〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例77】 株式会社ANAP 「会計監査人選任の開示遅延に関するお知らせ」 (2022.10.20) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社ANAP(以下「ANAP」という)が2022年10月20日に開示した「会計監査人選任の開示遅延に関するお知らせ」である。主文には次のように記載されている。 わざわざ開示遅延に関して開示するというのは、とても珍しい。とても真面目な会社なのだろうか、あるいは、証券取引所に怒られて、思わず開示してしまったのだろうか。「会計監査人選任に関するお知らせが遅延した理由」には次のように記載されている。 決定事実に関しては、最初の機関決定後直ちに開示しなければならない。適時開示実務における基本中の基本である。とても真面目な会社ならば、こんな誤りはしないだろう。やはり証券取引所に怒られて、思わず開示してしまったのかもしれない。 2 監査報酬を理由とする異動 遅延開示であるという「定款一部変更並びに取締役、会計監査人選任に関するお知らせ」によると、監査人の異動は、監査報酬を主たる理由とするものである。その「異動の決定又は異動に至った理由及び経緯」には次のように記載されている。 ANAPは2020年8月期以降赤字が続いているが(2020年10月12日開示「2020年8月期決算短信〔日本基準〕(連結)」、2022年10月14日開示「2022年8月期決算短信〔日本基準〕(連結)」)、コロナ禍の影響が大きいようである。同社はファッションブランドを展開しているのだが、コロナ禍において店舗の休業を余儀なくされた(2020年4月8日開示「新型コロナウイルス感染拡大防止及び緊急事態宣言発令に伴う一部店舗の『臨時休業』に関するお知らせ」、2020年4月17日開示「新型コロナウイルス感染拡大防止及び全国への緊急事態宣言発令に伴う一部店舗の『臨時休業』に関するお知らせ」、2020年4月20日開示「新型コロナウイルス感染拡大防止及び全国への緊急事態宣言発令に伴う全店舗の『臨時休業』に関するお知らせ」、2021年4月26日開示「緊急事態宣言発令に伴う一部店舗の臨時休業に関するお知らせ」)。 そのため、インターネット販売事業に力を入れたのだが、店舗を休業しなくてもよくなったら、今度はインターネット販売事業が苦戦することになってしまった。「2022年8月期決算短信〔日本基準〕(連結)」の「当期の経営成績の概況」には、次のような記載がある。 3 相次ぐ訂正 今回の開示遅延も一端かもしれないが、業績の悪化は開示にも影響しているようである。ANAPは2020年7月29日に「株式会社ASメディカルサポートとの資本提携に関するお知らせ」を開示したのだが、同日に「(開示事項の取消)『株式会社ASメディカルサポートとの資本提携に関するお知らせ』の取り消しについてのお知らせ」を開示し、資本提携を取り消している。その取消しに関する開示の記載内容は次のとおりである(下線は筆者による)。 しかし、その翌日の2020年7月30日に更に「昨日当社が開示した『(開示事項の取消)『株式会社ASメディカルサポートとの資本提携に関するお知らせ』の取り消しについてのお知らせ』の訂正について」を開示し、取消しに関する開示を訂正している。その記載内容は次のとおりである(下線は筆者による)。 「(開示事項の取消)『株式会社ASメディカルサポートとの資本提携に関するお知らせ』の取り消しについてのお知らせ」における「EDINETに関する当社の事務手続きの不備」とは、「有価証券届出書の提出が必要であるということを認識しておらず、それを準備していなかった」ということのようである。 また、2022年10月14日に「資金使途の変更に関するお知らせ」と「資本業務提携契約の締結、第三者割当による新株式及び第5回新株予約権の発行、株式の売出し並びに主要株主の異動に関するお知らせ」を開示したのだが、2022年10月17日に「(訂正)『資金使途の変更に関するお知らせ』の一部訂正について」と「(訂正)『資本業務提携契約の締結、第三者割当による新株式及び第5回新株予約権の発行、株式の売出し並びに主要株主の異動に関するお知らせ』の一部訂正について」を開示している。いずれも数値の記載の訂正である。 4 再発防止策 コロナ禍の影響により業績が悪化したANAPだが、コロナ禍前は順調だったかというと、そうではなかった。同社は2013年11月に当時の東京証券取引所ジャスダック市場に上場したのだが、2014年8月期は既に赤字で、その後2016年8月期まで赤字が続いた(第26期有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」参照)。 その責任をとって役員報酬の減額も行っている(2014年4月11日開示「業績予想、配当予想の修正及び役員報酬の減額に関するお知らせ」、2016年10月7日開示「役員報酬減額に関するお知らせ」)。もともと開示体制も万全なものではなかったのだろう。そこにコロナ禍が来て、一気にまずさが露呈したのかもしれない。 同社は、現在、東京証券取引所スタンダード市場に上場しているが、同市場の上場維持基準を充たしておらず(流通株式時価総額の基準が不適合)、2021年12月20日に「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」を開示している。その計画期間は2023年8月期までとされている。 今回の開示「会計監査人選任の開示遅延に関するお知らせ」の「再発防止策」の記載は次のとおりである。 同社では、「情報取扱責任者及び開示担当者において、適時開示すべき事実が決定・発生したと認識した場合」(日本語がおかしな点には触れないが)に「『会社情報適時開示ガイドブック』を読み合わせる」ことが「社内チェック体制」の強化なのだという。これではまた不適切な開示を繰り返すことになるだろう。 適時開示は上場会社の義務である。業績がどうであれ、必ず履行しなければならない。それが無理ならば、上場維持を諦めるほかないだろう。 (了)
