事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第49回】 「会社規模の変更による株価対策」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳 相談内容 私はオフィスビルの管理・清掃業を営むB社を経営しています。近い将来、長男のF専務への事業承継を考えているのですが、顧問税理士からは株価対策を行ってからB社株式を贈与した方がよいとのアドバイスを受けています。 当社は利益体質の会社ではないのですが、昔から保有している土地の含み益が非常に大きく、類似業種比準価額方式よりも純資産価額方式による株価のほうが高くなっています。 当社は、従業員数35人、総資産価額(帳簿価額)14億円、売上高4億5,000万円の中小企業ですが、会社規模は中会社の中(L=0.75)となり、株価の4分の1を純資産価額で算定しなければならないようです。 金融機関からも少し工夫すれば会社規模の区分を引き上げることができそうなので、株価対策を検討してはどうかと提案されています。株価対策として、どのような方法が考えられるでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 評価対象会社の規模に応じた評価方式 同族株主等が非上場株式を贈与・相続により取得する場合の評価は、評価対象会社の規模に応じて類似業種比準価額方式、純資産価額方式及びこれらの方式を併せた併用方式により行われます(財基通178、179)。 評価対象会社の会社規模が上位の区分になるほど類似業種比準価額を採用できる割合が大きくなるため、純資産価額が類似業種比準価額の株価より高い会社においては、会社規模を上位の区分に引き上げて類似業種比準価額の割合を増やすことが、株価の引下げにつながります。 〈図1:評価会社の規模に応じた評価方式〉 (※) 算式中の「L」は、評価対象会社の総資産価額及び従業員数又は取引金額に応じて3つに区分され、0.9/0.75/0.6のいずれかとなります。 [2] 会社規模の判定 会社規模の判定において、従業員数が70人以上の会社は、評価対象会社の業種、総資産価額や取引金額に関係なく大会社に該当することになります。一方、従業員数が70人未満の会社においては、総資産価額(帳簿価額)、従業員数、取引金額の多寡により会社規模の区分を判定します(図2参照)。 〈図2:会社規模の判定表〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所) 財産評価基本通達178 評価対象会社の会社規模は、①総資産価額(帳簿価額)又は従業員数のいずれか下位の区分と、②取引金額の区分とのいずれか上位の区分により判定されます。株価対策として会社規模区分の引上げを検討する際には、「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」(図3)を用いて、総資産価額(帳簿価額)、従業員数、取引金額のうち、どの項目を増加すれば会社規模の区分を引き上げることができるのか、確認することをお勧めします。 〈図3:会社規模の判定の明細書〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所) 取引相場のない株式(出資)の評価明細書(第1表の2)を抜粋、筆者加工。 [3] 中会社における株価対策の検討 B社の会社規模をより上位の区分に引き上げて純資産価額の影響を小さくする(類似業種比準価額を採用できる割合を増やす)ためには、次のような対策が考えられます。 (1) 総資産価額(帳簿価額)及び従業員数に応ずる区分 直前期末の総資産価額(帳簿価額)及び直前期末以前1年間における従業員数に応ずる区分は、いずれか下位の区分を選択することになりますので、総資産価額と帳簿価額のうち下位の区分にある指標を増やすような対策を検討すべきです。また、取引金額に応ずる区分(下記(2))と比較して、いずれか上位の区分を選択することになりますので、(1)及び(2)のどちらの対策を優先的に行うかの検討も必要でしょう。 B社の場合、従業員数を増やして35人超とすることができれば、中会社の中(L=0.75)から中会社の大(L=0.9)に区分を引き上げることが可能です。 さらに、従業員数の増加に加えて、設備投資や賃貸用不動産の取得を行って総資産価額を15億円以上にすることができれば、中会社の大(L=0.9)から大会社に区分を引き上げることが可能です。 〈図4:総資産価額及び従業員数に応ずる区分〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (出所) 財産評価基本通達179(2)イ (2) 取引金額に応ずる区分 直前期末以前1年間の取引金額に応ずる区分は、上記(1)と比較して、いずれか上位の区分を選択することになります。したがって、取引金額を増やすことができれば、総資産価額や従業員数の影響を受けることなく会社規模の区分を引き上げることが可能です。 B社の場合、本業の売上高を増加させるか、あるいは、賃貸用不動産の取得等により受取賃借料の額を増加させて、取引金額を5億円以上にすることができれば、中会社の中(L=0.75)から中会社の大(L=0.9)に区分を引き上げることが可能です。 取引金額は、「その期間における評価会社の目的とする事業に係る収入金額」とされていますので、事業といえない小規模なものや、臨時的な収入は取引金額に含めることができない点に留意が必要です(財基通178)。 〈図5:取引金額に応ずる区分〉 (出所) 財財産評価基本通達179(2)ロ [4] 結論 類似業種比準価額よりも純資産価額の株価が高い会社においては、総資産価額、従業員数、取引金額を増やして類似業種比準価額を採用できる割合を大きくすることが株価の引下げにつながります。 グループ会社がある場合は、子会社を合併して総資産価額、従業員数、取引金額を増加させる方法も検討に値すると思います。