monthly TAX views -No.2- 「今年の課題は法人税改革」 中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹 1 法人税改革の主役は地方税 来年度税制改正の主な課題の一つは、法人税改革である。 そしてその主役は、国(税)ではなく地方(税)である。 なぜ地方が主役なのか。 地方自治体は、法人事業税と法人住民税(法人2税)という2つの税源に悩まされてきた。 法人税特有の税収の振れがある上に、一度赤字になると繰越欠損金が生じ当分税収は入ってこない。一人当たり税収(法人2税)で見た格差は、例えば東京と奈良では6倍もある。 自治体としてはこの税制のために、税収が不安定になり、地域格差が生じている、という認識となる。 そこで08年度税制改正で、法人事業税の半分(当時税収2.5兆円=消費税率1%分相当)を「地方法人特別税」(国税)としてくくり、人口などの基準によって再分配する制度を構築した。 再分配の結果持ち出しになる東京都や大阪府の反対を押し切って、「抜本的税制改革までのつなぎ」として作ったもので、消費税率が引き上がる際には、これを地方消費税と置き換えることになっていた。しかし、消費税が社会保障目的税となったことから、「地方法人特別税」と置き換えることができなくなり、この問題は先送りされた。 しかし、東京都や大阪府などは「地方法人特別税」の廃止を強行に要求しており、消費税率を引き上げる法律の条文(第7条)に、「地方法人特別税及び地方法人特別譲与税について、税制の抜本的な改革において偏在性の小さい地方税体系の構築が行われるまでの間の措置であることを踏まえ、税制の抜本的な改革に併せて抜本的に見直しを行う。」と記されることとなった。 つまり、消費税率の引上げが行われる来年4月までに、この問題の決着を図る必要があるのである。 2 実効税率の引下げも必要 法人税改革が必要なもう一つの理由は、法人実効税率の引下げが必要なことである。 震災復興臨時増税が終わった後(15年度)のわが国の法人実効税率は、現在の40%から5%下がり36%となるが、いまだ先進諸外国と比べて数%高い。 法人税がエネルギーコストなどと並んで企業の立地コストに大きな影響を与え、グローバルに活動する企業の空洞化や雇用の流出を招く一因となっている。一層の空洞化や雇用喪失を避けるという観点から、実効税率のさらなる引下げが必要だといえよう。 自民党は公約(政策集)で、「国際的整合性及び国際競争力の強化の観点から、社会保険料を含む企業の実質的な負担に留意し、法人税を国際標準に合わせて思い切って減税します。」としている。 実効税率の内訳をみると、国税である法人税率は25.5%で、フランス、英国よりも低く、中国と同水準で、国際的には遜色がない。つまり、実効税率を高止まりさせている原因は、地方税である法人事業税と法人住民税(地方法人2税)ということになる。 そこで、最初に述べた地方税改革と併せて議論していくことになる。 以上が、本年法人税改革が議論となる理由である。 3 必要な国民的議論 しかし、乗り越えるべき壁もまた厚い。 以下の点について、徹底的な議論が必要である。 まず、わが国企業を取り巻く環境が、6重苦(円高、高い法人税率、自由貿易協定への消極姿勢、硬直的な労働規制、環境規制の強化、高い電力価格)といわれる中で、法人税率を引き下げればどこまで空洞化防止に役立つのかという検証である。 赤字法人の割合が70%を超えているなかで法人税率の引下げに効果があるのか、法人にとって負担感があるのは法人税よりも社会保険料(企業負担)ではないか、すでに数々の租税特別措置によって個別企業の実効税率は引き下がっているのではないか、などの疑問に答えていく必要がある。 次に、この議論とも関連するのが、企業の内部留保金の議論である。 法人税負担を引き下げて内部留保(あるいは付加価値)が増加したとしても、それが従業員の給与の引上げ(労働分配率の向上)につながらなければ意味がない、ため込んだ内部留保を吐き出すことが先決で、法人税減税の問題はその後の話ではないか、という疑問への回答である。 最後に、最大の壁は、財源問題である。 法人実効税率を引き下げるためには、代替財源がいる。当初予定していた、一体改革で消費税率が引き上がれば、その一部である(地方)消費税を使って、という余地はなくなったと言っていいだろう。 そうなれば、地方税の見直しをする中で解決するしかないが、それも容易ではない。 したがって、国・地方の仕事の見直しと補助金や交付税など地方を巡るあらゆる財政資金を全面的に見直しながら、かつて三位一体改革で行ったような道を見つけていくしか方法はないだろう。 小泉内閣時に官房長官として経験のある安倍総理には、決して無理な課題ではない。 (了)
〔平成25年4月1日以後開始事業年度から適用〕 過大支払利子税制 ─企業戦略への影響と対策─ 【第1回】 「制度導入の背景とは」 アースタックス税理士法人 税理士 中村 武 はじめに 平成24年3月の税制改正において、法人の平成25年4月1日以後に開始する各事業年度に、関連者等に対する支払利子等の額がある場合においては、その支払利子等の額のうち一定額の損金算入が制限されるという規定(以下「過大支払利子税制」という)が創設された。 これまで、関連者等に対する過大な利子の支払いについては、移転価格税制及び過少資本税制によって対応が図られてきたが、今後はこの過大支払利子税制を含めた3つの税制により、その対応が図られることとなる。 この過大支払利子税制について、主要先進国において既にその導入が実施されているところもあるが(例えば米国では“Earnings stripping rules”という名称にて既に導入されている)、本邦の法人税においては創設規定となるため、制度自体につき、まだ理解が進んでいない部分も多くあるかと思われる。 また、当該事業年度損金不算入の規定のみならず、その後の事業年度の所得の状況により、過年度にて損金不算入とされた部分が、翌期以降で損金算入される規定も併せて併設されており、複数年にわたってその影響が及ぶ規定となっている。 したがってこの連載では、本制度の理解を深めるために、まずは本制度の導入趣旨を確認し、その後、制度内容、過少資本税制等の現行他規定との適用関係及び既存の案件に対する影響等につき、検討を加えることとする。 1 制度導入の趣旨 (1) 支払利子の損金算入に関する動向 法人の支払利子は、原則として損金に算入されることから、過大な支払利子を損金に計上することで、税負担を圧縮する租税回避が可能となっている。 近年の租税条約の制定及び改定の動向として、主要先進国は、国際的な投資交流の促進の観点から、利子に関して源泉地国での免税又は税率の軽減の方向性を強めてきている。 その反面、金融機関など第三者からの借入れとは異なり、関連者間においては、借入れの実行、期間及び利率等の条件設定が比較的容易に行うことが可能なため、過大な支払利子を通じた税負担の圧縮は、関連者間の租税回避の手段として用いられるおそれがある。 このような背景から、主要先進国では、支払利子の損金算入制限措置を強化する傾向にあり、我が国においても、企業の事業活動の実態にも配慮しながら、関連者間において所得金額に比して過大な利子を支払うことを通じた租税回避を防止するための措置として、過大支払利子税制が導入されることとなった。 (2) 過大な支払利子への課税手段 こうした各国の制度などを参考にすると、過大な支払利子への対応手段としては、以下の3つの手法が考えられる。 