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〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2022年8月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2022年8月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年8月1日から8月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 新会計基準関係 企業会計基準委員会から、「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第43号)が公表されている。 「金融商品取引業等に関する内閣府令」における電子記録移転有価証券表示権利等の発行・保有等に係る会計上の取扱いを示すものである。 2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する。 ただし、実務対応報告の公表日(2022年8月26日)以後終了する事業年度及び四半期会計期間から適用することができる。   Ⅲ 人権尊重のためのガイドライン(案)関係 経済産業省が「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」を公表し、意見募集を行っている。 欧米を中心に人権尊重を理由とする法規制の導入が進み、企業として取組の強化も求められていることもあり、わが国において、サプライチェーンにおける人権尊重の取組に関する業種横断的なガイドラインを作成するものである。   Ⅳ IPO等に関する見直しの方針関係 東京証券取引所が「IPO等に関する見直しの方針について」を公表している。 新規上場の品質を維持しながら、新たな産業の担い手となるスタートアップに多様な新規上場手段を提供する観点から、IPO等に関する諸施策について、順次、検討を進める。   Ⅴ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 保証業務実務指針3000研究文書「「我が国におけるサステナビリティ及びその他の拡張された外部報告(EER)に対する保証業務に関するガイダンス(試案)」に係る研究文書」(内容:サステナビリティ及びその他の拡張された外部報告(EER)に対する保証業務の実施にあたって参考となるもの) ② 「監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」の改正について」(公開草案)(内容:開示書類等で監査報告書を開示せず、監査を受けている旨の記載を企業が行う場合の留意点などを示す)   Ⅵ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「監査役監査基準」等の改定(内容:2022年9月施行の「株主総会資料の電子提供制度」に対応するもの) ② 2022年版「監査役監査と監査役スタッフの業務」の公表(内容:会社法改正及びコーポレートガバナンス・コード適用開始後に定着した事例や実態を反映するものなど) (了)

#No. 485(掲載号)
#阿部 光成
2022/09/08

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第30回】「ハラスメントが犯罪行為に該当し得る場合の対処法」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第30回】 「ハラスメントが犯罪行為に該当し得る場合の対処法」   弁護士 柳田 忍   【Question】 当社の男性社員(「本件男性社員」といいます)が、勤務時間中に当社の女性社員(「本件女性社員」といいます)の社用アドレスに何度もメールを送信して交際を迫ったり、当社のビルの前などで本件女性社員を待ち伏せしてつきまとうなどしています。メールの中には、「君と付き合えないなら、君を殺して僕も死ぬ。」といった内容のものもあり、本件女性社員は精神的に参って業務に支障が出ています。 当社は、本件男性社員に対して、何度も注意・指導を行ったり、懲戒処分を科したりしましたが、本件男性社員のこれらの言動が止まる気配はありません。当社はどのように対応すべきなのでしょうか。 【Answer】 本件男性社員を懲戒解雇処分としたり、自宅待機処分とすることなどが考えられます。また、本件女性社員の身体に危害が加えられるおそれもあることから、警察に相談することなどが考えられます。 ● ● ● 解 説 ● ● ●   1 セクハラと犯罪行為 セクハラとは、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることを指し(男女雇用機会均等法11条1項)、本件男性社員の言動はこれに該当し得る。 会社は、労働者に対して雇用契約上の安全配慮義務(労働契約法5条)を負担し、かつ、男女雇用機会均等法11条1項に基づき、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じるべき事業主としての措置義務を負う。よって、会社は、本件男性社員の言動について、これらの義務を負うことになる。 本件において特筆すべき点は、本件男性社員の言動がセクハラの域に留まらず、以下等のとおり、犯罪行為に該当する可能性があるという点である。 このように、ハラスメントが犯罪に該当する可能性がある場合については、会社としては、以下の点に注意して、対策を講じるべきである。   2 本件男性社員に対する措置 会社は、本件男性社員に対して、何度も注意・指導を行ったり、懲戒処分を科したりしているが、本件男性社員は問題の言動を止めないということであるので、本件男性社員を懲戒解雇に処することを検討すべき段階にあると言える。また、本件男性社員が会社内に立ち入らないように、本件男性社員に対して自宅待機命令を発することも考えられる。 もっとも、解雇や自宅待機処分によっても、本件男性社員の言動が止まない可能性があるため、以下の対策も検討するべきである。   3 警察への相談等 会社としては、まず早急に警察に相談すべきである。警察への相談におけるポイントは以下のとおりである。 (1) 相談先 本件男性社員・本件女性社員ともに会社の従業員であり、また、本件男性社員によるつきまとい行為が会社の周辺で行われていることなどから、まずは、会社の所在地を管轄する警察署に相談することが考えられる。 また、本件男性社員が本件女性社員を尾行するなどして本件女性社員の自宅の所在地を把握している可能性があることから、本件女性社員の自宅を所管する警察署に相談することも考えられる。 (2) 相談方法 警察に対して状況を的確に連携し早急な対応を促すという目的と、会社が安全配慮義務等を尽くしていることの裏付けを残すという観点に照らすと、警察への相談は書面(被害届等)を提出することにより行うことが望ましい。 もっとも、本件男性社員から本件女性社員へのメールの中に「君を殺して僕も死ぬ。」といったものがあることなどから、かなり差し迫った状況にあると評価できる。よって、取り急ぎ口頭で相談を行うということも考えられるが、その場合であっても、相談を行った日時や警察からのアドバイスの内容等を内部的な記録に残しておくべきである。 (3) 本件男性社員への連絡 更に、本件男性社員に対して、警察に相談したことを伝えて警告を発することにより、本件男性社員の問題行為が止む可能性がある。警察から連絡してもらった方がよい場合や、連絡しない方がよい場合もあるため、具体的には警察に相談して進めるべきであろう。   4 家族への連絡 本件男性社員は、会社からの度重なる注意・指導や懲戒処分にもかかわらず、本件女性社員に対する問題行為を止める気配がない。このような場合、本件男性社員が合理的な判断をすることができない精神状態にある可能性を考慮する必要がある。本件男性社員が合理的な判断ができる精神状態にない場合、上記の警察への相談・本件男性社員への警告等を実施しても、本件男性社員によるメールの送信や、つきまとい行為が止まらない可能性がある。また、本件元社員の精神状態次第では、医療機関等での治療を要する可能性もある。 そこで、本件男性社員の履歴書や身元保証書等に記載された本件男性社員の家族に対して連絡をするという手段も考えられる(※)。 (※) 使用者は、労働者に不適任・不誠実な事柄があり、身元保証人の責任が発生するおそれがあるとき等は、身元保証人にその旨を速やかに通知しなければならないとされているので(身元保証法3条1号)、本件の状況においては、本件男性社員の身元保証人に連絡しなければならない状況であるともいえる。   5 会社のセキュリティ体制の整備 仮に本件男性社員を懲戒解雇処分としたり、自宅待機処分としたりした場合であっても、本件男性社員が会社のビルに侵入して本件女性社員に対して危害を加える可能性もある。この点、会社のビルにセキュリティゲートや警備員等のセキュリティ整備がなされている場合はともかくとして、このようなセキュリティ整備がない会社の場合、どこまで対応しなければならないかが問題となる。 この点、そのようなセキュリティが整備されたビルに転居することまで求められているわけではないと思われるが、例えば、本件女性社員に在宅勤務を認めるとか、遅い時間まで残業させないなどの配慮は必要になると思われる。 (了)

