〈判例評釈〉 ムゲン・ADW事件が残したもの ~最高裁の判示は、納税者の納得が得られるものか~ 【第1回】 公認会計士・税理士 霞 晴久 Ⅰ はじめに 去る3月6日、2つの居住用賃貸建物仕入税額控除事件について、最高裁が、いずれも納税者全面敗訴の判断を示したことで、新聞報道でも大きく取り上げられ、専門家の間でも判断が分かれていた問題に終止符が打たれた。 ここでいう2つの事件とはマンション販売業者である(株)ムゲンエステート(以下「ムゲン」という)及び(株)エー・ディー・ワークス(以下「ADW」という)の消費税の仕入税額控除における個別対応方式を巡る訴訟(※1)をいい、両社は、中古の賃貸用マンション等の収益不動産を購入し、適正な賃料で貸し付けて空室を可能な限り減らした上で転売するというビジネスモデルを展開していた(※2)。 (※1) ムゲンは最高裁一小判決令和5年3月6日(令和3年(行ヒ)第260号)、ADWは最高裁一小判決令和5年3月6日(令和4年(行ヒ)第10号)で、両判決の裁判官は同一である。 (※2) ADW事件第一審判決で東京地裁は、「本件ビジネスモデル下における課税仕入れ(収益不動産〔建物〕の購入)が、将来における当該収益不動産(建物)の売却(課税資産の譲渡等)のために行われるものであることは、明らかである。」としている。 当該マンション購入時の建物価額相当額の課税仕入れ(以下「本件課税仕入れ」という)に係る消費税について、両社は、同マンションを転売目的で購入していたことから、個別対応方式における「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」(消法30②一イ。以下「課税対応課税仕入れ」という)に区分されるとして確定申告していた。これに対し所轄税務署長は、同マンションの購入から転売までの期間に、非課税の賃貸収入が発生していたことから、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(同上②一ロ。以下「共通対応課税仕入れ」という)に区分されるとして更正処分等をしたことから、両社はこれを不服として訴訟を提起した。 問題の所在は、両社が採用するビジネスモデルの下では、収益不動産を転売する際に、建物だけでなく、その敷地の譲渡(土地の譲渡は非課税である)も併せて行われることにある。すなわち、転売による売上げ全体に占める建物の売上げの割合は相対的に低いものとなり、事業者が当該課税期間中に行う資産の譲渡等の対価のうちに課税資産の譲渡等が占める割合(課税売上割合)も、これに応じた低いものとなることを免れない。収益不動産の譲渡の場合、建物部分の取得に係る課税仕入れが共通対応課税仕入れに区分されると、同収益不動産の保有期間に係る賃貸収入(非課税)が非常に少ないにもかかわらず、その相当部分の仕入税額控除が認められないという事態が生じてしまう。ADWの事例では、更正処分を受けた課税期間(以下「本件課税期間」という。以下では、ムゲン事件においても同じ用語を用いる)の収益不動産の販売収入と賃料収入の総和に対する賃料収入の割合は、平均で3.71%であり、販売収入のうち建物部分を仮に3割とすると、建物の販売収入と賃料収入の総和に対する賃料収入の割合は、平均で11.38%となっていた。所轄税務署長が行った更正処分に従えば、本件課税期間の課税売上割合(会社全体)は、約34~36%となり、建物取得に係る課税仕入れが共通対応課税仕入れに用途区分されてしまうと、本来約89%が控除対象仕入税額とされるべきところ、差額の約53~55%が控除されないまま、課税の累積を招いてしまうことになる。 両事件では、転売目的で購入した居住用賃貸建物に係る課税仕入れの取扱いについては、税務当局内部においても、従前から、「課税対応課税仕入れ」を認めるような見解が存在していた(※3)ことから、本件において税務当局が行った更正処分が仮に適法であるとしても、税務当局が課税上の取扱いを変更したことにより生じたという点で、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があるのではないか、すなわち過少申告加算税の賦課決定処分につき、国税通則法(以下「通則法」という)65条4項にいう正当な理由があるか否かについても争点とされた。 (※3) 日本経済新聞平成31年2月5日記事は、「国税OBの朝長英樹税理士は、これまで仕入れにかかった消費税の全額控除を認めてきた国税当局が唐突に一部しか控除できないと税法解釈を変更したとみる。国税庁は『税法解釈や取り扱いを変更した事実はない』としている。複数の不動産業界の関係者によると、同様な理由で消費税の申告漏れが指摘されるケースが相次ぐ。税務に詳しい森・浜田松本法律事務所(東京・千代田)の大石篤史弁護士によると、この1年半くらいで10社前後からの相談がある。朝長税理士は『多くの会社が課税処分を受けるという異例の事態。消費税についてしっかりと調査をしているという当局の国民へのアピールという側面もあるのだろう』と明かす。」と述べている。 上記のとおり、両事件の主な争点は、①課税対応課税仕入れ該当性(本件更正処分の適法性)、及び②通則法65条4項にいう「正当な理由」の有無の2つであるが、両事件の第一審から最高裁までの各裁判所のそれぞれの判断を概括すると以下の【表1】のとおり(納税者側から見て、〇は処分取消し(納税者側勝訴)、✕は処分適法(国側勝訴))となる。ムゲン事件では、控訴審判決の結果を受けて、国側(税務当局)が、過少申告加算税賦課決定処分の取消しを不服として上告受理申立てを行い、また、ADW事件では、納税者側が、賦課決定処分だけでなく、課税仕入れに係る消費税の更正処分の取消しを求めて上告受理申立てを行った。 【表1】 (※4) ムゲン事件では、国側が②の争点についてのみ上告したため、①の判断については控訴審で確定している。 両事件とそれぞれの審級を時系列で見ると次のとおりとなる。 (※5) 「第1事件」東京地裁平成29年(行ウ)第590号・TAINSコード:Z269-13325、「第2事件」東京地裁平成30年(行ウ)第2号・TAINSコード:Z269-13326 (※6) 東京地裁平成30年(行ウ)第559号・TAINSコード:Z270-13448 (※7) 東京高裁令和元年(行コ)第281号・TAINSコード:Z888-2359 (※8) 東京高裁令和2年(行コ)第190号・TAINSコード:Z888-2366 裁判結果を俯瞰すると、争点①の課税対応課税仕入れの是非については、ADW事件の東京地裁判決のみ異なる判断が示されたということができる。また、争点②の通則法65条4項「正当な理由」については、ムゲン事件控訴審判決の前後で大きく「潮目」が変わっていることが分かる。 そこで、本稿ではまず、争点①について、ADW事件において控訴審が示した考え方と、同事件第一審において、原告が提示し、地裁が認めた考え方について対比して検討する。次に争点②について、ムゲン事件の一審・二審を比較し、相違点を抽出するとともに、ADW事件控訴審判決と対比させ、何が判断の分かれ目となったかを浮き彫りにしたい。なお、争点②に関する課税庁側の解釈変更の実態については、国税不服審判所に対する審査請求件数からの推論を試みる。次に、ムゲン事件で争点③とされた、課税売上割合に準ずる割合適用の可能性について両事件の判決文を検討する。最後に、本件のような問題を解決する手法として令和2年の税制改正で新たに導入された、居住用賃貸建物の仕入税額控除の概要を確認する。 Ⅱ 争点①課税対応課税仕入れ該当性(本件更正処分の適法性) 1 ADW事件控訴審の判示 (1) 用途区分の判断基準について 東京高裁は、仕入税額控除に係る用途区分の現行制度の仕組みについて、次のように判示している。 