プラス思考の経済効果 【第9回】 「市民マラソンの経済効果」 関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩 1 大谷翔平選手の2022年契約更改後の経済効果 前回は2021年の大谷翔平選手が、日本人ではじめてMLBアメリカンリーグのMVPを獲得した時の経済効果について述べましたが、その後2022年のシーズンが終わってから1年間で日本人最高額の3,000万ドル(契約時の為替レートで約43億4,000万円)で契約を更改しました。 この新しい年俸と現在の大谷選手の人気、実力による2022年から2023年にかけての「大谷翔平選手の経済効果」を新たに推計してみることにします。アメリカにおける大谷翔平選手の直接効果は、計算の詳細は省略しますが以下のとおりと推定されます。 また、日本国内における大谷翔平選手の直接効果は、以下のように推定されます。 その結果、大谷選手の2022年から2023年にかけての直接効果は、日米合計で約211億6,176万円となります。 この直接効果を産業連関分析して経済効果を計算すると、約457億941万円となりました。2021年の経済効果が約227億2,074万円であったことを思えば、約2倍の経済効果です。 日本では、セ・リーグで王選手のホームラン日本人記録を破り、最年少で三冠王を獲得した村上宗隆選手の大活躍などで独走して優勝をした、「ヤクルトの優勝の経済効果」が約451億4,184万円であったことを思えば、大谷選手はたった1人でその金額を上回る経済効果を創り出したことになります。 私たちは大谷選手と同時代に生を受けて、大谷選手の活躍を見ることができる幸運を喜びたいと思います。新型コロナ、ロシアのウクライナ侵攻、物価の上昇など暗い話題ばかりの中で、1つの大きな明るい話題、清涼剤である大谷選手の活躍に感謝したいものです。 2 市民マラソンの経済効果 暑い夏が過ぎて気候がよくなると、日本ではマラソンの季節になります。2007年に第1回の「東京マラソン」が開催されましたが、それまでの国内のマラソン大会は有名マラソン選手が中心になり、それにマラソン自慢の一般市民が参加する形のマラソン大会でした。しかし、「東京マラソン」によって一般市民が大勢主役となって参加する市民マラソンが日本中に広がっていきました。 その理由は以下のとおりです。 3 全国の市民マラソン大会 現在、日本における市民マラソン大会は大小合わせて500前後あると言われています。一番規模の大きいものは東京マラソンですが、株式会社計測工房の2020年3月30日発表の「市民マラソン参加人数ランキング」によると、参加人数が3万人以上の大会は「東京マラソン」と「大阪マラソン」の2つであり、2万人~3万人未満の大会は「横浜マラソン」など8大会です。 そして、1万人以上2万人未満の大会は「つくばマラソン」など57大会、5,000人以上1万人未満の大会は「フロストバイトロードレース」など97大会があると述べられています。つまり、参加人数5,000人以上の市民マラソン大会は160~170と考えられます。さらに、参加者数2,000人以上5,000人未満の大会は約300大会と考えられています。 2020年度、2021年度は、新型コロナの影響などで全国の市民マラソンの多くが中止、延期、又は規模縮小での開催となりました。前述のように、市民マラソンは少額の費用で大きな経済効果をもたらし、さらに地域の知名度を上げて、地域の活性化に貢献するスポーツイベントですので、「ウィズコロナ」の中で2022年度は多くの地方自治体が市民マラソンを再開する予定です。 しかし、今年度開催される市民マラソンは、新型コロナ流行前の規模に急に戻るということは考えられません。やはり、新型コロナ、ロシアのウクライナ侵攻、国内のインフレの進行などの社会、経済、政治問題などが、今年度の市民マラソン開催にマイナスの影響を及ぼすからでしょうか。 4 2020年度の市民マラソンの経済効果 筆者は、2020年度に通常の形で全国の市民マラソンが開催されたらどれだけの経済効果になるかについて新型コロナ前の数値を基にして推計を試みました。推計の結果は以下のとおりでした。 以上の市民マラソンの経済効果を計算すると約7,123億円となりました。 つまり、2020年度に全国で市民マラソンがすべて開催されれば、合計約7,123億円の経済効果があったことになります。 5 大阪マラソンの経済効果 筆者はたびたび大阪マラソンの経済効果を計算してきているので、2022年度の「第11回大阪マラソン」の経済効果についても大阪マラソン組織委員会から入手したデータを基にして推計を行いました。 大阪マラソン組織委員会の話では、例年に比べて応募者、スポンサー、募金額などは激減し、沿道の観客もかなり減少するとの予想でした。計算の詳細は省略しますが、それらのデータに基づいて推計すると、2022年度の大阪マラソンの経済効果は98億7,900万円になり、新型コロナ前の2019年の177億4,900万円の約55.7%にとどまりました。 6 2022年度の市民マラソンの経済効果 2022年度の大阪マラソンの経済効果の比率を参考にすると、2022年度の全国の市民マラソンの経済効果は約3,968億円になりました。 2022年度の市民マラソンの経済効果は新型コロナ前と比べると、かなり少ない約3,968億円になりましたが、市民マラソンは地域の活性化、知名度の向上に貢献するスポーツイベントですので、来年度は新型コロナ前の水準に戻り、開催地が活性化することを期待しています。 (了)
《速報解説》 国税庁からグループ通算制度適用法人用の申告書別表等の記載例が公表される ~同日、令和4年度税制改正に係る法基通等の一部改正についての趣旨説明も明らかに~ 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 令和4年11月11日に、国税庁から「申告書別表の記載例(グループ通算制度適用法人用)」、「「欠損金の繰戻しによる還付請求書」及び「災害損失の繰戻しによる還付請求書」の記載例(グループ通算制度適用法人用)」が公表された。 グループ通算制度は、通算グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額等の計算及び申告を行い、その中で、損益通算等の調整を行う制度であるため、通算法人(通算グループ内の各法人)が申告に当たって作成する法人税申告書別表のうち一定のものについては、通算グループ内の他の法人の法人税申告書別表に記載する金額を集計等する必要がある。 そのため、この記載例は、通算法人が作成する法人税申告書別表に記載すべき各金額について、そのつながりや対応関係を明らかにして、グループ通算制度への理解や適正申告の一助となることを目的に公表されている。 また、それとは別に、令和4年度税制改正に伴って改正された法人税基本通達について「令和4年6月24日付課法2-14ほか1課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」が公表された。 以下、公表されたそれぞれの情報のポイントを紹介する。 1 申告書別表の記載例(グループ通算制度適用法人用) 「申告書別表の記載例(グループ通算制度適用法人用)」(以下「別表記載例」という)は、次の通算制度特有の取扱いに係る別表の記載例を示している。 各項目の構成については、記載例の解説の前段として、制度の仕組み、主要別表の作成の目的と使用イメージの解説も行われている。 