ただし、合併を行った場合には、類似業種比準価額が株価として採用できない期間が生ずるなどの課題もあるため、検討にあたっては慎重な判断が必要でしょう(詳細は【第40回】を参照)。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第67回】 「売買契約中に相続が発生した場合における買主側に係る小規模宅地等の特例の適否」 税理士 柴田 健次 [Q] 被相続人である甲(相続開始は令和4年10月1日)は、甲とその配偶者である乙が居住の用に供していたA土地及び建物を所有していましたが、令和3年にA土地及び建物を売却しています。 その売却代金を基に新たにB土地及び建物を購入予定でしたが、令和4年8月1日に甲が売買契約を締結(売買契約日に手付金10%相当の支払いを行っています)した後に、引渡しを受ける前に甲が死亡しました。甲の相続人は乙1人のみであり、買主の権利義務を承継した乙は、残代金を令和5年3月1日に支払い、B土地及び建物の引渡しを受け、居住の用に供しています。 なお、甲及び乙は、A土地及び建物の売却後は、仮住まいとしてCマンションの1室を借りて居住していましたので、相続開始の直前はCマンションに居住していました。 【売買契約の内容】 【B土地及び建物の相続税評価】 上記の前提事項である場合にB土地及び建物に係る相続財産の種類、相続税評価及び小規模宅地等に係る特定居住用宅地等の特例の適否はどのようになりますか。 [A] B土地及び建物に係る相続財産の種類、相続税評価及び小規模宅地等に係る特定居住用宅地等の特例(以下単に「特例」という)の適否は下記のとおりとなります。 なお、原則の場合でも例外の場合でも残代金81,000千円については債務として計上されることになります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 相続財産の種類と相続税評価 売買契約締結後、引渡しの前に買主に相続が発生した場合には、相続又は遺贈により取得した財産は、原則として土地等又は建物等の引渡請求権等となり、被相続人から承継した債務は、相続開始時における残代金支払債務となります。 最高裁判決と国税庁情報でその取扱いの内容が明確にされています。 (1) 最高裁判決における取扱い 昭和61年12月5日の最高裁判決(TAINSコード:Z154-5841)は、被相続人が農地の買受契約を締結し、農地法3条による許可申請に対する許可通知が被相続人の死亡後に到達した場合、相続に係る相続税の課税財産は農地であるのか債権であるのか、その評価はどうするかが争われた事例となります。 納税者は、相続財産は農地であり、財産評価基本通達に定める農地の評価方法によるべきであると主張しましたが、最高裁は次のとおり判示し、納税者の請求を棄却しました。 なお、本事例においては、相続後に支払った残代金及び仲介手数料は債務として認められています。 前回の連載で解説した最高裁判決(売買契約中に売主に相続が発生した場合)と上記の最高裁判決(売買契約中に買主に相続が発生した場合)は、同日に行われており、売主側と買主側における財産の種類及び相続税評価の取扱いをまとめると下記のとおりとなります。 (2) 国税庁情報における取扱い 上記(1)の最高裁判決を踏まえて、国税庁の取扱いにおいても、土地等又は建物等の売買契約締結後、売主から買主への引渡しの日(農地法所定の許可又は届出を要する農地等である場合には、その許可の日又はその届出の効力の生じた日後にその土地等の所有権が売主から買主へ移転したと認められる場合を除き、その許可の日又は届出の効力の生じた日)前に買主に相続が開始した場合には、相続又は遺贈により取得した財産は、その売買契約に係る土地等又は建物等の引渡請求権等とし、被相続人から承継した債務は、相続開始時における残代金支払債務とされました。 なお、土地等又は建物等の引渡請求権等の価額は、原則としてその売買契約に基づく土地等又は建物等の取得価額の金額とされていますが、その売買契約の日から相続開始の日までの期間が通常の売買の例に比較して長期間であるなどその取得価額の金額がその相続開始の日におけるその土地等又は建物等の引渡請求権等の価額として適当ではない場合には、別途個別に評価した価額によります。 また、その土地等又は建物等を相続財産とする申告があったときは、それを認めるものとされていますが、課税処分が訴訟事件となり、その審理の段階で引渡し前の相続財産が「土地等」であるとして争われる場合には、相続財産が「土地等」であるとしてもその価額が当該売買価額で評価すべきである旨を主張する事例もあるとされています(国税庁資産税課情報第1号(平成3年1月11日付))。 売買契約中に買主に相続が発生した場合の相続財産の種類と相続税評価について、国税庁情報の取扱いをまとめると下記のとおりとなります。 売買契約中に売主に相続が発生した場合については、前回の連載で解説していますが、最高裁判決と同様に「売買契約に基づく残代金請求権」を相続財産としています。これに対して、売買契約中に買主に相続が発生した場合には、国税庁情報では、「土地等又は建物等」を相続財産とする例外処理を認めており、この部分については、最高裁判決と異なりますので、注意する必要があります。課税実務上は、国税庁で例外処理が容認されていますので、上記の原則処理又は例外処理のいずれかを選択することになります。 (3) 本問の場合の当てはめ 原則として引渡請求権等として90,000千円が相続財産となりますが、例外として土地80,000千円及び建物2,000千円を相続財産とすることも認められることになります。売買価額と財産評価基本通達による価額の差が著しく乖離しており、課税上の弊害があると認められる場合には、財産評価基本通達による価額は適当とはいえませんが、本問の場合には、乖離も大きくないため、例外の路線価等による価額も認められるものと考えられます。 