ここで「課税売上割合自体、共通対応課税仕入課税売上割合に近似するのが通例」というのは、そもそもその他の資産の譲渡のために行われる課税仕入れについては、税負担の累積は生じないのであり、通常の事業活動を継続する限り、換言すれば、突発的な多額の非課税資産の譲渡でもなければ、共通対応課税仕入れに用途区分されたものに課税売上割合を乗ずることで、税負担が累積されないものは自動的に除外される仕組みを前提にしていると思われる。 また、「共通対応課税仕入課税売上割合が課税売上割合に近似していない場合」とは、ADW事件第一審では、「課税売上割合と、賃料収入が売上全体に占める割合とのギャップによって、建物の取得価格に対する消費税額のうち相当部分に税負担の累積が生じてしまうこととなる」と、より具体的に述べている(以下「ギャップの問題」という)が、上記のとおり、ADW事件控訴審では、そのような場合に備えて、課税売上割合よりも合理的な割合、すなわち、課税売上割合に準ずる割合が設けられているとしており、ここでの課税売上割合に準ずる割合の位置付けは、ムゲン事件第一審及び同控訴審でも全く同様である。 上記判示を踏まえ、東京高裁は、「(消費税法30条)2項1号の定める各課税仕入れについては、同号の文言及び趣旨等に即して、課税対応課税仕入れとは、当該課税仕入れにつき将来課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみをいい、非課税対応課税仕入れとは、当該課税仕入れにつき将来非課税売上げを生ずる取引のみが客観的に見込まれている課税仕入れのみをいい、当該課税仕入れにつき将来課税売上を生ずる取引と非課税売上げを生ずる取引の双方が客観的に見込まれる課税仕入れについては、全て共通対応課税仕入れに区分されるものと解するのが相当である。(下線筆者)」という判断基準を示した。 (2) 検討 要するに、上記判断基準に従えば、事業者が中古マンションを取得した際に賃借人が1人でもいれば共通対応課税仕入れ、また、取得時に、仮に賃借人ゼロでも、保有期間中に住宅の貸付けの発生の可能性が少しでもあれば、同じく共通対応課税仕入れに区分されることになる。ここでは、次回Ⅱの3で述べるような、ADW第一審判決で展開された議論は否定されている。 ところで、ムゲン事件控訴審判決では、時系列的にADW事件第一審判決の直後に審理されたことから、用途区分の判断において、当該資産の「最終的な目的」や「主たる目的」がどのように影響するかについて検討している。そこでは、「要することが見込まれるかどうかの判断要素の一つとして課税仕入れの『目的』が挙げられるとしても、課税の累積は、課税仕入れの目的が課税資産の譲渡等であったことによって生じるものではなく、課税資産の譲渡等が行われることの結果によって生じるものであるから、『最終的な目的』や『主たる目的』に限定されると解すべき根拠はな」いと判示し、「用途区分の判定を課税仕入れの『最終的目的』によって判断し、事業者が課税資産の譲渡等を最終的な目的として行った課税仕入れについては、仮にその他の資産の譲渡が見込まれていたとしても、『課税資産の譲渡等にのみ要するもの』に該当するとする控訴人の主張は採用できない。」として、ADW事件の第一審判決を引用した控訴人(ムゲン)の主張を排斥している(※9)。なお、ADW事件控訴審判決では、この点について、ムゲン事件控訴審判決同様、「事業者の取引の客観的な内容や性質等を捨象して專らその目的のみに依拠してこれらのいずれの区分に当たるかを判断するのは相当とは解され(ない)」として、ADWの主張を排斥している。 (※9) ちなみに、ムゲン事件第一審判決においても、個別対応方式における用途区分の判定は、課税仕入れの最終的な目的によって行うべきという納税者の主張に対し、「用途区分の判定において課税仕入れの目的が考慮されるとしても、消費税法30条2項1号の文言や個別対応方式における用途区分に共通課税仕入れが設けられていることに照らすと、ここで考慮される課税仕入れの目的が、原告が主張するような最終的ないし主たる目的に限定されると解すべき理由はない。」と判示し、その主張を排斥している。 2 ADW事件最高裁の判示とその影響 ADWは、控訴審判決を不服として最高裁に上告した。最高裁は、原審の示した判断基準を簡潔に要約した上で、その事実認定において、「本件各課税仕入れは上告人(筆者注:ADW)が転売目的で本件各建物を購入したものであるが、本件各建物はその購入時から全部又は一部が住宅として賃貸されており、上告人は、転売までの間、その賃料を収受したというのである。そうすると、上告人の事業において、本件各課税仕入れは、課税資産の譲渡等である本件各建物の転売のみならず、その他の資産の譲渡等である本件各建物の住宅としての賃貸にも対応するものであるということができる。」と判示した。その結果、原審の判断は揺るがず、納税者の敗訴が確定した。 非常に簡潔ではあるが、上記のように最高裁が判示したことで、転売目的で資産を購入した事業者が、当該課税仕入れを行った日に、将来同資産から非課税収入が発生する可能性が少しでもあれば、それは共通対応課税仕入れとなるという考え方が確定したことになる。 しかしながら、この考え方によれば、事業者が個別対応方式を採用する場合、仮に少額でも非課税売上げが生じていれば、税務調査等において共通対応に用途区分すべきとして更正処分を受ける恐れがある(※10)。特に、最高裁の判示からは、非課税収入が発生したという事実に着目した記載振りとなっているので、本件のようなビジネスモデルを展開する事業者にかかわらず、注意が必要であろう。 (※10) T&Amaster No.971(2023.3.20)8頁参照。さらに、同記事では、最高裁が示した「対応する」という判断基準が不明確という指摘もある。 (続く)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第14回】 「TDK事件(審裁平22.1.27)(その1)」 ~租税特別措置法66条の4第2項1号二・2号ロ、 租税特別措置法施行令39条の12第8項1号、 租税特別措置法通達66の4(4)-5(現行66の4(5)-4)~ 税理士 松田 祐弥 1 事件の概要(※1) (※1) TAINSコード:F0-2-463、本件裁決は情報公開過程でマスキングされている部分が多くあるため、推定で補完記載していることに留意されたい。 本件課税対象となった国外関連取引は、間接に100%の出資を有する国外関連者A社、直接100%の出資を有する国外関連者B社との間で行った次の取引である。 ①請求人がA社及びB社に対して最終製品製造用の部品である棚卸資産を販売した国外関連取引、②A社及びB社が当該棚卸資産を用いて製造した棚卸資産(最終製品)を請求人が購入した国外関連取引、並びに③請求人がA社との間で締結した無形資産供与を主眼とする技術移転契約に係る国外関連取引に関して、東京国税局(以下、「原処分庁」という)はこれら国外関連取引の全てを対象とした残余利益分割法を適用し、独立企業間価格を算定し更正処分を行った。これに対して請求人は、国税不服審判所に審査請求を行った。 〈取引フロー〉 2 残余利益分割法 残余利益分割法は、平成23年改正前租税特別措置法(以下「措置法」という)66条の4第2項1号ニ・2号ロ、同改正前同法施行令39条の12第8項1号を法令上の根拠として、2000(平成12)年に新設された(平成23年改正前)措置法通達66の4(4)-5によって解釈上認められていた方法であり、 法人及び国外関連者の双方が重要な無形資産を有する場合に適用される。 具体的には、まず、法人及び国外関連者の営業利益を合算し(分割対象利益)、その分割対象利益について、第一段階として重要な無形資産を有しない非関連者間の取引において通常得られる利益(基本的利益)に相当する金額を当該法人及び当該国外関連者にそれぞれ配分する。次に第二段階として、基本的利益を配分した後の残額(残余利益)を、当該法人又は当該国外関連者それぞれにおいて、残余利益の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因(分割要因)に応じて、当該法人及び当該国外関連者に配分する。 