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税理士・公認会計士事務所[ホームページ]再点検のポイント 【第4回】「ホームページの管理会社は替えられる?」
税理士・公認会計士事務所 [ホームページ]再点検のポイント 【第4回】 「ホームページの管理会社は替えられる?」 データライズ株式会社 代表取締役社長 公認会計士・税理士 河村 慎弥 ホームページの管理会社を替えたい。 その理由として多いのは、すでにお話してきました「維持費」や「更新料」が高すぎる、というものです。 ここ10年くらいでホームページの維持費や更新料は劇的に下がりましたので、10年以上前の契約が続いていると、今となっては非常に高額な維持費や更新料を支払っているということもあります。 そこで、ホームページ管理会社を変更できるのかという話になるのですが、結論から言えば、通常は可能です。 ただし、第2回でご説明した「サーバー」や「ドメイン」の移管手続、前回ご説明した「CMS(シー・エム・エス)」で制作されているホームページなどの移管における問題、移管するホームページの著作権の問題などが生じ、事実上不可能と言わざるを得ない場合もあります。 このテーマは少々複雑なので、今回から3回にわたって解説したいと思います。 * * * まず今回説明するのは、サーバーとドメインの移管手続です。 「あなたの事務所のホームページ」を制作した業者(A社とします)は、サーバー管理会社と契約しています。その契約でレンタルしたサーバー(サーバーAとします)には、「あなたの事務所のホームページ」が記録されています。 そして、A社は「ドメイン管理会社」とも契約しており、そこに管理を任せている「あなたの事務所のドメイン」に「ある設定」をしてあります。 その設定とは というものです。 この「設定」があるために、誰かが「あなたの事務所のドメイン」のページを見ると、サーバーAに記録された「あなたの事務所のホームページ」が表示されるわけです。 * * * ホームページ管理会社の変更を「ホームページの移管」と呼びますが、このホームページの移管にあたり、「サーバーの移管」が必要となります。 次の図をご覧ください。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 つまり、現在の管理会社であるA社が契約しているサーバーAから、新たな管理会社であるB社が契約しているサーバーBに、「あなたの事務所のホームページ」を移さなければなりません。 これは、「あなたの事務所のホームページ」のデータを、サーバーAからサーバーBにコピーして、元のサーバーAからは削除するという手続で完了です。 これにより、B社が「あなたの事務所のホームページ」を管理できるようになります。 * * * 次に、「ドメインの設定変更」です。 先ほど述べたように、今まで「あなたの事務所のドメイン」のページを見ようとすると、サーバーAに記録された「あなたの事務所のホームページ」が表示されていたのを、今後は、サーバーBに記録された「あなたの事務所のホームページ」が表示されるように設定変更します。 これらの一連の作業は、B社がA社と連絡をとってやってくれるのが一般的です。B社に支払う移管手数料は、サーバー移管、ドメイン移管とも各々3,000円くらいかと思われます。 この金額は、B社が契約しているサーバー管理会社やドメイン管理会社に支払う移管手数料と、B社に必要な移管手数料の合計額です。そのため、サーバー管理会社やドメイン管理会社の移管手数料によって、大きく変動すると思われます。 * * * 次回は管理会社を変更する際のポイントとして「管理会社を変更する判断基準」についてご説明します。 (了)
所得税
税務
税務・会計
解説
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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第4回】「ホステス報酬事件(その1)」~事案の論点~
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第4回】 「ホステス報酬事件(その1)」 ~事案の論点~ 国士舘大学法学部教授・法学博士 酒井 克彦 1 ホステス報酬に係る源泉徴収税額が争点となった事例 (最高裁平成22年3月2日第三小法廷判決・民集64巻2号420頁) 租税法律主義の下では、条文に書いてある内容に忠実に従ったところで、租税は賦課徴収されることになる。しかし、条文の内容が十分に明確ではないとか、いくつかの解釈が可能となってしまうというようなケースは少なくない。 例えば、「期間の日数」に一定の数をかけて源泉徴収税額を算出するという規定があるとしよう。そこでは、この「期間の日数」というものをどのように理解すればよいのかという問題が起こり得る。「連続した日数」をいうのか、あるいはある一定の「期間」の中から対象となる「日数」をカウントするのか、というようにである。 租税法の条文解釈の手法には、「文理解釈」と呼ばれるものと、「目的論的解釈」と呼ばれるものがある。ところで、上記の問題を明らかにするためには、この2つの解釈手法のうちいずれが採用されると考えるべきなのであろうか。 そこで、今回から数回にわたって、パブクラブを経営する者が支払ったホステスに対する報酬に係る源泉徴収税額の計算をめぐる訴訟、いわゆる「ホステス報酬事件」を素材にして、租税法の解釈の仕方について考えてみたい。 2 ホステス報酬事件の概観 (1) 事案の概要 本件は、パブクラブを経営するX1及び株式会社X2が支払ったホステスに対する報酬について、源泉徴収税額が過少であるとして納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分がなされたところ、X1ら(原告・控訴人・上告人)がこれを不服として訴えた事例である。 所得税法204条1項6号は、「キャバレー、ナイトクラブ、バーその他これらに類する施設でフロアにおいて客にダンスをさせ又は客に接待をして遊興若しくは飲食をさせるものにおいて客に侍してその接待をすることを業務とするホステスその他の者(以下この条において「ホステス等」という。)のその業務に関する報酬又は料金」の支払をする者につき、源泉徴収義務を課しているが、その税額計算は次のように行うこととされている(所法205二、所令322)。 以下の数式は、所得税法施行令322条を表したものである。この事件では、この数式内の「当該支払金額の計算期間の日数」の解釈が問題となった。 (2) 争点 所得税法施行令322条に規定する「当該支払金額の計算期間の日数」とは、ホステスが実際に勤務した日数をいうのか、あるいは報酬の支払期間に応じた全日数をいうのか。 (3) 判決の要旨 イ 東京高裁平成18年12月13日判決※(民集64巻2号487頁) ※上記の判旨は最高裁がまとめたものである。 ロ 最高裁平成22年3月2日第三小法廷判決 次回からこの事案について、深く切り込んでみたい。 (続く)