2 小規模宅地等の特例の適否の判断 小規模宅地等の特例は、相続開始の直前において、被相続人又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」という)の事業の用又は居住の用に供されていた「宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう、以下同じ)」を対象としています(措法69の4①)。 したがって、少なくとも下記の2点について要件を充足する必要があります。 (1) 被相続人が所有している宅地等であること 宅地等であることが要件とされていますので、相続財産の種類を原則の「引渡請求権等」とした場合には、小規模宅地等の特例の対象になりませんが、相続財産の種類を「土地等又は建物等」として申告した場合には、課税上は、「宅地等」として取り扱うことになりますので、他の要件を満たせば、小規模宅地等の特例の対象になります。 (2) その宅地等が相続開始の直前において、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていること 売買契約中に相続が発生した場合には、まだ引渡しを受けていませんので、当然、相続開始の直前において、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されておらず、小規模宅地等の特例の適用を受けることができないことになります。 しかしながら、事業や居住の継続の観点から一時点で判断することは適当ではありませんので、建築中等に相続が開始した場合には、租税特別措置法関係通達69の4-5、69の4-8において救済措置があります。その内容は下記のとおりとなります。 租税特別措置法関係通達69の4-5(事業用建物等の建築中等に相続が開始した場合) 租税特別措置法関係通達69の4-8(居住用建物の建築中等に相続が開始した場合) 上記の救済措置は、移転又は建替えのために一時的に事業の用又は居住の用に供されていなかった宅地等を事業用宅地等又は居住用宅地等として取り扱う内容となりますので、本問の場合のように居住用財産の移転のための建物の取得も通達の適用範囲となり得ると考えられます。 3 本問の場合の特例の適否 特例の適否については、相続財産の種類を宅地等として取り扱うかどうかで異なりますので、相続財産の種類を原則の引渡請求権等とした場合には、特例を適用することができませんが、例外の土地等又は建物等として申告した場合には、他の要件を満たしていれば、特例を適用することができます。 特定居住用宅地等とは、被相続⼈の居住の⽤に供されていた宅地等で、当該被相続⼈の配偶者⼜は一定の要件を満たす当該被相続⼈の親族(当該被相続⼈の配偶者を除く)が相続⼜は遺贈により取得したものをいい(措法69の4③二)、配偶者については、一定の要件はありませんので、相続財産の種類を「土地等又は建物等」として申告を行い、かつ、租税特別措置法関係通達69の4-8(居住用建物の建築中等に相続が開始した場合)の救済措置により、居住用宅地等として認められれば、要件は満たされることになります。 なお、小規模宅地等の特例は、それが相続人等の生活の基盤のために不可欠なものであって、その処分について相当の制約を受けるのが通常であること等に鑑み設けられた制度となりますので、相続財産の種類を引渡請求権等とした場合においても特例の適用は認めるべきではないかとの意見もあるかと思います。しかしながら、条文の規定が「宅地等」に限定されており、最高裁判決は「引渡請求権等」として取り扱っていますので、「宅地等」の範囲を拡大解釈することは適当ではないと考えられます。 あくまでも国税庁の情報の中で「その土地等又は建物等を相続財産とする申告があったときにおいては、それを認める」ものとされていますので、例外処理を選択することではじめて、小規模宅地等の特例の検討をすることができることになります。 また、例外処理での小規模宅地等の特例の取扱いについては、法令や通達等で明確にされてはいませんので、上記2の適用要件に留意しながら慎重に判断を行い、万が一、認められなかった場合のリスクについても納税者に説明を行う必要があります。 ★実務上のポイント★ 売買契約中に買主に相続が発生した場合には、相続財産の種類を「引渡請求権等」として申告するのか、「土地等又は建物等」として申告するのかによって課税上の取扱いが大きく異なることになりますので、納税者に十分に説明をして申告を行う必要があります。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第136回】 「2022年における調査委員会設置状況」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 本連載では、個別の会計不正に関する調査報告書について、その内容を検討することを主眼としているが、本稿では、「第三者委員会ドットコム」が公開している情報をもとに、各社の適時開示情報を参照しながら、2022年において設置が公表された調査委員会について、調査の対象となった不正・不祥事を分類するとともに、調査委員会の構成、調査報告書の内容などを概観し、その特徴を検討したい。 第三者委員会ドットコムが公開しているデータを集計したところ、2022年において、調査委員会の設置を公表した会社は57社であり、2021年の61社を下回っている。57社のうち、複数の調査委員会設置を公表した会社が下表のとおり5社あったため、この結果、設置が公表された調査委員会の数は64となる。 上記の会社については、会社数としてはそれぞれ「1社」とカウントする一方、委員会の構成については委員会ごとに、不正・不祥事の分類はその区分ごとに集計しているため、一部、合計数が合わないことをお断りしておく。 設置が公表された64の調査委員会のうち15の委員会は、本稿執筆時点において、まだ調査報告書(その概要を含む)を公表していない。