#No. 485(掲載号)
#柳田 忍
2022/09/08

《速報解説》 各府省庁公表の令和5年度税制改正要望が取りまとめられる~既存制度の延長・拡充が中心も一部時流に応じた抜本強化・新制度創設を要望~

《速報解説》 各府省庁公表の令和5年度税制改正要望が取りまとめられる ~既存制度の延長・拡充が中心も一部時流に応じた抜本強化・新制度創設を要望~   Profession Journal編集部   例年通り8月末から9月頭にかけて各府省庁からの税制改正要望が公表された。その内容については概ね既存制度の延長・拡充を求めるものが中心であるものの、時流に対応した抜本強化・新制度創設も一部見受けられる。 本稿では、これから本格化する令和5年度税制改正に向けた議論の下地となる各府省庁からの要望事項について、主なポイントを確認していきたい。 はじめに、経済産業省は、我が国経済の発展、国際競争力の向上などを念頭に、スタートアップ・エコシステムの抜本強化のための税制措置を要望している。 「スタートアップ・エコシステム」とは、グローバルにインパクトを生み出す起業家やスタートアップ、イノベーション企業が自律的、連続的に生み出される仕組みのこと。しかし、我が国では様々な課題がこの仕組みの好循環を阻害している現状があり、これを打破すべく4つの税制措置が要望事項として掲げられている。 まずその中の1つとして「ストックオプション税制の拡充」がある。現行制度においてもストックオプションの利便性・魅力を向上させ、スタートアップ企業の人材獲得に一定程度寄与している一方で、現行の要件等が実態に即していないとの指摘があることから、更なる利便性向上に向け、権利行使期間の延長その他の所要の措置を要望している。 また、同じくエコシステム抜本強化のために、「暗号資産の期末時価評価課税に係る見直し」が要望されている。現在内国法人が有する暗号資産については、税務上、期末に時価評価し、評価損益は、課税の対象とされているところ、こうした取扱いは、キャッシュフローを伴う実現利益がない中で、継続して保有される暗号資産についても課税を求めるものであり、国内においてブロックチェーン技術を活用した起業や事業開発を阻害する要因として指摘されていることから、自己発行・自己保有の暗号資産については、期末時価評価課税の対象外とすることが要望されている。 なお、その他のエコシステム抜本強化のための要望としては、個人によるスタートアップ投資を促進するエンジェル税制の申請手続に係る所要の見直しや非上場株式を担保とする場合の納税猶予手続につき、株券によらない担保提供を可能とするための国外転出時課税制度に関する所要の措置が掲げられている。 上記エコシステム抜本強化以外の経産省の要望には、平成29年度税制改正により創設されたスピンオフ税制に関し、「スピンオフの実施の円滑化のための税制措置」の拡充が求められており、その内容は、事業切出しの手法の1つであるスピンオフについて、段階的に事業を切り出そうとする企業などが活用できるよう、スピンオフを行う企業に持分を一部残す場合についても、スピンオフの実施を円滑化するための所要の措置を講じることとなっている。 その他、来年の3月末で適用期限を迎える研究開発税制、DX投資促進税制の拡充及び2年延長に加え、現在の社会情勢を受けた半導体の供給制約・物価高騰等の影響による自動車産業の厳しい事業環境などを踏まえた車体課税の見直しも要望にあるほか、中小企業に関する要望には、昨今の自然災害頻発への事前対策強化として、来年の3月末で適用期限が到来する中小企業防災・減災投資促進税制の2年延長及び対象設備に耐震装置を追加する要望等が見受けられる。 次に金融庁からは、「資産所得倍増プラン」に関連する要望として、「NISAの抜本的拡充」等が掲げられている。令和2年度税制改正により2階建ての「新しい一般NISA」が令和6年1月より施行されるところ、今回、次のような刷新を行うという大胆な要望がされている。 その他金融庁は、昨年と同様に「金融所得課税の一体化」も要望しており、昨年の税制改正大綱においては「デリバティブ取引に係る金融所得課税の更なる一体化については、金融所得課税のあり方を総合的に検討していく中で、意図的な租税回避行為を防止するための方策等に関するこれまでの検討の成果を踏まえ、早期に検討する。」との記載もあったことから、今後の議論の動向も含めて注視したい。 次に国土交通省からは、高経年マンションが今後急激に増加することを背景に、「長寿命化に資する大規模修繕工事を行ったマンションに対する特例措置」の創設が要望されている。これは、管理計画認定マンションその他の一定の要件を満たすマンションについて、必要な修繕積立金が確保され、長寿命化に資する一定の大規模修繕工事が実施された場合に、そのマンションの建物部分について、大規模修繕工事が完了した翌年度分の固定資産税額を1/3減額する特例措置を、令和5年4月より2年間講じる内容となっている。 また同様に社会問題への対応の観点から、来年12月で適用期限を迎える「空き家の発生を抑制するための特例措置(3,000万円控除)」につき、売買契約等に基づき譲渡後一定期間内に耐震改修工事又は除却工事が行われる場合、工事の実施が譲渡後であっても適用対象とする拡充措置及び4年間の延長が要望されている。 ほかには文部科学省からの要望として、来年3月末が適用期限となる「教育資金一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」につき、2年の延長と非課税上限額の引上げ等の拡充が要望されているほか、厚生労働省の要望事項では、医業承継の後押しとなる「医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置」につき、現行制度が来年9月末までの措置であるため3年延長とするとともに、更なる承継促進のため、移行期限の要件を緩和する要望が出されている。 (了)

