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相続税・贈与税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置について 【第4回】「適用を受けるために必要な手続とその留意点②(教育資金支払時及び契約終了時)」

教育資金の一括贈与に係る 贈与税非課税措置について 【第4回】 「適用を受けるために必要な手続と その留意点②(教育資金支払時 及び契約終了時)」   ミレニア綜合会計事務所 代表税理士 甲田 義典   1 はじめに 前回では、平成25年度税制改正で創設された「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」(以下「本制度」という)の手続に関する項目のうち、教育資金の贈与時の手続を中心に解説した。 本稿では、本制度の教育資金の支払時及び契約終了時に必要な手続とその留意点について解説する。   2 教育資金の支払時(措法70の2の2⑦⑧、国税庁QA3-1) 本制度の適用を受ける受贈者は、教育資金の支払いに充てた金銭に係る領収書その他の書類又は記録でその支払いの事実を証するもの(相続税法21条の3第1項2号の規定の適用により、教育費扶養義務者相互間において教育費に充てるためにした贈与により取得した財産で贈与税の非課税となるものを除く。以下「領収書等」という)を、受贈者が選択した方法ごとに定められた次の(イ)又は(ロ)の提出期限までに、取扱金融機関の営業所等に提出しなければならない。 また、(イ)又は(ロ)の選択は、一度選択すると変更できないため留意が必要である(国税庁QA3-1注書)。   3 教育資金管理契約の終了時(措法70の2の2⑩⑪⑫) (1) 教育資金管理契約の終了の日とは(措法70の2の2⑩) 教育資金管理契約は、次の(イ)~(ハ)に掲げる事由の区分に応じて、それぞれ定める日のいずれか早い日に終了する。   (2) 教育資金管理契約の終了時の受贈者の課税関係(措法70の2の2⑪⑫) 上記(1)の「(イ)受贈者が30歳に達した場合」又は「(ハ)取扱金融機関との合意により契約が終了した場合」には、非課税拠出額(「教育資金非課税申告書」(前回参照)記載額)から教育資金支出額(取扱金融機関が教育資金の支払事実の確認、記録した金額)を控除した残額(通常は使残しに相当する部分)に対して、受贈者が30歳に達した日又は合意に基づく終了日の属する年に贈与税が課税される。 一方、受贈者の死亡により契約が終了した場合(上記(1)(ロ)の場合)には、使残しがあったとしても贈与税は課税されない。 (3) 終了時に未提出の領収書等の取扱い(国税庁QA3-1但書) 教育資金管理契約が終了した日において取扱金融機関の営業所等に対する未提出の領収書等については、上記2の(イ)又は(ロ)の提出期限ではなく、その教育資金管理契約が終了する日の属する月の翌月末日までにその領収書等を取扱金融機関の営業所等に対して提出しなければならない。 必要な手続と課税関係を簡便的にまとめると、以下のとおりとなると考えられる。 連載最終回となる次回は、「学校等」「教育資金」の範囲など、個別の論点について解説する。 (了)
#25(掲載号)
#甲田 義典
2013/06/27
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例3(所得税)】 「個人所有の賃貸建物を同族会社にサブリースしたところ、同族会社が受け取る管理料相当額が「著しく高額」として同族会社の行為計算の否認により更正処分を受けた事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例3(所得税)】   税理士 齋藤 和助   《事例の概要》 平成20年から22年分の所得税につき、個人所有の賃貸建物を同族会社にサブリースしたところ、同族会社が受け取る管理料相当額が「著しく高額」として同族会社の行為計算の否認により更正処分を受けた。 税理士はこれを不服として、異議申立、審査請求を行ったが認められず、依頼者との相談によりこれを受け入れ、訴訟には持ち込まなかった。 これにより更正による追徴税額900万円につき損害が発生し、賠償請求を受けた。   《賠償請求の経緯》 ・税理士が個人所有の賃貸建物につき同族会社とのサブリース契約を提案。 ・同族会社に支払う管理料を賃料収入の20%に設定。 ・依頼者はその提案を受け入れ、平成20年から22年まで同様に申告。 ・平成23年9月に税務調査で「著しく高額」の指摘を受ける。 ・税務署より更正処分を受ける。 ・税理士はこれを不服として、異議申立、審査請求を行ったが認められず。   《基礎知識》 ◆同族会社の行為計算の否認(所得税法157条1項) 同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合には、その株主等である居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより総所得金額及び所得税額などを計算することができる旨を規定したものである。   《税理士の落とし穴》   《税理士の責任》 依頼者は、個人所有の賃貸建物を同族会社にサブリースする際、その賃料について税理士に相談したところ、税理士から「同族会社に支払える不動産管理手数料は20%が税務上の限度」とのアドバイスを受け、これに基づいて賃料を決め申告を行った。 しかし、その後の税務調査で同族会社が受け取る管理料相当額が「著しく高額」として同族会社の行為計算の否認により更正処分を受けた。税理士はこれを不服として、異議申立、審査請求を行ったが認められず、依頼者との相談によりこれを受け入れ、訴訟には持ち込まなかった。 本事例はサブリース契約が税理士主導で行われ、金額の決定も税理士が行っていた場合には、税理士の責任も問われることになると思われる。 ただし、税賠保険の観点からは、結果として更正処分を認めていることから、追徴税額は「本来納付すべき税額」となるため、対象とはならない。   《予防策》 [ポイント] 情報収集を心がける かつては暗黙の了解であった「同族会社に支払える不動産管理手数料は20%が税務上の限度」が変わりつつある。 本事例のように同族会社の行為計算の否認により更正処分を受けるものもあれば、以下の国税不服審判所の裁決事例のように、「名ばかりで管理の実態がなければ経費性はない。」として、同族会社の行為計算の否認を使うまでもなく、その経費性を否認されているものもある。 税制改正はもちろんのこと、国税庁から発せられる通達や情報、国税不服審判所の裁決事例、さらには判決事例などにも関心を持ち、常にアンテナを張り、情報収集に心がけたい。 (了)
#25(掲載号)
#齋藤 和助
2013/06/27
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