〈関連者への支払利子に対応する税制〉 上記のとおり、我が国の現行制度は、①「過大な利率」への対応として「移転価格税制」が、また、②「資本に比して過大な負債の利子」への対応として「過少資本税制」がそれぞれ存在し、租税回避の防止を図っている。 ただし、①「過大な利率」への対応としての移転価格税制は、支払利子の「利率」の水準が独立企業原則に照らして高い場合には対応できるものの、過大な「量」の支払利子には対応が困難であるという側面がある。 また、②「資本に比して過大な負債の利子」への対応としての過少資本税制は、借入れと同時に資本を増やすことで、支払利子の「量」を増やすことが可能であるという側面がある。 このようなことから、①及び②の手法によって対応することができなかった欠点を補完するために、利子を支払った側の法人の利子支払い前の所得と対比して過大な利子を認定し、損金算入を制限する手法として、過大支払利子税制が創設された。 (3) 過少資本税制及びその他の規定との関連 過大支払利子税制の導入が話題になった際、過大な支払利子の損金算入制限については、現行の過少資本税制から過大支払利子税制へ、その対応が引き継がれると考える向きもあったが、これまで述べた通り、そもそも対応する内容が異なるため、両制度は今後も併存することとなる。 したがって、今後、具体的な案件への影響について検討を行う際には、過少資本税制及び過大支払利子税制の両制度の影響を検討する必要がある(過少資本税制との関係及び過大支払利子税制導入に係る過少資本税制自体の改正内容については、以後の連載にて解説する)。 また、外国法人に係る関連者支払利子の額等の計算、受取配当等の益金不算入制度における負債の利子の計算についても、併せて過大支払利子税制導入に伴う所要の整備が行われることとなった。 2 過大支払利子税制の概要 (1) 関連者等に係る支払利子等の損金不算入 法人の各事業年度において、関連者支払利子等の額がある場合、その法人の当該事業年度における関連者支払利子等の額の合計額から当該事業年度の控除対象受取利子等合計額を控除した残額(以下「関連者純支払利子等の額」)が調整所得金額*の50%相当額を超えるときは、その超える部分の金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しないこととなる(措法66の5の2①)。 *「調整所得金額」とは、当期の所得の金額に、関連者純支払利子等の額、減価償却費の額及び受取配当等の益金不算入額等を加算する等の調整を行った金額をいう。 ただし、この制度は、次のいずれかに該当する場合には適用しない(措法66の5の2④)。 (2) 超過利子額の損金算入 関連者等に係る支払利子等の損金不算入の制度により損金の額に算入されなかった金額(以下「超過利子額」)がある場合には、翌事業年度以後7年間繰り越し、その後の事業年度の調整所得金額の50%相当額から、関連者純支払利子等の額を控除した残額に相当する金額を限度として、その各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することができる(措法66の5の3①)。 次回は、具体的な事例により、損金不算入額の計算イメージについて明らかにする。 (了)
グループ法人税制における 寄附金の税務 税理士 神谷 紀子 解 説 1 寄附金と受贈益 平成22年度税制改正において完全支配関係法人間における、いわゆるグループ法人税制が導入された。これによって、完全支配関係法人間における寄附金と受贈益は、損金にも益金にも算入されないことになった。 グループ法人税制における寄附金の税務は、法人税法37条2項に規定されているが、この規定は、法人間における寄附金に限って適用されるものとなっており、個人による支配関係は除かれている。 個人の支配関係の態様による寄附金税制の適用の有無は、下図の通りである。 【適用あり】 【適用なし】 また、グループ法人税制における受贈益の税務については、法人税法25条の2に規定されており、寄附金を支出する法人(支出法人)の損金不算入額と、受領する法人(受領法人)の益金不算入額が、同時に同額が計上されることを前提としている。 したがって、完全支配関係にあっても、例えば、他の内国法人が公益法人等であり、その受贈益の額に法人税が課税されない収益事業以外の事業に属するものとして区分経理されるような場合は、グループ法人税制の対象とはならない(法基通9-4-2の6)。 このように、グループ法人税制における寄附金の税務は、寄附金の損金不算入、受贈益の益金不算入の処理により、課税が生じない措置が講じられている。 2 寄附修正 上記のように、グループ法人税制においては、寄附金の支出法人も受領法人も課税されないが、経済的実態においては、支出法人は資産が減少し、受領法人は資産が増加している。 そのため、支出法人あるいは受領法人の親法人においては、その保有する株式の価値が変動することになる。 そこで、グループ法人税制においては、親法人における株式の簿価修正と利益積立金額の修正を行うこととされている。 この寄附修正は、連結納税制度における投資簿価修正と同じ役割を持ち、損益の二重計上を防止する観点から導入された。 ただし、連結納税制度における投資簿価修正は、子法人株式を他へ譲渡する時期又は評価替え等の時期等に行われるのに対し、グループ法人税制における寄附修正は、受贈益の益金不算入の規定により益金不算入の処理がされる時、すなわち、税務申告の時に寄附修正が行われることになる(法令9①七)。 3 具体例 では、具体的に事例を検討してみたい。 このように、A社においては、現金800の寄附金が損金にならない一方、B社においては、受領した現金800は、益金にならない。 親法人であるH社においては、A社株式の簿価を800減少させ、同時にB社株式の簿価を800増加させることになる。 A社は、本来受け取るべき出向者負担金を収益認識すると同時に、それを寄附金として認容することになる。しかし、グループ法人税制における寄附金に該当するので、その全額が損金不算入となり、A社は800の所得の増額修正が必要となる。 一方、B社は、本来負担すべき負担金の認容が認められることになるが、支払わなかったことによる経済的利益が受贈益として計上されることになる。しかし、この場合も、グループ法人税制における受贈益に該当するので、その全額が益金不算入となり、B社においては、結果的に800の所得の減額更正が必要となる。 親法人であるH社においては、グループ法人税制の寄附金・受贈益の処理に合わせて、A社株式の簿価を800減少させ、同時にB社株式の簿価を800増加させることになる。 親法人H社から子法人A社へ無償で土地を譲渡した場合は、その土地の時価が寄附金として損金不算入の処理を行うことになる。なお、簿価と時価との差額6億は、親法人H社においては譲渡益になるが、グループ法人税制により譲渡益が繰り延べられることになり、譲渡損益調整勘定として子法人A社がその土地を譲渡等する時まで課税が留保されることになる。 また親法人H社においては、寄附修正により、子法人A社株式の税務上の簿価を10億加算することになる。 一方、子法人A社においては、無償で取得した土地の時価10億が受贈益として計上されるが、グループ法人税制により益金不算入となる。 4 実務上の論点 上記「2 寄附修正」及び「3 具体例」のとおり、100%グループ内で寄附を行うと、寄附の支出法人又は受領法人の法人株主は、その保有株式の税務上の簿価を修正することになる。 