#Profession Journal 編集部
2022/09/07

《速報解説》 内閣官房より「人的資本可視化指針」が公表される~今後、有価証券報告書で開示が求められる人的資本に関する項目への対応も記載~

 《速報解説》 内閣官房より「人的資本可視化指針」が公表される ~今後、有価証券報告書で開示が求められる人的資本に関する項目への対応も記載~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年8月30日、内閣官房の非財務情報可視化研究会から、「人的資本可視化指針」が公表された。 これは、人的資本の可視化への期待が高まる中、人的資本可視化指針は、特に人的資本に関する資本市場への情報開示の在り方に焦点を当てて、既存の基準やガイドラインの活用方法を含めた対応の方向性について包括的に整理した手引きとして編纂されたものである。 有価証券報告書における対応についても記載されている。 付録として、次のものが公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 主な内容は次のとおりである。 1 人的資本の可視化を通じた人的投資の推進に向けて 多くの投資家が、企業が将来の成長・収益力を確保するためにどのような人材を必要としていて、具体的にどのような取組を行っているか、人材戦略に関する経営者からの説明を期待している。 人材戦略が取締役会やCEO・CXOレベルで議論され、コミットされているか、かつ現場従業員の共感を得て浸透しているかは、企業にとっては戦略の強靱性を高める上で重要であり、投資家にとっては戦略の実現可能性を評価する重要な判断軸となる。 2 人的資本の可視化の方法 人的資本の可視化について、企業・経営者には、次のことが期待されている。 人的資本可視化指針は、投資家の関心が開示事項と長期的な業績や競争力との関連性にあることを踏まえ、まず、原則主義のフレームワークを参照し、自社の経営戦略と人的資本への投資や人材戦略の関係性(統合的なストーリー)を描くことを推奨しており、その上で、統合的なストーリーに沿って具体的な事項(定性的事項、目標、指標)を開示することが望ましいとしている。 「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の4つの要素は有価証券報告書に新設が予定されるサステナビリティ情報の記載欄においても採用される方向となっており、人的資本についてもこの4つの要素を検討することが効率的である。 具体的開示事項の検討は、大きく、次の2つの類型に整理される。 3 可視化に向けたステップ 基盤・体制確立(取締役会・経営層レベルの議論、従業員との対話など)、可視化戦略構築(価値協創ガイダンスに沿った人的資本への投資や人材戦略の統合的ストーリーの検討など)について記載されている。 4 有価証券報告書における対応 金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(2022年6月)において、次のことが示されている。今後、開示府令の改正を経て、有価証券報告書の記載事項として上場会社等の開示が求められていくこととなる。 人的資本可視化指針で示されたことを踏まえ、積極的に開示していくことが期待されている。 (了)

#阿部 光成
2022/09/02

《速報解説》 経産省、「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」及び「価値協創ガイダンス2.0」を公表~SX実現に向け、企業の長期的価値向上のための目標設定、戦略構築など具体的な取組示す~