〈残余利益分割法のイメージ〉 3 争点 本件に係る争点は次のとおりである。 4 請求人及び原処分庁の主張と審判所の判断 各争点に関する請求人及び原処分庁の主張と審判所の判断は、主に以下のとおりである。 審判所は、国外関連者は研究開発において相応の役割を果たしており無形資産の形成に貢献しているなどとして、研究開発費の負担金を国外関連者の分割指標に含め、結果として所得額にして141億円の処分を取り消した。 〈各争点に関する請求人及び原処分庁の主張と裁決〉 争点1の① 告知聴聞の機会 争点1の② 事前確認申請のしょうよう 争点2 国外関連者が請求人に対して配当をしているにも関わらず移転価格課税が行われたことの適否 争点3 独立企業間価格の算定において、残余利益分割法を適用したことの適否 争点4の① 基本的利益の算定において比較対象取引からX社を除くべきか否か 争点4の② 非関連者からの調達部品に帰属する損益を分割対象利益から除外すべきか否か 争点4の③ A社が支出した研究開発費の負担金を請求人の分割指標としての研究開発費の金額に含めたことの適否 争点4の④ 分割指標としての研究開発費の金額の算定上、過年度未払賞与の戻入れ額を控除したことの適否 争点4の⑤ A社の加工委託先の特定費用を分割指標としてA社のマーケティング費用に含めることができるか否か 争点4の⑥ 請求人の技術営業部署の費用を請求人の分割指標としてマーケティング費用としたことの適否 争点4の⑦ 国外関連者の所在地国の貨幣購買力の違いを考慮すべきかどうか ((その2)へ続く)
相続税の実務問答 【第82回】 「令和5年までに行われた贈与(暦年課税)の 相続税の課税価格への加算」 税理士 梶野 研二 [答] 相続又は遺贈により財産を取得した者が、その相続開始前3年以内にその被相続人から贈与を受けた財産の価額は相続税の課税価格に加算することとされていましたが、令和5年度の税制改正において、この「相続前3年以内の被相続人からの贈与」が、「相続前7年以内の被相続人からの贈与」に改正されました。しかしながら、この改正は、令和6年1月1日以後に行われた贈与から適用されることとされています。 したがって、あなたが令和元年から令和4年まで及び令和5年中にお父様から受けた贈与については、贈与が行われた日から3年を経過した後にお父様に相続が開始した場合には、あなたが相続又は遺贈によりお父様の財産を取得することとなったとしても、その贈与を受けた財産の価額を相続税の課税価格に加算する必要はありません。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続開始前3年以内に受けた暦年贈与の相続税の課税価格への加算 所得税法等の一部を改正する法律(令和5年法律第3号)による改正前の相続税法第19条第1項(以下「改正前相続税法19条1項」といいます)では、相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産(第21条の2第1項から第3項まで、第21条の3及び第21条の4の規定により当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるもの(特定贈与財産及び相続時精算課税の適用を受ける財産を除きます)に限ります)の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなして相続税の計算をすることとされていました。 この規定の中の「相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合」とあるのは、上記の所得税法等の一部を改正する法律により「相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前7年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合」と改正されました(改正後の相続税法第19条第1項の規定を「改正後相続税法19条1項」といいます)。 ただし、改正後相続税法19条1項の規定により拡大された加算期間である相続の開始前3年より前で、かつ相続開始前7年以内の贈与については、その贈与金額の合計額から100万円を控除した後の残額が加算の対象とされます。 2 改正後相続税法19条1項の適用時期 (1) 令和5年12月31日までに贈与者に相続が開始した場合 改正後相続税法19条1項の規定は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について適用し、同日前に贈与により取得した財産に係る相続税については、改正前相続税法19条1項の規定が適用されます(令和5年改正法附則19①)。 したがって、令和5年12月31日までに贈与者が亡くなり、その者から相続又は遺贈により財産を取得したときには、これまでと同様に、その贈与者(被相続人)から贈与により財産を取得した日から3年を経過すれば、その贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算する必要はありません。 (2) 令和6年1月1日以後に贈与者に相続が開始した場合 イ 令和6年1月1日から令和8年12月31日までの間に贈与者に相続が開始した場合 令和6年1月1日から令和8年12月31日までの間に贈与者に相続が開始した場合には、改正後相続税法19条1項の規定が適用されることとなりますが、同項の規定中の「7年」とあるのは「3年」に読み替えられています(令和5年改正法附則19②)。 したがって、この期間内に贈与者が亡くなり、その者から相続又は遺贈により財産を取得したときには、これまでと同様に、贈与者(被相続人)から贈与により財産を取得した日から3年を経過すれば、その贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算する必要はありません。 ロ 令和9年1月1日から令和12年12月31日までの間に贈与者に相続が開始した場合 令和9年1月1日から令和12年12月31日までの間に贈与者に相続が開始した場合には、令和6年1月1日以後に贈与者(被相続人)から贈与により取得した財産が加算の対象となります(令和5年改正法附則19③)。 この場合、相続開始前3年より前に贈与により取得した財産があれば、この相続開始前3年より前に贈与により取得した財産の価額の合計額から100万円を控除した残額と、相続開始前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産の価額の合計額が、相続税の課税価格に加算される金額となります。 ハ 令和13年1月1日以後に贈与者に相続が開始した場合 令和13年1月1日以後に贈与者に相続が開始した場合には、改正後相続税法19条1項の規定が適用されます。 すなわち、相続開始前7年以内に贈与者(被相続人)からの贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算しなければなりません。 この場合、相続開始前3年より前に贈与により取得した財産があれば、この相続開始前3年より前に贈与により取得した財産の価額の合計額から100万円を控除した残額と、相続開始前3年以内に被相続人から贈与により取得した財産の価額の合計額が、相続税の課税価格に加算される金額となります。 贈与の日及び相続開始時と相続税の課税価格への加算の関係をまとめると次の図のとおりとなります。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 3 ご質問の場合 上記2(1)で述べたように改正後相続税法19条1項の改正の効果が出てくるのは、令和9年1月1日以後に相続が開始した場合で、かつ、令和6年1月1日以後に被相続人から贈与を受けた財産がある場合です。 