このうち4つの調査委員会については、設置そのものが11月又は12月であり、まだ調査が終わっていないとも考えられるが、例年に比較して、調査結果を公表しない事案が増加傾向にあるのは間違いない。 【市場別分類】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 市場別分類では、東証1部・東証プライム上場会社が25社と約44%を占めた(複数市場に上場している会社は東証の市場区分に含めている)。上場会社数は2022年12月29日現在。 主たる市場以外では、「事業実績の観点からリスクを有するものの、将来のプレミア市場又はメイン市場への市場区分の変更を見据えた事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ、一定の市場評価を得ながら成長を目指す企業向けの市場」(名古屋証券取引所ホームページ参照)と定義されている名古屋証券取引所ネクスト市場に上場している株式会社オウケイウェイヴと、非上場のパナソニックコンシューマーマーケティング株式会社が、それぞれ調査委員会の設置と調査報告書を公表している。 【会計監査人別分類】 会計監査人別の分類では、いわゆる大手4大監査法人の監査を受けていた会社が32社、中堅以下の監査法人の監査を受けていた会社が25社となり、中堅以下の監査法人のクライアントの比率が過去4年では最も高くなっている。 大手4大監査法人のなかでは、有限責任監査法人トーマツのクライアントで調査委員会の設置を公表した会社が13社と最も多く、有限責任あずさ監査法人のクライアントが9社、EY新日本有限責任監査法人のクライアントが8社であった一方、PwCあらた有限責任監査法人のクライアントでは2社となっている。 なお、中堅以下の監査法人で複数のクライアントが調査委員会を設置したのは、太陽有限責任監査法人が4社で最も多く、監査法人アリア、監査法人アヴァンティア、アスカ監査法人、監査法人東海会計社がそれぞれ2社となっている。 【調査委員会の構成による分類】 一部、委員名を非公表としている委員会を含めた調査委員会の構成ごとの分類では、日本弁護士連合会が2010年に公表した「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」に準拠していると明言している調査委員会及び明言はしないまでもその趣旨に沿って外部の委員を選定していると認められる調査委員会は33あり、過半数を上回っている。 また、2018年から続いていた、調査委員会の構成や委員名について、非公表とする傾向については、2022年も5社が「非公表」としており、このうち3社は、調査報告書も公表していない。 【調査委員会を設置することとなった不正・不祥事の分類】 調査対象となった不祥事別にこれを分類すると次表のとおりとなる。なお、分類上、経営者や従業員の不正であっても、決算修正等、公表している決算報告書に影響を及ぼす可能性のあるものについては、「会計不正」としている。 【会計不正の態様】 次いで、「会計不正」に分類された44件について、それぞれの不正の態様を見ておきたい。 上表では、「会計不正」を対象とした調査委員会の数は44となっているが、1つの事案で複数の委員会を設置した重複分を控除した結果、「会計不正」と分類できる内容で設置された調査委員会は39となる(赤字は本連載で取り上げた報告書)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2022年12月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年12月1日から12月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 新会計基準関係 「中小企業の会計に関する指針」の改正に関する公開草案が公表され、意見募集されている。 これは、収益の計上基準の注記に関する改正である。 Ⅲ 東京証券取引所関係 東京証券取引所から「IPOに関する上場制度等の見直しについて」が公表され、意見募集されている。 スタートアップにおける新規上場手段の多様化を図る観点から、新規上場プロセスの円滑化やダイレクトリスティングの環境整備などについて、所要の上場制度等の見直しを行うものである。 Ⅳ 金融審議会関係 金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」から「金融審議会市場制度ワーキング・グループ第二次中間整理」が公表されている。 市場インフラの機能向上とスタートアップ企業等への円滑な資金供給を中心に検討を行い、取引所と私設取引システム(PTS)の機能強化や公正価値評価の促進などについて検討している。 Ⅴ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 倫理規則の改正に伴う監査基準報告書及び監査基準報告書実務指針の改正(公開草案)(内容:2022年7月25日付けで倫理規則が改正されたことに伴い、監査基準報告書200「財務諸表監査における総括的な目的」、監査基準報告書240「財務諸表監査における不正」などを改正する) ② 倫理規則実務ガイダンス「倫理規則に関するQ&A-監査法人監査における監査人の独立性について-(実務ガイダンス)」(公開草案)(内容:2022年7月25日付けで倫理規則が改正されたことに伴い、監査法人の計算書類を対象とする監査業務における倫理規則の適用上の留意点などを示す) ③ 「監査法人の組織的な運営に関する原則」(監査法人のガバナンス・コード)(案)(内容:監査法人が果たすべき役割などに関する監査法人のガバナンス・コードの改訂案) ④ 「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」等(内容:監査報告書の記載事項に公認会計士又は監査法人が被監査会社から受領する報酬に関連する事項を追加するもの) ⑤ 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(公開草案)」(内容:既存制度の実効性に関する懸念や国際的な内部統制の枠組みの改訂等に対応) (了)
ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第34回】 「「告白ハラスメント」はセクハラに該当するか」 弁護士 柳田 忍 【Question】 当社の従業員Aから、「上司Bから『付き合ってほしい』と言われた。それ以来、上司Bの声を聞いたり顔を見たりすると気分が悪くなって仕事が手につかない。これはセクハラではないのか」と相談を受けました。 従業員Aが不快に思ったという気持ちは尊重したいとは思いますが、当社は社内恋愛を禁止しておらず、社内恋愛で結婚に至ったカップルもたくさんいますので、好意を伝えたり、交際を申し入れただけでセクハラだと言われても、違和感を覚えます。愛の告白はセクハラに該当するのでしょうか。 【Answer】 相手に好意を示すに留まるものであればセクハラには該当しませんが、愛の告白に際して身体的接触が伴うなど、単なる好意の表現を超えて性的な言動に該当する場合はセクハラに該当する可能性があります。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 「告白ハラスメント」とセクハラ 「告白ハラスメント」とは、一般に、好意を寄せている相手に対して想いを告白し、それにより相手に不快感を与えることを指しているようである。一方、セクハラとは、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることを意味する(※)。 (※) 「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号・セクハラ指針) この点、愛の告白は基本的には交際の申し込みであるところ、交際が進展すればいずれは性的な関係に発展するものではあるので、愛の告白は性的な関係の申し入れであると捉えて、「性的な言動」に該当し、それにより当該労働者の就業環境が害された場合にはセクハラに当たると整理することも可能ではある。 しかし、他方で、愛の告白は、相手に対する好意の表現に過ぎないという側面もあるため、これを一概に性的な言動であると位置づけられるものでもないと思われる。 2 愛の告白がセクハラに該当するか否かの判断基準 では、どのような愛の告白であれば「性的な言動」に該当するのであろうか。その判断基準を考えるに際して、以下の裁判例が参考になる。 (1) 高松地判令和元年5月10日 本件高松地判は、愛の告白自体について問題となったものではないが、これによると、相手へのメッセージが単に好意を示すに留まるものであれば性的なものであるとは評価できないと示していると解釈することもできる。 (2) 東京地裁平成26年3月11日 本件東京地判は、愛の告白一般について、単に好意を示すものに留まらず、性的な関心のもとから発せられたものであると示しているようにも見える。 もっとも、上記高松地判に照らすと、本件東京地判は、Xの言動①及び②が③に先行していることから、③の発言が性的な意味合いを持ったと評価していると考えるのが自然である。すなわち、裁判例は、愛の告白には、好意の表現に留まるものと、それを超えて性的な言動に該当するものがあることを前提としていると考えるべきであろう。 以上に照らすと、例えば以下のような愛の告白については、好意の表現を超えて性的な言動に該当する可能性があるものであるから、セクハラに当たる可能性を視野に入れて検討を行うべきである。 なお、愛の告白が性的な言動に該当するか否かを検討するに際しては、「性的な言動」及び「就業環境を害される」の判断に当たって、以下〈参考〉のとおり、平均的な女性労働者ないし男性労働者の感じ方を基準とすることが適当である旨、ただし、当該労働者の主観も考慮すべきである旨示されている点についても留意が必要である(上記東京地判も、「Aが不快に感じていることからすれば」などとAの主観を考慮するものの、前提として、平均的な女性労働者の感じ方を基準としているものと思われる)。 〈参考〉 (出所) 「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」(平成18年10月11日雇児発第1011002号)第3.1.(3)イ⑥ 3 本件における対応 上記のとおり、本件においても、Bからの告白について、好意の表現を超えて性的な言動に該当する可能性があるといえる事情の有無を確認すべきである。 また、「従業員Aが不快に思ったという気持ちは尊重したい」との点は重要なことではあるが、まずは「平均的な女性労働者」や「平均的な男性労働者」の感じ方を基準として判断することに留意しながら対応するべきである。 (了)
《速報解説》 大阪国税局、「資本関係が個人株主を含むグループ内で完結している場合の完全支配関係」について文書回答事例を公表 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 本稿では、大阪国税局が令和4年12月8日付(ホームページ公表は令和4年12月22日)に回答した文書回答事例「資本関係が個人株主を含むグループ内で完結している場合の完全支配関係について」の解説を行う。 事前照会の前提及び照会内容 〇事前照会の前提 B社及びC社は法人間で発行済株式の一部を相互に持ち合っており、個人株主の甲及びその親族(甲一族)を含むグループ内で資本関係が完結している。 【資本関係図】 (※) 文書回答事例に掲載の図を引用 〇事前照会の内容 法人の発行済株式の全てが甲一族及び甲一族が保有するグループ内のいずれかの法人によって保有されている場合(個人株主を含むグループ内で資本関係が完結している場合)で、甲一族及び甲一族が保有するグループ内法人以外の者によってその発行済株式が保有されていないときは、A社とB社、A社とC社、B社とC社、甲一族とB社及び甲一族とC社との間に完全支配関係はあるという理解で問題ないかどうか。 