 《速報解説》 経産省、「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」 及び「価値協創ガイダンス2.0」を公表 ~SX実現に向け、企業の長期的価値向上のための目標設定、戦略構築など具体的な取組示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年8月30日付けで(ホームページ掲載日は2022年8月31日)、経済産業省の「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)」は、次の報告書を公表した。 「サステナビリティ」(S)への対応は、企業が対処すべきリスクであることを超えて、長期的かつ持続的な価値創造に向けた経営戦略の根幹をなす要素となりつつあるとし、「トランスフォーメーション」(X)とあわせて、「サステナビリティ・ トランスフォーメーション」(SX)の実践の重要性及びSXの実現に向けた具体的な取組、ガイダンスについて述べている。 SXとは、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを「同期化」させていくこと、及びそのために必要な経営・事業変革(トランスフォーメーション)を指している。 社会のサステナビリティとは、持続可能な社会に対する要請への対応である。 企業のサステナビリティとは、企業が長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力(稼ぐ力)の維持・強化である。 「同期化」とは、社会の持続可能性に資する長期的な価値提供を行うことを通じて、社会の持続可能性の向上を図るとともに、自社の長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力(稼ぐ力)の向上と更なる価値創出へとつなげていくことを意味している。 「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」がいわば「理論編」であり、「実践編」たる「価値協創ガイダンス2.0(2022年) 」、「人材版伊藤レポート2.0(2022年)」、「人的資本可視化指針(2022年)」などと併せて参照することで、これらの レポート・フレームワーク全体を、一体的かつ整合的に活用することが推奨されるとしている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)の主な内容 SXを実現するための具体的な取組として、次の事項について述べている。 1 社会のサステナビリティを踏まえた目指す姿の明確化 企業には、社会への長期的かつ持続的な価値提供に向けて判断軸となる価値観を明確化し、それに基づき、自社の事業活動を通じて解決する重要課題を特定することが求められる。 その上で、それら自社の価値観や重要課題とも整合的な形で、どのように社会に価値を提供していくか、それによってどのように長期的な価値向上を達成するかという、目指す姿を設定することが重要である。 2 目指す姿に基づく長期価値創造を実現するための戦略の構築 企業には、目指す姿に基づき具体的にどのように価値創造を実現していくか、 企業全体の長期価値創造の在り方を示す長期戦略を構築するとともに、 その具体化に向けた短・中・長期別の戦略を組み立てることが求められる。 3 長期価値創造を実効的に推進するためのKPI・ガバナンスと、実質的な対話を通じた更なる磨き上げ 長期的かつ持続的な企業価値向上を実効的に推進するためには、KPIの設定とガバナンス体制の整備が有効である。 これらを通じて、企業には、目指す姿とそれに基づく戦略を着実に構築・実行するとともに、外部環境の変化等に応じて適切な見直しを図ることが求められる。   Ⅲ 価値協創ガイダンス2.0 現行価値協創ガイダンスを「価値協創ガイダンス2.0」として改訂するものである。改訂により、SX実現のフレームワークとしての位置づけの明確化が行われている。 改訂の主なポイントは次のとおりである。   Ⅳ SXの加速に向けた更なる検討課題 SXの加速に向けた更なる検討課題として、次の事項が記載されている。 (了)

#阿部 光成
2022/09/01

プロフェッションジャーナル No.484が公開されました!~今週のお薦め記事~

2022年9月1日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.484を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2022/09/01

monthly TAX views -No.116-「「認定クラウド」とデジタル・セーフティーネット」

monthly TAX views -No.116- 「「認定クラウド」とデジタル・セーフティーネット」   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   令和4年1月から、法定調書は「認定クラウド」を利用して提出できるようになった。「認定クラウド」というのは、国税庁告示で定める要件に適合する旨国税庁長官の認定を受けているクラウドサービスで、現在は株式会社野村総合研究所の「e-私書箱法定調書提出クラウドサービス」が該当している。 令和5年1月より、企業によりクラウド提出されたデータについては、各個人(従業員やフリーランスの方々)が確定申告にて利活用する「データポータビリティ」が可能となる予定で、今後の広がりが期待される。 (※) 国税庁「クラウドサービス等を利用した法定調書の提出について」より抜粋。 実は、このクラウドサービスは、将来的に、法定調書提出の利便性向上という国税庁のスキームを超えて、よりはるかに大きな意義を持つ可能性がある。それは以下のようなことである。 *  *  * 下図は、筆者が構成員を務めるデジタル庁の「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」(第5回)(平成4年8月25日開催)に提出された資料に記載されている。 図の右側を見ると、真ん中に描かれた「民間クラウド」に企業が雇用者の所得情報をデータとして提供し、それを国税の確定申告だけでなく、さまざまな行政機関、つまり社会保障官庁や地方自治体などがそれぞれの行政に活用できるという仕組みが描かれている。 《社保税OSSの全体像》 (※) デジタル庁「資料2:マイナポータルAPI(情報取得系)の現在地と将来像~Appendix:マイナンバーカードの普及利活用について~」10頁より抜粋。 これは、将来的に、厚生労働省や地方自治体などが、企業側から提供された個人の所得情報を活用して、さまざまな給付申請の審査や給付に活用するという構想に発展するのではないかと考えている。 そのためには、情報収集の範囲を拡大する必要がある。個人事業者が自ら「民間クラウド」に所得データを入力したり、ギグワーカーについては仲介プラットフォーマーから、フリーランスについては仕事の発注者から、支払金額などのデータを提供させる仕組みが必要であり、そのためには、法定調書制度の拡充を進めていかなければならない。 このようにすれば、より迅速に、多くの国民の所得情報を集め、それに基づき各種の給付を行う仕組みができあがる。国・自治体が、給付の必要ない所得の多い家庭などを効率的に選別できることにもなる。 英国では、ユニバーサルクレジット(給付付き税額控除)という制度がある。企業から月ごとに税務当局に報告される所得情報が社会保障官庁に情報連携で共有され、子育て支援(児童税額控除)、求職者給付、低所得者の雇用支援などの対象者の把握や給付に活用されている(住宅手当、所得補助、求職者給付、雇用支援給付、勤労税額控除、児童税額控除の6種類)。この制度は、国民のセーフティーネットとして大きな役割を果たしている。 *  *  * 今回、将来像とはいえ、所得情報(税務情報)と社会保障給付をつなぐ仕組みが示されたことは、きわめて重要である。このような情報連携がマイナンバー制度の下でスムーズに行われるようになれば、多様な社会保障給付の対象者の判別も容易になり、全世代型社会保障に対応した効果的で効率的なセーフティーネット(筆者の言う「デジタル・セーフティーネット」)の導入が可能になる。またコロナ給付、子ども・子育て支援、高等教育支援なども、所得に応じて給付を変える対応が可能になる。 さらには、国や自治体が資格を判定し、申請なしで各種サービスが受けられる「プッシュ型行政」も可能になる。 将来像の実現には、認定クラウドを利用する企業を増やし、プラットフォーマーなどに法定調書の提出を義務付け、源泉徴収制度の拡充を図るなど多くの課題が残されている。デジタル行政の音頭をとるデジタル庁、さらには官邸の強いリーダーシップを期待したい。 (了)