したがって、あなたが令和元年から令和4年までの間にお父様から贈与により取得した財産、及び令和5年中にお父様から贈与により取得する財産については、これまでと同様に、各贈与の日から3年を経過すれば、お父様を被相続人とする相続税の申告において、これらの贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算する必要はありません。 例えば、令和5年4月20日にお父様がお亡くなりになられたと仮定しますと、令和元年分の贈与など、令和2年4月20日より前にお父様から贈与を受けた財産の価額は、相続税の課税価格に加算する必要はありません。 また、令和5年4月20日にお父様から贈与を受けたと仮定しますと、3年後の令和8年4月20日を過ぎた後においてお父様の相続が開始するならば、その贈与を受けた財産の価額を相続税の課税価格に加算する必要はなくなります。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第48回】 「株式報酬制度に関する役員と従業員の相違点」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 従業員を株式報酬制度の対象とする背景 株式報酬制度は、対象者に中長期のインセンティブを与えることで、モチベーションアップや離脱を防止できる等のメリットがあり、従来は役員を対象としたものが一般的であった(※1)。 (※1) 株式報酬制度のうち、事前交付型リストリクテッド・ストックについての解説は、【第4回】参照。その他、株式報酬制度には事後交付型が存在する。これは、対象勤務期間の終了後株式を交付するという形態であり、事後交付型リストリクテッド・ストックや、パフォーマンス・シェアがある。 これに対し、近年では会社法上の取締役等に該当しない執行役員や、その他幹部従業員に対して株式報酬制度を導入する企業が増えているといわれている。現に、2022年7月19日、経済産業省が改訂した「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」には、「5.5. 幹部候補人材の育成・エンゲージメント向上」に、「報酬設計において、これまでも自社株報酬が付与されていることが多い執行役員に加え、中堅の幹部候補等も自社株報酬の付与対象に含めることも考えられる」と明記されている。 昨今では、ワーク・ライフ・バランスという概念が浸透し、働き方改革が実践される等したため、従来と比較してフレキシブルな働き方を選択する労働者が多くなっている。この点、企業にとっては時代の潮流に対応しながら優秀な人材を確保し続けることは課題となるため、今後、従業員に対して株式報酬制度を導入することを検討する企業はさらに増加すると思われる。 ところが、従業員は役員と異なるため、労働基準法上の「賃金通貨払いの原則」や、株式の無償交付に係る会社法との関係等が問題となり得る。したがって、株式報酬制度の導入には不明瞭な部分があった。そこで経済産業省は、上記の通り手引きを改訂することで、このような問題に対する解説を示したのである。 (2) 手引きに示された内容 従業員を対象とした株式報酬制度の導入について、手引きには、役員との相違点に触れる形で以下の点が追記された。 ① 「賃金通貨払いの原則」への抵触可能性(手引きQ80及びQ81(1)) 労働基準法では、従業員の賃金を通貨で支払うことを原則とする「賃金通貨払いの原則」が定められている(労働基準法24)。ここで、従業員に通貨ではなく株式を交付する仕組みである株式報酬制度が、当該原則に抵触するか否かが問題となっていた。 この点、手引きQ80及びQ81(1)では、CGSガイドラインが改訂された際、以下の要件を充足することで「福利厚生施設」に該当すると考えられるため、当該原則には抵触しないと整理されたことに言及している。 なお、留意点として、上記bについては、「賃金として株式を給付する」と定められている場合には賃金性が肯定されやすくなることが示されている。また、上記cについては、「事後的な利益の大小ではなく、制度設計として、通貨による賃金等が報酬体系の中で補助的なものであり、自社株式給付によって得られる利益が主とされていると解されるかどうかの問題である」と示されている。 これは、賃金等に該当すれば通貨払いが求められるところ、労働の対価としての性質が色濃いことを示すことができれば、株式としての支給が可能となるという趣旨だと思われる。ただし、従業員を対象とした株式報酬制度の導入については、以下②の会社法との関係にも留意する必要がある。 ② 会社法上の手続き(手引きQ81(2)) 株式報酬制度について、役員を対象とする場合には、株主総会や報酬委員会において、役員報酬に係る決議を行うことが必要となる。この点、従業員は役員と異なるため、従業員を対象とした株式報酬制度については、株主総会や報酬委員会に係る決議が不要であると解説された。 また、会社法上、従業員に株式を無償交付することができないため(※2)、現物出資型を前提として、基本的な流れは以下の通りであるとも示されている。 (※2) この件については以下③及び⑤でも触れられている。 ③ 金融商品取引法や上場規則における開示との関係(手引きQ81(3)及び(4)) 上場企業が従業員に対して株式報酬を交付するために第三者割当を行う場合の金融商品取引法上の開示規制、及び上場規則における開示については、原則として役員等を対象とする場合と同様であることが示された。 ④ 社会保険料算定への影響(手引きQ81(5)及びQ13) 従業員を対象として株式報酬制度によって株式を交付した場合においても、原則として社会保険料の算定の基礎となる「報酬」及び「賞与」の範囲(以下、「報酬等」という)に含まれることが示された(※3)。 (※3) ただし、ストックオプションについては、自社株をあらかじめ定められた権利行使価格で購入する権利を付与するものであることから、報酬等に該当しないこと等も併せて示されている。 ⑤ 税務上及び会計上の取扱い(手引きQ81(6)) 従業員を対象とする場合には、役員給与の損金不算入が適用されないため、原則として損金算入が可能である(法法34)。 しかし、執行役員などの場合、法人の経営に従事しているものとして法人税法上の役員に該当した場合(法法2十五)、役員給与に関する規定が適用される可能性があることにも言及されている(※4)。 (※4) 法人税法上のみなし役員に関しては、【第1回】参照。 * * * このように、2023年3月31日に行われた手引きの改訂は、従業員を対象とした株式報酬制度の導入に係る論点が中心となっている。さらに、従業員に株式を発行する場合の譲渡制限付株式割当契約書の例も示されているため、実際に導入を検討する場合には必見といえる。 (3) 従業員等への自社株報酬以外の改訂箇所 その他の改訂ポイントとして、役員を対象とした株式報酬制度を導入した際、必要となる株主総会に付議する報酬議案について、一例を示す形で株主総会報酬議案等が示されている。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第51回】 「株式分配の概要」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、株式分配の概要について解説していきます。 1 株式分配の定義 「株式分配」とは、現物分配のうち、現物分配直前において現物分配法人により発行済株式の全部を保有されていた法人(完全子法人)のその発行済株式の全部が移転するもの(※)をいいます(法法2十二の十五の二)。 (※) 現物分配により完全子法人株式の全部の移転を受ける者が、現物分配の直前において現物分配法人との間に完全支配関係がある者のみである場合における現物分配は、株式分配から除かれています。 