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〔会計不正調査報告書を読む〕【第7回】株式会社マツヤ・不適切な会計処理に係る「第三者委員会調査報告書」

筆者:米澤 勝

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〔会計不正調査報告書を読む〕

【第7回】

株式会社マツヤ・

不適切な会計処理に係る

「第三者委員会調査報告書」

 

税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝

【概要】
不適切な会計処理に係る調査委員会設置に関するお知らせ, 福井進, 田辺克彦, 石渡信行, 佐藤順哉, 石渡信行, 後藤孝男, 当社元社員による不正行為に係わる調査結果に関するお知らせ, 過年度有価証券報告書等及び決算短信の訂正に関するお知らせ

 

【株式会社マツヤの概要】

株式会社マツヤ(以下「マツヤ」という)は昭和43年創業。長野市に本店を置いてスーパーマーケット事業を営んでおり、店舗数は30。連結売上高39,304百万円、連結経常利益214百万円。従業員441名(数字はいずれも2012年2月期)。JASDAQ上場。

 

【報告書のポイント】

 監査法人に対する告発文書

12月25日、マツヤの会計監査人に対し、告発文書が送付された。
その告発文書では、以下の不適切な会計処理が指摘されていた。

(1) 過大なリベートを計上した結果、未収入金が増大し、役員が穴埋めを行ったこと

(2) 仕入れた商品を隠し倉庫に放置していること

告発文書を受け取った監査法人は、28日にまでに告発の事実をマツヤに伝えた。これを受けて、マツヤは、12月28日、取締役会を開催して、調査委員会の設置を決めた。

告発者については、調査報告書は何のコメントもしていないが、外部に対する告発という手段が取られなければ、組織的な隠蔽があったことは明るみに出なかった。

 

2 調査委員会の構成の変更(第三者委員会ガイドラインに準拠)

当初の調査委員会のメンバーは、社外監査役、顧問弁護士が含まれていたが、これは、「年末年始という時期もあり、一刻も早く事実関係を確認するため」の措置であり、必要があれば、調査委員会の構成を変更することがあると明記されていた。

そして、1月4日に、日本弁護士連合会による「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」に沿う形で、利害関係のない委員に変更された。

 

3 調査結果により判明した事実

(1) 結論
告発された不適切な会計処理のうち、仕入割戻等の架空計上による利益過大計上額は180百万円であり、不正な商品在庫の操作事実はなかった。

ただし、会社損益に及ぼす影響については、架空の仕入割戻等の未収入金が入金されたように装うため、計上すべき仕入割戻等を計上しなかったことから、69百万円にとどまる。同時に、不正とはいえないが、棚卸資産の過大計上224百万円の存在が明らかになり、これを同時に修正することとした会社の方針を妥当であると結論付けた。

(2) 仕入割戻の不適切な計上
営業本部長兼商品部長であった取締役Dから、目標達成の指示を受けていた粗利率、粗利額を達成できない状況にあった商品副部長らは、各部門にバイヤーに命じて、仕入先の合意を得ていない仕入割戻等の金額を記載したリベート明細書を作成し、事務管理グループに提出した。

事務管理グループの担当者は、明細書に証憑が添付されていない場合でもこれを仕入割戻等として計上していた。また、仕入割戻等の入金確認は、仕入先に対して行わずに、各部門にバイヤーに確認の上、照合を行っていたため、発覚しなかった。

(3) 取締役による隠蔽工作
事務管理グループの担当者は、平成24年8月上旬、上司である取締役財務部長Eに、仕入割戻等の未収入金残高が例年より多いことを報告、Eはこれを副社長Bに報告したため、副社長Bは、仕入割戻等の担当者である商品部リーダーらに問いただした。

8月下旬、商品部リーダーは、副社長Bに対し、架空で仕入割戻等を計上したこと、現時点で回収見込みがない金額が60百万円に上がることを報告した。

Bは、Eから「四半期レビューで監査法人の指摘を受け、過去について訂正報告書を出す可能性が高い」と説明を受け、社長A、常務Cに状況を報告、A、B、CにEを加えた4名の間で、A、B、Cが私財を入金して、帳簿上の未収仕入割戻等の金額を例年どおりとする外形を作出することを決め、8月30、31日にこれを実行した。

 

