公開日: 2016/06/30 (掲載号:No.175)
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税務判例を読むための税法の学び方【85】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む(その13:「一時所得の計算における所得税法34条2項の「その収入を得るために支出した金額」の範囲③」(最判平24.1.13))

筆者: 長島 弘

税務判例を読むための税法の学び方【85】

〔第9章〕代表的な税務判例を読む

(その13:「一時所得の計算における所得税法34条2項の
「その収入を得るために支出した金額」の範囲③」(最判平24.1.13))

 

立正大学法学部准教授
税理士 長島 弘

 

連載の目次はこちら

7 考察

第一審及び控訴審と最高裁で判断が最も大きく異なったのは、所得税法34条2項の「その収入を得るために支出した金額」の「支出」の主体が、明記されていなくとも当然の前提として、所得者本人とされているか否かという点である。

第一審及び控訴審は、法律上明らかではないとして、施行令から判断しており、施行令183条2項2号に「当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金の総額は、その年分の一時所得の金額の計算上、支出した金額に算入する。」とあること及びその解釈通達である所得税基本通達34-4の柱書きに「令第183条第2項第2号・・・に規定する保険料・・・の総額には、その一時金又は満期返戻金等の支払を受ける者以外の者が負担した保険料又は掛金の額(略)も含まれる。」とあることから、法人の負担した保険料が所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に含まれると判断している。

一方最高裁は、下位規範である施行令によることなく、所得区分の意義等から、法律自体で解釈が可能なものとして、当然の前提から、所得者本人が支出したものだけが上記34条2項の「支出した金額」に含まれるとしている。

筆者も、最高裁同様、所得税における本件必要経費をはじめ必要経費に算入しうる支出の主体は、当然の前提として、所得者本人とされていると考える。

法34条には「その収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る)」とあり、このカッコ書きにより、「その収入を生じた行為をするため(直接)要した金額」「その収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額」に限定しているが、もし所得者以外が支払った金額を認めるとすれば、この限定が無意味なものになるからである。

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(その13:「一時所得の計算における所得税法34条2項の
「その収入を得るために支出した金額」の範囲③」(最判平24.1.13))

 

立正大学法学部准教授
税理士 長島 弘

 

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7 考察

第一審及び控訴審と最高裁で判断が最も大きく異なったのは、所得税法34条2項の「その収入を得るために支出した金額」の「支出」の主体が、明記されていなくとも当然の前提として、所得者本人とされているか否かという点である。

第一審及び控訴審は、法律上明らかではないとして、施行令から判断しており、施行令183条2項2号に「当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金の総額は、その年分の一時所得の金額の計算上、支出した金額に算入する。」とあること及びその解釈通達である所得税基本通達34-4の柱書きに「令第183条第2項第2号・・・に規定する保険料・・・の総額には、その一時金又は満期返戻金等の支払を受ける者以外の者が負担した保険料又は掛金の額(略)も含まれる。」とあることから、法人の負担した保険料が所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に含まれると判断している。

一方最高裁は、下位規範である施行令によることなく、所得区分の意義等から、法律自体で解釈が可能なものとして、当然の前提から、所得者本人が支出したものだけが上記34条2項の「支出した金額」に含まれるとしている。

筆者も、最高裁同様、所得税における本件必要経費をはじめ必要経費に算入しうる支出の主体は、当然の前提として、所得者本人とされていると考える。

法34条には「その収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る)」とあり、このカッコ書きにより、「その収入を生じた行為をするため(直接)要した金額」「その収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額」に限定しているが、もし所得者以外が支払った金額を認めるとすれば、この限定が無意味なものになるからである。

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連載目次

税務判例を読むための税法の学び方
(全100回) 

〔第1章〕 法(法源)の種類

〔第1章〕 法(法源)の種類

    • 【1】 〔第1章〕 法(法源)の種類
      はじめに
      1 自然法と実定法
      2 法源
      3 成文法(制定法)と不文法
      4 成文法の種類
      5 不文法の種類
       参考(法源性のない行政機関の内部規律)