それにより、以下のような問題も考えられる。 例えば、上記「3 具体例 【ケース3】」のような場合において、寄附の直後に、親法人H社が子法人A社を合併するとした場合、親法人H社は、合併前に、子法人A社株式を寄附修正により10億増額させるが、その後の合併により子法人A社株式は抱合株式となるため、合併時に、親法人H社の資本等金等の額について、子法人A社株式の合併直前の帳簿価額相当額分を減額することになる(法令8⑤)。 上記仕訳の※の流れからわかるように、寄附時にA社株式の簿価を利益積立金額をもって10億加算するが、その後、合併時にはA社株式は抱合株式となるため、その消滅仕訳の相手勘定は資本金等の額をもって減少させることになる。 これにより、合併前に上記寄附をする場合としない場合とでは、資本金等の額に10億の差額が生じることになる。 資本金等の額の変動は、合併法人における地方税の均等割の金額にも大きく影響する。 上記【ケース3】は、所有権移転に伴う登録免許税などの他の税金や手数料などが大きく関係してしまうが、現金や有価証券など移動しやすい資産を利用して、均等割の節減を目的に合併直前にグループ法人間で寄附を行った場合などは、はたして税務上問題になるであろうか。 地方税法には、包括的否認規定として、同族会社の行為又は計算の否認等に関する条項はあるものの、これは事業税に対するものでる(地法72の43)。 今後、注視したい論点である。 (了)
平成25年3月期 決算・申告にあたっての留意点 【第5回】 「消費税95%ルールの改正」 アクタス税理士法人 税理士 藤田 益浩 〈消費税95%ルール改正の概要〉 消費税の改正項目のうち、平成25年3月期決算において大きな影響があるのは、平成23年6月の税制改正で定められた「95%ルールの改正」である。 95%ルールとは、課税売上割合が95%以上となる課税事業者については、課税仕入れ等に係る消費税額の全額を課税標準額に対する消費税額から控除できる制度のことをいう。 改正により、平成24年4月1日以後に開始する課税期間から、課税売上高が5億円を超える課税事業者は、95%ルールの適用対象外とされた。 課税売上高が5億円を超える課税事業者は、課税仕入れ等に係る消費税額の全額の控除は認められず、個別対応方式又は一括比例配分方式のいずれかの方法によって仕入税額控除の計算を行うことになる。 なお、課税売上高が5億円以下の課税事業者は、従来通り、全額の税額控除が認められる。 本連載の最終となる今回は、95%ルールの適用対象外とされる課税売上高が5億円を超える課税事業者の注意すべき点を解説する。 《95%ルールの改正の内容》 〈課税仕入れ等の用途区分の見直し〉 仕入税額控除の計算において個別対応方式を採用する場合には、その課税期間における個々の課税仕入れ等について課税売上対応分、非課税売上対応分及び共通対応分に用途区分が必要になる。 この用途区分は、個々の課税仕入れ等ごと(取引ごと)に行う必要がある。 そして課税仕入れ等の3つの用途区分についての判定時期は、原則、課税仕入れ等を行った日の現況とされている。 具体的な経理処理においては、取引の仕訳の都度、用途区分が必要といえる。 しかしながら、課税期間の末日までに用途区分が明らかにされた場合には、その用途区分されたところによって個別対応方式による計算を行って差し支えないとされている。 そこで、決算作業にあたっての消費税申告のポイントをまとめると、次のようになる。 〈95%ルール改正による法人税申告への影響〉 95%ルールの改正により、仕入税額控除できない金額が増える。 これにより法人税の申告において影響する項目もあり、注意すべき点を簡単にまとめると、次のようになる。 1 控除対象外消費税の損金算入 税抜経理方式を採用している場合の控除対象外消費税の処理に注意しなければならない。 繰延消費税として資産計上し損金算入していくのか、個々の資産の取得価額に算入していくのか、あるいは一時の損金にできるのかなどの検討を忘れてはならない。 2 交際費等に係る控除対象外消費税 交際費等に係る控除対象外消費税に相当する金額は、交際費等の額として、別表十五において交際費等の損金不算入額の計算をすることを忘れてはならない。 (連載了)
〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第13回】 税率変更の問題点(12) 「経過措置に関する注意点(その3)」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 4 資産の貸付けに関する経過措置について (1) 経過措置の対象となる資産の貸付けの意義 資産の貸付けを行った場合の賃貸借契約において、その契約の締結日が施行日前であっても、施行日後の資産の貸付けに係る部分については、原則として新税率が適用されることとなるが、以下の経過措置の規定に該当する契約で指定日の前日までに契約した場合には、施行日以後の貸付けの対価の額についても旧税率が適用されることとなる。 なお、事業者が、本経過措置の適用を受ける資産の貸付けを行った場合には、その相手方に対し、当該規定の適用を受けたものであることにつき書面により通知しなければならないこととしている(同附則5条8項)。 また、上記経過措置における1号及び2号の要件に該当する資産の貸付けとは、建物等の貸付けのことを前提としており、1号及び3号の要件に該当する資産の貸付けとは、資産等のリース契約のことを前提としている。 上記経過措置の適用要件の1号にある「対価の額が定められている」とは、契約期間の対価の総額が具体的な金額で定められている、又は具体的な金額を計算できる方法により定めている場合のことをいい、次のようなものが該当する。 したがって、以下のようなケースは、上記内容に該当しないことから経過措置の対象外となる。 上記経過措置の適用要件の2号にある「対価の額の変更を求めることができる旨の定めがないこと」とは、契約において定めた資産の貸付けの対価の額である、いわゆる本体価額の変更ができないことをいい、資産を借り受けた者が負担する消費税につき「消費税率の改正があったときは改正後の税率による」という旨の条項があっても経過措置の対象となる。 建物等の貸付けについては、借地借家法32条(借賃増減請求権)において租税負担の増減等の事情の変更があったときに賃料の増減の請求ができることとなっているが、賃貸借契約書に賃料の変更ができる旨の定めがない場合には経過措置の対象となる。同様に、その賃貸人が修繕義務を履行しないことにより対価の額の変更を行った場合など正当な理由に基づいて変更された場合には、経過措置の対象となる。 また、上記経過措置における指定日以後に対価の額を変更した場合には、変更後から新税率を適用することとなるが、前回取り上げた請負契約に係る経過措置と違い、増加部分を新税率で行うのではなく、その全額が新税率となるので注意しなければならない。 上記経過措置の適用要件の3号にある「政令で定める要件」とは、平成9年の税率改正時においては、『当該貸付けに係る資産の取得に要した費用の額及び付随費用の額(利子又は保険料の額を含む。)の合計額のうちに当該契約期間中に支払われる当該資産の貸付けの対価の額の合計額の占める割合が100分の90以上であるように当該契約において定められていること。』としていた。 この政令はリース取引を前提として定められたものであるが、平成19年のリース会計基準の改正により、平成20年4月以降のファイナンス・リース取引については賃貸借処理ではなく売買処理により会計処理を行うこととなったため、その当時の運用がそのまま今回の改正に流用されるわけではないことに注意が必要である(下記(2)参照)。 