経理担当者のためのベーシック税務Q&A 【第3回】「人事活動と税金」―役員給与の税務―

経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第3回】 「人事活動と税金」 ─役員給与の税務─   仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久     1 会社法の取扱い 会社法では、役員報酬と役員賞与は包括的に規定されており、役員に対する報酬等は「職務遂行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(会法361①)」と定義されています。   2 税務上の取扱い いわゆる「お手盛り」や租税回避の弊害を防止するため、会社法施行前後において、役員給与が法人税法上、損金不算入であることに変わりはありません(法法34)。 法人税法では、役員給与が、「定期同額給与(※1)」、「事前確定届出給与(※2)」又は「利益連動給与(※3)」のいずれかに該当する場合に限り、それが不相当に高額な部分の金額を除き(法法34②)、損金の額に算入できるものとされています。 具体的には、税務上の役員給与は次のように区分され、その内容や性質等に応じて損金算入・損金不算入の取扱いを受けます。 (※1) 債務の免除、経済的利益の供与を含みます。 (※2) 被付与者が、給与所得課税等が生じた日の属する事業年度にストックオプションの費用を損金算入します。   3 経営の状況が著しく悪化した場合 経営の状況が著しく悪化したこと等の理由(業績悪化改定事由)により役員給与の額を減額改定し、減額改定前が「定期同額給与」、かつ、減額改定後も「定期同額給与」の場合には、全額が「定期同額給与」に該当し、損金算入が認められます(法令69①一ハ)。 経営の状況が著しく悪化した等の理由とは、経営の状況が著しく悪化しやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情にあることをいいます。したがって、一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標に達しなかったこと等は含まれませんので注意が必要です(法基通9-2-13)。 具体的には、 が該当します。   4 業績の悪化が不可避と認められる場合 会社経営上の数値的指標が相当程度悪化しているといえない場合であっても、役員給与を減額する等の対策を講じなければ、客観的な状況から、今後、経営の状況が著しく悪化することが不可避と認められる場合には、業績悪化改定事由に該当します。また、これらの対策を講じたことにより、結果として著しく悪化することが回避できた場合でも、業績悪化改定事由に該当します。 ここでのポイントは、あくまで客観的な状況によって判断することです。 したがって、客観的な状況ではなく、単に将来の業績見込みに基づいて役員給与を減額したような場合には、業績悪化改定事由による減額改定には該当しませんので注意が必要です(「役員給与に関するQ&A(国税庁 平成20年12月(平成24年4月改訂)」)。 なお、役員給与を減額改定する場合には、 を作成し、具体的に説明できるようにしておく必要があります。 (了)
#25(掲載号)
#草薙 信久
2013/06/27
国税通則 税務 税務・会計 解説 解説一覧