〔第2章〕 法令の解釈方法

〔第2章〕 法令の解釈方法

〔第3章〕 法令間の矛盾抵触とそれを解決する原埋

〔第3章〕 法令間の矛盾抵触とそれを解決する原埋

〔第4章〕 条文を読むためのコツ

〔第4章〕 条文を読むためのコツ

〔第5章〕 法令用語

〔第5章〕 法令用語

〔第6章〕 判例の見方

〔第6章〕 判例の見方

〔第7章〕 判例の探し方

〔第7章〕 判例の探し方

  • 【54】 〔第7章〕 判例の探し方(その1)
    1 判例の検索方法
     ① 基礎的な検索項目
     ② 事件番号とは
  • 【55】 〔第7章〕 判例の探し方(その2)
    2 判例集の紹介と蔵書検索
     ① 公的(準公的)な判例集・裁判集
     (1) 『最高裁判所判例集』:『最高裁判所民事判例集』『最高裁判所刑事判例集』
     (2) 『最高裁判所裁判集』:『最高裁判所裁判集刑事』『最高裁判所裁判集民事』
     (3) 『最高裁判所民事判例特報』
     (4) 『最高裁判所刑事判決特報』
     (5) 『高等裁判所判例集』:『高等裁判所民事判例集』『高等裁判所刑事判例集』
     (6) 『裁判所時報』
  • 【56】 〔第7章〕 判例の探し方(その3)
     (7) 『高等裁判所刑事裁判速報』『高等裁判所刑事裁判速報集』
     (8) 『高等裁判所刑事判決特報』
     (9) 『高等裁判所刑事裁判特報』
     (10) 『東京高等裁判所刑事判決時報』『東京高等裁判所判決時報』
  • 【57】 〔第7章〕 判例の探し方(その4)
     (11) 『第一審刑事裁判例集』
     (12) 『下級裁判所刑事裁判例集』
     (13) 『刑事裁判月報』
     (14) 『下級裁判所民事裁判例集』
     (15) 『高等裁判所地方裁判所簡易裁判所民事裁判例特報』(『高等裁判所、地方裁判所、簡易裁判所民事裁判例特報』または『高等裁判所・地方裁判所・簡易裁判所民事裁判例特報』)
  • 【58】 〔第7章〕 判例の探し方(その5)
     (16) 『家庭裁判月報』
     (17) 『労働関係事件判決集』『労働関係民事行政裁判資料』『労働関係民事裁判例集』
     (18) 『労働関係民事事件裁判集』
     (19) 『無体財産権関係民事・行政裁判例集』『知的財産権関係民事・行政裁判例集』
  • 【59】 〔第7章〕 判例の探し方(その6)
     (20) 『行政裁判月報』『行政事件裁判例集』
     (21) 『訟務月報』
     (22) 『税務訴訟資料』
  • 【60】 〔第7章〕 判例の探し方(その7)
     (23) 『大審院刑事判決録』『明治前期大審院刑事判決録』
     (24) 『大審院民事判決録』『大審院民事商亊判決録』
     (25) 『大審院判決録』
  • 【61】 〔第7章〕 判例の探し方(その8)
     (26) 『大審院民事判決録』
     (27) 『大審院刑事判決録』
  • 【62】 〔第7章〕 判例の探し方(その9)
     (28) 『大審院民事判例集』
     (29) 『大審院刑事判例集』
     (30) 『行政裁判所判決録』
  • 【63】 〔第7章〕 判例の探し方(その10)
     ② 企業や諸団体等から発行されている定期刊行物
     (1) 『判例時報』『判例評論』
     (2) 『判例タイムズ』『判例年報』『〇〇年主要民事判例解説』
     (3) 『労働判例』
     (4) 『別冊中央労働時報』『労働委員会速報』『中央勞働委員會速報』
  • 【64】 〔第7章〕 判例の探し方(その11)
     (5) 『労働経済判例速報』
     (6) 『金融・商事判例』『週刊金融判例』『週刊金融・商事判例』
     (7) 『金融法務事情』『旬刊金融法務事情』
     (8) 『シュトイエル(Steuer)』
     (9) 『判例地方自治』
     (10) 『交通事故民事裁判例集』

〔第8章〕 判決を読む

〔第8章〕 判決を読む

〔第9章〕 代表的な税務判例を読む

〔第9章〕 代表的な税務判例を読む

筆者紹介

長島 弘

(ながしま・ひろし)

立正大学法学部准教授
税理士

神奈川県横須賀市出身
中央大学商学部会計学科卒
横浜市立大学大学院経営学研究科修士課程修了
会計事務所勤務後、短大専任講師や大学院大学客員教授等を経て、現職。
現在 租税訴訟学会理事、日本租税理論学会常任理事、日本税法学会理事

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