消費税・地方消費税
税務
税務・会計
解説
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経理担当者のためのベーシック税務Q&A 【第5回】「消費税率の引上げ」―指定日と経過措置の関係―
経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第5回】 「消費税率の引上げ」 ─指定日と経過措置の関係─ 仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久 1 消費税率の引上げ 消費税法の一部が改正され、消費税及び地方消費税を合わせた消費税等の税率が、以下のとおり2段階で引き上げられる予定です。 平成26年4月1日以降に行われる商品や製品の販売やサービスの提供等については、新税率(8%)が適用されます。ただし、契約の時期や内容等によっては、平成26年4月1日以降に行われる取引についても、旧税率(5%)が適用される経過措置が定められています。 2 施行日の前日までに仕入れた商品を施行日以降に販売した場合 経過措置が適用される場合を除き、新税率(8%)は平成26年4月1日以降の取引について適用され、平成26年3月31日以前の取引については旧税率(5%)が適用されます(改正法附則2)。 したがって、平成26年3月31日以前に仕入れた商品を平成26年4月1日以降に販売する場合には、この販売取引には新税率(8%)が適用されます。一方、商品の仕入は平成26年3月31日以前に行われていますので、この仕入取引には旧税率(5%)が適用されます(経過措置通達3)。 3 施行日前の契約に基づいて施行日以後に商品を販売した場合 平成26年3月31日以前に契約を締結している場合でも、経過措置が適用される場合を除き、平成26年4月1日以降の取引については、新税率(8%)が適用されます(経過措置通達2)。 4 工事等の請負契約に関する経過措置 平成25年9月30日以前に締結した工事等の請負契約に基づいて、平成26年4月1日以降に完成・引渡しが行われる場合には、旧税率(5%)が適用されます(改正法附則5③)。 なお、この経過措置は、一定の要件を満たす場合には必ず旧税率(5%)を適用する必要があります。詳しくは、「平成26年4月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱いQ&A」(国税庁)をご参照ください。 5 損益への影響 消費税は、製造・流通の各段階で商品や製品が販売される都度その販売価格に転嫁され、最終的に消費税を負担するのは消費者です。 消費税率の引上げに伴い、販売取引は経過措置が適用され旧税率(5%)で計算され、仕入取引は新税率(8%)で計算された場合には、この差額(3%)について事業者が負担するようにも思えます。しかし、消費税の納付税額は、売上に対する消費税額から、仕入に含まれる税額等を差し引いて計算します。 したがって、消費税が販売価格に適正に転嫁されている場合には、売上と仕入の消費税率の違いによる事業者の損益への影響はありません。 一方、実際には各段階で取引先との力関係等の理由で消費税の転嫁ができない場合が生じる可能性があります。この場合には、転嫁できなかった分は納税義務者である事業者の負担となりますので、経営に大きな影響を及ぼします。 このため、消費税率の引上げに際して、円滑かつ適正に転嫁ができるように「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」が成立しました。消費税率の引上げに際して、事業者が注意するポイントは、「消費税の転嫁対策特別措置法5つのポイント」(日本商工会議所)をご参照ください。 (了)
法人税
税務
税務・会計
解説
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「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例5(法人税)】 「退職の事実がないとして、税務調査により、代表取締役の役員退職給与が否認された事例」
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例5(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《事例の概要》 平成24年3月期の法人税につき、代表取締役の退任に伴い支給した退職金1億2,000万円を、退職の事実がないとして税務調査により否認され、役員賞与として修正申告することになった。 また、平成24年分の代表取締役の所得税についても退職所得が給与所得とされ、修正申告となった。 これにより依頼者の法人税額2,200万円及び代表取締役の所得税額3,400万円が過大納付となり、損害賠償請求を受けた。 《賠償請求の経緯》 ・代表取締役である社長より、高齢のため、代表権を返上し、会長に退きたい旨の相談を受け、退職金の試算を依頼された。 ・税理士は社長の最終報酬、勤続年数、功績倍率等を加味し、最大で1億2,000万円と試算した。 ・会社は退職金1億2,000万円を社長に支給し、損金経理により申告した。 ・税理士は退職金として認められるための要件についても説明を行った(会社側は否定)。 ・前社長は代表取締役の退任後も役員報酬(退職前の月額120万円から50万円に減額)を受け、代表印を保管し、週2回ほど出社し以前同様会社業務の決済を行っていた。 ・退任時の議事録もなく、登記簿上も代表取締役のままであった。 ・税務調査が事前の通知により行われたが、当日は担当者のみで、税理士は立ち会わなかった。 ・上記事実を税務調査で指摘され、現社長及び前社長が共に調査官の前で認め、修正申告に応じたため、税理士は何ら反論することができなかった。 ・その後、適正な指導がなかったために修正申告になったとして、依頼者より訴えの提起がされた。 《基礎知識》 ◆役員の分掌変更等の場合の退職給与(法基通9-2-32) 法人が役員の分掌変更に際し退職給与として支給した給与については、その役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められるものである場合には、不相当に高額である場合を除き、これを退職給与として損金算入することができる。 《税理士の落とし穴》 《税理士の責任》 仮に適正な指導がなかったとしても、高齢を理由に引退を決意した社長が、高額な退職金の支払いを受けてなお以前同様会社業務の決済を行うことは想定されない。