上記経過措置については、指定日の前日までに賃貸借契約書を締結し、施行日前に資産の貸付けを行い、施行日後も継続して貸し付けている場合に適用されることから、施行日後に資産の貸付けを行った場合には経過措置の対象とはならない。 また、指定日の前日までに締結した自動継続条項のある賃貸借契約の場合には、その契約書に明示された契約期間のみが経過措置の対象となることから、例えば、契約書の契約期間が施行日を含む2年間の場合には、その2年間のみが経過措置の対象となる。 なお、自動継続条項のある賃貸借契約おいて、「解約するときはその契約期間満了日の○○月前までに申し出る」こととしている場合で、指定日の前日までに解約申出期限が経過して自動継続となり、その自動継続された契約期間が施行日前に開始するときのその期間は、経過措置の対象となる。 上記以外にも、4年間の契約期間で「当初2年間は賃貸料の変更をできない」旨の条項がある場合の当初2年間、契約期間を10年とし「当初2年間は○○円、次の2年間は○○円」というように、あらかじめ10年間の賃貸料を定めた場合の10年間(賃料の変更を求める定めがないものに限る)は、経過措置の対象となる。 資産の貸付けの経過措置については、貸付けの対価の額を変更する旨の条項を定められないなどの適用要件があることから、あえて経過措置の適用をしないケースも考えられる。したがって、この経過措置の適用を行うか否かにつき、賃貸人と賃借人の間で十分に検討した上で契約を締結する必要がある。 いずれの場合においても、賃貸借契約書の記載方法については、相互間の意向が反映されるように細心の注意を払わなければならない。なお、契約書の記載における注意点については、第9回を参照されたい。 (2) ファイナンス・リース取引の取扱い ファイナンス・リース取引とは、企業会計において、そのリース契約に基づくリース期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引又はこれに準ずるリース取引で、借手側が当該契約に基づき使用するリース物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引のこという。 また、このリース取引のうちリース期間終了後又はリース期間の中途でリース物件の所有権が借手側に移転することとされているものを所有権移転ファイナンス・リース取引といい、それ以外のリース取引を所有権移転外ファイナンス・リース取引という。 平成20年3月31日までに締結したファイナンス・リース取引については、所有権移転ファイナンス・リース取引に該当する場合には資産の売買取引として取り扱い、所有権移転外ファイナンス・リース取引に該当する場合には賃貸借取引として取り扱っていたが、平成19年3月のリース会計基準の改定により、平成20年4月1日以後に締結した所有権移転外ファイナンス・リース取引についても売買取引として取り扱うこととなった。 上記の企業会計基準に対し、法人税法や消費税法におけるリース取引の取扱い(法人税法施行令48条の2第5項5号)については、以下に掲げる要件に該当する資産の賃貸借取引(所有権が移転しない土地の賃貸借契約を除く)の場合、賃貸人から賃借人への引渡しの時に、当該資産の売買があったものとして取り扱うこととしている。 したがって、所有権移転外ファイナンス・リース取引は、上記規定における「リース取引」に該当することから、リース資産の引渡し時に、当該リース資産の売買があったものとして取り扱うこととなる。 この取扱いにより、所有権移転外ファイナンス・リース取引については、平成9年の税率改正の当時において、賃貸借処理ということで上記(1)の要件を満たせば経過措置の対象となっていたが、今回の改正については、売買処理となったことで経過措置の対象から除外されることとなるので注意しなければならない。なお、オペレーティング・リース取引については賃貸借取引として会計処理を行うことから、上記(1)の要件を満たせば経過措置の対象となる。 また、所有権移転外ファイナンス・リース取引を行った場合における賃借人の仕入税額控除については、上記規定より、リース資産の引渡しを受けた日に資産の譲受けがあったものとして、当該引渡しを受けた日の属する課税期間において消費税を一括して仕入控除税額(一括控除)の計算を行うこととなる(消費税法基本通達11-3-2)。 しかしながら、所有権移転外ファイナンス・リース取引につき、賃借人が賃貸借処理をしている場合で、そのリース料について支払うべき日の属する課税期間における課税仕入れ等として処理をしているとき(分割控除)は、これを認めることとしている。 今回の税率改正において、施行日前に契約した取引で分割控除を行っている場合の税率については、施行日後に支払うべきリース料であっても旧税率を適用することとなるので注意しなければならない。 所有権移転外ファイナンス・リース取引については、あくまで売買処理が前提であり、仕入税額控除につき、例外的に分割控除を認めていることから、リース期間の途中で税率の変更があったとしても、そのリース契約を行った時点で売買を行ったものとして、その時点の税率を適用することとなる。 なお、所有権移転外ファイナンス・リース取引における賃貸人側の売上計上については、次回確認する。 (3) 経過措置の具体例 上記経過措置の規定に基づき賃貸借契約を締結し資産の貸付けを行った場合において、次のそれぞれのケースにおける適用税率については、以下のようになる。 〈経過措置の適用例〉 資産の貸付けについては、その事業者間において、取引毎に経過措置を適用する場合と適用しない場合の両方の取扱いが想定され、各取引の会計処理につき旧税率と新税率が混在する時期が長期間に及ぶ可能性もあることから、誤った処理とならないよう注意しなければならない。 また、各取引において、貸手側と借手側では同一の税率で処理することとなるため、契約書や請求書等に必ず適用税率を明記しておく必要がある。 【参考】 国税庁ホームページ(質疑応答事例) ・賃借人における所有権移転外ファイナンス・リース取引の消費税法上の取扱い ・所有権移転外ファイナンス・リース取引について賃借人が賃貸借処理した場合の取扱い (了)
平成26年1月から施行される 「国外財産調書制度」の実務と留意点 【第5回】 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 第2章 制度の詳細な内容 今回より、本制度の詳細及び実務上の留意点について解説する。 2-1 国外財産調書の提出の範囲 (1) 提出義務者 国外財産調書の提出義務者は、所得税法にいう居住者のうち非永住者を除く者で、毎年12月31日において保有する国外財産が、合計で5,000万円を超える者である。 〈居住者、非居住者、非永住者の定義〉 非居住者には、提出義務がない。居住者が年の途中で、1年以上海外で勤務する予定で出国した場合には、12月31日においては非居住者であるため、提出義務はない。 また、12月31日には居住者であったが、1月1日から3月15日までの間に死亡又は出国した場合も提出義務がない。 ただし、この場合の「出国」は、「納税管理人の届出をしないで国内に住所及び居所を有しないこととなること」と定義されているため、納税管理人の届出を提出して出国する場合は、納税管理人が提出する必要があるものと考えられる。 (2) 報告内容・方法 財務省令で定めるところにより、氏名及び住所又は居所並びに当該国外財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を国外財産調書に記載・提出することにより報告する(送金等法5①)。 (3) 提出期限 提出期限は翌年3月15日まで(送金等法5①)。 ただし、期限後に提出された場合であっても、これが修正申告等と共になされ、かつ、その調書の提出が、国外財産に係る所得税又は相続税についての更正・決定等を予知してなされたものではないときは、期限内に提出されたものとみなされる(送金等法6④)。 (4) 提出先 所得税の納税義務がある者は、所得税の納税地の所轄税務署が提出先となる。それ以外の者は、住所地又は住所地がない場合は居所地の所轄税務署となる。 (5) 年の中途で死亡又は出国した場合 年の途中で死亡した場合は提出義務はなく、所得税法2条42号の出国の定義に該当する出国(納税管理人の届出を出さずに住所、居所がなくなる形での出国)の場合にも提出義務はない(送金等法5①ただし書)。 2-2 財産の所在地の判定 国外財産の所在については、相続税法10条1項・2項の規定の定めるところによる(送金等令10①)。 また、所在の判定は、その年の12月31日の現況によるとされている(同令10②)。 相続税法10条の財産の所在に関する規定は、下表のとおりである。 (注) 国内の金融機関の口座で管理されている外国有価証券及び、国外の金融機関の口座で管理されている国内有価証券の取扱いについて 平成24年度の改正法では、発行法人の主たる事務所の所在によるので、前者については国内の金融機関等で管理されており、収益の支払い等が国内で行われていても国外財産と判定することとしていた。 しかし、この点について、金融庁が、制度の趣旨にそぐわない報告義務が課されることにより、投資家に過大な負担が生ずる懸念があるとの理由で、平成25年改正要望の中で、国外財産の対象から外すよう求めていた。また、反対に、外国における金融機関の支店にある口座で管理されている国内法人の発行する社債や株式等有価証券については、国内財産とされ、報告対象となっていなかった。 以上の点について、平成25年度税制改正大綱の中で、以下のとおり改正されることとなった。 「平成25年度税制改正大綱」87頁」) 2-3 財産の価額 国外財産の価額は、12月31日における時価又は時価に準ずるものとして、財務省令で定める価額によるとされている(送金等令10③)。 本稿執筆現在(2013年2月25日)、個別の財産に係る具体的な評価方法等は明らかにされていないため、今後発遣される通達を待つ必要がある。 個人の納税者にとって毎期時価評価を行うことは、特に土地や未上場株式については負担が大きいため、事務負担が過大にならない範囲で合理的な見積価額による方法が認められることが望まれる。 なお、財産評価基本通達は、国外財産の評価について以下のように規定している。 (1) 外貨建価額の円換算方法 国外財産の価額が外国通貨で表示される場合における当該国外財産の価額の本邦通貨への換算は、その年の12月31日における外国為替の売買相場により行うものとするとされている(送金等令10④)。 (2) 未分割相続財産の価額 相続又は包括遺贈による所得した国外財産について国外財産調書を提出する場合において、相続財産がまだ分割されていないときは、民法の相続割合によって所得したものとしてその価額を計算することとなる(送金等令10⑤)。 (了)
中国における営業税改革の概要、 改革効果の検証及び展望 【第3回】 有限責任監査法人トーマツ 鄭 林根 5 改革における問題と関連企業の対応 上海において改革により効果が現れ始めている一方、試験地域における税務当局と対象企業の双方が様々な問題に直面している。 税務当局にとっては中央と地方財源の再配分、徴税機関の一本化、徴税業務の効率化、徴税コストの削減などの問題が残る。 例えば、地方税収である営業税を中央税収である増値税に切り替えることの是非(1)、またサービス業の特性を考慮し新たな税率に11%と6%が追加されたが、これらの適用税率の妥当性についても指摘されている(2)。 (1) このため上海では、営業税から変更された増値税額を引き続き地方税収としている。 (2) 例えば、コンサルティング業などほとんど仕入が発生しない業種では営業税の現行税率5%よりも、税負担増の可能性もあり得る。 試験対象企業にとっては、一部の企業が増値税の適用により税負担の軽減メリットを享受できる一方、負担増になる企業も少なくない。 また、増値税の仕組み、適用税率などに対する理解が充分でないため、本来享受できるメリットを享受できていない。 試験対象企業としては下記の点に留意し、直面する諸問題に取り込む必要がある。 (1) 適用対象取引の判断と納税資格者の選択 上記の通り、改革措置の適用対象はサービス業の一部に限られ、課税対象取引の詳細は「課税サービス範囲注釈」で規定されているが、一部の分類は曖昧な記載に止まっており、実務的には簡単に判断できない場合がある。 例えば、コンサルティング業務について、会計事務所や法律事務所については当該対象取引であることが明確であるが、「内部管理、業務運営」などのサービス業務については、それ以上の具体的な定義がない。 実務的には独自で判断できない場合又は適用対象とならない場合も、ビジネスモデルの見直し、スキームの再検討を含み、専門家に依頼し、検証の上、税務当局と相談することをお勧めする。 増値税の規定では、対象企業が一旦、一般納税者の資格認定を受けた後、原則小規模納税者への変更は認めない。また、小規模納税者を選択した場合においても、36ヶ月間は一般納税者への変更を認めないとされているため、仕入税額が多くない企業はいずれを選択すべきか、慎重に判断すべきである。 (2) 中国国外への役務提供における免税措置 中国国外への役務提供の国際競争力を高めるため、上海市試験地域に対して、財政部・国家税務総局が財税「2011」131号を公表し、中国国外への役務提供(例えば、国外企業へ提供する研究開発・技術譲渡・技術コンサルティングサービスなど)に対してはゼロ税率又は免税措置を適用すると決めた。 その後、国家税務総局の13号公告(3)で、対象役務範囲及び適用条件、手続の大枠を明示したが、実務上、関連免税又はゼロ税率措置を享受している納税者が未だ少ない(4)。 (3) 2012年年4月5日国家税務総局「《営業税改革試験地域におけるゼロ税率を適用する課税サービスの免税、控除、還付の管理弁法(暫定)》の公布に関する公告」(国家税務総局公告2012年第13号)。 (4) ある大手会計事務所の調査では、2012年7月末現在、上海試験地域において、50%以上の調査対象企業は、免税条件に合致しても、関連優遇措置を享受しておらず、6%の増値税を納付しているので、海外のサービス受入者が負担増になっている。 国外企業への役務提供に関わる企業、現地法人としては、具体的な条件設定及び手続の詳細などを把握し、税務当局に積極的に協議し、ゼロ税率の適用又は免税手続を取るようにすべきである。 (3) 国外から中国への役務提供における価格決定 中国国外から中国に技術指導などの役務を提供する場合、増値税の税負担は日本の消費税に類似するもので、最終消費者(中国にある役務受益者)が負担することが考えられる。 しかし、関連通達では役務受益者が国外の役務提供者から税額を徴収し(つまり源泉徴収し役務提供者の負担になる)(5)、かつ、仕入控除を取れる(6)ことになっている。