#No. 484(掲載号)
#森信 茂樹
2022/09/01

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例44】「減価償却資産の判定単位とその損金性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例44】 「減価償却資産の判定単位とその損金性」   国際医療福祉大学大学院教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、神奈川県内において鉄道関連を中心とした模型や物品等を販売する株式会社X(資本金1,000万円、従業員10名の3月決算法人)を経営しております。私は元々製薬関連企業で営業職を務めていましたが、40歳を過ぎて、自分の時間を切り売りするだけのサラリーマン生活に疑問を感じ、子供のころから慣れ親しんできた鉄道模型を細々と扱う商店を開いて、残りの人生を謳歌したいという思いが募り、10年前に私鉄の駅前の商店街に現在の店を開業しました。私のこだわりである、国内外の珍しい鉄道模型を収集し販売しているためか、素人が始めた店の割には顧客がついて、お陰様で店の床面積を2倍に拡大するほどの売上となっております。 ところで、私の店舗で最近力を入れているのは、鉄道模型のジオラマを作成して、その上に実際に模型を走らせるという取り組みです。鉄道模型には軌間によりいくつかの種類がありますが、私の店舗ではそのうち、わが国で最も人気があるNゲージ(軌間9ミリ)とHOゲージ(軌間16.5ミリ)の2種類の模型を走らせることができるレイアウトを常設しております。特にNゲージの方は、地元の子供たちや愛好家が、自分の模型を持ち込んで走らせたりしており、好評をいただいております。一方、HOゲージの方は比較的高額であるため、当社が保有する模型を有償で貸し出して、レイアウト上の運転を楽しんでもらうケースがほとんどです。 さて、そのような貸出し用のHOゲージにつき、先日の税務調査で問題とされました。調査官が言うには、当社が貸し出しているHOゲージの機関車(1台20万円)は、3連となっており、3台で1組の編成となっているのだから、少額減価償却資産(措法67の5)には該当しないとのことです。確かに、わが社のレイアウト上を走らせるのに、蒸気機関車3連運転は非常に迫力があり、多くの愛好家がそれを目当てに訪れているのは事実ですが、1台ずつでも走行可能であり、3台で一編成ということはありません。3台1組だと取得価額が60万円と30万円を大きく超えてしまうため、一時の損金算入はできないということなのでしょうが、使用・貸出の実態に即しておらず、納得がいかないのですが、調査官の言うことが正しいのでしょうか、教えてください。 【A】 少額減価償却資産の判定に当たっては、対象となる資産につき「通常の取引単位」ごとか、又は「その機能を発揮できる単位」ごとに検討することとなりますが、本件の場合、そのいずれの判定基準においても、たとえ対象となるHOゲージの機関車は使用する際に3台1組とするケースが多いとしても、1台ずつで判断するのが妥当であると考えられることから、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(措法67の5)の適用は可能であると考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 減価償却資産の意義 減価償却資産は、複数年度(耐用年数+α)にわたってそれを事業の用に供する企業の収益獲得に貢献する資産であるから、その取得に要した金額(取得価額)は、取得年度に一括して費用化するのではなく、将来獲得する収益に対する費用との対応関係(費用収益対応の原則)により、使用又は時間の経過によりそれが減価するのに応じて徐々に費用化するのが妥当といえる(※1)。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)389頁。 また、法人の減価償却費として損金に算入されるのは、当該償却費として損金経理をした金額、すなわち、その確定した決算において費用として経理した金額のうち、償却限度額に達するまでの金額である(法法31①)(※2)。 (※2) 金子前掲(※1)書390頁。 なお、法人が上記減価償却資産の減価償却費を各事業年度の損金に算入するためには、その事業年度の終了より前にそれを取得しているとともに、事業の用に供していることが必要となる(法令13)。   (2) 少額減価償却資産等の意義と種類 減価償却資産のうち、以下のものは、課税上、減価償却による原価配分の手続の対象とするほどの重要性がないものと判断されるため(※3)、事業の用に供した事業年度に損金経理した場合、減価償却を行わずにその取得価額の全額を損金に算入することができる(即時償却、法令133)。 (※3) 岡村忠生『法人税法講義』(成文堂・2004年)86-87頁。 (※4) この金額は平成10年度の税制改正で20万円から引き下げられている。 また、平成18年度の税制改正で、中小企業者たる一定の法人(常時使用する従業員数が500人以下の場合)に関し、取得価額が30万円未満のものについては、合計300万円を超える部分を除き、事業の用に供した事業年度に損金経理した場合、その取得価額の全額を損金に算入することができることとされた(措法67の5、措令39の28①) さらに、取得価額が20万円未満の減価償却資産については、3年間の一括償却が認められている(法令133の2)。   (3) 少額減価償却資産の判断基準 即時償却が可能な少額減価償却資産等に該当するかどうかは、その取得価額がいくらであるのかが問題となるが、その判断基準としては一般に、対象資産につきその本来の機能を発揮し得る最小取引単位ごとに判定すべきである、と解されている(※5)。この点につき争われた著名な裁判例として、最高裁平成20年9月16日判決・民集62巻8号2089頁(TAINSコード:Z258-11032、NTTドコモ中央事件)があるので、以下でみていきたい。 (※5) 金子前掲(※1)書395頁。 ① 事案の概要 本件は、被上告人(納税者)の平成10年4月1日から同13年3月31日までの3事業年度の法人税に関し、その減価償却資産である電気通信施設利用権に当たるエントランス回線利用権が法人税法施行令第133条所定のいわゆる少額減価償却資産(取得価額が10万円未満であるもの)に当たるかどうかが争われた事案である。 〇 取引関係図 (※)  TAINSコード:Z258-11032より抜粋。 被上告人は、平成10年12月1日、B株式会社から簡易型携帯電話(PHS)事業の営業譲渡を受け、同事業を開始した。被上告人のPHS事業は、C株式会社(同社の事業のうち本件に関係する部分は、平成11年7月1日にD株式会社が承継)の設置するPHS接続装置、電話網等の機能及びデータベースを活用する方式(いわゆるC網依存型の方式)によるものであり、この方式における通信経路をみると、例えばPHS事業者との契約により同事業による電気通信役務の提供を受ける利用者がCの固定電話利用者、携帯電話利用者等と通話等をする場合、そのPHS端末から発信された音声等の情報は、無線電信により当該PHS事業者の設置する基地局において受信され、Cの設置するエントランス回線(基地局とCの設置するPHS接続装置との間を接続する有線伝送路設備)、PHS接続装置及び電話網等を介して、固定電話や携帯電話等に送信されるという経路をたどる(Cの固定電話や携帯電話等からPHS端末に向けて発信される情報は、上記と逆の経路をたどる)。 エントランス回線が1回線あれば、その回線が接続する基地局のエリア内のPHS端末とCの固定電話又は携帯電話等との間で、以上にみたような双方向の通話等が可能になる。 Cは、平成10年当時、その設置する電気通信設備につき電気通信事業法第38条の2第1項による郵政大臣の指定を受けており、同条2項に基づき、上記の指定電気通信設備と他の電気通信事業者の電気通信設備との接続に関して取得する接続料及び接続条件につき実施日を平成10年3月24日とする接続約款を定めて郵政大臣の認可を受けた。本件接続約款においては、これに基づいてCとの間でその指定電気通信設備との接続に関する協定を締結したC網依存型PHS事業者は、Cに対しエントランス回線の設置の申込みをし、Cがこれを承諾したときは、Cに対し設置工事及び手続に関する費用として1回線当たり合計7万2,800円を支払うこととされていた。 被上告人は、上記平成10年12月1日付の営業譲渡に伴い、Bからエントランス回線利用権を1回線に係る権利1つにつき7万2,800円の価格で合計15万3,178回線分譲り受け(その譲受価格の総額は111億5,135万8,400円である)、その後、本件接続約款に基づくCの指定電気通信設備と被上告人の電気通信設備との接続に関する協定に従って、必要に応じて、1回線単位でエントランス回線の設置の申込みをし、Cがこれを承諾して設置工事をするごとに設置工事及び手続に関する費用として1回線当たり合計7万2,800円を支払って、新設された回線に係るエントランス回線利用権を取得した。被上告人は、以上のとおり取得したエントランス回線利用権を、そのPHS事業の用に供した。 ② 事案の争点 被上告人の保有するエントランス回線利用権が少額減価償却資産(取得価額が10万円未満であるもの)に当たるかどうか。 ③ 裁判所の判断 ④ 本裁判例からいえること 本裁判例の争点は、少額減価償却資産の判定に当たり、エントランス回線利用権の取得価額は、1回線に係る権利1つずつ(7万2,800円)で判断されるのか、それとも納税者が保有することとなったエントランス回線利用権全体(15万3,178回線分で合計111億5,135万8,400円)で判断されるのか、という点である。いずれを採用するかで、損金算入額が大きく異なるため、注目された事案である。 当該判定基準については、実務上、通達の規定に依拠しており、それによれば、「通常1単位として取引されるその単位、例えば、機械及び装置については1台又は1基ごとに、工具、器具及び備品については1個、1組又は1そろいごとに判定し、構築物のうち例えば枕木、電柱等単体では機能を発揮できないものについては一の工事等ごとに判定する」こととされている(法基通7-1-11)。これにつき法令解釈の指針を示したのが、今回の最高裁判決であり、先例としての意義が認められる。 最高裁は、少額減価償却資産の判定に当たり、まず「エントランス回線1回線に係る権利一つを1単位として取引されている」というように、「通常の取引単位」を重視しているように見える。一方で、課税庁の主張にこたえる形で、「その用途に応じた本来の機能を発揮する」単位についても検討している。結論として、「エントランス回線が1回線あれば、当該基地局のエリア内のPHS端末からCの固定電話又は携帯電話への通話等、固定電話又は携帯電話から当該エリア内のPHS端末への通話等が可能であるというのであるから、本件権利は、エントランス回線1回線に係る権利一つでもって、被上告人のPHS事業において、上記の機能を発揮することができ、収益の獲得に寄与するものということができる」として、「エントランス回線1回線」がその単位であることを認めている。 学説上は、「その用途に応じた本来の機能を発揮する単位」は、通常、「取引の単位」に一致すると解しており(※6)、両者を分ける意義・実益については疑問が呈されている(※7)。「取引の単位」を分割することによる租税回避も想定されるが、具体的な事例となると、そう簡単に提示できるものでもない。仮にそのような事態が生じたときには、個別の否認規定を導入して対処するよりほかないであろう。 (※6) 谷口勢津夫『税法基本講義(第7版)』(弘文堂・2021年)438頁。 (※7) 安井栄二「減価償却資産の判定単位」『租税判例百選(第7版)』(有斐閣・2021年)113頁。   (4) 本件へのあてはめ 少額減価償却資産の判定に当たっては、対象となる資産につき「通常の取引単位」ごとか、又は「その機能を発揮できる単位」ごとに検討することとなるが、本件の場合、そのいずれの判定基準に照らしても、たとえ対象となるHOゲージの機関車は実際に使用する際に3台1組とするケースが多いとしても、1台ずつで判断するのが妥当であると考えられることから、中小企業等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(措法67の5)の適用は可能であると考えられる。 (了)