また、議事録の作成は毎回会社で行っており、税理士が依頼を受けたことはない。 したがって本件は、税理士に責任はないと思われる。 しかし、税務調査が事前の通知により行われたこと、及び調査当日は担当者のみで税理士が立ち会っていないこと等から、税務当局の指摘に対し十分な対応がなされていたかに疑義が残るため、過失相殺の可能性もある。 《予防策》 [ポイント①] 説明した事実を書面に残す 分掌変更等の場合の退職給与として損金算入が認められるためには、少なくとも以下の説明、指導が必要であった。 今回の事例においては、税理士は上記説明を行ったと主張し、依頼者はこれを否定している。このような場合には、上記の説明した内容を書面に残し、署名等をもらい、証拠として残しておくことも必要である。 また、顧問税理士であれば、説明だけでなく、その後の指導も行うべきである。 [ポイント②] 税務調査には税理士が立ち会う 本件事例の場合、税務調査が事前の通知により行われたにもかかわらず、担当者のみの立ち会いで行われている。 本事例の場合、事実認定によるところが大きいことから、税理士が調査に立ち会っていれば、反論の余地もあったであろうことから、税務調査には税理士が立ち会うべきである。 (了)
相続税・贈与税
税務
税務・会計
解説
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相続税対策からみた生前贈与のポイント 【第4回】「不動産の名義変更とその取消しがあった場合の贈与税」
相続税対策からみた 生前贈与のポイント 【第4回】 「不動産の名義変更と その取消しがあった場合の贈与税」 税理士法人タクトコンサルティング 税理士 山崎 信義 1 対価の支払いがないまま名義変更した場合の贈与税課税の原則 個人間で対価の支払いがないまま不動産の名義を変更した場合は、原則として変更により不動産を取得したとされる人が変更前の所有者から不動産を贈与により取得したものと推定され、贈与税課税の問題が生じる(相続税基本通達9-9)。 例えば、親(57歳)が所有する相続税評価額2,500万円の貸家を、対価の支払いのないまま、子(19歳)の名義に変更する所有権登記をした場合、親から子へ2,500万円相当の贈与があったと推定される。 この場合、親の年齢が65歳未満、子の年齢が20歳未満のため相続時精算課税が選択できず、暦年課税により贈与税が計算されることから、子に970万円の贈与税が課税されるおそれがある。 2 過誤等により名義変更した場合の贈与税の特例 上記1の事例で、「相続時精算課税の適用が受けられるので、贈与税はかからないと思っていた。970万円も贈与税がかかると知っていたら、貸家の名義変更はしなかった」というのが親と子の真意である場合、一律に贈与税を課税するのは酷といえる。 このため、国税庁では通達により、次のような救済措置を設けている。 それは、財産の名義変更や他人名義等により財産を取得する行為が、過誤に基づくものや軽率にされたものであり、かつ、取得者の年齢その他により、このような事実が確認できるときは、その贈与に係る最初の贈与税の申告、決定又は更正の日の前に不動産の所有権登記を変更前に戻す等して名義を元の所有者に変更した場合に限り、税務上は贈与がなかったものとされ、贈与税は課税されない、というものである(「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて」(以下「名義変更通達」)5)。 3 贈与契約の取消し等があった場合の贈与税の取扱い 不動産などの財産の贈与契約を締結し、登記名義も変更したものの、諸事情により当事者が合意して契約の取消しや解除が行われる場合もある。 例えば1の事例において、「多額の贈与税がかかるのであれば、贈与契約を取り消し、贈与がなかったものとする」というような場合である。 このような贈与契約の取消しや解除があった場合であっても、税務上は、その契約に係る財産の移転は贈与とされ、贈与税が課税されるのが原則である(名義変更通達11)。 ただし、次の要件をすべて満たし、かつ、税務署長が贈与契約に係る財産を贈与税の課税対象とすることが著しく負担の公平を害すると認める場合は、特例として贈与がなかったものとされ、贈与税は課税されないこととしている(「『名義変更通達』の運用について」4)。 なお、贈与契約の取消し又は解除により、その贈与に係る財産の名義を贈与者の名義に変更した場合は、その財産の移転は贈与契約の取消し又は解除に基づくものであることから、その贈与がなかったものとされるかどうかにかかわらず、税務上はその名義変更を贈与として取り扱われず、贈与税は課税されない(名義変更通達12)。 4 贈与税以外の注意点 不動産の名義変更とその取消し等については、上記2及び3の要件を満たすことにより、贈与税の課税を避けることができる。 しかし、登録免許税など登記費用の負担は避けられない。 さらに、名義変更とその取消し等が「不動産の取得」に該当すると判断される場合は、それぞれにつき不動産取得税が課税されるおそれもある。 いったん不動産の名義変更を行ってしまうと、たとえそれを取り消したとしても、課税の問題がつきまとう。 親族間で安易に名義変更を行い、あとで思わぬ税負担を発生させないためにも、事前の十分な検討が必要である。 (了)
相続税・贈与税
税務
税務・会計
解説
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教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置について 【追補②】「新設された措置法通達のポイント(その2)」
教育資金の一括贈与に係る 贈与税非課税措置について 【追補②】 「新設された措置法通達のポイント(その2)」 ミレニア綜合会計事務所 代表税理士 甲田 義典 はじめに 【追補】の1回目では、「教育資金の一括贈与に係る非課税措置」(以下「本制度」という)に関して新設された通達(以下「新通達」という)について、それぞれの概要を解説したが、今回から内容を詳しく見ていくこととする。 今回取り上げる新通達の項目は、以下のものである。 【70の2の2-2】 外国国籍を有する者等に係る措置法第70条の2の2の適用 受贈者が外国国籍を有する者や国内に住所がない者であっても、本制度は適用可能であることが明らかにされている。 また、「『租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて』等の一部改正について(法令解釈通達)のあらまし(情報)」(以下「情報」)では、同じ贈与税の非課税の特例でも、措法70条の2(直系尊属から住宅取得資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税)では、贈与により国内財産を取得した時に国内に住所がない受贈者は適用対象外であるため、本制度とは要件が異なることが留意的に明らかにされている。 