企業不正と税務調査 【第11回】「粉飾決算」 (2)架空売上・架空循環取引

企業不正と税務調査 【第11回】 「粉飾決算」 (2) 架空売上・架空循環取引   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   本連載の第4回でも触れたが、粉飾決算によって業績を良く見せる場合の手口としては、 という2つの方法しかない。 あらゆる粉飾は、これらの手口が単独で、又は、組み合わされて行われる。 前回取り上げた棚卸資産の過大(架空)計上は、上記の(2)に属する手法であったので、今回は、(1)の手法として、架空売上と架空循環取引をテーマとして取り上げたい。 単純な架空売上は、売掛債権が回収できないという致命的な欠陥を有しているため、すぐに不正が見抜かれてしまう。そこで、売掛債権が通常どおり回収されたように見せかけ、不正を長期間続ける手法として、架空循環取引が注目を浴びることとなった。 その手法自体は、古くから環状取引として知られ、その損失負担をめぐる裁判例もあったのだが、平成16年11月において株式会社メディア・リンクスによる架空循環取引の実態が報じられて以来、毎年のように、大きな架空循環取引事件が発覚しては、話題を集めてきた。 近時では、さすがに架空循環取引の手口も周知のものとなり、大きな事件はあまり聞かれないようになっていたところ、5月8日にリリースされた老舗機械商社の椿本興業株式会社の調査報告書では、長く、架空循環取引が行われてきたことが明らかになった(本事案の調査報告書については、本誌同号掲載の拙稿「会計不正調査報告書を読む【第9回】」を参照いただきたい)。 今回は、架空売上の計上、架空循環取引について、その手口と、財務諸表上に表れる特徴について検討したい。   1 架空売上の計上とその効果 (1) 架空売上計上の手口 最も単純な手口としては、期末に、何の根拠もなしに、売上を計上するというものである。 黒字達成まであと利益が20万円不足していたとする。平均的な粗利益率が20%の会社であれば、あと100万円の売上を計上する必要がある。 黒字を確保しなければならない事情(不正のトライアングルでいうところの「動機」)が強くあり、売上を計上するための証拠となる書類が必要とされない、又は、事後提出でも許される(「機会」)となれば、何らかの「正当化」すべき理由を見つけて100万円の架空売上を計上することは、そう難しくない。 まず、期末日で、以下のとおり架空売上・架空仕入を計上する。 次いで、翌期のはじめに、この売上と仕入を取り消せば、所期の目的は達成できる。 もちろん、このようなプリミティブな架空売上計上は、会計監査を受けることが義務付けられている会社であれば、会計監査によってすぐに露見してしまうところである。 ただし、こうした少額の粉飾により黒字決算を確保したいという欲求は、主に中小企業に多く、金融機関の融資を継続させるため、入札参加資格を維持するためといった「正当化」によって、粉飾決算が行われているのが実態である。 (2) 架空売上の計上が財務諸表に与える影響 中小企業によるこうした粉飾決算の結果は、貸借対照表の売掛金残高と買掛金残高を増加させる。どの程度の架空売上を計上するかにもよるが、期末の売掛金残高が年商との比較で大きいようだと、売掛金残高の実在性に疑念が生じる。また、長引く景気の低迷の影響により、いったん架空売上を計上して粉飾決算を行ってしまうと、これを毎期繰り返さざるを得ず、しかも金額がどんどん嵩んでいくことになる。そうすると、売上高自体は前年と変化しないのに、売掛金の期末残高だけが増加傾向を示すことになる。 また、キャッシュフローに注目すれば、利益を計上しているにもかかわらず、営業キャッシュフローが赤字続きだったり、借入金の返済が一向に進んでいなかったりと、さらに疑念が拡がることはいうまでもない。 (3) 税務調査による発見 このような単純な粉飾決算であるから、当然、国税調査官も期末の売上計上が架空のものではないかという心証を持つのであるが、それを指摘してしまうと、過大に計上した利益に対する課税を取り消さなければならないため、あえて、法人側の「翌期に売上のキャンセルがあった」という虚偽の説明に同意し、調査では争点にしないこともある。   2 架空循環取引とその効果 (1) 架空循環取引とは何か 架空循環取引とは、複数の企業が共謀して販売取引を連続して行ったように仮装して、資金を半永久的に循環させる取引であり、債権債務は金銭によって決済され、証憑書類も整備されているため、一見、通常の販売取引に見えるが、首謀者である企業の資金繰りの行き詰まりにより破綻する。 これまで発覚した多くの架空循環取引を用いた不正事件は、企業業績を維持・拡大するために、又は、首謀者が所属する部門業績を維持・拡大するために行われることが多く、首謀者を含め、関与者の私利私欲のための不正ではなく、組織の存続・拡大を図るための不正であるという点に特徴があった。 (2) 架空循環取引の事例 5月8日、老舗機械商社の椿本興業株式会社(以下「椿本興業」という)は「第三者委員会の報告書受領と当社の対応方針について」というリリースを出し、同社東海地区の営業部門において、長年、架空循環取引を含む不正取引が行われ、過去7年間では、売上高約70億円、当期純利益約15億円が減少すると発表した。 報告書では、架空循環取引を含む不正取引の首謀者である部門長が、親密であった取引先KE社の資金繰りを支援するために行った架空循環取引を次のようにまとめている。 部門長は、KE社と椿本興業の間に売掛先7社を関与させ、KE社から関与先7社のうちのいずれかに発注させる。発注を受けた関与先7社はこれを椿本興業に発注、椿本興業は仕入先4社又はKE社に発注し、仕入先4社は最後にKE社に発注して、資金を循環させる。 【資金の流れ】 首謀者である部門長は、こうした架空循環取引を含む不正な取引を通じて、椿本興業からKE社などの関与会社に架空発注を行い、これを現金化することによって、横領を繰り返し、自らの遊興費や愛人の生活費に充てていた。 (3) 架空循環取引の破綻 椿本興業における架空循環取引を含む不正な取引が破綻したのは、こうした不正な取引の結果、首謀者である部門長が関与する取引における棚卸資産残高が13億円を超えたため、経理部門の最高責任者から中部地区の営業本部長に対し、取引の中止を勧告した結果、資金が循環を止め、資金繰りに困った首謀者である部門長が自白したことによる。 他社の不正事例を見ても、循環を繰り返すにつれて、関与会社がそれぞれに得るマージンの分だけ取引金額が大きくなっていかざるを得ず、その分、資金繰りが苦しくなっていく。そのため、首謀者は、新たな資金提供者(参加社)を関与させ、又は、リース会社などから資金提供を得るなどして、取引継続を模索するのだが、もともと実体のない取引である以上、破綻が不可避であることはいうまでもない。 (4) 架空循環取引が財務諸表に与える影響 株式会社アイ・エックス・アイ(平成19年1月民事再生手続開始の申立て)、ニイウスコー株式会社(平成20年4月民事再生手続開始の申立て)など、市場からは優良企業とみられてきた企業が、突然、経営破綻に追い込まれた際によく言われたことであるが、架空循環取引を繰り返しているうちは、売上高や利益の伸長と、売掛債権、棚卸資産といった勘定科目残高の増加は、財務諸表を分析するだけでは違和感を持つことは難しい。また、債権債務の決済が他の取引同様に行われているため、キャッシュフローの動きにも不審な点がないことが多い。 こうした財務諸表上に不審点が表れていないことに加えて、証憑書類がすべて整備されており、また、架空循環取引に関与している法人の中には上場企業が含まれていることも多いため、会計監査でもなかなか発見されない。 (5) 税務調査による発見 架空売上の計上による粉飾が税務調査で争点になりづらいのと同様、架空循環取引についても、税務調査をきっかけに発覚したという事例は少ない。これは、架空売上の計上による粉飾同様、税務調査で発見したとしても、それが追徴課税につながらないことが、あえて粉飾に目をつぶる、という結果になっているのではないか。 また、架空循環取引を長期間続けることは、資金繰りの点から非常に難しいため、税務調査が入るころにはすでに破綻しているなど、調査のタイミングと不正の実行時期とが一致しづらいことにも基因しているといえよう。 *  *  * 本連載の最終回となる次回は、棚卸資産の過大(架空)計上や架空売上、架空循環取引といった粉飾決算による不正を防止し、又は発見するための手法と再発防止策について、検討を進めたい。 (了)
#25(掲載号)
#米澤 勝
2013/06/27
相続税・贈与税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

鵜野和夫の不動産税務講座 【連載3】「相続時精算課税制度~そのメリットとデメリット」

鵜野和夫の不動産税務講座 【連載3】 相続時精算課税制度 ~そのメリットとデメリット   税理士・不動産鑑定士 鵜野 和夫   (一)   (二)   (三)   (四)   (五)   (六)   (了)
#25(掲載号)
#鵜野 和夫
2013/06/27
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