#No. 484(掲載号)
#安部 和彦
2022/09/01

令和4年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第5回】

令和4年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第5回】   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   (4) 資産調整勘定等対応金額の計算方法 ① 「資産調整勘定等対応金額」とは、離脱法人の通算開始・加入前に通算法人が時価取得したその離脱法人の株式の取得価額のうち、その取得価額を合併対価としてその取得時にその離脱法人を被合併法人とする非適格合併を行うものとした場合に資産調整勘定又は負債調整勘定(以下「資産調整勘定等」という)として計算される金額に相当する金額をいう。 〈図表6〉 資産調整勘定等対応金額の計算方法(一の通算法人が一括で株式を取得している場合) 〈図表7〉 一の通算法人が一括で株式を取得している場合 【ケース】 通算子法人C社が離脱するケース 1.離脱法人C社の株式の異動状況 2.離脱法人C社の株式の取得価額の状況 3.離脱法人株式に係る資産調整勘定等対応金額及び投資簿価修正額の計算 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ② 「資産調整勘定等対応金額」は、その離脱法人の株式の時価取得が段階的に行われていた場合には、各取得時における資産調整勘定対応金額の合計額から負債調整勘定対応金額の合計額を減算した金額とする。各取得時における資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額は、資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額の100%相当額に取得割合を乗じて計算した金額とする。 ③ 「資産調整勘定等対応金額」は、離脱法人の株式の時価取得が通算グループ内の複数の法人により行われていた場合には、各通算法人の各取得時における資産調整勘定対応金額の合計額から各通算法人の各取得時における負債調整勘定対応金額の合計額を減算した金額(通算グループ全体の資産調整勘定等対応金額)とする。 〈図表8〉 資産調整勘定等対応金額の計算方法(複数の通算法人が段階的に株式を取得している場合) A:資産調整勘定対応金額(通算法人ごと、かつ、取得時ごとに計算) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 B:負債調整勘定対応金額(通算法人ごと、かつ、取得時ごとに計算) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※1) その取得時の離脱法人株式の取得価額(100%相当額)とは、その取得時の離脱法人株式の取得価額を取得株式の数で除し、これにその離脱法人のその取得時の発行済株式等の総数を乗じて計算した金額となる(以下同じ)。 (※2) 離脱法人のその取得時の発行済株式等の総数のうちにその取得株式の数の占める割合(以下「取得割合」という)となる。 〈図表9〉 複数の通算法人が段階的に株式を取得している場合 【ケース】通算子法人C社が離脱するケース 1.離脱法人C社の株式の異動状況 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 2.離脱法人C社の株式の取得価額の状況 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 3.離脱法人株式に係る資産調整勘定等対応金額及び投資簿価修正額の計算 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ④ 上記③の通算グループ全体の資産調整勘定等対応金額は、その離脱法人の通算開始・加入日においてその離脱法人の株式を有する通算法人が計算し、その通算開始・加入日において有する株式数に対応する金額を計算する。 ⑤ 上記③の通算グループ全体の資産調整勘定等対応金額に保有割合を乗じて計算した金額について、離脱直前にその離脱法人の株式を有する通算法人で加算措置が適用される。なお、通算開始・加入後の通算グループ内での株式の移動により、通算開始・加入日にその離脱法人の株式を有する通算法人(資産調整勘定等対応金額を計算する通算法人)と離脱直前にその離脱法人の株式を有する通算法人(投資簿価修正を行う法人)が異なる場合がある(法通2-3-21の5)。 ⑥ 通算開始・加入日おいて離脱法人の株式を有する通算法人が、その離脱法人の株式の取得後、通算開始・加入日以前にその一部を譲渡した場合には、その譲渡の直前のときまでに生じている「各取得時の資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額の合計額」からその譲渡分(譲渡割合を乗じて計算)を控除した金額を「各取得時の資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額の合計額」とする。ここで「譲渡割合」とは、その譲渡の直前の時においてその通算法人が有する離脱法人の株式の数のうち、その譲渡をした株式の数の占める割合をいう。 〈図表10〉 通算完全支配関係発生日後に通算グループ内で離脱法人の株式の譲渡をした場合の取扱い ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 〈図表11〉 通算完全支配関係発生日以前に離脱法人の株式の譲渡をした場合の取扱い ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 〈図表12〉 増資により離脱法人の株式を取得した場合の取扱い ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ⑦ 対象株式の取得後におけるその対象株式の保有割合が低い又はその取得の時期が古いなどの理由により、その取得の時における資産調整勘定対応金額等の計算が困難であると認められる場合において、その取得の時において計算される資産調整勘定対応金額等を0とし、その後に追加取得した対象株式について各追加取得の時における資産調整勘定対応金額等を計算し、その計算の基礎となる事項を記載した書類を保存しているときは、課税上弊害がない限り、加算措置の適用を受けることができる(法通2-3-21の4「資産調整勘定対応金額等の計算が困難な場合の取扱い」)。ただし、負債調整勘定対応金額が計算されることが見込まれる場合に、その計算が困難であるとして、これを0としているときには、課税上弊害があるため、この取扱いの適用はない(法通2-3-21の4)。 ⑧ 資産調整勘定対応金額等の計算の基礎となる対象株式の取得価額は、法人税法施行令第119条第1項第1号(有価証券の取得価額)の規定により計算することとなるため、「その購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」となり、付随費用を含めて計算する(法通2-3-21の8「資産調整勘定対応金額等の計算の基礎となる対象株式の取得価額」)。