さらに、外国国籍のある受贈者が本制度を適用する場合の取引金融機関への提出書類の取扱いと、国内に住所がない受贈者の「教育資金非課税申告書」の記載例が明らかにされた。 提出書類に関しては、本制度の適用上、取引金融機関へ「教育資金非課税申告書」の提出が必要となるが、その他、受贈者の戸籍謄本や住民票の写し等の書類で、以下の事項を証する書類の添付が求められている(措法70の2の2③、措令40の4の3⑫二)。 外国国籍のある受贈者の場合には、上記①~④を証明する手段として、受贈者の戸籍謄本や住民票の写し等の他に、役所でその受贈者の出生届が受理されていた場合には、役所が発行する我が国の戸籍法に基づく「出生届出受理証明書」や、外国政府が発行する上記①~④を証する書類を添付することも可能であることが明らかにされた。 次に、国内に住所がない受贈者の「教育資金非課税申告書」の記載例は、以下のとおりである(国税庁「情報」P4-6)。 【70の2の2-3】 直系尊属の範囲 措法70条の2(直系尊属から住宅取得資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税)の適用を受ける場合の直系尊属に関する取扱いは、措通70の2-1(直系尊属の範囲)に従うこととされているが、本制度においても措通70の2-1を準用することが明らかにされている(下図は国税庁「情報」P7)。 【70の2の2-4】 追加教育資金非課税申告書を提出することができない取扱金融機関の営業所等に追加教育資金非課税申告書が提出された場合におけるその申告書の効力 非課税枠1,500万円の範囲であれば、過去に「教育資金非課税申告書」を提出して本制度を適用していたとしても、その提出した取扱金融機関の営業所等へ「追加教育資金非課税申告書」を所定の期日までに提出した場合に限り適用可能である(詳細は本連載の【第3回】「適用を受けるために必要な手続とその留意点①(教育資金贈与時)」の「2(2)受贈者が追加で教育資金の贈与を受ける場合」を参照のこと)。 したがって、例えば、「A銀行甲支店」に「教育資金非課税申告書」を提出し、その後、異なる営業所等である「A銀行乙支店」や異なる取扱金融機関である「B銀行甲支店」に「追加教育資金非課税申告書」を提出した場合には、その提出された「追加教育資金非課税申告書」は本制度の効力を有しないことが明らかにされた。 ただし、本制度適用上の教育資金管理契約に基づく事務が他の営業所等へ移管した場合において、移管先の営業所等に「追加教育資金非課税申告書」が提出されたときは、この限りでない。 また、本制度を適用するにあたっては、まず「教育資金非課税申告書」が提出され、その後、「追加教育資金非課税申告書」が提出されるという提出の順序が重要となる。 この先後関係の判定に関しては、それぞれの申告書の取扱金融機関の営業所等における受理日付の早い順で行うことになる。 そして、効力を有しないこととなった「追加教育資金非課税申告書」に本制度の適用を受けるものとして記載された金額は、贈与税の課税対象となることが留意的に明らかにされた(下図は国税庁「情報」P9)。 【70の2の2-5】 教育資金非課税申告書又は追加教育資金非課税申告書に記載された非課税拠出額が1,500万円を超えていた場合等におけるこれらの申告書の効力 「教育資金非課税申告書」は、受贈者が既に取扱金融機関へ提出している場合には、受贈者と取扱金融機関との教育資金管理契約が終了するまでの間は新たに提出することができない。 また、非課税拠出額が1,500万円を超える「教育資金非課税申告書」の提出があった場合(以下②のケース)や、「追加教育資金非課税申告書」に記載された非課税拠出額が過去において既に受理された申告書の記載額と合計すると1,500万円を超えるものとなる場合(以下③のケース)には、取扱金融機関の営業所等はこれらの申告書を受理できないこととされている(措法70の2の2⑥)。 通達では、これらの取扱いに反して提出又は受理された申告書は、いずれもその効力を有しないことが明らかとされた。 なお、これら申告書の提出の先後関係の判定(受理日付の早い順)及び効力を有しないこととなった申告書に本制度の適用を受けるものとして記載された金額の税務上の取扱い(記載金額の贈与税の課税)に関しては、上述の措通70の2の2-4を準用することとなる。 また、情報では以下3つのケース別に、提出又は受理された申告書の効力に関して解説されている(下図は国税庁「情報」P11)。 【70の2の2-6】 郵便等により教育資金非課税申告書等の提出があった場合 この通達では、本制度に係る各種申告書を郵便や信書便で取扱金融機関の営業所等へ提出した場合には、その郵便物又は信書便物の通信日付印により表示された日において取扱金融機関の営業所等に受理されたものとすることが明らかにされた。 また、取扱金融機関の営業所等へ提出すべき領収書等を郵便又は信書便により提出した場合についてもこの通達を準用することとなる(領収証等の提出に関しては、本連載【第4回】「適用を受けるために必要な手続とその留意点②(教育資金支払時及び契約終了時)」の「2 教育資金の支払時」を参照)。 なお、この通達は、措通70の2の2-4又は70の2の2-5の効力を有しない「教育資金非課税申告書」又は「追加教育資金非課税申告書」の判定にも適用される。 * * * 【追補】の最後となる次回は、措通70の2の2-7~70の2の2-12の内容について、詳しく取り上げる。 (了)
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「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」の解説 【第2回】「対象となる事業の範囲」