また、実務上も増値税負担は営業税と同じ、取引当事者間の交渉により負担を決めることになると考えられる。増値税に移行した後、納付した税額の仕入控除が取れることを考え、取引当事者の間において税負担をシェアするように交渉することも検討するべきである。 (5) 財税[2011]111号17条:国外企業あるいは個人が、中国国内で課税役務を提供し、国内で経営機構を有していない場合には、源泉徴収義務者が下記計算式に基づき、納税額を源泉納税する。 (6) 同上22条:国外企業あるいは個人の提供する課税サービスの受入れは、税務機関あるいは中国国内代理人から取得した代理納税の中華人民共和国税収通用納付書(発票)に明記された増値税額とする。 (4) コンプライアンス強化への取組み 最後、増値税への徴収になると、よりコンプライアンス強化が要求される。 営業税と異なり、領収書管理、出荷管理、仕入控除、返品・返金などのすべてにおいて、厳しく要求されることになる。これまで営業税対象となっていた納税者が、増値税コンプライアンスの要求を把握していないケースもある。 したがって、試験対象となることに対し、税務コンプライアンスを強化し、関連内部統制の整備及び情報収集する必要がある。 6 まとめ 中国政府は、2015 年まで(12ヶ計画期間中)にこの営業税改革を全国に拡大することを目標している。 現時点では、上海、北京を含む9省(市)に留まっており、試験業種も限定されている。但し、当局は最初に「条件が熟した後に、一部業種を選択し中国全土に拡大」としたが、その後、「全サービス業種に対し中国全土に拡大」する方針を明確に打ち出している。 なお、税務当局では一部業種の適用税率の引下げも検討しており、実現すれば、営業税改革で実質増税になる企業にとって、税負担の軽減につながる。 したがって、該当企業はもちろんのこと、それ以外の企業にとっても本改革の動向を留意する必要がある。 (連載了)
組織再編税制における不確定概念 【第3回】 「従業者引継要件等における 『おおむね』とは」 公認会計士 佐藤 信祐 組織再編税制においては、税制適格要件における従業者引継要件、規模要件、みなし共同事業要件における規模要件、規模継続要件において、「おおむね」という文言がそれぞれ規定されており、税制適格要件における株式継続保有要件において、「おおむね」という文言を使用していないのと対照的である。 本稿においては、従業者引継要件を例に挙げて、その具体的な内容についての解説を行う。 1 従業者引継要件の内容 50%超100%未満グループ内の適格組織再編成、共同事業を営むための適格組織再編成に該当するためには、従業者引継要件を満たす必要がある。 具体的な内容については、組織再編成の形態により若干の違いがあるが、例えば、合併における従業者引継要件は、法人税法2条12号の8ロ(1)、法人税法施行令4条の3第4項3号において、被合併法人の当該合併の直前の従業者のうち、その総数のおおむね100分の80以上に相当する数の者が当該合併後に当該合併に係る合併法人の業務に従事することが見込まれていることを要求しており、「おおむね」という不確定概念が存在している。 これに対し、株式継続保有要件については、法人税法施行令4条の3第4項5号において、合併の直前の当該合併に係る被合併法人の株主等で当該合併により交付を受ける合併法人株式又は合併親法人株式のいずれか一方の株式の全部を継続して保有することが見込まれる者を合計した数が当該被合併法人の発行済株式総数の100分の80以上であることを要求しており、「おおむね」という不確定概念を使用していない。 このような違いが生じる理由としては、「従業者」の定義の曖昧さ、「従業者の数」の変動性にあるものと考えられる。同じように、規模要件、規模継続要件においては、売上金額、従業者の数、資本金の額もしくはこれらに準ずるものの規模の割合で判定することになるが、資本金の額以外の数値は日々変動するものであり、例えば、合併を検討していた段階では4.9倍の規模の割合だったものが、合併の時点では5.1倍の規模の割合になることも容易に考えられ、「おおむね」という不確定概念を使用することにより、制度趣旨に則した課税関係を成立させるという立法担当者の動機が窺える。 この点につき、東京国税局調査第一部特官付主査であった五枚橋實氏は、「租税研究2004年8月号」(日本租税研究協会)64頁において、「あとおおむね80%以上の判断ですけれども、例えば100人いて80人だったらいいのですが、「79人だったらどうなるのですか」という話には、非常に答えづらいのです。ある程度幅を持たせたいという意味で、法律上「おおむね80%以上」と記載があると思うのですが、その辺りのところは、個別に照会に来ていただきたいと思います。」と解説されている。 2 従業者引継要件の制度趣旨 「おおむね」という不確定概念を分析する際には、従業者引継要件が設けられた趣旨を理解する必要がある。 具体的には、「企業組織再編成に係る税制についての講演録集」(日本租税研究協会)89頁において、「適格組織再編成として従前の課税関係を継続させるものは、基本的には、独立した事業単位が移転するものと考えられています。この独立した事業単位の移転には、当然のことながら、「物」の移転だけではなく、事業を遂行する「人」の引継ぎも含まれます。」と解説されており、また、前掲書39頁において、大蔵省主税局税制第一課(法人税制企画室)課長補佐であった朝長英樹氏が平成12年10月11日開催の講演において使用した資料である「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的な考え方」として、「さらに、組織再編成による資産の移転を個別の資産の売買取引と区別する観点から、資産の移転が独立した事業単位で行われること、組織再編成後も移転した事業が継続することを要件とすることが必要である。ただし、完全に一体と考えられる持分割合の極めて高い法人間で行う組織再編成については、これらの要件を緩和することも考えられる。」と記載されている。 すなわち、100%グループ内の適格組織再編成の要件については、「完全に一体と考えられる持分割合の極めて高い法人間で行う組織再編成」であることから事業単位の移転であることは求められなかったが、50%超100%未満グループ内の適格組織再編成、共同事業を営むための適格組織再編成については、事業単位の移転であることを求めていたことから、従業者引継要件が求められたという経緯がある。 このように、事業単位の移転であることの要件のひとつとして従業者引継要件が要求されたという経緯がある。 このような経緯を考えれば、75%の従業者の引継ぎであっても従業者引継要件を満たすと判断することもできようし、90%の従業者の引継ぎであっても従業者引継要件を満たさないと判断されてしまうことも考えられる。とりわけ租税回避行為が行われた場合には、「おおむね100分の80」という文言を縮小解釈することにより否認されてしまう可能性に留意する必要が出てくる。 3 実務上の留意点 それでは、納税者に有利なように「おおむね」という文言をどこまで拡大解釈することができるのかについては、有価証券評価損に対する法人税基本通達9-1-7を参考にすることができる。 同通達9-1-7においては、おおむね50%以上の時価の下落があり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれていないことが要件とされている。