法人税の解釈をめぐる論点整理 《減価償却》編 【第4回】

法人税の解釈をめぐる論点整理 《減価償却》編 【第4回】   弁護士 木村 浩之   (前回はこちら) 5 資本的支出と修繕費の区分 (1) 問題の所在 法人が固定資産の修理・改良等のために支出する費用には、例えば、 などがある。 これらの費用が固定資産に対する資本的支出に当たる場合には、その費用は減価償却資産として償却が必要であり、一時の損金の額に算入することができない。 これに対して、これらの費用が修繕費に当たる場合には、その費用は通常の一般管理費に含まれるものとして支出時の損金とすることができる。 したがって、固定資産の修理・改良等のために支出する費用が資本的支出に当たるか、それとも修繕費に当たるかによって所得の計算が異なることになるので、税務調査等においても、その区分が特に問題とされることが多いといえる。 (2) 資本的支出と修繕費の意義 ア 資本的支出 資本的支出とは、「修理、改良その他いずれの名義をもってするかを問わず、その有する固定資産について支出する金額で次に掲げる金額に該当するもの」をいうとされている(法令132)。 したがって、資本的支出の基本的な性質は、「通常の管理又は修理」の範囲を超えて、固定資産の使用可能期間を延長させ、又はその価値を増加させるというものである。 イ 修繕費 これに対して、資本的支出の概念の裏返しとして、修繕費とは、次のような性質を有するものをいう。 このうち、①については、固定資産の機能を維持保存することを目的とするものであることから、一定の周期で反復継続するものであり、かつ、費用の発生がある程度事前に予測可能なものである。言い換えれば、日常的であり、かつ、予防的な性質を有するものであるといえる。 また、②については、固定資産のもともとの機能を回復することを目的とするものであることから、何らかの原因で機能低下が生じた場合になされるものであり、原状回復としての性質を有するものといえる。 (3) 資本的支出と修繕費の区分 ア 区分が難しい支出とは 以上でみたように、資本的支出と修繕費の基本的な性質の違いは、その支出される費用の「通常性」にあるといえる。その区分が容易なものもあれば、困難なものもある。 先ほどの例でいえば、(a)維持管理費については、特にそれが過剰な費用を要するものでない限り、一般的には、通常の管理又は修理費用として修繕費に該当するものといえる。他方、(c)改造増設費については、通常の管理又は修理の範囲を超えてその価値を増加させるものとして、一般的には、資本的支出に該当するものといえる。 これに対して、(b)取替補修費については、その区分が容易ではない。例えば、新たな機能を付加するようなもの、本来の機能を上回らせる内容のものであれば、明らかに通常の管理又は修理の範囲を超えており、資本的支出に該当する。また、単なる部品交換のようなもの、破損箇所を修復するようなものであれば、明らかに通常の管理又は修理の範囲に含まれるものとして、修繕費に該当する。 問題は、その中間的なものであり、「通常の」管理又は修理といえるかどうかによって結論が異なることになる。 実務上は、大規模な修繕がなされる場合など、固定資産の機能を回復させるための補修が「通常性」の範囲内かどうかをめぐって問題となることが多いといえる。 イ 通達による形式基準 取替補修費をはじめとした固定資産の修理・改良等のための費用については、多かれ少なかれ、その使用可能期間を延長し、又はその価値を増加させる効用があるといえることから、これを「通常性」という抽象的な基準によって、資本的支出と修繕費に区分することは困難であるともいえる。 そこで、通達では、修繕費に該当するための一定の形式基準が設けられている(法基通7-8-3ないし7-8-5)。これによれば、以下の形式基準を満たすものは修繕費として取り扱われることになる(なお、被災資産については、法基通7-8-6参照)。 ウ 解釈による実質基準 以上の形式基準でもって修繕費として取り扱われるものについては、特段問題は生じないことになるが、その適用がないものについては、実質的な基準によって「通常性」の判定をする必要がある。 この点、前記(2)イのとおり、資本的支出とは区別される修繕費の性質としては、①日常予防性(管理費用の場合)、②原状回復性(修理費用の場合)を有するものである。 そこで、「通常性」の判定に当たっては、実質的な観点から、これら①又は②の性質を有するものかどうかによって判断することになる。 例えば、建物の壁面の塗装部分について、全体を洗浄して塗装が剥げている部分を塗り直すにとどまるような場合であれば、原状回復のための費用として修繕費に該当し、全面を新たに塗り替えるような場合であれば、原状回復の範囲を超えるものとして資本的支出に該当することになる。 次回は、償却限度額の計算時に問題となる事項について取り上げる。 (了)
#25(掲載号)
#木村 浩之
2013/06/27
税務 税務・会計 解説 解説一覧

税務判例を読むための税法の学び方【13】 〔第4章〕条文を読むためのコツ(その6)