「商業・サービス業・ 農林水産業活性化税制」の解説 【第2回】 「対象となる事業の範囲」 公認会計士・税理士 新名 貴則 本税制の概要は、前回から解説しているため確認になるが、次のとおりである。 中小企業等が器具備品及び建物附属設備を取得した場合に、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除(当期の法人税額の20%が上限)を認める税制措置を創設する(措法42の12の3)。 ただし、下記の要件を満たす必要がある。 今回は、この中の「対象事業」について詳細に解説する。 1 対象事業の具体的な範囲 この税制措置の対象となる中小企業等は、どのような事業を営んでいてもよいのではなく、一定の事業に制限されている。 おおまかには「商業・サービス業及び農林水産業」と表現されるが、具体的には次の事業を指している(所得税:措令5の6の3③、措規5の10②③)(法人税:措令27の12の3④、措規20の8②③)。 2 事業の範囲が制限されている理由 中小企業は地域経済と雇用を支える非常に大事な存在であるにもかかわらず、今後予定されている消費税の2段階引上げによって、大きなダメージを受け倒産が相次ぐような事態になると、地域経済及び雇用に大打撃となる恐れがある。 そこで、この税制優遇措置を導入することで、中小企業の魅力向上や業務改善に貢献する設備投資を促進し、消費税の引上げに備えて経営状態の安定及び活性化を実現するために、この活性化税制が導入された。 ただし、すべての業種にこれを認めると国民の理解を得難い面があることから、業種を制限している。すなわち、製造業等に比べて景気回復が比較的遅れがちであり、かつ、人件費の割合が高いために消費税率引上げの影響を受けやすい、商業・サービス業及び農林水産業に制限しているのである。 (了)
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税務判例を読むための税法の学び方【17】 〔第5章〕法令用語(その3)
税務判例を読むための税法の学び方【17】 〔第5章〕法令用語 (その3) 自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 (前回はこちら) 4 「するものとする」 立法技術の上で、一定の作為又は不作為の義務を表そうという場合には、通例、「・・・しなければならない(又は「・・・(動詞の未然形)+なければならない」)」又は「・・・してはならない(又は動詞の禁止表現)」という表現を用い、一定の能力、権利、権限、権能などを与え又はこれを否認することを表そうという場合には、通例、「・・・することができる(又は「・・・(動詞の連体形)+ことができる」)」又は「・・・することができない(又は「・・・(動詞の連体形)+ことができない」)」という表現を用いる。 また、一定の行為・事実又は立前を断定的に表そうという場合に、通常の用語の使用法同様に、「・・・する(又は動詞の終止形)」又は「・・・しない(又は動詞の否定形(国語的に言えば未然形+否定語句))」という表現を用いることもある。 類似の内容を示すものとして、「・・・するものとする(又は「・・・(動詞の連体形)+ものとする」)」というような表現もある。 なお上記の括弧書きに示したように「・・・する」が、別の動詞である場合もある。以下では特に括弧書きを付けないが、「・・・する」という中には、他の動詞を含めるものとする。 では、この「・・・するものとする」という表現は、どういう場合に用いられるのであろうか。 この表現は、法令の上で頻繁に出てくる表現ではある。基本的には「しなければならない」という表現と同じように、義務を課する意味の表現となっている。 すなわち行政機関に対して一定の作為又は不作為の義務を課そうという場合に、「しなければならない」とか「してはならない」というきつい表現を避け、「・・・ものとする」というやや緩和的な表現であったとしても、それに従って処理されることが当然期待されるため、この緩和的な表現に置きかえられることが、しばしばみられる。 ただし厳密には、解釈論としては、「・・・しなければならない」よりはやや弱く、合理的な理由があれば、それに従わないことも許されるというような解釈が出てくる余地があり得る。 そこでこのように、合理的な理由があればそれに従わないことも許されると解される場合もあれば、そうでない場合もあり、細かく見ていくと、その用法は、一様ではない。 以下にそれを見ていこう。 ① 原則、方針を示したもの 前記したように、行政機関に対して一定の行為を義務付ける場合である。 「するものとする」という法令用語の意味は、「しなければならない」という義務の意味に近いが、若干の裁量の余地もあり、合理的な理由があればそれに従わないこともあり得ると解されている。 例えば、国税通則法第37条第2項には と規定されている。 また国税通則法第43条第5項においては、 と規定されている。 また、国税徴収法第78条においては と規定されている。 これらは、義務を課されるものが行政機関等であるので、原則を示せば、それによって処理されることが当然期待されるので、きつい表現を避け柔らかい表現に止められている。特に国税徴収法第78条の規定の場合には、「選択により」という表現が入っていて、当該行政機関の判断に委ねている趣旨が表されている。 これらは、仮にその義務違反があっても合理的な理由があれば、通常は違法という問題は生じないと解されている。 このように裁量の余地の有無という解釈上の疑義が生じる可能性があるため、行政機関に明確に義務付ける必要があるときは、「しなければならない」と明記されるのが基本である。 ② 法文上の語感から付されるもの 「ものとする」があってもなくても、その意味が変わらない場合である。 例えば、国税通則法第72条第2項は、 と規定しており、文言としては「ものとする。」が使われているが、その内容は「できないものとする。」であるから、内容的には例外を認める余地があるというような趣旨ではない。 また、所得税法第105条においては、 と規定している。 この「現況によるものとする。」は、「現況によらなければならない。」というのと実質的には同じである。また「確定したところによるものとする。」は「確定したところによらなければならない。」と実質的には同じである。 なお、「する(動詞の終止形)」も、一種の義務を表すのに用いられることがある。 例えば、国税徴収法第111条には、 と規定されている。これは、売却決定を行わなければならないと同趣旨を柔らかく表現しているものである(同旨の規定が、同法第113条にもある)。 また、同法第104条第2項には と規定されている。 これも、第1項の「定めなければならない。」というのと同趣旨であるところ、柔らかい表現にしたものである(同旨の規定が、同法第105条第1項後段の規定にもある)。 また一定の不作為義務を命ずる場合に、「・・・することができない」という表現を用いている例もある。 なお行政機関に対してではなく国民(税法においては納税者)に対しても、立法者としては「・・・する」とか「・・・しなければならない」とかの表現をしたいところ、それでは少し表現がきつ過ぎるという場合に「するものとする」と表現している例もある。 例えば、国税通則法第88条第1項においては、 と規定されている。 最後の「するものとする。」は、「・・・当該行政機関の長に審査請求書を提出しなければならない。」の趣旨であり、例外が認められる余地はない。 (次回に続く)
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〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載33〕 平成25年度税制改正における事業承継税制の改正について