事前照会の結論及び当局見解 完全支配関係とは次のような関係をいう(法法2十二の七の六)。 株主が個人の場合には、個人の保有する株式だけでなく、特殊の関係のある親族等が保有する株式を含めて、完全支配関係があるかどうかを判定することとなる(法令4の2②)。 B社とC社の間で発行済株式の一部を相互に保有し合っているため、甲一族がB社又はC社の発行済株式の全てを直接的に保有しておらず、甲一族と完全支配関係があるA社を通じて間接的にもB社又はC社の発行済株式の全てを保有していないことから、甲一族とB社又は甲一族とC社との間には当事者間の完全支配関係がないこととなるのか、そうであれば、A社とB社、A社とC社及びB社とC社との間にも当事者間の完全支配関係がある法人相互の関係もないこととなるのかという疑義が生じる。 国税庁ホームページ質疑応答事例「資本関係がグループ内で完結している場合の完全支配関係について」では、「完全支配関係とは、基本的な考え方として、法人の発行済株式のすべてがグループ内のいずれかの法人によって保有され、その資本関係がグループ内で完結している関係、換言すればグループ内法人以外の者によってその発行済株式が保有されていない関係をいう」こととされている。 今回の文書回答事例では、この事例の前提が法人株主でも(親族等を含む)個人株主でも結論は同様となる旨が説明されており、資本関係が個人及びその親族等並びにこれらと資本関係のあるグループ内法人で完結している関係であれば、その個人及びその親族等並びにこれらと資本関係のあるグループ内法人以外の者によってその発行済株式が保有されていない関係についても完全支配関係があるものとして取り扱うということが明らかにされた。 したがって、A社とB社、A社とC社、B社とC社、甲一族とB社及び甲一族とC社との間に完全支配関係はあることとなる。 ただし、資本関係が(個人株主を含む)グループ内で完結している場合の完全支配関係の判定は、あくまでも完全支配関係の判定であり、支配関係の判定においてグループ内で相互に保有する場合の考え方については何ら説明されているわけではないという点に留意する必要がある。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 JICPA、「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の確定を公表 ~監査業務の依頼人への非保証業務の提供や提供できる非保証業務の判断などを記載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年12月15日付けで(ホームページ掲載日は2022年12月28日)、日本公認会計士協会は、「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」(倫理規則実務ガイダンス第1号)を公表した。 これは、2022年7月25日開催の日本公認会計士協会の定期総会において承認された改正倫理規則の適用上の留意点や具体的な適用方法の例示を実務上の参考として示すものである。 2022年9月20日に仮公表としていた「倫理規則に関するQ&A」(非保証業務以外の項目)と、今回確定した「倫理規則に関するQ&A」(非保証業務等に関する項目)とを合わせて、一体として確定版となっている。 これにより、2022年9月20日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 実務ガイダンスの位置付け 実務ガイダンスの公表に伴い、現行の「職業倫理に関する解釈指針」及び「独立性に関する法改正対応解釈指針第4号「大会社等監査における非監査証明業務について」」は廃止される。 実務ガイダンスは、会則第48条に基づく会員が遵守すべき基準等には該当しない。 Ⅲ 主な内容 倫理規則の内容のうち、監査業務の依頼人に対する非保証業務の提供、提供できる非保証業務の判断などに関して、Q&A形式で記載している。 1 監査業務の依頼人に対する非保証業務の提供 会計事務所等が、監査業務の依頼人に対して非保証業務の提供の可否等を判断するには、倫理規則第600.6 A1項から第600.27 A1項までの要求事項及び適用指針に準拠して、非保証業務の提供の可否等を判断する。 2 非保証業務に関連する法令等 監査業務の依頼人に対する非保証業務の提供に関連して、我が国における法令等が倫理規則セクション600の規定とは異なっている場合又はセクション600の規定の範囲を超えて定められている場合には、当該非保証業務を提供する会計事務所等は、それらの相違を把握し、最も厳格な規定を遵守する必要がある(倫理規則第600.6 A1項)。 公認会計士法施行規則第6条で同時提供が禁止されている非監査証明業務は、倫理規則においても禁止される。 3 阻害要因の識別及び評価 会計事務所等は、監査業務の依頼人が社会的影響度の高い事業体に該当するか否かにかかわらず、概念的枠組みを適用しなければならない(倫理規則R600.8項)。 倫理規則では、概念的枠組みに関する包括的な規定が適用されることを強調している。 例えば、監査業務の依頼人に対する非保証業務の提供により生じる阻害要因を許容可能な水準にまで軽減するためにセーフガードを適用できない場合もある。 そのような状況では、会計事務所等又はネットワーク・ファームは、概念的枠組みの適用により、次のいずれかを行うことが求められる(倫理規則第600.18 A4項)。 4 財務諸表における重要性 会計事務所等又はネットワーク・ファームは、財務諸表にとって重要ではないと判断した場合であっても、倫理規則R600.14項(2)のリスクの有無の評価を行うことが求められる。 倫理規則R600.14項に基づき、非保証業務の提供により独立性に対する自己レビューという阻害要因が生じる可能性があるかどうか、及び倫理規則R600.16項に基づき自己レビューという阻害要因が生じる可能性があるため非保証業務の提供が禁止されるかどうかを判断する際に、重要性は関連しない。 