税務判例を読むための税法の学び方【13】 〔第4章〕条文を読むためのコツ (その6)   自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 (前回はこちら) (4 主文の主要素を見極める方法) ⑥ 関連した法令用語による文脈の把握 ここで書く内容は、いくつかある。 1つ目であるが、前回は対句に着目して整理する方法を書いたが、ある意味ではその内容に含まれるものである。前回、「対句」といった場合、様々なものが考えられることを述べた。そして、文章内に同じような表現が繰り返されている場合を取り上げた。 しかし「対句」とは、ある語に別の語がセットとして続く場合も指す。ここではこのセットの語が法令用語であるものを、分類して説明する。 以下の簡単な条文で説明しよう。 所得税法第77条は、地震保険料控除について規定したものであるが、そこには「居住者が、各年において、自己若しくは自己と生計を一にする配偶者その他の親族の有する家屋で常時その居住の用に供するもの又は・・・」 とある。 この「もの」は、日常用語においては意識して使い分けてはいないため、これが法令用語と言われても釈然としない者も多いであろう。しかし、法令上「者」「物」「もの」は、明確な意図のもとに使い分けられている。 そのため、混同を避けるために、「者(シャ)」「物(ブツ)」と音で読んだりすることもある。「者」は法律上の人格を有するものをいい、「物」は有体物を表す場合に使われ、「もの」は「者」又は「物」で表現できないような抽象的なものを表現する場合に用いられる。 そして、一定の者又は物あるいは「もの」を限定するにあたり、上に示した「・・・で・・・もの(者、物)」という表現が多く使われ、この「で」と「もの(者、物)」が1つのセットになっている。 「AでBであるもの」ということから、結果として、AでありかつBであるというように条件が付加されたことになる。この場合、ここで述べられているものは「自己若しくは自己と生計を一にする配偶者その他の親族の有する家屋」であり、かつ「常時その居住の用に供するもの」ということになる。 同様に、日常用語においては意識して使い分けていないが、法令用語としては明確な意図のものに使い分けられているものとして、「場合」と「とき」と「時」がある。 「時」は時点を示す意味で使い、「場合」と「とき」は仮定的条件を示す場合に使う。 ただし、この「場合」と「とき」も、法令上、1つの仮定的条件を示す場合には、「場合」を使うか「とき」を使うかは、語感の問題でしかない。 しかし、法令上仮定的条件を二重に限定するときには、明確に意識して、「・・・場合において、・・・ときは」や「・・・場合の・・・とき」という言い方をすることになっている。 すなわち、法令上仮定的条件を二重に限定するときは、「場合」「とき」が1つのセットになっているのである。なお、もし三重に限定する場合には、「場合・・・場合・・・とき」と使う。 これを所得税法第120条で確認しよう。 次に、所得税法第122条第2項を見てみよう。   ここで述べる2つ目は、前に書いた同一用語の併置に似ているが、用語としては同一ではなく、また前に書いた並列的内容の事項の併置にも似ているが、内容的に並列というのではなく、法令用語として似ている語の併置に着目して整理する方法である。 すなわち、上に書いた「者」「物」「もの」が併置されている場合が、その例である。「条文を読むためのコツ(その2)」において、「者」と「もの」の併置があったのもこの例である。 (了)
#25(掲載号)
#長島 弘
2013/06/27
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載25〕 海外赴任中のストックオプションの権利行使と株式譲渡について