株主に対して、会社の事業を切り出して設立した子会社の株式又は既存の子会社の株式を交付することにより、事業又は子会社を切り離す行為を「スピンオフ」といいますが、株式分配は子会社をスピンオフする場合に使われる手法です。 ① 単独新設分割型分割 ② 株式分配 上図①の分割型分割により特定の事業をスピンオフする場合については、本連載【第23回】をご参照ください。今回は、上図②の完全子法人をスピンオフする株式分配について解説します。 2 株式分配の課税関係 株式分配に係る課税関係を非適格・適格ごとに表にまとめると、次のようになります。なお、今回は株式分配の課税関係のイメージをつかんでいただくことを目的としているため、現時点で下記の表をすべて理解する必要はありません。 現物分配法人、現物分配法人の株主の課税上の取扱いの詳細については、次回以降で説明していきます。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 3 株式分配の事由 株式分配とは、法人がその株主等に対し、その法人の次に掲げる事由により、完全子法人株式の交付をすることをいいます(法法2十二の十五の二)。 ◆株式分配の概要のポイント◆ 株式分配は、現物分配法人から現物分配法人の株主へ完全子法人株式が時価で譲渡されたものとして取り扱います。 株式分配があった場合には、現物分配法人は、完全子法人株式の譲渡損益を認識します。 株式分配があった場合には、現物分配法人の株主は、みなし配当を認識します。 特例として適格株式分配の場合には、現物分配法人は完全子法人株式を簿価で移転したものとして課税されず、現物分配法人の株主においてもみなし配当は認識されません。 (了)
「人的資本可視化指針」の内容と 開示実務における対応のポイント 【第2回】 「人的資本可視化の方法と参考となるフレームワークや考え方」 PwCあらた有限責任監査法人 ディレクター 公認会計士 北尾 聡子 【第1回】では、人的資本の可視化のニーズの高まりとその背景、国内外の開示規制の動向について解説を行った。人的資本の可視化を推進することにより、企業は投資家の理解を得ながら、中長期的に企業価値の向上を実現することが期待されている。 【第2回】においては、人的資本の可視化の方法について、参考となるフレームワークや考え方を紹介するとともに、可視化を行う際の開示実務上の対応のポイントを解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。 第2章 人的資本の可視化の方法 1 原則主義に基づく3つのフレームワークの活用 (1) 価値協創ガイダンスの活用 投資家との対話を通じて価値創造ストーリーを磨き上げる「価値協創」を加速させるためには、企業と投資家をつなぐ共通言語が必要であるとして、2017年5月に経済産業省から、企業固有の価値創造ストーリーを構築し、質の高い情報開示・対話につなげるためのフレームワーク「価値協創ガイダンス」が、2022年8月に改訂版「価値協創ガイダンス2.0」が公表された。 『自社の人的資本への投資・人材戦略』が、自社の価値観、目指す姿(長期ビジョン)、ビジネスモデル、経営上のリスクと機会の各要素とどのように結びついているのかを、「価値協創ガイダンス」を活用し、確認しながら議論することで、自社の経営戦略との関係性を明確にすることができる。 (出典:経済産業省「企業と投資家の対話のための「価値協創ガイダンス 2.0」」) (2) IIRC(International Integrated Reporting Council:国際統合報告評議会)フレームワークの活用 IIRCのフレームワークは、組織の価値創造能力の分析を助けるために利用されることを目的として、統合報告書に含まれるべき情報を特定したものである。当フレームワークは、2013年12月に公表された後、 2021年1月に改訂版が公表された。企業が人的資本を含む6つの資本を用いて、長期にわたり価値の創造、保全をどのように行うのか、また事業活動の中で価値の毀損がどのように生じるのか、資本とビジネスモデルとの関係性、価値創造とのつながりを説明することを求めている。 『人的資本』に関するインプットが、事業活動を通じてどのようなアウトプットにつながり、さらにどのようなアウトカム(短、中、長期にわたる正及び負の影響)につながるのか、他の資本との関係性を含めて統合的に説明していく上での効果的なフレームワークとなっており、活用が期待されている。 (出典:内閣官房「人的資本可視化指針」P.12) (3) FRC(Financial Reporting Council:英国財務報告評議会)の「従業員に関する企業報告」の活用 FRCの人的資本に関する報告書(「Workforce-related corporate reporting-where to next?-」)では、企業が従業員関連事項について説明が奨励される事項を4つの要素(「ガバナンスと経営」、「ビジネスモデルと戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」)に沿って解説している。 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.13をもとに筆者作成 ⇒ FRCの人的資本に関する報告書で採用されているとおり、人的資本の開示においても、4つの要素を検討することが効果的であり、活用が期待される。 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.14、15、38、39をもとに筆者作成 2 人的資本の可視化を進める際の開示実務における対応ポイント 上記1において、人的資本への投資が企業価値向上や競争力強化にどのようにつながるかを明確化するための、参考となるフレームワークを複数(3つ)紹介した。ただ、フレームワークが複数あると混乱や迷いが生じやすいかもしれない。これらのフレームワークはそれぞれ独立しており、どれを参考にしてもよいと思うが、いずれにせよ、5W1Hを意識したシンプルな開示内容を検討することが重要である。 その他、人的資本の開示実務における対応ポイントとして、いくつか紹介する。 〈開示における2つの類型(独自性・比較可能性)を考慮する〉 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.16~18をもとに筆者作成 ⇒ 「独自性」と「比較可能性」のバランスを確保することを開示において意識することがポイントである。 〈2つの側面(価値向上・リスクマネジメント)を意識する〉 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.28をもとに筆者作成 ⇒ 2つの側面があることを意識し、説明方法を整理することがポイントである。 (出典:内閣官房「人的資本可視化指針」P.28) 〈さまざまな開示上のアピールポイントを考慮する〉 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.30、31をもとに筆者作成 ◆まとめ◆ 人的資本の可視化の方法としては、まずは原則主義に従い、参考となるフレームワークに沿って開示の大枠を検討した上で、開示上留意すべきいくつかのポイントを押さえることが重要である。次回【第3回】(最終回)は、実質を伴った強靭な人事戦略を策定するための基盤・体制づくりについて解説する。加えて、有価証券報告書における制度開示対応や積極的な任意開示を行う際の開示実務におけるポイントを解説する。 (了)