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載33〕 平成25年度税制改正における 事業承継税制の改正について 税理士 長谷川 敏也 Q 平成25年度税制改正において、租税特別措置法といわゆる経営承継円滑化法が改正され、事業承継税制が大幅に緩和されたといわれていますが、具体的にどのように改正されたのでしょうか。 A 制度を使いやすくするための抜本的な見直しを行うこととされ、具体的には以下の15項目が改正された。依然として複雑な制度だが、事業承継に当たり検討すべき制度である。 解 説 1 改正の概要 (1) はじめに 中小企業経営者の平均年齢が約60歳となっており、事業承継の円滑化は喫緊の課題となっている。 しかしながら、「非上場株式等に係る相続税等の納税猶予制度」、いわゆる事業承継税制は、平成21年度の創設以来、当初想定していたほどには利用が進んでいない状況にある。平成21年~24年度の4年間で、相続税における経済産業大臣の認定件数は413件、贈与税における認定件数は237件に過ぎなかった(中小企業庁調べ)。 このため、制度を使いやすくするための抜本的な見直しを行うこととされ、平成25年度税制改正において租税特別措置法が改正され、また、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則」(以下「円滑化省令」)の一部改正が行われた。 具体的には、次の見直しが行われた。 (2) 制度の名称変更 租税特別措置法70条の7、70条の7の2、70条の7の4の条文の見出しがそれぞれ「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除」「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除」「非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除」と、いずれも「及び免除」まで明記した制度名称とされた。 改正前には、制度のメリットである「免除」が端的に表現されておらず、「贈与税・相続税が猶予されるだけで、最終的には利子税とともに納付しなければならない」との誤解が生じていることが改正の背景にある。 (3) 適用要件の緩和 (4) 負担の軽減 (5) 手続の簡素化 (6) 適用要件の厳格化 (7) みなし配当課税に係る特例措置の拡充(措法9の7) 相続財産に係る株式をその発行した非上場会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例の適用対象者の範囲に、相続税法等において相続又は遺贈により非上場株式を取得したものとみなされる個人を加える。 (8) 適用関係 以上の改正は、平成27年1月1日から施行されるが、経済産業大臣の事前確認手続が事業承継税制の適用の前提となる認定の要件から外れる措置については、平成25年4月1日から前倒しで施行されている。 既適用者(平成26年12月31日までの相続等により取得した非上場株式等について事業承継税制の適用を受けた者)も新法(改正後の事業承継税制)の適用を受けることができるが、その場合には、平成27年1月1日以後最初に到来する「継続届出書」の提出期限又は平成27年3月31日のいずれか遅い日までに、税務署に新法選択に係る届出書を提出しなければならない。 このうち、本稿では、現段階で公表されている法令等により、事前確認制度の廃止、雇用確保要件の緩和、親族間承継要件の廃止について取り上げてみる。 2 事前確認制度の廃止とその効果 (1) 相続税・贈与税の納税猶予制度における事前確認制度の廃止 計画的な承継に係る取組み(後継者の確定、株式の計画的承継等)に関して、相続税に関しては先代経営者の存命中に、贈与税に関しては後継者への贈与を実行する前に、「経済産業大臣の確認」(各地域の経済産業局へ申請)を受けておく必要があった。 平成25年度改正において、手続の簡素化を行い使い勝手の良い制度とするため、また、突然、経営者が亡くなった場合にも制度活用が可能になるよう、計画的な承継に係る取組みに関する経済産業大臣の事前確認が、認定の要件から外れることとなった。それに伴い、平成25年4月1日以後に、経済産業大臣に認定申請する申請者は、事前確認を受けていなくても申請が可能となった(旧円滑化省令6①七ト(4)(6)、八ト(3)(5))。 具体的には、相続税に関しては、認定申請期限が相続開始の日の翌日から8月を経過する日までとなっているので平成24年8月1日以降の相続から適用となり、贈与税に関しては、認定の申請期限が贈与の日の属する年の翌年の1月15日までとなっているので平成25年分の贈与からの適用となる。 なお、平成25年3月31日以前に確認書の交付を受けた申請者あるいは平成25年3月31日以前に確認書の交付申請をして平成25年4月1日以後に確認書の交付を受けた申請者は、その確認書を添付して認定の申請を行うことも可能である。 しかし、納税猶予の適用を受けるための基本的な手続である、「認定」手続や、経営(贈与)承継期間における経産大臣への「報告」「確認」、税務署長への「届出」は従前の通り(次項(2)参照)であり、手続の簡素化の効果は限定的である。 (2) 事業継続報告 事業継続報告とは、事業継続期間中贈与税又は相続税の納税猶予制度の適用を引き続き受けるために、その適用の前提となっている経済産業大臣の認定について取消事由に該当しないことを報告するものである。 経済産業大臣の認定を受けた中小企業者は、贈与税又は相続税の申告期限の翌日から5年間(当該認定の有効期限。いわゆる「事業継続期間」)、当該申告期限の翌日から1年を経過するごとの日の翌日から3月を経過する日までに、経済産業大臣に事業継続報告をすることが必要である。 事業継続報告の結果取消事由に該当することが判明した場合は、認定が取り消されることになる。また、報告を怠った場合にも認定が取り消されることになる。取消事由に該当しないことが確認された場合には、経済産業大臣から確認書が交付される。 経営承継受贈者又は経営承継相続人は、贈与税又は相続税の申告期限の翌日から5年間、当該申告期限の翌日から1年を経過するごとの日の翌日から5月を経過する日までに、税務署長に当該確認書を添付した一定の報告書を提出することが必要となる。 (3) 贈与税の納税猶予から相続税の納税猶予へ切り替える場合の確認制度(切替確認)の存置 切替確認とは、贈与税の納税猶予制度(措法70の7)の適用を受けている経営承継受贈者に係る経営承継贈与者の相続が開始した場合において、租税特別措置法第70条の7の3の規定により相続により取得したものとみなされた非上場株式等に係る相続税につき贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予制度(措法70の7の4)の適用を受けるための前提となる手続である。 