ここでは、損益通算に係る別表の記載例を紹介することとする。 ※画像をクリックすると出典元である国税庁ホームページに遷移します(以降の画像も同様)。 (出典) 国税庁ホームページ(以降の画像も同様) 2 「欠損金の繰戻しによる還付請求書」及び「災害損失の繰戻しによる還付請求書」の記載例(グループ通算制度適用法人用) 「「欠損金の繰戻しによる還付請求書」及び「災害損失の繰戻しによる還付請求書」の記載例(グループ通算制度適用法人用)」(以下「還付請求書記載例」という)は、次の3つの事例について、「欠損金の繰戻しによる還付請求書」「通算法人の繰戻しの対象となる欠損金額とされる金額に関する明細書」「災害損失の繰戻しによる還付請求書」「通算法人の繰戻しの対象となる災害損失欠損金額とされる金額に関する明細書」「令和2年改正法附則第35条第2項の適用を受ける場合の還付所得事業年度の所得金額とされる金額及び法人税額とされる金額に関する明細書」の記載例を示している。また、別表1、別表4、別表7関係、別表7の3など関連する別表の記載例を示している。 3 令和4年6月24日付課法2-14ほか1課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明 「令和4年6月24日付課法2-14ほか1課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)の趣旨説明」(以下「趣旨説明」という)では、次の新設された通達について趣旨説明が行われている。 (1) グループ通算制度における投資簿価修正制度 このうち注目しておきたい点について紹介しておきたい。 ◎ 【新設】2-3-21の4(資産調整勘定対応金額等の計算が困難な場合の取扱い) 本通達では、投資簿価修正における資産調整勘定対応金額等の加算措置を適用する場合において、資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額の計算が困難なときは、課税上弊害がない場合に限って、その取得の時において計算される資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額を零とし、その取得後に追加取得した当該他の通算法人の対象株式で資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額の計算が困難であると認められる場合以外のものについて各追加取得の時における資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額を計算して加算措置の適用を受けることができる取扱いを定めている。 趣旨説明では「当該他の通算法人の対象株式は、通算完全支配関係発生日までに段階的に取得される場合があり、取得の初期段階における株式の保有割合が低い又は株式の取得時期が古いなどの理由により、対象株式の取得時における調整勘定対応金額の計算が困難な場合がある。例えば、当該他の通算法人の対象株式の取得時において当該他の通算法人が有する資産若しくは負債の内訳が不明である場合、その取得時に当該資産若しくは負債の時価評価をしておらず改めて時価評価をするための基礎資料もない場合又はその取得時における対象株式の取得価額若しくは当該他の通算法人の発行済株式総数を把握できない場合などが考えられる。」としている。 また「本通達は、上記4のような事情を考慮した取扱いであるから、意図的に調整勘定対応金額を零とすることにより課税上の弊害が認められるような場合には、本通達の取扱いの適用はないこととなる。例えば、本通達の注書1に定めるように、対象株式の取得時に調整勘定対応金額を計算した場合には負債調整勘定対応金額が計算される(つまり、簿価純資産価額に加算できる調整勘定対応金額の合計額が減少する)ことが見込まれるため、これを零としているような場合には、課税上の弊害が認められるため本通達の取扱いの適用はないこととなる。」ことを改めて説明している。 ◎ 【新設】2-3-21の6(資産調整勘定対応金額等の計算における負債調整勘定の金額の取扱い) 本通達の定めである「資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額の計算上、時価純資産価額の計算の基礎となる負債の額には退職給与債務引受額及び短期重要債務見込額の金額を含まないこと」について、図表を交えて趣旨を説明している。 また、「時価純資産価額の計算の基礎となる当該他の通算法人の有する負債の額とは、税務上の負債の額をいうのであるから、例えば、賞与引当金など繰入額の損金算入が認められない引当金の額は含まない」ことが説明されている。 ◎ 【新設】2-3-21の7(資産調整勘定対応金額等の計算の基礎となる資産及び負債) 本通達では、資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額について、例えば、その取得した時の直前の月次決算期間又は会計期間の終了の日に当該他の通算法人が有する資産及び負債の同日における価額を基礎として計算している場合には、同日に有する資産及び負債の内訳とその対象株式の取得時に有する資産及び負債の内訳に著しい差異があるなどの課税上弊害がない限り、これを認める」ことを定めている。 この点について、次の趣旨説明がなされている(以下、抜粋したものを一部加工)。 (2) グループ通算制度における外国税額控除制度 このうち注目しておきたい点について紹介しておきたい。 ◎ 【新設】16-3-50(隠蔽又は仮装により当初申告税額控除額固定措置が適用されない場合) 本通達では、法人税法第 69 条第 16 項の当初申告税額控除額固定解除措置が適用される場合のうち、通算法人又は他の通算法人が、適用事業年度における税額控除額の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装して税額控除額を増加させることによりその法人税の負担を減少させ、又は減少させようとする場合(法 69⑯一)について、例示的に明らかにしている。 この点について、次の趣旨説明がなされている(以下、抜粋したものを一部加工)。 ◎ 【新設】16-3-51(進行年度調整規定の適用に係る対象事業年度の意義等) 本通達の(1)では、法人税法第 69 条第 18 項又は第 19 項の進行年度調整措置が適用される対象事業年度とはいかなる事業年度をいうのかを明らかにしている。また、(2)においては、国税通則法における除斥期間との関係を踏まえて進行年度調整措置が適用される期限について明らかにしている。 趣旨説明では『本通達(1)では、その異なること(以下「相違事実」という)が判明した日(以下「判明日」という)の属する事業年度を対象事業年度として進行年度調整措置を適用するのが相当であることを原則として定めているが、他方で、「相違事実が判明した日」とするのみでは、客観性に欠け、進行年度調整措置の適用関係が不安定となるため、本通達の(1)では、具体的な判明日を明らかにしている。』