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載25〕 海外赴任中のストックオプションの 権利行使と株式譲渡について   税理士 神谷 紀子   Q 私は日本の上場企業に勤める会社員です。平成22年4月に、会社からシンガポールへの海外赴任を命ぜられ、現在も引き続きシンガポールに居住しています。 最近の日本の株高の傾向を受けて、下記のストックオプションを平成25年6月に権利行使しようと思っています。また、権利行使後、適当な時期にその取得した株式を譲渡しようと思っています。 この場合、私は、どのような課税関係になるのでしょうか。 いわゆる、税制適格ストックオプションの場合と税制非適格ストックオプションの場合について、教えてください。 A 1 税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションの課税の概要 (1) ストックオプションにおける税務の基本的な考え方 ストックオプションは、通常、①付与(ストックオプションの発行)の時、②権利行使の時、③株式譲渡の時の3段階で課税問題を考えることになる。各段階における税務の基本的スタンスは下記の通り。 ①については、将来株式を取得する権利を取得するものの、実質的には、換金可能な経済的利益はない。そのため、課税は行われない。 ②における利益、すなわち権利行使による株式取得に係る経済的利益は、ストックオプションの発行会社の従業員や役員の身分を起因とする現物給与と解されることから、一般的に給与所得として考えることになる(所令84④、所基通23~35共-6)。 ③における利益は、権利行使により取得した株式を譲渡した利益であり、これは株主としての資格で取得するキャピタルゲインであるため、譲渡所得と解される(措法37の10)。 (2) 税制適格ストックオプションの課税の概要 いわゆる税制適格ストックオプションとは、年間の権利行使価額の上限を1,200万円とするなど租税特別措置法29条の2《特定の取締役等が受ける新株予約権等の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等》1項の要件(以下「税制適格要件」という)を満たす契約をいう。 この税制適格要件を満たしていれば、居住者・非居住者にかかわらず、税制適格のストックオプションとしての課税関係が決まる。 したがって、海外赴任中であっても、税制適格要件を満たすことは可能である。 税制適格ストックオプションの課税方法は、以下の通り。 税制適格ストックオプションは、権利行使時に生じる経済的利益(権利行使時の時価と払込価額との差額)にかかる課税は株式譲渡の時まで繰り延べられる。この繰り延べられた経済的利益は、その後の株式の値上がり益とともに株式譲渡の時に譲渡利益(又は譲渡損失)として、譲渡所得として課税される(申告分離課税)。 すなわち、本来給与所得として課税を受けるべき権利行使益を繰り延べて、株式譲渡の時にその給与所得部分も含めて譲渡所得として課税するという、特例的な取扱いである。 居住者の譲渡所得の税率は、20.315%(うち所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%。上場株式等であれば10.147%(※1)(うち所得税7%、復興特別所得税0.147%、住民税3%))なので、一般的に、後述の税制非適格ストックオプションの場合に比べて有利と考えられている(措法37の10)。 (※1) 平成26年以後は、上場株式等についても20.315%となる。 なお、多くの場合、権利行使と株式譲渡は同時に行われる。その場合は権利行使益と株式譲渡対価に差額が生じないため、権利行使益=譲渡所得として課税されることになる。 (3) 税制非適格ストックオプションの課税の概要 税制非適格ストックオプションの課税方法は以下の通り。 税制非適格ストックオプションは、いわゆる原則的な課税関係であり、権利行使時に生じる経済的利益(権利行使時の時価と払込価額との差額)は「給与所得」として課税される。 居住者の給与所得は総合課税の税率(累進課税)なので、一般的に、所得が多い人にとっては、税制適格ストックオプションの場合に比べて不利になると考えられている。   2 非居住者におけるストックオプションの課税関係 海外赴任中の会社員が、赴任先の居住地国においてストックオプションを権利行使し、譲渡する場合の課税関係については、基本的には、非居住者としての取扱いとなる。 また、日本と居住地国との間に租税条約の締結などがある場合は、租税条約の規定が優先されることになる。 以下、シンガポールにおいてストックオプションを権利行使し株式を譲渡する場合の課税関係を検討する(※2)。 (※2) 本稿では、会社員である非居住者を前提としているので、「恒久的施設(PE)を有しない」非居住者についてのみ検討する。   (1) 平成21年4月に付与されたストックオプションの課税関係 ① 税制適格ストックオプションの場合 所得税法の規定では、税制適格ストックオプションの課税関係について、居住者であっても非居住者であっても基本的に考え方は同じである。ただし、日本の所得税法では、非居住者については、「国内源泉所得」についてのみ課税することとなっている点(所法164)や、居住者と非居住者では、適用条文が変わる場合があるので注意を要する。 ⅰ) 権利行使の時の課税 税制適格ストックオプションは、非居住者であっても、居住者と同じく権利行使の時には、課税はない(措法29の2)。 ⅱ) 株式譲渡の時の課税 非居住者が税制適格ストックオプションを権利行使により株式を取得し、その後その株式を譲渡した場合は、日本の所得税法では、居住者と同じく権利行使による経済的利益も含めて譲渡所得として課税される(措令19の3⑭)。 このとき、非居住者の株式の譲渡については、租税特別措置法37条の12が適用される。その場合の税率は、15.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%)であり、上場株式等の軽減税率は適用されない。 なお、住民税(5%)は免税される。 ⅲ) 租税条約の適用 日本とシンガポールとの間には、租税条約が締結されている。 日星租税条約15条1項(給与所得)は、以下のように規定されている。 また、同条約13条5項(譲渡収益)は、以下のように規定されている。 ストックオプションの権利行使益は、本来、日本においてもシンガポールにおいても、従業員の身分としての給与に該当すると考えられている。 その考え方をベースにすると、日星租税条約15条により、権利行使益のうち日本に居住していた期間に相当する部分は、国内源泉所得として日本に課税権があり、シンガポールに居住している期間はシンガポールに課税権があると解される。 日本の課税権がある部分(国内源泉所得)については、日本の税法が適用されることになるので、上述の通り、税制適格ストックオプションとしての課税となり、株式譲渡の時に税率15.315%(復興特別所得税込)での譲渡所得課税となる(措法37の12、措令19の3)。 また、株主の資格で取得する利益とされる権利行使後の譲渡益については、日星租税条約により、居住地国に課税権があるため、日本での課税はない(日星租税条約13条5項)。 税制適格ストックオプションであった場合の1株当たりの課税関係を図に表わすと、下記のとおりとなる。   ② 税制非適格のストックオプションの場合 ⅰ) 権利行使の時の課税 税制非適格ストックオプションの権利行使による経済的利益は、給与所得課税であるが、非居住者の場合は国内源泉所得に限られる。そのため、付与から権利行使までの間、日本に在住していた期間分についてのみ、国内源泉所得として日本の所得税が課税される(所法161八イ)。 なお、シンガポール在住期間分は、給与所得ではあるが、「国外源泉所得」となり日本の所得税の課税なく、シンガポールで課税されることになる。 この所得税は、源泉分離課税となり、20.42%(所得税20%、復興特別所得税0.42%)の税率で納税して課税関係は終了する(所法161八)。 なお、この源泉所得税を納めるに当たり、日本の会社からの金銭の支給がないことから、本人から会社に源泉所得税相当額を払い込まなければならないことになる。 ⅱ) 株式譲渡の時の課税 非居住者が、一般の株式を売却した時の譲渡所得は、所得税法で免税されている(所法164①四)。よって、日本での課税はない。 税制非適格ストックオプションであった場合の1株当たりの課税関係を図に表わすと、下記のとおりとなる。   (2) 平成22年4月に付与されたストックオプションの課税関係 ① 税制適格ストックオプションの場合 ⅰ) 権利行使の時の課税 税制適格ストックオプションは、非居住者であっても、居住者と同じく権利行使の時には、課税はない(措法29の2)。 ⅱ) 株式譲渡の時の課税 非居住者が税制適格ストックオプションを権利行使により取得し、その後譲渡した場合は、日本の所得税法では、居住者と同じく譲渡所得として課税されることになっている(措令19の3⑭)。 このとき、非居住者の株式の譲渡については、租税特別措置法37条の12が適用される。その場合の税率は、15.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%)であり、上場株式等の軽減税率は適用されない。 なお、住民税(5%)は免税される。 ⅲ) 租税条約の適用 日本とシンガポールとの間には、租税条約が締結されている。 すでに「(1) 平成21年4月に付与されたストックオプションの課税関係 ①ⅲ」で検討したように、ストックオプションの権利行使益に相当する部分は、本来、日本においてもシンガポールにおいても、従業員の身分としての給与に該当すると考えられている。 そのため、日星租税条約が適用される場合は、権利行使益に相当する部分のうち国内源泉所得部分は日本での課税となる。しかしながら、本ストックオプションは、付与から権利行使の時まで日本における居住期間がなく、国内源泉所得部分はない。