この場合において、その対象株式の取得の時期が古いなどの理由により、付随費用の把握が困難なときには、その購入の代価をその対象株式の取得価額として資産調整勘定対応金額等を計算することができる(法通2-3-21の8)。 (5) 時価純資産価額の計算 時価純資産価額の計算上の留意点は次のとおりである。 ① 資産調整勘定対応金額等の計算における負債調整勘定の金額の取扱い 資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額は、他の通算法人の対象株式の取得の時において、当該他の通算法人を被合併法人とし、その取得をした法人を合併法人とする非適格合併が行われたものとみなして法人税法第62条の8第1項の規定を適用する場合に資産調整勘定の金額として計算される金額又は負債調整勘定の金額(差額負債調整勘定の金額)として計算される金額を基礎として計算するが、これらの金額の計算上、時価純資産価額の計算の基礎となる負債の額には、退職給与債務引受額及び短期重要債務見込額の金額を含まない(法通2-3-21の6)。 ② 独立取引営業権の取扱い 営業権のうち独立した資産として取引される慣習のあるもの(独立取引営業権)は資産に含まれる(法法62の8①)。 ③ その取得時に離脱法人が資産調整勘定の金額、負債調整勘定の金額、営業権を有する場合の取扱い 資産調整勘定対応金額等の計算上、離脱法人の株式の取得時において、その離脱法人が次に掲げる資産又は負債を有する場合、次に定める金額の合計額(その合計額が0に満たない場合には、その満たない部分の金額)を資産の取得価額の合計額(その満たない場合には、負債の額の合計額)に加算して計算する(法令119の3⑦三・四)。 ④ 資産調整勘定対応金額等の計算の基礎となる資産及び負債 資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額は、原則として、他の通算法人の対象株式を取得した時に当該他の通算法人が有する資産及び負債の価額を基礎として計算するのであるが、例えば、その取得した時の直前の月次決算期間又は会計期間の終了の日(以下「直前終了日」という)に当該他の通算法人が有する資産及び負債の同日における価額を基礎として計算している場合には、同日に有する資産及び負債の内訳とその対象株式の取得時に有する資産及び負債の内訳に著しい差異があるなどの課税上弊害がない限り、これが認められる(法通2-3-21の7)。 なお、ここで言う課税上の弊害については、例えば、直前終了日の翌日から株式取得時までの期間で獲得した利益相当額又はその期間に実施した旧株主の増資額の分だけ資産が増加した場合(つまり、その期間に資産だけが増えて負債が増えていない場合)に、直前終了日に離脱法人が有する資産及び負債で時価純資産価額を計算すると、その期間に増加した資産は時価純資産価額に含まれず、その分、資産調整勘定等対応金額が膨らむことになるが、その期間に増加した資産は簿価純資産価額にも含まれているため、結果的にその期間に増加した資産は資産調整勘定等対応金額及び簿価純資産価額の両方に含まれることとなる。このような場合、直前終了日に有する資産及び負債の内訳と株式取得時に有する資産及び負債の内訳に著しい差異がある場合として課税上弊害があるものとみなされる可能性がある。 また、ある資産について直前終了日の含み益よりも株式取得時の含み益の方が大きい場合に、直前終了日に離脱法人が有する資産及び負債で時価純資産価額を計算すると、その含み益が時価純資産価額に含まれず、その分、資産調整勘定等対応金額が膨らむことになるが、株式取得後にその含み益が実現益となり簿価純資産価額も膨らむことになる場合、結果的に含み益が資産調整勘定等対応金額及び簿価純資産価額の両方に含まれることとなる。このような場合も、直前終了日に有する資産及び負債の時価と株式取得時に有する資産及び負債の時価に著しい差異がある場合として課税上弊害があるものとみなされる可能性がある。 ⑤ 移行通算子法人が連結納税制度の開始・加入に伴う時価評価課税の適用を受けていた場合の取扱い 離脱法人が連結納税制度からグループ通算制度に移行した通算子法人(移行通算子法人)である場合で、移行通算子法人が連結完全支配関係発生日の前日の属する事業年度(平成29年10月1日前に終了したものに限る)において連結納税制度の開始・加入に伴う時価評価課税の適用を受けていた場合には、その移行通算子法人の株式に係る資産調整勘定等対応金額は、その連結完全支配関係発生日においてその移行通算子法人が有する一定の営業権の価額を減算した金額とする。この場合、その営業権の価額等を明らかにする書類等を保存しておくことが必要となる。これは、平成29年10月1日前に終了した事業年度においては連結納税制度の開始・加入に伴う時価評価課税において自己創設の営業権が時価評価の対象となっているため、それが資産調整勘定等対応金額に含まれないため(二重加算にならないため)の調整となる。 ⑥ 時価の意義 資産調整勘定等対応金額の基礎となる時価純資産価額を計算するための時価については、非適格合併において資産調整勘定等を計算する場合の考え方に従えばよいこととなる。 つまり、各資産の取得価額は、株式取得の時(合併の時)において譲渡される場合に通常付される価額による。 ただし、非適格合併において資産調整勘定等を計算する場合の合併の時において譲渡される場合に通常付される価額については、法令や通達で具体的には定義はされていない。 そのため、実務上は、固定資産、土地(土地の上に存する権利を含み、固定資産に該当するものを除く)、有価証券、金銭債権及び繰延資産については、課税上弊害がない場合、法人税基本通達12の7-3-1(通算制度の開始に伴う時価評価資産等に係る時価の意義)を準用することが考えられる。 また、企業会計においては、連結子会社化に際し子会社の個別財務諸表上の資産及び負債の評価換えが必要となるが、この際の価額は通常の保存書類(【第8回】2(8)②参照)の一号のロの価額に該当し、その評価方法等を記載した書類は通常の保存書類(【第8回】2(8)②参照)の一号のハに該当するものと考えられるため([法人税等]令和4年度税制改正の解説299頁)、実務上は、連結子会社化に際し子会社の個別財務諸表上の資産及び負債の評価換えが行われた場合のその時価の基礎となる財務デューデリジェンス等で算定された資産及び負債の価額も課税上弊害がない限り適用できるものと考えられる。 ここで、時価の算定における課税上の弊害については、例えば、株式取得時に既に売却することが決まっている土地について、売却見込み価額よりも著しく低い金額を時価として時価純資産価額を計算した場合、その評価不足額が時価純資産価額に含まれず、資産調整勘定等対応金額が膨らむとともに、株式取得後に土地を売却することでその評価不足額が簿価純資産価額に含まれることになる場合、結果的に評価不足額が資産調整勘定等対応金額及び簿価純資産価額の両方に含まれることとなり、このような場合、課税上弊害があるものとみなされる可能性がある。   (続く)

#No. 484(掲載号)
#足立 好幸
2022/09/01
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