(趣旨説明を一部加工)とし、相違事実がある場合の処分等の区分に応じた各手続と判明日の例をまとめた次の図表を示している。 また、本文(1)の注書について、「例えば、3月決算である通算法人が、X年3月期の税額控除額について、X1年4月1日からX1年3月期の法定申告期限(申告期限が2月延長されている場合はX1年7月末日)までの間に誤りがあることが判明した場合には、判明日の属する事業年度であるX2年3月期ではなく、X1年3月期を対象事業年度として早期に進行年度調整を行うことを望む法人もあると考えられるところ、過去適用事業年度の誤りを可及的速やかに是正することに特段の弊害もないことから、法人がこのような処理を行う場合には、そのような処理も可能であることを明らかにしている。」としてその例示と趣旨を説明している。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2022年11月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.495を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第109回】 「防衛費の倍増と財源の確保」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 わが国を取り巻く安全保障環境は、中国、北朝鮮、ロシアによる軍事活動の活発化等によって、急速に厳しさを増している。 今年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針 2022」(いわゆる「骨太の方針」)で、ロシアによるウクライナ侵略などを踏まえ、新たな国家安全保障戦略等の検討を加速し、国家安全保障の最終的な担保となる防衛力を「5年以内に抜本的に強化する」こととされた。また、「骨太の方針」では、北大西洋条約機構(NATO)諸国が国防予算を対GDP比2%以上とする基準を満たすという誓約へのコミットメントを果たすための努力を加速することと、防衛力強化について改めて合意がなされたことにも言及されている。 また7月の参院選で自民党は、「NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に、真に必要な防衛関係費を積み上げ、来年度から5年以内に、防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指す」ことを公約に掲げた。 こうした状況の下、政府は、新たな国家安全保障戦略、防衛計画の大綱(防衛大綱)、中期防衛力整備計画のいわゆる「三文書」の策定作業が進められている。 〇「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の設置 現在のわが国の防衛費は対GDP比で約1%であり、これを2%にすると現在5兆円規模の防衛費が10兆円規模に拡大するということになり、その規模感が先行して取りざたされていたが、必要となる防衛力の内容の検討、そのための予算規模の把握、財源の確保を一体的に検討するために、9月に入って政府に、「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」が設置された。 11月9日に開かれたこの有識者会議の第3回会合では、財務省から財源確保の基本的な考え方が提示された。歳出改革を進めてもなお不足する財源については税制上の措置を含め多角的に検討し、令和5年度予算編成・税制改正において所要の結論を得るとされ、その視点として次のような考え方が挙げられている。 この考え方を示した財務省の資料には、かつての湾岸戦争における資金貢献や東日本大震災の復興の財源フレームも紹介されているが、いずれも巨額とはいえ一時的な歳出に対応する時限的な措置であり、今回の防衛費の増額のように恒久的になる可能性が高い歳出の財源確保とは性質が異なっていることにも注意が必要であろう。 〇東日本大震災の復興財源フレーム 平成23年3月11日に発生した東日本大震災の復興財源をめぐっては、当初は、所得税・個人住民税均等割・たばこ税・法人税が財源とする案が提示されていた。 具体的には、所得税については、税額の4%を復興特別所得税とし、平成25年1月から10年間続けることとされていた。また、個人住民税均等割も年500円の増税で、平成26年度から5年間、実施することとされていた。 たばこ税、地方たばこ税については、個人所得課税における負担を軽減する観点から、それぞれ1円/本の増税が行われることとなっており、たばこ税の増税については復興特別たばこ税として平成24年10月から10年間、地方たばこ税の引上げは平成24年10月から5年間の措置とされていた。 法人税については、平成23年度税制改正法案における法人実効税率の5%引下げと課税ベースの拡大を平成24年4月1日以後開始事業年度から適用した上で、平成24年度から法人税額の10%の復興特別法人税を3年間上乗せすることとされていた。 その後、同年11月10日、自民、公明、民主三党の税調会長間の協議で合意が成立し、復興財源確保特別措置法案(東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法)の修正法案として、復興特別所得税の課税の対象となる期間を、平成25年から25年間に、また復興特別所得税の税率を100分の4から100分の2.1に改め、復興特別たばこ税に係る規定を削除するほか、復興債等の償還期間の変更(25年)、決算剰余金の償還費用の財源への活用、東日本大震災からの復興に係る国の資金の流れの透明化を図り復興債の償還を適切に管理するため、特別会計を2012年度に設置等を措置することとされた。 復興特別法人税については特段の修正はなく、平成24年4月1日以後に開始する事業年度から、基準法人税額に対して10%の税率を3年にわたって実施することとなった。平成23年度税制改正における法人税率の引下げと復興特別法人税とを合わせると、法人実効税率は、40.69%から38.01%へ引き下げられる結果となった。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第5回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (2) 暗号資産の贈与・低額譲渡に関する規定 棚卸資産の贈与等の場合の総収入金額の算入について、次の①の事由により、居住者の有する棚卸資産の移転があった場合には、次の②の金額相当額は、その者のその事由が生じた日の属する年分の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入する(所法40①)。 (※1) 相続人に対する贈与で被相続人である贈与者の死亡により効力を生ずるものを除く。 (※2) 包括遺贈及び相続人に対する特定遺贈を除く。 例えば、棚卸資産を贈与したり、著しく低い価額の対価で譲渡したりした場合には、この規定が適用されて、その棚卸資産の価額(通常販売価額であるが、実務上は、事業者が、通常販売価額のおおむね70%以上、かつ、取得価額以上の金額をもって帳簿に記載し、これを事業所得の金額の計算上総収入金額に算入しているときは、当該金額でも認められる。所基通39-1、39-2)相当額が総収入金額に算入されることになる。 この場合の著しく低い価額の対価とは、実務上、その棚卸資産の価額(通常販売価額)のおおむね70%に満たない額をいうものとされている(所基通40-2)。著しく低い価額の対価による譲渡をした場合には、その対価の額と譲渡時のこの価額との差額のうち実質的に贈与をしたと認められる金額が、総収入金額に算入される(所法40①)。 この場合の実質的に贈与をしたと認められる金額とは、上記資産の価額のおおむね70%相当額からその対価の額を控除した金額として差し支えないとされている(所基通40-3)。 ただし、実務上、著しく低い価額の対価による譲渡について定める上記所得税法40条1項2号の規定の趣旨は、たとえ譲渡の形式をとっている場合でも、実質的に部分的な贈与をしたと認められる行為は、その実質に着目して課税処理をすることにあるから、棚卸資産を著しく低い対価で譲渡した場合であっても、商品の型崩れ、流行遅れなどによって値引販売が行われることが通常である場合はもちろん、実質的に広告宣伝の一環として、又は金融上の換金処分として行うようなときには、この規定の適用はないとされている(所基通40-2(注))。 また、注意すべきことに、居住者が上記贈与、遺贈又は低額譲渡により取得した棚卸資産を譲渡した場合において、その事業所得、山林所得、譲渡所得又は雑所得の金額の計算上、その居住者が、その棚卸資産について、贈与又は遺贈の場合には上記②の価額、低額譲渡の場合にはその譲渡の対価の額と②の価額との合計額をもって取得したものとみなされる(所法40②)。 もちろん、贈与等を受けた者も個人である場合には贈与税、贈与等を受けた者が法人である場合には法人税の課税関係の検討も必要となる。 上記所得税法40条が適用される棚卸資産には、事業所得の基因となる山林、所得税法39条に規定する資産(本連載第4回参照)、有価証券で事業所得の基因となるものに加えて、所得税法48条の2第1項に規定する暗号資産、すなわち資金決済法上の暗号資産が含まれる(所法40、所令87)。 含み益のある暗号資産はその元の保有者である贈与者、遺贈者又は譲渡人において所得(未実現の利益)が発生していると観念し得ること、含み益のある暗号資産を譲渡することにより、利益を移転することができることなどを考慮すると、暗号資産に対して元の保有者の段階でその含み益に課税するような制度を採用することにも一定の理解が寄せられよう。 しかしながら、留意しておくべき点がある。現行所得税法2条1項16号は、棚卸資産の定義から暗号資産を除いており、このことは、暗号資産が棚卸資産に該当し得ることを認めていることを暗に示している(本連載第4回参照)。 他方、暗号資産を贈与等した場合には、上記所得税法40条1項の適用がないのではなく、むしろ、暗号資産に対しては、棚卸資産の性質を有するか否かを問わず、つまり販売用であるか、事業所得の基因となるものかという保有目的を問わず、同項が適用されるような仕組みが採用されている(所法40①、所令87)。 このような観点から眺めると、暗号資産に対しては通常の資産よりも、納税者にとって厳しい課税の仕組みが採用されているといえる。 なお、この所得税法40条1項の規定は、事業所得の金額又は雑所得の金額の総収入金額に関する定めであるが、その規定ぶりからすると、暗号資産に係る所得の所得区分を事業所得又は雑所得に限定する趣旨までも含むものではないと解される。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第44回】 「代表者の長男が同伴した海外渡航費について損金算入が認められなかった事例」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 役員の親族が同伴する海外渡航費の取扱い 法人の役員や使用人の海外渡航に関して、その海外渡航が法人の業務の遂行上必要なものであり、かつ、当該渡航のため通常必要と認められる部分の金額であれば、旅費として損金算入が可能である(法基通9-7-6)。このうち、役員に関しては、法人の業務の遂行上必要ではなかったり、通常必要と認められる部分の金額を超過したりした場合において、当該旅費を損金算入するには事前確定届出給与の適用を受ける他ないと考えられ、実務上は定期同額給与に該当しない役員給与として損金不算入とされる。 この点、当該役員の海外渡航に配偶者などの親族が同伴するケースを想定して、課税庁は法人税基本通達9-7-8を用意している。 法人税基本通達9-7-8では、役員の海外渡航に際し、その親族等を同伴させて法人が旅費を負担した場合について、原則的にはその役員の給与となる旨を示すと共に、以下のように、明らかにその海外渡航の目的を達成するために必要な同伴と認められる場合に限り給与とされない旨が示されている。 【海外渡航の目的を達成するために必要な同伴と認められる場合の例示】 「目的を達成するために必要な同伴と認められる場合」の判断につき、ダイレクトに上記例示に当てはまる事情があればよいが、その是非について悩むケースもあるかもしれない。 (2) 代表者の長男が同伴した海外渡航費について判断が示された事例 ここで、代表者の長男が同伴した海外渡航費について、裁判所が法人税基本通達9-7-8に触れながら判断を示した事例として、横浜地裁平成17年1月19日判決がある(※1)。以下にその概要について触れる。 (※1) 税務訴訟資料255号順号9899、TAINS:Z255-09899。なお、本件の裁決例として、国税不服審判所平成15年2月13日裁決がある(裁決事例集65集414頁、TAINS:J65-3-30)。 本件は、小学生であった代表者夫妻の長男の同伴につき、納税者は以下のように主張し、法人税基本通達9-7-8に鑑みて損金算入されるべきであると主張した。 裁判所は、これらの納税者の主張に対し、当該会議について同席しただけでは業務上必要な行為とはいえず、出席して発言したという客観的な証拠もないとした。