したがって、権利行使益に相当する部分の課税はない(日星租税条約15条1項)。 また、株主の資格で取得する利益とされる権利行使後の譲渡益は、日星租税条約により、居住地国に課税権があるため、日本での課税はない(日星租税条約13条5項)。 したがって、本ストックオプションについては、権利行使及び株式譲渡による日本での課税は全く生じないことになる。 ② 税制非適格のストックオプションの場合 ⅰ) 権利行使の時の課税 税制非適格ストックオプションの権利行使による経済的利益は、給与課税であるが、非居住者の場合は国内源泉所得に限られる。そのため、その経済的利益のうち、付与から権利行使までの間、日本に在住していた期間分に相当する部分についてのみ、国内源泉所得として日本の所得税が課税される(所法161八イ)。 しかしながら、本ストックオプションは、付与から権利行使の時まで日本における居住期間がないため、国内源泉所得部分はない。したがって、非適格ストックオプションの権利行使による日本での課税はない(日星租税条約15条1項)。 なお、本ストックオプションにおける給与所得部分は、そのすべてがシンガポールにおける給与所得として課税されることになる。 ⅱ) 株式譲渡の時の課税 非居住者が、一般の株式を売却した時の譲渡所得は、所得税法で免税されている(所法164①四)。よって、日本での課税はない。   3 非居住者のストックオプションの日本における課税関係の整理 これまでの課税関係をまとめると、以下のとおりとなる。 【権利行使時】 【譲渡時】  ※上記税率に復興特別所得税が加算される(税率=所得税率×2.1%)。 (了)
#25(掲載号)
#神谷 紀子
2013/06/27
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〔会計不正調査報告書を読む〕【第9回】椿本興業株式会社・ 元従業員による不正行為に係る「第三者委員会調査報告書」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第9回】 椿本興業株式会社・ 元従業員による不正行為に係る 「第三者委員会調査報告書」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概要】   【椿本興業株式会社の概要】 椿本興業株式会社(以下「椿本興業」という)は大正5年創業。機械器具、運搬機械装置販売会社の老舗。連結子会社は国内13社、海外3社。連結売上高81,665百万円、連結経常利益2,003百万円。従業員379名(数字はいずれも2012年3月期)。東証・大証1部上場。   【報告書のポイント】 社内調査委員会による報告書と第三者委員会による調査報告書(要約版)が同時に公表されている。社内調査委員会による調査の目的は、 の3点である。 以下では、第三者委員会による調査報告書の記載を中心に、社内調査委員会の報告内容を補完して記述する。   1 調査結果により判明した事実 (1) 不正発覚の経緯 中日本営業本部東海東部SD(Sales Division)における元SD長が関与する取引において、多額の棚卸残高が計上されていることから、平成24年1月以降、経理部門、コンプライアンス室を交えた打合せが行われてきたが、改善されなかった。 平成24年12月末の棚卸資産残高が1,303百万円に達したことから、平成25年2月、経理部門責任者から中日本営業本部長にあてて、以下の理由から、元SD長が関与する一連の取引を中止させるよう、勧告が行われた。 勧告の結果、架空・循環取引による資金の流れが止められたため、資金繰りに困った元SD長が、3月13日、営業総括本部長に対し、架空・循環取引を行っていた旨の自白をした。 (2) 不正取引の内容 不正取引を行うこととなった発端は、元SD長が、関係の深い仕入先KE社の資金繰りを支援するため、先行検収(前渡金の支払い)や売上債権の流動化(資金化)を行ってきたものの、資金繰りが一向に改善しなかったため、水増し発注を行うようになった。 水増し発注を繰り返す中で、元SD長は水増し発注した代金の着服を行うようになる。 元SD長は、KE社以外の7社を椿本興業の販売先として、KE社と椿本興業の間に介入させ、一方、椿本興業からはKE社を含む5社に対して発注を行い、KE社に資金を還流させることにより、架空・循環取引を繰り返していた。 【資金の流れ】 (3) 隠蔽工作 元SD長による隠蔽工作の一つは、KE社に対する2度の税務調査においてKE社からの現金着服が問題になった際に、椿本興業に反面調査が及ぶことを避けるため、国税調査官に対して「使途秘匿金扱い」とすることを依頼したことである。また、監査法人が架空・循環取引に関与した社に対して残高確認書を送付した際には、この郵便物を同社から取り戻し、偽造した残高確認書を監査法人に返送していた。 (4) 業績に与えた影響 過去7年間の財務諸表の訂正により、売上高は約70億円の減少、当期純利益は約15億円の減少、純資産額は約17億円の減少となっている。   2 不正行為の発生原因と長期間発覚しなかった理由 (1) 人事異動の少なさ 椿本興業では、顧客密着型の営業スタイルにより顧客の信頼を築き、リピートオーダーを獲得するため、特定の営業が特定の顧客を担当することが必要であった。特に、名古屋地区の顧客特性から、他の地域の者に代替させることが容易にできない商慣習もあり、人事異動ができにくい環境にあった。 本件の首謀者元SD長も、入社以来、中日本営業本部に勤務し、課長職になってから20年、装置営業部門で決裁権限を有していた。 (2) 営業担当者に対する広範な権限付与と牽制機能の欠如 営業担当者は、仕入先選定、見積書提出、現場据付工事の立会い、顧客引渡しなどの営業活動、売掛金回収や仕入先に対する支払指示などを一人で担当するというスタイルが踏襲され、社内・社外の人間関係の濃密さも相俟って、内部統制の機能の大きな柱である相互牽制・監視が機能せず、不正発生の温床となりやすい常況にあった。 (3) 平成18年2月発覚した元従業員による横領事件 平成14年4月、名古屋支店から大阪本社に異動した元従業員による架空仕入の計上による横領事件が、平成18年2月に発覚した。 この事件は、結果的に見れば、本件の首謀者である元SD長が行っていた不正行為と同一態様のものであり、平成18年2月の時点で徹底した調査が行われていれば、この時点で不正行為の発見につながったものと考えられるが、調査を行った事実はない。また、元従業員が大阪本社への転勤前、名古屋支店で同様の不正行為をしていたかどうかを調査した形跡もない(実際には元SD長と共謀し、あるいは単独で、名古屋支店時代から不正を行っていたことが今回発覚した)。 (4) 監査法人による指摘 上記(3)の事件の発覚を受け、あずさ監査法人は、監査役会に対して、椿本興業の業務体制が孕む不正リスクを指摘したうえで、「内部管理体制や内部監査の強化等の対策による再発防止へ向けての留意が特に重要だ」と報告した。 ところが、この指摘に対して椿本興業経営陣がこれを真摯に受け止め、対策を検討した形跡はなく、不正行為の再発防止策が講じられることはなかった。   3 会計監査人に対する問題点の指摘 あずさ監査法人の問題点は、せっかく正鵠を射た指摘をしておきながら、指摘に対して経営陣が再発防止策を講じなかったにもかかわらず、その不作為(放置)に対して、継続的な改善を促した形跡はないこと、現任の監査責任者に対して、平成18年5月の指摘事項が引き継がれておらず、監査の連続性、一体性が確保されていないことにある。 報告書は、「これでは、当社の業務上の不正リスクに関する当監査法人自身による適確な監査の効果が、当監査法人自らの事後的対応によって減殺され、全く活かされることなく雲散霧消したと言わざるを得ない」と酷評、「不正行為の発見を遅らせた一因をなした」と締めくくっている。   4 調査報告書の特徴 椿本興業について、第三者委員会は「役職員間における派閥や対立関係、無用な軋轢等がほとんどなく、職場環境は融和的な気風に富んでいる」と評している。しかし、こうした美風は、残念ながら、発覚した不正事件を矮小化して、首謀者の懲戒解雇だけで済ませた上、監査法人の指摘に対しても業務体制の見直しを行わない方向に作用し、結果として、複数の従業員が関与する長期間の不正を見過ごすことにつながってしまった。 調査報告書では、こうした経営陣のコンプライアンス意識の希薄さを、平成18年2月に発覚した事件を良き教訓とし、監査法人の指摘を真摯に受け止めて再発防止策を講じていたならば、不正行為の継続を困難にし、あるいはより早期に発覚し得た可能性を否定できないとして、問題視している。 架空循環取引の手口による不正な売上計上は、首謀者が、所属部門の業績を良く見せることを目的として行われることが多いが、本件の首謀者である元SD長は「私的な遊興費、愛人の生活費等に充てる金員を詐取する目的」のために、架空循環取引に架空発注を付加して、発注代金から現金を取得していた点で、より悪質である。 その上、社内体制も、元SD長による不正を認識しながら、自らも不正な利益を得るため積極的に加担した幹部職員が複数存在し、より広範囲の職員も反対意見を具申することなく、不正取引に加担していたように、組織全体のコンプライアンス意識の欠如も不正が長く続いた要因であった。 なお、元SD長が、架空・循環取引を発案し、KE社との間で開始したのは平成17年3月頃からであったということであるが、メディア・リンクス社による架空取引が報じられたのが平成16年11月であったことと考え合わせると、この事件から何らかのヒントを得たのかもしれない。 経営者はなかなか他社の不正事例に学ぶことができないようだが、不正実行者とその予備軍は、他社の不正事例を知見として自社の脆弱性を見極め、不正を実行する機会を探っていると言ったら、言葉が過ぎるだろうか。 (了)
#25(掲載号)
#米澤 勝
2013/06/27
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