中小企業者が、特別贈与認定中小企業者であった場合(認定が取り消された場合を除く)又は現に特別贈与認定中小企業者である場合であって、経営承継贈与者の相続が開始したときには、要件のいずれにも該当していることにつき経済産業大臣の確認(切替確認)を受けることができる。 このとき「経済産業大臣の確認」を受け、後継者(相続人等)の要件、対象会社の要件を満たす場合には、そのみなされた非上場株式について相続税の納税猶予の適用を受けることができる(贈与税の納税猶予から相続税の納税猶予へ切替え)。 確認を受けるためには、相続開始の日の翌日から8ヶ月を経過する日までに、所定の申請書を各地域の経済産業局へ提出する。なお、相続税の納税猶予の適用を受けるためには、確認を受けた場合に交付される「確認書」とその他の必要書類を添付して、税務署に相続税の申告を行う必要があるので留意が必要である(円滑化省令12⑬、13①)。 3 雇用確保要件の緩和 (1) 改正前の認定取消事由 経営(贈与)承継期間内に次の雇用確保要件を満たさなくなった場合等一定の事由に該当することとなった場合には、それぞれに定める日から2ヶ月経過日が納税猶予の期限となり、猶予税額の全額を納付しなければならなかった。ただし、2ヶ月経過するまでの間に経営承継受贈者が死亡した場合には、相続の開始日から6ヶ月を経過する日が期限となる(円滑化省令9②、9③、措法70の7④、70の7の2③)。 相続税、贈与税の納税猶予取消事由は類似しているので、ここでは経営贈与承継期間(納税猶予に係る贈与税の申告期限の翌日から5年間)以内の場合を例に取ると、贈与税申告書の提出期限の翌日から起算して1年を経過するごとの日(以下「第1種贈与基準日」)において、常時使用する従業員の数が、贈与の時における常時使用する従業員の数の80%を下回った場合には、第1種贈与基準日から2ヶ月経過日が納税猶予の期限となり、猶予税額の全額を納付することとされていた。 この常時使用する従業員の数が、贈与の時、相続開始の時における常時使用する従業員の数の80%を下回った場合には納税猶予が取消しという取扱いが、この事業承継税制の最大の障害となっていた。リーマンショックのような景気変動など、いかんともしがたい外的要因がある中で、改正前制度では要件未達成のときに納税猶予が全額打ち切られるのでは、ペナルティーが非常に大きいという指摘があった。 平成25年度税制改正では、この雇用確保要件を緩和し、毎年の景気変動に配慮して、「5年間毎年80%以上確保」を、「経済産業大臣の認定の有効期間(5年間)における常時使用従業員数の平均が、相続開始時又は贈与時における常時使用従業員数の80%を下回ることとなった場合」に緩和された。 (2) 従業員数証明書 経済産業大臣の確認や認定の申請をする際には、常時使用する従業員の数を証する書類を提出する必要がある。施行規則では、「従業員数証明書」と定義しており、その内容は、次のとおりである(円滑化省令1⑥)。 ① 厚生年金保険の標準報酬月額決定通知書 70歳未満の常時使用する従業員の数を証する書類である。 日雇労働者、短期間雇用労働者及び当該事業所の平均的な従業員と比して労働時間が4分の3に満たない短時間労働者など、厚生年金保険の加入対象とならない者は、常時使用する従業員には該当しない。 ② 健康保険の標準報酬月額決定通知書 70歳以上75歳未満の常時使用する従業員の数を証する書類である。 任意継続被保険者は、被保険者であっても加入事業所における雇用の実態がないため、常時使用する従業員には該当しない。 ③ その他の資料 ④ 常時使用する従業員の数 (3) 改正後の認定取消事由 平成25年度税制改正により、この認定取消しとなる事由のうち、雇用確保要件が次の通り緩和された。 改正認定贈与承継会社の第1種贈与基準日における常時使用する従業員の数の合計を、経営贈与承継期間の末日において、経営贈与承継期間内に存する第1種贈与基準日の数で除して計算した数が認定に係る贈与の時における常時使用する従業員の数に100分の80を乗じて計算した数(その数に一未満の端数があるときは、その端数を切り上げた数)を下回る数となったこと、に改められた(措法70の7④二、措令40の8(22))。贈与者が経営贈与承継期間の途中で死亡した場合で、受贈者が相続税の納税猶予の適用を受けない場合は、途中死亡までの期間内に存する第1種贈与基準日の数で除すこととなる。 例えば、1年目から4年目までの雇用割合が90%、5年目の雇用割合は70%というようなケースでは、5年間の平均の雇用割合86%が80%以上であることから、雇用確保要件が満たされることとなる。 また、先代経営者から後継者に事業の承継が行われる際に、先代経営者の下で働いていた従業員と後継者との関係がうまくいかずに50%が退職してしまっても、2年目から5年目までの雇用割合が90%であれば、5年間の平均の雇用割合82%が80%以上であることから、この場合も雇用確保要件が満たされることになる。後継者が事業承継直後に大量採用したが結果的に離散してしまった場合の計算も同様である。 しかしながら、「雇用確保要件の緩和」がなされたとはいえ、5年間の平均であったとしても承継時の8割の雇用を維持しなければならないということは、中小企業にとっては負担の重い制度であることには変わりない。単に「8割」という形式基準に固執するのではなく、退職の事情や経営状況、雇用維持のための努力などの質的判断も行い、弾力的な運用が望まれる。 4 親族間承継要件の廃止 (1) 改正前の概要 贈与税・相続税の納税猶予制度の認定を受けるためには、経営承継受贈者(相続人)は、贈与の時において、その中小企業者の非上場株式等の贈与者の親族であること(親族とは、6親等内の血族又は3親等内の姻族をいう)又は相続の開始の直前において、その被相続人の親族であった者である要件が規定されていた。 この後継者要件のうち、親族要件である、「相続開始の直前又は贈与の時において、先代経営者の親族であること」が、改正前事業承継税制の大原則となっていたので、親族内に適当な後継者がいない場合に、この事業承継税制が活用できなかった。 また、事業意欲のある若者や、経営能力のある従業員のビジネスチャンスを奪い、事業等を親族に承継させる場合のみを奨励することは適当ではないという議論もあった。 (2) 親族外承継の対象化 平成25年度税制改正では、この後継者の「親族間承継要件」を廃止し、例えば優秀な番頭さんなどの適任者も後継者の対象とし、親族外の後継者への相続又は贈与の場合であっても、相続税・贈与税の納税猶予の適用対象とすることとなった(措法70の7②三、70の7の2②三)。 なお、同時に贈与税の税率構造が改正され、最高税率を相続税の最高税率に合わせる一方で、子や孫等直系卑属が受贈者となる場合の贈与税の税率構造が緩和されているので、直系卑属への承継とそれ以外の者への承継では、猶予税額が異なることとなる。 一方、遺留分に関する民法の特例制度では、制度を利用できる後継者も遺留分の算定に係る合意の当事者となることから、旧代表者の推定相続人であることを要件としているが、この「親族外承継の対象化」には対応していない。相続時に相続人から遺留分の減殺請求を受け、権利関係に異動が生じた場合の課税関係はかなり複雑となり、また、親族外後継者の納税リスクが避けがたいことから、事業承継の任を引き受ける従業員を探すことは容易ではないといえる。 (了)