そして、長男が小学生であったことに鑑み、納税者と取引先の経営者家族相互の信頼関係の醸成に資するということができるとしても、それ以上に、納税者の現在の業務の円滑な遂行上の必要性があるものとまでは認め難い旨を示した。 また、法人税基本通達9-7-8の趣旨について、「海外渡航費が損金の額に算入されるかどうかは、国際会議への出席等という名目だけではなく、当該国際会議の性質や配偶者の同伴が必要な事情を個別的、実質的に検討して、あくまでも当該法人の業務の遂行上必要な費用であるかどうかによって判断されるべきもの」であると示している。 (3) 本件裁判例に鑑みた実務上の対応 上記裁判例の意義は、親族等が役員に同伴して海外渡航する場合の渡航費に係る損金算入性の判断について、その渡航があくまでその時点で法人の業務に資するかどうかとすべき点を明確にした点にある。当時小学生であった長男がその時点で法人に資する要素や行動があったかどうかという点で、大いに疑問符が付くことは当然の判断といえるため、裁判所が示した判断は妥当だと考える。さらに、備えておくべきエビデンスに言及したことにも意義があるといえよう。 法人税基本通達9-7-8の解説によると、法人の業務上必要な会議への出席について配偶者を同伴することが要件とされるケースを例として、このようなやむを得ない事情で海外渡航をする場合にまで海外渡航費を給与とすることは実情からみて適当ではない旨が示されていることから(※2)、当該通達による損金算入はその渡航時点の現況によって、限定的に判断すべきだと思われる。 (※2) 髙橋正朗編著『法人税基本通達逐条解説 十訂版』(税務研究会出版局、2021)1093頁。 これに対して、海外出張に役員の親族が同伴することはビジネス上あり得ることでもあるため、そのような場面に直面した場合には、当該通達の文言にもある「その海外渡航の目的」が何であったのかをヒアリングするとともに、海外で行われた会議の議事録や行程表、海外出張報告書や取引先等からの招待状等を確認した上で、渡航時点の現況により損金算入を行うか否かを慎重に判断したい。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第46回】 「適格現物分配があった場合の繰越欠損金の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、適格現物分配があった場合の繰越欠損金の取扱いについて解説します。 1 被現物分配法人の繰越欠損金額の使用制限 (1) 内容 適格現物分配の場合、現物分配法人の資産を簿価で譲渡することにより、含み損益が被現物分配法人に移転するため、被現物分配法人側で含み益を実現させ、被現物分配法人の欠損金を使用することが可能となります。したがって、そのような租税回避行為を防止するために、被現物分配法人の欠損金について一定の使用制限が課されています。 適格現物分配のうち、次のいずれにも該当しない適格現物分配については、被現物分配法人の未処理欠損金額の使用が制限されます(法法57④、法令112⑨⑩)。 (※) 欠損金利用を目的に法人を設立する等一定の場合が除かれています(法令112④⑨)。 (2) みなし共同事業要件 適格現物分配は、資産を移転するもので、事業の移転を前提としたものではないため、適格合併等と異なり、みなし共同事業要件によって使用制限が課されないこととなる措置は設けられていません。 2 繰越欠損金の使用制限の対象金額 (1) 内容 被現物分配法人の繰越欠損金額について使用制限が課された場合には、以下の繰越欠損金額を使用することができません(法法57④、法令112⑤⑪)。 (※) 平成30年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金額については、前9年内事業年度とされています。 制限対象金額をまとめると、下図のとおりとなります。 (2) 特定資産譲渡等損失額 「特定資産譲渡等損失額」とは、支配関係事業年度開始の日において被現物分配法人が有していた資産の譲渡損失等のことをいいます。なお、特定資産譲渡等損失額については、次回詳しく解説します。 3 時価評価した場合の特例 (1) 内容 被現物分配法人において、含み益が生じている資産を多額に有しており、かつ、欠損金が生じているケースでは、仮に含み益を実現させれば、欠損金のうち含み益部分は自社で利用することが可能であり、租税回避行為ではないため、欠損金を制限する必要はないと考えられます。 したがって、支配関係事業年度の前事業年度終了時の資産及び負債について時価評価した場合には、欠損金の制限対象金額の計算について特例が設けられています(法令113)。 (2) 時価純資産超過額 「時価純資産超過額」とは、時価純資産価額(資産の時価評価額の合計から負債の時価評価額の合計を減算した金額)が簿価純資産価額(資産の帳簿価額の合計から負債の帳簿価額の合計を減算した金額)を超える場合のその超える部分の金額をいいます。 (3) 簿価純資産超過額 「簿価純資産超過額」とは、時価純資産価額(資産の時価評価額の合計から負債の時価評価額の合計を減算した金額)が簿価純資産価額(資産の帳簿価額の合計から負債の帳簿価額の合計を減算した金額)に満たない場合のその満たない部分の金額をいいます。 (4) 時価純資産超過額がある場合の特例 被現物分配法人の支配関係事業年度の前事業年度終了時における時価純資産超過額が支配関係前事業年度末の未処理欠損金額以上の場合には、欠損金の制限はありません。 被現物分配法人の支配関係事業年度の前事業年度終了時における時価純資産超過額が支配関係前事業年度末の未処理欠損金額に満たない場合には、支配関係前欠損金額のうち、その満たない部分の金額のみ欠損金が制限され、支配関係事業年度以後の未処理欠損金額については制限されません。 (5) 簿価純資産超過額がある場合の特例 簿価純資産超過額が支配関係事業年度以後に生じた特定資産譲渡等損失額に満たない場合には、支配関係事業年度前の未処理欠損金額の全額が制限対象となり、支配関係事業年度以後の事業年度の未処理欠損金額については、簿価純資産超過額のみ制限されます。 時価評価した場合の特例を適用したときの制限対象金額をまとめると、下図のとおりとなります。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 4 移転資産の含み損益がある場合の特例 (1) 内容 事業を移転しない適格現物分配の場合、移転資産の含み益に対応する欠損金の使用を制限すれば、租税回避行為に十分対応できます。 したがって、移転資産の含み損益に応じた欠損金の制限対象金額の計算の特例が設けられています(法令113)。 (2) 移転資産に含み損がある場合の特例 移転資産に含み損がある場合には、欠損金の制限はありません。 (3) 移転資産に含み益がある場合の特例 移転資産の含み益が支配関係前事業年度末の未処理欠損金額に満たない場合には、移転資産の含み益に相当する金額のみ欠損金が制限され、支配関係事業年度以後の未処理欠損金額については制限されません。 移転資産の含み益が支配関係前事業年度末の未処理欠損金額を超える場合には、支配関係事業年度前の未処理欠損金額の全額が制限対象となり、支配関係事業年度以後の事業年度の未処理欠損金額については、移転資産の含み益から支配関係前欠損金額を控除した金額に達するまでの金額のみ制限されます。 事業の移転がない場合の特例を適用したときの制限対象金額をまとめると、下図のとおりとなります。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 5 被現物分配法人株式のみを現物分配する場合の特例 現物分配法人が被現物分配法人株式のみを現物分配する場合、つまり、子会社が保有する親会社株式を現物分配する場合には、被現物分配法人の欠損金の使用制限はありません。この場合、時価評価した場合の特例や移転資産の含み損益がある場合の特例と違い、申告要件は課されていません。 今回詳しく説明できなかった「特定資産譲渡等損失額」については、次回解説します。 ◆適格現物分配があった場合の繰越欠損金の取扱いのポイント◆ 租税回避防止のため、被現物分配法人の欠損金について使用制限規定が設けられています。 合併等と違い、みなし共同事業要件を満たす場合の措置が設けられていません。 欠損金の制限対象金額の計算には、時価評価した場合の特例が設けられています。 適格合併と違い、適格現物分配の場合には、欠損金の制限対象金額の計算には、移転資産の含み損益がある場合の特例や被現物分配法人株式(親会社株式)のみを現物分配する場合の特例が設けられています。 (了)
相続税の実務問答 【第77回】 「葬式費用の範囲②(2ヶ所で葬式を行った場合)」 税理士 梶野 研二 [答] お父様の御葬儀は、お父様の活動の中心だった東京と出身地であるQ市の2ヶ所で行われたとのことですが、そのいずれも亡くなられたお父様を葬る儀式である葬式と認められます。したがって、いずれに要した費用も相続税の課税価格の計算上、葬式費用として、控除することができると考えられます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 葬式費用の控除 前回説明しましたように、相続人(無制限納税義務者に限ります)が負担した被相続人に係る葬式費用は、その相続人の相続税の課税価格の計算上、控除することができます(相法13①二)。 葬式費用とは、死者を葬る儀式に要した費用をいい、次に掲げる金額の範囲内のものとされています(相基通13-4)。 葬式の方式は、被相続人や家族の信仰する宗教、地域の慣習や社会環境、その家族の考え方によりさまざまであり、その時代背景によっても変化します。また、葬式は、故人の生前の活動の中心であった場所で行うこともあれば、菩提寺のある出身地などで行うこともあります。死亡後、すぐに葬式をすることができない場合や、遠方で葬式を行う場合には、先に火葬を行うこともあります。さらには、上記通達にも定められていますように、仮葬式と本葬式が行われることもあります。 このように葬式の形態も一様ではありませんので、その費用が葬式費用に該当するかどうかの判断は、具体的な個々の事案ごとに、社会通念に従って判断することになります。 2 告別式を2回に分けて行った場合の相続税の葬式費用の取扱いについての文書回答事例 被相続人の住所地や活動の場と親戚や知人の多い出身地が離れているような場合には、2ヶ所で葬式を行うこともあります。告別式を2回に分けて行った場合の相続税の葬式費用の取扱いについては、次のような照会がなされ、平成22年11月5日付で名古屋国税局審理課長から照会者の意見のとおりで差し支えない旨の回答がなされています。 ○照会及び回答の要旨 (※) 「事前照会の趣旨」、「事前照会に係る取引等の事実関係」及び「事前照会者の求める見解となることの理由」の全文については、国税庁ホームページの文書回答事例「告別式を2回に分けて行った場合の相続税の葬式費用の取扱いについて」を確認してください。 3 ご質問の場合 ご質問の場合、お父様の生前の活動の中心だった東京と出身地であるQ市の2ヶ所でお父様の告別式を行っていますが、文書回答事例の場合と同様に、いずれもが亡くなられたお父様を葬る儀式としての葬式であると認められます。 したがって、いずれに要した費用についても、相続税の課税価格の計算上、葬式費用として控除することができると考えられます。 (了)
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第60回】 「事業の全部を転業した場合の特定事業用宅地等の特例の適用と 個人版事業承継税制の適用の可否」 税理士 柴田 健次 [Q] 被相続人である甲は飲食店(中華料理屋)の事業を40年間営んでいましたが、令和4年10月9日に相続が発生しました。甲の飲食店の事業の用に供していたA宅地及び建物(いずれも甲が100%所有)及びその他財産の全てを長男である乙が相続しました。甲は開業以来、青色申告者として事業を営んでいました。相続開始時の甲の年齢は80歳で乙の年齢は50歳となります。 乙は相続開始前までは他の会社で喫茶店の従業員として勤務していましたが、相続後は、会社を退職し中華料理屋の事業を廃止し、A宅地及び建物で喫茶店業を行っています。乙は令和4年12月までに、甲の所轄税務署に青色申告で準確定申告書の提出を行い、乙の所轄税務署に開業届出及び青色申告の承認申請書の提出を行っています。 上記の場合には、小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例の適用を受けることは可能でしょうか。また、個人版事業承継税制の相続税の納税猶予の適用を受けることは可能でしょうか。 [A] A宅地については、小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例(以下単に「特例」という)を受けることはできませんが、個人版事業承継税制の相続税の納税猶予の適用については、他の要件を満たせば受けることができます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 特定事業用宅地等の特例の適用の適否 (1) 特定事業用宅地等の事業継続要件 特定事業用宅地等の要件として、被相続⼈又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」という)の事業(貸付事業を除く、以下1において同じ)の⽤に供されていた宅地等を相続又は遺贈により取得した被相続人の親族が次に掲げる場合の区分に応じていずれかを満たす必要があります(措法69の4③一)。 なお、特定事業用宅地等の意義については、【第11回】で解説しています。 (2) A宅地の事業継続要件の判断 A宅地については、(1)の①被相続人の事業を承継した場合の宅地に該当しますので、宅地等を取得した親族が被相続人の事業を引き継ぎ、かつ、申告期限までその事業を営んでいることが要件とされています。本問の場合には、被相続人の事業を申告期限まで営んでいませんので、特例の適用を受けることはできません。 なお、被相続人の事業(中華料理屋)が飲食店業であり、乙の事業(喫茶店業)も飲食店業であることから事業の同一性が全くないわけではありませんが、下記の日本標準産業分類(平成25年10月改定・平成26年4月1日施行)の小分類では、中華料理店が小分類番号762の専門料理店であるのに対して、喫茶店は小分類番号767の喫茶店であるため、小分類が異なっています。 (※) 総務省ホームページ「日本標準産業分類(平成25年10月改定)(平成26年4月1日施行)」より一部抜粋、赤文字加工は筆者による。 事業の同一性の判断については、明確な基準があるわけではありませんが、1つの判断基準として日本標準産業分類の小分類が参考となります。もっとも、被相続人の事業と転業する事業との関連性や営業許可基準が同一であるか否かによっても判断が分かれることもありますので、あくまでも日本標準産業分類の小分類も含めて総合勘案して判断する必要があります。 なお、事業の同一性の判断については、本連載【第12回】でも解説しています。 2 個人版事業承継税制の適用の可否 (1) 個人版事業承継税制の適用要件 第一種相続認定(先代事業者から後継者への相続認定)の後継者及び被相続人については、それぞれ下記の要件を満たす必要があります。 ① 後継者の要件(措法70の6の10②二、円滑化規則6⑯八) (※) 「⻘⾊申告の承認」を受けるためには、相続の開始を知った⽇の時期に応じて、それぞれに定める期間内に納税地の所轄税務署⻑へ申請を⾏う必要があります(所法144、所基通144-1)。 ② 被相続人の要件(措令40の7の10①一、円滑化規則6⑯八) (2) 後継者の事業従事要件 贈与の場合には、贈与の日まで引き続き3年以上にわたり、相続の場合には、相続開始の直前に特定事業用資産に係る事業又は事業に準ずるものとして同種又は類似の事業に係る業務に従事していたことが必要となります。 この場合における「特定事業用資産に係る事業と同種又は類似の事業」に該当するかどうかの判定は、日本標準産業分類に掲げる中分類(中分類がない場合には大分類)に基づき行うこととされています。また、その後継者が従事していた事業が中分類上、特定事業用資産に係る事業と異なるものに分類される場合であっても、後継者がその事業において従事していた業務がその特定事業用資産に係る事業において行われる業務と同種又は類似のものであるときは、特定事業用資産に係る事業に従事していた場合に該当するものとされています(措通70の6の8-20、70の6の10-20)。 したがって、先代事業者の事業が中華料理屋で、後継者の事業が喫茶店である場合には、いずれの場合においても中分類は飲食店業であるため、同種又は類似の事業に該当することになります。つまり、本問の場合には後継者の事業従事要件は満たされていることになります。 (3) 後継者の事業供用要件 後継者は、「特定事業用資産に係る事業」を引き継ぎ、相続税の申告書の提出期限まで引き続き当該特定事業用資産の全てを有し、かつ、自己の事業の用に供していることが必要とされています。上記(2)で解説のとおり、相続開始前の後継者の従事していた業務が「特定事業用資産に係る事業」において行われる業務と同種又は類似のものである場合には、「特定事業用資産に係る事業」に従事していたものとして取り扱われることとされており、「特定事業用資産に係る事業」と同種又は類似の事業に該当するかどうかの判定は、日本標準産業分類に掲げる中分類(中分類がない場合には大分類)に基づき行うこととされていますので、本問の場合における「特定事業用資産に係る事業」とは、飲食店としての事業を意味するものと考えられます。 したがって、乙は飲食店として、「特定事業用資産に係る事業」を引き継ぎ、相続税の申告書の提出期限までA宅地及び建物を自己の事業の用に供していますので、事業供用要件は満たされることになります。 3 特定事業用宅地等の特例と個人版事業承継税制の事業の同一性の考察 特定事業用宅地等の特例については、上記1で解説のとおり、被相続人の事業を承継し、相続税の申告期限までその被相続人の事業を継続することが要件となっています。本問の場合のように事業を転業している場合には、被相続人の事業と転業した事業が同一であるか否かが問題となります。この場合の事業の同一性について明確な基準がないため、実務上は、日本標準産業分類の小分類等を参考にして判断を行います。 これに対して、個人版事業承継税制については、上記2で解説のとおり、特定事業用資産を相続又は遺贈により取得した後継者が相続の開始の直前において特定事業⽤資産に係る事業⼜はこれと同種若しくは類似の事業に従事し、相続後にその特定事業用資産に係る事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該特定事業用資産の全てを有し、かつ、自己の事業の用に供していることが要件となっています。本問の場合のように乙の相続開始前及び相続開始後の事業が被相続人の事業と同一であるかどうかが問題となりますが、事業の同一性については、日本標準産業分類の中分類によることが租税特別措置法関係通達70の6の8-20、70の6の10-20により明らかにされています。 特定事業用宅地等の特例が相続という一時点の事業承継の問題であるのに対して、個人版事業承継税制は、先代事業者の特定事業用資産の円滑な承継を促進するため、贈与を主軸とした一定期間の事業承継の問題であるため、後者の方がより幅の広い事業承継に対応した制度となっています。また、特定事業用宅地等の特例が宅地等のみの減額特例であるのに対して、個人版事業承継税制については、特定事業用資産(本連載【第59回】で解説)を対象としている点についても、後者の方が幅の広い事業承継に対応しているといえます。 したがって、事業の同一性の範囲についても特定事業用宅地等の特例よりも個人版事業承継税制の方が幅が広いと解釈することができます。 もっとも、特定事業用宅地等の特例の事業の同一性について何らかの明確な基準が望まれることになりますので、今後の税制改正等の情報には、注視すべき内容となります。 ★実務上のポイント★ 特定事業用宅地等の特例と個人版事業承継税については選択適用とされていますが、それぞれ要件が異なるため、特定事業用宅地等の特例を受けられない場合でも個人版事業承継税制の適用を受けることができる場合もありますので、それぞれの要件の確認と適用の可否を判断する必要があります。 (了)