといえる。 図1 税理士の年齢層(2010年度) 出所:日本税理士会連合会「税理士実態調査・予備調査(平成22年9月15日実施)」 図2 税理士の登録区分(2010年度) 出所:日本税理士会連合会「税理士実態調査・予備調査(平成22年9月15日実施)」   3 表舞台に出てこなかった会計事務所のM&A 大手監査法人や大手税理士法人(ビッグ4)は、その業界再編に伴い、大胆なM&Aが進められてきたことは周知の通りである。しかし、これは会計事務所の規模拡大を目的とした戦略的なM&Aであり、事業承継問題に起因するM&Aではない。 これに対して、事業承継問題に起因する個人事務所のM&Aは、あまり一般には知られていない。これは、個人事務所のM&Aは、その取引事例が公表されず秘密裡に行われてきたからである。 しかし、表舞台には出てこなかったものの、個人事務所のM&Aの案件数は、ここ数年の間に急速に増えてきているのである。   4 これまでの会計事務所の親族外承継 これまで、会計事務所の事業承継は、子供(親族)に税理士資格を取得させて事業承継するケースがほとんどであり、親族内承継が事業承継の基本であった。 また、子供が後継者とならない場合は、所長の引退とともに廃業し、その業務(顧客関係)を無償で他の税理士へ引き継ぐこという親族外承継が業界慣行であった。 親族外承継を行う際、後継者として第一に考えられたのは、最も信頼できる所内の職員である。既存顧客のことを理解している職員に税理士資格を取得させ、税理士業務を引き継がせていたのである。 また、同じ税理士会支部に所属する他の税理士へ承継されることもあった。 これは、支部の会員同士でお互いに顧客を融通し合うことによって共存共栄を図るという文化がその背景にあると考えられる。 いずれにせよ、つまり、会計事務所の事業を“有償”で売却するという手段(M&A)が用いられるケースはほとんどなく、親族内承継に失敗した税理士は、長年の間に蓄積した貴重な業務(顧客関係)を無償で手放していたのである。 そうは言っても、ごく稀に有償で会計事務所が売却されるケースも存在していたが、事業会社のM&Aとは異なり、会計事務所の事業価値の相場が形成されていなかったため、取引価格をどのように評価してよいかわからないという問題があった。 しかし、現役時代を通じて十分に稼いできた税理士は、もはや引退した後にお金が欲しいという気持ちがあまりなく、買い手となる税理士の希望する比較的低い取引価格に応じるケースが多かったようである。 以上のように、これまでは会計事務所のM&Aが実施されるケースは少なく、親族外承継の有効な手法となることは一般に知られていなかったのである。   5 会計事務所の事業価値源泉は顧客関係 会計事務所の主たる収益源は、税務顧問(記帳代行、決算申告)である。顧問契約を締結すれば、毎期継続的に、極端に言えば半永久的に顧問料収入が入ってくる。それゆえ、この顧問契約を結んだ顧客関係こそが、会計事務所の事業価値源泉だといえる。 しかし、税務顧問という業務の価値は、以前と比べて小さくなってきているのである。会計システムの導入支援が大流行した昔とは異なり、現在ではどこの会計事務所が提供してもほとんど同じサービス内容となってしまった。 つまり、会計事務所のサービスが競合他社と同質化してしまい、差別化できなくなってしまい、その結果、顧問料収入の収益性が低下しているのが現状である。 この点、資産税や経営コンサルティング業務などの周辺業務で付加価値を出さない限り、税務顧問だけでは会計事務所の競争力を維持、向上させることは困難だという意見も多い。新しいサービスを開発しなければ、事業価値は向上しないという意見である。 しかし、このように同質化したサービスしか提供されていなくとも、会計事務所の顧客は、他の会計事務所に切り替える煩雑さが阻害要因になり、他の税理士に契約を切り替えようとはしない。 税理士を切り替えようとすれば、一から事業内容や経理方法を説明しなければならず、また、税理士との個人的な信頼関係の構築に時間と労力がかかり、煩雑だからである。 ただし、業績悪化に伴い、顧問料の引下げを実施するケースが著しく増えてきている。また、新たに契約する顧客の顧問料は、年々下がる一方である。 その一方で、会計事務所の立場においては、恵まれた状況がある。 例えば、多少の税制改正があっても、提供する業務や仕事内容が大幅に変わるようなことはない。