内部統制報告制度改訂案のポイントを読み解く 【第3回】 (最終回) 「業務プロセス選定手続と評価範囲の変更の可能性」 米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行 本連載の最終回となる本稿では、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(公開草案)」で示された、内部統制の基本的枠組みに関する改訂について、以下のポイントを読み解く。 Ⅰ 財務報告に係る内部統制の評価及び報告、そして内部統制の監査に関する改訂点 財務報告に係る内部統制の評価及び報告において示された改訂点のうち、「経営者による内部統制の評価範囲の決定」に重点を置いて分析をしたい。具体的には、業務プロセスに関わる重要な事業拠点の選定や企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に関する考え方が、今後も更に企業会計審議会において段階的に検討され、大きく変貌する可能性が想定されるからである。 次に、財務報告に係る内部統制の監査に関する改訂点については、外部監査人の視点から離れ、あえて内部統制の整備や運用を担う企業の立場から考える。 Ⅱ 経営者による内部統制の評価範囲の決定 1 重要な事業拠点を決定するための複数の指標 現行では、企業が複数の事業拠点を有する場合は、「例えば、本社を含む各事業拠点の売上高等の金額の高い拠点から合算していき、連結ベースの売上高等の一定の割合(筆者注:売上高の概ね2/3)に達している事業拠点を評価の対象とする。」としている。つまり売上高を、評価範囲を決定する際の基本的な指標に定め、その範囲に属する拠点を業務プロセスに関わる重要な事業拠点として定義してきた。他方で企業の周囲の環境や事業特性を考慮し、銀行等の経常収益も異なる指標として例に挙げていた。 今回の改訂では、「更に、総資産、税引前利益等の異なる指標や追加的な指標を用いることがある。」と述べ、主な指標として用いてきた売上高に加え、新たな指標を追加するかたちとなった。 2 「財務報告に及ぼす影響」を踏まえた業務プロセスの選定 今後は業務プロセスの選定に関わる考え方やアプローチが大きく変貌する可能性がある。 (1) 企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセス 重要な事業拠点の中でも、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスは、原則として全てを評価の対象とすると定められてきた。しかし今回の改訂案では、「財務報告に及ぼす影響を勘案し」という前提を加えたうえで、業務プロセスは「原則として全てを評価の対象とする。」に改められた。後述するが、この新たに加えられた前提は今後、評価範囲の選定の手続に関する重要な変更の検討に道を開く足がかりとなり得る。 (2) 売上、売掛金及び棚卸資産に繋がる業務プロセス 業務プロセスの選定に係る例示として、一般的な事業会社の場合、売上、売掛金及び棚卸資産に繋がるプロセスを従来通り挙げているが、「これはあくまで例示であり、個別の業種、企業の置かれた環境や事業の特性等に応じて適切に判断される必要がある。」と述べ、機械的な適用を避けるよう求めたことは、改訂前後を通じ変わりはない。 (3) 業務プロセス選定に関わる考え方やアプローチが大きく変貌する可能性 今回の改訂案では、業務プロセスの選定に際して「売上高等の概ね2/3」や「売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定」を「機械的に適用せず、(中略)財務報告に対する影響の重要性を適切に勘案することを促すよう、基準及び実施基準における段階的な削除を含む取扱いに関して、今後、当審議会で検討を行う」と述べられた。 つまり、「売上高等の概ね2/3」や「売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定」に関する取扱いに対して、今後段階的な削除を含む検討が重ねられ、業務プロセスの選定の手続や評価の範囲が大きく変わる可能性が出てきた。では、米国の企業改革法(US-SOX)の場合はどうかといえば、「売上高等の概ね2/3」や「売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定」などの例を示すことで、業務プロセスの評価範囲を絞り込むことは、元来していない。 3 評価範囲外の事業拠点や業務プロセスにおいて発生した不備への対応 内部統制の評価や監査の際に、内部統制評価の枠外の事業拠点や業務プロセスにおいて、開示すべき重要な不備に相当する事象が検出されることはよくある。検出された不備は内部統制の評価や監査の有効性に影響をもたらすが、評価範囲の枠外であるために、内部統制報告制度のルールに従い、当該会計期間内に改善が求められるものではなかった。 しかし、今回の改訂案では、「評価範囲外の事業拠点又は業務プロセスにおいて開示すべき重要な不備が識別された場合には、(中略)少なくとも当該開示すべき重要な不備が識別された時点を含む会計期間の評価範囲に含めることが適切である。」と述べるとともに、「財務諸表監査の過程で識別された内部統制の不備には、経営者による内部統制評価の範囲外のものが含まれることがある。監査人は、当該不備について内部統制報告制度における内部統制の評価範囲及び評価に及ぼす影響を十分に考慮しなければならない。」として、外部監査人に対し、評価範囲外における財務諸表監査の不備についても加味することを求めた。 この改訂案が実施された場合、評価の枠外で検出された開示すべき重要な不備は、内部統制報告制度のルールに沿って、当該会計期間内に全て改善を施すため、文書を整備したうえに評価と監査を経なければならない。さもなければ自社の内部統制は非有効となり、内部統制報告書においてその旨を開示しなければならない。特に、期末近くに不備が検出された場合、改善に要する期間が短いために不備の克服自体がきわめて厳しくなることが想定される。 4 長期間にわたり評価範囲外としてきた特定の業務プロセス 更に改訂案によれば、「長期間にわたり評価範囲外としてきた特定の業務プロセスについても、評価範囲に含めることの必要性の有無を考慮しなければならない。」と述べているが、これがいかなるケースを具体的に想定したのか、現時点では想像がつかない。来期以降、本改訂が実務に導入された場合、金融庁による内部統制報告制度に関するQ&Aなどで具体的な事例が示されることを期待したい。 Ⅲ 財務報告に係る内部統制の監査 内部統制報告制度の実務運用において、経営者による評価範囲の決定は毎期、重要な課題である。前述の通り、評価範囲決定に用いる指標は様々だが、評価の対象拠点や業務プロセスなどの評価範囲を巡り、経営者が外部監査人と激しい議論に発展するケースは多い。また年度当初に評価範囲を決めたにも関わらず、売上高等の激変、期中における事業売却や企業買収等で、その後に評価範囲や評価対象拠点が変動することもしばしば起きる。 そこで今回の改訂では、「監査人は、経営者による内部統制の評価範囲の決定前後に、当該範囲を決定した方法及びその根拠等について、(中略)経営者と協議を行っておくことが適切である。」と述べられた。経営者及び外部監査人双方による、評価範囲の決定前後の協議を求めながら、「一方で、(中略)評価範囲の決定は経営者が行うものであり、当該協議は、あくまで監査人による指摘を含む指導的機能の一環であることに留意が必要である。」と、双方の権限や責任についても述べている。これらを具体的な手続として示せば、以下のようになる。 1 経営者による評価の計画段階における協議 「通常、経営者は、評価計画の作成過程で内部統制の評価範囲を決定する。経営者との協議は、経営者が評価範囲を決定するまでに実施することが適切である」と改訂案は述べている。つまり、経営者は主体的に評価計画や範囲を決定するが、その間外部監査人が必要に応じて指導を行い、双方協議を通じ最終的に評価範囲を決定すべきであるとされている。経営者と外部監査人が相互理解を深めるべきであることは、従前と変わりはない。 2 状況の変化などがあった場合の協議 更に改訂案では、「経営者との協議は、経営者による評価の計画段階に限定されない。監査人は、経営者による評価の計画段階で把握した事象や状況が変化した場合、あるいは新たな事実を発見した場合には 、評価範囲の妥当性を検討し、経営者と協議することが適切である。」と述べている。ビジネスは常に変わる。そのため経営者は、外部監査人との相互の理解を共有しておく必要がある、さもないと思わぬ不備を呼び込むことにもなりかねない。事業の買収や組織の改編などがあれば、なおさらである。要するに双方は長距離マラソンを同伴するようなものである。 (連載了)