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〈適用前に確認したい〉改正「退職給付会計基準」における変更点チェック・ポイント
〈適用前に確認したい〉 改正「退職給付会計基準」における 変更点チェック・ポイント 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 平成24年5月17日に企業会計基準委員会から「退職給付に関する会計基準」及び「退職給付に関する会計基準の適用指針」(以下、「改正退職給付会計基準」という)が公表されている。 この改正退職給付会計基準では、主に以下の点について改正が行われている。 改正退職給付会計基準は、原則、平成25年4月1日以後開始する事業年度の年度末から順次、適用される。 そこで本稿では、影響の大きい論点を漏れなく事前に検討できるようにチェック・ポイントをまとめたので、3月決算の株主総会、第1四半期決算が終了して手続を確認する余裕もできるこの時期に、来年の3月本決算に向けた検討材料として活用していただきたい。 また、早期適用している会社にとっても、再確認の意味で本稿を利用していただくことは有意義と思われる。 なお、論末には本稿の内容を詳細に確認できる「チェック・シート」についてご紹介しているので、ご参照いただきたい。 1 勘定科目等の名称の変更 連結財務諸表上、「退職給付引当金」は「退職給付に係る負債」に、「前払年金費用」は「退職給付に係る資産」に変更されている。ただし、個別財務諸表上は、改正前と同様に「退職給付引当金」及び「前払年金費用」の名称を用いる(詳細は「5 未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理方法の変更」を参照)。 また、「過去勤務債務」は「過去勤務費用」に名称が変更されている。「期待運用収益率」も「長期期待運用収益率」に名称が変更されている。この2つについては、名称は変更されているが内容に変更はない。 さらに、「予定昇給率」は「予想昇給率」に名称が変更されている(詳細は「2 予想昇給率の見直し」を参照)。 2 予想昇給率の見直し 予想昇給率は、退職給付見込額の算定の際に用いられるが、改正前では「確実」に見込まれる昇給のみで算定していた。改正後は「確実」な昇給だけでなく、「予想される」昇給をもとに算定する。 3 退職給付見込額の期間帰属方法の見直し 退職給付見込額の期間帰属の方法は、改正前は、原則として期間定額基準であったが、改正後は、期間定額基準と給付算定式基準の選択適用となる。 4 割引率の見直し 割引率の計算の基礎となる期間は、改正前では「従業員の平均残存勤務期間に近似した年数」を用いて割引率を設定することが認められていたが、改正後はこの方法を用いることはできず、退職給付の支払見込期間を反映した割引率を設定する必要がある。 5 未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理方法の変更 改正前は未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用は、必ずしも貸借対照表に計上する必要はなかったが、改正後は、連結貸借対照表に未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を計上する。また、税効果控除後の金額をその他の包括利益(退職給付に係る調整額)として計上する。 個別貸借対照表上は、改正前と同様に必ずしも未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用を計上する必要はない。 また、連結貸借対照表に計上した未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用は、毎期、費用処理(組替調整)を行う。 6 過去勤務費用の費用処理の表示 過去勤務費用の費用処理の表示について、改正前は当期の費用処理額が重要である場合には、特別損失として表示することが認められていたが、改正後は発生時に全額費用処理する場合などにおいて、その金額が重要であるときのみ特別損失として表示することができる。 7 複数事業主制度の取扱いの見直し 複数事業主制度を採用している場合で、「複数事業主間において、類似した退職給付制度を有している場合」、改正前は年金制度の要拠出額をもって退職給付費用とする会計処理が認められていなかったが、改正後は、制度の内容など実態を踏まえた上で、年金制度への要拠出額をもって退職給付費用とする会計処理が認められている。 8 注記項目の拡充 確定給付制度の注記項目が拡充されている。特に「年金資産に関する事項」は改正前の退職給付に関する注記では求められていなかった情報のため、注意が必要である。また、会計方針の変更の注記や連結財務諸表作成会社の場合の個別財務諸表における取扱いが異なる旨の注記が必要となる。 9 経営指標等への影響 未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の積立不足がある場合、税効果考慮後の金額だけ純資産が減少(「5 未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理方法の見直し」参照)し、「1株当たり純資産」等の経営指標が悪化する。 また、予想昇給率の見直し、退職給付見込額の期間帰属方法の見直し、割引率の見直しにより、利益剰余金が減少し、純資産が減少する可能性がある。費用が増加し、利益が減少する可能性もある。そのため、「1株当たり純資産」や「1株当たり純利益」等の経営指標が悪化する可能性がある。 さらに、純資産の減少、利益の減少により、「財務制限条項等」に抵触する可能性も出てくる。 10 適用時期 改正退職給付会計基準の適用時期は、以下のとおりとなっている。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)