5 社会的影響度の高い事業体ではない監査業務の依頼人に対する助言及び提言 社会的影響度の高い事業体ではない監査業務の依頼人に対する助言及び提言の提供の可否は状況による。 6 非保証業務に関する監査役等とのコミュニケーション 会計事務所等は、監査業務の依頼人及びその関連事業体に対して非保証業務を提供する前に、社会的影響度の高い事業体である監査業務の依頼人の監査役等から了解を得る必要がある。 倫理規則R600.21項からR600.23項までは、会計事務所等又はネットワーク・ファームが、社会的影響度の高い事業体がその一部を形成する企業グループ内の事業体に対して、会計事務所等の独立性に対する阻害要因を生じさせる可能性のある非保証業務を提供する前に、会計事務所等が、社会的影響度の高い事業体の監査役等とコミュニケーションを行うことを求めている。 事業体が様々なコーポレート・ガバナンスの構造を有することを考慮し、非保証業務を提供する前に監査役等の了解を得るという要求事項の遵守を促進するため、倫理規則は、社会的影響度の高い事業体である監査業務の依頼人の監査役等との間で、会計事務所等がいつ、誰に対してコミュニケーションを行うかというプロセスについて合意するに当たって、柔軟性を認めている(倫理規則第600.20 A2項)。 7 監査業務受嘱前に提供した非保証業務 会計事務所等は、監査人として選任される前に社会的影響度の高い事業体である監査業務の依頼人に対して非保証業務を提供したことがある場合、自己レビューという阻害要因が生じる可能性があるときには、倫理規則R400.32項に定められている事項を満たす場合を除いて、監査人としての選任を受諾することはできない。 8 国際財務報告基準(IFRS)の導入支援業務 会計事務所等又はネットワーク・ファームは、社会的影響度の高い事業体である監査業務の依頼人に対して、国際財務報告基準(IFRS)の導入支援業務を一律に提供できないのかどうかについては、多くの場合は提供できないと考えられるが、業務の段階に応じて、依頼人との役割分担等を踏まえた業務の詳細な内容から阻害要因を識別及び評価した結果、自己レビューという阻害要因が生じる可能性がないと判断する場合は、その範囲内で業務を提供することは可能と考えられる。図表を用いて具体的に記載されている。 9 コーポレート・ファイナンスに関する業務 監査業務の依頼人が発行する株式、債券又はその他の金融商品への投資に関する助言を第三者に提供することが禁止されているのは、会計事務所等又はネットワーク・ファームが、監査業務の依頼人に対する投資のメリットを推奨又は助言した場合、利益相反が生じ、その状況が客観性の原則を阻害することになるためである。 (了)
《速報解説》 四半期決算短信「一本化」の方向性やサステナビリティ開示基準の開発を検討したディスクロージャ-WG報告が金融審議会でまとまる 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和4(2022)年12月27日、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」は、「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」を公表した。 これは、金融商品取引法上の四半期報告書(第1・第3四半期)を廃止して取引所の四半期決算短信に「一本化」する方向性や、サステナビリティ開示について検討したものである。 我が国におけるサステナビリティ開示のロードマップ及び金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告の概要も公表されている。 報告書は、今後、金融審議会総会・金融分科会において報告されるとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 四半期開示 2022年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告では、四半期開示について、金融商品取引法の四半期報告書(第1・第3四半期)と取引所規則に基づく四半期決算短信を「一本化」する方向性が示されている。 金融商品取引法において、第1・第3四半期報告書を廃止した後、上場企業は、開示義務が残る第2四半期報告書を、金融商品取引法上の半期報告書として提出することになる。 1 四半期決算短信の義務付けの有無 次の方向性が記載されている。 2 適時開示の充実 適時開示の充実の重要性を述べており、取引所において、好事例の公表やエンフォースメントの強化のほか、適時開示ルールの見直し(細則主義から原則主義への見直し、包括条項における軽微基準の見直し)などについて検討することが記載されている。 3 四半期決算短信の開示内容 「一本化」後の四半期決算短信の開示内容については、原則として速報性を確保しつつ、投資家の要望が特に強い事項(セグメント情報、キャッシュ・フローの情報等)について、四半期決算短信の開示内容を追加する方向で、取引所において具体的に検討を進めることが考えられるとしている。 4 四半期決算短信に対する監査人によるレビューの有無 次の方向性が記載されている。 5 四半期決算短信の虚偽記載に対するエンフォースメント 四半期決算短信は取引所における開示書類であるため、「一本化」後の四半期決算短信の虚偽記載に対しては、まず取引所において、エンフォースメントをより適切に実施していくことが考えられる。 6 半期報告書及び中間監査のあり方 前述のとおり、金融商品取引法において、第1・第3四半期報告書を廃止した後、上場企業は、開示義務が残る第2四半期報告書を、金融商品取引法上の半期報告書として提出することになる。 次の方向性が記載されている。 7 会計基準・監査基準の整備 四半期会計基準・四半期レビュー基準については、当局、企業会計基準委員会、取引所、日本公認会計士協会などの関係者において、今回の見直しに伴う必要な対応を行うことが考えられる。 Ⅲ サステナビリティ開示 国際的にサステナビリティ開示に関する基準策定の議論が進んでいる中、我が国では、民間の取組みを基礎としながら、国際的な整合性を図りつつ、全体として充実したサステナビリティ開示を着実に進めていくことが重要であるとしている 次の論点について記載されている。 (了)