4 原因分析と責任の所在

(1) 取締役
報告書が指摘した取締役個々人の責任は以下のとおり。

「代表取締役社長A」

・特定の取締役への過度の権限集中を避け、相互監視が機能させる配慮が不足、商品部の管理・運営を取締役Dに任せきりにした

・私財10百万円を投じて、未収入金に充当する隠蔽工作を行う

【処分】 代表取締役社長を辞任、月額報酬30%減額を3ヶ月

⇒ 5月下旬の株主総会の終結をもって退任予定

「代表取締役副社長B」

・副社長として取締役Dに対する監督が不十分で、問題が拡大

・私財30百万円を投じて、未収入金に充当する隠蔽工作を行う

【処分】 代表取締役副社長及び取締役を辞任

「常務取締役C(管理部長)」

・商品部の問題を経営者レベルで議論し、解決できる立場にあったが、実際には対応が弱かった

・私財20百万円を投じて、未収入金に充当する隠蔽工作を行う

【処分】 月額報酬20%減額を3ヶ月

⇒ 5月下旬の株主総会の終結をもって退任予定

「取締役D(商品部長)」

・粗利追求を厳命し、部下が架空仕入割戻等を計上

・部下に対する指導監督義務違反が認められ、責任は重大

⇒ 平成25年1月31日、取締役を辞任

「取締役E(財務部長)」

・平成24年8月上旬、未回収となっている仕入割戻等が多額であるとの報告を受けたが、監査法人による指摘・決算訂正を避けることを優先

・A、B及びCが提供した私財を未収入金の回収として隠蔽

【処分】 月額報酬20%減額を3ヶ月

⇒5月下旬の株主総会の終結をもって退任予定

「取締役F(店舗運営部長)」

・不正発生時期の内部監査部の責任者であったが、職責を果たせず

【処分】 月額報酬10%減額を3ヶ月

⇒ 代表取締役社長の辞任により、後任の代表取締役社長となる

(2) 機能しなかった内部通報制度
マツヤには、コンプライアンス担当部署を社内ホットライン窓口とする内部通報制度があったが、会社には現場の意見を採り入れない上意下達の風潮があり、役員自身が60百万円を補填したように、コンプライアンス意識も低かったため、従業員の側に、内部通報をすれば会社が真摯に取り上げてくれるという信頼がなかった。

このことが、自浄作用が働かず、監査法人に告発文書が送付される事態につながった。

 

5 調査報告書の特徴

架空の仕入割戻等の存在を知った社長、副社長、常務の3人が私財60百万円を投じて穴埋めすることを決め、取締役財務部長は未回収の仕入割戻等が回収されたかのように仮装して、不正を隠蔽した。

「不適切な会計処理を認識した場合には、会計監査人と協議して、決算訂正や適時開示を検討すべき義務がある」とした大阪証券取引所の規則に違反する行為の背景には、長引く不況と大手スーパーマーケットとの競合により、利益が上がらない中、不祥事の発覚を食い止めたいという意向で、経営陣が一致したものであろう。

しかし、監査法人への告発で、すべては明らかにされる。

架空の仕入割戻等を計上する原因を作出した取締役は、調査報告書を待たずに1月31日付で辞任、残る4名の取締役のうち、副社長は2月8日付で辞任、他の3名は次回の株主総会をもって任期満了による退任と決まった(4月10日付リリース)。

マツヤが架空の仕入割戻等計上により修正すべき金額は69百万円であったため、私財投入を収入として計算すれば、会社の実損はほとんどなかったにもかかわらず、取締役5名のうち1名を残して全員が退任又は辞任となったことは、不正により発生した損失の大小よりも、それを隠蔽しようとした行為に対する責任が追及された結果であったのではないかと思料する。

(了)

「会計不正調査報告書を読む」は、不定期の掲載となります。

連載目次

会計不正調査報告書を読む

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筆者紹介

  • 米澤 勝

    (よねざわ・まさる)

    税理士・公認不正検査士(CFE)

    1997年12月 税理士試験合格
    1998年2月 富士通サポートアンドサービス株式会社(現社名:株式会社富士通エフサス)入社。経理部配属(税務、債権管理担当)
    1998年6月 税理士登録(東京税理士会)
    2007年4月 経理部からビジネスマネジメント本部へ異動。内部統制担当
    2010年1月 株式会社富士通エフサス退職。税理士として開業(現在に至る)

    【著書】

    ・『企業はなぜ、会計不正に手を染めたのか-「会計不正調査報告書」を読む-』(清文社・2014)

    ・『架空循環取引─法務・会計・税務の実務対応』共著(清文社・2011)

    ・「企業内不正発覚後の税務」『税務弘報』(中央経済社)2011年9月号から2012年4月号まで連載(全6回)

    【寄稿】

    ・(インタビュー)「会計監査クライシスfile.4 不正は指摘できない」『企業会計』(2016年4月号、中央経済社)

    ・「不正をめぐる会計処理の考え方と実務ポイント」『旬刊経理情報』(2015年4月10日号、中央経済社)

    【セミナー・講演等】

    一般社団法人日本公認不正検査士協会主催
    「会計不正の早期発見
    ――不正事例における発覚の経緯から考察する効果的な対策」2016年10月

    公益財団法人日本監査役協会主催
    情報連絡会「不正会計の早期発見手法――監査役の視点から」2016年6月

    株式会社プロフェッションネットワーク主催
    「企業の会計不正を斬る!――最新事例から学ぶ,その手口と防止策」2015年11月

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