会計事務所が業務の品質向上を図るために、自ら業務革新に取り組む必要もないし、安い給料で職員を雇うことができる雇用環境のもと、人件費などコスト削減に取り組む必要性にも乏しい。 以上のように、市場競争が厳しくなったきてはいるものの、一度、顧客との顧問契約が締結されてしまえば、会計事務所は、長期安定的に顧問料収入を生み出す事業である。もちろん、その事業価値は昔ほど大きいものではない。しかし、事業価値源泉(顧客関係)さえ毀損させなければ、税理士の事業として十分に成り立つものなのである。一般の事業会社が、デフレ経済、円高、国際競争という厳しい経営環境の中で戦っている状況とは雲泥の違いである。 そうは言っても、既存顧客に対して何もしないでよいというわけではない。 一般的に、新規顧客の獲得方法は、既存顧客や提携先からの紹介であるといわれる。顧客を増やすためには、所長税理士が幅広い人脈を作り、顧客の紹介を受ける機会を増やす営業活動によって行われることになる。 また、既存顧客との関係性維持のためには、所長税理士の人間性など属人的要素が重要になる。例えば、ゴルフや飲み会などによる交際関係が、長期的な関係性維持のための重要な手段となる。 このように、属人的な営業方法で顧客関係を維持できること、言い換えれば、業務の品質向上や価格競争で営業を行う必要がないことが、会計事務所が置かれた経営環境であるといえよう。 とすれば、顧客関係を維持するという重要な役割を果たす所長税理士が引退するということは、既存顧客を失い、会計事務所の事業価値を一気に毀損させる危機的状況を意味する。 このことから、会計事務所のM&Aを考える場合、売り手の所長税理士によって構築された既存の顧客関係をどのように買い手に承継するか、これが会計事務所の事業価値を承継するために、最も重要な課題となる。 この点について、次回以降で詳しく考察を加えたい。 (了)
#3(掲載号)
#岸田 康雄
2013/01/24
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事例で学ぶ内部統制【第7回】「キーコントロール比率を比較する」(その2)

事例で学ぶ内部統制 【第7回】 「キーコントロール比率を比較する」 (その2)   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 前回は、プロセスレベルの内部統制(PLC)において設定したコントロール総数に対してキーコントロールが占める比率を企業間で比較しながら、「キーコントロール比率が60%以上の高位グループ」及び「同比率が30%以上60%未満の中位グループ」におけるキーコントロール選別基準を紹介した。 今回は、キーコントロール比率を30%未満に絞り込んだ低位グループの事例を紹介しながら、キーコントロールの選別基準をめぐる課題を掘り下げる。   中位グループに投げかけられた課題 まず、議論の中、筆者(株式会社スタンダード機構)より、中位グループから報告されたキーコントロール選別基準について整理を行った(図2・図3)。 取引の発生から財務報告に至る一般的な流れに沿って設定した9個のコントロールにおいて、図2のようにコントロール①からコントロール⑨まで番号を付し、リスクを認識した4箇所には赤い三角を付す。 次に、9個のコントロールが、図3のようなリスクとアサーションにそれぞれ対応していると仮定する。 図2 取引の発生から財務報告に至る一般的な流れにおけるリスクとコントロール ※画像をクリックすると拡大します。   図3 アサーション、リスク、コントロールの対応 ここで、中位グループの参加企業に対し、下記の確認をとった。 そこで、複数の参加企業から、「そういう選別基準だけなら分かりやすいが、中位グループに属する企業は、会計処理の重要性の高さやリスクに対するコントロールの効果の高さを選別基準に含めている。その場合、誰が判断するのか。結局、キーコントロールの選別において恣意性が入り、内実としてバラツキが出るのではないか」との指摘があった。 これに対し、中位グループである参加企業D(キーコントロール比率:51%)は「実は、指摘されたことが実際に起こった。リスクの重要性の判断やリスク低減効果の判断がプロセスオーナーや評価される部門の経験則や裁量で行われ、詳細な判断基準を定めていなかったことから、各自の判断でキーコントロールを選別したため、結果として、期待していたような大胆な絞込みにつながらなかった。目下、選別基準の見直し中である」と、指摘された選別基準の課題を認めた。   