すなわち、ここにも「おおむね」という不確定概念が存在することになる。 この点につき、山本守之氏は、『検証 税法上の不確定概念』(日本税理士会連合会編、山本守之・守之会著、中央経済社)において、「これに対して国税不服審判所では次のように裁決した。①T社は期末(7月31日)で低下率が45.23%となるからおおむね50%の下落と認められるが、9月末では39.05%まで回復しているから、近い将来回復が見込まれてないとはいえない。②N株については、期末の下落率は40.21%にあるから、おおむね50%相当額を下まわっておらず、近い将来回復が見込まれてないか否かを判断するまでもなく、「著しい低下」とはいえない。」(前掲書16頁)とした上で、「裁決例を基準とすると、「40%程度の下落は著しい下落とはいえないが、45%程度の下落であれば著しい下落といえる」というアローアンスを示しているといえるだろう。」(前掲書17頁)と解説されている。 この考え方を採用すれば、従業者引継要件については、5%程度のアローアンスと考えれば75%まで認められる余地があると考えることができよう。さらに、50%について5%のアローアンスを認めたということで、80%については8%以上のアローアンスが認められるべきとするならば70%くらいまでは認められる余地があると考えることができよう。 さらに、留意すべきは「従業者」の定義の曖昧さである。 拙著『第3版 組織再編における税制適格要件の実務Q&A』(佐藤信祐著、中央経済社)88頁においては、「しかし、従業者引継要件における「おおむね」という概念は、単に何%なら認められるといった考え方ではなく、引き継がない従業者の勤務実態などからして、「従業者」に含めるべきか否かの判断が難しい場合のためのアローワンスであると考えられます。」と解説した。 すなわち、従業者の定義を法人税基本通達1-4-4において、被合併法人の合併前に営む事業に現に従事する者とした上で、日々雇い入れられる者で従事した日ごとに給与等の支払いを受ける者については、従業者の数に含めても含めなくても構わないこととしているため、とりわけ勤務実態がない者、勤務実態が曖昧な者については、これを従業者に含めるか否かにより、合併法人に引き継がれる従業者の割合が変わってくる。 すなわち、そもそも曖昧な従業者の定義に対応するためでもあり、さらには、制度趣旨に則って従業者引継要件を満たすか否かを判断するためでもあると考えるのであれば、上記の国税不服審判所の裁決例は、「さすがに60%の引継ぎでは認められないであろう」という判断には役に立つが、「75%の引継ぎなら認められるはず」と判断してしまうのは極めて危険である。 従業者引継要件において、「おおむね」という不確定概念をどのように判断するのかという点については、「事業単位の移転であることの要件のひとつとして従業者引継要件が要求された」という制度趣旨を理解した上で、個別の事案に対応する必要があるという点に留意が必要である。 (了)
法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第9回】 弁護士 木村 浩之 (6 退職給与) (3) 役員の退職給与の損金算入時期 役員の退職給与は、法人にとっては債務であり、その債務が確定したときに損金算入が認められる(法法22③二かっこ書)。 したがって、役員の退職給与については、原則として、株主総会等の決議によって具体的な支給額が決定された事業年度における損金算入(確定日基準)となる。 ただし、通達では、実際に支給された事業年度における損金算入(支給日基準)も認められている(法基通9-2-28)。 また、一般に、退職給与の支給額が決定していたとしても、資金繰り等の関係で未払い(分割払い)にならざるを得ない場合もあると考えられるので、役員の退職給与を未払計上した場合であっても、その支給額が決定された事業年度における損金算入が認められるものと解される。 なお、これとは区別されるものとして、いわゆる退職年金(企業年金)がある。 退職年金は、退職金に相当するものを退職役員の終身あるいは一定期間にわたって年金の形式で支払うものであるが、一時に支給するものではないことから、退職給与には該当しない(雑所得に該当する)と解されている。 したがって、このような退職年金については、仮に支払総額が確定した事業年度に未払計上したとしても、その事業年度における損金算入は認められず、各年金を支給すべき事業年度における損金算入となる(法基通9-2-29)。 (4) 過大退職給与 ア 過大退職給与該当性の判断基準 役員に対して支給される退職給与の額が不相当に高額な場合には、その適正額を超える部分につき、過大退職給与として損金算入が認められない。 ここでいう適正額については、法令上は、下記のような要素に照らして、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額をいうものとされている(法令70二)。 このように、役員退職給与が過大かどうかの判断基準については、過大給与における実質基準(5(2)(【第6回】)参照)と同様に、「相当であると認められる」かどうかという抽象的な基準となっており、実務上は、いわゆる平均功績倍率法によって役員退職給与の適正額が求められることが多いといえる(札幌地判平成11年12月10日・訟月47巻5号1226頁など)。 一般に、法人における役員退職給与の算出方法として、「最終報酬月額×勤続年数×功績倍率(退職役員の功績を割合によって評価した係数)」の算式が用いられることがある。 平均功績倍率法とは、同業種の法人であって売上、資産等の規模が類似する法人(比較法人)において採用される功績倍率の平均値に、対象となる退職役員の最終報酬月額及び勤続年数を乗じて、その役員に係る退職給与の適正額を算出する方法である。 イ 平均功績倍率法について 平均功績倍率法の算式のうち、最終報酬月額については、一般には、最終の報酬月額は退職までの役員の功績が反映されて決定されるに至ったものと考えられることから、実際の報酬額を用いることが原則である。 もっとも、退職直前に報酬額が大幅に引き下げられた場合や、もともと報酬額が他の役員と比べて著しく低廉に抑えられていた場合など、その役員の功績が適正に反映されていないと認められる場合には、本来の適正な報酬額を用いることも認められるものと解される(前記高松地判平成5年6月29日参照)。 勤続年数については、実際に法人において勤務していた年数を用いることになるので、特段問題は生じにくいといえる。 この点、長期休職や欠勤など、修正すべき要素がある場合に、その具体的な事情に応じて勤続年数を修正することも考えられるが、一般に、それらの要素は最終の報酬月額に反映されているとみられる場合が多いといえるほか、それらの要素を踏まえて功績倍率が求められるべきものと解される。 平均功績倍率については、比較法人における同等の地位にある役員に対するものであって、退職の事情等が類似する場合に用いられた功績倍率の平均値が基準とされる。 この数値は法人の業種や規模によっても異なり得るものであり、通常は、納税者において把握することが困難であるが、一般の企業平均でいうと、おおむね2倍から3倍程度の功績倍率が採用されていることが多いといえる。 8 おわりに 以上、合計9回にわたり、役員給与をめぐる主要な論点について整理をしてきた。 役員給与は、税務調査では必ずといってよいほど、調査対象とされる部分である。 本稿では、その際に実務上で問題となることが多い論点を整理した上で、可能な限り踏み込んだ解説を心掛けたつもりであるが、実際の事例に適用する場合には、個別具体的な事情に基づいて検討する必要があることは言うまでもない。 その検討を行う際に、本稿が一助となれば幸いである。 なお、本稿は、役員給与に係る論点を整理するものであるが、より広く給与一般については、隣接費用(福利厚生費、交際費、寄附金等)との区分の問題など、残された問題も多い。 これについては、また別の稿に委ねることとしたい。 (《役員給与》編 了)