〔まとめて確認〕 会計情報の四半期速報解説 【2023年4月】 期末決算(2023年3月31日) 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 3月決算会社を想定し、期末決算(2023年3月31日)に関連する速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 基本的に2023年1月1日から3月31日までに公開した速報解説を対象としている。 期末決算でも、すでに公表した四半期決算に関連する速報解説に引き続き注意する必要がある。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 会計関係 企業会計基準委員会から次のものが公表されている。 ① 国際会計基準審議会(IASB)「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール IAS第12号の修正案」(公開草案)(内容:経済協力開発機構(OECD)が公表した第2の柱モデルルールの間近に迫った適用から生じる繰延税金の会計処理からの一時的な救済措置を取り扱うもの。意見募集期間は2023年3月10日まで) ② 「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第64号)(内容:グローバル・ミニマム課税制度を前提として税効果会計を適用することについては、実務上困難であるとの意見があることから、必要と考えられる特例的な取扱いを示す) なお、②の公開草案については、2023年3月31日、「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」(実務対応報告第44号)として確定している。 Ⅲ 法令関係 1 会社法関係 2022(令和4)年12月26日、「会社法施行規則等の一部を改正する省令」(法務省令第43号)が公布された。 これは、電子提供制度における書面交付請求をした株主に交付する書面に記載することを要しない事項に関して改正するものである。 いわゆるウェブ開示によるみなし提供制度の対象事項についても同様の見直しを行い、また、形式的整備を含む所要の改正も行っている。 上記に対応して、日本経済団体連合会 経済法規委員会企画部会の「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」(改訂版)が更新されている。 2 金融商品取引法関係 次のものが公布・公表されている。 ① 「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第11号)(内容:有価証券報告書等において、サステナビリティに関する企業の取組みの開示及び人的資本・多様性に関する開示、コーポレートガバナンスに関する開示などを行うもの) ② 「記述情報の開示の好事例集2022」(内容:サステナビリティ情報等に関する開示の好事例を示す) ③ 「記述情報の開示の好事例集2022」の更新(内容:「コーポレート・ガバナンスの概要」、「監査の状況」、「役員の報酬等」及び「株式の保有状況」に関する開示の好事例の追加) ④ 「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項及び有価証券報告書レビューの実施について(令和5年度)」(内容:重点テーマ審査として「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」を示す) Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「監査基準報告書701 研究文書第2号「監査上の主要な検討事項」の事例分析(2021 年4月~2022 年3月期)レポート(研究文書)」(内容:2022年3月期で強制適用2年目となる監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters:KAM)についての分析) ② 「監査上の主要な検討事項(KAM)の特徴的な事例と記載のポイント2022」(内容:金融庁がKAMの記載に関する適用2年目に見られた創意工夫と課題についてまとめたもの) Ⅴ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「改訂コーポレートガバナンス・コードにおける監査役等関連項目への対応と今後の課題」(内容:2021年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂から1年を経過するタイミングで、監査役・監査等委員・監査委員関連の項目について、各社の対応状況や監査役等の監査の状況について調査を実施し、今後の取組みを検討) ② 「企業のサステナビリティへの取組みおよび監査等委員会の関与の在り方〈現状分析編〉」(内容:サステナビリティに関する議論や背景などについての整理や、アンケート調査の実施) Ⅵ 過年度に公表されている会計基準等 過年度に公表されている会計基準等のうち、2022年4月1日以後に適用されるものとして、次の会計基準等がある。 ① 「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(2021年8月12日、実務対応報告第42号)(内容:グループ通算制度の適用に関する会計処理及び開示) ② 「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(2021年6月17日、改正企業会計基準適用指針第31号)(内容:投資信託の時価の算定と貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価についての取扱い) また、「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」(2022年8月26日、実務対応報告第43号)については、2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する。 ただし、実務対応報告の公表日(2022年8月26日)以後終了する事業年度及び四半期会計期間から適用することができる。 (了)
