《速報解説》
研究開発投資の質の向上と量の増加を目指す研究開発税制の改正
~令和5年度税制改正大綱~
弁護士 羽柴 研吾
1 改正の背景
令和4年12月23日(金)に閣議決定された「令和5年度税制改正大綱」において、研究開発税制の拡充と延長が行われることになった。
研究開発投資を通じたイノベーションは、社会課題を成長のエンジンへと転換するために不可欠なものであるが、我が国の研究開発投資の伸び率は他の主要国に比して低いことが指摘されてきた。また、スタートアップとのオープンイノベーションや高度研究人材の活用も欧米に比して十分に進んでいないことも指摘されてきたところである。
そこで、令和5年度税制改正において、主として次の3つの観点から改正が行われることになった。なお、従来の控除率の上限引上げ、控除上限・控除率の上乗措置の時限措置については、3年間延長されることになっている。
① 一般型の控除上限及び控除率の見直し
② オープンイノベーション型のスタートアップの定義の見直し及び高度研究人材の活用を促す措置の創設
③ 試験研究費の範囲の見直し
2 改正の内容
(1) 一般型の控除上限及び控除率の見直し
研究開発投資の維持・拡大に対するインセンティブを強化するため、試験研究費の増減割合に応じて控除上限が変動する制度を導入するとともに、控除率の傾きを見直す改正が行われた。なお、時限措置(控除率の上限引上げ、控除上限・控除率の上乗せ措置)については、適用期限が3年間延長されることになった。
現行制度においては、控除上限は25%とされているが、研究開発に積極的な企業のように税額控除上限に到達した企業に対して、更なる研究開発のインセンティブを与えるために、試験研究費の増減率に応じ税額控除の上限額が次のように変動するものとされた。
(※) 経済産業省「令和5年度(2023年度)経済産業関係 税制改正について」P20より
また、研究開発費を増加させるインセンティブを与えられるように、試験研究費の増減率に応じた税額控除率のカーブを、次のように変更することとされた。
(※) 経済産業省「令和5年度(2023年度)経済産業関係 税制改正について」P20より
(2) オープンイノベーション型のスタートアップの定義の見直し及び高度研究人材の活用を促す措置の創設
幅広いスタートアップ企業との共同研究・委託研究を促すため、オープンイノベーション型のうち研究開発型ベンチャーの範囲を大幅に拡大することとされた。
現行制度では、経済産業大臣が認定したベンチャーファンドから出資を受けたベンチャー企業等を研究開発型ベンチャー企業としていたが、次の条件を満たすスタートアップのうち経済産業大臣の証明書の交付(交付手続のイメージは次のとおり)を受けたものを対象とすることとされた(これによって税制の対象となる企業が約200社から2,000社以上に増えることが見込まれている)。
① 設立15年未満(設立10年以上の場合は営業赤字)
② 売上高研究開発費割合10%以上
③ スタートアップに対する投資を目的とする投資事業有限責任組合の出資先又は研究開発法人の出資先
④ 未上場の株式会社かつ他の会社の子会社ではないもの 等
(※) 経済産業省「令和5年度(2023年度)経済産業関係 税制改正について」P21より
質の高い研究開発を促進し、革新的なイノベーションを生み出す観点から、オープンイノベーション型の類型の1つに、博士号取得者及び外部研究者を雇用した場合に係る人件費(工業化研究を除く)の試験研究を行う者の人件費に占める割合を対前年度比で3%以上増加する場合、これらの人件費の20%を税額控除できる制度が新たに創設されることとなった。
(3) 試験研究費の範囲の見直し
サービス開発に関して、現行制度では、センサー等を活用して自動的に大量のデータを収集することを対象としていたが、新たなサービス開発を促すため、既存データ(企業が既に保有しているビッグデータ)を活用する場合も一定の要件の下で対象に含められることになった。
一方で、現行制度では、性能向上を目的としない開発業務について考案されたデザインに基づく設計・試作であっても税制の対象に含められていたが、税制の対象とする研究開発の質を高めていくため、性能向上を目的としないものは、対象外となった。
3 適用時期
上記改正の適用時期については、明らかにされていない。
(了)