《速報解説》 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準等の改正を受け、連結財務諸表の用語等に関する規則の一部を改正する内閣府令案等が公表される 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和4(2022)年12月27日、金融庁は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表し、意見募集を行っている。 これは、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号)等の改正を受けたものである。 なお、国際会計基準審議会が2022年12月31日までに公表した国際会計基準(国際財務報告基準第16号「リース」の修正、国際会計基準第1号「財務諸表の表示」の修正)を、連結財務諸表規則第93条に規定する指定国際会計基準とする改正も行う。 意見募集期間は2023年1月31日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正の内容 2022年10月28日公表の「包括利益の表示に関する会計基準」(企業会計基準第25号)及び「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号)を受けて、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」を次のように改正する(アンダーラインが改正点)。 Ⅲ 施行期日等 公布の日から施行する予定である。 改正後の「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」第69条の5第4項及び第69条の6第1項の規定は、令和6(2024)年4月1日以後に開始する連結会計年度に係る連結財務諸表について適用し、同日前に開始する連結会計年度に係る連結財務諸表については、なお従前の例による。 ただし、令和5(2023)年4月1日以後に開始する連結会計年度に係る連結財務諸表については、これらの規定を適用することができる。 比較情報、四半期連結財務諸表などに関する経過措置も規定される予定である。 (了)
《速報解説》 電子提供措置事項記載書面への記載を要しない事項を定める 「会社法施行規則等の一部を改正する省令」が公布される ~株主総会資料の電子提供制度に係る対応~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和4(2022)年12月26日、「会社法施行規則等の一部を改正する省令」(法務省令第43号)が公布された。 これにより、令和4(2022)年10月7日から意見募集されていた「会社法施行規則等の一部を改正する省令案」が確定することになる。「「会社法施行規則等の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について」も公表されている。 株主総会資料の電子提供制度が2022年9月1日に施行されている。同制度では、株主は、電子提供措置の対象となる事項を記載した書面の交付を請求することができるとされている(会社法325条の5第1項)。 一方、電子提供措置の対象となる事項のうち法務省令で定めるものの全部又は一部については、交付する書面に記載することを要しない旨を定款で定めることができるとされている(会社法325条の5第3項)。 省令は、この電子提供制度における書面交付請求をした株主に交付する書面(以下「電子提供措置事項記載書面」という)に記載することを要しない事項に関して改正するものである。そのほか、いわゆるウェブ開示によるみなし提供制度の対象事項についても同様の見直しを行い、また、形式的整備を含む所要の改正も行っている。 当該改正にあわせて、「定時株主総会の開催について」が令和4(2022)年12月26日に更新されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正の内容 1 電子提供措置事項記載書面に記載することを要しない事項 事業報告に記載又は記録すべき事項のうち役員の責任限定契約に関する事項、事業の経過及びその成果、対処すべき課題、補償契約に関する事項及び役員等賠償責任保険契約に関する事項、貸借対照表及び損益計算書に記載又は記録すべき事項並びに連結貸借対照表及び連結損益計算書に記載又は記録すべき事項を、電子提供措置事項記載書面に記載することを要しない事項とする(会社法施行規則95条の4第1項2号~4号)。 2 いわゆるウェブ開示によるみなし提供制度 いわゆるウェブ開示によるみなし提供制度についても、上記1に掲げる事項と同様の事項について、インターネット上のウェブサイトに掲載し、そのウェブサイトのURL等を株主に通知すれば、当該事項に係る情報が株主に提供されたものとみなすものとする(会社法施行規則133条、会社計算規則133条)。 いわゆるウェブ開示によるみなし提供制度の特例措置に関する経過措置の規定を削除する(「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」(令和3年法務省令第45号)附則2条ただし書)。 Ⅲ 施行期日等 公布の日から施行する。 ただし、いわゆるウェブ開示によるみなし提供制度に関する改正規定は、令和5年3月1日から施行する。 (了)