低位グループの選別基準と課題 【低位グループ】キーコントロール比率 30%未満 参加企業F(キーコントロール比率:29%)は、「図2でいえば、IT入力後のコントロールだ。業務の流れで区切った場合の最後に位置するコントロールを運用評価の対象としている」(情報通信会社)と話した。 参加企業G(キーコントロール比率:29%)は、「①権限者による最終承認、②部門間けん制のコントロール、③差額処理のコントロールを運用評価の対象にしたところ、結果的に、業務の流れの川下、つまり総勘定元帳の生成に近く、多くのアサーションを網羅するコントロールにキーコントロールが集中した」(資材卸会社)と話した。 参加企業H(キーコントロール比率:19%)は、「①定められた者によりその内容が確認、照合、承認され、その証跡が残るコントロール、②ITシステムについては、マスターデータへのアクセス制限、システム間での自動データ移動、システムによる自動処理及び自動エラー発見処理をキーコントロールとした」(精密機器メーカー)と、大胆にキーコントロールを絞り込んでいた。 いずれも、取引の発生から財務報告に至る業務の流れの中で、複数のコントロールによって同一のアサーションに対応している冗長性を考慮し、取引の発生時点でなく、IT入力後の帳簿生成時点で、より多くのアサーションを効率的にカバーできるコントロールを運用評価の対象にしていた。 これに対して、上位グループに属する前出の参加企業A(キーコントロール比率:100%)が、「たしかに、最も多い数のアサーションに関連していることや、権限者による最終承認であること、定められた者による内容の確認、照合、承認、その証跡が残ることなどは、選別基準としては明確かもしれない。しかし、その結果として、キーコントロールが予防的でなく、発見的コントロールに集中してしまうのではないか。 そもそも、発見的コントロールは、IT入力後に帳簿が生成された後で事後的に不正や誤謬を発見する点で、不正や誤謬を惹起させない予防的コントロールよりも本質的に弱いはずだ。 わが社では、処理する取引数が多いことと、契約段階での様々なリスクが多いことから、発見的コントロールだけに委ねることはできないと判断し、業務の流れの川上、つまりIT入力前のコントロールも運用評価の対象としている。だが、その結果、キーコントロールが増えてしまって悩ましい」と、絞込みに苦慮している社内事情を吐露しつつも、低位グループの選別基準に対する本質的な課題を提起した。   キーコントロールをめぐる考察 以上のように、参加企業はいずれもキーコントロールを採用することに異論はないが、キーコントロール比率には、低位グループの19%程度から高位グループの100%まで、広いバラツキが見られた。 さらに、各社から報告されたキーコントロールの選別基準は、重要性の高いリスクを低減していること、業務の流れで区切った場合の最後に位置すること、実務的に運用や評価が容易なこと、最も多い数のアサーションに関連していること、リスクの低減に最も効果的なこと、権限者による最終承認であること、定められた者による内容の確認、照合、承認、その証跡が残ることなど、実に多種多様であり、画一的な基準が確立されているわけではない。 傾向としては、低位グループほど、取引の発生から財務報告に至る業務の流れの中で川下にキーコントロールを設定し、高位グループほど、川上に遡ってキーコントロールを設定している。 このような企業間のバラツキは、その優劣と関係する問題でなく、各社が対応すべきリスクの所在が各社の事情で異なることの証左と考えられる。 すなわち、取引の内容が複雑で、取引の発生段階でも財務報告の信頼性に直結するリスクが数多く存在する企業では、そのリスクを低減するコントロールの運用状況をモニタリングする必要性が高くなるので、川上のコントロールも含めて運用評価の対象とすることには合理的な理由がある。 他方、取引の内容が単純で業務処理が標準化されている企業では、川下のコントロールに絞ってキーコントロールとすることが許容されるだろう。 結局、キーコントロールを適用するにあたっても、その企業が低減すべきリスクのある所に、コントロールを設定するというリスクアプローチの原則に立ち返ることが求められるのである。 次回は、本連載の前半を振り返り、各企業の対策を整理し、その傾向について解説する。 (了)
#3(掲載号)
#島 紀彦
2013/01/24
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