給与計算の質問箱 【第40回】 「締め日又は支給日を基準とした書類の作成」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 社会保険の書類や税金の納付書には給料の締め日を基準に作成するものと支給日を基準に作成するものがあるそうですが、末日締めの翌月20日払いのケースと20日締めの当月末日払いのケースを例にご教示ください。 A 給料の締め日もしくは支給日を基準に作成する労働保険料申告書、算定基礎届、源泉所得税納付書における「末日締めの翌月20日払いのケース」と「20日締めの当月末日払いのケース」は以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 労働保険料申告書 労働保険料申告書は締め日ベースで作成する。 労働保険料申告書は毎年6月1日から7月10日の間に前年4月締めの給料から当年3月締めの給料を集計して労災保険料と雇用保険料の申告・納付をする。 〈末日締め翌月20日払いのケース〉 前年4月30日締め5月20日支給の給料から当年3月31日締め4月20日支給の給料を集計する。 〈20日締めの当月末日払いのケース〉 前年4月20日締め4月30日支給の給料から当年3月20日締め3月31日支給の給料を集計する。 2 算定基礎届 算定基礎届は支給日ベースで作成する。 算定基礎届は毎年7月1日から7月10日の間に当年4月支給、5月支給、6月支給の給料を記入して提出する。後日、当年9月から翌年8月までの社会保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料)が決定される。 〈末日締め翌月20日払いのケース〉 〈20日締めの当月末日払いのケース〉 3 源泉所得税納付書 源泉所得税納付書は支給日ベースで作成する。 源泉所得税は1月分から6月分を7月10日まで、7月分から12月分を翌年1月20日までに納付する。1月分から6月分の給料にかかる源泉所得税については、以下のとおり記入する。 〈末日締め翌月20日払いのケース〉 12月31日締め1月20日支給の給料より天引きした源泉所得税から5月31日締め6月20日支給の給料より天引きした源泉所得税を記入する。 〈20日締めの当月末日払いのケース〉 1月20日締め1月31日支給の給料より天引きした源泉所得税から6月20日締め6月30日支給の給料より天引きした源泉所得税を記入する。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第40回】 「新規地代を求める新しい考え方」 ~賃貸事業分析法という手法~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 前回は、事業用不動産、すなわちその収益性が事業の経営動向に強く影響を受けるものにつき、建物施設等の支払賃料等相当額を売上高をベースに求める手法について解説しました。そこでは、数ある事業形態のうち、賃貸・運営委託方式(=不動産の賃借人が事業経営を行い、運営をマネジメント会社に委託する方式)を前提とした場合に、賃借人の売上高から推してどれだけの賃料の支払いが可能か(=負担可能賃料はどこまでか)という視点から考え方を紹介しました(これは、不動産鑑定評価基準では「収益分析法」という手法の1つに含まれますが、前回の解説ではこの用語そのものは取り上げませんでした)。 今回は、(これも非常に紛らわしい概念で恐縮ですが)事業者が土地を賃借し、その契約内容に基づく予定建物(敷地を含む)を一括してテナントに新規に貸し付けること(イメージは〈資料1〉)を想定した場合の期待家賃を出発点として新規地代相当額を試算する考え方を紹介します(この手法を「賃貸事業分析法」と呼んでいます)。 〈資料1〉賃貸事業分析法の前提 この手法は、後掲の一連の作業過程を経て、建物が生み出す純収益と土地が生み出す純収益をそれぞれ査定し、土地が生み出す純収益をもって新規地代相当額とみなす点に特徴があります。 税理士の皆様にとっては、あまり見かけることのない手法であると思いますが、平成26年の不動産鑑定評価基準の一部改正に伴って追加されていますので、参考までに紹介させていただきます。 2 賃貸事業分析法という手法が新たに導入された背景 旧借地法においても新しい借地借家法においても同じことがいえますが、建物所有を目的として土地を長期間貸し出した場合、貸主に余程の事情がない限り土地は半永久的に戻って来ないのが実情です(ただし、新しい借地借家法で創設された定期借地権を設定した場合は別です)。そのため、親族間あるいは親子会社間等の特殊な関係や一部の例外を除き、新規に借地権(普通借地権)を設定するケースは現時点ではほとんど見受けられません。 このようなことから、従来、新規地代の鑑定評価の依頼を受けるケースは、実際問題として珍しかったといえます。もちろん、不動産鑑定評価基準には新規地代を求める手法として、土地価格に期待利回りを乗じて得た額に公租公課等の必要諸経費を加算して求める方法(積算法)(※1)や賃貸事例比較法(※2)等が規定されていますが、普通借地権の設定事例が収集しにくいため地代相場をつかむことが困難であり、仮に新規地代の鑑定評価を依頼された場合でも積算法のみに頼らざるを得ないというのが正直なところでした。 (※1) この手法を適用して試算した賃料を「積算賃料」と呼んでいます。 (※2) この手法を適用して試算した賃料を「比準賃料」と呼んでいます。 世間的には、公租公課の何倍という地代の取り決めも行われていますが、不動産鑑定評価基準には直接この手法が登場しているわけではありません(【第6回】の本連載でも取り上げましたが、他の手法で求められた結果の検証手段としての位置付けにあります)。 その後、新しい借地借家法(平成4年8月1日施行)により定期借地権の制度が創設されたこともあり、これを活用した建物賃貸事業が増えてきました。これに伴い、事業者にとっては賃貸建物の敷地が定期借地権によることから、その地代をどのように決めるかが重要な関心事となってきました。このような状況を踏まえ、平成26年の不動産鑑定評価基準の一部改正時に、宅地の新規賃料を求める手法として新たに賃貸事業分析法が追加されたという背景があります。 3 賃貸事業分析法の流れ ここで、賃貸事業分析法の大まかな流れを表わしたものが〈資料2〉であり、その前提となっている考え方は以下のとおりです。 〈資料2〉 (出所) 「不動産鑑定評価基準に関する実務指針-平成26年不動産鑑定評価基準改正部分について-」(令和3年11月一部改正)(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 鑑定評価基準委員会)。 なお、上記(5)に掲げた建物所有者(借地権者)に帰属する純収益の査定に当たっては、建物の初期投資額や借地期間満了時の取壊費用の合計額に利回り(正確には元利均等償還率と呼ばれるもの)を乗じて求めることが基本となります。 また、その結果を土地建物に帰属する純収益から控除して土地所有者(借地権設定者)に帰属する純収益を求めた場合でも、定期借地権の性格(土地の賃借開始後、建物を建築し賃貸に供するとともに、借地期間満了時までに建物を取り壊して更地で返却すること)を踏まえれば、借地期間の前後に建物賃貸収益の未収入期間が発生します。そのため、この影響も考慮(補修正)して新規地代を求めることが必要とされています(※3)。 (※3) 「不動産鑑定評価基準に関する実務指針-平成26年不動産鑑定評価基準改正部分について-」(令和3年11月一部改正)(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 鑑定評価基準委員会)の解説部分によります。 ただし、これに関する正確な解説を加えようとすればかなり煩雑となり、また、本稿の狙いも賃貸事業分析法の大まかなイメージを理解していただくことにあるため、詳細は割愛させていただきます。 4 まとめ 前回と今回の2回にわたり、賃料を試算する新しい手法について解説を試みました。 なお、前回取り上げた事業用不動産の賃料を求める手法(収益分析法)にしても、今回取り上げた賃貸事業分析法にしても、現時点では積算賃料や比準賃料に比べ、その説得力が一般的に劣ると考えられることから比較考量すべきもの(※4)とされています。 (※4) その趣旨については上記(※3)に解説があります。 その理由は、これらの試算過程には(本文で述べた内容からも察せられるとおり)想定要素が少なからず含まれており、加えて市場における検証を経た結果ではないという事情が存するものと思われます。しかし、今般紹介したそれぞれの手法は不動産の賃貸借をめぐる時代の新しい流れに対応しようとするものであり、決して軽視することのできないものであるといえます。 (了)