税務判例を読むための税法の学び方【5】 〔第2章〕法令の解釈方法 (その4) 自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 (5 論理解釈の種類) ③ 反対解釈 ある法令が甲という事項について規定していながら、類似の乙や丙について規定していない場合に、規定されていない以上、乙や丙に適用がないと考える解釈である。 例えば、民法第737条1項には「未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない。」とあるが、このことから、成年の子ならば、婚姻をするについて父母の同意を得る必要がないと解釈するものである。 税法においては、多くの例がある。 ある法の適用を受けるものについて限定列挙している場合には、そこに挙がっていないものには適用がないことになる。 所得税法第9条には「次に掲げる所得については、所得税を課さない。」とあり、各号に一定の通勤手当やオリンピックの賞金等が挙げられている。 したがって、ここに挙げられていない所得には所得税が課されることになる。 例えばこの中の13号には次のようにある。 この中のホには「ノーベル基金からノーベル賞として交付」とあることから、ノーベル経済学賞の賞金は課税されることになる。 というのも、ノーベル経済学賞は他の分野のものと異なり、アルフレッド・ノーベル自身が設置したものではなく、賞金はスウェーデン国立銀行から拠出されており、ノーベル基金からの交付ではないからである。 ④ 類推解釈 前述の反対解釈と異なり、ある法令が甲という事項について規定していながら、類似の乙や丙について規定していない場合に、規定されていなくとも乙や丙にも適用があると考える解釈である。 甲に限っての適用とし乙や丙には適用しないとして反対解釈をするか、たまたま甲について規定したのは念のためであって特に乙丙について排除する趣旨ではないとして類推解釈をするかで、結論は全く逆の結果を生ずることになる。 甲の中に乙丙を含めるという点では、この類推解釈は、拡張解釈の一種ともいわれる。しかし刑法においては、前回述べたように、罪刑法定主義から類推解釈は禁止されているのに対し拡張解釈は認められており、拡張解釈と類推解釈は厳然と区別されている。 前回、罪刑法定主義を原則とする刑法においても、類推解釈が禁じられているのに対し、拡張解釈が許される理由として、法の予想しうる限度での当罰性に応じた実質的な解釈を禁じるものではない旨述べた。 この点をここでもう少し詳しく見てみよう。 まず、前回挙げた電気窃盗以外に罪刑法定主義に反しないとして認められた事例を見てみる。 刑法第129条に「過失により、汽車、電車若しくは艦船の往来の危険を生じさせ、又は汽車若しくは電車を転覆させ、若しくは破壊し、若しくは艦船を転覆させ、沈没させ、若しくは破壊した者は、30万円以下の罰金に処する。(当時の原文はカタカナ表記)」と規定されているが、中勢鉄道の列車であるガソリンカーを転覆させ乗客を死傷に至らしめた事案について、動力源が石炭であるかガソリンであるかはこの犯罪の本質的内容に影響しないものであり、大審院は、刑法129条の汽車なる用語にガソリンカーをも包含するものとする旨判示した(昭和15年8月22日大審院判決)。 次に、類推解釈に当たるとされた事例を見る。 人事院規則14-7(政治的行為)は、公務員の政治活動を規制しているが、その第5項第1号に「特定の候補者を支持し又はこれに反対すること。」と規定している。 この「特定の候補者」の中に、立候補しようとする特定人が含まれるか否かが問題となった事案で、最高裁は、「「特定の候補者」とは、「法令の規定に基づく立候補届出または推薦届出により、候補者としての地位を有するに至った特定人」を指す」(昭和30年3月1日最高裁判決)と判示し、これを含めることは類推解釈に当たるとして否定した。 法律の制定当時と比べ、科学技術の発展や社会の変化といった要因で、制定段階では予想できなかった事態が生じた場合に、新たな技術や文化をその都度法律によって規定し対応していくことは大変難しい。 そのため、文言上から読み取れる範囲の解釈でそういった事態に対処することが国民の処罰意思に沿ったものと考えられる場合には、罪刑法定主義に反することにはならないと考えられている。 しかしある事項が、このいずれになるかの判断は困難な場合が多く、結局は、両者の区別は、法益保護機能と自由保障機能のいずれを重視するかの価値判断によって決まるともいわれている。 しかし、電気窃盗もガソリンカーも、科学技術の発展や社会の変化といった要因で、法律の制定段階では予想できなかった事態が生じた場合であり、構成要件要素の本質には影響がないものであって、そしてそれが国民の処罰意思にも沿ったものと考えられる場合には拡張解釈に当たり、そうでない場合には、類推解釈に当たるとして禁じられるものと思われる。 類推解釈には、もう一つの態様がある。 甲法令には規定がないが、類似の他の法令乙に規定がある場合に、乙の規定を甲法令の適用対象に類推して適用することにより甲の規定を適用する場合であり、これを「類推適用」という。 税法においては、この類推適用の例が多い。 所得税法においては「国内にある資産」(所得税法第161条第1号と164条第1項第4号)に関する規定がありながら、この「国内にある資産」の定義等については法律上規定が設けられていない。 しかし、財産の所在の判定についての詳細な規定が消費税法第4条や相続税法第10条に設けられている。 法令は違っていても、同様の考え方によるべきものとして、消費税法や相続税法の規定を所得税についても類推適用するのが適当と認められる。 ⑤ 勿論(もちろん)解釈 条文の文言としては規定されていないが、文言に規定されているものに適用があるならば当然適用されるという解釈である。これも類推解釈の一種ともいわれる。 租税特別措置法の規定に「確定申告書に……旨の記載がない場合には、適用しない。」(同法第26条第3項、第30条第3項)といった規定があるが、確定申告書を提出しても記戦がない場合には適用されないのであるから、確定申告書の提出がない場合には当然適用がないと解釈することになるのである。 この例示は、条文が「・・・適用しない。」というものであるため、条文の適用があると措置法による特例が適用されないことになる。すなわち、措置法の特例が文言に規定されているものに適用がないならば当然適用がないことになるため、言葉の使い方としては反対の結果になるが、それは条文の規定を適用した結果である。 ⑥ 変更解釈 条文の規定の文字を変更して、本来それが意味するところよりも別の意味に解釈することである。 立法上の誤りがあることが明らかである場合など、そのよう解釈が認められる事情が非常にはっきりしている場合に限って許されるべきである。 例えば、ある法律が改正されて条文の番号が変わった場合、通常その条文を参照・引用する他の法律の方でも番号を変えるのであるが、その変更が漏れた場合等は改正後の条文番号に読み換えて解釈する場合などである。 (了)