年次有給休暇管理上の留意点 【第4回】「年次有給休暇の計画的付与」

年次有給休暇 管理上の留意点 【第4回】 「年次有給休暇の計画的付与」   社会保険労務士 菅原 由紀   ◆年次有給休暇の取得率 日本企業の年次有給休暇(以下、「年休」という。)の取得率は、平成5年の56.1%をピークに減少し、近年では50%を下回る状態が続いている。 厚生労働省の「平成24年就労条件総合調査結果の概況」によると、平成23年の取得率は49.3%となっている。 なお、取得率を企業規模別にみると、1,000人以上が56.5%(同55.3%)、300~999人が47.1%(同46.0%)、100~299人が44.0%(同44.7%)、30~99人が42.2%(同41.8%)となっている。 ※( )は前年。 ※付与日数には繰越日数は含まない。 厚生労働省:「平成24年就労条件総合調査結果の概況」より   ◆年次有給休暇の計画的付与 年休は本来、労働者が自分の意思によって取得するものであり、利用目的も自由であり、使用者はその利用目的を制限することはできない。 しかし、上記に見たように、年休の取得率が50%程度と低いという現状から、年休の取得促進、さらには連続休暇を普及促進させるために、労働基準法では計画付与という制度が定められている。これを「年次有給休暇の計画的付与」という。 この計画的付与は、年休の付与日数すべてについて認められているわけではない。なぜならば、労働者が病気その他の個人的事由による取得ができるよう、労働者が指定した時季に与えられる日数を留保しておく必要があるためである。 そこで年休の日数のうち5日は、個人が自由に取得できる日数として必ず残しておかなければならない。このため、労使協定による計画的付与の対象となるのは、年休の日数のうち、5日を超えた部分となる。 例えば、年休の付与日数が10日の労働者に対しては5日、20日の労働者に対しては15日までを計画的付与の対象とすることができる。なお、前年度取得されずに次年度に繰り越された日数がある場合には、繰り越された日数を含めて5日を超える部分を計画的付与の対象とすることができる。   ◆計画付与の方法 年休の計画付与制度には、主に次の方法がある。 企業や事業場は、この中から実態に即した方法を選択することになる。   ◆計画的付与制度の導入に必要な手続 年休の計画的付与制度の導入には、就業規則による規定と労使協定の締結が必要になる。 ① 就業規則による規定 年休の計画的付与制度を導入する場合には、まず、就業規則に「5日を超えて付与した年次有給休暇については、労働者の過半数を代表する者との間に協定を締結したときは、その労使協定に定める時季に計画的に取得させることとする」などのように定めることが必要である。 ② 労使協定の締結 実際に計画的付与を行う場合には、就業規則の定めるところにより、労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数を代表する者との間で、書面による協定を締結する必要がある。なお、この労使協定は、所轄の労働基準監督署に届け出る必要はない。 労使協定で定める項目は次の通り。   ◆一斉付与の場合の年休の足りない者の取扱い 一斉付与により計画年休を実施する場合で、年休が5日以下の者(新入社員や8割要件を満たさなかった者など)がいるときは、以下の措置を講じることで、一律にその日を休みにすることが望ましい。このような措置をとらずに労働者を休業させる場合には、会社都合による休業として休業手当(注)の支払いが必要になる。 (注) 労働基準法第26条(休業手当):使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。 (連載了)
#25(掲載号)
#菅原 由紀
2013/06/27

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